(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】光学積層体及び表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220422BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20220422BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220422BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220422BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20220422BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13363
G09F9/30 365
H01L27/32
H05B33/02
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2020006922
(22)【出願日】2020-01-20
(62)【分割の表示】P 2018525287の分割
【原出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2016132077
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591061046
【氏名又は名称】小池 康博
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯嶋 征一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 剛志
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-153557(JP,A)
【文献】特開2015-215577(JP,A)
【文献】特開2010-191468(JP,A)
【文献】国際公開第2011/135909(WO,A1)
【文献】特開2009-031746(JP,A)
【文献】特開2008-297360(JP,A)
【文献】特開2008-112124(JP,A)
【文献】特開2014-157231(JP,A)
【文献】特開2017-105069(JP,A)
【文献】特開2008-009388(JP,A)
【文献】特開2005-221783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0211997(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/1335;1/13363
G09F 9/30
H01L 27/32
H05B 33/02
H01L 51/50
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示素子、偏光子、及び、少なくとも2種のフィルムを含む光学積層体を順に有する表示装置であって、
前記表示素子は、下記式で求められるBT.2020のカバー率が60%以上であり、
前記光学積層体は、少なくとも、下記条件(1)を満たすフィルムAと、下記条件(2)を満たすフィルムCとを含み、
前記フィルムAは、面内リタデーション値R
A(0)が4,000nm以上であり、
前記フィルムCは、
ポリイミドフィルムであり、面内方向のリタデーション値が200nm以下であり、厚み方向のリタデーション値が
2,000nm以上7,000nm以下であり、
該光学積層体面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値Re(0)が4,000~30,000nmであり、該光学積層体面に対し垂直でかつ該フィルムAの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸に沿った面内で、該光学積層体面の垂直軸から該遅相軸方向に40度傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値Re(40)が4,000~25,000nmである、表示装置。
〔BT.2020のカバー率を表す式〕
[表示素子のCIE-xy色度図の面積のうち、BT.2020のCIE-xy色度図の面積と重複する面積/BT.2020のCIE-xy色度図の面積]×100(%)
条件(1):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をn
x、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をn
y、該フィルムの厚み方向の屈折率をn
zとした際に、n
x>n
y≧n
zの関係である。
条件(2):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をn
x、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をn
y、該フィルムの厚み方向の屈折率をn
zとした際に、n
x≧n
y>n
zの関係である。
【請求項2】
前記フィルムAの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸と、前記フィルムCの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸とのなす角度が±10度未満である、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記光学積層体に含まれる前記フィルムCが前記フィルムAよりも視認者側となるよう配置されたものである、請求項1
又は2に記載の表示装置。
【請求項4】
折り畳み可能な表示装置である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
少なくとも2種のフィルムを含む光学積層体であって、
前記光学積層体は少なくとも、下記条件(1)を満たすフィルムAと、下記条件(2)を満たすフィルムCとを含み、
前記フィルムAは面内リタデーション値R
A(0)が4000nm以上であり、
前記フィルムCは、
ポリイミドフィルムであり、面内方向のリタデーション値が200nm以下であり、厚み方向のリタデーション値が
2,000nm以上7,000nm以下であり、
前記フィルムAの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸と、前記フィルムCの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸とのなす角度が±10度未満であり、
該光学積層体面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値Re(0)が4,000~30,000nmであり、該光学積層体面に対し垂直でかつ該フィルムAの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸に沿った面内で、該光学積層体面の垂直軸から該遅相軸方向に40度傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値Re(40)が4,000~25,000nmである光学積層体。
条件(1):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をn
x、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をn
y、該フィルムの厚み方向の屈折率をn
zとした際に、n
x>n
y≧n
zの関係である。
条件(2):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をn
x、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をn
y、該フィルムの厚み方向の屈折率をn
zとした際に、n
x≧n
y>n
zの関係である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に代表される表示装置は、輝度、解像度、色域等の性能が急速に進歩している。そして、これら性能の進歩に比例して、携帯用情報端末、カーナビゲーションシステム等の屋外での使用を前提とした表示装置が増加している。
日差しの強い屋外等の環境では、眩しさを軽減するために偏光機能を備えたサングラス(以下、「偏光サングラス」と称する。)をかけた状態で表示装置を観察する場合がある。
【0003】
偏光板を含む表示装置を偏光サングラスを通して観察する場合、表示装置の偏光の吸収軸と、偏光サングラスの偏光の吸収軸とが直交すると画面が暗くなり見えなくなる(以下、「ブラックアウト」と称する。)という問題、及び表示装置内の配置された光学フィルムのリタデーションに起因するグラデーション調の色ムラ(以下、単に「色ムラ」ともいう)が生じるという問題がある。
前記問題を解決するために、特許文献1の手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、バックライト光源として白色発光ダイオード(白色LED)を用いた液晶表示装置において、偏光板の視認側に3000~30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを特定の角度で配置することを特徴とするものである。特許文献1の手段では、バックライト光源として白色発光ダイオード(白色LED)を用いた液晶表示装置において、ブラックアウト及び色ムラの問題を解消している。
【0006】
一方で、輝度、解像度、色域等を向上するために、表示装置の光源及び表示素子が多様化している。例えば、液晶表示装置のバックライトの光源としては、特許文献1で用いている白色LEDが多く用いられているが、近年、バックライトの光源として量子ドットを用いた液晶表示装置が提案され始めている。また、現在の表示素子の主流は液晶表示素子であるが、有機EL表示素子の実用化が広がりつつある。
しかしながら、これらの表示装置を偏光サングラスを通して観察した場合、前記問題(ブラックアウト及び色ムラ)を生じなくても、色の再現性に問題を生じる場合があった。ここでいう色の再現性とは、表示装置を裸眼で観察した場合と、偏光サングラスを通して観察した場合とで色の見え方が異なるという現象である。
【0007】
また、近年急速に普及してきているタッチパネル搭載表示装置は、折り畳み可能であることが望まれてきており、該表示装置に用いる表示素子としては有機EL表示素子が好適である。
折り畳み可能な表示装置に用いる光学フィルムには、優れた硬度を有すると共に、繰り返し折り畳んでもクラックの生じることのない優れた耐久折り畳み性能が求められる。
光学フィルムに耐久折り畳み性能を付与するために、当該光学フィルムの基材フィルムとしてポリイミドフィルムを用いることが検討されている。しかしながら、表示素子、偏光子、及び、ポリイミドフィルムを順に有する表示装置を偏光サングラスを通して観察した場合、特に、斜め方向から観察した場合に前述した色再現性の問題が顕著に生じることが見出された。
ここで、ポリイミドフィルムはいわゆる負のCプレート特性を有するフィルムである。「負のCプレート特性を有するフィルム」とは、フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnx、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をny、該フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした際に、nx≧ny>nzの関係を満たすフィルムをいう。しかしながら、表示素子、偏光子、及び、光学フィルムとして負のCプレート特性を有するポリイミドフィルムのみを適用した表示装置では、前述したブラックアウトの問題も解消されない。
【0008】
本発明は、表示素子及び偏光子を順に有する表示装置の視認者側に適用する光学積層体において、ポリイミドフィルムのような負のCプレート特性を有するフィルムを用いた場合であっても、正面方向及び斜め方向のいずれから表示画面を観察した際にも前述した色再現性が良好であり、ブラックアウトの問題も解消し得る光学積層体、及び該光学積層体を有する表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、少なくとも2種の特定のフィルムを含む光学積層体とし、該光学積層体全体として所定の光学特性を満たすような設計とすることで前記課題を解決できることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の光学積層体及び表示装置を提供する。
[1]少なくとも2種のフィルムを含む光学積層体であって、前記光学積層体は少なくとも、下記条件(1)を満たすフィルムAと、下記条件(2)を満たすフィルムCとを含み、該光学積層体面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値Re(0)が4,000~30,000nmであり、該光学積層体面に対し垂直でかつ該フィルムAの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸に沿った面内で、該光学積層体面の垂直軸から該遅相軸方向に40度傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値Re(40)が4,000~25,000nmである光学積層体。
条件(1):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnx、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をny、該フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした際に、nx>ny≧nzの関係である。
条件(2):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnx、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をny、該フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした際に、nx≧ny>nzの関係である。
[2]前記フィルムCがポリイミドフィルム及びポリアラミドフィルムからなる群から選ばれる、[1]に記載の光学積層体。
[3]前記フィルムAが延伸ポリエステル系フィルムである、[1]又は[2]に記載の光学積層体。
[4]少なくとも、表示素子、偏光子、及び、[1]~[3]のいずれか1項に記載の光学積層体を順に有する表示装置。
[5]前記表示素子が有機EL表示素子である、[4]に記載の表示装置。
[6]前記有機EL表示素子が三色独立方式の有機EL表示素子である、[5]に記載の表示装置。
[7]前記光学積層体に含まれる前記フィルムCが前記フィルムAよりも視認者側となるよう配置されたものである、[4]~[6]のいずれか1項に記載の表示装置。
[8]折り畳み可能な表示装置である、[4]~[7]のいずれか1項に記載の表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学積層体は、表示素子及び偏光子を順に有する表示装置の視認者側に適用し、偏光サングラスを通して正面方向及び斜め方向のいずれから表示画面を観察した際にも、偏光サングラスなしで観察した場合との色の見え方の違いが少なく、色再現性が良好である。また、偏光サングラスを通して表示画面を観察した場合のブラックアウトの問題も解消できる。本発明の光学積層体は、折り畳み可能な表示装置の最表面に用いる光学フィルムとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】条件(1)を満たし、フィルム面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値が3,000nmであるフィルムAの、垂直軸方向からθ度傾斜した角度ごとのリタデーション値である。
【
図2】本発明の光学積層体の実施形態の一例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の表示装置の実施形態の一例を示す断面模式図である。
【0013】
[光学積層体]
本発明の光学積層体は、少なくとも、下記条件(1)を満たすフィルムAと、下記条件(2)を満たすフィルムCの2種のフィルムを含み、該光学積層体面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値Re(0)が4,000~30,000nmであり、該光学積層体面に対し垂直でかつ該フィルムAの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸に沿った面内で、該光学積層体面の垂直軸から該遅相軸方向に40度傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値Re(40)が4,000~25,000nmであることを特徴とする。
条件(1):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnx、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をny、該フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした際に、nx>ny≧nzの関係である。
条件(2):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnx、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をny、該フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした際に、nx≧ny>nzの関係である。
本発明の光学積層体は上記構成とすることにより、表示素子及び偏光子を順に有する表示装置の視認者側に適用した場合に、上記条件(2)を満たす、負のCプレート特性を有するフィルムCに由来する性能(例えば、フィルムCがポリイミドフィルムの場合は耐久折り畳み性能など)を付与しつつ、表示画面を偏光サングラスを通して正面方向及び斜め方向のいずれから観察した際にも前述した色再現性を良好にすることができる。また、前述したブラックアウト問題を解消することができる。
【0014】
光学積層体面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値Re(0)は、光学積層体の面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率nxと、光学積層体の面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率nyと、光学積層体の厚みdとにより、下記式によって表されるものである。
リタデーション値Re(0)=(nx-ny)×d
上記リタデーション値は、例えば、王子計測機器(株)製の位相差測定装置「KOBRA-WR」、超高位相差測定装置「PAM-UHR100」、大塚電子(株)製の位相差測定装置「RETS-100」により測定できる。なお、本明細書におけるリタデーション値は、特に断りのない限り、波長550nmにおけるリタデーション値である。
また、二以上の偏光子を用いて、光学積層体の配向軸方向(主軸の方向)を求めた後、二つの軸(配向軸の屈折率、及び配向軸に直交する軸)の屈折率(nx、ny)を、アッベ屈折率計(アタゴ社製 NAR-4T)によって求める。ここで、より大きい屈折率を示す軸を遅相軸と定義する。光学積層体の厚みdは、例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて撮影した断面の画像から10箇所の厚みを測定し、10箇所の値の平均値から算出できる。STEMの加速電圧は10kV~30kV、倍率は100~700倍とすることが好ましい。複屈折率(nx-ny)と、光学積層体の厚みd(nm)との積より、リタデーション値を計算することもできる。
【0015】
また、リタデーション値Re(40)は、光学積層体面に対し垂直でかつフィルムAの遅相軸に沿った面内で、光学積層体面の垂直軸から光学積層体に含まれるフィルムAの遅相軸方向に40度傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値である。Re(40)は、光学積層体面の垂直軸から40度傾斜した角度から光を入射させ、光学積層体の光出射面において、該光出射面の垂直軸からフィルムAの遅相軸方向に40度傾斜した角度でのリタデーション値を、位相差測定装置を用いて測定する。具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0016】
さらに、光学積層体の厚み方向のリタデーション値をRthとすると、Rthは、光学積層体の面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率nxと、光学積層体の面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率nyと、光学積層体の厚み方向の屈折率nzと、光学積層体の厚みdとにより、下記式によって表されるものである。
Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d
なお光学積層体に含まれる各フィルムのリタデーション値及び厚みも、前記と同様の方法で測定又は算出できる。
【0017】
以下に、本発明について説明する。
表示素子、偏光子、及び光学積層体を順に有する表示装置においては、表示画面を観察した際の色の見え方が偏光サングラスの有無によって異なることがある。この原因は、光学積層体が有するリタデーションと、複屈折の波長依存性によるものである。またこの原因は、光学積層体を観察する角度によって、観測されるリタデーション値が変化することにもある。
【0018】
人間が表示装置を視認する場合、多くの場合、視線が表示画面に垂直になるように視認する。表示画面をこのように視認した場合、表示画面の中心付近と視線との関係は垂直であるが、表示画面の周辺領域と視線とは一定の角度を有している。つまり、人間が表示装置を視認する場合、視野の中のリタデーション値が異なる領域が存在している(より正確に言うと、視野の中のリタデーション値は連続的に変化している)。また、複数人が同時に表示画面を観察する場合、各人がリタデーション値の異なる領域を観察することになる。
【0019】
まず、本発明の光学積層体は、例えば耐久折り畳み性能などを付与する観点から、前記条件(2)を満たすフィルムCを含む。
前記条件(2)を満たすフィルムCは、フィルム面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション(以下「フィルムの面内方向のリタデーション」又は「面内リタデーション」ともいう)が存在しないか又は極めて小さいが、フィルムの厚み方向のリタデーションが存在する。
ここで、表示素子、偏光子、及びフィルムCを順に積層した表示装置Xを作製し、表示装置Xの視認者側、すなわちフィルムC側から表示装置Xの表示画面を観察したとする。偏光サングラスなしで表示装置Xを観察した場合、フィルムCを通過した光が人間の目で視認されることになる。一方、偏光サングラスをかけて表示装置Xを観察した場合、フィルムCを通過し、さらに偏光サングラスを通過した光が人間の目で視認される。偏光サングラスは受光側の偏光子(検光子)としての作用を有する。
表示装置Xを正面(垂直軸方向)から観察した際には、この方向から観測されるフィルムCのリタデーション値は極めて小さいため、偏光サングラスの有無によらず、表示画面の色の見え方はほぼ同じになる。
これに対し、上記表示装置Xを斜め方向から観察した場合には、偏光サングラスの有無によって色の見え方が大きく異なることがある。この理由は、フィルムCを斜め方向(フィルムC面の垂直軸から傾斜した軸方向)から観察した場合には、フィルムCの厚み方向のリタデーションに起因して一定以上のリタデーション値が観測されるので、このリタデーション値の影響により、表示装置Xを偏光サングラスなしで観察した場合と、偏光サングラスを通して観察した場合とで、人間の目で視認される光の分光スペクトルの形状が異なるためである。
【0020】
フィルムCを斜め方向から観察した場合に観測されるリタデーション値が極めて大きい場合には、偏光サングラスを通して観察した場合でも、表示画面の色の見え方の違いは視認されない。しかしながら上記以外の場合は、フィルムCを斜め方向から観察した場合に観測されるリタデーション値の影響で、偏光サングラスの有無により表示画面の色の見え方が変わることになる。
【0021】
また、フィルムCのみを視認者側に設けた表示装置Xを正面方向から観察した際には、表示装置Xの偏光の吸収軸と、偏光サングラスの偏光の吸収軸とが直交する角度においてはブラックアウトが生じる。
【0022】
例えば光学積層体に耐久折り畳み性能などを付与するために、ポリイミドフィルムのような条件(2)を満たすフィルムCを用いる必要がある場合には、以上のような問題を解決する必要があった。
【0023】
本発明の光学積層体は、上記フィルムCに加えて、さらに前記条件(1)を満たすフィルムAを含むことを特徴とする。フィルムAはいわゆる正のAプレート特性を有するフィルムであり、フィルム面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション(フィルムの面内方向のリタデーション)が存在するが、フィルムの厚み方向のリタデーションは存在しないかまたは極めて小さい。面内方向にリタデーションを有するフィルムAを含むことで、本発明の光学積層体は上述したブラックアウトの問題を解消することができる。これは、表示素子からの出射光が偏光子を通過して直線偏光になるが、この直線偏光がフィルムAを通過すると偏光が乱されるためである。
但し、フィルムAの面内方向のリタデーションが十分に大きくないと、人間の目に視認される光の分光スペクトルの形状が偏光サングラスの有無によって変わるため、前述した色再現性が低下する。
【0024】
ここで、フィルムAは、垂直軸方向からn
x(遅相軸)方向側に傾いて観察した場合、傾斜角が大きくなるにつれてリタデーション値が小さくなる。
図1は、前記条件(1)を満たし、フィルム面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値が3,000nmであるフィルムAの、垂直軸方向からn
x方向(遅相軸方向)にθ度傾いた角度ごとのリタデーション(
図1の実線)、及び、垂直方向からn
y方向(進相軸方向)にθ度傾いた角度ごとのリタデーション(
図1の破線)の一例である。
図1から、n
x>n
y≧n
zの関係を有するフィルムAは、垂直方向からn
x方向側に傾いて観察した場合、傾斜角が大きくなるにつれてリタデーション値が小さくなることが確認できる。
【0025】
すなわち、フィルムAは、垂直軸方向からnx方向側に傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値が傾斜角が大きくなるにつれて小さくなるので、該フィルムAを含む光学積層体を表示装置に適用した際には、垂直軸方向からnx方向側に傾斜した軸方向から表示画面を見た場合、前述した色再現性の点で最も不利に働くことになる。
【0026】
本発明の光学積層体は上記事情を鑑みて設計されたものであり、以上のような条件(1)を満たすフィルムA及び条件(2)を満たすフィルムCの両方を含む場合であっても、光学積層体面に対し垂直軸方向から観測されるリタデーション値Re(0)が4,000~30,000nmであり、該光学積層体面の垂直軸から該フィルムAのnx方向に40度傾斜した軸方向から観測される前記リタデーション値Re(40)が4,000~25,000nmであるという要件を満たす構成とすれば、前述した本発明の課題を解決できることを見出したものである。光学積層体のRe(0)が4,000nm未満であると、表示装置に適用した際に、表示画面を正面から見た際の色再現性が不十分である。また光学積層体のRe(40)が4,000nm未満であると、表示装置に適用した際に、表示画面を斜め方向から見た際の色再現性が不十分である。
【0027】
Re(40)は、前記のとおり、光学積層体面に対し垂直でかつフィルムAの遅相軸に沿った面内で、垂直軸からフィルムAのnx方向に40度傾斜した方向から光学積層体を見た場合に観測されるリタデーション値に相当する。垂直軸からの傾斜角度を「フィルムAの遅相軸方向に40度傾斜した軸方向」に設定した理由は、40度を超える角度で表示装置の表示画面を観察することがほとんどないことを考慮したものである。また、フィルムAは垂直軸から遅相軸方向に傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値が最も小さくなるため、光学積層体においてこの方向から観測されるリタデーション値が所定の値以上であれば、幅広い角度から表示画面を観察した際の色再現性を良好にすることができる。
【0028】
前述した色再現性を得る観点から、Re(0)は、好ましくは4,000nm以上、より好ましくは5,000nm以上、さらに好ましくは7,000nm以上であり、光学積層体を過度に厚くすることを回避する観点から、好ましくは20,000nm以下、より好ましくは15,000nm以下である。また、表示素子、偏光子及び光学積層体を順に有する表示装置を斜め方向から観察した際の色再現性の観点から、Re(40)は、好ましくは4,000nm以上、より好ましくは5,000nm以上、さらに好ましくは7,000nm以上であり、光学積層体を過度に厚くすることを回避する観点から、好ましくは20,000nm以下、より好ましくは15,000nm以下である。
【0029】
<フィルムA>
本発明の光学積層体が有するフィルムAは、下記条件(1)を満たすものである。
条件(1):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnx、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をny、該フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした際に、nx>ny≧nzの関係である。
フィルムAの厚み方向のリタデーション値は、条件(1)を満たす限り特に制限はないが、0nm以上であることが好ましい。
【0030】
光学積層体のRe(0)及びRe(40)を大きくする観点から、フィルムAの面内リタデーション値RA(0)は、好ましくは4,000nm以上、より好ましくは5,000nm以上、さらに好ましくは7,000nm以上である。また、光学積層体を過度に厚くすることを回避する観点から、RA(0)は、好ましくは25,000nm以下、より好ましくは20,000nm以下である。
【0031】
フィルムAの厚みは特に制限されないが、光学積層体のRe(0)及びRe(40)を大きくする観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、光学積層体を過度に厚くすることを回避する観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0032】
フィルムAとしては、条件(1)を満たし、光透過性を有するフィルムであれば特に制限されないが、例えば、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、アクリルフィルム等を延伸したフィルムが挙げられる。中でも、機械的強度を高めるとともに、得られる光学積層体のRe(0)及びRe(40)を大きくする観点から、延伸ポリエステル系フィルムであることが好ましい。延伸は、縦一軸延伸、横一軸(テンター)延伸、逐次二軸延伸及び同時二軸延伸等が挙げられる。これらの中でも、遅相軸の方位が定まり易いことから、縦一軸延伸又は横一軸延伸であることが好ましい。
ポリエステル系フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)及びポリブチレンテレフタレートフィルム(PBTフィルム)等が挙げられる。
また、ポリエステル系フィルムの中でも、PETフィルム又はPENフィルムが好ましく、PETフィルムがより好ましい。これらのフィルムは、厚みが薄くても高い面内リタデーションを得ることができるので、光学積層体のRe(0)及びRe(40)を大きくすることができ、表示装置全体の厚みを薄くしながら色再現性を向上できる点で優れている。
【0033】
<フィルムC>
本発明の光学積層体が有するフィルムCは、下記条件(2)を満たすものである。
条件(2):フィルムの面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnx、該フィルムの面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をny、該フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした際に、nx≧ny>nzの関係である。
フィルムCの面内方向のリタデーション値は、200nm以下であることが好ましい。すなわち、フィルムCはnx>nyであってもよいが、その場合でも面内方向のリタデーション値が200nm以下であることが好ましい。フィルムA及びフィルムCを含む光学積層体を有する表示装置において、表示画面を斜め方向から視認した場合の色再現性を良好にするために、前述したRe(40)においてフィルムAの遅相軸方向に傾斜した軸方向から観測されるリタデーション値のみを実質的に考慮すればよいためである。また、フィルムAとフィルムCとを積層する際に遅相軸方向を合わせる必要も生じない。
【0034】
光学積層体のRe(40)を大きくする観点から、フィルムCの厚み方向のリタデーション値RCthは、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは200nm以上、よりさらに好ましくは1,000nm以上、よりさらに好ましくは2,000nm以上である。また、光学積層体を過度に厚くすることを回避する観点から、RCthは、好ましくは10,000nm以下、より好ましくは7,000nm以下である。
【0035】
フィルムCの厚みは特に制限されないが、光学積層体のRe(40)を大きくする観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、光学積層体を過度に厚くすることを回避する観点から、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
また、光学積層体に耐久折り畳み性能を付与する観点からは、フィルムCの厚みは、好ましくは10~80μm、より好ましくは15~60μmである。
【0036】
条件(2)を満たすフィルムCとしては、例えば、ポリイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム及びポリエーテルエーテルケトンフィルムからなる群から選ばれるフィルムが挙げられる。これらの中でも、光学積層体に耐久折り畳み性能を付与する観点からはポリイミドフィルム及びポリアラミドフィルムからなる群から選ばれるフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムがより好ましい。
一般に、ポリイミドフィルム及びポリアラミドフィルムは分子中に芳香環を有することから、着色(黄色)されているものが一般的であるが、本発明のように光学積層体用途である場合、分子中の骨格を変更して透明性を高めた「透明ポリイミド」や「透明ポリアラミド」と呼ばれるフィルムである。一方、着色された従来のポリイミドフィルム等は、耐熱性と屈曲性との面から、プリンターや電子回路等の電子材料用に使用されることが好ましいものである。
【0037】
ポリイミドフィルムを構成するポリイミドとしては、下記一般式(I)で表される繰り返し構造を有するものが挙げられる。
【化1】
一般式(I)中、X
1は4価の有機基であり、R
1は2価の有機基である。
【0038】
一般式(I)におけるX1としては、非環式脂肪族基、環式脂肪族基、及び、芳香族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の、4価の有機基が挙げられる。環式脂肪族基としては、単環式脂肪族基、縮合多環式脂肪族基、及び、2以上の脂肪族環が直接又は結合基により連結された非縮合多環式脂肪族基が挙げられる。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び、2以上の芳香環が直接又は結合基により連結された非縮合多環式芳香族基等が挙げられる。
【0039】
上記結合基としては、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数2~10のアルキリデン基、-O-、-SO2-、-CO-、-CO-NR-(Rは炭素数1~3のアルキル基、又は水素原子を表す)が挙げられる。炭素数1~10のアルキレン基、及び炭素数2~10のアルキリデン基の水素原子のうち少なくとも1つは、フッ素含有基で置換されていてもよい。フッ素含有基としては、フルオロ基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0040】
X1が環式脂肪族基又は芳香族基である場合、炭素原子の一部がヘテロ原子で置き換えられていてもよい。ヘテロ原子の例としては、O、N、Sが挙げられる。
【0041】
X1の炭素数は、好ましくは2~32、より好ましくは4~24、さらに好ましくは4~18である。
【0042】
X1は、前記フッ素含有基や、水酸基、スルホン基、炭素数1~10のアルキル基等の置換基を有していてもよい。得られるポリイミドフィルムの透明性の観点からは、上記置換基の中でもフッ素含有基が好ましい。
【0043】
得られるポリイミドフィルムの耐久折り畳み性能の観点からは、X1で表される4価の有機基は、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む基であることが好ましく、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる基であることがより好ましい。また、得られるポリイミドフィルムの透明性及び耐久折り畳み性能の観点からは、X1で表される4価の有機基は、環式脂肪族基及びフッ素含有基を有する芳香族基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む基であることがより好ましく、環式脂肪族基及びフッ素含有基を有する芳香族基からなる群から選ばれる基であることがさらに好ましく、フッ素含有基を有する芳香族基がよりさらに好ましい。
【0044】
より具体的には、X
1としては、例えば下記式(i)~(xi)のいずれかで表される4価の基が挙げられる。
【化2】
上記式中、Y
1~Y
3はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-CH(CF
3)-、-C(CF
3)
2-、又は-SO
2-を表す。式中の*は結合手を示す。
上記式中、脂肪族環及び芳香環の水素原子のうち少なくとも1つは、前記フッ素含有基、水酸基、スルホン基、炭素数1~10のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0045】
一般式(I)におけるR1としては、非環式脂肪族基、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の、2価の有機基が挙げられる。環式脂肪族基としては、単環式脂肪族基、縮合多環式脂肪族基、及び、2以上の脂肪族環が直接又は結合基により連結された非縮合多環式脂肪族基が挙げられる。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び、2以上の芳香環が直接又は結合基により連結された非縮合多環式芳香族基等が挙げられる。
【0046】
上記結合基としては、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数2~10のアルキリデン基、-O-、-SO2-、-CO-、-CO-NR-(Rは炭素数1~3のアルキル基、又は水素原子を表す)が挙げられる。炭素数1~10のアルキレン基、及び炭素数2~10のアルキリデン基の水素原子のうち少なくとも1つは、フッ素含有基で置換されていてもよい。フッ素含有基としては、フルオロ基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0047】
R1が環式脂肪族基又は芳香族基である場合、炭素原子の一部がヘテロ原子で置き換えられていてもよい。ヘテロ原子の例としては、O、N、Sが挙げられる。
【0048】
R1の炭素数は、好ましくは2~40、より好ましくは4~32、さらに好ましくは5~24、よりさらに好ましくは5~18である。
【0049】
R1は、前記フッ素含有基や、水酸基、スルホン基、炭素数1~10のアルキル基等の置換基を有していてもよい。得られるポリイミドフィルムの透明性の観点からは、上記置換基の中でもフッ素含有基が好ましい。
【0050】
得られるポリイミドフィルムの耐久折り畳み性能の観点からは、R1で表される2価の有機基は、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む基であることが好ましく、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる基であることがより好ましい。また、得られるポリイミドフィルムの透明性及び耐久折り畳み性能の観点からは、R1で表される2価の有機基は、環式脂肪族基及びフッ素含有基を有する芳香族基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、環式脂肪族基及びフッ素含有基を有する芳香族基からなる群から選ばれる基であることがさらに好ましく、フッ素含有基を有する芳香族基がよりさらに好ましい。
【0051】
より具体的には、R
1としては、例えば下記式(xii)~(xviii)のいずれかで表される2価の基が挙げられる。
【化3】
上記式中、Y
4~Y
6はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-CH(CF
3)-、-C(CF
3)
2-、又は-SO
2-を表す。式中の*は結合手を示す。
上記式中、脂肪族環及び芳香環の水素原子のうち少なくとも1つは、前記フッ素含有基、水酸基、スルホン基、炭素数1~10のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0052】
得られるポリイミドフィルムの透明性の観点からは、一般式(I)におけるX1及びR1のうち少なくとも一方がフッ素含有基を有することが好ましい。
【0053】
上記ポリイミドフィルムとしては、より具体的には、例えば、下記式(1)~(17)で表される構造を有するものが挙げられる。なお、下記式中、nは、繰り返し単位であり、2以上の整数を表す。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
ポリイミドフィルムを構成するポリイミドは、本発明の効果が損なわれない限り、その一部にポリアミド構造を含んでいてもよい。当該ポリアミド構造としては、例えば、トリメリット酸無水物等のトリカルボン酸由来の繰り返し単位を含むポリアミドイミド構造や、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸由来の繰り返し単位を含むポリアミド構造等が挙げられる。
【0072】
また、ポリアラミドフィルムを構成するポリアラミドとは、一般的に、下記式(18)又は(19)で表される構造を有するものである。フィルムCとして用いることができるポリアラミドフィルムを構成するポリアラミドとしては、例えば、下記式(20)で表される構造を有するものが挙げられる。なお、下記式中、nは、繰り返し単位であり、2以上の整数を表す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
前記式(1)~(17)で表される構造を有するポリイミドフィルム、及び前記式(20)で表される構造を有するポリアラミドフィルムとして、市販のものを用いてもよい。ポリイミドフィルムの市販品としては、例えば、三菱瓦斯化学(株)製「ネオプリム」等が挙げられ、ポリアラミドフィルムの市販品としては、例えば、東レ(株)製「ミクトロン」等が挙げられる。
【0077】
また、ポリイミドフィルム及びポリアラミドフィルムは、公知の方法により合成した樹脂を用いて作製されたものでもよい。
ポリイミドフィルムを構成する前記ポリイミドは、通常、テトラカルボン酸無水物等のテトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とを公知の方法により重縮合反応させて得ることができる。例えば、前記式(1)で表される構造を有するポリイミド樹脂の合成方法は、特開2009-132091に記載されており、具体的には、下記式(21);
【0078】
【0079】
で表される4,4’-ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物(FPA)と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFDB)とを反応させることにより得ることができる。
【0080】
ポリイミドフィルム又はポリアラミドフィルムを構成する樹脂の重量平均分子量は、3,000~50万の範囲であることが好ましく、5,000~30万の範囲であることがより好ましく、1万~20万の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量が3,000以上であれば十分な強度が得られ、50万以下であれば表面が平滑で膜厚が均一なフィルムを容易に得ることができる。
なお、本明細書において、重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である。
【0081】
ポリイミドフィルム及びポリアラミドフィルムの中でも、優れた透明性を有することから、分子内又は分子間の電荷移動が起こりにくい構造を有するポリイミドフィルム又はポリアラミドフィルムが好ましい。具体的には、前記式(1)~(8)からなる群から選ばれる1種以上の構造を有するフッ素化ポリイミドフィルム、前記式(9)~(12)からなる群から選ばれる1種以上の構造を有する、環状脂肪族基を含むポリイミドフィルム、又は、前記式(20)の構造を有する、ハロゲン基を有するポリアラミドフィルムが好ましく、前記式(1)~(8)からなる群から選ばれる1種以上の構造を有するフッ素化ポリイミドフィルム、又は、前記式(20)の構造を有する、ハロゲン基を有するアラミドフィルムがより好ましい。中でも、上記フッ素化ポリイミドフィルムは、フッ素化された構造を有するため高い耐熱性を有しており、ポリイミドフィルム製造時の熱によって着色されることもないので、優れた透明性を有する。
なかでも、優れた透明性、及び極めて優れた硬度を付与できることから、前記式(1)で表される構造を有するポリイミドフィルムを用いることがより好ましい。
【0082】
本発明の光学積層体は、少なくとも前記フィルムAとフィルムCの2種のフィルムを含んでいればよく、フィルムA、フィルムCがそれぞれ複数枚積層された態様も含む。また、フィルムAとフィルムCとは互いに接していてもよいし、接着層などの他の層を介して積層されていてもよい。
なお、光学積層体が面内リタデーションを有する複数のフィルムを含む場合には、これらのフィルムは、面内での遅相軸の方向が略同一になるように積層されることが好ましい。「遅相軸の方向が略同一」であるとは、面内リタデーションが最も大きいフィルムの遅相軸を基準として、該フィルムの遅相軸と、それ以外のフィルムの遅相軸とがなす角度が±10°未満の範囲であることをいう。
【0083】
<機能層>
本発明の光学積層体は、前述したフィルムA及びフィルムC以外に、さらに機能層を含むこともできる。当該機能層としては、ハードコート層、防汚層、導電層、反射防止層、防眩層、紫外線吸収層、帯電防止層等が挙げられる。これらの中でも、折り畳み可能な表示装置に用いる光学積層体は、硬度及び耐久折り畳み性能を付与する観点から、ハードコート層を含むことが好ましい。
【0084】
ハードコート層は、機械的強度の観点から、硬化性樹脂組成物の硬化物であることが好ましい。硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物が挙げられ、機械的強度をより良好にする観点から、電離放射線硬化性樹脂組成物が好適である。本明細書において電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も使用可能である。
電離放射線硬化性樹脂組成物は、電離放射線硬化性官能基を有する化合物(以下、「電離放射線硬化性化合物」ともいう)を含む組成物である。電離放射線硬化性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基、及びエポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。電離放射線硬化性化合物としては、エチレン性不飽和結合基を有する化合物が好ましく、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する化合物がより好ましく、中でも、エチレン性不飽和結合基として(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する、多官能性(メタ)アクリレートがさらに好ましい。多官能性(メタ)アクリレートとしては、モノマー、オリゴマー、及びポリマーのいずれも用いることができる。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。
【0085】
多官能性(メタ)アクリレートモノマーの中でも、ハードコート層に高硬度を付与する観点からは3~6官能のものが好ましく、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート等が好ましい。これらの多官能性(メタ)アクリレートモノマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、シリコーン(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、硬化性及び硬化物性能の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーは、ハードコート層に高硬度を付与する観点から、好ましくは3官能以上であり、より好ましくは3~12官能である。
多官能性(メタ)アクリレートポリマーとしては、例えば、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入したポリマーが挙げられる。多官能性(メタ)アクリレートポリマーの主鎖はアクリル系ポリマー又はウレタン系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーであることがより好ましい。多官能性(メタ)アクリレートポリマーの市販品としては、例えば、大成ファインケミカル(株)製の8BRシリーズ、8KXシリーズ、8UHシリーズ等が挙げられる。
なお硬化物の機械的強度を損なわない範囲であれば、粘度を低下させるなどの目的で単官能性(メタ)アクリレートモノマーを併用することもできる。
【0086】
ハードコート層は、さらにシリカ微粒子を含有してもよい。ハードコート層形成用の硬化性樹脂組成物に配合するシリカ微粒子としては、反応性シリカ微粒子であることが好ましい。反応性シリカ微粒子は、上記多官能性(メタ)アクリレート等の硬化性化合物との間で架橋構造を構成することが可能なシリカ微粒子である。ハードコート層形成用の硬化性樹脂組成物が該反応性シリカ微粒子を含有することで、ハードコート層の硬度を充分に高めることができる。
上記反応性シリカ微粒子は、その表面に反応性官能基を有することが好ましく、該反応性官能基としては、例えば、重合性不飽和基が好適に用いられ、より好ましくは光硬化性不飽和基であり、特に好ましくは電離放射線硬化性不飽和基である。上記反応性官能基の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基、及びエポキシ基等が挙げられる。
上記シリカ微粒子は、平均一次粒子径が5~200nmであることが好ましい。また、ハードコート層中のシリカ微粒子の含有量は、該ハードコート層を構成する硬化性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して、5~60質量部であることが好ましい。
【0087】
なおシリカ微粒子の平均一次粒子径は、以下の(1)~(3)の作業により算出できる。
(1)本発明の光学積層体の断面をTEM又はSTEMで撮像する。TEM又はSTEMの加速電圧は10kV~30kV、倍率は5万~30万倍とすることが好ましい。
(2)観察画像から任意の10個の粒子を抽出し、個々の粒子の粒子径を算出する。粒子径は、粒子の断面を任意の平行な2本の直線で挟んだとき、該2本の直線間距離が最大となるような2本の直線の組み合わせにおける直線間距離として測定される。
(3)同じサンプルの別画面の観察画像において同様の作業を5回行って、合計50個分の粒子径の数平均から得られる値を粒子の平均一次粒子径とする。
【0088】
ハードコート層、又はハードコート層形成用の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、光重合開始剤、光重合促進剤、滑剤、可塑剤、充填剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、導電剤、屈折率調整剤、溶剤、及び、染料、顔料等の着色剤等の、その他の成分が含有されていてもよい。
【0089】
ハードコート層の厚みは、2.5~10μmであることが好ましく、3.5~8.0μmであることがより好ましい。ハードコート層の厚みが2.5μm以上であれば硬度が良好であり、10μm以下であると加工性に優れる。
ハードコート層の厚みは、例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて撮影した断面の画像から10箇所の厚みを測定し、10箇所の値の平均値から算出できる。STEMの加速電圧は10kV~30kVとすることが好ましい。STEMの倍率は、測定膜厚がミクロンオーダーの場合は1000~7000倍とすることが好ましく、測定膜厚がナノオーダーの場合は5万~30万倍とすることが好ましい。
【0090】
ハードコート層の形成方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えばハードコート層が電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物である場合には、前述した電離放射線硬化性化合物、必要に応じシリカ微粒子、光重合開始剤、溶剤、並びにその他の成分を含むハードコート層形成用組成物を塗布して塗布層を形成し、該塗布層を乾燥後、前述した電離放射線を照射して硬化させる方法が挙げられる。
上記塗布層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ダイコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法等の公知の各種方法を挙げることができる。塗布層の乾燥方法としては特に限定されないが、一般的に30~120℃で10~120秒間乾燥を行うことが好ましい。
【0091】
光学積層体がハードコート層を含む場合には、光学積層体の最表面に設けることが好ましい。ハードコート層は光学積層体の少なくとも一方の面に設けられ、硬度及び耐久折り畳み性能を付与する観点からは、フィルムC上に設けることがより好ましい。
図2は、本発明の光学積層体の実施形態の一例を示す断面模式図である。
図2において、10は本発明の光学積層体であり、1はフィルムA、2はフィルムC、3はハードコート層である。図示は省略するが、本発明の光学積層体はハードコート層を2層以上含んでもよく、例えば
図2のハードコート層3が2層構造であってもよい。
【0092】
[表示装置]
本発明の表示装置は、少なくとも、表示素子、偏光子、及び、前述した光学積層体を順に有することを特徴とする。本発明の表示装置は折り畳み可能な表示装置であることが好ましい。表示装置の表面保護材としてガラス板等を使用せずとも、前述の光学積層体が表面保護材としての役割を果たすことができ、さらに耐久折り畳み性能も付与されるためである。折り畳み可能な表示装置とする観点からは、本発明の表示装置はガラス板を有さないことが好ましい。
また本発明の表示装置は、後述するタッチパネルを搭載した表示装置であることが好ましい。
【0093】
図3は本発明の表示装置の実施形態の一例を示す断面模式図である。
図3において、100は本発明の表示装置であり、表示素子4、偏光子5、及び光学積層体10を順に有している。例えば本発明の表示装置100が折り畳み可能な表示装置である場合には、耐久折り畳み性能を付与する観点から、光学積層体10に含まれるフィルムCがフィルムAよりも視認者側となるよう配置されたものであることが好ましい。
図3において、光学積層体10は表示素子4側から順に、フィルムA(1)、フィルムC(2)、及びハードコート層3を有している。前述したように、ハードコート層3は光学積層体10に含まれるフィルムC上に設けられることが好ましい。また、ハードコート層3が表示装置の最表面となるよう配置されることが好ましい。
以下、本発明の表示装置を構成する各部材について説明する。
【0094】
<表示素子>
表示素子としては、液晶表示素子、有機EL表示素子、無機EL表示素子、プラズマ表示素子等が挙げられる。なお、液晶表示素子は、タッチパネル機能を素子内に備えたインセルタッチパネル搭載型液晶表示素子であってもよい。
これらの中でも、表示装置が折り畳み可能なものである場合は、表示素子が有機EL表示素子であることが好ましい。
【0095】
(有機EL表示素子)
有機EL表示素子としては、主として、色変換方式、カラーフィルター方式、三色独立方式の3つのタイプに分類される。
色変換方式は、金属電極、青発光層、蛍光層(赤蛍光層、緑蛍光層)、カラーフィルター(青カラーフィルター)、透明電極及び透明基板という基本構成からなる。色変換方式では、青発光層からの光を、赤蛍光層及び緑蛍光層で赤、緑に変換し、青はカラーフィルターを通して高彩度化している。
カラーフィルター方式は、金属電極、白色発光層、カラーフィルター(赤、緑、青の三色のカラーフィルター)、透明電極及び透明基板という基本構成からなる。カラーフィルター方式では、白色発光層からの光をカラーフィルターで赤、緑、青に変換している。
三色独立方式は、金属電極、発光層(赤発光層、緑発光層、青発光層がそれぞれ独立して存在)、透明電極及び透明基板という基本構成からなる。三色独立方式では、カラーフィルターを用いることなく、赤、緑、青の3原色を作り出している。なお、上記透明基板としてはプラスチック基板が好ましい。
これらの有機EL表示素子の中でも、本発明の表示装置における有機EL表示素子としては、三色独立方式の有機EL表示素子が好ましい。三色独立方式の有機EL表示素子は、該表示素子から出射して光学積層体に入射する光の分光スペクトルがシャープとなりやすく、本発明の効果が有効に発揮されやすい。該分光スペクトルがシャープであるほど、前述した色再現性の問題が生じ易いためである。また、有機EL表示素子は光取り出し効率が課題となっており、光取り出し効率を向上させるために、三色独立方式の有機EL表示素子にマイクロキャビティ構造が備えられている。このマイクロキャビティ構造を備えた三色独立方式の有機EL表示素子は、光取り出し効率を向上させればさせるほど該表示素子から出射して光学積層体に入射する光の分光スペクトルがシャープとなりやすいため、本発明の効果が有効に発揮されやすい。
【0096】
ここで、色域を表す規格として、「ITU-R勧告 BT.2020(以下、「BT.2020」と称する。)」等が挙げられる。ITU-Rは、「International Telecommunication Union - Radiocommunication Sector(国際電気通信連合 無線通信部門)」の略称であり、ITU-R勧告 BT.2020は、スーパーハイビジョンの色域の国際規格である。表示素子は、下記式で表されるCIE-xy色度図に基づくBT.2020のカバー率が60%以上のものが好ましく、65%以上のものがより好ましく、70%以上のものがさらに好ましい。
〔BT.2020のカバー率を表す式〕
[表示素子のCIE-xy色度図の面積のうち、BT.2020のCIE-xy色度図の面積と重複する面積/BT.2020のCIE-xy色度図の面積]×100(%)
【0097】
BT.2020のカバー率を算出する際に必要となる「表示素子のCIE-xy色度図の面積」は、赤表示、緑表示、及び青表示の際のCIE-Yxy表色系のx値及びy値をそれぞれ測定し、該測定結果から得られた「赤の頂点座標」、「緑の頂点座標」及び「青の頂点座標」から算出できる。CIE-Yxy表色系のx値及びy値は、例えば、コニカミノルタ社製の分光放射輝度計CS-2000で測定できる。
【0098】
<偏光子>
本発明の表示装置において、偏光子は、表示素子の出射面上であって、光学積層体よりも表示素子側に設置される。
当該偏光子としては、例えば、ヨウ素等により染色し、延伸したポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等のシート型偏光子、平行に並べられた多数の金属ワイヤからなるワイヤーグリッド型偏光子、リオトロピック液晶や二色性ゲスト-ホスト材料を塗布した塗布型偏光子、多層薄膜型偏光子等が挙げられる。なお、これらの偏光子は、透過しない偏光成分を反射する機能を備えた反射型偏光子であってもよい。
偏光子の両面は、プラスチックフィルム、ガラス等の透明保護板で覆うことが好ましい。透明保護板として、本発明の光学積層体を用いることも可能である。
【0099】
表示素子が有機EL表示素子である場合、偏光子は、例えば、1/4λ板との組み合わせにより反射防止性を付与するために使用される。1/4λ板及び位相差フィルムは、汎用のものを用いることができる。1/4λ板は偏光子よりも有機EL表示素子側に配置することが好ましい。位相差フィルムは偏光子の有機EL表示素子側に配置することが好ましい。
また、表示素子が液晶表示素子の場合、液晶表示素子の光入射面側には背面偏光子が設置され、液晶表示素子の上に位置する偏光子の吸収軸と、液晶表示素子の下に位置する背面偏光子の吸収軸とを直交して配置することにより、液晶シャッターの機能を付与するために使用される。
【0100】
偏光サングラスは原則としてS偏光を吸収するため、偏光サングラスの偏光子の吸収軸の方向も原則として水平方向である。このため、表示装置の水平方向に対して、偏光子の吸収軸の方向の角度が、±10°未満の範囲内となるように設置することが好ましい。該角度は±5°未満の範囲とすることがより好ましい。
表示素子と光学積層体との間には2以上の偏光子を有していてもよい。この場合、偏光子の吸収軸と光学積層体に含まれるフィルムAの遅相軸とのなす角度のうち最も小さい角度が、45±10°未満の範囲内となるように偏光子及び光学積層体を設置することが好ましい。
【0101】
<タッチパネル>
本発明の表示装置は、表示素子の出射面上にタッチパネルを備えたタッチパネル搭載型表示装置であってもよい。
タッチパネルと光学積層体との位置関係は特に限定されない。例えば、表示素子と光学積層体との間にタッチパネルを有してもよいし、光学積層体上にタッチパネルを有してもよい。また、タッチパネルの構成部材として光学積層体を用いてもよい。
折り畳み可能な表示装置において本発明の光学積層体により耐久折り畳み性能を付与する観点からは、表示素子と光学積層体との間にタッチパネルを有する構成であるか、タッチパネルの構成部材として光学積層体を用いることが好ましい。
【0102】
タッチパネルとしては、抵抗膜式タッチパネル、静電容量式タッチパネル、電磁誘導式タッチパネル、光学式タッチパネル及び超音波式タッチパネル等が挙げられる。
【0103】
静電容量式タッチパネルは、表面型及び投影型等が挙げられ、投影型が多く用いられている。投影型の静電容量式タッチパネルは、X軸電極と、該X軸電極と直交するY軸電極とを絶縁体を介して配置した基本構成に、回路が接続されてなるものである。該基本構成をより具体的に説明すると、(1)1枚の透明基板上の別々の面にX軸電極及びY軸電極を形成する態様、(2)透明基板上にX軸電極、絶縁体層、Y軸電極をこの順で形成する態様、(3)透明基板上にX軸電極を形成し、別の透明基板上にY軸電極を形成し、接着剤層等を介して積層する態様等が挙げられる。また、これら基本態様に、さらに別の透明基板を積層する態様が挙げられる。
抵抗膜式タッチパネルは、導電膜を有する上下一対の透明基板の導電膜同士が対向するようにスペーサーを介して配置されてなる構成を基本構成として、該基本構成に回路が接続されてなるものである。
タッチパネルの構成部材として本発明の光学積層体を用いる具体例としては、上記静電容量式タッチパネルの透明基板として光学積層体を用いる構成、上記抵抗膜式タッチパネルの透明基板として光学積層体を用いる構成が挙げられる。
【0104】
<バックライト>
表示装置が液晶表示装置の場合、表示素子の背面にはバックライトが配置される。
バックライトとしては、エッジライト型バックライト、直下型バックライトのいずれも用いることができる。
バックライトの光源としては、LED、CCFL等が挙げられるが、光源として量子ドットを用いたバックライトは、表示素子から出射して光学積層体に入射する光の分光スペクトルがシャープとなりやすく、本発明の効果が有効に発揮されやすい。
【0105】
光源として量子ドットを用いたバックライトは、少なくとも、一次光を放出する一次光源と、一次光を吸収して二次光を放出する量子ドットからなる二次光源から構成される。
一次光源が青に相当する波長の一次光を放出する場合、二次光源である量子ドットは、一次光を吸収して赤に相当する波長の二次光を放出する第1量子ドット、及び一次光を吸収して緑に相当する波長の二次光を放出する第2量子ドットの少なくとも一種を含むことが好ましく、前記第1量子ドット及び前記第2量子ドットの両方を含むことがより好ましい。
【0106】
量子ドット(Quantum dot)は、半導体のナノメートルサイズの微粒子で、電子や励起子がナノメートルサイズの小さな結晶内に閉じ込められる量子閉じ込め効果(量子サイズ効果)により、特異的な光学的、電気的性質を示し、半導体ナノ粒子とか、半導体ナノ結晶とも呼ばれるものである。
量子ドットは、半導体のナノメートルサイズの微粒子であり、量子閉じ込め効果(量子サイズ効果)を生じる材料であれば特に限定されない。
量子ドットは、バックライトを構成する光学フィルム中に含有させればよい。
【実施例】
【0107】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0108】
<実施例1~7及び比較例1,2>
1.フィルムAの準備
ポリエチレンテレフタレート(PET)を290℃で溶融して、フィルム形成ダイを通して、シート状に押出し、水冷冷却した回転急冷ドラム上に密着させて冷却し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機社)にて、120℃にて1分間予熱した後、120℃で4.0倍固定端一軸延伸して、フィルムA0を作製した。このフィルムA0の波長550nmにおける屈折率nx=1.7005、ny=1.6005、nz=1.5501であった。屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製 NAR-4T)によって10回測定の平均値から求めた。
このフィルムA0の厚みを調整し、該フィルム面に対し垂直軸方向から観測される面内リタデーション値(RA(0))が以下の値を有するフィルムA1~A4を得た。なお、フィルムA1~A4は、いずれも条件(1);nx>ny≧nzの関係を満たす。
フィルムA1:RA(0)=4,000nm
フィルムA2:RA(0)=8,500nm
フィルムA3:RA(0)=12,000nm
フィルムA4:RA(0)=3,000nm
【0109】
2.フィルムCの準備
前記式(1)で表される構造を有するポリイミドフィルム(厚み30μm)を準備し、フィルムC1として使用した。
また、前記式(5)で表される構造を有するポリイミドフィルム(厚み30μm)を準備し、フィルムC2として使用した。
フィルムC1、C2は、フィルム面に対し垂直軸方向から観測される面内リタデーション値(RC(0))及び厚み方向のリタデーション値(Rcth)が以下の値である。なお、フィルムC1、C2は、いずれも条件(2);nx≧ny>nzの関係を満たす。
フィルムC1:RC(0)=140nm、Rcth=6,530nm
フィルムC2:RC(0)=157nm、Rcth=3,400nm
【0110】
本実施例に記載したフィルムAの面内リタデーション値RA(0)、並びに光学積層体のリタデーション値Re(0)及びRe(40)は、王子計測機器(株)製の超高位相差測定装置「PAM-UHR100」により測定した、波長550nmにおけるリタデーション値である。また、フィルムCの面内リタデーション値RC(0)は、大塚電子(株)製の位相差測定装置「RETS-100」により測定した、波長550nmにおけるリタデーション値である。リタデーション値RA(0)、RC(0)、及びRe(0)は、入射角0度にて測定した値であり、リタデーション値Re(40)は、入射角40度にて測定した値である。
また本実施例に記載したフィルム及び光学積層体の厚みは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて撮影した断面の画像から10箇所の厚みを測定し、10箇所の値の平均値から算出した。
フィルムCの厚み方向のリタデーション値(Rcth)は、前記方法で測定した各フィルムの屈折率と厚みから、下記式により算出した。
Rcth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d
nx:フィルム面内において屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率
ny:フィルム面内において前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率
nz:フィルムの厚み方向の屈折率nz
d:フィルムの厚み
【0111】
3.ハードコート層の形成
フィルムC1の一方の面上に、下記組成のハードコート層形成用電離放射線硬化性樹脂組成物をグラビアコート法により硬化後の厚みが8μmになるよう塗布し、塗布層を形成した。形成した塗布層を70℃で1分間加熱して塗布層中の溶剤を蒸発させた後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を酸素濃度が200ppm以下の条件下にて積算光量が200mJ/cm2になるように照射して塗布層を完全硬化させ、ハードコート層1を形成した。ハードコート層の厚みは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて撮影した断面の画像から10箇所の厚みを測定し、10箇所の値の平均値から算出した。
(ハードコート層形成用電離放射線硬化性樹脂組成物)
ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬(株)製) 25質量部
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成(株)製) 50質量部
多官能アクリレートポリマー(アクリット8KX-012C、大成ファインケミカル(株)製) 25質量部(固形換算)
防汚剤(BYKUV3500、ビックケミー社製) 1.5質量部(固形換算)
光重合開始剤(Irg184、BASF社製) 4重量部
溶剤(MIBK) 150質量部
【0112】
4.光学積層体の作製
表1に示す各フィルムを、各フィルムの遅相軸の方向が同一になるように配置し、接着層を介して積層して、表1の実施例及び比較例に示す構成の光学積層体を作製した。実施例4の光学積層体に関しては、上記3.でフィルムC1の一方の面上にハードコート層1を形成して得られたフィルムを使用し、該フィルムのハードコート層1の反対面と、フィルムA1とを接着層を介して積層して光学積層体を作製した。それぞれの光学積層体について、前述の方法でRe(0)及びRe(40)の値を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
5.表示装置の準備
下記の構成の表示装置A,B,Cを準備した。光学積層体を除き、いずれの表示装置も市販品である。
<表示装置A>
マイクロキャビティ構造を備えた三色独立方式の有機EL表示素子上に、偏光子及び光学積層体を有する表示装置。CIE-xy色度図に基づくBT.2020のカバー率:77%。
<表示装置B>
表示素子がカラーフィルター付きの液晶表示素子であり、バックライトの光源が白色LEDであり、表示素子上に偏光子及び光学積層体を有する表示装置。CIE-xy色度図に基づくBT.2020のカバー率:49%。
<表示装置C>
表示素子がカラーフィルター付きの液晶表示素子であり、バックライトの一次光源が青色LEDであり、二次光源が量子ドットであり、表示素子上に偏光子及び光学積層体を有する表示装置。CIE-xy色度図に基づくBT.2020のカバー率:68%。
【0114】
6.評価
上記5.で作製した光学積層体を、表1に示す各表示装置の最表面に配置して以下の評価を行った。実施例及び比較例においては、いずれも光学積層体に含まれるフィルムCがフィルムAよりも視認者側となるよう配置した。また、光学積層体は、各表示装置の偏光子の吸収軸と、光学積層体に含まれるフィルムAの遅相軸とのなす角度が45°となるよう配置した。
【0115】
6-1.ブラックアウト
表示装置の画面を白表示もしくは略白表示にした。偏光サングラスを介して様々な角度から画面を観察し、画面が暗くなる箇所があるかどうかを目視で評価した。
A:画面が暗くなる箇所がない。
C:画面が暗くなる箇所がある。
【0116】
6-2.色再現性
表示装置の画面をカラー表示にした。偏光サングラスをかけた状態(状態1)、及び偏光サングラスを外して画面上に偏光サングラスと同色に染色したガラス板を設置した状態(状態2)で、それぞれ正面方向及び斜め方向から画面を観察し、偏光サングラスをかけた状態の色の再現性を目視で評価した。
状態1と状態2との色の差が気にならないものを2点、状態1と状態2との色の差が若干気になるものを1点、状態1と状態2との色の差がひどく気になるものを0点として、20人が評価を行い、平均点を算出した。
AA:平均点が1.7点以上
A:平均点が1.5点以上1.7点未満
B:平均点が1.0点以上1.5点未満
C:平均点が1.0点未満
【0117】
【0118】
表1の結果から、本発明の要件を満たす光学積層体は、表示装置に適用した際に、表示画面を正面方向及び斜め方向のいずれから観察した場合でも、偏光サングラスの有無による色の見え方の違いが少なく、色再現性が良好である。また、ブラックアウトの問題も解消することができる。
これに対し、表示装置の視認者側にフィルムCのみを配置した比較例1においては、ブラックアウト問題を解消できず、また、表示画面を斜め方向から観察した場合の色再現性が低下した。なお、比較例1では表示画面を正面方向から観察した場合にブラックアウトが生じるため、正面方向の色再現性は評価できなかった。比較例2の光学積層体はフィルムAとフィルムCを含むものであるが、所定の要件を満たさないため色再現性に劣るものであった。
なお、実施例1~5の評価で使用した表示装置A、及び実施例7の評価で使用した表示装置Cは、実施例6で使用した表示装置Bと比較して、表示素子から出射して光学積層体に入射する光の分光スペクトルがシャープとなりやすく、色再現性の問題が生じ易い。しかしながら表示装置A、Cにおいても、本発明の効果が有効に発揮されていることがわかる。これら表示装置のうち、CIE-xy色度図に基づくBT.2020のカバー率が高いほど(A,C,Bの順に)画像の臨場感に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の光学積層体は、表示素子及び偏光子を順に有する表示装置の視認者側に適用し、偏光サングラスを通して正面方向及び斜め方向のいずれから表示画面を観察した際にも、偏光サングラスなしで観察した場合との色の見え方の違いが少なく、色再現性が良好である。また、偏光サングラスを通して表示画面を観察した場合のブラックアウトの問題も解消できる。本発明の光学積層体は、折り畳み可能な表示装置の最表面に用いる光学フィルムとして好適である。
【符号の説明】
【0120】
1 フィルムA
2 フィルムC
3 ハードコート層
4 表示素子
5 偏光子
10 光学積層体
100 表示装置