(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】ケイ酸マグネシウム粉末及びその製造方法並びに電子写真用トナー外添剤
(51)【国際特許分類】
C01B 33/22 20060101AFI20220422BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C01B33/22
G03G9/08 381
(21)【出願番号】P 2018002650
(22)【出願日】2018-01-11
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】関 敏正
(72)【発明者】
【氏名】三野 航
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-249078(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021688(WO,A1)
【文献】特開2007-218941(JP,A)
【文献】特開2007-240825(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105459(WO,A1)
【文献】JAGER C. et al.,Astronomy & Astrophysics,2003年,408, (1),193-204,DOI:10.1051/0004-6361:20030916
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
G03G 9/00-9/113,9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Mg
(2-x)SiO
(4-x)で表され、
蛍光X線分析により求められるxが0.05以上0.50以下であるフォルステライトの結晶構造を有
し、一次粒子の平均粒径が20nm以上150nm以下である、ケイ酸マグネシウム粉末。
【請求項2】
アルキル基の炭素数が3以上10以下であるアルキルシランを含有する請求項
1に記載のケイ酸マグネシウム粉末。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のケイ酸マグネシウム粉末を含む電子写真用トナーの外添剤。
【請求項4】
請求項
3の電子写真用トナーの外添剤を含む電子写真用トナー。
【請求項5】
化学式Mg
2SiO
4で表されるフォルステライトの結晶構造を有するケイ酸マグネシウム粉末を含むスラリーに、酸を添加して、化学式Mg
(2-x)SiO
(4-x)(式中、xは
蛍光X線分析により求められる値であり、0.05以上0.50以下である)で表されるケイ酸マグネシウム粉末を得る組成調整工程を含む、化学式Mg
(2-x)SiO
(4-x)で表され、xが0.05以上0.50以下であるフォルステライトの結晶構造を有
し、一次粒子の平均粒径が20nm以上150nm以下である、ケイ酸マグネシウム粉末の製造方法。
【請求項6】
前記組成調整工程で得られるケイ酸マグネシウム粉末に、アルキルシランを混合して、ケイ酸マグネシウム粉末の表面を処理する表面処理工程を更に含む、請求項
5に記載のケイ酸マグネシウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用トナーの外添剤として有用なケイ酸マグネシウム粉末及びそれを用いた電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式を利用した複写機及びプリンターは成熟産業の域に達しつつある。しかしながら、高精細化、高画質化の要求も根強く、トナーあるいはトナーへの添加剤に対する高性能化の要求も強くなっている。トナーの主構成物である樹脂は、それ自身のみでは所望の特性が得られないため、外添剤として数種の添加剤をトナーに混合あるいは被覆して、流動性や帯電特性を調整するのが一般的である。そのような添加剤の一つに無機化合物が用いられており、代表的なものとしては微粒子酸化チタン、微粒子シリカ、微粒子アルミナあるいはこれらの物質を複数組み合わせたものが使用される。特に、微粒子酸化チタン及びシリカは、異なる粒子サイズや表面処理剤のものが開発されており、幅広く利用されている。
【0003】
本発明者らは、微粒子酸化チタンあるいは微粒子シリカを外添剤として開発を検討したところ、酸化チタンは微粒子化が容易であり、流動性付与効果に優れているものの、酸化チタンの帯電性は中性に近く、表面処理をしないものでは負帯電性のトナー用途において十分な帯電性能を示さないことを知見した。一方、オルガノシランを被覆した微粒子酸化チタンではオルガノシラン中のケイ素の高い電気陰性度により、負帯電性能を得ることができるが、同方法では被覆量により帯電性能が左右されること、また、過剰被覆しても所望する高い負帯電性を得ることが難しいことを知見した。
【0004】
化学式Mg2SiO4で表されるフォルステライト(ケイ酸マグネシウム)は、安価かつ安全性に優れたマグネシウム及びシリカで構成され、電気絶縁性に優れることから、電子部品用のセラミックス材料として広く使用されている。しかし、現在の電子写真システムがトナーを負に帯電させて使用する設計が主流であり、外添剤には基本的に負帯電性が求められるのに対して、フォルステライトはマグネシウムの電気陰性度が小さく、負に帯電しにくいため、従来のフォルステライトは電子写真トナーの外添剤としては適していない。
【0005】
例えば、特開2002-31913号公報に記載のケイ酸マグネシウム質鉱物類(アタパルジャイト、セピオライト)は含水率が高く、帯電不良が発生しやすいという問題、特開平3-294864号公報及び特開平4-214568号公報に記載のシリコーンオイルで処理したケイ酸マグネシウムはシリコーンオイルによるトナー流動性の悪化、帯電上昇を引き起こすという問題、特開平11-95480号公報に記載の表面をヘキサメチルシラザンで処理したケイ酸マグネシウムは電気陰性度が小さく正に帯電しやすいため、負帯電トナーとして使用すると逆帯電トナーが生じるという問題を解決するために、ケイ酸マグネシウムとして、1MHzで測定した比誘電率が2~10、体積固有抵抗が1011Ω・cm以上のMg2SiO4で表されるケイ酸マグネシウム粉末と、シリカ粉末またはチタニア粉末との2種以上の無機酸化物粒子をトナーの外添剤として用いることが提案されている(特許文献1)。しかし、ケイ酸マグネシウム粉末一剤の電子写真用トナーの外添剤は存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電子写真用トナーの外添剤として有用な帯電特性を有する、ケイ酸マグネシウム粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題に対して本発明者等は、フォルステライト中のマグネシウム原子が酸素原子を四面体の頂点に配するSiO4四面体に取り囲まれている結晶構造に注目し、フォルステライト結晶の表面層及び表面近傍層からフォルステライトの基本結晶構造を変化させることなくマグネシウムを除去すれば、負帯電性が発現すると考えた。更に、マグネシウム原子の除去量を制御することで、負帯電量を制御することも可能ではないかと考えた。
【0009】
鋭意検討を重ねた結果、フォルステライト結晶の表面層及び表面近傍層からフォルステライトの基本結晶構造を変化させることなく、マグネシウムを除去する方法を見いだし、更に酸化マグネシウムと二酸化ケイ素の組成、すなわちMgOとSiO2のモル比を制御する方法を見いだした。かかる知見に基づいて調製した、フォルステライト構造を有し、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)(x=0.05以上0.5以下)で表されるケイ酸マグネシウム粉末は、フォルステライト結晶の表面層及び表面近傍層のマグネシウム原子が除去され、粒子表面に電気陰性度の大きいSiO2が露出しているため負帯電性を有しており、更に化学式Mg(2-x)SiO(4-x)のxが大きいほど負帯電性が強くなり、xの調整により所望の帯電性を得ることが可能となり、電子写真トナー用の外添剤、特には帯電調整剤として極めて有用であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
また、フォルステライトの比重は3.2であるのに対して、MgOの比重は3.6と大きく、SiO2の比重は2.7と小さいため、MgOの一部を除去した本願のケイ酸マグネシウムの比重はフォルステライトよりも小さくなる。同一粒子径では単位重量当たりの粒子個数が増加するため、従来のフォルステライト粉末よりも外添剤として優位である。
【0011】
本発明の化学式Mg(2-x)SiO(4-x)(x=0.05以上0.5以下)であって、フォルステライト結晶構造を有するケイ酸マグネシウム粉末は、トナー用外添剤として有用である。更に、電子顕微鏡写真より算出した一次粒子の平均粒径(個数平均径)が20nm以上150nm以下であれば、少ない添加量でトナー表面を均一に覆うことができ、より効果が大きい。また、アルキルシランで同ケイ酸マグネシウムを被覆することで、水分吸着を抑制することが可能で、温度変化あるいは湿度変化に対して安定した帯電性を発揮する。
本発明は以下の態様を含む。
[1]化学式Mg(2-x)SiO(4-x)で表され、xが0.05以上0.50以下であるフォルステライトの結晶構造を有するケイ酸マグネシウム粉末。
[2]一次粒子の平均粒径が20nm以上150nm以下である、前記[1]に記載のケイ酸マグネシウム粉末。
[3]アルキル基の炭素数が3以上10以下であるアルキルシランを含有する前記[1]または[2]に記載のケイ酸マグネシウム粉末。
[4]前記[1]~[3]のいずれか1つに記載のケイ酸マグネシウム粉末を含む電子写真用トナーの外添剤。
[5]前記[4]の電子写真用トナーの外添剤を含む電子写真用トナー。
[6]化学式Mg2SiO4で表されるフォルステライトの結晶構造を有するケイ酸マグネシウム粉末を含むスラリーに、酸を添加して、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)(式中、xは0.05以上0.50以下である)で表されるケイ酸マグネシウム粉末を得る組成調整工程を含む、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)で表され、xが0.05以上0.50以下であるフォルステライトの結晶構造を有するケイ酸マグネシウム粉末の製造方法。
[7]前記組成調整工程で得られるケイ酸マグネシウム粉末に、アルキルシランを混合して、ケイ酸マグネシウム粉末の表面を処理する表面処理工程を更に含む、前記[6]に記載のケイ酸マグネシウム粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のケイ酸マグネシウム粉末を電子写真用トナーの外添剤として用いると、トナーの帯電調整に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られた試料1のX線回折図である。
【
図2】実施例1で得られた試料1の電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例1で得られた試料1の粒度分布図である。
【
図4】実施例5で得られた試料5の粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のケイ酸マグネシウム粉末の製造方法を工程別に説明する。
【0015】
ケイ酸マグネシウムの原料としては、天然のフォルステライト(苦土カンラン石)が知られている。不純物が少なければ、天然のフォルステライトを適切に粉砕して原料としてもよい。しかしながら、天然のフォルステライトは一般に多くの不純物を含み、また、化学式Fe2SiO4で表されるファイアライト(鉄カンラン石)と連続固溶体を形成するため、本発明によるMgOとSiO2の物質量(モル)の比を制御したケイ酸マグネシウムを得るには適当ではない。したがって、フォルステライトの合成形態についても以下に記述する。
【0016】
[原料]
マグネシウム原料には、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム及び塩基性炭酸マグネシウムが使用できるが、反応性の良い水酸化マグネシウムが好ましい。ケイ素原料には、非晶質シリカ及び結晶性シリカが使用できるが、本願のケイ酸マグネシウム粉末を得るには微粒子の非晶質シリカがふさわしい。また、MgO・SiO2の化学式で表されるステアタイトをシリカ原料として使用しても良い。
【0017】
[混合]
マグネシウム原料及びケイ素原料を、MgO/SiO2モル比が2.0以上2.2以下の割合で混合する。MgO/SiO2モル比が2.0未満であると、未反応の二酸化ケイ素が残存しやすくなるため好ましくない。MgO/SiO2モル比が2.2を超えても過剰の酸化マグネシウムはMgO/SiO2モル比の調整工程で除去できるが、いたずらに諸原料を消費することになるため好ましくない。混合方法は、乾式、湿式あるいはその両方を組み合わせて行うことができる。適切な混合条件は、原料の性状により異なるが、混合物の一部を採取し、これを800℃以上で焼成して得られる産物のX線回折測定により、主構成相がフォルステライトとなる条件とすることが好ましい。原料混合状態が十分でない場合は不純物相として二酸化ケイ素が明確に観察される。したがって、混合条件は二酸化ケイ素相が観察されないように設定する。
【0018】
[焼成]
上記の原料混合物を、フォルステライト相が主成分として得られる温度並びに保持時間で焼成する。なお、焼成温度及び時間は、炉のサイズ、被焼成物の仕込み量、粉末の厚みにより適宜調整する必要がある。冷却は、炉内で自然冷却するか、炉外に排出し放冷すれば良く、特に限定しない。適切な焼成温度及び時間は、原料の性状により異なるが、焼成物のX線回折測定により、フォルステライト相の単相が観察される条件とすることが好ましい。ただし、混合時のMgO/SiO2モル比を2.0よりも大きくした場合には、2.0を超える分に相当する酸化マグネシウムが不純物相として残るが、Cuを対陰極とした本焼成物のX線回折測定において、2θ=36.5°に現れるフォルステライトの回折線強度(A)と2θ=42.7°に現れる酸化マグネシウムに由来する最も強い回折線強度(B)との比率(B/A)が0.2以下であることが好ましい。
【0019】
[粉砕]
焼成物を、1種類か2種類以上の粉砕機を組み合わせて粉砕し、一次粒子の平均粒径(個数平均粒径)を20nm以上150nm以下、好ましくは40nm以上120nm以下とする。粉砕は、乾式粉砕でも湿式粉砕でもよい。
【0020】
[MgO/SiO
2モル比の調整]
本発明の化学式Mg
(2-x)SiO
(4-x)で表され、xが0.05以上0.50以下であるフォルステライトの結晶構造を有するケイ酸マグネシウム粉末を得るには、乾式粉砕の場合は上記粉砕物を水戻ししてスラリーとし、湿式粉砕の場合はそのままのスラリーに対して、塩酸あるいは希硫酸を添加して、フォルステライト表面層及び表面近傍層のMgO及び未反応のMgOを溶解除去する。塩酸あるいは希硫酸の添加量は、MgOがMgCl
2あるいはMgSO
4として溶解、除去され、目的の組成を得るのに必要な量あるいはそれよりもやや不足する量が好ましい。目標組成をMg
(2-x)SiO
(4-x)とし、酸として塩酸を使用する場合に想定される化学変化を式1に示す。使用する酸が塩酸であれば、式1より塩酸使用量を計算することが可能である。なお、yMgOは未反応のMgO分を表す。
【化1】
【0021】
目標組成を精度よく得るためには、計算により求められる酸必要量よりも少ない量を添加した後、スラリーの一部をサンプリングしてMgO/SiO2モル比を分析して、不足分の酸を再度添加することができる。これを繰り返すことによって、精度の高い組成制御が可能である。なお、MgO/SiO2モル比の分析に供する試料は、サンプリングした後、MgCl2あるいはMgSO4を系外に排出するために、イオン交換水、蒸留水等を用いて、洗浄液の電気伝導度が300μS/cm以下になるまで希釈洗浄を行い、次いで、固液分離して、含有水分量が2wt%以下になるまで乾燥させて得られるケイ酸マグネシウム粉末とする。
【0022】
[アルキルシラン表面処理]
本発明のケイ酸マグネシウム粉末は、更に、アルキルシランにより表面処理がなされていてもよい。アルキルシランによる表面処理は、乾式あるいは湿式あるいはその両方で行うことができる。表面処理に用いることができるアルキルシランとしては、i-ブチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシランなどを好適に挙げることができる。
【0023】
乾式で行う場合は、前記のMg(2-x)SiO(4-x)で表されるケイ酸マグネシウム100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下のアルキルシランを混合機、あるいは粉砕・混合機を用いて撹拌混合しながら、ケイ酸マグネシウム粉末を添加する。全量添加後、一定時間撹拌混合した後、取り出して、200℃以下の温度で熱処理を行う。熱処理は、添加したアルキルシランのシラノール基とケイ酸マグネシウムの表面水酸基との反応促進、揮発成分の除去及び生成する水分の除去が目的であり、使用するアルキルシランの反応活性温度や耐熱温度を考慮して適宜調整する。
【0024】
湿式で表面処理を行う場合は、前記のMg(2-x)SiO(4-x)に組成を調整したスラリーをデカンテーション洗浄し、固形分濃度50g/L以上200g/L以下に濃縮する。このスラリーを撹拌しながら、液温を20℃以上90℃以下に調整し、アルキルシランを添加し、30分以上24時間以下撹拌保持する。アルキルシランによる表面処理が終了した後は、スラリーを固液分離し、含水量が2wt%以下になるまで乾燥する。更に、アルキルシランのシラノール基とケイ酸マグネシウムMg(2-x)SiO(4-x)の表面水酸基との反応促進あるいはアルキルシランのシラノール基同士の脱水縮合のために200℃以下で熱処理を行った後、固形物を粉砕機で解砕する。なお、熱処理温度は、用いるアルキルシランによって適宜調整する。
【0025】
[MgO/SiO2モル比の分析]
ケイ酸マグネシウムMg(2-x)SiO(4-x)のxは、リガク製多元素同時蛍光X線分析装置Simultix10を用いて分析測定した。あらかじめ重量分析あるいは高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法で分析したMgO/SiO2モル比が既知の標準試料を同時に測定し、測定試料と標準試料の各元素の蛍光X線強度を比較してxを求めた。
【0026】
[X線回折による結晶構造の同定]
ケイ酸マグネシウムの結晶構造の同定は、リガク製X線回折装置RINT-TTRIIIを用いて行った。対陰極にCuを使用し、管電圧及び管電流を50kV及び300mA、発散スリット1/2°、発散縦スリット10mm、散乱スリット1/2°、受光スリット0.15mmの設定で、2θ=10°~65°の範囲を、5°/minの速度で走査して、X線回折プロファイルを得た。このX線回折プロファイルをX線回折装置付属の電子計算機を用いてJCPDSカードと照合し、結晶構造を同定した。
【0027】
[一次粒子の平均粒径]
一次粒子の平均粒径の測定は、透過型電子顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて5万倍の写真を撮影し、写真視野中の100個以上の粒子についてCarl Zeiss社製Particle Size Analyzerを用いて一次粒子像の面積と等価な面積の円の直径を計測し、それらの個数平均値を一次粒子の平均粒径とした。
【0028】
[アルキルシラン含有量]
測定試料のカーボン含有量をLECO製CS-230炭素・硫黄分析装置を用いて分析し、当該測定値をアルキルシランのカーボン含有率で除した値を質量百分率で表した数値である。更に、アルキルシラン含有量にアルキルシランのケイ素含有率を乗ずることによって、アルキルシランに由来するケイ素含有量を求めることができる。
【0029】
[粉体帯電量]
ケイ酸マグネシウムの粉体帯電量は、東芝ケミカル(株)製粉体帯電量測定装置TB-200を用いて以下の手順で測定した。鉄粉キャリア9.9gとケイ酸マグネシウム粉末試料0.1gを混合し、振とう機で1分間以上混合して測定試料を調製する。目開き400μmのステンレスメッシュを敷いた測定ケージに、キャリアと測定試料の混合物100mg以上500mg以下を投入し、上方からの圧縮空気の吹きつけによりキャリアと測定試料を分離し、ケージに残ったキャリアの電荷量を測定した。このキャリアの電荷量を測定試料の粉末重量で除して、更に-1を乗じた値を測定試料の粉体帯電量とした。
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。以下に挙げる例は単に例示のために記すものであり、発明の範囲がこれによって制限されるものではない。
【実施例】
【0031】
[合成例1]
水酸化マグネシウム粉末及び非晶質微粒子シリカ粉末(比表面積:約200m2/g、ニホンアエロジル製親水性ヒュームドシリカ AEROSIL(登録商標)200)をMgO/SiO2モル比で2.05になるようにひょう量し、固形分濃度が100g/Lになるようにイオン交換水中に水戻しして、30分間撹拌して分散させた後、直径0.3mmのイットリア安定化ジルコニアビーズを粉砕媒体としたビーズミルで湿式粉砕混合を行って、スラリーを調製した。このスラリーをブフナーロートを用いて固液分離した後、箱型乾燥機を用いて固形分を110℃で24時間乾燥した。乾燥物をアルミナルツボに投入し、箱形電気炉を用いて850℃で3時間焼成を行った。焼成物を、ハンマーミルを用いて粉砕した後、水戻しして、直径0.3mmのイットリア安定化ジルコニアビーズを粉砕媒体としたビーズミルを用いて粉砕して、フォルステライトスラリーAを得た。フォルステライトスラリーA中のMgO/SiO2モル比は2.05であった。
【0032】
[合成例2]
水酸化マグネシウム粉末及び非晶質微粒子シリカ粉末(比表面積:約200m2/g、ニホンアエロジル製親水性ヒュームドシリカ AEROSIL(登録商標)200)をMgO/SiO2モル比で2.05になるようにひょう量し、固形分濃度が100g/Lになるようにイオン交換水中に水戻しして、30分間撹拌し分散させた後、ビーズミルで湿式粉砕混合を行ってスラリーを調製した。このスラリーをブフナーロートを用いて固液分離した後、箱型乾燥機を用いて固形分を110℃で24時間乾燥した。乾燥物をアルミナルツボに投入し、箱形電気炉を用いて1100℃で3時間焼成を行った。焼成物をハンマーミルを用いて粉砕した後、水戻しして、ビーズミルを用いて粉砕して、フォルステライトスラリーBを得た。フォルステライトスラリーB中のMgO/SiO2物質量比は2.05であった。
【0033】
[実施例1]
合成例1で得たフォルステライトスラリーAの固形分濃度を求めた後、MgO/SiO2モル比を2.05から1.75にするのに必要な、固形分100g当たり0.420molの塩酸を添加した。30分間撹拌した後、ブフナーロートを用いて固液分離し、更にイオン交換水でよく洗浄した。オーブンを用いて固形分を110℃で12時間乾燥した後、ハンマーミル及びジェットミルを用いて粉砕して試料1を得た。
【0034】
試料1のMgO/SiO2モル比は1.75であり、化学式ではMg1.75SiO3.75であり、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)におけるxは0.25である。また、一次粒子の平均粒径は52nm、粉体帯電量は-30μC/gであった。
【0035】
[実施例2]
実施例1の方法で、MgO/SiO2モル比を1.75に調整したケイ酸マグネシウムのスラリーを調製し、これを撹拌しながら液温25℃に調整した。別途、酢酸を加えてpH3.3に調整したエタノール水溶液中でi-ブチルトリメトキシシランを加水分解させた。この加水分解溶液を前記のケイ酸マグネシウムのスラリーに対して25wt%添加して15時間撹拌を続けた。この混合スラリーをブフナーロートでろ過した後、固形分をイオン交換水で洗浄し、その洗浄水の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで洗浄を継続し、洗浄後、ブフナーロートを用いて固液分離した。箱型乾燥機を用いて固形分を110℃で乾燥して、150℃で2時間熱処理を行った。得られた塊状物を、ハンマーミル及びジェットミルを用いて粉砕して試料2を得た。試料2を蛍光X線回折分析に供して求めた全Si量から、上述のアルキルシラン含有量で求めたアルキルシラン由来のSi量を減じて算出した試料2のアルキルシランに由来するSiを加味しないMgO/SiO2モル比は1.75であり、化学式はMg1.75SiO3.75であり、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)におけるxは0.25である。平均一次粒子径は52nm、粉体帯電量は-41μC/gであった。
【0036】
[実施例3]
合成例1で得たフォルステライトスラリーAの固形分濃度を求めた後、MgO/SiO2モル比を2.05から1.85にするのに必要な、固形分100g当たり0.276molの塩酸を添加した。30分間撹拌した後、ブフナーロートを用いて固液分離し、更にイオン交換水で洗浄した。箱型乾燥機を用いて固形分を110℃で24時間乾燥した後、ハンマーミル及びジェットミルを用いて粉砕し、試料3を得た。試料3のMgO/SiO2モル比は1.85であり、化学式はMg1.85SiO3.85であり、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)におけるxは0.15である。一次粒子の平均粒径は52nm、粉体帯電量は-10μC/gであった。
【0037】
[実施例4]
実施例3で得られたケイ酸マグネシウム粉末に対して、実施例2と同様の方法でi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物をケイ酸マグネシウムのスラリーに対して25wt%添加して試料4を調製した。試料4のアルキルシランに由来するSiを加味しないMgO/SiO2モル比は1.85であり、化学式はMg1.85SiO3.85であり、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)におけるxは0.15である。一次粒子の平均粒径は52nm、粉体帯電量は-14μC/gであった。
【0038】
[実施例5]
合成例2で得たフォルステライトスラリーBの固形分濃度を求めた後、MgO/SiO2モル比を2.05から1.95にするのに必要な量、すなわち固形分100g当たり0.144molの塩酸を添加した。この混合スラリーを30分間撹拌した後、ブフナーロートを用いて固液分離し、更にイオン交換水で洗浄した。オーブンを用いて、固形分を110℃で12時間乾燥した後、ハンマーミル及びジェットミルを用いて粉砕して試料5を得た。
【0039】
試料5のMgO/SiO2モル比は1.95であり、化学式ではMg1.95SiO3.95であり、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)におけるxは0.05である。一次粒子の平均粒径は100nm、粉体帯電量は-5μC/gであった。
【0040】
[比較例1]
水酸化マグネシウム粉末及び微粒子シリカ粉末をMgO/SiO2モル比で2.05になるようにひょう量し、固形分濃度が100g/Lになるようにイオン交換水中に水戻しして、30分間撹拌して分散させた後、ビーズミルを用いて湿式粉砕混合を行って、スラリーを調製した。このスラリーをブフナーロートで固液分離した後、箱型乾燥機を用いて固形分を110℃で24時間乾燥した。乾燥物をアルミナルツボに投入し、箱形電気炉を用いて850℃で3時間焼成を行った。焼成物をハンマーミルを用いて粉砕した後、水戻しして、ビーズミルを用いて粉砕した。このスラリーの固形分濃度を求めた後、MgO/SiO2モル比を2.05から1.99に調製するのに必要な、固形分100g当たり0.084molの塩酸を添加した。この混合スラリーを30分間撹拌した後、ブフナーロートで固液分離し、更にイオン交換水で洗浄した。箱型乾燥機を用いて固形分を110℃で12時間乾燥した後、ハンマーミルを用いて粉砕し、試料6を得た。
【0041】
試料6のMgO/SiO2モル比は1.99であり、化学式はMg1.99SiO3.99であり、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)におけるxは0.01である。一次粒子の平均粒径は55nm、粉体帯電量は+6μC/gであった。
【0042】
[比較例2]
比較例1のケイ酸マグネシウムに対して、実施例2と同様の方法でi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物をケイ酸マグネシウムのスラリーに対して25wt%添加して、試料7を調製した。試料7のアルキルシランに由来するSiを含まないMgO/SiO2モル比は1.99であり、化学式はMg1.99SiO3.99であり、化学式Mg(2-x)SiO(4-x)におけるxは0.01である。一次粒子の平均粒径は55nm、粉体帯電量は+3μC/gであった。
【0043】
実施例1~5及び比較例1~2のケイ酸マグネシウムの製造条件を表1に、同物性を表2にまとめて示す。
【表1】
【表2】
【0044】
表2より実施例1~5は、比較例1及び2よりも粉体帯電量が小さい、換言すると負帯電性が強いことがわかる。また、i-ブチルトリメトキシシランによる表面処理を施していない実施例1、3、5及び比較例1の化学式Mg(2-x)SiO(4-x)のxと粉体帯電量の関係を比較すると、xが大きくなるにしたがい粉体帯電量は小さくなっており、負帯電性が強いことがわかる。また、実施例1と2、及び実施例3と4を比較すると、i-ブチルトリメトキシシランによる表面処理により、粉体帯電量が小さく、負帯電性が強くなることがわかる。更にi-ブチルトリメトキシシランによる粉体帯電量の変化量は、xが大きいほど大きくなることがわかる。
【0045】
したがって、本発明のフォルステライト構造を有するケイ酸マグネシウム粉末は、電子写真トナー用の外添剤、特には帯電調整剤として従来のフォルステライトよりも有用である。また、現在の電子写真用トナーの帯電量調整は、所望の帯電量を得るために帯電特性の異なるいくつかの帯電調整剤を組み合わせて使用することにより行われている。これに対して、本発明のフォルステライト構造を有するケイ酸マグネシウム粉末は化学式Mg(2-x)SiO(4-x)のxを調整することによって所望の帯電特性を達成できるため、多数の帯電調整剤を一つの材料で置き換えることができる。したがって、トナー設計の簡略化と迅速化という点やトナー品質の均一化と長期安定化という点においても有効である。