(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/02 20060101AFI20220422BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220422BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220422BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20220422BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220422BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20220422BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20220422BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20220422BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20220422BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20220422BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20220422BHJP
B23K 11/16 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C23C2/02
C22C38/00 301T
C22C38/58
C22C18/00
C21D9/46 H
C23C2/06
C23C2/40
C23C2/28
C23C28/02
B23K11/00 570
B23K11/11 540
B23K11/16 311
(21)【出願番号】P 2020522914
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 IB2018058158
(87)【国際公開番号】W WO2019082038
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-06-17
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/001279
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティー,アニルバン
(72)【発明者】
【氏名】ガーセミー-アルマキ,ハッサン
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-124187(JP,A)
【文献】特表2017-510702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C2/02,2/06
B23K11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
A.鉄及び25~90重量%のニッケルから成る第1のコーティングで被覆されたプレコート鋼板を準備する工程であって、このような鋼板の化学組成が、重量パーセントで、
0.10<C<0.40%、
1.5<Mn<3.0%、
0.7<Si<2.0%、
0.05<Al<1.0%、
0.75<(Si+Al)<3.0%、
並びに任意に、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、及び
Ti≦0.5%、
から選択される1つ以上の元素であり、化学組成の残部が、鉄及び加工で生じる不可避の不純物で構成される工程と、
B.このようなプレコート鋼板を、600~1000℃の間の温度で熱処理する工程と、
C.工程B)で得られた鋼板に、亜鉛ベースの第2コーティングを溶融めっきコーティングする工程と、
D.合金化処理をして、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を形成する工程と
を含む製造方法。
【請求項2】
工程A)において、第1のコーティングが、10%~75重量%の鉄を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程A)において、第1のコーティングが、0.5μm以上の厚さを有する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程A)において、第1のコーティングが、0.8~5.0μmの間の厚さを有する、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
工程A)において、第1のコーティングが、1.0~2.0μmの間の厚さを有する、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
工程C)において、第2の層が、70%超の亜鉛を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程C)において、第2の層が、80%超の亜鉛を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
工程C)において、第2の層が、85%超の亜鉛を含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
工程C)において、第2の層が、亜鉛からなる、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
工程B)において、熱処理が連続焼鈍である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程B)において、熱処理が、-30~-60℃の間の露点で、H
2を1~10%含む雰囲気中で行われる、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程D)において、合金化処理が、工程C)で得られた被覆鋼板を460~550℃の間の温度で加熱することによって行われる、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。本発明は、自動車両の製造に、特によく適する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛ベースのコーティングは、バリア防食及び陰極防食によって腐食を防ぐことができるので、一般的に使用されている。鋼の表面に金属コーティングを塗布することで、バリア効果が得られる。したがって、金属コーティングは、鋼と腐食性雰囲気との接触を防止する。バリア効果は、コーティング及び基材の性質に依存しない。対照的に、犠牲的な陰極防食は、亜鉛が鋼よりイオン化傾向の高い金属であるという事実に基づく。したがって、腐食が発生する場合、亜鉛は鋼よりも先に消耗される。陰極防食は、周囲の亜鉛が鋼よりも先に消耗されるカットエッジのように、鋼が腐食性雰囲気に直接さらされる領域では不可欠である。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、そのような亜鉛被覆鋼板に対して加熱工程、例えば、ホットプレス硬化又は溶接が行われる場合、鋼/コーティング界面から広がるクラックが、鋼において確認される。実際、場合によっては、上記の作業後に存在する被覆鋼板のクラックによって、金属の機械的特性が低下する。これらのクラックが現れる条件は、高温、引張応力が存在する上での低融点の液体金属(亜鉛など)との接触、基材の結晶粒及び結晶粒界による溶融金属の不均一な拡散である。このような現象は、液体金属脆化(LME)という呼称で知られており、液体金属アシストクラッキング(LMAC)とも呼ばれる。
【0004】
場合によって、亜鉛被覆鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るために、高温で合金化される。Fe及びZnを含む合金が形成され、それは純粋な亜鉛よりも融点が高く、スポット溶接時に液体になる量が少ないので、この鋼板は、亜鉛被覆鋼板よりもLMEに対する耐性が高い。
【0005】
しかしながら、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、LMEに対する耐性がより高いにもかかわらず、加熱工程を実施すると、LMEに対する耐性が十分でないため、若干のクラックが発生する可能性がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、LMEの問題のない合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することである。それは、成形及び/又は溶接後にLMEの問題のない組立物を得るための、特に実行が容易な方法を提供することを目的とする。
【0007】
本目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。該方法は、請求項2~18のいずれかの特徴を含むこともできる。
【0008】
別の目的は、請求項19に記載の鋼板を提供することによって達成される。該鋼板は、請求項20~26のいずれかの特徴を含むこともできる。
【0009】
別の目的は、請求項27に記載のスポット溶接継手を提供することによって達成される。該スポット溶接継手は、請求項30に記載の特許請求の特徴を含むこともできる。
【0010】
最後に、請求項31に記載の鋼板又は組立物の使用を提供することにより、別の目的が達成される。
【0011】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から、明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「鋼」又は「鋼板」という呼称は、部品が最大2500MPa、より好ましくは最大2000MPaの引張強度を達成することを可能にする成分を有する鋼の板、コイル、プレートを意味する。例えば、引張強度は、500MPa以上、好ましくは980MPa以上、有利には1180MPa以上、さらには1470MPa以上である。
【0013】
本発明は、以下の工程を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【0014】
A.鉄及びニッケルを含む第1のコーティングで被覆されたプレコート鋼板を準備する工程であって、このような鋼板の化学組成が、重量パーセントで、
0.10<C<0.40%、
1.5<Mn<3.0%、
0.7<Si<2.0%、
0.05<Al<1.0%、
0.75<(Si+Al)<3.0%、
及び純粋に任意ベースで1つ以上の元素、例えば、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.5%、
であり、化学組成の残部が、鉄及び加工で生じる不可避の不純物で構成される工程。
【0015】
B.このようなプレコート鋼板を、600~1000℃の間の温度で熱処理する工程。
【0016】
C.工程B)で得られた鋼板に、亜鉛ベースの第2コーティングを溶融めっきコーティングする工程。
【0017】
D.合金化処理をして、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を形成する工程。
【0018】
理論に拘束されることは望まず、Niは一方で熱処理中に鋼板に向かって拡散し、Fe-Ni合金層を形成すると思われる。他方、若干量のNiが、鋼とコーティング界面との界面に依然として存在し、あらゆる加熱工程、例えば、溶接中に液体亜鉛が鋼内部へ浸透するのを防止する。さらに、第1のコーティング中に鉄が存在すると、工程D)中にFe-Zn合金の形成が可能になる。
【0019】
鉄及びニッケルを含む第1のコーティングは、当業者に知られている任意の堆積方法によって堆積される。それは、真空蒸着又は電気めっき法で堆積され得る。好ましくは、それは電気めっき法で堆積される。
【0020】
好ましくは、工程A)において、第1のコーティングは、10~75重量%、より好ましくは25~65重量%の間、有利には40~60重量%の間の鉄を含む。
【0021】
好ましくは、工程A)において、第1のコーティングは、25.0~90重量%、好ましくは35~75重量%、有利には40~60重量%のニッケルを含む。
【0022】
好ましい実施形態では、工程A)において、第1のコーティングは、鉄及びニッケルからなる。
【0023】
好ましくは、工程A)において、第1のコーティングは、0.5μm以上の厚さを有する。より好ましくは、第1のコーティングは、0.8~5.0μmの間、有利には1.0~2.0μmの間の厚さを有する。
【0024】
好ましくは、工程B)において、熱処理は連続焼鈍である。例えば、連続焼鈍は、加熱、均熱及び冷却工程を含む。それは、予熱工程をさらに含むことができる。
【0025】
有利には、熱処理は、露点-10~-60℃の間で、H2を1~30%含む雰囲気中で実施される。例えば、雰囲気は、露点-40℃~-60℃の間で、H2を1~10%含む。
【0026】
有利には、工程C)において、第2の層は、70%超、より好ましくは80%超の亜鉛、有利には85%超の亜鉛を含む。
【0027】
例えば、亜鉛ベースのコーティングは、0.01~0.18wt%の間のAl、任意により0.2~8.0%のMgを含み、残りはZnである。
【0028】
好ましくは、亜鉛ベースのコーティングは、溶融亜鉛めっき法によって堆積される。この実施形態では、溶融浴は、インゴットの投入による、又は鋼板の溶融浴内の通過による不可避の不純物及び残留元素も含むことができる。例えば、不純物は、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから任意で選択され、各追加元素の重量含有量は、0.3重量%未満である。インゴットの投入又は鋼板の溶融浴中の通過による残留元素は、含有量5.0重量%までの、好ましくは3.0重量%までの鉄であり得る。
【0029】
好ましい実施形態では、第2の層は亜鉛からなる。コーティングが溶融亜鉛めっきによって堆積される場合、浴中に含まれるアルミニウムのパーセンテージは、0.10~0.18wt%の間である。
【0030】
好ましくは、工程D)において、合金化処理は、工程C)で得られた被覆鋼板を460~550℃の間の温度で5~40秒間加熱することにより実施される。例えば、工程Dは、500℃で20秒間実施される。
【0031】
本発明による方法により、亜鉛ベースの第2の層に直接覆われた、鉄及びニッケルを含む第1の層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られ、第1及び第2の層は、5~15wt%の鉄、0~15wt%、好ましくは1~15wt%のニッケルを含み、残りが亜鉛である第2の合金層となるように、拡散により合金化されている。
【0032】
好ましくは、鋼板は、1~50%の残留オーステナイト、1~60%のマルテンサイト、並びに任意によりベイナイト、フェライト、セメンタイト及びパーライトから選択される少なくとも1つの成分を含む微細組織を有する。この場合、マルテンサイトは焼戻しされても、されなくてもよい。
【0033】
好ましい実施形態では、鋼板は、5~25%の残留オーステナイトを含む微細組織を有する。
【0034】
好ましくは、鋼板は、1~60%、より好ましくは10~60%の間の焼戻しマルテンサイトを含む微細組織を有する。
【0035】
有利には、鋼板は、10~40%のベイナイトを含む微細組織を有し、そのようなベイナイトは、10~20%の下部ベイナイト、0~15%の上部ベイナイト及び0~5%の炭化物非含有ベイナイトを含む。
【0036】
好ましくは、鋼板は、1~25%のフェライトを含む微細組織を有する。
【0037】
好ましくは、鋼板は、1~15%の非焼戻しマルテンサイトを含む微細組織を有する。
【0038】
鋼板の製造後、車両のいくつかの部品を製造するために、2枚の金属板を溶接して組み立てることが知られている。したがって、少なくとも2枚の金属板の溶接中にスポット溶接継手が形成され、前記スポットは少なくとも2枚の金属板間を連結する。
【0039】
本発明によるスポット溶接継手を製造するために、溶接は3kA~15kAの間の実効電流で実施され、電極に加えられる圧力は150~850daNの間であり、前記電極の活性面の直径は4~10mmの間である。
【0040】
このように、本発明による被覆鋼板を含む少なくとも2枚の金属板のスポット溶接継手が得られ、このような継手に含まれる100μm超のサイズのクラックの数は、3つ未満であり、最長のクラックの長さは、400μm未満である。
【0041】
好ましくは、2枚目の金属板は、鋼板又はアルミニウム板である。より好ましくは、2枚目の金属板は、本発明による鋼板である。
【0042】
別の実施形態では、スポット溶接継手は、鋼板又はアルミニウム板である3枚目の金属板を含む。例えば、3枚目の金属板は、本発明による鋼板である。
【0043】
本発明の鋼板又はスポット溶接継手は、自動車両用部品の製造に使用することができる。
【0044】
実施された試験において、これから本発明を情報の目的のみで説明する。それらは、限定するものではない。
【実施例】
【0045】
すべてのサンプルについて、使用した鋼板の成分の重量パーセントは、C=0.37wt%、Mn=1.9wt%、Si=1.9wt%、Cr=0.35wt%、Al=0.05wt%及びMo=0.1wt%である。
【0046】
試作1~4は、55%及び75%のNiを含み、残りがFeである第1のコーティングを堆積させることによって調製した。次に、露点-45℃で、5%のH2及び95%のN2を含む雰囲気中で連続焼鈍を実施した。プレコート鋼板を900℃の温度で加熱した。0.2%のAlを含む亜鉛浴での溶融亜鉛めっきによって、亜鉛コーティングを堆積させた。浴温は、460℃であった。最後に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るために、500℃で20秒間合金化処理を実施した。
【0047】
比較のため、上記鋼板の連続焼鈍後、電気亜鉛めっきにより亜鉛コーティングを堆積させて試作5を調製した。
【0048】
試作1~5の、LMEに対する耐性を評価した。そのために、各試作について2枚の被覆鋼板を、抵抗スポット溶接によって溶接した。電極のタイプは16mmの直径を有するISOタイプBであり、電極の圧力は5kNであり、水の流量は1.5g/分であった。溶接サイクルを表1にて報告する。
【0049】
【0050】
次に、表2に報告されるように、光学顕微鏡及びSEM(走査型電子顕微鏡)を使用して、100μmを超えるクラックの数を評価した。
【0051】
【0052】
本発明による試作は、試作5と比較して、LMEに対する優れた耐性を示す。実際、本発明による試作のクラックの数は、試験5と比較すると非常に少なく、存在すらしない。
【0053】
各試作について、3枚の被覆鋼板も、抵抗スポット溶接によって3層重ね構成の下で溶接した。次いで、表3に報告されるように、光学顕微鏡及びSEM(走査型電子顕微鏡)を使用して、100μmを超えるクラックの数を評価した。
【0054】
【0055】
本発明による試作は、試作5と比較して、LMEに対する優れた耐性を示す。
【0056】
最後に、試作1~4を90°の角度で曲げた。次に、粘着テープを貼ってはがし、基材鋼とのコーティング密着性を確認した。それらの試作のコーティング密着性は、優れていた。