(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】増強されたパン製造酵母
(51)【国際特許分類】
C12N 1/18 20060101AFI20220422BHJP
A21D 2/08 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C12N1/18
A21D2/08
(21)【出願番号】P 2019502259
(86)(22)【出願日】2017-07-19
(86)【国際出願番号】 FR2017051970
(87)【国際公開番号】W WO2018015660
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-04-27
(32)【優先日】2016-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【微生物の受託番号】CNCM CNCM I-5088
(73)【特許権者】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】バルトルッチ ジャン-シャルル
(72)【発明者】
【氏名】フォンシ-ペノ エヴェリン
(72)【発明者】
【氏名】インベール-ポドゴルスキ ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】カプラル フローレンス
(72)【発明者】
【氏名】パラジー ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】キポール-イスナール アン-ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】トリオン ヴァレリー
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/092208(WO,A1)
【文献】特開2004-049217(JP,A)
【文献】特開2010-022322(JP,A)
【文献】Applied and Environmental Microbiology, ,2002年,Vol.68, No.10,p.4780-4787
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/18
A21D 2/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2016年5月19日に、ブダペスト条約に準拠して番号I-5088の下で、Collection Nationale de Cultures de Micro-organismes(CNCM)に寄託した、酵母株。
【請求項2】
クリーム酵母形態であることを特徴とする、請求項
1に記載の酵母
株。
【請求項3】
請求項
2に記載の酵母
株の、パン製造方法における使用。
【請求項4】
前記パン製造方法がスポンジおよび生地のパン製造方法であることを特徴とする、請求項
3に記載の使用。
【請求項5】
請求項
3又は4に記載の酵母をパン製造方法に用いることによって得られる、ベーキング生地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン酵母としても知られるパン製造酵母株に関する。かかる菌株は、パン製品の製造において特に興味深い。本発明は、特に、2016年5月19日にCNCM[French National Collection of Microorganism Cultures]に番号I-5088の下で寄託した酵母株に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的規模でのパン製造製品の製造は、「パン」酵母の使用を必要とする。かかる酵母は、種々のパン製造プロセスのための効率的な大規模発酵を可能にしなければならない。
【0003】
「スポンジおよび生地」タイプのプロセスは、工業分野で極めて広く使用されているパン製造プロセスである。このプロセスの間、パン製造は、2つの発酵ステップで実施される:第1の「スポンジ」ステップ、それは、使用した全小麦粉の半分超、水の一部、および酵母の全部または一部を含む生地の第1の発酵に相当する、ならびに第2の「生地」発酵ステップ、ここでスポンジを小麦粉の残り、水の残り、および生地の他の成分と合わせる。かかるパン製造プロセスは、特に生地局面の間に、特にガス(CO2)の強力な放出を得ることを可能にする高い発酵能力を有する株の使用を必要とする。
【0004】
現時点で、このタイプの発酵に使用される基準株は、良好な発酵能力を有し、工業利用に適合可能である、以下、RSCYと称する基準Red Star Cream Yeastの下で販売されている酵母に対応する株である。それにもかかわらず、工業利用スキームでは、以下のことが極めて有利である:
- さらに高い発酵能力を有する酵母を開発する;および/または
- 使用する酵母の量を減少させる;
および/または
- 生地の発酵に要する時間を短縮する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
この文脈において、本発明者らは、RSCY基準株と比較して改善された発酵能力を有するいくつかの酵母株を開発した。
【0006】
本発明の文脈において開発された酵母は、RSCY基準株の突然変異誘発によって得られ、それらによってRSCY基準株と比較して生地において放出されるガスの量を約10%増加させること、および/または使用される酵母固体の量を10%減少させること、および/または発酵に必要な時間を10%減少させることが可能になるため、選択した。
【0007】
本発明者らは、特に、ブダペスト条約に準拠して番号I-5088の下で、CNCM (Collection Nationale de Cultures de Micro-organismes,25/28 rue du docteur ROUX,F-75724 Paris Cedex 15)に2016年5月19日に寄託した酵母株を開発した。この株は、基準株で記録されたものよりはるかに高い、スポンジおよび生地スキームでの発酵能力を有し、特に、RSCY株と比較して9~10%の放出されるガス量の増加を伴い、これは、5~12%短い期間である。
【0008】
したがって、第1の態様において、本発明は、2016年5月19日にCNCMにおいてブダペスト条約に準拠して番号I-5088の下で寄託した株である酵母株に関する。
【0009】
「酵母株」という表現は、酵母細胞の比較的均質な集団を意味する。酵母株は、クローンから得られ、クローンは、単一の酵母細胞から得られる細胞の集団である。
【0010】
このように改変された酵母株は、工業的規模のパン製造プロセスで使用することができるので、特に有利である。
【0011】
本発明はまた、上記の酵母株からの酵母に関する。
【0012】
本発明による酵母株は、RSCY基準株の突然変異誘発のステップ、続いてその発酵能力に従ってこのようにして得られた突然変異体の選択のステップを含むプロセスによって得られた。
【0013】
突然変異誘発は、突然変異を酵母の遺伝物質に、酵母を突然変異誘発物質にさらすことによって導入することにある。本発明の文脈において使用され得る突然変異誘発物質の例は、UV放射線である。
【0014】
突然変異誘発プログラムにより、極めて多数の突然変異体、実質的に10,000個の突然変異体の製造がもたらされた。前記突然変異体は、常に基準株と比較したこれらの突然変異体の発酵力の比較に基づく、いくつかのレベルの評価を含む複雑な選択プロセスを統合した。
【0015】
最後に、スポンジおよび生地において、しかしまた直接的なパン製造スキームにおける適用において最良のCO2放出を有する突然変異体が、保持された。
【0016】
パン製造に使用する酵母は、いくつかの形態であり得る。例えば、本発明による酵母は、クリーム酵母、圧搾酵母、乾燥酵母または凍結酵母の形態であり得る。
【0017】
新鮮な酵母は、乾燥酵母と比較して高い水分含量によって特徴づけられる。新鮮な酵母は、クリーム酵母および圧搾酵母を包含する。
【0018】
「液体酵母」としても知られるクリーム酵母は、クリームタイプの粘度を有する酵母細胞の水性懸濁液である。生きた酵母細胞のこれらの水性懸濁液は、一般に、少なくとも12重量%、特に12~40重量%の固形分を有する。クリーム酵母は、例えば、12~25重量%、好ましくは14~22重量%の固形分を有することができる。
【0019】
圧搾酵母は、コンパクトなブロックに圧縮された酵母、およびまた砕いた圧搾酵母を含む。「酵母バー(yeast bar)」としても知られるコンパクトブロック中の圧搾酵母は、26%~35%の固形分によって特徴づけられる。砕いた圧搾酵母自体は、21%~35%の水分含量を有する。
【0020】
乾燥酵母は、約92%を超える固形分によって特徴づけられる。
【0021】
凍結酵母は、74%~80%の固形分によって特徴づけられる。
【0022】
本発明はまた、パン製造製品を製造するための、上記の酵母株の使用に関する。
【0023】
1つの特定の実施形態では、本発明による酵母は、クリーム酵母の形態である。
【0024】
パン製造は、小麦粉をパンに変換することにあるすべての作業をまとめている。
【0025】
本発明による酵母を、直接的な(「NO-TIME DOUGH」)スキームタイプまたは間接的な(「SPONGE and DOUGH」)スキームタイプのパン製造プロセスにおいて使用することができる。
【0026】
直接的なスキームは、事実上、集中的な混練と生地の分割との間に最初の発酵を含まず、得られた生地片を、35℃~40℃の型内で発酵させ、次いで焼く。
【0027】
本発明による酵母は、パン製造プロセス、特にスポンジおよび生地タイプのパン製造プロセスにおいて特に有効である。このタイプのプロセスは、例えば、Sosland Publishing Co.によって出版されたE.J.Pylerによる参考書”Bakers Handbook”に記載されている。
【0028】
したがって、別の態様によれば、本発明は、スポンジおよび生地タイプのパン製造プロセスにおける、上記の酵母株の使用に関する。
【0029】
「スポンジおよび生地」スキームは、2つの発酵ステップを含むパン製造プロセスである:
- 「スポンジ」と呼ばれる第1ステップ、それは、使用する全小麦粉の50~70%、水の一部および酵母の全部または一部を含む生地を、数時間、一般に3~6時間、およびより特定的には3~4時間発酵させることに相当する;ならびに
- 「生地」と呼ばれる第2のステップ、ここで上記発酵後に得られたスポンジを、小麦粉の残り、水の残りおよび生地の他の成分と合わせ、このようにして生成した混合物を混錬し、分割し、鋳型中に配置し、発酵させ、次いで焼き、この第2の鋳型内発酵は補強加工に対応し、その継続時間を補強時間(Proof Time)とする。
【0030】
パーセンテージを、「ベーカー」パーセンテージとして表し、「ベーカー」パーセンテージは、成分の比率に適用される計算の方法であり、ここで小麦粉の総重量は、常に100%を表し、生地の他の成分の重量を、小麦粉のこの重量に対して計算する。
【0031】
本発明は、したがって、本発明による酵母による発酵のステップを含むスポンジおよび生地タイプのパン製造方法に関する。
【0032】
1つの特定の実施形態によれば、本発明は、本発明による酵母による発酵のステップを含む、特にスポンジおよび生地タイプのパン製造方法であって、ベーキング生地の補強時間が、RSCY基準株による前記ベーキング生地の発酵に必要な時間と比較して8%未満、特に10%未満、さらにより特定的には12%未満であることを特徴とする、前記方法に関する。
【0033】
別の特定の実施形態によれば、本発明は、本発明による酵母による発酵のステップを含む、特にスポンジおよび生地タイプのパン製造方法であって、ベーキング生地の発酵に必要な酵母の量が、RSCY基準株での前記ベーキング生地の発酵に必要な酵母の量と比較して10%未満であることを特徴とする、前記方法に関する。
【0034】
本発明はまた、本発明による酵母を含むベーキング生地に関する。特に、本発明は、少なくとも10%が上記の酵母である酵母を含むベーキング生地に関する。1つの特定の実施形態では、本発明によるベーキング生地は、少なくとも25%、50%または75%が上記の酵母である酵母を含む。
【0035】
ベーキング生地は、甘くしていない生地、わずかに甘くした生地、または甘くした生地であってよく、糖は、通常、糖シロップまたはスクロースである。
【0036】
「わずかに甘くした生地」という表現は、小麦粉の重量に対して14重量%未満、好ましくは小麦粉の重量に対して12重量%未満またはそれに等しい添加した糖の含有量を有する生地を示す。
【0037】
本発明はまた、本発明による酵母による発酵のステップを含む、ベーキング生地の調製方法に関する。
【0038】
1つの特定の実施形態によれば、本発明によるベーキング生地の調製方法は、スポンジおよび生地タイプである。
【実施例】
【0039】
発酵能力の高い酵母を得る
UV衝撃による突然変異誘発のプログラムを、RSCY基準株に対して実施し、それによって多数の突然変異体の産生が生じた。前記変異体は、常にRSCY基準株と比較したこれらの株の発酵力の比較に基づく、いくつかのレベルの評価を含む複雑な選択プロセスを統合した。したがって、このプロセスによって、評価した10000個の突然変異体の中のI-5088株の選択が可能になった。
【0040】
この選択プロセスから生じたI-5088株を、20L発酵槽で製造し、スポンジおよび生地のパン製造で評価した。2つの試験キャンペーンを、実施した。各試験キャンペーンについて、3つのタンクを、I-5088株で独立して調製した。操作を、RSCY基準株を用いて同様に行った。
【0041】
使用したスポンジおよび生地パン製造調合を、以下の表に示す。この調合は、すべての酵母がスポンジ内に配置される状況に対応する。量を、ベーカーのパーセンテージ、すなわち使用した小麦粉の量に対するパーセンテージとして表す。酵母の量を、各クリーム酵母について測定した固形分に依存して調整し、常に、混練機において小麦粉を基準にして1.275%の量の酵母固形分が得られるようにする。スポンジ中の注水の量を、酵母の量に応じて、2種の合計が常に42.5%に等しいように調整する。
【0042】
【0043】
以下のパン製造図式は、スポンジを調製するためのものであった:
・Hobart混練機のジャケットを、22℃で水で焼き戻す。
・使用する注水は、24℃±1℃である。
・標的生地温度は、25℃である。
・混練を、Mac Duffyタンクを備えたHobart混練機において、以下の図式に従って行う。
○乾燥成分を、1分間予備混合する。
○液体成分を、次いで包含させる。
○速度1で1分
○速度2で2分
・混練後、生地をタンクから取り出し、混合ボウル中に配置し、それを、30℃および90% RHに調節されたチャンバーに4時間配置する。これは、バルク発酵である。
【0044】
以下のパン製造図式は、生地を調製するためのものであった:
・さらなる混練を、以下のように行う:
○生地の成分を、混練機中に配置する。
○速度1で1分
○スポンジの包含
○速度1で1分
○速度2で3分。
・混練機から排出されるときに、バルク発酵時間は5分であり、その終了時に、生地を分割し(1混練機当たり516gの3片)、手動でボールに丸める。
・5分間緩めた後、生地片を水平シェーパーで成形し、成形した生地片を、43℃および90%相対湿度(RH)に調節されたチャンバー内に配置された型内に配置する。
・補強と呼ばれるこの最終的な発酵局面の終了時に、ベーキングを、180℃に予熱したReedトレーオーブン中で23分間行う。
・パンを、次いでオーブンから取り出し、1時間掃引する。
【0045】
3つのタイプの測定を、発酵活性を定量するために実行する:
1.生地の混練の終了時に、50gの各混練した生成物を試料採取し、Risograph(登録商標)によるガス製造の測定を意図するポット中に配置する。2時間後のガス蓄積(DG2H)を、利用する。
2.型を43℃に調節されたチャンバー中に導入する時点で、鋳型を各型上に配置し、その高さは型の高さを1.2cm上回る。型内に存在する生地がこの高さに達するのに必要な時間を、測定する。この時間は、補強時間(PT)として知られており、それを、分単位で測定する。
3.特定の生地片については、ベーキングを、一定時間後に行う。このベーキングから生じたパンの体積および重量を、測定する。重量に対する体積の比によって、一定の発酵時間の後に、各パンの比体積(SV)を推定することが可能になる。
【0046】
I-5088株から製造したクリームで得られた結果は、RSCY基準株で得られた結果に関連する。以下の表において、結果を、したがってパーセンテージ差異として表す。
【0047】
【0048】
これらの結果は、I-5088株によって、RSCY基準株と同じ条件下で製造したクリームと比較して、5~8%の補強時間の増加および9~11%の放出されたガス量の増加を得ることが可能になることを実証する。