(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】酸性水の処理条件設計方法及び酸性水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20060101AFI20220425BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
C02F1/66 521C
C02F1/66 510M
C02F1/66 521D
C02F1/66 530Z
C02F1/66 521S
C02F1/66 510K
C02F1/66 510A
C01B33/12 A
(21)【出願番号】P 2018052565
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 知昭
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
(72)【発明者】
【氏名】中田 英喜
(72)【発明者】
【氏名】山内 正人
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307079(JP,A)
【文献】特開昭59-104019(JP,A)
【文献】特開2018-153712(JP,A)
【文献】特開2015-044149(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0284068(US,A1)
【文献】特開2011-136858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/66- 1/68
B01D 9/00- 9/04
B01D 21/00- 21/34
C02F 1/52- 1/56
C01F 1/00- 17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水と消石灰との反応によって水酸化マグネシウムを製造して生じた残渣である中和剤を、処理対象とする酸性水に投入して中和処理を行い、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量との関係式である、下記式(a)と、
y=α×D+β ・・・式(a)
y:酸性水1L当たりの中和剤投入量(g/L)
D:中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径(μm)
α:回帰直線の傾き
β:回帰直線の切片
前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と中和殿物の容積との関係式である、式(b)とを予め求めておき、
z=γ×D+δ ・・・式(b)
z:酸性水1L当たりの中和殿物の容積(mL/L)
γ:回帰直線の傾き
δ:回帰直線の切片
前記式(a)及び式(b)の関係式に基づき、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、酸性水の処理条件設計方法。
【請求項2】
累積体積90容量%における体積累積粒子径が20μm以上150μm以下である前記中和剤を用いて前記式(a)及び式(b)を求める、請求項1に記載の酸性水の処理条件設計方法。
【請求項3】
炭酸カルシウムを65質量%以上95質量%以下含み、水酸化マグネシウムを5質量%以上35質量%以下含む前記中和剤を用いて前記式(a)及び式(b)を求める、請求項1又は2に記載の酸性水の処理条件設計方法。
【請求項4】
前記中和剤の一粒子中に炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが均一に混合されている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の酸性水の処理条件設計方法。
【請求項5】
酸性の鉱泉水が流入する河川水からなる前記酸性水を用いて前記式(a)及び式(b)を求める、請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の酸性水の処理条件設計方法。
【請求項6】
石灰石を前記酸性水に投入して中和処理を行ったときに発生する沈殿物の容積よりも前記中和殿物の容積が低減するように、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、請求項1ないし
5のいずれか一項に記載の酸性水の処理条件設計方法。
【請求項7】
石灰石を前記酸性水に投入して中和処理を行ったときに投入される石灰石の投入量よりも前記中和剤投入量が低減するように、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、請求項1ないし
5のいずれか一項に記載の酸性水の処理条件設計方法。
【請求項8】
中和剤投入量及び中和殿物の容積の合計量が最小値となるか、又は該最小値±10%となるように、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、請求項1ないし
5のいずれか一項に記載の酸性水の処理条件設計方法。
【請求項9】
請求項1ないし
8のいずれか一項に記載の酸性水の処理条件設計方法によって設計した前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とに基づいて、前記中和剤を処理対象とする酸性水に投入して中和処理する、酸性水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性水の処理条件設計方法及び酸性水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化鉱の鉱床がある地域において、酸化した硫化鉱が地下水に溶解することにより鉱床付近の河川が硫酸酸性を示し、酸性の河川水となることがある。このような酸性河川水は、生物や植物に対して有害であり、また、橋やダムなどの土木構造物を腐食させる傾向にある。そのため、生態系の維持や土木構造物の長寿命化を目的として、酸性河川水を中和する必要がある。
【0003】
一方で、鉱床付近の河川は半永久的に酸性状態となっていることが多く、これに伴って、酸性河川水の処理場では半永久的に中和処理する必要がある。このような中和処理方法としては、従来から、自然資源である石灰石(炭酸カルシウム)を中和剤として、処理対象の酸性水に投入する方法が行われていた。また、その他の中和処理方法として、酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムを酸性水に添加する方法(特許文献1)や、カルシウム化合物とマグネシウム化合物とを一度に酸性水に添加する方法(特許文献2)、炭酸カルシウムを添加した後にマグネシウム化合物を添加する2段階中和法(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-190969号公報
【文献】特開2003-251371号公報
【文献】特開2016-10757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のとおり、酸性河川水を半永久的に中和処理する必要があることから、酸性水の中和処理コストをできるだけ低減させる処理方法が望まれている。酸性水の中和処理コストとしては、例えば使用する中和剤の原料及びその投入量に起因するコスト(以下、原料コストともいう。)、並びに中和処理時に発生する中和殿物の浚渫及び産廃処分に起因するコスト(以下、処分コストともいう。)が含まれる。実際の酸性水の処理においては、これらのコストを考慮しなければならない。
【0006】
しかし、中和剤として石灰石を添加した場合では、中和剤投入量が多くなり原料コストが増大することに加えて、容積の大きな中和殿物が発生して処分コストが増大するので、結果として酸性水の中和処理コストが著しく増大する。また、特許文献1ないし3に記載の中和処理方法を採用した場合では、石灰石の場合に比べて原料コストは低減できるが、中和殿物の容積は同等あるいは増大してしまい、処分コストを低減できない。そのため、酸性水の処理コストを十分に低減することができないという問題があった。
【0007】
したがって本発明では、前記問題点に鑑みて、中和剤投入量及び中和殿物の容積の双方を低減できるような中和剤の投入条件を、処理対象の酸性水の性状に応じて合理的に設計できる酸性水の処理条件設計方法及び該設計方法を用いた酸性水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を含み且つ粉砕された中和剤を酸性水に投入することで、従来技術と比較して、中和剤投入量及び中和殿物の容積を低減できることを見出した。さらに、本発明者らは、中和剤の粒子径と、中和剤投入量及び中和殿物の容積との間に関係性があることを見出した。
【0009】
これらの知見に基づき、本発明者らは、中和剤の粒子径と、中和剤投入量及び中和殿物の容積との関係式を予め求めておき、該関係式に基づいて中和剤の粒子径と所要投入量を設計することによって、従来の方法よりも中和処理コストを低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を含み且つ粉砕された中和剤を、処理対象とする酸性水に投入して中和処理を行い、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量との関係式である、下記式(a)と、
y=α×D+β ・・・式(a)
y:酸性水1L当たりの中和剤投入量(g/L)
D:中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径(μm)
α:回帰直線の傾き
β:回帰直線の切片
前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と中和殿物の容積との関係式である、式(b)とを予め求めておき、
z=γ×D+δ ・・・式(b)
z:酸性水1L当たりの中和殿物の容積(mL/L)
γ:回帰直線の傾き
δ:回帰直線の切片
前記式(a)及び式(b)の関係式に基づき、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、酸性水の処理条件設計方法に関する。
【0011】
また本発明は、累積体積90容量%における体積累積粒子径が20μm以上150μm以下である前記中和剤を用いて前記式(a)及び式(b)を求める、酸性水の処理条件設計方法に関する。本発明は、炭酸カルシウムを65質量%以上95質量%以下含み、水酸化マグネシウムを5質量%以上35質量%以下含む前記中和剤を用いて前記式(a)及び式(b)を求める、酸性水の処理条件設計方法に関する。本発明は、前記中和剤の一粒子中に炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが均一に混合されている、酸性水の処理条件設計方法に関する。本発明は、前記中和剤が海水と消石灰との反応によって水酸化マグネシウムを製造して生じた残渣である、酸性水の処理条件設計方法に関する。本発明は、酸性の鉱泉水が流入する河川水からなる前記酸性水を用いて前記式(a)及び式(b)を求める、酸性水の処理条件設計方法に関する。
【0012】
また本発明は、石灰石を前記酸性水に投入して中和処理を行ったときに発生する沈殿物の容積よりも中和殿物の容積が低減するように、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、酸性水の処理条件設計方法に関する。本発明は、石灰石を前記酸性水に投入して中和処理を行ったときに投入される石灰石の投入量よりも前記中和剤投入量が低減するように、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、酸性水の処理条件設計方法に関する。本発明は、中和剤投入量及び中和殿物の容積の合計量が最小値となるか、又は該最小値±10%となるように、前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とを設計する、酸性水の処理条件設計方法に関する。
【0013】
更に本発明は、上述の酸性水の処理条件設計方法によって設計した前記中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径と投入量とに基づいて、前記中和剤を処理対象とする酸性水に投入して中和処理する、酸性水の処理方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中和剤の原料コストと中和殿物の処分コストとを考慮して、酸性水の中和処理コストを低減可能な中和剤の投入条件を合理的に設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、海水と消石灰を反応させて水酸化マグネシウムを生成させる工程で得られる残渣の走査型電子顕微鏡像である。
【
図2】
図2(a)は、残渣の走査型電子顕微鏡像(
図1相当拡大像)であり、
図2(b)は、
図2(a)の顕微鏡像におけるマグネシウムの元素マッピング像であり、
図2(c)は、
図2(a)の顕微鏡像におけるカルシウムの元素マッピング像である。
【
図3】
図3は、中和剤の粒子径分布をレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した結果のグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の酸性水の処理条件設計方法及び該設計方法を用いた酸性水の中和方法をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0017】
<酸性水の処理条件設計方法>
本発明の酸性水の処理条件設計方法は、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を含み且つ粉砕された中和剤を、処理対象とする酸性水に投入して中和処理を行い、中和剤の粒子径と中和剤投入量との関係式、及び中和剤の粒子径と中和処理によって生じた不溶性沈殿物である中和殿物の容積との関係式をそれぞれ予め求めておき、これらの関係式に基づいて、中和剤の粒子径と投入量とを設計するものである。なお、中和剤の詳細は後述する。
【0018】
まず、中和剤を処理対象とする酸性水に投入して中和処理を行って、中和剤の粒子径と投入量との関係式として以下の式(a)と、及び中和剤の粒子径と中和殿物の容積との関係式として以下の式(b)とを予め求めておく。
【0019】
y=α×D+β ・・・式(a)
y:酸性水1L当たりの中和剤投入量(g/L)
D:中和剤の累積体積90容量%における体積累積粒子径(μm)
α:回帰直線の傾き
β:回帰直線の切片
【0020】
z=γ×D+δ ・・・式(b)
z:酸性水1L当たりの中和殿物の容積(mL/L)
γ:回帰直線の傾き
δ:回帰直線の切片
【0021】
上述の式(a)及び(b)に示すように、中和剤の粒子径及び投入量の関係と、中和剤の粒子径及び中和殿物の容積の関係とは、それぞれ一次式で表されるものである。したがって、これらの関係式から回帰直線の傾き及び切片を求めるためには、異なる粒子径を有する中和剤を用いて中和処理を行って、中和剤投入量及び中和殿物の容積を測定し、その結果から線形近似を行うことによってそれぞれ求めることができる。なお、本明細書における「粒子径」とは、特に断らない限り、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒子径のことを指す。
【0022】
最適な中和処理条件の設計に要するコストを低減する観点から、上述の式(a)及び(b)における回帰直線の傾き及び切片を求めるための中和処理は、少なくとも2種の異なる粒子径を有する中和剤を用いて行うことが好ましく、中和処理条件設計の精密さを高める観点から、5種の異なる粒子径を有する中和剤を用いて行うことがより好ましく、8種の異なる粒子径を有する中和剤を用いて行うことが更に好ましく、10種の異なる粒子径を有する中和剤を用いて行うことが特に好ましい。つまり、式(a)及び(b)を求めるにあたって、粒子径の異なる中和剤を用いて、好ましくは2点以上、より好ましくは5点以上、更に好ましくは8点以上、特に好ましくは10点以上の中和処理を行って、中和剤投入量及び中和殿物の容積を測定する。
【0023】
中和剤投入量と粒子径との相関性の強弱を示す相関係数、及び中和殿物の容積と中和剤の粒子径との相関性の強弱を示す相関係数は、その絶対値が、それぞれ独立して0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることが更に好ましい。このような相関係数になっていることによって、中和処理条件設計の精密さを高めることができ、その結果、中和処理コストを低減させるように中和処理条件を設計することができる。相関係数は、上述の式(a)及び(b)における線形近似によって回帰直線とともに求めることができる。
【0024】
式(a)を求めるための中和処理と、式(b)を求めるための中和処理とは、同時に行ってもよく、それぞれ独立して行ってもよい。なお、酸性水への中和剤投入量及び中和殿物の容積は、一度の中和処理からそれぞれ実測することができるので、式(a)及び(b)を求めるための中和処理は、一度の中和処理によって行うことが処理効率の観点から好ましい。
【0025】
また、式(a)及び(b)を求めるための中和処理は、処理対象とする酸性水を一定量サンプリングして行うことが、中和剤投入量及び中和殿物の容積を正確に測定することができる点で好ましい。また、同様の観点から、使用する中和剤の粒子径ごとに、サンプリングした酸性水を用いて中和処理を行うことが好ましい。
【0026】
上述のとおり、本発明に用いられる中和剤の粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒子径のことを指す。中和剤の粒子径は、例えば実施例で後述する粒度分布測定装置を用いて前記中和剤の粒度分布を測定して、得られた粒子径と累積体積頻度との関係線から累積体積が90%となる粒子径として求めることができる。
【0027】
関係式(a)及び(b)を精度よく得る観点から、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒子径として、好ましくは20μm以上150μm以下、より好ましくは25μm以上140μm以下、更に好ましくは30μm以上130μm以下である中和剤を用いて、式(a)及び(b)を得ることが好ましい。中和剤の粒子径が20μm以上であれば、中和剤の粒子が細かすぎずゲル状の中和殿物が多く生成することが防止されるので、中和殿物の容積が極端に増加することが防止され、その結果、前記式(b)の相関係数が低下することが防止される。また、中和剤の粒子径が150μm以下であると、中和速度が遅くなることが防止されるので、中和剤投入量の増大が防止でき、その結果、前記式(a)の相関係数が低下することが防止される。
【0028】
中和剤をこのような粒子径とするためには、粉砕機を用いる粉砕や、ふるい分け、又はこれらの組み合わせによって調整することができる。特に、中和剤投入量及び中和殿物の容積を低減させて、中和性能を優れたものとする観点から、本発明に投入される中和剤は、その粒子径が上述の範囲となることを条件として、粉砕されたものを用いることが好ましい。中和剤の粉砕方法としては、例えばボールミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル及びディスクミル等の公知の粉砕機を用いて行うことができる。
【0029】
中和剤投入量は、中和処理において、中和剤投入前のpHから所定のpHに変化するまでに酸性水に投入した中和剤の質量を指す。例えば、中和剤投入量は、処理対象のpH7未満の酸性水に中和剤を所定量投入して、所定時間後にpH7まで中和するのに必要な投入量を質量として測定することで求めることができる。なお、詳細は後述の実施例にて説明する。
【0030】
中和処理に用いられる中和剤は、乾燥状態のものであってもよく、湿潤状態のものであってもよい。詳細には、中和剤は、粉状体やその凝集体等の粒子としてそのまま投入してもよく、中和剤の粒子等を水などの分散媒に溶解又は分散したスラリー状の分散液として投入してもよい。なお、中和剤を湿潤状態や分散液として用いた場合は、その投入量は固形分換算とする。
【0031】
中和殿物の容積は、中和処理において、中和剤投入前のpHから所定のpHに変化するまで中和剤を投入したときに発生する沈殿物の容積を指す。中和殿物の容積は、例えば所定のpHに変化した後(例えば中和処理後)の酸性水を目盛り付きの試験管やメスシリンダー等の容積測定容器に入れ、沈殿物の容積が安定するまで静置した後、目盛りを読み取ることで測定することができる。なお、詳細は後述の実施例にて説明する。
【0032】
次いで、中和剤の粒子径と、実測された中和剤投入量及び中和殿物の容積との関係から求められた式(a)及び式(b)の関係式から、最適な中和効果を示すように、中和剤の粒子径及び中和剤投入量を設計する。最適な中和効果とは、処理対象の酸性水の性状に応じた中和効果であり、例えば、構造物や周囲環境への負荷の低減や、酸性水の中和処理コストの低減、又はこれらの組み合わせ等に着目した効果が挙げられる。
【0033】
ダム等の構造物や周囲環境への負荷の低減の観点からは、例えば中和剤として石灰石を用いて中和処理を行ったときに発生する沈殿物の容積よりも、中和殿物の容積が低減するように、使用する中和剤の粒子径及び投入量の条件を設計することができる。
【0034】
また、中和処理コストの低減の観点からは、使用する中和剤の原料及びその投入量に起因する原料コスト、並びに中和処理時に発生する中和殿物の浚渫及び産廃処分に起因する処分コストがともに少なくなるように設計することができる。つまり、中和剤投入量及び中和殿物の容積の双方が低減するように、使用する中和剤の粒子径及び投入量の条件を設計することができる。詳細には、式(a)及び式(b)から求められる中和剤投入量及び中和殿物の容積の合計量が最小値となるように、使用する中和剤の粒子径及び投入量の条件を設計することができる。
【0035】
また、粒子径及び投入量の条件の設計において、中和剤投入量及び中和殿物の容積の合計量の最小値を必ずしも採用しなくてもよく、本発明の効果が奏される限りにおいて許容可能な一定の上限及び下限の幅を持たせて、使用する中和剤の粒子径及び投入量の条件を設計することもできる。本発明において許容可能な一定の上限及び下限の幅としては、例えば、好ましくは最小値±10%となるように、更に好ましくは最小値±5%となるように、使用する中和剤の粒子径及び投入量の条件を設計することができる。
【0036】
同様に、中和剤の原料コストはあまり増大しないが、中和殿物の処分コストが著しく増大してしまうような性状を有する酸性水を処理対象とする場合には、中和剤として石灰石を用いて中和処理を行ったときに発生する沈殿物の容積よりも、中和殿物の容積が低減するように、使用する中和剤の粒子径及び投入量の条件を設計することができる。
【0037】
また同様に、中和剤の原料コストが著しく増大するが、中和殿物の処分コストがあまり増大しないような性状を有する酸性水の場合には、例えば、中和剤として石灰石を前記酸性水に投入して中和処理を行ったときに投入される石灰石の投入量よりも中和剤投入量を低減するように、使用する中和剤の粒子径の条件を設計することができる。
【0038】
以上のとおり、本発明の酸性水の処理条件設計方法は、例えば酸性水の処分場の構造や周囲環境、処理対象の酸性水の性状、中和剤の原料コストの増減、及び中和殿物の処分コストの増減等といった、目的とする中和処理の効果に応じた最適な処理条件を合理的に設計することができる。
【0039】
<酸性水の中和方法>
また、本発明の酸性水の中和方法は、本発明の酸性水の処理条件設計方法によって設計された中和剤の粒子径及び投入量に基づいて、該中和剤を処理対象の酸性水に投入して中和処理を行うことができる。なお、本発明の酸性水の中和方法に用いられる中和剤及び酸性水は、本発明の酸性水の処理条件設計方法において用いられたものと同一である。
【0040】
特に、本発明の酸性水の中和方法は、中和剤の原料コストと中和殿物の処分コストを考慮した処理条件に基づいて行うことができるので、酸性水の中和処理コストを一層低減することができ、その結果、酸性水の処理場が抱える諸問題を解決可能なものとなる。
【0041】
以上は、本発明の酸性水の処理条件設計方法及び該設計方法を用いた酸性水の中和方法に関する説明であったところ、以下に、本発明に用いられる中和剤、及び処理対象の酸性水について説明する。
【0042】
<中和剤>
本発明で用いられる中和剤は、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を含む中和剤であることが好ましい。カルシウム化合物としては、例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び酸化カルシウム等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、例えば水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウム等が挙げられる。上述したカルシウム化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、マグネシウム化合物も、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
中和速度と、中和剤投入量及び中和殿物の容積の低減とを両立する観点から、本発明に用いられる中和剤は、カルシウム化合物として炭酸カルシウムを含むことが好ましい。また、中和剤に含まれるカルシウム化合物として炭酸カルシウムを含む場合、炭酸カルシウムを65質量%以上95質量%以下含むことが好ましく、70質量%以上90質量%以下含むことがより好ましく、75質量%以上85質量%以下含むことが更に好ましい。
【0044】
また同様の観点から、本発明に用いられる中和剤は、マグネシウム化合物として水酸化マグネシウムを含むことが好ましい。また、中和剤に含まれるマグネシウム化合物として水酸化マグネシウムを含む場合、水酸化マグネシウムを5質量%以上35質量%以下含むことが好ましく、10質量%以上30質量%以下含むことがより好ましく、15質量%以上25質量%以下含むことが更に好ましい。
【0045】
本発明の中和剤は、上記のカルシウム化合物及びマグネシウム化合物を混合したものであってもよく、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を予め含んでいる天然物又は人工物であってもよい。カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を予め含む中和剤としては、例えば軽焼ドロマイト、軽焼ドロマイト及び水を反応させることで得られる水酸化ドロマイト、海水と消石灰とを反応させて水酸化マグネシウムを工業的に製造して生じた残渣などが挙げられる。この中でも、石灰石と同程度の中和速度で中和処理を行うことができるとともに、中和剤投入量及び中和殿物の容積を低減できる観点から、中和剤として海水と消石灰とを反応させて水酸化マグネシウムを工業的に製造して生じた残渣を用いることが好ましい。
【0046】
なお、海水と消石灰とを反応させて水酸化マグネシウムを工業的に製造して生じた残渣は産業廃棄物であるため、本発明の効果に寄与するための粒子構造や成分の全部を解析することは実質的に不可能であり、その構造及び特性によって特定するには著しく過大な経済的支出及び時間を要する。そのため、前記残渣には、本出願の出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情、すなわち「不可能・非実際的事情」が存在する。
【0047】
本発明で用いられる中和剤は、その粒子形状が針状、球状、板状、不定形状等の種々の形状のものであってよく、前記形状の粒子が凝集した凝集物であってもよい。例えば、海水と消石灰とを反応させて水酸化マグネシウムを工業的に製造して生じた残渣には、針状の粒子が多く含まれており、針状粒子が凝集した凝集物を形成していることが、走査型電子顕微鏡による観察によって確認されている(
図1及び
図2(a)参照)。
【0048】
中和処理に必要な中和剤投入量と、中和処理後の中和殿物の容積とを一層低減させる観点から、本発明に用いられる中和剤は、その一粒子中に炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが均一に混合されていることが好ましい。本実施形態において「一粒子中に均一に混合されている」とは、
図2(b)及び(c)に示すように、炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが一つの粒子内で境界なく存在している状態のことである。換言すれば、炭酸カルシウムのみが主として存在している領域と、水酸化マグネシウムのみが主として存在している領域とが、別個に観察されない状態になっていることである。このような混合形態となっている中和剤としては、例えば上述の残渣が挙げられる。
【0049】
本発明者は、炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが一粒子中に均一に混合されている中和剤を用いることによって、中和剤投入量及び中和殿物の容積が低減する理由を次のように推察している。一般に、酸性水の中和処理において、中和剤としてマグネシウム化合物のみを使用する場合、中和に必要な中和剤投入量が少なくなり、中和反応も速く進行するが、中和殿物の容積が大きくなることが知られている。また、中和剤としてカルシウム化合物のみを使用する場合、該化合物は水に対する溶解性が低いので、中和反応の反応速度が遅く、また未反応の中和剤が残存してしまうので、結果として中和剤投入量が多くなってしまう。これに対して、炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが一粒子中に均一に混合されている場合、水酸化マグネシウムは炭酸カルシウムに比べて溶解度が高いので中和反応が進行しやすく、また中和反応後において、炭酸カルシウム単体の場合よりも未反応の中和剤が減少し、中和に必要な中和剤投入量及び中和殿物の容積が低減されるものと考えられる。なお、本発明者は、酸性水の中和処理に関し、炭酸カルシウムの単体粉末と水酸化マグネシウムの単体粉末とを上述の質量比で混合した混合物を中和反応に使用しても、石灰石と同様の中和効果を得られないことを確認している。
【0050】
本発明で用いられる中和剤は、本発明の効果を奏する限りにおいて、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物に加えて他の成分を含んでいてもよく、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物のみを含んでいてもよい。他の成分としては例えばシリカ、アルミナ及び酸化鉄などが挙げられる。
【0051】
<酸性水>
本発明の処理対象となる酸性水は、25℃においてpHが7未満の水性液のことである。酸性水は、酸性の鉱泉水が流入する河川水、鉱山廃水、地下水、工場排水等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0053】
1.酸性水の中和試験
以下の方法により酸性水の中和試験を行った。
(1)酸性水
試験に用いた模擬酸性水の性状を表1に示す。表1に示すpH、全鉄(T-Fe)、アルミニウム(Al)、シリカ(Si)及び硫酸イオン濃度(SO4
2-)は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。なお、模擬酸性水は表1に示す組成になるように、Fe源として硫酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業製)、Al源として硫酸アルミニウム14~18水(和光純薬工業製)、Si源としてメタけい酸ナトリウム九水和物(和光純薬工業製)、硫酸源として硫酸(和光純薬工業製)の試薬を用いて調製した。
【0054】
【0055】
(2)中和剤
実施例及び比較例では、中和剤として、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を含む中和剤(以下、これを中和剤Aともいう)を用い、参考例では中和剤として石灰石粉を使用した。中和剤Aは、宇部マテリアルズ株式会社において、海水及び消石灰から水酸化マグネシウムを製造する際に生成する残渣を使用した。石灰石粉は汎用の石灰石粉砕品を使用した。中和剤A及び石灰石粉の性状を表2に示す。MgO、CaO、SiO2、Al2O3及びFe2O3含有率は、JIS M 8853「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」に準じて測定した。
【0056】
また、中和剤Aを走査型電子顕微鏡で観察及び元素マッピングした結果を
図1及び
図2に示す。
図1に示すように、中和剤Aには針状粒子が多く含まれており、針状粒子が凝集した凝集物を形成していることが確認された。
図2より、中和剤Aは一粒子中に炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが均一に混合された状態であることが確認された。
【0057】
【0058】
(3)粒子径が異なる中和剤の調製
中和剤Aを、遊星ボールミル(伊藤製作所社製、型番:LA-PO1)を用いて30分間粉砕した後、試験用ふるい(JIS Z 8801-1、目開き20、45、106及び212μm)を用いて、種々の粒度にふるい分けて粒子径の異なる中和剤B~Iを調製した。
【0059】
中和剤の粒子径は、前処理として蒸留水に中和剤を所定量添加して超音波分散を行ったものを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD-2200)を用いて粒度分布を測定した。中和剤の粒度分布の測定結果の一例を
図3に示す。
図3に示す粒子径と体積の累積頻度との関係を示すグラフから、累積体積90容量%における体積累積粒子径を読み取ることで粒子径を求めた(以下の説明では、「累積体積90容量%における体積累積粒子径」を「90%粒子径」とする。)。同様に、粒子径と体積の累積頻度との関係を示すグラフから、累積体積50容量%における体積累積粒子径を読み取ることで粒子径を求めた(以下の説明では、「累積体積50容量%における体積累積粒子径」を「50%粒子径」とする。)。
【0060】
また、比較例として、中和剤Aを粉砕せずに、上述の試験用ふるいにより乾式篩分けにより90%粒子径を40μmとした中和剤Jを調製した。中和剤B~Jの90%粒子径及び50%粒子径を表3に示す。
【0061】
(4)酸性水の中和処理
(i)中和剤投入量の決定
中和剤B~J及び石灰石粉を使用し、以下の方法で中和試験を行い、中和剤投入量を決定した。すなわち、酸性水1Lをビーカーに取り、メカニカルスターラーで攪拌しながら湯浴によって水温を33℃に調整した。次に、粉末の中和剤を、水温が一定になった酸性水に一度に投入した。中和剤を投入した後、2時間後まで攪拌を続けながら、ガラス式pH測定装置(東亜ディーケーケー社製、型番:MM-60R)で酸性水のpHを1分毎に測定した。以上の操作を、中和剤B~J及び石灰石粉のそれぞれについて酸性水への投入量を変えて行い、2時間経過後の酸性水のpHがpH5.5となるときの酸性水1L当たりの中和剤投入量(g/L)を決定した。
(ii)中和殿物の容積の測定
中和剤B~J及び石灰石粉を使用し、前記操作で決定した中和剤投入量で中和剤を酸性水に投入して2時間後に攪拌を止め、中和処理水と中和殿物を分液漏斗に移し、24時間静置した。その後、分液漏斗下部から中和殿物を目盛り付き試験管に抜き取り、さらに24時間静置した後、試験管の目盛りを読み取ることで、酸性水1L当たりの中和殿物の容積(mL/L)を測定した。
【0062】
〔実施例1〕
中和剤Bを用いて前記の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0063】
〔実施例2〕
中和剤Cを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0064】
〔実施例3〕
中和剤Dを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0065】
〔実施例4〕
中和剤Eを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0066】
〔実施例5〕
中和剤Fを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0067】
〔実施例6〕
中和剤Gを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0068】
〔実施例7〕
中和剤Hを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0069】
〔実施例8〕
中和剤Iを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0070】
〔比較例1〕
中和剤Jを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。
【0071】
〔参考例1〕
中和剤として、石灰石粉を用いた以外は、実施例1と同様の操作により、中和剤投入量の決定および中和殿物の容積の測定を行った。結果を表3に示す。なお、参考例1について同表に示す中和殿物の容積は、石灰石を用いて中和処理を行ったときに発生する沈殿物の容積である。
【0072】
【0073】
(5)結果
表3に示すように、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物を含む中和剤を粉砕した実施例1~8は、中和剤を粉砕しなかった比較例1と比べて、中和剤投入量及び中和殿物の容積を大幅に低減できることがわかる。また、実施例1~8と参考例1とを比較すると、従来の石灰石を用いた参考例1よりも、実施例1~8における中和剤投入量及び中和殿物の容積を大幅に低減できることがわかる。
【0074】
2.関係式(a)及び関係式(b)の算出
前記「1.酸性水の中和試験」で求めた結果より、以下の方法で関係式(a)及び関係式(b)をそれぞれ算出した。
【0075】
表3の実施例1~8の中和剤の90%粒子径を横軸に、中和剤投入量を縦軸にプロットし、線形近似することで、回帰直線として関係式(a)を得た。関係式(a)とその相関係数を表4に示す。また、比較として、表3の実施例1~8の中和剤の50%粒子径と中和剤投入量との関係から、前記と同様の方法で算出した関係式及び相関係数を表4に示す。
【0076】
次に、表3の実施例1~8の中和剤の90%粒子径を横軸に、中和殿物の容積を縦軸にプロットし、線形近似することで、回帰直線として関係式(b)を得た。関係式(b)とその相関係数を表4に示す。また、比較として、表3の実施例1~8の中和剤の50%粒子径と中和殿物の容積との関係より、前記と同様の方法で算出した関係式及び相関係数を表4に示す。
【0077】
【0078】
なお、表4において、y:酸性水1L当たりの中和剤投入量(g/L)、D1:中和剤の90%粒子径(μm)、z:酸性水1L当たりの中和殿物の容積(mL/L)、D2:中和剤の50%粒子径(μm)である。
【0079】
表4に示すように、粒子径として90%粒子径及び50%粒子径のいずれを採用した場合であっても、関係式(a)は正の傾きを有しているので、中和剤の粒子径が小さいほど、中和剤投入量が低減できることがわかる。これに対して、粒子径として90%粒子径及び50%粒子径のいずれを採用した場合であっても、関係式(b)は負の傾きを有しているので、中和剤の粒子径が大きいほど、中和殿物の容積が低減できることがわかる。
【0080】
また、各粒子径における回帰直線の相関係数を比較すると、90%粒子径を採用した場合は、50%粒子径を採用した場合に比べて、関係式(a)及び(b)ともに相関係数が高く、より正確な関係式を求めることができることがわかる。
【0081】
また、表4に示すように、中和剤投入量及び中和殿物の容積の関係が、それぞれ正・負の相反する傾向を有することも判る。このように、関係式(a)及び(b)を求めることによって、中和剤の90%粒子径と、中和剤投入量及び中和殿物の容積との関係性を明らかにすることができる。この結果から、中和剤投入量や中和殿物の容積の低減に関して、コストや処理状況等を踏まえて優先順位を判断することができるので、より定量的に且つ合理的に中和剤の投入条件を設計することができる。
【0082】
以上のとおり、本発明の処理条件設計方法は、上述した関係式(a)及び関係式(b)を予め求めることによって、中和剤投入量及び中和殿物の容積の値を予測し、中和処理に最適な中和剤の90%粒子径及び中和剤投入量を設計することができる。この設計に基づいて、処理対象の酸性水を中和処理することによって、従来の方法と比べて、中和剤投入量及び中和殿物の容積を低減でき、中和処理コストを低減することができる。