(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】DJ-1タンパク質産生促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20220422BHJP
A61K 31/121 20060101ALI20220422BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K31/121
A61P43/00 107
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2017217996
(22)【出願日】2017-11-13
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2017179767
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 平成29年 6月21日 掲載アドレス http://www.sfrrj2017.org/pdf/sfrrj2017_Abstracts.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 平成29年 6月28日 集会名 第70回日本酸化ストレス学会学術集会
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 万由
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 範子
(72)【発明者】
【氏名】石渡 潮路
(72)【発明者】
【氏名】松熊 祥子
(72)【発明者】
【氏名】禹 幸玉
(72)【発明者】
【氏名】横田 麻美
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-112786(JP,A)
【文献】特開平08-231368(JP,A)
【文献】特開平03-170416(JP,A)
【文献】特表2011-513338(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156328(WO,A1)
【文献】特表2004-532790(JP,A)
【文献】特表2017-525738(JP,A)
【文献】特開2009-084155(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0263698(US,A1)
【文献】特表2016-504017(JP,A)
【文献】CHAN, W.-H., et al.,Journal of Cellular Biochemistry,2003年,Vol.90, No.2,pp.327-338.
【文献】ADHAMI, V. M., et al.,Neoplasia,2003年,Vol.5, No.1,pp.74-82.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/05
A61K 31/121
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミ
ン及び/又はレスベラトロー
ルを有効成分として含有するDJ-1タンパク質産生促進用組成物
(ただし、メラニンが持つ生体防御能促進用途、光老化防止用途、日焼け止め用途、NF-κBの発現抑制用途、細胞死抑制用途、皮膚老化防止用途、α-シヌクレイン原線維の形成及び伸長抑制用途、パーキンソン病用剤、抗酸化用途を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DJ-1タンパク質の産生を促進する組成物、及び皮膚細胞に対する外部刺激抵抗性を増強する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
DJ-1タンパク質は、公知の生理活性タンパク質で、神経細胞や皮膚細胞を含む広範なヒト細胞に存在しており、189のアミノ酸からなる。DJ-1タンパク質はガン遺伝子産物であり、家族性パーキンソン病と関連があることが知られている(非特許文献1)。
さらに、DJ-1タンパク質は酸化ストレスによる神経細胞死を抑制する効果を有することが知られている。すなわち、酸化ストレスを与える6-ヒドロキシドーパミンを注入されたパーキンソン病モデルラットに、6-ヒドロキシドーパミンの注入と同時又は注入後にDJ-1タンパク質を注入すると、ドーパミン神経細胞死が抑制され、行動異常が改善されることが知られている(特許文献1)。
特許文献1には、酸化ストレスによる神経細胞死を抑制する効果をDJ-1が有することが記載されている。そしてDJ-1に結合し、活性化する化合物を提案している。
【0003】
またDJ-1タンパク質は、皮膚の抵抗性に関与していることが知られている。本発明者らは、皮膚角層中のDJ-1タンパク質量を測定することによって紫外線に曝露したときの発赤の発生に対する抵抗性の指標とすることができること(特許文献2)、紫外線曝露歴の評価指標とすることができること(特許文献3)、あるいは発毛状態の評価指標とできること(特許文献4)などを明らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/060886号
【文献】特許第5775538号公報
【文献】特許第5775540号公報
【文献】特開2017-9426号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Biochemical Biophysical Research Communications 473(2016)87-91
【文献】Experimental Neulology.2002,175;303-317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮膚の外部刺激に対する抵抗性に関与するDJ-1タンパク質の産生を促進する物質を探索する過程で見出されたものである。また、本発明者らは紫外線が皮膚細胞に及ぼす影響を検討する過程でDJ-1タンパク質が増加した細胞は紫外線抵抗性が増強していることを見いだした。
すなわち本発明は、皮膚細胞のDJ-1タンパク質産生を促進する新たな組成物を提供すること、及び紫外線抵抗性を皮膚細胞に付与するための組成物を提供することを課題とする。
【0007】
本発明は以下の構成である。
(1)クルクミン類及び/又はレスベラトロール類を有効成分として含有するDJ-1タンパク質産生促進用組成物。
(2)(1)に記載の組成物を含むDJ-1タンパク質産生促進のための皮膚外用剤。
(3)(1)に記載の組成物を含む皮膚細胞の外部刺激抵抗性を増強するための組成物。
(4)外部刺激が紫外線によるものである(3)に記載の組成物。
(5)紫外線曝露によって誘発される赤み(発赤)発生に対する抵抗性向上剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、DJ-1タンパク質の産生を促進する組成物が提供される。本発明の組成物は皮膚外用剤として有用である。またあらかじめ、皮膚細胞、特に角層細胞におけるDJ-1タンパク質を増加させておくことで、外部刺激に対する細胞の抵抗性が増強され、紫外線によって誘発される炎症反応などを抑制することができる。このため紫外線曝露によって誘発される炎症や発赤に対する抵抗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】試験例1における、クルクミンのDJ-1タンパク質産生促進効果を示すグラフである。
【
図2】試験例1における、レスベラトロールのDJ-1タンパク質産生促進効果を示すグラフである。
【
図3】試験例2における、クルクミンのDJ-1タンパク質産生促進効果を示すグラフである。
【
図4】試験例2における、レスベラトロールのDJ-1タンパク質産生促進効果を示すグラフである。
【
図5】試験例3における、クルクミンの表皮細胞生存率に及ぼす効果を示すグラフである。
【
図6】試験例3における、レスベラトロールの表皮細胞生存率に及ぼす効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本願はクルクミン類及び/又はレスベラトロール類を有効成分として含有するDJ-1タンパク質産生促進用組成物に係る発明である。
【0011】
ヒトDJ-1タンパク質は、前記したとおり、ヒト皮膚細胞や神経細胞において多く発現されるタンパク質である。
皮膚のDJ-1タンパク質産生を促進することにより、皮膚内のDJ-1タンパク質量を増加させ、皮膚の外部刺激に対する抵抗性を増加させることが期待できる。
【0012】
本発明のDJ-1タンパク質産生促進用組成物は、クルクミン類及び/又はレスベラトロール類をDJ-1タンパク質産生促進の有効成分として含有している。
【0013】
本発明の組成物の有効成分であるクルクミン (curcumin) 類は、ウコン(ターメリック、学名Curcuma longa)などに含まれる黄色の、公知のポリフェノール化合物の総称である。スパイスや食品領域の着色剤として利用され、安全性も熟知されている。
本発明に用いるクルクミン類は、クルクミンまたはクルクミン誘導体として分類される化合物をいい、クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、シス-トランス-クルクミン、およびシクロクルクミンを含むが、これに限定されない。なかでもクルクミンが特に好ましい。また、植物ウコンの根茎から抽出されたウコン抽出物であってもよい。ウコン抽出物は健康食品やサプリメントの原料として市販されており、このような市販品を用いることもできる。
【0014】
レスベラトロール(resveratrol)はスチルベノイド(スチルベン誘導体)ポリフェノールの一種であって、系統名は3,5,4’-トリヒドロキシ-trans-スチルベンとも呼ばれる。レスベラトロールは、いくつかの植物でファイトアレキシンとして機能しており、またブドウの果皮などにも含まれる抗酸化物質として知られている。レスベラトロールは二量体を形成し、ε-ビニフェリンとも呼ばれる。また配糖体も存在しており、本発明においては、これらを総称してレスベラトロール類と呼ぶ。レスベラトロール類の中でも、単量体のレスベラトロールが好ましい。レスベラトロール類は、ブドウの果皮や赤ワイン、ピーナッツの赤皮、メリンジョ(グネツム)、イタドリの根から得ることができる。健康食品の原料として販売されており、これを使用することもできる。
【0015】
本発明のDJ-1タンパク質産生促進用組成物として医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、飲料などを例示できる。その投与経路は、経口投与、経皮投与のいずれも可能である。なかでも経皮投与が特に好ましく、化粧品や皮膚外用医薬などの経皮組成物の形態を採用することが好ましい。経口投与などにより、有効成分を皮膚に到達させることもできる。
DJ-1タンパク質産生促進用組成物とするためには、例えば外用剤とする場合、クルクミン類及び/又はレスベラトロール類を、クルクミン換算で、外用剤質量当たり0.001~0.1質量%、あるいはレスベラトロール換算で外用剤質量当たり0.01~1質量%含有させることで、皮膚に塗布等の方法で外用すると皮膚細胞のDJ-1タンパク質を産生促進できる。なおDJ-1タンパク質の産生促進効果を確認するためには、テープストリッピング法などによって皮膚角層試料を採取して、これを特許文献2に記載された操作方法に従って抽出し、ELISA法などで測定する。
【0016】
本発明のクルクミン類及び/又はレスベラトロール類を含むDJ-1タンパク質産生促進用組成物を人に投与する製剤とするために、通常の食品、医薬品、化粧料などの製剤化で使用される任意成分を含有することができる。このような任意成分としては、経口投与組成物であれば、例えば、乳糖や白糖などの賦形剤、デンプン、セルロース、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロースなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤、マルチトールやソルビトールなどの甘味剤、クエン酸などの酸味剤、リン酸塩などの緩衝剤、シェラックやツェインなどの皮膜形成剤、タルク、ロウ類などの滑沢剤、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲルなどの流動促進剤、生理食塩水、ブドウ糖水溶液などの希釈剤、矯味矯臭剤、着色剤、殺菌剤、防腐剤、香料などが好適に例示できる。経皮投与組成物であれば、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリーブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン界面活性剤類、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール等の多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を含有することができる。投与製剤としては、化粧料や塗布剤、貼付剤などの外用剤の形態が好ましい。
【実施例】
【0017】
以下にクルクミンとレスベラトロールのDJ-1タンパク質の産生促進効果を確認した試験例を示し、本発明の組成物の示す効果について具体的に説明する。
【0018】
<培養ヒト皮膚角層細胞を用いたDJ-1タンパク質産生促進試験>
1.試験例1
(1)試験方法
6well plateにHaCaT細胞(ヒト表皮角化細胞株)を播種して培養し、2日後にクルクミンを0、5、10μMになるように添加し、3時間培養した。また同様にレスベラトロールを0、20、40μMになるように添加し、3時間培養した。
培養終了後細胞を回収し、常法によって細胞を破壊して細胞内のDJ-1タンパク質量をウエスタンブロット法により検出した。また細胞内のアクチンタンパク質を同様にウエスタンブロット法で検出し、アクチンタンパク質量に対するDJ-1タンパク質量を計算し、これをDJ-1タンパク質産生量とした。
【0019】
(2)結果
クルクミンによる産生促進試験結果を
図1、レスベラトロールによる産生促進試験結果を
図2に示す。
クルクミン、レスベラトロールは、HaCaT細胞に対して作用し、DJ-1タンパク質産生を促進することが確認できた。
【0020】
2.試験例2(細胞への処理時間を6時間に延長)
(1)試験方法
6well plateに正常ヒト表皮角化細胞を播種して培養し、2日後にクルクミンを0、1、3、10、30μMになるように添加し、6時間培養した。また同様にレスベラトロールを0、0.001、0.01%になるように添加し、さらに6時間培養した。
培養終了後細胞を回収し、常法によって細胞を破壊して細胞内のDJ-1タンパク質量をウエスタンブロット法により検出した。サンプルを添加していない細胞のDJ-1タンパク質発現量を1として、それに対する比率で表記した。
【0021】
(2)結果
クルクミンによる産生促進試験結果を
図3、レスベラトロールによる産生促進試験結果を
図4に示す。
試験例1で用いたHaCaT細胞と異なり正常ヒト表皮角化細胞の結果であるが、ともに表皮角化細胞であり、クルクミン、レスベラトロールの処理時間を延長した場合も、ヒト皮膚細胞に対して作用し、DJ-1タンパク質産生を促進することが確認できた。
またレスベラトロール及びクルクミンは、紫外線などの外部刺激に対する抵抗性を向上させるため、紫外線などの外部刺激に対する抵抗性向上剤として使用できる。
【0022】
3.試験例3(細胞の生存率に対する効果)
(1)試験方法
35mmディッシュに正常ヒト表皮角化細胞を播種し、1日後にクルクミンもしくはレスベラトロールを添加した。添加量は、クルクミンを0、1、3μM、レスベラトロールを0、0.0001、0.001%になるよう添加した。24時間後に細胞をPBS(-)で洗浄し、HANKS液に置換してUVB15mJ/cm2を照射した。なお、細胞の生存率は、照射24時間後にAlamarBlue assayを行い、UVB無照射、サンプル無添加細胞の蛍光強度を1として、それに対する比率で表記した。
【0023】
(2)結果
クルクミンによる細胞生存率測定結果を
図5、レスベラトロールによる細胞生存率測定結果を
図6に示す。
クルクミン、レスベラトロールとも、紫外線照射後の細胞生存率が向上した。特にレスベラトロール0.001質量%を添加した場合の細胞生存率は、UVB無照射を上回った。
したがってクルクミン及びレスベラトロールは皮膚表皮細胞に対する紫外線などの外部刺激に対する抵抗性を改善することが明らかとなった。