(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】電子デバイス
(51)【国際特許分類】
H05K 1/14 20060101AFI20220422BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
H05K1/14 C
H05K3/12 610B
(21)【出願番号】P 2019564611
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047444
(87)【国際公開番号】W WO2019138855
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018004502
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513104479
【氏名又は名称】パイクリスタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真由美
(72)【発明者】
【氏名】前田 和紀
(72)【発明者】
【氏名】二谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】車 溥相
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-94861(JP,A)
【文献】特開平1-196845(JP,A)
【文献】特開2003-141478(JP,A)
【文献】特開2015-149364(JP,A)
【文献】特公平1-43438(JP,B2)
【文献】特公平5-81161(JP,B2)
【文献】特公昭49-4701(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B1/12
H05K1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材と、前記可撓性を有する基材上に形成された導電性配線と、前記導電性配線に接続された電子素子とを備えたフレキシブル基板を複数備え、
前記導電性配線が導電性を有する有機化合物により形成され、
前記複数のフレキシブル基板の内の第1のフレキシブル基板と第2のフレキシブル基板とが、それぞれに形成された前記導電性配線の一部同士が直接接触して一体化された第1の接続部によって
電気導通性と密着性とを有して接続され
、さらに、前記第1の接続部が可撓性を有していることを特徴とする、電子デバイス。
【請求項2】
前記第1の接続部によって、前記第1のフレキシブル基板と前記第2のフレキシブル基板とが引張せん断接着力2N以上の密着性で接続されている、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
可撓性を有する基材上に、導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線が形成された第3のフレキシブル基板をさらに備え、
前記第3のフレキシブル基板の前記導電性配線の一部と、前記第1のフレキシブル基板の前記導電性配線における前記第1の接続部とは異なる部分とが直接接触して一体化された第2の接続部を形成し、前記第1のフレキシブル基板と前記第3のフレキシブル基板とが前記第2の接続部によって接続されている、請求項1
または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記第2の接続部が、前記第1の接続部が形成されている前記第1のフレキシブル基板の前記導電性配線と同じ前記導電性配線に形成されている、請求項
3に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記第3のフレキシブル基板が前記導電性配線に接続された電子素子を有する、請求項
3または4に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記導電性配線が、導電性ポリマー材料からなる、請求項1~
5のいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記導電性ポリマー材料が、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレンのいずれか、またはそれらの誘導体のいずれかを主成分として構成される、請求項
6に記載の電子デバイス。
【請求項8】
前記導電性配線が、高分子材料のバインダー内に導電性粒子が分散された複合材料からなる、請求項1~
5のいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記第1および第2のフレキシブル基板の少なくともいずれか一方における前記第1の接続部において、前記基材と前記導電性配線との間に絶縁体からなる密着層が形成され、前記密着層によって、自身の前記導電性配線の間隙部分が他の前記フレキシブル基板の前記導電性配線の間隙部分と接着されている、請求項1~
8のいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記電子素子が有機材料により構成され
、前記電子素子を含めた前記フレキシブル基板の全体が可撓性を有する、請求項1~
9のいずれかに記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、可撓性を有するフレキシブル基板、このフレキシブル基板を用いた電子デバイスとその製造方法に関し、特に、接続端子部分を含む全面において高い柔軟性を備えた、フレキシブル基板、電子デバイス、電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルなデバイスやストレッチャブルなデバイスなど、柔軟性や可撓性に優れたデバイスは、自由曲面に容易に設置可能であり、また、曲面形状を有する製品や構造物、人体、衣類等のあらゆる物への取付けが容易となるため、現在その実用化が強く求められている。
【0003】
電子デバイスを構成するには、トランジスタや論理回路、センサ、発光素子、圧電素子、アクチュエータ等の電子デバイスとしての機能性を担う部分と、バッテリーや発電素子等の電源部分、データを保持するためのメモリ部分、データ通信や無線給電用のアンテナ等の通信部分、ディスプレイ等のデータ表示部分等、各々の機能を担う電子素子を一体化して製品とする必要がある。このような各機能部分を電気的に接続する方法としては、接続配線が形成された基材上に各電子素子を実装して製品とすることが一般的である。
【0004】
複数の電子素子を電気的に接続する実装手法としては、これまでに多くの技術が開発され実用化されている。例えば、電子部品の端子をプリント基板の穴に固定する、いわゆるスルーホール実装や、チップマウンターを用いて表面実装用の電子部品を基板上の所定位置に実装する手法等、各種の実装方法が用いられている。
【0005】
また、フレキシブルな基材を用いた配線回路として、フレキシブルプリント回路基板(Flexible Printed Circuits、以下「FPC」と称する)が知られている。FPCは、ポリイミド等の柔軟性を有する樹脂製絶縁フィルムからなるベース基材上に銅箔などの導電性金属を用いて配線パターンを作製した回路基板であり、柔軟性を有することから、ノートパソコンの本体部と表示部とを回動可能に接続するヒンジ部分や、ハードディスクドライブのアーム等、繰り返しての屈曲が必要な可動部分の電気配線に利用されている。また、可動部分に限らず、メイン基板に接続されたFPCを折り曲げてその折り曲げ部分に電子素子を搭載し、電子素子をメイン基板上に積層して配置することで、電子機器筐体の小型化を図る立体配線を行う場合にもFPCが広く用いられている。
【0006】
このようなフレキシブルプリント回路基板(FPC)に関し、ディスプレイユニットを搭載し、ディスプレイユニットと駆動回路とを接続する接続配線が形成された配線部を備えたFPCにおいて、配線部の湾曲性を高め、かつ、接続配線の損傷を防ぐために、配線部の接続配線間にスリットまたは溝を形成する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
一方で、高分子材料同士の接合技術として、例えば、波長172nm以下の真空紫外光による樹脂基板表面の活性化を用いた、μ-TASデバイスの作製例が知られている(特許文献2参照)。この先行技術において、同一材料から構成された2つの樹脂基板に波長172nmの紫外線を照射すると、樹脂基板表面に付着した有機物などの接着を妨げる物質を分解し表面を洗浄すると同時に、紫外光によって樹脂基板の最表面のポリマー主鎖が分解し、樹脂基板表面は高活性状態となる。活性な樹脂基板表面は空気中の酸素や水蒸気と容易に反応し、樹脂基板表面に高活性な接着層を生成する。こうして得られた高活性な接着層同士を圧着することで、100℃以下という比較的低温な条件において、樹脂材料の接合を達成し、接着強度も十分高い値が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-237661号公報
【文献】特開2006-187730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のFPCを用いた電子デバイスでは、配線部の接続配線間にスリットや溝が形成されているために、FPCの剛性が低下して容易に曲げることができるとともに、配線の延在方向に対して所定の角度を有して湾曲する捻れが生じた場合でも、接続配線に過大な負荷がかかることを防止して信頼性の高い電子デバイスを実現することができる。
【0010】
しかし、上記従来のFPCを用いた電子デバイスでは、搭載されるディスプレイユニットとFPCとの接続部分や、電子デバイスを他の回路基板などと接続する接続端子部分における柔軟性への配慮はされていない。このため、近年開発が進むフィルムタイプのディスプレイや、有機半導体トランジスタなどの可撓性を備えた電子素子を搭載した電子デバイスを構成する場合でも、電子素子搭載部分や接続端子部分が柔軟性を有さず、電子デバイス全体として柔軟性を有するものを実現することはできなかった。
【0011】
また、絶縁体である高分子同士の接着技術は知られているものの、導電性をもつ有機化合物を用いた接合技術についての知見は得られていない。
【0012】
本願は、上記従来技術の有する課題を解決することを目的とするものであり、素子搭載部分や接続端子部分も含めた全体として高い可撓性を備えたフレキシブル基板、このフレキシブル基板を用いることで、全体として高い可撓性を備えた電子デバイス、さらに、この電子デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本願で開示するフレキシブル基板は、可撓性を有する基材と、前記基材上に導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線とを備え、前記導電性配線の一部が他の電子部材との接続部となることを特徴とする。
【0014】
また、本願で開示する電子デバイスは、可撓性を有する基材と、前記基材上に導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線と、前記導電性配線に接続された電子素子とを備え、前記導電性配線の一部が他の基板との接続部となることを特徴とする。
【0015】
さらに、本願で開示する電子デバイスの製造方法は、導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線が形成された複数の基材と、前記複数の基材の内の少なくとも一つにおいて、電子素子が前記導電性配線と接続され、前記複数の基材が、前記導電性配線を接続部として接続された電子デバイスの製造方法であって、前記基材上の前記導電性配線同士を直接接触させた状態で熱と圧力を印加して、異なる前記基材上の前記導電性配線同士が接続された接続部とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願で開示するフレキシブル基板、および、電子デバイスは、他の電子部材との接続部やフレキシブル基板同士の接続部が、可撓性を有する基材上に形成された導電性を有する有機化合物による導電性配線自体によって構成されるため、接続部を含めた全体で高い可撓性を有することができる。
【0017】
また、本願で開示する電子デバイスの製造方法によれば、可撓性を有する基材上に形成された導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線同士を良好に密着させて、高い導電性と接着性とを備えた接続部を形成することができ、十分な電気特性や力学的強度を備えた電子デバイスを低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施の形態にかかる電子デバイスの構成を説明するための断面構成図である。
【
図2】
図2は、実施の形態にかかる電子デバイスの構成を説明するための平面構成図である。
【
図3】
図3は、実施の形態にかかる電子デバイスの第2の構成例を説明するための断面構成図である。
【
図4】
図4は、実施の形態にかかる電子デバイスの第3の構成例を説明するための平面構成図である。
【
図5】
図5は、実施例として作製した電子デバイスの特性評価に用いられた試料の形状を説明するための図である。
【
図6】
図6は、実施例としての電子デバイスにおける、電気導電性の特性評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願で開示するフレキシブル基板は、可撓性を有する基材と、前記基材上に導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線とを備え、前記導電性配線の一部が他の電子部材との接続部となる。
【0020】
このように構成することで、本願で開示するフレキシブル基板は、他の基板やディスプレイデバイスなど他の電子部材との接続部分も可撓性を有することができ、基板全体としての可撓性を確保することができる。
【0021】
なお、本明細書において、「可撓性を有する」とは、フレキシブル基板や電子デバイスに所定の外力を加えることで全体を湾曲させることができ、さらに、加えていた外力から解放したときにフレキシブル基板や電子デバイスが元の形状に戻る状態を言うものとする。また、フレキシブル基板や電子デバイスを構成する基材が極めて柔軟性に富んでいる場合には、外力を加えなくても自重によって湾曲することが考えられるが、このように自重によって湾曲し、湾曲した状態でも所定の電気的特性を発揮できる場合は、本明細書において「可撓性を有する」ものに含まれることとする。
【0022】
また、本願で開示する電子デバイスは、可撓性を有する基材と、前記基材上に導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線と、前記導電性配線に接続された電子素子とを備え、前記導電性配線の一部が他の基板との接続部となる。
【0023】
このようにすることで、本願で開示する電子デバイスは、他の基板やディスプレイデバイスなど他の電子部材との接続部分も可撓性を有することができ、電子デバイス全体としての可撓性を確保することができる。
【0024】
本願で開示する電子デバイスにおいて、前記導電性配線が形成された複数の前記基材と、前記導電性配線同士が直接接触することで前記接続部が形成され、前記複数の基材の内の少なくとも一つにおいて、前記電子素子が前記導電性配線に接続されていることが好ましい。このようにすることで、接続部を含めて可撓性を有する複数の基材を備えた電子デバイスを実現することができる。
【0025】
また、前記導電性配線が、導電性ポリマーからなることが好ましい。このようにすることで、自体に柔軟性を有する導電性配線を構成することができる。
【0026】
この場合において、前記導電性配線が、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレンのいずれか、またはそれらの誘導体のいずれかを主成分として構成されることが好ましい。
【0027】
また、前記導電性配線が、高分子材料のバインダー内に導電性粒子材料が分散された複合材料からなることが好ましい。このようにすることで、自体に柔軟性を有する導電性配線を構成することができる。
【0028】
さらに、前記接続部において、前記基材と前記導電性配線との間に、絶縁体からなる密着層を有することが好ましい。このようにすることで、導電性配線の間隔部分に配置された密着層同士を密着させることができ、導電性配線部分を含めた接続部全体を十分に密着させて、高い電気的導通性と、高い接着強度を有する電子デバイスを実現することができる。
【0029】
この場合において、前記密着層をなす材料の耐熱温度が、前記基材の耐熱温度より低いことがより好ましい。
【0030】
さらにまた、本願で開示する電子デバイスの製造方法は、導電性を有する有機化合物により形成された導電性配線が形成された複数の基材と、前記複数の基材の内の少なくとも一つにおいて、電子素子が前記導電性配線と接続され、前記複数の基材が、前記導電性配線を接続部として接続された電子デバイスの製造方法であって、前記基材上の前記導電性配線同士を直接接触させた状態で熱と圧力を印加して、異なる前記基材上の前記導電性配線同士が接続された接続部とする。
【0031】
このようにすることで、本願で開示する電子デバイスの製造方法では、導電性配線同士を十分に密着させて、高い電気伝導性と接着強度とを有する接続部を備えた電子デバイスを、低コストで実現することができる。
【0032】
なお、印加する熱が、前記導電性配線を構成する材料のガラス転移点以下の温度であることが好ましい。
【0033】
以下、本願で開示するフレキシブル基板、電子デバイス、電子デバイスの製造方法についての実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0034】
なお、以下の各図面は、本願で開示する発明をわかりやすく説明するためのものであり、各部材の大きさ、特にフレキシブル基板の厚さ方向の大きさは、現実の部材の大きさや形状比を正確に示したものではない。
【0035】
(実施の形態)
図1に、本実施形態にかかる電子デバイスの断面構成図を示す。また、
図2に、本実施形態にかかる電子デバイスの平面構成図を示す。
図1は、
図2に示すI-I’矢示線部分の断面を示している。
【0036】
図1、
図2に示すように、本実施形態にかかる電子デバイス100は、いずれも電子素子が搭載された第1のフレキシブル基板10と第2のフレキシブル基板20とを有している。
【0037】
第1のフレキシブル基板10は、可撓性を有する基材11と、基材11上に配置された第1の電子素子12と、第1の電子素子12の端子部(図示省略)に接続された導電性を有する有機化合物による導電性配線13を備えている。また、第2のフレキシブル基板20は、可撓性を有する基材21と、基材21上に配置された第2の電子素子22と、第2の電子素子22の端子部(図示省略)に接続された導電性を有する有機化合物による導電性配線23を備えている。
【0038】
本実施形態にかかる電子デバイス100において、第1のフレキシブル基板10と第2のフレキシブル基板20とは、電子素子12、22が配置された側の面同士が対向するように配置され、基材11、21上に形成された導電性配線13、23のうち、電子素子12、22が接続されている側とは反対側の端部の接続部30に位置する部分同士が直接接触して電気的導通を得ている。このようにすることで、本実施形態にかかる電子デバイス100では、第1のフレキシブル基板10に搭載された第1の電子素子12の所定の端子と、第2のフレキシブル基板20に搭載された第2の電子素子22の所定の端子とが電気的に接続されて、2つの電子素子12、22が動作して一定の動作を行うことができる。
【0039】
フレキシブル基板10、20の基材11、21としては、各種の樹脂材料や、薄板ガラス、金属箔、シリコーン膜等を用いることができる。
【0040】
基材11、21は、可撓性を有しているが、この可撓性は定量的な指標によって画一的に定められものではなく、基材11、21を用いたフレキシブル基板10、20によって構成される電子デバイス100全体として求められる範囲の可撓性を有すればよい。このため、基材11、21として用いられる上述した各種材料の材料物性値と基材11、21の厚みを適宜選択することができる。例えば、金属や無機材料、ガラス材料など、10GPa以上といった比較的高いヤング率をもつ硬質材料を用いる場合、基材の厚さを例えば1mm以下とするといったように、基材に求められる可撓性を発現することができる範囲のものを採用する。
【0041】
基材11、21として、樹脂材料を用いる場合、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ乳酸(PLCA)、パリレン、ポリウレタン、シリコーン、その他各種ゴム材料、エラストマー、繊維素材等を用いることができる。
【0042】
これらの樹脂材料の中でもPEN、PI等の、耐熱性に優れ、表面が平滑であり、汎用性のある樹脂基材を用いれば、基材が入手しやすく比較的低コストであるだけでなく、優れた電子特性を容易に得ることが可能であり、かつ柔軟性にも優れる点で有利である。また、シリコーンやウレタン、各種ゴム材料等の可撓性に加えて伸縮性を備えた基材を用いれば、伸縮可能なフレキシブル基板、さらには、全体として伸縮可能な電子デバイスを実現できるという利点がある。
【0043】
本願で開示するフレキシブル基板の基材としては、一定の可撓性を有する限り材料に限定されるものではない。
【0044】
基材11、21上に配置される電子素子12、22は、例えば各種のセンサや、圧電素子、発電素子や電池などの電源供給素子、発光素子等、電子デバイス100を構成する上での必要に応じて任意の機能性を有する素子を用いることができる。
【0045】
なお、
図1、
図2に例示する電子デバイス100では、第1のフレキシブル基板10と第2のフレキシブル基板20との両方に電子素子12、22が設けられているが、本実施形態で示す電子デバイス100において、2つのフレキシブル基板10、20がいずれも電子素子12、22を備えていることは必須の条件ではなく、一方のフレキシブル基板として、基材上に導電性配線のみが形成されたものを用いることができる。
【0046】
導電性配線13、23は、導電性ポリマー材料を用いて構成される。また、導電性配線13、23を、樹脂、ゴムなどの高分子材料からなるバインダー内に、導電性を有する金属粒子やカーボン粒子等の導電性を有する粒子状の材料が分散された複合材料で構成することができる。このため、本明細書において「導電性を有する有機化合物材料」と称する場合は、上述の導電性ポリマー材料の場合と、高分子材料のバインダー内に導電性粒子材料が分散された複合材料の場合との両方を意味する。
【0047】
このように、導電性を有する有機化合物によって形成された導電性配線13、23は、外部から力が加わった際に変形可能な柔軟性を有している。
【0048】
導電性配線13、23を形成する導電性ポリマー材料としては、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン等の導電性が確保可能な材料を用いることができる。特に、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールのいずれか、またはそれらの誘導体のいずれかを主成分とする材料を用いることで、容易に高い導電性を得ることができる点でより好ましい。具体的な材料としては、例えばPEDOT:PSS、すなわち、(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン:PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)からなる複合物、さらに、PEDOTを骨格として他のドーパント材料が添加された材料等を用いることで、好適な導電性配線13、23を構成することができる。
【0049】
一方、導電性配線13、23の材料として、導電性材料が分散された複合材料を用いる場合は、具体的には、例えば、シリコーンゴムの中に導電性粉末が分散された材料や、その他の天然ゴムや合成ゴム材料、エラストマー等の柔軟な素材の中に導電性カーボンや金属粉末等の導電性材料が混合された材料を用いることができる。なお、導電性粉末としては、金属ナノ分子やカーボンナノ分子などの微細な材料を用いることが、柔らかい導電性配線を形成する上で好適である。
【0050】
本実施形態にかかる電子デバイス100では、第1のフレキシブル基板10の導電性配線13と、第2のフレキシブル基板20の導電性配線23とは、互いにその表面が接触している部分である接続部30が形成され、電気的導通が確保されている。
【0051】
接続部30の内、導電性配線13と導電性配線23とが対向している部分31では、導電性配線13、23がいずれも柔軟性を有することを活かして、互いの配線材料の少なくともその表面が一体化した構造となっている。このように、2つのフレキシブル基板10、20上の導電性配線13、23が一体化していることで、確実な電気的導通と密着性(剥がれにくさ)の両方を確保することが可能となる。導電性配線13、23は、第1のフレキシブル基板10と第2のフレキシブル基板20との接続部を導電性配線13、23が対向するように重ねた状態で、所定の熱と圧力を加えることで一体化することができる。接続部の導電性配線13、23を一体化する具体的な方法については、後に詳述する。
【0052】
接続部30において、導電性配線13、23が形成されておらず基材11、21の表面同士が対向している部分32、すなわち、導電性配線13、23の間隙部分32では、基材11と基材21とが互いに密着していることが好ましい。特に、上述した樹脂製材料で基材を構成した場合には、上述した導電性配線13と導電性配線23を一体化する加熱加圧工程において、基材11と基材21との表面を少なくとも部分的に溶かして強固に密着させることができる。この結果、第1のフレキシブル基板10と第2のフレキシブル基板20とを、導電性配線13、23の対向部分31のみならず、基材11、21の対向部分32においても強固に密着させることができ、2つのフレキシブル基板10、20の剥がれにくさをより向上させた電子デバイス100を得ることができる。
【0053】
次に、本実施形態に係る電子デバイスの第2の構成例について説明する。
【0054】
図3は、第2の構成例の電子デバイスを説明するための断面構成図である。
【0055】
図3に示す、第2の構成例の電子デバイスは、
図1、
図2を用いて説明した電子デバイスと比較して、フレキシブル基板の基材と導電性配線との間に密着層が形成されている点が異なる。
【0056】
図3に示すように、第2の構成例の電子デバイス200は、第1のフレキシブル基板110と第2のフレキシブル基板120とを有している。
【0057】
第1のフレキシブル基板110は、可撓性を有する基材111と、基材111上に配置された電子素子112と、電子素子112の端子部(図示省略)に接続された柔軟性を有する導電性配線113と、導電性配線113と基材111との間に配置された密着層114とを備えている。また、第2のフレキシブル基板120は、可撓性を有する基材121と、基材21上に配置された柔軟性を有する導電性配線122と、導電性配線122と基材121との間に配置された密着層123とを備えている。
【0058】
第2の構成の電子デバイスにおいて、基材111、121、電子素子112、導電性配線113、122は、
図1、
図2を用いて説明した電子デバイスと同様であるため説明は省略する。また、第2の構成例として
図3に示した電子デバイス200では、第2のフレキシブル基板120に電子素子が配置されていないもの示したが、第2のフレキシブル基板120として、電子素子を配置したものを用いることができるのは、
図1、2に示した電子デバイス100と同じである。
【0059】
図3に示す第2の構成例の電子デバイス200において、密着層114、123としては、基材111、121として用いたものと同様の材料を用いることができる。ただし、基材111、121のガラス転移点よりもガラス転移温度が低い材料を用いることが好ましい。
【0060】
例えば、基材111、121としてポリイミド等の耐熱性が高い樹脂材料を用いる場合、密着層114、123の材料としては、ポリイミドの耐熱温度よりも低い軟化点あるいはガラス転移点を持つ材料を用いる。このようにすることによって、第1のフレキシブル基板110と第2のフレキシブル基板120とを接続する接着部(
図1、
図2で符号30を用いて示した部分)の密着性をより向上させることができる。
【0061】
本実施形態にかかる電子デバイスでは、フレキシブル基板の接続部として、導電性配線が露出している部分を対向させて重ね合わせた状態で加熱加圧することで、導電性配線の一体化を行う。この時、上述したように、導電性配線が形成されていない部分(
図2における符号32の部分)のフレキシブル基板の基材が密着することが好ましい。しかし、基材の耐熱温度(ガラス転移点や軟化点)が比較的高い場合など、接続部のうちの導電性配線の対向部分(
図2の符号31の部分)同士の密着性が確保される作製条件であっても、接続部のうちの基材同士が接する部分が十分に密着しない場合がある。このような場合に、基材の表面に基材よりも容易に溶ける部材からなる密着層が形成されていることにより、密着層が溶けて密着することでフレキシブル基板同士の十分な密着性を確保することが可能となる。また、密着層を設けることで、接続部における導電性配線の一体化工程の温度設定を低温とすることができるため、接続部の作製工程での熱や加圧によって基材の変形が生じることを回避できるという利点がある。
【0062】
なお、本実施形態の第2の構成では、導電性配線113、122と基材111、121との間に形成されている密着層114、123は、接続部となる部分全体に形成すればよく、導電性配線113、122に対応して、その間隙部分を埋めるようにパターン化する必要が無い。よって、基材111、121上への密着層114、123の形成を容易に行うことができ、フレキシブル基板やこれを用いた電子デバイスの製造コストを抑えることができる。
【0063】
また、
図3で示す第2の構成では、第1のフレキシブル基板110と第2のフレキシブル基板120との両方に密着層を設けた例を示したが、いずれか一方のフレキシブル基板にのみ密着層を設けることでも、一定の効果が得られる。特に、本実施形態で開示するフレキシブル基板を、樹脂基板を用いて形成されたディスプレイデバイスやシート状の空気電池などの自体がフレキシブルな電子素子と接続する場合、電子素子側の接続部には密着層を形成できない場合もあるが、このような場合に、フレキシブル基板側に密着層を設けることで、高い電気導電性と密着性とを備えた接続部を有する電子デバイスを実現することができる。
【0064】
次に、本実施形態にかかる電子デバイスの第3の構成例について説明する。本実施形態にかかる電子デバイスの第3の構成例は、一つの大きなフレキシブル基板上に複数のフレキシブル基板が搭載されて構成されている。
【0065】
図4は、本実施形態にかかる電子デバイスの第3の構成例を説明するための平面構成図である。
【0066】
図4に示すように、第3の構成例の電子デバイス300は、1つの大きな第1のフレキシブル基板301上に、第2のフレキシブル基板302、第3のフレキシブル基板303、第4のフレキシブル基板304の3つの比較的小さなフレキシブル基板が搭載されて構成されている。
【0067】
図4に示す構成例では、第1のフレキシブル基板301と第2のフレキシブル基板302とが、第1のフレキシブル基板301の左上部分に配置された第1接続部305において、第1のフレキシブル基板301の導電性配線と第2のフレキシブル基板302の導電性配線とが互いに対向して配置され、重なり合っている部分306で一体化されて電気的導通を確保している。なお、第1接続部305では、導電性配線の下側に密着層307が形成されていて、第1のフレキシブル基板301と第2のフレキシブル基板302との密着性を高めている。
【0068】
同様に、第2のフレキシブル基板302と第3のフレキシブル基板303とが、図中左側の第2接続部308で、第3のフレキシブル基板303と第4のフレキシブル基板304とが、図中中央下側の第3接続部311で接続されている。
【0069】
第2接続部308と第3接続部311とは、いずれも第1のフレキシブル基板301上に形成されている基板接続のための導電性配線に対して、それぞれ、第2のフレキシブル基板302、第3のフレキシブル基板303、第4のフレキシブル基板304の導電性配線が対向して配置され、重なり合っている部分309、312が一体化されて電気的導通が確保されている。また、第1のフレキシブル基板301の第2接続部308と第3接続部311には、導電性配線の下側に密着層310、313が形成されて、第1のフレキシブル基板301と、第2、第3、第4のフレキシブル基板302、303、304との密着性を高めている。
【0070】
このようにすることで、本実施形態にかかる第2の構成例の電子デバイス300では、第1のフレキシブル基板301から第2のフレキシブル基板302、第2のフレキシブル基板302から第3のフレキシブル基板303、第3のフレキシブル基板303から第4のフレキシブル基板304の順に電気的な導通が確保され、それぞれのフレキシブル基板上に配置される電子素子を用いた電気回路を構成することができる。
【0071】
なお、上記説明から明らかなように、第2接続部308と第3接続部311に形成される第1のフレキシブル基板301上の導電性配線は、第1のフレキシブル基板301上に搭載される他の電気素子とは接続されておらず、他のフレキシブル基板とのフレキシブル基板同士の電気的導通を図るためのみの目的で形成されたものである。しかし、例えば、第2のフレキシブル基板302と第3のフレキシブル基板303とを介して第1のフレキシブル基板301と接続されることとなる第4のフレキシブル基板304を、直接第1のフレキシブル基板301と接続するために、第3接続部311に形成される第1のフレキシブル基板301上の導電性配線を、第1のフレキシブル基板301上に配置された電気素子と直接接続されるように構成することができる。このようにすることで、例えば外部からのノイズに対して弱い信号配線や、低抵抗な配線とすべきセンサ回路などとの接続配線の長さを実効的に短く形成することができる。
【0072】
また、
図4に示した第2の電子デバイスの構成例では、各接続部305、308、311に密着層307、310、313が形成されているものを示したが、密着層をすべての接続部に形成する必要は無く、一部、または、全部の接続部が密着層を備えていない構成とすることができる。さらに、互いに接続されるフレキシブル基板の両方の接続部に密着層が形成された形態とすることも可能である。
【0073】
次に、本実施形態にかかる電子デバイスの製造方法について説明する。
【0074】
本実施形態で説明するフレキシブル基板は、基材として、例えば50~125μmのポリエチレンナフタレート(PEN)上に、厚さ約100nmのPEDOT:PSSの導電性配線を所定の配線パターンとして形成する。配線パターンは、従来の硬質基板上での配線パターン作製と同様に、基板上に搭載される電子素子の端子位置に対応して、基板上で所定の電子回路が構成されるように形成する。本実施形態のフレキシブルパターンでは導電性配線を高分子化合物または高分子の複合化合物で形成するため、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法などを用いて所定の配線パターンを形成することができる。このため、従来の硬質基板やフレキシブル配線基板(FPC)のような、金属薄膜を形成した後これをエッチングしてパターン化するという方法と比較して、きわめて簡易な方法で、かつ、低コストで所望の配線パターンが形成できる。
【0075】
また、フレキシブル基板上に搭載される電子素子として印刷法により形成できる素子を用いる場合には、導電性配線を印刷した後に重ねて電子素子を印刷して電子回路が構成できる。この場合は、従来のプリント基板で行われていた自動マウンターを用いたチップマウント工程が不要となり、微細な電子素子を配置する際でも位置調整が簡素化でき、低コストで正確に基板上に電子素子を配置した電子デバイスを形成することができる。
【0076】
なお、フレキシブル基板の所定位置に接続部が形成され、この接続部では、導電性配線の形成部分と導電性配線が形成されていない部分とが交互になるように形成される。この接続部においては、導電性配線は直線として形成されることが好ましく、導電性配線の幅と、導電性配線同士の間隔部分の幅が、約1:1となるようにすることが好ましい。接続部における導電性配線の幅は、他のフレキシブル基板や電子素子など、接続部で接続される相手側の端子幅、端子間隔に対応させる必要があるが、接続部での良好な電気伝導性を確保する観点から、10μm以上あることが好ましい。もちろん、接続部の導電性配線を曲線として構成することができ、また、導電性配線の幅と導電性配線同士の間隔の幅とが、約1:1とはならない構成を採用することもできる。
【0077】
また、接続部に密着層を形成する場合には、基材であるPENフィルム上の接続部が形成される位置に、基材の材料よりも軟化点温度の低い材料の薄膜を、例えばグラビアオフセット印刷法によってあらかじめ形成した後に、導電性配線パターンを形成することとなる。
【0078】
次に、フレキシブル基板の接続部における、他のフレキシブル基板の接続部との接続方法について説明する。
【0079】
図1、
図2に示したように、表面に柔軟性を有する導電性配線が形成されたフレキシブル基板同士を接続して電子デバイスを構成する場合は、2つのフレキシブル基板の接続部同士を対向させて積層し、フレキシブル基板の基材の外側から熱と加重を加える。
【0080】
一例として、いずれも、厚さ125μmのポリエチレンナフタレート(PEN)上に、厚さ100nmのPEDOT:PSSの導電性配線が形成されている2枚のフレキシブル基板の接続部を接続する場合には、温度150℃の条件下で圧力2.2MPaの加重を180秒間印加する。このようにすると、導電性配線の接触部分が一部溶けて一体化するとともに、基材の表面同士も密着し、導電性においても、2枚の基板の接続強度においても十分な接続部を形成することができる。
【0081】
なお、接続部を形成する場合に印加する温度と圧力は、フレキシブル基板の基材の耐熱温度、および、導電性配線材料の耐熱温度よりも低い温度とすることが好ましい。また、接続部を形成する場合の温度は、導電性配線材料のガラス転移点の温度よりも低いことがより好ましい。印加する圧力は接続部界面での密着性が得られるための適切な値とすることが重要であり、フレキシブル基板の基材の材料や厚さ、導電性配線の材料に応じて適宜調整すべきではあるが、1MPa以上5MPa以下を目安とすることができる。
【実施例】
【0082】
本実施形態にかかる電子デバイスを実際に作製し、その特性評価を行った。
【0083】
まず、
図1、
図2に示すように、2枚のフレキシブル基板を作製して、それぞれの接続部を接続して、電気特性と密着性とを評価した。
【0084】
具体的には、第1のフレキシブル基板、および、第2のフレキシブル基板として、いずれも幅10mm、長さ50mm、厚さ125μmのPEN製の基材上の一方の端部に、PEDOT:PSSの導電性配線が基板の長さ方向において平行に配置されたものを作製した。導電性配線の幅は200μm、導電性配線同士の間隔も200μmとし、導電性配線パターンの有る部分と無い部分のサイズ比(ライン&スペース比)を1:1とした。また、導電性配線の長さは基材の端部から10mm、導電性配線の本数は5本とし、接続部の幅を10mmとした。導電性配線は、インクジェット法により基材上に厚さ100nmで形成した。なお、特性評価が目的であるため、基材上には電子素子は搭載していない。
【0085】
このようにして作製した2枚のフレキシブル基板の接続部同士を対向させて重ね合わせ、上方から80℃に保たれた圧着ヘッドを2.2MPaの圧力で180秒間押しつけ、基材上の導電性配線を一体化して電子デバイスを作製した。圧着ヘッドの幅、すなわち、接続部における導電性配線の長さ方向における押圧部分の長さは、2mmとした。
【0086】
このようにして作製した電子デバイスにおける接続部の電気導電性を確認するため、第1のフレキシブル基板と第2のフレキシブル基板の接続部を介した電気抵抗値をアジレント・テクノロジー株式会社製の半導体パラメーターアナライザーB1500A(商品名)によって測定した。
【0087】
結果、接続部分の有無による配線抵抗値の違いは無く、接続部での電気的導通が十分にとれていることがわかった。
【0088】
また、接続部分での密着性を、INSTRON(インストロン)社製の万能材料試験機5565(商品型番名)を用いて、引張り速度10mm/min、チャック間距離40mm、ロードセル100Nの条件下で測定した。結果、室温における2枚のフレキシブル基板の面方向の引張せん断接着力は、2N以上であることが確認できた。
【0089】
次に、本実施形態で説明した電子デバイスにおいて、接着部を形成する際に印加される温度と圧力との影響を調べた。
【0090】
図5は、接続部の形成条件による効果を調べるために作製した試料の形状を示し、
図5(a)が断面図を、
図5(b)が平面図を示している。
【0091】
図5(a)、
図5(b)に示すように、第1の試料片40と、第2の試料片50として、いずれも幅10mm、長さ50mm、厚さ125μmのPEN樹脂基材41、51上の全面に、厚さ100nmとなるようにPEDOT:PSS膜42、52をインクジェット法で形成した。
【0092】
これら2枚の試料片40、50を互いにPEDOT:PSS膜42、52形成部分が対向するようにして、重複部分61が10mmとなるようにして重ね、この重複部分の略中央部分に、幅2mmの圧力ヘッド71を、ヘッド温度と押圧力とを変化させて押し当てた。
図5(b)における符号62で示した部分が、圧着ヘッド71の押し当て部分を示している。
【0093】
ヘッド71の押し当て条件として、ヘッド温度を80℃から160℃まで10℃おきに変化させ、印加圧力は2.5MPa、5.2MPa、7.8MPa、10.2MPaの4段階とした。なお、ヘッド71の押し当て時間は、いずれも条件の場合も180秒で一定にした。
【0094】
このようにして作製した試料の接続部分の引張せんだん接着力を、上述のINSTRON(インストロン)社製の万能材料試験機5565(商品型番名)を用いて、同条件で測定した。
【0095】
測定結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
表1において、接続部分の引張せん断接着力が5N以上得られた場合を「○」、5N未満であったものを「×」として示した。
【0098】
表1に示すように、試料片の基材の軟化温度である150℃よりも低い温度であっても、印加する圧力を適正範囲とすることにより、導電性配線材料が実用上十分と考えられる接着力を示しており、導電性配線材料が十分に密着していることがわかる。
【0099】
なお、発明者らの検討によれば、接続部分を形成する際に印加する圧力の大きさは、引加温度に関係なく印加圧力が大きい方がより高い接着力を示す傾向があり、一方、引加温度は、100℃程度までは接着力に与える影響はほとんどないが、100℃を超えると引加温度が高いほどより高い接着力が得られる傾向があることが確認できた。
【0100】
次に、それぞれの試料についての導電性の確認結果を説明する。
【0101】
測定は、
図5において示されるように、接続部分61を挟んだ位置Aと位置Bとの間、接続部分を介さない位置Bと位置Cとの間で、印加する電圧を異ならせた場合に流れる電流値を測定した。なお、位置AとB、位置BとCとの間の間隔は、いずれも30mmとし、測定は、引張試験を行う前にすべての試料について行っている。
【0102】
このうち、上記引張試験結果において5N以上の引張せん断接着力を示した、表1における「○」評価の試料での、印加電圧値と流れた電流値とを
図6に示す。
【0103】
図6において、符号81として「○」で示したものがAB間の電圧電流特性、符号82として「▲」で示したものがBC間の電圧電流特性である。なお、
図6に示したものは、印加温度180℃、印加圧力2.2MPaのものであるが、表5において「○」評価となった試料では、いずれも、AB間の電流値とBC間の電流値との差異が1%以内となり、接続部において試料片表面のPEDOT:PSS膜42、52同士が十分に密着していることが確認できた。なお、
図6に示されるように、接続部分を介した符号81で示す測定点AB間の方が、接続部分を介しない符号82で示すBC間よりも、わずかに抵抗値が低くなっている。これは、接続部分では導電性配線が重ね合わさっているために長さあたりの密度(断面積)が大きくなっていることが要因であると考えられる。
【0104】
以上、表1と
図6に示す結果から、接続部の形成条件を適切に選択することによって、導電性配線材料の高い密着性が得られた場合には、接続部の接着強度と導電特性とがいずれも良好となることが確認できた。
【0105】
なお、導電性配線素材として、樹脂製のバインダー内に金属ナノ粒子が分散された材料を用いた場合も、接続部分に圧力と熱を適正条件で加えることにより、上記と同様に導電性と密着性の両方が得られることが確認できた。
【0106】
また別の実施例として、
図3で説明した密着層114、123を形成した試料を作成し、密着性を評価した。
【0107】
具体的には、第1のフレキシブル基板、および、第2のフレキシブル基板として、いずれも幅10mm、長さ50mm、厚さ50μmのPEN製の基材上の一方の端部に、PMMAの密着層を、厚さ1μm、幅10mm(基材の幅と同じ)、端部からの長さ10mmとなるようにグラビアオフセット印刷法で形成し、この密着層上に、インクジェット法によって、PEDOT:PSSの導電性配線が基板の長さ方向において平行に配置されたものを作製した。導電性配線の幅は、上述の実施例のものと同様に200μmとし、導電性配線同士の間隔も200μm、導電性配線の長さは基材の端部から10mm、導電性配線の本数は5本とした。
【0108】
なお、導電性配線としては、PEDOT系導電性材料である、径綜研化学株式会社製の有機導電性ポリマー(ベラゾールR:商品名)を用いた。また、材料として用いたPEN、PMMAのガラス転移点について、株式会社日立製作所製の示差走査熱量計DSC7000X(商品名)を用いて実測した結果、PENのガラス転移点は150℃、PMMAのガラス転移点は100℃であった。
【0109】
このように形成したサンプルについて、上記と同様に、導電性と密着性の評価を行った結果、接続部分の有無による配線抵抗値の違いが無く、接続部での電気的導通が十分に得られており、また、フレキシブル基板の面方向の引張せん断接着力は、5N以上であることが確認できた。
【0110】
以上説明したように、本実施形態にかかる電子デバイスは、フレキシブル基板の基材として可撓性を有する部材を用い、基材上に形成される導電性配線の材料として柔軟性を有する部材を用い、導電性配線同士を接続部で密着させることで、接続部を含んだフレキシブル基板全体での可撓性を有する電子デバイスとすることができる。このため、フレキシブル基板に搭載される電子素子として、例えば有機性膜による抵抗素子や、有機半導体素子などの可撓性を有する部材を用いることで、全体で良好な可撓性を有する電子デバイスを構成することができる。
【0111】
また、例えば、有機ELを用いたディスプレイデバイスなど、自体が可撓性を有する電子素子に接続された場合でも、接続部を含んだ電子デバイス全体での可撓性を確保することができる。
【0112】
さらに、フレキシブル基板上に形成された導電性配線同士を重ね合わせて、所定の温度条件下で所定の圧力を印加することで、接着力と電気的導電性に優れた接続部を形成することができる。このため、従来のフレキシブル基板等で接続部に用いられていた、異方性導電性フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)のように、接続部における導電性材料の方向性を制御した接続工程が不要となり、材料面と工法面との両方における低コスト化を実現することができる。
【0113】
なお、
図3に示す電子デバイスの一部である第2のフレキシブル基板120のように、本実施形態で説明したフレキシブル基板としては、基材上に電子素子が搭載されていない、配線基板としても実現することができる。本実施形態で説明するフレキシブル基板は、
図3に示した第1のフレキシブル基板110のような電子素子が搭載された本実施形態で説明するフレキシブル基板と接続される場合、また、接続相手が例えば可撓性を有する有機ELを用いたディスプレイデバイスに本実施形態で説明した導電性配線部材による接続部を形成することによって、上述のような異方性導電性フィルムなどの接続部材を用いることなく、接続部を含めた全体が可撓性を有する電子デバイスを構成することができる。
【0114】
また、本実施形態にかかる電子デバイスでは、フレキシブル基板として樹脂製の基材上に、印刷工程によって導電性配線が形成されるため、基板に搭載される電子素子が印刷法によって作成可能な場合には、電子素子を含めたフレキシブル基板全体を印刷工程によって製造することが可能となる。このため、特に、基板に搭載される電子素子が小さい場合に、従来高い精度が必要であったチップマウント工程が不要となり、実装コストを含めた低コストでのフレキシブル基板の製造が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上、本願で開示する、フレキシブル基板、電子デバイス、電子デバイスの製造方法は、低コストで全体として可撓性を有する電子デバイスを実現することができる。このため、小型・低コスト化、省エネルギー化、フレキシブル化が求められている現在において、高い産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0116】
10 第1のフレキシブル基板
11 基材
12 電子素子
13 導電性配線
20 第2のフレキシブル基板
21 基材
22 電子素子
23 導電性配線
31 接続部
100 電子デバイス