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特許7061756フォトクロミック色素含有ナノカプセル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】フォトクロミック色素含有ナノカプセル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/24 20060101AFI20220422BHJP
   C08G 65/329 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C08F2/24 Z
C08G65/329
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017163898
(22)【出願日】2017-08-29
(65)【公開番号】P2019038973
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 竜王
(72)【発明者】
【氏名】都留 陽介
(72)【発明者】
【氏名】林 昌樹
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150961(JP,A)
【文献】特表2004-530945(JP,A)
【文献】特開2006-122900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08G 65/00 - 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及びシェルを含むコアシェル型構造を有するフォトクロミック色素含有ナノカプセルであって、
前記コアは、フォトクロミック色素、及び有機溶媒を含有し、
前記シェルは、単量体混合物を重合して得られる重合体、及び界面活性剤を含有し、
前記界面活性剤が、親水性単量体由来の親水性部分と疎水性単量体由来の疎水性部分を有するブロック共重合体であり、
前記親水性単量体は、水酸基を有する単量体、ポリエチレングリコール系単量体、アクリルアミド系単量体、窒素原子を有する単量体、及びカルボキシル基を有する単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体であり、
前記疎水性単量体は、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物、及びアリール(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上の単量体であり、
前記有機溶媒は、前記単量体混合物100質量部に対して、30質量部以上であり、
前記ナノカプセルは、動的光散乱法により水中で測定された平均粒径が30nm以上180nm以下であり、かつCV値が40%以下であることを特徴とするフォトクロミック色素含有ナノカプセル。
【請求項2】
前記単量体混合物が、アルキル(メタ)アクリレート、及びスチレン系モノマーからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1記載のフォトクロミック色素含有ナノカプセル。
【請求項3】
前記有機溶媒が、一般式(1):
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、nは2から3の整数を表す。)で表されるグリコールエーテル系溶媒であることを特徴とする請求項1又は2記載のナノカプセル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のフォトクロミック色素含有ナノカプセルの製造方法であって、
少なくとも、前記フォトクロミック色素、前記有機溶媒、前記単量体混合物、及び前記界面活性剤を含有する混合物を、転相乳化して、O/W型エマルションを得る工程と、
得られたO/W型エマルション中で、前記単量体混合物を重合する工程を含むことを特徴とするフォトクロミック色素含有ナノカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック色素含有ナノカプセル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック色素は、太陽光や水銀灯等から放出される紫外線を含む光を照射することにより新たな波長領域に吸収をもつ化合物である。例えば、フォトクロミック色素が可視光領域に吸収を持つ場合、紫外線を含む光照射により速やかに色が変わり、可視光の照射や、紫外線を含む光照射を止めて暗所に置くと元の色に戻る。このようなフォトクロミック色素は、眼鏡用レンズ、眼内レンズ、コンタクトレンズ等の眼用材料の他に、窓ガラス、車ウィンドウガラス等の調光材料、光メモリー、電子ペーパー等の記録材料、紫外線チェッカー等のセンサー材料、化粧品材料、印刷インク材料、偽造防止材料等の幅広い用途で応用されている。特に、眼鏡用レンズでは、屋外ではレンズが着色してサングラスとして機能し、屋内では退色して透明な通常の眼鏡として機能する調光レンズとして広く使用されている。
【0003】
このフォトクロミック色素の発色濃度や、退色速度等のフォトクロミック特性の発現には、フォトクロミック色素の幾何異性化(シス-トランス異性化)反応や開閉環反応等の分子構造の変化を必要とする。このため、フォトクロミック特性は、フォトクロミック色素を含有するマトリックスの影響を大きく受けることが知られ、特に、退色速度は、マトリックスの温度や粘度、ガラス転移温度や架橋密度の影響を強く受ける。一般的に、溶液中では分子構造の変化が速いが、溶媒の蒸発など実用的な材料としての課題を有する。一方、自由空間の少ない硬質の固体中では分子構造の変化は遅く、場合によっては、分子構造の変化の可逆性が失われる。しかしながら、眼鏡用レンズ等の光学材料では、機械的強度や耐熱性、耐薬品性を確保するため、ガラス転移温度が高い材料や架橋密度が高い材料が使用される。しかし、このようなマトリックス中では、フォトクロミック特性の変換速度が遅くなる。
【0004】
マトリックスに依存せず優れたフォトクロミック特性を示す材料として、フォトクロミック色素を含有するカプセルが提案されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-537473号公報
【文献】特開2015-513597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ラジカル重合性の単量体を用いた乳化重合により、コア部にガラス転移温度が低いポリマーと、フォトクロミック色素を内包するコア-シェル構造のナノカプセルが合成されている。しかしながら、コア部が高い粘度を有するポリマーであるため、フォトクロミック特性の変換速度は十分ではなかった。さらに、平均粒径が180から210nmのナノカプセルが合成されているが、眼鏡レンズ等の高度な透明性が要求される用途では、フォトクロミック色素が配合される配合品の透明性の向上のため、ナノカプセルの小粒径化が要望されていた。
【0007】
一方、特許文献2では、界面重縮合等により1000μmから20nmのマイクロ及びナノカプセルが合成されている。攪拌速度や、分散剤の種類や量により粒径が調整されているが、この手法は数μm以上の平均粒径のカプセルの合成に主に用いられる手法である。数μm以下のサイズのカプセルを合成するためには、非常に高いせん断力を印加する必要があり、高圧ホモジナイザーや超音波分散機等の設備を用いることが必要である。さらに、このような手法では得られるマイクロおよびナノカプセルの粒度分布が広い。このため、大きな粒子は光の散乱により配合品の透明性低下の原因となり、小さな粒子はシェル層の厚みが薄いため、配合時にカプセルが潰れるなど、品質の不均一性が問題となる。
【0008】
従って、上記課題を解決すべく、本発明は、フォトクロミック色素の溶液を内包し、かつ平均粒径が小さく、粒度分布の狭いコアシェル型構造を有するフォトクロミック色素含有ナノカプセル、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、コア及びシェルを含むコアシェル型構造を有するフォトクロミック色素含有ナノカプセルであって、前記コアは、フォトクロミック色素、及び有機溶媒を含有し、前記シェルは、単量体混合物を重合して得られる重合体、及び界面活性剤を含有し、前記ナノカプセルは、動的光散乱法により水中で測定された平均粒径が30nm以上180nm以下であり、かつCV値が40%以下であることを特徴とするフォトクロミック色素含有ナノカプセル、に関する。
【0010】
また、本発明は、前記フォトクロミック色素含有ナノカプセルの製造方法であって、少なくとも、前記フォトクロミック色素、前記有機溶媒、前記単量体混合物、前記界面活性剤を含有する混合物を、転相乳化して、O/W型エマルションを得る工程と、得られたO/W型エマルション中で、前記単量体混合物を重合する工程を含むことを特徴とするフォトクロミック色素含有ナノカプセルの製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルは、基材上でのカプセルのフィルム化、コーティングやインキ、接着剤等の組成物へのカプセルの配合や、樹脂へのカプセルの練りこみにより、優れたフォトクロミック特性を示すことができる。さらに、当該フォトクロミック色素含有ナノカプセルは、可視光波長よりも十分に小さいことから、光の散乱が小さくなるため、当該ナノカプセルを液体もしくは固体に分散させると、優れた透明性を確保できる特徴を有することが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の代表的なフォトクロミック色素含有ナノカプセルの透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察を示す。
図2】本発明の代表的なフォトクロミック色素含有ナノカプセルを凍結乾燥した後のナノカプセルの透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察を示す。
図3】本発明の代表的なフォトクロミック色素含有ナノカプセル等の熱重量測定(TGA)の結果を示す。
図4】本発明の代表的なフォトクロミック色素含有ナノカプセルのフォトクロミック特性評価を示す。
図5】フォトクロミック色素含有フィルムのフォトクロミック特性評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<フォトクロミック色素含有ナノカプセル>
本発明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルは、コア及びシェルを含むコアシェル型構造を有し、前記コアは、フォトクロミック色素、及び有機溶媒を含有し、前記シェルは、単量体混合物を重合して得られる重合体、及び界面活性剤を含有し、前記ナノカプセルは、動的光散乱法により水中で測定された平均粒径が30nm以上180nm以下であり、かつCV値が40%以下である。
【0014】
前記フォトクロミック色素含有ナノカプセルは、動的光散乱法により水中で測定された平均粒径(体積平均メジアン径の値)が、シェルの厚みによる機械的強度を向上させる観点から、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、そして、配合時の透明性を向上させる観点から、180nm以下であることが好ましく、140nm以下であることがより好ましく、120nm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
前記フォトクロミック色素含有ナノカプセルは、配合時の透明性を向上させる観点や、配合時にカプセルが潰れるなど品質の不均一性が問題とならないよう、CV値が、35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることがさらに好ましい。なお、前記CV値(Coefficient of variation)は、動的光散乱法において散乱強度分布に基づく標準偏差を平均粒径で除して100を掛けた変動係数の値である。
【0016】
前記平均粒径およびCV値は、動的光散乱法によって測定することができ、一例として、動的光散乱法として、光源にHe-Neレーザー(10mW)、検出器にフォトカウント用光電子増倍管を備えたレーザー粒子解析システムELS-8000(大塚電子社製)を使用して求めることができる。
【0017】
<フォトクロミック色素>
本発明のフォトクロミック色素は、前記フォトクロミック色素含有ナノカプセルに内包される物質である。前記フォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギド化合物、クメロン化合物及びスピロオキサジン化合物等を使用することができ、その詳細については、WO2008/001578A1(段落[0076]~[0088])等に記載のフォトクロミック色素を参照できる。前記フォトクロミック色素は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
<有機溶媒>
本発明の有機溶媒は、前記フォトクロミック色素含有ナノカプセルに内包される物質である。前記有機溶媒は、後述する重合体を溶解せずに、前記フォトクロミック色素を溶解する有機溶媒であれば、特に限定されない。前記有機溶媒は、フォトクロミック色素含有ナノカプセルを製造する工程、及び二次加工に応用する工程において、揮発を防止する観点、及び有機溶媒を安定にナノカプセル内に保持させる観点から、炭素数が8以上の有機溶媒であることが好ましい。また、前記有機溶媒は乳化時に粒径を均一にさせるために十分な油相の粘度保持の観点と、コア部の粘度を低下させフォトクロミック色素の応答性を向上させる観点から、炭素数が22以下の有機溶媒であることが好ましい。
【0019】
前記有機溶媒としては、例えば、酢酸ヘキシル、酢酸ペンタデシル、ヘキサン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ステアリン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、1,6-ヘキサンジオールジアセテート等のエステル系溶媒;ジヘキシルエーテル、ジデシルエーテル等のエーテル系溶媒;2-デカノン、3-オクタデカノン等のケトン系溶媒;オクタノール、ドデカノール等のアルコール系溶媒;N,N,-ジメチルデカンアミド等のアミド系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル等のグリコール系溶媒が挙げられる。前記有機溶媒は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
また、前記有機溶媒は、前記グリコール系溶媒のなかでも、一般式(1):
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、nは2から3の整数を表す。)で表されるグリコールエーテル系溶媒であることが好ましい。
【0021】
前記グリコールエーテル系溶媒としては、例えば、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル等が挙げられる。
【0022】
<重合体>
本発明の重合体は、単量体(モノマー成分)を含有する単量体混合物を重合して得られる。
【0023】
前記単量体は、得られる重合体が前記有機溶媒によって溶解せず、前記フォトクロミック色素及び前記有機溶媒を内包したナノカプセルを後述の製造方法により合成できれば、特に限定されない。前記単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
前記単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン等のスチレン系モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、2―エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート等の疎水性単量体が挙げられる。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマーを用いることが好ましく、メチルメタアクリレート、スチレンを用いることがより好ましい。
【0025】
前記単量体は、フォトクロミック色素含有ナノカプセルの耐溶剤性や耐熱性等を改良するため、必要に応じて、多官能単量体、官能基を有する単量体を併用してもよい。前記多官能単量体、前記官能基を有する単量体は、重合体間で架橋反応ができ、重合体で形成されるシェルを強固にすることができる。
【0026】
前記多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0027】
前記官能基を有する単量体としては、例えば、ヒドロキシ基を有するモノマー、イソシアネート基を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマー、アルコキシシリル基を有するモノマー、アリル基を有するモノマー等が挙げられる。前記多官能単量体、前記官能基を有する単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
前記単量体混合物中、前記疎水性単量体の割合は、製造時のナノカプセル同士の凝集を抑制し、またナノカプセルの強度保持の観点から、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
前記単量体混合物に、前記多官能単量体及び/または前記官能基を有する単量体を含む場合、前記単量体混合物中、前記多官能単量体及び/または前記官能基を有する単量体は、0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
なお、前記単量体混合物を重合する際には、通常、重合開始剤を使用する。前記重合開始剤としては、加熱又は光照射等によりラジカル活性種を発生して単量体混合物の重合を進行させるものであれば特に限定されないが、例えば、アゾ系重合開始剤、有機過酸化物系重合開始剤等の熱重合開始剤、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の光重合開始剤、酸化剤と還元剤の組み合わせによるレドックス開始剤が挙げられる。
【0031】
<界面活性剤>
本発明の界面活性剤は、界面活性を有していれば特に限定されないが、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、非イオン性界面活性剤、親水性部分と疎水性部分を有するブロック共重合体が挙げられる。前記界面活性剤は、親水性部分と疎水性部分を有するブロック共重合体であることが好ましく、親水性部分と疎水性部分を有するジブロック共重合体であることがより好ましい。
【0032】
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられ、オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等が挙げられる。具体的には、好ましくは炭素数が8から22の飽和又は不飽和の長鎖アルコールに、エチレンオキシドまたは、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドを付加重合させた化合物が挙げられる。
【0033】
前記親水性部分と疎水性部分を有するブロック共重合体は、親水性単量体と疎水性単量体を用い、リビングラジカル重合やポリメリックペルオキシドを用いた重合方法等によって製造することができる。リビングラジカル重合としては、例えば、ニトロキシド媒介重合(NMP:Nitroxide-Mediated Radical Polymerization)、原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom TransferRadical Polymerization)、可逆的付加開裂型連鎖移動重合(RAFT:Reversible Addition Fragmentation Chain Transfer Polymerization)等を用いることができる。
【0034】
前記親水性単量体としては、例えば、アニオン性単量体、カチオン性単量体、非イオン性単量体が挙げられる。前記親水性単量体は、非イオン性単量体であることが好ましい。
【0035】
前記親水性単量体としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する単量体;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール系単量体;(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン等の窒素原子を有する単量体;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する単量体等を用いることができる。これらの中でも、ポリエチレングリコール系単量体、窒素原子を有する単量体を使用することが好ましく、ポリエチレングリコール系単量体を使用することがより好ましく、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。前記親水性単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記疎水性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン等のスチレン系モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、2―エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマーを用いることが好ましく、メチルメタアクリレート、スチレンを用いることがより好ましい。前記疎水性単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
前記ブロック共重合体を構成する前記親水性単量体の割合は、20質量%以上95質量%以下であることが好ましく、30質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
前記ブロック共重合体は、数平均分子量が1,000から100,000であることが好ましく、3,000から30,000であることがより好ましい。前記ブロック共重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.0から2.0であることが好ましく、1.0から1.5であることがより好ましい。この範囲にあることで、粒径や内包率の均一性を向上できる。
【0039】
なお、前記重量平均分子量および前記数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置としてHLC-8220GPC(東ソー社製)、カラムとして、TSKgel Super HZM-N(東ソー株式会社製)、TSKgel Super HZ2500(東ソー株式会社製)、TSKgel Super HZ1000(東ソー株式会社製)を連結して使用して、展開溶媒としてテトラヒドロフラン、カラム温度40℃、流速0.3ミリリットル/分、RI検出器、の条件下、クロマトグラフィーを行ない、PMMA換算の重量平均分子量および数平均分子量として求めることができる。
【0040】
前記界面活性剤は、曇点が、工業的に応用可能な室温以上であり、かつ水の蒸発防止の観点から、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、そして、100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。なお、前記曇点は、界面活性剤水溶液に670nmの光を照射した際の透過率の測定等により求めることができる。
【0041】
以下、本発明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルの組成比について説明する。
【0042】
前記フォトクロミック色素は、通常、前記有機溶媒100質量部に対して、0.001から25質量部であることが好ましく、0.01から15質量部であることがより好ましい。
【0043】
前記有機溶媒は、前記単量体混合物100質量部に対して、30質量部以上300質量部以下であることが好ましく、50質量部以上250質量部以下であることがより好ましく、70質量部以上200質量部以下であることがさらに好ましい。
【0044】
前記界面活性剤は、前記単量体混合物100質量部に対して、5質量部以上200質量部以下であることが好ましく、20質量部以上160質量部以下であることがより好ましく、30質量部以上150質量部以下であることがさらに好ましい。
【0045】
<フォトクロミック色素含有ナノカプセルの製造方法>
本発明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルの製造方法は、少なくとも、前記フォトクロミック色素、前記有機溶媒、前記単量体混合物、前記界面活性剤を含有する混合物を、転相乳化して、O/W型エマルションを得る工程(転相乳化工程)と、得られたO/W型エマルション中で、前記単量体混合物を重合する工程(重合工程)を含む製造方法である。
【0046】
<転相乳化工程>
前記O/W型エマルションは、前記界面活性剤により、W/O型エマルションが形成されている前記混合物を、転相乳化することにより製造できる。
【0047】
前記転相乳化は、前記混合物に、水系媒体を添加することで、油相から水相への転相乳化が生じ、O/W型エマルションが形成されるものである。前記水系媒体は、水を主成分とする媒体である。前記水としては、イオン交換水、蒸留水等を使用することができ、前記水系媒体は、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン等の水溶性有機溶媒をさらに含有してもよい。
【0048】
前記転相乳化工程において、前記水系媒体の添加は、攪拌下で行うことが好ましい。攪拌は、調製したエマルションが崩壊しないよう全体が循環する程度に緩やかに攪拌すればよい。
【0049】
前記水系媒体の添加速度は、微小かつ均一なサイズのナノカプセルを得る観点から、前記フォトクロミック色素、前記有機溶媒、前記単量体混合物の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部/分以上、より好ましくは5質量部/分以上、そして、好ましくは50質量部/分以下、より好ましくは10質量部/分以下である。
【0050】
前記水系媒体の使用量は、微小かつ均一なサイズのナノカプセルを得る観点から、前記フォトクロミック色素、前記有機溶媒、前記単量体混合物の合計100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは500質量部以上、そして、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは4000質量部以下である。
【0051】
また、前記転相乳化は、より微小かつ均一なサイズのナノカプセルを得る観点から、前記界面活性剤の曇点を超えるまで加熱した後に、曇点未満に急冷する、転相温度乳化を用いることが好ましい。前記加熱は、前記水系媒体を添加前または添加後でもよく、添加しながらでもよいが、前記水系媒体を添加後が好ましい。前記急冷は攪拌を継続した状態で曇点から20℃未満まで急冷することが好ましい。前記急冷は、0.1℃/分以上であることがより好ましく、0.3℃/分以上であることがさらに好ましく、そして、10℃/分以下であることが好ましく、5℃/分以下であることがより好ましい。
【0052】
なお、前記転相乳化、あるいは前記転相温度乳化は、前記水系媒体と前記界面活性剤を含む水相に、前記フォトクロミック色素と前記有機溶媒と前記単量体混合物を含む油相を添加する方法でもよい。
【0053】
前記混合物、あるいは前記O/W型エマルションには、必要に応じて、前記重合開始剤のほか、連鎖移動剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、シランカップリング、消泡剤等を配合してもよい。
【0054】
<重合工程>
前記重合工程は、脱気又は窒素置換された反応装置において、前記転相乳化して得られたO/W型エマルションを攪拌下で、例えば、前記重合開始剤を分解することにより行われる(コアセルベーション法)。前記重合開始剤の分解方法としては、加熱により分解する方法や、光により分解する方法、また、促進剤等を併用することによるレドックス的な分解方法等があり、特に限定されるものではない。
【0055】
前記重合工程における温度は、20℃以上90℃以下であることが好ましく、40℃以上80℃以下であることがより好ましい。前記重合工程における重合時間は、1時間以上40時間以下であることが好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。前記重合工程において、温度を一定に保ちながら重合を行ってもよく、生産性の向上、残存する単量体や重合開始剤の低減のため、段階的または連続的に温度を昇温させて重合を行ってもよい。
【0056】
前記重合工程により、本発明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルが、水系媒体に分散した状態で合成される。このような水系媒体に分散したフォトクロミック色素含有ナノカプセルは、例えば、沈降、ろ過、遠心除水等の公知の方法により分離できる(分離工程)。前記分離工程は、必要に応じて、水洗を行いながら繰り返し実施してもよい。
【0057】
また、本発明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルの製造方法により、コアシェル構造を良好に形成するためには、前記有機溶媒、前記重合体、及び前記水系媒体との界面張力(γ)が下記式(a)から(c)で表される関係を有することが好ましい。
γ23-(γ12+γ13)<0 (a)
γ13-(γ12+γ23)>0 (b)
γ12-(γ13+γ23)<0 (c)
(ただし、(a)~(c)の式において、添え字の1は有機溶媒、添え字の2はシェルを構成する重合体、添え字の3は水を表す。)
【0058】
本発明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルは、例えば、眼鏡用レンズ、眼内レンズ、コンタクトレンズ等の眼用材料の他に、窓ガラス、車ウィンドウガラス等の調光材料、光メモリー、電子ペーパー等の記録材料、紫外線チェッカー等のセンサー材料、化粧品材料、印刷インク材料、偽造防止材料等の用途で使用できる。
【実施例
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0060】
<合成例1>
<界面活性剤(POEGMA-b-PS)の合成>
メトキシポリエチレングリコールモノメタクレート(OEGMA、商品名「M-90G」新中村化学工業社製)3.74g(8.00mmol)、S-(2-シアノ-2-プロピル)-S-ドデシルトリチオ炭酸0.0691g(0.200mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.00328g(0.0200mmol)及び1,4-ジオキサン8.00mLを、スターラーチップを入れた30mLナスフラスコに加え、凍結脱気を3回行い、窒素を充填した。次いで、オイルバス中、攪拌下、70℃で9時間重合を行った。そして、n-ヘキサンで再沈殿精製を3回行うことにより精製した。得られたポリ(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート)(POEGMA)を1H-NMR(Lambda 300MHz、日本電子社製)の測定により、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートの平均31量体であることを確認した。また、GPC測定の測定により、分子量分布は1.19であることを確認した。
次いで、得られたPOEGMA3.00g(0.202mmol)、スチレン0.526g(5.05mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.00332g(0.00653mmol)及び1,4-ジオキサン1.13mLを、スターラーチップを入れた20mLナスフラスコに加え、凍結脱気を3回行い、窒素を充填した。次いで、オイルバス中、攪拌下、80℃で24時間重合を行うことによりPOEGMAとポリスチレン(PS)のブロック共重合体(POEGMA-b-PS)を合成した。そして、n-ヘキサンで再沈殿精製を3回行うことにより精製した。さらに、末端基を変換するために、得られたPOEGMA-b-PS 3.00g(0.183mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.600g(3.66mmol)及び1,4-ジオキサン18.28mLを、スターラーチップを入れた30mLナスフラスコに加え、凍結脱気を3回行い、窒素を充填した。次いで、オイルバス中、攪拌下、90℃で9時間加熱した。そして、n-ヘキサンで再沈殿精製を3回行うことにより精製した。得られたPOEGMA-b-PSを1H-NMRの測定により、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートの平均31量体にスチレンの平均15量体が付加していることを確認した。また、GPC測定の測定により、分子量分布は1.21であることを確認した。また、POEGMA-b-PSの0.50gを含む100mLの水溶液を調子し、各温度で水溶液に670nmの光を照射した際の透過率を測定した結果、曇点は85℃であった。
【0061】
<界面張力(γ)の測定>
試料を針の先端から押し出した際の懸滴のサイズを測定することでγおよびγを測定した。また、スピンコートにより表面にポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルムを形成させたガラス基盤上に試料分散液を滴下した際の接触角測定を用いて、θ12およびθ23を測定した。これらの値を以下の式に代入することでγ12γ23γ13をそれぞれ算出した。γは文献値より41.1mN/mとした。
<γ12
γ12=γ-γcosθ12=41.1-25.2×cos5.4=16.01
<γ23
γ23=γ-γcosθ23=41.1-51.0×cos48.7=16.01
<γ13
γ =0.3γ3=15.3、γ =0.7γ=35.7 (:非極性成分,:極性成分)
γ(1+cosθ12)=2(γ γ 1/2+2(γ γ 1/2
γ(1+cosθ23)=2(γ γ 1/2+2(γ γ 1/2
上記二式より、γ =28.0、γ =13.1、γ =25.1、γ =0.14
γ13=γ+γ-2(γ γ 1/2-2(γ γ 1/2
それぞれの値を上記の式に代入することで、γ13=32.54を導いた。
【0062】
上記の結果より、有機溶媒としてDPMNP、シェルを構成する重合体としてPMMAを用いることにより、前記式(a)から(c)を満たすことを確認した。
γ23-(γ12+γ13)<0 (a)
γ13-(γ12+γ23)>0 (b)
γ12-(γ13+γ23)<0 (c)
(ただし、(a)~(c)の式において、添え字の1は有機溶媒、添え字の2はシェルを構成する重合体、添え字の3は水を表す。)
【0063】
<実施例1>
<フォトクロミック色素含有ナノカプセルの合成>
メタクリル酸メチル(MMA)0.060g、エチレングリコールジメタクリレート0.0030g、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(DPMNP)0.060g、フルギド系フォトクロミック色素(アベルクロム670、東京化成工業製試薬)0.0006g、合成例1で得られた界面活性剤(POEGMA-b-PS)0.060gを、スターラーチップを入れた20mLサンプル瓶に加え、攪拌下で混合し、イオン交換水9.0gを徐々に加えた。次いで、オイルバス中、85℃で10分攪拌し、その後素早く25℃の水浴に浸けて10分間攪拌することで、エマルションを調整した。
次いで、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩0.0097gをサンプル瓶に加え、窒素置換を行い、オイルバス中、50℃で6時間重合を行った。重合終了後、遠心分離精製を3回繰り返すことにより、フォトクロミック色素含有ナノカプセルを合成した。
得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセルを動的光散乱法(ELS-8000、大塚電子社製)により測定した結果、平均粒径は107nmであり、CV値は27%であることを確認した。
【0064】
<透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察>
実施例1で得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセルをTEM(H-7650、日立ハイテクノロジーズ社製)で観察した結果を図1に示す。フォトクロミック色素含有ナノカプセルが、コア-シェル構造を形成していることは明確である。
また、実施例1で得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセルを凍結乾燥し、内包されるDPMNPを乾燥させ、TEMで観察した結果を図2に示す。フォトクロミック色素含有ナノカプセル中のDPMNPを乾燥させても、コア-シェル構造が維持されていることを確認した。
【0065】
<熱重量(TGA)測定>
実施例1で得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセルをTGA(DTG-60A、島津製作所社製)で測定した。測定は、サンプル量1.2mgを用い、空気雰囲気下、乾燥空気の流速100mL/分にて、100℃で30保持した後に、10℃/分の昇温で行った。一方、実施例1で得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセルの凍結乾燥を行ったサンプルを同様にしてTGA測定を行った。また、参考として、上記で得られた界面活性剤(POEGMA-b-PS)、DPMNP、PMMAのサンプルを同様にしてTGAを行った。
図3に示すように、凍結乾燥により重量減少開始温度が高温側にシフトしていることから、フォトクロミック色素含有ナノカプセルのコアにDPMNPが内包されていたことは明らかである。
【0066】
<フォトクロミック色素含有ナノカプセルのフォトクロミック特性評価>
超純水5.0gに実施例1で得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセル0.0005gを添加し、超音波洗浄機を用いてフォトクロミック色素含有ナノカプセルを再分散させ、半透明のフォトクロミック色素含有ナノカプセルの分散液を調整した。得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセルの分散液を1cm×1cmの石英セルに入れ、UV-VIS透過スペクトルの測定を行った。
次いで、フォトクロミック色素含有ナノカプセルの分散液にUVランプ(9.0W、アズワン社製)を用いて254nmの紫外線を2分間照射した結果、ピンク色に着色することを確認した。さらに、UV-VIS透過スペクトルの測定を行った結果、450nmから650nmの可視光領域に、540nmを極大吸収波長とする吸収帯が形成されていることを確認した。
その後、蛍光灯(27W)を用いて可視光を5秒間照射し、UV-VIS透過スペクトルの測定を行い、そのサイクルを繰り返した。その結果、7サイクル後に紫外線照射前と同様のスペクトルとなった。
これらの結果を図4に示す。図4の結果より、ナノカプセルにフォトクロミック色素が内包されていることを確認した。
【0067】
<比較例1>
<フォトクロミック色素含有フィルムのフォトクロミック特性評価>
テトラヒドロフラン3.0gにポリメタクリル酸メチル(PMMA)0.15g、アベルクロム670(東京化成工業製試薬)の0.0015gを添加してよく攪拌し、溶液を調整した。
調整した溶液を、スピンコーターを用いて、石英基板上に塗布した。塗布後、石英基板を90℃のホットプレート上で6時間乾燥処理を行うことでフォトクロミック色素を含有するPMMAフィルムを作製した。
次いで、フォトクロミック色素含有PMMAフィルムにUVランプ(9.0W、アズワン社製)を用いて254nmの紫外線を2分間照射した結果、ピンク色に着色することを確認した。さらに、UV-VIS透過スペクトルの測定を行った結果、400nmから650nmの可視光領域に、525nmを極大吸収波長とする吸収帯が形成されていることを確認した。
その後、蛍光灯(27W)を用いて可視光を5秒間照射し、UV-VIS透過スペクトルの測定を行い、そのサイクルを繰り返した。その結果、13サイクル後に紫外線照射前と同様のスペクトルとなった。
これらの結果を図5に示す。
【0068】
図4および図5の対比結果より、固体状態のフォトクロミック色素を含有するフィルムに対して、フォトクロミック色素の溶液を内包するナノカプセルは高速に応答することを確認した。
【0069】
<実施例2>
<フォトクロミック色素含有ナノカプセルの合成>
MMA0.040g、エチレングリコールジメタクリレート0.0020g、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル0.060g、フルギド系フォトクロミック色素(アベルクロム670、東京化成工業製試薬)0.0006g、合成例1で得られた界面活性剤(POEGMA-b-PS)0.060gを、スターラーチップを入れた20mLサンプル瓶に加え、攪拌下で混合し、イオン交換水6.0gを徐々に加えた。次いで、オイルバス中、85℃で10分攪拌し、その後素早く25℃の水浴に浸けて10分間攪拌することで、エマルションを調整した。
次いで、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩0.0129gをサンプル瓶に加え、窒素置換を行い、オイルバス中、70℃で15時間重合を行った。重合終了後、遠心分離精製を3回繰り返すことにより、フォトクロミック色素含有ナノカプセルを合成した。
得られたフォトクロミック色素含有ナノカプセルを動的光散乱法(ELS-8000、大塚電子社製)により測定した結果、平均粒径は165nmであり、CV値は32%であることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5