(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】強誘電性薄膜、強誘電性薄膜素子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20220422BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20220422BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20220422BHJP
G01L 1/16 20060101ALI20220422BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220422BHJP
C23C 14/58 20060101ALN20220422BHJP
【FI】
C23C14/08 F
H01L41/187
C30B29/16
G01L1/16 A
B41J2/14 613
C23C14/58 A
(21)【出願番号】P 2018163377
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】井上 ゆか梨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】舟窪 浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 荘雄
(72)【発明者】
【氏名】三村 和仙
(72)【発明者】
【氏名】志村 礼司郎
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031986(WO,A1)
【文献】特開2005-011931(JP,A)
【文献】特開平07-218736(JP,A)
【文献】特表2016-534575(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C30B 1/00-35/00
H01L 41/187
G01L 1/16
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含む強誘電性薄膜であって、
前記金属酸化物が、ハフニウムを含み、
前記金属酸化物が、蛍石型結晶構造を有する結晶相を含み、
前記結晶相が、斜方晶及び正方晶のうち一方又は両方であり、
一部の前記結晶相の(111)面が、前記強誘電性薄膜の表面の法線方向において配向しており、
別の一部の前記結晶相の(100)面が、前記強誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している、
強誘電性薄膜。
【請求項2】
前記強誘電性薄膜の厚みが、100nmよりも大きく3000nm以下である、
請求項1に記載の強誘電性薄膜。
【請求項3】
前記(111)面の回折X線のピーク面積が、A
(111)と表され、
前記(100)面の回折X線のピーク面積が、A
(100)と表され、
A
(100)/(A
(111)+A
(100))が、1%以上99%以下である、
請求項1又は2に記載の強誘電性薄膜。
【請求項4】
前記金属酸化物が、アルミニウム、ケイ素、ビスマス及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の強誘電性薄膜を備える、
強誘電性薄膜素子。
【請求項6】
単結晶基板と、
前記単結晶基板に重なる前記強誘電性薄膜と、
を備え、
一部の前記結晶相の(111)面が、前記単結晶基板の表面の法線方向において配向しており、
別の一部の前記結晶相の(100)面が、前記単結晶基板の表面の法線方向において配向している、
請求項5に記載の強誘電性薄膜素子。
【請求項7】
前記単結晶基板と、
前記単結晶基板に重なる第一電極層と、
前記第一電極層を介して前記単結晶基板に重なる前記強誘電性薄膜と、
前記強誘電性薄膜に重なる第二電極層と、
を備える、
請求項6に記載の強誘電性薄膜素子。
【請求項8】
少なくとも一つの中間層を更に備え、
前記中間層が、前記単結晶基板と前記第一電極層との間、前記第一電極層と前記強誘電性薄膜との間、又は前記強誘電性薄膜と前記第二電極層との間に配置されている、
請求項7に記載の強誘電性薄膜素子。
【請求項9】
圧電素子である、
請求項5~8のいずれか一項に記載の強誘電性薄膜素子。
【請求項10】
焦電素子である、
請求項5~8のいずれか一項に記載の強誘電性薄膜素子。
【請求項11】
請求項9に記載の強誘電性薄膜素子を備える、
圧電アクチュエータ。
【請求項12】
請求項9に記載の強誘電性薄膜素子を備える、
圧電センサ。
【請求項13】
請求項11に記載の圧電アクチュエータを備える、
ヘッドアセンブリ。
【請求項14】
請求項13に記載のヘッドアセンブリを備える、
ヘッドスタックアセンブリ。
【請求項15】
請求項14に記載のヘッドスタックアセンブリを備える、
ハードディスクドライブ。
【請求項16】
請求項11に記載の圧電アクチュエータを備える、
プリンタヘッド。
【請求項17】
請求項16に記載のプリンタヘッドを備える、
インクジェットプリンタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性薄膜、強誘電性薄膜素子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載の通り、HfO2は誘電体として広く知られている。また下記特許文献2に記載の通り、HfO2の固溶体を含む薄膜が強誘電性を有することも知られている。強誘電性とは、誘電体の外部に電界がない状態において電気双極子が誘電体内に整列しており、かつ電気双極子の方向が、誘電体に印加された電界に沿って可逆的に変化する物性である。強誘電性を有するHfO2は、斜方晶の結晶構造を有する、と考えられている。斜方晶は、三つの結晶軸(基本ベクトル)の長さが互いに異なる直方体状の単位胞(unit cell)を有している。HfO2の斜方晶は、常圧において不安定な相である。したがって、斜方晶相を含む強誘電性薄膜を形成することは容易ではなく、強誘電性薄膜が厚いほど、強誘電性薄膜中の斜方晶相が維持され難い。例えば、下記特許文献2に記載の通り、エピタキシャル成長によって強誘電性薄膜を単結晶基板の表面に形成する場合、斜方晶が安定的に維持される強誘電性薄膜の厚さは、最大で100nm程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008‐306036号公報
【文献】国際公開第2016/031986号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
斜方晶を含む強誘電性薄膜を圧電素子又は焦電素子に利用するためには、十分な機械的強度を有するメンブレン構造を作製する必要がある。つまり、強誘電性薄膜自体が十分な機械低強度を有する必要がある。強誘電性薄膜が十分な機械低強度を有するためには、強誘電性薄膜の厚さが100nm以上(好ましくは1μm以上)であることが望ましい。しかし、強誘電性薄膜が厚いほど、強誘電性薄膜に対する単結晶基板の拘束力が弱まり易い。例えば、強誘電性薄膜の厚みが100nmよりも大きい場合、強誘電性薄膜に対する単結晶基板の拘束力が弱いため、強誘電性薄膜中の斜方晶が、常圧で安定な単斜晶になり易い。つまり、強誘電性薄膜が厚いほど、強誘電性薄膜中の斜方晶相が維持され難い。その結果、強誘電性薄膜の強誘電性が損なわれ易い。また斜方晶を含む強誘電性薄膜が厚いほど、強誘電性薄膜が脆く、亀裂(crack)が強誘電性薄膜に形成され易い。
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、強誘電性に優れ、且つ亀裂が抑制された強誘電性薄膜、当該強誘電性薄膜を備える強誘電性薄膜素子、並びに当該強誘電性薄膜素子を用いた圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る強誘電性薄膜は、金属酸化物を含む強誘電性薄膜であって、金属酸化物が、ハフニウムを含み、金属酸化物が、蛍石型結晶構造を有する結晶相を含み、結晶相が、斜方晶及び正方晶のうち一方又は両方であり、一部の結晶相の(111)面が、強誘電性薄膜の表面の法線方向において配向しており、別の一部の結晶相の(100)面が、強誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している。
【0007】
強誘電性薄膜の厚みが、100nmよりも大きく3000nm以下であってよい。
【0008】
(111)面の回折X線のピーク面積が、A(111)と表されてよく、(100)面の回折X線のピーク面積が、A(100)と表されてよく、A(100)/(A(111)+A(100))が、1%以上99%以下であってよい。
【0009】
金属酸化物が、アルミニウム、ケイ素、ビスマス及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含んでよい。
【0010】
本発明の一側面に係る強誘電性薄膜素子は、上記の強誘電性薄膜を備える。
【0011】
本発明の一側面に係る強誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる強誘電性薄膜と、を備えてよく、一部の結晶相の(111)面が、単結晶基板の表面の法線方向において配向していてよく、別の一部の結晶相の(100)面が、単結晶基板の表面の法線方向において配向していてよい。
【0012】
上記の強誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一電極層と、第一電極層を介して単結晶基板に重なる強誘電性薄膜と、強誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えてよい。
【0013】
上記の強誘電性薄膜素子は、少なくとも一つの中間層を更に備えてよく、中間層が、単結晶基板と第一電極層との間、第一電極層と強誘電性薄膜との間、又は強誘電性薄膜と第二電極層との間に配置されていてよい。
【0014】
上記の強誘電性薄膜素子は、圧電素子であってよい。
【0015】
上記の強誘電性薄膜素子は、焦電素子であってよい。
【0016】
本発明の一側面に係る圧電アクチュエータは、上記の強誘電性薄膜素子(圧電素子)を備える。
【0017】
本発明の一側面に係る圧電センサは、上記の強誘電性薄膜素子(圧電素子)を備える。
【0018】
本発明の一側面に係るヘッドアセンブリは、上記の圧電アクチュエータを備える。
【0019】
本発明の一側面に係るヘッドスタックアセンブリは、上記のヘッドアセンブリを備える。
【0020】
本発明の一側面に係るハードディスクドライブは、上記のヘッドスタックアセンブリを備える。
【0021】
本発明の一側面に係るプリンタヘッドは、上記の圧電アクチュエータを備える。
【0022】
本発明の一側面に係るインクジェットプリンタ装置は、上記のプリンタヘッドを備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、強誘電性に優れ、且つ亀裂が抑制された強誘電性薄膜、当該強誘電性薄膜を備える強誘電性薄膜素子、並びに当該強誘電性薄膜素子を用いた圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る強誘電性薄膜素子(圧電素子)の模式的な断面図であり、
図1中の(b)は、
図1中の(a)に示される強誘電性薄膜素子の斜視分解図である。
【
図2】
図2中の(a)は、酸化ハフニウム(HfO
2)の斜方晶の単位胞の斜視図であり、
図2中の(b)は、酸化ハフニウムの正方晶の単位胞の斜視図である。
【
図3】
図3中の(a)は、蛍石型結晶構造を有する斜方晶の単位胞の模式的な斜視図であり、斜方晶の(111)面を示しており、
図3中の(b)は、蛍石型結晶構造を有する斜方晶の単位胞の模式的な斜視図であり、斜方晶の(100)面を示している。
【
図4】
図4中の(a)は、蛍石型結晶構造を有する正方晶の単位胞の模式的な斜視図であり、正方晶の(111)面を示しており、
図4中の(b)は、蛍石型結晶構造を有する正方晶の単位胞の模式的な斜視図であり、正方晶の(100)面を示している。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係るヘッドアセンブリの模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る圧電アクチュエータの模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係るジャイロセンサの模式図(平面図)である。
【
図8】
図8は、
図7に示されるジャイロセンサのA-A線に沿った矢視断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態に係る圧力センサの模式図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態に係る脈波センサの模式図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態に係るハードディスクドライブの模式図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタ装置の模式図である。
【
図13】
図13中の(a)は、本発明の一実施形態に係る焦電素子(赤外線検出器)の上面図であり、
図13中の(b)は、
図13中の(a)に示される焦電素子の90b‐90b線に沿った矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。図面において、同等の構成要素には同等の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
図1中の(a)及び
図1中の(b)に示されるX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。
【0026】
<強誘電性薄膜>
本実施形態に係る強誘電性薄膜は、金属酸化物を含む。強誘電性薄膜の一部又は全部が、金属酸化物であってよい。金属酸化物は、少なくともハフニウムを含む。例えば、金属酸化物の一部又は全部が、酸化ハフニウム(HfO2)であってよい。
【0027】
金属酸化物は、蛍石型結晶構造を有する結晶相を含む。例えば、酸化ハフニウムの結晶相は、蛍石型結晶構造を有する。蛍石型結晶構造を有する結晶相は、斜方晶(rhombic crystal)及び正方晶(tetragonal crystal)のうち一方又は両方である。斜方晶は、直方晶(orthorhombic crystal)と同義である。強誘電性薄膜の強誘電性は、斜方晶及び正方晶のうち一方又は両方に起因する。一方、単斜晶(monoclinic crystal)及び立方晶(cubic crystal)のいずれも、強誘電性を有していない。強誘電性薄膜の強誘電性が向上し易いことから、結晶相の全部が斜方晶であってよい。金属酸化物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、微量の単斜晶を更に含んでよい。金属酸化物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、微量の立方晶を更に含んでよい。
【0028】
例えば、酸化ハフニウムの斜方晶を構成する単位胞ucrは、
図2中の(a)、
図3中の(a)及び
図3中の(b)に示される。各図中の単位胞ucrは、蛍石型結晶構造を有する。
図3中の(a)及び
図3中の(b)では、説明の便宜のために、単位胞ucrを構成する基本ベクトルa、b及びcの長さの比率が誇張されている。斜方晶の単位胞ucrの基本ベクトルa、b及びcは互いに直交し、基本ベクトルa、b及びc其々の長さは互いに異なる。酸化ハフニウムの斜方晶の場合、基本ベクトルaの長さ(格子定数a)は約5.30Åであり、基本ベクトルbの長さ(格子定数b)は約5.11Åであり、基本ベクトルcの長さ(格子定数c)は約5.10Åである。
【0029】
例えば、酸化ハフニウムの正方晶を構成する単位胞uctは、
図2中の(b)、
図4中の(a)及び
図4中の(b)に示される。各図中の単位胞uctは、蛍石型結晶構造を有する。
図4中の(a)及び
図4中の(b)では、説明の便宜のために、単位胞uctを構成する基本ベクトルa、b及びcの長さの比率が誇張されている。正方晶の単位胞uctの基本ベクトルa、b及びcは互いに直交し、基本ベクトルaの長さは基本ベクトルbの長さと等しく、基本ベクトルaの長さは基本ベクトルcの長さと異なる。酸化ハフニウムの正方晶の場合、基本ベクトルaの長さ(格子定数a)は約5.14Åであり、基本ベクトルbの長さ(格子定数b)は約5.14Åであり、基本ベクトルcの長さ(格子定数c)は約5.25Åである。
【0030】
強誘電性薄膜3は、上述の結晶相として、結晶方位(面方位)の配向性において異なる二種類の結晶相を含む。
図1中の(b)に示される[111]及び[100]は、強誘電性薄膜3に含まれる結晶相の結晶方位である。一部の結晶相の[111]は、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと平行である。つまり、一部の結晶相の(111)面は、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している。一方、別の一部の結晶相の[100]は、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと平行である。つまり、別の一部の結晶相の(100)面は、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している。なお、強誘電性薄膜3の表面とは、強誘電性薄膜3の表面全体のうち、強誘電性薄膜3の端面を除く面である。例えば、強誘電性薄膜3の表面とは、強誘電性薄膜3の表面全体のうち、
図1の(b)中のXY面に平行な面である。強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnは、強誘電性薄膜3の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。強誘電性薄膜3の表面は、単結晶基板1の表面に面する面であってよい。
【0031】
図3中の(a)に示されるように、一部の斜方晶の[111]が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと平行であってよい。つまり、一部の斜方晶の(111)面が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。
図3中の(b)に示されるように、別の一部の斜方晶の[100]が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと平行であってよい。つまり、別の一部の斜方晶の(100)面が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。
【0032】
図4中の(a)に示されるように、一部の正方晶の[111]が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと平行であってよい。つまり、一部の正方晶の(111)面が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。
図4中の(b)に示されるように、別の一部の正方晶の[100]が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと平行であってよい。つまり、別の一部の正方晶の(100)面が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。
【0033】
上述のように、(111)面が配向する結晶相だけでなく、(100)面が配向する結晶相が強誘電性薄膜3中に存在することにより、結晶相に作用する応力が緩和される。その結果、強誘電性薄膜3中の斜方晶が常圧下において安定化される。特に、(111)面が配向する斜方晶だけでなく、(100)面が配向する斜方晶が強誘電性薄膜3中に存在することにより、斜方晶に作用する応力が緩和され易い。その結果、強誘電性薄膜3中の斜方晶が常圧下において安定化され易い。斜方晶の安定化により、強誘電性薄膜3が優れた強誘電性を有することができる。また強誘電性薄膜3中の斜方晶が安定化されることによって、強誘電性薄膜3が十分な機械低強度を有することができる。その結果、強誘電性薄膜3の厚みが100nmより大きい場合であっても、強誘電性薄膜3における亀裂が抑制される。強誘電性薄膜3の厚みが1μm以上である場合であっても、強誘電性薄膜3は十分な機械低強度を有することが可能であり、強誘電性薄膜3における亀裂を抑制することが可能である。
【0034】
(111)面が配向している結晶相(特に斜方晶)は常圧下で不安定であり、強誘電性を有しない単斜晶に戻り易い。したがって、仮に、全ての結晶相(特に斜方晶)の(111)面が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している場合、強誘電性薄膜3が十分な強誘電性を有することは困難である。仮に、全ての結晶相(特に斜方晶)の(100)面が、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している場合、応力が強誘電性薄膜3に作用し易く、強誘電性薄膜3が十分な機械低強度を有することは困難である。
【0035】
金属酸化物は、ハフニウム(Hf)に加えて、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ビスマス(Bi)及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加元素を更に含んでよい。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属酸化物が上記の添加元素のうち少なくとも一種を含むことにより、金属酸化物の斜方晶が安定化され易く、強誘電性薄膜3の強誘電性が向上し易い。金属酸化物の斜方晶が安定化され易く、強誘電性薄膜3の強誘電性が向上し易いことから、金属酸化物はイットリウムを含むことが好ましい。金属酸化物中の添加元素の含有量は、金属酸化物に含まれる金属元素及び添加元素の全量に対して、例えば、0モル%より大きく10モル%以下、好ましくは6モル%以上9モル%以下であってよい。
【0036】
強誘電性薄膜3の厚みは、100nmよりも大きく3000nm以下であってよい。上述の通り、強誘電性薄膜3中の斜方晶が安定化されることによって、強誘電性薄膜3が十分な機械低強度を有することができる。その結果、強誘電性薄膜3の厚みが100nmよりも大きい場合であっても、強誘電性薄膜3は優れた強誘電性を有し、且つ強誘電性薄膜3における亀裂が抑制される。強誘電性薄膜3の厚みが1000nm以上である場合であっても、強誘電性薄膜3は優れた強誘電性を有することが可能であり、強誘電性薄膜3における亀裂を抑制することが可能である。強誘電性薄膜3の厚みが3000nm以下である場合、結晶相に作用する応力が緩和され易く、強誘電性薄膜3中の斜方晶が安定化され易い。
【0037】
A(111)は、結晶相の(111)面に由来する回折X線のピーク面積であり、且つA(111)は、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向する(111)面に由来する回折X線のピーク面積である。A(100)は、結晶相の(100)面に由来する回折X線のピーク面積であり、且つA(100)は、強誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向する(100)面に由来する回折X線のピーク面積である。A(100)/(A(111)+A(100))は、1%以上99%以下であってよい。A(100)/(A(111)+A(100))が1%以上99%以下であることにより、結晶相に作用する応力が緩和され易く、強誘電性薄膜3中の斜方晶が安定化され易い。同様の理由から、好ましくは、A(100)/(A(111)+A(100))が5%以上95%以下であってよい。回折X線のピーク面積は、X線回折法(2θ/θ測定)によって測定されてよい。A(111)は、(111)面が配向する結晶相の体積V(111)に比例してよい。A(100)は、(100)面が配向する結晶相の体積V(100)に比例してよい。A(100)/(A(111)+A(100))は、V(100)/(V(111)+V(100))に等しくてよい。つまり、A(100)/(A(111)+A(100))の場合と同様の理由により、V(100)/(V(111)+V(100))は、1%以上99%以下であってよい。
【0038】
<強誘電性薄膜素子>
本実施形態に係る強誘電性薄膜素子は、上記の強誘電性薄膜を備える。
図1中の(a)及び
図1中の(b)に示されるように、強誘電性薄膜素子10は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる強誘電性薄膜3と、を備える。
図1中の(a)に示されるように、強誘電性薄膜素子10は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる第一電極層2と、第一電極層2を介して単結晶基板1に重なる強誘電性薄膜3と、強誘電性薄膜3に重なる第二電極層4と、を備えてよい。第一電極層2は下部電極層であってよい。第二電極層4は、上部電極層であってよい。強誘電性薄膜素子10の変形例は、第二電極層4を備えなくてよい。例えば、第二電極層を備えない強誘電性薄膜素子が、製品として、電子機器の製造業者に供給された後、電子機器の組立て・製造の過程において、第二電極層が強誘電性薄膜素子に付加されてよい。
【0039】
図1中の(b)に示されるように、強誘電性薄膜3中の一部の結晶相の(111)面は、単結晶基板1の表面の法線方向D
Nにおいて配向している。強誘電性薄膜3中の別の一部の結晶相の(100)面は、単結晶基板1の表面の法線方向D
Nにおいて配向している。単結晶基板1の表面とは、単結晶基板1の表面全体のうち、単結晶基板1の端面を除く面である。例えば、単結晶基板1の表面とは、単結晶基板1の表面全体のうち、
図1の(b)中のXY面に平行な面である。単結晶基板1の表面とは、強誘電性薄膜3の表面に面する面であってよい。単結晶基板1の表面の法線方向D
Nは、単結晶基板1の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。
【0040】
上述の結晶相の結晶方位の配向性を実現するためには、単結晶基板1と強誘電性薄膜3(蛍石型結晶構造の結晶相)との間の格子不整合が小さいほど好ましい。単結晶基板1と強誘電性薄膜3との間の格子不整合は、例えば、0%以上10%以下、0%以上5%以下、0%以上4%以下、又は0%以上3%以下であってよい。
【0041】
単結晶基板1の結晶構造は、例えば、蛍石型構造、ビクスバイト構造、パイロクロア構造、ダイヤモンド構造、閃亜鉛型構造、面心立方構造、六方晶構造、ペロブスカイト構造、NaCl構造、ルチル構造、スピネル構造及びコランダム構造からなる群より選ばれる一種であってよい。
【0042】
蛍石型構造を有する単結晶基板1は、例えば、イットリア安定化ジルコニア、セリウム酸化物、又はフッ化カルシウムであってよい。
【0043】
ビクスバイト構造を有する単結晶基板1は、インジウム酸化物、インジウム錫酸化物、スカンジウム酸化物、イットリウム酸化物、エルビウム酸化物、ツリウム酸化物、イッテルビウム酸化物、又はルテチウム酸化物であってよい。
【0044】
パイロクロア構造を有する単結晶基板1は、ビスマスルテニウム酸化物(Bi2Ru2O7)、希土類ルテニウム酸化物(R2Ru2O7、Rは希土類元素である。)、ビスマスイリジウム酸化物(Bi2Ir2O7)、又は希土類イリジウム酸化物(R2Ir2O7、Rは希土類元素である。)であってよい。
【0045】
ダイヤモンド構造を有する単結晶基板1は、シリコン、又はゲルマニウム等の半導体であってよい。単結晶基板1がシリコン又はゲルマニウムである場合、第一電極層2の密着性を向上させるために、単結晶基板1の表面にチタン又はクロム等からなる密着層を形成してもよい。
【0046】
閃亜鉛型構造を有する単結晶基板1は、ガリウムヒ素、アルミニウムヒ素、ガリウムリン、アルミニウムリン、ベータ硫化亜鉛、又はセレン化亜鉛等の化合物半導体であってよい。
【0047】
面心立方構造を有する単結晶基板1は、白金、イリジウム、又は金であってよい。
【0048】
六方晶構造を有する単結晶基板1は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、酸化亜鉛、又は窒化ホウ素であってよい。
【0049】
ペロブスカイト構造を有する単結晶基板1は、ストロンチウムルテニウム酸化物(SrRuO7)、カルシウムルテニウム酸化物(CaRuO3)、ストロンチウムイリジウム酸化物(SrIrO3)、ランタンニッケル酸化物(LaNiO3)、ランタンアルカリ土類マンガン酸化物(La1-xAexMnO3)、又はランタンアルカリ土類コバルト酸化物(La1-xAexCoO3)であってよい。La1-xAexCoO3中のAeは、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0050】
NaCl構造を有する単結晶基板1は、酸化マグネシウム又は窒化チタンであってよい。
【0051】
ルチル構造を有する単結晶基板1は、酸化チタン、酸化イリジウム、又は酸化ルテニウムであってよい。
【0052】
スピネル構造を有する単結晶基板1は、マグネシウムアルミニウムスピネル酸化物(Mg2AlO4)又は四酸化三鉄であってよい。
【0053】
コランダム構造を有する単結晶基板1は、酸化アルミニウム、又は三酸化二鉄であってよい。
【0054】
単結晶基板1の厚みは、例えば、10μm以上1000μm以下であってよい。単結晶基板1が導電性を有する場合、単結晶基板1が電極として機能するので、第一電極層2はなくてもよい。つまり、単結晶基板1が導電性を有する場合、強誘電性薄膜3が単結晶基板1に直接重なっていてもよい。
【0055】
単結晶基板1の結晶方位(面方位)は、単結晶基板1の表面の法線方向DNと等しくてよい。つまり、単結晶基板1のいずれかの結晶面が、単結晶基板1の表面と平行であってよい。単結晶基板1は一軸配向基板であってよい。例えば、[111]、[100]、[001]、[110]及び[101]からなる群より選ばれる単結晶基板1の結晶方位の一つが、単結晶基板1の表面の法線方向DNと等しくてよい。
【0056】
第一電極層2は、例えば、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Au(金)、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、及びNi(ニッケル)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第一電極層2は、単結晶基板1の具体例として列挙された上記の組成物のうち、導電性を有する組成物から構成されてよい。第一電極層2は、結晶質であってよい。第一電極層2の結晶構造の結晶方位(面方位)が、単結晶基板1の法線方向DNと等しくてよい。単結晶基板1の結晶方位と、第一電極層2の結晶方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向DNと等しくてよい。法線方向DNにおいて配向する第一電極層2の結晶方位が、法線方向DNにおいて配向する単結晶基板1の面方位と同じであってよい。第一電極層2の厚さは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。例えば、[111]、[100]、[001]、[110]及び[101]からなる群より選ばれる第一電極層2の結晶方位の一つが、単結晶基板1の表面の法線方向DNと等しくてよい。
【0057】
第一電極層2の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。第一電極層2の結晶性を高めるために、第一電極層2のアニーリング(annealing)を行ってもよい。
【0058】
第二電極層4は、例えば、例えば、Pt、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta、及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第二電極層4は、単結晶基板1の具体例として列挙された上記の組成物のうち、導電性を有する組成物から構成されてよい。第二電極層4は、結晶質であってよい。
第二電極層4の結晶構造の結晶方位(面方位)が、単結晶基板1の法線方向DNと等しくてよい。単結晶基板1の結晶方位と、第二電極層4の結晶方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向DNと等しくてよい。法線方向DNにおいて配向する第二電極層4の結晶方位が、法線方向DNにおいて配向する単結晶基板1の面方位と同じであってよい。第二電極層4の厚さは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。
【0059】
第二電極層4の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。第二電極層4の結晶性を高めるために、第二電極層4のアニーリングを行ってもよい。
【0060】
強誘電性薄膜素子10は、少なくとも一つの中間層を更に備えてよい。以下に説明されるように、中間層は、単結晶基板1と第一電極層2との間、第一電極層2と強誘電性薄膜3との間、又は強誘電性薄膜3と第二電極層4との間に配置されていてよい。中間層は、単結晶基板1の具体例として列挙された上記の組成物のうち少なくとも一種から構成されていてよい。中間層の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。中間層の結晶性を高めるために、中間層のアニーリングを行ってもよい。
【0061】
単結晶基板1と第一電極層2との間に中間層(基板側中間層)が介在していてよい。つまり、基板側中間層が単結晶基板1の表面に直接重なっていてよい。基板側中間層は、結晶質であってよい。基板側中間層の結晶構造の面方位のいずれか一つが、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。単結晶基板1の面方位と、基板側中間層の結晶構造の面方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。法線方向DNにおいて配向する基板側中間層の面方位が、法線方向DNにおいて配向する単結晶基板1の面方位と同じであってよい。
【0062】
第一電極層2と強誘電性薄膜3との間に第一中間層が介在していてもよい。第一中間層は、結晶質であってよい。第一中間層の結晶構造の面方位のいずれか一つが、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。単結晶基板1の面方位と、第一中間層の結晶構造の面方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。法線方向DNにおいて配向する第一中間層の面方位が、法線方向DNにおいて配向する単結晶基板1の面方位と同じであってよい。
【0063】
強誘電性薄膜3と第二電極層4との間に第二中間層が介在していてもよい。第二中間層を構成する物質は、第一中間層を構成する物質と同じであってよい。第二中間層は、結晶質であってよい。第二中間層の結晶構造の面方位のいずれか一つが、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。単結晶基板1の面方位と、第二中間層の結晶構造の面方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。法線方向DNにおいて配向する第二中間層の面方位が、法線方向DNにおいて配向する単結晶基板1の面方位と同じであってよい。
【0064】
強誘電性薄膜素子10の表面の少なくとも一部又は全体が、保護膜によって被覆されていてよい。保護膜による被覆により、例えば強誘電性薄膜素子10の耐湿性が向上する。
【0065】
<強誘電性薄膜の製造方法>
強誘電性薄膜3は、例えば、以下の方法により製造されてよい。
【0066】
強誘電性薄膜3の形成には、ハフニウムを含む金属酸化物からなる原料が用いられてよい。原料は、上述されたイットリウム等の添加元素を含んでいてよい。原料中の添加元素の含有量は、原料に含まれる金属元素及び添加元素の全量に対して、例えば、0モル%より大きく10モル%以下、好ましくは6モル%以上9モル%以下であってよい。
【0067】
気相成長法によって、上記の原料を構成する元素を蒸発させる。蒸発した元素を、第一電極層2の表面又は単結晶基板1の表面に付着及び堆積させる。その結果、前駆体膜が成長する。気相成長法は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition)法、又はパルスレーザー堆積(Pulsed-laser deposition)法であればよい。気相成長法の種類に依って、励起源が異なる。スパッタリング法の励起源は、例えば、Arプラズマである。電子ビーム蒸着法の励起源は、電子ビームである。パルスレーザー堆積法(PLD法)の励起源は、レーザー光(例えば、エキシマレーザー)である。これらの励起源が原料に照射されると、原料を構成する元素が蒸発する。気相成長法の雰囲気は、真空又は不活性ガスであってよい。不活性ガスは、例えば、窒素ガス又は希ガスであってよい。気相成長法の雰囲気の気圧は、例えば、1Torr以下、好ましくは10mTorrであってよい。
【0068】
気相成長法における第一電極層2の表面又は単結晶基板1の表面の温度は、室温であってよい。換言すれば、気相成長法において、第一電極層2又は単結晶基板1は加熱されなくてよい。室温において原料から前駆体膜を形成することにより、結晶相の(111)面及び(100)面の配向性を有する強誘電性薄膜3が得られ易い。ただし、前駆体膜が含有する結晶相の殆どは単斜晶であるため、前駆体膜自体は強誘電性を有していない。前駆体膜は、(111)面が単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向する正方晶の種結晶を含んでよい。前駆体膜は、(100)面が単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向する正方晶の種結晶を含んでよい。前駆体膜は、(111)面が単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向する斜方晶の種結晶を含んでよい。前駆体膜は、(100)面が単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向する斜方晶の種結晶を含んでよい。
【0069】
室温での前駆体膜の形成後、前駆体膜はアニールされてよい。アニーリングによって、前駆体膜中の単斜晶の一部又は全部が、斜方晶及び正方晶のうち一方又は両方に変化する。その結果、前駆体膜の強誘電性が発現する。アニーリングの過程で成長する殆どの結晶相(特に斜方晶)の(111)面が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向している。(111)面が配向している結晶相(特に斜方晶)は常圧下で不安定であり、単斜晶に戻り易い。またアニーリングの過程では、(100)面が単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向している結晶相(特に斜方晶)は、前駆体膜中に形成され難い。しかし、後述される前駆体膜の冷却によって、(111)面が配向している結晶相(特に斜方晶)の一部が、(100)面が配向している結晶相(特に斜方晶)に変化する。つまり、アニーリングに続く冷却によって、(111)面が配向する結晶相(特に斜方晶)だけでなく、(100)面が配向する結晶相(特に斜方晶)を含む強誘電性薄膜3が形成される。その結果、強誘電性薄膜3中の結晶相(特に斜方晶)が常圧下において安定化される。
【0070】
アニーリング中の前駆体膜の温度は、例えば、500℃以上1200℃以下、500℃以上1000℃以下、又は800℃以上1000℃以下であってよい。前駆体膜の温度が上記の範囲内であることにより、前駆体膜中の単斜晶の一部又は全部が、斜方晶及び正方晶のうち一方又は両方に変化し易い。アニーリングの継続時間は、例えば、5秒以上1200秒以下であってよい。前駆体膜は、不活性ガス又は酸化性ガス中でアニールされてよい。不活性ガスは、例えば、窒素ガス又は希ガスであってよい。酸化性ガスは、大気又は酸素であってよい。
【0071】
アニーリングに連続して、前駆体膜が所定の冷却速度で冷却されてよい。アニーリングに連続する前駆体膜の冷却より、強誘電性薄膜3が完成される。アニーリングに連続する前駆体膜の冷却の過程では、(111)面が配向している結晶相(特に斜方晶)の一部が、(100)面が配向している結晶相(特に斜方晶)に変化する。つまり冷却の過程において、(111)面が配向する結晶相(特に斜方晶)だけでなく、(100)面が配向する結晶相(特に斜方晶)を含む強誘電性薄膜3が形成される。その結果、強誘電性薄膜3中の斜方晶が常圧下において安定化される。冷却速度は、例えば、45℃/分以上200℃/分以下であってよい。冷却速度が上記の範囲内であることにより、(111)面が配向している結晶相(特に斜方晶)の一部が、(100)面が配向している結晶相(特に斜方晶)に変化し易い。冷却速度が小さ過ぎる場合、(111)面が配向している結晶相(特に斜方晶)が、単斜晶に変化し易い。冷却速度が大き過ぎる場合、前駆体膜の急激な収縮に起因する応力が前駆体膜に作用し易く、冷却後に得られる強誘電性薄膜3に亀裂が形成され易い。前駆体膜は、不活性ガス又は酸化性ガス中で冷却されてよい。不活性ガスは、例えば、窒素ガス又は希ガスであってよい。酸化性ガスは、大気又は酸素であってよい。
【0072】
強誘電性薄膜の製造過程における結晶相の生成、相転移、及び結晶方位の変化のメカニズムは、上記のメカニズムに限定されない。
【0073】
<圧電素子>
本実施形態に係る強誘電性薄膜3は、圧電薄膜であってよく、本実施形態に係る強誘電性薄膜素子10は、圧電素子であってよい。圧電素子の用途は、多岐にわたる。圧電素子は、例えば、圧電アクチュエータに用いられてよい。圧電アクチュエータは、例えば、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてもよい。圧電アクチュエータは、例えば、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。圧電素子は、例えば、圧電センサに用いられてもよい。圧電センサは、例えば、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、又はショックセンサであってよい。圧電薄膜又は圧電素子は、例えば、マイクロフォンへ適用されてもよい。
【0074】
以下では、強誘電性薄及び強誘電性薄膜素子の用途が、具体的に説明される。以下に記載の圧電薄膜は、強誘電性薄膜を意味する。以下に記載の圧電素子は、強誘電性薄膜素子を意味する。
【0075】
(圧電アクチュエータ)
図5は、ハードディスクドライブ(HDD)に搭載されるヘッドアセンブリ200を示す。ヘッドアセンブリ200は、ベースプレート9、ロードビーム11、フレクシャ17、第1及び第2の圧電素子100、及びヘッドスライダ19を備えている。第1及び第2の圧電素子100は、ヘッドスライダ19用の駆動素子である。ヘッドスライダ19は、ヘッド素子19aを有する。
【0076】
ロードビーム11は、ベースプレート9に固着された基端部11bと、この基端部11bから延在する第1の板バネ部11c及び第2の板バネ部11dと、板バネ部11c及び11dの間に形成された開口部11eと、板バネ部11c及び11dに連続して直線的に延在するビーム主部11fと、を備えている。第1の板バネ部11c及び第2の板バネ部11dは、先細りになっている。ビーム主部11fも、先細りになっている。
【0077】
第1及び第2の圧電素子100は、所定の間隔をもって、フレクシャ17の一部である配線用フレキシブル基板15上に配置されている。ヘッドスライダ19は、フレクシャ17の先端部に固定されており、第1及び第2の圧電素子100の伸縮に伴って回転運動する。
【0078】
図6は、プリンタヘッド用の圧電アクチュエータ300を示す。圧電アクチュエータ300は、基体20と、基体20に重なる絶縁膜23と、絶縁膜23に重なる単結晶基板24と、単結晶基板24に重なる圧電薄膜25と、圧電薄膜25に重なる上部電極層26(第二電極層)と、を備える。単結晶基板24は導電性を有し、下部電極層としての機能も有する。下部電極層とは、上記の第一電極層と言い換えてよい。上部電極層とは、上記の第二電極層と言い換えてよい。
【0079】
所定の吐出信号が供給されず、単結晶基板24(下部電極層)と上部電極層26との間に電界が印加されていない場合、圧電薄膜25は変形しない。吐出信号が供給されていない圧電薄膜25に隣り合う圧力室21内では、圧力変化が生じず、そのノズル27からインク滴は吐出されない。
【0080】
一方、所定の吐出信号が供給され、単結晶基板24(下部電極層)と上部電極層26との間に一定電界が印加された場合、圧電薄膜25が変形する。圧電薄膜25の変形によって絶縁膜23が大きくたわむので、圧力室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル27からインク滴が吐出される。
【0081】
(圧電センサ)
図7及び
図8は、圧電センサの一種であるジャイロセンサ400を示す。ジャイロセンサ400は、基部110と、基部110の一面に接続される一対のアーム120及び130と、を備える。一対のアーム120及び130は、音叉振動子である。つまり、ジャイロセンサ400は、音叉振動子型の角速度検出素子である。このジャイロセンサ400は、上述の圧電素子を構成する圧電薄膜30、上部電極層31、及び単結晶基板32を、音叉型振動子の形状に加工して得られたものである。基部110とアーム120及び130は、圧電素子と一体化されている。単結晶基板32は、導電性を有し、下部電極層としての機能も有する。
【0082】
一方のアーム120の第一の主面には、駆動電極層31a及び31bと、検出電極層31dとが、形成されている。同様に、他方のアーム130の第一の主面には、駆動電極層31a及び31bと、検出電極層31cとが形成されている。各電極層31a、31b、31c、31dは、上部電極層31をエッチングにより所定の電極の形状に加工することにより得られる。
【0083】
単結晶基板32(下部電極層)は、基部110、並びにアーム120及び130のそれぞれの第二の主面(第一の主面の裏面)の全体に形成されている。単結晶基板32(下部電極層)は、ジャイロセンサ400のグランド電極として機能する。
【0084】
アーム120及び130其々の長手方向をZ方向と規定し、アーム120及び130の主面を含む平面をXZ平面と規定することにより、XYZ直交座標系が定義される。
【0085】
駆動電極層31a、31bに駆動信号を供給すると、二つのアーム120、130は、面内振動モードで励振する。面内振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に平行な向きに二つのアーム120、130が励振するモードである。例えば、一方のアーム120が-X方向に速度V1で励振しているとき、他方のアーム130は+X方向に速度V2で励振する。
【0086】
この状態で、ジャイロセンサ400にZ軸を回転軸とする角速度ωの回転が加わると、アーム120、130のそれぞれに対して、速度方向に直交する向きにコリオリ力が作用する。その結果、アーム120、130が、面外振動モードで励振し始める。面外振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に直交する向きに二つのアーム120、130が励振するモードである。例えば、一方のアーム120に作用するコリオリ力F1が-Y方向であるとき、他方のアーム130に作用するコリオリ力F2は+Y方向である。
【0087】
コリオリ力F1、F2の大きさは、角速度ωに比例するため、コリオリ力F1、F2によるアーム120、130の機械的な歪みを圧電薄膜30によって電気信号(検出信号)に変換し、これを検出電極層31c、31dから取り出すことにより、角速度ωが求められる。
【0088】
図9は、圧電センサの一種である圧力センサ500を示す。圧力センサ500は、圧電素子40と、圧電素子40を支える支持体44と、電流増幅器46と、電圧測定器47とから構成されている。圧電素子40は、共通電極層41と、共通電極層41に重なる圧電薄膜42と、圧電薄膜42に重なる個別電極層43とからなる。共通電極層41は、導電性の単結晶基板である。共通電極層41と支持体44とに囲まれた空洞45は、圧力に対応する。圧力センサ500に外力がかかると圧電素子40がたわみ、電圧測定器47で電圧が検出される。
【0089】
図10は、圧電センサの一種である脈波センサ600を示す。脈波センサ600は、圧電素子50と、圧電素子50を支える支持体54と、電圧測定器55とから構成されている。圧電素子50は、共通電極層51と、共通電極層51に重なる圧電薄膜52と、圧電薄膜52に重なる個別電極層53とからなる。共通電極層51は、導電性の単結晶基板である。脈波センサ600の支持体54の裏面(圧電素子50が搭載されていない面)を生体の動脈上に当接させると、生体の脈による圧力で支持体54と圧電素子50がたわみ、電圧測定器55で電圧が検出される。
【0090】
(ハードディスクドライブ)
図11は、
図5に示すヘッドアセンブリが搭載されたハードディスクドライブ700を示す。
図11のヘッドアセンブリ65は、
図5のヘッドアセンブリ200と同じである。
【0091】
ハードディスクドライブ700は、筐体60と、筐体60内に設置されたハードディスク61(記録媒体)と、ヘッドスタックアセンブリ62と、を備えている。ハードディスク61は、モータによって回転させられる。ヘッドスタックアセンブリ62は、ハードディスク61へ磁気情報を記録したり、ハードディスク61に記録された磁気情報を再生したりする。
【0092】
ヘッドスタックアセンブリ62は、ボイスコイルモータ63と、支軸に支持されたアクチュエータアーム64と、アクチュエータアーム64に接続されたヘッドアセンブリ65と、を有する。アクチュエータアーム64は、ボイスコイルモータ63により、支軸周りに回転自在である。アクチュエータアーム64は、複数のアームに分かれており、各アームそれぞれにヘッドアセンブリ65が接続されている。つまり、複数のアーム及びヘッドアセンブリ65が支軸に沿って積層されている。ヘッドアセンブリ65の先端部には、ハードディスク61に対向するようにヘッドスライダ19が取り付けられている。
【0093】
ヘッドアセンブリ65(200)は、ヘッド素子19aを2段階で変動させる。ヘッド素子19aの比較的大きな移動は、ボイスコイルモータ63によるヘッドアセンブリ65及びアクチュエータアーム64の全体の駆動によって、制御される。ヘッド素子19aの微小な移動は、ヘッドアセンブリ65の先端部に位置するヘッドスライダ19の駆動により制御する。
【0094】
(インクジェットプリンタ装置)
図12は、インクジェットプリンタ装置800を示す。インクジェットプリンタ装置800は、プリンタヘッド70と、本体71と、トレイ72と、ヘッド駆動機構73と、を備えている。
図12のプリンタヘッド70は、
図6の圧電アクチュエータ300を有している。
【0095】
インクジェットプリンタ装置800は、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの計4色のインクカートリッジを備えている。インクジェットプリンタ装置800によるフルカラー印刷が可能である。インクジェットプリンタ装置800の内部には、専用のコントローラボード等が搭載されている。コントローラボード等は、プリンタヘッド70によるインクの吐出のタイミング、及びヘッド駆動機構73の走査を制御する。本体71の背面にはトレイ72が設けられ、トレイ72の一端側にはオートシートフィーダ(自動連続給紙機構)76が設けられている。オートシートフィーダ76が、記録用紙75を自動的に送り出し、正面の排出口74から記録用紙75を排紙する。
【0096】
<焦電素子>
本実施形態に係る強誘電性薄膜3は、焦電薄膜であってよく、本実施形態に係る強誘電性薄膜素子10は、焦電素子であってよい。例えば、焦電素子は、
図13中の(a)及び
図13中の(b)に示される赤外線検出器97であってよい。
図13中の(a)では、第二絶縁性層99が省略されている。
【0097】
赤外線検出器97は、基板91と、基板91に重なる第一絶縁性層93と、第一絶縁性層93の表面の中央に配置された焦電薄膜95(強誘電性薄膜)と、焦電薄膜95の両端に接続された第一電極94a及び第二電極94bと、第一絶縁性層93、焦電薄膜95、第一電極94a及び第二電極94bを覆う第二絶縁性層99と、第一絶縁性層93を介して焦電薄膜95の裏側に配置された赤外線反射板92と、を備える。第一絶縁性層93及び第二絶縁性層99が直接重なる部分において、開口部96が形成されている。開口部96は、第一絶縁性層93及び第二絶縁性層99を貫通している。焦電薄膜95は、開口部96で囲まれている。基板91の中央には、断熱のための凹部98(空洞)が形成されている。凹部98は開口部96と連通している。赤外線反射板92は、凹部98内に露出している。焦電薄膜95及び赤外線反射板92は、第一絶縁性層93を介して重なり合っている。焦電薄膜95及び赤外線反射板92は、凹部98を覆うように配置されている。
【0098】
第一絶縁性層93及び第二絶縁性層99は、赤外線を吸収することにより加熱される。したがって、赤外線が第一絶縁性層93及び第二絶縁性層99へ照射されることにより、第一絶縁性層93及び第二絶縁性層99は加熱される。第一絶縁性層93及び第二絶縁性層99の加熱に伴い、第一絶縁性層93及び第二絶縁性層99に挟まれた焦電薄膜95も加熱される。つまり焦電薄膜95の温度が変化する。焦電薄膜95の温度の変化によって、焦電薄膜95の分極(表面電荷)が変化する。焦電薄膜95の分極の変化によって、焦電薄膜95の電気抵抗が変化する。したがって、焦電薄膜95の電気抵抗の測定によって、赤外線を検出することができる。つまり、第一電極94a及び第二電極94bの間の電気抵抗の測定によって、赤外線を検出することができる。
【0099】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【0100】
例えば、本実施形態に係る強誘電性薄膜は、微小電気機械システム(Micro Electro MechanicalSystems;MEMS)の一部に応用されてよい。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
シリコンの単結晶基板を準備した。単結晶基板の表面は、(100)面であった。単結晶基板の寸法は、縦5mm×横5mmであった。単結晶基板の厚さは、725μmであった。
【0103】
中間層を単結晶基板の表面全体に形成した。中間層はチタンを含んでいた。第一電極層を中間層の表面全体に形成した。第一電極層は白金からなっていた。中間層及び第一電極層は、真空チャンバー内におけるスパッタリングにより形成した。第一電極層は結晶質であった。第一電極層(白金)の(111)面は、単結晶基板の表面に平行であった。第一電極層の厚みは、300nmに調整した。
【0104】
誘電性薄膜の原料としては、イットリウムがドープされた酸化ハフニウムからなるターゲットを用いた。ターゲット中のイットリウムの含有量は、ターゲットに含まれるハフニウム及びイットリウムの全量に対して、7モル%であった。
【0105】
上記ターゲットのスパッタリングを30分間継続することによって、前駆体膜を第一電極層の表面に形成した。前駆体膜の厚みは、130nmに調整された。スパッタリングの励起源は、Arプラズマであった。スパッタリングの出力は、50Wであった。スパッタリングの雰囲気の気圧は、10mTorrであった。スパッタリングにおける第一電極層及び単結晶基板の温度は、室温であった。つまり、スパッタリングにおいて、第一電極層及び単結晶基板は加熱されなかった。
【0106】
前駆体膜の形成後、前駆体膜を窒素ガス中で10秒間アニールした。アニーリング中の前駆体膜の温度(アニール温度)は、800℃であった。アニーリングに連続して、前駆体膜を窒素ガス中で15分間冷却した。冷却により、前駆体膜の温度は800℃から25℃へ低下した。つまり、冷却速度は、51.3℃/分に調整された。
【0107】
以上の方法によって、実施例1の誘電性薄膜を作製した。誘電性薄膜の厚みは、130nmであった。
【0108】
[誘電性薄膜の分析]
誘電性薄膜の組成を、蛍光X線分析法(XRF法)により分析した。分析には、Phillips社製の装置PW2404を用いた。分析の結果、実施例1の誘電性薄膜の組成は、原料の組成と同じであった。つまり誘電性薄膜は、イットリウムがドープされた酸化ハフニウムからなっていた。誘電性薄膜におけるイットリウムの含有量は、ターゲット中のイットリウムの含有量と同じであった。
【0109】
2θ‐θ測定により、誘電性薄膜のX線回折(XRD)パターンを測定した。測定には、フィリップス社製のX線回折装置(X’Pert MRD)を用いた。測定の結果、以下の事項が確認された。
【0110】
誘電性薄膜は、蛍石型結晶構造を有するHfO2の結晶相を含んでいた。結晶相は、斜方晶及び正方晶のうち少なくともいずれかを含んでいた。一部の結晶相の(111)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。別の一部の結晶相の(100)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。(111)面の回折X線のピーク面積A(111)を算出した。(100)面の回折X線のピーク面積A(100)を算出した。実施例1のA(100)/(A(111)+A(100))は、下記表1に示される。実施例1のA(111)/(A(111)+A(100))は、下記表1に示される。表1では、A(100)/(A(111)+A(100))は、「Ratiо(100)」と表記される。表1では、A(111)/(A(111)+A(100))は、「Ratiо(111)」と表記される。
【0111】
実施例1の誘電性薄膜の分極のヒステリシスを測定した。分極の単位は、[μC/cm2]である。測定には、原子間顕微鏡(AFM)と強誘電体評価システムとを組み合わせた装置を用いた。原子間顕微鏡は、セイコーインスツル株式会社製のSPA-400であり、強誘電体評価システムは、株式会社東陽テクニカ製のFCEであった。ヒステリシスの測定における交流電圧の周波数は10kHzであった。測定において誘電性薄膜に印加される電圧の最大値は300Vであった。
【0112】
ヒステリシスの測定の結果、誘電性薄膜は優れた強誘電性を有することが確認された。優れた強誘電性はHfO2の斜方晶に由来する。したがって、実施例1の誘電性薄膜は、結晶相として斜方晶を含むことが確認された。
【0113】
誘電性薄膜を目視で観察した。また誘電性薄膜を顕微鏡で観察した。観察の結果、誘電性薄膜には亀裂が形成されていないことが確認された。
【0114】
(実施例2)
実施例2の場合、上記ターゲットのスパッタリングを186分間継続することによって、前駆体膜の厚みを1000nmに調整した。最終的に得られた誘電性薄膜の厚みも1000nmであった。各膜の厚みを除いて実施例1と同様の方法で、実施例2の誘電性薄膜を作製した。
【0115】
実施例1と同様の方法で、実施例2の誘電性薄膜を分析した。実施例2の誘電性薄膜は、イットリウムがドープされた酸化ハフニウムからなっていた。誘電性薄膜におけるイットリウムの含有量は、ターゲット中のイットリウムの含有量と同じであった。
【0116】
実施例2の誘電性薄膜は、蛍石型結晶構造を有するHfO2の結晶相を含んでいた。結晶相は、斜方晶及び正方晶のうち少なくともいずれかを含んでいた。一部の結晶相の(111)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。別の一部の結晶相の(100)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。(111)面の回折X線のピーク面積A(111)を算出した。(100)面の回折X線のピーク面積A(100)を算出した。実施例2のA(100)/(A(111)+A(100))は、下記表1に示される。実施例2のA(111)/(A(111)+A(100))は、下記表1に示される。
【0117】
ヒステリシスの測定の結果、実施例2の誘電性薄膜は優れた強誘電性を有していることが確認された。優れた強誘電性はHfO2の斜方晶に由来する。したがって、実施例2の誘電性薄膜は、結晶相として斜方晶を含むことが確認された。
【0118】
実施例2の誘電性薄膜には亀裂が形成されていないことが確認された。
【0119】
(比較例1)
比較例1の場合、前駆体膜のアニーリングに連続して、前駆体膜を窒素ガス中で70分間冷却した。冷却により、前駆体膜の温度は800℃から25℃へ低下した。つまり、比較例1の冷却速度は、11.1℃/分に調整された。
【0120】
前駆体膜の冷却速度を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の誘電性薄膜を作製した。
【0121】
実施例1と同様の方法で、比較例1の誘電性薄膜を分析した。比較例1の誘電性薄膜は、イットリウムがドープされた酸化ハフニウムからなっていた。誘電性薄膜におけるイットリウムの含有量は、ターゲット中のイットリウムの含有量と同じであった。
【0122】
XRDパターンの測定の結果、比較例1の誘電性薄膜は、蛍石型結晶構造を有するHfO2の単斜晶を含むことが確認された。しかし比較例1のXRDパターンは、斜方晶又は正方晶に由来するピークを有していなかった。
【0123】
ヒステリシスの測定の結果、比較例1の誘電性薄膜は強誘電性を有していないことが確認された。強誘電性はHfO2の斜方晶又は正方晶に由来する。したがって、比較例1の誘電性薄膜は、結晶相として斜方晶及び正方晶を含まないことが確認された。
【0124】
比較例1の誘電性薄膜には亀裂が形成されていないことが確認された。
【0125】
(比較例2)
比較例2の場合、シリコンの単結晶基板の代わりに、イットリウム安定化ジルコニア(Yttria‐Stabilized Zirconia)の単結晶基板が用いられた。単結晶基板の表面は、(001)面であった。単結晶基板の寸法は、縦5mm×横5mmであった。単結晶基板の厚さは、500μmであった。
【0126】
比較例2の場合、前駆体膜を単結晶基板の表面に直接形成した。
【0127】
比較例2の場合、アニーリング中の前駆体膜の温度(アニール温度)は、1000℃であった。アニーリングに連続して、前駆体膜を窒素ガス中で25分間冷却した。冷却により、前駆体膜の温度は1000℃から25℃へ低下した。つまり、冷却速度は、39.0℃/分に調整された。
【0128】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例2の誘電性薄膜を作製した。
【0129】
実施例1と同様の方法で、比較例2の誘電性薄膜を分析した。比較例2の誘電性薄膜は、イットリウムがドープされた酸化ハフニウムからなっていた。誘電性薄膜におけるイットリウムの含有量は、ターゲット中のイットリウムの含有量と同じであった。
【0130】
比較例2の誘電性薄膜は、蛍石型結晶構造を有するHfO2の結晶相を含んでいた。結晶相は、斜方晶及び正方晶のうち少なくともいずれかを含んでいた。結晶相の(100)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。一方、結晶相の(111)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していなかった。つまり、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向する(111)面の回折X線のピーク面積A(111)は、ゼロであった。比較例2のA(100)/(A(111)+A(100))は、下記表1に示される。比較例2のA(111)/(A(111)+A(100))は、下記表1に示される。
【0131】
ヒステリシスの測定の結果、比較例2の誘電性薄膜は優れた強誘電性を有していることが確認された。優れた強誘電性はHfO2の斜方晶に由来する。したがって、比較例2の誘電性薄膜は、結晶相として斜方晶を含むことが確認された。
【0132】
比較例2の誘電性薄膜には亀裂が形成されていることが確認された。
【0133】
【0134】
実施例1及び2の場合、誘電性薄膜は強誘電性を有しており、誘電性薄膜には亀裂が形成されていなかった。
【0135】
比較例1の場合、誘電性薄膜には亀裂が形成されていなかったが、誘電性薄膜は強誘電性を有していなかった。
【0136】
比較例2の場合、誘電性薄膜は強誘電性を有していたが、誘電性薄膜には亀裂が形成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明に係る強誘電性薄膜は、例えば、圧電素子、焦電素子、又はMEMSに用いられる。
【符号の説明】
【0138】
1…単結晶基板、2…第一電極層、3…強誘電性薄膜、4…第二電極層、DN…単結晶基板の表面の法線方向、dn…強誘電性薄膜の表面の法線方向、ucr…斜方晶の単位胞、uct…正方晶の単位胞、200…ヘッドアセンブリ、9…ベースプレート、10…強誘電性薄膜素子、11…ロードビーム、11b…基端部、11c…第1板バネ部分、11d…第2板バネ部分、11e…開口部、11f…ビーム主部、15…フレキシブル基板、17…フレクシャ、19…ヘッドスライダ、19a…ヘッド素子、300…圧電アクチュエータ、20…基体、21…圧力室、23…絶縁膜、24…単結晶基板、25…圧電薄膜、26…上部電極層(第一電極層)、27…ノズル、400…ジャイロセンサ、110…基部、120,130…アーム、30…圧電薄膜、31…上部電極層(第一電極層)、31a,31b…駆動電極層、31c,31d…検出電極層、32…単結晶基板、500…圧力センサ、40…圧電素子、41…共通電極層、42…圧電薄膜、43…個別電極層、44…支持体、45…空洞、46…電流増幅器、47…電圧測定器、600…脈波センサ、50…圧電素子、51…共通電極層、52…圧電薄膜、53…個別電極層、54…支持体、55…電圧測定器、700…ハードディスクドライブ、60…筐体、61…ハードディスク、62…ヘッドスタックアセンブリ、63…ボイスコイルモータ、64…アクチュエータアーム、65…ヘッドアセンブリ、800…インクジェットプリンタ装置、70…プリンタヘッド、71…本体、72…トレイ、73…ヘッド駆動機構、74…排出口、75…記録用紙、76…オートシートフィーダ(自動連続給紙機構)、91…基板、92…赤外線反射板、93…第一絶縁性層、94a…第一電極、94b…第二電極、95…焦電薄膜、96…開口部、97…赤外線検出器、98…凹部、99…第二絶縁性層。