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特許7062134細胞の磁性ビーズ付着を用いた磁性基盤バイオパンニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】細胞の磁性ビーズ付着を用いた磁性基盤バイオパンニング方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20220422BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220422BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220422BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220422BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220422BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220422BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20220422BHJP
   C40B 40/10 20060101ALN20220422BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20220422BHJP
【FI】
C07K16/00
C12P21/08
C12N15/09 Z
G01N33/53 N
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C40B40/10
C12N1/19
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021509711
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 KR2019005080
(87)【国際公開番号】W WO2019209073
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】10-2018-0049100
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520415362
【氏名又は名称】アイメッド バイオ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】AIMED BIO INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ナム ドヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ミン ビョンキ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/042242(WO,A1)
【文献】特開2004-248666(JP,A)
【文献】特開2017-164284(JP,A)
【文献】Monoclonal antibodies in immunodiagnosis and immunotherapy,2014年,Vol.33,p.378-385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12P 21/08
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 7/01
C40B 40/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む、抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする方法:
(i)(A)(a1)ビオチン化リン脂質をストレプトアビジン及び磁性ビーズと反応させることにより調製したリン脂質-ビオチン-ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体と、(a2)細胞膜に前記ビオチン化リン脂質が挿入され、且つ前記ビオチン化リン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体とが結合している抗原タンパク質過発現細胞と
を融合させることにより、あるいは、
(B)(b1)ビオチン化リン脂質の存在下で抗原タンパク質過発現細胞を培養することにより調製した、細胞膜に前記ビオチン化リン脂質が挿入された細胞を、(b2)ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体で
処理することによって、前記ビオチン化リン脂質と前記ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体とが結合している抗原タンパク質過発現細胞を得ることにより、
抗原タンパク質過発現細胞の磁性を誘導する段階;
(ii)前記細胞に抗体又はその抗原結合断片を含むライブラリーを処理し、磁性基盤システムを用いて抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする段階;
(iii)前記スクリーニングされた抗体又はその抗原結合断片ライブラリーを抗原タンパク質の発現していない細胞と反応させ、抗原タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片だけを選別する段階;及び
(iv)前記選別された抗体又はその抗原結合断片から、抗原タンパク質の発現していない前記細胞に結合する抗体又はその抗原結合断片を分離及び/又は除去し、それにより、抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片を得る段階。
【請求項2】
前記リン脂質は、PE(Phosphoethanolamine)系リン脂質、PA(Phosphatidic acid)系リン脂質、PG(Phosphatidylglycerol)系リン脂質、PS(Phosphatidylserine)系リン脂質、PI(Phosphatidylinositol)系リン脂質、スフィンゴ脂質(sphingolipid)系リン脂質及びステロール(sterol)系リン脂質からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン脂質は、DHPE(1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine)、フルオレセインDHPE(N-(Fluoresceine-5-Thiocarbamoyl)-1-2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-pHospHoethanolamine)、B-X DHPE(N-((6-(Biotinoyl)amino)hexanoyl)-1-2--dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine)、ビオチンPE(1-oleoyl-2-(12-biotinyl(aminododecanoyl))-sn-glycero-3-phosphoethanolamine)、ビオチンPS(1-oleoyl-2-(12-biotinyl(aminododecanoyl))-sn-glycero-3-phospho-L-serine(ammonium salt))及びビオチンPC(1-oleoyl-2-[12-biotinyl(aminododecanoyl)]-sn-glycero-3-phosphocholine)からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞は、界面活性剤を含む培地においてストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体と融合させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記界面活性剤は、アルキルポリグリコシド(alkyl polyglycoside)、セチルアルコール(cetyl alcohol)、デシルグルコシド(Decyl glucoside)、デシルポリグルコシド(Decyl polyglucoside)、マルトシド(Maltosides)、NP-40、オレイルアルコール(Oleyl alcohol)、ポロキサマー(Poloxamer)、ポリソルベート(Polysorbate)、ソルビタン(Sorbitan)、トリトンX-100(Triton X-100)及びツイン80(Tween 80)からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記磁性基盤システムは磁性を用いて細胞を分離する装置であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体又はその抗原結合断片は細胞内に内在化する抗体又はその抗原結合断片であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法によって選別された抗体又はその抗原結合断片からIgGを作製する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性ビーズが付着した細胞を用いて抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする方法に関し、より具体的には、表面にリン脂質-ビオチン-ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体を含み、抗原タンパク質を過発現する細胞を用いて、抗原タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を磁性基盤システムによってスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1975年に単一クローン抗体開発技術がハイブリドーマ技術から始まった。ハイブリドーマ技術とは、ネズミに免疫反応を誘発させた後、B細胞を骨髄腫細胞と融合させてイモータル状態を維持させることによって単一クローン抗体を選別する技術のことを指す。この技術は、ネズミの抗体を得る技術であるため、ヒトに適用時にネズミ抗体を抗原として認識して免疫反応を起こす副作用があるが、これをHAMA(human anti-mouse antibody response)と呼ぶ(Tiandra JJ et al.,Immunol Cell Biol,Vol.66,pp.367-76,1990)。
【0003】
この副作用を克服するために、ネズミ抗体をヒト抗体と類似に変形させる技術を適用してキメラ抗体(Chimeric antibody)及びヒト化抗体(Humanized antibody)を開発した。しかし、依然として免疫反応が起こる場合があり、開発に相当長い期間がかかるという問題点があった。
【0004】
1985年にはバクテリオファージの表面にタンパク質やペプチドを発現させるファージディスプレイ技術(PHage display)が開発された。ファージディスプレイは、様々な抗体切片を持つファージライブラリー(PHage library)を作製して抗体の選別に用いる方法であり、選別速度が速く、技術適用が相対的に簡単なことから、開発社に継続して使用されている。
【0005】
ファージライブラリーを用いて所望の抗原に対する特異的な抗体切片を選別し、回収し、増幅する方法を経て抗体を選別するが、これをパンニング(Biopanning)と呼ぶ。パンニングには様々な方法があり、その代表に、組換えタンパク質を用いたパンニング、細胞パンニング、磁性ビーズ基盤パンニング、in vivoパンニング、組織を用いたパンニングなどがある(McGuire MJ et al.,Method Mol Biol,Vol.504,pp.291-321,2009)。
【0006】
組換えタンパク質を用いたパンニングを一般的に使用するが、特定抗原に対する抗体ライブラリーの限界の問題、及び高純度の精製された抗原が要求される問題がある。精製されたタンパク質は、タンパク質の翻訳後修飾(post translation modification,PTM)が具現し難いため、抗体を見出しても実際には生体内で働かずに済むことがある。
【0007】
これを克服するために細胞パンニング法を開発し、特異的な膜タンパク質(Gタンパク質共役受容体、リガンド依存性イオンチャネル、受容体型チロシンキナーゼ、免疫グロブリン様受容体)に結合する抗体の開発が容易になった。この方法は細胞の自然状態そのままを抗原として用いるので、タンパク質の3次元構造とPTMをそのまま具現した状態で抗体を選別することができる。
【0008】
しかしながら、細胞パンニングは、労働集約的であるとともに実験個人偏差頻度が発生することがあるため、かかる問題点を解決し克服するための次世代(Next generation)細胞パンニング法が必要な実情である。
【0009】
現在まで様々な診断用、治療用抗体がファージディスプレイを通じて開発されており、迅速で正確なパンニング法の確立のために自動化システムと融合して高速大量スクリーニングシステム方法なども開発されている。
【0010】
そこで、本発明者らは、抗体を高速で大量スクリーニングできる方法を開発するために鋭意努力した結果、磁性ビーズ及び抗原タンパク質を含んでいる細胞と磁性基盤システムを用いて抗体ライブラリーをスクリーニングする場合、速度が速いだけでなく、敏感度及び正確度が高く、副作用が少ない抗体を選別できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本背景技術の部分に記載された前記情報は、本発明の背景に関する理解を向上させるためのものに過ぎず、よって、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって既に知られた先行技術を形成する情報を含まなくてもよい。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、表面に磁性ビーズを含み、抗原タンパク質を過発現する細胞及び磁性基盤システムを用いた抗体スクリーニング方法を提供することである。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、(i)細胞膜にビオチン化されたリン脂質が挿入され、前記ビオチン化されたリン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体が結合している抗原タンパク質過発現細胞を準備する段階;(ii)前記細胞に抗体又はその抗原結合断片を含むライブラリーを処理し、磁性基盤システムによって抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする段階;(iii)前記スクリーニングされた抗体又はその抗原結合断片ライブラリーを抗原タンパク質の発現していない細胞と反応させ、抗原タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片だけを選別する段階;及び(iv)前記選別された抗体又はその抗原結合断片から、抗原タンパク質以外の抗原に結合する抗体又はその抗原結合断片を分離・除去する段階を含む、抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の方法を示す概念図である。
図2】(A)は、本発明の一実施例で用いたDHPE-FITCの化学式を示す図であり、(B)は、前記物質の概略図であり、(C)は、FACSで本発明の一実施例による細胞を分離する過程を示す摸写図である。
図3】(A)は、本発明の一実施例による細胞膜類似物質が含まれた細胞において反応時間(30分、60分)及びこれに従う蛍光強度を測定した結果であり、(B)は、前記(A)の細胞が6時間経っても細胞膜類似物質を含んでいることを確認した結果である。
図4】(A)は、本発明の一実施例で用いたB-X-DHPEの化学式を示す図であり、(B)は、前記物質の概略図であり、(C)は、FACSで本発明の一実施例による細胞を分離する過程を示す摸写図である。
図5】(A)は、本発明の一実施例による細胞膜類似物質が含まれた細胞において類似物質の濃度に従う結合効率を測定したものであり、(B)は、前記物質の濃度及び反応温度に従う結合効率を測定した結果である。
図6】(A)は、細胞膜類似物質の融合の有無による細胞膜表面タンパク質の発現量を測定した結果であり、(B)は、細胞膜に細胞膜類似物質が結合した場合を示す概略図である。
図7】(A)は、本発明の一実施例によるリン脂質-ビオチン-ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体と細胞の融合方式を示す概略図であり、(B)は、これらの方式の融合効率を観察した結果である。
図8】本発明の一実施例による磁性ビーズの付着率を培養培地条件によって測定した結果である。
図9】本発明の一実施例による細胞のリン脂質-ビオチン-ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体形成効率を測定した結果である。
図10】磁性基盤自動化細胞パンニング装置の概略図及び運転段階を示すものである。
図11】本発明の一実施例による磁性を持つビーズを用いた自動化システムにおける細胞パンニング段階を示すものである。
図12】本発明の一実施例による細胞のリン脂質-ビオチン-ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体の形成後に磁性基盤機器に適用して自動パンニングをした時、最終段階後に残った細胞数を手動パンニング方法と比較した結果である。
図13】(A)は、磁性基盤機器を用いた磁性付着ビーズ細胞パンニングに必要な試薬(reagent)を整理したものであり、(B)は、磁性基盤機器を用いた磁性付着ビーズ細胞パンニングプロトコル(BindIt Software 3.3.1 for KingFisher Instruments)を整理したものである。
図14】(A)は、磁性基盤機器を用いた特定抗原過発現患者由来細胞自動パンニング結果であり、抗原固定方式を用いたバイオパンニング結果物を使用しており、強力な洗浄条件と軽度の洗浄条件における結果を意味し、(B)は、磁性基盤機器を用いた特定抗原過発現患者由来細胞自動パンニング結果であり、磁性ビーズ付着抗原を用いた自動バイオパンニング結果物を使用しており、軽度の洗浄条件における結果を意味する。
図15】(A)は、自動パンニング結果物を使用した特定抗原特異的結合能を持つELISA基盤抗体スクリーニング結果であり、抗原固定方式を用いたバイオパンニング結果物を使用しており、強力な洗浄条件と軽度の洗浄条件における結果を意味し、(B)は自動パンニング結果物を使用した特定抗原特異的結合能を持つELISA基盤抗体スクリーニング結果であり、磁性ビーズ付着抗原を用いた自動バイオパンニング結果物を使用しており、軽度の洗浄条件における結果を意味する。
図16】選別された抗体のELISA数値比較結果であり、陽性(Positive)/陰性(Negative)組換えタンパク質に対する相対値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に定義されない限り、本明細書で使われた技術的及び科学的用語はいずれも、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われた命名法は本技術分野でよく知られており、通常用いられているものである。
【0016】
本発明者らは、使用者別にバラツキが大きい細胞パンニングの短所を改善するために努力してきた。これによって、本発明者らは、磁性ビーズを含有している細胞を用いて磁性基盤システムで細胞パンニングを行う場合、細胞パンニングの効率が増加し、高速で大量のスクリーニングが可能であることを確認しようとした。
【0017】
また、本発明者らは将来の臨床において成功可能性が高く、内在化(internalization)して細胞内で効果的に働き得る抗体を選別するために、抗原タンパク質を含有している患者由来細胞を用いて抗癌治療用抗体を開発するために努力してきた。これによって、本発明者らはファージディスプレイ技術を応用して、抗原タンパク質に高い親和力で結合し、細胞内に内在化する抗体を選別し、当該抗体が細胞内に内在化することを確認しようとした。
【0018】
そこで、本発明の一実施例では、細胞膜にビオチンが結合したリン脂質を含有し、表面にストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体を含む細胞を用いて細胞パンニングを行った。その結果、高速で抗体をスクリーニングすることができた(図12)。
【0019】
したがって、本発明は一観点において、(i)細胞膜にビオチン化されたリン脂質が挿入され、前記ビオチン化されたリン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体が結合している抗原タンパク質過発現細胞を準備する段階;(ii)前記細胞に抗体又はその抗原結合断片を含むライブラリーを処理し、磁性基盤システムによって抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする段階;(iii)前記スクリーニングされた抗体又はその抗原結合断片ライブラリーを抗原タンパク質の発現していない細胞と反応させ、抗原タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片だけを選別する段階;及び(iv)前記選別された抗体又はその抗原結合断片から、抗原タンパク質以外の抗原に結合する抗体又はその抗原結合断片を分離・除去する段階を含む、抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする方法に関する。
【0020】
本発明で使われる用語“抗体”は、IgA、IgE、IgM、IgD、IgY及びIgGからなる群から選ばれる免疫グロブリンであり、目標抗原に特異的に結合可能である。軽鎖(light chain)と重鎖(heavy chain)がそれぞれ2個ずつ集まってなり、各鎖は、アミノ酸配列が可変する可変領域(variable domain)と一定の配列を有する定常領域(constant domain)とからなっている。可変領域の3次元構造末端に、抗原の結合する部位が位置し、この部位は、軽鎖と重鎖にそれぞれ3個ずつ存在する相補性決定部位(complementarity determining region)が集まって形成される。相補性決定部位は、可変領域の中でもアミノ酸配列の可変性が特に高い部分であり、このような高い可変性から、様々な抗原に対して特異的抗体を見出すことが可能である。本発明の範囲には完全な抗体の形態の他、前記抗体分子の抗原結合断片も含まれる。
【0021】
本発明で使われる用語“ScFv(single-chain Fv、一本鎖断片抗体又は抗体断片)”は、軽鎖及び重鎖の可変領域を連結した抗体である。場合によって、15個前後のアミノ酸が連結されたペプチド鎖からなるリンカー(linker、連結部位)を含んでもよく、このとき、ScFvは、軽鎖可変領域-連結部位-重鎖可変領域、又は重鎖可変領域-連結部位-軽鎖可変領域の構造を有することができ、親抗体と同一或いは類似の抗原特異性を有する。
【0022】
完全な抗体は、2本の全長の軽鎖及び2本の全長の重鎖を有する構造であり、各軽鎖は重鎖とジスルフィド結合で連結されている。重鎖定常領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)及びエプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)及びアルファ2(α2)を有する。軽鎖の定常領域はカッパ(κ)及びラムダ(λ)タイプを有する。
【0023】
抗体の抗原結合断片又は抗体断片とは、抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2及びFvなどを含む。抗体断片のうち、Fabは、軽鎖及び重鎖の可変領域、軽鎖の定常領域、及び重鎖の最初の定常領域(CH1)を有する構造であり、1個の抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC-末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと異なる。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなしながら生成される。Fvは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域だけを持つ最小の抗体切片であり、Fv断片を生成する組換え技術がPCT国際公開特許出願WO88/10649、WO88/106630、WO88/07085、WO88/07086及びWO88/09344に開示されている。二本鎖Fv(two-chain Fv)は非共有結合で重鎖可変領域と軽鎖可変領域が連結されており、一本鎖Fv(single-chain Fv,scFv)は一般に、ペプチドリンカーを通じて重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が共有結合で連結されたり或いはC-末端で直接連結されており、二本鎖Fvのように二量体のような構造をなすことができる。このような抗体断片はタンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全抗体をパパインで制限切断すればFabが得られ、ペブシンで切断すればF(ab’)2断片が得られる。)、遺伝子組換え技術によって作製することもできる。
【0024】
本発明で使われる用語“抗体(又はScFv)ライブラリー”は、互いに異なる配列を有する様々な抗体遺伝子の集合である。抗体ライブラリーから任意の抗原に対して特異的抗体を分離するためには非常に高い多様性が要求され、また、互いに異なる抗体クローンからなるライブラリーが構築されて使用される。このような抗体ライブラリーをなす抗体遺伝子は、例えば、ファージミド(pHagemid)ベクターにクローニングされて形質転換体(大腸菌)に形質転換され得る。
【0025】
本発明で使われる用語“核酸”は、遺伝子又はヌクレオチドと同じ意味で使用でき、例えば、天然/合成DNA、ゲノムDNA、天然/合成RNA、cDNA及びcRNAからなる群から選ばれ得るが、これに制限されるものではない。
【0026】
本発明で使われる用語“ファージミド”ベクターはファージディスプレイに使用され、ファージ複製起点(pHage origin of replication)を有するプラスミドDNAであり、通常、抗生剤耐性遺伝子を選択マーカー(selection marker)として有する。ファージディスプレイに使用されるファージミドベクターの場合、M13ファージのgIII遺伝子又はその一部が含まれており、ScFv遺伝子はgIII遺伝子の5’末端にライゲーション(ligation)されて形質転換体を通じて発現する。
【0027】
本発明で使われる用語“ヘルパーファージ(helper pHage)”は、ファージミドがファージ粒子に組み立てられるように必要な遺伝情報を提供するファージである。ファージミドにはファージ遺伝子のgIII或いはその一部だけが存在するので、ファージミドで形質転換された宿主細胞(形質転換体)をヘルパーファージで感染させて残りのファージ遺伝子を供給することになる。M13K07或いはVCSM13などの種類があり、たいていカナマイシン(kanamycin)などの抗生剤耐性遺伝子を含み、ヘルパーファージに感染された形質転換体を選択できるようにしている。また、組立信号(packaging signal)に欠陥があるので、ヘルパーファージ遺伝子よりもファージミド遺伝子が選別的にファージ粒子中に組み立てられる。
【0028】
本発明で使われる用語“信号配列”は、遺伝子の5’末端部分に位置し、遺伝子からコードされたタンパク質が外部に分泌される時に必要な信号として働く塩基配列或いはそれに相応するアミノ酸配列である。
【0029】
本発明で使われる用語“ファージディスプレイ”は、変異体ポリペプチドをファージ、例えば繊維状ファージ粒子の表面上に、外皮タンパク質の少なくとも一部との融合タンパク質としてディスプレイする技術である。ファージディスプレイの有用性は、無作為化タンパク質変異体の大きなライブラリーを対象にして、標的抗原と高親和度で結合する配列を迅速且つ効率的に分類できるということにある。ペプチド及びタンパク質ライブラリーをファージ上にディスプレイすることは、特異的結合特性を持つポリペプチドを見つけるために数百万個のポリペプチドをスクリーニングすることに用いられてきた。
【0030】
ファージディスプレイ技術は特定リガンド(例:抗原)と結合する新規タンパク質を生成及び選別するための強力なツールを提供した。ファージディスプレイ技術を用いて、タンパク質変異体の大きなライブラリーを生成させ、標的抗原と高親和性で結合する配列を迅速に分類できる。変異体ポリペプチドを暗号化する核酸をウイルス性外皮タンパク質、例えば遺伝子IIIタンパク質又は遺伝子VIIIタンパク質を暗号化する核酸配列と融合させる。タンパク質又はポリペプチドを暗号化する核酸配列を遺伝子IIIタンパク質の一部を暗号化する核酸配列と融合させた1価ファージディスプレイシステムが開発された。1価ファージディスプレイシステムでは、遺伝子融合物が低レベルで発現し、野生型遺伝子IIIタンパク質も発現して粒子感染性が維持される。
【0031】
繊維状ファージ表面上におけるペプチドの発現と宿主細胞の周辺細胞質における機能性抗体断片の発現を立証することが、抗体ファージディスプレイライブラリーを開発する上で重要である。抗体又は抗原結合性ポリペプチドのライブラリーは多数の方式、例えば、無作為DNA配列を挿入することによって単一遺伝子を変更させる方法又は関連遺伝子系列をクローニングする方法で製造した。ライブラリーを対象にして、所望の特徴を伴う抗体又は抗原結合性タンパク質の発現に関してスクリーニングできる。
【0032】
ファージディスプレイ技術は、所望の特徴を有する抗体を製造するための通常のハイブリドーマ及び組換え方法に比べて幾つかの利点を有する。このような技術は、動物を使用しなくても短時間で様々な配列を持つ大きい抗体ライブラリーを生成可能にする。ハイブリドーマの製造やヒト化抗体の製造は、数ヵ月の製造期間がかかることがある。また、免疫が全く要求されないため、ファージ抗体ライブラリーは毒性又は低抗原性の抗原に対しても抗体を生成させることができる。また、ファージ抗体ライブラリーを用いて新規の治療的抗体を生成及び確認することができる。
【0033】
ファージディスプレイライブラリーを用いて免疫させた、非-免疫させたヒト、生殖細胞系配列、又は未感作B細胞Igレパートリー(repertory)からヒト抗体を生成させる技術を用いることができる。各種リンパ系組織を用いて、未感作又は非免疫抗原結合性ライブラリーを製造することができる。
【0034】
ファージディスプレイライブラリーから高親和性抗体を確認及び分離できる技術は、治療用新規抗体の分離に重要である。ライブラリーから高親和性抗体を分離することは、ライブラリーのサイズ、細菌性細胞中における生産効率及びライブラリーの多様性に左右され得る。ライブラリーのサイズは抗体又は抗原結合性タンパク質の不適切なフォルディングと停止コドンの存在による非効率的生産によって減少する。細菌性細胞における発現は、抗体又は抗原結合性ドメインが適切にフォルディングされない場合には抑制されることがある。発現は、可変/定常界面の表面や選別されたCDR残基における残基を交互に突然変異させることによって改善させることができる。骨格領域の配列は、細菌性細胞において抗体ファージライブラリーを生成させる場合に適切なフォルディングを提供するための一要素である。
【0035】
高親和性抗体分離において抗体又は抗原結合性タンパク質の様々なライブラリーを生成させることが重要である。CDR3領域はそれらがしばしば抗原結合に参加することが明らかにされた。重鎖上のCDR3領域はサイズ、配列及び構造的立体形態面において非常に多様であり、これを用いて様々なライブラリーを製造することができる。
【0036】
また、各位置において20個アミノ酸を全て用いて可変重鎖及び軽鎖のCDR領域を無作為化することによって多様性を発生させることができる。20個のアミノ酸を全て使用すれば多様性の大きい変異体抗体配列が生成され、新規の抗体を確認する機会が増加し得る。
【0037】
本発明の抗体は単一クローン抗体、多特異的抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖Fvs(scFV)、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド-結合Fvs(sdFV)及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体、又はこれら抗体のエピトープ-結合断片などを含むが、これに限定されない。
【0038】
前記単一クローン抗体は、実質的に同質的抗体集団から得た抗体、すなわち集団を占めている個々の抗体が微量で存在し得る可能な天然発生的突然変異を除いては同一であるものを指す。単一クローン抗体は高度に特異的であるため、単一抗原部位に対抗して誘導される。
【0039】
前記“ヒト化”形態の非ヒト(例えば、マウス(murine))抗体は、非ヒト免疫グロブリンから由来した最小配列を含有するキメラ抗体である。大部分の場合、ヒト化抗体は、受容者の超可変領域からの残基を所望の特異性、親和性及び能力を保有している非ヒト種(供与者抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類の超可変領域からの残基に置き換えたヒト免疫グロブリン(受容者抗体)である。
【0040】
前記“ヒト抗体”は、ヒト免疫グロブリンから由来する分子であり、相補性決定領域、構造領域を含む抗体を構成する全てのアミノ酸配列がヒトの免疫グロブリンで構成されているものを意味する。
【0041】
重鎖及び/又は軽鎖の一部が特別な種から由来するか、特別な抗体部類又は亜部類に属する抗体内の相応する配列と同一であるか或いはこれと相同性であるのに対し、残りの鎖は更に他の種から由来するか、さらに他の抗体部類又は亜部類に属する抗体内の相応する配列と同一であるか或いはこれと相同性である“キメラ”抗体(免疫グロブリン)だけでなく、所望の生物学的活性を示す前記抗体の断片が含まれる。
【0042】
本願に用いられているような“抗体可変ドメイン”は、相補性決定領域(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)、及び骨格領域(FR)のアミノ酸配列を含む抗体分子の軽鎖及び重鎖部分を指す。VHは重鎖の可変ドメインを意味する。VLは軽鎖の可変ドメインを意味する。
【0043】
“相補性決定領域”(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、抗原結合のために必要な存在である、抗体可変ドメインのアミノ酸残基のことを指す。各可変ドメインは典型的に、CDR1、CDR2及びCDR3として確認された3個のCDR領域を有する。
【0044】
“骨格領域”(FR)は、CDR残基以外の可変ドメイン残基である。各可変ドメインは典型的に、FR1、FR2、FR3及びFR4として確認された4個のFRを有する。
【0045】
本発明における用語“ビオチン(biotin)”は、ビタミンH又は補酵素R(coenzyme [0020] R)とも言われる水溶性B-ビタミン(vitamin B7)である。前記ビオチンは、テトラヒドロチオフェン環と融合されたウレイド(テトラヒドロイミジザロン)環(ureido(tetrahydroimidizalone)ring fused with a tetrahydrothiopHene ring)で構成される。
【0046】
ビオチンは、テトラヒドロチオフェン環の一つの炭素原子に結合された吉草酸(Valeric acid)を含む。ビオチンは、カルボキシラーゼ酵素に対する補酵素であり、脂肪酸、イソロイシン及びバリンの合成とグルコース新生(gluconeogenesis)に関与する。ビオチンは前記の補酵素としての特徴の他に、10-14~10-15Mレベルの解離定数Kdでアビジン(avidin)、ストレプトアビジン(streptavidin)及びニュートラアビジン(又は、脱糖化アビジン;neutravidin or deglycosylated avidin)などのタンパク質と強く結合する特徴を有する。特に、ストレプトアビジンとの特異的な結合は非常に厳しい(harsh)条件でも維持可能なので、前記ストレプトアビジン-ビオチン結合は生物工学分野に多様に応用されている。ビオチンは、サイズが小さいため、それを含むタンパク質などの生理活性物質の活性に影響を与えず、よって、様々な生理活性物質に結合させて生化学的アッセイなどに用いることができる。このような過程、すなわち、生理活性物質にビオチンを結合させる過程をビオチン化(biotinylation)という。
【0047】
本発明において、前記リン脂質は、PE(PHospHoethanolamine)系リン脂質、PA(PHospHatidic acid)系リン脂質、PG(PHospHatidylglycerol)系リン脂質、PS(PHospHatidylserine)系リン脂質、PI(PHospHatidylinositol)系リン脂質、スフィンゴ脂質(spHingolipid)系リン脂質及びステロール(sterol)系リン脂質からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0048】
本発明において、前記リン脂質は、DHPE(1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-pHospHoethanolamine)、フルオレセインDHPE(N-(Fluoresceine-5-Thiocarbamoyl)-1-2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-pHospHoethanolamine)、B-X DHPE(N-((6-(Biotinoyl)amino)hexanoyl)-1-2--dihexadecanoyl-sn-glycero-3-pHospHoethanolamine)、ビオチンPS(1-oleoyl-2-(12-biotinyl(aminododecanoyl))-sn-glycero-3-phospho-L-serine(ammonium salt))及びビオチンPC(1-oleoyl-2-[12-biotinyl(aminododecanoyl)]-sn-glycero-3-phosphocholine)からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0049】
本発明において、前記細胞膜にビオチン化されたリン脂質が挿入され、前記ビオチン化されたリン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体が結合している抗原タンパク質過発現細胞は、(a)ビオチン化されたリン脂質の存在下に抗原タンパク質過発現細胞を培養して細胞膜にビオチン化されたリン脂質が挿入された細胞を得る段階;及び(b)前記得られた細胞のビオチン化されたリン脂質にストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体を処理し、細胞膜にビオチン化されたリン脂質が挿入され、前記ビオチン化されたリン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体が結合している抗原タンパク質過発現細胞を得る段階によって製造されたことを特徴とし得る。
【0050】
本発明において、前記前記細胞膜にビオチン化されたリン脂質が挿入され、前記ビオチン化されたリン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体が結合している抗原タンパク質過発現細胞は、(a)ビオチン化されたリン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズを反応させてリン脂質-ビオチン-ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体を準備する段階;及び(b)前記リン脂質-ビオチン-ストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体を抗原タンパク質が過発現した細胞に融合させ、細胞膜にビオチン化されたリン脂質が挿入され、前記ビオチン化されたリン脂質とストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体が結合している抗原タンパク質過発現細胞を得る段階によって製造されたことを特徴とし得る。
【0051】
本発明において、前記細胞は、界面活性剤を含む培地においてストレプトアビジン-磁性ビーズ複合体を融合させることを特徴とし得る。
【0052】
本発明において、前記界面活性剤は、アルキルポリグリコシド(alkyl polyglycoside)、セチルアルコール(cetyl alcohol)、デシルグルコシド(Decyl glucoside)、デシルポリグルコシド(Decyl polyglucoside)、マルトシド(Maltosides)、NP-40、オレイルアルコール(Oleyl alcohol)、ポロキサマー(Poloxamer)、ポリソルベート(Polysorbate)、ソルビタン(Sorbitan)、トリトンX-100(Triton X-100)及びツイン80(Tween 80)からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0053】
本発明において、前記磁性基盤システムは、磁性を用いて細胞を分離する装置であることを特徴とし、好ましくはKingfisher Flexであり得るが、これに限定されない。
【0054】
本発明において、前記抗体又はその抗原結合断片は、細胞内に内在化する抗体又はその抗原結合断片であることを特徴とし得る。
【0055】
本発明はまた、(ii)磁性ビーズを含み、抗原タンパク質を過発現する細胞に、抗体又はその抗原結合断片を含むライブラリーを処理し、抗原タンパク質に結合する抗体又はその抗原結合断片をスクリーニングする段階を含む。
【0056】
前記過発現細胞及び正常細胞の抗原タンパク質含有量を測定する方法は、抗原タンパク質をコードする遺伝子又はタンパク質の発現量を測定して比較することを特徴とし、好ましくは、FACS、ELISA、全エクソーム解析(Whole exome sequencing)及びRNA解析(RNA sequencing)からなる群から選ばれる一つ以上の方法で行われることを特徴とし得るが、これに制限されない。
【0057】
本発明はまた、(iii)前記スクリーニングされた抗体又はその抗原結合断片ライブラリーを抗原タンパク質の発現していない細胞に処理し、抗原タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片だけを選別する段階を含む。
【0058】
前記段階(iii)は、段階(ii)で選択された抗体又はその抗原結合断片に対する陰性選別(negative selection)段階であり、これを通じて抗原に対して高い選択性を有する抗体をスクリーニングすることができる。
【0059】
本発明において、前記段階(iii)の抗原タンパク質が発現しないように除去された細胞は、自然的に抗原タンパク質を発現しない細胞であり得、抗原タンパク質が発現しないように人為的に操作した患者由来細胞であり得るが、人為的に操作する方法は、抗原タンパク質が発現しないようにする方法であれば如何なる方法も可能であり、好ましくは、抗原タンパク質に結合するアプタマー、siRNA、一本鎖siRNA(single-stranded siRNA)、microRNA、及びshRNAからなる群から選ばれる一つ以上を処理して得られることを特徴とし得る。
【0060】
本発明において、前記抗原タンパク質が発現しない患者由来細胞を用いて抗原タンパク質に結合する抗体だけを選別する段階は陰性選別過程であり、直前の陽性選別段階に続いて行われて選別された抗体の抗原タンパク質に対する正確度を向上させる効果がある。
【0061】
本発明はさらに、前記選別された抗体又はその抗原結合断片から、抗原タンパク質以外の抗原に結合する抗体又はその抗原結合断片を分離・除去する段階を含む。
【0062】
前記分離・除去は、電気泳動、遠心分離、ゲル濾過、沈殿、透析、クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、免疫吸着クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど)、等電点フォーカシング及びその様々な変化及び複合方法などが利用可能であるが、これに制限されない。
【0063】
前記分離・除去は、例えば、遠心分離又は限外濾過によって不純物を除去し、その結果物を例えば親和クロマトグラフィーなどを用いて精製できる。追加のその他精製技術は、例えば陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどを利用可能である。
【0064】
本発明によって選別された抗体又はその結合断片は、例えば、IgG形態、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fab断片、Fv断片、又は一本鎖Fv断片(scFv)であるが、好ましくはIgGの形態に作製可能である。
【0065】
本発明は、他の観点において、前記方法でスクリーニングされた抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0066】
本発明の抗体又は抗体断片は、抗原タンパク質を特異的に認識できる範囲内で、抗体の他に、その生物学的均等物も含むことができる。例えば、抗体の結合親和度及び/又はその他生物学的特性をより改善させるために抗体のアミノ酸配列に更なる変化を与えることができる。このような変形は、例えば、抗体のアミノ酸配列残基の欠失、挿入及び/又は置換を含む。このようなアミノ酸変異は、アミノ酸側鎖置換体の相対的類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいて行われる。アミノ酸側鎖置換体のサイズ、形状及び種類に対する分析によって、アルギニン、リジン及びヒスチジンはいずれも陽電荷を帯びた残基であり;アラニン、グリシン及びセリンは類似のサイズを有し;フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは類似の形状を有するということがわかる。したがって、このような考慮事項に基づいて、アルギニン、リジン及びヒスチジン;アラニン、グリシン及びセリン;そしてフェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは生物学的に機能均等物であるといえる。
【0067】
変異を導入するとき、アミノ酸の疎水性インデックス(hydropathic index)を考慮することができる。それぞれのアミノ酸は疎水性及び電荷によって疎水性インデックスが与えられている:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスタイン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);トレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタメート(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパルテート(-3.5);アスパラギン(-3.5);リジン(-3.9);及びアルギニン(-4.5)。
【0068】
タンパク質の相互的な生物学的機能(interactive biological function)を付与する上で疎水性アミノ酸インデックスは非常に重要である。類似の疎水性インデックスを持つアミノ酸に置換してこそ類似の生物学的活性が保有できるということは公知の事実である。疎水性インデックスを参照して変異を導入させる場合、好ましくは±2以内、より好ましくは±1以内、より好ましくは±0.5以内の疎水性インデックス差を示すアミノ酸間に置換を行う。
【0069】
一方、類似の親水性値(hydropHilicity value)を持つアミノ酸間の置換が均等な生物学的活性を有するタンパク質を招くということもよく知られている。米国特許第4,554,101号に開示の通り、次の親水性値がそれぞれのアミノ酸残基に与えられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパルテート(+3.0±1);グルタメート(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);トレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。
【0070】
分子の活性を全体的に変更させないタンパク質におけるアミノ酸交換は、当該分野に公知されている(H.Neurath,R.L.Hill,The Proteins,Academic Press,New York,1979)。最も一般的に起きる交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thr/PHe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu及びAsp/Gly間の交換である。
【0071】
上述した生物学的均等活性を持つ変異を考慮すれば、本発明の抗体又はこれをコードする核酸分子は、配列番号に記載された配列と実質的な同一性(substantial identity)を示す配列も含むものと解釈される。前記の実質的な同一性は、上記した本発明の配列と任意の他の配列が最大限に対応するようにアラインし、当業界における通常のアルゴリズムを用いてアラインされた配列を分析した場合、少なくとも61%の相同性、より好ましくは70%の相同性、より好ましくは80%の相同性、最も好ましくは90%の相同性を示す配列を意味する。配列比較のためのアラインメント方法は当業界に公知である。NCBI BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)はNBCIなどで接近可能であり、インターネット上でblastp、blastm、blastx、tblastn及びtblastxのような配列分析プログラムと連動して利用できる。BLASTは、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で接続可能である。このプログラムを用いた配列相同性比較方法はwww.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/blast_help.htmlから確認できる。
【0072】
実施例
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものとして解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0073】
実施例1;細胞膜類似物質の細胞膜融合の確認
【0074】
細胞表面に磁性ビーズを付着させるために、前処理過程として、細胞膜と類似の物質にビオチンが結合した物質が細胞表面に融合されるかどうかを流細胞分析機(Flow cytometer)で確認した。細胞膜類似物質としてはDHPE(1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-pHospHoethanolamine)を使用した(図2)。DHPEに蛍光が付着した物質であるInvitrogen社のフルオレセインDHPE(N-(Fluorescein-5-Thiocarbamoyl)-1,2-Dihexadecanoyl-sn-Glycero-3-PHospHoethanolamine,Triethylammonium Salt)に対して、濃度条件(1:250、1:500、1:1000、1:2000)、温度条件(常温、4℃)、反応時間条件(30分、60分)別にそれぞれ進行した。
【0075】
まず、癌細胞株であるHCC.95を条件別500,000個に分注し、反応体積300ulで行った。培養が完了した試料は1% FBS溶液で1500rpm、3分間遠心分離を行った後、上層液を除去する洗浄段階を行った。これを2回繰り返し行った。その後、流細胞分析機(FACS Aria III)を用いて分析を行った。
【0076】
その結果、全ての条件において濃度に比例して蛍光強度が測定されることを確認した(図3A)。これによって、細胞膜類似物質が生きている細胞表面に融合されることを確認し、また、同一試料を6時間4℃培養後に流細胞分析機を用いた蛍光強度測定結果も同一の様相を示すことを確認した(図3B)。これは、細胞膜類似物質が細胞膜に融合されても細胞は安定的であることを意味する。
【0077】
実施例2;ビオチンが結合した細胞膜類似物質の細胞融合の確認及び最適化
【0078】
実際に磁性ビーズ付着に使用する物質であるInvitrogen社のB-X DHPE(N-((6-(Biotinoyl)amino)hexanoyl)-1,2-Dihexadecanoyl-sn-Glycero-3-PHospHoethanolamine,Triethylammonium Salt)を濃度条件(0.5mg/ml、0.25mg/ml、0.125mg/ml、0.0625mg/ml)別にそれぞれ進行した(図4)。
【0079】
HCC.95癌細胞株を条件別500,000個に分注し、反応体積は300ulで行った。培養の完了した試料は、1% FBS溶液で1500rpm、3分間遠心分離を行った後、上層液を除去する洗浄段階を行った。これを2回繰り返し行った。その後、ビオチンに特異的な結合力を持つストレプトアビジン(Streptavidin)-FITC(蛍光物質)を4℃、1時間条件で反応させた。培養の完了した試料は、1% FBS溶液で1500rpm、3分間遠心分離を行った後、上層液を除去した。これを2回繰り返し行った。その後、流細胞分析機(FACS Aria III)を用いて分析した。
【0080】
その結果、実施例1のような様相の蛍光強度を確認した(図5A)。
【0081】
この物質に対する細胞膜融合条件を最適化するために、B-X DHPE濃度条件(0.5mg/ml、0.25mg/ml、0.125mg/ml、0.0625mg/ml)、温度条件(4℃、常温)、反応時間条件(30分、60分)別にそれぞれ行い、試料準備は同じ方法で行った。
【0082】
その結果、B-X DHPE濃度(0.5mg/ml)、常温、30分反応条件で細胞膜に物質が最もよく融合されることを確認した(図5B)。
【0083】
実施例3;細胞膜類似物質融合された細胞の表面タンパク質発現の確認
【0084】
細胞膜類似物質が細胞に融合されても、表面タンパク質発現に変化があればファージディスプレイ基盤細胞パンニングに使用するには不適である。したがって、B-X DHPEの最適化された条件が細胞表面タンパク質に影響を及ぼさないことを確認し、同様にB-X DHPEの細胞表面融合量も確認した。
【0085】
患者由来細胞であるGBM15-682Tを使用した。この細胞はFGFR3細胞表面タンパク質が過発現しているので、発現量を比較するに適している。細胞膜類似物質融合された条件(B-X DHPE)とそうでない条件に対して、FGFR3細胞表面タンパク質の発現量を流細胞分析機で測定した。GBM15-682Tを各条件別に500,000個ずつ分注した後に反応体積は300ulにしてB-X DHPE(0.5mg/ml)を常温で30分反応させた。培養の完了した試料は、1% FBS溶液で1500rpm、3分間遠心分離を行った後に上層液を除去する洗浄段階を行った。これを2回繰り返し行った。
【0086】
その後、ストレプトアビジン(Streptavidin)-FITC(蛍光物質)とFGFR3-PE(蛍光物質)抗体をそれぞれ処理して4℃、1時間反応させた。上記のような洗浄方法を2回行った後に、B-X DHPEはFITC蛍光で分析し、FGFR3はPE蛍光で分析した。
【0087】
その結果、B-X DHPE細胞表面融合量とFGFR3細胞表面発現量に差異がないことを確認した(図6)。すなわち、細胞膜類似物質(B-X DHPE)が細胞膜に融合されても、細胞表面に変形を引き起こさないことを意味する。
【0088】
実施例4;細胞膜類似物質が融合された細胞の磁性ビーズ付着を用いた磁性化誘導及び条件最適化
【0089】
4-1:複合体結合方法効果の確認
【0090】
細胞に融合されたB-X DHPEはビオチン成分を含んでいるので、ストレプトアビジンと特異的な結合力を有している。したがって、ストレプトアビジンと接合された磁性ビーズ(Streptavidin Dynabeads_Dynabeads M-280 Streptavidin;Invitrogen社)を使用することによって細胞に磁性を誘導することができる。細胞に磁性ビーズを付着して磁性化を誘導する方法として直接的方法(Direct method)と間接的方法(Indirect method)を比較した。直接的方法は、B-X DHPEとStreptavidin Dynabeadsをまず反応させた後に細胞に融合する方法を意味し、間接的方法は、細胞にB-X DHPEを融合させた後にStreptavidin Dynabeadsを反応させる方法を意味する。
【0091】
直接的方法は、B-X DHPE 3.0ugとあらかじめ磁石分離器(Magnet separator)を用いてPBS(PH7.4)緩衝溶液で洗浄されたStreptavidin Dynabeads 500ugとを常温で30分反応させた。その後、同じ緩衝溶液で磁石分離器を用いて2回洗浄した。あらかじめPBS(pH7.4)緩衝溶液で洗浄された1.0-5.0e+6個細胞をあらかじめ反応されたB-X DHPEとStreptavidin Dynabeads接合体と常温で1時間培養させた。この時、反応体積は1mlとした。
【0092】
間接的方法は、PBS(PH7.4)緩衝溶液で洗浄された1.0-5.0E+6個細胞をB-X DHPE 3ugと常温で30分培養させた。その後、PBS(pH7.4)緩衝溶液で磁石分離器を用いて2回洗浄した。磁石分離器を用いてPBS(pH7.4)であらかじめ洗浄したStreptavidin Dynabeads 500ugをB-X DHPEが融合された細胞と常温で1時間培養させた。反応体積は直接方法と同一にした。
【0093】
両方法のうち、本発明では直接的方法において磁性ビーズがよりよく細胞に付着することを確認した(図7)。すなわち、直接的方法が磁性ビーズを用いた細胞の磁性誘導に効果的である。
【0094】
4-2:磁性ビーズ付着率最適化
【0095】
細胞磁性ビーズ付着率を高めるために反応緩衝溶液最適化を行った。1)培養培地、2)PBS(PH7.4)、3)2mM EDTA/0.1% BSA、4)0.1% Pluronic F-68(Gibco社)を、上で行った直接的方法に適用した。B-X DHPEとStreptavidin Dynabeads接合体とあらかじめ用意した細胞を培養させるとき、上の4つの緩衝溶液条件別に行った。培養終了後には各試料を6ウェルプレートに移して顕微鏡(20X、40X)で分析した。
【0096】
その結果、0.1% Pluronic F-68培養条件がより効果的に細胞への磁性ビーズ付着率が高いことを確認した(図8)。
【0097】
実際の細胞パンニングに使用される細胞数を用いて磁性ビーズが付着して磁性化が誘導される細胞数を測定した。細胞パンニングに通常使用する2e+6個細胞にB-X DHPE 6ug、Streptavidin Dynabeads 2mg条件で細胞に磁性化を誘導した。これを、磁性基盤機器(Kingfisher Flex_Thermo scientific)又は磁石分離器を用いて細胞に磁性を加えて磁石に細胞を付着させた後、上層液を除去後に再びPBS(PH7.4)1m緩衝溶液で浮遊させた後、細胞数をc-Chipで計算した。反復実験から、約90%以上の細胞が、磁性が誘導されて磁石に反応することを確認した(図9)。
【0098】
実施例5;磁性ビーズ付着細胞の磁性基盤機器への適用と自動細胞パンニング
【0099】
本発明では磁性基盤機器(Kingfisher Flex_Thermo scientific)を用いて、磁性ビーズが付着した細胞を利用してファージディスプレイ技術を融合して自動細胞パンニング法を開発した。したがって、磁性ビーズが付着した細胞が磁性基盤機器又は磁石分離器に導かれて磁性によって移動又は固定するかどうか確認した。
【0100】
磁性基盤機器は8個のプレート位置を指定できる。8個のプレート位置に24ディープウェルプレートを位置させた後、各位置ごとにPBS 1mlを分注した。そして、磁性ビーズが付着した細胞を一番目のプレートに指定後に分注し、磁性基盤機器の運営ソフトウェア(BindIt 3.3 for KingFisher)を用いて機器の磁石棒で一番目のプレートから二番目のプレートに移動させるようにした。この時、磁性ビーズ付着細胞は一番目のプレートから二番目のプレートに移動することを確認した。これを八番目のプレートまで反復して行った(図10図11)。
【0101】
完了後に各プレートのPBS(pH7.4)緩衝溶液中に残っている細胞数をc-Chip測定した。そして、最終的に八番目のプレートまで移動した細胞数と通常の細胞パンニング法後の残った細胞数と比較した。
【0102】
その結果、磁性基盤機器を用いた細胞パンニング法と実験者が直接行う細胞パンニング法において類似の細胞数が残ることを確認した(図12)。
【0103】
自動細胞パンニングでは同時に24個から最大で96個まで細胞パンニングを行うことができ、高速大量スクリーニングシステム具現が可能である。また、各パンニング段階別に結合(Binding)、洗浄(Wash)、溶出(Elution)、溶解(Lysis)条件を柔軟に調節でき、時間短縮も可能である。
【0104】
実施例6;抗原過発現患者由来細胞磁性ビーズ付着及びこれを用いた性基盤機器による自動細胞パンニング適用
【0105】
本発明で開発した実験法を用いて生きている細胞に磁性ビーズを付着させ、これを磁性基盤機器を用いて自動細胞パンニングを行った。実施例で使用した抗原は線維芽細胞増殖因子受容体3(Fibroblast growth factor receptor 3,FGF3)であり、組換え抗原はR&D system社の再組換えヒトFGF R3(IIIc)Fcキメラタンパク質を使用した。
【0106】
まず、通常且つ普遍的に知られた免疫チューブに抗原固定方式によってバイオパンニングを4ラウンド行い、4ラウンドバイオパンニングによって抗原特異的なファージが増幅されたファージプール(Phage pool)を、磁性基盤機器を用いた自動細胞パンニングを、それぞれ強力な洗浄条件(Kingfisher Flex装備ソフトウェアであるBindIt Software 3.3.1において洗浄段階で洗浄強度をFastに設定)と軽度の洗浄条件(洗浄段階で洗浄強度をMedium又はSlowに設定)に1ラウンド適用した後、細胞パンニング結果物を計数及び回収した。
【0107】
その後、磁性基盤機器であるKingfisher Flex(ThermoFisher Scientific,USA)を用いて組換えタンパク質基盤磁性ビーズパンニングによって自動化パンニングを4ラウンド行い、4ラウンドバイオパンニングによって抗原特異的なファージが増幅されたファージプール(Phage pool)を、磁性基盤機器を用いた自動細胞パンニングを軽度の洗浄条件(洗浄段階で洗浄強度をMedium又はSlowに設定)にして1ラウンド適用した後、細胞パンニング結果物を計数及び回収した。
【0108】
通常の条件で回収したプールと自動化パンニングで回収したプールにおいて実際細胞表面に発現した特定抗原構造に対してより特異的結合能を持つファージを回収及び計数するために、本発明で開発したパンニング方法を用いて磁性基盤機器による磁性付着細胞パンニングを自動で行った。
【0109】
抗原が過発現している患者由来細胞PDC#1と抗原が低発現している患者由来細胞PDC#2を自動細胞パンニングに利用したが、まずPBSであらかじめ洗浄された抗原が低発現したPDC#2(2x10E+6 cells/library)とあらかじめ洗浄された磁性ビーズ(Dynabeads)を抗原に4回増幅されたファージプールと常温で1時間反応させた後、試料は、遠心分離機で上層液だけを回収して抗原非特異的なファージと磁性ビーズ特異的なファージを除去する過程を経た。
【0110】
回収した上層液は、あらかじめ本発明で開発した方法を用いて磁性付着している患者由来細胞と共に自動化機器(Kingfisher flex,Thermo scientific,USA)に導入した、当該運営ソフトウェアプロトコルは図13に開示の通りである。
【0111】
自動細胞パンニングで回収されたファージはTG1宿主細胞に感染させてLB/アンピシリン培養培地に計数し、回収されたファージの量を確認するために回収溶液を希釈して宿主細胞に感染させた後、LB/アンピシリン寒天培地に塗抹し、その翌日にコロニー個数によって定量した(図14)。残余回収溶液は15cm培養培地に塗抹して培養後、5mlのSB培養培地(50%グリセロール)を添加してコロニーを回収及び保管(-80℃)した。
【0112】
実施例7;自動パンニング結果物を利用した特定抗原特異的結合能を持つELISA基盤抗体スクリーニング結果
【0113】
通常且つ普遍のscFv ELISAスクリーニングによってFGFR3特異的な抗体を選別した。それぞれの条件で自動細胞パンニングして回収したファージプールは宿主細胞(TG1)に感染された状態であり、これを単一コロニーとして確保してELISA検証に使用し、各単一コロニーを96ウェルプレートにSB/アンピシリン200ulずつ分注されたウェルにそれぞれ接種した後(37℃、3時間)、タンパク質発現誘導のために培養中の培地に最終濃度1mM IPTGとなるように処理した後、16時間以上28℃で培養した。
【0114】
翌日、培養プレートは遠心分離及び上層液除去の後、各ウェルに残っているE.Coli宿主細胞の周辺細胞質部位にあるscFvを回収するためにTES溶液(20% w/vスクロース、50mM Tris、1mM EDTA、pH8.0)を処理して4℃で静置させた後、遠心分離機で上層液を回収し、あらかじめ特定抗原がコーティングされた96ウェルプレートに処理して常温で1時間反応させた。反応後には洗浄過程を行い、抗HA HRPをブロッキングバッファと共に1時間処理し、同一の洗浄過程を行った後、TMB基質を処理してO.D 450nmで分析した。
【0115】
その結果、図16に記載の通り、組換えタンパク質を用いたバイオパンニングによって確保したFGFR3に特異的結合力を持つscFvプールから、実際細胞表面に発現したFGFR3に対してより特異的であり且つ構造的に安定したscFvを自動選別でき、且つ様々なライブラリーと様々な抗原又は細胞に特異的な抗体を磁性基盤機器を用いて自動で選別できることが確認できた。
【0116】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は好ましい実施様態であるだけで、それらによって本発明の範囲が制限されない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項とそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係る生きている細胞に磁性ビーズを付着させる技術は、磁性誘導された細胞を用いてファージディスプレイ基盤バイオパンニングに適用できる方法である。細胞表面タンパク質の構造を維持した状態で抗体選別が可能であり、組換えタンパク質を用いたパンニング方式に比べて抗原特異的な抗体選別可能性が高い。また、磁性基盤高速大量スクリーニング機器及びシステムに適用して少ない労力で大量の様々な抗原に対する抗体を選別することができる。
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