IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-操作推定装置、及び操作推定方法 図1
  • 特許-操作推定装置、及び操作推定方法 図2
  • 特許-操作推定装置、及び操作推定方法 図3
  • 特許-操作推定装置、及び操作推定方法 図4
  • 特許-操作推定装置、及び操作推定方法 図5
  • 特許-操作推定装置、及び操作推定方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】操作推定装置、及び操作推定方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20220422BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20220422BHJP
【FI】
E21D9/093 B
E21D9/093 C
E21D9/093 E
G06N20/00 130
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018029146
(22)【出願日】2018-02-21
(65)【公開番号】P2019143387
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】和田 健介
(72)【発明者】
【氏名】野澤 剛二郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 眞
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博一
(72)【発明者】
【氏名】金丸 清人
(72)【発明者】
【氏名】小島 英郷
(72)【発明者】
【氏名】大木 智明
(72)【発明者】
【氏名】中谷 武彦
(72)【発明者】
【氏名】安井 克豊
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021402(JP,A)
【文献】特開平09-158681(JP,A)
【文献】特開2005-182696(JP,A)
【文献】特開平06-307185(JP,A)
【文献】米国特許第05529437(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機に対する操作の実績を示す操作実績データを取得する操作実績データ取得部と、
前記シールド掘削機が掘削した状況を示す状況データを取得する状況データ取得部と、
前記操作実績データと前記状況データとを含む選択対象データを、掘削の開始から終了までのリング毎に、掘削を開始した時刻から所定の条件を満たした時刻までの開始期、及び前記所定の条件を満たした時刻以降から掘削を終了した時刻までの定常期に分割したデータに基づいて、前記選択対象データの特徴量である前記開始期の時間を抽出し、抽出した前記開始期の時間に基づいて前記選択対象データを分類し、前記開始期の時間に基づいて前記開始期のデータから前記シールド掘削機の操作を推定する操作推定モデルに機械学習させる学習データの候補とする学習候補データを選択するデータ選択部
を有する
ことを特徴とする操作推定装置。
【請求項2】
前記状況データ取得部は、前記シールド掘削機が掘削する際の目標値として指示される指示土圧と、前記シールド掘削機が実際に掘削した際に測定された制御土圧との各々を示すデータを取得し、
前記データ選択部は、前記定常期のデータ全体において、前記指示土圧と前記制御土圧との差分が所定の閾値以上となったデータの割合に基づいて、前記定常期のデータから前記学習候補データを選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の操作推定装置。
【請求項3】
前記操作実績データ取得部は、前記シールド掘削機のスクリューコンベアのスクリュー回転速度の設定値を示すデータを取得し、
前記データ選択部は、前記スクリュー回転速度の設定値が変更された頻度、前記スクリュー回転速度の設定値の単位時間あたりの平均値、及び前記スクリュー回転速度の設定値の最大値と最小値との差分のうちの少なくとも一つに基づいて、前記選択対象データから前記学習候補データを選択する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の操作推定装置。
【請求項4】
操作実績データ取得部が、シールド掘削機に対する操作の実績を示す操作実績データを取得する工程と、
状況データ取得部が、前記シールド掘削機が掘削した状況を示す状況データを取得する工程と、
データ選択部が、前記操作実績データと前記状況データとを含む選択対象データを、掘削の開始から終了までのリング毎に、掘削を開始した時刻から所定の条件を満たした時刻までの開始期、及び前記所定の条件を満たした時刻以降から掘削を終了した時刻までの定常期に分割したデータに基づいて、前記選択対象データの特徴量である前記開始期の時間を抽出し、抽出した前記開始期の時間に基づいて前記選択対象データを分類し、前記開始期の時間に基づいて前記開始期のデータから前記シールド掘削機の操作を推定する操作推定モデルに機械学習させる学習データの候補とする学習候補データを選択する工程
を有することを特徴とする操作推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘削機の操作の設定値を推定する操作推定装置、及び操作推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土圧式シールド工法(泥土圧シールド工法)によりトンネルなどを築造している。シールド掘削機が掘削する現場の施工環境(土質、水圧など地山の状態)は、現場の掘削する位置により刻々と変化する。このため、予め計画されている掘進指示と、施工環境に対応して測定される各種測定装置からの測定データとを比較したり、測定データを監視したりしながら、オペレータが手動でシールド掘削機の操作を行う。
すなわち、施工環境の異なる現場の各々に対応して、オペレータがシールド掘削機の制御を適切に行わなければ、掘削されたトンネルの設計に対する精度や安全性が低下する。
【0003】
また、オペレータは、様々な現場においてトンネルの施工を行うことで、施工環境の変化に対応したシールド掘削機の制御の経験を養い、熟練度を向上させている。
熟練したオペレータは、掘削中の現場におけるシールド掘削機の制御を行う際、現在の現場の施工環境に対応した制御を、過去の似たような施工環境における制御の知識を応用して行っている。しかし、施工した現場の数の少ないオペレータの場合、経験したことのない施工環境においては、乏しい経験と基礎的な操作知識では、その施工環境における適切なシールド掘削機の制御を行うことができない。
【0004】
このため、オペレータの各々のシールド掘削機の制御の熟練度によって、掘削されるトンネルの設計に対する精度や安全性がばらついてしまう。
この問題を解決するため、掘削の際におけるシールド掘削機のカッターの回転状態及び推進ジャッキの推進状態を示す計測データにより、シールド掘削機を自動運転させる構成がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-71189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1においては、熟練したオペレータによるシールド掘削機の操作を十分に再現することができない。すなわち、測定したデータと設定値とを比較することにより制御が行われるため、熟練したオペレータの経験に基づいた制御と異なり、時々刻々と変化する現場の施工環境に対応した制御が適切に行われているとは限らず、掘削されたトンネルの設計に対する精度や安全性が向上するとは言えない。
【0007】
また、人間の感情解析や装置の操作などを、予め教師データにより学習させた機械学習モデルを用いて、教師データと同様の測定値を入力して、解析結果や操作の設定値を推定することが一般的に行われている。
そのため、熟練したオペレータの操作を教師データとして機械学習によりシールド掘削機の操作を学習させた機械学習モデル(以下、学習モデルという)を用いることで、より熟練したオペレータに近い操作を行う設定値を推定することが考えられる。
【0008】
上述した学習モデルにおいては、シールド掘削機から得られる測定値を含む複数のデータを元に、シールド掘削機を操作するために次に与える操作量としての設定値を求める構成となる。
【0009】
しかしながら、熟練したオペレータの操作であっても、常に最適な操作を示しているとは限らず、測定値を含む複数のデータには、操作の結果、測定値が掘削指示書で指示された値の付近で安定するような「良いデータ」がある一方、測定値が指示された値から乖離するような「悪いデータ」も含まれている。このような「悪いデータ」を教師データとして学習モデルに学習させてしまうと、学習モデルが適切な操作を推定しないことがあるため、掘削されたトンネルの設計に対する精度や安全性が低下してしまう懸念があった。
また、熟練したオペレータは、測定値が指示された値から乖離しても、測定値の変化量(ブレ、振れ幅ともいう)を小さく制御することを優先する場合もあり、測定値を指示された値に近づけることだけが「良いデータ」の条件ではない。
さらに、掘削が進むにつれシールド掘削機から得られる測定値が膨大となることから、測定値の時系列変化を可視化する等して、目視により測定値を「良いデータ」と「悪いデータ」とを判定するのは現実的ではない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シールド掘削機から得られるデータの中から機械学習に用いる学習データとして適切なデータを選択することができる操作推定装置、及び操作推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために本発明の一実施形態の操作推定装置は、シールド掘削機に対する操作の実績を示す操作実績データを取得する操作実績データ取得部と、前記シールド掘削機が掘削した状況を示す状況データを取得する状況データ取得部と、前記操作実績データと前記状況データとを含む選択対象データを、掘削の開始から終了までのリング毎に、掘削を開始した時刻から所定の条件を満たした時刻までの開始期、及び前記所定の条件を満たした時刻以降から掘削を終了した時刻までの定常期に分割したデータに基づいて、前記選択対象データの特徴量である前記開始期の時間を抽出し、抽出した前記開始期の時間に基づいて前記選択対象データを分類し、前記開始期の時間に基づいて前記開始期のデータから前記シールド掘削機の操作を推定する操作推定モデルに機械学習させる学習データの候補とする学習候補データを選択するデータ選択部を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一実施形態の操作推定装置では、前記状況データ取得部は、前記シールド掘削機が掘削する際の目標値として指示される指示土圧と、前記シールド掘削機が実際に掘削した際に測定された制御土圧との各々を示すデータを取得し、前記データ選択部は、前記定常期のデータ全体において、前記指示土圧と前記制御土圧との差分が所定の閾値以上となったデータの割合に基づいて、前記定常期のデータから前記学習候補データを選択することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一実施形態の操作推定装置では、前記操作実績データ取得部は、前記シールド掘削機のスクリューコンベアのスクリュー回転速度の設定値を示すデータを取得し、前記データ選択部は、前記スクリュー回転速度の設定値が変更された頻度、前記スクリュー回転速度の設定値の単位時間あたりの平均値、及び前記スクリュー回転速度の設定値の最大値と最小値との差分のうちの少なくとも一つに基づいて、前記選択対象データから前記学習候補データを選択することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一実施形態の操作推定方法は、操作実績データ取得部が、シールド掘削機に対する操作の実績を示す操作実績データを取得する工程と、状況データ取得部が、前記シールド掘削機が掘削した状況を示す状況データを取得する工程と、データ選択部が、前記操作実績データと前記状況データとを含む選択対象データを、掘削の開始から終了までのリング毎に、掘削を開始した時刻から所定の条件を満たした時刻までの開始期、及び前記所定の条件を満たした時刻以降から掘削を終了した時刻までの定常期に分割したデータに基づいて、前記選択対象データの特徴量である前記開始期の時間を抽出し、抽出した前記開始期の時間に基づいて前記選択対象データを分類し、前記開始期の時間に基づいて前記開始期のデータから前記シールド掘削機の操作を推定する操作推定モデルに機械学習させる学習データの候補とする学習候補データを選択する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、この発明によれば、シールド掘削機から得られるデータの中から機械学習に用いる学習データとして適切なデータを選択することができる。これにより、機械学習により生成した学習モデルに、シールド掘削機の操作の設定値について、より適切な推定を行わせることが可能となり、操作支援や操作の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態の操作推定装置30に適用されるシールド掘削機10の構成例を示す概略構成図である。
図2】実施形態の操作推定装置30の構成例を示すブロック図である。
図3】実施形態の操作状況データ記憶部35が記憶する開始期のデータの構成例を示す図である。
図4】実施形態の操作状況データ記憶部35が記憶する定常期のデータの構成例を示す図である。
図5】実施形態の操作状況データ記憶部37に記憶されるリング毎のデータの選択結果の例を説明する図である。
図6】実施形態の操作推定装置30の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態の、操作推定装置を、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の操作推定装置30が適用されるシールド掘削機10の構成例を示す概略構成図である。図1(a)は、シールド掘削機10を側面から見た概念図、図1(b)は、シールド掘削機10を推進させるシールドジャッキ20を正面からみた概念図をそれぞれ示している。
図1(a)に示すように、シールド掘削機10は、円筒形のスキンプレート11の後部において、エレクタ(不図示)によりセグメントを組み立てて、一次覆工Sを施工しつつ、地山を掘削するための機構である。シールド掘削機10においては、カッタービット15を備えた環状かつ面板型のカッター16の後部にチャンバー12が設けられている。チャンバー12内の側壁には複数の土圧計Dが設置される。土圧計Dは、チャンバー12における泥土の圧力(制御土圧)を測定する。
チャンバー12には作泥土材注入管13から作泥土材14が注入される。チャンバー12内に堆積された掘削土は、練混ぜ翼(不図示)により、作泥土材14と撹拌することで練混ぜられ、泥土に変換される。
スクリューコンベア17は、チャンバー12の泥土を、排土ゲートGを介してコンベア18に排土する。そして、コンベア18は、スクリューコンベア17より排出された泥土を、コンベア19を介してトンネルの外部に搬出する。架台Mは、スクリューコンベア17と、コンベア18、及び19とを支持している。
【0021】
また、図1(b)に示すように、シールドジャッキ20は、スキンプレート11の内周を囲むようにして複数設けられ、スキンプレート11とセグメントとの間に配置される。シールドジャッキ20が油圧操作により推進(伸長)されることでスキンプレート11の面が押されシールド掘削機10が推進する。
【0022】
図2は、実施形態の操作推定装置30の構成例を示すブロック図である。
操作推定装置30は、操作実績データ取得部31と、状況データ取得部32と、データ選択部33と、操作推定データ出力部34と、学習済みモデル記憶部35と、操作推定部36と、操作状況データ記憶部37と、学習データ生成部38とを備える。
【0023】
操作実績データ取得部31は、シールド掘削機10に対する操作の設定値の実績を示す操作実績データを取得する。
ここで、シールド掘削機10に対して行う操作には、例えば、土圧制御のために行う操作がある。土圧制御は、チャンバー12における泥土の圧力(制御土圧)を、掘削面の土圧・水圧とバランスさせることにより地山を安定させるための制御である。
【0024】
土圧制御のために行う操作には、例えば、チャンバー12内の掘削土に添加する作泥土材14の注入量の操作、チャンバー12内の泥土を排出するスクリューコンベア17のスクリューの回転速度(スクリュー回転速度)の操作、およびスクリューコンベア17の排土ゲートGの開閉度の操作等がある。つまり、土圧制御のために行う操作の設定値とは、例えば、チャンバー12内の掘削土に添加する作泥土材14の注入量、スクリュー回転速度、およびスクリューコンベア17の排土ゲートGの開閉度の操作等である。
【0025】
操作実績データ取得部31は、上述した土圧制御のようなシールド掘削機10に対する操作の設定値の実績を示す操作実績データを取得する。操作実績データ取得部31は、取得した操作実績データを操作状況データ記憶部37に記憶させる。
【0026】
状況データ取得部32は、シールド掘削機10が掘削した状況を示す状況データを取得する。状況データ取得部32は、取得した状況データを操作状況データ記憶部37に記憶させる。
ここで、シールド掘削機10が掘削した状況には、例えば、土圧に関する状況がある。
土圧に関する状況には、チャンバー12における泥土の圧力(制御土圧)の状況、および掘削面の土圧・水圧の状況がある。つまり、土圧に関する状況データは、土圧計Dにより計測されたチャンバー12における泥土の圧力(制御土圧)、掘削面に垂直な方向にシールド掘削機10に対して作用する圧力(指示土圧)を示すデータである。指示土圧は、掘削指示書により予め提示され、例えば、掘削の対象となる地山の深度や地質に基づいて導出される土圧に、地盤の沈下等を考慮して決定される。
【0027】
データ選択部33は、操作実績データと状況データとを含む選択対象データの時系列変化に基づく特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて、選択対象データを分類(クラスタリング)し、操作推定モデルの機械学習に用いる学習データの候補とする学習候補データを選択する。
【0028】
ここで、操作実績データは、操作実績データ取得部31により取得されたシールド掘削機10に対する操作の設定値を示すデータであり、例えば、スクリューコンベア17のスクリュー回転速度の操作の設定値である。状況データは、状況データ取得部32により取得されたシールド掘削機10が掘削した状況を示すデータであり、例えば、データであり、指示土圧を示すデータや、指示土圧を示すデータである。
【0029】
また、データの時系列変化に基づく特徴量とは、データの時系列変化に対し統計的な処理を行うことにより得られるデータの統計量であり、例えば、データの積分値や微分値(変化量)、平均値、ばらつきを示す指標、頻度などである。ばらつきを示す指標は、例えば、ある区間におけるデータの最大値と最小値の差分を示す最大最小差、分散、標準偏差、変動係数、二乗平均平方根等がある。二乗平均平方根は、測定値における目標値との誤差を二乗した値を単純平均した平均値の平方根を示す値である。
また、データ選択部33は、選択対象データを分類する手法として、例えば、K-means法を用いてよい。
【0030】
また、操作推定モデルは、シールド掘削機10に対する操作の設定値を推定するモデルであり、学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルである。操作推定モデルの作成に用いる学習データは、データ選択部33により分類された学習候補データの中から、シールド掘削機10が掘削する状況、例えば、掘削するトンネルの深さ、トンネルの地質などに応じて選定されるようにしてよい。
【0031】
例えば、データ選択部33は、操作実績データにおける制御土圧を示すデータの特徴量として、掘削時間全体に対する土圧誤差が所定の閾値以上であった時間の割合(制御土圧外れ時間率)を抽出し、抽出した制御土圧外れ時間率に基づいて、選択対象データを分類する。土圧誤差が所定の閾値以上である場合、指示土圧と制御土圧とが乖離しており、指示通りに土圧が制御されていないことを示している。操作実績データは、制御土圧外れ時間率に基づいて、選択対象データを分類することで、指示通りに土圧が制御されているか否かに応じて選択対象データを分類することができ、指示通りに土圧が制御されていない時間の割合が多い区分のデータを学習候補データから排除したり、指示通りに土圧が制御されている時間の割合が多い区分のデータを学習候補データとして選択したりすることが可能となる。
【0032】
データ選択部33は、選択対象データを、掘削の開始から終了までのリング毎に、掘削を開始した時刻から所定の条件を満たした時刻までの開始期、及び前記所定の条件を満たした時刻以降から掘削を終了した時刻までの定常期に分割するようにしてよい。
ここで、開始期は、掘削が開始されてから掘削が安定するまでの期間をいう。定常期は掘削が安定した後から掘削が終了するまでの期間をいう。
開始期の終了条件である所定の条件とは、例えば、指示土圧と制御土圧との差(土圧誤差)が所定の閾値以下となる条件である。この場合、開始期は、掘削を開始した時刻から土圧誤差が所定の閾値以下となる時刻までの間となる。
多くの場合、掘削を開始した直後は土圧誤差が大きい。このため、開始期には、掘削の速度や方向より地山を安定させることを優先し、土圧制御により土圧誤差を小さくすることを目的とした操作が行われる。
これに対し、掘削が安定して、定常期に入った場合には、地山を引き続き安定させつつ、掘削の速度を上げたり、掘削の方向を指示通りに制御したりする操作が行われる。
【0033】
データ選択部33は、選択対象データを開始期および定常期各々のデータに分割することにより、開始期や定常期に特有の操作についての特徴量、例えば、開始期において優先される土圧制御や、定常期において優先される方向制御についての特徴量を抽出することができる。
【0034】
また、データ選択部33は、選択対象データについて、リング毎のデータの特徴量を抽出してもよい。
一般に、シールド掘削機10では、1リング分の掘削を行った後に掘削が一次停止されてセグメントが組み立てられる。リング毎に掘削と組み立てとが繰り返される。データ選択部33が、選択対象データについてリング毎の特徴量を抽出することで、リング毎の掘削の良し悪しを特徴量として抽出することが可能となる。また、掘削指示書では、リング毎に掘削を開始する位置と終了する位置とが指示されため、リング毎の特徴量を抽出することで、指示された値と実際の状況との差分を特徴量として抽出することが可能となる。
【0035】
例えば、データ選択部33は、状況データにおけるスクリュー回転速度を示すデータの特徴量として、スクリュー回転速度の安定度合を示す指標を抽出する。スクリュー回転速度の安定度合を示す指標とは、例えば、スクリュー回転速度の最大最小差、スクリュー回転速度の設定が変更された頻度(設定頻度)、スクリュー回転速度のばらつき(例えば、標準偏差)である。
データ選択部33は、スクリュー回転速度の安定度合を示す指標に基づいて、選択対象データを分類する。この場合、データ選択部33は、スクリュー回転速度が安定しなかったデータを学習候補データから排除したり、スクリュー回転速度が安定しなかったデータを学習候補データとして選択したりすることが可能となる。
【0036】
操作推定データ出力部34は、操作推定部36により推定された操作の設定値を示す操作推定データを出力する。操作推定データ出力部34は、例えば、シールド掘削機10の操作室(不図示)の操作画面に推定結果を出力することにより、推定される操作の設定値をオペレータに認識させる。
【0037】
学習済みモデル記憶部35は、操作推定モデルを記憶する。ここで、操作推定モデルは、シールド掘削機10における掘削の状況に関連するデータを入力データとし、当該入力データにシールド掘削機10における操作の設定値が対応づけられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルである。
ここで、学習データは、データ選択部33により学習候補データとして選択されたデータに基づいて作成されたデータである。
あるいは、学習データは、一般的なシールドマシンにおける指示土圧、及びスクリュー回転速度等のデータの時系列変化に、スクリュー回転速度の設定値が対応づけられたデータであってもよい。この場合、操作推定モデルは、データ選択部33により学習候補データとして選択されたデータに基づいて作成された学習データを用いて追加学習されたモデルであってよい。
なお、推定モデルを作成する機械学習の技法としては、決定木学習、ニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、サポートベクタマシンなどの一般的に用いられている技法のいずれが用いられてもよい。
【0038】
操作推定部36は、学習済みモデル記憶部35に記憶された操作推定モデルを用いて、シールド掘削機10の操作の設定値を推定する。操作推定部36は、推定したシールド掘削機10の操作の設定値を、操作推定データとして操作状況データ記憶部37に記憶させる。
操作推定部36は、例えば、制御土圧とスクリュー回転速度の設定値の実績を操作推定モデルに入力することにより、シールド掘削機10におけるスクリュー回転速度の設定値を推定する。
【0039】
操作状況データ記憶部37は、操作実績データ取得部31により取得された操作実績データ、状況データ取得部32により取得された状況データ、データ選択部33により選択された結果をそれぞれ記憶する。
【0040】
学習データ生成部38は、データ選択部33により選択された学習候補データから学習データを生成する。学習データ生成部38により生成される学習データは、操作推定モデルに機械学習させる学習データである。
【0041】
また、学習データ生成部38は、生成した学習データを用いて操作推定モデルを作成してもよい。この場合、学習データ生成部38は、生成した学習データを用いて操作推定モデルに機械学習を実行させる。これにより、操作推定モデルは、シールド掘削機10が実際に掘削する地山の状況と、その状況に対応する操作の設定値との対応付を学習する。学習データ生成部38は、生成した操作推定モデルを、学習済みモデル記憶部35に記憶させる。
【0042】
図3は、実施形態の操作状況データ記憶部37が記憶する開始期のデータの特徴量の例を示す図である。
図3に示すように、例えば、開始期のデータの特徴量には、データの特徴量とリング番号との項目が記憶される。
開始期のデータの特徴量として、スクリュー回転速度のばらつきとしてのスクリュー回転速度の最大最小差、標準偏差、平均、変動係数が記憶される。また、開始期のデータの特徴量として、スクリュー回転速度の設定頻度、スクリュー回転速度の設定量の平均値、がそれぞれ記憶される。
また、開始期のデータの特徴量として、開始期の時間が記憶される。また、開始期のデータの特徴量として、制御土圧の平均、制御土圧誤差のばらつきとしての制御土圧誤差の最大最小差、標準偏差、平均、変動係数がそれぞれ記憶される。また、各データの特徴量は、リング番号ごとに記憶される。
【0043】
図4は、実施形態の操作状況データ記憶部37に記憶される定常期のデータの特徴量の例を示す図である。
図4に示すように、例えば、定常期のデータの特徴量には、データの特徴量とリング番号との項目が記憶される。
定常期のデータの特徴量として、スクリュー回転速度のばらつきとしてのスクリュー回転速度の最大最小差、標準偏差、平均、変動係数が記憶される。また、定常期のデータの特徴量として、スクリュー回転速度の設定量の平均値がそれぞれ記憶される。
また、定常期のデータの特徴量として、制御土圧の平均、及び制御土圧外れ時間率がそれぞれ記憶される。また、制御土圧誤差のばらつきとしての制御土圧誤差の最大最小差、標準偏差、平均、変動係数、二乗平均誤差がそれぞれ記憶される。また、各データの特徴量は、リング番号ごとに記憶される。
【0044】
図5は、実施形態の操作状況データ記憶部37に記憶されるリング毎のデータの選択結果の例を説明する図である。図5の横軸はリング番号、縦軸は分類番号を示す。
図5に示すように、例えば、データはリング番号ごとに分類される。また、データは、例えば、分類番号1~4の4つに分類される。
図5の例では、分類番号1は、例えば、次の条件を満たすデータである。(条件1)定常期におけるスクリュー回転速度の設定値のばらつき(標準偏差)が大きい、(条件2)定常期におけるスクリュー回転速度の設定頻度が多い、(条件3)定常期におけるスクリュー回転速度の一回の操作における設定量の平均が大きい、(条件4)定常期における制御土圧外れ時間率が大きい、(条件5)制御土圧誤差のばらつき(標準偏差)が大きい。
例えば、(条件1)から(条件3)を満たすデータはスクリュー回転速度が適切に設定されず、大きく設定しすぎたり、小さく設定しすぎたりして、何度も設定し直すために設定頻度が多く、尚且つきく設定しすぎたり、小さく設定しすぎたりして設定量の平均が大きくなってしまったデータである。また、(条件4)及び(条件5)を満たすデータは制御土圧と指示土圧との差分が所定の閾値よりも大きくなる時間が多く、制御土圧と指示土圧との差分のばらつきも大きいデータである。
このような分類番号1として選択されるデータは、スクリュー回転速度の設定が適切に制御されていないために、土圧が不安定となり地山を安定させて掘削することができていないデータである。
【0045】
分類番号2は、例えば、次の条件を満たすデータである。(条件1)リング長が長い、(条件2)開始期に要した時間が短い、(条件3)定常期の制御土圧外れ時間率が小さい、(条件4)定常期の制御土圧誤差のばらつき(標準偏差)が小さい、(条件5)定常期の制御土圧誤差のばらつき(二乗平均平方根)が小さい。
例えば、(条件1)を満たすデータは、リング長が長い、つまり1リング分の掘削する距離が長い場合のデータである。(条件2)を満たすデータは、掘削を開始してから早期に制御土圧が安定したデータである。(条件3)から(条件5)を満たすデータは、制御土圧と指示土圧との差分が閾値よりも大きくなる時間が少なく、制御土圧と指示土圧との差分のばらつきも抑えられたデータである。
このような分類番号2として選択されるデータは、特にリング長が長く場合に、適切な操作がなされたデータである。
【0046】
分類番号3は、例えば、次の条件を満たすデータである。(条件1)正規化掘削時間が短い、(条件2)定常期のスクリュー回転速度の設定値の最大最小差が小さい、(条件3)定常期の制御土圧外れ時間率が小さい。
例えば、(条件1)を満たすデータは、単位時間当たりに掘削した距離が長い、つまり掘削速度が速い場合のデータである。(条件2)を満たすデータは、スクリュー回転速度の設定値の幅が小さく、回転速度が安定したデータである。(条件3)を満たすデータは、制御土圧と指示土圧との差分が閾値よりも大きくなる時間が少ないデータである。
このような分類番号3として選択されるデータは、特に掘削する速度が速い場合に、適切な操作がなされたデータである。
【0047】
分類番号4は、例えば、次の条件を満たすデータである。(条件1)開始期に要した時間が短い、(条件2)定常期の制御土圧外れ時間率が小さい、(条件3)定常期の制御土圧誤差のばらつき(標準偏差)が小さい、(条件4)定常期の制御土圧誤差のばらつき(二乗平均平方根)が小さい。
例えば、(条件1)を満たすデータは、掘削を開始してから早期に制御土圧が安定したデータである。(条件2)から(条件4)を満たすデータは、制御土圧と指示土圧との差分が閾値よりも大きくなる時間が少なく、制御土圧と指示土圧との差分のばらつきも抑えられたデータである。
このような分類番号4として選択されるデータは、早期に制御土圧が安定しその後も土圧の制御がについて適切な操作がなされたデータである。
【0048】
図6は、実施形態の操作推定装置30の動作例を示すフローチャートである。
まず、操作推定装置30は、リング毎の選択対象データを取得する(ステップS10)。操作推定装置30は、リング毎に、操作実績データ取得部31により操作実績データを所定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で取得し、状況データ取得部32により状況データを所定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で取得することにより選択対象データを取得する。
次に、データ選択部33は、取得した選択対象データを開始期のデータと定常期のデータとに分ける(ステップS11)。
次に、データ選択部33は、特徴量を抽出する(ステップS12)。データ選択部33は、リング毎の開始期、及び定常期の期ごとにデータの時系列変化に統計処理を行うことにより特徴量を抽出する。
次に、データ選択部33は、抽出した特徴量に基づいて、選択対象データを分類する(ステップS13)。データ選択部33は、開始期の時間や、定常期の制御土圧外れ時間の値などの特徴量に基づいて分類する。
そして、データ選択部33は、分類した選択対象データの中から学習候補データを選択する(ステップS14)。データ選択部33は、例えば、開始期の時間が短いデータを学習候補データとして選択する。データ選択部33は、例えば、定常期の制御土圧外れ時間の割合が小さいデータを学習候補データとして選択する。
【0049】
以上説明したように、実施形態の操作推定装置30は、シールド掘削機10に対する操作の実績を示す操作実績データを取得する操作実績データ取得部31と、シールド掘削機10が掘削した状況を示す状況データを取得する状況データ取得部32と、状況データ、操作実績データの各々を取得された時刻と対応づけて記憶する操作状況データ記憶部37と、操作状況データ記憶部37に記憶されたデータから各データの特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて各データを分類するデータ選択部33と、データ選択部33により分類されたデータに基づいて生成された学習データを用いた機械学習が実行されることにより作成された操作推定モデルを用いてシールド掘削機10に対して行う操作の設定値を推定する操作推定部36を有する。これにより、実施形態の操作推定装置30は、操作実績データ取得部31、及び状況データ取得部32により取得されたシールド掘削機10から得られるデータに基づいて、データ選択部33によりデータの特徴量から学習データとして適切なデータを抽出することが可能となる。
【0050】
また、実施形態の操作推定装置30では、操作状況データ記憶部37は、状況データ、操作実績データの各々を取得されたリング番号と対応づけて記憶し、データ選択部33は、操作状況データ記憶部37に記憶されたデータを、リング番号毎に掘削を開始した時刻から所定の条件を満たした時刻までの開始期のデータと、所定の条件を満たした時刻以降から掘削を終了した時刻までの定常期のデータとに分け、開始期及び定常期の各々のデータの特徴量を抽出することにより、開始期及び定常期の各々の操作が適切に行われたデータを学習データとして適切なデータとして抽出することが可能となる。
【0051】
また、実施形態の操作推定装置30では、データ選択部33は、開始期として要した時間に基づいて、開始期のデータを分類することで、掘削を開始してから早期に土圧が安定した場合のデータを、より適切に操作された場合のデータとして抽出することができ、より適切に操作された場合のデータを用いて機械学習のための学習データの作成が可能になる。
【0052】
また、実施形態の操作推定装置30では、状況データ取得部32は、シールド掘削機10が掘削する際の目標値として指示される指示土圧と、シールド掘削機が実際に掘削した際に測定された制御土圧との各々を示すデータを取得し、データ選択部33は、定常期として要した時間に対する前記指示土圧と前記制御土圧との差分(制御土圧誤差)が所定の閾値以上となった時間の割合(制御土圧外れ時間率)に基づいて、定常期のデータを分類することで、定常期において制御土圧と指示土圧との差が乖離した時間が少ない場合のデータを、より適切に操作された場合のデータとして抽出することができ、より適切に操作された場合のデータを用いて機械学習のための学習データの作成が可能になる。
【0053】
また、実施形態の操作推定装置30では、操作実績データ取得部31は、シールド掘削機10のスクリューコンベア17のスクリュー回転速度の設定値を示すデータを取得し、データ選択部33は、スクリュー回転速度が設定される設定頻度、一回の設定で設定されたスクリューの回転速度の設定量の平均、及びスクリュー回転速度の設定量の最大値と最小値との差分(最大最小差)のうちの少なくとも一つに基づいて、データを分類することで、スクリュー回転速度の設定頻度、設定量の平均、設定幅のうち少なくともいずれかに基づいて、より適切に操作されたデータを抽出することができ、より適切に操作された場合のデータを用いて機械学習のための学習データの作成が可能になる。
【0054】
上述した実施形態における操作推定装置30が行う処理の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0055】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10…シールド掘削機、20…シールドジャッキ、30…操作推定装置、31…操作実績データ取得部、32…状況データ取得部、33…データ選択部、34…操作推定データ出力部、35…学習済みモデル記憶部、36…操作推定部、37…操作状況データ記憶部、38…学習データ生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6