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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】抗ヒトIL-26抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/24 20060101AFI20220422BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220422BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220422BHJP
   C12N 15/06 20060101ALN20220422BHJP
   C12N 5/16 20060101ALN20220422BHJP
【FI】
C07K16/24
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P37/02
C12P21/08
C12N15/06 100
C12N5/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017231439
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019099492
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-17
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02577
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02578
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02579
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02580
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】510301242
【氏名又は名称】ワイズ・エー・シー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 幾夫
(72)【発明者】
【氏名】波多野 良
(72)【発明者】
【氏名】大沼 圭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 匠
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/009392(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/091512(WO,A1)
【文献】特開2016-069314(JP,A)
【文献】臨床血液,2015年,Vol.56, No.9,p.1408 (p.292)
【文献】PLOS Biology,2012年,Vol.10, No.9, e1001395,pp.1-15
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2004年,Vol.279, No.32,pp.33343-33351
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-16/46
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE P-02577、受託番号NITEP-02578、受託番号NITE P-02579又は受託番号NITE P02580として寄託されたハイブリドーマが産生する、ヒトIL-26に対する中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
請求項記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含有する医薬。
【請求項3】
IL-26関連性疾患治療薬である請求項記載の医薬。
【請求項4】
IL-26が関与する難治性免疫異常症治療薬又はIL-26が関与する難治性がん治療薬である請求項2又は3記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中和活性を有する抗ヒトIL-26モノクローナル抗体及びこれを含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン(IL)-26はHerpesvirus saimiriに感染したT細胞から初めて同定されたサイトカインで、ヒトIL-26は171アミノ酸から成り、IL-10、IL-19、IL-20、IL-22、IL-24を含むIL-10 familyに分類される。IL-26遺伝子はヒト第12染色体12q15領域の、インターフェロン(IFN)-γとIL-22の遺伝子の間に位置し、様々な脊椎動物種でも保存されているが、マウスやラット等の齧歯類では欠損している。IL-26はTh1細胞、Th17細胞、NK細胞のほか、関節リウマチ患者の滑膜細胞やエンドトキシン刺激を受けた肺胞マクロファージなどから産生され、IL-20RAとIL-10RBで構成される特異的な細胞表面受容体に結合することで、STAT3のリン酸化を介して細胞を活性化させる。IL-10RBが様々な細胞種に広範に発現しているのに対し、IL-26受容体からの細胞内シグナル伝達の鍵となるIL-20RAの発現は、ケラチノサイトと腸管上皮細胞で報告されているが、T細胞、B細胞、NK細胞、単球、樹状細胞などの血液細胞には認められない。IL-26はケラチノサイトと腸管上皮細胞に作用して、IL-10、IL-8、TNF-αの産生や細胞接着分子ICAM-1の発現を亢進する。また、本発明者らは、IL-26受容体がヒト及びマウスの線維芽細胞にも発現しており、IL-26がIL-20RAを介して線維芽細胞を活性化させ、コラーゲン産生を増加させることを見出した(非特許文献1)。血液細胞にはIL-20RAの発現は認められないとの過去の報告に反して、近年、IL-26の単球、好中球及びNK細胞への作用も報告された。IL-26はヒト単球のIL-1β、IL-6、TNF-α及びCCL20の産生を誘導し、Th17細胞の発生を促進する(非特許文献2)。また、IL-26はIL-8や細菌性ホルミルペプチド(fMLP)によって誘導されるヒト好中球の細胞遊走を増強させる(非特許文献3)。さらに、ヒトCD16陰性CD56強陽性のNK細胞膜上のTRAIL発現を亢進し、NK細胞のIL-1β、IFN-β、IFN-γ、TNF-α産生を促進する(非特許文献4)。
【0003】
IL-26は、IL-17を産生するCD4ヘルパーT細胞であるTh17細胞が特に産生するサイトカインである。Th17細胞は、関節リウマチや炎症性腸疾患、多発性硬化症や乾癬など様々な難治性自己免疫疾患の病態への関与が動物実験で示され、IL-17AやTh17分化を促進するIL-23を標的とした治療薬は、様々な免疫疾患に対して臨床試験が行われている(非特許文献5)。IL-26はマウスやラット等の齧歯類で欠損しているため、ヒト検体を用いての報告が主であり、炎症病態における役割に関してまだ解明されていない点が多い。炎症性腸疾患であるクローン病患者では、大腸でのIL-26のmRNA発現が増加しており、クローン病の症状が強く表れているときに大腸でのIL-26陽性T細胞数が増加していることが報告されている(非特許文献6)。IL-26はIL-20RA/IL-10RBを発現する腸管上皮細胞に作用して、IL-8とTNF-αの発現を増強させる。関節リウマチ患者では、健常者よりも血清中のIL-26濃度が高値を示し、滑液中にはさらに高濃度で存在する。関節リウマチ患者の滑膜細胞はIL-26を産生し、IL-26はCD14陽性単球のIL-1β、IL-6、TNF-α産生を非常に強く増強することで、Th17細胞分化やIL-17A産生をより促進する(非特許文献2)。本発明者らは、重度の免疫不全マウスであるNOGマウスを亜致死量の放射線で前処理し、ヒト臍帯血単核球を移植する慢性移植片対宿主病(GVHD)モデルを確立し、肺の線維化に決定的なエフェクターサイトカインとしてIL-26を見出した(非特許文献1)。さらに、IL-26がヒト及びマウスの線維芽細胞に作用してコラーゲン産生を顕著に亢進すること、急性リンパ芽球性白血病患者で同種末梢血幹細胞移植後にGVHDを発症した肺においても、多数のIL-26陽性CD4 T細胞が浸潤しており、気管支周囲や血管周囲に顕著なコラーゲン堆積が認められることを明らかにした。このことから、IL-26は、炎症性腸疾患や関節リウマチ、慢性肺GVHDの病態に深く関与していることが示唆される。また、乾癬患者の皮膚病変部位でIL-17A、IL-17F、IL-22といったTh17サイトカインとともにIL-26のmRNA発現も上昇していること(非特許文献7)、多発性硬化症の患者の血清中IL-26濃度が健常者よりも高値を示すことも報告されており(非特許文献8)、炎症病態における役割の詳細は不明ながら、それらの疾患の病態にもIL-26が関係していることが示唆されている。
また、IL-26は免疫疾患だけでなく、がんの病態への関与も示唆されている。胃がん組織では、隣接した正常組織よりもIL-26のmRNA発現が高く、胃がん浸潤細胞のうちTh17細胞とNK細胞がIL-26の主な産生源であること、胃がん患者では血清中IL-26濃度が健常者よりも高いことが報告されている(非特許文献9)。IL-26は胃がん細胞株の増殖を促進するとともに、STAT3シグナル依存的に抗アポトーシス遺伝子であるBcl-2、Bcl-xl、c-mycの発現を上昇させることで、シスプラチンによるアポトーシス誘導を阻害し、がん細胞の生存促進に作用する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Ohnuma, K., R. Hatano, T. M. Aune, H. Otsuka, S. Iwata, N. H. Dang, T. Yamada, and C. Morimoto. 2015. Regulation of pulmonary graft-versus-host disease by IL-26+CD26+CD4 T lymphocytes. Journal of immunology 194: 3697-3712.
【文献】Corvaisier, M., Y. Delneste, H. Jeanvoine, L. Preisser, S. Blanchard, E. Garo, E. Hoppe, B. Barre, M. Audran, B. Bouvard, J. P. Saint-Andre, and P. Jeannin. 2012. IL-26 is overexpressed in rheumatoid arthritis and induces proinflammatory cytokine production and Th17 cell generation. PLoS biology 10: e1001395.
【文献】Che, K. F., S. Tengvall, B. Levanen, E. Silverpil, M. E. Smith, M. Awad, M. Vikstrom, L. Palmberg, I. Qvarfordt, M. Skold, and A. Linden. 2014. Interleukin-26 in antibacterial host defense of human lungs. Effects on neutrophil mobilization. Am J Respir Crit Care Med 190: 1022-1031.
【文献】Miot, C., E. Beaumont, D. Duluc, H. Le Guillou-Guillemette, L. Preisser, E. Garo, S. Blanchard, I. Hubert Fouchard, C. Creminon, P. Lamourette, I. Fremaux, P. Cales, F. Lunel-Fabiani, J. Boursier, O. Braum, H. Fickenscher, P. Roingeard, Y. Delneste, and P. Jeannin. 2015. IL-26 is overexpressed in chronically HCV-infected patients and enhances TRAIL-mediated cytotoxicity and interferon production by human NK cells. Gut 64: 1466-1475.
【文献】Fragoulis, G. E., S. Siebert, and I. B. McInnes. 2016. Therapeutic Targeting of IL-17 and IL-23 Cytokines in Immune-Mediated Diseases. Annual review of medicine 67: 337-353.
【文献】Dambacher, J., F. Beigel, K. Zitzmann, E. N. De Toni, B. Goke, H. M. Diepolder, C. J. Auernhammer, and S. Brand. 2009. The role of the novel Th17 cytokine IL-26 in intestinal inflammation. Gut 58: 1207-1217.
【文献】Wilson, N. J., K. Boniface, J. R. Chan, B. S. McKenzie, W. M. Blumenschein, J. D. Mattson, B. Basham, K. Smith, T. Chen, F. Morel, J. C. Lecron, R. A. Kastelein, D. J. Cua, T. K. McClanahan, E. P. Bowman, and R. de Waal Malefyt. 2007. Development, cytokine profile and function of human interleukin 17-producing helper T cells. Nature immunology 8: 950-957.
【文献】Esendagli, G., A. T. Kurne, G. Sayat, A. K. Kilic, D. Guc, and R. Karabudak. 2013. Evaluation of Th17-related cytokines and receptors in multiple sclerosis patients under interferon beta-1 therapy. Journal of neuroimmunology 255: 81-84.
【文献】You, W., Q. Tang, C. Zhang, J. Wu, C. Gu, Z. Wu, and X. Li. 2013. IL-26 promotes the proliferation and survival of human gastric cancer cells by regulating the balance of STAT1 and STAT3 activation. PloS one 8: e63588.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
関節リウマチや炎症性腸疾患、乾癬、多発性硬化症、慢性GVHDなどの難治性免疫異常症の治療薬として、ステロイド剤や免疫抑制剤、TNF-α、IL-6、IL-17Aなどを分子標的とした生物学的製剤が用いられているが、作用する細胞の特異性の低さや免疫系の抑制効果の強さが原因となり、日和見感染に代表される副作用が問題となっている。そこで、免疫系による本来の生体防御反応を過剰に抑制しない、疾患の病態に即した有効かつ副作用のリスクを改善した治療法の開発が望まれている。また、現時点で有効な治療薬が開発されていない難治性がんに対しても、有効かつ安全な新しい分子標的治療薬の開発が望まれている。
従って、本発明の課題は、難治性免疫異常症及び難治性がんの治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、難治性免疫異常症や難治性がんに関与しているIL-26に着目し、市販されている抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の作用について検討したところ、これらの抗体はIL-26には結合するものの、中和活性がないことが判明した。そこで、本発明者は数多くのIL-26に対する抗体を製造し、その中からヒトIL-26に対する中和活性を有する抗体を選択することに成功した。さらに、抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体の作用を検討したところ、IL-26が関与する種々の疾患に対して優れた治療効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔9〕を提供するものである。
【0008】
〔1〕ヒトIL-26に対する中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔2〕ヒトIL-26の活性を阻害するものである〔1〕記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔3〕受託番号NITE P-02577、受託番号NITE P-02578、受託番号NITE P-02579、又は受託番号NITE P02580として寄託されたハイブリドーマが産生する、ヒトIL-26に対する中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含有する医薬。
〔5〕IL-26関連性疾患治療薬である〔4〕記載の医薬。
〔6〕IL-26が関与する難治性免疫異常症治療薬又はIL-26が関与する難治性がん治療薬である〔4〕又は〔5〕記載の医薬。
〔7〕IL-26が関連する疾患を治療するための、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
〔8〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の、IL-26が関連する疾患治療薬製造のための使用。
〔9〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の有効量を投与することを特徴とするIL-26が関連する疾患の治療方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いれば、IL-26が関与する種々の難治性免疫異常症やがんを治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のIL-26に対する結合性を示す図である。組換えヒトIL-26をプレートにそれぞれ固相化し、ハイブリドーマ各クローンの培養上清を精製して得たIgG画分を添加して、結合させた。次いで、二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗マウスIg抗体)を反応させ、基質を添加した後、プレートリーダーで、450nmにおける吸光値(吸収波長)を測定した。本発明者らが樹立したマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体及び市販のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体では、プレートに固相化したIL-26濃度依存的な吸光値の上昇が見られた。データは、各群3連で測定した結果の平均±標準偏差として示している。類似の結果を有する3回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図1B】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のIL-26に対する結合性を示す図である。組換えヒトIL-10をプレートにそれぞれ固相化し、ハイブリドーマ各クローンの培養上清を精製して得たIgG画分を添加して、結合させた。次いで、二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗マウスIg抗体)を反応させ、基質を添加した後、プレートリーダーで、450nmにおける吸光値(吸収波長)を測定した。本発明者らが樹立したマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体及び市販のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体では、プレートに固相化したIL-10に対してはいずれの濃度でも結合は認められないことが示された。データは、各群3連で測定した結果の平均±標準偏差として示している。類似の結果を有する3回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図2A】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のヒト大腸がん細胞株COLO 205に対するIL-26の中和活性を示す図である。COLO 205細胞に対照マウスIgGまたは抗ヒトIL-26 IgG抗体の存在下、不存在下で外因性IL-26を添加し、24時間培養後に細胞を回収してICAM-1の発現をフローサイトメトリーによって測定した。MFIは平均蛍光強度の略語であり、データとして取り込んだ細胞それぞれの蛍光強度の総和を全細胞数で割った値(=平均値)を示す。蛍光強度が高いほど、一つの細胞の細胞膜上にICAM-1分子が多く発現しており、それらに対し蛍光標識された抗体が多く結合していることを意味する。COLO 205細胞を対照マウスIgG、ハイブリドーマ各クローンの培養上清を精製して得たIgG画分、市販のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体または市販のヤギ抗ヒトIL-26ポリクローナル抗体の存在下で外因性IL-26を添加した。COLO 205細胞のICAM-1の発現は、外因性IL-26によって増強し、本発明者らが樹立したマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の存在によって部分的に阻害された(*対応する対照マウスIgG添加群に対してp<0.01)。一方で、市販のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体2クローンでは全く阻害効果が見られなかった。データは、各群3連で培養し、それぞれ独立して測定した結果の平均±標準偏差として示している。青色点線は未刺激のCOLO 205細胞のICAM-1のMFIを示す。類似の結果を有する5回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図2B】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のヒト大腸がん細胞株COLO 205に対するIL-26の中和活性を示す図である。COLO 205細胞を対照マウスIgG、クローン69-10単独または69-10との2クローン組み合わせの存在下で外因性IL-26を添加した。外因性IL-26によって増強するCOLO 205細胞のICAM-1の発現は、モノクローナル抗体69-10単独で部分的に阻害され、69-10との2クローン組み合わせにより阻害効果が有意に増加した(*対応するクローン69-10単独添加群に対してp<0.01)。データは、各群3連で培養し、それぞれ独立して測定した結果の平均±標準偏差として示している。青色点線は未刺激のCOLO 205細胞のICAM-1のMFIを示す。類似の結果を有する3回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図2C】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のヒト大腸がん細胞株COLO 205に対するIL-26の中和活性を示す図である。COLO 205細胞を対照マウスIgG、クローン69-10単独または69-10との2クローン組み合わせ、3クローン組み合わせ、4クローン組み合わせの存在下で外因性IL-26を添加した。外因性IL-26によって増強するCOLO 205細胞のICAM-1の発現は、モノクローナル抗体69-10単独で部分的に阻害され、さらにクローンを組み合わせるほどより阻害効果が増加した。データは、各群3連で培養し、それぞれ独立して測定した結果の平均±標準偏差として示している。青色点線は未刺激のCOLO 205細胞のICAM-1のMFIを示す。類似の結果を有する3回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図2D】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のヒト大腸がん細胞株COLO 205に対するIL-26の中和活性を示す図である。COLO 205細胞を対照マウスIgG、クローン69-10単独または4クローン組み合わせの存在下で外因性IL-26を添加した。外因性IL-26によって増強するCOLO 205細胞のICAM-1の発現は、モノクローナル抗体69-10単独で用量依存的に阻害され、4クローン組み合わせにより非常に強い阻害効果が観察された。データは、各群3連で培養し、それぞれ独立して測定した結果の平均±標準偏差として示している。青色点線は未刺激のCOLO 205細胞のICAM-1のMFIを示す。類似の結果を有する3回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図2E】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のヒト大腸がん細胞株COLO 205に対するIL-26の中和活性を示す図である。図2Dの代表的な結果をヒストグラムで示した。黒色実線は無刺激のCOLO 205細胞のICAM-1の発現を示し、灰色の領域は、ICAM-1抗体と同じ蛍光色素が標識されたマウスIgG1,κアイソタイプ対照抗体で染色した結果を示す。対照マウスIgG(パネル(i)黒色太実線)、クローン69-10単独(パネル(ii)黒色太点線)、4クローン組み合わせ(パネル(iii)黒色太点線)存在下で外因性IL-26を添加したCOLO 205細胞のICAM-1の発現を示す。
図3A】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECに対するIL-26の中和活性を示す図である。HUVECに対照マウスIgGまたは抗ヒトIL-26 IgG抗体の存在下、不存在下で外因性IL-26またはVEGFを添加した。刺激を開始して48時間の細胞増殖を、IncuCyte ZOOMによって成育可能面積中の細胞の割合を算出することで評価した。HUVECの増殖は、外因性IL-26によって濃度依存的に促進され(水色線、青色線)、モノクローナル抗体69-10単独で有意に阻害された(赤色線;*対応する対照マウスIgG添加群に対してp<0.01)。さらに、4クローン組み合わせでは外因性IL-26によって促進されるHUVECの増殖はほぼ完全に阻害された(オレンジ色線)。データは、各群8連で培養し、それぞれ独立して測定した結果の平均±標準偏差として示している。類似の結果を有する3回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図3B】ハイブリドーマ各クローンの培養上清から精製したIgG画分のヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECに対するIL-26の中和活性を示す図である。HUVECに対照マウスIgGまたは抗ヒトIL-26 IgG抗体の存在下、不存在下で外因性IL-26またはVEGFを添加した。刺激して9時間後の管の長さをIncuCyte ZOOMによって算出することで管形成能を評価した。代表的な写真を上のパネルに示した。HUVECの管形成能は、外因性IL-26によって濃度依存的に促進され、モノクローナル抗体69-10単独で有意に阻害された(*対応する対照マウスIgG添加群に対してp<0.01)。さらに、4クローン組み合わせでは阻害効果が増加した。データは、各群8連で培養し、それぞれ独立して測定した結果の平均±標準偏差として示している。青色点線は未刺激のHUVECの管形成を示す。類似の結果を有する3回の独立した実験からの代表的なデータを示す。
図4A】イミキモド誘導性乾癬モデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。ヒトIL-26遺伝子を含むバクテリア人工染色体トランスジェニック(hIL-26Tg)マウスと、IL-26を発現しない対照トランスジェニック(ΔCNS-77 Tg)マウスの背中に5%イミキモドクリーム20mgを5日間連続で塗布した。対照マウスIgG、モノクローナル抗体69-10単独、4クローン組み合わせを、初日クリーム塗布前と3回目クリーム塗布前と5回目クリーム塗布前に1日おきでマウス1匹あたり200μgずつ腹腔内投与を行った。各群のマウスの背中の皮膚の外観の代表的な写真を示す。
図4B】イミキモド誘導性乾癬モデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。背中の皮膚の炎症の重症度をPASIスコアによって評価した。背中の皮膚の紅斑、鱗屑、肥厚それぞれに正常をスコア0、極めて重篤をスコア4としたスコアを付け、累計スコアとともに示した。hIL-26TgマウスはΔCNS-77 Tgマウスと比較して、皮膚の紅斑、鱗屑、肥厚のいずれも悪化が見られるが、モノクローナル抗体69-10単独投与及び4クローン組み合わせ投与により、症状の顕著な改善が認められた。データは2回の独立した実験の累積結果の平均±標準偏差として示した(各群n=10)。
図4C】イミキモド誘導性乾癬モデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。イミキモドクリームの塗布を開始して3日後及び5日後の背中の皮膚のH&E染色の代表的な結果を示す。元の大きさの×100である。スケールバーは200μmを示す。
図4D】イミキモド誘導性乾癬モデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。イミキモドクリームの塗布を開始して3日後の背中の皮膚の抗マウスLy6g(好中球マーカー)での免疫蛍光染色の代表的な結果を示す。全ての切片はDAPIにより核を青色に染色している。元の大きさの×100である。スケールバーは200μmを示す。
図4E】イミキモド誘導性乾癬モデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。イミキモドクリームの塗布を開始して5日後の背中の皮膚の抗マウスCD31(内皮細胞マーカー)での免疫蛍光染色の代表的な結果を示す。全ての切片はDAPIにより核を青色に染色している。元の大きさの×100である。スケールバーは200μmを示す。
図4F】イミキモド誘導性乾癬モデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。イミキモドクリームの塗布を開始して5日後の背中の皮下の血管形成の代表的な写真を示す。
図5A】異種慢性GVHDモデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。NOGマウスを亜致死線量(200cGy)で放射線照射し、翌日、ヒト臍帯血から単離した単核球(CBMC)を移植した。対照マウスIgG、またはモノクローナル抗体69-10単独を、軽度なGVHDの臨床徴候/症状が見られ始めた移植+28日目からマウス1匹あたり200μgずつ週2回、腹腔内投与を行った。 全体的生存率の結果を示す。データは3回の独立した実験からの累計結果である(対照マウスIgG群n=10,IL-26抗体投与群n=6)。
図5B】異種慢性GVHDモデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。体重変動(平均±標準誤差)の結果を示す。データは3回の独立した実験からの累計結果である(対照マウスIgG群n=10,IL-26抗体投与群n=6)。
図5C】異種慢性GVHDモデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。CBMC移植後、NOGマウスの末梢血を表示されている時点で採取し、フローサイトメトリーを用いてヒトCD45+細胞の割合を解析した。データは、全末梢血白血球(PBL)中のヒトCD45+細胞の平均±標準誤差として示している(対照マウスIgG群では0-4週目はn=10,6週目はn=7,8週目はn=4、ならびにIL-26抗体投与群では0-8週目までn=6)。
図5D】異種慢性GVHDモデルにおける新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を示す図である。ヒトCBMCから造血幹細胞画分CD34+細胞のみを精製して移植したGVHD非発症対照群、CBMC移植後に対照マウスIgGを投与した群、IL-26抗体69-10を投与した群の移植後8週目における背中の皮膚の外観、皮膚、肺および肝臓のH&E染色の代表的な結果を示す。H&E染色の結果は、元の大きさの×100である。スケールバーは100μmを示す。
図6A】新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体投与後もドナーT細胞による移植片対腫瘍(GVT)効果が保持されていることを示す図である。NOGマウスを亜致死線量(200cGy)で放射線照射し、翌日、ヒト臍帯血から単離した単核球(CBMC)を移植した。移植+28日目に尾静脈からA20-luc細胞を播種し、その翌日(+29日目)から対照マウスIgG、またはモノクローナル抗体69-10単独をマウス1匹あたり200μgずつ週2回、腹腔内投与した。ドナーT細胞による抗腫瘍効果が働かない比較対照として、CBMC移植をしないNOGマウスにA20-luc細胞を播種した。A20-lucを播種して3日後、7日後、10日後、14日後、17日後にマウスにルシフェリンを注射し、in vivo imaging systemにて発光の強さを定量化し、腫瘍細胞の測定を行った。各群の腫瘍の発光強度を平均±標準偏差で示した(各群n=5)。
図6B】新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体投与後もドナーT細胞による移植片対腫瘍(GVT)効果が保持されていることを示す図である。A20-lucを播種して10日後、17日後に測定を行った各群の代表的なマウスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗体は、ヒトIL-26に対する中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片である。
【0012】
本発明のモノクローナル抗体は、IgG、IgA又はIgM(又はこれらのサブクラス)等の任意のクラスであってよく、特定のクラスに限定されない。好ましくは、IgGであり、例えばIgG1又はIgG2である。
【0013】
抗原結合性断片は、当該抗体の機能的、構造的断片であって、当該抗体が結合可能な抗原に対する結合性を保持しているものであれば特に限定されない。抗原結合性断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、1本鎖(ScFv)、それらの変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、及び、抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の他の修飾構造体等が挙げられる。
【0014】
本発明のモノクローナル抗体は、ヒトIL-26に特異的に結合し、ヒトIL-26の活性を阻害することを特徴とする。
【0015】
「特異的に結合する」とは、抗体の抗原やエピトープに対して特異的な結合することを意味する。例えば、特異的にIL-26のエピトープに結合する抗体又はその抗原結合性断片は、他のエピトープ又は非エピトープ部分に結合するよりも、より大きな親和性、結合活性で、より迅速に、及び/又は、より長時間持続して、このIL-26エピトープに結合可能である。しかしながら、第1の標的に特異的に結合する抗体又はその抗原結合性断片は、第2の標的に特異的に結合することを排除しない。
【0016】
「中和モノクローナル抗体」とは、抗原と結合することで、抗原とその受容体との結合を阻害することが可能なモノクローナル抗体を意味する。すなわち、ヒトIL-26と結合してヒトIL-26の活性を阻害するモノクローナル抗体である。
【0017】
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片としては、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ等)の抗体、又は、それらの抗原結合性断片が挙げられる。キメラ抗体は、非ヒト(例えば、マウス)抗体の可変領域だけを取ってきて、ヒト抗体の定常領域に導入した抗体であって、可変領域は非ヒト由来、定常領域はヒト由来の抗体とすればよい。ヒト化抗体は、抗原と直接結合する部分である超可変領域(相補性決定領域ともいう)だけを非ヒト(例えば、マウス)型にした抗体である。ヒト抗体は、非ヒト(例えば、マウス)免疫グロブリン遺伝子をノックアウトした非ヒト動物(例えば、マウス)と、ヒト免疫グロブリン遺伝子を導入した非ヒト動物どうしを交配させて、ヒト免疫グロブリンだけを産生する非ヒト動物を作製し、かかるヒト免疫グロブリンを産生する非ヒト動物から調製した抗体である。
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、場合により、単量体、二量体又は多量体の形態であってよい。
【0018】
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体は、種々の方法で製造することができる。モノクローナル抗体の製造方法は当該技術分野で当業者に周知である(例えばSambrook, J et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照)。
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体は、当業者に周知の、例えば、「Kohler and Milstein, 1975, Nature 256:495」に記載されるようなハイブリドーマ法を使用して製造することができる。ハイブリドーマ法においては、例えば、マウス、ハムスター又は他の適切な宿主動物を、抗原であるヒトIL-26又はその断片等で免疫することにより、当該宿主動物に、当該抗原に特異的に結合する抗体を産生する細胞(抗体産生細胞)を作らせる。抗体力価を高めるために、例えば、完全フロイントアジュバント(CFA)、脂質系アジュバント、グルカン多糖系アジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、又は、合成コポリマー系アジュバント等を添加してもよい。抗体産生細胞は脾臓に多く存在するため、一般的には、脾臓から脾細胞を取り出した後に、脾細胞を腫瘍細胞(例えば、HGPRT(ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)酵素を欠損した9-アザグアニン耐性株であるミエローマ細胞)と細胞融合させることで不死化させて、ハイブリドーマを作製する。細胞融合は、センダイウイルス、ポリエチレングリコール又は電気刺激等により行ってよい。ハイブリドーマを作製後、例えば、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)培地で培養することにより、脾細胞と腫瘍細胞のハイブリドーマを選択できる。選択したハイブリドーマを1個/ウェルで播種し直すことで、抗ヒトIL-26モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。培養上清は、さらに、硫安塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、又は、プロテインA/Gクロマト法等を用いて精製することで、例えば、IgG画分(IgG抗体)へと精製してもよい。
【0019】
本発明においては、抗ヒトIL-26モノクローナル抗体のうち、中和活性を有するモノクローナル抗体であるから、前記のハイブリドーマ中からIL-26中和活性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する必要がある。その選択法としては、例えば、ヒト大腸がん細胞株COLO 205の細胞膜上のICAM-1の発現は、IL-26刺激により増強されるので、このCOLO 205の細胞膜上のICAM-1発現増強阻害作用を検討することにより評価できる。また、ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECの細胞増殖および管形成能は、IL-26刺激により促進されるので、このHUVECの細胞増殖および管形成能促進阻害作用を検討することにより評価できる。
【0020】
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの具体例としては、受託番号NITE P-02577として寄託されたハイブリドーマ(69-10)、受託番号NITE P02578として寄託されたハイブリドーマ(20-3)、受託番号NITE P-02579として寄託されたハイブリドーマ(31-4)、受託番号NITE P02580として寄託されたハイブリドーマ(2-2)が挙げられる。ここでハイブリドーマの寄託機関は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターである。
【0021】
また、本発明のモノクローナル抗体には、これらのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体によって認識(結合)されるエピトープに結合する抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片であってよい。これらのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体と、当該抗体によって認識されるエピトープに結合する抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片とは、実質的に又は完全に同一のエピトープを認識し結合するのが好ましい。実質的に同一のエピトープとは、抗体又はその抗原結合性断片の結合性には影響を与えないアミノ酸の修飾、置換、付加、欠失等を有するエピトープを指してもよい。あるいは、これらのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体の相補性決定領域を有する抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片も、本発明の範囲内に含まれる。これらのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体と、当該抗体の相補性決定領域を有する抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片とは、実質的に又は完全に同一の相補性決定領域を有するのが好ましい。実質的に同一の相補性決定領域とは、抗体又はその抗原結合性断片の結合性には影響を与えないアミノ酸の修飾、置換、付加、欠失等を受けている相補性決定領域を指してもよい。
【0022】
あるいは、本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるような、遺伝子組換え技術により作製されてもよい。あるいは、ファージディスプレイ技術を用いて作製してもよい(例えば、米国特許第5,565,332号;第5,580,717号;第5,733,743号及び第6,265,150号)。本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をコードするDNAは、モノクローナル抗体の重鎖又は軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブの使用といった、従来的な方法を使用することで、単離し、配列決定することができる。当該DNAを単離後に発現ベクターに組み込んで、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は、当該発現ベクターが導入されない限り免疫グロブリンタンパク質を産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞に遺伝子導入することにより、本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を産生させてもよい。
【0023】
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、所望により、修飾してもよい。抗体の生物学的特性における実質的な修飾は、(a)例えばシート又はヘリックスコンホメーション等の、修飾領域におけるアミノ酸配列の三次元的な構造;(b)標的部位での分子の電荷又は疎水性の状態;又は、(c)側鎖の容積の維持に対する修飾の効果、を変化させる修飾(例えば、アミノ酸残基の置換、欠失、付加等)によって達成してよい。
本明細書において、アミノ酸とは、その最も広い意味で用いられ、天然のアミノ酸、例えばセリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、アラニン(Ala)、チロシン(Tyr)、グリシン(Gly)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、トレオニン(Thr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、プロリン(Pro)のみならず、アミノ酸変異体及び誘導体といった、非天然アミノ酸も含まれる。当業者であれば、この広い定義を考慮して、本明細書におけるアミノ酸として、例えばL-アミノ酸;D-アミノ酸;アミノ酸変異体、アミノ酸誘導体等の化学修飾されたアミノ酸;ノルロイシン、β-アラニン、オルニチン等、生体内でタンパク質の構成材料とならないアミノ酸;及び当業者に公知のアミノ酸の特性を有する、化学的に合成された化合物等が挙げられることを当然に理解する。非天然アミノ酸の例としては、α-メチルアミノ酸(α-メチルアラニン等)、D-アミノ酸(D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸等)、ヒスチジン様アミノ酸(2-アミノ-ヒスチジン、β-ヒドロキシ-ヒスチジン、ホモヒスチジン、α-フルオロメチル-ヒスチジン、α-メチル-ヒスチジン等)、側鎖に余分なメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)及び側鎖中のカルボン酸官能基アミノ酸がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸等)等が挙げられる。
例えば、天然に存在するアミノ酸残基は、一般的な側鎖特性に基づいて、次のグループに分類され得る:
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:Asn、Gln、His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
抗体又はその抗原結合性断片を構成するアミノ酸配列の非保存的置換は、これらのグループの1つに属するアミノ酸を他のグループに属するアミノ酸と交換することにより行ってもよい。より保存的な置換は、これらのグループの1つに属するアミノ酸を同一グループの他のアミノ酸と交換することにより行ってもよい。同様に、アミノ酸配列の欠失又は置換を適宜行ってもよい。
また、抗体の適切な立体構造を維持するのには関与しない任意のシステイン残基を置換することにより(通常はセリンと置換する)、分子の酸化安定性を向上させ、異常な架橋形成を防いでもよい。逆に、抗原結合性断片がFv断片等の抗体断片である場合、システイン結合を抗原結合性断片に付加することにより、抗原結合性断片の安定性を向上させることができる。
抗体又はその抗原結合性断片を構成するアミノ酸の修飾は、1つ以上のアミノ酸の変化又は修飾であってもよく、可変領域等の領域の完全な再設計であってもよい。可変領域における変化は、結合親和性及び/又は特異性を変化させ得る。一実施態様において、1~5個以下の保存的なアミノ酸置換をCDR上で行ってよい。他の実施態様において、1~3個以下の保存的アミノ酸置換をCDR3上で行ってよい。さらなる別の実施態様において、CDRはCDRH3及び/又はCDRL3であってよい。
抗体又はその抗原結合性断片を構成するアミノ酸の修飾としては、例えば、糖によるグリコシル化、アセチル化又はリン酸化等の翻訳後修飾であってもよい。抗体は、その定常領域における保存された位置でグリコシル化され得る。抗体のグリコシル化は、通常、N-結合型又はO-結合型のいずれかである。N-結合型は、アスパラギン残基の側鎖に対する糖質部分の結合を意味する。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリン、アスパラギン-X-スレオニン、及び、アスパラギン-X-システイン(式中、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖に対する糖質部分を酵素的に付加するための認識配列である。これらのトリペプチド配列のいずれかが抗体又はその抗原結合性断片に存在することにより、潜在的なグリコシル化部位が存在する。O-結合型グリコシル化は、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又は、キシロースのいずれかの、ヒドロキシアミノ酸(例えば、セリン又はスレオニン)への結合であってよく、場合により、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンへの結合であってもよい。グリコシル化の条件(グリコシル化を、生物学的手法を用いて行う場合には、例えば、宿主細胞や細胞培地の種類、pH等)を、当業者は目的に応じて適宜、選択することができる。
【0024】
本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は、後記実施例に示すように、ヒトIL-26の活性を阻害し、IL-26活性が増強することによって生じる種々の疾患の治療薬として有用である。ここで、IL-26が関連する疾患としては、難治性免疫異常症及びがんが挙げられる。具体的な対象疾患としては、急性又は慢性移植片対宿主病、移植後拒絶反応、自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、がん、特発性肺高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺線維症、閉塞性細気管支炎、ウイルス性肝炎、肝硬変、腎硬化症、慢性糸球体腎炎及び特発性ネフローゼ症候群から選ばれる疾患が挙げられる。ここで自己免疫疾患としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、乾癬、乾癬性関節炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、シェーグレン症候群、血管炎症候群、混合性結合組織病、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、I型糖尿病、天疱瘡、類天疱瘡、習慣性流産、原因病及び自己免疫性視神経炎から選ばれる疾患が挙げられる。また、がんとしては、例えば、頭頚部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、骨・軟部肉腫、悪性リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、子宮頚癌、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられる。
【0025】
本発明の医薬は、抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有するが、これらの有効成分及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物として提供するのが好ましい。
【0026】
そのような医薬組成物としては、注射剤、経口剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が挙げられるが、注射剤がより好ましい。
【0027】
注射剤を調製する場合は、本発明の抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内又は静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としては、それぞれ、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。
【0028】
本発明の医薬、疾患、患者の症状などにより相違するか、注射剤の場合、有効成分として通常成人1回当たり0.01mg~100mgを1日1回又は2~4回程度に分けて投与するのが好ましい。
【実施例
【0029】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
1.研究方法
(1)細胞
ヒト大腸がん細胞株COLO 205はRIKEN BioResource Center(Tsukuba,Japan)より購入し、マウスリンパ腫細胞A20に、ホタルルシフェラーゼをトランスフェクトした細胞(A20-luc)は、Dr.Xiao Chen (Medical College of Wisconsin, Milwaukee,WI,USA)の好意により提供された(Blood.2013;121(19):3970-80.)。COLO205とA20-lucは、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo Fisher scientific,Waltham,MA,USA)と10%FBS(Nichirei Biosciences,Tokyo,Japan)を添加したRPMI-1640培地(Wako,Osaka,Japan)で培養した。ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECはLONZA(Walkersville,MD,USA)より購入し、EGM培地(LONZA)で培養した。細胞培養は全て5% CO、37℃の環境で行った。ヒト臍帯血単核球は、ヒト臍帯血からフィコール密度勾配法で単離した単核球をRIKEN BioResource Centerより購入した。
【0031】
(2)研究に用いた抗ヒトIL-26抗体および組換えヒトIL-26
新たに樹立したIL-26モノクローナル抗体の比較対照として、市販されているSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA,USA)のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体(clone LL07,カタログ番号sc-80523)、R&D Systems(Minneapolis,MN,USA)のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体(clone 510414,カタログ番号MAB13751)およびR&D Systemsのヤギ抗ヒトIL-26ポリクローナル抗体(カタログ番号AF1375)を用いた。用いたR&D Systems社のヤギ抗ヒトIL-26ポリクローナル抗体は、これまでに複数の論文でIL-26の活性を阻害することが報告されている(J Biol Chem.2004;279(32):33343-51.;Gut.2015;64(9):1466-75.;J Immunol.2015;194(8):3697-712.)。アイソタイプ対照抗体としてBioLegend(San Diego,CA,USA)のマウスIgG1,κモノクローナル抗体(clone MG1-45,カタログ番号401404)を用いた。マウスに免疫する組換えヒトIL-26はR&D SystemsのIL-26モノマー(カタログ番号1375-IL-025/CF)を、細胞を刺激するための組換えヒトIL-26はR&D SystemsのIL-26ダイマー(カタログ番号1870-IL-010/CF)を用いた。
【0032】
(3)マウス
BALB/cマウス、♀は日本クレア(Tokyo,Japan)から購入した。C57BL/6を遺伝子背景とした、ヒトIL26及びIFNG遺伝子を含む190kbのバクテリア人工染色体(BAC)遺伝子導入(hIL26-IFNG Tg)マウスならびにIFNG転写開始部位の77kb上流に位置する保存された非コード配列(CNS)を欠損しているBAC Tg(ΔCNS-77 Tg)マウスは、Thomas Auneの研究室で開発された(J Immunol.2010;185(3):1492-501.;Genes Immun.2012;13(6):481-8.)。NOD/Shi-scid,IL-2RγKO Jic(Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug/Jic)マウス(以下、NOGマウス)、♀は、実験動物中央研究所(Kawasaki, Japan)から購入した。すべてのマウスは特定病原体除去施設においてマイクロアイソレーターケージ内で飼育した。マウスは8-14週齢を使用した。動物実験は施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)で承認されたプロトコルに従って行った。
【0033】
(4) マウスへの免疫とハイブリドーマの作製
R&D Systemsの組換えヒトIL-26タンパク(ヒトIL-26の22番目から171番目のアミノ酸残基を大腸菌に発現させたもの)40μg/50μLと、合成コポリマー系アジュバントであるTiterMax Gold(TiterMax USA,Norcross,GA,USA)50μLとを混合して、1匹あたり100μL/doseでBALB/cマウスに皮下注射した。2週間ごとに合計5回皮下注射を行い、最後に尾静脈に上記の半量である50μLを静脈注射した。3日後にマウスを解剖して得た粗精製脾細胞と、P3U1ミエローマ細胞とを、1:1で混合し、ポリエチレングリコールで細胞融合してハイブリドーマを作製した。細胞を洗浄した後、5% BriClone(NICB,Dublin,Ireland,カタログ番号BRBR001)とHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を添加したGIT培地(Wako Pure Chemicals,Osaka,Japan)で当該細胞を懸濁してから、96ウェル平底プレートに播種した。生育したハイブリドーマの培養上清を回収し、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)によって、抗ヒトIL-26抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを行い、陽性であったハイブリドーマを選出した後、中和活性の検討を行った。中和活性を有する抗体を産生するハイブリドーマを96ウェル平底プレートに1個/ウェルで播種し直し、複数の単クローンを選出した。目的の抗体を含む細胞培養上清からProtein A IgG Purification Kit(Pierce,Rockford,IL,USA)を用いてIgG画分を精製した。
【0034】
(5) ELISA
抗ヒトIL-26抗体産生ハイブリドーマの最初のスクリーニングでは、組換えヒトIL-26モノマーを炭酸塩/重炭酸塩バッファー(CBB)に希釈し、50ng/wellでイムノプレート(NUNC,Roskilde,Denmark)に添加して4℃で一晩静置した。陰性コントロールとしてCBBのみをプレートに添加し、ヒトIL-26をコートしない群を用意した。0.05%Tween20含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS-T)で洗浄後、2%BlockAce(DS Pharma Biomedical,Osaka,Japan)を添加して室温で1時間静置することでプレートをブロッキングした。PBS-Tで洗浄後、一次抗体としてPBSで2倍に希釈したハイブリドーマ培養上清を添加し、室温で1時間静置した。PBS-Tで洗浄後、二次抗体としてHRP結合ヤギ抗マウスIg抗体(BD Biosciences,San Jose,CA,USA,カタログ番号554002)をPBS-Tで500倍希釈した溶液(濃度は製品に記載なし)を添加し、室温で1時間静置した。PBS-Tで洗浄後、TMBペルオキシダーゼ基質(KPL, Gaithersburg,MD,USA)を添加して発色させた後、2N H2SO4を添加して反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)で450nmの吸収波長と570nmのレファレンス波長とを測定した。培養上清から精製したIgG画分のIL-26への結合性の検討では、組換えヒトIL-26モノマーまたは組換えヒトIL-10(BioLegend)をCBBに希釈し、2-100ng/wellでイムノプレートに添加して4℃で一晩静置した。PBS-Tで洗浄後、2%BlockAceを添加して室温で1時間静置した。PBS-Tで洗浄後、一次抗体として精製した新規マウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体またはR&D Systemsのマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体をRPMI-1640培地で10μg/mLに調整した溶液を添加し、室温で1時間静置した。以降の手順は上記と同様の方法で行い、450nmの吸収波長と570nmのレファレンス波長とを測定した。データはMicroplate Manager 6(Bio-Rad)で解析した。
【0035】
(6) COLO 205のICAM-1発現解析
COLO 205を96ウェル平底プレートに5×104個/ウェルとなるよう播種し、対照マウスIgGまたは抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の存在下、不存在下で組換えヒトIL-26ダイマー(20ng/mL)で刺激した。24時間培養後に細胞を回収し、1%FBSと0.1%アジ化ナトリウムを含む氷冷PBS(FCMバッファー)で洗浄した。その後、Bay bioscience(Kobe,Japan)のPE標識マウス抗ヒトICAM-1モノクローナル抗体(clone 15.2,カタログ番号50-0549-T100)またはBioLegendのPE標識マウスIgG1,κアイソタイプ対照モノクローナル抗体(clone MOPC-21,カタログ番号400114)をFCMバッファーで5μg/mLに希釈した溶液を50μL/サンプルで添加し、4℃で25分静置した。その後、細胞を氷冷FCMバッファーで洗浄した後、FACSCalibur(BD Biosciences)で測定を行い、得られたデータをFlowJo(Tree Star,Ashland,OR,USA)で解析した。
【0036】
(7) HUVECの細胞増殖試験
HUVECを、増殖因子を半減した2%FBS含有EGM培地中に96ウェル平底プレートに5×103個/ウェルとなるよう播種し、37℃で12時間培養した。その後、培地を吸引し、増殖因子を含まない2%FBS含有EGM培地で、組換えヒトIL-26ダイマーを最終濃度3ng/mLまたは10ng/mL、組換えヒトVEGFを最終濃度10ng/mLとなるよう調整して、細胞に添加した。IL-26の中和試験では、対照マウスIgG、新たに樹立した抗ヒトIL-26モノクローナル抗体を単独、または組み合わせで添加した。刺激を開始して48時間の細胞増殖を、IncuCyte ZOOM(Essen Bioscience,Ann Arbor,MI,USA)によって成育可能面積中の細胞の割合を算出することで評価した。
【0037】
(8) HUVECの管形成試験
培養ディッシュ中でHUVECの培地を、増殖因子を半減した2%FBS含有EGM培地に置換して37℃で一晩培養した。その後、96ウェル平底プレートにCultrex PathClear増殖因子減量基底膜抽出物(R&D Systems,カタログ番号3433-005-01)を50μL/ウェルで添加し、増殖因子を含まない2%FBS含有EGM培地中にHUVECを1.5×104個/ウェルとなるよう播種した。同じ培地で組換えヒトIL-26ダイマーを最終濃度3ng/mLまたは10ng/mL、組換えヒトVEGFを最終濃度10ng/mLとなるよう調整し、細胞に添加した。IL-26の中和試験では、対照マウスIgG、新たに樹立した抗ヒトIL-26モノクローナル抗体を単独、または組み合わせで添加した。刺激を開始して9時間の管形成を、IncuCyte ZOOMを用いて評価した。管形成の長さをMetaMorph image analysis system(Molecular Device,Sunnyvale,CA,USA)で解析した。
【0038】
(9) イミキモド誘導性乾癬モデル
hIL26-IFNG Tgマウス及びΔCNS-77 Tgマウスの背中の毛を剃り、5%イミキモド含有クリーム(ベセルナクリーム;Mochida Pharmaceutical,Tokyo,Japan)20mgを背中の皮膚に5日連続で(0日目から4日目まで)塗布した。抗体による治療実験では、対照マウスIgG、新たに樹立した抗ヒトIL-26モノクローナル抗体を単独、または組み合わせで0日目、2日目、4日目に1日おきに投与した。抗体溶液は無菌PBSで1mg/mLの濃度に調整し、1匹あたり200μL(200μg)腹腔内注射した。背中の皮膚の炎症の重症度を、臨床のPsoriasis Area and Severity Index(PASI)に基づき毎日スコア化した。皮膚の紅斑、鱗屑、肥厚それぞれに対し、「正常」をスコア0、「やや悪化」をスコア1、「中程度に悪化」をスコア2、「顕著に悪化」をスコア3、「極めて顕著に悪化」をスコア4とした0-4までのスコアを付け、累計スコア(0-12)とともに示した(Nat Commun.2016;7:11724.)。
【0039】
(10) 皮膚切片のH&E染色及び免疫蛍光染色
イミキモド含有クリームを塗布したhIL26-IFNG Tgマウス及びΔCNS-77 Tgマウスを解剖した後、背中の皮膚を切除して10%ホルマリン溶液(Wako)の中で室温で固定し、パラフィンに包埋した後、5μm厚の切片を作製し、スライドガラスに載せてヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色を行った。光学顕微鏡の画像はZeiss Axioplan2顕微鏡(Carl Zeiss,Oberkochen,Germany)で撮影した。免疫蛍光染色では、背中の皮膚を4%パラホルムアルデヒド(Thermo Fisher scientific)の中で4℃で一晩静置した。固定した組織を20%スクロース(Wako)に置換して4℃で一晩静置し、Tissue-Tek OCT化合物(Sakura Finetek,Tokyo,Japan)に包埋して、-80℃で保存した。クライオスタット(Leica Microsystems,Wetzlar,Germany)を用いて5μm厚の凍結切片を作製した。1%パラホルムアルデヒドに室温で10分間浸し、風乾させた後、10%正常ロバ血清を添加して室温で1時間静置することでブロッキングした。PBSで洗浄後、一次抗体としてDako REAL抗体希釈液(Dako,Tokyo,Japan)でウサギ抗マウス、ヒト、ブタCD31ポリクローナル抗体(Abcam,Cambridge,UK,カタログ番号ab28364)を30倍希釈した溶液(濃度は製品に記載なし)、またはラット抗マウスLy6gモノクローナル抗体(Abcam,clone RB6-8C5,カタログ番号ab25377)を100倍希釈した溶液(濃度は製品に記載なし)を添加し、4℃で一晩静置した。PBSで洗浄後、二次抗体としてDako REAL抗体希釈液でAlexa Fluor 488結合ロバ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(Thermo Fisher Scientific,カタログ番号A-21206)を200倍希釈した溶液(濃度は製品に記載なし)、またはAlexa Fluor 488結合ロバ抗ラットIgGポリクローナル抗体(Abcam,カタログ番号ab150153)を300倍希釈した溶液(濃度は製品に記載なし)を添加し、室温で1時間静置した。PBSで洗浄後、スライドカラスにDAPIを含む蛍光褪色防止用封入剤ProLong Gold(Thermo Fisher Scientific)を加え、カバーガラスをのせてZeiss Axioplan2蛍光顕微鏡で画像を撮影した。
【0040】
(11) 異種慢性GVHDモデル
-1日目に、NOGマウスに亜致死線量(200 cGy)の照射を実施した。0日目に、NOGマウスの尾静脈からヒト臍帯血単核球5×106個を移植した。GVHDを発症しない比較対照として、ヒト臍帯血単核球からHuman CD34 MicroBead Kit(Miltenyi Biotec,カタログ番号130-046-703)を用いてCD34+ 細胞(造血幹細胞画分)を精製し、NOGマウスの尾静脈から1×105個を移植した。マウスの生存評価は毎日行い、体重は週に2回測定した。抗体による治療実験では、対照マウスIgG、または新たに樹立した抗ヒトIL-26モノクローナル抗体(クローン69-10)を、軽度なGVHDの臨床徴候/症状が見られ始めた移植+28日目から投与した。抗体溶液は無菌PBSで1mg/mLの濃度に調整し、1匹あたり200μL(200μg)ずつ週に2回、腹腔内注射した。レシピエント(NOGマウス)体内でのドナー白血球の生着を計測するため、マウスの尻尾から50-100μL採血し、遠心して血漿を分離した後、血球懸濁液50μLにFITC標識マウス抗ヒトCD8モノクローナル抗体(BD Biosciences,clone HIT8a,カタログ番号555634)を40倍希釈(濃度は製品に記載なし)、PerCP-Cy5.5標識マウス抗ヒトCD4モノクローナル抗体(Bio Legend,clone RPA-T4,カタログ番号300530)を50倍希釈(濃度は製品に記載なし)、APC標識マウス抗ヒトCD45モノクローナル抗体(Bio Legend,clone HI30,カタログ番号304012)を40倍希釈(濃度は製品に記載なし)で直接添加し、ヒトリンパ球セブセットマーカーの染色を行い、BD FACS Lysing Solution(BD Biosciences)を添加して赤血球を溶解した後、フローサイトメトリーにて解析した。FACSCaliburで測定を行い、得られたデータをFlowJoで解析した。
【0041】
(12) 組織学的評価
マウスを解剖した後、背中の皮膚、肺、肝臓、腸管を切除して10%ホルマリン溶液(Wako)の中で室温で固定し、パラフィンに包埋した後、5μm厚の切片を作製し、スライドガラスに載せてヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色を行った。光学顕微鏡の画像は、OlympusデジタルカメラDP25接続Olympus BX41顕微鏡(OLYMPUS,Tokyo,Japan)で撮影し、CellSensソフトウェアを用いた。
【0042】
(13) GVT効果及び生物発光イメージング
-1日目に、NOGマウスに亜致死線量(200 cGy)の照射を実施した。0日目に、NOGマウスの尾静脈からヒト臍帯血単核球5×106個を移植した。移植後+28日目に尾静脈からNOGマウスと同じ遺伝的背景(H-2d)のマウスリンパ腫細胞A20-luc細胞1×105個を播種した。その翌日+29日目から、無菌PBSで1mg/mLの濃度に調整した対照マウスIgG、またはIL-26モノクローナル抗体(クローン69-10)を、1匹あたり200μL(200μg)ずつ週に2回、腹腔内注射した。生体内生物発光イメージングを用いて腫瘍細胞の測定を週2回行った。イソフルランガス麻酔下で、無菌PBSで15mg/mLの濃度に調整したD-ルシフェリンカリウム(Wako,カタログ番号126-05116)を、1匹あたり200μLずつ腹腔内注射した。基質となるルシフェリンを注射して5分後、10分後の生体内生物発光をCaliper IVIS Lumina II In Vivo Imaging System (Perkin-Elmer,Waltham,MA,USA)を用いて撮影した。Caliper Living Image software(Perkin-Elmer)を用いて画像データの発光強度を定量化し、Total Flux(photons/second)として示した。
【0043】
(14) 統計
データは、2群比較では両側スチューデントt検定によって、多重比較ではANOVA検定とそれに続くTukey-Kramerポストホック検定によって解析した。p値<0.05を統計的に有意とみなした。生存率はKaplan-Meier法を用いてログランク検定によって解析した。エクセル統計(Microsoft,Redmond,WA,USA)を使用して計算を実施し、グラフを作成した。
【0044】
2.結果
(1) 新規モノクローナル抗体のIL-26に対する結合性
上述のとおり、組換えヒトIL-26を免疫したBALB/cマウスの粗精製脾細胞とP3U1ミエローマ細胞とをポリエチレングリコールで細胞融合させ、生育したハイブリドーマからマウス抗ヒトIL-26抗体を含む培養上清を回収し、ELISAによる一次スクリーニングを行った。その結果、抗ヒトIL-26抗体を安定して産生する90クローンを得た(データ未掲載)。次に、COLO 205細胞を用いて上記90クローンのIL-26の中和活性評価を行い、部分的にIL-26の活性を阻害できる7クローンを得た(データ未掲載)。その中でも、組み合わせることでIL-26の活性を相加的に阻害できる4クローン(クローン2-2,20-3,31-4,69-10)を見出した。
そこで、それら4クローンの培養上清からIgG画分を精製し、ヒトIL-26に対する結合性をELISAで検討した。図1Aに示すように、本発明者らが樹立したマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体及びR&D Systems社のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体では、プレートに固相化したIL-26濃度依存的な吸光値の上昇が見られた。なかでも、クローン20-3とクローン69-10は、ELISAにおいてR&D Systems社のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体よりもIL-26に対する結合性が非常に高いことが示された。IL-26はIL-10 familyに属するサイトカインであり、ヒトIL-26はヒトIL-10と24.7%のアミノ酸相同性を示す(J Virol.2000;74(8):3881-7.)。そこで、ヒトIL-26に特異的に結合することの確認として、ヒトIL-10に対する結合性をELISAで検討した結果、すべての抗体でいずれの濃度でもIL-10に対する結合は認められないことが示された(図1B)。これらの結果から、樹立した4クローンはヒトIL-26に特異的なモノクローナル抗体であることが示された。
【0045】
(2) 新規モノクローナル抗体のCOLO 205細胞に対するIL-26の中和活性
次に、樹立した新規抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の中和活性評価を行った。これまでに、IL-26がヒト単球とNK細胞の活性化やヒト好中球の細胞遊走、ケラチノサイトのIL-8産生を顕著に促進することが報告されているが、本発明者らが検討したところ、血液提供者によってIL-26に対する応答が大きく異なる試験や、IL-26で刺激をしても報告されているほど著明な変化が認められない試験が多かった(データ未掲載)。そのなかで、IL-26によるヒト大腸がん細胞株COLO 205のICAM-1発現亢進に関しては、実験回ごとの結果の誤差が非常に小さく再現性が極めて高いうえ、簡便かつ24時間の短期間で抗体の中和活性を評価でき、初代培養の血球細胞と比較して細胞株は細胞調製も容易であることから、多数のモノクローナル抗体の中和活性評価に適したスクリーニング系であることを見出した。
図2Aに示すように、COLO 205の細胞膜上のICAM-1の発現は、IL-26刺激によって増強し、本発明者らが樹立した新規抗ヒトIL-26モノクローナル抗体クローン2-2,20-3,31-4,69-10はいずれも部分的にICAM-1の発現増強を阻害した(*対応する対照マウスIgG添加群に対してp<0.01)。一方で、R&D Systems社及びSanta Cruz社のマウス抗ヒトIL-26モノクローナル抗体は、対照マウスIgG抗体と同様にIL-26刺激によるCOLO 205のICAM-1発現増強を全く阻害しなかった(図2A)。これまでに複数の論文で研究用の中和抗体として使用されているR&D Systems社のヤギ抗ヒトIL-26ポリクローナル抗体は、IL-26の活性を完全に阻害した。
COLO 205細胞を用いた試験では、樹立した新規抗ヒトIL-26モノクローナル抗体はいずれも1クローンではIL-26の活性を完全には阻害できなかったため、樹立した4クローンの中で最も中和活性が強いクローン69-10と、その他の3クローンとを組み合わせることでIL-26の中和効果が増加するかを検討した。その結果、図2Bに示すように、IL-26刺激によって増強するCOLO 205細胞のICAM-1の発現は、クローン69-10単独で部分的に阻害され、さらに69-10とクローン2-2,20-3, 31-4の2クローンを組み合わせることで、いずれの組み合わせでも阻害効果が有意に増加した(*対応するクローン69-10単独添加群に対してp<0.01)。さらに、クローン69-10単独と比較して、2クローン組み合わせ、3クローン組み合わせ、4クローン組み合わせの効果を検討した結果、クローンを組み合わせるほどより阻害効果が増加することが示された(図2C)。抗体濃度を高用量の40μg/mLまで上げた場合でも、クローン69-10単独ではIL-26刺激によるCOLO 205のICAM-1発現増強を完全には阻害できなかったが、樹立した4クローンの組み合わせによりほぼ完全に阻害できることが示された(図2D,2E)。
【0046】
(3) 新規モノクローナル抗体のHUVECに対するIL-26の中和活性
本発明者らは、IL-26の新たな機能として、血管内皮細胞の増殖及び管形成を顕著に亢進することを見出した。そこで、COLO 205細胞での評価系に加え、ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECを用いての新規抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の中和活性評価を行った。図3Aに示すように、IL-26刺激によってHUVECの増殖は用量依存的に促進され、代表的な血管新生促進因子の一つであるVEGFと同程度であった(図3A中、水色線・青色線・緑色線)。COLO 205細胞を用いた評価系において、1クローン単独でのIL-26の中和活性が最も強かったクローン69-10を添加することで、IL-26刺激によって促進されるHUVECの増殖が顕著に抑制されることが示された(図3A中、赤色線;*対応する対照マウスIgG添加群に対してp<0.01)。さらに、樹立した4クローンの組み合わせにより、IL-26の活性は完全に阻害されることが示された(図3A中、オレンジ色線)。
さらにIL-26は、HUVECをVEGFの存在下で基底膜抽出物中に播種した場合と同程度の明らかな管形成を誘導することを見出した(図3B-i,3B-ii)。このHUVECの管形成においても、クローン69-10単独で顕著に抑制され、さらに4クローンの組み合わせではIL-26の阻害効果がより増加することが示された(図3B-iii,3B-iv;*対応する対照マウスIgG添加群に対してp<0.01)。
このことから、in vitroでのCOLO 205細胞とHUVECを用いたモノクローナル抗体のIL-26中和活性評価試験において、クローン69-10単独でもIL-26の中和効果は認められ、さらに4クローンを組み合わせることでほぼ完全にIL-26の活性を阻害できることが示された。
【0047】
(4) イミキモド誘導性乾癬モデルにおける新規モノクローナル抗体の治療効果
in vitroでの中和活性評価試験により、中和活性を示す新規抗ヒトIL-26モノクローナル抗体を得ることができたため、これらの抗体を用いて難治性免疫異常症及びがんに対する動物実験での治療効果を検討した。IL-26はその機能や標的細胞、産生細胞などまだ解明されていない点が多い新規炎症性サイトカインだが、炎症性腸疾患や関節リウマチ、慢性GVHDや乾癬、多発性硬化症などの病態への関与が示唆されている。
イミキモドはマウスではトール様受容体7の、ヒトではトール様受容体7と8の強力なアゴニストとして作用し、尖圭コンジローマや日光角化症、表在型基底細胞がんの治療薬として臨床で使われている。イミキモド服用の副作用として、乾癬様の皮膚炎症が報告されており、ヒト乾癬を研究するためのイミキモド誘導性乾癬様マウスモデルが確立された(J Immunol.2009;182(9):5836-45.)。イミキモドを塗布したマウスの皮膚は、表皮肥厚、不全角化、乳頭腫症、炎症性細胞浸潤、皮膚の血管増生など多くの乾癬患者の皮膚の特徴を示す。そのため、このイミキモド含有クリームをマウスの皮膚に塗布するモデルは、初期の乾癬病態を研究するための、迅速かつ簡便で費用も効率的なモデルとして、現在、世界中で広く用いられている(J Immunol.2012;188(1):462-9.;J Immunol 2014;192(9):4361-9.;J Immunol.2015;194(11):5094-102.;Nat Commun.2016;7:11724.)。IL-26はマウスやラット等の齧歯類では欠損しているため、ヒトIL-26遺伝子を含むバクテリア人工染色体遺伝子導入(hIL-26Tg)マウスと、IL-26を発現しない対照遺伝子導入(ΔCNS-77 Tg)マウスを用いて、イミキモド誘導性乾癬モデルにおけるIL-26の役割と、本発明者らが樹立した新規抗ヒトIL-26モノクローナル抗体の治療効果を検討した。
図4Aに示すように、hIL-26TgマウスではΔCNS-77 Tgマウスと比較して、イミキモドクリームの塗布を開始して2日目から皮膚の紅斑、鱗屑、肥厚が見られ、3日目以降でいずれの症状も顕著に悪化することが示された。このhIL-26Tgマウスに、モノクローナル抗体69-10を単独で、または新規モノクローナル抗体4クローンを組み合わせで投与すると、対照マウスIgG投与群と比較して、乾癬様皮膚症状の進行が顕著に抑制された。PASIスコアによって背中の皮膚の炎症の重症度を評価した結果、hIL-26TgマウスはΔCNS-77 Tgマウスと比較して、皮膚の紅斑、鱗屑、肥厚のいずれも悪化が見られるが(図4B中、青色線・赤色線)、モノクローナル抗体抗体69-10を単独で投与した群、ならびに4クローンを組み合わせて投与した群では、IL-26を発現しないΔCNS-77 Tgマウスと同程度まで、皮膚症状の顕著な改善が認められた(図4B中、ピンク色線・オレンジ色線)。そこで次に、イミキモドクリームを塗布したΔCNS-77 TgマウスとhIL-26Tgマウス、さらにモノクローナル抗体69-10を単独で投与した群、ならびに4クローンを組み合わせて投与した群の背中の皮膚を採取して、病理学的解析を行った。図4Cに示すように、ΔCNS-77 Tgマウスと比較してhIL-26Tgマウスでは、顕著な炎症性細胞の浸潤と血管浸潤、表皮層の肥厚が観察され、モノクローナル抗体69-10の単独投与群、ならびに4クローン組み合わせ投与群は、ΔCNS-77 Tgマウスの皮膚と同等のレベルであった。炎症性細胞浸潤と血管増生をより詳細に検討するため、好中球マーカーのLy6gと内皮細胞マーカーのCD31とで皮膚組織の免疫蛍光染色を行った。図4D,4Eに示すように、ΔCNS-77 Tgマウスと比較してhIL-26Tgマウスでは、Ly6g陽性の好中球ならびにCD31陽性の血管の著明な増加が観察され、新規抗ヒトIL-26中和抗体投与群ではΔCNS-77 Tgマウスと同等のレベルまで抑制されていた。背中の皮膚を採取して、皮下の血管形成を観察した場合においても、同様の結果が認められた(図4F)。
これらの結果から、本発明者らが樹立した新規抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体は、in vivoでのイミキモド誘導性乾癬モデルにおいて血管新生および好中球浸潤を抑制し、乾癬様皮膚症状の進行を顕著に抑制することが示された。イミキモド誘導性乾癬モデルでは、クローン69-10単独でも新規モノクローナル抗体4クローンの組み合わせと同程度の優れた治療効果を示した。
【0048】
(5) 異種慢性GVHDモデルにおける新規モノクローナル抗体の治療効果
本発明者らは、重度の免疫不全マウスであるNOGマウスに亜致死量の放射線を照射した後、含まれるT細胞のほとんどが抗原感作されていないナイーブであるヒト臍帯血単核球を移植する異種慢性GVHDモデルを確立し、IL-26が線維芽細胞のコラーゲン産生を増強させ、肺の線維化に極めて重要であることを明らかにした(J Immunol.2015;194(8):3697-712.)。そこで同モデルを用いて、本発明者らが樹立した新規抗ヒトIL-26モノクローナル抗体69-10を、被毛の乱れや体重減少など軽度なGVHDの臨床徴候/症状が見られ始めた移植28日目から投与開始し、慢性GVHDに対する治療効果を検討した。
図5A図5Bに示すように、対照マウスIgG投与群では移植4週目から体重減少が始まり、5週から9週にかけて全てのマウスが死亡した(青色線)。一方で、IL-26中和抗体69-10投与群では、体重減少が明白に軽減し、生存日数の著明な延長が見られた(図5AB中、オレンジ色線)。レシピエント(マウス)体内のドナー(ヒト)リンパ球の生着を解析した結果、IL-26抗体投与群でも対照マウスIgG投与群と同程度の生着が認められた(図5C中、青色線・オレンジ色線)。また、生着したヒトCD4 T細胞とCD8 T細胞の比率に関しても、対照マウスIgG投与群とIL-26抗体投与群で大きな違いは見られなかった(データ未掲載)。このことから、IL-26抗体投与による著明な生存日数の延長や体重減少の軽減は、ドナーリンパ球の生着を阻害したことによるものではないことが示された。
次に、GVHD標的器官の組織病理学的評価を行った。図5Dに示すように、ヒト臍帯血造血幹細胞のみを移植したGVHD非発症群と比較して、臍帯血単核球移植後に対照マウスIgGを投与した群では、移植8週目には脱毛や皮膚萎縮、背骨の歪曲、運動量の低下などが外観で観察され、皮膚組織学では炎症性細胞浸潤、表皮層の肥厚、皮膚萎縮、脂肪減少および毛嚢脱落を示し、肺では上皮下線維組織の拡大と気管支周囲の炎症性細胞浸潤、細気管支の閉塞が認められ、肝臓では胆管を取り囲む組織において炎症性細胞による脈管周囲浸潤が観察された。急性GVHDの主な標的器官の一つである腸管(小腸および結腸)は、本モデルでは顕著な病変所見は見られなかった(データ未掲載)。一方で、IL-26モノクローナル抗体69-10を投与した群では、外観でも被毛の乱れが軽度に抑えられ、細気管支、脈管および胆管周囲の炎症性細胞浸潤も明白に減少しており、GVHD非発症群に近いレベルであることが示された(図5D)。
これらの結果から、本発明者らが樹立した新規抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体は、慢性GVHD発症初期の新規治療アプローチとしても有用であることが示唆された。
【0049】
(6) 新規モノクローナル抗体によるGVHD治療処置はレシピエントのGVT能力を損なわない
GVHDとGVT効果は高度に関連する免疫反応であるため(Clin Cancer Res.2009;15(14):4515-17.)、IL-26中和抗体によるGVHD治療処置がレシピエントのGVT効果に与える潜在的影響を解析した。前述の慢性GVHDモデルと同様に、NOGマウスに亜致死線量(200 cGy)の照射を実施し、翌日にヒト臍帯血単核球を移植した。ドナー(ヒト)リンパ球がレシピエント体内に十分に生着し、軽度なGVHDの臨床徴候/症状が見られ始めた移植+28日目に、レシピエントマウスと同じ遺伝的背景(H-2d)のマウスリンパ腫細胞にルシフェラーゼをトランスフェクトしたA20-luc細胞を尾静脈から播種し、その翌日+29日目から対照マウスIgG、またはIL-26抗体投与を行った。図6A図6Bに示すように、ヒト臍帯血単核球移植をせずにA20-luc細胞だけを播種した、ドナーT細胞によるGVT効果が得られないマウスは、腫瘍が非常に強い勢いで増殖し、腫瘍播種後3週間以内に全て死亡した。一方で、ヒト臍帯血単核球を移植して対照マウスIgGを投与したマウスは、A20-luc細胞だけを播種したマウスと比較して、腫瘍の増殖が顕著に抑制されていたが(図6A中、青色線)、日数の経過にともない体重減少や被毛の乱れなどのGVHD症状の進行が見られた(図6B)。これに対し、IL-26モノクローナル抗体69-10を投与したマウスでは、対照マウスIgG投与群と同程度のレベルで腫瘍の増殖が抑えられていると同時に、GVHD症状もほとんど見られなかった(図6A中、オレンジ色線・図6B)。
これまでの結果から、本発明者らが樹立した新規抗ヒトIL-26中和モノクローナル抗体は、慢性GVHDにおける肺の線維化やGVHD標的器官への炎症性細胞浸潤を顕著に抑制し、GVHD症状の進行の制御に有用であると同時に、移植の恩恵であるドナーリンパ球によるGVT効果も保持されていることが示された。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B