(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/20 20060101AFI20220422BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20220422BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
F16H25/20 K
H02K7/06 A
F16H25/20 E
F16H25/24 A
(21)【出願番号】P 2018124581
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】平野 慎介
(72)【発明者】
【氏名】池田 良則
(72)【発明者】
【氏名】清水 辰徳
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-074791(JP,A)
【文献】特開2009-156354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
H02K 7/06
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータの回転運動を直線運動に変換する運動変換機構とを備え、前記運動変換機構が、回転可能に支持されたナットと、前記ナットの回転に伴って軸方向に移動するねじ軸とを有し、前記ねじ軸の軸方向端面を覆うケースが設けられた電動アクチュエータにおいて、
前記ねじ軸の軸方向端面と対向する前記ケースの対向面に当接可能な弾性部材を、前記ねじ軸の軸方向端面に設け、
前記弾性部材は、前記ねじ軸の軸方向端面に設けられた軸方向の孔部に挿入される差込部を有することを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記差込部の外径を前記孔部の内径より小さい径に設定し、
前記差込部に、前記差込部が前記孔部に挿入された状態で前記孔部の内周面に対して圧接する突起を設けた請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記孔部の周壁部と前記差込部とのそれぞれに、軸方向とは直交又は交差する方向に挿通孔を設け、
前記各挿通孔に前記ねじ軸の回転を規制する回転規制部材を挿通した請求項1又は2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記孔部から外部に露出する前記弾性部材の部分に、前記差込部に設けられた前記挿通孔の周方向位相を特定するための印を設けた請求項3に記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の省力化、低燃費化のために電動化が進み、例えば、自動車の自動変速機やブレーキ、ステアリング等の操作を電動機の力で行うシステムが開発され、市場に投入されている。
【0003】
このような用途に使用されるアクチュエータとして、例えば、下記特許文献1には、ボールねじ機構を用いてモータの回転運動を直線運動に変換して出力するものが開示されている。また、この電動アクチュエータにおいては、ボールねじ機構を構成するねじ軸の後端部側を収容する軸ケースが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のように、ねじ軸がケースによって覆われた構成の場合、組付け作業中の取り扱いミスや電動アクチュエータの誤作動などにより、ねじ軸の後端部がケースの内面に衝突すると、ケースが破損する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、ねじ軸の衝突によるケースの破損を防止することができる電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、電動モータと、電動モータの回転運動を直線運動に変換する運動変換機構とを備え、運動変換機構が、回転可能に支持されたナットと、ナットの回転に伴って軸方向に移動するねじ軸とを有し、ねじ軸の軸方向端面を覆うケースが設けられた電動アクチュエータにおいて、ねじ軸の軸方向端面とこれに対向するケースの対向面との間に弾性部材を設けたことを特徴とする。
【0008】
このように、ねじ軸の軸方向端面とこれに対向するケースの対向面との間に弾性部材を設けることで、ねじ軸の軸方向端面がケースの対向面に衝突したとしても、弾性部材がこの衝突によるケースへの衝撃を緩和する緩衝部材として機能することで、ケースの破損を防止することができる。
【0009】
弾性部材をねじ軸の軸方向端面に設けてもよい。この場合、ねじ軸の軸方向端面に設けられた弾性部材がケースの対向面に対して当接することで、ケースの破損が防止される。
【0010】
弾性部材をねじ軸の軸方向端面に設ける構成として、例えば、ねじ軸の軸方向端面に軸方向の孔部を設け、弾性部材に孔部に挿入される差込部を設ける構成を採用することができる。
【0011】
弾性部材が上記のような差込部を有する構成の場合、差込部の外径を孔部の内径より小さい径に設定し、差込部に、差込部が孔部に挿入された状態で孔部の内周面に対して圧接する突起を設けた構成とすることが好ましい。このように、差込部の外径を孔部の内径よりも小さい径に設定することで、孔部への差込部の挿入作業が行いやすくなると共に、孔部への挿入時における差込部の外周面の削れ等の破損も回避することができる。一方、差込部に設けられた突起が孔部の内周面に対して圧接することで、その圧接力(弾性復元力)によって孔部からの差込部の脱落を防止することができる。
【0012】
また、孔部の周壁部と差込部とのそれぞれに、軸方向とは直交又は交差する方向に挿通孔を設け、各挿通孔にねじ軸の回転を規制する回転規制部材を挿通させてもよい。この場合、孔部に差込部を挿入した状態で、回転規制部材を各挿通孔に挿通させることで、回転規制部材が、孔部に対する差込部の軸方向への移動を拘束するので、弾性部材の脱落を防止する脱落防止部材として機能する。また、回転規制部材が脱落防止部材としての機能も兼ねることで、別途脱落防止部材を設ける必要がなくなり、低コスト化も図れるようになる。
【0013】
また、孔部から外部に露出する弾性部材の部分に、差込部に設けられた挿通孔の周方向位相を特定するための印を設けてもよい。これにより、作業者は差込部を孔部に挿入した後でも、差込部の挿通孔の周方向位相を外部から確認することができるので、差込部と孔部の周壁部に設けられた挿通孔同士の位相合わせを容易に行えるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ねじ軸の軸方向端面がケースの対向面に衝突したとしても、弾性部材がこの衝突によるケースへの衝撃を緩和することで、ケースの破損を防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る電動アクチュエータの断面図である。
【
図2】
図1に示す電動アクチュエータにおけるねじ軸の後端部及び軸ケースの一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】ねじ軸の後端部から弾性部材と回り止めピンとを取り外した状態を示す分解斜視図である。
【
図4】ねじ軸への組付け前の弾性部材の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の一形態に係る電動アクチュエータの断面図である。まず、
図1を参照しつつ、本実施形態に係る電動アクチュエータの全体構成及び動作について説明する。
【0017】
図1に示す電動アクチュエータ1は、電動モータ5を有するモータ部2と、電動モータ5の回転運動を伝達する駆動力伝達機構3と、電動モータ5の回転運動を直線運動に変換する運動変換機構4とを主な構成としている。
【0018】
モータ部2は、電動モータ5と、電動モータ5に電力供給するための導電部材としての一対のバスバー70と、電動モータ5やバスバー70等を収容するモータケース60とを備えている。本実施形態では、電動モータ5として、安価な(ブラシ付き)DCモータを用いているが、ブラシレスモータ等の他のモータを用いてもよい。
【0019】
モータケース60は、電動モータ5の大部分を収容する円筒状の本体部61と、本体部61の一端部(
図1における左端部)に固定された蓋状のキャップ部62とで構成されている。各バスバー70は、金属製の板部材を所定形状に曲げ加工して形成されており、それぞれ樹脂製のホルダ部71によって保持されている。また、各バスバー70は、ホルダ部71が電動モータ5の端部(
図1おける左端部)に固定された状態で、電動モータ5の図示しないモータ端子に対して溶接により接続されている。キャップ部62には軸方向に突出する筒状のコネクタ部62aが設けられており、コネクタ部62aの内周側には各バスバー70の先端部(モータ端子に接続される側とは反対側の端部)が配置されている。このバスバー70の先端部に対し、図示しない動力電源から延びる動力線の相手側端子が接続されることで、動力電源から電動モータ5へ電力が供給可能な状態となる。
【0020】
駆動力伝達機構3は、駆動側のドライブギヤ8と、これと噛み合う被駆動側のドリブンギヤ9とで構成されている。ドライブギヤ8及びドリブンギヤ9は、ギヤケース10内に収容されている。ドライブギヤ8は、ドリブンギヤ9よりも歯数の少ない小径のギヤであり、電動モータ5の回転軸5aに対してこれと一体的に回転するように取り付けられている。これに対して、ドリブンギヤ9は、ドライブギヤ8よりも歯数の多い大径のギヤであり、運動変換機構4を構成する後述のナット17に対してこれと一体的に回転するように取り付けられている。
【0021】
また、ドライブギヤ8は、その軸方向の両端部にて2つの軸受11,12によって回転可能に支持されている。2つの軸受11,12のうち、一方(
図1において左側)の軸受11は、電動モータ5の端部に固定された筒状の軸受保持部材13内に嵌め込まれることによって保持され、他方(
図1において右側)の軸受12は、ギヤケース10内に嵌め込まれることによって保持されている。ドリブンギヤ9は、ナット17の外周面に設けられた複列の軸受14によってナット17と共に回転可能に支持されている。複列の軸受14は、ギヤケース10に設けられた筒状のスリーブ15内に収容され、スリーブ15の内周面に装着された止め輪16によって軸方向への移動が規制されている。複列の軸受14としては、ナット17を安定的かつ確実に支持することができるように、ラジアル荷重に加えて、両方向のアキシャル荷重を支承できる複列アンギュラ玉軸受を用いることが好ましい。
【0022】
電動モータ5が駆動を開始し、電動モータ5の回転軸5aが回転すると、回転軸5aと一体的にドライブギヤ8が回転し、これに連動してドリブンギヤ9が回転する。このとき、電動モータ5からの回転運動は、歯数の少ないドライブギヤ8から歯数の多いドリブンギヤ9へ伝達されるので、減速されて回転トルクが増加する。このように、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9間での減速により回転トルクを増加させて出力することで、小型の電動モータを用いても十分な出力が得られるようになる。なお、本実施形態とは異なり、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9とを同じ歯数のギヤで構成し、電動モータ5からの回転運動を減速せずに伝達するようにしてもよい。
【0023】
運動変換機構4は、回転部材としてのナット17と、直動部材としてのねじ軸18と、多数のボール19とを有するボールねじ機構である。ナット17の内周面とねじ軸18の外周面には、それぞれ螺旋状溝が形成されており、これらの螺旋状溝の間にボール19が転動可能に収容されている。また、ナット17には図示しない循環部材が設けられており、この循環部材によってボール19が螺旋状溝に沿って循環するように構成されている。
【0024】
ねじ軸18は、ナット17の内周に挿通され、電動モータ5の回転軸5aと平行に配置されている。ねじ軸18の前端部(
図1における左端部)には、連結孔18aが設けられており、この連結孔18aにボルト等の締結具を挿入することで、ねじ軸18と操作対象である図示しない使用機器の対応部位とが連結される。電動モータ5の回転運動がドライブギヤ8及びドリブンギヤ9を介してナット17に伝達されると、ナット17が回転することで、ねじ軸18が軸方向の一方(前進方向又は後退方向)へ移動する。反対に、電動モータ5が逆回転した場合は、ドライブギヤ8及びドリブンギヤ9を介して回転運動がナット17に伝達されて、ねじ軸18が軸方向の他方へ移動する。このように、電動モータ5の正逆回転によって、ねじ軸18が前進又は後退することで、ねじ軸18の前端部に連結された操作対象が操作される。
【0025】
ねじ軸18の後端部(操作対象側の端部とは反対側の端部)は、ねじ軸ケース20によって覆われている。ねじ軸ケース20は、ギヤケース10に対してモータケース60が固定される側とは反対側でギヤケース10に固定されている。
【0026】
また、ねじ軸18の後端部には、ねじ軸18の回転を規制する回転規制部材としての回り止めピン21が設けられている。回り止めピン21は、ねじ軸18に対してその軸方向と直交又は交差する方向に取り付けられている。ねじ軸18の後端部から外径方向に突出する回り止めピン21の両端部には、それぞれガイドローラ22が回転可能に取り付けられている。各ガイドローラ22は、ねじ軸ケース20に設けられた軸方向に延びる一対のガイド溝20a内に挿入されている。ガイドローラ22がガイド溝20aに沿って軸方向へ移動することで、ねじ軸18は周方向に回転することなく軸方向に前進又は後退する。
【0027】
また、ねじ軸18において、ナット17よりも前端部側には、電動アクチュエータ1内に異物が侵入するのを防止するブーツ23と、ブーツ23を保護するためのブーツカバー25とが設けられている。ブーツ23は、小径端部23aと大径端部23bとこれらを繋いで軸方向に伸縮する蛇腹部23cとで構成されている。小径端部23aはねじ軸18の外周面に固定され、大径端部23bはブーツカバー25に取り付けられた筒状のブーツ装着部材24の外周面に固定されている。ブーツカバー25は、ブーツ23の外側を覆うように配置され、モータケース60の本体部61と一体成型されている。
【0028】
ねじ軸18の往復運動に伴ってブーツ23が伸縮すると、ブーツ23内部の圧力が変動するため、特にねじ軸18の軸方向移動量が多い場合に内圧変動により蛇腹部23cが過大に変形して、蛇腹部23cの耐久性が低下する虞がある。そこで、ブーツ23の内圧変動による蛇腹部23cの破損を防ぐために、ねじ軸ケース20に通気フィルタ26を設けている。通気フィルタ26は、電動アクチュエータ1内を通ってブーツ23の内部空間と連通しており、ブーツ23が伸縮すると、通気フィルタ26を通してエアが流入又は流出することで、蛇腹部23cの変形が抑制される。
【0029】
また、ねじ軸18の外周面には、ねじ軸18の軸方向位置を検出するためのセンサターゲットとなる磁石27が設けられている。一方、モータケース60の外周には、図示しないストロークセンサが設けられている。ねじ軸18が前進又は後退すると、これに伴って移動する磁石27の磁場(例えば磁束密度の向き及び強さ)の変化をストロークセンサが検出することにより、磁石27の軸方向位置、ひいてはねじ軸18の軸方向位置が検出される。
【0030】
このように、本実施形態に係る電動アクチュエータ1においては、ストロークセンサを用いることでねじ軸18の前進位置及び後退位置を制御し管理することができる。従って、ねじ軸18は基本的に所定の停止位置を越えて前進又は後退することはない。しかしながら、ストロークセンサの故障などにより、ねじ軸18が誤作動して所定の停止位置を越えて後退すると、ねじ軸18の後端部がねじ軸ケース20に衝突し、ねじ軸ケース20が破損してしまう虞がある。また、部品組付け中の取り扱いミスによって、ねじ軸18の後端部がねじ軸ケース20に衝突することもあり得る。その場合も、ねじ軸18の衝突によりねじ軸ケース20が破損する虞がある。
【0031】
そこで、本実施形態では、このようなねじ軸ケース20の破損を防止するため、以下のような対策を講じている。
【0032】
図2は、
図1に示す電動アクチュエータ1におけるねじ軸18の後端部及び軸ケース20の一部を拡大して示す断面図である。
【0033】
図2に示すように、本実施形態に係る電動アクチュエータ1においては、ねじ軸18の後端部の衝突によるねじ軸ケース20の破損を防止するため、ねじ軸18の後端面18bにゴム等から成る弾性部材30を設けている。このように、ねじ軸18の後端面18bに弾性部材30を設けることで、万が一ねじ軸18が所定の停止位置を越えて後退した場合でも、弾性部材30がねじ軸ケース20に対して当接することで、ねじ軸ケース20の破損が防止される。すなわち、弾性部材30は、ねじ軸18の後端面18bとこれに対向するねじ軸ケース20の対向面20bとの間で、これら同士の衝突による衝撃を緩和する緩衝部材として機能する。
【0034】
また、
図2に示すように、本実施形態に係る弾性部材30は、ねじ軸18の後端面18bに設けられた軸方向の孔部18cに挿入される円柱状の差込部31と、差込部31よりも大径に形成された緩衝部32とで構成されている。緩衝部32は、差込部31が孔部18cに挿入された状態で、孔部18cよりも軸方向外側(ねじ軸ケース20の対向面20b側)へ突出するように配置されており、ねじ軸18が所定の停止位置を越えて後退した場合にねじ軸ケース20の対向面20bに対して当接する部分である。
【0035】
図3は、ねじ軸18の後端部から弾性部材30と回り止めピン21とを取り外した状態を示す分解斜視図である。なお、
図3において、ねじ軸18の外周面に設けられた螺旋状溝は省略している。
【0036】
図3に示すように、ねじ軸18の後端面18bに設けられた孔部18cの周壁部と弾性部材30の差込部31とのそれぞれには、回り止めピン21を挿通するための挿通孔18d,33が設けられている。各挿通孔18d,33は、ねじ軸18の軸方向又はこれに相当する弾性部材30の軸方向とは直交又は交差する方向に配置されており、それぞれねじ軸18又は弾性部材30を貫通するように形成されている。
【0037】
ねじ軸18に対して弾性部材30及び回り止めピン21を組み付けるには、まず、弾性部材30の差込部31をねじ軸18の孔部18cに挿入する。次いで、それぞれの挿通孔18d,33の周方向位相を合わせた状態で、回り止めピン21を各挿通孔18d,33に挿通させ、回り止めピン21がねじ軸18及び弾性部材30を貫通した状態となるように組み付ける。最後に、回り止めピン21の両端部に上述のガイドローラ22を取り付けることで、各挿通孔18d,33に対する回り止めピン21の抜け止めがなされる。
【0038】
ここで、弾性部材30の差込部31の外径を、ねじ軸18の孔部18cの内径と同じか、それよりも僅かに大きい径に設定すると、孔部18cに対して差込部31を挿入した際に、差込部31の外周面が孔部18cの内周面に対して周方向全体に渡って接触又は圧接することで、両部材の摩擦力により組付け時における差込部31の脱落を防止することが可能である。しかしながら、このように、孔部18cの内周面に対して差込部31の外周面全体を接触させる構成は、孔部18cへの挿入時に差込部31の外周面が削れるなどの破損が生じてしまう虞がある。一方で、差込部31の外径を孔部18cの内径より小さい径に設定すると、組付け時に孔部18cから差込部31が脱落する可能性があり、取り扱いに不便となる。
【0039】
そこで、本実施形態では、
図2に示すように、差込部31の外周面に複数の突起34を設け、各突起34が孔部18cの内周面に圧接することで、孔部18cからの差込部31の脱落を防止できるようにしている。本実施形態では、突起34が互いに180°対称の位置に2つ設けられているが、突起34の数は1つ又は3つ以上であってもよい。
【0040】
図4は、ねじ軸18への組付け前の弾性部材30の状態を示す断面図である。
【0041】
図4に示すように、組付け前の孔部18cの中心軸と差込部31の中心軸とを同軸上に配置した状態で、差込部31の各突起34は、孔部18cの(凹凸の無い)円筒状の内周面よりも外径方向に突出するように配置されている。本実施形態の構成で言えば、互いに180°対称の位置に配置された一方の突起34の頂部から他方の突起34の頂部までの径方向寸法d1が、孔部18cの内径d2よりも大きく設定されている。従って、孔部18cに対して差込部31が挿入されると、各突起34が孔部18cの内周面に接触して内径方向に圧縮されることで、孔部18cの内周面に対して各突起34が圧接し、その圧接力(弾性復元力)によって孔部18cからの差込部31の脱落が防止される。
【0042】
一方、
図4に示すように、差込部31の外径d3は孔部18cの内径d2よりも小さい径に設定されているので、孔部18cへの挿入時における差込部31の外周面の削れ等の破損を回避することができる。また、差込部31の外周面を全周に渡って孔部18cの内周面に接触させる構成に比べて、差込部31と孔部18cとの間での摩擦力が低減するので、孔部18cへの差込部31の挿入作業も行いやすくなると共に、回り止めピン21を組み付ける際の各挿通孔18d,33同士の位相合わせも楽に行えるようになる。
【0043】
さらに、本実施形態においては、挿通孔18d,33同士の位相合わせを容易に行えるように、
図3に示すように、弾性部材30の緩衝部32の外周面に、差込部31の挿通孔33の周方向位相を特定するための印35を設けている。本実施形態では、印35を凸部で構成しているが、凹部でもよいし、着色により判別可能な印であってもよい。また、本実施形態では、印35が差込部31の挿通孔33と同じ周方向位相に配置されているが、挿通孔33に対して90°位相がずれた位置など、挿通孔33とは異なる周方向位相に印35を配置してもよい。このように、孔部18cから外部に露出する部分(緩衝部32)に、差込部31の挿通孔33の周方向位相を特定するための印35を設けることで、作業者は差込部31を孔部18cに挿入した後でも、差込部31の挿通孔33の周方向位相を外部から確認することができるので、挿通孔18d,33同士の位相合わせを容易に行えるようになる。
【0044】
また、上述のように、ねじ軸18に対して回り止めピン21が組み付けられることで、ねじ軸18からの弾性部材30の脱落が確実に防止される。すなわち、回り止めピン21は、孔部18cに対する差込部31の挿入方向又は脱落方向とは直交又は交差する方向にねじ軸18及び差込部31を貫通した状態で組み付けられるため、差込部31が脱落方向へ移動しようとしたとしても、その移動が回り止めピン21によって拘束される。このように、本実施形態では、回り止めピン21が弾性部材30の脱落防止部材として機能することで、孔部18cからの弾性部材30の脱落が確実に防止されると共に、専用の脱落防止部材を別途設けなくてもよいので、低コスト化を図ることも可能である。
【0045】
以上、本発明に係る電動アクチュエータの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことである。
【0046】
上述の実施形態では、弾性部材30をねじ軸18の後端面18bに設けているが、ねじ軸ケース20の対向面20bに弾性部材30を設けてもよい。また、ケースがねじ軸18の前端部側(操作対象側の端部)に設けられている場合は、ねじ軸18の前端面、あるいはこれに対向するケースの対向面に、弾性部材30を設けてもよい。要するに、本発明は、ねじ軸の少なくとも一方の軸方向端面とこれを覆うケースとが設けられた構成であれば適用可能であり、ねじ軸の軸方向端面とこれに対向するケースの対向面との間に弾性部材を設けることで、ねじ軸の軸方向端面とケースの対向面との衝突によるケースの破損を防止することができる。また、このようなケースへの衝撃を緩和する弾性部材としては、上述の実施形態に挙げるようなゴム弾性体に限らず、バネ構造体を適用することも可能である。
【0047】
また、上述の実施形態では、運動変換機構としてボールねじ機構を用いた構成を例に挙げているが、ねじ軸とこれに螺合するナットとで構成されたすべりねじ機構を備える電動アクチュエータに対しても本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 電動アクチュエータ
3 駆動伝達機構
4 運動変換機構
5 電動モータ
17 ナット
18 ねじ軸
18b 後端面
18c 孔部
18d 挿通孔
19 ボール
20 ねじ軸ケース
20b 対向面
21 回り止めピン(回転規制部材)
30 弾性部材
31 差込部
32 緩衝部
33 挿通孔
34 突起
35 印