(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】1-アセトキシチャビコールアセテート含有物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/56 20060101AFI20220422BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220422BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220422BHJP
A61K 31/08 20060101ALI20220422BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20220422BHJP
C07C 69/16 20060101ALI20220422BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220422BHJP
A23K 20/111 20160101ALI20220422BHJP
A61K 36/9062 20060101ALN20220422BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20220422BHJP
【FI】
C07C67/56
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/08
A61K8/33
C07C69/16
A23K10/30
A23K20/111
A61K36/9062
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2017223311
(22)【出願日】2017-11-21
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】516028255
【氏名又は名称】株式会社リテックス研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】391045392
【氏名又は名称】甲南化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147740
【氏名又は名称】保坂 俊
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 健
(72)【発明者】
【氏名】嶋川 博己
(72)【発明者】
【氏名】亀澤 誠
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-189669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/56
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 31/08
A61K 8/33
C07C 69/16
A23K 10/30
A23K 20/111
A61K 36/9062
A23L 33/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ガランガルを細断して細断物を得る細断工程
(2)前記細断物
に水を加えて細断物及び水を含有するスラリーを得る水処理工程
(3)前記スラリーを固液分離して固形物を得る
とともに夾雑物を含む液相を除去する固液分離工程、及び
(4)前記固形物から有機溶剤で油溶性成分を抽出分離する油溶性成分抽出工程
を含むことを特徴とする1-アセトキシチャビコールアセテート(ACA)含有物の製造方法。
【請求項2】
前記(2)水処理工程で、細断物に対する水の量は、細断物の重量に対し0.1~100倍の重量であることを特徴とする請求項1に記載の1-アセトキシチャビコールアセテート(ACA)含有物の製造方法。
【請求項3】
前記(3)固液分離工程に圧搾手段が含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の1-アセトキシチャビコールアセテート(ACA)含有物の製造方法。
【請求項4】
有機溶剤が水溶性有機溶剤であることを特徴とする前記請求項1~3のいずれか一項に記載の1-アセトキシチャビコールアセテート(ACA)含有物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-アセトキシチャビコールアセテート含有物の製造方法に関し、特に、飲食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品、農薬、化粧品、飼料等の分野において有用な天然物由来の1-アセトキシチャビコールアセテート(1-Acetoxychavicol acetate)含有物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1-アセトキシチャビコールアセテート(以下において、これを、ACAと略記する)含有物は、飲食品、飲食品添加物、化粧品、医薬品、医薬部外品、農薬、飼料等において有用であり、特に強い抗酸化作用を持つことが知られている(非特許文献1)。
【0003】
ACAを得る方法には、化学合成法による製造法(特許文献1)と天然物由来の抽出による製造法が公知である。特に飲食品、食品添加物、化粧品としてACAを使用する場合は、天然物由来のものが望ましい。天然物由来の抽出による製造法は、例えば、熱帯アジア原産の植物であるガランガル(学名Alpinia galanga、ショウガ科)から抽出する方法が知られている(特許文献2~5参照)。ガランガルは、別名ナンキョウ(和名)、カー(タイ語)とも呼ばれ、古くからトムヤンクン等のスープの香辛料として使用される。また、古くから生薬として、胃の粘膜やのど、気管支の炎症を抑える薬としても使用されている。一方、日本で主に生産されている生姜は、主要な有効成分は、辛味成分である、ジンゲロールやショウガオール等であり、上記ガランガルとまったく異なる植物類である。
【0004】
ガランガルに含まれるACAは、上述した作用以外にも抗腫瘍活性、インターロイキン2産生抑制、アンジオテンシン変換酵素阻害作用のような薬理作用が期待され、需要が増加しつつある。しかし、安価に多量に供給することには課題があった。例えば、化学合成による供給は、カラム精製や光学分割等の工程が必要なため、価格が高コストとなった。また、人体への安全性の面でも懸念があった。
【0005】
一方、天然植物由来の熱帯アジア原産のガランガルは、トムヤンクン等のスープの香辛料として古くから食用に使用されている。そのため、ガランガルを用いた抽出による供給は、人体への安全性の面で懸念が少ない。
しかし公知の天然物抽出による供給は、ACA以外の余分な成分が多く含まれていたり、抽出過程でガランガルが分解し低ACA含有物であったりした。そのため、生産効率が悪く高コストとなり、工業的な製造法としては満足のいくものではなかった。
【0006】
例えば、特許文献2では、ガランガルの根茎の絞り汁をクロロホルムで抽出し、液体クロマトグラフィで分取する方法が記載されている。しかし、水溶性成分である絞り汁には、もともと油溶性のACAが含まれていないことは明らかである。従って、得られる抽出液にはACAはほとんど含まれていない。
【0007】
特許文献3では、ガランガルの根茎を細断し、メタノールで抽出した後カラム精製する方法が記載されている。しかし、カラム精製を行う事で高コストとなり、収率も低いため工業的には利用できない。
【0008】
特許文献4では、ガランガルの部位(例えば、根茎)の乾燥物をそのままアルコールや酢酸エチルで抽出する方法が記載されている。しかし、ACAの含有量などの記載はない。
【0009】
特許文献5では、製造工程に凍結乾燥(フリーズドライ)操作を含み高コストとなるため、工業的な製造法として満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-193993号公報
【文献】特許4194744号公報
【文献】特開2005-179201号公報
【文献】特開2003-73288号公報
【文献】WO2014/195479号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】久保田紀久枝 浦上財団研究報告書(1996) Vol.5 p132-138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、1-アセトキシチャビコールアセテート(ACA)を多量に含む「高ACA含有物」を効率的かつ安価に製造することのできる高ACA含有物の工業的製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段は、
(I) (1)ガランガルを細断して細断物を得る細断工程
(2)前記該細断物と水とを含むスラリーを得る水処理工程
(3)前記該スラリーを固液分離して固形物を得る固液分離工程、及び
(4)前記該固形物から有機溶剤で油溶性成分を抽出分離する油溶性成分抽出工程
を含むことを特徴とするACA含有物の製造方法であり、
本発明のACA含有物の製造方法における好適な態様は、
(II) 前記(I)に記載のACA含有物の製造方法における前記(2)水処理工程で、細断物に対する水の量は、細断物の重量に対し0.1~100倍の重量であり、
(III) 前記(I)又は(II)に記載のACA含有物の製造方法における前記(3)固液分離工程で、圧搾手段が含まれ、
(IV) 前記(I)から(III)までのいずれか一項に記載のACA含有物の製造方法における前記(3)固液分離工程で、固形物は、その絶乾固形分率が30%以上であり、
(V) 前記(I)から(IV)までのいずれか一項に記載のACA含有物の製造方法における有機溶剤が水溶性有機溶剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る製造方法によると、ガランガルから親水性の夾雑成分を効果的に除去することができ、さらに固液分離工程(3)で得られた固形物から有機溶剤で油溶性成分を抽出除去しているので、高濃度でACAを含有するとともに保存安定性に優れたACA含有物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の製造方法の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製造方法により得られるACA含有物はACA(化合物1)を主成分とする混合物である。
【化1】
前記ACA含有物には前記化1で示される化合物1のほかに、化合物1の幾何異性体、又は、光学異性体、ラセミ体等を含んでいてもよい。また、前記ACA含有物には、この発明の製造方法に係る工程中に含まれる水によってACAが変性してなる以下の化合物2~化合物4を含んでいてもよい。
【化2】
【化3】
【化4】
【0017】
本発明の製造方法の一態様を、
図1に記載の手順で示すことができる。すなわち、本発明の一態様は、以下の工程(1)~(6)を含む。
【0018】
<細断工程(1)>
この細断工程(1)では、ガランガルを細断して細断物を得る。
前記ガランガルは、熱帯アジア原産の植物であるガランガル(学名Alpinia galanga、ショウガ科)であり、ナンキョウ(和名)、カー(タイ語)とも呼ばれている。
前記ガランガルは乾燥状態であっても、また、非乾燥状態であってもよい。
前記ガランガルは、植物体における根、根茎、茎、花、葉、果実、種子等のいずれの部位であってもこの細断工程(1)における細断対象として採用することができる。前記ガランガルの細断をするのに好適な部位は根、根茎、及び葉であり、特に好適な部位は根、及び根茎である。これらの部位にはACAの含有量が多いからである。
また、ガランガルは、既に食用品として流通しているので、市販品を使用することもできる。ガランガルは、冷蔵品、冷凍品及び乾燥品のいずれであっても本発明の製造方法に使用することができる。
【0019】
ガランガルを細断する方法は、ガランガルを細断することができる限り特に制限がなく、食品加工の分野で一般的に採用されている機械、器具、装置を使用することができる。また、細断する機械、器具、又は装置として、例えば切断力、剪断力、破砕力、摩砕力等の力を利用し、また、水圧又は空気圧等の圧力を利用する細断機及び粉砕機等を利用することができ、具体的には、カッター、チョッパー、スライサー、ダイサー、ミキサー、ミル、グラインダー等を挙げることができる。
ガランガルを細断するに当たり、前記細断機又は破砕機等に応じてガランガルが細断されやすいように、予めガランガルを適宜の大きさに予備的に細断しておいてもよい。例えば家庭用又は工業用のミキサーを使用する場合、ガランガルを数cmの長さ及び巾の形状に切り揃えてその切り揃え物をミキサーに投入するのが好ましい。
【0020】
この細断工程(1)により得られるガランガルの細断物は、細断粒子の集合体である。細断粒子はほぼ球形状、回転楕円体形状、針状、繊維状等のいずれであっても好ましい。次の水処理工程(2)において細断物の水との接触面積が大きいと水によって夾雑物を効率的に抽出することができるが、細断作業及び細断後に得られる細断物の取り扱い等の便宜からすると、細断粒子における長さ方向に沿う長軸が0.1~20mm、好ましくは0.1~5mmであり、その長軸に直交する方向における短軸が0.1~5mm、好ましくは0.1~3mmである。
なお、この細断工程(1)においては、水にガランガルを浸漬した状態でガランガルを細断することもでき、また乾燥状態あるいは半乾燥状態にあるガランガルを、水なしで、細断することもできる。
【0021】
<水処理工程(2)>
この水処理工程(2)では、前記細断物と水とのスラリーを得る。
前記細断工程(1)で、水を用いないで乾燥状態又は非乾燥状態であるガランガルを細断して細断物を得る場合には、水処理工程(2)では、この細断工程(1)で得られる細断物と水とを混合して前記細断物及び水を含有するスラリーを得る。
また、前記細断工程(1)で、水にガランガルを浸漬した状態でガランガルを細断して細断物を得る場合には、この水処理工程(2)では、前記細断工程(1)で得られる、水と細断物との混合物にさらに水を加え、又は水を加えることなく、水及び細断物を含有するスラリーを得る。
【0022】
この工程で得られるスラリーにおける細断物と水との重量比は、前記細断物の重量に対して水を0.1~100倍の重量、好ましくは0.5~20倍の重量、特に好ましくは2~10倍の重量の範囲内から適宜に選択される。
【0023】
この水処理工程(2)では、細断物と水とのスラリーを形成することにより、細断物中に含まれている夾雑物が除去される。この水処理工程(2)によって、水により夾雑物が除去されることは、以下の試験により裏付けられる。
すなわち、表1に示されるように、試験例1~6において、表1に示される量の細断物と表1に示される量の水とを混合してから30分静置し、その後のスラリーをろ過し、得られる水相を蒸発乾固することにより得られる固形分を分析すると固形分中のACA量及びACA以外の成分の量が表1に示される通りであった。
【表1】
【0024】
表1に示されるように、スラリーを固液分離して得られる水相中にはACAが含まれていなかったので、水相中に含まれていた固形分は夾雑物であると判断される。また、スラリーを形成することにより、細断物中の夾雑物が水相に移動することが明らかになった。
【0025】
また、細断物から夾雑物を水に溶出させる効果(すなわち溶出効果)を上げるために、水とともにメタノール、エタノール及びプロパノール等の水溶性アルコール、ホルムアルデヒド及びアセトン等の水溶性ケトン、ジメチルエーテル等の水溶性エーテル等の水溶性有機溶媒を細断物に混合することもできる。
これら水溶性有機溶媒の量は、水に対して1~20質量%の範囲内で適宜に選択される。
細断物と水と必要に応じて添加される水溶性有機溶剤とを混合するには撹拌手段を採用するのが好ましい。撹拌手段により撹拌する撹拌継続時間は、通常30分~8時間である。撹拌手段による撹拌は常温で行ってもよく、また加熱下で行っても好ましい。
【0026】
細断物と水と必要に応じて添加される水溶性有機溶剤とを混合して得られるスラリーは、前記撹拌手段による撹拌の終了後にさらに10分から数時間程度静置しておくのが好ましい。静置しておくことによりスラリーが固形分相と水相とに分離して次の工程である固液分離操作が容易になるとともに、水相への夾雑物の溶出が十分に進行して固形分相中に含まれる夾雑物の含有量を極力少なくすることができる。
スラリーを静置しておく期間中、スラリーを常温下においてもよく、また加熱しても好い。加熱するとACAの分解の恐れがあるから加熱温度はできるだけ低く、また加熱時間を短くするのが好ましい。
【0027】
この水処理工程(2)は、細断物に含まれる夾雑物を水に溶出させる作用を発揮させる工程であるから、この水処理工程(2)の別の態様として、細断物に水と必要に応じて添加される水溶性有機溶剤とを連続的に常温下又は加熱下に還流する操作を挙げることができる。
【0028】
<固液分離工程(3)>
この固液分離工程(3)では、前記水処理工程(2)で得られたスラリーから固形物を得る。
スラリーから固形物を分離するには、通常行われる濾紙や濾布などのフィルターを用いて自然濾過もしくは加圧濾過、減圧濾過などの濾過手段を採用することができる。また、濾過に際して圧力をかけるフィルタプレスを採用することもできる。濾過手段に替えて遠心分離手段を採用することもできる。要するにスラリーを固液分離することができる方法であれば、特に制限がない。
【0029】
この固液分離工程(3)において分離された固形物を圧搾手段でさらに圧搾すると固形物から液体(水分)を絞り出すことができる。絞り出された液体、つまりその絞り汁は、水性であるので油溶性であるACAを含有していない。したがって、絞り汁に含まれる液体及びその液体中に含まれる固形物は夾雑物である。従って、圧搾手段は、最終産物(ACA含有物)の純度をさらに高めることのできる好適な手段である。
圧搾手段は、特に限定されないが、例えば、油圧プレス機やロールプレス機が好適である。圧搾する圧力は、50~250kg/cm2の範囲で適宜に選択することができるが、150kg/cm2以上が好ましい。
【0030】
この固液分離工程(3)では、効率よく固形物から液体を分離することが好ましい。前記の濾過手段、遠心分離手段、圧搾手段によって得られる固形物には水分、細断されたガランガル組織に含まれる液体成分が含まれている。この段階で得られる固形分に含まれる水分あるいは液体成分に夾雑物が含まれていると懸念される場合には、この段階で得られる固形分と水又は水と必要に応じて加えられる水溶性有機溶剤とを混合し、得られる混合物を前記濾過手段、遠心分離手段又は圧搾手段に供して固形分中の夾雑物の含有量を無視可能な程度に低めるのが好い。
【0031】
かくして得られる固形物には、幾分かの水分が含まれているので、さらにこの固形物を乾燥状態にするのが好ましい。水分の含まれる固形分を次の抽出工程(4)に供すると抽出液に水が含まれることになり、そうすると抽出液をさらに油相と水相とに分離するという余計な操作を余儀なくされるからである。
絶乾状態の固形物(以下、絶乾固形物)は、該固形物を加熱し完全に乾燥することにより得ることができる。
この固液分離工程(3)で得られる固形物は、その絶乾固形分率が7%以上、特に7~95%、好ましくは30~95%、さらに好ましくは50~95%の範囲にあるように適宜に決定される絶乾固形分率になるように調整される。特に30%以上であれば、その後の抽出工程でACAの抽出工程で乳化が起こりにくく抽出の作業性(効率)が向上する。
【0032】
なお、本発明において、絶乾固形分率(%)は、次のようにして算出される。
絶乾固形分率(%)=[絶乾状態の固形物重量(g)/固形物重量(g)]×100
絶乾固形分率を調整するには、固形物を真空乾燥操作、熱風乾燥操作、送風乾燥操作に供するのが好ましい。
【0033】
<油溶性成分抽出工程(4)>
この油溶性成分抽出工程(4)では、前記固液分離工程(3)で得られた固形物を抽出溶媒で油溶性成分を抽出する。
前記抽出溶媒は、ACAを安定に抽出できるものであれば特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、ブチルアルコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、グリセリン、アセトン等を挙げることができる。また、2種以上の溶媒を混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。前記抽出溶媒の中でも、好ましくは、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、酢酸エチル、ヘキサン、ヘプタンであり、特に、ACAの抽出効率、及び人体への安全性の観点から水溶性有機溶剤、特にエタノールが好ましい。
油溶性成分抽出工程(4)における抽出溶媒の使用量は、固液分離工程(3)で得られた固液分1質量部に対し、0.1~1000質量部の範囲で適宜に選択され、好ましくは0.5~500質量部、より好ましくは1.0~150質量部の範囲で適宜に選択される。
【0034】
この油溶性成分抽出工程(4)における抽出処理は、常圧もしくは加圧雰囲気下で、通常は0~200℃、好ましくは25~150℃、より好ましくは50~120℃の加熱下で、固形物と抽出溶媒との混合物を加熱し、又は前記絶乾固形分を前記抽出溶媒で加熱還流する操作をもって行われる。通常、抽出処理時間は30分以上であるのが好ましい。
【0035】
なお、前記水処理工程(2)及び固液分離工程(3)を省略して細断工程(1)で得られた細断物をこの油溶性成分抽出工程(4)に供すると、ACAの含有率が低くて、しかも保存安定性の悪いACA含有物が得られてしまう。よって、前記水処理工程(2)及び固液分離工程(3)を省略するべきではない。
【0036】
また、この油溶性成分抽出工程(4)では、必要に応じてpH調整を行うときには酸又は塩基を適宜に添加しても良い。
用いる事ができる酸としては、ACAを安定に抽出できるものであれば特に限定されない。例えば、食品添加物としても認められている塩酸、リン酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸等があげられる。
用いる事ができる塩基としては、ACAを安定に抽出できるものであれば特に限定されない。例えば、食品添加物としても認められている酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等があげられる。
【0037】
<濃縮工程(5)>
本発明の製造方法は、前記細断工程(1)から油溶性成分抽出工程(4)までの工程を経ることにより、高濃度でACAを含有するACA含有物を製造することができる。
前記油溶性成分抽出工程(4)で得られた抽出液は、ACAの保存安定性に優れたACA含有物である。
しかし、抽出液は、抽出するための有機溶剤を含むため、有機溶媒を除く工程、すなわち濃縮操作を行う工程を含むことが好ましい。
有機溶媒を除く濃縮操作は、従来から一般に行われている公知の方法を用いることができる。
公知の濃縮方法として、例えば真空乾燥方法、熱風乾燥方法、送風乾燥方法、凍結乾燥方法、オーブン乾燥方法、マイクロ波加熱乾燥方法、天日乾燥方法等公知の乾燥方法等を挙げることができる。また、粉末化を行うために、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、エアードライヤー等の公知の手段を適宜に採用することができる。
ACA含有物に含まれるACA以外の成分は、保存安定性を著しく低下させない成分であり具体的には種々の油脂類などが含まれる。
【0038】
また、高純度の少なくともACAを含有する高濃度濃縮ACA含有液、又は少なくともACAを高純度で含有する粉末を製造するためには、吸着剤を使用するのが好ましい。吸着剤は前記油溶性成分抽出工程(4)で得られる抽出液に投入されてもよく、また、この後処理工程(5)で使用することもできる。
前記吸着剤としては、ACAに影響を与えなければ特に限定されないが、例えば、活性炭素、シリカゲル、活性アルミナ、活性白土等を挙げることができる。特に活性炭素、シリカゲルを用いると高濃度でACAを含有するACA含有物を製造することが可能のため好ましい。
【0039】
また、医薬品や医薬部外品、一部の機能性食品、化粧品等の用途の場合さらに高濃度のACA含有物を製造する必要がある。その場合、本発明で得られたACA含有物を溶剤抽出やカラムクロマトグラフィーによる精製処理を行って純度を95%以上に高めることもできる。
【0040】
本発明に係る製造方法により得られるACA含有物は、これを出発原料として、各種の有用な誘導体にすることができる。
前記ACAを加水分解することにより容易に4-((E)-3-ヒドロキシ-1-プロぺニル)フェニルアセテート、さらにアセチル化したアセチル化物を得ることができる。
また、本発明で得られたACA含有物は、そのままで食品素材、特に辛味増強素材として各種食品中に配合することも可能である。あるいは、医薬品、医薬部外品、さらには、特定保健用食品、機能性食品、栄養補助食品等に用いることができる。形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液剤、ゲル、気泡等とすることができる
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明のより一層の深い理解のために示される具体例であって、本発明は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。化合物の同定及び純度測定は、R-90H型高分解能NMR(90MHz、株式会社日立製作所製)、液体高速クロマトグラフィー「LaChon ELITEシリーズ(株式会社日立ハイテクサイエンス製)によって確認した。
【0042】
(実施例1)
細断工程として、非乾燥状態の、つまり生のガランガルの根茎1000g(絶乾重量80g)を粉砕機「カッターミキサー25S」(株式会社愛工舎製作所製)で細断することにより細断物を得た。
水処理工程として、この細断物1000gと水3000gとを混合し、得られる混合物を撹拌下に50℃に1時間加温してスラリーを得た。
固液分離工程として、このスラリーを「オイルプレスKSP-5M」(有限会社新駒形機械製作所製)を用いて150kg/cm2の圧力で圧搾することにより固形物を得た。この固形物の絶乾固形分率が31%であった。
抽出工程として、前記固形物にエタノール2000gを加え、65℃で2時間ゆっくりと攪拌して、抽出を行った。抽出後の残渣をろ過した後、減圧下にエタノールを留去することにより、濃縮されたACA含有物11.1gを得た。ACA含有率は、55%であった。
【0043】
ACAの含有率(%)は、液体クロマトグラフィにより検量線を作成して算出した。
なお、本発明において、ACA抽出効率(%)は、次のようにして算出される。
ACA抽出効率(%)=[ACA含有物重量(g)/原料の絶乾重量(g)]×ACA含有率(%)
本実施例において、ACA抽出効率は、7.6%であった。
【0044】
(実施例2)
固液分離工程における圧搾の代わりに減圧濾過を行った外は前記実施例1と同様に実施した。その結果、絶乾固形分率が7%である固形物を得た。得られたACA含有物は12.1gであり、ACA含有率は、35%であり、ACA抽出効率は、5.3%であった。
(実施例3)
固液分離工程で遠心濾過(1760G)を行った外は前記実施例1と同様に実施した。その結果、絶乾固形分率が13%の固形物を得た。ACA含有物は10.5gであり、ACA含有率は、39%であり、ACA抽出効率は、5.1%であった。
(実施例4)
固液分離工程で実施例1と同様のプレス機にて100kg/cm2の圧力で圧搾した外は前記実施例1と同様に実施した。その結果、絶乾固形分率が21%の固形物を得た。ACA含有物は12,3gであり、ACA含有率は50%であり、ACA抽出効率は、7.7%であった。
【0045】
(実施例5)
実施例1の水処理工程において、添加する水の量を2000g(原料重量に対して2倍量)に変更した以外は実施例1と同様な操作を行った。その結果、ACA含有物は11.9gであり、ACA含有率が50%であり、また、ACA抽出効率が7.4%であった。
(実施例6)
実施例1の水処理工程において、添加する水の量を1000g(原料重量に対して1倍量)に変更した外は実施例1と同様な操作を行った。その結果、ACA含有物は10.9gであり、ACA含有率が35%であり、ACA抽出効率は4.8%であった。
【0046】
(実施例7)
実施例1の抽出溶媒のエタノールを用いる代わりに、メタノールに変更した外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果、ACA含有物は12.1gであり、ACA含有率は41%であり、ACA抽出効率が6.2%であった。
(実施例8)
実施例1において、抽出溶媒のエタノールを用いる代わりに、酢酸エチルに変更した外は、実施例1と同様な操作行った。その結果、ACA含有物は8.4gであり、ACA含有率が45%であり、また、ACA抽出効率が4.7%であった。
(実施例9)
実施例1において、抽出溶媒のエタノールを用いる代わりに、ヘキサンに変更した外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果、ACA含有物が4.9gであり、ACA含有率が55%であり、ACA抽出効率が3.4%であった。
(実施例10)
実施例1において、抽出溶媒のエタノールを用いる代わりに、75%エタノール水溶液に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果、ACA含有物が7.5gであり、ACA含有率が31%であり、ACA抽出効率が2.9%であった。
【0047】
(実施例11)
細断工程として、あらかじめガランガルから水分を一部除いた乾燥ガランガルの根茎100g(絶乾重量90g)を原料として粉砕機「カッターミキサー25S」(株式会社愛工舎制作所製)を用いてガランガルの細断物100gを得た。
水処理工程として、前記細断物100gと水300gとを混合して得られる混合物を50℃に加温しつつ3時間撹拌することにより、スラリーを得た。
固液分離工程として、このスラリーを「オイルプレスKSP-5M」(有限会社新駒形機械製作所製)を用いて150kg/cm2の圧力で圧搾することにより固形物を得た。この固形物をさらに絶乾処理をすると、絶乾固形分率が80%であった。
抽出工程として、固形物にエタノール890gを加え、65℃で2時間ゆっくりと攪拌して、抽出を行った。抽出後の残渣をろ過した後、減圧下に溶剤を留去し濃縮させてACA含有物10.1gを得た。ACA含有率は53%であった。また、ACA抽出効率は5.9%であった。
【0048】
(実施例12)
実施例11と同様に乾燥ガランガルを粉砕した後、水処理工程において、水300g(原料重量に対して3倍量)に対してエタノールを濃度が5重量%になるように加えて50℃に加温して1時間浸漬させ攪拌しながらスラリーとしたことの外は、前記実施例11と同様に実施した。その結果、ACA含有物が10.5gであり、ACA含有率が55%であり、ACA抽出効率が6.4%であった。
【0049】
(実施例13)
実施例11の抽出溶媒のエタノールを用いる代わりに、酢酸エチルに変更した外は、実施例11と同様に実施した。その結果、ACA含有物が8.2gであり、ACA含有率が55%であり、また、ACA抽出効率が5.0%であった。
【0050】
(実施例14)
細断工程として、非乾燥状態の、つまり生のガランガルの根茎1000g(絶乾重量80g)を粉砕機「カッターミキサー25S」(株式会社愛工舎製作所製)で細断することにより細断物を得た。
水処理工程として、この細断物1000gと水3000gとを混合し、得られる混合物を撹拌下に50℃に1時間加温してスラリーを得た。
固液分離工程として、このスラリーを「オイルプレスKSP-」(有限会社新駒形機械製作所製)を用いて150kg/cm2の圧力で圧搾することにより固形物を得た。この固形物をさらに50℃及び5時間の温風乾燥処理することにより、絶乾固形分率が50%である固形物を得た。
抽出工程として、前記固形物にエタノール2000gを加え、65℃で2時間ゆっくりと攪拌して、抽出を行った。抽出後の残渣をろ過した後、減圧下にエタノールを留去することにより、濃縮されたACA含有物11.3gを得た。ACA含有率は57%であり、
ACA抽出効率が8.1%であった。
【0051】
(実施例15)
実施例1において固液分離工程で得られた絶乾固形分率31%のガランガル固形物をさらに60℃5時間の減圧乾燥を行い、絶乾固形分率が88%である固形物を得た。
抽出工程として、前記固形物にエタノール2000gを加え、65℃で2時間ゆっくりと攪拌して、抽出を行った。抽出後の残渣をろ過した後、減圧下にエタノールを留去することにより、濃縮されたACA含有物11.5gを得た。ACA含有率は、59%であり、ACA抽出効率が8.5%であった。
【0052】
(比較例1)
細断工程として、非乾燥(生の)ガランガルの根茎1000g(絶乾重量80g)を粉砕機「カッターミキサー25S」(株式会社愛工舎製作所製)を用いて粉砕して細断物を得た。
実施例1の水処理工程、固液分離工程を省略し、油溶性成分抽出工程として、前記細断物にエタノール2000gを加え、65℃で2時間ゆっくりと攪拌して、抽出を行った。抽出後の残渣をろ過した後、減圧下に溶剤を留去し、濃縮させてACA含有物11.4gを得た。ACA含有率は24%であり、ACA抽出効率が3.4%であった。
【0053】
(比較例2)
非乾燥(生の)ガランガルの根茎1000g(絶乾重量80g)を粉砕機「カッターミキサー25S」(株式会社愛工舎製作所製)を用いて粉砕した。粉砕により、ガランガル自身に含まれていた水分と細断物との混合物が、得られた。
前記混合物について、実施例1の水処理工程を省略し、実施例1と同様の固液分離工程を行ない、これによって固形物を得、油溶性成分抽出工程として、固形物にエタノール2000gを加え、65℃で2時間ゆっくりと攪拌して、抽出を行った。抽出後の残渣をろ過の後、減圧下溶剤を留去し濃縮させてACA含有物11.9gを得た。ACA含有率は、26%であった。また、ACA抽出効率は、3.9%であった。
【0054】
(比較例3)
水処理工程を省略して外は、前記実施例8と同様に実施した。その結果、ACA含有物を7.6g得た。ACA含有率は29%であり、ACA抽出効率が2.8%であった。
【0055】
(比較例4)
油溶性成分抽出工程として、表2に示される抽出条件にて水3000mLを加え、90℃で6時間抽出したほかは前記比較例1と同様に実施した。抽出後の残渣をろ過の後、減圧下溶剤を留去し濃縮させて固形物5.2gを得た。ACAは、検出されなかった。
【0056】
(比較例5)
あらかじめガランガルから水分を一部除いた乾燥ガランガルの根茎100g(絶乾重量90g)を原料として粉砕機「カッターミキサー25S」(株式会社愛工舎製作所製)を用いて、ガランガルの細断物を得た。実施例11の水処理工程、圧搾工程を省略し、前記細断物にエタノール2000gを加え、65℃で2時間ゆっくりと攪拌して、油溶性成分抽出処理を行った外は前記実施例11と同様に実施した。油溶性成分抽出処理後の残渣をろ過した後、減圧下に溶剤を留去して濃縮させることによりACA含有物9.2gを得た。ACA含有率は、33%であった。また、ACA抽出効率は、3.4%であった。
【0057】
(比較例6)
比較例5の抽出溶媒のエタノールを用いる代わりに、酢酸エチルに変更した以外は、比較例5と同様な操作を行った。その結果、ACA含有物9.4gを得た。ACA含有率は、28%であった。また、ACA抽出効率は、2.9%であった。
【0058】
実施例1~15、比較例1~6の結果を表2に示す。
【0059】
ACA含有物の保存安定性については、得られたACA含有物0.1gを10mlの40%エタノール溶液に溶かして、60℃で10日間保管して着色の進行変化を調べた。
表2における「保存安定性」の評価につき、
400 nm吸光度変化が5%未満のものを○とし、
5%以上10%未満の変化が認められたものを△とし、
10%以上の着色変化が認められたものを×とした。
表2における総合評価は次の基準内容に従った。
評価A:ACA含有率が40%以上、かつ、保存安定性が〇
評価B:ACA含有率が30%以上40%未満、かつ、保存安定性が〇
評価C:ACA含有率が30%未満であるとともに保存安定性が△若しくは×、又は、ACA含有率が30%を超えるとしても保存安定性が×
【表2】
表1及び2から明らかなように、本発明の方法を用いれば、従来公知の方法と比較して、高い含有量のACA含有物を提供可能で、更に、ACA抽出効率が高いため、製造にも適していることが明らかである。また、保存安定性にも優れる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、トムヤンクン等のスープの香辛料として古くから食用に使用されている天然物のガランガルから、その有効成分であるACAを多く含有する高ACA含有物を得る工業的製造方法を提供することができる。特に本発明により、人体への安全性への懸念が少なく、効率的かつ安価な高ACA含有物の工業的製造方法を提供することができる。また、本発明により提供されるACA含有物は、品質の劣化が抑制される特徴を有している。さらに本発明により提供される高ACA含有物は、飲食品、医薬品、医薬部外品、農薬、化粧品、飼料、特に健康食品の分野で添加物として有用である。