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特許7062125間質における塩基性線維芽細胞増殖因子の発現に基づいて肺腺がん患者の予後を予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】間質における塩基性線維芽細胞増殖因子の発現に基づいて肺腺がん患者の予後を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220422BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220422BHJP
   G01N 33/53 20060101ALN20220422BHJP
【FI】
G01N33/68
A61P35/00
A61K45/00
A61K39/395 T
G01N33/53 Y
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021158995
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2021-11-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520467442
【氏名又は名称】医療法人今光会
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】小山 倫浩
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0334406(US,A1)
【文献】Mingming Hu et al.,Prognostic Value of Basic Fibroblast Growth Factor (bFGF) in Lung Cancer: A Systematic Review with Meta-Analysis,PLOS ONE,2016年,11(1): e0147374,pp.1-14,DOI:10.1371/journal.pone.0147374
【文献】Carmen Behrens et al.,Immunohistochemical Expression of Basic Fibroblast Growth Factor and Fibroblast Growth Factor Receptors 1and 2 in the Pathogenesis of Lung Cancer,Clin Cancer Res,2008年,Vol.14, No.19,pp.6014-6022
【文献】Akinori Iwasaki et al.,Basic fibroblast growth factor (bFGF) and vascular endothelial growth factor (VEGF) levels, as prognostic indicators in NSCLC,European Journal of Cardio-thoracic Surgery,2004年,Vol.25,pp.443-448
【文献】Iwao Takanami et al.,Immunohistochemical Detection of Basic Fibroblast Growth Factor as a Prognostic Indicator in Pulmonary Adenocarcinoma,Jpn J Clin Oncol,1996年,Vol.26, No.5,pp.293-297
【文献】I. Takanami et al.,The Basic Fibroblast Growth Factor and its Receptor in Pulmonary Adenocarcinomas: an Investigation of their Expression as Prognostic Markers,Eur J Cancer,1996年,Vol.32A, No.9,pp.1504-1509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
A61P 35/00
A61K 45/00
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺腺がん患者の予後を予測するための方法であって、
肺腺がん患者から得られた肺腺がん組織における塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の発現を検出することを含み、ここで、bFGFが陽性である場合には予後がよいことまたはその可能性が示され、かつ、陰性である場合には予後が悪いことまたはその可能性が示される、方法。
【請求項2】
前記がん患者が、がん切除術後の患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発現の高低が、がん細胞に対する陽性細胞の割合に基づいて決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記発現が、タンパク質の発現である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記予後が、再発率および生存率からなる群から選択される少なくとも1以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
肺腺がんが、ステージIおよびIIからなる群から選択される早期がんである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
肺腺がん患者を処置することに用いるための医薬組成物であって、
治療上有効量の抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬を含み、
前記肺腺がん患者は、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により予後が悪いと評価される患者である、医薬組成物。
【請求項8】
抗VEGF薬が、ベバシズマブである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
肺腺がんを有する対象において肺腺がんを処置する方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により当該対象の予後を予測することと、
予後が悪いと予測された対象に対して、治療上有効量の抗血管新生剤を投与することを含む、方法
において用いるための、抗血管新生剤を含む、医薬組成物。
【請求項10】
肺腺がん患者を処置することに用いるための医薬組成物であって、
抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬以外のがんの化学療法剤を含み、
前記肺腺がん患者は、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により予後がよいと評価される患者である、医薬組成物。
【請求項11】
肺腺がんを有する対象において肺腺がんを処置する方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により当該対象の予後を予測することと、
予後がよいと予測された対象に対して、抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬以外のがんの化学療法剤の治療上有効量を投与することを含む、方法
において用いるための、前記がんの化学療法剤を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、おける塩基性線維芽細胞増殖因子の発現に基づいて肺腺がん患者の予後を予測する方法、および予後が悪いと決定される対象において肺腺がんを処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2018年には、がんによる日本の死亡者数は136万人であり、そのうち37万人(27%)はがんで死亡している。また、2018年には新たに98万人ががんと診断され、がんを正確に診断することは社会的な課題である。
【0003】
非特許文献1では、ステージIIおよびIIIの非小細胞肺がんとFGF2の発現との関係を調べ、FGF2陰性と全生存率(OS)の改善とが相関することを開示する。非特許文献2では、肺扁平上皮がんとFGF2発現との関係を調べ、FGF2の発現とOSとには明らかな相関がないことを開示する。非特許文献3では、肺がんにおいて、bFGFの過剰発現が、切除可能な非小細胞肺がんにおいて悪い予後と関係することを示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys., 82(1): 442-447, 2012
【文献】Int J Clin Exp Pathol., 8(9): 9760-9771, 2015
【文献】PLoS One, 11(1): e0147374. 2016
【発明の概要】
【0005】
本開示は、おける塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の発現に基づいて肺腺がん患者の予後を予測する方法、および予後が悪いと決定される対象において肺腺がんを処置する方法を提供する。
【0006】
本発明者らによると、肺腺がん患者から得られた肺腺がん生検中の間質細胞におけるbFGFの発現が、当該患者のがん切除術後の予後に影響することを見い出した。
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]肺腺がん患者の予後を予測する方法であって、
肺腺がん患者から得られた肺腺がん組織における塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の発現を検出することを含み、ここで、bFGFが陽性である場合には予後がよいことまたはその可能性が示され、かつ、陰性である場合には予後が悪いことまたはその可能性が示される、方法。
[2]前記がん患者が、がん切除術後の患者である、上記[1]に記載の方法。
[3]前記発現の高低が、がん細胞に対する陽性細胞の割合に基づいて決定される、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記発現が、タンパク質の発現である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記予後が、再発率および生存率からなる群から選択される少なくとも1以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]肺腺がんが、ステージIおよびIIからなる群から選択される早期がんである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]肺腺がん患者を処置することに用いるための医薬組成物であって、
治療上有効量の抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬を含み、
前記肺腺がん患者は、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法により予後が悪いと評価される患者である、医薬組成物。
[8]抗VEGF薬が、ベバシズマブである、上記[7]に記載の医薬組成物。
[9]がんを有する対象においてがんを処置する方法であって、
上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法により当該対象の予後を予測することと、
予後が悪いと予測された対象に対して、治療上有効量の抗血管新生剤を投与することを含む、方法
において用いるための、抗血管新生剤を含む、医薬組成物。
[10]bFGFの発現レベルが所定の値以上であるときに陽性と評価し、所定の値未満であるときに陰性と評価する、上記いずれか記載の方法。
[11]bFGFの発現レベルが所定の値を超えるときに陽性と評価し、所定の値以下であるときに陰性と評価する、上記いずれか記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、肺腺がん患者から得られたがん組織生検のbFGFに対する免疫組織化学染色像である。
図2図2は、ステージIの患者群とステージII~IVの患者群の無再発生存期間を示す。
図3図3は、ステージIおよびIIの患者群とステージIIIおよびIVの患者群の無再発生存期間を示す。
図4図4は、ステージIの患者群とステージII~IVの患者群の生存期間を示す。
図5図5は、ステージIおよびIIの患者群とステージIIIおよびIVの患者群の生存期間を示す。
図6図6は、全症例におけるbFGF陽性例と陰性例の無再発生存期間を示す。
図7図7は、ステージIおよびIIの患者群におけるbFGF陽性例と陰性例の無再発生存期間を示す。
図8図8は、ステージIの患者群におけるbFGF陽性例と陰性例の無再発生存期間を示す。
図9図9は、全症例におけるbFGF陽性例と陰性例の生存期間を示す。
図10図10は、ステージIおよびIIの患者群におけるbFGF陽性例と陰性例の生存期間を示す。
図11図11は、ステージIの患者群におけるbFGF陽性例と陰性例の生存期間を示す。
【発明の詳細な説明】
【0009】
<定義>
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物であり得、好ましくは、ヒトである。対象は、腫瘍またはがんに罹患している、またはそのリスクがある対象であり得る。対象は、70歳以上および70歳未満の対象を含み得る。対象は、喫煙者(例えば、BI指数が700以上)および非喫煙者を含み得る。
【0010】
本明細書では、「がん」とは、細胞の制御不能な増殖を特徴とする疾患である。がん細胞には、局所的に広がるものと、血流またはリンパ系を通じて全身に広がるものとがある。がんの非限定的な例としては、例えば、固形腫瘍が挙げられる。がんの非限定的な例としては、例えば、造血器腫瘍が挙げられる。固形腫瘍としてはまた、例えば、肺がんが挙げられる。本明細書では、「がん組織」とは、がんを含む組織である。がん組織は、生検およびがん切除術によって得られ得る。本明細書において「予後」とは、がんの再発率(または再発までの期間)および生存率を意味し得る。再発には、原発巣での再発と転移後の再発とが挙げられる。再発率は、治療一定期間後の再発率であり得る。一定期間は、例えば、1年、2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、9年、10年、11年、12年、13年、14年、もしくは15年、またはこれらのいずれかの期間以上の期間であり得る。
【0011】
本明細書では、「肺腺がん」とは、肺がんの一種である。肺がんは、小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんとに大別され、非小細胞肺がんは、肺腺がんを含む3つのがんに大別される。非小細胞肺がんは、肺がんの約8割を占め、肺腺がんは、非小細胞肺がんの約6割を占める。
【0012】
本明細書では、「遺伝子発現」またはこれに類似する表現は、細胞のゲノム上に存在する遺伝子からのメッセンジャーRNA(mRNA)の発現およびタンパク質の発現の両方を意味する。mRNAは、当業者に周知の方法によって、細胞からトータルRNAを抽出し、例えば、mRNAが固有に有するポリA配列を利用したcDNA第1鎖の合成と、これに続く増幅(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応)によって検出をすることができる。タンパク質は、当該タンパク質に特異的に結合する抗体(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)を用いて検出することができる。
【0013】
本明細書では、細胞における遺伝子発現の文脈において「陽性」とは、断りのない限り、検出可能なレベルでmRNAまたはタンパク質が検出されることを意味する。また、「陰性」とは、断りのない限り、検出可能なレベルでmRNAまたはタンパク質が検出されないことを意味する。本明細書では、組織における遺伝子発現の文脈において「陽性」および「陰性」の分類をより明確化するために、閾値を設定し、当該閾値を以上の発現量を示すものを「陽性」とし、当該閾値未満の発現量を示すものを「陰性」と示す。このように、本明細書では、細胞レベルでの遺伝子発現の「陽性」と、組織レベルでの遺伝子発現の「陽性」とは、判定基準が異なる。
【0014】
本明細書では、発現量とは、組織または一定の細胞集団中において発現したmRNAの量またはタンパク質の量を意味する。mRNAの発現量は、定量的PCR等のmRNAを定量するための当業者に周知の様々な方法により定量することができる。タンパク質の定量は、免疫組織化学染色(IHC)等の当業者に周知な方法により定量することができる。IHCでは、組織切片中のタンパク質に抗体が結合し、抗体を色素により発色させることができる。発色の強さはタンパク質の発現量と対応する。したがって、発色の強さにより、タンパク質の発現量を定量することができる。また、IHCでは、発色の強度ではなく、発現する細胞数または細胞割合に基づいて、タンパク質の発現量を定量することができる。タンパク質の発現量を、発色の強度に基づいて定量するか、発現する細胞数または細胞割合に基づいて定量するかは、状況や目的に合わせて選択される。
【0015】
本明細書では「塩基性線維芽細胞増殖因子」(bFGF)は、FGFファミリーに属する成長因子である。bFGFは、FGF2とも呼ばれる。bFGFは、血管新生に加えて、神経系、肺、筋肉、骨、皮膚などの発生に関与することが示唆されている。ヒトbFGFは、例えば、NCBI Reference Sequence:NP_001997.5の下で登録されたアミノ酸配列を有し得る。ヒトbFGFは、NCBI Reference Sequence:NP_001997.5の下で登録されたアミノ酸配列と、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上のアミノ酸配列の同一性を有していてもよい。
【0016】
本明細書では、「抗体」は、免疫グロブリンを意味する。抗体は、様々なアイソタイプの抗体であり得、例えば、IgGであり得る。抗体は、好ましくは、モノクローナル抗体であり得る。抗体は、ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得る。ヒトキメラ抗体は、非ヒト抗体の定常領域をヒト抗体の定常領域に置き換えることにより作製され得る。ヒト化抗体は、ヒト抗体の6つのCDRを、非ヒト抗体の6つの対応するCDRで置き換えることにより作製され得る。ヒト抗体は、免疫グロブリンの少なくとも重鎖可変領域をヒトの遺伝子座の対応する領域で置き換えた動物(例えば、マウス)を用いて作製することができる。定常領域が非ヒトである場合には、定常領域をヒトの抗体のアミノ酸配列に置き換えることでヒト抗体を得ることができる。本明細書では、抗体は、好ましくはヒト化抗体であり得る。本明細書では、抗体は好ましくはヒト抗体であり得る。抗体は、細胞内で産生されるときにはシグナルペプチドを有しているが、細胞外に分泌されるときには当該シグナルペプチドは切除されている。従って、医薬として投与する場合は、抗体にはシグナルペプチドは不要である。
【0017】
本明細書では、「CDR」は、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域に存在する相補性決定領域である。重鎖および軽鎖可変領域に、それぞれ3つ存在し、N末端からCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれる。CDRは、例えば、Kabatらの番号付け(Kabat,E.A.et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed., 1991, Bethesda: US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH.)に基づいて決定され得る。
【0018】
本明細書では、「競合する」とは、抗原への結合に関して、他の結合抗体と結合を奪い合うことを意味する。競合は、ある抗原に対して2つの抗体の結合部位が重複する場合に生じ得る。このような抗体は、上記のようにエピトープを用いた免疫によって得ることができ、および/または、競合アッセイにより抗原に対する一方の抗体の結合が他方の抗体により減少するか否かを確認することでも得ることができる。競合する抗体としては、互いに競合する抗体が挙げられる。
【0019】
本明細書では、「抗体-薬物コンジュゲート」(以下、「ADC」ともいう)とは、抗体と細胞傷害剤とが連結した物質を意味する。ADCでは、抗体と細胞傷害剤とは適切なリンカーを介して連結させることができる。細胞傷害剤としては、化学療法剤、放射性同位体、および毒素を用いることができる。ADCには、抗体の抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートも含まれる。
【0020】
本明細書では、「抗体の抗原結合性断片」は、抗体の断片であって、抗原への結合性を維持した断片を意味する。抗原結合性断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv(単鎖Fv)、ダイアボディー、sc(Fv)2(単鎖(Fv)2)が挙げられる。例えば、抗体をパパインで消化すると、Fabを得ることができる。あるいは、抗体をペプシンで消化すると、F(ab’)2を得ることができ、これをさらに還元するとFab’を得ることができる。その他の抗体の抗原結合性断片も当業者に周知の方法で作製することができる。本発明ではこのような抗体の抗原結合性断片を用いることができる。
【0021】
<本開示の検査方法および予測方法>
本開示によれば、
(A)がん患者の予後を予測する方法であって、
がん患者から得られたがん組織におけるFGF(特にbFGF)の発現を検出する工程を含む、
方法
が提供される。
【0022】
上記方法(A)において、がん組織におけるbFGFの発現が陽性であると予後がよいまたはその可能性があると予測することができる。あるいは、上記の方法において、がん組織におけるbFGFの発現が陰性であると予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる。また、上記の方法において、がん組織におけるbFGFの発現が陽性であると予後がよいまたはその可能性があると予測することができ、かつ、がん組織におけるbFGFの発現が陰性であると予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる。
【0023】
ある態様では、bFGFが陽性または陰性であるかは、組織(またはその切片もしくは細胞破砕液)中のbFGFタンパク質またはmRNAレベルに基づいて決定することができる。
【0024】
ある態様では、bFGFレベルは、bFGFに結合する抗体を用いて決定することができる。bFGFタンパク質と抗体との複合体が形成される条件下で、組織(またはその切片もしくは細胞破砕液)とbFGFに結合する抗体とを接触させて、複合体が形成されたときに、bFGFタンパク質が検出される。検出は、ELISA法、ウェスタンブロット法およびタンパク質アレイ法などの当業者に周知の方法により行うことができる。この検出量に基づいて、がん組織がbFGF陽性または陰性であると決定することができる。ある好ましい態様では、がん組織におけるbFGFが陽性または陰性であることは、免疫組織化学染色により確認することができる。bFGFのタンパク質レベルは、当業者であれば周知の技術を用いて測定することができる。
【0025】
ある態様では、bFGFのmRNAレベルは、当業者であれば周知の技術を用いて測定することができる。例えば、bFGFのmRNAレベルは、定量的PCR、デジタルPCR、マイクロアレイ、または次世代シーケンサーなどの定量的な測定法により決定することができる。
【0026】
本開示によれば、上記方法(A)では、bFGFタンパク質の発現量が、第1の所定の値以上である場合に、bFGF陽性であると決定し、第1の所定の値未満である場合に、bFGF陰性であると決定することができる。また、上記方法(A)では、bFGFのmRNAの発現量が、第2の所定の値以上である場合に、bFGF陽性であると決定し、第2の所定の値未満である場合に、bFGF陰性であると決定することができる。
【0027】
第1の所定の値は、予後のよいがん患者におけるbFGFタンパク質の発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下とすることができる、第1の所定の値は、予後の悪いがん患者群におけるbFGFタンパク質の発現量の最小値以上、第1四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。第1の所定の値は、予後のよいがん患者群におけるbFGFタンパク質の発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下であり、かつ、予後の悪いがん患者群におけるbFGFタンパク質の発現量の最小値以上、第1四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。
【0028】
第2の所定の値は、予後のよいがん患者におけるbFGFタンパク質の発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下とすることができる、第1の所定の値は、予後の悪いがん患者群におけるbFGFのmRNAの発現量の最小値以上、第1四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。第1の所定の値は、予後のよいがん患者群におけるbFGFのmRNAの発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下であり、かつ、予後の悪いがん患者群におけるbFGFタンパク質のmRNAの発現量の最小値以上、第1四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。
【0029】
上記において、予後が良いか悪いかは、医師により決定することができる。予後が良いか悪いかは、例えば、無再発生存期間の長さ、または生存期間の長さにより決定することができる。例えば、無再発生存期間が、がん切除術後、1,000時間以上、1,100時間以上、1,200時間以上、1,300時間以上、1,400時間以上、1,500時間以上、1,600時間以上、1,700時間以上、1,800時間以上、1,900時間以上、2,000時間以上、2,100時間以上、2,200時間以上、2,300時間以上、2,400時間以上、2,500時間以上、2,600時間以上、2,700時間以上、2,800時間以上、2,900時間以上、または3,000時間以上である患者を予後がよい患者と決定することができ、それ未満の患者(予後がよいと決定されなかった患者)を予後が悪いと決定することができる。または、例えば、生存期間が、がん切除術後、1,000時間以上、1,100時間以上、1,200時間以上、1,300時間以上、1,400時間以上、1,500時間以上、1,600時間以上、1,700時間以上、1,800時間以上、1,900時間以上、2,000時間以上、2,100時間以上、2,200時間以上、2,300時間以上、2,400時間以上、2,500時間以上、2,600時間以上、2,700時間以上、2,800時間以上、2,900時間以上、または3,000時間以上である患者を予後がよい患者と決定することができ、それ未満の患者(予後がよいと決定されなかった患者)を予後が悪いと決定することができる。
【0030】
ある好ましい態様において、bFGFが陽性または陰性かは、がん組織中の間質細胞(例えば、がん関連線維芽細胞(CAF))におけるbFGF陽性の細胞の割合によって決定することができる。例えば、bFGF陽性の細胞の割合が、第3の所定の値以上の場合に、当該がん組織が由来する対象が、bFGF陽性であると決定することができる。また、bFGF陽性細胞の割合が、第3の所定の値未満である場合に、当該がん組織が由来する対象が、bFGF陰性であると決定することができる。ここで、個々の細胞がbFGF陽性であるか否かは、bFGFに結合する抗体を用いた免疫組織化学染色、またはbFGFのmRNAに対するインサイチュハイブリダイゼーションなどの組織化学染色の手法により決定することができる。通常は、これらの組織化学染色によって、有意な染色が認められた細胞を陽性とし、有意な染色が認められない細胞を陰性とすることができる。
【0031】
第3の所定の値は、がん細胞に対するbFGF陽性の細胞の割合における閾値(またはカットオフ値)である。ある態様では、第3の所定の値は、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上、21%以上、22%以上、23%以上、24%以上、25%以上、26%以上、27%以上、28%以上、29%以上、または30%以上の値であり得る。第3の所定の値は、例えば、5~30%、5~25%、5~20%、または5~15%の値であり得る。
【0032】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者である。
【0033】
ある好ましい態様では、がんは、肺がんであり、より好ましくは、肺腺がんである。
【0034】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者であり、がんは、肺腺がんである。
【0035】
<本開示の治療方法>
本開示によれば、
(B)がんを有する対象においてがんを処置する方法であって、
bFGF陰性のがんを有する対象に対して、治療上有効量の抗血管新生剤を投与することを含む、方法が提供される。
【0036】
bFGF陰性か否かは、上記方法(A)により決定することができる。
【0037】
上記方法(B)は、前記投与の前にbFGF陰性のがんを有する対象を選択することを含んでいてもよい。上記方法(B)は、前記投与の前に、上記方法(A)を実施することをさらに含んでいてもよく、この場合、bFGF陰性のがんを有する対象は、上記方法(A)により予後が悪いと決定された対象であり得る。
【0038】
抗血管新生剤としては、例えば、抗血管内皮細胞成長因子治療剤(抗VEGF治療剤)が挙げられる。抗VEGF治療剤としては、例えば、例えば、ルセンティス(商標)(ラニビズマブ)、アイリーア(商標)(アフリベルセプト又はVEGFトラップ)、アバスチン(商標)(ベバシズマブ)、およびマクジェン(商標)(ペガプタニブ)が挙げられる。また、抗VEGF治療剤としては、例えば、ラパチニブ(タイケルブ(商標))、スニチニブ(スーテント(商標))、ソラフェニブ(ネクサバール(商標))、およびアキシチニブが挙げられる。抗VEGF治療剤は、例えば、VEGFに結合する抗体(特にモノクローナル抗体)またはその抗原結合性断片であり得、VEGF存在下においてVEGF受容体の活性化を阻害することができる抗体が挙げられる。ある態様では、VEGFに結合する抗体は、VEGFとVEGF受容体の結合を阻害することができるVEGF上の位置に結合し得る。VEGFに結合する抗体としては、上記抗体の重鎖CDR1~3を含む重鎖可変領域と、上記抗体の軽鎖CDR1~3を含む軽鎖可変領域とを含む、抗体またはその抗原結合性断片が挙げられる。重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3は、例えば、Kabatによる番号付けシステムを用いて特定することができる(Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (1987 and 1991, NIH, Bethesda, MD)又はChothia & Lesk, 1987, J.Mol.Biol.196:901-917; Chothia et al., 1989, Nature 342:878-883))。ある態様では、PNAS, 114 (5) 944-949, 2017において開示された臨床段階の抗体群の重鎖可変領域および軽鎖可変領域とアラインメントし、フレームワーク領域と区別される領域(特にアミノ酸配列の変動の大きな領域)をCDRとして特定し得る。また、上記抗体のいずれかとVEGFとの結合に関して競合する抗体が、抗血管新生剤として上記抗体と同様に用いられ得る。競合は、競合的結合アッセイを用いて確認することができる。例えば、VEGFを固相化し、第1の抗体と固相化されたVEGFと結合させて複合体を形成させ、次いでその複合体に対して第2の抗体を接触させたときに、第1の抗体が第2の抗体の結合を阻害しない場合、第1の抗体と第2の抗体は、VEGFとの結合に関して競合しない。これに対して、第1の抗体が第2の抗体の結合を阻害する場合には、第1の抗体と第2の抗体は、VEGFとの結合に関して競合する。相互に競合するとは、第1の抗体と第2の抗体を入れ替えても競合が観察されることを意味する。ある態様では、上記抗体のいずれかとVEGFとの結合に関して互いに競合する抗体が、抗血管新生剤として上記抗体と同様に用いられ得る。
【0039】
抗血管新生剤は、限定されないが、経口投与、非経口投与(例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内および皮下)、硬膜外投与、腫瘍内投与、粘膜投与(例えば、鼻腔内および経口経路)および肺投与(例えば、吸入器または噴霧器を用いて投与されるエアロゾル化された化合物)により投与され得る。
【0040】
治療上有効量は、治療的意義をもたらす有効成分の用量である。治療的意義は、投与しない場合と比較して、疾患の進行速度を遅くする、進行を止める、疾患の症状を軽減する、または疾患を治癒する場合にもたらされ得る。治療上有効量は、医師により疾患の進行度、性別、年齢、および/または体重などを考慮して決定され得るが、例えば、1~100mg/kg体重であり得る。投与は、投与計画に従って行われてもよい。投与計画は、最適な所望の反応(例えば、治療的または予防的反応)を提供するように調整され得る。治療計画は、単回投与であってもよいし、投与サイクルを含んでいてもよい。
【0041】
抗血管新生剤は、水性製剤、凍結乾燥された製剤、または凍結乾燥され、再水和された製剤(特に、抗がん剤、またはがんを処置することに用いるための医薬組成物)である。抗血管新生剤は、薬学的に許容可能な賦形剤を含んでいることができる。ある態様において、水和溶液は、デキストロースおよび/または生理食塩水(例えば、約5w/v%濃度のデキストロースおよび/または約0.9w/v%濃度の生理食塩水)である。
【0042】
ある態様では、がんは、肺腺がんであり得、がん切除術後の対象であり得る。
【0043】
ある態様では、抗血管新生剤は、肺がん療法を組み合わせて投与され得る。肺がん療法には、化学療法、外科療法、および放射線療法のいずれかまたは複数が含まれ得る。化学療法においては、対象は、ゲフィニチブ(特に対象がEGFR遺伝子変異を有する場合)、プラチナ製剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン)、代謝拮抗剤(例えば、ピリミジン代謝拮抗剤、例えば、ペメトレキセド、ゲムシタビン、TS-1)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、イリノテカン、ノギテカン、エトポシド)、抗がん性抗生物質(例えば、アムルビシン)、微小管作用剤(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビン)、分子標的薬(例えば、ベバシズマブ、ラムシルマブ、ネシツムマブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダコミチニブ、クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ、ロルラチニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ、エヌトレクチニブ)、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、ニボルマブ、ペムプロリズマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、ヂュルバルマブ)からなる抗がん剤から選択される1以上を投与され得る。
【0044】
本開示によれば、
(C)がんを有する対象においてがんを処置する方法であって、
bFGF陽性のがんを有する対象に対して、抗VEGF治療薬以外の治療上有効量の化学療法剤を投与することを含む、
方法
が提供される。
【0045】
本開示によれば、
(D)がんを有する対象においてがんを処置する方法であって、
当該対象がbFGF陽性のがんを有するか否かを決定することと、
bFGF陰性のがんを有する対象に対して、治療上有効量の抗血管新生剤を投与し、bFGF陽性のがんを有する対象に対して、抗血管新生剤(特に抗VEGF治療薬)以外の治療上有効量の化学療法剤を投与することを含む、
方法
が提供される。
【0046】
本開示によれば、
(E)がんを有する対象においてがんを処置する方法であって、
上記(A)に記載の方法により当該対象の予後を予測することと、
予後が悪いと予測された対象に対して、治療上有効量の抗血管新生剤を投与することを含む、
方法
が提供される。
【0047】
本開示によれば、
(F)がんを有する対象においてがんを処置する方法であって、
上記(A)に記載の方法により当該対象の予後を予測することと、
予後がよいと予測された対象に対して、抗血管新生剤(特に抗VEGF治療薬)以外の治療上有効量の化学療法剤を投与することを含む、
方法
が提供される。
【0048】
本開示によれば、
(G)がんを有する対象においてがんを処置する方法であって、
上記(A)に記載の方法により当該対象の予後を予測することと、
予後が悪いと予測された対象に対して、治療上有効量の抗血管新生剤を投与し、予後がよいと予測された対象に対して、抗血管新生剤(特に抗VEGF治療薬)以外の治療上有効量の化学療法剤を投与することを含む、
方法
が提供される。
【0049】
ある態様では、がんは、肺腺がんであり得、がん切除術後の対象であり得る。
【0050】
本開示によれば、上記(B)、(D)、(E)、および(G)のいずれかに記載の方法において用いるための、抗血管新生剤(特に抗VEGF治療薬)が提供される。本開示によれば、上記(B)、(D)、(E)、および(G)のいずれかに記載の方法において用いるための、抗血管新生剤(特に抗VEGF治療薬)を含む医薬組成物が提供される。本開示によれば、上記(B)、(D)、(E)、および(G)のいずれかに記載の方法において用いるための医薬の製造における抗血管新生剤(特に抗VEGF治療薬)の使用が提供される。本開示によれば、上記(B)、(D)、(E)、および(G)のいずれかに記載の方法における抗血管新生剤(特に抗VEGF治療薬)の使用が提供される。
【0051】
本開示によれば、上記(C)、(D)、(F)、および(G)のいずれかに記載の方法において用いるための、抗血管新生剤以外の化学療法剤が提供される。本開示によれば、上記(C)、(D)、(F)、および(G)のいずれかに記載の方法において用いるための、抗血管新生剤以外の化学療法剤を含む医薬組成物が提供される。本開示によれば、上記(C)、(D)、(F)、および(G)のいずれかに記載の方法において用いるための医薬の製造における抗血管新生剤以外の化学療法剤の使用が提供される。本開示によれば、上記(C)、(D)、(F)、および(G)のいずれかに記載の方法における抗血管新生剤以外の化学療法剤の使用が提供される。
【0052】
本発明によれば、肺腺がんの組織検体の免疫組織化学染色に用いるためのキットが提供されうる。本発明のキットは、例えば、組織検体中のbFGFの発現を検出する手段を含む。bFGFの発現を検出する手段としては、例えば、bFGFに結合する抗体が挙げられる。bFGFに結合する抗体は、標識されていてもよいし、標識されていなくてもよい。前記bFGFに結合する抗体が標識されていない場合には、当該抗体に結合する二次抗体を用いることができる。二次抗体は、例えば、標識されていることができる。したがって、本発明のキットは、標識された抗体であってbFGFに結合する抗体を含むか、または、標識されたまたはされていない抗体であってbFGFに結合する抗体と当該抗体に結合する標識された二次抗体を含むことができる。また、本発明のキットは、検出に適した発色基質、蛍光基質、または発光基質をさらに含んでいてもよい。標識としては、基質(発色基質、蛍光基質、および発光基質)、酵素抗体法で用いられる酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、およびアルカリフォスファターゼ)を用いることができる。基質としては、例えば、蛍光基質が挙げられる。ペルオキシダーゼとしては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼが用いられ得る。西洋ワサビペルオキシダーゼは、発色基質、蛍光基質または発光基質を加えることにより発色、蛍光または化学発光を生じる。従って、発色、蛍光または化学発光を指標として標識した捕捉分子の存在を検出することができる。西洋ワサビペルオキシダーゼの発色基質としては、例えば、テトラメチルベンジダイン(TMB)、o-フェニレンジアミン(OPD)、2,2-アジノビス[3-エチルベンゾ-チアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、およびAmplex(商標)Redが挙げられ、過酸化水素存在下において、標識分子の検出に用いることができる。アルカリフォスファターゼの発光基質としては、p-ニトロフェニルホスフェート(pNPP)、4-メチルウンベリフェリルホスフェート(4-MUP)、およびAttoPhos(商標)が挙げられ、捕捉分子の検出に用いることができる。グルコースオキシダーゼは、グルコースを酸化し、グルコン酸と過酸化水素を発生する。過酸化水素は、例えば、過酸化水素検出用の比色プローブ(例えば、ペルオキシダーゼ)を用いて容易に検出できる。過酸化水素は、例えば、ペルオキシダーゼとその発色基質存在下において、発色させることができる。
【実施例
【0053】
実施例1:肺腺癌の生検を用いたbFGFの発現の分析
本実施例では肺腺がん患者から得られた生検または切除した組織における塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の発現を調べた。
【0054】
検体は、市中総合病院において2010年10月から2017年9月に切除した182例のうち、免疫染色と臨床病理学的検討が可能であった肺腺がん102例を用いた。患者の平均年齢は70.5歳であり、43歳から89歳までの患者を含んだ。患者の詳細は以下表1に記載される通りであった。
【0055】
【表1】
【0056】
表1において、DMは糖尿病を表し、CEAはCEAマーカーの発現を表し、EGFRは上皮成長因子受容体を表す。EGFR変異は、G719X、エクソン19における欠失(del19)、S768I、エクソン20における挿入、T790M、L858R、およびL861Qのいずれかのドライバー変異である。
【0057】
生検または組織献体から常法に従って組織切片を作製し、免疫組織化学染色に供した。1次抗体としては、抗FGF2抗体(Abcam社;1/500)を用いた。二次抗体としては、BOND Polymer Refine Detection (Leica Biosystems)キットに含まれるウサギ抗マウスIgG抗体を製造者説明書にしたがって用いた。その後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ウサギIgG抗体を用いて染色を行った。染色は、自動免疫染色機 BOND-MAX (Leica Biosystems) により実施した。染色像の評価は、バーチャルスライド(使用機器:Nano Zoomer-XR (浜松ホトニクス株式会社)、条件:20xモード、Single Layer)により行った。
【0058】
免疫組織化学染色の結果から、腫瘍には明らかな染色は認められなかった。しかしながら、腫瘍の間質細胞(癌関連線維芽細胞;CAF)においてbFGF陽性細胞が認められた。図1には、代表的な肺腺癌組織の免疫組織化学染色の結果を示す。
【0059】
そこで、腫瘍内の間質細胞の10%以上の細胞がbFGF陽性の組織をbFGF陽性と評価したところ、全102症例中bFGF陽性例は13例であり、ステージI~IIの79例中bFGF陽性例は9例であった。また、ステージIの71例中のbFGF陽性例は9例であった。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示されるようにbFGF陽性頻度は、年齢、性別、喫煙の有無、CEA、EGF受容体の変異、ステージとの明確な相関は認められなかった。
【0062】
本症例102例では、リンパ節転移のないステージIに比べステージII-IVは有意に再発し(p=0.0005)(図2)、局所肺癌であるステージI-IIに比べステージIII-IVは有意に再発した(p=0.0009)(図3)。
【0063】
本症例102例では、リンパ節転移のないステージIに比べステージII-IVは有意に予後不良であり(p<0.0001)(図4)、局所肺癌であるステージI-IIに比べステージIII-IVは有意に予後不良であった(p<0.0001)(図5)。
【0064】
全症例(n=102)では、FGF2陽性患者は再発しにくく(図6)、局所肺癌であるステージI-II (n=79)でも、FGF2陽性患者は再発しにくく(DFI:Disease Free intervals)(図7)、リンパ節転移のないステージI(n=71)でも、FGF2陽性患者は再発しにくかった(図8)。
【0065】
全症例(n=102)では、FGF2陽性患者は予後良好傾向であり(OS:overall survivals)(図9)、局所肺癌であるステージI~II(n=79)でも、FGF2陽性患者は予後良好であり(図10)、リンパ節転移のないステージI(n=71)でも、FGF2陽性患者は予後良好であった(図11)。
【0066】
このように、肺腺癌の生検において、間質細胞におけるbFGF発現が陽性である場合には、予後が良好であり、陰性である場合には、予後が不良であることが示された。
【要約】      (修正有)
【課題】肺腺がん患者の予後を予測する方法および肺腺がん患者を処置する方法を提供する。
【解決手段】肺腺がん患者から得られた肺腺がん組織における塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の発現を検出することを含み、ここで、bFGFが陽性である場合には予後がよいことまたはその可能性が示され、かつ、陰性である場合には予後が悪いことまたはその可能性が示される方法。また、肺腺がん患者を処置することに用いるための医薬組成物であって、治療上有効量の抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬を含む。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11