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特許7062006生物由来の前駆体から炭素繊維を製造する方法及び得られた炭素繊維
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  • 特許-生物由来の前駆体から炭素繊維を製造する方法及び得られた炭素繊維 図1
  • 特許-生物由来の前駆体から炭素繊維を製造する方法及び得られた炭素繊維 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】生物由来の前駆体から炭素繊維を製造する方法及び得られた炭素繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/16 20060101AFI20220422BHJP
   D01F 9/17 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
D01F9/16
D01F9/17
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019521438
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 FR2017052952
(87)【国際公開番号】W WO2018078288
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】1660540
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コルゼンコ,アレクサンデール
(72)【発明者】
【氏名】コロミーエツ,タチアナ
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-144625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0087120(US,A1)
【文献】特表2015-537125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0122515(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/39
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン又はリグニン誘導体(20)で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を得るために、水和セルロース繊維又は繊維集合体を含む構造化前駆体(10)とリグニン又はリグニン誘導体を含む非構造化前駆体(15)との組合せ(100)であって、前記非構造化前駆体(15)が、組合せ工程(100)が起こる温度で15,000mPa・s未満、好ましくは10,000mPa・s未満の粘度を有する溶液の形態である組合せ(100)を含むことを特徴とする高炭素質繊維又は繊維集合体(2)を製造する方法であって、以下の工程、すなわち
-リグニン又はリグニン誘導体の堆積物(30)で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を得るために、前記リグニン(20)で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体の熱安定化及び寸法安定化(200)の工程、及び
-高炭素質繊維又は繊維集合体(2)を得るために、リグニン堆積物(30)で被覆された前記水和セルロース繊維又は繊維集合体の炭化(300)の工程
をさらに含む製造方法。
【請求項2】
前記構造化前駆体(10)が、撚られたマルチフィラメント、撚られていないマルチフィラメント、不織繊維集合体、又は織繊維集合体を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記非構造化前駆体(15)が、1~50重量%、好ましくは5~15重量%のリグニン又はリグニン誘導体を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記非構造化前駆体(15)が、水溶液、有機溶液、又は両方の混合物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記構造化前駆体(10)が、その直径が0.5μm~300μm、好ましくは1μm~50μmである少なくとも1つの水和セルロース繊維を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記構造化前駆体(10)及び/又は前記非構造化前駆体(15)が、カーボンナノチューブを含み、該カーボンナノチューブが、0.0001重量%~10重量%、好ましくは0.01重量%~1重量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記組合わせ工程(100)が含浸であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記組合わせ工程(100)並びに熱安定化及び寸法安定化工程(200)が、1回以上繰り返されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記炭化工程(300)の前に、以下の工程、すなわち、
-リグニン堆積物(30)で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を、少なくとも1つの難燃性化合物を含む水溶液と接触させるサイジング工程(210)であって、前記難燃性化合物が、リン酸塩、酢酸塩、塩化物及び尿素から選択され得る工程、及び
-サイジング後の乾燥工程(220)
をさらに含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記サイジング工程(210)及びサイジング後の乾燥工程(220)が、1回以上繰り返されることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記炭化工程(300)の後に黒鉛化工程(400)をさらに含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記炭化工程(300)の後に、少なくとも1つのシラン若しくはシラン誘導体及び/又は少なくとも1つのシロキサン若しくはシロキサン誘導体を含むことができる少なくとも1つの有機成分を含む溶液と前記高炭素質繊維又は繊維集合体(2)を接触させることを含むサイジング工程(500)をさらに含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記熱安定化及び寸法安定化工程(200)の後に得られるリグニン堆積物(30)で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体における、リグニン又はリグニン誘導体の重量に対する繊維の重量の比が1/2~100/1であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記堆積物が、0.50重量%~50重量%、好ましくは2重量%~30重量%の難燃性化合物を含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項15】
前記炭化工程(300)の後に得られる高炭素質繊維又は繊維集合体(2)が、0.20~1.95g/cm、好ましくは1.45~1.60g/cmの密度を有することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法によって得られる高炭素質繊維又は繊維集合体(2)。
【請求項17】
請求項16に記載の高炭素質繊維又は繊維集合体の使用であって、熱可塑性又は熱硬化性複合材料で作られた部品の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の分野に関し、より詳細には、特に航空学、自動車、風力エネルギー、船舶、建築、スポーツの分野で使用され得る熱可塑性又は熱硬化性複合材料で作られた部品の製造のための、生物由来の前駆体から製造された炭素繊維に関する。本発明は、高炭素質繊維又は高炭素質繊維集合体の製造方法、及びこのような製造方法により得られる前記繊維又は繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維市場は急成長している。近年、炭素繊維産業は様々な用途の要求に応えるために着実に成長している。現在、市場は約60kt/年と推定されており、2020~2025年には150~200kt/年に成長すると予想されている。この力強い成長予測は、主に航空宇宙、エネルギー、建築、自動車及びレジャー分野で使用される複合材料への炭素繊維の導入に関連している。
【0003】
炭素繊維は一般に、優れた引張特性、高い熱安定性及び化学的安定性、良好な熱伝導性及び電気伝導性、並びに優れた耐変形性を有する。これらは、通常ポリマー樹脂(マトリックス)を含む複合材料の強化材として使用することができる。このように強化された複合材料は、望ましい軽さを維持しながら、優れた物理的特性を示す。軽量化は、輸送にとってはCO排出量削減の重要な施策の一つである。自動車産業及び航空宇宙産業では、同等の性能で、より大幅な軽量化を実現できる化合物に対する需要が増している。
【0004】
これに関連して、自動車分野及び航空宇宙分野、より広くは産業界全体としても高性能材料を必要としているが、コスト的な制約を受けている。実際、複合材料の性能は、現在、使用されている原材料及び製造方法に起因する高コストという問題点を抱える炭素強化繊維を採用していることと部分的に関係している。
【0005】
今日、炭素繊維は主にアクリル前駆体から作られている。ポリアクリロニトリル(PAN)は、炭素繊維の製造に現在最も広く使用されている前駆体である。つまり、PANからの炭素繊維の製造は、PAN系の前駆体の重合工程、繊維紡糸、熱安定化、炭化及び黒鉛化を含む。炭化は、窒素雰囲気下、1000~1500℃の温度で行われる。これらの工程の終わりに得られる炭素繊維は、90%の炭素、約8%の窒素、1%の酸素及び1%未満の水素を含む。黒鉛化と呼ばれる追加の工程が行われる時もある。この工程は一般に、2500~3000℃の温度を必要とする。この場合、最終工程は、99%の炭素からなる材料を得ることであり、これはかなり可鍛性を高めるが、耐性を低くもする。炭化及び黒鉛化のこれら2つの工程は非常に高い温度を必要とし、したがってエネルギーを消費する。前駆体としてPAN繊維を有する炭素繊維をベースとする複合材料を、より広範に使用する際に障害となる要因は、そのコストであり、それは、部分的には、石油、及び生産ライン、特に非常に複雑な温度上昇の管理のコストに関係する。
【0006】
ピッチ前駆体も開発されたが、アクリル前駆体と同様に、それらは化石資源を消費し、炭化工程及び黒鉛化工程中に必要とされる高温に関連するエネルギー消費をもたらす。
【0007】
炭素繊維の価格を下げる目的で、提案された解決策の一つは、石油から誘導された基本要素(例えば、PAN又はピッチ)を、木材中に含まれるセルロース又はリグニン等のバイオ材料で置き換えることであった。前駆体としてセルロースを使用する炭素繊維の製造コストは、PANを用いた繊維の製造コストよりもはるかに低い。この点に関して、いくつかのセルロース前駆体が評価された。セルロースベースの前駆体は、良好に構造化された炭素構造を生成するという利点を有するが、一般に、満足のいく炭素収率を達成していない。
【0008】
しかし、先行技術には、より環境に優しい繊維製造方法がある。2014年5月1日に出願人によって出願された文献WO2014064373号は、生物由来の前駆体から、カーボンナノチューブ(CNT)がドープされた炭素繊維を連続的に製造する方法を記載する。生物由来の前駆体中にCNTが存在すると、炭化中の前駆体の炭素収率を増加させ、また炭素繊維の機械的特性を向上させることが可能となる。生物由来の前駆体は、水和セルロース(例えば、ビスコース、リヨセル、レーヨン等)を形成するために、溶解及び凝固/紡糸によって繊維の形態に変換されるセルロースであってもよい。そのような方法により、生物由来の前駆体から連続した均一なフィラメントの生成が可能となる。それにもかかわらず、この方法は、600℃までの温度上昇を伴う炭化工程、及び2000~3000℃、好ましくは2200℃の温度での黒鉛化工程に依然として基づいており、必要とされる高温に関連するエネルギーの対応する消費を生じる。
【0009】
リヨセル(木材又は竹由来のセルロース繊維)及びナノ複合材料(グラフェン)を含む前駆体材料から炭素繊維を製造する方法を記載する文献KR20120082287号を参照することも可能である。
【0010】
改良された特性及びより低い製造コストを提供する炭素繊維の製造のためのセルロース前駆体材料を調製する方法を記載するCN1587457号も参照することができる。セルロースの調製は、煤煙ナノ粒子をセルロース溶液に入れることを含む。
【0011】
同様に、米国特許出願公開第2011/285049号は、10重量%以下、好ましくは0.5~1.5%に相当する分散カーボンナノチューブを含む連続リグニン繊維を含む前駆体材料から炭素繊維を製造する方法を記載する。リグニンとカーボンナノチューブを混合し、溶融状態まで加熱して押出、紡糸する。この方法は、前駆体材料のサイジング工程を提供しない。
【0012】
しかし、上記の方法は全て、炭化及び黒鉛化の工程を実施する前に充填剤に添加されるセルロース又はリグニンをベースとする前駆体の使用に依存する。これらの方法は、炭素収率を上げ、及び/又はこれらの炭素繊維で作られる複合材料部品を軽量化しようとする場合、満足のいくものではない。さらに、炭化工程及び黒鉛化工程は、前記繊維又は繊維集合体、及びこれらの繊維で製造される複合材料部品の製造コスト削減の達成を目指す観点からは依然として高すぎる温度で慣例的に実施されている。
【0013】
したがって、既存の方法で遭遇する問題に対処でき、i)繊維ベースのより軽い炭素材料を製造するための密度の低下、ii)炭素収率の高さ、iii)製造コストの削減、及びiv)炭素繊維の容易な転換を可能にすることができる、炭素繊維を製造するための前駆体及び方法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2014/064373号
【文献】韓国特許出願公開第20120082287号明細書
【文献】中国特許出願公開第1587457号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/285049号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明は、先行技術の問題点を克服することを目的とする。特に、本発明は、工程の数を減らし、実施が容易である炭素繊維の製造方法を提供し、特に炭化及び黒鉛化の工程に関連するエネルギー経費の削減によってコストを抑えることを目的とする。
【0016】
本発明はさらに、非常に機械的に安定であり、生物由来の材料から慣用的に得られる炭素繊維の場合よりも高い炭素収率を提供する、高炭素質繊維又は高炭素質繊維集合体を提供することを目的とする。さらに、本発明の高炭素質繊維は軽く、従来の炭素繊維よりも低い密度を有する。望ましくは、本方法は、炭素繊維織物に織り込まれた炭素繊維集合体を迅速かつ低コストで形成するために、組織化され、炭化されない繊維集合体、例えば、リヨセル、ビスコース、レーヨンに実施することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明は、リグニンで被覆された水和セルロース繊維又は水和セルロース繊維集合体を得るために、水和セルロース繊維又は水和セルロース繊維集合体を含む構造化前駆体と、組み合わせ工程が行われる温度で15,000mPa.s-1未満、好ましくは10,000Pa.s-1未満の粘度を有する溶液の形態でリグニン又はリグニン誘導体を含む非構造化前駆体との組み合わせを含むことを主な特徴とする、高炭素質繊維又は高炭素質繊維集合体を製造する方法であって、以下の工程、すなわち
-リグニン堆積物で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を得るために、リグニンで被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体の熱安定化及び寸法安定化工程、並びに
-高炭素質繊維又は繊維集合体を得るために、リグニン堆積物で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体の炭化工程
を含む方法に関する。
【0018】
生物由来の前駆体をベースとして、高炭素質炭素繊維又は高炭素質炭素繊維集合体を製造するこの新しい製造方法は、同等の特性を有する材料を製造するために必要とされるエネルギーを削減し、先行技術の方法で観察されるよりも高い炭素収率を得、低密度を有する繊維を形成する等の多くの利点を有する。
【0019】
この方法の他の任意選択の特徴によると、
-構造化前駆体は、撚られたマルチフィラメント、撚られていないマルチフィラメント、不織繊維集合体、又は織繊維集合体を含む。実際、本発明の方法は、炭素繊維集合体(例えば、織物)の製造コストを削減するという利点を有する。例えば、本発明の方法に関連して、水和セルロース繊維(例えば、ビスコース、リヨセル(lycell)、レーヨン)で作られた布を製造し、それを本発明による製造方法に直接付して、高炭素質繊維集合体を形成することが可能である。
-非構造化前駆体は、1~50重量%の間、好ましくは5~15重量%の間のリグニン又はリグニン誘導体を含む。リグニンは、広く利用可能でありながら十分に活用されていない低コストの資源であるが、この方法により、産業の経済的需要を満たすことが可能となる。さらに、このような濃度では、水和セルロース繊維は、繊維の変形又は混合を引き起こすことなく、リグニン堆積物で完全に被覆される。
-非構造化前駆体は、水溶液、又は有機溶液、又は両者の混合物である。これらの代替案により、使用されるリグニン又はリグニン誘導体、及び任意の添加されるカーボンナノチューブに非構造化前駆体を適合させることが可能となる。好ましくは、非構造化前駆体は、リグニン又はリグニン誘導体の含水アルコール溶液である。
-構造化前駆体は、その直径が0.5μm~300μmの間、好ましくは1μm~50μmの間である少なくとも1本の水和セルロース繊維を含む。本発明は、広範囲の水和セルロース繊維直径に適合され得るという利点を有する。
-構造化前駆体及び/又は非構造化前駆体はカーボンナノチューブを含み、該カーボンナノチューブは0.0001重量%~10重量%の間、好ましくは0.01重量%~1重量%の間の濃度で存在する。前駆体の一方又は両方へのカーボンナノチューブ(CNT)の添加により、得られる繊維の炭素収率を改善することが可能となる。実際、このような物質をリグニン又はリグニン誘導体に添加すると、リグニン又はリグニン誘導体は結合剤として作用し、結果として得られる炭素繊維に効果的に挿入されるCNTの量が増加する。
-組合せ工程は含浸を含む。含浸は、工業的に容易に実施できる方法であるという利点を有する。
-組合せ工程並びに熱安定化及び寸法安定化工程は1回以上繰り返される。これは、炭素収率を上げ、得られる繊維の直径を大きくし、及び/又はそれらの密度を低下させることが可能であるので、特に有利である。
-前記製造方法は、炭化工程の前に、以下の工程をさらに含む。
・前記繊維又はリグニンで被覆された水和セルロース繊維集合体を、少なくとも1つの難燃性化合物を含む水溶液と接触させるサイジング工程であって、該難燃性化合物が、カリウム、ナトリウム、リン酸塩、酢酸塩、塩化物、尿素から選択され得る工程、及び
・サイジング後の乾燥工程。
これには、得られた炭素繊維の物理化学的特性を強化するという利点がある。実際、リグニン又はリグニン誘導体は難燃性を有するが、少なくとも1つの難燃性化合物を含む溶液によるサイジング工程の追加により、得られる炭素繊維の特性を改善することが可能となる。
-望ましくは、サイジング工程及びサイジング後の乾燥工程は、1回以上繰り返される。これは、繊維に関連する難燃剤の量を増加させ、又は様々な物質に基づいて様々な処理を組み合わせることが可能であるため、望ましい。
-本発明の製造方法は、炭化工程の後に、黒鉛化工程をさらに含む。黒鉛化により、本発明の方法によって得られる炭素繊維又は炭素繊維集合体の可鍛性を増加させることが可能となる。
-本発明の製造方法は、炭化工程の後に、高炭素質繊維又は繊維集合体を、少なくとも1つのシラン若しくはシラン誘導体及び/又は少なくとも1つのシロキサン若しくはシロキサン誘導体を含み得る少なくとも1つの有機成分を含む溶液と接触させるサイジング工程をさらに含む。この工程は、繊維の物理化学的特性を改善する(例えば、摩耗に対する保護及び繊維の一体性を改善する)ことを可能にし、本発明との関連において、繊維全体、すなわち、例えば、炭素繊維織物に対して行うことができるという利点を有する。
【0020】
本発明はまた、本発明の製造方法の熱安定化及び寸法安定化工程の後に得られる中間製品として、リグニン又はリグニン誘導体の堆積物で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体であって、リグニン又はリグニン誘導体の質量に対する繊維の質量の比が1/2~100/1の間である水和セルロース繊維又は繊維集合体に関する。
【0021】
任意選択的に、リグニン又はリグニン誘導体の堆積物で被覆された本発明の水和セルロース繊維又は繊維集合体のリグニン又はリグニン誘導体の堆積物は、リグニン堆積物に対して0.50重量%~50重量%の間、好ましくは2重量%~30重量%の間の難燃性化合物を含むことができる。
【0022】
本発明はさらに、本発明の方法によって得ることができる高炭素質繊維又は高炭素質繊維織物に関する。望ましくは、この繊維又はこの繊維集合体は、炭化工程後に、0.20~1.95g/cmの間、好ましくは1.45~1.60g/cmの間の密度を有する。これらの製品は、特に航空宇宙産業又は自動車産業のニーズを満たすのに十分な機械的特性を有しながらも、より軽い炭素繊維を求めている製造業者の期待に応えるものである。
【0023】
本発明はさらに、熱可塑性又は熱硬化性複合材料で作られた部品の製造のための、前記製造方法に従って得られた繊維又は高炭素質繊維集合体の使用に関する。
【0024】
本発明はまた、本発明の製造方法に従って製造された繊維又は繊維集合体を用いて得られた熱可塑性又は熱硬化性複合材料にも関する。これらの熱可塑性又は熱硬化性複合材料は、同一の体積に対して、従来の熱可塑性又は熱硬化性複合材料と比較して、重量が少なくとも5重量%小さいことを示すという利点を有する。
【0025】
本発明の他の利点及び特徴は、添付の図を参照して、例示的かつ非限定的な例として与えられる以下の説明を読むことによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明による炭素繊維の製造方法の実施形態の図を示す。点線で囲まれた工程は任意である。
図2A図2は、本発明による炭素繊維の断面の走査型電子顕微鏡により得られた画像を示す。
図2B図2は、本発明による炭素繊維の断面の走査型電子顕微鏡により得られた画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による「高炭素質繊維又は繊維集合体」という用語は、80重量%を超える、好ましくは90重量%を超える、より好ましくは95重量%を超える、さらにより好ましくは98重量%を超える炭素から構成される材料を意味すると理解される(これらの材料は、非常に高純度の材料であると考えられる)。
【0028】
本発明による「水和セルロース繊維」という用語は、リグノセルロース材料からセルロースを溶解した後に得られる、好ましくは連続した一定の直径のセルロース繊維又はセルロース誘導体繊維を意味すると理解される。本文の残りの部分で詳述されるように、この組み合わせはいくつかの代替方法によって達成され得る。水和セルロースは、例えば、水酸化ナトリウムで処理した後、二硫化炭素で溶解した後に得ることができる。この場合、水和セルロースは特にビスコースと呼ばれる。あるいは、水和セルロース繊維は、N-メチルモルホリンN-オキシドを含む溶液中に溶解したリグノセルロース材料から得て、リヨセルを形成してもよい。
【0029】
本発明による「リグニン」という用語は、その組成が植物種によって変わる植物の芳香族ポリマーを意味すると理解され、一般に3つのフェニルプロパノイドモノマー、すなわちp-クマリルアルコール、コニフェリルアルコール及びシナピルアルコールから形成される。
【0030】
本発明による「リグニン誘導体」という用語は、リグニンタイプの分子構造を有し、その物理化学的特性を変更するために、リグニン抽出方法又はそれ以降の間に付加された置換基を有する分子を意味すると理解される。リグノセルロースベースのバイオマスからリグニンを抽出する方法は多数あり、これらはリグニン修飾をもたらすことができる。例えば、クラフト法は、硫化ナトリウムを含む強塩基を使用して、セルロース繊維からリグニンを分離する。この方法ではチオリグニンが生成する。亜硫酸塩の方法で、リグノスルホネートが生成する。有機溶媒前処理方法は、セルロース画分の酵素的加水分解の前にリグニンを可溶化するために、有機溶媒又は有機溶媒と水との混合物を使用する。好ましくは、リグニン誘導体は、チオール、スルホネート、アルキル又はポリエステルから選択され得る置換基を有するリグニンを意味する。本発明との関連で使用されるリグニン又はリグニン誘導体は、一般に、1000g/mol超、例えば、10,000g/mol超の分子量を有する。
【0031】
以下の説明では、同じ要素を示すために同じ参照番号が用いられる。
【0032】
第1の態様によると、本発明は、水和セルロース繊維又は繊維集合体を含む構造化前駆体10と、リグニン又はリグニン誘導体を組合せ100が行われる温度で15,000mPa.s-1未満の粘度を有する溶液の形態で含む非構造化前駆体15との組合せ100を含む、高炭素質繊維又は繊維集合体2を製造する方法1に関する。
【0033】
この組合せ工程100により、リグニン又はリグニン誘導体20で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を得ることが可能となる。
【0034】
この方法は図1に模式的に示される。この方法は、連続的又は不連続的に行うことができる。連続生産との関連において、工業的方法により、繊維からであろうと、繊維集合体からであろうと、中断することなく種々の工程の連鎖が可能となる。
【0035】
<構造化前駆体(10)>
構造化前駆体10は、水和セルロース繊維又は繊維集合体を含む。この水和セルロース繊維又はこの繊維集合体は、非常に様々な形態をとり得る。本発明の利点の一つは、例えば、撚られたマルチフィラメント、撚られていないマルチフィラメント、不織繊維集合体、又は織繊維集合体の形態で予め成形された水和セルロース繊維にこの方法を実施できることである。
【0036】
炭素繊維織物の製造においては、通常、例えば、PANから炭素繊維コイルを製造し、次いで所望の製織に従ってこれらの繊維を組織化することが必要である。ここでは、本発明により、マルチフィラメント又は繊維集合体の形態で、予め組織化された水和セルロース繊維を直接使用することが可能となる。次いで、本発明による方法により、特に水和セルロース繊維へのリグニン又はリグニン誘導体の堆積工程によって、及び炭化及び場合によっては黒鉛化工程の後に、特に自動車又は航空宇宙産業用の複合材料の製造のための低密度で優れた機械的特性を有する炭素繊維のマルチフィラメント又は繊維集合体、例えば、織物を作製することが可能となる。
【0037】
したがって、好ましくは、構造化前駆体10は、撚られたマルチフィラメント、撚られていないマルチフィラメント、不織繊維集合体、又は織繊維集合体を含む。さらにより好ましくは、構造化前駆体10は、撚られたマルチフィラメント、撚られていないマルチフィラメント、不織繊維集合体、又は織繊維集合体であってもよい。
【0038】
本発明に従って使用することができる撚られたマルチフィラメントは、例えば、1メートル当たり5~2000巻の間、好ましくは1メートル当たり10~1000巻の間の巻数を有する。
【0039】
本発明による構造化前駆体10は、直径が0.5μm~300μmの間、好ましくは1μm~50μmの間である、少なくとも1本の水和セルロース繊維を含むことができる。さらに、本発明による構造化前駆体10は、好ましくは、その全長にわたって一定の直径を有し、特にフィブリルがない少なくとも1本の連続水和セルロース繊維を含む。これにより、リグニン堆積物と繊維の間の結合が向上する。一定の直径とは、直径が繊維の長さにわたって20%未満、好ましくは10%未満しか変化しないことであることを理解すべきである。
【0040】
この水和セルロース繊維は、種々の既知の製造方法によって得ることができる。この繊維は、例えば、WO2014064373号に記載されている製造方法によって得ることができる。使用される水和セルロース繊維は、リヨセル繊維又はビスコース繊維であってもよく、そのセルロースは、例えば、木材又は竹から得られる。
【0041】
水和セルロース繊維の製造方法のほとんどは、溶解セルロース、例えば、二硫化炭素、4-メチルモルホリン4-オキシド(N-メチルモルホリンN-オキシド-NMMO)又は酸性溶液(例えば、オルトリン酸又は酢酸)からのセルロース調製物の製造に基づいており、次いで、これを用いて、例えば、硫酸を含む凝固浴に浸漬した後、水和セルロース連続繊維を形成する。本発明の方法において前駆体として使用される水和セルロース繊維は、予め炭化されていない。
【0042】
<非構造化前駆体(15)>
非構造化前駆体15は、リグニン又はリグニン誘導体を含む。リグニンは、リグノセルロース系の陸生バイオマスの10~25%を占め、現在、産業界ではほとんど利用されていない。このように、毎年、数百トンのリグニン又はリグニン誘導体は、何ら考えられる用途なしに製造される。リグニンは主に維管束植物(又は高等植物)及び一部の藻類に存在する。それはその組成が植物の種によって異なる植物の芳香族ポリマーであり、一般に3つのフェニルプロパノイドモノマー、すなわち以下の式に示されるp-クマリルアルコール、シナピルアルコール及びコニフェリルアルコールから形成される。
【0043】
【化1】
【0044】
好ましくは、非構造化前駆体15は、1~50重量%の間のリグニン又はリグニン誘導体を含む。望ましくは、非構造化前駆体15は、5重量%~15重量%の間のリグニン又はリグニン誘導体を含む。この濃度では、リグニン又はリグニン誘導体の堆積物は均質である一方で、炭化工程300の後に得られる炭素繊維の炭素収率の増加を可能にする。
【0045】
さらに、非構造化前駆体15は、組合せ工程100が行われる温度において、15,000mPa.s-1未満、好ましくは10,000mPa.s-1未満の粘度を有する溶液の形態である。このような粘度により、リグニン又はリグニン誘導体の堆積はより均質であり、炭化工程300の後に得られる炭素繊維の炭素収率の増大を可能にしながら、一定の直径を有する連続炭素繊維を得ることを可能にする。一定の直径によって、炭素繊維は、好ましくは、その長さにわたって20%を超えて、好ましくは10%を超えて変化しない直径を有することが理解されるべきである。
【0046】
溶液の粘度は、例えば、自由流動粘度計、又は毛管粘度、又はブルックフィールド法によって、組合せ工程100が行われる温度で測定される。
【0047】
特に、製造方法1で使用される非構造化前駆体15は、水溶液、有機溶液、又は両者の混合物である。溶液の形態の非構造化前駆体15を使用すると、堆積物及びその厚さを制御することが可能となる。また、溶液の組成は、使用されるリグニン又はリグニン誘導体の特性に従って選択され得る。好ましくは、製造方法1で使用される非構造化前駆体15は、水、及びアルコール等の有機溶媒を含む溶液である。
【0048】
望ましくは、構造化前駆体10及び/又は非構造化前駆体15は、カーボンナノチューブを含むことができ、カーボンナノチューブは、0.0001重量%~10重量%の間の濃度で存在する。好ましくは、これらのカーボンナノチューブは、0.01重量%~1重量%の間の濃度で存在する。
【0049】
カーボンナノチューブ(CNT)は、単層、二層、又は多層タイプのものであってもよい。二層ナノチューブは、特に、FLAHAUTらによってChem. Com.(2003),1442に記載されているように調製することができる。多層ナノチューブ自体は、WO03/02456号に記載されているように調製することができる。ナノチューブは、通常、0.1~100nm、好ましくは0.4~50nm、さらに好ましくは1~30nm、さらには10~15nmの範囲の平均直径及び望ましくは0.1~10μmの長さを有する。それらの長さ/直径比は、好ましくは10より大きく、ほとんどの場合100より大きい。それらの比表面積は、例えば、100~300m/gの間、望ましくは200~300m/gの間であり、それらの見掛け密度は、特に、0.05~0.5g/cmの間、より好ましくは0.1~0.2g/cmの間であり得る。多層ナノチューブは、例えば、5~15枚のシート(又は壁)、より好ましくは7~10枚のシートを含むことができる。
【0050】
粗製カーボンナノチューブの例は、特に、商品名Graphistength(R)C100としてアルケマから市販されている。あるいは、これらのナノチューブは、本発明による方法において使用される前に、精製及び/又は処理(例えば、酸化)及び/又は粉砕及び/又は官能化され得る。粗製又は粉砕ナノチューブの精製は、硫酸溶液で洗浄して、あらゆる残存する無機物及び金属不純物をそれらから除去することによって行うことができる。ナノチューブの酸化は、ナノチューブを次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させることによって行うのが望ましい。ナノチューブの官能化は、ビニルモノマー等の反応性単位をナノチューブの表面にグラフトすることによって行うことができる。
【0051】
<組合わせ(100)>
本発明による組合せ工程100は、構造化前駆体10を非構造化前駆体15と接触させることに対応する。この組合せは一般に-10℃~80℃、好ましくは20℃~60℃の範囲の温度で、いくつかの代替方法によって行うことができる。例えば、均熱、噴霧又は含浸(例えば、サイジングによる)を行うことが可能である。好ましくは、組合せ工程100は含浸による。
【0052】
<熱安定性化及び寸法安定化(200)>
本発明による製造方法1は、リグニン堆積物30で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を得るために、リグニン20で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体の熱安定化及び寸法安定化工程200をさらに含む。
【0053】
熱安定化及び寸法安定化工程200は、溶媒の蒸発を可能にする乾燥及び/又は換気を含み得る。乾燥は、温度の上昇、例えば、50℃~250℃の間で行うことができる。実際、構造化前駆体を、希釈剤又は有機溶媒を含む非構造化前駆体で処理する場合、続いて希釈剤又は溶媒を除去し、例えば、この物品を熱処理に付して希釈剤又は溶媒を蒸気の形態で排出することが望ましい。
【0054】
この工程に続いて、リグニン又はリグニン誘導体の固体フィルムが繊維の表面上に形成される。このフィルムは、溶液の粘度又はリグニン若しくはリグニン誘導体の濃度のような、方法において使用されるパラメータに依存して、種々の厚さを有し得る。
【0055】
好ましくは、組合せ工程100並びに熱安定化及び寸法安定化工程200は、1回以上繰り返すことができる。これらの工程を繰り返すことにより、水和セルロース繊維又は繊維集合体上に堆積したリグニン又はリグニン誘導体の量を増加させることが可能となる。
【0056】
<炭化(300)>
本発明による製造方法1は、高炭素質材料又は高炭素質繊維集合体2を得るために、リグニン堆積物30で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を炭化させる工程300をさらに含む。
【0057】
この炭化工程300は、250℃~1000℃の間、好ましくは300℃超かつ好ましくは600℃未満の温度で実施することができる。炭化工程300は、例えば、2~60分間続くことができる。この炭化工程は、徐々に温度を上昇させることを含むことができる。炭化は、酸素の非存在下、好ましくは窒素雰囲気下で行われる。炭化中の酸素の存在は、好ましくは5ppmに制限されるべきである。
【0058】
一般的に、及び実施例に示すように、本発明者らは、本発明による方法により、同等の機械的特性を伴って、先行技術の方法よりも低い温度を使用することが可能となることを示した。したがって、これらの炭素繊維を製造するのに必要なエネルギー量が減少し、エネルギーの節約となる。
この炭化工程は、連続的に行うことができ、得られた炭素繊維の機械的特性を改善するために、炭素繊維の延伸工程に連結することができる。
【0059】
<炭化前設定(210)>
本発明による製造方法は、炭化工程300の前に、以下の工程をさらに含んでもよい。
-リグニン堆積物30で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体を、少なくとも1つの難燃性化合物を含む水溶液と接触させることからなるサイジング工程210であって、該難燃性化合物は、カリウム、ナトリウム、リン酸塩、酢酸塩、塩化物、及び尿素から選択することができる工程、及び
-サイジング後の乾燥工程220
【0060】
サイジング工程210及びサイジング後の乾燥工程220は、1回以上繰り返すことができる。
【0061】
<黒鉛化(400)>
本発明による製造方法は、炭化工程300の後に黒鉛化工程400をさらに含むことができる。この黒鉛化工程400は、1000℃~2800℃の間、好ましくは1100℃以上かつ2000℃未満の温度で実施することができる。黒鉛化工程400は、例えば、2~60分、好ましくは2~20分続くことができる。この黒鉛化工程400は、温度の漸進的上昇を含むことができる。
【0062】
<炭化後(500)>
本発明による製造方法は、炭化工程300の後に、高炭素質繊維又は繊維集合体2を、少なくとも1つのシラン若しくはシラン誘導体及び/又は少なくとも1つのシロキサン若しくはシロキサン誘導体を含むことができる有機成分の溶液と接触させるためのサイジング工程500をさらに含むことができる。このサイジング500は、黒鉛化工程400の後に実施することもできる。サイジングは繊維の一体性を改善し、繊維を摩耗から保護する。
【0063】
少なくとも1つのシラン若しくはシラン誘導体及び/又は少なくとも1つのシロキサン若しくはシロキサン誘導体を含む溶液は、好ましくは、水溶液、有機溶液又は水性エマルジョンである。
【0064】
別の態様では、本発明は、本発明による製造方法の熱安定化及び寸法安定化工程200の後に得られる中間製品として、リグニン堆積物30で被覆された水和セルロース繊維又は繊維集合体に関する。
【0065】
この中間製品は、1/2~100/1の間、好ましくは2/1~95/1の間の、リグニン又はリグニン誘導体の重量に対する繊維の重量の比を有する。
【0066】
さらに、この中間製品のリグニン堆積物は、0.50~50重量%の間、好ましくは2~30重量%の間の難燃性化合物を含む。
【0067】
別の態様では、本発明は、本発明の方法によって得ることができる高炭素質繊維又は繊維集合体2に関する。好ましくは、かつ望ましくは、高炭素質繊維又は繊維集合体2は、炭化工程300の後、0.20~1.95g/cmの間、好ましくは1.45~1.80g/cmの間の密度を有する。好ましくは、本発明は、構造化前駆体10と非構造化前駆体15との組み合わせから得られる高炭素質繊維又は繊維集合体2に関し、構造化前駆体10は、水和セルロース繊維又は繊維集合体を含み、非構造化前駆体15は、リグニン又はリグニン誘導体を含み、繊維又は繊維集合体は、炭化工程300の後に、0.20~1.95g/cmの間、好ましくは1.45~1.60g/cmの間の密度を有する。
【0068】
より好ましくは、本発明の方法によって得ることができる高炭素質繊維又は繊維集合体2は、炭化工程300の後に、1.45~1.60g/cmの間の密度を有する。
【0069】
別の態様によれば、本発明は、熱可塑性又は熱硬化性複合材料で作られた部品を製造するための、本発明の製造方法で得ることができる高炭素質繊維又は繊維集合体の使用に関する。
【0070】
別の態様では、本発明は、本発明による製造方法によって製造された繊維から得られる熱可塑性又は熱硬化性複合材料に関する。望ましくは、これらの熱可塑性又は熱硬化性複合材料は、同じ体積に対して、従来の熱可塑性又は熱硬化性複合材料と比較して、重量が少なくとも5重量%小さい。
【実施例
【0071】
以下の実施例は、本発明を例示するが、限定的な性格のものではない。
【0072】
<出発物質の説明>
使用された構造化前駆体は、Cordenka社によって販売される水和セルロース繊維(レーヨン)をベースとする。
【0073】
非構造化前駆体の形成のために、リグニンを60/40エタノール/水混合物中に60℃で可溶化させた。2時間撹拌した後、溶液を周囲温度に冷却した。沈殿した画分を濾過した。最終溶液は10重量%のリグニンを含有していた。
【0074】
<炭素繊維の調製>
<工程1:含浸>
【0075】
15m/分の速度でリグニン溶液を連続的に通過させることによって、構造化前駆体である水和セルロース繊維に非構造化前駆体を含浸させる。
【0076】
<工程2:乾燥>
【0077】
リグニン含浸繊維を、約2分の滞留時間で140℃のオーブンに通すことによって連続的に乾燥させた。
【0078】
<工程3:サイジング>
【0079】
リグニン堆積物を含む繊維を、160g/dmのNHCl及び20g/dmの尿素を含む水性塩基難燃剤配合物中でサイジングした。
【0080】
<工程4:サイジング後の乾燥>
【0081】
サイジング後にリグニン堆積物で被覆された繊維を、工程2と同じ条件下で乾燥工程に供した。
【0082】
<工程5:炭化>
【0083】
炭化は、窒素雰囲気下、平均温度350℃で平均時間16分間連続して行った。
【0084】
<工程6:黒鉛化>
【0085】
黒鉛化は、窒素雰囲気下、平均温度1100℃で、平均時間16分間行った。
【0086】
<得られた炭素繊維の特徴>
一定の堆積
【0087】
水和セルロース繊維上のリグニン堆積物は6~7重量%であった。塊のリグニン堆積物の定量は、工程1の前、次いで乾燥の工程2の後に水和セルロース繊維を秤量することによって得ることができる。
【0088】
図2は、本発明の方法により得られた炭素繊維の断面の走査型電子顕微鏡により得られた画像を示す。この画像は、炭素繊維が凝集体を生成せずにはっきりと区別され、黒鉛化後に水和セルロース繊維から生じる炭素繊維とリグニンとの間の界面が見えないことを示す。
【0089】
これらの炭素繊維は、これらの炭素繊維の製造のための構造化前駆体として使用される水和セルロース繊維よりも大きい6~7μmの直径を有する。
【0090】
<炭素収率の増加>
炭素収率(CY)は炭化後に計算した。
CY=(1mあたりの炭素質材料/1mあたりの前駆体)×100
炭化の結果は次の通りである。
水和セルロース繊維、リグニン堆積物なし、炭化(参考) 22%
リグニン7%が堆積した水和セルロース繊維、炭化(本発明に従う) 30%
【0091】
このように、炭化の前に、リグニン堆積物で被覆された水和セルロース繊維を形成するための水和セルロース繊維とリグニンとの組合せにより、炭素収率の22%から30%へ、すなわち36%を超える増加が可能となる。
【0092】
さらに、リグニンを含有する非構造化前駆体中にカーボンナノチューブを添加することにより、炭素収率をさらに上げ、35%の炭素収率、すなわち炭素収率のほぼ60%の全体的な増加を達成することが可能となる。
【0093】
<方法パラメータの最適化>
温度条件を調節して、リグニン堆積物のない水和セルロース繊維(参考)及び本発明の方法を受けた水和セルロース繊維から生じる繊維の同じ機械的特性を得た。
破断応力: 500~600 MPa、
伸び:4~5%、
繊維収縮/伸び、0%(収縮なし、伸びなし)に設定。
【0094】
これらの繊維は、従来の炭素繊維よりも高い破断点伸びを有する。
【0095】
これらの試験の平均温度結果を以下の表に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
これらの結果は、本発明の方法により、炭素繊維の製造における従来の3つの工程に必要な温度を低下させることが可能であることを示す。この温度の低下は、工程によって20~55%の間で変化する。これは、より一般的には、繊維を炭素繊維に変換するのに必要なエネルギーの削減に相当する。このようなエネルギーの節約は、炭素繊維の製造コストの削減によって工業的条件に転換することができる。
【0098】
これらの例は、リグニンによる前駆体水和セルロースの処理により、炭素収率を上げ、同品質の繊維を製造するための高温炉の温度を低下させることが可能であることを示す。
【0099】
したがって、本発明は、炭素収率に対してより効率的であり、PAN繊維等の前駆体よりも低コストの炭化材料を与える、炭素繊維又はより軽い炭素繊維集合体を得るための、非構造化前駆体としての別の天然資源であるリグニンと組み合わされた構造化前駆体のベースでの天然資源であるセルロースの使用を含む。
【0100】
本発明の方法によって得られる炭素繊維は、特に、航空宇宙、自動車、風力エネルギー、船舶、建築、及びスポーツの分野で使用され得る熱可塑性又は熱硬化性複合材料で作られた部品の製造のための従来のガラス繊維又は炭素繊維の代替物として有効に使用され得る。本発明のこれらの繊維は、いくつかの利点を有し、特に、本発明の繊維が従来のガラス繊維及び炭素繊維よりも低い密度を有するので、構造体の重量を低下させる。
図1
図2A
図2B