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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】微小会合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20220422BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K9/36
A61K9/51
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020519603
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2019018672
(87)【国際公開番号】W WO2019221015
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018094210
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(72)【発明者】
【氏名】パイラ デバブラタ
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076311(WO,A1)
【文献】Macromolecules,2005年,Vol.38,p.2850-2858
【文献】Soft Matter,2014年,Vol.10,p.9237-9247
【文献】Bachelor of Science at the Massachusetts Institute of Technology,2014年,p.1-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/26
A61K 9/36
A61K 9/51
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外部が殻構造を形成している微小会合体であって、
前記殻構造は、タンニン酸の少なくとも一部の水酸基における水素原子が直鎖の炭化水素基で置換されたタンニン酸誘導体の2分子膜構造体からなり、
前記直鎖の炭化水素基の炭素数が6以上16以下である、微小会合体。
【請求項2】
前記タンニン酸誘導体の前記直鎖の炭化水素基による置換数が5以上25以下である、請求項1記載の微小会合体。
【請求項3】
前記タンニン酸誘導体の前記直鎖の炭化水素基による置換数が10である、請求項2記載の微小会合体。
【請求項4】
前記殻構造の厚さが3nm以上6nm以下である、請求項1から3の何れか1に記載の微小会合体。
【請求項5】
外形の形状が球形である、請求項1から4の何れか1に記載の微小会合体。
【請求項6】
前記外形の直径が100nm以上200nm以下である、請求項5に記載の微小会合体。
【請求項7】
前記殻構造で囲まれた内空部が液体で満たされている、請求項1から6の何れか1に記載の微小会合体。
【請求項8】
前記殻構造で囲まれた内空部に空間が形成されている、請求項1から6の何れか1に記載の微小会合体。
【請求項9】
前記殻構造で囲まれた内空部に薬剤が担持された、請求項1から8の何れか1に記載の微小会合体。
【請求項10】
前記殻構造を構成する膜に薬剤が担持された、請求項1から8の何れか1に記載の微小会合体。
【請求項11】
前記薬剤は、食物発酵生成物、レシチン、イソフラボン、カテキン、ガロカテキン、カテキン3-ガレート、ガロカテキン3-ガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン3-ガレート、シリマリン、クルクミノイド、ギンゲロール、セラミド;イソプレン、プレノール、イソ吉草酸、ゲラニルピロホスフェート、オイカリプトール、リモネン、ピネン、ファルネシルピロホスフェート、アルテミシニン、ビサボロール、ゲラニルゲラニルピロホスフェート、レチノール、レチナール、フィトール、タキソール、フォルスコリン、アフィジコリン、スクアレン、ラノステロール、テルペン、植物性油またはアマランス種子もしくは米由来の油、レチノイド、ケイ皮酸、リグニン、ポリフェノール、ビタミン、カフェイン、テオブロミン、メチル-、ジメチル-およびパラ-ルキサンチン、キサンチンアルカロイド、ペニシリン、真菌代謝物、セファロスポリン、カルダペネム、スルホンアミド、キノロン、オキサゾジノン、マクロライド、抗ウイルス薬、心血管薬、代謝薬、抗真菌薬、および抗寄生虫薬、ならびにスタチンの群から選ばれる少なくとも1以上である、請求項9または10に記載の微小会合体。
【請求項12】
タンニン酸の少なくとも一部の水酸基における水素原子が直鎖の炭化水素基で置換されたタンニン酸誘導体を準備するタンニン酸誘導体準備工程と、
前記タンニン酸誘導体を良溶媒に溶解させる溶解工程と、
前記タンニン酸誘導体が溶解した良溶媒に貧溶媒を添加する貧溶媒添加工程とを有する、
請求項1から11の何れか1に記載の微小会合体を製造する微小会合体製造方法。
【請求項13】
前記良溶媒はテトラヒドロフラン、アセトン、イソプロピルアルコールの群から選ばれる少なくとも1であり、前記貧溶媒は純水である、請求項12に記載の微小会合体製造方法。
【請求項14】
前記タンニン酸誘導体の前記良溶媒に対する比率は0.01mg/mL以上1.20mg/mL以下であり、前記貧溶媒の添加速度は、2mL/min以上600mL/min以下である、請求項12または13に記載の微小会合体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小会合体およびその製造方法に係り、特に天然植物由来のタンニン酸の誘導体を用いて自己組織化された微小会合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内空部に水などの液体を有し、その外側に外殻が形成されていて、その外殻は外側が親水性で内部が疎水性の性質をもつ膜からなる構造の微小会合体がある。
そして、この構造の微小会合体を、内容物を運ぶための微小カプセルとして利用する試みが盛んになされている。例えば、この微小カプセルの内部あるいは外殻部に薬剤などを担持させ、通常状態ではその薬剤をカプセルにより保護し、界面活性剤などによるある特定の化学的刺激によりカプセルを解離させて薬剤を供給する方法が検討されている(特許文献1参照)。
ここで、この会合体(カプセル)に担持させるものは医療用の薬剤に限らない。担持させるものを酵素などとすることにより、バイオ燃料電池、バイオセンサー、エネルギー変換素子、分析法などへの応用も可能になる(特許文献2,3および非特許文献1、2参照)。
【0003】
このように、医療分野を始め様々な分野で応用可能な微小会合体であるが、その製造方法としては、自己組織化メカニズムを用いた方法が多く試みられている(非特許文献3,4参照)。自己組織化を利用することにより、効率よく微小構造体を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-98032号公報
【文献】特開2011-18635号公報
【文献】特開2012-146460号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nature Chem.,vol.1,pp.623-629(2009)
【文献】Phys.Chem.Chem.Phys.,vol.15,pp.10580-10611(2013)
【文献】Adv.Mater,vol.15,pp.1323-1333(2003)
【文献】Chem.Commun.,vol.51,pp.11541-11555(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の微小会合体として検討が行われてきた代表例としては、リポソームを挙げることができる(特許文献1参照)。リポソームは、狭義には、外殻部がリン脂質で構成された会合体である。
しかしながら、外殻部を構成する材料がリン脂質に限定されると、適用範囲も限られてしまう。
【0007】
そこで、発明者は、天然植物由来の材料で構成される外殻部をもつ会合体の研究を行った。外殻部を天然植物由来の材料とすることにより、より人体や環境に馴染み、害が少ないものになることが期待される。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、薬剤などのキャリアカプセルとしての機能を有し、化学的刺激で容易に解離し、かつその外殻部が天然植物由来の材料で構成される微小会合体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
最外部が殻構造を形成している微小会合体であって、
前記殻構造は、タンニン酸の少なくとも一部の水酸基における水素原子が直鎖の炭化水素基で置換されたタンニン酸誘導体の2分子膜構造体からなり、
前記直鎖の炭化水素基の炭素数が6以上16以下である、微小会合体。
(構成2)
前記タンニン酸誘導体の前記直鎖の炭化水素基による置換数が5以上25以下である、構成1記載の微小会合体。
(構成3)
前記タンニン酸誘導体の前記直鎖の炭化水素基による置換数が10である、構成2記載の微小会合体。
(構成4)
前記殻構造の厚さが3nm以上6nm以下である、構成1から3の何れか1に記載の微小会合体。
(構成5)
外形の形状が球形である、構成1から4の何れか1に記載の微小会合体。
(構成6)
前記外形の直径が100nm以上200nm以下である、構成5に記載の微小会合体。
(構成7)
前記殻構造で囲まれた内空部が液体で満たされている、構成1から6の何れか1に記載の微小会合体。
(構成8)
前記殻構造で囲まれた内空部に空間が形成されている、構成1から6の何れか1に記載の微小会合体。
(構成9)
前記殻構造で囲まれた内空部に薬剤が担持された、構成1から8の何れか1に記載の微小会合体。
(構成10)
前記殻構造を構成する膜に薬剤が担持された、構成1から8の何れか1に記載の微小会合体。
(構成11)
前記薬剤は、食物発酵生成物、レシチン、イソフラボン、カテキン、ガロカテキン、カテキン3-ガレート、ガロカテキン3-ガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン3-ガレート、シリマリン、クルクミノイド、ギンゲロール、セラミド;イソプレン、プレノール、イソ吉草酸、ゲラニルピロホスフェート、オイカリプトール、リモネン、ピネン、ファルネシルピロホスフェート、アルテミシニン、ビサボロール、ゲラニルゲラニルピロホスフェート、レチノール、レチナール、フィトール、タキソール、フォルスコリン、アフィジコリン、スクアレン、ラノステロール、テルペン、植物性油またはアマランス種子もしくは米由来の油、レチノイド、ケイ皮酸、リグニン、ポリフェノール、ビタミン、カフェニン、テオブロミン、メチル-、ジメチル-およびパラ-ルキサンチン、キサンチンアルカロイド、ペニシリン、真菌代謝物、セファロスポリン、カルダペネム、スルホンアミド、キノロン、オキサゾジノン、マクロライド、抗ウイルス薬、心血管薬、代謝薬、抗真菌薬、および抗寄生虫薬、ならびにスタチンの群から選ばれる少なくとも1以上である、構成9または10に記載の微小会合体。
(構成12)
タンニン酸の少なくとも一部の水酸基における水素原子が直鎖の炭化水素基で置換されたタンニン酸誘導体を準備するタンニン酸誘導体準備工程と、
前記タンニン酸誘導体を良溶媒に溶解させる溶解工程と、
前記タンニン酸誘導体が溶解した良溶媒に貧溶媒を添加する貧溶媒添加工程とを有する、
構成1から11の何れか1に記載の微小会合体を製造する微小会合体製造方法。
(構成13)
前記良溶媒はテトラヒドロフラン、アセトン、イソプロピルアルコールの群から選ばれる少なくとも1であり、前記貧溶媒は純水である、構成12に記載の微小会合体製造方法。
(構成14)
前記タンニン酸誘導体の前記良溶媒に対する比率は0.01mg/mL以上1.20mg/mL以下であり、前記貧溶媒の添加速度は、2mL/min以上600mL/min以下である、構成12または13に記載の微小会合体製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、人体、環境に馴染みやすい天然由来の植物原料を基に、薬剤等をカプセル状化して担持可能な自己組織化された微小会合体、およびその製造方法を提供することが可能になる。また、このカプセル状微小会合体は、界面活性剤による化学的刺激により容易に解離させることができるので、薬剤等のキャリアとして優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のコンセプトを示す説明図である。
図2】本発明のタンニン酸誘導体の特徴を示す説明図である。
図3】本発明の微小会合体の構造を示す説明図である。
図4】タンニン酸誘導体の構造とサイズとを示した分子構造図である。
図5】本発明の微小会合体に薬剤が担持された状態を示す説明図である。
図6】本発明の微小会合体への薬剤担持から薬剤放出に至るまでの一連の工程を示す説明図である。
図7】タンニン酸誘導体を含むTHF(A)、およびタンニン酸誘導体の微小会合体を含む水(B)にそれぞれ光を照射したときの、光散乱の様子を示す写真である。
図8】DLS測定の一例を示す特性図である。
図9】THF中のタンニン酸誘導体の濃度と形成される微小会合体の直径(粒径)Dhの分布との関係を示した特性図である。
図10】THF中のタンニン酸誘導体の濃度とこれに水を添加して得られる微小会合体を含有する液の光透過率との関係を示す特性図、および微小会合体の表面電荷密度測定の一例である。
図11】THF中のタンニン酸誘導体の濃度が、形成される微小会合体の状態に与える影響を示すSEM写真である。
図12】タンニン酸誘導体が添加された良溶媒溶液に添加する初期の水の量と形成される会合体の粒子径分布との関係を示した特性図である。
図13】タンニン酸誘導体が添加された良溶媒溶液に添加する初期の水の量による微粒子の凝集状況の差異を示すSEM写真である。
図14】タンニン酸誘導体が添加された良溶媒溶液への水の添加速度と形成される微小会合体の粒子径分布との関係を示した特性図である。
図15】タンニン酸誘導体が添加された良溶媒溶液への水添加速度が、形成される微小会合体の形状およびサイズに与える影響を示すSEM写真である。
図16】SAXS測定による微小会合体の外殻部の厚さを示す図である。
図17】微小会合体のTEM像である。
図18】親水性色素であるローダミンBの添加の有無による、吸光および発光スペクトルの変化を示す特性図である。
図19】タンニン酸誘導体(PATA)の存在下、タンニン酸(TA)の存在下、およびブランク(水)で、それぞれ疎水性薬剤を投与したときの発光スペクトルを示す特性図である。
図20】ローダミンBが担持された微小会合体に対してCTABを添加したときの、発光スペクトルの経時変化を示す特性図である。
図21】ローダミンBが担持された微小会合体に対する化学的刺激の有無による発光強度の経時変化の差異を示す特性図である。
図22】薬剤無内包、親水性薬剤内包担持、会合体部分解離の各状態での微小会合体のSEM像である。
図23】疎水性薬剤であるピレンが担持された会合体に対してCTABを添加したときの発光スペクトルを、CTABの添加量をパラメータにして示した特性図である。
図24】ピレンが担持された微小会合体に対して各種化学的刺激剤を添加したときの、ピレン放出量の化学的刺激剤添加量依存性を測定した特性図である。
図25】ピレンが担持された微小会合体に対して各種化学的刺激剤を添加したときの、ピレン放出量の化学的刺激剤添加量依存性を測定した特性図である。
図26】ピレンが担持された微小会合体に対して化学的刺激剤を添加したときの発光スペクトルを、化学的刺激剤の濃度をパラメータにして示した特性図で、(a)は化学的刺激剤をCTABとした場合で、(b)はこれをSDSとした場合である。
図27】ピレンが担持された微小会合体に対して化学的刺激剤を添加したときの発光スペクトルを、化学的刺激剤の濃度をパラメータにして示した特性図で、(a)は化学的刺激剤をTween40とした場合で、(b)はこれをTrion X-100とした場合である。
図28】ピレンが担持された微小会合体に対して化学的刺激剤を添加したときの発光スペクトルを、化学的刺激剤の濃度をパラメータにして示した特性図で、(a)は化学的刺激剤をn-Buthylamineとした場合で、(b)はこれをn-Hexylamineとした場合である。
図29】ピレンが担持された微小会合体に対して化学的刺激剤を添加したときの発光スペクトルを、化学的刺激剤の濃度をパラメータにして示した特性図で、(a)は化学的刺激剤をDiisopropylamineとした場合で、(b)はこれをTriethylamineとした場合である。
図30】ピレンが担持された微小会合体に対して化学的刺激剤を添加したときの発光スペクトルを、化学的刺激剤の濃度をパラメータにして示した特性図で、(a)は化学的刺激剤を1-Hexanolとした場合で、(b)はこれをAnilineとした場合である。
図31】ピレンが担持された微小会合体に対して化学的刺激剤を添加したときの発光スペクトルを、化学的刺激剤の濃度をパラメータにして示した特性図で、(a)は化学的刺激剤をMethoxypolyethylene glycol amineとした場合で、(b)はこれをTetra-n-buthylammonium bromideとした場合である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.本発明の会合体のコンセプト
本発明の微小会合体は、図1に示すように、天然ポリフェノールを用いた両親媒性デンドリマーを外殻部に有し、内空部が水あるいは親水性の極性溶媒で満たされた球形の会合体である。そして、この両親媒性デンドリマーは、図2に示すように、タンニン酸からなる親水性コアの部分と直鎖の炭化水素基からなる疎水性リムの部分からなる。
【0013】
この微小会合体は、薬剤や試薬などを外殻部あるいは内空部に担持することができて、薬剤や試薬などを保護するいわゆるカプセルの役割を担うことができる。
また、この微小会合体は、界面活性剤などの化学的刺激を受けると外殻部が解離し、微小会合体は解体される。この解離ないし解体に伴い、外殻部あるいは内空部に担持されていた薬剤や試薬などを放出することができるため、薬剤や試薬等のデリバリーに適する。
【0014】
すなわち、この微小会合体は、通常の状態ではカプセルとして薬剤や試薬などを保護し、狭い場所に対しても容易に輸送される。そして、化学的刺激が与えられると解体し、担持されていた薬剤や試薬等が、その場に制御性をもって供給される。
この微小会合体は、このようなデリバリーシステムを与えるものとなっている。なお、微小会合体に担持する薬剤や試薬は、親水性のものでも疎水性のものでもよく、両対応となっている。
【0015】
外殻部を構成するタンニン酸誘導体の膜は、図3に示すように、その膜の内側でリム部の疎水性アルコキシ基が結びついた2層構造を有する。このとき、外側に向かって芳香族水酸基が露出するため、この微小会合体に薬剤を担持させない場合でも、抗菌性を有する。さらに、この微小会合体に、薬剤として滅菌剤を担持させた場合は、両者の効果が加わった滅菌効果が発揮される。
【0016】
この微小会合体は、溶媒による自己組織化、自己会合特性を有し、この自己組織化によりサイズが制御される特徴を有する。
【0017】
2.会合体の構造
本発明の微小会合体は、図3に示すように、親水性コアおよび疎水性アルコキシ基(直鎖の炭化水素基)を有する外殻部と、その内側の内空部とを有する。ここで、親水性コアはタンニン酸で構成される。
その外殻部の外側および内側の表面にはそれぞれ、タンニン酸の芳香族水酸基が露出するため、微小会合体は親水性となる。また内空部と接する表面も親水性となる。一方、外殻を構成する膜の中央部は疎水性となる。
なお、内空部には水や水溶液が入る。
【0018】
外殻部は、タンニン酸の少なくとも一部の水酸基における水素原子が直鎖の炭化水素基で置換されたタンニン酸誘導体の2分子膜を有する構造、好ましくはタンニン酸誘導体の2分子膜からなる構造になっている。
【0019】
タンニン酸誘導体は、タンニンを原材料にして製造することができる。
タンニンは、加水分解で多価フェノールを生じる植物成分の総称であり、没食子酸やエラグ酸がグルコースなどにエステル結合し、酸や酵素で加水分解されやすい加水分解型タンニンと、フラバノール骨格を持つ化合物が重合した縮合型タンニンとに大別される。いずれのタイプのタンニンであっても、また、それらの混合物であっても、本発明におけるタンニン酸誘導体を作製すること(誘導体化)は可能であり、本発明の効果が奏されるものと考えられる。好ましくは加水分解型タンニンであり、例えば下記式(A1)で表されるタンニン酸(以後TAとも称す)を主成分とするものが誘導体化される。誘導化されたタンニン酸誘導体の一例を下記式(A2)に示す。これは、式(A1)のタンニン酸の10個の水酸基が、炭素数16の直鎖の炭化水素基で置換されたタンニン酸誘導体である。
【0020】
【化1】
【化2】
【0021】
このタンニン酸誘導体における直鎖の炭化水素基による置換数は、5以上25以下が好ましく、6以上16以下がより好ましく、10が最も好ましい。置換数が5未満の場合は、後述する自己組織化の条件によっては十分な外殻を形成できないことがあり、置換数が25を超える場合は沈殿物を生じやすい。
また、このタンニン酸誘導体のリム部を構成する直鎖の炭化水素基の炭素の数は6以上16以下が好ましい。直鎖の炭化水素基の炭素の数がこの範囲にあると、微小会合体を形成するために適切な会合力が得られるという効果がある。
このタンニン酸誘導体のリム部を構成する直鎖の炭化水素基は、炭素の数は6以上16以下であれば、1種類である必要はない。例えば、炭素数6の直鎖の炭化水素基と炭素数16の直鎖の炭化水素基とが混在してタンニン酸の置換がなされていてもよい。但し、炭素数の揃っている直鎖の炭素水素基を用いる方が、タンニン酸誘導体を製造しやすく、製造されるタンニン酸誘導体の品質を安定させやすい。一方で、外殻部に薬剤を担持させる場合は、炭素数の異なる複数の直鎖の炭化水素基を混在させたタンニン酸誘導体の方が、薬剤を担持させやすいという効果がある。
【0022】
タンニン酸誘導体の分子構造とそのサイズとを、密度汎関数法(DFT:Density Functional Theory)によって求めた一例を図4に示す。ここで、TA(C10は、タンニン酸(TA)の水酸基のうちの10個が、炭素数xの直鎖の炭化水素基によって置換されたことを示す。したがって、図4は、各々、炭素数が6、10および16の炭化水素基10個により置換されたタンニン酸誘導体の分子構造とそのサイズを計算した結果になっている。この結果から、タンニン酸誘導体TA(C10、TA(C1010、TA(C1610の直径は、各々約3.5nm、4.3nmおよび5.3nmと見積もられる。
これらのタンニン酸誘導体が2分子膜構造の外殻部を形成する場合は、分子の枝の部分が折り曲げられてコアの芳香族水酸基を有する部分が外側にくる分子の形で2層膜構造を作ること、および後程述べる実施例で測定した結果からみて、外殻部の厚さは、3nm以上6nm以下、代表的には約5.2nmとなる。
【0023】
この微小会合体は自己組織化により形成される。数多くの実験を行った結果、この微小会合体が100nm以上200nmの大きさのときに、凝集体になりにくく、また大きさのばらつきが少なくなること見出した。
【0024】
微小会合体の外形は、このような微細な大きさであることと、外殻部の界面張力が形状を決定する上での主要因になることから、球形である。なお、ここでの球形とは、最も大きな長径が、平均した直径の120%以内に収まる形状をいう。
【0025】
本微小会合体において薬剤等が担持される場所は、図5に示すように、その薬剤が親水性であるか疎水性であるかによって異なる。薬剤が親水性である場合は、内空部に水や水溶液からなる液体とともに存在し、薬剤が疎水性である場合は、外殻部を構成する膜(外郭膜)の中に存在する。
【0026】
担持する薬剤としては、例えば、食物発酵生成物、レシチン、イソフラボン、カテキン、ガロカテキン、カテキン3-ガレート、ガロカテキン3-ガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン3-ガレート、シリマリン、クルクミノイド、ギンゲロール、セラミド、イソプレン、プレノール、イソ吉草酸、ゲラニルピロホスフェート、オイカリプトール、リモネン、ピネン、ファルネシルピロホスフェート、アルテミシニン、ビサボロール、ゲラニルゲラニルピロホスフェート、レチノール、レチナール、フィトール、タキソール、フォルスコリン、アフィジコリン、スクアレン、ラノステロール、テルペン、植物性油またはアマランサス種子もしくは米由来の油、レチノイド、ケイ皮酸、リグニン、ポリフェノール、ビタミン、カフェイン、テオブロミン、メチル-、ジメチル-およびパラ-キサンチン、キサンチンアルカロイド、ペニシリン、真菌代謝物、セファロスポリン、カルダペネム、スルホンアミド、キノロン、オキサゾリジノン、マクロライド、抗ウイルス薬、心血管薬、代謝薬、抗真菌薬、および抗寄生虫薬、ならびにスタチンの群から選ばれる少なくとも1以上を挙げることができる。
【0027】
3.会合体の製造方法
最初に、タンニン酸(TA)の少なくとも一部の水酸基における水素原子が直鎖の炭化水素基で置換されたタンニン酸誘導体(PATA:Partially n-alkyl substituted TA)を作製、準備するタンニン酸誘導体作製工程を行う。
このタンニン酸誘導体は、アルキル化反応の一つであるウィリアムソンエーテル合成法によって得ることができる。具体的には、テトラヒドロフラン、ジメチルスホキサイド等の溶媒中で、塩基性触媒の存在下で、タンニン酸にハロゲン化アルキルを反応させて作ることができる。塩基性触媒としてはMH、MCO、M(M:アルカリ金属)の群から選択されるいずれか1または2以上の触媒を使うことができる。例えば、KCOは、OH基をOに変換し、ハロゲン化アルキル(X-R:X:ハロゲン、R:アルキル基)へのO基の求核反応を促進することができる。ハロゲン化アルキルとしては、例えば、ヨウ化アルキルを用いることができる。また、ハロゲン化アルキルの代わりに、スルホニル基などを脱離基として有するものも使用できる。また、上記、ウィリアムソンエーテル合成法以外のアルキル化反応を用いることもできる。さらに、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DOC)等の縮合剤を用いたカルボン酸類との脱水縮合反応や、イソシアネートとの縮合反応を用いることもできる。
【0028】
反応は、例えば、70℃以上100℃以下で、約1時間程度加熱する。タンニン酸に対するハロゲン化アルキルのモル比を変えることにより、アルキル基のタンニン酸中への導入数であるnの値を所望の値に設定できる。
【0029】
次に、液体中での自己組織化反応工程を行って、微小会合体を作製する。
この自己組織化反応工程は、大別すると、タンニン酸誘導体を良溶媒に溶解させる溶解工程と、タンニン酸誘導体が溶解した良溶媒に貧溶媒を添加する貧溶媒添加工程からなる。
その代表的な工程を下記に示す。
【0030】
溶解工程では、上記方法で作製したタンニン酸誘導体を良溶媒に溶解させる。ここで、良溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)、アセトン、イソプロピルアルコールの群から選ばれる少なくとも1を挙げることができる。タンニン酸誘導体の良溶媒に対する比率は0.01mg/mL以上1.20mg/mL以下が好ましい。比率がこの範囲に収まっていると、凝集が少ない微小会合体が形成されやすく、微小会合体の大きさのばらつきも少ないものとなる。また、この比率が小さいほど微小会合体の大きさは小さくなる。一方で、0.4mg/mLを超えると微小会合体の大きさは飽和し、大きくなりにくい。
この溶解工程は室温(25℃)で行うことができる。ここで、均一な溶解液を作るために、スターラーなどにより攪拌させて溶解させることが好ましい。
【0031】
貧溶媒添加工程では、溶解工程で作製したタンニン酸誘導体が溶解した溶解液に貧溶媒を添加する。最初に所定の量の貧溶媒を添加し、その後一定の速度で貧溶媒を添加する。ここで、貧溶媒としては、水及び炭素数1~4の低級アルコールの群から選ばれる少なくとも1を挙げることができ、中でも水が好ましく、純水がより好ましい。ここで、純水とは、電気抵抗率が0.1MΩ・cm以上の水をいう。
最初に添加する貧溶媒の量は、凝集の少ない微小会合体を形成する上で重要で、溶解液と貧溶媒との合計に対し、貧溶媒の量が75重量%以上であることが好ましい。初期の貧溶媒の添加量が少ない場合は、皴がよった形状の微小会合体になりやすい。
貧溶媒の添加速度は、2mL/min以上600mL/min以下が好ましい。貧溶媒の添加速度が2mL/minを下回ると微小会合体が沈殿しやすく、600mL/minを上回ると作製される微小会合体のサイズが小さくなって、微小会合体の製造効率、収率が下がる。
なお、均一性を上げるために、タンニン酸誘導体が溶解した溶液をスターラーなどにより攪拌させた状態で、貧溶媒を添加することが好ましい。また、貧溶媒を添加する一方で、ゆっくりとTHFなどの揮発性の溶媒を蒸散させることが好ましい。
【0032】
4.会合体の解離方法と薬剤、試薬のデリバリー
薬剤を担持した微小会合体の作製から解離による薬剤放出に至る過程を図6に示す。
微小会合体への薬剤の担持は、THFなどの良溶媒中にタンニン酸誘導体(PATA)が溶解している段階で薬剤を添加し、その後、上述の方法で貧溶媒を添加して、微小会合体を液中形成することで行う。この段階で、微小会合体はカプセル状になって、担持された薬剤を保護する。この微小会合体は水中などでも安定である。
微小会合体が水などの液体中にある状態で、界面活性剤による化学的刺激を受けると、外殻を構成している膜の分子間の結びつきが解けて解離し、微小会合体の内空部あるいは外殻部に担持されていた薬剤が液中に放出される。ここで、界面活性剤としては、例えば、CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、アニリン、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドなどを挙げることができる。
【実施例
【0033】
(実施例1)
実施例1では、本発明による微小会合体の製造と、その製造物の凝集性、大きさ、形状、外殻部の厚さについて調べた結果を述べる。
【0034】
<微小会合体の製造>
タンニン酸(TA、和光薬品株式会社製)と、その置換基となる1-ヨードヘキサン、1-ヨードデカンおよび1-ヨードヘキサデカン(全て東京化成工業製)とを準備した。そして、これらを原料とし、炭酸カリウム(和光薬品株式会社製)を触媒に用いたウィリアムソンエーテル合成法により、水酸基における水素原子のうち10個が、炭素数が6、10または16のアルキル基で置換されたタンニン酸誘導体(PATA)であるTA(C10、TA(C1010およびTA(C1610をそれぞれ作製した。なお、この一連のタンニン酸誘導体作製工程は、アルゴン雰囲気下で行った。
【0035】
次に、作製したタンニン酸誘導体を良溶媒であるTHFに添加して良溶媒溶液を作製した。この良溶媒溶液の作製は、磁気スターラーを用いた攪拌下で行った。磁気スターラーの回転速度は350rpmとした。得られた良溶媒溶液を、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した。その後、ろ過された良溶媒溶液に、貧溶媒である水を、滴下ロートを用いて添加した。貧溶媒として用いた水は、抵抗率18.2MΩでpHが6.8の超純水である。貧溶媒の添加中も、良溶媒溶液を作製するときと同様に、スターラーを用いて液を攪拌した。そして、溶液中のTHFを24時間かけて大気下で蒸発させ、その後、重力によるろ過を行って異物を取り除いた。この一連の会合体作製工程は室温(25℃)下で行った。
【0036】
<微小会合体の形成確認および構造確認>
最初に、微小会合体が形成されているかを光の散乱により確認した。
微小会合体形成工程後の水(PATA assembly in water)に光を照射したときの光散乱の様子(B)を、THF溶液中のタンニン酸誘導体(PATA in THF)に光を照射したときの光散乱の様子(A)と比較して、図7に示す。微小会合体が形成された水の場合は、THF中のタンニン酸誘導体に比べ、光散乱による太めの光のパスが認められる。この光散乱の実験から、光を散乱する程度の大きさの会合体が形成されていることが確認された。
【0037】
作製した微小会合体の大きさは、動的光散乱法(DLS)および走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した。DLSの装置は、DLS8000HAL(大塚電子製)である。同装置は、ALV-SPコンパクトゴニオメータ、ALV5000相互相関器およびHeNeレーザー(波長632.8nm)を備えている。SEMはSU8000(株式会社日立ハイテク製)であり、試料に白金をコートして1.0-1.5kVの加速電圧で観察した。
【0038】
DLSにより測定された微小会合体のゆらぎ信号強度分布と算出した粒径(流体力学的直径)Dhの例を図8に示す。また、良溶媒に添加したタンニン酸誘導体の比率(濃度)をパラメータにしてDLS測定を行った結果を図9に示す。
その結果、微小会合体の直径(粒径)Dhは、良溶媒に添加したタンニン酸誘導体の比率が0.01mg/mLから0.40mg/mLに高まるにつれて大きくなるが、0.40mg/mLでその傾向は飽和し、逆に1.20mg/mLになるとやや小さくなった。
良溶媒に添加したタンニン酸誘導体の比率(濃度)と、この微小会合体を含有する液体に波長350nmの光を照射したときの透過率との関係を図10に示す。凝集などによって大きな粒子が形成されると、その粒子によって光が散乱されて透過率が下がる。
図10を見ると、濃度約0.2mg/mLのところに変曲点がある。これは、図11のSEM像からわかるように、会合体の凝集によるもので、濃度約0.2mg/mLのところにあるCAC(Critical Aggregation Concentration)より濃い濃度になると凝集体が形成される。孤立した会合体を形成するためには、良溶媒に添加するタンニン酸誘導体の濃度を0.2mg/mL以下とすることが求められる。
なお、図10中には、この微小会合体の表面電荷密度を測定した例が併せて示されている。そのピークは約-54mVであり、これは、微小会合体の外側にタンニン酸の非置換芳香族水酸基が存在する傍証になっている。
【0039】
図12に、タンニン酸誘導体が添加された良溶媒溶液に添加する初期の貧溶媒(水)量と、DLS測定により求めた粒径Dhとの関係を示す。初期の水の添加量が66体積%を境にして、粒径Dhと粒径ばらつきの傾向は大きく異なる。水の添加量が66体積%を下回る場合、粒径Dhは1000nmレベルと大きく、そのばらつきも大きい。一方、75体積%以上では、粒径Dhは200nmレベルであり、その粒径ばらつきも小さなものとなっている。これは、図13に示すSEM写真からわかるように、水の添加量が約75体積%の場合は、孤立した会合体が形成されるのに対して、水の添加量が66体積%を下回る場合には、会合体が凝集するためである。孤立した会合体を製造するには、初期に添加する貧溶媒(水)の量を66体積%以上とすることが好ましく、75体積%以上とすることがより好ましい。
【0040】
図14に、タンニン酸誘導体が添加された良溶媒溶液に添加する貧溶媒(水)添加速度と、DLS測定により求めた粒径Dhとの関係を示す。水の添加速度が2mL/min以上600mL/minの範囲にわたって粒径Dhが測定されており、会合体が形成されていることがわかる。特に、水の添加速度が20mL/min以上になると粒径Dhのばらつきが小さくなり、水の添加速度の変化に対する粒径Dhの変化は少なく、制御性が高くなる。図15に、水の添加速度を変えて作製された微小会合体のSEM写真を示すが、水の添加速度が2mL/minのときは凝集体の生成率が高い。このことがDLS測定での粒径ばらつきの増大に繋がったと考えられる。なお、形成される微小会合体の形状は球状で、また、そのSEM観察された粒径(直径)は、DLS測定による粒径Dhと近いことが確認された。
【0041】
次に、形成された微小会合体の外殻部の膜の厚さについて調べた。
最初に、小角X線散乱法(SAXS:small-angle X-ray scattering)により外殻部の厚さを試算した。ここで、SAXS測定は、銅のK-α線源を備えた測定装置であるSAXSess mc(Anton Paar製)の液体サンプル用標準キャピラリーセルを使用して実施した。厚さdは、散乱ベクトルqを用いて、2π/qで計算することができる。その結果、図16に示すように、タンニン酸誘導体としてTA(C1610を用いた場合は厚さ5.2nm、TA(C1010を用いた場合は厚さ3.4nmになった。
図3に示すタンニン酸誘導体のリム部が内側に向かい、外側にタンニン酸の非置換水酸基部が露出している構造、図4に示すタンニン酸誘導体分子の大きさ、およびSAXS法により求められた厚さを鑑みると、この微小会合体の外殻は、タンニン酸誘導体の2分子膜からなると考えられる。
また、透過型電子顕微鏡(TEM)により、作製した微小会合体を観察した。その結果を図17に示す。TEMとしては、JEM-1010(JEOL製)を用い、加速電圧100kVで観察した。その結果、外殻部の厚さは約5nmであり、上記SAXS法による測定と同様の値であった。
【0042】
(実施例2)
実施例2は、親水性薬剤を担持した微小会合体の実施例を示す。
親水性薬剤(親水性プローブ)としてローダミンBを用いて、ローダミンBが微小会合体に担持されるかを調べた。
試料の作製方法は、タンニン酸誘導体(PATA)を良溶媒であるTHFに添加して良溶媒溶液を作製した段階で、ローダミンBを添加する工程を追加し、他の工程は実施例1と同様に行い、微小会合体試料を作製した。ここで、ローダミンBの添加量は5μMとし、タンニン酸誘導体としてはTA(C1610を用いた。
そして、リファレンスとしてローダミンBが添加されていない微小会合体も作製し、微小会合体の吸収スペクトル及び発光スペクトルについて、ローダミンB添加の有無による比較を行った。その結果を図18に示すが、ローダミンBを添加して微小会合体を作製したときに発光強度が大幅に低下しており、微小会合体に親水性プローブであるローダミンBが担持されたことが確認された。ここで、発光スペクトルは、波長523nmの光を試料に照射し、その蛍光をFP-6600(日本分光株式会社製)で測定して求めた。
【0043】
(実施例3)
実施例3は、疎水性薬剤を担持した微小会合体の実施例を示す。
疎水性薬剤(疎水性プローブ)としてピレンを用いて、ピレンが微小会合体に担持されるかを調べた。
試料の作製方法は、実施例2と同じように、タンニン酸誘導体(PATA)を良溶媒であるTHFに添加して良溶媒溶液を作製した段階で、ピレンを添加する工程を追加し、他の工程は実施例1と同様に行い、微小会合体試料を作製した。ここで、ピレンの添加量は2μMとし、タンニン酸誘導体としてはTA(C1610を用いた。
そして、リファレンスとして、タンニン酸誘導体に代えて同モル量のタンニン酸を用いた試料、およびタンニン酸誘導体を添加しないで、良溶媒とピレンとからなる溶液に水のみが添加された試料も作製し、その発光スペクトルの比較を行った。その結果を図19に示すが、タンニン酸誘導体を用いたときに明確な発光スペクトルが観測され、微小会合体に疎水性プローブであるピレンが担持されたことが確認された。ここで、発光スペクトルは、波長399nmの光を試料に照射し、その蛍光を測定したものである。
【0044】
(実施例4)
実施例4は、親水性プローブが担持された微小会合体の化学的刺激による解離の実施例を示す。
実施例2により作製した、親水性プローブとしてのローダミンBが担持された微小会合体を有する水に、化学的刺激剤であるCTABを添加して、化学的刺激剤による微小会合体の解離をスペクトル測定およびSEM観察により調べた。
【0045】
図20は、CTABを添加したときの発光強度スペクトルを、添加後の経過時間をパラメータにして示した特性図である。ここで、この実験は、入射光の波長を523nmとしたときの蛍光スペクトルをFP-6600(日本分光株式会社製)でモニタした結果である。
CTAB添加後の時間が進むほど、ローダミンBを示す波長約580nmの発光強度は大幅に上昇し、微小会合体が解離してローダミンBが液中に放出されていることが分かる。ここで、CTABはカチオン性の界面活性剤であり、その添加量は0.4mMで、その量は臨界ミセル濃度(CMC)の約0.9mMの半分以下である。
図21は、CTABを添加した場合と添加しない場合とで、発光強度の時間変化を比較した特性図である。発光強度は、ローダミンBを特徴づける波長580nmでの光強度とした。したがって、発光強度が高いほどローダミンBが放出されていることを示す。ここで、CTABの添加量は、図20の場合と同様に0.4mMである。
CTABを添加した場合は、時間とともに発光強度が上昇し、微小会合体が解離して担持剤(模擬担持薬剤)であるローダミンBが液中に放出されていることが分かる。一方で、CTABを添加しない場合は、発光強度に有意な時間変化は認められず、ローダミンBが微小会合体に担持された状態を維持していることがわかる。
【0046】
図22は、薬剤を親水性模擬薬剤であるローダミンBとしたときの、無担持(薬剤無内包)、担持(親水性薬剤(ローダミンB)内包担持)およびCTABによる部分解離(会合体部分解離)の各状態でのSEM写真を示す。
ローダミンBが担持された状態では、微小会合体の内部が黒化しており、ローダミンBが内包されていることが分かる。この状態では、微小会合体の外部はローダミンBが担持されていない微小会合体の外部と同じであり、微小会合体の外部へのパーティクル放出は認められない。
一方、CTABが添加された場合は、左側半分の領域において外殻部境界のコントラストが低下し、微小会合体の部分解離が起こっていることが分かる。さらに、微小会合体の外部には多数の微小なパーティクルが認められる。このパーティクルは、微小会合体に内包されていたローダミンBが放出されたことによるものと考えられる。
以上から、親水性の薬剤が担持された微小会合体に適当な化学的刺激を与えることにより、微小会合体は解離し、親水性の薬剤を放出、供与できることが確認された。
【0047】
(実施例5)
実施例5は、疎水性薬剤が担持された微小会合体の化学的刺激による解離の実施例を示す。
そこでは、実施例3により作製した、疎水性プローブとしてのピレンが担持された微小会合体が混入された水に、化学的刺激剤としてCTABを添加して、化学的刺激剤による微小会合体の解離を発光スペクトル測定により調べた。但し、実施例5ではピレンの添加量は1μMとした。
【0048】
図23は、CTABを添加したときの発光強度スペクトルを、CTABの添加量をパラメータにして示した特性図である。ここで、測定はCTAB添加後6時間経過した時点で行われた。波長399nmの光を入射させて、その蛍光スペクトルを測定した。測定器は実施例4で用いたものと同じである。
CTAB添加の添加量が多いほど、ピレンが外殻部に担持された膜を示す発光スペクトルの強度が下がり、微小会合体の解離が起こっていることがわかる。微小会合体が解離して放出されたピレンの量をこの図から計算すると、0.05mMのCTABを添加した場合が約41%であり、0.6mMのCTABを添加した場合が約84%である。
【0049】
次に、化学的刺激剤の種類を変えて蛍光発光量の添加濃度依存性を測定することにより、ピレンが担持された微小会合体の解離特性を調べた。その結果を図24および図25にそれぞれ示す。ここで、用いた化学的刺激剤は、カチオン性界面活性剤のCTAB、アニオン性の界面活性剤SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)、非イオン性の界面活性剤Triton X-100(29-(4-tert-Octylphenoxy)-3,6,9,12,15,18,21,24,27-nonaoxanonacosan-1-ol)、Tween40(Polyoxyethylene sorbitan monopalmitate)、アミン類(n-Buthylamine、n-Hexylamine、Diisopropylamine、Triethylamine、AnilineおよびMethoxypolyethylene glycol amine)、1-HexanolならびにTetra-n-buthylammonium bromideである。なお、この測定は化学的刺激剤を添加した6時間後に測定した。また、参考までに、各実験の発光スペクトルを図26から図31にそれぞれ示す。
その結果、カチオン性界面活性剤およびアミンを化学的刺激剤とした場合は、添加濃度の増加による発光量の有意な減少が認められ、微小会合体が解離して、担持されていたピレンが放出されたことが確認された。一方、アニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤を化学的刺激剤としたときは、添加濃度の増加による発光量の減少は僅かであり、有意な減少があるとは認められなかった。すなわち、アニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤を化学的刺激剤としたときは、微小会合体の有意な解離は認められなかった。この理由は、微小会合体のゼータ電位がマイナスであるため、カチオン性界面活性剤は静電的に引き寄せられるが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤に対しては静電相互作用が働かないためであると考えられる。なお、図26(b)、図27(a)、図27(b)および図30(a)においては、濃度依存性が小さいため、スペクトル特性曲線に重なりが認められる。
以上から、微小会合体に疎水性の薬剤を担持させたときも、適当な化学的刺激を与えることにより、微小会合体は解離し、疎水性の薬剤を放出、供与できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、人体、環境に馴染みやすく悪影響が少ないと考えられる天然植物由来の材料を用いた微小会合体を提供することが可能になる。
そして、この微小会合体は、薬剤等を担持させることができ、界面活性剤による化学的刺激により容易に解体させることができるので、薬剤、酵素、試薬等のキャリアとして優れた効果を発揮する能力をもつ。
しかも、この微小会合体は、親水性、疎水性どちらの薬剤等も担持可能である。さらに、その微小会合体は、生体等への適用に適した100nm以上200nm以下のナノ領域の大きさであり、自己組織化形成で製造できるため、その会合体の製造効率も高い。
以上のことから、本発明の微小会合体は、医療用を始めとして、バイオ燃料電池、バイオセンサー、エネルギー変換素子、分析法など様々な分野への適用が期待される。
図1
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