(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】反応性濃い黒色のワンポット合成
(51)【国際特許分類】
C09B 67/22 20060101AFI20220422BHJP
C09B 62/513 20060101ALI20220422BHJP
C09B 62/51 20060101ALI20220422BHJP
D06P 1/384 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C09B67/22 C
C09B62/513
C09B62/51 A
D06P1/384
(21)【出願番号】P 2019560283
(86)(22)【出願日】2018-05-01
(86)【国際出願番号】 NL2018050287
(87)【国際公開番号】W WO2018203746
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-27
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519232699
【氏名又は名称】エスピージープリンツ・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デニス・マニュエル・フリーゼマ
(72)【発明者】
【氏名】シグリッド・エリーサベト・クレイネ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ヤン・スマレガンゲ
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-520909(JP,A)
【文献】特表平06-500353(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105273439(CN,A)
【文献】特開2001-172523(JP,A)
【文献】特開平08-127730(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00600322(EP,A2)
【文献】欧州特許出願公開第00795586(EP,A2)
【文献】中国特許出願公開第103788705(CN,A)
【文献】特開平08-310116(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104371367(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00 - 69/10
D06P 1/384
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性反応性黒色混合物を調製するためのワンポット合成であって、
下記工程a)~f):
a)2-[(4-アミノフェニル)スルホニル]エタンスルホン酸(ビニルスルホンパラ塩基エステル)を水に溶解させる工程;
b)過剰の亜硝酸を使用するか、又は過剰の亜硝酸塩及び酸を使用して、溶解させた前記ビニルスルホンパラ塩基エステルをジアゾ化し、ジアゾニウム塩及び残存亜硝酸を生成する工程;
c)前記残存亜硝酸をスルファミン酸でクエンチする工程;
d)工程c)の前記ジアゾニウム塩を4-アミノ-5-ヒドロキシ-2,7-ナフタレンジスルホン酸(H-酸)と反応が終了するまでカップリング反応させ、リアクティブブラック5(RB5)及び残存ジアゾニウム塩を生成する工程;
e)前記残存ジアゾニウム塩を7-アセトアミド-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸(アセチル-J-酸)と反応が終了するまでカップリング反応させ、リアクティブオレンジ78(RO78)を生成する工程;及び
f)前記水性反応性黒色混合物を得る工程;
を含み、ここで、
-工程a)~e)は間の精製なしで行われ、少なくとも工程d)及びe)が高せん断混合条件下で行われ、及び
-工程e)の終了時にRB5及びRO78の混合濃度が、0.1mol/Lより高い
、ワンポット合成。
【請求項2】
工程b)において、ビニルスルホンパラ塩基エステル:亜硝酸塩のモル比が、1:1.001~1:1.2の範囲内である、請求項1に記載のワンポット合成。
【請求項3】
工程c)において、残存亜硝酸:スルファミン酸のモル比が、1:1~1:2の範囲内である、請求項1又は2に記載のワンポット合成。
【請求項4】
工程d)において、ジアゾニウム塩:H-酸のモル比が、2.6:1~2.9:1の範囲内である、請求項1から3のいずれか一項に記載のワンポット合成。
【請求項5】
工程e)において、残存ジアゾニウム塩:アセチル-J-酸のモル比が、1.0:1~1.2:1の範囲内である、請求項1から4のいずれか一項に記載のワンポット合成。
【請求項6】
得られた前記水性反応性黒色混合物において、RB5:RO78のモル比が、1.3:1~1.7:1の範囲内である、請求項1から5のいずれか一項に記載のワンポット合成。
【請求項7】
前記亜硝酸塩が亜硝酸ナトリウムである、請求項1から6のいずれか一項に記載のワンポット合成。
【請求項8】
前記酸が塩酸である、請求項1から7のいずれか一項に記載のワンポット合成。
【請求項9】
工程b)におけるpHが2未満である、請求項1から8のいずれか一項に記載のワンポット合成。
【請求項10】
工程a)~e)が同じ反応容器内で行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載のワンポット合成。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性反応性黒色混合物を調製するためのワンポット合成及び反応性黒色混合物のインクジェット印刷への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
π電子の非局在化の結果、アリール置換のアゾ化合物は、特に赤、橙、及び黄の鮮やかな色を有する。それ故、それらは染料に使用され、一般にアゾ染料として知られる。
【0003】
織物印刷に、多くの異なるアゾ染料が開発されてきた。綿はしばしば反応性染料で印刷される。これらの染料中の反応性基の存在により、それらは、綿のセルロース中の水酸基と共有結合を形成し得る。この結合により、染料は、洗浄の間に織物と結合したままである。
【0004】
一般に、アゾ染料は、亜硝酸塩と芳香族アミンの第一反応により調製され、ジアゾニウム塩を形成する。このジアゾニウム塩は、その後カップリング成分とカップリング反応してアゾ染料を形成し得る。要求されるジアゾ化及びカップリング反応は、相の粘度が非常に増大し、撹拌の重大な問題を引き起こし、撹拌が完全に不可能になりさえするため、アゾ染料の濃縮溶液の調製は難しい。実務上、ジアゾ化及びカップリング反応は、それ故、希釈の水性溶液中でしばしば行われ、染料含有量は後にのみ濃縮される。これは、大きな装置及び大量の水を必要とする結果となり、後に取り除かれる必要がある。これは、経済的及び環境的な観点から望まれない。
【0005】
現在使用される合成方法の更なる不利益は、大量及び多種類の無機塩が合成中に使用され、無機不純物として染料中に残存することである。デジタル織物印刷へのインクの適用に、これらの塩の存在は望まれない。これらの塩は、印刷ヘッドに堆積し、印刷の質の低下につながる。例えば、逆浸透により、染料から塩の大部分を取り除くことは可能であるが、これは、高価な装置の使用及び多量の水を必要とする、追加の製造工程につながる。
【0006】
塩に加えて、合成工程及び非反応試薬からの副生成物などの有機不純物が、現在の合成方法により生産される染料中に、しばしば存在する。これらの副生成物は、取り除かれる必要があり得るが、追加の生産工程につながり、追加の材料及び装置を必要とする。副生成物が取り除かれる必要がなかったとしても、副生成物の生成は、染料の収率を減少させるため、望まれない。これは、特定の合成宗留津を達成するため、使用される試薬のコストを不必要に増大させる。
【0007】
黒色などの、特定の色の望ましい色調を達成することを目的として、異なるアゾ化合物を混合することがよく知られる。混合物の色は、使用される化合物及びそれらの相対量により明確に決定される。例えば二種類の染料の比を2.5:1から2.4:1に変更するなど、わずかな相対量の逸脱でさえ、人間の目によって簡単に気づく色の違いをもたらし得る。染料の混合物は一般に、望ましい相対量で、個別に調整される染料を混合することによって調整される。いうまでもなく、多くの工程及び精製工程が、望ましい染料混合物を生産するために必要とされる。得られた染料混合物は、塩及び有機不純物の形態で、高い含有量の不純物を、しばしば含有する。
【0008】
より効率的な合成を行うため、間の精製工程なしに一般の構成要素から、染料混合物を調製することは、有利である。同じ反応容器中で、連続で行われるそのような反応工程は、ワンポット工程としても確認される。ジアゾ及びカップリング成分の適切な混合物を使用して、ワンポット工程により染料混合物を調製することが、以前に開示されてきた。例えば、欧州特許出願公開第0600322号明細書は、そのようなワンポット工程を開示する。染料混合物の合成のために、間の精製工程なしという意味で、反応工程が連続で行われるため、分離や精製工程の量が減少される。これは、単純でより効果的な工程をもたらす。染料は分離工程で生産される必要がなく、必要とされる比率で、染料の混合工程が飛ばされ得る。しかしながら、そのような混合合成において、粘度の相の形成が大きな役割さえ果たし得る。
【0009】
それに加えて、米国特許第5508389号明細書は、染料混合物が、間の精製工程なしで一般の構成要素から調製される、反応に粘度減少試薬の添加を開示する。粘度減少試薬の使用は、粘度相形成の問題を減少させる。しかしながら、これらの粘度減少試薬は、染料がインクジェットプリンターで使用され得る前に、取り除かれる必要がある不純物を形成し、それ故それらの使用は望まれない。
【0010】
粘度に加えて、アゾ染料の調製に使用される反応混合物の安定性も問題点であり得る。異なる相に偏析することを抑制するため、米国特許第7300504号明細書は、例えば水などの液体媒体及び変性アゾ顔料を含むインクジェットインク組成物の合成において、高せん断撹拌の使用を開示する。変性アゾ顔料は、少なくとも一つのジアゾニウム試薬及び少なくとも一つのアゾカプラーの反応生成物を含む。インクジェットインク組成物は、インクジェットインク組成物が使用され得る前に、取り除かれる必要がある、分散剤を含まない。米国特許第7300504号明細書は、アゾ染料混合物の合成を開示せず、また、効果に関連する粘度の開示もない。
【0011】
上述のとおり、アゾ染料の調製のための通常の手順は、第一工程でジアゾ成分として使用されるアミンをジアゾ化すること、第二工程で、ジアゾ化アミンと適切なカップリング成分と反応させることである。ジアゾ化は、通常、過剰の亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウムの添加により、鉱酸溶液中で行われる。ジアゾ化が終了した際、過剰な亜硝酸塩は、アゾカップリングが行われる前に、好ましくは取り除かれる。この除去は、少量のジアゾ化されていないアミンの添加、又は尿素若しくはアミドスルホン酸(スルファミン酸)の添加により達成され得る。これは、例えば、欧州特許出願公開第0795586 号明細書において開示されている。しかしながら、米国特許第4845638号明細書に開示されるように、スルファミン酸は早く反応するが、過剰なスルファミン酸が添加された場合、二次的反応をもたらす不利益がある。亜硝酸塩の失活のためのスルファミン酸の使用はそれ故、自明でない。
【0012】
特に望ましい染料混合物は、リアクティブブラック5(RB5)及びリアクティブオレンジ78(RO78)の混合物である。そのような混合物は、濃い色調の黒色をもたらす。
【化1】
【0013】
上記構造は、それらの塩の形態も存在し、OSO3H基中のH-原子が、リチウム、ナトリウムまたはカリウムなどの、アルカリ金属で置換され得る。
【0014】
織物染色のための、RB5及びRO78の混合物は、例えば、中国特許出願公開第105273439号明細書、特開2001-172523号公報、及び特開平08-127730号公報から知られる。しかしながらこれらの文献はすべて、個別に調整される染料の混合物に関連し、したがって、これらの混合物は、すべて上記の不利益を受けている。例えば、RB5及びRO78の個別の合成により、追加の合成工程が、混合物を調製するために必要であり、したがって、混合物の調製は、効率的でない。更に、個別に調整される染料から得られた混合物は、高い塩濃度、並びに他の有機及び/又は無機不純物などの、高い不純物濃度を受けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】欧州特許出願公開第0600322号明細書
【文献】米国特許第5508389号明細書
【文献】米国特許第7300504号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0795586号明細書
【文献】米国特許第4845638号明細書
【文献】中国特許出願公開第105273439号明細書
【文献】特開2001-172523号公報
【文献】特開平08-127730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目標は、リアクティブブラック5及びリアクティブオレンジ78の混合物の合成において、上記欠点を解決することである。それ故、本発明の目的は、濃縮溶液中で染料を合成するために反応を行うことである。本発明の別の目的は、染料混合物中の無機塩の量を減少させることである。本発明の更なる目的は、染料混合物中の有機不純物を減少させることである。本発明の別の目的は、個別に調整される染料から、染料の混合物を調製することと比較して、生産工程の量を減少させて、染料混合物の調製のための工程を提供することである。本発明の別の目的は、粘度減少試薬を添加せずに、染料の合成反応を行うことである。本発明の別の目的は、分散剤なしで染料の合成反応を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的の少なくとも一つを達成するため、第一の態様において、本発明は、水性反応性黒色混合物を調製するための、以下の工程a)-f)を含む、ワンポット合成を提供する:
a)2-[(4-アミノフェニル)スルホニル]エタンスルホン酸(ビニルスルホンパラ塩基エステル)を水に溶解させる工程;
b)過剰の亜硝酸を使用するか、又は過剰の亜硝酸塩及び酸を使用して、溶解させたビニルスルホンパラ塩基エステルをジアゾ化し、ジアゾニウム塩及び残存亜硝酸を生成する工程;
c)残存亜硝酸をスルファミン酸でクエンチする工程;
d)工程c)のジアゾニウム塩を4-アミノ-5-ヒドロキシ-2,7-ナフタレンジスルホン酸(H-酸)と反応が終了するまでカップリング反応させ、リアクティブブラック5(RB5)及び残存ジアゾニウム塩を生成する工程;
e)残存ジアゾニウム塩を7-アセトアミド-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸(アセチル-J-酸)と反応が終了するまでカップリング反応させ、リアクティブオレンジ78(RO78)を生成する工程;及び
f)水性反応性黒色混合物を得る工程、ここで、
-工程a)~e)は間の精製なしで行われ、少なくとも工程d)及びe)が高せん断混合条件下で行われ、及び
-工程e)の終了時に、RB5及びRO78の混合濃度が、0.1mol/Lより高い。
【0018】
第二の態様において、本発明は、織物染色に調整される、水性反応性黒色混合物の使用を提供する。
【0019】
したがって、本発明において、RB5及びRO78を含む水性反応性黒色混合物を調製するためのワンポット合成は、高せん断ミキサーを使用して行われる。過剰の亜硝酸塩の失活はスルファミン酸で行われる。本発明は、最小限の生産工程の量、及び最小限の反応物の量を必要とする、単純な工程を提供する。染料混合物は、間の分離及び/又は精製工程なしで行われ、反応は、濃縮溶液中で、あらゆる粘度減少試薬及び/又は分散剤を必要とせずに行われる。驚くことに、上記手段の効果を組み合わせて(ワンポット工程、高せん断混合、スルファミン酸での失活)、反応生成物中の不純物の量が、例えば染料が分かれて合成され、のちに混合される、従来工程と比較して、劇的に減少され得る。従来工程とは対照的に、有機不純物及び/又は塩などの、少量のみの不純物が、最終生成物中に残存することを可能にする一方、先行技術の工程は、多くの異なる不純物が残存する。更に、不純物濃度の減少は、個別の手段の組み合わせに基づいて予想される濃度より大きい。高せん断混合又はスルファミン酸での失活のどちらかが、ワンポット合成工程から省略された場合、その後生成する染料混合物は、劇的に予想より純度が下がる。高せん断混合及びスルファミン酸での失活の相互作用が、相乗効果を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、下記反応スキームにより説明され得る:
【化2】
【0022】
本発明による水性反応性黒色混合物を調製するための、典型的なワンポット合成は、上記の工程a)-f)を含む。工程a)からe)は間の精製なしで行われ、少なくとも工程d)及びe)は高せん断混合条件下で行われる。
【0023】
高せん断混合は、高せん断混合条件を提供する能力のある任意の装置で実行され得る。そのような装置は、先行技術で知られ、例えば、アトライター、ボールミル、ハンマーミル、ピンディスクミル、流体エネルギーミル、ジェットミル、流体ジェットミル、衝突ジェットミル、ローター-ステータ、ペレタイザー、ホモジナイザー、ソニケーター、キャビテイター、などの水平メディアミル、垂直メディアミルなどの、すりつぶし、衝撃、又は同様の衝突作用を提供する能力のある装置を含む。したがって、本発明の方法に明細書内で使用されるように、高せん断混合は、使用される化合物及び水の本質的な混合物を提供するのに十分なエネルギーを有する混合条件を意味する。高せん断ミキサーは、バッチ、準連続、又は連続ミキサーのいずれてあってもよい。連続ミキサーは、バッチプロセッシング装置の経済的及び実用的両方の、利点を提示し、一般的に好まれ得る。高せん断混合条件の使用により、工程e)の終了時の、RB5及びRO78の混合濃度は、0.1mol/Lより高濃度であり得る。
【0024】
本発明の特性を差別化する組み合わせにより、RB5及びRO78の得られる混合物は、驚くことに、先行技術のRB5及びRO78混合物と比較して、純度が増大した生成物をもたらす。
【0025】
典型的な反応において、第一に2-[(4-アミノフェニル)スルホニル]エタンスルホン酸(ビニルスルホンパラ塩基エステル)がジアゾ化される。そのようなジアゾ化反応は、先行技術でよく知られ、例えば、ビニルスルホンパラ塩基エステルをニトロシル硫酸又は亜硝酸と反応させることにより達成され得る。通常、亜硝酸は、系中で亜硝酸ナトリウム及び鉱酸から生成される。好ましくは、反応は、酸性溶液好ましくは塩酸溶液中で亜硝酸ナトリウムと行われる。
【0026】
水性溶液中で、ジアゾニウム塩は5℃より高い温度で不安定である。それ故、反応は0℃から5℃の間の温度で好ましくは行われる。そのような反応温度は、例えば、氷/水混合物中でこれらの反応を行うことにより達成され得る。加えて又は替わりに、外部冷却が使用され得る。例えば、反応はクーリングバスにより、外部から冷却される反応容器中で実行され得る。
【0027】
本発明の一実施態様において、ビニルスルホンパラ塩基エステルは、水、任意選択で氷及び水の混合物中に、懸濁され、0℃から5℃の間の温度で撹拌される。例えば37%のHCLの酸溶液が、その後加えられる。好ましくは、生成混合物のpHは最大2である。ジアゾ化を行うため、亜硝酸塩溶液、好ましくは亜硝酸ナトリウム水溶液がその後加えられる。撹拌は、完全なジアゾ化が起こるまで、好ましくは続けられる。温度は好ましくは5℃未満、すなわち0℃から5℃の間に、保持される。
【0028】
好ましくは、工程b)において、ビニルスルホンパラ塩基エステル:亜硝酸塩のモル比は、1:1.001から1:1.2の範囲内である。亜硝酸塩の過剰な添加は、ビニルスルホンパラ塩基エステルの完全なジアゾ化をもたらし、したがって反応していないビニルスルホンパラ塩基エステルは残らない。しかしながら、亜硝酸塩の大過剰は、ジアゾ化後に高含有の亜硝酸の残存をもたらす。これは、残存亜硝酸は更なる反応工程において望ましくない効果を有し得るので、不利益である。それ故、残存亜硝酸はクエンチされるべきである。高含有量の残存亜硝酸は、追加のクエンチ材料の必要があり、経済的な観点から望ましくない。更に、それは望まない不純物の量の増大を招く。
【0029】
好ましくは、クエンチ工程において(工程c)、残存亜硝酸:スルファミン酸のモル比は、1:1から1:2の範囲内である。比は、すべての残存亜硝酸をクエンチするための、少なくとも1:1であるべきである。多量のスルファミン酸はクエンチ反応において、特定の利益をもたらさないが、使用されるスルファミン酸の量の増大はそれ故コストが増大する。更に、それは、最終生成物中の余分な不純物をもたらす。クエンチの間、反応温度は、有利には、0℃から5℃の間で保持される。
【0030】
RB5及びRO78の目標混合物中で、RB5:RO78の比は、好ましくは1.3:1から1.7:1の範囲内である。反応性染料として使用される場合、そのような混合物は許容可能な黒色を提供する。より好ましくは、RB5及びRO78の比は1.4:1から1.6:1の範囲内である。そのような比のものは、濃い黒色を提供する。最適な濃い黒色の効果には、好ましくはこの比が1.45:1から1.50:1の範囲内である。
【0031】
残存亜硝酸がスルファミン酸でクエンチした後直ちに、例えば水性懸濁液として、H-酸が加えられ得る。好ましくは、反応温度は0℃から5℃の間である。RB5:RO78の上記比に関して、工程d)において、ジアゾニウム塩:H-酸のモル比は、好ましくは2.6:1から2.8:1の範囲内である。これは、1.7:1から1.3:1のRB5:残存ジアゾニウム塩の比をもたらし得る。より好ましくは、ジアゾニウム塩:H-酸のモル比は、2.6:1から2.7:1の範囲内である。
【0032】
すべてのH-酸が消費された後、反応は、反応混合物(工程e)にアセチル-J-酸を添加することによって、続けられ得る。アセチル-J-酸は、水性スラリーの形態で添加され得る。アセチル-J-酸はジアゾニウム塩より調整に簡単でない貴重な材料であるため、ジアゾニウム塩は、工程e)の開始時に、好ましくは少なくとも等量で存在する。このような方法で、すべてのアセチル-J-酸が反応し、RO78を生成し得る。より好ましくは、残存ジアゾニウム塩は過剰として存在し、すべてのアセチル-J-酸が反応してRO78を生成することを確かにし得る。最も好ましくは、工程e)において、残存ジアゾニウム塩:アセチル-J-酸のモル比は、1.0:1~1.2:1の範囲内である。ジアゾニウム塩の相対比が低いと、望まない過剰なアセチル-J-酸を招き、ジアゾニウム塩の相対比が高いと、ジアゾニウム塩が、過剰に余り過ぎることをもたらす。これは、生成染料混合物から取り除かれる必要があり、不必要なコスト及び/又は精製工程をもたらす。工程e)の反応のpHは、例えば、炭酸ナトリウム溶液の添加により、好ましくはpH5に調整される。任意選択で、pHは反応中チェックされ、必要に応じて再調整される。
【0033】
好ましくは、工程a)からe)は、同じ反応容器内で行われ、これは、本発明のワンポット工程の特性の十分な利点となり得る。
【0034】
本発明は更に、織物染色において、すなわち織物製品に着色する工程の、上記工程により調製された水性反応性黒色混合物の使用を提供する。
【0035】
好ましくは、本発明による染料混合物は、織物の印刷に使用される。
【0036】
より好ましくは、本発明による染料混合物は、織物のインクジェット印刷に使用される。
【実施例】
【0037】
0.1475モルのブラック5及び0.1モルのオレンジ78の目的混合物を調製するため、ビニルスルホンパラ塩基エステル(115.5g)を氷/水(1l)中に懸濁させ、37%のHCL(80.2g、68ml、0.814モル)を加えながら、0から5℃で撹拌した。これに、その後、水(100ml)中に亜硝酸ナトリウム(28.0g、0.406モル)の溶液を、外部冷却を維持しながら、同じ温度で、約15分間で加えた。混合物は、0-5℃で1h撹拌させ、その後、出発物質が残存しないことを示し、完全なジアゾ化が起こったことを示唆する、HPLCで分析を行った。
【0038】
過剰の亜硝酸をスルファミン酸(1g)の添加により、クエンチさせた。H-酸(59.1g、0.1475モル)を水(100ml)中によく懸濁させ、懸濁液をジアゾ化反応後に加えた。Silverson L5M-A高せん断ミキサーを使用して、0-5℃で3h撹拌させた後、すべてのH-酸が消費されたことを示唆する、ジアゾ-PNA染料付きの紙を使用した。
【0039】
工程1(135g、0.1モル)で調製された、アセチル-J-酸スラリーを、2NのHCLで、pH5に調整し、その後反応に加えた。約30分間、反応を2Mの炭酸ナトリウム溶液(180ml必要)の添加でpH5に調整した。反応をその後、Silverson L5M-A高せん断ミキサーを用いて、pH5.0で、室温まで温めながら、一晩撹拌した。更なるアルカリ又は酸溶液は必要なく、pH5を一晩維持した。総反応容積は約2リットルであった。表1は、使用した反応物質の概説を示す。
【0040】
【0041】
便宜上、総反応溶液をフリーズドライさせ、黒色固体を得、アセトン中にスラリー状態にし、ホモジナイズして、静電気がより少なく、ほこりがより少なく、体積がより少ない、より扱いやすい状態にした。固体は、ろ過し、40℃で、真空下で一晩乾燥させた。
【0042】
染料含有量を、微量分析から得られる窒素含有量により分析した。染料サンプルは、残存アセテート及び炭酸ナトリウム由来の、余剰の炭素を含有するため、染料含有量の割合は、微量分析により得られる、窒素含有量から計算した。
【0043】
MwB1ack5 = 903.89 g/mol; mBlack5 = 0.1475 mol × 903.89 g/mol = 133.3 g
MwOrange78 = 573.57 g/mol; mOrange78 = 0.1 mol × 573.57 g/mol = 57.4 g
両染料:133.3 g + 57.4 g = 190.7 g染料混合物予想
予想窒素含有量:(0.1475mol × ブラック5中5窒素原子 + 0.1mol × オレンジ78中3窒素原子)×14.007 ÷ 190.7 = 7.62 %
測定窒素含有量:4.90 %
染料含有量 = 4.90% ÷ 7.62 % = 64.3%
【0044】
したがって、凍結乾燥固形分量は、100%強度で182.1gに対応する、64.3%強度での283.2gであった。固形染料混合物を、10ppmの水性溶液としてUV-VIS(
図1参照:生成物のUV-Visスペクトラム)及びHPLC(表2及び3参照)を用いて分析した。
【0045】
図1において:
λ=601nm:100%強度でA/g=36.1に対応する、64.3%強度のA/g=23.2
λ=480nm:100%強度でA/g=26.6に対応する、64.3%強度のA/g=17.1
λ=392nm:100%強度でA/g=18.6に対応する、64.3%強度のA/g=12.0
【0046】
HPLC分析の測定は、PDA及びMS検出器を装備したWaters Acquity UPLCで実施した。使用したカラムは、Waters Acquity Phenyl BEHカラム(1.7μm,2.1×150mm)であった。カラムを20℃に保持した。溶離液Aは、アセトニトリル中5%のギ酸緩衝液(pH3)からなり、溶離液Bは、水中5%のギ酸緩衝液(pH3)からなった。注入量は10μLであり、流速0.5mL/分であった。分析サンプルを、水中に溶解させ、100ppmの濃度の水溶液に希釈した。使用勾配は表2にまとめた。
【0047】
【0048】
【0049】
比較例
比較例において、RB5及びRO78の混合物を、市販で入手可能なRB5及び市販で入手可能なRO78を、RB5:RO78の比を1.48:1で、混合することによって調整した。HPLC分析は、上記実施例に記載した分析方法と同じ方法で実施した(表4参照)。
【0050】
【0051】
本発明に係る実施例及び比較例の分析の比較は、本発明により調製された染料混合物の方が不純物が少ないことを明らかにしている。最も重要な違いは、12.13分付近に溶出される不純物の大幅な減少である。不純物は、RB5の一加水分解物であると考えられる。
【化3】
【0052】
本発明によるワンポット合成は、驚くことに、上記不純物の大幅な減少をもたらす。
【0053】