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特許7061795高分子化合物及びそれを含む高分子組成物、並びに無機粒子含有組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】高分子化合物及びそれを含む高分子組成物、並びに無機粒子含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/02 20060101AFI20220422BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220422BHJP
   C08L 29/10 20060101ALI20220422BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20220422BHJP
【FI】
C08G81/02
C08L1/02
C08L29/10
C08K3/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018154077
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2020029479
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000190895
【氏名又は名称】新中村化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 徳仁
(72)【発明者】
【氏名】西本 琢朗
(72)【発明者】
【氏名】明石 量磁郎
【審査官】佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107811(WO,A1)
【文献】特開2008-294163(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135217(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0144373(US,A1)
【文献】国際公開第2013/017631(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00 - 85/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1セルロース系化合物から形成される第1セグメントと、
第1ポリビニルアセタール系化合物から形成される第2セグメントと、
前記第1セグメントと前記第2セグメントとを結合する結合基と、
を分子内に含み、
前記結合基が、-S-基又は1,2,3-トリアゾールジイル基を含む、高分子化合物。
【請求項2】
第1セルロース系化合物が、反応性官能基(A)を有するセルロース誘導体であり、
第1ポリビニルアセタール系化合物が、反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタールであり、
反応性官能基(A)と反応性官能基(B)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、又はアルキニル基とアジド基との組み合わせである、請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高分子化合物を含む、相溶化剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の高分子化合物と、
第2セルロース系化合物と、
第2ポリビニルアセタール系化合物と、
を含む、高分子組成物。
【請求項5】
第2セルロース系化合物は、反応性官能基(C)を有していてもよいセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタール系化合物は、反応性官能基(D)を有していてもよいポリビニルアセタールであり、
反応性官能基(C)と反応性官能基(D)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、又はアルキニル基とアジド基との組み合わせである、請求項4に記載の高分子組成物。
【請求項6】
第2セルロース誘導体は、反応性官能基(C)を有しないセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタールは、反応性官能基(D)を有しないポリビニルアセタールである、請求項5に記載の高分子組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の高分子化合物と、
無機粒子と、
有機溶剤と、
を含む、無機粒子含有組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の高分子化合物と、
第2セルロース系化合物と、
第2ポリビニルアセタール系化合物と、
無機粒子と、
有機溶剤と、
を含む、無機粒子含有組成物。
【請求項9】
第2セルロース系化合物は、反応性官能基(C)を有していてもよいセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタール系化合物は、反応性官能基(D)を有していてもよいポリビニルアセタールであり、
反応性官能基(C)と反応性官能基(D)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、又はアルキニル基とアジド基との組み合わせである、請求項8に記載の無機粒子含有組成物。
【請求項10】
第2セルロース誘導体は、反応性官能基(C)を有しないセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタールは、反応性官能基(D)を有しないポリビニルアセタールである、請求項9に記載の無機粒子含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物及びそれを含む高分子組成物、並びに無機粒子含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン等の携帯機器や自動車の電化によって電子部品の需要が増加している。中でも、受動部品である積層セラミックコンデンサ(「MLCC」と呼ばれている。)は、スマートフォン1台あたり数百個が使用されており、需要が急増している。
【0003】
MLCCの製造の一例を挙げると次のとおりである。まず、誘電体セラミックペーストを離形性シート上に塗布することにより、誘電体層を有するグリーンシートを作製する。次いで、誘電体層上に電極ペースト(「導電性ペースト」とも呼ばれることがある。)を印刷して電極パターン(電極層)を形成する。さらに、誘電体層と電極層との積層体を離形性シートから剥離し、該積層体の複数を積層、圧着した後にチップ状に切断する。次いで、得られたチップを数百℃~1000℃又はそれ以上に加熱して焼成を行い、誘電体層と電極層とが多層に積層された焼結体チップを作製する。最後に、外部電極等の形成を行う。
【0004】
近年益々、チップの小サイズ化、及びこれに伴う、チップを構成する前記した各層の薄膜化、印刷される電極パターンの微細化が進んでいる。このような背景の下、各層間の密着性向上や、使用するペーストの優れた印刷性が強く求められている。
【0005】
チップインダクター、チップ抵抗体等の他の電子部品も、MLCCと同様のプロセスによって製造される。また、シリコン系等の太陽電池の製造プロセスにも、集電極の形成において電極ペーストを用いた印刷、焼成工程が含まれている。
【0006】
MLCC等の電子部品の製造に使用されるセラミックペースト及び電極ペーストは、高分子材料であるバインダーと有機溶剤とを含み、そこに無機粒子が均一に分散された樹脂組成物である。無機粒子として、セラミックペーストではチタン酸バリウム等の誘電体粒子が用いられ、電極ペーストではニッケル等の導電性金属粒子が用いられる。また従来、バインダーとして、セラミックペーストでは主にポリビニルブチラールが用いられ、電極ペーストでは主にエチルセルロースが用いられてきた〔特公平04-049766号公報(特許文献1)〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平04-049766号公報
【文献】特許第4347440号公報
【文献】特許第5224722号公報
【文献】特許第5299904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セラミックペーストや電極ペーストのようなペースト、特にそれに含まれるバインダーには、例えば次のような課題がある。
1)熱分解性(燃焼性)の向上。焼成による熱分解処理後においてもカーボン等の灰分が残存していると、MLCCの電気特性を悪化させたり層間の剥離を引き起こしてしまう。
2)印刷性の向上。昨今、スクリーン印刷によって形成される電極パターンの微細化や薄膜化が進んでおり、パターンサイズは100μmを下回るようになっている。このため、電極ペーストにおいては、いわゆる糸曳現象を生じないバインダーが求められる。糸曳現象とは、バインダーポリマーの影響で印刷する工程において用いるペースト等が伸長して細い糸を曳く現象であり、欠陥品を生じる原因となる。
3)無機粒子の均一分散性、膜強度(ペーストから形成される層の強度)及び各層間の密着性の向上。これらは、チップを構成する各層の薄膜化に伴う要求特性である。
【0009】
上記課題を解決するために、バインダーについて様々な検討が従来なされている。例えば、特許第4347440号公報(特許文献2)、特許第5224722号公報(特許文献3)及び特許第5299904号公報(特許文献4)には、電極ペーストにおいて、エチルセルロースにポリビニルブチラールをブレンドすることで膜強度等の物性を改善する技術が開示されている。
【0010】
特許文献2~4に記載されるエチルセルロースとポリビニルブチラールとをブレンドしたバインダーは、これら2種のポリマーの相溶性が悪く、金属、セラミック、ガラス等の無機粒子を混合してペーストとしたときの無機粒子の分散性が低い。その結果、塗布膜に欠陥が生じたり、塗布膜の均一性が低下したりしやすい。
【0011】
本発明の目的の一つは、ポリマーブレンド型バインダーの相溶性を向上させる相溶化剤として好適な高分子化合物を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記高分子化合物を含むポリマーブレンド型高分子組成物を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記高分子化合物単独あるいは上記高分子化合物を含むポリマーブレンド型高分子組成物と無機粒子とを含む無機粒子含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下に示す高分子化合物、相溶化剤、高分子組成物及び無機粒子含有組成物を提供する。
[1] 第1セルロース系化合物から形成される第1セグメントと、
第1ポリビニルアセタール系化合物から形成される第2セグメントと、
前記第1セグメントと前記第2セグメントとを結合する結合基と、
を分子内に含み、
前記結合基が、-S-基又は1,2,3-トリアゾールジイル基を含む、高分子化合物。
[2] 第1セルロース系化合物が、反応性官能基(A)を有するセルロース誘導体であり、
第1ポリビニルアセタール系化合物が、反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタールであり、
反応性官能基(A)と反応性官能基(B)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、又はアルキニル基とアジド基との組み合わせである、[1]に記載の高分子化合物。
[3] [1]又は[2]に記載の高分子化合物を含む、相溶化剤。
[4] [1]又は[2]に記載の高分子化合物と、
第2セルロース系化合物と、
第2ポリビニルアセタール系化合物と、
を含む、高分子組成物。
[5] 第2セルロース系化合物は、反応性官能基(C)を有していてもよいセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタール系化合物は、反応性官能基(D)を有していてもよいポリビニルアセタールであり、
反応性官能基(C)と反応性官能基(D)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、又はアルキニル基とアジド基との組み合わせである、[4]に記載の高分子組成物。
[6] 第2セルロース誘導体は、反応性官能基(C)を有しないセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタールは、反応性官能基(D)を有しないポリビニルアセタールである、[5]に記載の高分子組成物。
[7] [1]又は[2]に記載の高分子化合物と、
無機粒子と、
有機溶剤と、
を含む、無機粒子含有組成物。
[8] [1]又は[2]に記載の高分子化合物と、
第2セルロース系化合物と、
第2ポリビニルアセタール系化合物と、
無機粒子と、
有機溶剤と、
を含む、無機粒子含有組成物。
[9] 第2セルロース系化合物は、反応性官能基(C)を有していてもよいセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタール系化合物は、反応性官能基(D)を有していてもよいポリビニルアセタールであり、
反応性官能基(C)と反応性官能基(D)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、又はアルキニル基とアジド基との組み合わせである、[8]に記載の無機粒子含有組成物。
[10] 第2セルロース誘導体は、反応性官能基(C)を有しないセルロース誘導体であり、
第2ポリビニルアセタールは、反応性官能基(D)を有しないポリビニルアセタールである、[9]に記載の無機粒子含有組成物。
【発明の効果】
【0013】
ポリマーブレンド型バインダーの相溶性を向上させる相溶化剤として好適な高分子化合物を提供することができる。
上記高分子化合物を含むポリマーブレンド型高分子組成物を提供することができる。
上記高分子化合物単独あるいは上記高分子化合物を含むポリマーブレンド型高分子組成物と無機粒子とを含む無機粒子含有組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「A~B」(A及びBは数値である。)との記載は、特記ない限り「A以上B以下」を表す。
【0015】
<高分子化合物>
本発明に係る高分子化合物(以下、単に「高分子化合物」ともいう。)は、第1セルロース系化合物から形成される第1セグメント、第1ポリビニルアセタール系化合物から形成される第2セグメント、及び、第1セグメントと第2セグメントとを結合する結合基とを分子内に含む高分子化合物である。
この高分子化合物は、2種以上の成分からなるポリマーブレンド型バインダー、とりわけセルロース系化合物とポリビニルアセタール系化合物と含むバインダーの相溶化剤として好適である。
【0016】
(1)第1セルロース系化合物
第1セグメントを形成する第1セルロース系化合物は、第2セグメントを形成する第1ポリビニルアセタール系化合物と反応可能な反応性官能基(A)を有する化合物であり、好ましくは、反応性官能基(A)を有するセルロース誘導体である。第1セルロース系化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
セルロース誘導体とは、天然高分子であるセルロースが有するヒドロキシ基の一部に化学修飾を施した変性セルロースをいう。ヒドロキシ基の化学修飾としては、特に制限されないが、ヒドロキシ基のアルキルエーテル化、ヒドロキシアルキルエーテル化、エステル化等が挙げられる。
【0017】
セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース(アセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等)、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース等が挙げられる。
【0018】
反応性官能基(A)を有するセルロース誘導体を効率良く製造する観点から、セルロース誘導体は、有機溶剤に溶解可能なものであることが好ましい。有機溶剤に対する溶解度の高さから、セルロース誘導体は、エチルセルロースであることがより好ましい。
【0019】
セルロース誘導体は、その分子量によって膜強度や溶液の粘度に影響を及ぼす。そのため、セルロース誘導体の数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値で、0.5万~15万の範囲であることが好ましく、1万~10万の範囲であることがより好ましい。
数平均分子量が0.5万未満であると溶液粘度が極端に低くなり無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)の粘度調整が困難となり、また、無機粒子含有組成物を塗布、乾燥してなる膜の強度や密着性が低下するおそれがある。
一方で、数平均分子量が15万を超えると溶液粘度が極端に大きくなり、無機粒子含有組成物の粘度調整が困難となり得、また印刷性が低下するおそれがある。
【0020】
セルロース誘導体は、1分子中に少なくとも1つのヒドロキシ基を有する。このヒドロキシ基は、反応性官能基(A)の導入に利用することができる。
反応性官能基(A)は、好ましくは、下記のX群から選択されるいずれかの官能基、又は下記のY群から選択されるいずれかの官能基である。
(X群)
チオール基(-SH)、アルキニル基、アミノ基
(Y群)
ビニル基、アジド基、カルボキシル基
【0021】
例えば、セルロース誘導体のヒドロキシ基に、該ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(A)を有する化合物を反応させることによって、セルロース誘導体に反応性官能基(A)を導入することができ、これにより反応性官能基(A)を有するセルロース誘導体を得ることができる。
ヒドロキシ基と反応可能な基としては、カルボキシル基、酸無水物基、酸塩化物基、イソシアネート基、ハロゲン基(ハロゲン原子)等が挙げられる。
【0022】
ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(A)を有する化合物としては、例えば、チオール基、ビニル基、アジド基、アルキニル基、アミノ基又はカルボキシル基を有する有機カルボン酸;該有機カルボン酸の無水物;該有機カルボン酸の酸塩化物;(メタ)アクリレート基含有イソシアネートやアリル基含有イソシアネートなどのビニル基含有イソシアネート;ハロゲン基を有するビニル誘導体;ハロゲン基を有するアリル誘導体が挙げられる。
ビニル基には、(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイルオキシ基)や、アリル基等が含まれる。
本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリル、(メタ)アクリロイル等というときの「(メタ)」も同様の趣旨である。
【0023】
セルロース誘導体のヒドロキシ基と、該ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(A)を有する化合物との反応(エステル化反応、ウレタン化反応、エーテル化反応等)においては、従来公知の方法や反応条件を採用することができる。反応触媒(有機金属化合物、金属、アミン、縮合剤等)を用いることも有効である。
【0024】
第1セルロース系化合物が有する反応性官能基(A)の数は、1分子あたり平均10個以下であることが好ましい。反応性官能基(A)の数が1分子あたり平均10個を超えると、高分子化合物の製造においてゲル化及びこれに伴う有機溶剤への不溶化を生じやすくなる。第1セルロース系化合物が有する反応性官能基(A)の数は、1分子あたり平均8個以下であってもよく、5個以下であってもよく、3個以下であってもよく、2個以下であってもよく、1個以下であってもよい。
【0025】
(2)第1ポリビニルアセタール系化合物
第2セグメントを形成する第1ポリビニルアセタール系化合物は、第1セグメントを形成する第1セルロース系化合物の反応性官能基(A)と反応可能な反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタールである。
ポリビニルアセタールは通常、ビニルアセタール/ビニルアルコール/酢酸ビニルのモノマー単位から構成されるポリマーであり、ポリビニルアルコールをアセタール化することによって得ることができる。具体的には、ポリビニルアルコールをブチラール化したもの(ポリビニルブチラール)、ポリビニルアルコールをホルマール化したもの(ポリビニルホルマール)等が挙げられる。
【0026】
ポリビニルアセタールは市販品であってもよく、ブチラール化度、ホルマール化度、アセチル基量、ヒドロキシ基量や分子量等の異なる各種ポリビニルアセタールが積水化学工業社、クラレ社、イーストマンケミカル社等から販売されている。ポリビニルアセタールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタールを効率良く製造する観点から、ポリビニルアセタールは、有機溶剤に溶解可能なものであることが好ましい。有機溶剤に対する溶解度の高さから、ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラールであることがより好ましい。
【0028】
ポリビニルアセタールは、その分子量によって膜強度や溶液の粘度に影響を及ぼす。そのため、ポリビニルアセタールの数平均分子量は、GPCによる標準ポリスチレン換算値で、0.5万~15万の範囲であることが好ましく、1万~10万の範囲であることがより好ましい。
数平均分子量が0.5万未満であると溶液粘度が極端に低くなり無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)の粘度調整が困難となり、また、無機粒子含有組成物を塗布、乾燥してなる膜の強度や密着性が低下するおそれがある。
一方で、数平均分子量が15万を超えると溶液粘度が極端に大きくなり、無機粒子含有組成物の粘度調整が困難となり得、また印刷性が低下するおそれがある。
【0029】
ポリビニルアセタールは、1分子中に少なくとも1つのヒドロキシ基を有する。一般的には、ポリビニルアセタールは、ポリマーを構成するビニルアルコール単位として20~40モル%のヒドロキシ基を有する。このヒドロキシ基は、反応性官能基(B)の導入に利用することができる。
【0030】
反応性官能基(B)は、反応性官能基(A)と反応可能な基であり、好ましくは、上記のX群から選択されるいずれかの官能基、又は上記のY群から選択されるいずれかの官能基である。
ここで、反応性官能基(A)がX群から選択される場合、反応性官能基(B)はY群から選択され、反応性官能基(A)がY群から選択される場合、反応性官能基(B)はX群から選択される。
より具体的には、第1セルロース系化合物が有する反応性官能基(A)と第1ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(B)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、アルキニル基とアジド基との組み合わせであるか、又は、アミノ基とカルボキシル基との組み合わせであることが好ましい。
ここでいう組み合わせとは、例えばチオール基とビニル基との組み合わせである場合、(反応性官能基(A),反応性官能基(B))の組み合わせは、(チオール基,ビニル基)であってもよく、(ビニル基,チオール基)であってもよいことを意味する。
【0031】
例えば、ポリビニルアセタールのヒドロキシ基に、該ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(B)を有する化合物を反応させることによってポリビニルアセタールに反応性官能基(B)を導入することができ、これにより反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタールを得ることができる。
ヒドロキシ基と反応可能な基としては、カルボキシル基、酸無水物基、酸塩化物基、イソシアネート基、ハロゲン基(ハロゲン原子)等が挙げられる。ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(B)を有する化合物の具体例は、上記「(1)第1セルロース系化合物」の項で挙げた化合物と同様である。
【0032】
ポリビニルアセタールのヒドロキシ基と、該ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(B)を有する化合物との反応(エステル化、ウレタン化反応、エーテル化反応等)においては、従来公知の方法や反応条件を採用することができる。反応触媒(有機金属化合物、金属、アミン、縮合剤等)を用いることも有効である。
【0033】
第1ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(B)の数は、1分子あたり平均10個以下であることが好ましい。反応性官能基(B)の数が1分子あたり平均10個を超えると、高分子化合物の製造においてゲル化及びこれに伴う有機溶剤への不溶化を生じやすくなる。第1ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(B)の数は、1分子あたり平均8個以下であってもよく、5個以下であってもよく、3個以下であってもよく、2個以下であってもよく、1個以下であってもよい。
【0034】
(3)結合基
本発明に係る高分子化合物は、第1セルロース系化合物と第1ポリビニルアセタール系化合物との反応物であり、第1セルロース系化合物が有する反応性官能基(A)と第1ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(B)との反応によって結合基が形成される。
結合基は、-S-基、1,2,3-トリアゾールジイル基又はアミド基を含む。
【0035】
(反応性官能基(A),反応性官能基(B))の組み合わせが(チオール基,ビニル基)であるとき、結合基は、-S-基を含む。
(反応性官能基(A),反応性官能基(B))の組み合わせが(アルキニル基,アジド基)であるとき、結合基は、1,2,3-トリアゾールジイル基を含む。
(反応性官能基(A),反応性官能基(B))の組み合わせが(アミノ基,カルボキシル基)であるとき、結合基は、アミド基を含む。
第1セグメントは、第1セルロース系化合物のうち、結合基を形成する構造部分以外の構造部分を指す。
第2セグメントは、第1ポリビニルアセタール系化合物のうち、結合基を形成する構造部分以外の構造部分を指す。
【0036】
(4)高分子化合物の構成
高分子化合物は、第1セグメントと第2セグメントとを、0.05:0.95~0.95~0.05の質量比の範囲で含むことが好ましい。さらには0.1:0.9~0.9:0.1の重量比の範囲が好ましい。この範囲を逸脱すると相溶化剤あるいは相溶化剤を含むポリマーブレンド型高分子組成物としの所望の特性が得られなくなる可能性がある。
高分子化合物の数平均分子量は、GPCによる標準ポリスチレン換算値で、1万~20万であることが好ましく、1万~15万であることがより好ましく、2万~12万であることがさらに好ましい。高分子化合物の数平均分子量が1万未満であると、相溶化剤としての機能が不十分になる傾向がある。一方で20万を超えると粘度が高くなりすぎる傾向がある。
なお、セルロース誘導体を含む高分子材料は、ポリビニルアセタールとの結合反応によって溶液中での高分子鎖の広がり等に変化が起こり、GPCでの分子量の測定値が、使用した原料の分子量との間には相関性が無い場合もある。
【0037】
<高分子化合物の製造方法>
(1)第1セルロース系化合物及び第1ポリビニルアセタール系化合物の製造
反応性官能基(A)を有する第1セルロース系化合物及び反応性官能基(B)を有する第1ポリビニルアセタール系化合物は、上述のように、それぞれセルロース誘導体、ポリビニルアセタールのヒドロキシ基と、該ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(A)又は反応性官能基(B)を有する化合物とを反応させることによって得ることができる。
【0038】
上記反応は、例えば、エステル化反応、ウレタン化反応、エーテル化反応である。該反応においては、従来公知の方法や反応条件を採用することができる。反応触媒(有機金属化合物、金属、アミン、縮合剤等)を用いることも有効である。
【0039】
エステル化反応は、例えば、縮合剤を用いて行うことができる。縮合剤としては、カルボジイミド、ジフェニルリン酸アジド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、BOP試薬等が挙げられる。縮合剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、カルボジイミドは、汎用性や反応性に優れ、低温条件で、また反応環境下の水分の影響を受けずに反応を進行させることができるため好適である。
【0040】
カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミドメチオダド等が挙げられる。中でも、入手性の観点から、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドが好適である。また、カルボジイミドを使用する場合には、反応促進剤として塩基であるジメチルアミノピリジンやトリエチルアミンをカルボジイミドに対して0.01モル%~10モル%の範囲で併用することも好ましい。
【0041】
ウレタン化反応は、例えば、反応触媒を用いて行うことができる。反応触媒としては、ジラウリン酸ジオクチルスズ、ジブチルスズジラウレート、スタナスオクトエート、ジブナフテン酸亜鉛等の有機金属化合物;1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)又はその塩;1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、PMDETA(N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン)、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルジシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン等のアミン化合物が挙げられる。
【0042】
エーテル化反応は、KOH、NaOH等のアルカリ金属の水酸化物;NaHやKH等の水素化アルカリ金属を反応触媒として用いることで効率的に実施できる。
【0043】
セルロース誘導体、ポリビニルアセタールのヒドロキシ基と、該ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(A)又は反応性官能基(B)を有する化合物との反応は、非プロトン性の有機溶剤中で行うことが好ましい。
【0044】
非プロトン性の有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチルラクテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジヒドロターピニルアセテート等が挙げられる。有機溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
セルロース誘導体、ポリビニルアセタールのヒドロキシ基と、該ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(A)又は反応性官能基(B)を有する化合物との反応の温度は、例えば、0℃~100℃程度である。反応性官能基(A)又は反応性官能基(B)の導入量は、NMR分析等で測定可能である。縮合剤としてカルボジイミドを用いた場合、副生成物としてウレアが生成し、それが不溶化する場合もあるが、必要に応じてろ過精製や再沈殿精製を行ってもよい。
【0046】
セルロース誘導体やポリビニルアセタールへの反応性官能基(A)又は反応性官能基(B)の導入量は、セルロース誘導体やポリビニルアセタールの1分子が有するヒドロキシ基の数、ヒドロキシ基と反応可能な基及び反応性官能基(A)又は反応性官能基(B)を有する化合物、縮合剤等の使用量等によって前記した範囲で調整することができる。セルロース誘導体やポリビニルアセタールの1分子が有するヒドロキシ基の数は、セルロース誘導体やポリビニルアセタールに含まれるヒドロキシ基の含有率、セルロース誘導体やポリビニルアセタールの分子量等によって調整できる。
【0047】
(2)高分子化合物の製造
第1セルロース系化合物が有する反応性官能基(A)と第1ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(B)とを化学反応容器を用いて有機溶剤中等で反応させることによって高分子化合物が得られる。
【0048】
アリル基とチオール基との結合反応では、加熱処理やラジカル開始剤を添加した加熱処理によって実施できる。
アジド基とアルキニル基とのクリック反応では銅触媒やルテニウム触媒などの金属触媒が使用される。
アミンとカルボン酸とのアミド化反応では、前記したカルボジイミド等を触媒とした反応等が実施可能である。
上記いずれの反応においても、反応に使用する触媒量や反応条件は先行技術と同様な一般的な化学反応プロセスで実施することが可能である。
なお、結合反応においては各高分子に導入された全て官能基が全て反応する必要は無く、過剰に存在する一方の官能基が少量残存しても特性には大きな影響は無いため問題ない。
【0049】
<相溶化剤>
本発明に係る相溶化剤(以下、単に「相溶化剤」ともいう。)は、上記本発明に係る高分子化合物を含む。相溶化剤は、本発明に係る高分子化合物からなっていてもよい。
相溶化剤は、1種又は2種以上の高分子化合物を含むことができる。高分子化合物の種類が異なる場合とは、例えば、高分子化合物を形成する第1セルロース系化合物及び/又は第1ポリビニルアセタール系化合物の種類(化学構造、分子量等)が異なる場合等が挙げられる。
【0050】
本発明に係る相溶化剤は、2種以上の成分からなるブレンド型バインダー、とりわけセルロース系化合物とポリビニルアセタール系化合物と含むブレンド型バインダーを相溶化させるための相溶化剤として好適である。本発明に係る相溶化剤を添加することにより、セルロース系化合物とポリビニルアセタール系化合物とをより均一に混合することができる(相分離状態の微細化を図ることができる)とともに、セルロース系化合物及びポリビニルアセタール系化合物を含む高分子組成物と無機粒子とを混合して無機粒子含有組成物としたときの無機粒子の分散性を向上させることができる。
【0051】
<高分子組成物>
本発明に係る高分子組成物(以下、単に「高分子組成物」ともいう。)は、上記本発明に係る高分子化合物と、第2セルロース系化合物と、第2ポリビニルアセタール系化合物とを含む。また、有機溶剤を含んでいても構わない。
高分子組成物は、1種又は2種以上の高分子化合物(相溶化剤)を含むことができる。
高分子組成物は、1種又は2種以上の第2セルロース系化合物を含むことができる。
高分子組成物は、1種又は2種以上の第2ポリビニルアセタール系化合物を含むことができる。
第2セルロース系化合物及び第2ポリビニルアセタール系化合物は、無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)のバインダー又はその一部として好適に用いられるポリマー材料である。
【0052】
第2セルロース系化合物としては、例えば、反応性官能基(C)を有するセルロース誘導体、反応性官能基(C)を有しないセルロース誘導体等が挙げられる。
反応性官能基(C)を有するセルロース誘導体は、上記反応性官能基(A)を有するセルロース誘導体と同様であってよい。反応性官能基(C)を有するセルロース誘導体については、反応性官能基(A)を有するセルロース誘導体についての上記記述が引用される。高分子組成物に含まれる高分子化合物を製造する際に用いた第1セルロース系化合物が有する反応性官能基(A)と、高分子組成物に含まれる第2セルロース系化合物が有する反応性官能基(C)とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
反応性官能基(C)を有しないセルロース誘導体としては、第1セルロース系化合物について述べたセルロース誘導体が挙げられるが、使用する相溶化剤の構成成分と異なるものを使用してもよい。セルロース誘導体は、エチルセルロースであることが好ましい。
【0053】
第2セルロース系化合物は、その分子量によって膜強度や溶液の粘度に影響を及ぼす。そのため、第2セルロース系化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値で、0.5万~15万の範囲であることが好ましく、1万~10万の範囲であることがより好ましい。
数平均分子量が0.5万未満であると溶液粘度が極端に低くなり無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)の粘度調整が困難となり、また、無機粒子含有組成物を塗布、乾燥してなる膜の強度や密着性が低下するおそれがある。
一方で、数平均分子量が15万を超えると溶液粘度が極端に大きくなり、無機粒子含有組成物の粘度調整が困難となり得、また印刷性が低下するおそれがある。
【0054】
第2ポリビニルアセタール系化合物としては、例えば、反応性官能基(D)を有するポリビニルアセタール、反応性官能基(D)を有しないポリビニルアセタール等が挙げられる。
反応性官能基(D)を有するポリビニルアセタールは、上記反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタールと同様であってよい。反応性官能基(D)を有するポリビニルアセタールについては、反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタールについての上記記述が引用される。高分子組成物に含まれる高分子化合物を製造する際に用いた第1ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(B)と、高分子組成物に含まれる第2ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(D)とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0055】
反応性官能基(C)は、反応性官能基(D)と反応可能な基であり、好ましくは、上記のX群から選択されるいずれかの官能基、又は上記のY群から選択されるいずれかの官能基である。
反応性官能基(D)は、反応性官能基(C)と反応可能な基であり、好ましくは、上記のX群から選択されるいずれかの官能基、又は上記のY群から選択されるいずれかの官能基である。
ここで、第2セルロース系化合物が反応性官能基(C)を有し、かつ第2ポリビニルアセタール系化合物が反応性官能基(D)を有するときには、反応性官能基(C)がX群から選択される場合、反応性官能基(D)はY群から選択されることが好ましく、反応性官能基(C)がY群から選択される場合、反応性官能基(D)はX群から選択されることが好ましい。
より具体的には、第2セルロース系化合物が有する反応性官能基(C)と第2ポリビニルアセタール系化合物が有する反応性官能基(D)との組み合わせは、チオール基とビニル基との組み合わせであるか、アルキニル基とアジド基との組み合わせであるか、又は、アミノ基とカルボキシル基との組み合わせであることが好ましい。
ここでいう組み合わせとは、例えばチオール基とビニル基との組み合わせである場合、(反応性官能基(C),反応性官能基(D))の組み合わせは、(チオール基,ビニル基)であってもよく、(ビニル基,チオール基)であってもよいことを意味する。
【0056】
反応性官能基(D)を有しないポリビニルアセタールとしては、第1ポリビニルアセタール系化合物について述べたポリビニルアセタールが挙げられるが、使用する相溶化剤の構成成分と異なるものを使用してもよい。ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラールであることが好ましい。
【0057】
第2ポリビニルアセタール系化合物は、その分子量によって膜強度や溶液の粘度に影響を及ぼす。そのため、第2ポリビニルアセタール系化合物の数平均分子量は、GPCによる標準ポリスチレン換算値で、0.5万~15万の範囲であることが好ましく、1万~10万の範囲であることがより好ましい。
数平均分子量が0.5万未満であると溶液粘度が極端に低くなり無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)の粘度調整が困難となり、また、無機粒子含有組成物を塗布、乾燥してなる膜の強度や密着性が低下するおそれがある。
一方で、数平均分子量が15万を超えると溶液粘度が極端に大きくなり、無機粒子含有組成物の粘度調整が困難となり得、また印刷性が低下するおそれがある。
【0058】
本発明に係る高分子組成物について、実施形態を挙げてさらに詳細に説明する。
第1の実施形態に係る高分子組成物は、ポリマーブレンド型バインダー及び相溶化剤を含み、該ポリマーブレンド型バインダー及び該相溶化剤が、上記<高分子化合物の製造方法>で述べた製造方法によって得られた生成物である。この形態において、該生成物は、ポリマーブレンド型バインダーであるだけでなく、その中に含まれる本発明に係る高分子化合物が相溶化剤として機能する。
第2の実施形態に係る高分子組成物は、ポリマーブレンド型バインダー及び相溶化剤を含み、該ポリマーブレンド型バインダーがセルロース系化合物及びポリビニルアセタール系化合物を含み、相溶化剤が上記<高分子化合物の製造方法>で述べた製造方法によって得られた生成物を含む。該生成物に含まれる本発明に係る高分子化合物以外の部分がポリマーブレンド型バインダーの一部をなしていてもよい。
【0059】
上記<高分子化合物の製造方法>で述べた製造方法によって得られた生成物は、第1の実施形態用として用いられるか、又は、第2実施形態用として用いられるかによって作り分けられることが好ましい。すなわち、高分子化合物の製造方法において、第1セルロース系化合物と第1ポリビニルアセタール系化合物とを結合する割合、つまりこれらの化合物に導入する反応性官能基量を制御することによって作り分けることができる。
第1の実施形態用として用いる場合には、反応性官能基の導入量を相対的に少なくすることが好ましい。例えば、導入する反応性官能基の数は、1分子あたり2未満、さらには1以下が望ましい。
一方、第2の実施形態用として用いる場合には、反応性官能基の導入量を相対的に多くすることが好ましい。第2の実施形態用として用いる場合、第1セルロース系化合物及び第1ポリビニルアセタール系化合物に導入する反応性官能基の数は、1分子あたり平均2個以上であることが好ましい。
【0060】
第2の実施形態において、上記<高分子化合物の製造方法>で述べた製造方法によって得られた生成物は、ポリマーブレンド型バインダーとしてのセルロース系化合物及びポリビニルアセタール系化合物(第2セルロース系化合物及び第2ポリビニルアセタール系化合物)の総量に対して0.1質量%~50質量%の範囲とすることが望ましい。その範囲外であると、相溶化の効果が低下したり、あるいは粘度が低下するなどの問題を生じたりする可能性がある。
第2の実施形態において、ポリマーブレンド型バインダーとしてのセルロース系化合物とポリビニルアセタール系化合物(第2セルロース系化合物と第2ポリビニルアセタール系化合物)の含有比率は、質量比で、好ましくは1:9~9:1の範囲であり、より好ましくは2:8~8:2の範囲である。
【0061】
<無機粒子含有組成物>
本発明に係る無機粒子含有組成物(以下、単に「無機粒子含有組成物」ともいう。)は、上記本発明に係る高分子化合物と無機粒子と有機溶剤とを含むか、又は、上記本発明に係る高分子化合物と第2セルロース系化合物と第2ポリビニルアセタール系化合物と無機粒子と有機溶剤とを含む。
無機粒子含有組成物は、1種又は2種以上の高分子化合物(相溶化剤)を含むことができる。
無機粒子含有組成物は、1種又は2種以上の第2セルロース系化合物を含むことができる。
無機粒子含有組成物は、1種又は2種以上の第2ポリビニルアセタール系化合物を含むことができる。
無機粒子含有組成物は、1種又は2種以上の無機粒子を含むことができる。
無機粒子含有組成物は、1種又は2種以上の有機溶剤を含むことができる。
第2セルロース系化合物及び第2ポリビニルアセタール系化合物は、無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)のバインダーとして好適に用いられるポリマー材料である。
【0062】
無機粒子含有組成物は、種々のペースト又はスラリー、特に電子部品や、電子機器の部材を製造するための焼成型のペースト又はスラリーとして好適である。なお、ペーストとスラリーとの間に明確な区別はないが、主に粘度の点から区別されており、前者の方が高粘度である。
【0063】
例えば、本発明に係る無機粒子含有組成物は、各種電子部品の回路や電極パターン、誘電体層、セラミック体、蛍光体層等を形成するためのペースト又はスラリーとして好適に用いることができる。
【0064】
無機粒子含有組成物に含まれる無機粒子を構成する無機材料としては、導電性無機材料、セラミック、ガラス、顔料、蛍光体等が挙げられる。
導電性無機材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、タングステン、鉄等の金属;銀-パラジウム合金等の前記金属のいずれかを含む合金;ITO等からなる金属酸化物;炭素粉末等が挙げられる。
セラミックとしては、例えば、チタン酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、及びフェライト等の磁性セラミック等が挙げられる。
ガラスとしては、二酸化ケイ素を含むもの(通常は、これを主成分とするもの)が挙げられ、その融点は特に制限されない。
無機粒子の粒子径は、通常20nm~1mmの範囲である。
【0065】
無機粒子含有組成物に含まれる有機溶剤としては、上記<高分子化合物の製造方法>〔1〕で例示した有機溶剤や、それに加えて活性プロトンを有する種々の有機溶媒等から選択される1種又は2種以上を用いることができる。有機溶剤は、バインダーである第2セルロース系化合物及び第2ポリビニルアセタール系化合物、並びに高分子化合物を溶解可能な溶剤であり、印刷ペースト用途においては高沸点であることが好ましい。例えば、モノ、ジ、トリ~オリゴエチレングリコール系、モノ、ジ、トリ~オリゴプロピレングリコール系、酢酸エステル系、ターピネオール系、ジヒドロターピネオールアセテート系などの高沸点有機溶剤が好適に使用される。
【0066】
無機粒子含有組成物は、必要に応じて添加剤をさらに含むことができる。添加剤としては、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、可塑剤、湿潤剤、色素、ポリマー粒子等を含む。添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、無機粒子含有組成物は、第2セルロース系化合物及び第2ポリビニルアセタール系化合物以外の重合体をバインダーとしてさらに含み得る。
【0067】
無機粒子含有組成物における無機粒子(2種以上の無機粒子を含有する場合はその合計含有量)と樹脂成分(高分子化合物、第2セルロース系化合物及び第2ポリビニルアセタール系化合物の合計含有量)との含有量比は、質量基準で、通常100:1~100:50であり、無機粒子含有組成物の粘度や無機粒子の分散性等の観点から、好ましくは100:5~100:30である。
有機溶剤(2種以上の有機溶剤を含有する場合はその合計含有量)の含有量は、上記樹脂成分100質量部に対して、通常100質量部~10000質量部である。
無機粒子含有組成物が添加剤を含有する場合、その含有量(2種以上の添加剤を含有する場合はその合計含有量)は、上記樹脂成分100質量部に対して、通常0.1~30質量部である。
【0068】
無機粒子、有機溶剤に溶解した上記樹脂成分、及び必要に応じて使用される添加剤を、3本ロールミル、ボールミル、メディアミル、ホモジナイザー等の分散装置を用いて混合し、無機粒子を均一に分散させることによって無機粒子含有組成物を調製することができる。
【0069】
無機粒子含有組成物を基材等に塗工した後、続く焼成によって有機溶剤を揮発させるとともに、上記樹脂成分を熱分解させることにより、無機粒子による層又はパターン等を形成することができる。無機粒子含有組成物の塗工方法としては、スクリーン印刷、ダイコート印刷、ドクターブレード印刷、ロールコート印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンス印刷、キャスト法、ディップ塗装等が挙げられ、中でもスクリーン印刷、ディップ塗装が好適である。
焼成により得られる層又はパターンは通常、無機粒子の焼結体からなる。
【実施例
【0070】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り質量基準である。
【0071】
(合成例1)
(アリル基を有するセルロース系化合物(1a)の合成)
エチルセルロース(ダウケミカル製の「エトセルSTD-200」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):80733、置換度(DS値、エーテル化度):2.52)を用意し、乾燥させた。なお、置換度2.52とは、1個のグルコース環に存在する3個のヒドロキシ基のうち平均して2.52個がエチルエーテル化されており、0.48個のヒドロキシ基が残存しているという意味である。
【0072】
上記乾燥させたエチルセルロース100部を酢酸エチル900部に溶解させた。得られた溶液に、エチルセルロース一分子に対して平均5個の導入量に相当する3-アリルオキシプロピオン酸0.81部、縮合剤としてのジイソプロピルカルボジイミド0.78部、反応促進剤としてのジメチルアミノピリジン0.015部を添加し、温度40℃で5時間撹拌して反応を行った。その後、酢酸エチルを留去することにより、固体として、エチルセルロースにアリル基が導入されたセルロース系化合物(1a)を得た。
【0073】
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ3-アリルオキシプロピオン酸と同モル量のアリル基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
【0074】
(メルカプト基を有するポリビニルアセタール系化合物(1b)の合成)
ポリビニルブチラール(積水化学社製の「BH-S」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):66000、ヒドロキシ基量:約22モル%)を用意し、乾燥させた。乾燥させたポリビニルブチラール100部を酢酸エチル900部に溶解させた。得られた溶液に、ポリビニルブチラール一分子に対して平均5個の導入量に相当する3-メルカプトプロピオン酸0.80部、縮合剤としてのジイソプロピルカルボジイミド0.96部、反応促進剤としてのジメチルアミノピリジン0.019部を添加し、温度40℃で5時間撹拌して反応を行った。その後、酢酸エチルを留去することにより、固体として、ポリビニルブチラールにメルカプト基が導入されたポリビニルアセタール系化合物(1b)を得た。
【0075】
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ3-メルカプトプロピオン酸と同モル量のメルカプト基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
ベースポリマーであるエチルセルロース及びポリビニルブチラールへの官能基の平均導入量(表1において、エチルセルロース及びポリビニルブチラールへの官能基の平均導入量は、同じ合成例において互いに同じである。)、並びに、使用したベースポリマーの種類を表1にまとめた。
【0076】
(合成例2及び3)
エチルセルロース一分子に対して平均1個(合成例2)及び0.1個(合成例3)の導入量に相当する3-アリルオキシプロピオン酸を使用し、これに相応する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、エチルセルロースにアリル基が導入されたセルロース系化合物(2a)、(3a)を得た。
また、ポリビニルブチラール一分子に対して平均1個(合成例2)及び0.1個(合成例3)の導入量に相当する3-メルカプトプロピオン酸を使用し、これに相応する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリビニルブチラールにメルカプト基が導入されたポリビニルアセタール系化合物(2b)、(3b)を得た。
ベースポリマーであるエチルセルロース及びポリビニルブチラールへの官能基の平均導入量、並びに、使用したベースポリマーの種類を表1にまとめた。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ官能基導入用の試薬と同モル量の官能基がベースポリマーに導入されていることが確認された。
【0077】
(合成例4~7)
ベースポリマーであるエチルセルロース及びポリビニルブチラールの種類を表1に示されるとおりにしたこと、ベースポリマーへの官能基の平均導入量を表1に示されるとおりにしたこと以外は合成例1と同様にして、セルロース系化合物及びポリビニルアセタール系化合物を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ官能基導入用の試薬と同モル量の官能基がベースポリマーに導入されていることが確認された。
【0078】
表1に記載の「STD 100」、「STD 45」、「BM-S」、「BL-S」の詳細は次のとおりである。
STD 100:ダウケミカル社製の「エトセルSTD-100」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):63400、置換度(DS値、エーテル化度):2.52
STD 45:ダウケミカル社製の「エトセルSTD-45」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):56500、置換度:2.52
BM-S:積水化学社製の「BM-S」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):53000、ヒドロキシ基量:約22モル%
BL-S:積水化学社製の「BL-S」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):23000、ヒドロキシ基量:約22モル%
【0079】
(合成例8~10)
エチルセルロース、ポリビニルブチラールに導入する官能基の種類を互いに交換した化合物を合成した。すなわち、エチルセルロースにはメルカプト基を、ポリビニルブチラールにはアリル基を導入したこと以外は合成例1と同様にして、セルロース系化合物及びポリビニルアセタール系化合物を得た。
ベースポリマーであるエチルセルロース及びポリビニルブチラールへの官能基の平均導入量、並びに、使用したベースポリマーの種類を表1にまとめた。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ官能基導入用の試薬と同モル量の官能基がベースポリマーに導入されていることが確認された。
【0080】
(合成例11)
(アジド基を有するセルロース系化合物(11a)の合成)
エチルセルロース(ダウケミカル製の「エトセルSTD-200」)を用意し、乾燥させた。乾燥させたエチルセルロース100部を酢酸エチル900部に溶解させた。得られた溶液に、エチルセルロース一分子に対して平均5個の導入量に相当する5-アジドペンタン酸0.89部、縮合剤としてのジイソプロピルカルボジイミド0.78部、反応促進剤としてのジメチルアミノピリジン0.015部を添加し、温度40℃で5時間撹拌して反応を行った。その後、酢酸エチルを留去することにより、固体として、エチルセルロースにアジド基が導入されたセルロース系化合物(11a)を得た。
【0081】
得られた固体の一部をFT-IR及び1H-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ5-アジドペンタン酸と同モル量のアジド基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
【0082】
(アルキニル基を有するポリビニルアセタール系化合物(11b)の合成)
ポリビニルブチラール(積水化学社製の「BH-S」)を用意し、乾燥させた。乾燥させたポリビニルブチラール100部を酢酸エチル900部に溶解させた。得られた溶液に、ポリビニルブチラール一分子に対して平均5個の導入量に相当する5-ヘキシン酸0.85部、縮合剤としてのジイソプロピルカルボジイミド0.96部、反応促進剤としてのジメチルアミノピリジン0.019部を添加し、温度40℃で5時間撹拌して反応を行った。その後、酢酸エチルを留去することにより、固体として、ポリビニルブチラールにアルキニル基が導入されたポリビニルアセタール系化合物(11b)を得た。
【0083】
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ5-ヘキシン酸と同モル量のアルキニル基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
【0084】
(合成例12~18)
ベースポリマーであるエチルセルロース及びポリビニルブチラールの種類を表1に示されるとおりにしたこと、ベースポリマーへの官能基の平均導入量や官能基の組み合わせを表1に示されるとおりにしたこと以外は合成例11と同様にして、セルロース系化合物及びポリビニルアセタール系化合物を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ官能基導入用の試薬と同モル量の官能基がベースポリマーに導入されていることが確認された。
【0085】
【表1】
【0086】
<実施例1:高分子化合物(1ab)の合成>
合成例1で得られたアリル基を導入したセルロース系化合物(1a)とメルカプト基を導入したポリビニルアセタール系化合物(1b)とを以下の方法で反応させて、高分子化合物(1ab)を得た。
セルロース系化合物(1a)5質量部、ポリビニルアセタール系化合物(1b)5質量部をジヒドロターピネオールアセテート60質量部に溶解させた。この溶液をガラス製フラスコ反応容器に移し、窒素置換を行った後にラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を溶液に添加し、撹拌しながら80℃で3時間反応を行って、高分子化合物を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRによって分析したところ、-S-結合が確認され、目的の構造体が得られていた。
【0087】
GPCを用いて高分子化合物(1ab)の数平均分子量(Mn:GPCによる標準ポリスチレン換算値)を測定した。
GPCの測定条件は以下のとおりである(他の実施例で得られた高分子化合物の数平均分子量についても同様)。
GPC装置:東ソー社製「HLC-8320GPC」
カラム:TSKgel GMHXL
測定温度(設定温度):40℃
移動相:テトラヒドロフラン
使用したセルロース化合物及びポリビニルアセタール系化合物の種類及びそれらの質量比、並びに、得られた高分子化合物の数平均分子量を表2にまとめた。
【0088】
<実施例2~12>
使用したセルロース化合物及びポリビニルアセタール系化合物の種類及びそれらの使用質量比を表2に示されるとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして高分子化合物を得た。
使用したセルロース化合物及びポリビニルアセタール系化合物の種類及びそれらの質量比、並びに、得られた高分子化合物の数平均分子量を表2にまとめた。
【0089】
<実施例13>
合成例11で得られたアジド基を導入したセルロース系化合物(11a)とアルキニル基を導入したポリビニルアセタール系化合物(11b)とを以下の方法で反応させて、高分子化合物(13ab)を得た。
セルロース系化合物(11a)5質量部、ポリビニルアセタール系化合物(11b)5質量部をテトラヒドロフラン(THF)60質量部に溶解させた。この溶液をガラス製フラスコ反応容器に移し、反応触媒として硫酸銅・5水和物0.01質量部を溶液に添加し、撹拌しながら60℃で24時間反応を行って、高分子化合物を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRによって分析したところ、1,2,3-トリアゾールジイル基が確認され、目的の構造体が得られていた。
GPCを用いて高分子化合物(13ab)の数平均分子量(Mn)を測定した。
使用したセルロース化合物及びポリビニルアセタール系化合物の種類及びそれらの質量比、並びに、得られた高分子化合物の数平均分子量を表2にまとめた。
【0090】
<実施例14~22>
使用したセルロース化合物及びポリビニルアセタール系化合物の種類及びそれらの使用質量比を表2に示されるとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして高分子化合物を得た。
使用したセルロース化合物及びポリビニルアセタール系化合物の種類及びそれらの質量比、並びに、得られた高分子化合物の数平均分子量を表2にまとめた。
【0091】
【表2】
【0092】
<実施例1A~22A、比較例1A~3A>
(1)バインダーの調製
表3に示される配合組成に従って配合成分を混合してバインダー(溶液)を調製した。実施例1A~22Aにおいては、高分子化合物を合成する実施例で得られた高分子化合物の単独、あるいは高分子化合物と第2セルロース系化合物及び第2ポリビニルアセタール系化合物を混合することによってバインダーを調製した。表3中、「配合質量比」は、固形分換算値である。
表3に示されるとおり、実施例1A~22Aにおいてバインダーは、高分子化合物のみからなるか、又は高分子化合物とセルロース系化合物とポリビニルアセタール系化合物とからなる。比較例1A~3Aにおいてバインダーは、セルロース系化合物のみからなるか、ポリビニルアセタール系化合物のみからなるか、又は、セルロース系化合物とポリビニルアセタール系化合物とからなる。
【0093】
(2)バインダーの評価
実施例、比較例で得られたバインダー及びそれを含む無機粒子含有組成物(ペースト)について、次の評価を行った。結果を表3に示す。
【0094】
(2-1)熱分解性の評価
バインダーの乾燥固体サンプル10mgを、TG/DTA熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製の「EXSTAR TG/DTA6200」)にて、窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱したときの残渣量を測定し、次の評価基準に基づいてバインダーの熱分解性を評価した。残渣量(質量%)とは、上記乾燥固体サンプルの質量を100質量%としたときの測定後の残渣の量を示す。
(熱分解性の評価基準)
A:残渣量が1質量%以下である
B:残渣量が1質量%を超え、3質量%以下である
C:残渣量が3質量%を超える
【0095】
(2-2)ポリビニルブチラールに対する密着性の評価
バインダーを電極ペーストに使用するケースを想定し、グリーンシートに対する密着性の評価を下記のモデル実験により実施した。
【0096】
接着層が形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(総厚み100μm)の接着層上に、実施例、比較例で得られたバインダー溶液を、厚みギャップ90μmのブレードコーターで塗布後、加熱乾燥させることにより、厚み約10μmのバインダー層を有するフィルムを作製した。一方で、グリーンシート用バインダーのモデル材料としてのポリビニルブチラール(積水化学社製の「BH-S」)をトルエンに溶解させ、15質量%の溶液を調製した。これを前記と同様に接着層が形成されたPETフィルムの接着層上に塗布後、加熱乾燥させることにより、厚み約10μmのポリビニルブチラール層を有するフィルムを作製した。得られた各フィルムから幅2cm、長さ8cmの短冊状サンプルを切り出した。
【0097】
バインダー層を有するフィルムサンプルのバインダー層上に、ポリビニルブチラール層を有するフィルムサンプルのポリビニルブチラール層を長手方向にずらして重ね合わせた。重ね合わせた部分の面積は、長手方向2cm×幅2cmとした。重ね合わせた部分の中央に1cm×2cm(面積2cm)の加熱板を押し当て、温度130℃、圧力2kgの条件で5分間熱圧着して、重ね合わせた部分を部分的に接着させた。
【0098】
(株)島津製作所製の引張試験機(AG-10N)を用いてn=3で接着させたサンプルを長手方向に引張って破断強度を測定し、次の評価基準に基づいてポリビニルブチラールに対する密着性を評価した。
(密着性の評価基準)
A:破断強度が100N以上である
B:破断強度が100N未満、50N以上である
C:破断強度が50N未満である
【0099】
(2-3)無機粒子含有組成物(ペースト)の調製及び塗布膜質の評価
バインダー溶液中の溶剤がジヒドロターピネオールアセテートでない場合にはジヒドロターピネオールアセテートに置換した後、ジヒドロターピネオールアセテートの含有量を調整してバインダー濃度が12質量%であるバインダー溶液を得た。
次いで、無機粒子としてのNi粒子(JFEミネラル社製の「NFP201S」、平均粒径0.2μm)100質量部、及び上記バインダー溶液25質量部を3本ロールミルで混合して、ペーストを得た。
【0100】
得られたペーストを、厚みギャップ30μmのブレードコーターでガラス基板上に塗布し、加熱乾燥後の塗布膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、次の評価基準に基づいて塗布膜質を評価した。走査型電子顕微鏡には、日本電子社製「JSM-7800F」を用い、倍率5000倍で塗布膜を観察した。
(塗布膜質の評価基準)
A:1μmを超えるサイズの欠陥(穴)が認められない
B:1μmを超えるサイズの欠陥(穴)が認められる
【0101】
(2-4)スクリーン印刷性の評価
上記(2-3)で調製したペーストを、マイクロテック印刷装置(MT-320シリーズ)を用い、メッシュ#500(中沼アートスクリーン製)をスクリーン版として、L/S=100μm/100μmのストライプ状パターンをPETフィルム上に印刷した。印刷パターンを顕微鏡で観察し、次の評価基準に基づいてスクリーン印刷性を評価した。
なお、糸曳欠陥とは、印刷時にスクリーン印刷版が被印刷体から引き離される段階でペースト等が伸長して細い糸を曳く現象によって印刷欠陥を生じるものである。この現象が起こると、印刷パターンのエッジ部から繊維状の異物が形成されてしまって電気的短絡が起こる、印刷パターン形状が不均一になることで要求特性が得られない等の問題を引き起こす。
(スクリーン印刷性の評価基準)
A:エッジ部に糸曳欠陥がない
B:エッジ部に糸曳欠陥がある
【0102】
【表3】