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特許7061811鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/02 20150101AFI20220422BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 33/08 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220422BHJP
   C01B 33/36 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
A61K35/02
A61K33/26
A61K33/08
A61P7/04
A61P17/02
C01B33/36
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019564016
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 CN2018084625
(87)【国際公開番号】W WO2018223790
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2019-11-19
(31)【優先権主張番号】201710433507.X
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518309666
【氏名又は名称】中南大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼▲華▼明
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼毅
(72)【発明者】
【氏名】▲龍▼梅
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0046277(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0192250(US,A1)
【文献】特表2016-539699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 33/00-33/44
A61P 7/00-7/12
A61P 17/00-17/18
C01B 33/00-33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分が、ナノカオリンと鉄酸化物を複合化することにより構成されている鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤であって、
前記鉄酸化物の質量百分率含有量は15%~45%であり、
前記鉄酸化物は、α-三酸化二鉄、γ-三酸化二鉄及び/又は四酸化三鉄であることを特徴とする鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤。
【請求項2】
ナノカオリンと鉄酸化物を複合化することにより構成されている鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤であって、
前記鉄酸化物の質量百分率含有量は15%~45%であり、
前記鉄酸化物は、α-三酸化二鉄、γ-三酸化二鉄及び/又は四酸化三鉄であることを特徴とする鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法であって、
ナノカオリンと重合ヒドロキシ鉄イオン溶液を混合し、系のpH値3~7、温度50℃~70℃の条件下で反応させ、オキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程Aを含み、
α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤の製造では、
前記工程Aに従ってオキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を製造する工程と、前記オキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を空気雰囲気に置き、500~550℃の温度で焼成し、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程Bと、を含み、
又は、四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤の製造では、
前記工程A、Bに従ってα-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を製造する工程と、
前記α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を還元性雰囲気に置き、400~450℃の温度で焼成し、四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程Cと、を含み、
又は、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤の製造では、
前記工程A、B、Cに従って四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を製造する工程と、
前記四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を空気雰囲気に置き、200~250℃の温度で焼成し、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程Dと、を含む
ことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記ナノカオリンは、カオリンをインターカレートして剥離処理することにより得られることを特徴とする請求項3に記載の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法。
【請求項5】
前記重合ヒドロキシ鉄イオン溶液は、40~80℃の条件で、水酸化ナトリウム溶液を塩化鉄溶液に滴下した後、室温で12~24時間エイジングし、重合ヒドロキシ鉄イオン溶液を得る方法により製造されることを特徴とする請求項3に記載の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法。
【請求項6】
ナノカオリンと重合ヒドロキシ鉄イオン溶液を混合する工程Aは、前記ナノカオリンを前記重合ヒドロキシ鉄イオン溶液50mLに対して1~3g添加する工程であり、前記重合ヒドロキシ鉄イオン溶液の濃度は、0.1~0.6Mであることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法。
【請求項7】
工程Aにおいて、反応時間は、24~72時間であることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法。
【請求項8】
工程Cにおいて、水素ガス/アルゴンガスの混合雰囲気で焼成し、水素ガスの体積百分率濃度は、5~12%であることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血剤に関し、具体的には、鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤及びその製造方法に関し、外用止血被覆材の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
出血過多は、外傷死を引き起こす要因の1つであり、止血速度が速く、安定的で安全な止血剤の開発は、外傷の緊急救助、特に軍事戦争による外傷、交通事故、自然災害などの病院前の応急手当にとって重要な意味を持っている。止血材料の研究開発は、常に国内外で注目されており、現在の止血材料は、主に、トロンビン、プロテアーゼ等の生物学的止血剤類、キトサン、アルギン酸ナトリウム等の有机高分子、シリカ等の無机物、及び天然ケイ酸塩類鉱物材料がある。天然ケイ酸塩類鉱物材料は、その他の止血材料と比べて、止血速度が速く、安定性が高く、生産量が高いなどの利点を有する。中国国内で、ケイ酸塩類止血材料に関する研究はまだ基礎研究段階にある場合が多く、その中で、市販が許可された「血盾」という止血粉末は、主な原料がスコレサイトである。しかし、ゼオライトは水を吸着すると同時に大量の吸着熱を放出し、その熱効果により局所組織のやけどを引き起こす可能性がある。研究から分かるように、カオリン(Kaolin)は、その層状構造及び表面の微細な孔隙によって、良好な吸着性能を有し、血液における水を選択的に吸収し、血液凝固活性物質を効果的に濃縮することができ、血小板を凝集させて粘着させるとともに、血液凝固因子を活性化し、内因性血液凝固経路を始動させ、血液凝固の目的を達成することができ、なお、カオリンは、止血時に熱損傷が発生しないが、溶血率が高いという顕著な欠陥がある。カオリンを含有する止血剤の研究では、主にカオリンを止血原料とし、漢方薬であるサンシチニンジン、クェルセチン等の他の止血薬物と混合して共に作用させるか、又は担持や混合することにより各種の止血ガーゼ製品を製造する。赤石脂、赭石は、中国漢方薬史の記録において、顕著な止血効果を有し、薬物の主成分として既に医薬市場に応用されている。赤石脂、赭石等の天然鉱物は、止血成分を含むが、不純物の含有量が高いので、複雑な処理プロセスが必要であり、生体適合性が悪く、使用安全性が低い。現在では、鉄酸化物のマイクロナノ材料がカオリンに担持されることにより複合止血剤を製造する関連報告はまだない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来技術の上記不足に対し、本発明の1つの目的は、止血速度が速く、傷口の癒合を促進でき、かつ顕著な細胞毒性及び溶血現象がなく、生体適合性が高い鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤を提供することにある。
【0004】
本発明のもう1つの目的は、原料が豊富で、製造工程が簡単で、取り扱い易い前記鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術目的を実現するために、本発明は、活性成分がナノカオリンと鉄酸化物を複合化することにより構成される鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤を提供する。
【0006】
好ましい様態では、活性成分は、鉄酸化物がナノカオリンの表面に担持されることにより構成される。
【0007】
より好ましい様態では、前記鉄酸化物の質量百分率含有量は15%~45%である。
【0008】
より好ましい様態では、前記鉄酸化物は、オキシ水酸化鉄、α-三酸化二鉄、γ-三酸化二鉄及び/又は四酸化三鉄である。
【0009】
本発明は、鉄酸化物とナノカオリンの複合体を複合止血剤の有効活性成分とし、薬学的に許容される副原料を配合することにより止血ペースト、粉剤等の剤形とする。
【0010】
上記技術目的を実現するために、本発明は、ナノカオリン及び鉄酸化物で構成される鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤を提供する。
【0011】
本発明の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤は、ナノカオリンを担体とし、ナノレベルの鉄酸化物がナノカオリンの表面にその場生成して担持され、両者とも一定の止血作用を有し、両者をマイクロナノ形態で複合化すると、顕著な相乗効果を有し、止血速度が速く、傷口の癒合を促進できるだけでなく、顕著な細胞毒性及び溶血現象がなく、生体適合性が高く、止血効果を顕著に強化し、安全性が高い。
【0012】
好ましい様態では、鉄酸化物の質量百分率含有量は15%~45%である。
【0013】
好ましい様態では、前記鉄酸化物は、オキシ水酸化鉄(FeOOH)、α-三酸化二鉄(α-Fe)、γ-三酸化二鉄(γ-Fe)又は四酸化三鉄(Fe)である。
【0014】
本発明は、以下の鉄酸化物/ナノカオリン複合止血剤の幾つかの製造方法をさらに提供する。
【0015】
オキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤の製造では、以下の工程Aを含む。
【0016】
工程Aは、ナノカオリンと重合ヒドロキシ鉄イオン溶液を混合し、系のpH値3~7、温度50℃~70℃の条件下で反応させ、オキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る、工程である。
【0017】
α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤の製造では、以下の工程を含む。
【0018】
工程Aに従ってオキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を製造する工程と、以下の工程Bを含む。
【0019】
工程Bは、前記オキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を空気雰囲気に置き、500~550℃の温度で焼成し、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程Bである。
【0020】
四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤の製造では、以下の工程を含む。
【0021】
工程A、Bに従ってα-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を製造する工程と、以下の工程Cを含む。
【0022】
工程Cは、前記α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を還元性雰囲気に置き、400~450℃の温度で焼成し、四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程である。
【0023】
γ-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤の製造では、
工程A、B、Cに従って四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を製造する工程と、以下の工程Dを含む。
【0024】
工程Dは、前記四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を空気雰囲気に置き、200~250℃の温度で焼成し、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程である。
【0025】
本発明の鉄酸化物/ナノカオリン複合止血剤は、上記方法で製造されるオキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤、四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤又はγ-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤の少なくとも1種に薬学的に許容され得る副原料を配合することにより鉄酸化物/ナノカオリン複合止血剤の最終製品を製造することができる。副原料としては、従来技術によく見られている止血ペースト、止血粉剤等の通常の副原料を採用できる。
【0026】
好ましい様態では、前記ナノカオリンは、カオリンをインターカレートして剥離処理することにより得られる。
【0027】
好ましい様態では、前記重合ヒドロキシ鉄イオン溶液は、40~80℃(好ましくは、70℃)の温度条件で、水酸化ナトリウム溶液を塩化鉄溶液に滴下した後、室温で12~24時間エイジングし、重合ヒドロキシ鉄イオン溶液を得る方法により製造される。
【0028】
より好ましい様態では、ナノカオリンと重合ヒドロキシ鉄イオン溶液の固液比は、(1~3)/50g/mL(好ましくは、1/50g/mL)であり、前記重合ヒドロキシ鉄イオン溶液の濃度は、0.1~0.6Mである。
【0029】
さらに好ましい様態では、工程Cにおいて、水素ガス/アルゴンガスの混合雰囲気で焼成し、水素ガスの体積百分率濃度は、5~12%である。
【0030】
より好ましい様態では、工程Aにおいて、反応時間は、24~72時間である。
【0031】
より好ましい様態では、工程Bにおいて、焼成時間は、3~5時間である。
【0032】
より好ましい様態では、工程Cにおいて、焼成時間は、0.5~1.5時間である。
【0033】
より好ましい様態では、工程Dにおいて、焼成時間は、1~1.5時間である。
【0034】
本発明は、以下の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法をさらに提供する。
【0035】
前記工程Aは、
【0036】
(1)カオリンを酢酸カリウム及び/又は尿素でインターカレートして変性させ、機械的剥離法又は超音波剥離法で剥離し、ナノカオリンを製造する工程と、
【0037】
(2)塩化鉄溶液及び水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ調製し、40~80℃で水酸化ナトリウムを1滴ずつ塩化鉄溶液に添加し、滴下終了後、反応系を室温で12~24時間エイジングし、濃度0.1~0.6Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液を製造する工程と、
【0038】
(3)ナノカオリンを固液比(1~3)/50g/mL、濃度0.1~0.6Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液に添加し、溶液系のpH値を3~7に調節するように水酸化ナトリウムを滴下し、加熱して24~72時間撹拌し、固液分離を行い、洗浄し、乾燥し、オキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る工程と、を含む。
【0039】
前記工程Bにおいては、
【0040】
工程Aで得られたオキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を空気中で500~550℃で3~5時間焼成し、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る。
【0041】
前記工程Cにおいては、
【0042】
工程A、Bで得られたα-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を、焼成温度400~450℃、焼成時間0.5~1.5時間で、水素ガスと高純度アルゴンガスの混合雰囲気(水素ガスの体積含有量5~12%)である還元性雰囲気中で焼成して一部還元し、四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を得る。
【0043】
前記の工程Dにおいて、
【0044】
工程A、B、Cで得られた四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を、温度200~250℃、焼成時間1~1.5時間で空気雰囲気中で焼成し、三酸化二鉄/カオリン複合止血剤を得る。
【0045】
本発明の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤は、ナノカオリンを担体とし、鉄酸化物をその場沈殿させ、鉄酸化物をナノ粒子の形でナノカオリンの表面に担持する沈殿法により製造される。
【発明の効果】
【0046】
従来技術に対し、本発明の技術的解決策は、以下の利点を有する。
【0047】
(1)本発明の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤は、鉄酸化物とカオリンの両者の止血効果を組み合わせて強化し、止血速度が速く、傷口の癒合を著しく促進するという利点を有する。
【0048】
(2)本発明の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤は、顕著な細胞毒性及び溶血現象がなく、生体適合性が高く、安全性能が一層高い。
【0049】
(3)本発明の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤は、幅広く豊富な原料を採用し、コストが低いという利点を有する。
【0050】
(4)本発明の鉄含有酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造方法は、製造工程が簡単で、取り扱い易く、大規模生産に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明に係る複合止血剤のXRD図である。
【0052】
図2】本発明に係る複合止血剤の走査型電子顕微鏡図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の目的、技術的解決策及び利点をより明確にするために、以下では、図面及び具体的な実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ここで述べられる具体的な実施例は、単に本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明を限定するためのものではないと理解すべきである。
【0054】
本発明の三酸化二鉄/ナノカオリン複合材料は、出血した傷口に用いられ、血液凝固速度を速め、傷口の癒合を促進することができる。
【0055】
本明細書中の用語「カオリン(Kaolin)」は、化学式Al・2SiO・2HOで表され、幾つかの形態では、カオリンに含まれるシリカの含有量が約45.31%であり、酸化アルミニウムが約37.21%であり、水が約14.1%である。
【0056】
本明細書において、実施例におけるカオリンは、江蘇省蘇州市で生産される中国高嶺土有限公司の規格品である。
【0057】
実施例1
【0058】
本実施例は、ナノカオリンの製造方法を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0059】
カオリン4gを秤量し、酢酸カリウム10gを添加し、ペースト状になるまで約30分間研磨し、10%の脱イオン水を添加し、ビーカーに移し、室温で3日間静置した。エタノールで洗浄し、濾過し、60℃で24時間乾燥した。カオリンを酢酸カリウムでインターカレートし、脱イオン水に入れ、30分間超音波処理し、洗浄し、濾過し、乾燥した。KaolinKAcとしてマークした。
【0060】
【0061】
実施例2
【0062】
本実施例は、重合ヒドロキシ鉄イオンの製造方法を提供し、以下の方法に従って製造される。水酸化ナトリウム2.4gを秤量し、水150mLを添加し、0.4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製した。FeCl・6HO 10.8gを秤量し、脱イオン水100mLを添加し、0.4mol/LのFeCl溶液を調製した。70℃の水浴で激しく撹拌する条件で濃度0.4mol/LのNaOH溶液150mLを濃度0.4mol/LのFeCl溶液100mLに徐々に滴下し、滴下完了後に、取り出して徐々に降温し、使用のために、安定した赤褐色透明鉄重合体溶液を得た。重合ヒドロキシ鉄イオン溶液としてマークした。
【0063】
【0064】
実施例3
【0065】
本実施例は、オキシ水酸化鉄/ナノカオリン複合止血剤を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0066】
酢酸カリウムでインターカレート処理された後のカオリン5gを秤量し、0.4Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLに添加した。5MのNaOH溶液で反応系のpHを5に調節した。水浴中で60℃まで加熱し、72時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。FeOOH-KaolinKAcとしてマークした。
【0067】
【0068】
実施例4
【0069】
本実施例は、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0070】
酢酸カリウムでインターカレート処理された後のカオリン5gを秤量し、0.4Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLに添加した。5MのNaOH溶液で反応系のpHを5に調節した。水浴中で60℃まで加熱し、72時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。空気雰囲気下で150℃で1時間、250℃で1時間、550℃で4時間焼成した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。α-Fe-KaolinKAcとしてマークした。
【0071】
【0072】
実施例5
【0073】
本実施例は、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0074】
酢酸カリウムでインターカレート処理された後のカオリン5gを秤量し、0.1Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLに添加した。5MのNaOH溶液で反応系のpHを3に調節した。水浴中で50℃まで加熱し、24時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。空気雰囲気下で150℃で1時間、250℃で1時間、550℃で4時間焼成した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。α-Fe-KaolinKAc-1としてマークした。
【0075】
【0076】
実施例6
【0077】
本実施例は、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0078】
酢酸カリウムでインターカレート処理された後のカオリン5gを秤量し、0.2Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLに添加した。5MのNaOH溶液で反応系のpHを5に調節した。水浴中で60℃まで加熱し、48時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。空気雰囲気下で150℃で1時間、250℃で1時間、550℃で4時間焼成した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。α-Fe-KaolinKAc-2としてマークした。
【0079】
【0080】
実施例7
【0081】
本実施例は、α-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0082】
酢酸カリウムでインターカレート処理された後のカオリン5gを秤量し、0.6Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLに添加した。5MのNaOH溶液で反応系のpHを7に調節した。水浴中で70℃まで加熱し、72時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。空気雰囲気下で150℃で1時間、250℃で1時間、550℃で4時間焼成した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。α-Fe-KaolinKAc-6としてマークした。
【0083】
【0084】
実施例8
【0085】
本実施例は、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン複合止血剤を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0086】
酢酸カリウムでインターカレート処理された後のカオリン5gを秤量し、0.4Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLに添加した。5MのNaOH溶液で反応系のpHを5に調節した。水浴中で60℃まで加熱し、72時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。空気雰囲気下で150℃で1時間、250℃で1時間、550℃で4時間焼成した。10%水素ガスを含有する高純度アルゴンガス中で450℃で1時間焼成した。空気雰囲気で250℃で1時間焼成した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。γ-Fe-KaolinKAcとしてマークした。
【0087】
【0088】
実施例9
【0089】
本実施例は、四酸化三鉄/ナノカオリン複合止血剤を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0090】
酢酸カリウムでインターカレート処理された後のカオリン5gを秤量し、0.4Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLに添加した。5MのNaOH溶液で反応系のpHを5に調節した。水浴中で60℃まで加熱し、72時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。空気雰囲気下で150℃で1時間、250℃で1時間、550℃で4時間焼成した。10%水素ガスを含有する高純度アルゴンガス中で450℃で1時間焼成した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。Fe-KaolinKAcとしてマークした。
【0091】
【0092】
実施例10
【0093】
本実施例は、α-三酸化二鉄粒子を提供し、以下の方法に従って製造される。
【0094】
0.4Mの重合ヒドロキシ鉄イオン溶液250mLを三角フラスコに入れ、5MのNaOH溶液で反応系のpHを5に調節した。水浴中で60℃まで加熱し、72時間磁気撹拌した。洗浄し、分離し、60℃で24時間乾燥した。空気雰囲気下で150℃で1時間、250℃で1時間、550℃で4時間焼成した。使用のために、ボトムに変色シリカゲルが置かれた乾燥ベッセルに密閉保管した。α-Feとしてマークした。
【0095】
【0096】
応用実施例(適用の実施形態)
【0097】
止血実験
体重200~250gの4~6週齢のSDラットを動物実験対象として使用した。ラットを6匹ずつランダムにグループに分け、実験用のラットを制限せずに正常に飼育した。手術用ハサミを用いて尾静脈に長さ1cmの傷口を作り、出血後に、傷口を十分に覆うようにサンプルを塗布し、薬を塗布する際に出血箇所をわずかに押し、ストップウオッチで出血時間を記録した。止血基準は、外傷表面に駆出及び滲み出し現象がなくなり、即ち血が凝固して再び滲み出さないことであった。
【0098】
傷口の癒合:傷口処理実験の前に、まず、実験用ラットの筋肉にケタミン35.0mgkg-1及びキシラジン5.0mgkg-1を注射して麻酔処理を行い、ラットをラット固定プレートに固定した。脱毛の有効面積が約(2cm×2cm)となるように、ラットの背部に脱毛処理を施し、脱毛後のラットの背部をエタノールで洗浄した。
【0099】
手術用ハサミ及び鉗子を使用して脱毛処理、洗浄されたラットの背部に傷口(1.0cm×1.0cm)を作り、傷口から流れた血液をふき取り、直ちに複合止血サンプル粉末を傷口に塗布し、包帯とガーゼで順次に傷口を包んだ。デジタルカメラで各複合止血剤による傷口の癒合過程を記録した。2~3日おき薬(複合止血剤)を交換し、傷口の癒合状況を観察した。
【0100】
癒合した傷口の組織学的分析:10日後、傷口が殆ど癒合し、傷口箇所の組織を切り取り、この組織を4%パラホルムアルデヒドに直接に浸漬して固定し、包埋し、薄切し、ヘマトキシリン-エオシン試薬(H&E)、マッソン(Masson)、シリウスレッド(SR)によりそれぞれ染色し、各グループの組織の癒合状況を観察した。
【0101】
複合止血剤の細胞毒性線維芽細胞L929細胞を使用して複合止血剤の生体適合性を評価した。ダルベッコ改変培養液を使用して線維芽細胞を培養し、具体的には、10%ウシ胎児血清、2mMのL-グルタミン、4.5gL-1のグルコース1%抗生物質/抗真菌薬溶液を使用した。線維芽細胞を37℃、5%COの無菌環境で培養した。細胞が凝集するまで2日ごとに新鮮な培養液を交換した。
【0102】
MTT法による細胞毒性の評価:濃度0~2mg/mLの複合止血剤を24ウェルプレートに入れ、濃度2×10cells mL-1で各ウェルに細胞懸濁液1mLを接種した。MTT溶液100μLを各ウェルに注入した後、細胞を4時間培養した。培養完了後、上澄み液を捨て、DMSO 200μLを添加し、青色の還元生成物であるホルマザンが得られた。その後、溶解した溶液を96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダー(570nm)によりその吸光度を測定し、3セットの並列実験を行った。培養液のみを入れたものをブランクとし、細胞及び培養液を入れたものをコントロールとし、細胞生存率の補正に用いられた。
【0103】
溶血実験:複合止血剤80mgと10%赤細胞溶液0.4mLとを混合し、室温条件で1時間静置した。150μLを取り出して96ウェルプレートに入れ、マイクロプレートリーダー(540nm)によりその吸光度を測定した。水とPBSをそれぞれ陽性対照と陰性対照とした。
【0104】
溶血率(%)=(サンプル吸収-陰性対照吸収)/(陽性対照吸収-陰性対照吸収)×100%。
【0105】
実験結果
【0106】
鉄酸化物/ナノカオリン複合止血剤の製造:X線回折技術により、図1に示すように、実施例3、4、8、9で製造されたサンプルであるオキシ水酸化鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄/ナノカオリン、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン、四酸化三鉄/ナノカオリンにおいて、それぞれオキシ水酸化鉄(FeOOH)、α-三酸化二鉄(α-Fe)、γ-三酸化二鉄(γ-Fe)、四酸化三鉄(Fe)の特性回折ピークであると認定された。図2に示すように、カオリンは、完全な擬六角板状構造を維持し、実施例3におけるオキシ水酸化鉄は、紡錘形状であり、粒子径が約100nmであった。実施例4、8、9における鉄酸化物は、多面体であり、小粒子がカオリン片の表面及び側面に担持されており、さらに、一部の粒子は、焼成過程において粒子径が約300nmの大粒子を形成した。
【0107】
止血実験
ブランクコントロール、カオリン及び実施例3、4、8、9で製造されたサンプルであるオキシ水酸化鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄/ナノカオリン、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン、四酸化三鉄/ナノカオリンは、止血時間がそれぞれ313±23、227±17、298±14、183±16、212±11、218±15sであり、ブランクコントロールと比べて、良好な止血効果を有し、カオリン単独よりも効果が良い。
【0108】
カオリン及び実施例5、6、4、7、10で製造されたα-三酸化二鉄の質量分率の異なるα-三酸化二鉄/ナノカオリン複合体は、止血時間がそれぞれ227±17、158±21、132±13、183±16、216±13、193+9sであり、対応するα-三酸化二鉄の質量分率はそれぞれ0%、15.7%、23.9%、43.6%、49.4%、100%であった。
【0109】
傷口の癒合
カオリン及び実施例3、4、8、9、10で製造されたサンプルであるオキシ水酸化鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄/ナノカオリン、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン、四酸化三鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄粒子の添加により、傷口の癒合を速め、炎症を軽減し、組織のリモデリングを促進した。
【0110】
細胞毒性:線維芽細胞を対象とし、各複合止血剤の細胞毒性を評価した。カオリン及び実施例3、4、8、9、10で製造されたサンプルであるオキシ水酸化鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄/ナノカオリン、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン、四酸化三鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄粒子の止血剤は、細胞に対して殆ど顕著な毒性がなく、生体適合性が良かった。
【0111】
溶血現象:カオリンは、溶血率が30%と高く、溶血現象があった。実施例3、4、8、9、10で製造されたサンプルであるオキシ水酸化鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄/ナノカオリン、γ-三酸化二鉄/ナノカオリン、四酸化三鉄/ナノカオリン、α-三酸化二鉄粒子は、溶血率がいずれも5%未満であり、溶血が発生していないことを示した。
【0112】
以上は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するためのものではない。本発明の精神原則内に行われたいかなる修正、等価置換、改良なども、本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
図1
図2