(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】触覚センサ、触覚測定装置、学習済みモデル、および識別装置
(51)【国際特許分類】
G01B 5/28 20060101AFI20220422BHJP
G01L 5/16 20200101ALI20220422BHJP
G01N 19/02 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
G01B5/28 102
G01L5/16
G01N19/02 C
(21)【出願番号】P 2018003036
(22)【出願日】2018-01-12
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017007225
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ナノ触覚デバイス,ナノ触覚神経網技術の実現と応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高尾 英邦
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/133113(WO,A1)
【文献】特公昭28-4136(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00-5/30
G01L 5/16
G01N 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
測定対象物と接触する接触面を有する大接触子と、
前記測定対象物との接触面積が前記接触面よりも小さい接触端を有する小接触子と、
前記大接触子を前記基部に対して、少なくとも前記接触面に対して垂直な方向に変位可能に支持する大接触子支持体と、
前記大接触子の前記基部に対する変位を検出する大接触子変位検出器と、
前記小接触子を前記大接触子に対して変位可能に支持する小接触子支持体と、
前記小接触子の前記大接触子に対する変位を検出する小接触子変位検出器と、を備える
ことを特徴とする触覚センサ。
【請求項2】
前記大接触子は、
本体部と、
前記接触面の一部または全部を含む横行部と、
前記横行部を前記本体部に対して、前記接触面と平行な方向に変位可能に支持する横行部支持体と、
前記横行部の前記本体部に対する変位を検出する横行部変位検出器と、を備える
ことを特徴とする請求項1記載の触覚センサ。
【請求項3】
前記大接触子は、
本体部と、
前記接触面の一部を含む複数の横行部と、
前記複数の横行部を前記本体部に対して、前記接触面と平行な方向に変位可能に支持する複数の横行部支持体と、
前記複数の横行部の前記本体部に対する変位を検出する複数の横行部変位検出器と、を備え、
前記複数の横行部は前記接触面の面積が互いに異なる
ことを特徴とする請求項1記載の触覚センサ。
【請求項4】
前記大接触子支持体は、前記大接触子を前記基部に対して、前記接触面と平行な方向にも変位可能に支持する
ことを特徴とする請求項1記載の触覚センサ。
【請求項5】
前記大接触子は、側面の一部が前記接触面をなす平板状であり、前記接触面を2つに分割する開口を有する内部空間を有しており、
前記小接触子は前記内部空間に配置されており、
前記大接触子の表裏面の一方または両方に保護板が設けられており、
前記保護板は、前記内部空間の開口を覆い、側面または側縁の一部が前記接触面の延長面上に配置されている
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の触覚センサ。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の触覚センサが設けられる触覚測定装置であって、
前記触覚センサおよび/または前記測定対象物を動作させ、前記触覚センサを前記測定対象物に押し当てる押当器と、
前記触覚センサおよび/または前記測定対象物を動作させ、前記触覚センサを前記測定対象物の表面に沿って摺動させる走査器と、を備える
ことを特徴とする触覚測定装置。
【請求項7】
前記触覚センサの前記大接触子変位検出器で検出された押し当て力が入力され、該押し当て力が所定値となるように前記押当器の動作を制御する制御装置を備える
ことを特徴とする請求項6記載の触覚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚センサ、触覚測定装置、学習済みモデル、および識別装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、人間が感じる手触り感の定量化を目的とした触覚センサおよび触覚測定装置に関する。また、本発明は、測定対象物の種類を識別するための学習済みモデルおよび識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の触覚を工学的に模した触覚センサとして種々のものが開発されている。中でも、半導体マイクロマシニング技術により形成した触覚センサは、多くのセンサ信号を少ない配線で読み出せることから、多数のセンサ部を高密度に配置することが可能であり、位置分解能が高いという長所を有する。
【0003】
特許文献1には先端部が微小な接触子を有する触覚センサが開示されている。触覚センサを測定対象物に押し当てながら摺動させ、接触子の変位を検出することで、測定対象物表面の微細な凹凸や微小領域の摩擦力を検知できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定対象物を強く撫でたときと弱く撫でたときとでは、測定対象物表面の形状や性質が変化し、手触り感が変化する場合がある。そのため、測定対象物の手触り感を評価するにあたって、測定対象物への触覚センサの押し当て力が重要な要素になる場合がある。
【0006】
また、触覚センサで得られた測定データに基づいて測定対象物の種類を識別することが求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、測定対象物表面の微細な特性を検知できるとともに、測定対象物への触覚センサの押し当て力を検知できる触覚センサおよび触覚測定装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、測定対象物の種類を識別できる学習済みモデルおよび識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の触覚センサは、基部と、測定対象物と接触する接触面を有する大接触子と、前記測定対象物との接触面積が前記接触面よりも小さい接触端を有する小接触子と、前記大接触子を前記基部に対して、少なくとも前記接触面に対して垂直な方向に変位可能に支持する大接触子支持体と、前記大接触子の前記基部に対する変位を検出する大接触子変位検出器と、前記小接触子を前記大接触子に対して変位可能に支持する小接触子支持体と、前記小接触子の前記大接触子に対する変位を検出する小接触子変位検出器と、を備えることを特徴とする。
第2発明の触覚センサは、第1発明において、前記大接触子は、本体部と、前記接触面の一部または全部を含む横行部と、前記横行部を前記本体部に対して、前記接触面と平行な方向に変位可能に支持する横行部支持体と、前記横行部の前記本体部に対する変位を検出する横行部変位検出器と、を備えることを特徴とする。
第3発明の触覚センサは、第1発明において、前記大接触子は、本体部と、前記接触面の一部を含む複数の横行部と、前記複数の横行部を前記本体部に対して、前記接触面と平行な方向に変位可能に支持する複数の横行部支持体と、前記複数の横行部の前記本体部に対する変位を検出する複数の横行部変位検出器と、を備え、前記複数の横行部は前記接触面の面積が互いに異なることを特徴とする。
第4発明の触覚センサは、第1発明において、前記大接触子支持体は、前記大接触子を前記基部に対して、前記接触面と平行な方向にも変位可能に支持することを特徴とする。
第5発明の触覚センサは、第1、第2、第3または第4発明において、前記大接触子は、側面の一部が前記接触面をなす平板状であり、前記接触面を2つに分割する開口を有する内部空間を有しており、前記小接触子は前記内部空間に配置されており、前記大接触子の表裏面の一方または両方に保護板が設けられており、前記保護板は、前記内部空間の開口を覆い、側面または側縁の一部が前記接触面の延長面上に配置されていることを特徴とする。
第6発明の触覚測定装置は、第1、第2、第3、第4または第5発明の触覚センサが設けられる触覚測定装置であって、前記触覚センサおよび/または前記測定対象物を動作させ、前記触覚センサを前記測定対象物に押し当てる押当器と、前記触覚センサおよび/または前記測定対象物を動作させ、前記触覚センサを前記測定対象物の表面に沿って摺動させる走査器と、を備えることを特徴とする。
第7発明の触覚測定装置は、第6発明において、前記触覚センサの前記大接触子変位検出器で検出された押し当て力が入力され、該押し当て力が所定値となるように前記押当器の動作を制御する制御装置を備えることを特徴とする。
第8発明の学習済みモデルは、測定対象物の表面位置に対する、凹凸量、微小領域摩擦力、平均摩擦力、および押し当て力のうちの一または複数の波形を構成する測定データ、または該測定データに所定の処理を施して得られた処理後データである触覚データに基づいて、前記測定対象物の種類を特定するようコンピュータを機能させるための学習済みモデルであって、前記測定対象物を測定して得られた前記触覚データを含む学習データを用いて、予め機械学習が行われた学習器を構成し、前記学習器に前記測定対象物を測定して得られた前記触覚データが入力されると、該測定対象物の種類情報を出力するよう、コンピュータを機能させることを特徴とする。
第9発明の学習済みモデルは、第8発明において、前記処理後データは、前記測定データをグラフ化したグラフ画像であることを特徴とする。
第10発明の学習済みモデルは、第8発明において、前記処理後データは、前記測定データが構成する波形の変位を画素の色として表した変位画像であることを特徴とする。
第11発明の学習済みモデルは、第8発明において、前記処理後データは、前記測定データに信号処理を施して得られた信号処理データであることを特徴とする。
第12発明の学習済みモデルは、第8発明において、前記処理後データは、前記測定データに信号処理を施して得られた信号処理データをグラフ化したグラフ画像であることを特徴とする。
第13発明の学習済みモデルは、第8発明において、前記処理後データは、前記測定データに信号処理を施して得られた信号処理データが構成する波形の変位を画素の色として表した変位画像であることを特徴とする。
第14発明の識別装置は、第8、第9、第10、第11、第12または第13発明の学習済みモデルがインストールされたコンピュータからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、接触面積の小さい接触端を有する小接触子の変位を検出することで、測定対象物表面の微細な特性を検知できる。また、接触面積の大きい接触面を有する大接触子の押し込み方向の変位を検出することで、測定対象物への触覚センサの押し当て力を検知できる。
第2発明によれば、横行部の横ずれ方向の変位を検出することで、測定対象物の平均摩擦力を検知できる。
第3発明によれば、接触面積が異なる複数の横行部を備えるので、種々の測定レンジにおける平均摩擦力を検知できる。
第4発明によれば、大接触子の横ずれ方向の変位を検出することで、測定対象物の平均摩擦力を検知できる。
第5発明によれば、繊維で構成された測定対象物を測定する場合でも、保護板により大接触子の開口の内部に繊維が進入することを抑制でき、繊維が小接触子に引っ掛かることを防止できる。その結果、繊維で構成された測定対象物の微細な特性を検知できる。
第6発明によれば、触覚センサを測定対象物に押し当てながら摺動させることで、測定対象物の手触り感を測定できる。
第7発明によれば、測定対象物への触覚センサの押し当て力を一定にできるので、測定対象物の手触り感を精度良く測定できる。
第8~第14発明によれば、測定対象物の種類を識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る触覚センサの平面図である。
【
図2】(A)図は梁に歪がない場合の歪検出素子の説明図であり、(B)図は梁に歪がない場合の歪検出素子の説明図である。
【
図4】触覚センサを用いた検出方法の説明図である。
【
図5】触覚センサから得られる各種信号を例示するグラフである。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る触覚センサの平面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る触覚センサの平面図である。
【
図8】本発明の第4実施形態に係る触覚センサの平面図である。
【
図9】本発明の第5実施形態に係る触覚センサの平面図である。
【
図10】本発明の第6実施形態に係る触覚センサの平面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る触覚測定装置の平面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る識別装置の平面図である。
【
図15】(A)図はフライス編みの生地への触覚センサの押し当て力を弱くした場合に得られた信号の時間変化を示す。(B)図はフライス編みの生地への触覚センサの押し当て力を中位にした場合に得られた信号の時間変化を示す。(C)図はフライス編みの生地への触覚センサの押し当て力を強くした場合に得られた信号の時間変化を示す。
【
図16】(A)図は鹿の子編みの生地への触覚センサの押し当て力を弱くした場合に得られた信号の時間変化を示す。(B)図は鹿の子編みの生地への触覚センサの押し当て力を中位にした場合に得られた信号の時間変化を示す。(C)図は鹿の子編みの生地への触覚センサの押し当て力を強くした場合に得られた信号の時間変化を示す。
【
図17】(A)図は触覚センサを毛先方向に走査した期間における信号の時間変化を示す。(B)図は触覚センサを根本方向に走査した期間における信号の時間変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔第1実施形態〕
(構造)
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る触覚センサ1はSOI基板などの半導体基板を半導体マイクロマシニング技術により加工して形成したものである。触覚センサ1の全体的な寸法は特に限定されないが、数mm四方から数十mm四方である。
【0012】
触覚センサ1は基部10と、大接触子20と、小接触子30とを有している。基部10と大接触子20との間には、大接触子20を基部10に対して支持する大接触子支持体40が設けられている。大接触子20と小接触子30との間には、小接触子30を大接触子20に対して支持する小接触子支持体50が設けられている。これらの構成部材は半導体基板を所定のパターンでエッチングして不要部分を除去することで形成される。したがって、基部10、大接触子20、小接触子30は、いずれも平板状である。
【0013】
触覚センサ1はその一側面を測定対象物と対向するセンシング面としている。本実施形態では、触覚センサ1の側面のうち
図1における上面をセンシング面としている。
【0014】
基部10はセンシング面側が開口した略U字形をしている。基部10の内部空間に大接触子20が配置されている。大接触子20は基部10よりセンシング面側に突出している。大接触子20の突出部分の側面のうち、センシング面の一部を構成し、測定対象物と接触する面を接触面21と称する。換言すれば、大接触子20の側面の一部が接触面21をなしている。
【0015】
接触面21は平坦な面であり測定対象物との接触面積をある程度有している。なお以下では、接触面21に対して垂直な方向(
図1におけるx方向)を「押し込み方向」と称する。また、接触面21と平行な方向(
図1におけるy方向)を「横ずれ方向」と称する。
【0016】
大接触子20は接触面21の端に位置する角部が円弧状に形成されている。そのため、測定対象物に接触面21を接触させた状態で摺動させた場合に、大接触子20の角部が測定対象物に引っ掛かることを抑制できる。なお、大接触子20の角部を円弧状に形成しなくてもよい。
【0017】
大接触子支持体40は複数の横梁41からなる。各横梁41は基部10と大接触子20との間に架け渡されている。各横梁41は弾性を有しており、板バネと同様の性質を有する。また、各横梁41は接触面21と平行に配置されている。したがって、横梁41は大接触子20の基部10に対する押し込み方向xの変位を許容する。換言すれば、大接触子20は基部10に対して押し込み方向xに変位可能に支持されている。なお、大接触子20は基部10に対して横ずれ方向yには変位不可能となっている。
【0018】
本実施形態では、横梁41は大接触子20の両側に6本ずつ合計12本設けられているが、その本数や寸法は特に限定されない。大接触子支持体40として必要な弾性が得られるように、横梁41の本数や寸法を設定すればよい。
【0019】
大接触子20はセンシング面側に開口を有する内部空間を有している。この内部空間により接触面21が2つに分割されている。大接触子20の内部空間に小接触子30および小接触子支持体50が配置されている。
【0020】
小接触子30は棒状の部材であり、その中心軸が接触面21に対して垂直に配置されている。また、小接触子30の一方の先端部は、大接触子20のセンシング面側の開口部に挿入されている。この先端部に接触端31が設けられている。接触端31はセンシング面の一部を構成し、測定対象物と接触する。
【0021】
接触端31の形状は特に限定されないが、半円形または扇形とすればよい。接触端31の測定対象物との接触面積は、接触面21の測定対象物との接触面積よりも小さく設定されている。
【0022】
接触端31は接触面21を延長した面内に配置してもよいし、接触面21から外部に突出するように配置してもよい。また、測定対象物が柔らかく、測定対象物の一部が2つの接触面21、21の間に食い込む場合には、接触端31を接触面21より内部に引っ込むように配置してもよい。
【0023】
小接触子支持体50は複数の横梁51と、複数の縦梁52と、2つの島部53とからなる。大接触子20の内部空間には、小接触子30を挟む位置に2つの島部53が配置されている。各横梁51は小接触子30と島部53との間に架け渡されている。各縦梁52は島部53と大接触子20との間に架け渡されている。
【0024】
各横梁51は弾性を有しており、板バネと同様の性質を有する。また、各横梁51は接触面21と平行に配置されている。したがって、横梁51は小接触子30の大接触子20に対する押し込み方向xの変位を許容する。各縦梁52は弾性を有しており、板バネと同様の性質を有する。また、各縦梁52は接触面21に対して垂直に配置されている。したがって、縦梁52は小接触子30の大接触子20に対する横ずれ方向yの変位を許容する。すなわち、小接触子30は大接触子20に対して押し込み方向xおよび横ずれ方向yに変位可能に支持されている。
【0025】
本実施形態では、横梁51は小接触子30の両側に4本ずつ合計8本設けられているが、その本数や寸法は特に限定されない。また、縦梁52は、各島部53の両側に2本ずつ合計8本設けられているが、その本数や寸法は特に限定されない。小接触子支持体50として必要な弾性が得られるように、横梁51および縦梁52の本数や寸法を設定すればよい。
【0026】
大接触子20は本体部22と、横行部23と、横行部23を本体部22に対して支持する横行部支持体24とを有する。横行部23は大接触子20のセンシング面側の一部分であり、接触面21の一部を含む。本実施形態の横行部23は2つに分割された接触面21の一方を含んでいる。本体部22は大接触子20の横行部23および横行部支持体24を除くその他の部分である。
【0027】
横行部支持体24は複数本の縦梁25からなる。各縦梁25は横行部23と本体部22との間に架け渡されている。各縦梁25は弾性を有しており、板バネと同様の性質を有する。また、各縦梁25は接触面21に対して垂直に配置されている。したがって、縦梁25は横行部23の本体部22に対する横ずれ方向yの変位を許容する。換言すれば、横行部23は本体部22に対して横ずれ方向yに変位可能に支持されている。なお、横行部23は本体部22に対して押し込み方向xには変位不可能となっている。
【0028】
触覚センサ1のセンシング面を測定対象物に押し当てると、大接触子20が押し込み方向xに変位する。このような大接触子20の変位を検出するために、触覚センサ1には大接触子変位検出器60が設けられている。
【0029】
大接触子変位検出器60は横梁41の歪を検出する第1、第2歪検出素子63、64からなる。第1、第2歪検出素子63、64はピエゾ抵抗素子であり、不純物拡散やイオン注入などの集積回路製造工程や金属配線形成技術などによって横梁41の表面に形成される。
【0030】
図2(A)に示すように、複数の横梁41のうち一の横梁41の表面には第1歪検出素子63が形成されており、他の一の横梁41の表面には第2歪検出素子64が形成されている。第1、第2歪検出素子63、64は、それぞれ階段状に形成されており、横梁41の一端から中央までは一方の側部に沿い、中央から他端までは他方の側部に沿う形状を有している。また、一方の横梁41に形成された第1歪検出素子63と、他方の横梁41に形成された第2歪検出素子64とは、それぞれ線対称となる形状を有する。
【0031】
図2(B)に示すように、横梁41に歪が生じると、一方の第1歪検出素子63は圧縮応力により抵抗が小さくなり、他方の第2歪検出素子64は引張応力により抵抗が大きくなる。
【0032】
図3に示すように、触覚センサ1の表面には、第1、第2歪検出素子63、64を直列に接続して両端に電圧Vddをかけ、第1歪検出素子63と第2歪検出素子64との間の電圧Voutを読み取る回路(
図1および
図2においては図示せず)が形成されている。電圧Voutは第1、第2歪検出素子63、64の差動により変化するため、電圧Voutを読み取ることで横梁41の歪量を検出できる。これにより、大接触子変位検出器60で大接触子20の基部10に対する押し込み方向xの変位を検出できる。
【0033】
触覚センサ1のセンシング面を測定対象物に押し当てながら摺動させると、小接触子30が押し込み方向xに変位するとともに、横ずれ方向yに変位する。このような小接触子30の変位を検出するために、触覚センサ1には小接触子変位検出器70が設けられている。
【0034】
図1に示すように、小接触子変位検出器70は、小接触子30の押し込み方向xの変位を検出する押し込み変位検出器71と、小接触子30の横ずれ方向yの変位を検出する横ずれ変位検出器72とを有している。押し込み変位検出器71は横梁51の歪を検出する第1、第2歪検出素子73、74からなる。横ずれ変位検出器72は縦梁52の歪を検出する第1、第2歪検出素子75、76からなる。
【0035】
押し込み変位検出器71の第1、第2歪検出素子73、74の構成および歪検出回路は、大接触子変位検出器60の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路と同様である。横ずれ変位検出器72の第1、第2歪検出素子75、76の構成および歪検出回路は、大接触子変位検出器60の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路と同様である。小接触子変位検出器70で小接触子30の大接触子20に対する押し込み方向xおよび横ずれ方向yの変位を検出できる。
【0036】
触覚センサ1のセンシング面を測定対象物に押し当てながら摺動させると、横行部23が横ずれ方向yに変位する。このような横行部23の変位を検出するために、触覚センサ1には横行部変位検出器81が設けられている。
【0037】
横行部変位検出器81は縦梁25の歪を検出する第1、第2歪検出素子83、84からなる。横行部変位検出器81の第1、第2歪検出素子83、84の構成および歪検出回路は、大接触子変位検出器60の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路と同様である。横行部変位検出器81で横行部23の本体部22に対する横ずれ方向yの変位を検出できる。
【0038】
(製造方法)
つぎに、SOI基板を用いた触覚センサ1の製造方法を説明する。
ここで、SOI基板は、支持基板(シリコン)、酸化膜層(二酸化ケイ素)、活性層(シリコン)の3層構造を有しており、その厚みは例えば300μmである。
【0039】
まず、基板を洗浄し、酸化処理を行い、表面酸化膜を形成する。つぎに、表面酸化膜を加工して回路部となる拡散層パターンを形成し、リン拡散を行う。つぎに、基板の裏面にクロム薄膜をスパッタリングし、可動構造部(大接触子20、小接触子30、大接触子支持体40および小接触子支持体50)をリリースするパターンにクロム薄膜を加工する。つぎに、表面酸化膜を除去し、ICP-RIEでエッチングして可動構造部を形成する。形成した可動構造部の周辺にレジストを充填して保護した後に、裏面をICP-RIEでエッチングする。最後に、中間酸化膜とレジストを除去して可動構造部をリリースする。
【0040】
(検出方法)
つぎに、触覚センサ1による検出方法を説明する。
図4に示すように、触覚センサ1のセンシング面を測定対象物Oの表面に押し当てて、接触面21を測定対象物Oに接触させる。そうすると、接触面21は測定対象物Oの表面の凹凸のピークを結んだ平面に配置される。そして、大接触子20は触覚センサ1の押し当て力の反力により押し込まれ、押し込み方向xに変位する。
【0041】
触覚センサ1のセンシング面を測定対象物Oの表面に押し当てたまま、測定対象物Oの表面に沿って褶動させる。そうすると、小接触子30は測定対象物Oの表面の凹凸に沿って押し込み方向xに変位する。また、小接触子30は接触端31と測定対象物Oとの間に働く摩擦力により横ずれ方向yに変位する。さらに、横行部23は測定対象物Oとの間に働く摩擦力により横ずれ方向yに変位する。
【0042】
図5に上記検出操作により触覚センサ1から得られる各種信号の例を示す。
(1)のグラフは横軸が時間、縦軸が大接触子変位検出器60により検出された大接触子20の押し込み方向xの変位である。大接触子20の押し込み方向xの変位は測定対象物Oへの触覚センサ1の押し当て力を意味する。なお、触覚センサ1を測定対象物Oの表面に沿って一定の速度で褶動させた場合には、横軸は測定対象物Oの表面の位置座標と同義である。
【0043】
図5に示す例では、全測定時間(全位置座標)において押し当て力が一定である。測定対象物Oへの触覚センサ1の押し当て力を一定にして検出操作を行えば、このような信号が得られる。
【0044】
(2)のグラフは横軸が時間、縦軸が押し込み変位検出器71により検出された小接触子30の押し込み方向xの変位である。小接触子30の押し込み方向xの変位は測定対象物Oの表面の凹凸量を意味する。したがって、(2)のグラフは測定対象物Oの表面の表面形状(空間波形)を再現したものである。
【0045】
ここで、小接触子30は接触端31のサイズと同程度の波長帯の凹凸に追従して変位する。接触端31が半円形または扇形である場合には、小接触子30は接触端31の半径と同程度の波長帯の凹凸に追従して変位する。すなわち、接触端31の半径が小さいほど波長の小さい凹凸に追従し、測定対象物Oの表面の微細な凹凸を検知できる。また、接触端31の半径が大きいほど小さい凹凸には追従しなくなり、測定対象物Oの表面の微細な凹凸を除去した波長の大きい凹凸(うねり)を検知できる。このように、接触端31の半径により波長帯(周波数帯)を選択して、測定対象物Oの表面形状を測定できる。
【0046】
また、接触端31を半円形または扇形とすれば、触覚センサ1を測定対象物Oに押し当てながら摺動させても、小接触子30が測定対象物Oに引っ掛かることなくスムーズに動作する。そのため、小接触子30が測定対象物表面の凹凸に追従して変位し、測定対象物Oの表面形状を精度よく測定できる。
【0047】
(3)のグラフは横軸が時間、縦軸が横ずれ変位検出器72により検出された小接触子30の横ずれ方向yの変位である。小接触子30の横ずれ方向yの変位は接触端31と測定対象物Oとの間に働く摩擦力を意味する。ここで、接触端31の測定対象物Oとの接触面積は小さいので、小接触子30の横ずれ方向yの変位は微小領域の摩擦力を意味する。
【0048】
小接触子30の押し込み方向xおよび横ずれ方向yの変位から測定対象物Oの表面の微小領域の動摩擦係数μを求めることができる。横梁51の弾性率は既知であるため、小接触子30の押し込み方向xの変位から小接触子30にかかる反力fxを算出できる。また、縦梁52の弾性率は既知であるため、小接触子30の横ずれ方向yの変位から小接触子30にかかる摩擦力fyを算出できる。算出された反力fxおよび摩擦力fyから、下記数式1に従い測定対象物Oの表面の微小領域の動摩擦係数μを算出できる。
μ = fx/fy ・・・(1)
【0049】
(4)のグラフは横軸が時間、縦軸が横行部変位検出器81により検出された横行部23の横ずれ方向yの変位である。横行部23の横ずれ方向yの変位は横行部23と測定対象物Oとの間に働く摩擦力を意味する。ここで、横行部23の測定対象物Oとの接触面積は大きいので、横行部23の横ずれ方向yの変位は測定対象物Oの表面の凹凸に依存しない平均摩擦力を意味する。
【0050】
大接触子20の押し込み方向xの変位、および横行部23の横ずれ方向yの変位から、測定対象物Oの表面の平均的な動摩擦係数<μ>を求めることができる。横梁41の弾性率は既知であるため、大接触子20の押し込み方向xの変位から横行部23にかかる反力Fxを算出できる。また、縦梁25の弾性率は既知であるため、横行部23の横ずれ方向yの変位から横行部23にかかる摩擦力Fyを算出できる。算出された反力Fxおよび摩擦力Fyから、下記数式2に従い測定対象物Oの表面の平均的な動摩擦係数<μ>を算出できる。
<μ> = Fx/Fy ・・・(2)
【0051】
以上のように、接触面積の小さい接触端31を有する小接触子30の押し込み方向xおよび横ずれ方向yの変位を検出することで、測定対象物Oの表面の微細な特性(表面形状、微小領域の摩擦力)を検知できる。また、接触面積の大きい接触面21を有する大接触子20の押し込み方向xの変位を検出することで、測定対象物Oへの触覚センサ1の押し当て力を検知できる。さらに、横行部23の横ずれ方向yの変位を検出することで、測定対象物Oの平均摩擦力を検知できる。
【0052】
測定対象物Oを強く撫でたときと弱く撫でたときとでは、測定対象物Oの表面の形状や性質が変化し、手触り感が変化する場合がある。触覚センサ1は測定対象物Oへの触覚センサ1の押し当て力を検知できることから、測定条件(押し当て力)を定量化でき、測定対象物Oを強く撫でたときと弱く撫でたときの手触り感の違いを求めることができる。
【0053】
また、測定対象物Oへの触覚センサ1の押し当て力を一定に保ったまま検出操作を行えば、押し当て力の変化に依存して信号が変化することがない。そのため、測定対象物Oの特性を精度良く検出できる。
【0054】
測定対象物Oが紙や布などの場合、それらの繊維の間隔は一般に10~100μmである。大接触子20の動きが繊維構造に影響されにくくするためには、接触面21の幅を繊維の間隔より大きくすればよく、1mm程度以上とすることが好ましい。
【0055】
大接触子20の最大幅は触覚センサ1の幅寸法に依存する。例えば、触覚センサ1の幅寸法が5mmであれば、大接触子20の幅は最大で5mm程度である。一つの触覚センサ1に複数の大接触子20を設けてもよい。この場合には、大接触子20の幅を触覚センサ1に収まるように設定すればよい。例えば、一つの触覚センサ1に同等のサイズの大接触子20を2つ設ける場合には、大接触子20の幅寸法は触覚センサ1の幅寸法(例えば5mm)の1/2(例えば2.5mm)以下にすればよい。
【0056】
ところで、人間の触覚に寄与する細胞として、マイスナー小体、メルケル触盤、ルフィニ終末が知られている。マイスナー小体は圧力に対し速やかに順応し、振動などによく反応する。メルケル触盤は圧力に対し遅く順応し、持続的な皮膚への圧力によく反応する。ルフィニ終末は圧力に対して遅く順応し、持続的な皮膚の変形などに反応する。本実施形態の触覚センサ1は機能的にみて、測定対象物Oの表面の微細な特性を検知する小接触子30がマイスナー小体に対応し、押し当て力を検知する大接触子20がメルケル触盤に対応し、平均摩擦力を検知する横行部23がルフィニ終末に対応する。このように、触覚センサ1は人間の触覚に寄与する細胞と類似した機能を有するので、人間の触覚に近い検知ができると考えられる。
【0057】
人間の触覚に近い検知をするという観点からは、接触端31は指紋を構成する隆線の断面と同様の形状、寸法を有することが好ましい。具体的には、接触端31を半円形とし、その直径を10~500μmとすることが好ましい。また、接触面21の幅寸法は指の太さと同程度、すなわち1~2cmとすることが好ましい。なお、接触端31の直径を10μm以下とすれば、人間以上の精細な解像力で触覚を検知できる。
【0058】
測定対象物Oは特に限定されないが、触覚センサ1は紙、布などの柔らかいものの特性を測定するのに適している。また、押し当て力を制御できることから、車のボディーなどのキズを付けたくないものの特性を測定するのにも適している。
【0059】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係る触覚センサ2を説明する。
図6に示すように、本実施形態の触覚センサ2は第1実施形態の触覚センサ1において、大接触子20に複数の横行部23、26を設けた構成である。具体的には、大接触子20は本体部22と、第1横行部23と、第2横行部26とを有する。第1、第2横行部23、26はそれぞれ接触面21の一部を含む。2つに分割された接触面21の一方に第1横行部23が形成され、他方に第2横行部26が形成されている。また、第1横行部23と第2横行部26とは接触面21の面積が互いに異なっている。具体的には、第2横行部26の接触面21の面積は第1横行部23の接触面21の面積より大きく設定されている。
【0060】
第1横行部23と本体部22との間には、第1横行部23を本体部22に対して支持する第1横行部支持体24が設けられている。第1横行部支持体24は複数本の縦梁25からなる。第1横行部支持体24により、第1横行部23は本体部22に対して横ずれ方向yに変位可能に支持されている。
【0061】
第1横行部支持体24には第1横行部23の本体部22に対する横ずれ方向yの変位を検出する第1横行部変位検出器81が設けられている。第1横行部変位検出器81は縦梁25の歪を検出する第1、第2歪検出素子83、84からなる。第1横行部変位検出器81の第1、第2歪検出素子83、84の構成および歪検出回路は、大接触子変位検出器60の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路と同様である。
【0062】
第2横行部26と本体部22との間には、第2横行部26を本体部22に対して支持する第2横行部支持体27が設けられている。第2横行部支持体27は複数本の縦梁28からなる。第2横行部支持体27により、第2横行部26は本体部22に対して横ずれ方向yに変位可能に支持されている。
【0063】
第2横行部支持体27には第2横行部26の本体部22に対する横ずれ方向yの変位を検出する第2横行部変位検出器82が設けられている。第2横行部変位検出器82は縦梁28の歪を検出する第1、第2歪検出素子85、86からなる。第2横行部変位検出器82の第1、第2歪検出素子85、86の構成および歪検出回路は、大接触子変位検出器60の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路と同様である。
【0064】
前述のごとく、横行部23は測定対象物Oの表面の平均摩擦力を検出する。ここで、平均摩擦力は横行部23に含まれる接触面21の面積での平均の摩擦力を意味する。したがって、平均摩擦力の測定レンジは横行部23の接触面積に依存する。具体的には、横行部23の接触面積が小さいほど微小領域の平均摩擦力を検出できる。横行部23の接触面積が大きいほど広域領域の平均摩擦力を検出できる。
【0065】
本実施形態の触覚センサ2は、接触面積が異なる2つの横行部23、26を備えるので、2つの測定レンジにおける平均摩擦力を検知できる。
【0066】
なお、本実施形態では横行部23、26の数を2つとしたが、3つ以上としてもよい。この場合、各横行部に対して横行部支持体と横行部変位検出器とが設けられる。
【0067】
〔第3実施形態〕
つぎに、本発明の第3実施形態に係る触覚センサ3を説明する。
図7に示すように、本実施形態の触覚センサ3は第1実施形態の触覚センサ1において、大接触子20を横ずれ方向yにも変位可能とした構成である。
【0068】
本実施形態の大接触子支持体40は複数の横梁41と、複数の縦梁42と、2つの島部43とからなる。基部10の内部空間には大接触子20を挟む位置に2つの島部43が配置されている。各横梁41は大接触子20と島部43との間に架け渡されている。各縦梁42は島部43と基部10との間に架け渡されている。
【0069】
各横梁41は弾性を有しており、板バネと同様の性質を有する。また、各横梁41は接触面21と平行に配置されている。したがって、横梁41は大接触子20の基部10に対する押し込み方向xの変位を許容する。各縦梁42は弾性を有しており、板バネと同様の性質を有する。また、各縦梁42は接触面21に対して垂直に配置されている。したがって、縦梁42は大接触子20の基部10に対する横ずれ方向yの変位を許容する。すなわち、大接触子20は基部10に対して押し込み方向xおよび横ずれ方向yに変位可能に支持されている。
【0070】
本実施形態では、横梁41は大接触子20の両側に4本ずつ合計8本設けられているが、その本数や寸法は特に限定されない。また、縦梁42は、各島部43の両側に2本ずつ合計8本設けられているが、その本数や寸法は特に限定されない。大接触子支持体40として必要な弾性が得られるように、横梁41および縦梁42の本数や寸法を設定すればよい。
【0071】
大接触子変位検出器60は、小接触子30の押し込み方向xの変位を検出する押し込み変位検出器61と、小接触子30の横ずれ方向yの変位を検出する横ずれ変位検出器62とを有している。押し込み変位検出器61は横梁41の歪を検出する第1、第2歪検出素子63、64からなる。横ずれ変位検出器62は縦梁42の歪を検出する第1、第2歪検出素子65、66からなる。
【0072】
押し込み変位検出器61の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路は、第1実施形態における大接触子変位検出器60の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路と同様である。横ずれ変位検出器62の第1、第2歪検出素子65、66の構成および歪検出回路は、第1実施形態における大接触子変位検出器60の第1、第2歪検出素子63、64の構成および歪検出回路と同様である。
【0073】
本実施形態の触覚センサ3は、大接触子20の横ずれ方向yの変位を検出することで、測定対象物Oの平均摩擦力を検知できる。なお、本実施形態では大接触子20に横行部23を設ける必要がない。
【0074】
〔第4実施形態〕
つぎに、本発明の第4実施形態に係る触覚センサ4を説明する。
図8に示すように、本実施形態の触覚センサ4は第1実施形態の触覚センサ1に保護板32を設けた構成である。
【0075】
繊維で構成された素材、特に繊維同士があまり固着されていない綿状の素材を触覚センサ1で測定すると、ループ状の繊維が小接触子30に引っ掛かることがある。そうすると、小接触子30の変位は主に引っ掛かった繊維の強度に依存するため、求める情報(測定対象物表面の微細な特性)を検知できなくなる。保護板32を設けることにより、繊維が小接触子30に引っ掛かることを防止でき、綿状の素材でも表面の微細な特性を検知できる。
【0076】
説明の便宜のため、平板状の大接触子20が有する面のうち、接触面21と直交する一対の面を「表面」、「裏面」と称する。本実施形態の触覚センサ4は、大接触子20の表面側に保護板32が重ねられた構成である。
【0077】
大接触子20(本体部22)の表面には2つのスペーサ33が間隔をあけて貼り付けられている。スペーサ33は所定の厚みを有する板材である。保護板32は2つのスペーサ33に架け渡されて、それらに貼り付けられている。すなわち、保護板32はスペーサ33を介して大接触子20の表面に設けられている。
【0078】
保護板32は少なくとも大接触子20が有する内部空間の開口を覆う形状を有している。したがって、小接触子30の少なくとも先端部は保護板32に覆われている。また、保護板32の側面の一部(大接触子20の開口側の部分)は接触面21の延長面上に配置されている。したがって、平面視において、2つの接触面21の間の隙間が保護板32の側面により補完されている。
【0079】
なお、保護板32の側面は保護板32の表裏面に対して垂直でなくてもよく、傾斜してもよい。この場合、保護板32の側面と表面または裏面との交線に位置する縁(以下、「側縁」と称する。)の一部が接触面21の延長面上に配置される。
【0080】
保護板32と小接触子30および小接触子支持体50との間にはスペーサ33の厚み分の隙間が確保されている。しかも、小接触子30は平板状の大接触子20と同一平面内で変位する。すなわち、小接触子30の変位する面は保護板32の表裏面と平行である。そのため、小接触子30が正常な範囲で動作する場合に、保護板32が小接触子30の変位に干渉することがない。なお、保護板32と小接触子30との間の隙間は、特に限定されないが、数μm~数十μm程度である。
【0081】
繊維で構成された測定対象物Oを測定する場合には、触覚センサ4を測定対象物Oに押し当てながら摺動させる。この際、測定対象物Oを構成する繊維は保護板32に阻まれて大接触子20の開口の内部に進入できない。そのため、ループ状の繊維が小接触子30に引っ掛かることを防止できる。その結果、繊維で構成された測定対象物Oであっても、表面の微細な特性を検知できる。
【0082】
測定対象物Oの形状によっては、小接触子30に、正常な動作における変位面に対して垂直な方向(
図8における紙面に対して垂直な方向)に力が加わることがある。しかし、このような方向への小接触子30の変位は保護板32により制限される。そのため、小接触子30が前記方向に変位することによる可動構造部の破損を防止できる。
【0083】
なお、保護板32を大接触子20の裏面に設けてもよい。保護板32を大接触子20の表裏面の両方に設けてもよい。また、第2、第3実施形態の触覚センサ2、3に保護板32を設けてもよい。
【0084】
〔第5実施形態〕
つぎに、本発明の第5実施形態に係る触覚センサ5を説明する。
図9に示すように、本実施形態の触覚センサ5は第1実施形態の触覚センサ1において、基部10および大接触子支持体40が除去された構成である。すなわち、触覚センサ5は大接触子20と、小接触子30と、小接触子支持体50とを有している。大接触子20は横行部23および横行部支持体24を有さない。
【0085】
触覚センサ5を測定対象物Oに押し当てながら摺動させると、小接触子30が変位し、測定対象物表面の微細な特性を検知できる。なお、触覚センサ5は測定対象物Oへの押し当て力を検知する機能を有さない。
【0086】
触覚センサ5には保護板32が設けられている。保護板32の構成は第4実施形態と同様である。繊維で構成された測定対象物Oを触覚センサ5で測定する場合でも、保護板32により大接触子20の開口の内部に繊維が進入することを抑制できる。繊維が小接触子30に引っ掛かることを防止できるため、繊維で構成された測定対象物Oの微細な特性を検知できる。
【0087】
〔第6実施形態〕
つぎに、本発明の第6実施形態に係る触覚センサ6を説明する。
第1~第5実施形態の触覚センサ1~5は平面的な構造を有しているが、これに代えて立体的な構造としてもよい。
図10および
図11に示すように、本実施形態の触覚センサ6は立体的な構造を有する。
【0088】
触覚センサ6は基部10と、大接触子20と、小接触子30とを有している。基部10は中央に円柱状の内部空間を有している。大接触子20は円筒状の部材であり基部10の内部空間に配置されている。小接触子30は円柱状の部材であり大接触子20の内部空間に配置されている。基部10、大接触子20、および小接触子30の下面にはダイヤフラム11が接合されている。
【0089】
基部10、大接触子20、および小接触子30は厚さ数百μmの光硬化樹脂などで形成されており、外力による撓みが少ない剛性を有している。ダイヤフラム11は厚さ数μm~数十μm程度のシリコンなどで形成されている。
【0090】
ダイヤフラム11のうち基部10と大接触子20との間の部分が大接触子支持体40としての機能を有する。また、ダイヤフラム11のうち大接触子20と小接触子30との間の部分が小接触子支持体50としての機能を有する。
【0091】
触覚センサ6はその上面を測定対象物Oと対向するセンシング面としている。したがって、大接触子20の上面が接触面21であり、小接触子30の上面が接触端31である。
【0092】
基部10と大接触子20との間には大接触子20が揺動可能な隙間が設けられている。ダイヤフラム11は大接触子20が外力により傾いたり、押し込み方向に変位したりすることにより歪む。このようなダイヤフラム11の変形を検出するために、ダイヤフラム11の基部10と大接触子20との間の部分には大接触子変位検出器が形成されている。大接触子変位検出器は、例えば、ピエゾ抵抗素子からなる。
【0093】
大接触子20と小接触子30との間には、小接触子30が揺動可能な隙間が設けられている。ダイヤフラム11は小接触子30が外力により傾いたり、押し込み方向に変位したりすることにより歪む。このようなダイヤフラム11の変形を検出するために、ダイヤフラム11の大接触子20と小接触子30との間の部分には小接触子変位検出器が形成されている。小接触子変位検出器は、例えば、ピエゾ抵抗素子からなる。
【0094】
触覚センサ6のセンシング面を測定対象物Oの表面に押し当てて、接触面21を測定対象物Oに接触させる。そうすると、大接触子20は触覚センサ6の押し当て力の反力により押し込まれ、押し込み方向に変位する。触覚センサ6のセンシング面を測定対象物Oの表面に押し当てたまま、測定対象物Oの表面に沿って褶動させる。そうすると、小接触子30は測定対象物Oの表面の凹凸に沿って押し込み方向xに変位する。また、小接触子30は接触端31と測定対象物Oとの間に働く摩擦力により傾斜する。さらに、大接触子20は接触面21と測定対象物Oとの間に働く摩擦力により傾斜する。大接触子20および小接触子30の上記変位を検知することで、触覚センサ6の押し当て力、測定対象物Oの表面形状、微小領域摩擦力、平均摩擦力を検出できる。
【0095】
〔その他の実施形態〕
大接触子支持体40、小接触子支持体50、および横行部支持体24は、所望の弾性を得られれば、梁以外の部材で構成してもよい。
【0096】
大接触子変位検出器60、小接触子変位検出器70、および横行部変位検出器81は、ピエゾ抵抗素子に限定されない。例えば、小接触子30の変位により小接触子30と大接触子20との距離が変化することを利用して、小接触子変位検出器70を小接触子30と大接触子20との間の静電容量を検出する構成としてもよい。同様に、大接触子変位検出器60および横行部変位検出器81も静電容量を検出する構成としてもよい。
【0097】
小接触子30の接触端31は半円形に限られず、他の形状に形成されてもよい。例えば、先鋭的な針状や波面状、左右非対称の形状にしてもよい。また、測定対象物Oの引っ掛かり感を重要なパラメータとして測定する場合には、接触端31を鉤状に形成し、測定対象物Oに引っ掛かりやすくしてもよい。
【0098】
大接触子20を分割されていない単一の接触面21を有する形状としてもよい。この場合、横行部23は接触面21の一部を含んでもよいし、全部を含んでもよい。また、横行部23を設けず平均摩擦力を検出しない構成としてもよい。
【0099】
触覚センサ1~6の製造方法は半導体マイクロマシニング技術に限定されない。例えば3次元プリンターによる造形技術も採用できる。
【0100】
〔触覚測定装置〕
つぎに、上記の触覚センサ1が設けられる触覚測定装置7を説明する。
図12に示すように、触覚測定装置7は取付具91と、押当器92と、走査器93と、制御装置94とを備える。取付具91は触覚センサ1の基部10が取り付けられる部材である。
【0101】
押当器92は取付具91を測定対象物Oに接近、離間させる機構である。押当器92の動作により取付具91に取り付けられた触覚センサ1を測定対象物Oに押し当てることができる。押当器92としては特に限定されないが、ボール・ナット、液圧シリンダなどを採用できる。
【0102】
なお、押当器92は、本実施形態のように触覚センサ1を測定対象物Oに向かって動作させる構成でもよいし、測定対象物Oを触覚センサ1に向かって動作させる構成でもよいし、触覚センサ1および測定対象物Oの両方を動作させる構成でもよい。触覚センサ1と測定対象物Oとを相対的に接近させ、触覚センサ1を測定対象物Oに押し当てることができればよい。
【0103】
走査器93は取付具91を測定対象物Oの表面に沿って移動させる機構である。走査器93の動作により取付具91に取り付けられた触覚センサ1を測定対象物Oの表面に沿って摺動させることができる。走査器93としては特に限定されないが、ボール・ナット、液圧シリンダなどを採用できる。走査器93により押当器92の全体を移動させるよう構成すればよい。
【0104】
なお、走査器93は、本実施形態のように触覚センサ1を測定対象物Oに対して動作させる構成でもよいし、測定対象物Oを触覚センサ1に対して動作させる構成でもよいし、触覚センサ1および測定対象物Oの両方を動作させる構成でもよい。触覚センサ1と測定対象物Oとを相対的に動作させ、触覚センサ1を測定対象物Oの表面に沿って摺動させることができればよい。
【0105】
触覚測定装置7を用いれば、触覚センサ1を測定対象物Oに押し当てながら摺動させる検出操作を行うことができる。これにより、測定対象物Oの手触り感を測定できる。
【0106】
制御装置94は押当器92および走査器93の動作を制御する機能を有する。制御装置94は例えば、つぎのように構成される。制御装置94には触覚センサ1の大接触子変位検出器60で検出された押し当て力が入力されている。制御装置94は入力された押し当て力が所定値となるように押当器92の動作を制御する。すなわち、制御装置94は、触覚センサ1で検出された押し当て力を操作量、押当器92による触覚センサ1の押し当て量を制御量とするフィードバック制御を行う。
【0107】
このような制御をすれば、測定対象物Oへの触覚センサ1の押し当て力を一定にできる。押し当て力の変化に依存して触覚センサ1で検出される信号が変化することがないため、測定対象物Oの手触り感を精度良く測定できる。
【0108】
〔識別装置〕
つぎに、測定対象物の種類を識別する識別装置8を説明する。
図13は識別装置8の構成を示したブロック図である。識別装置8はコンピュータによって実現される。コンピュータは専用機でもよいし、汎用機でもよい。コンピュータはCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)、主記憶装置、補助記憶装置などから構成されている。コンピュータが各種のプログラムを実行することで、識別装置8としての機能が実現される。
【0109】
識別装置8の記憶装置200には学習済みモデル201が記憶されている。学習済みモデル201はプログラムモジュールであり、予め識別装置8を構成するコンピュータにインストールされている。コンピュータが学習済みモデル201を実行すると、コンピュータ上に学習器101が構成される。学習器101のアルゴリズムとしては、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシンなど、分類問題を扱うのに適したアルゴリズムが用いられる。学習器101は予め機械学習が行われている。機械学習の方式としては、特に限定されないが、教師あり学習、強化学習、教師なし学習が挙げられる。学習器101がニューラルネットワークである場合、機械学習によりニューロン間の重み付け係数が最適化される。
【0110】
機械学習は例えばつぎの手順で行われる。この手順は教師あり学習によるものである。
まず、機械学習に用いる学習データを用意する。学習データは訓練データと評価データとからなる。訓練データと評価データとは、それぞれ測定対象物の種類ごとに複数用意される。訓練データは測定対象物の触覚データと、その測定対象物の種類情報とからなる。評価データは触覚データからなり、種類情報が付されていない。触覚データは、例えば、触覚センサ1を用いて測定対象物を測定して得られた測定データである。種類情報は測定対象物の種類を示す情報である。種類情報は教師あり学習における教師信号である。
【0111】
学習器101に訓練データを入力し、測定対象物の種類ごとの特徴量、パターンを学習させる。つぎに、学習器101に評価データを入力し、出力された種類情報が正しいか評価する。以上の訓練と評価とを、評価データに対して正しい種類情報が出力されるまで繰り返し行なう。これにより、学習器101がニューラルネットワークである場合、ニューロン間の重み付け係数が最適化される。
【0112】
触覚データとして触覚センサ1から出力された測定データを用いることができる。触覚センサ1からは、4つの情報、すなわち測定対象物の表面位置(表面の位置座標)に対する、凹凸量、微小領域摩擦力、平均摩擦力、および測定対象物への触覚センサ1の押し当て力が出力される(
図5参照)。測定データには、これら4つの情報のうちの一つのみが含まれてもよいし、いずれか複数が含まれてもよい。例えば、測定データに凹凸量および微小領域摩擦力のみが含まれてもよい。なお、押し当て力は他の情報と組み合わせて用いることが好ましい。
【0113】
測定データの形式としては種々のものを採用できる。例えば、触覚センサ1から出力されるアナログ信号をデジタルデータに変換したデータ列を測定データとして用いることができる。この場合、測定データは前記凹凸量などの波形を構成するデータ列である。例えば、凹凸量の変位をx、微小領域摩擦力の変位をyとした場合、データ列は{(xi,yi)}(i=1,2,…,n)と表される。
【0114】
測定データは触覚センサ1から出力された、いわゆる生データである。測定データに所定の処理を施して処理後データを得、処理後データを触覚データとして用いてもよい。測定データに施す処理として、種々の処理を採用し得る。また、処理の種類に応じて、種々の形式の処理後データが生成され得る。以下、その例を説明する。
【0115】
測定データが構成する前記凹凸量などの波形をグラフ化してグラフ画像を生成し、これを処理後データとして用いることができる。グラフ画像は例えば
図18に示す画像である。
図18に示すグラフ画像は凹凸量および微小領域摩擦力の波形を、それぞれ色分けしてグラフ化したものである。横軸が測定対象物の表面位置であり、縦軸が凹凸量または微小領域摩擦力である。グラフ画像は汎用の表計算ソフトを用いて測定データを変換することで生成できる。
【0116】
図19に示すような変位画像を処理後データとして用いてもよい。変位画像は測定データが構成する前記凹凸量などの波形を変換した画像であり、各表面位置における変位(凹凸量などの値)をその表面位置に対応する画素の色として表した画像である。変位画像は測定データを変換することで生成できる。
【0117】
図19に示す変位画像には凹凸量および微小領域摩擦力の2つの情報が含まれている。各情報につき変位画像上の領域が定められている。また、各領域を構成する各画素と測定対象物の表面位置とが一対一に対応している。そして、各表面位置における凹凸量または微小領域摩擦力の値が、それに対応する画素の色として示されている。
【0118】
変位画像の画素の色に使用される色空間は、特に限定されず、グレースケールでもよいし、RGB表色系でもよい。
図19に示す変位画像は、グレースケールを用いたものである。
【0119】
測定データに信号処理を施して信号処理データを得、信号処理データを処理後データとしてもよい。信号処理の方法は特に限定されないが、高速フーリエ変換(FFT)、カオス解析、統計解析、ウェーブレット解析、エンベロープ解析などが挙げられる。処理後データはデータ列として得られる。
【0120】
信号処理データをグラフ化したグラフ画像を処理後データとしてもよい。グラフの形式は信号処理データを表すのに適した形式を採用すればよい。例えば、測定データをフーリエ変換して得られた信号処理データを用いる場合には、横軸が周波数、縦軸が強度のグラフが用いられる。処理後データは必ずしも波形を構成しなくてもよい。例えば、カオス解析の一種であるローレンツプロットでは散布図が得られる。このような散布図をグラフ画像としてもよい。
【0121】
信号処理データを変位画像に変換して、処理後データとして用いてもよい。この場合、変位画像は信号処理データが構成する波形の変位を画素の色として表した画像となる。
【0122】
学習器101は、触覚データとして、測定データ、またはいずれかの形式の処理後データを用いて、予め機械学習が行われている。
【0123】
図13に示すように、識別装置8は学習器101のほかに、データ取得部102、データ処理部103、および表示部104を備えている。
【0124】
データ取得部102は触覚センサ1から出力された測定データを取得する機能を有する。データ取得部102をアナログ-デジタル変換回路で構成すれば、触覚センサ1から出力されたアナログ信号を直接取り込んで、データ列の形式で測定データを取得できる。データ取得部102は外部装置で生成されたデータ列を取得するよう構成してもよい。
【0125】
触覚データとして測定データを用いる場合、データ取得部102は測定データを学習器101に入力する。触覚データとして処理後データを用いる場合、データ取得部102は測定データをデータ処理部103に入力する。
【0126】
データ処理部103は測定データに所定の処理を施して処理後データを得る機能を有する。データ処理部103は処理後データを学習器101に入力する。なお、触覚データとして測定データを用いる場合、データ処理部103を設けなくてもよい。
【0127】
表示部104は学習器101の出力結果を表示する機能を有する。表示部104はディスプレイなどで構成される。
【0128】
識別装置8はつぎのように用いられる。
触覚センサ1を用いて測定対象物を測定すると測定データが得られる。その測定データがデータ取得部102に入力される。測定データはそのままの形式で、または処理後データに変換され学習器101に入力される。ここで、学習器101に入力されるデータの形式は、機械学習に用いたデータと同じ形式である。そうすると、学習器101は測定対象物に対応する種類情報を出力する。表示部104は学習器101から出力された種類情報を表示する。
【0129】
このように、触覚データに基づいて測定対象物の種類を特定できる。学習器101に対して種々の測定対象物を学習させておけば、種々の測定対象物に対してその種類を識別できる。
【実施例】
【0130】
(布地測定試験)
図14に示す触覚センサを用いて布地の測定試験を行った。この触覚センサは第1実施形態に係る触覚センサ1と同様の構造であるが、各部の形状、寸法が異なる。なお、触覚センサの寸法は横が9,900μm、縦が6,000μm、厚さが50μmである。
【0131】
測定対象物としてフライス編みの布地を用意した。触覚センサをフライス編みの生地に押し当てながら摺動させ、触覚センサから各種の信号を得た。
図15(A)は触覚センサの押し当て力を弱くした場合に得られた信号の時間変化を示す。
図15(B)は触覚センサの押し当て力を中位にした場合に得られた信号の時間変化を示す。
図15(C)は触覚センサの押し当て力を強くした場合に得られた信号の時間変化を示す。
【0132】
図15(A)、(B)、(C)より、触覚センサの押し当て力を強くするに従い、触覚センサで検知された押し当て力の信号が強くなることが分かる。このことから、触覚センサにより押し当て力を検知でき、測定条件を定量化できることが確認できた。また、触覚センサの押し当て力を強くするに従い、凹凸量の信号が全体として強くなり、また、振幅が大きくなって波形が明確となる。微小領域摩擦力の信号の波形が強く立ち上がるようになり、繊維の摩擦の影響が強く現れるようになる。平均摩擦力の信号が全体として強くなる。これらの波形の変化から、布地を強く撫でるとザラザラ感が強くなるなど、布地固有の手触り感を特定できると考えられる。
【0133】
測定対象物として鹿の子編みの布地を用意した。人間の触覚では鹿の子編みの布地はフライス編みの布地に比べてザラザラしている。触覚センサを鹿の子編みの生地に押し当てながら摺動させ、触覚センサから各種の信号を得た。
図16(A)は触覚センサの押し当て力を弱くした場合に得られた信号の時間変化を示す。
図16(B)は触覚センサの押し当て力を中位にした場合に得られた信号の時間変化を示す。
図16(C)は触覚センサの押し当て力を強くした場合に得られた信号の時間変化を示す。
【0134】
押し当て力の変化に伴う各信号の変化の傾向は、フライス編みの布地の場合と同様である。
図15と
図16とを比較すると、凹凸量の信号および微小領域摩擦力の信号は、フライス編みの布地の場合よりも鹿の子編みの布地の場合の方が、振幅が大きく、波形が明確であることが分かる。これは、鹿の子編みの布地はフライス編みの布地に比べてザラザラしているためと考えられる。これより、触覚センサにより測定対象物の手触り感の違いを測定できることが確認された。
【0135】
(毛髪測定試験)
触覚センサを用いて毛髪の測定試験を行った。測定対象物として人体の頭髪を用意した。毛髪の表面はキューティクルで覆われている。キューティクルは根本から毛先に向かうウロコ状となっている。そのため、指で毛髪を根本に向かってなぞると、毛先に向かってなぞる場合よりも強く引っ掛かる感じを受ける。
【0136】
まず、毛髪を真っ直ぐに張った状態で固定した。つぎに、触覚センサを毛髪に押し当てた。その状態で触覚センサを毛先方向に10秒間走査した後、毛髪の同一箇所を根本方向に10秒間走査した。
【0137】
触覚センサから得られた各種の信号を
図17(A)、(B)に示す。
図17(A)は触覚センサを毛先方向に走査した期間(16~26秒)における凹凸量および微小領域摩擦力の時間変化を示すグラフである。
図17(B)は触覚センサを根本方向に走査した期間(36~46秒)における凹凸量および微小領域摩擦力の時間変化を示すグラフである。
【0138】
毛先方向に走査した期間における微小領域摩擦力の平均値は-0.625mNであった。これに対して、根本方向に走査した期間における微小領域摩擦力の平均値は1.447mNであった。これより、根本方向に走査した方が、摩擦力が大きくなることが分かる。
【0139】
毛先方向に走査した期間における微小領域摩擦力の標準偏差は0.168であった。これに対して、根本方向に走査した期間における微小領域摩擦力の標準偏差は0.230であった。これより、根本方向に走査した方が、摩擦力の変動が大きくなることが分かる。
【0140】
以上より、根本方向に走査すると、摩擦力が大きくなり、また、摩擦力の変動が大きくなることが分かる。この結果は、指で毛髪を根本に向かってなぞった場合に受ける感覚と符合する。したがって、触覚センサを用いて、毛髪のキューティクルといった微細な構造に由来する触覚を検知できることが確認できたといえる。
【0141】
(布地識別試験1)
人工知能を利用した布地の識別試験を行った。
まず、コンピュータ上にニューラルネットワークを構成した。ニューラルネットワークは入力層と出力層との間に4つの畳み込み層と4つのプーリング層とを交互に配置した構造の畳み込みニューラルネットワークとした。
【0142】
つぎに、10種類の布地を用意した。以下、10種類の布地のそれぞれを布地A、布地B、・・・、布地Jと称する。各布地の素材は表1の通りである。
【表1】
【0143】
触覚センサを用いて各布地を測定した。布地への触覚センサの押し当て力を12mNとし、10種類の布地のそれぞれについて8回の測定を行なった。また、布地への触覚センサの押し当て力を24mNとし、10種類の布地のそれぞれについて7回の測定を行なった。これにより、合計150の測定データを得た。各測定データを
図18に示すようなグラフ画像に変換した。グラフ画像には凹凸量および微小領域摩擦力の波形が含まれており、それぞれ色分けされている。横軸が測定対象物の表面位置であり、縦軸が凹凸量または微小領域摩擦力である。
【0144】
150枚のグラフ画像を訓練画像、評価画像、検証画像に分けた。訓練画像を100枚(各布地につき、押し当て力12mNで測定したもの5枚、押し当て力24mNで測定したもの5枚)、評価画像を30枚(各布地につき、押し当て力12mNで測定したもの2枚、押し当て力24mNで測定したもの1枚)、検証画像を20枚(各布地につき、押し当て力12mNで測定したもの1枚、押し当て力24mNで測定したもの1枚)とした。
【0145】
コンピュータ上に構成したニューラルネットワークに訓練画像を入力し、布地の種類ごとの特徴量、パターンを学習させた。この際、布地の種類情報(布地A~Jの別)を教師信号として用いた。つぎに、ニューラルネットワークに評価画像を入力し、出力された種類情報が正しいか評価した。評価画像を入力した場合におけるニューラルネットワークの出力から識別率を求めることにより評価を行なった。ここで、識別率はニューラルネットワークから出力された種類情報が正しいものの割合を意味する。
【0146】
識別率の向上がほとんど見られなくなるまで、上記の訓練と評価とを繰り返し行なった。最終的な識別率は83.3%(30枚中25枚が正しい)であった。
【0147】
つぎに、上記の学習に全く用いていない検証画像をニューラルネットワークに入力した。これら未知のデータに対する識別結果が前述の評価結果に近ければ、学習済みモデルが正しく構築されているといえる。その結果を表2に示す。なお、ユーラルネットワークは検証画像に対する種類の候補と、その候補の確からしさ(確率)を出力する。
【表2】
【0148】
ニューラルネットワークの出力から識別率を求めた。その結果、検証画像に対する識別率は85.0%(20枚中17枚が正しい)であった。これより、触覚センサから得られた測定データから、布地の種類を識別できることが確認できた。なお、学習データの数を増やせば、識別力をより高くできると考えられる。
【0149】
(布地識別試験2)
前記布地識別試験1で用いた測定データを、
図19に示すような変位画像に変換した。変位画像には凹凸量および微小領域摩擦力の情報が含まれている。凹凸量および微小領域摩擦力の変位を256段階のグレースケールで表している。変位画像を用いたほかは布地識別試験1と同様の手順で機械学習を行なった。その結果、評価画像に対する識別率は83.3%(30枚中25枚が正しい)であった。
【0150】
検証画像をニューラルネットワークに入力した結果を表3に示す。
【表3】
【0151】
ニューラルネットワークの出力から識別率を求めた。その結果、検証画像に対する識別率は85.0%(20枚中17枚が正しい)であった。これより、触覚センサから得られた測定データから、布地の種類を識別できることが確認できた。なお、学習データの数を増やせば、識別力をより高くできると考えられる。
【符号の説明】
【0152】
1、2、3、4、5、6 触覚センサ
10 基部
20 大接触子
21 接触面
22 本体部
23 横行部
24 横行部支持体
30 小接触子
31 接触端
40 大接触子支持体
50 小接触子支持体
60 大接触子変位検出器
70 小接触子変位検出器
81 横行部変位検出器
7 触覚測定装置
8 識別装置