(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20220422BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220422BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220422BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20220422BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20220422BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01J37/02 101C
B01J37/08
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
F01N3/28 301C
B01D53/94 222
(21)【出願番号】P 2018043270
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】松枝 悟司
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073527(WO,A1)
【文献】特開2017-177014(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052746(WO,A1)
【文献】特開2005-281817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/10
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の担体粒子、第2の担体粒子、並びに前記第1の担体粒子及び第2の担体粒子に担持されている触媒貴金属の粒子を有する排ガス浄化触媒であって、
前記第1の担体粒子が、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有し、
セリア以外の希土類酸化物を含有していても含有していなくてもよく、
前記第2の担体粒子が、セリア以外の希土類酸化物を含有し、
前記第2の担体粒子の前記セリア以外の希土類酸化物の含有率が、前記第1の担体粒子の前記セリア以外の希土類酸化物の含有率よりも高く、
前記第2の担体粒子が、長径1.5μm以上6.0μm以下、及び短径0.1μm以上2.0μm以下のサイズを有し、かつ、長径/短径で表されるアスペクト比が
3.0以上の棒状又は針状の粒子である、
排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記第2の担体粒子のアスペクト比が
3.0以上25.0以下である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記セリア以外の希土類酸化物が、ネオジム酸化物を含む、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記触媒貴金属が、白金、パラジウム、及びロジウムから選択される1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
水素を還元剤として用いた昇温還元法(H
2-TRP)で得られたTRPプロファイルにおいて、350℃以上750℃以下の領域に水素消費のピークを示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
基材と、基材上の触媒コート層とを含み、
前記触媒コート層が、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
触媒貴金属の前駆体、第4級アンモニウム塩、及び多価有機カルボン酸を含有する水溶液又は水系分散体を調製すること、
シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物、並びにセリア以外の希土類酸化物を含む原料担体と、前記水系分散体とを接触させて、前記原料担体から少なくともセリア以外の希土類酸化物を、抽出し、そして析出させ、これにより、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有する第1の担体粒子と、セリア以外の希土類酸化物を含有する第2の担体粒子とを形成すること、並びに
前記第1の担体粒子及び前記第2の担体粒子を焼成すること
を含
み、
前記第1の担体粒子は、セリア以外の希土類酸化物を含有していても含有していなくてもよい、
排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項8】
前記第4級アンモニウム塩が、下記式(1):
N
+R
4・A
- (1)
{式(1)中、Rは炭素数1~6の有機基であり、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよく、A
-は1価のアニオンである。}
で表される塩である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第4級アンモニウム塩が、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、コリンクロリド、アセチルコリンクロリド、クロロコリンクロリド、トリメチルアセトヒドラジドアンモニウムクロリド、及びビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムクロリドから選択される1種以上である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第4級アンモニウム塩の使用量が、前記セリア以外の希土類酸化物に含まれる希土類原子1モルに対して、0.5モル以上2.0モル以下である、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記多価有機カルボン酸が2価の飽和脂肪族カルボン酸である、請求項7~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記2価の飽和脂肪族カルボン酸が、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸から選択される1種以上である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記多価有機カルボン酸の使用量が、前記セリア以外の希土類酸化物に含まれる希土類原子1モルに対して、0.2モル以上2.0モル以下である、請求項7~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等を含む。したがってこれらの排ガスは、CO及びHCを酸化し、かつNOxを還元する排ガス浄化触媒によって浄化したうえで、大気中に放出されている。排ガス浄化触媒の代表的なものとしては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属を、多孔質の金属酸化物担体に担持させた三元触媒が知られている。
【0003】
この金属酸化物担体は、様々な材料で作ることができるが、従来は高表面積を得るために、例えばアルミナ(Al2O3)を使用することが一般的であった。しかしながら近年では、担体の化学的性質を利用して排ガスの浄化を促進するために、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)等の様々な他の材料を、アルミナと組み合わせて又は組み合わせないで、使用することが提案されている。例えば、担体としてセリアジルコニア固溶体を用いることが提案されている。
【0004】
セリアジルコニア固溶体に関して、例えば特許文献1には、セリアジルコニア固溶体にアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類からなる群より選択される元素を加えることによって、セリアジルコニア固溶体の耐熱性を改良できることが開示されている。また特許文献2では、希土類添加ジルコニア担体粒子にロジウムを担持させることによって、良好な排ガス浄化性能が得られることを開示している。
【0005】
特許文献3及び4は、セリアジルコニア固溶体粒子表面に希土類富化領域を与えた担体粒子を開示している。特許文献3及び4に記載の発明では、希土類酸化物とロジウムとの親和性に着目し、希土類富化領域において、粒子表面上のロジウムの移動及びシンタリングを抑制し、かつロジウムの酸化を防止することによって、ロジウムの触媒活性を高い状態に維持している。
【0006】
更に、特許文献5には、
第1の担体粒子、第2の担体粒子、並びに第1及び第2の担体粒子に担持されている触媒貴金属粒子を有する排ガス浄化用触媒であって、
第1の担体粒子が、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物と、セリアではない希土類酸化物とを含有し、
第2の担体粒子が、セリアではない希土類酸化物を含有し、そしてシリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有してもよく
第1の担体粒子の無機酸化物の含有量が、第2の担体粒子の無機酸化物の含有量よりも高く、かつ
第2の担体粒子の希土類酸化物の含有量が、第1の担体粒子の希土類酸化物の含有量よりも高い、排ガス浄化用触媒が記載されており、この排ガス浄化用触媒は、従来の排ガス浄化用触媒よりも貴金属の触媒活性を高い状態に維持できると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-275919号公報
【文献】特表2002-518171号公報
【文献】特開2008-018323号公報
【文献】特開2008-104928号公報
【文献】国際公開第2017/073527号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い排ガス浄化能、特に、高度のNOx還元浄化性能を発揮できる排ガス浄化触媒、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施態様としては、以下の態様を挙げることができる:
【0010】
《態様1》第1の担体粒子、第2の担体粒子、並びに上記第1の担体粒子及び第2の担体粒子に担持されている触媒貴金属の粒子を有する排ガス浄化触媒であって、
上記第1の担体粒子が、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有し、
上記第2の担体粒子が、セリア以外の希土類酸化物を含有し、
上記第2の担体粒子の上記セリア以外の希土類酸化物の含有率が、上記第1の担体粒子の上記セリア以外の希土類酸化物の含有率よりも高く、
上記第2の担体粒子が、長径1.5μm以上6.0μm以下、及び短径0.1μm以上2.0μm以下のサイズを有し、かつ、長径/短径で表されるアスペクト比が2.0以上の棒状又は針状の粒子である、
排ガス浄化触媒。
《態様2》上記第2の担体粒子のアスペクト比が2.2以上25.0以下である、《態様1》に記載の排ガス浄化触媒。
《態様3》上記セリア以外の希土類酸化物が、ネオジム酸化物を含む、《態様1》又は《態様2》に記載の排ガス浄化触媒。
《態様4》上記触媒貴金属が、白金、パラジウム、及びロジウムから選択される1種以上である、《態様1》~《態様3》のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
《態様5》水素を還元剤として用いた昇温還元法(H2-TRP)で得られたTRPプロファイルにおいて、350℃以上750℃以下の領域に水素消費のピークを示す、《態様1》~《態様4》のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
《態様6》基材と、基材上の触媒コート層とを含み、
上記触媒コート層が、《態様1》~《態様5》のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
《態様7》触媒貴金属の前駆体、第4級アンモニウム塩、及び多価有機カルボン酸を含有する水溶液又は水系分散体を調製すること、
シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物、並びにセリア以外の希土類酸化物を含む原料担体と、上記水溶液又は水系分散体とを接触させて、上記原料担体から少なくともセリア以外の希土類酸化物を、抽出し、そして析出させ、これにより、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有する第1の担体粒子と、セリア以外の希土類酸化物を含有する第2の担体粒子とを形成すること、並びに
上記第1の担体粒子及び上記第2の担体粒子を焼成すること
を含む、排ガス浄化触媒の製造方法。
《態様8》上記第4級アンモニウム塩が、下記式(1):
N+R4・A- (1)
{式(1)中、Rは炭素数1~6の有機基であり、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよく、A-は1価のアニオンである。}
で表される塩である、《態様7》に記載の製造方法。
《態様9》上記第4級アンモニウム塩が、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、コリンクロリド、アセチルコリンクロリド、クロロコリンクロリド、トリメチルアセトヒドラジドアンモニウムクロリド、及びビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムクロリドから選択される1種以上である、《態様8》に記載の製造方法。
《態様10》上記第4級アンモニウム塩の使用量が、上記セリア以外の希土類酸化物に含まれる希土類原子1モルに対して、0.5モル以上2.0モル以下である、《態様7》~《態様9》のいずれか一項に記載の製造方法。
《態様11》上記多価有機カルボン酸が2価の飽和脂肪族カルボン酸である、《態様7》~《態様10》のいずれか一項に記載の製造方法。
《態様12》上記2価の飽和脂肪族カルボン酸が、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸から選択される1種以上である、《態様11》に記載の製造方法。
《態様13》上記多価有機カルボン酸の使用量が、上記セリア以外の希土類酸化物に含まれる希土類原子1モルに対して、0.2モル以上2.0モル以下である、《態様7》~《態様12》のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い排ガス浄化能、特に、高度のNOx還元浄化性能を発揮できる排ガス浄化触媒、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)は、従来の排ガス浄化触媒の概念図であり、
図1(b)は、本発明の排ガス浄化触媒の概念図である。
【
図2】
図2は、実施例1~3及び比較例1で得られた排ガス浄化触媒について、昇温還元法(H
2-TRP)により得られたTRPプロファイルである。
【
図3】
図3は、(a)実施例1、(b)実施例2、(c)実施例3、(d)比較例1、(e)比較例2、及び(f)比較例3の排ガス浄化触媒についてそれぞれ得られた、電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)像である。
【
図4】
図4は、実施例1及び比較例1における水素生成量の評価で得られた、排ガス中の水素濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《排ガス浄化触媒》
本発明の排ガス浄化触媒は、第1の担体粒子、第2の担体粒子、並びに第1の担体粒子及び第2の担体粒子に担持されている触媒貴金属の粒子を有する。第1の担体粒子は、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有し、第2の担体粒子は、セリア以外の希土類酸化物を含有する。第2の担体粒子におけるセリア以外の希土類酸化物の含有率は、第1の担粒子におけるセリア以外の希土類酸化物の含有率よりも高い。第2の担体粒子は、長径1.5μm以上6.0μm以下、及び短径0.1μm以上2.0μm以下のサイズを有し、かつ、長径/短径で表されるアスペクト比が2.0以上の棒状又は針状の粒子である。
【0014】
特許文献3及び4で示される従来技術においては、金属酸化物担体表面に希土類富化領域を与えて、希土類富化領域において触媒貴金属粒子の移動及びシンタリングを抑制し、かつ触媒貴金属粒子の酸化を防止することによって、触媒活性を高い状態に維持していると考えられる。
【0015】
図1(a)は、このような従来の排ガス浄化触媒の概念図である。
図1(a)において、排ガス浄化触媒(100)は、金属酸化物から成る担体粒子(1)及び触媒貴金属粒子(30)を有し、担体粒子(1)には、希土類富化領域(1a)が存在している。
【0016】
これに対して、本発明においては、通常の無機酸化物から成る担体(第1の担体)とともに、セリア以外の希土類酸化物の含有率が高い第2の担体を併用することによって、特にNOxの還元浄化について、触媒貴金属粒子に更に高い触媒活性を与えることができる。理論に拘束されないが、本発明では、特定のサイズ及び特定のアスペクト比を有する棒状又は針状の第2の担体粒子中で、セリア以外の希土類酸化物が排ガス中のH2OからH2を生成させることにより、触媒貴金属(特にロジウム)によるNOxの還元浄化が促進されていると推察される。
【0017】
図1(b)は、本発明の排ガス浄化触媒の概念図である。
図1(b)において、排ガス浄化触媒(200)は、無機酸化物の第1の担体粒子(10)、セリア以外の希土類酸化物の含有率が高い第2の担体粒子(20)及び触媒貴金属粒子(30)を有する。第2の担体粒子(20)は、長径/短径で表されるアスペクト比が2.0以上の棒状又は針状の粒子である。触媒貴金属粒子(30)は、その多くが第2の担体粒子(20)に担持されていてよい。
【0018】
(担体粒子)
本発明の排ガス浄化触媒には、触媒貴金属粒子の担体として、少なくとも第1の担体粒子と第2の担体粒子とを用いる。第1の担体粒子及び第2の担体粒子以外の第3の担体粒子を更に用いてもよい。
【0019】
電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)によって第1の担体粒子及び第2の担体粒子を観察した場合に、本発明の排ガス浄化触媒に含まれる第2の担体粒子の投影面積の、第1の担体粒子の投影面積に対する比(第2の担体粒子の面積/第1の担体粒子の面積)は、等価直径が0.10μm以上である粒子について、0.005以上、0.01以上、0.03以上、0.05以上、又は0.06以上であってもよく、0.30以下、0.25以下、0.20以下、0.15以下、0.10以下、又は0.08以下であってもよい。このような範囲であれば、第2の担体粒子中のセリア以外の希土類酸化物によるH2生成能を有効に発現させて触媒貴金属によるNOxの還元浄化を促進し、比較的低い温度においてもNOx浄化を効率的に行うことができる傾向にある。
【0020】
(担体粒子-第1の担体粒子)
本発明の排ガス浄化触媒で用いられる第1の担体粒子は、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有する。好ましくは、第1の担体粒子は、セリア及び/又はジルコニアを少なくとも含有する。第1の担体粒子は、セリア以外の希土類酸化物を含有していてもよい。
【0021】
第1の担体粒子の平均粒径は、等価直径が0.10μm以上である粒子について、0.50μm以上、1.0μm以上、3.0μm以上、5.0μm以上、8.0μm以上、又は10.0μm以上であってもよく、100μm以下、80μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよい。
【0022】
ここで、平均粒径の測定は、日立ハイテクノロジーズ社製の電界放出走査型電子顕微鏡S-4800及びその装置に付随しているエネルギー分散型X線分析装置によって行う。すなわち、この装置で20,000倍の測定倍率によって映し出された画面において、等価直径が0.10μm以上である粒子の中から、エネルギー分散型X線分析によって、第1の担体粒子を見つけ出す。そして、それらの粒子の等価直径を粒子の投影面積から計算する。この作業を任意の20画面において行い、そのすべての平均値を、第1の担体粒子の平均粒径と認定する。ここで、粒子の等価直径とは、粒子の外周長さと等しい外周長さを有する正円の直径をいう。
【0023】
第1の担体粒子は、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有し、その含有率は、第1の担体粒子の重量に対して、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、又は70重量%以上であってもよく、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、又は80重量%以下であってもよい。
【0024】
第1の担体粒子が無機酸化物としてセリアを含む場合、第1の担体粒子のセリア及びセリア以外の希土類酸化物の合計の含有率は、第1の担体粒子の重量に対して、5.0重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、又は25重量%以上であってもよく、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、又は35重量%以下であってもよい。
【0025】
第1の担体粒子が無機酸化物としてセリアを含む場合、セリアの含有率は、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、又は1重量%以下であってもよい。第1の担体粒子は、セリアを含まなくてもよい。第1の担体粒子における、セリア以外の希土類酸化物の含有率は、1.0重量%以上、3.0重量%以上、5.0重量%以上、又は7.0重量%以上であってもよく、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、20重量%未満、15重量%以下、又は10重量%以下であってもよい。
【0026】
第1の担体粒子は、好ましくは上記の無機酸化物の固溶体の形態であることが好ましい。この場合、第1の担体粒子のジルコニアの含有率は、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、又は70重量%以上であってもよく、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、又は80重量%以下でもよい。これらの含有率は、元素分析から計算して求めることができる。
【0027】
第1の担体粒子の希土類酸化物としては、希土類元素のうちの原子番号が若く、且つ4f電子軌道に空きがある又は空きが多いイオンを形成する元素、例えばイットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、及びサマリウム(Sm)からなる群より選択される希土類元素の酸化物を挙げることができる。
【0028】
第1の担体粒子は、上記以外の成分を含有していてもよく、例えば酸化バリウム等を含有していてもよい。
【0029】
第1の担体粒子は、上記の特許文献等に記載された公知の方法によって製造することができる。しかしながら、第1の担体粒子は、本発明の排ガス浄化触媒の製造方法として後述する方法によって製造されてよく、この方法によることが好ましい。
【0030】
(担体粒子-第2の担体粒子)
本発明の排ガス浄化触媒で用いられる第2の担体粒子は、セリア以外の希土類酸化物を含有する。ここで、第2の担体粒子におけるセリア以外の希土類酸化物の含有率は、第1の担体粒子におけるセリア以外の希土類酸化物の含有率よりも高い。また、第2の担体粒子は、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有してもよい。
【0031】
第2の担体粒子の平均粒径は、等価直径が0.10μm以上である粒子について、0.50μm以上、1.0μm以上、2.0μm以上、又は3.0μm以上であってもよく、50μm以下、20μm以下、15μm以下、10μm以下、又は5.0μm以下であってもよい。このような範囲であれば、第2の担体粒子中のセリア以外の希土類酸化物によるH2生成能を有効に発現させて触媒貴金属によるNOxの還元浄化を促進し、比較的低い温度においてもNOx浄化を効率的に行うことができる傾向にある。
【0032】
第2の担体粒子のアスペクト比は、セリア以外の希土類酸化物を還元され易くして、排ガス中のH2OからのH2生成能を発現させる観点から、2.0以上であり、2.2以上、2.4以上、3.0以上、4.0以上、6.0以上、8.0以上、又は10.0以上であってよい。一方で、触媒貴金属粒子の第2の担体粒子への集中的な担持を損なわないために、第2の担体粒子のアスペクト比は、50.0以下、45.0以下、40.0以下、35.0以下、30.0以下、25.0以下、20.0以下、又は15.0以下であってよい。第2の担体粒子のアスペクト比は、典型的には例えば、2.2以上25.0以下であってもよい。
【0033】
第2の担体粒子の平均粒径は、上記の第1の担体粒子の平均粒径と同一の方法によって測定される。第2の担体粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡画像中の第2の担体粒子の投影面積から測定された長径と短径とから、両者の比(長径/短径)として計算することができ、平均粒径の測定と同じ視野の任意の20画面における、等価直径が0.10μm以上である第2の担体粒子について得られたすべての平均値を、第2の担体粒子のアスペクト比と認定する。
【0034】
第2の担体粒子中の、セリア以外の希土類酸化物としては、第1の担体粒子に含有される希土類酸化物と同種のものを用いることができる。第2の担体粒子の希土類酸化物として、具体的には例えばイットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、及びサマリウム(Sm)からなる群より選択される希土類元素の酸化物を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上の酸化物を含んでいてよく、特にネオジムの酸化物を含んでいてよい。
【0035】
第2の担体粒子中のセリア以外の希土類酸化物の含有率は、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、又は30重量%以上であってもよく、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、又は40重量%以下であってもよい。
【0036】
第2の担体粒子は、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有していてもよく、含有していなくてもよい。無機酸化物を含有する場合、その含有率は、第2の担体粒子の重量に対して、1.0重量%以上、2.0重量%以上、3.0重量%以上、5.0重量%以上、10重量%以上、又は15重量%以上であってもよく、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、又は25重量%以下であってもよい。
【0037】
第2の担体粒子は、セリア及びセリア以外の希土類酸化物を含有する場合、その合計の含有率は、第2の担体粒子の重量に対して、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、又は80重量%以上であってもよく、99重量%以下、95重量%以下、93重量%以下、又は90重量%以下であってもよい。
【0038】
第2の担体粒子がセリアを含有する場合、その含有率は、230重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、又は1重量%以下であってもよい。第2の担体粒子は、セリアを含まなくてもよい。
【0039】
第2の担体粒子は、第1の担体粒子と同様に、上記以外の成分を含有していてもよい。
【0040】
第2の担体粒子は、上記の特許文献等に記載された公知の方法によって製造することができる。しかしながら、第2の担体粒子は、本発明の排ガス浄化触媒の製造方法として後述する方法によって製造されてよく、この方法によることが好ましい。
【0041】
(触媒貴金属粒子)
本発明の排ガス浄化触媒で用いられる触媒貴金属粒子としては、特に白金族金属の粒子を挙げることができ、より好ましくは白金、パラジウム、及びロジウムから選択される1種以上の粒子を挙げることができる。
【0042】
触媒貴金属粒子は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子であることが好ましい。典型的には、触媒貴金属粒子の平均粒径は、TEM観察によって求められる等価直径の平均値として、1~20nm程度であってもよく、10nm以下、7nm以下、又は5nm以下であってもよい。
【0043】
触媒貴金属粒子は、第1の担体粒子及び第2の担体粒子の合計100質量部に対して、合計で0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、又は1.0質量部以上で担持されていてもよく、10質量部以下、5質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下で担持されていてもよい。
【0044】
(TRPプロファイル)
本発明の排ガス浄化触媒は、水素を還元剤として用いた昇温還元法(H2-TRP)で得られたTRPプロファイルにおいて、350℃以上750℃以下の領域に水素消費のピークを示す。これは、従来技術の触媒には見られない、本発明の排ガス浄化触媒の特徴の1つであり、本発明の排ガス浄化触媒が、この温度領域において還元され易い成分を含有していることを示している。
【0045】
この水素消費ピークは、特定のサイズ及び特定のアスペクト比を有する棒状又は針状の第2の担体粒子中のセリア以外の希土類酸化物に由来していると推察される。そしてこのような還元特性を有する、セリア以外の希土類酸化物が、排ガス中のH2OからH2を生成して、触媒貴金属(特にロジウム)によるNOxの還元浄化を促進することが可能となると考えられる。
【0046】
《排ガス浄化触媒装置》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、
基材と、基材上の触媒コート層とを含み、
触媒コート層が、上述の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置である。
【0047】
基材としては、例えば、排気ガス浄化触媒装置において一般的に使用されているストレートフロー型又はウォールフロー型のハニカム型基材等を挙げることができる。基材の材質は、特に限定されず、例えば、セラミック、炭化ケイ素、金属等から構成される基材を挙げることができる。基材の容量は、例えば1L程度とすることができる。
【0048】
本発明の排ガス浄化触媒装置における触媒コート層は、本発明の排ガス浄化触媒のみから形成されていてもよいし、本発明の排ガス浄化触媒と他の成分との混合物から形成されていてもよい。ここで使用される他の成分としては、例えば、無機酸化物粒子、他の触媒、バインダー等であってよい。無機酸化物粒子は、例えば、アルミナ、CZ、ゼオライト等から選択される1種以上の酸化物の粒子であってよい。他の触媒は、例えば、これらの無機酸化物粒子に貴金属粒子が担持された公知の排ガス浄化触媒等であってよい。バインダーは、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル等であってよい。
【0049】
他の成分の製造、他の成分と本発明の排ガス浄化触媒との混合、及び基材上への触媒コート層の形成は、それぞれ、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、実施することができる。
【0050】
以上のようにして製造される本発明の排ガス浄化触媒装置は、排ガス浄化活性が高く、かつこの高い状態を長期間維持することができるから、例えば自動車用の排ガス浄化触媒装置として、好適に使用することができる。
【0051】
《排ガス浄化触媒の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒を製造するための、本発明の排ガス浄化触媒の製造方法は、
触媒貴金属の前駆体、第4級アンモニウム塩、及び多価有機カルボン酸を含有する水溶液又は水系分散体を調製すること、
シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物、並びにセリア以外の希土類酸化物を含む原料担体と、上記の水溶液又は水系分散体とを接触させて、原料担体から少なくともセリア以外の希土類酸化物を、抽出し、そして析出させ、これにより、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有する第1の担体粒子と、セリア以外の希土類酸化物を含有する第2の担体粒子とを形成すること、並びに
上記第1の担体粒子及び第2の担体粒子を焼成することを含む。
【0052】
この方法によれば、多価有機カルボン酸によって、原料担体からセリア以外の希土類酸化物が溶出して、セリア以外の希土類酸化物溶出後の第1の担体粒子と、セリア以外の希土類酸化物が富化した第2の担体粒子と、これら第1の担体及び第2の担体に担持されている触媒貴金属の粒子とが得られる。
【0053】
ここで、多価有機カルボン酸とともに、第4級アンモニウム塩を併用することにより、生成する第2の担体粒子を、アスペクト比2.0以上の棒状又は針状の形状に調製することができる。その理由は定かではないが、多価有機カルボン酸が、第4級アンモニウム塩とのイオン結合によって鎖状に連結された種を形成し、この鎖状の種がテンプレートとして作用することによると推察される。すなわち、原料担体から抽出されたセリア以外の希土類酸化物が、第4級アンモニウム塩を介して鎖状に連結した有機カルボン酸との相互作用によって、鎖状の形態を保ったまま第2の担体粒子が形成されることにより、生成する第2の担体粒子が、アスペクト比2.0以上の棒状又は針状の粒子になると考えられる。
【0054】
多価有機カルボン酸及び第4級アンモニウム塩から構成される鎖状の種の推定構造を以下に示す。本発明は、下記の化学式に記載された推定構造に拘束されない。
【化1】
{式中、Rは、後述の式(1)中のRと同じ意味である。}
【0055】
〈水溶液又は水系分散体〉
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法における水溶液又は水系分散体は、触媒貴金属の前駆体、第4級アンモニウム塩、及び多価有機カルボン酸を含有する水溶液又は水系分散体であり、典型的には水溶液であってよい。
【0056】
(触媒貴金属の前駆体)
触媒貴金属の前駆体としては、貴金属の強酸塩を挙げることができ、特に貴金属の硝酸塩及び硫酸塩を挙げることができる。貴金属としては、白金、パラジウム、及びロジウムから選択される1種以上を挙げることができ、NOx浄化能の観点からは、特にロジウムであってよい。
【0057】
(第4級アンモニウム塩)
第4級アンモニウム塩は、第4級アンモニウムカチオンとアニオンとから構成される塩である。
【0058】
本発明における第4級アンモニウム塩は、例えば、下記式(1):
N+R4・A- (1)
{式(1)中、Rは炭素数1~6の有機基であり、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよく、A-は1価のアニオンである。}
で表される塩であってよい。
【0059】
式(1)中、Rで表される炭素数1~6の有機基は、例えば、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アセチルオキシアルキル基等であってよい。
【0060】
アルキル基は、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造に好ましく用いられる水性溶媒に対して十分に高い溶解度を確保するため、炭素数1~4又は炭素数1~3のアルキル基であってよく、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基等であってよい。
【0061】
ハロゲン化アルキル基におけるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってよいが、第4級アンモニウム塩としての入手性及びハンドリング性を考慮すると、例えば、塩素原子であってよい。ハロゲン化アルキル基は、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造に好ましく用いられる水性溶媒に対して十分に高い溶解度を確保するため、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基であってよく、具体的には例えば、クロロメチル基、2-クロロエチル基、3-クロロプロピル基、4-クロロブチル基等であってよい。
ヒドロキシアルキル基は、例えば、1個又は2個のヒドロキシ基で置換された炭素数1~4のアルキル基であってよく、具体的には例えば、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、2,3-ジヒドロキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基、2,4-ジヒドロキシブチル基等であってよい。
【0062】
アセチルオキシアルキル基は、例えば、アセチルオキシメチル基、2-アセチルオキシエチル基等であってよい。
【0063】
本発明における第4級アンモニウム塩は、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、コリンクロリド(別名:(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド)、クロロコリンクロリド(別名:(2-クロロエチル)トリメチルアンモニウムクロリド)、アセチルコリンクロリド、トリメチルアセトヒドラジドアンモニウムクロリド、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムクロリド等であってよく、これらから選択される1種以上が使用されてよい。
【0064】
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法では、第4級アンモニウム塩の使用量を適切な範囲内とすることにより、所望の粒径及びアスペクト比を有する第2の担体粒子を生成させることができる。第4級アンモニウム塩の使用量は、希土類酸化物に含まれるセリウム以外の希土類原子1モルに対して、例えば、0.5モル以上、0.6モル以上、0.7モル以上、0.8モル以上、又は0.9モル以上であってよく、例えば、2.0モル以下、1.8モル以下、1.6モル以下、1.4モル以下、又は1.2モル以下であってよい。
【0065】
(多価有機カルボン酸)
多価有機カルボン酸は、カルボキシル基を2個以上有する有機化合物である。
【0066】
本発明における多価有機カルボン酸は、多価脂肪族カルボン酸、多価脂環族カルボン酸、多価芳香族カルボン酸等であってよい。脂肪族カルボン酸及び脂環族カルボン酸は、飽和のカルボン酸でも不飽和のカルボン酸でもよい。また、本発明における多価有機カルボン酸は、例えば、2価の有機カルボン酸、3価の有機カルボン酸、4価の有機カルボン酸等であってよい。
【0067】
2価の有機カルボン酸は、2価の飽和脂肪族カルボン酸であってよく、具体的には例えば、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等を挙げることができ、これらから選択される1種以上が使用されてよい。3価の有機カルボン酸は、3価の飽和脂肪族カルボン酸であってよく、具体的には例えば、1,2,3-プロパントリカルボン酸等を挙げることができる。4価の有機カルボン酸は、4価の飽和脂肪族カルボン酸であってよく、具体的には例えば、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸を挙げることができる。
【0068】
本発明における多価有機カルボン酸としては、特に、2価の飽和脂肪族カルボン酸を使用してよい。
【0069】
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法では、多価有機カルボン酸の使用量を適切な範囲内とすることにより、所望のアスペクト比を有する第2の担体粒子を生成させることができる。多価有機カルボン酸の使用量は、希土類酸化物に含まれるセリア以外の希土類原子1モルに対して、例えば、0.2モル以上、0.3モル以上、0.4モル以上、0.5モル以上、0.6モル以上、0.7モル以上、0.8モル以上、又は0.9モル以上であってよく、例えば、10.0モル以下、5.0モル以下、2.0モル以下、1.8モル以下、1.6モル以下、1.4モル以下、又は1.2モル以下であってよい。
【0070】
多価有機カルボン酸の使用量は、更に、第4級アンモニウム塩1モルに対して、例えば、0.2モル以上、0.3モル以上、0.4モル以上、0.5モル以上、0.6モル以上、0.7モル以上、0.8モル以上、又は0.9モル以上であってよく、例えば、10.0モル以下、5.0モル以下、2.0モル以下、1.8モル以下、1.6モル以下、1.4モル以下、又は1.2モル以下であってよい。
【0071】
〈原料担体〉
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法に用いられる原料担体は、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物、並びにセリア以外の希土類酸化物を含む。
【0072】
シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物の組成は、例えば、上記の本発明の排ガス浄化触媒における第1の担体粒子と同じ組成を有していてもよい。セリア以外の希土類酸化物の部分は、例えば、本発明の排ガス浄化触媒における第2の担体粒子と同じ組成及び量であってよい。
【0073】
原料担体は粒子状であってよく、その粒径は、本発明の排ガス浄化触媒における第1の担体粒子と同程度であってよく、又はこれよりも大きくてよい。原料担体粒子の平均粒径は、具体的には例えば、0.50μm以上、1.0μm以上、3.0μm以上、5.0μm以上、8.0μm以上、又は10.0μm以上であってもよく、200μm以下、150μm以下、120μm以下、100μm以下、80μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよい。
【0074】
〈水溶液又は水系分散体と、原料担体との接触〉
次いで、水溶液又は水系分散体と、原料担体とを接触させる。水溶液又は水系分散体と原料担体とを接触させると、原料担体から少なくともセリア以外の希土類酸化物が抽出され、これにより、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物を含有する第1の担体粒子と、セリア以外の希土類酸化物を含有する第2の担体粒子とが形成される。
【0075】
水溶液又は水系分散体と原料担体との接触は、定法にしたがって実施できる。例えば、水溶液又は水系分散体中に原料担体を投入してもよいし、原料担体に水溶液又は水系分散体を注いでもよいし、原料担体を適当な溶媒(例えば水)中に分散してスラリーとしたうえで、このスラリーと、水溶液又は水系分散体とを混合してもよい。
【0076】
接触温度は、任意であり、例えば、0℃以上10℃未満、5度以上80℃以下、又は10℃以上50℃未満であってよい。接触時間は、例えば、1分以上24時間以下、分以上12時間以下、又は10分以上6時間以下であってよい。
【0077】
水溶液又は水系分散体と原料担体との接触後、溶媒を除去してもよい。溶媒の除去は、例えば、ろ過、デカント、減圧又は加熱による溶媒の蒸散等、及びこれらの組み合わせ等の任意の方法によってよい。溶媒の除去を加熱によって行う場合、加熱温度は、例えば、150℃以上、200℃以上、250℃以上であってもよく、350℃以下、又は300℃以下であってもよい。加熱時間は、16時間以上、12時間以上、又は8時間以上であってもよく、例えば24時間以下又は20時間以下であってもよい。
【0078】
〈焼成〉
水溶液又は水系分散体と原料担体との接触後、好ましくは溶媒を除去した後に、接触によって形成された第1の担体粒子及び第2の担体粒子の焼成が行われる。焼成温度は、例えば、400℃以上、500℃以上、550℃以上、又は600℃以上であってもよく、1,000℃以下、800℃以下、又は700℃以下であってもよい。焼成時間は、例えば、30分以上、1時間以上、2時間以上、又は4時間以上であってもよく、例えば、12時間以下、10時間以下、又は8時間以下であってもよい。
【0079】
以上のようにして、第1の担体粒子、及び第2の担体粒子、並びにこれらの担体粒子に担持されている触媒貴金属の粒子を有する、本発明の排ガス浄化触媒を調製することができる。得られた排ガス浄化触媒は、更に粉砕して、粒径を所望の範囲に調整してもよい。
【実施例】
【0080】
《実施例1(参考例)》
〈1〉排ガス浄化触媒の調製
原料担体として、酸化物換算の金属含有量比がZr:La:Al:Nd:Y=65:5:5:5:20である複合酸化物粒子(平均粒径30μm)を用いた。第4級アンモニウム塩として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を用いた。2価の有機カルボン酸として、シュウ酸を用いた。
【0081】
原料担体に含まれる希土類原子(La、Nd、及びY)の合計1モルに対して1.0モルの第4級アンモニウム塩(TMAH)をイオン交換水中に溶解させ、第4級アンモニウム塩水溶液を得た。
【0082】
後述の「排ガス浄化触媒装置の製造」で用いたモノリスハニカム基材の容量1Lに対して、Rh金属換算で0.25g/Lに相当する量の硝酸ロジウム(III)を含有する、硝酸ロジウム(III)水溶液を調製した。この硝酸ロジウム(III)水溶液に、上記の第4級アンモニウム塩水溶液を加えてよく撹拌、混合した後、原料担体に含まれる希土類原子の合計1モルに対して0.25モルの2価の有機カルボン酸(シュウ酸)を加えて、更に撹拌して、硝酸ロジウム、2価の有機カルボン酸、及び2価の有機カルボン酸を含有する混合水溶液を得た。
【0083】
一方、原料担体をイオン交換水中に分散させ、原料担体分散液を得た。
【0084】
上記の混合水溶液と原料担体分散液とを混合し、撹拌して、混合液を得た。得られた混合液を250℃にて8時間乾燥した後、500℃にて1時間焼成し、更に粉砕することにより、実施例1の排ガス浄化触媒を得た。
【0085】
〈2〉排ガス浄化触媒の評価
(1)FE-SEM観察
電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用い、YAGレーザーをX線源として、得られた排ガス浄化触媒のFE-SEM観察を行った。得られたFE-SEM像を、
図3(a)に示した。
図3(a)を参照すると、得られた触媒は、FE-SEM像の濃淡が異なる2種類の担体を有することが確認された。ここで、YAGレーザーを線源とするSEM像では、軽い元素が暗く、重い元素が明るく観察されることから、暗い領域が第1の担体粒子(10)であり、明るい領域が希土類元素を多く含む第2の担体粒子(20)であると推定される。
【0086】
倍率5,000倍のFE-SEM像を用いて、一視野中からランダムに選択した第2の担体粒子10個について、長径及び短径からアスペクト比をそれぞれ測定し、その平均値を算出した。結果は表1に示す。
【0087】
(2)水素消費量の評価
得られた排ガス浄化触媒の水素消費量を、昇温還元法(H
2-TRP)により評価した。排ガス浄化触媒の試料について、酸素-窒素混合ガス(O
2:N
2=5:95(体積比))の流通下で350℃にて15分間保持して完全酸化した後、水素-窒素混合ガス(H
2:N
2=5:95(体積比))を用いて得られたTRPプロファイルを
図2に示す。
【0088】
(3)NOx浄化能の評価
i)排ガス浄化触媒装置の製造
上記耐久後の排ガス浄化触媒とアルミナ粉末とを、質量比1:1で混合し、固形分含量が30質量%となるように純水中に分散させてスラリーを得た。このスラリーを、容量350mLのモノリスハニカム基材にコートし、250℃にて10分間乾燥後、500℃で20分間焼成することにより、排ガス浄化触媒装置を得た。この排ガス浄化触媒装置の触媒貴金属含有量は、0.25g/Lであった。
【0089】
ii)排ガス浄化触媒装置の耐久
得られた排ガス浄化触媒装置を、流通式の耐久装置に装着した。装置内温度を1,000℃に設定し、酸素-窒素混合ガス(O2:N2=1:99(体積比))から成るリーンガスと、一酸化炭素-窒素混合ガス(CO:N2=2:98(体積比))から成るリッチガスとを、それぞれ500mL/分の流量にて、2分周期で交互に10時間流通させて、排ガス浄化触媒装置の耐久を行った。
【0090】
iii)NOx浄化能の評価
耐久後の排ガス浄化触媒装置を、常圧固定床式流通反応装置に装着し、ストイキ相当のモデルガス流を流通させた。このとき、モデルガスのガス流温度を200℃から600℃まで、12℃/分の速度で昇温させて、その間のNOx浄化率を連続的に測定した。装置内温度300℃のときのNOx浄化率を、表1に示す。
【0091】
(4)水素生成量の評価
「(3)NOx浄化能の評価」の「i)排ガス浄化触媒装置の製造」と同様にして得られた排ガス浄化触媒装置について、リッチガス及びリーンガスの交互の流通時間を5時間とした他は、「ii)排ガス浄化触媒装置の耐久」と同様にして、排ガス浄化触媒装置の耐久を行った。
【0092】
耐久後の排ガス浄化触媒装置について、エンジンベンチ試験における排ガス中の水素濃度を調べた。具体的には、排ガス浄化触媒装置の温度を500℃に設定し、リッチガスを745秒間供給した後、供給ガスをリーンガスに切り替え、切り替え時(745秒後)から800秒までの間の排ガス中の水素濃度を追跡した。結果を
図4に示した。
【0093】
《実施例2及び3、並びに比較例1及び2》
第4級アンモニウム塩及び2価の有機カルボン酸の使用量を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒を調製した。なお、比較例1では第4級アンモニウム塩を使用せず、比較例2では2価の有機カルボン酸を使用しなかった。
【0094】
実施例2及び3、並びに比較例2で得られた排ガス浄化触媒装置については、実施例1と同様にして、(1)FE-SEM観察、(2)水素消費量の評価、及び(3)NO
x浄化能の評価を行った。評価結果を表1に示す。また、比較例1で得られた排ガス浄化触媒装置については、(1)FE-SEM観察、(2)水素消費量の評価、及び(3)NO
x浄化能の評価の他に、更に(4)水素生成量の評価を行った。結果を表1及び
図4に示す。
【0095】
《比較例3》
比較例3では、担体粒子として、酸化物換算の金属含有量比がZr:La:Al:Y=65:5:5:20である複合酸化物粒子(平均粒径30μm)93質量部と、コロイド状の酸化ネオジムとを混合して用いた。
【0096】
〈1〉排ガス浄化触媒の調製
上記の担体粒子をイオン交換水中に分散させ、酸化物換算の質量が担体粒子との合計に対して7質量%相当量のコロイド状の酸化ネオジム(粒子サイズ20nm)を更に添加して、担体粒子分散液を得た。
【0097】
硝酸ロジウム(III)溶液に、上記の担体粒子分散液を加えて撹拌し、混合液を得た。得られた混合液を250℃にて8時間乾燥した後、500℃にて1時間焼成し、更に粉砕することにより、比較例3の排ガス浄化触媒を得た。
【0098】
〈2〉排ガス浄化触媒の評価
上記で得られた排ガス浄化触媒を使用した他は実施例1と同様にして、(1)FE-SEM観察、(2)水素消費量の評価、及び(3)NOx浄化能の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
実施例2及び3、並びに比較例1~3のFE-SEM像を、
図3(b)~(f)にそれぞれ示す。
【0101】
図3(d)を参照すると、触媒調製時に第4級アンモニウム塩を使用しなかった比較例1では、得られた触媒中に第2の担体粒子(20)の生成は見られるものの、この第2の担体粒子(20)のアスペクト比は、本実施形態所定の範囲を下回る1.5であった。また、触媒調製時に2価の有機カルボン酸を使用しなかった比較例2(
図3(e))、並びに第4級アンモニウム塩及び2価の有機カルボン酸の双方を使用しなかった比較例3(
図3(f))では、いずれも得られた触媒中に第2の担体粒子が存在せず、1種類の担体粒子(1)のみが確認された。
【0102】
表1によると、比較例1~3で得られた上記のような特性の触媒を含む排ガス浄化触媒装置は、NOx浄化率が最大でも71%であり、排ガス浄化能が不足していた。
【0103】
これに対して、触媒調製時に第4級アンモニウム塩及び2価の有機カルボン酸の双方を使用し、本実施形態指定の方法によって調製された実施例1~3の触媒では、アスペクト比2.0以上の第2の担体粒子(20)が生成した(
図3(a)~(c))。
図3(a)に示した実施例1の触媒中の第2の担体粒子(20)は棒状の粒子であり、
図3(b)に示した実施例2及び
図3(c)に示した実施例3の触媒中の第2の担体粒子(20)は針状の粒子であった。
【0104】
そして表1により、これら実施例1~3で得られた触媒を含む排ガス浄化触媒装置は、NOx浄化率が80%以上であり、優れた排ガス浄化能を示すことが確認された。
【0105】
水素を還元剤とする昇温還元法(H
2-TRP)に関する
図2を参照すると、第2の担体粒子を有さない比較例1の触媒では水素消費のピークが見られなかったのに対し、本発明所定の第2の担体粒子を有する実施例1~3の触媒では、いずれも、350℃以上750℃以下の領域に水素消費のピークが観察され、還元され易い部分を有していることが分かった。H
2-TPRの条件下では、一般に、触媒貴金属の還元は300℃以下の温度で起こることから、実施例1~3の触媒に見られる水素消費のピークは、アスペクト比が2.0以上の第2の担体粒子中の希土類原子に由来するものと考えられる。
【0106】
また、浄化後の排ガス中の水素濃度に関する
図4を参照すると、第2の担体粒子のアスペクト比が2.4の触媒を用いた実施例1では、第2の担体粒子のアスペクト比が1.5の触媒を用いた比較例1と比較して、排ガス浄化触媒装置を通過して排出されたガス中のH
2濃度が有意に高かった。
【0107】
これらのことから、本発明の排ガス浄化触媒では、第2の担体粒子中のセリア以外の希土類酸化物が還元され易くなっており、かつ、排ガス中のH2OからのH2生成能を有効に発現することができ、生成されたH2により、触媒貴金属(特にロジウム)によるNOxの還元浄化が促進されて、高度のNOx還元浄化活性が発現されたものと推察される。
【符号の説明】
【0108】
1 担体粒子
1a 希土類富化領域
10 第1の担体粒子
20 第2の担体粒子
30 触媒貴金属粒子
100、200 排ガス浄化触媒