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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20220422BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220422BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 9/44 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
A61K9/44
A61K47/14
A61K47/02
A61K47/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019196915
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021070732
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【弁理士】
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 啓輔
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-084417(JP,A)
【文献】特開2019-077873(JP,A)
【文献】特開2019-127589(JP,A)
【文献】特開2016-050307(JP,A)
【文献】特開2019-182943(JP,A)
【文献】特表2005-531330(JP,A)
【文献】特表2010-505967(JP,A)
【文献】特開2020-183498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00 - 17/00
C09C 1/00 - 3/12
B41M 5/00
B41M 5/50 - 5/52
B41J 2/01
B41J 2/165- 2/20
B41J 2/21 - 2/215
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 - 47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分として、顔料と、分散剤と、分散媒を少なくとも含み、各成分が、可食性であるインクジェットインクであって、
前記分散媒が、有機溶媒のみからなり、前記有機溶媒が、50重量%以上含まれるとともに、前記顔料の平均分散粒子径(D50)が50~200nm、かつ、前記顔料の最大分散粒子径(D99)が400nm未満であることを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記顔料が、可食性の酸化鉄である請求項1に記載のインクジェット。
【請求項3】
前記インクジェットインク100重量部中、前記可食性の酸化鉄が0.5~10重量部含まれる請求項2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記分散剤が、分子量1000以上10万未満のポリビニルピロリドンである請求項1~請求項3のいずれかに記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記有機溶媒が、エタノールである請求項1~請求項4のいずれかに記載のインクジェットインク。
【請求項6】
表面調整剤を含む請求項1~請求項5のいずれかに記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記表面調整剤が、グリセリン脂肪酸エステルである請求項6に記載のインクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、インクジェット式印刷装置を用いて錠剤に文字や図柄を直接印刷する際に用いられるインクジェットインクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、錠剤に文字や図柄を直接印刷する際に用いられるインクとしては、一般的に染料を着色剤として用いたインクジェットインクが用いられることが多い。
しかし、染料を色材(着色剤)として用いたインクジェットインクの場合、耐湿性や耐光性が劣り、印刷された文字や図柄の安定性に懸念がある。
【0003】
一方、色材として顔料を用いた場合、染料に比べ、耐湿性や耐光性は向上するが、インク保管時に顔料粒子の沈降が起きて、印刷される文字や図柄の濃度変化やインクの吐出安定性に懸念がある。
そこで、上記問題を解決するために、顔料を色材として含むインクジェットインクを用いる場合、ドロップオンデマンドインクジェット装置にインク循環機構を設け、顔料粒子の沈降防止を図ることによって、印刷される文字や図柄の濃度変化やインクの吐出安定性を確保する方法(特許文献1,2参照)、顔料として四三酸化鉄を用いるとともに、インク中の四三酸化鉄の粒度分布規定したインクジェットインク(特許文献3)、顔料を含む着色剤、エステルガム、エタノール、シリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステルからなるインクジェットインク(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-008275号公報
【文献】特許2015-000968公報
【文献】特開2019-059848号公報
【文献】特開2017-036376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献にて提案された方法やインクジェットインクの場合、次のような問題がある。
(1)特許文献1,2の方法
特許文献1,2の方法では、ドロップオンデマンドインクジェット装置にインク循環機構を余分に設けて、顔料の沈降を防ぐようにしているため、印刷される文字や図柄の濃度変化やインクの吐出安定性を確保することができるのであるが、装置が複雑化するとともに、装置の維持コストや製造コストの面で問題がある。
(2)特許文献3のインクジェットインク
特許文献3のインクジェットインクの場合、主溶剤として水を使用しており、印刷対象となる錠剤の種類によって、定着性が異なる。すなわち、一般的に知られているとおり、水性インクでは素錠や口腔内崩壊錠(以下OD錠)には浸透し定着するが、糖衣錠やフィルムコーティング錠(以下FC錠)には浸透せず、溶剤の乾燥が遅いため、定着する前に転写等が発生してしまう。
(3)特許文献4のインクジェットインク
特許文献4のインクジェットインクの場合、吐出安定性を確保するためにエステルガムを使用しているが、日本の食品添加物使用基準において、エステルガムはチューインガムのみに使用可能と明記されている。また、日本の医薬品添加物規格でも投与経路は、一般外用剤、経皮、その他の外用と明記されている。
したがって、経口投与する錠剤に使用するには安全性に懸念がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて、印刷後の耐湿性と耐光性に優れるとともに、顔料粒子が沈降しにくく、循環や攪拌を行わなくても長期間安定した印刷状態を保つことができるインクジェットインクを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明にかかるインクジェットインク(以下、「本発明のインク」と記す)は、成分として、顔料と、分散剤と、分散媒を少なくとも含み、各成分が、可食性であるインクジェットインクであって、前記分散媒が、有機溶媒のみからなり、前記有機溶媒が、50重量%以上含まれるとともに、前記顔料の平均分散粒子径(D50)が50~200nm、かつ、前記顔料の最大分散粒子径(D99)が400nm未満であることを特徴としている。
【0008】
なお、本発明において、顔料の平均分散粒子径(D50)が50~200nm、かつ、最大分散粒子径(D99)が400nm未満に限定されるが、平均分散粒子径(D50)は、130nm以下が好ましく、110nm以下でより好ましく、最大分散粒子径(D99)は、350nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましい。
本発明において、顔料としては、可食性のものであれば特に限定されないが、たとえば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、二酸化チタン、アルミニウムレーキなどが挙げられ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄などの酸化鉄が好適である。
【0009】
上記酸化鉄の配合割合は、安定性、耐久性などのインクとして十分な性能を確保できれば、特に限定されないが、インクジェットインク100重量部中、0.5~10重量部含まれることが好ましい。
酸化鉄の配合割合が0.5重量未満では、印刷体の色濃度に問題が出るおそれがあり、10重量部を超えると、ノズルのつまりなどの問題が生じるおそれがある。
【0010】
本発明のインクにおいて、分散剤としては、可食性で、顔料の分散性を確保できれば、特に限定されないが、ポリビニルピロリドン(以下、「PVP」と記す)、メタクリル酸コポリマー、アンモニアアルキルメタアクリレートコポリマー、デカグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられ、中でも、PVPが好ましい。
すなわち、PVPは、分散剤としてだけではなくバインダーとしても作用し、別途バインダーを加えなくてもよくなる。そして、分子量1000以上10万未満のPVPが特に好ましい。
【0011】
また、本発明のインクにおいて、分散媒としては、可食性の有機溶媒であれば特に限定されないが、揮発性が高く、インクの速乾性に優れるため、エタノールが好適である。
【0012】
因みに、PVPを分散剤、エタノールを分散媒として用いた系においては、重量比で、
PVP:エタノール=1:4~1:8が好ましく、PVP:エタノール=1:5~1:7がより好ましい。
すなわち、エタノールが少なすぎると、顔料粒子がノズルに詰まりやすくなり、ドット抜けなどが発生しやすくなり、多すぎると、印刷濃度に問題がでるおそれがある。
【0013】
本発明のインクは、必要に応じて、ノズル先端での分散媒の揮発によるインクの固化を防ぐ目的で、表面調整剤を成分として含んでも構わない。
すなわち、プリンタを一定期間以上停止してプリンタを再稼働させる場合のように、インクが連続的に使用されるのではない場合、分散媒が揮発してノズル先端で顔料濃度が高くなったり、インクが固化したりして、ノズルが詰まるおそれがあるが、上記表面調整剤を成分中に加えることによって、分散媒の揮発を遅らせることができる。
【0014】
上記表面調整剤としては、医薬品添加物規格を満足するとともに、上記機能を備えたものであれば、特に限定されないが、たとえば、グリセリン脂肪酸エステル、シリコーンオイル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ひまし油などが挙げられる。
上記グリセリン脂肪酸エステルとしては、たとえば、ステアリン酸、オレイン酸、カプリル酸、 ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸等の各種脂肪酸とグリセリンとの反応生成物である モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、ならびに上記各種脂肪酸とポリグリセリンとの反応生成物であるポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられ、具体的には、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノクエン酸モノステアリン酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸モノステアリン酸エスエル、デカグリセンリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノミスチリン酸エステルなどのグリセリン脂肪酸エステルなどのHLB(親水性親油性バランス)が7~15のものが好ましい。
HLBが、上記の範囲未満または上記範囲を超えると、インクの固化が防げずに、インクがノズルに詰まりやすくなったり、ドット抜けなどが発生しやすくなったりするおそれがある。
【0015】
上記表面調整剤の添加量は、特に限定されないが、インク100重量部中に、0.1~5重量部が好ましく、0.3~2重量部がより好ましく、0.3~0.7重量部が特に好ましい。
すなわち、表面調整剤の添加量が多すぎると、ノズルが詰まったり、ドット抜けが発生したりするおそれがあり、少なくなると、表面調整剤の添加効果を得られなくなるおそれがある。
【0016】
本発明のインクジェットは、ノズルの乾燥防止のために、必要に応じて可食性の保湿成分が含まれていても構わない。
保湿成分としては、たとえば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、水、食用乳化剤などが挙げられる。
保湿成分の添加量としては、5重量%以下が好ましい。
【0017】
本発明にかかるインクジェットインクを製造する方法としては、特に限定されないが、たとえば、少なくとも、前記顔料と、分散剤と、分散媒を分散混合して得た予備分散体を、遠心分離して形成される上澄み液からなる分散体を得たのち、この分散体をインクジェットインクとする方法、前記分散体を濃縮して得た濃縮分散体をインクジェットインクとする方法、得られた濃縮分散体の顔料濃度を調整するために有機溶媒で濃縮分散体を希釈する方法などが挙げられる。
【0018】
上記予備分散体を得る方法としては、特に限定されないが、メディアレスの分散機を用いても、分散メディアを用いる分散機を用いてもよい。
上記メディアレスの分散機としては、乳化分散装置(たとえば、パウレック社の商品名マイクロフルイダイサー、吉田機械工業社の商品名ナノマイザー、スギノマシン社の商品名スターバースト)が挙げられる。
一方、分散メディアとしては、サンドミルやビーズミルが挙げられる。
【0019】
なお、メディアレスの分散機は、目的外の成分の混入(コンタミネーション)を防止することできるため、得られるインクジェットインクの品質安定性の点で好ましいが、処理量に制限があるとともに、処理時間が長くかかるとともに、顔料粒子を十分細かくすることができないおそれがある。
【0020】
なお、媒体攪拌粉砕機としては、特に限定されないが、湿式媒体攪拌ミルが挙げられ、中でも、横型のビーズミルが好ましい。
上記ビーズミルに使用されるビーズ(媒体)としては、特に限定されないが、ジルコニアビーズが一般的である。
【0021】
本発明の製造方法において、分散体形成工程のあとに、得られた分散体を濃縮する濃縮分散体形成工程を設けるようにしても構わない。
すなわち、分散体形成工程において得られた分散体は、遠心分離によって顔料濃度が低くなっているので、そのままでは、十分な濃度の文字や図柄を印刷できないおそれがある。
そこで、分散体の他の成分、特に、分散媒を取り除くなどして、濃縮を図り、顔料濃度を高めることが好ましい。
【0022】
また、上記濃縮方法としては、特に限定されないが、ろ過濃縮、蒸発濃縮、減圧濃縮、超音波霧化分離が挙げられ、中でも、分散媒とともに、余分な分散剤を取り除きやすいことからろ過濃縮が好ましい。
【0023】
本発明の製造方法は、上記濃縮分散体に少なくとも他の成分を加えて濃度調整する濃度調整工程を備えていてもよい。
すなわち、濃縮工程で濃縮分散体は、各成分がインクとして使用するために適した濃度範囲になっていない場合がある。
そこで、各成分が使用に適した濃度範囲となるように濃度調整すればよい。
【0024】
本発明のインクジェットインクは、医療用の錠剤、健康食品の錠剤等への文字や図柄等の印刷に好適であるが、もちろん、他の印刷対象物、たとえば、食品類を包装する包装材料及び食品と接触する材料、ならびに食品類にも印刷可能である。
健康食品、又は医薬品用の錠剤は、コーティングの施された錠剤、コーティングのない素錠、易崩壊性の錠剤等、様々な種類の錠剤にも使用できる。
この錠剤としては、素錠、OD錠、FC錠、糖衣錠等の種々の剤形のものを対象とできる。
【0025】
包装材料としては、たとえば、パンの包装、食品のトレイ、弁当容器、パック等があり、食品と接触する材料としては、割りはし、楊枝、串等が挙げられる。
食品類としては、たとえば、ガム、キャンディー、ビスケット、クッキー、饅頭、チョコレート、みかん、りんご、スイカ、メロン、マンゴー、柿、桃等の果物や、野菜、加工肉類等が挙げられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のインクは、以上のように、成分として、顔料と、分散剤と、分散媒を少なくとも含み、各成分が、可食性であるインクジェットインクであって、前記分散媒が、有機溶媒のみからなり、前記有機溶媒が、50重量%以上含まれるとともに、前記顔料の平均分散粒子径(D50)が50~200nm、かつ、前記顔料の最大分散粒子径(D99)が400nm未満であるので、インクの循環装置を用いなくても、顔料粒子の沈降を防止できる。
したがって、カートリッジタンクに入れた状態で長期間安定した印刷状態を保つことができ、カートリッジ式の汎用のインクジェット印刷装置や、ピエゾ方式の印刷装置に使用することができる。
また、各成分中、主成分となる有機溶媒が50重量%以上であるので、水により印刷不良や印刷対象物自体に変質が発生する恐れのある印刷対象物や浸透しにくい印刷対象物に印刷できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を、実施例および比較例を用いて詳しく説明する。
【0028】
分散体1~分散体5をそれぞれ以下のようにして作製した。
(分散体1)
顔料としての三二酸化鉄20重量部、分散剤としてのポリビニルピロリドン(分子量1000~10万未満、以下、「PVP1」と記す)4重量部、分散媒としてのエタノール24重量部を、Φ0.3mmジルコニアビーズとともに、ディスクタイプの横型ビーズミルに投入し、2時間分散処理して予備分散体1を得た。
この予備分散体1を、冷却高速遠心機(東興機械社製)にて、遠心分離して粗大顔料粒子を取り除き、分散体1として得た。
【0029】
(分散体2)
上記PVP1を8重量部とするとともに、エタノールを20重量部とした以外は、上記分散体1と同様にして分散体2を得た。
【0030】
(分散体3)
分散剤として、PVP1に代えてポリビニルピロリドン(分子量10万~30万、以下、「PVP2」と記す)を用いた以外は、上記分散体1と同様にして分散体3を得た。
【0031】
(分散体4)
分散剤として、PVP1に代えてヒドロキシプロピルセルロースを用いた以外は、上記分散体1と同様にして分散体4を得た。
【0032】
(分散体5)
上記ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と記す)を8重量部とするとともに、エタノールを20重量部とした以外は、上記分散体4と同様にして分散体5を得た。
【0033】
(分散体6)
顔料としての三二酸化鉄50重量部、分散剤としてのPVP1を6重量部、分散媒としてのエタノール44重量部を用いて上記予備分散体1と同様にして予備分散体6を得たのち、上記分散体1と同様にして分散体6を得た。
【0034】
上記のようにして得た分散体1~分散体6の平均分散粒子径(D50)と、最大分散粒子径(D99)を、マイクロトラック・ベル社製の粒度分布計(UPA型)を用いて測定し、その結果を各予備分散体の三二酸化鉄、分散剤およびエタノールの配合割合(重量部)と合わせて表1に示した。
なお、本明細書おいて、以下に記載する平均分散粒子径および最大分散粒子径は、すべてマイクロトラック・ベル社製の粒度分布計(UPA型)を用いて測定したものである。
因みに、予備分散体1~6の平均分散粒子径D50は、240~290nmであった。
【0035】
【表1】
【0036】
上記表1からPVPに対しエタノールの混合比を大きくすれば、ビーズミルによる顔料の微細化効率がよくなることがわかる。また、分散剤としてPVPを用いれば、HPCに比べて微細化効率がよくなることがわかる。
【0037】
(実施例1)
上記分散体1を30重量部、エタノールを69.5重量部、表面調整剤としてのデカグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB9、以下、「エステルA」と記す)を0.5重量部の割合で、ガラス製ビーカーに入れ、ステンレス鋼製のプロペラで攪拌混合してインクジェットインクサンプルを得た。
【0038】
(実施例2)
上記分散体1に代えて、上記分散体2を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0039】
(実施例3)
上記分散体1を30重量部、エタノールを70重量部の割合でそれぞれ配合して、インクジェットインクサンプルを得た。
【0040】
(実施例4)
表面調整剤として、上記エステルAに代えて、デカグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB13、以下、「エステルB」と記す)を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0041】
(実施例5)
表面調整剤として、上記エステルAに代えて、グリセリンクエン酸モノステアリン酸エステル(HLB9.5、以下、「エステルC」と記す)を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0042】
(実施例6)
表面調整剤として、上記エステルAに代えて、グリセリンジアセチル酒石酸モノステアリン酸エステル(HLB9、以下、「エステルD」と記す)を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0043】
(実施例7)
表面調整剤として、上記エステルAに代えて、デカグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB13、以下、「エステルE」と記す)を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0044】
(実施例8)
表面調整剤として、上記エステルAに代えて、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル(HLB15、以下、「エステルF」と記す)を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0045】
(実施例9)
分散体1を10重量部、エタノールを89.5重量部とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0046】
(実施例10)
分散体1に代えて分散体6を60重量部、エタノールを39.5重量部とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0047】
(実施例11)
分散体6を72重量部、エタノールを27.5重量部とした以外は、実施例10と同様にして、インクジェットインクサンプルを得た。
【0048】
(比較例1)
染料としての食用青色1号(以下、「染料A」と記す)を5重量部、PVP1を4重量部、水を86.5重量部、上記エステルAを0.5重量部の割合で混合して、インクジェットインクサンプルを得た。
【0049】
(比較例2)
染料としての食用赤色3号(以下、「染料B」と記す)を5重量部、PVP1を8重量部、水を86.5重量部、上記エステルAを0.5重量部の割合で混合して、インクジェットインクサンプルを得た。
【0050】
(比較例3)
分散体1に代えて、分散体3を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクサンプルを得た。
【0051】
(比較例4)
分散体1に代えて、分散体4を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクサンプルを得た。
【0052】
(比較例5)
分散体1に代えて、分散体5を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクサンプルを得た。
【0053】
(比較例6)
エタノールに代えて、水を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクサンプルを得た。
【0054】
上記実施例1~11の成分配合割合を表2に、比較例1~6の成分配合割合を表3にそれぞれ示した。
また、上記実施例1~11および比較例1~6で得たインクジェットインクサンプルのそれぞれについて、連続印字性、分散安定性、素錠への定着性、OD錠への定着性、FC錠への定着性、糖衣錠への定着性、乾燥性を以下のように評価し、その結果を表4に示した。
〔連続印字性〕
インクジェットインクサンプルをそれぞれオンデマンド型のサーマルインクジェットプリンタ(紀州技研工業株式会社製HQ1000)のカートリッジに充填して、FC錠に連続印字テストを行った時に、トラブル(ノズル詰り、印字不良等)なしの場合を○、軽微なトラブル(1ドット抜け)がある場合を△、ドット抜けの数が多く、はっきりとした筋が確認できる場合、あるいは、印字不良の場合を×と判定した。
〔分散安定性〕
インクジェットインクサンプルをそれぞれオンデマンド型のサーマルインクジェットプリンタ(紀州技研工業株式会社製HQ1000)のカートリッジに充填して、印刷対象物としてのFC錠に1日1回、文字を印刷し、1日目に印刷された文字の濃度と比較して、3ヵ月間経過後も文字の濃度に変化がない場合を〇、1週間以上3か月未満のうちに濃度変化がみられる場合を△、1週間未満に濃度変化がみられる場合を×と判定した。
〔定着性〕
素錠、OD錠、FC錠、糖衣錠の4種の錠剤のそれぞれを印刷対象物とし、これらの錠剤に対して各実施例および比較例で作製したインクジェットインクサンプルを用いて文字を印刷するとともに、印刷部分を綿棒でこすった時の剥離の有無により確認し、剥がれない場合を○、剥がれがある場合を×と判定した。
〔乾燥性〕
印刷対象物としてのFC錠に、各実施例および比較例で作製したインクジェットインクサンプルを用いて文字を印刷するとともに、印刷直後から刷毛を印刷部分に接触させ、印刷直後から刷毛にインクが付着しなくなるまでの時間、すなわち、乾燥時間を計測し、2秒未満で乾燥する場合を○、2秒以上で乾燥する場合を×と判定した。
〔にじみ〕
印刷された文字ドットのぼやけ状態、色の分離の有無を目視により確認し、ぼやけや分離が確認できない場合を○、ぼやけや分離が確認できる場合を×と判定した。
〔耐光性〕
印刷対象物としてのFC錠に、各実施例および比較例で作製したインクジェットインクサンプルを用いて文字を印刷したのち、印刷面に(サンシャインウェザーメーター(OKIエンジニアリング社製)を用いて積算照度120万lux・hとなる条件で光を当て、印刷された文字の変色の有無を目視で確認し、変色なしの場合を○、変色ありの場合を×と判定した。
〔耐湿性〕
印刷対象物としてのFC錠に、各実施例および比較例で作製したインクジェットインクサンプルを用いて文字を印刷したのち、45℃、湿度75%の恒温恒湿槽で6ヵ月保管して、印刷された文字の状態を目視で確認し、文字の滲みが発生しない場合を○、にじみが発生した場合を×と判定した。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
上記表4から、本発明のインクジェットインクが、素錠やOD錠だけでなく、表面がコーティングされ、浸透しにくい、FC錠や糖衣錠への定着性に優れているとともに、分散安定性に優れていることがわかる。
なお、実施例2のインクジェットインクサンプルについては、他の実施例のインクジェットインクサンプルに比べ連続印字安定性、分散安定性に少し問題があるようであるが、これは分散剤と、分散媒との配合割合に影響されているのではないかと思われる。
【0059】
また、実施例1~実施例11で得られたインクジェットインクサンプルについて、10分間印刷を停止し、再印刷を行ったところ、実施例1、2、実施例4~8のインクジェットインクサンプルについては概ね良好な印刷を行えたが、実施例3のインクジェットインクサンプルについては、ドットとびなどの印刷不良を起こす場合があった。
したがって、連続印刷については、表面調整剤を添加せずとも満足できるが、間欠印刷における印刷不良を防止するには、表面調整剤を添加することが好ましいと思われる。
【0060】
(実施例12)
顔料としての三二酸化鉄24重量部、分散剤としてのポリビニルピロリドン(分子量1000~10万未満、以下、「PVP1」と記す)4重量部、分散媒としてのエタノール76重量部を、Φ0.3mmジルコニアビーズとともに、ディスクタイプの横型ビーズミルに投入し、2時間分散処理して、予備分散体7を得た。
この予備分散体6を、遠心力1.7万Gに設定して冷却高速遠心機(東興機械社製)にて、粗大粒子を取り除き、分散体6を得た。
得られた分散体7をろ過濃縮し、濃縮分散体7を得た。
【0061】
(比較例7)
分散媒として、エタノールに代えて水を用いた以外は、上記実施例9と同様にして予備分散体8、分散体8、濃縮分散体8を得た。
【0062】
(実施例13)
顔料として、黄色三二酸化鉄を用いた以外は、上記実施例9と同様にして予備分散体9、分散体9、濃縮分散体9を得た。
【0063】
(比較例8)
分散媒として、エタノールに代えて水を用いた以外は、上記実施例11と同様にして予備分散体10、分散体10、濃縮分散体10を得た。
【0064】
上記実施例12、13および比較例7,8で得られた予備分散体7~10の成分配合割合を、各顔料の予備分散体中の平均分散粒子径D50の測定結果とともに表5に示した。
【0065】
【表5】
【0066】
表5から、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄のいずれにおいても、分散媒として、エタノールを用いた方が、水を用いた場合に比べ、平均分散粒子径が小さくなることがわかる。
【0067】
上記実施例12,13および比較例7,8で得られた分散体7~10の成分配合割合を、強熱減量試験により固定分濃度を求め、その結果を、各分散体中の顔料の平均分散粒子径D50、の測定結果とともに表6に示した。
【0068】
【表6】
【0069】
上記表6から、遠心分離した上澄み液中には、顔料粒子が完全にチューブの底に沈殿するのではなく、粒子径の小さい顔料粒子が上澄み液中に分散していることがわかる。
【0070】
上記実施例12,13および比較例7,8で得られた濃縮分散体7~10の成分配合割合を、強熱減量試験により固定分濃度を求め、その結果を、各濃縮分散体中の顔料の平均分散粒子径D50の測定結果および各濃縮分割体の分散安定性評価を合わせて表7に示した。
【0071】
【表7】
【0072】
上記表7から、限外ろ過によって濃縮を行っても分散粒子径にほとんど影響がなく、分散安定性に優れたインクジェットインクを得られることがわかる。
【0073】
本発明は、上記の実施例に限定されない。たとえば、上記実施例では、印刷対象物が錠剤であったが、本発明のインクは、他の食品はもちろん、食品以外にも印刷することができる。