(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】リングスペーサー
(51)【国際特許分類】
H01L 21/673 20060101AFI20220422BHJP
B65D 85/30 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
H01L21/68 V
B65D85/30 500
(21)【出願番号】P 2017180970
(22)【出願日】2017-09-21
【審査請求日】2020-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】西島 正敬
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 賢一
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084882(WO,A1)
【文献】特開2009-035300(JP,A)
【文献】特表2009-540556(JP,A)
【文献】特開2017-050500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/673
B65D 85/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状物の厚み方向を上下方向に揃えた状態で板状物を搬送可能に収納する搬送容器内において該搬送容器に対して板状物を非接触の状態とするように該板状物に上下方向に隣り合うように配置されて用いられるリングスペーサーであって、
前記リングスペーサーはリング板状に形成されたリング体からなり、
前記リング体は、該リング体の一方面における外周縁部分に前記板状物の下面側と面接触可能な支持面を有するとともに前記リング体の他方面における前記支持面の真裏の部分に前記板状物の上面側と面接触可能な押さえ面を有する支持部、及び、前記支持部の外周縁の位置に前記支持面側から前記支持部の厚み方向に沿って突出した規制部を備えており、
前記規制部が、前記リング体の平面視上、該支持部の外周縁に沿って延びており、
前記規制部の外観輪郭線が、前記リング体の平面視上、前記支持部の外観輪郭線上に存在して
おり、
前記規制部が、前記支持部の外周縁に沿って間隔を隔てて複数設けられている、ことを特徴とするリングスペーサー。
【請求項2】
前記支持部の外周縁に沿って支持部の抑え面側を切り欠いた切り欠き部が形成されている請求項
1に記載のリングスペーサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リングスペーサーに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板や半導体ウエハなどの板状物が搬送される場合、板状物はコインスタック式(横置き)搬送容器に収納した状態で搬送されていた。
【0003】
コインスタック式搬送容器としては、例えば特許文献1に示すように、容器本体に対して板状物を収納して蓋体を被覆したものが知られている。コインスタック式搬送容器においては、複数枚の板状物が次のような積層体の状態で収納される。積層体は、その最下段と最上段にクッション材を配置し、上下のクッション材間に半導体ウエハなどの板状物を複数枚重なりあうように配置し、上下に隣り合う板状物の相互間にスペーサーを介装してなる構造体である。このとき、積層体においては、スペーサーとしてシート材が使用されており、こうしたシート材によって搬送中の振動や衝撃による板状物の損傷が抑制されてきた。
【0004】
ところが、コインスタック式搬送容器に収納される板状物に形成される構造は、極めて繊細になってきている。例えば、板状物が、イメージセンサー表面のカバーガラス(ガラス基板)や、3DS-IC構造を持つ半導体ウエハ、具体的には該半導体ウエハ表面にマイクロバンプの形成やTSV端子の露出があるものであるような場合、板状物の表面内に非常に精密性を要請される所定領域(精密領域)が存在する。
【0005】
こうしたカバーガラスや半導体ウエハなどが板状物である場合、スペーサーをなすシート材が板状物の表面の精密領域に接触すると、シート材が板状物の表面に傷を付けてしまうだけでなく、これら板状物の表面に形成された繊細な構造を破損させる虞がある。またシート材が板状物の表面の精密領域に接触することは、スペーサーをなすシート材の一部が板状物の表面側に移ってしまう虞(板状物への転写の虞)も生じさせる。
【0006】
そこで、例えば特許文献2に示すように、イメージセンサー表面のカバーガラスや、3DS-IC構造を持つ半導体ウエハなどが板状物である場合でも、これら板状物表面の傷が付く虞や板状物の表面構造が破損する虞を抑制するべく、スペーサーとしてリング状に形成されたリングスペーサーを用いることが提案されている。スペーサーとしてリングスペーサーが用いられることで、スペーサーが半導体ウエハの精密領域に対して接触してしまう虞を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-240883号公報
【文献】国際公開2016/084882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、昨今ではコインスタック式搬送容器に収納される板状物の表面に形成される構造が更に高度に繊細で極めて容易に傷つきやすく破損しやすいものになってきており、特許文献2のリングスペーサーよりも更に板状物表面への傷付きや破損を高度に抑制できるものが要請されるようになってきている。
【0009】
本発明は、板状物が極めて容易に傷つきやすく破損しやすいものであっても、効果的に板状物表面の傷つきや破損を抑制しつつ板状物を搬送することを可能とするリングスペーサーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(1)板状物の厚み方向を上下方向に揃えた状態で板状物を搬送可能に収納する搬送容器内において該搬送容器に対して板状物を非接触の状態とするように該板状物に上下方向に隣り合うように配置されて用いられるリングスペーサーであって、
前記リングスペーサーはリング板状に形成されたリング体からなり、
前記リング体は、該リング体の一方面における外周縁部分に前記板状物の下面側と面接触可能な支持面を有するとともに前記リング体の他方面における前記支持面の真裏の部分に前記板状物の上面側と面接触可能な押さえ面を有する支持部、及び、前記支持部の外周縁の位置に前記支持面側から前記支持部の厚み方向に沿って突出した規制部を備えており、
前記規制部が、前記リング体の平面視上、該支持部の外周縁に沿って延びており、
前記規制部の外観輪郭線が、前記リング体の平面視上、前記支持部の外観輪郭線上に存在しており、
前記規制部が、前記支持部の外周縁に沿って間隔を隔てて複数設けられている、ことを特徴とするリングスペーサー、
(2)支持部の外周縁に沿って支持部の抑え面側を切り欠いた切り欠き部が形成されている上記(1)に記載のリングスペーサー、を要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、板状物が極めて容易に傷つきやすく破損しやすいものであっても、効果的に板状物表面の傷つきや破損を抑制しつつ板状物を搬送することを可能とするリングスペーサーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明のリングスペーサーの一実施例を用いて板状体を搬送容器に収納した板状物搬送体を模式的に示すための概略分解斜視図である。
【
図2】
図2Aは、搬送容器内における板状物とリングスペーサーの積層構造の一実施例を模式的に示すための概略断面説明図である。
図2Bは、リングスペーサーに切り欠き部が形成されている場合における、搬送容器内における板状物とリングスペーサーの積層構造の一実施例を模式的に示すための概略断面説明図である。
【
図3】
図3は、本発明のリングスペーサーの一実施例を模式的に示すための概略平面図である。
【
図4】
図4Aは、
図3のA-A’線縦断面の状態を模式的に示す概略断面図である。
図4Bは、
図7に示す切り欠き部がリングスペーサーに形成されている場合における、
図3のA-A’線縦断面に対応した断面の状態を模式的に示す概略断面図である。
【
図5】
図5Aは、
図3のB-B’線縦断面の状態を模式的に示す概略断面図である。
図5Bは、
図7に示す切り欠き部がリングスペーサーに形成されている場合における、
図3のB-B’線縦断面に対応した断面の状態を模式的に示す概略断面図である。
【
図6】
図6Aは、
図3のC-C’線縦断面の状態を模式的に示す概略断面図である。
図6Bは、
図7に示す切り欠き部がリングスペーサーに形成されている場合における、
図3のC-C’線縦断面に対応した断面の状態を模式的に示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、切り欠き部がリングスペーサーの支持部の外側縁に形成されている場合の一実施例を模式的に示すための概略底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[リングスペーサー]
本発明におけるリングスペーサー1は、
図1に例示するように、板状物20の厚み方向を上下方向に揃えた状態で板状物20を搬送可能に収納する搬送容器42内において搬送容器42に対して板状物20を非接触の状態とするように板状物20に上下方向に隣り合うように配置されて用いられる。ここに、上下方向とは、板状物20の積層方向(
図1中においては、矢印Gで示す)を示す。また、上下方向に平行な法線を有する平面の広がる方向が水平方向であるものとし、リング体2の外周縁からリング体2の中央に向かう方向を内方向、リング体2の中央からリング体の外周縁に向かう方向を外方向と定義する。
【0014】
リングスペーサー1は、
図1等に示すように、リング板状に形成されたリング体2からなる。
【0015】
(リング体2)
リング体2は、
図2A、
図3、
図4等に示すように、少なくとも支持部3と規制部4を備える。
【0016】
(リング体2の材質)
本発明のリングスペーサー1をなすリング体2は、合成樹脂を射出成形、真空成形、圧空成形などで形成することができる。合成樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を適宜用いられてよい。
【0017】
リング体2を構成する合成樹脂は導電処理を施されていることが好ましく、リング体2を構成する合成樹脂の導電性が調整されていることが好ましい。これは、たとえば、導電性フィラーや帯電防止剤を含有させる、或いは成形後のリングスペーサー1表面に導電処理を施されることで具体的に実現することができる。この場合、リングスペーサー1の表面抵抗値が101Ωから1012Ωの範囲内になるようにリング体2を構成する合成樹脂の導電性が調製されていることが好適である。導電性フィラーとしては、カーボンブラック、グラファイトカーボン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末、金属繊維、金属酸化物の粉末、金属コートした無機質微粉末、有機質微粉末および繊維が使用できる。導電処理としては、成形後のリングスペーサー1表面に直接導電性ポリマーを重合した膜を形成する処理や、導電性ポリマーとバインダー樹脂を含んだ塗料をコーティングする処理が具体的に例示される。
【0018】
(規制部4)
規制部4は、後述する支持部の外周縁に支持面5側から支持部3の厚み方向に沿って突出して形成される。規制部4は、
図3等に示すように、リング体2の平面視上、支持部3の外周縁に沿って延びている。このとき、リング体の平面視上、支持部の外観輪郭線上に規制部の外観輪郭線が存在しているように形成されるが、規制部の外周端面と支持部の外周端面が面一となっていることがリング体の外周面の凹凸が減ぜられる点で好ましい。
【0019】
規制部4は、
図2等にも示すように、板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した場合に、板状物20の外観輪郭位置よりも外側に位置するように形成されている。また、この場合において、板状物20が水平方向に移動することをより確実に規制するために、規制部4の内側面は、その内側面が板状物の外周に接するような形状に形成されるとともに規制部4の形成位置も板状物20の外周に接するような位置に形成されていることが好適である。
【0020】
規制部4の高さは、板状物20の厚み以上となっており、板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した際に、規制部4は、水平方向へ規制部4よりも外側に板状物20が移動してしまうことを確実に規制する。規制部4の高さとは、支持面5の位置を基端としてその基端から上方向に突出した長さを示す。
【0021】
ただし、規制部4の高さは過剰に高すぎないことが好ましい。すなわち、規制部4の突出高さが過剰に高い場合、個々の板状物20の上下に配置されて板状物20を介して上下方向に隣り合うリングスペーサー1,1のうち、上側に位置するリングスペーサー1の後述する押さえ面6がその直下に位置する板状物20と接する前に、下側に位置するリングスペーサー1の規制部4が支持部3の押さえ面6に接触してしまい、押さえ面6と支持面5とで板状物20を挟むことが困難となり板状物20が上下方向へ移動することを規制することが困難になる虞を生じる。この点を考慮すれば、規制部4の高さが、おおよそ板状物20の厚みに一致する程度に調整されていることが好ましい。
【0022】
規制部4の長さは、板状物20の水平方向への移動を制限することができる程度の長さであれば、特に限定されない。なお、規制部4の長さとは、リング体2の平面視上、規制部4の外周縁に沿った長さであり且つ規制部4の一方端から他方端まで長さである。
【0023】
規制部4は、
図3の例では、リングスペーサー1の支持部3の外周縁に沿って、間隔をあけて複数設けられており、
図3からも示されているように、すなわち不連続に設けられている。規制部4の形成パターンは、これに限定されず、リングスペーサー1の支持部3の外周縁に沿ってその外周縁全体に連続的に形成されてもよい(図示しない)。
【0024】
規制部4が支持部3の外周縁に沿って複数形成される場合、複数の規制部4の配置パターンは、板状物20に面接触するようにリングスペーサー1を配置させた場合に規制部4によって板状物20の水平方向への移動を制限することができるパターンであればよい。
【0025】
規制部4の内側面は、板状物20の側面(平面視で、板状物20の外輪郭線)と接触する面となる。この規制部4の内側面は、
図2A、
図4Aなどの例では、垂直に立ち上がる平面状に形成されているが、これに限定されず、傾斜面状に形成されてよい。また、規制部4の上面と内側面との境界部をなす規制部4の角部4aは、丸みを帯びてもよい。規制部4の内側面が傾斜面であることで板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した場合に規制部4の上面が板状物20に衝突してしまう虞を低減することができる。また、規制部4の上面と内側面との境界部をなす規制部4の角部4aが丸みを帯びている場合においては、規制部4の角部4aが板状物20に意図せずに衝突してしまっても、板状物20に傷がついてしまう虞を抑制することができるようになる。
【0026】
(支持部3)
支持部3は、
図2から
図5に示すようにリング体2の一方面における外周縁部分に板状物20の下面側と面接触可能な支持面5を有するとともにリング体2の他方面における支持面5の真裏の部分に板状物20の上面側と面接触可能な押さえ面6を有する。
【0027】
図2に示す支持部3の幅は、適宜選択可能であるが1mm以上3mm以下であることが好ましい。支持部3の幅が1mm未満であると、板状物20を十分に支持することが困難となる虞がある。板状物20を支持できなければ、板状物20の水平状態を維持できず、搬送時にリングスペーサー3と傾いた板状物20とが接触し、板状物20に傷がついてしまう虞を生じてしまう。支持部3の幅が3mmを超えると、板状物20の精密領域(板状物20が半導体ウエハである場合には回路形成領域)と接触してしまう虞を生じてしまう。なお、支持部3の幅とは、リング体2の中心から外側方向に向かう方向に沿った支持部3の内側縁から外側縁までの距離を示す。
【0028】
図2に示す支持部3の厚みは、形状を保持できる程度の厚みが確保されていれば、特に限定されない。支持部3の厚みは、リング体2の厚み方向にそった支持面と押さえ面との離間距離を示す。
【0029】
(支持面5)
支持面5は、支持部3の面のうち板状物20を下側から支えることを予定された面側に形成される。
図1に例示するように、板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した場合に板状物20の下面側と支持面5で面接触する。したがって、支持面5は、板状物20の厚み方向を上下方向に揃えて板状物20を搬送容器42の内部空間63に配置した状態で板状物20を搬送可能に搬送容器42内に収納した場合において板状物20に対して下方向から面接触可能な面であることになる。支持面5は、板状体20の表面の状態にあわせて適宜選択可能であるが、通常、板状体20の面のうち支持面5と対面する領域の状態は平滑面であることから、これに合わせて、支持面5も平滑面の状態であることが好ましい。
【0030】
(押さえ面6)
支持部3においては、既述したように、リング体2の他方面における支持面5の真裏の部分に前記板状物の上面側と面接触可能な押さえ面6が形成されている。ここに押さえ面6は、板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した場合に板状物20の上面側と面接触して板状物20が上下方向に移動することを上側から押さえる面を示す。
【0031】
このように、支持部3が一方面を支持面5とするとともに他方面を押さえ面6とすることで、板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した場合、支持部3の支持面5と押さえ面6により板状物20の上下方向の移動が規制されるようになる。そして、規制部4により板状物20の水平方向の移動が規制されていることから、板状物20の移動をしっかりと規制することができるようになる。
【0032】
(切り欠き部)
リングスペーサー1の支持部3の押さえ面6側には、切り欠き部9が形成されてもよい。切り欠き部9は、支持部3の外側周縁に沿って支持部3の押さえ面6側を切り欠いた形状となすことで形成される。
図2B、
図4B、
図5B、
図6Bの例では、切り欠き部9は、断面L字型となるように支持部3の押さえ面6側の外側周縁部分に形成されている。
【0033】
切り欠き部9は、
図7に示すように、支持部3の外側周縁に沿って支持部3の全周にわたって形成されていてもよい。
図2B、
図4B、
図5B、
図6Bは、切り欠き部9が
図7のように形成されている場合を例とした概略断面図に対応している。切り欠き部9が支持部3の外側周縁に沿って支持部3の全周にわたって形成されている場合、切り欠き部9の長さは、支持部3の外側周縁の長さとなる。なお、切り欠き部9は、支持部3の外側周縁に沿って間隔をあけて複数個所に形成されてもよい。
【0034】
切り欠き部9は、その幅が規制部4の幅以上であることが好適である。また、切り欠き部9が、支持部3の外側周縁に沿って間隔をあけて複数個所に形成される場合には、規制部4に応じた位置に形成されて、さらにその長さが規制部4の長さ以上であることが好ましい。切り欠き部9が、このように寸法で形成されていると、板状物20に支持部3で面接触するように板状物20の上側と下側の両側にそれぞれリングスペーサー1を配置する場合に、上側のリングスペーサー1の切り欠き部9の位置に下側のリングスペーサー1の規制部4を位置合わせして規制部4と支持部3の押さえ面6とが接触することを回避することができるようになる。そして、このため、規制部4の幅寸法や高さ寸法が製造時にやや大きな寸法に形成されてしまった場合においても、大きな寸法の規制部4が押さえ面6に対して強く接触してリングスペーサー1の破損を引き起こす虞を抑制することができる。なお、切り欠き部9の長さは、押さえ面の外側縁に沿って切り欠き部9の延びる長さを示し、切り欠き部の幅は、リングスペーサー1の平面視上、切り欠き部の内側端位置から外方向に押さえ面の外側縁までの長さ(水平方向の長さ)を示す。
【0035】
(通気溝7)
支持部3には、
図3の例に示すように、支持面5側に所定の位置に通気溝7が内外方向に形成されてもよい。この場合、支持部3において、支持面5の形成パターンは、
図6からも示されるように、通気溝7の位置で不連続なパターンとなる。なお、このことは、リングスペーサー1が支持部3に通気溝7を設けられない構成を有することを禁止するものではない。また、支持部3に押さえ面6が形成される場合には、押さえ面6側の所定位置に通気溝が形成されてもよい(図示しない)。
【0036】
また、通気溝7の溝幅は空気の出入りができる程度の幅であれば、適宜選択されてよい。
【0037】
(内側延出部8)
リング体2には、支持部3の内側に内側延出部8が形成されていることが好ましい。内側延出部8は、支持部3の内端からリング体2の中心方向に向かった所定位置まで内側に延び出た部分で形成される。内側延出部8は、リング体2の支持部3の厚みよりも肉厚みが薄く形成された部分となっている。これにより板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した場合においても内側延出部8が板状体20に接触してしまう虞がより確実に低減される。
【0038】
リングスペーサー1を搬送容器42へ収納することや搬送容器42から取り出すことは吸着装置を用いた吸着方法によって実現できる。このような吸着方法が用いられる場合において、リングスペーサー1に内側延出部8が形成されていることでリング体2の幅が確保されることから、吸着装置によりリングスペーサーを吸着させるための領域を確保することができる。このとき、内側延出部8は、リングスペーサー1の収納や取出しを行う場合において吸着装置の吸着パッドに対する吸着部として機能する部分となる。
【0039】
本発明のリングスペーサー1は、たとえば、次に示すような板状物搬送体50を調製する際に使用することができる。なお、以下では、板状物20が搬送容器42に複数枚収納される場合について説明するが、このことは、板状物20が搬送容器42に単数収納される場合にリングスペーサー1が使用されることを排除するものではない。
【0040】
[板状物搬送体50]
板状物搬送体50は、搬送容器42と、その搬送容器42に収納される複数の板状物20の積層構造を有する積層体45を備えて構成される。
【0041】
(板状物20)
板状物20は、少なくともいずれか一方の面内の所定領域に特定される精密性を要請される精密領域を有するものである。具体的には、板状物20としては、例えばガラス基板や半導体ウエハなどを例示することができ、その形状は通常は円盤状である。板状物が半導体ウエハの場合、板状体がその両面に回路パターンを形成したものである場合がある。本発明のリングスペーサーを用いた板状物搬送体によれば、両面に回路パターンを形成した半導体ウエハの両表面に傷が付くことを抑制しつつ搬送することができ、半導体ウエアへの転写の虞を抑制して搬送することができる。
【0042】
(積層体45)
積層体45は、板状物20に支持部3で面接触するようにリングスペーサー1を配置した構造を備えており、
図1などの例では、複数の板状物20を積層させるとともにリングスペーサー1を隣り合う板状物20,20の隙間に介装させた構造を備える。積層体45は、リングスペーサー1を配置し、その上に板状物20を配置し、さらにリングスペーサー1、板状物20を交互に積み重ねて配置し、予め定めた枚数の板状物20を積層したのち、一番上側にリングスペーサー1を配置することで得ることができる。
【0043】
板状物搬送体50において、
図1に示すように、積層体45は、後述する立ち壁部60の内面61と向かい合うように搬送容器42の内部空間63に収納される。
【0044】
(クッション材30)
板状物搬送体50には、クッション材30が配置されていることが好ましい。クッション材30は、
図1に示すように搬送容器42に収容される積層体45の直下位置と直上位置の少なくともいずれか一方好ましくは両方に設けられてもよい。
【0045】
(クッション材30の素材)
クッション材30の素材としては適宜選択可能である、合成樹脂の発泡材を用いることができ、具体的に、軟質ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリスチレンフォームなどを例示することができる。
【0046】
クッション材30は、リングスペーサー1と同様に、導電性を付与することができ、この場合、クッション材は、その表面抵抗が1012Ω以下となるように調整されていることが好ましい。これは、クッション材30を構成する合成樹脂の導電性を調製することで実現することができる。
【0047】
(搬送容器42)
搬送容器42は、容器本体40と蓋体41とを備える。
【0048】
(容器本体40)
容器本体40は、底部62と、底部62の所定位置から立ち上がる立ち壁部60を備える。底部62の形状は、立ち壁部60を立設可能な形状であれば特に限定されず、例えば、概略四角形状や多角形状に形成されてもよいし、おおよそ円形状に形成されてもよい。
図1に示す例では、底部62は、角を面取りされた四角形状に形成されている。
【0049】
立ち壁部60は、複数の壁片60aから構成されており、それぞれの壁片60aは、その内面側を、板状物20の外観輪郭形状に対して整合する形状にして形成されており、立ち壁部60の内面61側に形成される内部空間63に板状体20を配置することができるような位置に形成されている。
図1の例では、それぞれの壁片60aは、円弧状に湾曲した形状に形成されており、間隔をあけて同一円周上の位置となるように配置されている。このとき、その円周と壁片60aのそれぞれの曲率半径が一致し、個々の壁片60aの曲率半径も互いに一致している。
【0050】
(蓋体41)
蓋体41は、立ち壁部60をその外面側から覆う側面部71と、内部空間63を上面側から覆う天面部72とを備えて構成される。なお、
図1の例に示すように、蓋体41の平面視上、内部空間63の大きさよりも底部62の大きさが大きい場合においては、蓋体41の天面部72は、立ち壁部で囲まれた空間を覆うだけでなく、底面全体を上面側から覆うことができるように形成されていてもよい。
【0051】
(容器本体40及び蓋体41の素材)
容器本体40は、合成樹脂を素材として形成されていることが好ましい。このとき、容器本体を構成する合成樹脂は、導電性フィラーや帯電防止剤を添加した導電性プラスチックス、あるいはポリマーアロイ処理した導電性プラスチックスであることが好ましい。導電性プラスチックに添加されている導電性フィラーとしては、カーボンブラック、グラファイトカーボン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末、金属繊維、金属酸化物の粉末、金属コートした無機質微粉末、有機質微粉末および繊維を例示することができる。そして、このような合成樹脂を容器本体に対応する金型内に射出成形することで容器本体を一体成形することができる。
【0052】
蓋体41は、容器本体42と同様の合成樹脂を用いて形成されてよく、射出成形によって一体成形されることで調製されてよい。
【0053】
[板状物搬送体50の組み立て]
板状物20が複数枚使用される場合においては、板状体20を、その厚み方向を上下方向に揃えた状態となし、板状物20に上下方向に隣り合うようにリングスペーサー1を配置し、その状態で容器本体40の内部空間63に収納した後に内部空間63を被覆するように容器蓋体41を装着することで、搬送容器内に板状物を収容した板状物搬送体50を組み立てることができる。また、
図1の例では、板状物20を複数枚重ねて隣り合う板状物20,20の間にリングスペーサー1を配置した構造を有する積層体45を形成し、容器本体40の内部空間63に、底部62に近いほうから、クッション材30、積層体45、クッション材30の順に配置し、容器本体40の内部空間63を被覆するように容器蓋体41を装着することで、板状物搬送体50を組み立てることができる。
【0054】
なお、容器本体40に蓋体41を装着後、固定具などを適宜用いて、蓋体41を強固に固定してもよい(図示せず)。
【0055】
本発明のリングスペーサーを用いた板状物搬送体によれば、きわめて精緻な構造を備えた板状体が収納されていたとしても、搬送時に搬送容器内で板状物が水平方向に立ち壁に接触するまで移動して板状体に傷が入る虞を抑制することができ、搬送容器内部で板状物が上下に振動移動して板状物と搬送容器との接触による板状物の破損の虞や、板状物への転写の虞も抑制することができるようになる。
【0056】
本発明について実施例および比較例を用いて、以下により詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されなくてもよい。
【実施例】
【0057】
実施例1
(リングスペーサーの成形)
原料樹脂としてポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製のパンライトL-1225L)を準備し、原料樹脂を
図3、
図7に示す形状のリングスペーサーに対応する形状の金型内に射出成形し、冷却後、金型を取り外すことで、
図3、
図7に示す形状のリングスペーサーを得た。リングスペーサーの表面抵抗値を表面抵抗計(三菱化学社製、商品名 ハイレスターUP MCP-HT450型)で測定したところ、10
5Ωであり、10
1~10
12Ωの範囲を満たしていると認められた。
【0058】
得られたリングスペーサー(支持部の厚み1.95mm、支持面の幅3mm、支持部の外縁に沿ってのびる規制部の長さ20mm、規制部の突出高さ1mm、規制部の幅1mm)を用いて次のように板状物搬送体を調製し、落下試験と転写試験を行った。
【0059】
(落下試験)
(板状物搬送体の準備)
図1に示す形状の搬送容器を準備し、クッション材と板状物を準備した。搬送容器を構成する容器本体及び蓋体は、いずれもポリプロピレン系樹脂の成形体である。また、クッション材は、ポリエチレン系樹脂発泡体である。板状物としては、その片面に半導体回路パターンを形成した半導体ウエハ(厚み100μm)が準備された。クッション材は2枚、板状物は13枚準備された。なお、リングスペーサーは14枚準備された。
【0060】
容器本体の立ち壁部の内側空間に下からクッション材、リングスペーサーを配置し、その上に板状物を配置した。その後順にリングスペーサーと板状物が上下方向に交互に積み重ねられた14枚目のリングスペーサーを配置したのち、クッション材を配置した。これにより、容器本体の立ち壁部の内側空間に下からクッション材、板状物の間にリングスペーサーを配した構造を有する積層体、クッション材の順に配置して、立ち壁部の内側空間部を被覆するように、立ち壁部の内側空間の上側から蓋体を配置し、板状物搬送体を得た。
【0061】
(落下試験の実施方法、評価方法及び結果)
ISO2248に準拠して、段ボール製の筐体(箱体)内に板状物搬送体を配置するとともに筐体と板状物搬送体との間の空き空間に緩衝材を配置した状態となし、その筐体を粘着テープで包装して包装物を得た。包装物を落下試験機(神栄テクノロジー株式会社製、DTS100型)にセットし、150cmの高さから自由落下(落下方向は1角3稜6面)させた。その後、包装物内の板状物における破損有無を目視にて観察した。結果、破損の発生は認められなかった。なお、この試験にいう破損とは、板状物と搬送容器との接触による板状物の外周縁における割れや欠けを示す。
【0062】
(振動試験)
(板状物搬送体の準備)
容器本体の立ち壁部の内側空間に下からクッション材、板状物の間にリングスペーサーを配した構造を有する積層体、クッション材の順に配置したあと、搬送容器の容器本体に予め立ち壁部の立ち上がり縁部に水性インクを塗布した上で、立ち壁部の内側空間の上側から蓋体を配置した他は、上述の落下試験における板状物搬送体の準備と同様の材料及び工程を用いて板状物搬送体を得た。
【0063】
(振動試験の実施方法、評価方法及び結果)
板状物搬送体をアルミニウムを用いた防湿袋(アルミ防湿袋)に入れたうえで脱気シーラー(富士インパルス社製 V-402型)を用いて防湿袋内の空気を抜いた。板状物搬送体を収容して空気を抜いた状態の防湿袋を1週間静置した。1週間後、この防湿袋について、ISTA 2Aに準拠して振動試験を実施した。振動試験では、振動試験機(株式会社振研製、G-9230L型)を用いて防湿袋に対してランダム振動(振動周波数:1Hzから200Hz)を与えた(実施時間60分)。その後、板状物に水性インクが付着しているか否かを目視にて観察した。結果、板状物へのインク付着は認められなかった。
【0064】
実施例2.
板状物搬送体を準備する際に用いた板状体が、厚み725μmの半導体ウエハであることを除く他は、実施例1と同様の材料及び工程を用いて、リングスペーサーを成形し、落下試験及び振動試験を実施した。結果、落下試験について、板状物の破損の発生は認められず、振動試験について、板状物への水性インクの付着も認められなかった。
【0065】
実施例1,2のいずれに関してみても、振動試験の結果、板状物への水性インクの付着が認められない。このことから搬送容器内で板状物が水平方向に立ち壁に接触するまで移動してしまうことが抑制されていることが確認された。また、落下試験の結果によれば、搬送容器内部で板状物が上下に振動移動して板状物と搬送容器との接触による板状物の外周縁における割れや欠けが生じてしまう事態の発生が抑制されていることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 リングスペーサー
2 リング体
3 支持部
4 規制部
5 支持面
6 押さえ面
7 通気溝
8 内側延出部
9 切り欠き部
20 板状物
30 クッション材
40 容器本体
41 蓋体
42 搬送容器
45 積層体
50 板状物搬送体
60 立ち壁部
60a 壁片
61 立ち壁部の内面
62 底部
63 内部空間
71 側面部
72 天面部