IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

特許7061884金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法
<>
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図1
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図2
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図3
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図4
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図5
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図6
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図7
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図8
  • 特許-金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20220422BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20220422BHJP
【FI】
A44B18/00
B23K26/352
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018011624
(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公開番号】P2019126650
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-360012(JP,A)
【文献】特開2016-044337(JP,A)
【文献】特開平09-234576(JP,A)
【文献】特表2013-532533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
B23K 26/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材の表面に複数の係合素子を備える一対の面ファスナー同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するように構成した金属製面ファスナーであって、
複数の係合素子は、基材の表面に対するレーザー加工により微細な凹凸形状に形成されたものであり、
係合素子の表面に設けられた保護層を備え、この保護層は、一対の面ファスナーの互いの係合素子を相互に係合させた場合に、係合素子の間の隙間に残って係合素子の間の緩みを吸収するものであることを特徴とする金属製面ファスナー。
【請求項2】
金属製の基材の表面に複数の係合素子を備える一対の面ファスナー同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するように構成した金属製面ファスナーであって、
複数の係合素子は、基材の表面に対するレーザー加工により微細な凹凸形状に形成されたものであり、
一対の面ファスナーの互いの係合素子の間に挟み込まれ、係合素子よりも軟らかい金属箔を備えており、一対の面ファスナーの互いの係合素子を相互に係合させた場合に、係合素子が金属箔に嵌入することで面ファスナー同士を接合するものであることを特徴とする金属製面ファスナー。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属製面ファスナーを製造する方法であって、
基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成するステップを有することを特徴とする金属製面ファスナーの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の金属製面ファスナーを製造する装置であって、
基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成する手段を有することを特徴とする金属製面ファスナーの製造装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の金属製面ファスナーを用いて金属面同士を接合する方法であって、
一対の面ファスナーによって構成される金属面同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するステップを有することを特徴とする金属面の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製面ファスナー、その製造方法、製造装置および金属面の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、面ファスナーによる接合技術において接合強度を向上させることを目的として、面ファスナーを金属製とした案が各種提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照)。図9に、従来の金属製面ファスナーの一例を示す。
【0003】
しかし、一般的なプラスチック製等の面ファスナーと比較して、素材を金属製とすることで面ファスナーの凹凸加工が困難となり、製作コストが高くなるという問題があった。また、一つ一つの凹凸の寸法が大きくなる(例えば、数mm~数cmオーダー)ことに伴い、凹凸のピッチに依存する接合位置の自由度が小さくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-212554号公報
【文献】特許第5816763号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】ギズモード・ジャパンホームページ、「スチールでできたマジックテープ(登録商標)」、[online]、[平成29年12月1日検索]、インターネット<URL:https://www.gizmodo.jp/2009/09/post_6093.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、容易かつ安価に凹凸加工でき、かつ凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーが求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、容易かつ安価に凹凸加工でき、かつ凹凸寸法の小さい金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る金属製面ファスナーは、金属製の基材の表面に複数の係合素子を備える一対の面ファスナー同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するように構成した金属製面ファスナーであって、複数の係合素子は、基材の表面に対するレーザー加工により微細な凹凸形状に形成されたものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の金属製面ファスナーは、上述した発明において、一対の面ファスナーの互いの係合素子の間に挟み込まれ、係合素子よりも軟らかい金属箔を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の金属製面ファスナーは、上述した発明において、係合素子の表面に設けられた保護層を備え、この保護層は、一対の面ファスナーの互いの係合素子を相互に係合させた場合に、係合素子の間の隙間に残って係合素子の間の緩みを吸収するものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る金属製面ファスナーの製造方法は、上述した金属製面ファスナーを製造する方法であって、基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成するステップを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る金属製面ファスナーの製造装置は、上述した金属製面ファスナーを製造する装置であって、基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成する手段を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る金属面の接合方法は、上述した金属製面ファスナーを用いて金属面同士を接合する方法であって、一対の面ファスナーによって構成される金属面同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る金属製面ファスナーによれば、金属製の基材の表面に複数の係合素子を備える一対の面ファスナー同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するように構成した金属製面ファスナーであって、複数の係合素子は、基材の表面に対するレーザー加工により微細な凹凸形状に形成されたものであるので、容易かつ安価に凹凸加工でき、かつ凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーを提供することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の金属製面ファスナーによれば、一対の面ファスナーの互いの係合素子の間に挟み込まれ、係合素子よりも軟らかい金属箔を備えるので、凹凸形状の加工精度が低い場合でも、安定して接合することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の金属製面ファスナーによれば、係合素子の表面に設けられた保護層を備え、この保護層は、一対の面ファスナーの互いの係合素子を相互に係合させた場合に、係合素子の間の隙間に残って係合素子の間の緩みを吸収するものであるので、凹凸形状の加工精度が低い場合でも、安定して接合することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る金属製面ファスナーの製造方法によれば、上述した金属製面ファスナーを製造する方法であって、基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成するステップを有するので、凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーを容易かつ安価に製造することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る金属製面ファスナーの製造装置によれば、上述した金属製面ファスナーを製造する装置であって、基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成する手段を有するので、凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーを容易かつ安価に製造することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る金属面の接合方法によれば、上述した金属製面ファスナーを用いて金属面同士を接合する方法であって、一対の面ファスナーによって構成される金属面同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するステップを有するので、金属面同士を強固に接合することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係る金属製面ファスナーの実施の形態1を示す模式図である。
図2図2は、本発明に係る金属製面ファスナーの実施の形態1を示す図であり、(1)は斜視図、(2)は表面図、(3)は(2)のA-A線に沿った凹凸形状の断面図である。
図3図3は、本発明に係る金属製面ファスナーの実施の形態1を示す詳細断面図である。
図4図4は、本発明に係る金属製面ファスナーの実施の形態2を示す図であり、(1)は凸部を軟金属箔に嵌入させた跡の斜視図、(2)の左上は切断斜視図、右上は表面図、下部はB-B線に沿った断面図である。
図5図5は、本発明に係る金属製面ファスナーの実施の形態2を示す概略断面図であり、(1)は凸部を軟金属箔に嵌入させる前の図、(2)は凸部を軟金属箔に嵌入させた状態の図である。
図6図6は、本発明に係る金属製面ファスナーの接合状態を示す写真図である。
図7図7は、本発明に係る金属製面ファスナーの実施の形態3を示す概略断面図である。
図8図8は、本発明に係る金属製面ファスナーの実施の形態3の応力伝達機構の説明図である。
図9図9は、従来の金属製面ファスナーの一例を示す図であり、(1)は特許文献1に記載の金属製面ファスナー、(2)は非特許文献1に記載の金属製面ファスナーである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
[金属製面ファスナーおよびその製造方法]
まず、本発明に係る金属製面ファスナーおよびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0023】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1を説明する。
図1に示すように、本実施の形態1に係る金属製面ファスナー100は、金属製の基材10の表面12に複数の係合素子14を備える一対の面ファスナー16、16同士を、互いの係合素子14を相互に係合させることにより面接合するように構成したものである。基材10としては、例えば鋼材などの金属材料を用いることができる。複数の係合素子14は、基材10の表面12(以下、金属表面ということがある。)に対するレーザースキャニング加工により微細な凹凸形状に形成されている。以下、この凹凸形状を凹凸部ということがある。
【0024】
この金属製面ファスナー100を製造する場合には、レーザースキャニング加工を用いて金属表面12に凹凸形状の凹凸部18を形成する。形成した凹凸部18の例を図2および図3に示す。レーザーを格子状に照射することで金属表面に複数の溝(凹部20)を所定の間隔で形成し、これにより、図2および図3に示したような凹凸部18を形成する。
【0025】
凹凸部18の寸法は、レーザー加工機の能力によって決まるが、本実施の形態1では、図3に示すように凹部20の幅B1、凸部22の幅B2が20~100μm程度の凹凸部18を形成した。この凹凸部18によれば、接合位置の自由度を100μmピッチで実現できる。凹部20の深さDは、概ね凹部20の幅B1以上に設定することが望ましい。
【0026】
凹部20の幅B1と、凸部22の幅B2の大小関係は、「凹部の幅B1≧凸部の幅B2」に設定してもよいが、一の面ファスナー16に形成した凹凸部の凹部20と、他の面ファスナー16に形成した凹凸部の凸部22をより確実に嵌合させるために「凹部の幅B1≒凸部の幅B2」に設定することがより望ましい。面ファスナー16、16同士を圧着すれば凹凸部18が形状変形して嵌合できるため、多少の寸法差は許容される。
【0027】
凹部20を形成する際にバリが発生するが、これらのバリは除去しないことが好ましい。凹凸部18の加工精度が低い場合でもバリが塑性化して馴染んで、嵌合部分の一部となることで接合できる。
【0028】
金属表面12に凹凸部18を形成するためのレーザースキャニング加工技術としては、例えば、上記の特許文献2に記載の技術を利用することができる。なお、この特許文献2に記載の技術では、金属材料と樹脂系材料の接合を対象とし、それらの界面気密性の向上のために凹凸部を利用している。これに対し、本実施の形態1では、金属材料同士の接合を対象としており、界面気密性でなく、凹凸部18同士を嵌合させることで金属材料同士(面ファスナー16同士)を接合する。
【0029】
本実施の形態1によれば、金属表面に対するレーザースキャニング加工によって、金属表面に容易かつ安価に凹凸形状を形成することができる。また、凹凸寸法を小さくすることが可能なため、接合位置の自由度が高い金属製面ファスナーを実現することができる。さらに、加工時に発生したバリを除去しなくても接合することができる。また、この金属製面ファスナーは素材が金属であることから、接合強度が高い。
【0030】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2を説明する。
凹凸部18同士を確実に嵌合させるためには、上記の実施の形態1のように「凹部の幅B1≒凸部の幅B2」に設定することが望ましい。しかし、凹凸部18の加工精度が低く「凹部の幅B1<凸部の幅B2」となった場合、圧着時に凸部22が凹部20に嵌合されず、安定して接合できないおそれがある。そこで、本実施の形態2では、凹凸部18の加工精度が低い場合でも、安定して接合できる構造を説明する。
【0031】
図4および図5に示すように、本発明の実施の形態2に係る金属製面ファスナー200は、一対の面ファスナー16、16の互いの凹凸部18(係合素子14)の間に挟み込まれ、凹凸部18よりも軟らかい軟金属箔24(金属箔)を備える。基材10が鋼製の場合、軟金属箔24には例えばアルミ箔などの金属箔を用いることができる。
【0032】
この金属製面ファスナー200を製造する場合には、上記の実施の形態1と同様に、まず、レーザースキャニング加工を用いて基材10の表面に凹凸形状の凹凸部18を形成することにより面ファスナー16を製造する。次に、図5(1)に示すように、製造した一対の面ファスナー16、16を互いの凹凸部18同士が向き合うように対向配置し、互いの凹凸部18の間に軟金属箔24を挟んだ後、図5(2)に示すように、面ファスナー16、16を圧着する。凸部22を軟金属箔24に嵌入させることで面ファスナー16、16を接合する。これにより、図6に示すような金属製面ファスナー200からなる金属面の接合構造を得ることができる。
【0033】
本実施の形態2では、面ファスナー16の凹凸部18の寸法について、上記の実施の形態1のように「凹部の幅B1≒凸部の幅B2」とする必要はなく、「凹部の幅B1>凸部の幅B2」または「凹部の幅B1<凸部の幅B2」でよい。軟金属箔24の厚さtは、凹部20の溝の深さDの2倍以上とすることが望ましい。軟金属箔24の厚さtを確保することで、凹部の幅B1と凸部の幅B2の寸法関係によらず、凸部22の嵌入部を確実に確保することができる。
【0034】
本実施の形態2によれば、上記の実施の形態1と同様、金属表面に対するレーザースキャニング加工によって、金属表面に容易かつ安価に凹凸形状を形成することができる。また、凹凸寸法を小さくすることが可能なため、接合位置の自由度が高い金属製面ファスナーを実現することができる。さらに、凹凸部の加工精度が低くても確実に接合することができる。また、この金属製面ファスナーは素材が金属であることから、接合強度が高い。
【0035】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3を説明する。
上述したように、凹凸部18の加工精度が低く「凹部の幅B1<凸部の幅B2」となった場合、圧着時に凸部22が凹部20に嵌合されず、安定して接合できないおそれがある。また、加工時などに凹凸部18に粉塵、錆等が付着すると凹凸部18の嵌合を阻害する可能性がある。そこで、本実施の形態3では、こうした場合に備えて凹凸部18を保護するとともに、安定して接合できる構造を説明する。
【0036】
図7に示すように、本発明の実施の形態3に係る金属製面ファスナー300は、凹凸部18(係合素子14)の表面に設けられた保護層26を備える。この保護層26は、図8に示すように、一対の面ファスナー16、16の互いの凹凸部18を相互に係合させた場合に、凹凸部18の間の隙間に残って凹凸部18の間の緩みを吸収するものである。保護層26の材料としては、例えば熱可塑性樹脂、接着剤、プラスチック等の有機系材料を用いることができる。
【0037】
この金属製面ファスナー300を製造する場合には、上記の実施の形態1、2と同様に、まず、レーザースキャニング加工を用いて基材10の表面に凹凸形状の凹凸部18を形成することにより面ファスナー16を製造する。次に、図7に示すように、凹凸部18の表面に保護層26を設ける。次に、図8に示すように、一対の面ファスナー16、16を互いの凹凸部18同士が向き合うように対向配置して圧着接合する。この接合の際には、保護層26を加熱等することで軟化させた上で面ファスナー16同士を圧着し、凹凸部18を嵌合することが望ましい。
【0038】
本実施の形態3によれば、凹凸部18の嵌合部の隙間にも保護層26の材料が残留することで、嵌合部のゆるみも吸収できる。接合面の応力伝達は、凹凸部18の直接嵌合と保護層26の材料の圧縮ストラットにより伝達する。
【0039】
本実施の形態3では、面ファスナー16の凹凸部18の寸法について、上記の実施の形態1のように「凹部の幅B1≒凸部の幅B2」とする必要はなく、「凹部の幅B1>凸部の幅B2」に設定することができる。
【0040】
凹凸部18を形成するためのレーザースキャニング加工技術としては、例えば、上記の特許文献2に記載の技術を利用することができる。この特許文献2に記載の技術は、金属材料と有機系の異種材料(樹脂系材料)との接合を対象としており、これらの接合部では、金属側で界面剥離または有機系材料の凝集破壊により接合耐力が決定する。これに対し、本実施の形態3では、凹凸部18の直接嵌合分の接合耐力を確保できることに加え、有機系材料(保護層26)側の耐力も特許文献2の技術と比較して向上させることができる。本実施の形態3の応力伝達機構においては、有機系材料(保護層26)の界面剥離または凝集破壊が発生しても、凹凸部18に有機系材料が残存しているため、荷重を維持することができ、靭性および最大耐力以降の変形能力も確保することができる。
【0041】
本実施の形態3によれば、上記の実施の形態1、2と同様、金属表面に対するレーザースキャニング加工によって、金属表面に容易かつ安価に凹凸形状を形成することができる。また、凹凸寸法を小さくすることが可能なため、接合位置の自由度が高い金属製面ファスナーを実現することができる。さらに、凹凸部の加工精度が低くても確実に安定して接合することができる。また、この金属製面ファスナーは素材が金属であることから、接合強度が高い。また、保護層26の構成材料(例えば有機系材料)が破壊しても、荷重を維持することができ、靭性および最大耐力以降の変形能力を確保することができる。
【0042】
[金属製面ファスナーの製造装置]
次に、本発明に係る金属製面ファスナーの製造装置の実施の形態について説明する。
【0043】
本実施の形態に係る金属製面ファスナーの製造装置は、上述した金属製面ファスナー100~300を製造する装置である。この装置は、基材10の表面12に対するレーザースキャニング加工により、表面12に微細な凹凸形状の凹凸部18(複数の係合素子14)を形成する手段を有する。この手段としては、例えばレーザー加工機を用いて構成することができる。この装置を用いた金属製面ファスナー100~300の製造方法の具体例については、上述したとおりである。したがって、本実施の形態によれば、凹凸寸法の小さい金属製面ファスナー100~300を容易かつ安価に製造することができる。
【0044】
[金属面の接合方法]
次に、本発明に係る金属面の接合方法の実施の形態について説明する。
【0045】
本実施の形態に係る金属面の接合方法は、上述した金属製面ファスナー100~300のいずれか一つを用いて金属面同士を接合する方法である。
【0046】
上記の実施の形態1の金属製面ファスナー100を用いた接合方法では、金属面同士を一対の面ファスナー16、16で構成する。そして、図1および図3に示すように、面ファスナー16、16同士を圧着して互いの凹凸部18を相互に係合させることにより面接合する。この方法によれば、上記の実施の形態1で説明したように、金属面同士を凹凸部18を介して強固に接合することができる。また、凹凸部18の加工精度が低くても確実に接合することができる。
【0047】
上記の実施の形態2の金属製面ファスナー200を用いた接合方法では、金属面同士を一対の面ファスナー16、16で構成する。そして、図5に示すように、互いの凹凸部18の間に軟金属箔24を挟んだ状態で面ファスナー16、16同士を圧着して互いの凹凸部18を相互に係合させることにより面接合する。この方法によれば、上記の実施の形態2で説明したように、金属面同士を凹凸部18、軟金属箔24を介して強固に接合することができる。また、凹凸部18の加工精度が低くても確実に接合することができる。
【0048】
上記の実施の形態3の金属製面ファスナー300を用いた接合方法では、金属面同士を一対の面ファスナー16、16で構成する。図7に示すように、凹凸部18の表面に保護層26を設けておく。そして、図8に示すように、面ファスナー16、16同士を圧着して互いの凹凸部18を相互に係合させることにより面接合する。この方法によれば、上記の実施の形態3で説明したように、金属面同士を凹凸部18、保護層26を介して強固に接合することができる。また、凹凸部18の加工精度が低くても確実に接合することができる。
【0049】
以上説明したように、本発明に係る金属製面ファスナーによれば、金属製の基材の表面に複数の係合素子を備える一対の面ファスナー同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するように構成した金属製面ファスナーであって、複数の係合素子は、基材の表面に対するレーザー加工により微細な凹凸形状に形成されたものであるので、容易かつ安価に凹凸加工でき、かつ凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーを提供することができる。
【0050】
また、本発明に係る他の金属製面ファスナーによれば、一対の面ファスナーの互いの係合素子の間に挟み込まれ、係合素子よりも軟らかい金属箔を備えるので、凹凸形状の加工精度が低い場合でも、安定して接合することができる。
【0051】
また、本発明に係る他の金属製面ファスナーによれば、係合素子の表面に設けられた保護層を備え、この保護層は、一対の面ファスナーの互いの係合素子を相互に係合させた場合に、係合素子の間の隙間に残って係合素子の間の緩みを吸収するものであるので、凹凸形状の加工精度が低い場合でも、安定して接合することができる。
【0052】
また、本発明に係る金属製面ファスナーの製造方法によれば、上述した金属製面ファスナーを製造する方法であって、基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成するステップを有するので、凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーを容易かつ安価に製造することができる。
【0053】
また、本発明に係る金属製面ファスナーの製造装置によれば、上述した金属製面ファスナーを製造する装置であって、基材の表面に対するレーザー加工により、基材の表面に微細な凹凸形状からなる複数の係合素子を形成する手段を有するので、凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーを容易かつ安価に製造することができる。
【0054】
また、本発明に係る金属面の接合方法によれば、上述した金属製面ファスナーを用いて金属面同士を接合する方法であって、一対の面ファスナーによって構成される金属面同士を、互いの係合素子を相互に係合させることにより面接合するステップを有するので、金属面同士を強固に接合することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明に係る金属製面ファスナー、製造方法、製造装置、金属面の接合方法は、金属同士を機械的に接合するのに有用であり、特に、凹凸加工が容易かつ安価で、かつ凹凸寸法の小さい金属製面ファスナーを実現するのに適している。
【符号の説明】
【0056】
10 基材
12 表面,金属表面
14 係合素子
16 面ファスナー
18 凹凸部
20 凹部
22 凸部
24 軟金属箔(金属箔)
26 保護層
100,200,300 金属製面ファスナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9