IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧 ▶ 成和リニューアルワークス株式会社の特許一覧 ▶ ポゾリス ソリューションズ株式会社の特許一覧

特許7061931トンネル接続部の止水構造とその施工方法
<>
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図1
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図2
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図3
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図4
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図5
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図6
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図7
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図8
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図9
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図10
  • 特許-トンネル接続部の止水構造とその施工方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】トンネル接続部の止水構造とその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/38 20060101AFI20220422BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
E21D11/38 Z
E21D11/10 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018109588
(22)【出願日】2018-06-07
(65)【公開番号】P2019210752
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518208716
【氏名又は名称】ポゾリス ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 敏明
(72)【発明者】
【氏名】大塚 勇
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】古田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 修一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 道昭
(72)【発明者】
【氏名】池山 正一
(72)【発明者】
【氏名】栗原 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】冨山 徹
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-012199(JP,A)
【文献】特開昭63-060398(JP,A)
【文献】特開2015-036470(JP,A)
【文献】特開2016-108935(JP,A)
【文献】特開2003-049445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/38
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一トンネルと、該第一トンネルに接続されている第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造であって、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1,C2が存在しない不存在領域があり、該不存在領域にある前記防水シートB1、B2の表面にそれぞれ形成されているプライマー層D1,D2と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D1の表面に至り、さらに前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って形成されている塗装防水層と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って形成されている接続部用二次コンクリートC3と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする、トンネル接続部の止水構造。
【請求項2】
第一トンネルと、該第一トンネルに接続されている第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造であって、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1,C2が存在しない不存在領域があり、該二次コンクリートC1の不存在領域には前記防水シートB1が存在せず、該二次コンクリートC2の不存在領域には前記防水シートB2が存在し、該防水シートB2の表面に形成されているプライマー層D2と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って形成されている塗装防水層と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って形成されている接続部用二次コンクリートC3と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする、トンネル接続部の止水構造。
【請求項3】
前記プライマー層は、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂から形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネル接続部の止水構造。
【請求項4】
前記第一トンネルの途中位置に対して、もしくは、前記第一トンネルの軸方向の端部に対して、該第一トンネルと断面寸法が同一もしくは異なる前記第二トンネルが接続されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトンネル接続部の止水構造。
【請求項5】
新設の第一トンネルと、該第一トンネルに接続される新設の第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造の施工方法であって、
新設の前記第一トンネルを施工する第一トンネル施工工程と、
新設の前記第二トンネルを施工する第二トンネル施工工程と、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1,C2が存在しない不存在領域があり、該不存在領域にある前記防水シートB1、B2の表面にそれぞれプライマー層D1,D2を形成するプライマー層形成工程と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D1の表面に至り、さらに前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って塗装防水層を形成する、塗装防水層形成工程と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って接続部用二次コンクリートC3を形成する、接続部用二次コンクリート形成工程と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする、トンネル接続部の止水構造の施工方法。
【請求項6】
既設の第一トンネルと、該第一トンネルに接続される新設の第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造の施工方法であって、
前記第二トンネルを施工する第二トンネル施工工程と、
前記第一トンネルにおいて前記第二トンネルが接合される箇所の前記二次コンクリートC1と前記防水シートB1を撤去する一部撤去工程と、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1、C2が存在しない不存在領域があり、該不存在領域にある前記防水シートB2の表面にプライマー層D2を形成するプライマー層形成工程と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って塗装防水層を形成する、塗装防水層形成工程と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って接続部用二次コンクリートC3を形成する、接続部用二次コンクリート形成工程と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする、トンネル接続部の止水構造の施工方法。
【請求項7】
前記プライマー層形成工程では、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂を、刷毛、ヘラ、もしくはローラーにて塗布する方法、吹付ける方法のいずれか一種にて行い、
前記塗装防水層形成工程では、前記混合を、刷毛、ヘラにて塗布する方法、吹付ける方法のいずれか一種にて行うことを特徴とする、請求項5又は6に記載のトンネル接続部の止水構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル接続部の止水構造とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの接続部には様々な形態がある。例えば、既設もしくは新設のトンネル(本坑)の途中位置に新設のトンネル(分岐坑)が接続される形態がある。あるいは、新設のトンネルに対して軸方向に断面寸法の異なる新設のトンネルが接続される形態や、水平面内もしくは鉛直面内で軸方向を屈曲させて新設トンネルが接続される形態がある。さらには、既設のトンネルの一部区間において、トンネルの断面積を拡幅する(新規に地下駅舎を施工する等)ことにより、結果的に既設のトンネルに対してその軸方向に新設のトンネルが接続される形態がある。
例えば山岳トンネルにおいては、トンネル坑壁にトンネルの軸方向に所定の間隔を置いて鋼製支保工が設置され、鋼製支保工を巻き込むようにして吹付けコンクリートが施工されることにより一次コンクリート(支保)が形成される。一次コンクリートの内側には防水シートが設置され、防水シートの内側には、二次覆工である二次コンクリートが施工される。完全防水型のトンネル(ウォータータイトトンネル)であれ、トンネル内に配設されている排水管に集水して排水する排水型のトンネルであれ、防水シートの内側(二次コンクリート側)への漏水を防止することが必要になる。
例えば、本坑等の第一トンネルに対して分岐坑等の第二トンネルを接続する施工や、第一トンネルの端部に対して断面寸法の異なる第二トンネルを接続したり、水平面内もしくは鉛直面内でトンネルの軸方向を屈曲させて接続する施工においては、接続部が屈曲した三次元形状を有する。そのため、本坑の防水シートと分岐坑の防水シートに対して、防水シートに多数の切り込みを入れながら、三次元形状に合うように防水シートを貼り合わせることにより、接続部における止水構造の施工が行われる。防水シートは本来的には二次元素材であることから、このようなトンネル接続部の三次元形状に合うように防水シートに切り込みを入れて貼り合わせながら施工する際には、防水シートに無理な皺が発生し得る。尚、防水シート同士の接続は、溶着装置を用いて相互に溶着することにより行われるが、三次元形状に合うように防水シート同士を溶着にて接続しながら止水構造を施工する際の施工困難性の問題がある。また、防水シートに設けられた切り込みや皺等が漏水の要因となり得るといった問題がある。尚、防水シートの接続に当たり、シール性の高い溶着装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、弛みのない状態で防水シート同士を溶着してなるトンネル止水構造とその施工方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
そこで、防水シートに代わり、ポリウレアやポリウレタンといった有機溶剤系材料を吹付ける吹付け防水工法を適用することにより、三次元形状にも容易に対応した防水施工(三次元的に連続した防水構造の形成)を実現することができ、防水シート同士の溶着による接続を不要にできる。しかしながら、トンネルにおける吹付け面は一般に湿潤状態であることから、このように湿潤状態の吹付け面に対してこれら有機溶剤系材料を吹付ける施工を行ったとしても、防水層を形成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-250880号公報
【文献】特開2015-86688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、三次元形状を有するトンネル接続部において良好な施工性の下で止水構造を形成でき、かつトンネル坑内が湿潤状態であっても止水構造を形成することのできるトンネル接続部の止水構造とその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル接続部の止水構造の一態様は、
第一トンネルと、該第一トンネルに接続されている第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造であって、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1,C2が存在しない不存在領域があり、該不存在領域にある前記防水シートB1、B2の表面にそれぞれ形成されているプライマー層D1,D2と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D1の表面に至り、さらに前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って形成されている塗装防水層と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って形成されている接続部用二次コンクリートC3と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする。
【0007】
本態様によれば、2つのトンネルを形成するEVA樹脂からなる防水シートに対して、プライマー層を介して、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されている塗装防水層が形成されていることにより、トンネル接続部の三次元形状に対応した止水構造が形成される。また、塗装防水層がEVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることにより、トンネル坑内が湿潤状態であっても塗装防水層を形成することができる。
第一トンネルと第二トンネルはいずれも、少なくとも、一次コンクリートと、防水シートと、二次コンクリートが積層された積層構造を有し、形成される止水構造は遮水機能を有する他にも、遮塩機能等を有する。
【0008】
ここで、三次元形状を有するトンネル接続部には、様々な形態があり、本態様の止水構造は様々な形態のトンネル接続部に適用される。例えば、第一トンネルと第二トンネルがいずれも新設トンネルである形態が挙げられる。そして、第一トンネルが本坑であり、第二トンネルが本坑の途中位置に接続される分岐坑である形態が挙げられる。本坑に対して分岐坑は、本坑の軸方向に直交する方向で接続される形態があり、本坑に対して側方から傾斜した角度で接続される形態がある。あるいは、第一トンネルが本坑であり、第二トンネルは第一トンネルの端部に接続される本坑であるが、第一トンネルと第二トンネルの断面寸法が異なる形態が挙げられる。このように断面寸法が異なる2つのトンネルは、相対的に小断面の一方のトンネルと相対的に大断面の他方のトンネルとが、断面積の徐々に変化する遷移区間を経て接続され得るが、この遷移区間と双方のトンネルの接続部が三次元形状を有する。また、例えば既設の第一トンネルの途中位置において、トンネルの断面積が拡幅されて相対的に大断面の第二トンネルが形成されている形態もある。例えば、既設の第一トンネルの途中位置に地下の駅舎が新設される場合などの際に、このような拡幅施工に伴う2つのトンネルの接続部が形成され得る。あるいは、第一トンネルに対して第二トンネルが水平面内において、もしくは鉛直面内において、所定の角度で屈曲している形態が挙げられる。さらに、第二トンネルとして、トンネルに比べて規模の小さな避難空間等がトンネルの途中位置に断面積を側方に拡幅するようにして施工される場合があるが、このように一般のトンネルに比べて小規模の拡幅部を第二トンネルに含めることができる。この場合も、第一トンネルと拡幅部(第二トンネル)の接続部は三次元形状を有することから、本態様の止水構造が好適となる。
【0009】
EVA樹脂から形成される防水シートは、国内のトンネル内に適用される防水シートとして一般的である。このEVA樹脂からなる防水シートに対して、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されている塗装防水層を良好な接着性の下で接続するに当たり、プライマー層が介在される。このプライマー層には、例えば、ブチルゴム系溶剤型のコーキング剤や、クロロプレン系ゴム溶剤型の接着剤等が適用できる。
【0010】
また、本発明によるトンネル接続部の止水構造の他の態様は、
第一トンネルと、該第一トンネルに接続されている第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造であって、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1,C2が存在しない不存在領域があり、該二次コンクリートC1の不存在領域には前記防水シートB1が存在せず、該二次コンクリートC2の不存在領域には前記防水シートB2が存在し、該防水シートB2の表面に形成されているプライマー層D2と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って形成されている塗装防水層と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って形成されている接続部用二次コンクリートC3と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする。
本態様によれば、例えば既設トンネルである第一トンネルのトンネル接続部における、二次コンクリートC1の不存在領域において、経年劣化等している防水シートB1が取り除かれた領域から、新設トンネルである第二トンネルの防水シートB2の表面のプライマー層D2の表面に亘り、湿潤状況下においても密着性の良好な塗装防水層が形成される。
【0011】
また、本発明によるトンネル接続部の止水構造の他の態様において、前記プライマー層は、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂から形成されていることを特徴とする。
本態様によれば、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂からなるプライマー層を有することにより、EVA樹脂から形成される防水シートと、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成される塗装防水層との間において、所定の引張強さを満たす接着強度が得られる。また、この強度特性に加えて、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂からなるプライマー層は、ブチルゴム系溶剤型のコーキング剤や、クロロプレン系ゴム溶剤型の接着剤等からなるプライマー層に比べて、施工性に優れ、養生期間が短くてよい等のさらなる効果を有する。
【0012】
また、本発明によるトンネル接続部の止水構造の施工方法の一態様は、
新設の第一トンネルと、該第一トンネルに接続される新設の第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造の施工方法であって、
新設の前記第一トンネルを施工する第一トンネル施工工程と、
新設の前記第二トンネルを施工する第二トンネル施工工程と、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1,C2が存在しない不存在領域があり、該不存在領域にある前記防水シートB1、B2の表面にそれぞれプライマー層D1,D2を形成するプライマー層形成工程と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D1の表面に至り、さらに前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って塗装防水層を形成する、塗装防水層形成工程と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って接続部用二次コンクリートC3を形成する、接続部用二次コンクリート形成工程と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする。
本態様によれば、新設の第一トンネルと新設の第二トンネルとの三次元形状のトンネル接続部において、良好な施工性の下で、止水性の高い止水構造を施工することができる。
【0013】
また、本発明によるトンネル接続部の止水構造の施工方法の他の態様は、
既設の第一トンネルと、該第一トンネルに接続される新設の第二トンネルと、のトンネル接続部において、該第一トンネルは、一次コンクリートA1と、防水シートB1と、二次コンクリートC1の積層構造を有し、該第二トンネルは、一次コンクリートA2と、防水シートB2と、二次コンクリートC2の積層構造を有する、トンネル接続部の止水構造の施工方法であって、
前記第二トンネルを施工する第二トンネル施工工程と、
前記第一トンネルにおいて前記第二トンネルが接合される箇所の前記二次コンクリートC1と前記防水シートB1を撤去する一部撤去工程と、
前記トンネル接続部において、前記二次コンクリートC1、C2が存在しない不存在領域があり、該不存在領域にある前記防水シートB2の表面にプライマー層D2を形成するプライマー層形成工程と、
前記二次コンクリートC1の端面から、前記プライマー層D2の表面に至り、さらに前記二次コンクリートC2の端面に亘って塗装防水層を形成する、塗装防水層形成工程と、
前記塗装防水層の表面において、前記二次コンクリートC1,C2のそれぞれの端面間に亘って接続部用二次コンクリートC3を形成する、接続部用二次コンクリート形成工程と、を有し、
前記防水シートB1、B2はいずれも、EVA樹脂から形成され、
前記塗装防水層は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物から形成されていることを特徴とする。
本態様によれば、既設の第一トンネルと新設の第二トンネルとの三次元形状のトンネル接続部において、トンネル接合部における劣化状態の防水シートB1の一部を撤去しながら、良好な施工性の下で、止水性の高い止水構造を施工することができる。
【0014】
また、本発明によるトンネル接続部の止水構造の施工方法の他の態様において、前記プライマー層形成工程では、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂を、刷毛、ヘラ、もしくはローラーにて塗布する方法、吹付ける方法のいずれか一種にて行い、
前記塗装防水層形成工程では、前記混合を、刷毛、ヘラにて塗布する方法、吹付ける方法のいずれか一種にて行うことを特徴とする。
本態様によれば、プライマー層の形成材料と塗装防水層の形成材料に好適な塗装方法で施工することにより、良好な施工性を実現することができる。尚、本明細書において「塗装」とは、上記する、吹付け、刷毛やヘラ、ローラー等による塗布、を包含している。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトンネル接続部の止水構造とその施工方法によれば、三次元形状を有するトンネル接続部において良好な施工性の下で止水構造を形成でき、かつトンネル坑内が湿潤状態であっても止水構造を形成することのできるトンネル接続部の止水構造とその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の施工方法の一例を示す工程図である。
図2図1に続いてトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図である。
図3図2に続いてトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図である。
図4図3のIV部の拡大図である。
図5図3に続いてトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図であって、第1の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の一例を示す図である。
図6図5のVI部の拡大図である。
図7】第2の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の施工方法の一例を示す工程図である。
図8図7に続いてトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図である。
図9図8に続いてトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図である。
図10図9に続いてトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図であって、第2の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の一例を示す図である。
図11】第3の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態に係るトンネル接続部の止水構造とその施工方法について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0018】
[第1の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造とその施工方法]
はじめに、図1乃至図6を参照して、第1の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造とその施工方法の一例を説明する。ここで、図1図2図3及び図5は順に、第1の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図であり、図5はさらに第1の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の一例を示す図である。以下、一次コンクリートと二次コンクリートから形成されるトンネルとして山岳トンネルを取り上げて説明する。
【0019】
第1の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の施工方法は、新設の第一トンネル10と新設の第二トンネル20とのトンネル接続部における止水構造を施工する方法として説明する。また、第一トンネル10は本坑であり、第二トンネル20は分岐坑として説明するものとし、第一トンネル10の断面積(トンネルの軸方向に直交する断面積)が相対的に大きいものとして説明するが、双方のトンネルの断面積が同一であってもよい。さらに、第一トンネル10の途中位置に対して、第一トンネル10の軸方向に直交する方向でかつ水平な方向に第二トンネル20が接続されるものとして説明するが、第一トンネル10に対して第二トンネル20が水平面内において、もしくは鉛直面内において斜め方向から接続される形態であってもよい。
【0020】
図1に示すように、地山Gを削孔し、所定寸法で所定の断面形状(図示例は円形)のトンネル孔を造成する。ここで、地山Gの削孔方法は、トンネルボーリングマシンにて造成してもよいし、切羽面にジャンボ等の機械で穴を掘り、ダイナマイトを装薬して爆破することによって造成してもよい。所定延長の削孔の後、不図示の鋼製のアーチ支保工を所定間隔にて設置し、坑壁の保護を図る。その後、支保工を巻き込むようにしてコンクリートの吹付けを行うことにより、図示するように所定厚み(例えば5cm乃至25cm程度)の一次コンクリート11(吹付けコンクリート、一次コンクリートA1の一例)を施工する。一次コンクリート11の施工は、トンネル坑内にコンクリートミキサー車を運び込み、吹付け機にてコンクリートを坑壁に吹き付けることにより行われる。一次コンクリート11の施工に際して、地山G側に金網を取り付けておき、この金網を表面に備えた地山Gに対して吹付けコンクリートを施工することにより、地山Gに対して吹付けコンクリートを良好に付着させることもできる。コンクリートの吹付け完了後、ロックボルト(図示せず)を設置する。ロックボルトは、例えば3m乃至4m程度の棒状鋼材からなり、地山Gのトンネル側へ向かう変形に起因する引張力をボルトに負担させ、トンネル坑壁の変形を抑制するものである。ロックボルトは、トンネル坑壁の軸方向に直交する面内において径方向に設置されてもよいし、トンネル坑壁の削孔方向に向かう斜め方向に設置されてもよい。尚、ロックボルトの施工を行わない施工方法もある。このように、地山Gの削孔後、吹付けコンクリートによる一次コンクリート11の施工と必要に応じてロックボルトの施工を行うことにより、地山Gの緩みを抑制してトンネルを施工する、NATM工法(NATM:New Austrian Tunneling Method)が適用される。
【0021】
地山Gの削孔から一次コンクリート11の施工まで(ロックボルトを設置する場合はロックボルトの設置まで)の作業を所定回数繰り返すことにより、一次コンクリート11(もしくは一次コンクリート11とロックボルト)にてトンネル坑壁を補強した後、一次コンクリート11の内側に防水シート12(防水シートB1の一例)を敷設する防水工を行う。この防水シート12としては、耐薬品性と耐衝撃性に優れたEVA樹脂(EVA: ethylene-vinylacetate copolymer、エチレン・酢酸ビニル共重合体)製の防水シートが適用される。また、EVA樹脂の裏面(一次コンクリート11側)には、排水性のある不織布等からなる透水層もしくは裏面緩衝層が配設されてもよい。一次コンクリート11と防水シート12の間に不織布等から形成される透水層が介在することにより、排水型トンネルの場合はこの透水層を介してトンネル下方に配設されている集水管への集水が行われる。また、ウォータータイトトンネルの場合は、透水層を介して水をトンネルの全周に行き渡らせることができ、可及的均一な水圧をトンネルに付与することができる。
図1に示すように、第一トンネル10に対して第二トンネル20が接続される接続箇所に対応する領域においては、事後的な撤去施工を不要とするべく、防水シート12は敷設しない。
【0022】
次に、防水シート12の内側に二次覆工である二次コンクリート13(二次コンクリートC1の一例)を施工する。二次覆工13は、一次コンクリート11と同程度の厚みであってもよいし、二次覆工に例えば大地震に対する耐震性が要求される場合は、数cm乃至1m程度の厚みを有してもよい。図1に示すように、二次コンクリート13を、防水シート12よりもさらに接続領域からセットバックさせるようにして施工する。従って、二次コンクリート13の端部には、防水シート12が露出して二次コンクリート13が存在しない不存在領域14を有するようにして第一トンネル10が施工される(以上、第一トンネル施工工程)。
【0023】
次に、図2に示すように、第二トンネル20を施工して第一トンネル10の途中位置に接続させる。図2において、第一トンネル10の軸方向(L1方向)に対して、第二トンネル20の軸方向(L2方向)が例えば直交している。
【0024】
第二トンネル20も、原則的には第一トンネル10と同様の施工方法にて施工され、一次コンクリート21(一次コンクリートA2の一例)、防水シート22(防水シートB2の一例)、二次覆工である二次コンクリート23(二次コンクリートC2の一例)の順に施工を行う。第二トンネル20においても、第一トンネル10との接続箇所に対応する領域には、防水シート22は敷設しない。さらに、二次コンクリート23を、防水シート22よりもさらに接続領域からセットバックさせるようにして施工する。従って、二次コンクリート23の端部には、防水シート22が露出して二次コンクリート23が存在しない不存在領域24を有するようにして第二トンネル20が施工される(以上、第二トンネル施工工程)。第一トンネル10に対して第二トンネル20を接続した後、第一トンネル10の接続箇所における一次コンクリート11の一部を撤去することにより、図2に示すように第一トンネル10と第二トンネル20を連通させる。尚、第一トンネル10と第二トンネル20はいずれも、ウォータータイトトンネルであってよいし、トンネル内に排水管を備えた排水型のトンネルであってもよい。
【0025】
次に、図3に示すように、第一トンネル10と第二トンネル20において、それぞれ二次コンクリート13,23が存在しない不存在領域14,24において露出している防水シート12,22の表面に、それぞれプライマー層31,32を形成する(プライマー層形成工程)。ここで、プライマー層31,32は、ブチルゴム系溶剤型のコーキング剤や、クロロプレン系ゴム溶剤型の接着剤、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂(BASFジャパン株式会社製の「マスターシールP623」)等から形成される。ここで挙げた素材のプライマー層はいずれも、以下で説明する塗装防水層とEVA樹脂から形成される防水シート12,22との間において、所定の引張強さを満たす接着強度が得られる。その中でも、プライマー層31,32が溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂から形成される場合は、この強度特性に加えて、ブチルゴム系溶剤型のコーキング剤や、クロロプレン系ゴム溶剤型の接着剤等を適用する場合に比べて、施工性に優れ、養生期間が短くてよい等のさらなる効果を有する。尚、マスターシールP623は、低粘度タイプであり、速乾性があり、標準使用量は0.03乃至0.12kg/mである。また、塗布間隔は、30℃で30分程度、20℃で1時間程度、10℃で2時間程度である。
【0026】
プライマー層形成工程では、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂等の材料を、刷毛、ヘラ、もしくはローラーにて塗布する方法や、吹付ける方法により、防水シート12,22の表面にプライマー層31,32を施工する。
【0027】
次に、同図3に示すように、第一トンネル10の二次コンクリート13の端面13aから、第二トンネル20の二次コンクリート23の端面23aに亘る塗装防水層40を形成する。より具体的には、端面13aから、プライマー層31の表面に至り、さらに接続箇所にて露出する一次コンクリート11,21に至り、さらに第二トンネル20の防水シート22表面に形成されているプライマー層32の表面に至り、さらに端面23aに亘る塗装防水層40を形成する(塗装防水層形成工程)。図3及び図4に示すように、塗装防水層40は、二次コンクリート13、23の端面13a、23aにラップする端面ラップ部41,42を形成するようにして施工される。
【0028】
ここで、塗装防水層40は、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物(BASFジャパン株式会社製の「マスターシール345」)から形成される。塗装防水層形成工程では、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物を、刷毛やヘラにて塗布する方法、吹付ける方法により、塗装防水層40を施工する。尚、このような乾式工法により、厚みが4mm乃至5mm程度となるように施工し、養生後に、厚みが2mm乃至3mm程度の塗装防水層40が形成される。尚、マスターシール345は、速硬性の紛体系材料であり、プレミックスタイプのために水を加えるだけで取扱いが容易であり、簡単な機械で吹付け施工が可能である。また、-20℃乃至20℃の温度範囲での弾性は80乃至140%であり、有毒成分は一切含まれておらず、柔軟性に富む。ここで、水硬性粉末とは、水硬性を有する無機の粉末を意味し、セメント、スラグ、シリカフューム、消石灰、生石灰、石膏、アルミナ、カルシウムアルミネートまたはカルシウムサルホアルミネート等が例示される。
【0029】
このように、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物を塗布や吹付けにて行うことにより、三次元形状を有する第一トンネル10と第二トンネル20の接続部において、双方の防水シート12,22とラップさせながら、連続した防水層を効率的に施工することができる。特に、防水シート同士を溶着装置等を用いて溶着にて接続する方法に比べて、施工効率は格段に向上し、一方の防水シートに多数の切り込みを入れながら三次元形状に合うように貼り合わせる際の施工手間は一切不要になる。さらに、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物であることから、ポリウレアやポリウレタンといった有機溶剤系材料と異なり、トンネル坑内が湿潤状態であっても、防水シート12,22(の表面上に形成されたプライマー層31,32)や接続部における一次コンクリート11,21の表面上に防水層を密着させながら形成することができる。さらに、EVA樹脂の微粉末と水硬性粉末との混合物は、溶剤型1成分系のポリウレタン樹脂からなるプライマー層31,32との接着性が良好であり、高い接続強度が得られる。
【0030】
次に、図5及び図6に示すように、塗装防水層40の表面において、第一トンネル10の二次コンクリート13の端面13aから第二トンネル20の二次コンクリート23の端面23aに亘り、接続部用二次コンクリート50を形成する(接続部用二次コンクリート形成工程)ことにより、止水構造100が施工される。
【0031】
[第2の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造とその施工方法]
次に、図7乃至図10を参照して、第2の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造とその施工方法の一例を説明する。ここで、図7乃至図10は順に、第2の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の施工方法を示す工程図であり、図10はさらに第2の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の一例を示す図である。
【0032】
第2の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の施工方法は、既設の第一トンネル10Aと新設の第二トンネル20とのトンネル接続部における止水構造を施工する方法として説明する。また、第一トンネル10は本坑であり、第二トンネル20は分岐坑として説明するものとし、第一トンネル10の断面積が相対的に大きいものとして説明するが、双方のトンネルの断面積が同一であってもよい。
【0033】
図7に示すように、既設の第一トンネル10Aに対して、第二トンネル20を施工して第一トンネル10Aの途中位置に接続させる。図2において、第一トンネル10の軸方向(L1方向)に対して、第二トンネル20の軸方向(L2方向)が例えば直交している。第二トンネル20において、第一トンネル10との接続箇所に対応する領域には、防水シート22は敷設しない。さらに、二次コンクリート23を、防水シート22よりもさらに接続領域からセットバックさせるようにして施工する。従って、二次コンクリート23の端部には、防水シート22が露出して二次コンクリート23が存在しない不存在領域24を有するようにして第二トンネル20が施工される(以上、第二トンネル施工工程)。
【0034】
次に、図8に示すように、第一トンネル10Aの接続箇所における一次コンクリート11の一部を撤去するとともに、二次コンクリート13と防水シート12をさらに接続領域からセットバックさせる位置まで撤去する(一部撤去工程)。このように、接続部における一次コンクリート11と防水シート12、及び二次コンクリート13の一部撤去を行うことにより、第一トンネル10Aと第二トンネル20を連通させる。
【0035】
図2図8を比較すると明らかであるが、図2では、第一トンネル10と第二トンネル20がいずれも新設トンネルであることから、防水シート12,22は破損しておらず、従って、双方の防水シート12,22の露出面に3に示すようにプライマー層31,32を形成した。これに対して、図8に示す第一トンネル10Aは既設トンネルであり、防水シート12は経年劣化している可能性があり、さらには、一部撤去工程の際に破損してピンホールを内包し得る。そこで、既設トンネルである第一トンネル10Aでは、接続領域において、二次コンクリート13のみならず防水シート12も撤去することにより、防水シート及び二次コンクリート不存在領域15を形成する。
【0036】
次に、図9に示すように、新設トンネルである第二トンネル20において二次コンクリート23が存在しない不存在領域24にて露出している防水シート22の表面にプライマー層32を形成する(プライマー層形成工程)。既述するように、第一トンネル10Aには、プライマー層を形成する防水シートの露出面は端部の厚み部のみとなり、接続部領域に存在しないとみなすことができる。
【0037】
次に、同図9に示すように、第一トンネル10Aの二次コンクリート13の端面13aから、第二トンネル20の二次コンクリート23の端面23aに亘る塗装防水層40を形成する。より具体的には、端面13aから、接続箇所にて露出する一次コンクリート11,21に至り、さらに第二トンネル20の防水シート22表面に形成されているプライマー層32の表面に至り、さらに端面23aに亘る塗装防水層40を形成する(塗装防水層形成工程)。図9に示すように、塗装防水層40は、二次コンクリート13、23の端面13a、23aにラップする端面ラップ部41,42を形成するようにして施工される。
【0038】
次に、図10に示すように、塗装防水層40の表面において、第一トンネル10Aの二次コンクリート13の端面13aから第二トンネル20の二次コンクリート23の端面23aに亘り、接続部用二次コンクリート50を形成する(接続部用二次コンクリート形成工程)ことにより、止水構造200が施工される。
【0039】
[第3の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造]
次に、図11を参照して、第3の実施形態に係るトンネル接続部の止水構造の一例を説明する。尚、図11に示す止水構造は、図10に示す止水構造と同様に、既設の第一トンネルに対して新設の第二トンネルを接続する際の止水構造であるが、第一トンネルに対する第二トンネルの接続態様が異なる。しかしながら、止水構造の施工方法は実質的に同様の方法にて行われることより、止水構造の施工方法の説明は省略する。
【0040】
図11に示すように、図示する止水構造300は、既設トンネルである第一トンネル10の軸方向L1の端部10aにおいて、同じ軸方向L1に延設して断面積の異なる第二トンネル20Aが遷移区間60を介して接続される接続部における止水構造である。図10と同様に、第一トンネル10の接続部では、防水シート及び二次コンクリート不存在領域15が形成されている。一方、断面積が相対的に大きな第二トンネル20Aは新設トンネルであることから、第二トンネル20Aの接続部では、防水シート22が露出して二次コンクリート23が存在しない不存在領域24が形成されている。不存在領域24にて露出している防水シート22の表面にプライマー層32が形成されている。
【0041】
遷移区間60は、第一トンネル10の断面積と第二トンネル20Aの断面積を両端に有し、徐々に断面積が変化する区間である。同図11に示すように、第一トンネル10の二次コンクリート13の端面13aから、遷移区間60を介し、第二トンネル20Aの二次コンクリート23の端面23aに亘る塗装防水層40が形成されている。より具体的には、端面13aから、接続箇所にて露出する一次コンクリート11に至り、さらに遷移区間60の一次コンクリート61に至り、さらに第二トンネル20Aの接続箇所にて露出する一次コンクリート21に至り、防水シート22表面に形成されているプライマー層32の表面に至り、さらに端面23aに亘って塗装防水層40が形成されている。そして、同図11に示すように、塗装防水層40の表面において、第一トンネル10の二次コンクリート13の端面13aから第二トンネル20の二次コンクリート23の端面23aに亘り、接続部用二次コンクリート50が形成され、止水構造300が構成される。
【0042】
止水構造300も、三次元形状を有する接続部において、良好な施工性の下で施工でき、高い止水性を有する止水構造となる。尚、図示する形態の止水構造300は、第一トンネル10が端部10aまでで止まっており、この端部10aに対して遷移区間60と第二トンネル20Aを新設する形態である。また、その他、第一トンネル10の途中位置にて遷移区間60と第二トンネル20Aを拡幅するように施工することにより、結果として遷移区間60と第二トンネル20Aが新設トンネルとして形成される形態等もある。
【0043】
[最適な塗装防水層とプライマー層の組み合わせを検証した実験]
本発明者等は、最適な塗装防水層とプライマー層の組み合わせを検証する実験を行った。以下、試験方法、試験結果の順に説明する。
【0044】
<実験方法>
(実験に用いたプライマー)
実験に用いたプライマーを以下の表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(試験体の製作)
使用した型枠は、テフロン(登録商標)製板にEVAシートをアクリル両面テープで貼り付けて底板とし、その上からのり付きポリエチレンフォームバックアップ材(10×2mm)を2枚重ねて貼り付け、せき板とした。EVAシートの貼り付けは一部とし、半分はテフロン製板、他の半分はEVAシートの底板となるようにした。このような型枠のEVAシートに対し、表1に示す各プライマーを刷毛やヘラで塗布した。
【0047】
プライマーの養生後、型枠にシリコン製ヘラにて材料が盛り上がる量で塗り付け、さらにステンレス製直定規にてせき板と同じ高さになるように材料をこそぎ取り、試験体を製作した。材料は、ホイッパーを装備したホバートミキサにて、マスターシール345と水を1:0.65の割合で混合することにより製作した。ボウルに水を計量し、低速で撹拌しながら計量したマスターシール345を全量投入した(10乃至15秒)。ミキサを停止し、高速に切り替え、更に撹拌した(5乃至10秒)。ボウルをミキサから取り外し、シリコン製ヘラで数回底から練り返して材料を製作した。材料の養生は、23℃、湿度60%の恒温恒湿室にて28日間行った。
【0048】
継ぎ目強さ測定用の試験片は、養生終了後の試験体からカッターナイフを用いて試験片を切り出した。切り出した試験片の最小幅とマスターシール345の厚みを3箇所測定して試験片とした。ブランク(母材)測定用試験片は継ぎ目強さ測定用の試験体を切り出した残りの部分から、株式会社ダンベル社製のスーパーダンベルカッターを用いて、JIS K 7113の2号型試験片を打抜いた。継ぎ目強さ測定用の試験片の寸法は、幅25mm、全長が200mmであり、左から順に、長さ60mmのEVAシート、長さ80mmのEVAシートとマスターシール345の接着部、長さ60mmのマスターシール345である。
【0049】
(実験結果)
試験強度は、NEXCO試験法706に準じて行った。NEXCO試験法(試験法706-1992(継ぎ目強度試験方法))は、吹付けモルタル・コンクリートの要求性能に関する試験方法である。この試験方法は、ロードセル式引張試験機に試験片をセットし、引張り荷重を引張速度200mm/分で破断するまで増加させる試験方法である。試験片は、2つの試験片が継ぎ目を介して接続されている。試験片の母材(ブランクシート)途中で破断される、試験片の引張破断強さに対する、継ぎ目で破断される、継ぎ目の引張破断強さの比率に100を乗じた割合(%)をブランクシートに対する強さ残率(%)として規定している。そして、この強さ残率の基準値として20%が規定されている。実験結果を以下の表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2より、マスターシールP623、ブチルゴム系溶剤型のコーキング剤、クロロプレン系ゴム溶剤型の接着剤のいずれをプライマーとして使用した場合でも、NEXCO基準値である強さ残率20%を大きく上回っており、いずれの素材もマスターシール345とEVAシートとの接着に用いられるプライマーとして好適であることが分かる。
【0052】
ここで、実験で適用したプライマーごとに実験内容をより詳細に考察する。
【0053】
(マスターシールP623を用いたケース)
マスターシールP623をプライマーに用いた試験片は、全てマスターシール345が破断した。この破断は、EVAシートとマスターシール345の継ぎ目が始まる箇所で起こっている。これは、継ぎ目部分にはEVAシートの厚みとEVAシートの無い部分があるために、実質的に厚さ方向に90度の切欠き構造があることになり、引き裂き力が加わったためであると推察される。
【0054】
(ボンドブチルコークを用いたケース)
ボンドブチルコークをプライマーに用いた試験片は、EVAシートとマスターシール345の継ぎ目側のEVAシートとボンドブチルコークの界面から剥離が始まり、そのまま剥離した試験片やマスターシール345が破断した試験片が存在した。
【0055】
(速乾ボンドG17Zを用いたケース)
速乾ボンドG17Zをプライマーに用いた試験片は、継ぎ目の反対側から剥離が始まり、その後マスターシール345が破断した。
【0056】
(まとめ)
本実験では、EVA防水シートとマスターシール345の接着性の改善を図るべく、3種のプライマーを用いて最適なプライマーを検証したものである。いずれのプライマーともに接着力を大幅に改善させることができ、基準の強さ残率20%を大きく上回る結果が得られている。従って、接着強度の観点で言えば、いずれのプライマーともに優れている。
【0057】
一方、3種のプライマーのうち、マスターシールP623は刷毛で容易に塗布できることから施工性に優れていること、養生時間が最も短いこと、さらには、試験において接着部にて剥離が生じなかったこと、より、マスターシールP623がプライマーとして好適であると判断される。
【0058】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。例えば、第二トンネルが、第一トンネルの途中の側面に形成される避難空間等の箱抜き部であってもよく、2つのトンネル同士の接続部以外にも、トンネルに付随して施工される三次元形状を有する多様な接続部における止水構造に適用できる。
【0059】
また、図示を省略するが、例えば、図8において、第一トンネル10Aにおける二次コンクリート13と防水シート12の端部位置に、導水材を設置してもよい。この導水材としては公知の導水材が適用できる。例えば、厚さ0.8mm程度の防水シートを幅20cm程度に切断した導水材、φ10mm程度のモノドレン(登録商標、前田工繊株式会社製)のチューブにより形成される導水材、厚さ10mm程度のもやいドレーン(株式会社吉原化工社製、「もやい」は登録商標)により形成される導水材等を適用できる。
【符号の説明】
【0060】
10,10A:第一トンネル、11:一次コンクリート、12:防水シート、13:二次コンクリート(二次覆工)、13a:端面、14:不存在領域(二次コンクリート不存在領域)、15:不存在領域(防水シート及び二次コンクリート不存在領域)、20,20A:第二トンネル、21:一次コンクリート、22:防水シート、23:二次コンクリート(二次覆工)、23a:端面、31,32:プライマー層、40:塗装防水層、41,42:端面ラップ部、50:接続部用二次コンクリート、60:遷移区間、61:一次コンクリート、100,200,300:止水構造、G:地山
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11