(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】射出成形装置と、樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/14 20060101AFI20220422BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
B29C33/14
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018208619
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392010267
【氏名又は名称】株式会社サカイヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】李 聖勲
(72)【発明者】
【氏名】小島 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】杉野 勝
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06004498(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104842844(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101850593(CN,A)
【文献】米国特許第7335006(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して樹脂をモールド成形するための射出成形装置において、
溶融樹脂を射出するための注入部が設けられた第1金型と、
前記第1金型とともにキャビティを形成する第2金型と、
を備え、
前記第1金型又は前記第2金型は、前記ワークを保持する保持部を有し、
前記保持部は、
前記第1金型又は前記第2金型に向かって突出した環状突起
の内方に画成され
、
前記環状突起は、前記ワークの周縁部に対して曲げ加工を行うことを特徴とする射出成形装置。
【請求項2】
請求項
1記載の装置において、曲げ加工が施された前記ワークの周縁部を樹脂内に埋入させるものであることを特徴とする射出成形装置。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の装置において、前記注入部から前記キャビティに射出された樹脂が合流すると予測される合流予測地点に、前記ワークを押さえる押さえ部材が設けられていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項4】
射出成形装置を構成する第1金型と第2金型で形成されるキャビティ内のワークに対して樹脂をモールド成形し、樹脂成形品を得る樹脂成形品の製造方法において、
前記第1金型又は前記第2金型に設けられた
環状突起
の内方に画成される保持部でワークを保持する
ときに、前記環状突起によって、前記ワークの周縁部に曲げ加工を行う工程と、
前記第1金型又は前記第2金型に設けられた注入部から溶融樹脂を射出する工程と、
射出された前記溶融樹脂を硬化させる工程と、
を有することを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項
4記載の製造方法において、前記注入部から前記キャビティに射出された樹脂が合流すると予測される合流予測地点で、押さえ部材によって前記ワークを押さえることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体と、該積層体の周縁部及び底面部を覆う被覆樹脂層とを備える樹脂成形品を得る射出成形装置と、該樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のスマートキーの筐体等は、例えば、樹脂成形品から構成される。この場合、筐体は、高級感を得たり、ユーザの触感を良好としたりするべく、様々な工夫がなされている。この観点から、特許文献1において、エラストマーシートにスモーク印刷層を設けた人工皮革シートが提案されている。特許文献1によれば、この人工皮革シートは、モールド成形の表皮として使用され得る。すなわち、この人工皮革シートを用いて基材にモールド成形を行うことにより、筐体となる樹脂成形品が得られると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形品は、意匠面を有する本体部に対して被覆樹脂層をモールド成形することで作製される。樹脂成形品を長期間にわたって使用可能とするには、被覆樹脂層が本体部に対して十分な接合強度で接合され、本体部からの脱落が防止されている必要がある。
【0005】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、被覆樹脂層が本体部から離脱し難く、このために長期間にわたって使用可能な樹脂成形品を得ることができる射出成形装置と、樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明は、ワークに対して樹脂をモールド成形するための射出成形装置において、
溶融樹脂を射出するための注入部が設けられた第1金型と、
前記第1金型とともにキャビティを形成する第2金型と、
を備え、
前記第1金型又は前記第2金型は、前記ワークを保持する保持部を有し、
前記保持部は、突起によって画成されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、射出成形装置を構成する第1金型と第2金型で形成されるキャビティ内のワークに対して樹脂をモールド成形し、樹脂成形品を得る樹脂成形品の製造方法において、
前記第1金型又は前記第2金型に設けられた突起によって画成される保持部でワークを保持する工程と、
前記第1金型又は前記第2金型に設けられた注入部から溶融樹脂を射出する工程と、
射出された前記溶融樹脂を硬化させる工程と、
を有することを特徴とする。
【0008】
この場合、突起に向かってワークを押し付けるという簡便な作業により、金型に容易にワークを保持することができる。
【0009】
そして、この突起は、ワークに対して曲げ加工を行う加工部であることが好ましい。すなわち、ワークを保持部に保持する際には、該ワークに突起が当接する。ワークをさらに押し込むと、突起によってワークの一部が押し曲げられる。すなわち、曲げ加工がなされる。このようにして曲げられた部位が樹脂によって被覆されたとき、該部位にいわゆるアンカー効果が発現する。従って、ワークに対して樹脂が堅牢に接合する。
【0010】
このため、モールド成形された樹脂がワークから離脱し難くなる。すなわち、樹脂成形品の信頼性が向上するとともに、長期間の使用が可能となる。
【0011】
突起は、ワークの周縁部に対して曲げ加工を行うものであることが好ましい。これにより、周縁部の全体にわたって樹脂が脱落し難い樹脂成形品が得られる。また、周縁部が曲げられることにより、樹脂成形品が立体的な形状となる。このために意匠性が増す。
【0012】
また、曲げ加工が施されたワークの周縁部を樹脂内に埋入させることが好ましい。これにより一層効果的なアンカー効果が発現するとともに、モールド成形された樹脂の内部に水滴等が浸入することが困難となる。
【0013】
なお、注入部からキャビティに射出された樹脂が合流する合流点では、異なる方向から流動してきた樹脂同士が合流する。ワークの、樹脂が接触する部位は、樹脂の流動に伴ってその流動方向上流側に順次押し出されるため、最上流である合流点では、ワークの一部が隆起する懸念がある。このような事態が発生すると、座屈が生じる一因となる。これを回避するべく、樹脂同士が合流すると予測される合流予測地点に、ワークを押さえる押さえ部材を設けることが好ましい。これにより、合流予測地点でワークが押し出されることが抑制されるので、座屈が生じる懸念を払拭することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、射出成形を行う金型に突起を設け、該突起でワークを保持する保持部を画成するようにしている。このため、先ず、ワークを突起に押し付けることによって該ワークを容易に保持することができる。
【0015】
また、突起が曲げ加工部として機能するものであると、射出成形(モールド成形)がなされる前にワークが曲げられる。この曲げられた部位に樹脂が固着されると、曲げられた部位にアンカー効果が発現し、樹脂が脱落し難くなる。すなわち、信頼性が向上して長期間にわたって使用することが可能な樹脂成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る樹脂成形品の全体概略斜視図である。
【
図3】積層体を得るための加圧装置の要部概略斜視図である。
【
図5】シートに接着剤を塗布するスクリーン塗布装置の要部概略斜視図である。
【
図6】シート積層品に対してトリミング加工を行い、トリミング品を得るトリミング装置の要部概略斜視図である。
【
図7】トリミング品に対して熱プレスを行い、ワークを得る熱プレス装置の要部概略斜視図である。
【
図8】ワークに対してモールド成形を行うための射出成形装置の要部概略縦断面図である。
【
図9】射出成形装置のキャビティ内における溶融樹脂の流動方向を示す模式説明図である。
【
図10】
図8の射出成形装置を構成する上型の要部拡大断面図である。
【
図11】
図8に示す射出成形装置に型締めがなされてキャビティが形成された状態を示す要部概略縦断面図である。
【
図12】キャビティ内を個別に流動した溶融樹脂同士が合流すると予測される箇所の要部拡大縦断面図である。
【
図13】押さえ部材が存在しないときの、キャビティ内を個別に流動した溶融樹脂同士が合流すると予測される箇所の要部拡大縦断面図である。
【
図14】樹脂成形品を得るためのラミネート装置の要部概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る樹脂成形品につき、その製造方法、及びそれを得るための射出成形装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る樹脂成形品10の全体概略斜視図であり、
図2は、
図1中のII-II線矢視断面図である。この樹脂成形品10は、積層体12(本体部)と、該積層体12を覆い、その上面(意匠面)のみを露出させるように開口した被覆樹脂層14とを有する。
【0019】
図2に示すように、積層体12は、芯材層16、クッション層17、表皮層18の3層構造であり、芯材層16を最下層、クッション層17を中央層、表皮層18を最上層としている。表皮層18の上面が、ユーザが視認可能な意匠面となる。最下層である芯材層16は、耐熱性に優れた(換言すれば、軟化点ないし融点が十分に高い)素材、例えば、プラスチックシート等の樹脂材からなる。この種の樹脂材の好適な例としては、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。
【0020】
クッション層17は3層中で最も厚みが大きく、積層体12の主層となる。すなわち、クッション層17の肉厚によって積層体12の肉厚が調節される。クッション層17は、押圧力が付与されたときには陥没し、除去されたときには即座に元の形状に復帰する程度に柔軟で弾性に富む。しかも、低密度である。このため、積層体12、ひいては樹脂成形品10に柔軟性をもたらすとともに、該樹脂成形品10をある程度の大きさとしながら、軽量化を図ることができる。なお、上記したような特性を示す素材としては発泡体が挙げられ、特に好適な具体例としてはウレタンフォームが挙げられるが、オレフィン系やシリコーン系の発泡体であってもよい。
【0021】
ウレタンフォームの軟化点ないし融点は、ポリカーボネートシートに比して低温である。すなわち、この場合、芯材層16は、その融点がクッション層17に比して高温であり、このために優れた耐熱性を示す。
【0022】
表皮層18は、例えば、布やエラストマー、紙等の柔軟な素材で形成することが可能であるが、合成皮革、人工皮革、天然皮革のうちの少なくともいずれか1種を選定することが好ましい。この場合、触感が良好であり、且つ高級感をもたらすとともに見栄えに優れる意匠面が得られるからである。
【0023】
積層体12には、長手方向中央から一端部側に偏倚された環状溝20が形成されるとともに、該環状溝20内に、環状溝20に対して相対的に突出した段部22が設けられる。段部22は、平面視で略長方形形状をなし、その四方の隅部には、断面略真円形状の有底穴24が形成される。
【0024】
段部22は、例えば、何らかの装飾品を設ける部位として用いることができる、有底穴24は、この装飾品を取り付けるためのピン等を刺入するためのものとして利用すればよい。
【0025】
環状溝20の底面、及び有底穴24の底面は、いずれも閉塞した壁面である。このため、意匠面に雨水等の水滴が付着したとしても、該水滴が環状溝20や有底穴24から樹脂成形品10の内部に浸入することが防止される。
【0026】
被覆樹脂層14は、積層体12の、意匠面(表皮層18)の裏面を覆う底部26と、積層体12の周縁部を囲繞する囲繞部28とからなる。すなわち、表皮層18の上面は被覆樹脂層14から露出しており、このため、上記したように、ユーザは露出した上面を意匠面として視認可能である。
【0027】
囲繞部28の内部には、積層体12の周縁部が埋入されている。換言すれば、囲繞部28は、周縁部の一部を内包(封入)した状態で該周縁部に固着している。この封入及び固着により、積層体12の周縁部と囲繞部28との間のシールがなされている。このシールにより、積層体12と被覆樹脂層14との間から樹脂成形品10の内部に水滴等が浸入することが防止される。
【0028】
被覆樹脂層14の素材としては、芯材層16に対して融着可能であるか、又は、バインダを介して接合可能であるものが選定される。具体的には、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂等が好適である。
【0029】
このような樹脂成形品10は、溶融樹脂の射出を伴うモールド成形によって被覆樹脂層14を作製することで得ることができる。以下、樹脂成形品10の製造方法につき説明する。
【0030】
はじめに、積層体12を作製する。このために、先ず、芯材層16、クッション層17、表皮層18となる芯材用シート102(
図4A参照)、クッション用シート104、
図3に示す表皮用シート106、及び第1接着用シート34a、第2接着用シート34bが切り出される。第1接着用シート34a上には表皮用シート106が重畳され、この状態で、加圧装置110を構成するコンベアベルト112上に載置される。加圧装置110は加圧ローラ114を有し、コンベアベルト112が周回動作すると、第1接着用シート34aと表皮用シート106の積層物が加圧ローラ114によって押圧される。その結果、第1接着用シート34aの一端面が表皮用シート106に接合して第1重畳体120が得られる。
【0031】
同様にして、第2接着用シート34bの一端面に芯材用シート102を接合し、その後、他端面にクッション用シート104を接合して
図4Aに示す第2重畳体122を得る。芯材用シート102とクッション用シート104の接合順序を逆にしてもよい。
【0032】
さらに、
図4Bに示すように、クッション用シート104の一端面に、第1重畳体120を構成する第1接着用シート34aの他端面を接合する。以上により、
図4Cに示すように、芯材用シート102(芯材層16)とクッション用シート104(クッション層17)の間に第2接着用シート34bが介在し、且つクッション用シート104(クッション層17)と表皮用シート106(表皮層18)の間に第1接着用シート34aが介在したシート積層品38が得られる。
【0033】
第1接着用シート34a、第2接着用シート34bのようなシート(テープ)状の接着剤に代替し、
図5に示すペースト接着剤130を用いることもできる。この場合には、スクリーン塗布装置132でペースト接着剤130の塗布(印刷)を行えばよい。
【0034】
この手法につき概略説明すると、スクリーン塗布装置132は、支持台134とスクリーン136を有する。支持台134には、ペースト接着剤130を塗布する塗布対象物、例えば、芯材用シート102が載置される。一方、ペースト接着剤130はスクリーン136上に供給され、該スクリーン136上を移動するスキージ138によって展開されるとともにスクリーン136を通過して芯材用シート102の一端面に所定のパターンで塗布される。
【0035】
次に、芯材用シート102の、ペースト接着剤130が塗布された一端面にクッション用シート104を重畳する。このようにして得られた半製品を、上記と同様に加圧ローラ114によって押圧し、芯材用シート102とクッション用シート104を接合する。
【0036】
同様にしてクッション用シート104の一端面にペースト接着剤130を塗布し、さらに、表皮用シート106を載置して重畳体を得る。この重畳体を、上記と同様に加圧ローラ114によって押圧すれば、クッション用シート104と表皮用シート106が接合されてシート積層品38(
図4C参照)が得られる。
【0037】
シート積層品38は、適宜の長さに切断される。このシート積層品38に対して、
図6に示すトリミング装置40にてトリミング加工(加工工程)が行われることにより、開口48と、該開口48の四方の隅部に連なる孔部50とが形成された略長穴形状のトリミング品42が切り出される。
【0038】
次に、
図7に示す熱プレス装置44にて熱プレスが行われる。その結果、トリミング品42に対し、熱プレス装置44の凹部成形部51に対応する凹部46が形成される。開口48及び孔部50は、この凹部46内に位置する。また、該熱プレスでは、トリミング品42の周縁部が曲げられる曲げ加工が行われる。これにより、凹部46、該凹部46内の開口48、開口48に連なる孔部50が形成されるとともに、周縁部が曲げられたワーク52が得られる。なお、4個の孔部50はワーク52の厚み方向、すなわち、前記シート積層品38の積層方向に沿って延在する。また、周縁部の曲げ方向は、芯材層16側である。
【0039】
なお、上記に代替し、凹部46、開口48及び孔部50を、熱プレスを行う際に形成するようにしてもよい。
【0040】
次に、射出成形によるモールド成形(樹脂層形成工程)を行う。
図8は、この射出成形を行うための射出成形装置60の要部概略縦断面図である。射出成形装置60は、第1金型としての下型62と、第2金型としての上型64とを有する。下型62は位置決め固定された固定型であり、上型64は図示しない昇降機構の作用下に下型62に対して接近又は離間する可動型である。
【0041】
下型62には、ランナを介してゲートに連なる2個の注入部66a、66bが形成される。注入部66a、66bは、ワーク52の長手方向の各端部に近接する位置で開口する。なお、
図9及び
図12に示すように、注入部66a、66bから射出された溶融樹脂SRは、それぞれ、矢印A、矢印Bで表す方向に個別に流動する。そして、注入部66a、66bの略中間点であるP1、P2にて合流すると推測される。
【0042】
流動する溶融樹脂SR同士が合流すると予測されるP1、P2に対応する部分には、押さえピン68(押さえ部材)がそれぞれ設けられる。押さえピン68は、ワーク52を芯材層16側から押さえて支持する。
【0043】
一方の上型64には、下型62に向かって突出した環状突起70が設けられる。この環状突起70の内方に、ワーク52を保持するための保持部72が画成される。また、上型64には、凹部46内に進入する環状凸部74が突出形成される。
【0044】
さらに、上型64には、4本のロッド75を有するシリンダ76が位置決め固定されるとともに、前記ロッド75の各先端に摺動ピン78(摺動部材)が設けられる。なお、
図8には、4本の摺動ピン78中の2本が示されている。前記ロッド75は、上型64に設けられたロッド孔79内で、キャビティ80(
図11参照)に対して接近又は離間する方向に変位することが可能である。勿論、これに追従して摺動ピン78も一体的に変位する。
【0045】
樹脂成形品10は、この射出成形装置60を用い、以下のようにして作製される。
【0046】
すなわち、先ず、上記のようにして得られたワーク52を、
図8に示すように保持部72に保持させる。このためには、ワーク52を、芯材層16が下側に臨む姿勢として保持部72近辺に搬送し、さらに、上型64に指向する押圧力を付加すればよい。ここで、ワーク52の表面積は、環状突起70で画成される保持部72の面積よりも若干大きく、このため、
図10に示すように、ワーク52の周縁部は環状突起70の若干外方に位置する。この状態で、ワーク52にさらに押圧力が付与されると、ワーク52の周縁部が環状突起70によって曲がる。すなわち、この時点で、ワーク52の周縁部に対してさらなる曲げ加工が施される。この曲げ加工により、ワーク52、ひいては樹脂成形品10が立体的な形状となる。
【0047】
その結果、ワーク52は、周縁部が環状突起70の形状に倣った形状となった状態で環状突起70内に押し込まれるとともに、表皮層18が上型64の天井面に当接し、且つ周縁部が環状突起70の内側側面に当接する。また、環状凸部74が、その外壁が凹部46の内壁に沿うように進入する。前記の押し込みにより、環状突起70からワーク52の周縁部に押圧力が作用するとともに、環状凸部74から凹部46の内壁に押圧力が作用するようになり、ワーク52が保持部72に保持される。
【0048】
また、シリンダ76が付勢され、ロッド75が下型62に指向して下降する。その結果、ワーク52に形成された孔部50に摺動ピン78が挿入され、その後に該孔部50から突出する。このようにして摺動ピン78が孔部50に挿入されることによって、ワーク52が一層効果的に上型64に保持される。
【0049】
次に、昇降機構が付勢され、上型64が下型62に向かって下降する。最終的に上型64が下型62に密着してさらに型締めがなされるとともに、
図11に示すようにキャビティ80が形成される。このとき、押さえピン68が、
図9に示すP1、P2でワーク52を押さえる。この状態を、
図12に示す。この押さえにより、ワーク52の一部が下型62に指向して押し出されることが防止される。
【0050】
次に、図示しない射出機構から溶融樹脂SRが射出される。溶融樹脂SRは、ゲートからランナを経て、注入部66a、66bからキャビティ80内に注入される。このとき、注入部66aから注入された溶融樹脂SRは矢印Aに従って流動し、注入部66bから注入された溶融樹脂SRは矢印Bに従って流動する。双方の溶融樹脂SRは、P1、P2、ないしその近傍で合流すると予測される(
図9参照)。
【0051】
合流点近傍では、ワーク52が、互いに相反する方向に流動する溶融樹脂SRから押圧を受ける。従って、押さえピン68が存在しない状況下では、
図13に示すように、両方向から押圧を受けた部位が合流点に向かって押し出され、座屈が発生する懸念がある。
【0052】
これに対し、本実施の形態では、押さえピン68によってワーク52を押さえている(
図12参照)。従って、P1、P2でワーク52が溶融樹脂SRによって両方向から押圧を受けても、ワーク52が押し出されることや、この結果として下型62に向かって撓むことが有効に防止される。すなわち、座屈が生じる懸念を払拭することができる。
【0053】
溶融樹脂SRの一部は、ワーク52の開口48を通過し、環状凸部74内に充填される。この部分の溶融樹脂SRが硬化することにより、環状溝20及び段部22が形成される(
図1参照)。なお、この充填の最中、ロッド75がキャビティ80から離間する方向に変位(上昇)する。これに追従して摺動ピン78が一体的に変位し、その変位跡に空間が形成される。溶融樹脂SRは、この空間にも進入する。
【0054】
摺動ピン78の先端は、孔部50から離脱することはない。このため、溶融樹脂SRの注入中にワーク52が位置ズレを起こすことが回避される。そして、摺動ピン78が孔部50内に残留することに基づき、段部22に有底穴24が形成される。以上のようにして、有底穴24が形成された段部22と、環状溝20とが形成される。
【0055】
結局、本実施の形態によれば、取付部として利用することが可能な段部22を、被覆樹脂層14をモールド成形する際に同時に形成することができる。すなわち、段部22を別工程や別装置で作製する必要はなく、段部22をワーク52に接合する必要もない。従って、設備投資の低廉化や、樹脂成形品10の製造コストの削減を図ることができる。
【0056】
しかも、段部22に形成された有底穴24は、上記の通り底面が閉塞されている。従って、有底穴24から樹脂成形品10の内部に水滴等が浸入する懸念が払拭される。
【0057】
また、溶融樹脂SRは、芯材層16の全体を覆うとともにワーク52の周縁部に回り込む。所定量の溶融樹脂SRの注入が終了した後に該溶融樹脂SRが冷却に伴って硬化することにより、芯材層16を覆う底部26と、ワーク52の周縁部を内包(封入)した囲繞部28とを有する被覆樹脂層14が形成され、樹脂成形品10が得られるに至る。
【0058】
以上の過程において、溶融樹脂SRは、クッション層17に比して耐熱性に優れる(高融点である)芯材層16に主に接触する。このため、クッション層17が溶融樹脂SRの熱に曝されて溶融することが回避されるので、樹脂成形品10を、所定の厚みを有し、且つ柔軟で軽量なものとして得ることができる。
【0059】
また、囲繞部28は、予め曲げられたワーク52の周縁部を包み込む。この曲げられた周縁部が、囲繞部28に対していわゆるアンカー効果をもたらす。このため、積層体12(ワーク52)に対して被覆樹脂層14が脱落し難くなる。従って、樹脂成形品10の信頼性が向上するとともに、該樹脂成形品10を長期間にわたって使用することができる。
【0060】
その後、型開きを行い、樹脂成形品10を上型64から取り外す。取り外しには、例えば、図示しないイジェクタピンによって樹脂成形品10を押し出せばよい。
【0061】
囲繞部28の裏面には、押さえピン68に対応する位置に、意匠面側に向かって陥没した跡穴が形成される。この跡穴は、通常はユーザから視認されない裏面であるので、樹脂成形品10の美観を損ねることはない。
【0062】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
例えば、樹脂成形品10が、スマートキーの筐体以外の物品として用いることができることは勿論である。電波輻射が問題とならない用途では、芯材層16を金属で構成するようにしてもよい。
【0064】
さらに、注入部は1個であってもよいし、3個以上であってもよい。いずれにしても、溶融樹脂SRの流動についてシミュレーションを行い、合流が予測される点に押さえピン68を配置すればよい。注入部が1個であるとき、溶融樹脂SRは、一旦分岐した後に合流する。この合流が予測される点に、押さえピン68を配置する。
【0065】
注入部66a、66bの位置が相違する射出成形装置の場合にも同様に、溶融樹脂SRの流動についてシミュレーションを行い、合流が予測される点に押さえピン68を配置する。これにより、ワーク52に座屈が生じることを有効に回避することができる。
【0066】
さらに、シート積層品38を、帯状シート材から作製することも可能である。この場合、
図14に示すラミネート装置29を用いればよい。
【0067】
ラミネート装置29は第1主ロール30a~第3主ロール30cを有する。これら第1主ロール30a~第3主ロール30cには、芯材層16、クッション層17、表皮層18となる芯材用シート102、クッション用シート104、表皮用シート106が帯状シート材としてそれぞれ巻回されている。また、第1主ロール30aと第2主ロール30bの間、第2主ロール30bと第3主ロール30cの間には、第1副ロール32a、第2副ロール32bがそれぞれ配設され、これら第1副ロール32a及び第2副ロール32bには、第1接着用シート34a、第2接着用シート34bがそれぞれ巻回される。すなわち、第1主ロール30a~第3主ロール30cは原材料供給ロールであり、第1副ロール32a及び第2副ロール32bは接着剤供給ロールである。
【0068】
第1主ロール30a~第3主ロール30c、第1副ロール32a及び第2副ロール32bのシート送り出し方向下流側には、1組のプレス用ローラ36a、36bが配設される。各シート102、104、106は、これらプレス用ローラ36a、36bによってプレスされるとともに、第1接着用シート34a、第2接着用シート34bを介して接合する。
【0069】
そして、第1主ロール30a~第3主ロール30cから、芯材用シート102、クッション用シート104、表皮用シート106がそれぞれ送り出されるとともに、第1副ロール32a及び第2副ロール32bから第1接着用シート34a、第2接着用シート34bが送り出される。第1副ロール32aから送り出された第1接着用シート34aは芯材用シート102(芯材層16)とクッション用シート104(クッション層17)との間に介在し、第2副ロール32bから送り出された第2接着用シート34bはクッション用シート104(クッション層17)と表皮用シート106(表皮層18)との間に介在する。
【0070】
5枚のシート材は、プレス用ローラ36a、36bで集合し、且つプレス用ローラ36a、36bを通過する際にプレスされる。このプレスにより、芯材用シート102とクッション用シート104が第1接着用シート34aを介して互いに仮接合されるとともに、クッション用シート104と表皮用シート106が第2接着用シート34bを介して互いに仮接合する。これにより、シート積層品38(
図4C参照)が得られる。
【0071】
シート積層品38を切り出してトリミング品42とした後、上記と同様に熱プレス及び曲げ加工、モールド成形を行うことにより、芯材層16、クッション層17、表皮層18を含む積層体12と被覆樹脂層14を有する樹脂成形品10が得られる。
【0072】
シート積層品38を得るには、いわゆるコータとして知られる塗工機を用いることも可能である。この場合、コータによって各シート102、104、106にペースト接着剤130をコーティングするように塗布し、その後、シート102、104、106同士を接合すればよい。
【0073】
シート積層品38を得るべく、表皮用シート106をバーナ等で炙るようにしてもよい。この場合、表皮用シート106の、溶融した一面にクッション用シート104を圧着する。この場合、ペースト接着剤130ないし接着用シート34a、34bを用いることなく表皮用シート106とクッション用シート104を接合することができるので、材料コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0074】
10…樹脂成形品 12…積層体
14…被覆樹脂層 16…芯材層
17…クッション層 18…表皮層
20…環状溝 22…段部
24…有底穴 26…底部
28…囲繞部 29…ラミネート装置
34a、34b…接着用シート 36a、36b…プレス用ローラ
38…シート積層品 40…トリミング装置
42…トリミング品 44…熱プレス装置
46…凹部 48…開口
50…孔部 52…ワーク
60…射出成形装置 62…下型
64…上型 66a、66b…注入部
68…押さえピン 70…環状突起
72…保持部 74…環状凸部
76…シリンダ 78…摺動ピン
80…キャビティ 102…芯材用シート
104…クッション用シート 106…表皮用シート
110…加圧装置 114…加圧ローラ
120、122…重畳体 130…ペースト接着剤
132…スクリーン塗布装置 136…スクリーン
138…スキージ SR…溶融樹脂