(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】超音波厚みセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/113 20060101AFI20220422BHJP
H01L 41/43 20130101ALI20220422BHJP
H01L 41/257 20130101ALI20220422BHJP
H01L 41/314 20130101ALI20220422BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20220422BHJP
G01B 17/02 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
H01L41/113
H01L41/43
H01L41/257
H01L41/314
H01L41/187
G01B17/02 B
(21)【出願番号】P 2017168683
(22)【出願日】2017-09-01
【審査請求日】2020-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕子
(72)【発明者】
【氏名】川浪 精一
(72)【発明者】
【氏名】水流 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 峻介
(72)【発明者】
【氏名】小林 牧子
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-197300(JP,A)
【文献】特開2015-060894(JP,A)
【文献】特開2013-197299(JP,A)
【文献】T. Kaneko et al.,"Piezoelectric Sol-Gel Composite Film Fabrication by Stencil Printing",IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control,2015年09月,Vol. 62, No. 9,1686 - 1695
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/113
H01L 41/43
H01L 41/257
H01L 41/314
H01L 41/187
G01B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた圧電セラミックス層とを備えた超音波厚みセンサを製造する方法であり、
粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)または粉末状のチタン酸ビスマス(BIT)と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の原料のゾルとを含むスラリーを第1の電極の表面に塗布してセラミックス前駆体層を形成する成膜工程と、
前記セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによって前記セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする焼成工程と、
前記セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層とする分極処理工程と、
前記焼成工程と前記分極処理工程との間、または前記分極処理工程の後に、第2の電極を形成する電極形成工程と
を有し、
前記成膜工程は、前記スラリーを前記第1の電極の表面に塗布してウェット層を形成する塗布工程と、前記ウェット層
を乾燥してセラミックス前駆体層を形成する低温乾燥工程とを有し、前記塗布工程と前記低温乾燥工程とを複数回繰り返
し、
前記塗布工程の1回あたりのウェット層の厚みは10μm以上50μm以下であり、前記低温乾燥工程における前記ウェット層の乾燥温度は50℃以上100℃以下である、超音波厚みセンサの製造方法。
【請求項2】
前記スラリー中の前記粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛の平均粒径または前記粉末状のチタン酸ビスマスの平均粒径が、1μm以上10μm以下である、請求項1に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
【請求項3】
前記成膜工程の前に、
粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛または粉末状のチタン酸ビスマスを1000℃以上1300℃以下で熱処理する熱処理工程と、
熱処理された前記チタン酸ジルコン酸鉛または前記チタン酸ビスマスと、チタン酸ジルコン酸鉛の原料のゾルとを混合した混合物に粉砕処理を施して前記スラリーを得る粉砕・スラリー化工程と
をさらに有する、請求項1または2に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
【請求項4】
前記スラリー中の前記粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛または前記粉末状のチタン酸ビスマスに対する前記チタン酸ジルコン酸鉛の原料のゾルの固形分の質量比(ゾル/粉末)が、1/4以上1/1以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の超音波厚みセンサの製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックスを備えた超音波厚みセンサを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラント、ボイラ施設等においては、配管等の肉厚検査のために超音波厚みセンサが用いられている。超音波厚みセンサは、チタン酸ジルコン酸鉛を含む圧電セラミックス層が第1の電極と第2の電極との間に設けられた構造を有する。配管の壁面に接着層によって貼り付けられた超音波厚みセンサにおいては、第1の電極および第2の電極に電気的に接続された外部の超音波厚み計からのパルス状の電圧の印加によって圧電セラミックス層から配管に超音波を発信するとともに、配管の壁面内を伝播して反射した超音波を受信することによって電位が発生する。この電位を電気信号として超音波厚み計が読み取ることによって、配管の厚みが測定される。
【0003】
超音波厚みセンサの製造方法としては、下記の方法が提案されている。
粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を1000℃以上1200℃以下で熱処理する熱処理工程と;熱処理されたチタン酸ジルコン酸鉛を粉砕して粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を得る粉砕工程と;粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛とチタン酸ジルコン酸鉛の原料のゾルとを混合してスラリーを得るスラリー化工程と;スラリーを第1の電極の表面に塗布してセラミックス前駆体層を形成する成膜工程と;セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする焼成工程と;セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層とする分極処理工程と;焼成工程と分極処理工程との間、または分極処理工程の後に、第2の電極を形成する電極形成工程とを有する方法(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、超音波厚みセンサの感度のさらなる向上が求められており、そのため、圧電特性(圧電定数(D33))の高い圧電セラミックス層が必要となっている。しかし、特許文献1に記載の製造方法によって形成された圧電セラミックス層の圧電特性は、いまだ不十分である。
【0006】
本発明は、圧電特性の高い圧電セラミックス層を備えた高感度の超音波厚みセンサを製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1に記載の超音波厚みセンサの製造方法について、本発明者らが鋭意検討したところ、セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする際の昇温速度が2℃/minとされているため、セラミックス層に圧電特性に寄与しないパイロクロア相(Pb2(ZrxTi1-x)2O6)が比較的多く形成され、圧電特性に寄与するペロブスカイト相(PbZrxTi1-xO3)の形成が不十分となっていることが判明した。
【0008】
(1)すなわち、本発明の一態様に係る超音波厚みセンサの製造方法は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた圧電セラミックス層とを備えた超音波厚みセンサを製造する方法であり;粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛または粉末状のチタン酸ビスマスと、チタン酸ジルコン酸鉛の原料のゾルとを含むスラリーを第1の電極の表面に塗布してセラミックス前駆体層を形成する成膜工程と;前記セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによって前記セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする焼成工程と;前記セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層とする分極処理工程と;前記焼成工程と前記分極処理工程との間、または前記分極処理工程の後に、第2の電極を形成する電極形成工程とを有し、前記成膜工程は、前記スラリーを前記第1の電極の表面に塗布してウェット層を形成する塗布工程と、前記ウェット層を乾燥してセラミックス前駆体層を形成する低温乾燥工程とを有し、前記塗布工程と前記低温乾燥工程とを複数回繰り返し、前記塗布工程の1回あたりのウェット層の厚みは10μm以上50μm以下であり、前記低温乾燥工程における前記ウェット層の乾燥温度は50℃以上100℃以下である。
この構成によれば、セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする際の昇温速度が速いため、セラミックス層の圧電特性に寄与しないパイロクロア相が形成されにくく、圧電特性に寄与するペロブスカイト相の割合が多くなる。これによって、圧電特性の高い圧電セラミックス層が形成され、高感度の超音波厚みセンサが得られる。
この構成によれば、成膜工程において十分な厚みのセラミックス前駆体層が形成されるため、厚みが十分に厚くされたセラミックス層を形成するにあたって、焼成工程を複数回行う必要がない。そのため、セラミックス層の形成時間を短縮できる。
この構成によれば、塗布工程と低温乾燥工程との繰り返し回数を減らすことができ、低温乾燥工程におけるセラミックス前駆体層の割れやヒビを十分に抑えることができる。
【0009】
なお、パイロクロア相の割合を減らしてペロブスカイト相を十分に形成するために焼成工程における昇温速度を速くすると、セラミックス前駆体層の加熱収縮による割れやヒビ、溶媒の揮発やチタン酸ジルコン酸鉛の原料の分解による気泡がセラミックス層に発生しやすくなる。セラミックス前駆体層の厚みを薄くすれば、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができるが、セラミックス層の厚みを圧電特性が十分に得られる厚みとするために、成膜工程と焼成工程とを複数回繰り返す必要があり、セラミックス層の形成にかなりの時間が必要になる。
よって、本発明においては、以下の構成をさらに採用することが好ましい。
【0010】
(2)すなわち、前記超音波厚みセンサの製造方法においては、前記スラリー中の前記粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛の平均粒径または前記粉末状のチタン酸ビスマスの平均粒径を1μm以上10μm以下としてもよい。
この構成によれば、以下の理由から、セラミックス前駆体層の厚みを厚くしても、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。そのため、成膜工程と焼成工程とを複数回繰り返す必要がなく、セラミックス層の形成時間を短縮できる。
セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えるためには、セラミックス前駆体層の加熱収縮の原因となり、かつ気泡の発生源となるゾルの割合を減らせばよい。しかし、スラリー中のゾルの割合を単に減らした場合は、粉末の割合が増えてスラリーの粘度が上昇し、スプレー塗装によるスラリーの塗布が困難になる。そこで、スラリー中の粉末の平均粒径を比較的大きくして、粉末の表面積を減少させることによって、スラリーの粘度を低く抑える。これによって、スラリー中の粉末の割合を増やしても、粘度の上昇が抑えられる。そして、スラリー中のゾルの割合が減ることによって、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。
【0011】
(3)また、前記超音波厚みセンサの製造方法においては、前記成膜工程の前に、粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛または粉末状のチタン酸ビスマスを1000℃以上1300℃以下で熱処理する熱処理工程と;熱処理された前記チタン酸ジルコン酸鉛または前記チタン酸ビスマスと、チタン酸ジルコン酸鉛の原料のゾルとを混合した混合物に粉砕処理を施して前記スラリーを得る粉砕・スラリー化工程とをさらに有していてもよい。
この構成によれば、熱処理によって粉末同士が融着するため、粉末の平均粒径を比較的大きくできる。また、熱処理されたチタン酸ジルコン酸鉛またはチタン酸ビスマスの粉砕とスラリー化を同時に行うことができるため、特許文献1に記載の方法に比べて工程を減らすことができる。
【0012】
(4)また、前記(1)、(2)または(3)の構成においては、前記スラリー中の前記粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛または前記粉末状のチタン酸ビスマスに対する前記チタン酸ジルコン酸鉛の原料のゾルの固形分の質量比(ゾル/粉末)を1/4以上1/1以下としてもよい。
この構成によれば、スラリー中のゾルの割合が比較的少なくなることによって、セラミックス前駆体層の厚みを比較的厚くしても、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。そのため、成膜工程と焼成工程との繰り返し回数は減り、セラミックス層の形成時間を短縮できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超音波厚みセンサの製造方法によれば、圧電特性の高い圧電セラミックス層を備えた高感度の超音波厚みセンサを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】超音波厚みセンサの一例を示す断面模式図である。
【
図2】超音波厚みセンサの他の例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の超音波厚みセンサの製造方法の概略を示すフロー図である。
【
図4】昇温速度とチタン酸ジルコン酸鉛の生成相との関係を示すグラフである。
【
図5】昇温速度とチタン酸ジルコン酸鉛の生成相との関係を示すグラフである。
【
図6】昇温時間とペロブスカイト相の割合との関係を示すグラフである。
【
図7】昇温時間と圧電定数(D33)との関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の超音波厚みセンサの製造方法の第1の実施形態を示すフロー図である。
【
図9】本発明の超音波厚みセンサの製造方法の第2の実施形態を示すフロー図である。
【
図10】平均粒径が1μm以上の粉末状のPZTを含むスラリーを用いて形成されたセラミックス層の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図11】平均粒径が1μm未満の粉末状のPZTを含むスラリーを用いて形成されたセラミックス層の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
平均粒径は、レーザー回折により測定した体積平均径である。
焼成工程において、セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする際の温度は、セラミックス前駆体層の表面温度である。
焼成工程において、セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする際の昇温速度は、昇温を開始したときの出発温度と、昇温によって到達した最終到達温度(目標温度)との差を、出発温度から最終到達温度までの昇温にかかった時間で割ることによって求めた平均速度である。
熱処理工程において、粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛または粉末状のチタン酸ビスマスを熱処理する際の温度は、粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛または粉末状のチタン酸ビスマスの表面温度である。
図1~
図2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0017】
<超音波厚みセンサ>
本発明の製造方法によって得られる超音波厚みセンサは、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に設けられた圧電セラミックス層とを備える。
【0018】
図1は、超音波厚みセンサの一例を示す断面模式図である。
超音波厚みセンサ9は、所定の厚さを有する被測定体11(配管、容器等の壁面)の表面に接着層13を介して設けられる第1の電極1と;第1の電極1の表面に設けられた、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTとも記す。)を含む圧電セラミックス層3と;圧電セラミックス層3の表面に設けられた第2の電極5とを備える。
第1の電極1には、一端が超音波厚み計(図示略)に電気的に接続されたリード線7Aが接続され、第2の電極には、一端が超音波厚み計に電気的に接続されたリード線7Bが接続される。
【0019】
超音波厚みセンサ9においては、外部の超音波厚み計からのパルス状の電圧の印加による振動によって被測定体11に超音波を発信するとともに、被測定体11の壁面内を伝播して反射した超音波を受信することによって電位が発生する。この電位を電気信号として超音波厚み計が読み取ることによって、被測定体11の厚みが測定される。
【0020】
超音波厚みセンサ9は、第1の電極1、圧電セラミックス層3、および第2の電極5の3層構造を有し、センサ全体としての厚みは薄く、可撓性を有するものである。そのため、例えば、
図2に示すように、被測定体11の湾曲面(屈曲部)に対して設けた場合であっても、湾曲面に沿って超音波厚みセンサ9を設けることが可能となり、被測定体11の湾曲部分における厚みも測定できる。
【0021】
また、超音波厚みセンサ9は、例えば、被測定体11としての配管の外側に保護材、断熱材等の外被を設ける場合であっても、配管の外周面にあらかじめ接着層13を介して接着することによって、プラント等の運転中に配管の厚みを測定できる。そのため、配管の厚み測定のための外被の剥離や、測定後の外被修復作業も不要となる。
【0022】
(圧電セラミックス層)
圧電セラミックス層に含まれるPZTとしては、本発明の効果を奏する範囲で各種組成のPZTを用いることができる。PZTとしては、高感度の圧電セラミックス層が得られる点から、下記式(1)で表される組成式のものが好ましい。
Pb(Zrx,Ti1-x)O3 ・・・式(1)
xは、より高感度の圧電セラミックス層が得られる点から、0.30以上0.70以下が好ましく、0.40以上0.65以下がより好ましく、0.45以上0.60以下がさらに好ましく、0.50以上0.55以下が特に好ましい。
【0023】
PZTは、本発明の効果を奏する範囲で微量添加元素を含んでいてもよい。微量添加元素としては、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Ta、La、Nd、ScおよびGdからなる群から選択された少なくとも1種が挙げられる。微量添加元素の含有量は、10質量%以下が好ましい。
圧電セラミックス層は、PZTのみのものに限定されず、ペロブスカイト型結晶構造を有するPZT以外の圧電セラミック材料(例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3))、ペロブスカイト型結晶構造を有さない圧電セラミック材料(例えば、チタン酸ビスマス(Bi3Ti4O12)(以下、BITとも記す。))を含むんでいてもよい。
【0024】
圧電セラミックス層の厚みは、10μm以上200μm以下が好ましい。圧電セラミックス層の厚みが10μm以上であれば、圧電特性が十分に得られる。圧電セラミックス層の厚みが200μm以下であれば、超音波厚みセンサの可撓性を損なうことがない。
【0025】
(第1の電極)
第1の電極は、超音波厚みセンサの超音波送受信のための電極としての機能を有するだけではなく、後述する焼成工程S4や超音波厚みセンサの使用時における支持体としての機能を有する。
第1の電極としては、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限はなく、各種金属板等を用いることができる。後述する焼成工程S4においては、600℃以上800℃以下の比較的低温で焼結することができる。よって、金属板としては、白金等の1200℃以上まで耐えうる高価な金属を用いる必要はなく、800℃程度までの耐酸化性を有する汎用の耐熱金属(ステンレス鋼、その他の汎用の耐熱鋼等)を用いることができる。
【0026】
金属板としては、18Cr-8NiのSUS304系統のオーステナイト系ステンレス鋼、18Cr-12Ni-2.5MoのSUS316系統のオーステナイト系ステンレス鋼、22Ni-12CrのSUH309系統のオーステナイト系耐熱鋼等が挙げられる。
第1の電極の厚みは、15μm以上100μm以下が好ましい。第1の電極の厚みが15μm以上であれば、第1の電極の強度が十分となり超音波厚みセンサを容易に製造できる。第1の電極の厚みが100μm以下であれば、第1の電極が可撓性を有するため、超音波厚みセンサを配管の湾曲部分に貼着して用いることができる。
【0027】
(第2の電極)
第2の電極は、超音波厚みセンサの超音波送受信のための電極として機能するだけでなく、超音波厚みセンサを支持する支持体とても機能する。
第2の電極としては、銀(Ag)等の電極用の導電性金属の粉末のペーストを圧電セラミックス層の表面に焼き付けたもの、導電性金属の膜を圧電セラミックス層の表面に焼き付けたもの等が挙げられる。
第2の電極の厚みは、10μm以上100μm以下が好ましい。第2の電極の厚みが10μm以上であれば、表面の凹凸の影響を受けずに圧電セラミックス層の表面に均一に第2の電極を形成できる。第2の電極の厚みが100μm以下であれば、超音波厚みセンサの可撓性を損なうことがない。
【0028】
<超音波厚みセンサの製造方法>
図3は、本発明の超音波厚みセンサの製造方法の概略を示すフロー図である。
本発明の超音波厚みセンサの製造方法は、粉末状のPZTまたは粉末状のBITと、PZTの原料のゾルとを含むスラリーを第1の電極の表面に塗布してセラミックス前駆体層を形成する成膜工程S3と;セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによってセラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする焼成工程S4と;セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層とする分極処理工程S5と;焼成工程S4と分極処理工程S5との間、または分極処理工程S5の後に、第2の電極を形成する電極形成工程S6とを有する。
【0029】
(成膜工程S3)
成膜工程S3においては、粉末状のPZTまたは粉末状のBITと、PZTの原料のゾルとを含むスラリーを第1の電極の表面に塗布してセラミックス前駆体層を形成する。
【0030】
スラリーは、後述する第1の実施形態におけるスラリー化工程S2Aを経て得られたものであってもよく;後述する第2の実施形態における粉砕・スラリー化工程S2Bを経て得られたものであってもよい。
スラリー中の粉末状のPZTまたは粉末状のBITの質量とPZTの原料のゾルの固形分の質量との比(粉末/ゾル)は、特に制限されない。
【0031】
粉末状のPZTまたは粉末状のBITとしては、市販の粉末状のPZTまたは市販の粉末状のBITを用いてもよい。
また、粉末状のPZTとしては、特許文献1に記載された粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を1000℃以上1200℃以下で熱処理する熱処理工程と;熱処理されたチタン酸ジルコン酸鉛を粉砕して粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を得る粉砕工程とを経て得られた粉末状のPZTを用いてもよい。
また、粉末状のPZTまたは粉末状のBITは、後述する第2の実施形態における熱処理工程S1と粉砕・スラリー化工程S2Bを経て得られたスラリーに含まれる粉末状のPZTまたは粉末状のBITであってもよい。
【0032】
スラリー中の粉末状のPZTの平均粒径または粉末状のBITの平均粒径は、例えば、0.1μm以上10μm以下であり、1μm以上10μm以下が好ましい。粉末の平均粒径が1μm以上であれば、スラリー中の粉末の割合を増やすことができ、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。粉末の平均粒径が10μm以下であれば、焼結性がよくなる。
【0033】
PZTの原料のゾルは、PZTの原料となる鉛化合物、ジルコニウム化合物およびチタン化合物と、溶剤とを混合したものである。
溶剤としては、キシレン、エタノール、ブタノール、酢酸エチル等が挙げられる。
鉛化合物としては、鉛アルコキシド、酢酸鉛等が挙げられる。
ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムアルコキシド等が挙げられる。
チタン化合物としては、チタンアルコキシドが挙げられる。
【0034】
金属アルコキシドは、下記式(2)で表される化合物である。
M(OR)Y ・・・式(2)
Mは、Pb、TiまたはZrであり、Rは、アルキル基であり、Yは、Mの価数に応じた数である。
Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、s-ブチル基等が挙げられる。
【0035】
鉛アルコキシドとしては、鉛ジイソプロキシド、鉛ジブトキシド等が挙げられる。
ジルコニウムアルコキシドとしては、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド等が挙げられる。
チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド等が挙げられる。
【0036】
PZTの原料のゾルにおける各金属化合物の割合は、所望のPZTの組成における金属の割合と同等となるように定めることが好ましい。例えば、上記式(1)で表されるPZTの場合、各金属化合物のモル比が、Pb:Zr:Ti=1:x:1-xの割合となるように配合することが好ましい。
PZTの原料のゾルは、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Ta、La、Nd、ScおよびGdからなる群から選択された少なくとも1種の微量添加元素を含んでいてもよい。
【0037】
セラミックス前駆体層は、第1の電極の表面にスラリーを塗布し、乾燥することによって形成される。
セラミックス前駆体層は、後述する第1の実施形態における塗布工程S3A、室温乾燥工程S3Bおよび高温乾燥工程S3Cを経て形成されたものであってもよく;後述する第2の実施形態における塗布工程S3Aおよび低温乾燥工程S3Dを経て形成されたものであってもよい。
【0038】
最終的に形成されるセラミックス前駆体層の厚みは、70μm以上200μm以下が好ましい。セラミックス前駆体層の厚みが70μm以上であれば、焼結によって得られるセラミックス層の厚みが圧電特性が十分に得られる厚みとなる。セラミックス前駆体層の厚みが200μm以下であれば、焼結および分極を経て得られる圧電セラミックス層の厚みが適度な範囲となるため、超音波厚みセンサに可撓性を付与できる。なお、セラミックス前駆体層は、乾燥後の厚みが乾燥前の1/2~1/4程度の厚みとなるので、厚みの減少分を考慮して塗布することが好ましい。
【0039】
(焼成工程S4)
焼成工程S4においては、セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによってセラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする。
焼成工程S4においては、粉末状のPZTまたは粉末状のBITの粒子の間に介在しているPZTの原料のゾルに含まれる金属化合物が分解し、超微粉末状の分解生成物が生成される。分解生成物は、粉末状のPZTまたは粉末状のBITの粒子を焼結結合させる焼結助剤として機能する。また、分解生成物は、粉末状のPZTと同様の組成を有するため、得られる圧電セラミックス層の圧電特性を損なうことがない。そのため、粉末状のPZTとともにPZTの原料のゾルを混合して焼成することによって、比較的低温でも焼結が進行し、かつ圧電特性も向上する。
【0040】
セラミックス前駆体層の昇温速度は、5℃/min以上350℃/min以下であり、10℃/min以上350℃/min以下が好ましい。
昇温速度が5℃/min以上であれば、
図4に示すように、セラミックス層の圧電特性に寄与しないパイロクロア相が形成される温度領域(450℃以上600℃以下)を短時間で通過できるため、パイロクロア相が形成されにくい。そのため、650℃以上に加熱した後に得られるセラミックス層において圧電特性に寄与するペロブスカイト相の割合が多くなる。一方、昇温速度が5℃/min未満では、
図5に示すように、パイロクロア相が形成される温度領域(450℃以上600℃以下)の滞在時間が長くなるため、パイロクロア相が多く形成される。その後600℃以上に加熱しても、パイロクロア相からペロブスカイト相への反応には長い時間を要するため、パイロクロア相が多く残る。
図6に示すように、昇温速度が速い、すなわち昇温時間が短くなると、圧電特性に寄与するペロブスカイト相の割合が従来の範囲に比べ多くなる。その結果、
図7に示すように、圧電特性を示す圧電定数(D33)が80pC/N以上と従来の範囲に比べ高くなる。
昇温速度が350℃/minを超えると、セラミックス層に割れやヒビが発生しやすくなる。
【0041】
セラミックス前駆体層の最終到達温度は、600℃以上であり、600℃以上800℃以下が好ましい。最終到達温度が600℃以上であれば、粉末状のPZTまたは粉末状のBITの粒子同士の焼結反応が十分に進行して、焼成によって得られるセラミックス層の密度を70%以上に高めることができる。最終到達温度が800℃以下であれば、粉末状のPZTまたは粉末状のBITの粒子同士の焼結反応が穏やかに進行して、密度が80%以下のセラミックス層を得ることができる。
【0042】
焼成によって得られるセラミックス層の密度は、70%以上80%以下が好ましい。セラミックス層のが70%以上であれば、セラミックス層の空隙率が適度な範囲となるため、セラミックス層の内部の粒子が十分に結合されている状態となる。これにより、焼成工程S4後の工程におけるハンドリングが良好になり、セラミックス層が粉末状に剥落することを防ぐことができるとともに、圧電セラミックス層として十分な圧電特性を得ることができる。セラミックス層の密度が80%以下であれば、圧電セラミックス層の剛性および焼成時のセラミックス層の収縮が適度な範囲となるため、圧電セラミックス層に可撓性を付与できる。これより、各種部材の曲面に超音波厚みセンサを貼着する場合であっても、金属板からの圧電セラミックス層の剥離および破損が抑えられる。
【0043】
最終到達温度に到達してからの加熱時間は、1分以上10分以下でよい。
焼成工程S4における加熱は、大気雰囲気下で行うことができる。
【0044】
(分極処理工程S5)
分極処理工程S5においては、セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層を形成する。
【0045】
セラミックス層の分極処理方法としては、例えば、一対の電極間にセラミックス層を挟持して一対の電極間に高電圧の直流電圧(例えば、3000V/mm)を印加する方法;セラミックス層から所定間隔の離れた位置に金メッキが施されたタングステン線を用いたコロナ放電線を設置し、コロナ放電線に高電圧(例えば、8000V程度)を印加してコロナ放電を行う方法が挙げられる。
タングステン線としては、例えば、直径100μmのものを用いることができる。コロナ放電の処理時間としては、例えば、5分以上10分以下である。
分極処理に用いる装置の具体例としては、特許文献1に記載のコロナ放電処理装置等が挙げられる。
【0046】
(電極形成工程S6)
電極形成工程S6においては、焼成工程S4と分極処理工程S5との間、または分極処理工程S5の後に、第2の電極を形成する。
【0047】
第2の電極の形成方法としては、例えば、銀(Ag)等の電極用の導電性金属の粉末をペースト化し、ペーストをセラミックス層または圧電セラミックス層の表面に塗布して焼き付ける方法;第2の電極用の導電性金属の膜をセラミックス層または圧電セラミックス層の表面に載置または貼着して焼き付ける方法が挙げられる。
【0048】
最後に、第1の電極に一端が超音波厚み測定計に接続されたリード線を電気的に接続するともに、第2の電極に一端が超音波厚み測定計に接続されたリード線を電気的に接続するする。
以上の工程により、
図1または
図2に示す超音波厚みセンサを製造できる。
【0049】
以下、実施形態を示して、本発明の超音波厚みセンサの製造方法をさらに詳細に説明する。
【0050】
<第1の実施形態>
第1の実施形態は、スラリー中の粉末状のPZTの平均粒径または粉末状のBITの平均粒径が比較的小さいために、スラリー中のゾルの割合を減らせないケースを想定した実施形態である。
スラリー中のゾルの割合が多い場合、焼成工程S4における昇温速度を速くすると、セラミックス層に割れやヒビ、気泡が発生しやすい。セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えるためには、1回の焼成で形成されるセラミックス層の厚みを薄くし、成膜工程S3と焼成工程S4とを複数回繰り返すことによって、圧電特性が十分に得られる厚みのセラミックス層を形成する必要がある。
【0051】
図8は、本発明の超音波厚みセンサの製造方法の第1の実施形態を示すフロー図である。
第1の実施形態は、粉末状のPZTまたは粉末状のBITと、PZTの原料のゾルとを混合してスラリー化するスラリー化工程S2Aと;スラリーを第1の電極の表面に塗布してウェット層を形成する塗布工程S3Aと;ウェット層を室温乾燥して半乾燥層を形成する室温乾燥工程S3Bと;半乾燥層を高温乾燥してセラミックス前駆体層を形成する高温乾燥工程S3Cと;セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによってセラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする焼成工程S4と;セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層とする分極処理工程S5と;焼成工程S4と分極処理工程S5との間、または分極処理工程S5の後に、第2の電極を形成する電極形成工程S6とを有する。
第1の実施形態においては、塗布工程S3A、室温乾燥工程S3Bおよび高温乾燥工程S3Cが、上述した成膜工程S3に相当する。
【0052】
(スラリー化工程S2A)
スラリー化工程S2Aにおいては、粉末状のPZTまたは粉末状のBITと、PZTの原料のゾルとを混合してスラリー化する。
粉末状のPZTまたは粉末状のBITとPZTの原料のゾルとの混合比については特に制限されない。
【0053】
粉末状のPZTまたは粉末状のBITとしては、市販の粉末状のPZTまたは市販の粉末状のBITを用いてもよい。
また、粉末状のPZTとしては、特許文献1に記載された粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を1000℃以上1200℃以下で熱処理する熱処理工程と;熱処理されたチタン酸ジルコン酸鉛を粉砕して粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を得る粉砕工程とを経て得られた粉末状のPZTを用いてもよい。
第1の実施形態における粉末状のPZTの平均粒径または粉末状のBITの平均粒径は、例えば、0.1μm以上1μm未満である。
【0054】
(塗布工程S3A)
塗布工程S3Aにおいては、スラリーを第1の電極の表面に塗布してウェット層を形成する。スラリーの塗布方法としては、スプレー塗装、ロールコート法、印刷法等が挙げられる。
【0055】
塗布工程S3Aの1回あたりのウェット層の厚みは、10μm以上40μm以下が好ましい。ウェット層の厚みが10μm以上であれば、成膜工程S3と焼成工程S4との繰り返し回数を減らすことができる。ウェット層の厚みが20μm以下であれば、焼成工程S4におけるセラミックス層の割れやヒビ、気泡を十分に抑えることができる。
【0056】
(室温乾燥工程S3B)
ウェット層を急激に乾燥させてセラミックス前駆体層を形成すると、セラミックス前駆体層に割れやヒビが発生しやすい。よって、室温乾燥工程S3Bにおいては、ウェット層を室温乾燥して半乾燥層を形成する。
室温乾燥工程S3Bにおける乾燥温度は、具体的には50℃以上100℃以下である。
室温乾燥工程S3Bにおける乾燥時間は、30秒以上5分以下が好ましい。
【0057】
(高温乾燥工程S3C)
高温乾燥工程S3Cにおいては、半乾燥層を高温乾燥してセラミックス前駆体層を形成する。
高温乾燥工程S3Cにおける乾燥温度は、具体的には50℃以上150℃以下である。
高温乾燥工程S3Cにおける乾燥時間は、1分以上10分以下が好ましい。
【0058】
(焼成工程S4)
焼成工程S4においては、セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによってセラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする。
焼成工程S4は、上述した条件によって行う。
【0059】
(繰り返し工程)
焼成工程S4の1回あたりに形成されるセラミックス層は、圧電特性が十分に得られる厚みとはならないため、圧電特性が十分に得られる厚みとなるまで、成膜工程S3(塗布工程S3A、室温乾燥工程S3Bおよび高温乾燥工程S3C)と焼成工程S4とを複数回繰り返す。
【0060】
(分極処理工程S5、電極形成工程S6)
分極処理工程S5および電極形成工程S6は、上述した条件によって行う。
【0061】
(作用効果)
以上説明した第1の実施形態においては、セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする際の昇温速度が速いため、セラミックス層の圧電特性に寄与しないパイロクロア相が形成されにくく、圧電特性に寄与するペロブスカイト相の割合が多くなる。これによって、圧電特性の高い圧電セラミックス層が形成され、高感度の超音波厚みセンサが得られる。
【0062】
<第2の実施形態>
第2の実施形態は、スラリー中の粉末状のPZTの平均粒径または粉末状のBITの平均粒径が比較的大きいために、スラリー中のゾルの割合を減らすことができるケースを想定した実施形態である。
スラリー中のゾルの割合が少ない場合、焼成工程S4における昇温速度を速くしても、セラミックス層に割れやヒビ、気泡が発生しにくい。そのため、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えるために、1回の焼成で形成されるセラミックス層の厚みを薄くする必要がなく、成膜工程S3と焼成工程S4との繰り返し回数を減らしても、圧電特性が十分に得られる厚みのセラミックス層を形成できる。
【0063】
図9は、本発明の超音波厚みセンサの製造方法の第2の実施形態を示すフロー図である。
第2の実施形態は、粉末状のPZTまたは粉末状のBITを1000℃以上1300℃以下で熱処理する熱処理工程S1と;熱処理されたPZTまたはBITと、PZTの原料のゾルとを混合した混合物に粉砕処理を施してスラリーを得る粉砕・スラリー化工程S2Bと;スラリーを第1の電極の表面に塗布してウェット層を形成する塗布工程S3Aと;ウェット層を100℃以下で乾燥してセラミックス前駆体層を形成する低温乾燥工程S3Dと;セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによってセラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする焼成工程S4と;セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層とする分極処理工程S5と;焼成工程S4と分極処理工程S5との間、または分極処理工程S5の後に、第2の電極を形成する電極形成工程S6とを有する。
第2の実施形態においては、塗布工程S3Aおよび低温乾燥工程S3Dが、上述した成膜工程S3に相当する。
【0064】
(熱処理工程S1)
熱処理工程S1においては、粉末状のPZTまたは粉末状のBITを1000℃以上1300℃以下で熱処理する。粉末を熱処理することによって、粉末状のPZTまたは粉末状のBITの粒子同士が融着し、粉末の平均粒径が大きくなる。
【0065】
粉末状のPZTまたは粉末状のBITとしては、市販の粉末状のPZTまたは市販の粉末状のBITを用いてもよい。
また、粉末状のPZTとしては、特許文献1に記載された粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を1000℃以上1200℃以下で熱処理する熱処理工程と;熱処理されたチタン酸ジルコン酸鉛を粉砕して粉末状のチタン酸ジルコン酸鉛を得る粉砕工程とを経て得られた粉末状のPZTを用いてもよい。
第2の実施形態における熱処理前の粉末状のPZTの平均粒径または粉末状のBITの平均粒径は、例えば、0.1μm以上1μm未満である。
【0066】
熱処理の温度は、1000℃以上1300℃以下であり、1100℃以上1200℃以下が好ましい。熱処理の温度が1000℃以上であれば、粉末状のPZTまたは粉末状のBITの粒子同士が融着し、粉末の平均粒径が大きくなる。熱処理の温度が1300℃以下であれば、粉末の平均粒径が大きくなりすぎることがない。
熱処理の時間は、生産効率の点から、1時間以上20時間以下が好ましく、1時間以上15時間以下がより好ましい。
【0067】
(粉砕・スラリー化工程S2B)
粉砕・スラリー化工程S2Bにおいては、熱処理されたPZTまたはBITと、PZTの原料のゾルとを混合した混合物に粉砕処理を施してスラリーを得る。
【0068】
熱処理されたPZTまたはBITは、粉末状のPZTまたは粉末状のBITの粒子同士が集合し、塊状となっている。よって、スラリーを調製しやすくするために、塊状のPZTまたはBITを解砕して、粗い粉末状のPZTまたは粗い粉末状のBITとすることが好ましい。また、粗い粉末状のPZTまたは粗い粉末状のBITを所定の目開きの篩に通して、粗大な塊を取り除くことが好ましい。
【0069】
熱処理されたPZTまたはBITと、PZTの原料のゾルとを混合した混合物の粉砕処理は、例えば、ボールミル等の公知の粉砕方法を用いることによって行うことができる。
【0070】
スラリー中の粉末状のPZTまたは粉末状のBITに対するPZTの原料のゾルの固形分の質量比(ゾル/粉末)は、1/4以上1/1以下が好ましく、1/4以上1/2以下がより好ましい。質量比(ゾル/粉末)が1/4以上であれば、ゾルが十分に配合されるため、焼成工程S4においてゾルの分解生成物が焼結助剤として十分に機能し、比較的低温で焼成できる。質量比(ゾル/粉末)が1/1以下であれば、セラミックス前駆体層の厚みを比較的厚くしても、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。
【0071】
スラリー中の粉末状のPZTの平均粒径または粉末状のBITの平均粒径は、1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。粉末の平均粒径が1μm以上であれば、スラリー中の粉末の割合を増やすことができ、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。
図10は、平均粒径が1μm以上の粉末状のPZTを含むスラリーを用いて形成されたセラミックス層の断面の走査型電子顕微鏡写真である。セラミックス層に大きな気泡が見当たらないことがわかる。一方、
図11は、平均粒径が1μm未満の粉末状のPZTを含むスラリーを用いて形成されたセラミックス層の断面の走査型電子顕微鏡写真である。セラミックス層に大きな気泡が見られる。
粉末の平均粒径が10μm以下であれば、スラリー中の粉末の組成を高くすることができ、したがって、焼成時ガス化し気泡の原因となるゾル含有量を低減した状態で塗布することが可能である。
【0072】
(塗布工程S3A)
塗布工程S3Aにおいては、スラリーを第1の電極の表面に塗布してウェット層を形成する。スラリーの塗布方法としては、スプレー塗装、ロールコート法、印刷法等が挙げられる。
【0073】
塗布工程S3Aの1回あたりのウェット層の厚みは、10μm以上50μm以下が好ましい。ウェット層の厚みが20μm以上であれば、塗布工程S3Aと低温乾燥工程S3Dとの繰り返し回数を減らすことができる。ウェット層の厚みが50μm以下であれば、低温乾燥工程S3Dにおけるセラミックス前駆体層の割れやヒビを十分に抑えることができる。
【0074】
(低温乾燥工程S3D)
ウェット層を急激に乾燥させてセラミックス前駆体層を形成すると、セラミックス前駆体層に割れやヒビが発生しやすい。よって、低温乾燥工程S3Dにおいては、ウェット層を100℃以下で乾燥してセラミックス前駆体層を形成する。
低温乾燥工程S3Dにおける乾燥温度は、50℃以上100℃以下が好ましい。
低温乾燥工程S3Dにおける乾燥時間は、30秒以上5分以下が好ましい。
【0075】
(繰り返し工程)
塗布工程S3Aおよび低温乾燥工程S3Dの1回あたりに形成されるセラミックス前駆体層は、セラミックス層としたときに圧電特性が十分に得られる厚みとはならないため、圧電特性が十分に得られる厚みとなるまで、成膜工程S3(塗布工程S3Aおよび低温乾燥工程S3D)を複数回繰り返す。
【0076】
(焼成工程S4)
焼成工程S4においては、セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによってセラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする。
焼成工程S4は、上述した条件によって行う。
【0077】
(分極処理工程S5、電極形成工程S6)
分極処理工程S5および電極形成工程S6は、上述した条件によって行う。
【0078】
(作用効果)
以上説明した第2の実施形態においては、セラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする際の昇温速度が速いため、セラミックス層の圧電特性に寄与しないパイロクロア相が形成されにくく、圧電特性に寄与するペロブスカイト相の割合が多くなる。これによって、圧電特性の高い圧電セラミックス層が形成され、高感度の超音波厚みセンサが得られる。
【0079】
また、第2の実施形態においては、スラリー中の前記粉末状のPZTの平均粒径または粉末状のBITの平均粒径を1μm以上10μm以下としているため、スラリー中の粉末の割合を増やすことができる。そのため、セラミックス前駆体層の厚みを厚くしても、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。そのため、成膜工程S3と焼成工程S4とを複数回繰り返す必要がなく、セラミックス層の形成時間を短縮できる。
【0080】
また、第2の実施形態においては、成膜工程S3の前に、粉末状のPZTまたは粉末状のBITを1000℃以上1300℃以下で熱処理する熱処理工程S1と;熱処理されたPZTまたはBITと、PZTの原料のゾルとを混合した混合物に粉砕処理を施してスラリーを得る粉砕・スラリー化工程S2Bとをさらに有するため、熱処理によって粉末同士が融着し、粉末の平均粒径を比較的大きくできる。また、熱処理されたPZTまたはBITの粉砕とスラリー化を同時に行うことができるため、特許文献1に記載の方法に比べて工程を減らすことができる。
【0081】
また、第2の実施形態においては、スラリー中の粉末状のPZTまたは粉末状のBITに対するPZTの原料のゾルの固形分の質量比(ゾル/粉末)を1/4以上1/1以下としているため、スラリー中のゾルの割合が比較的少なくなることによって、セラミックス前駆体層の厚みを比較的厚くしても、セラミックス層の割れやヒビ、気泡を抑えることができる。そのため、成膜工程S3と焼成工程S4とを複数回繰り返す必要がなく、セラミックス層の形成時間を短縮できる。
【0082】
また、第2の実施形態においては、成膜工程S3が、スラリーを第1の電極の表面に塗布してウェット層を形成する塗布工程S3Aと、ウェット層を100℃以下で乾燥してセラミックス前駆体層を形成する低温乾燥工程S3Dとを有し、塗布工程S3Aと低温乾燥工程S3Dとを複数回繰り返しているため、成膜工程S3において十分な厚みのセラミックス前駆体層が形成される。そのため、厚みが十分に厚くされたセラミックス層を形成するにあたって、焼成工程S4を複数回行う必要がない。そのため、セラミックス層の形成時間を短縮できる。
【0083】
<他の実施形態>
なお、本発明の超音波厚みセンサの製造方法は、粉末状のPZTまたは粉末状のBITと、PZTの原料のゾルとを含むスラリーを第1の電極の表面に塗布してセラミックス前駆体層を形成する成膜工程S3と;セラミックス前駆体層を5℃/min以上350℃/min以下の昇温速度で600℃以上に加熱することによってセラミックス前駆体層を焼成してセラミックス層とする焼成工程S4と;セラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層とする分極処理工程S5と;焼成工程S4と分極処理工程S5との間、または分極処理工程S5の後に、第2の電極を形成する電極形成工程S6とを有する方法であればよく、上述した第1の実施形態および第2の実施形態に限定されず、適宜変更して実施できる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
粉末状のPZTとして、市販の粉末状のPZT(林化学製、平均粒径0.6μm)を用意した。
鉛ジイソプロキシド、ジルコニウムテトラブトキシドおよびチタンテトライソプロポキシドをPb:Zr:Ti=1:0.7:0.3のモル比となるように配合してキシレンに溶解させて固形分濃度が50質量%のPZTの原料のゾルを調製した。
PZTの原料のゾルに粉末状のPZTを分散させてスラリーを得た。
【0086】
スラリーを金属板(SUS304、厚み30μm、15mm×20mm角)の表面に直径10mm、厚み10μmとなるようにスプレー塗装し、65℃で1分間乾燥させ、ついで100℃で5分間乾燥させてセラミックス前駆体層を成膜した。
電気炉内にてセラミックス前駆体層を313℃/minの昇温速度で25℃から650℃に加熱し、650℃において5分間保持することによってセラミックス前駆体層を焼成した後、炉冷して厚み10μmのセラミックス層を形成した。
成膜と焼成を合計で10回繰り返して厚み100μmのセラミックス層を形成した。
【0087】
コロナ放電装置(エレメント社製、ELSYS-15KNCl)にてセラミックス層を分極処理して圧電セラミックス層を形成した。分極処理では、電圧を8000Vとし、処理時間を5分間とし、コロナ放電線としてのタングステン線とセラミックス層との間の距離を10μmとした。
【0088】
圧電セラミックス層の中央に、第2の電極形成用の銀ペーストを塗布し、500℃で焼き付けて平均厚み20μmの第2の電極を形成し、超音波厚みセンサを得た。
第1の電極(SUS304)および第2の電極(銀)のそれぞれにリード線を導電ペーストにより接着し、ピエゾd33メータ(中国科学院音響研究所社製、ZJ-3B)を用いて圧電特性を測定した。圧電定数(D33)は、90pC/Nであった。
【0089】
(実施例2)
実施例1で用いた市販の粉末状のPZT(平均粒径0.6μm)をアルミナるつぼに入れ、アルミナの蓋をした状態で1200℃にて2時間加熱することによって、塊状のPZTを得た。
塊状のPZTを乳鉢内で乳棒にて解砕し、53μmの篩を通過させたものと、実施例1で用いたPZTの原料のゾルとを、ボールミルに入れ、ジルコニアボールを粉砕媒体として5時間粉砕してスラリーを得た。
スラリー中の粉末状のPZTに対するPZTの原料のゾルの固形分の質量比(ゾル/粉末)は、1/3であった。スラリー中の粉末状のPZTの平均粒径は、約2μmであった。
【0090】
スラリーを金属板(SUS304、厚み30μm、15mm×20mm角)の表面に直径10mm、厚み30μmとなるようにスプレー塗装し、65℃で1分間乾燥させて厚み30μmのセラミックス前駆体層を成膜した。成膜を合計で3回繰り返して厚み約100μmのセラミックス前駆体層を成膜した。
【0091】
電気炉内にてセラミックス前駆体層を313℃/minの昇温速度で25℃から650℃に加熱し、650℃において5分間保持することによってセラミックス前駆体層を焼成した後、炉冷して厚み100μmのセラミックス層を形成した。
実施例1と同様にして分極処理し、第2の電極を形成して、超音波厚みセンサを得た。圧電定数(D33)は、約96pC/Nであった。
【0092】
(実施例3)
焼成の際の昇温速度を16℃/minに変更した以外は、実施例2と同様にして超音波厚みセンサを得た。圧電定数(D33)は、91pC/Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の超音波厚みセンサは、原子力プラント、ボイラ施設等における配管等の肉厚検査等に利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 第1の電極、3 圧電セラミックス層、5 第2の電極、7A リード線、7B リード線、9 超音波厚みセンサ、11 被測定体、13 接着層。