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特許7062224蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末および活物質材料、並びにそれを用いた電極シートおよび蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末および活物質材料、並びにそれを用いた電極シートおよび蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20220425BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20220425BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220425BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20220425BHJP
【FI】
H01M4/485
C01G23/00 B
H01G11/06
H01G11/50
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018114268
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019220254
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中川 敦允
(72)【発明者】
【氏名】竹中 匠
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110708(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/178457(WO,A1)
【文献】特開2012-043765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/485
C01G 23/00
H01G 11/06
H01G 11/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、
BET法によって求める比表面積が4m/g以上であり、
M1(M1は、MoおよびWから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)およびM2(M2は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Hb、Er、Tm、Yb、およびLuから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)を同時に含有し、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1、M2の含有量をそれぞれCM1(モル%)、CM2(モル%)としたときに、前記CM1が0.01以上0.9以下であり、前記CM2が0.01以上0.9以下であり、
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をD1a(atm%)、前記M2の元素濃度をD2a(atm%)、チタンの原子濃度をDti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をD1b(atm%)、前記M2の元素濃度をD2b(atm%)とすると、下記式(I)から(IV)を満たすことを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
D1a>D1b (I)
D2a>D2b (II)
0.05≦D1a/Dti (III)
0.05≦D2a/Dti (IV)
【請求項2】
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M1およびM2が検出されないことを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項3】
M3(ただし、M3は、2族、12族、および13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項4】
前記M3が、B、Mg、Zn、Al、Ga、およびInから選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項3に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項5】
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M3の含有量をCM3(モル%)としたときに、CM3が0.01以上1.0以下であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項6】
前記CM3と前記CM1との比CM3/CM1(モル%/モル%)が0.3以上30以下であり、前記CM3と前記CM2との比CM3/CM2(モル%/モル%)が0.3以上30以下であることを特徴とする請求項5に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項7】
前記M3がAlであることを特徴とする請求項3から請求項6までのいずれか一項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の、蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末を含む活物質材料。
【請求項9】
請求項8に記載の活物質材料を含むことを特徴とする、蓄電デバイスの電極シート。
【請求項10】
請求項8に記載の活物質材料を用いることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項11】
請求項8に記載の活物質材料を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項8に記載の活物質材料を用いることを特徴とするハイブリッドキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの電極材料等として好適なチタン酸リチウム粉末および、このチタン酸リチウム粉末を用いた活物質材料と、この活物質材料を正極シート又は負極シートに用いた蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイスの電極材料として種々の材料が研究されている。その中でもチタン酸リチウムは、活物質材料として用いた場合に入出力特性に優れる点から、HEV、PHEV、BEVといった電気自動車用の蓄電デバイスの活物質材料として注目されている。
【0003】
夏場において自動車の車内温度は60℃以上になることも珍しくないので、電気自動車用の蓄電デバイスには、高温においても安全性に問題がないことや性能が低下しないことが求められる。しかし、チタン酸リチウムを含む蓄電デバイスが、そのような高温で動作すると、チタン酸リチウムの電気化学的な副反応により、ガスが発生して蓄電デバイスが膨張し、蓄電デバイスの安全性に問題が生じることがある。したがって、蓄電デバイスの高温動作時の電池特性を維持しつつ、ガス発生を抑制するチタン酸リチウムの開発が望まれている。ここで、蓄電デバイスの高温動作とは、60℃以上で蓄電デバイスが充電する、放電する、あるいは充放電を繰り返すことをいう。
【0004】
特許文献1には、1次粒子が造粒された2次粒子を含み、比表面積が2m/g以上5m/g以下であり、化学式がLi4-x-yTi5+x-zM’12(xは、0~1の範囲にあり、yは、0~1の範囲にあり、zは、0~1の範囲にあり、Mは、La、Tb、Gd、Ce、Pr、Nd、Sm、Ba、Sr、Ca、Mg及びこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、及びM’は、V、Cr、Nb、Fe、Ni、Co、Mn、W、Al、Ga、Cu、Mo、P及びこれらの組み合わせからなる群より選択される元素)であるリチウム2次電池用負極活物質が開示されている。特許文献1によれば、優れた高率特性および改善された膨張特性を有するリチウム2次電池が得られるとされている。
【0005】
特許文献2には、リチウムチタン酸化物、リチウムタンタル酸化物、リチウムジルコニウム酸化物、及び、リチウムタングステン酸化物のうちいずれか1種以上のリチウム金属酸化物で構成された第1の被覆層を有し、前記第1の被覆層上に、アルミ酸化物で構成された第2の被覆層を有するリチウムイオン電池用正極活物質が開示されている。特許文献2によれば、充電状態での保存特性に優れた表面修飾されたリチウムイオン電池用正極活物質が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-43765号公報
【文献】特開2017-84673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のチタン酸リチウムを負極材料として適用した蓄電デバイスでは、サイクル安定性を向上させるが、高温動作時のガス発生を十分に抑制することはできない。また、特許文献2の被覆方法をチタン酸リチウム負極に適用しても、高温動作時のガス発生を十分に抑制することはできない。
【0008】
そこで本発明では、蓄電デバイスの電極材料として用いた場合に、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生を抑制できるチタン酸リチウム粉末、およびこのチタン酸リチウム粉末を用いた活物質材料、それらを含む電極シート、並びにこの活物質材料が用いられた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく種々検討した結果、特定の比表面積を有し、特定の二種以上の金属元素を特定の含有量で同時に含有するチタン酸リチウム粉末であって、その粒子内において、このような特定の金属元素の粒子表面における濃度および粒子内部における濃度が特定の範囲にあるチタン酸リチウム粉末を見出し、そのチタン酸リチウム粉末が電極材料として適用された蓄電デバイスが、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生を抑制できることを見出して本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
(1)LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、
BET法によって求める比表面積が4m/g以上であり、
M1(M1は、MoおよびWから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)およびM2(M2は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)を同時に含有し、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1、M2の含有量をそれぞれCM1(モル%)、CM2(モル%)としたときに、前記CM1が0.01以上0.9以下であり、前記CM2が0.01以上0.9以下であり、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をD1a(atm%)、前記M2の元素濃度をD2a(atm%)、チタンの原子濃度をDti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をD1b(atm%)、前記M2の元素濃度をD2b(atm%)とすると、下記式(I)から(IV)を満たすことを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
D1a>D1b (I)
D2a>D2b (II)
0.05≦D1a/Dti (III)
0.05≦D2a/Dti (IV)
【0011】
(2)走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型XX線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M1およびM2が検出されないことを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0012】
(3)M3(ただし、M3は、2族、12族、および13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0013】
(4)前記M3が、B、Mg、Zn、Al、Ga、およびInから選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする(3)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0014】
(5)誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M3の含有量をCM3(モル%)としたときに、CM3が0.01以上1.0以下であることを特徴とする(3)または(4)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0015】
(6)前記CM3と前記CM1との比CM3/CM1(モル%/モル%)が0.3以上30以下であり、前記CM3と前記CM2との比CM3/CM2(モル%/モル%)が0.3以上30以下であることを特徴とする(5)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0016】
(7)前記M3がAlであることを特徴とする(3)~(6)までのいずれか一項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0017】
(8)(1)~(7)までのいずれか一項に記載の、蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末を含む活物質材料。
【0018】
(9)(8)に記載の活物質材料を含むことを特徴とする、蓄電デバイスの電極シート。
【0019】
(10)(8)に記載の活物質材料を用いることを特徴とする蓄電デバイス。
【0020】
(11)(8)に記載の活物質材料を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【0021】
(12)(8)に記載の活物質材料を用いることを特徴とするハイブリッドキャパシタ。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生が抑制された蓄電デバイスの電極材料として好適なチタン酸リチウム粉末、およびこのチタン酸リチウム粉末を用いた活物質材料、それらを含む電極シート、並びにこの活物質材料が用いられた蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[本発明のチタン酸リチウム粉末]
LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、BET法によって求める比表面積が4m/g以上であり、M1(M1は、MoおよびWから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)およびM2(M2は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)を同時に含有し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1、M2の含有量をそれぞれCM1(モル%)、CM2(モル%)としたときに、前記CM1が0.01以上0.9以下であり、前記CM2が0.01以上0.9以下であり、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をD1a(atm%)、前記M2の元素濃度をD2a(atm%)、チタンの原子濃度をDti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をD1b(atm%)、前記M2の元素濃度をD2b(atm%)とすると、下記式(I)から(IV)を満たすことを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末である。
D1a>D1b (I)
D2a>D2b (II)
0.05≦D1a/Dti (III)
0.05≦D2a/Dti (IV)
【0024】
<LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末>
本発明のチタン酸リチウム粉末はLiTi12を主成分とし、本発明の効果が得られる範囲で、LiTi12以外の結晶質成分および/または非晶質成分を含むことができる。本発明のチタン酸リチウム粉末は、X線回折法によって測定される回折ピークのうち、LiTi12のメインピークの強度と、LiTi12以外の結晶質成分に起因するメインピークの強度と、非晶質成分に起因するハローパターンの最高強度との総和に対するLiTi12のメインピークの強度の割合が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末は、その合成時の原料に起因して、アナターゼ型二酸化チタンおよびルチル型二酸化チタン、化学式が異なるチタン酸リチウムであるLiTiOを前記結晶質成分として含むことがある。本発明のチタン酸リチウム粉末は、これらのLiTi12以外の結晶質成分の割合が少ないほど、蓄電デバイスの充電レート特性および充放電容量がさらに向上するので、X線回折法によって測定される回折ピークのうち、LiTi12のメインピークの強度を100としたときに、アナターゼ型二酸化チタンのメインピークの強度と、ルチル型二酸化チタンのメインピーク強度と、LiTiOの(-133)面相当のピーク強度に100/80を乗じて算出したLiTiOのメインピークに相当する強度との総和が5以下であることが特に好ましい。ここで、LiTi12のメインピークとは、ICDD(PDF2010)のPDFカード00-049-0207におけるLiTi12の(111)面(2θ=18.33)に帰属する回折ピークに相当するピークである。アナターゼ型二酸化チタンのメインピークとはPDFカード01-070-6826における(101)面(2θ=25.42)に帰属する回折ピークに相当するピークである。ルチル型二酸化チタンのメインピークとはPDFカード01-070-7347における(110)面(2θ=27.44)に帰属する回折ピークに相当するピークである。LiTiOの(-133)面に相当するピークとはPDFカード00-033-0831におけるLiTiOの(-133)面(2θ=43.58)に帰属する回折ピークに相当するピークであり、LiTiOのメインピークとは(002)面に相当するピークである。なお、「ICDD」は、International Centre for Diffraction Data(国際回折データセンター)の略であり、「PDF」は、Powder Diffraction File(粉末回折ファイル)の略である。
【0025】
<比表面積>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、BET法によって求める比表面積が4m/g以上である。比表面積が4m/g以上であれば、蓄電デバイスの充放電容量や充電レート特性が急激に低下する恐れが無い。比表面積は好ましくは5.1m/g以上であり、より好ましくは5.3m/g以上である。比表面積の上限は、特に限定されないが、好ましくは40m/g以下であり、より好ましくは15m/g以下であり、さらに好ましくは10m/g以下である。
【0026】
<M1およびM2の含有>
本発明のチタン酸リチウム粉末はM1(M1は、MoおよびWから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)およびM2(M2は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)を同時に含有する。M1およびM2を同時に含有するとは、本発明のチタン酸リチウム粉末の誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)において、金属元素M1の少なくとも一種と金属元素M2の少なくとも一種の両方が検出されることをいう。M2にはM1の作用を補助する効果があるため、M1とM2を同時に含有することで、チタン酸リチウム粉末表面と電解液との間で発生する電気化学的な副反応を、M1またはM2を単独で含有する場合と比較して、さらに抑制することができる。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、0.001質量%である。
【0027】
本発明のチタン酸リチウム粉末の前記M1およびM2の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)から求めた前記M1およびM2の含有量をそれぞれCM1(モル%)、CM2(モル%)としたとき、CM1、CM2が0.01以上0.9以下である。前記M1およびM2の含有量がこの範囲であれば、蓄電デバイスに適用した際、充放電容量が高く、高温動作時のガス発生を抑制した蓄電デバイスが得られる。前記M1およびM2の含有量CM1、CM2は、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、0.02以上が好ましく、より好ましくは0.05以上である。また、前記M1およびM2の含有量CM1、CM2は、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、0.5以下が好ましく、より好ましくは0.3以下である。なお、含有量CM1、CM2は、それぞれ独立に設定することができ、これらは同じ量であってもよいし、異なる量であってもよい。
【0028】
前記M1およびM2は、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の内部領域よりも、表面領域の方に多く含有される。走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の原子濃度をD1a(atm%)、前記M2の原子濃度をD2a(atm%)、チタンの原子濃度をDti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の原子濃度をD1b(atm%)、前記M2の原子濃度をD2b(atm%)とすると、下記式(I)から(IV)を満たす。
D1a>D1b (I)
D2a>D2b (II)
0.05≦D1a/Dti (III)
0.05≦D2a/Dti (IV)
【0029】
本発明においては、D1a/DtiおよびD2a/Dtiは、0.05≦D1a/Dtiおよび0.05≦D2a/Dtiを満たすものであればよいが、D1a/Dtiは、好ましくは、0.05≦D1a/Dti≦10であり、より好ましくは、0.05≦D1a/Dti≦5であり、さらに好ましくは0.05≦D1a/Dti≦2である。また、D2a/Dtiは、好ましくは、0.05≦D2a/Dti≦10であり、より好ましくは、0.05≦D2a/Dti≦5であり、さらに好ましくは0.05≦D2a/Dti≦2である。
【0030】
なお、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1、M2およびチタンの原子濃度D1a、D2a、Dti(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。同様に、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1、M2の原子濃度D1b、D2b(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。本発明においては、チタン酸リチウム粒子の表面における、前記M1、M2およびチタンの原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の状態を適切に測定できるという観点より)、1nmの深さ位置において、D1a、D2aおよびDtiを測定するものであり、また、チタン酸リチウム粒子内部における、前記M1、M2の原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の影響を受けない内部の状態を適切に測定できるという観点より)、表面から100nmの深さ位置において、D1b、D2bを測定するものである。
【0031】
本発明のチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M1およびM2が検出されないことが好ましい。本発明において、「前記M1およびM2が検出されない」とは、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量の下限以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。すなわち、本発明においては、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置における、前記M1およびM2の元素濃度が、全元素を金属元素のみに限定した場合、検出量の下限である0.5atm%以下であることが好ましい。
【0032】
<元素M3の含有>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、異種元素として、M3(ただし、Mは2族、12族、および13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有することが好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末は、前記M3を前記M1およびM2と共に含有することで、ガス抑制効果がさらに高まり、かつ充電負荷特性が向上するからである。前記M3としては、特に、B、Mg、Zn、Al、Ga、およびInから選ばれる少なくとも一種の元素であることがより好ましい。さらには、前記M3がAlであることがより好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末において、前記M3を前記M1およびM2と共に含有することで、ガス抑制効果がさらに高まり、かつ充電負荷特性が向上するのは、表面処理工程時に前記M1およびM2よりもチタン酸リチウム粒子内部に拡散しやすい前記M3を含有することで、前記M1およびM2が表面付近に局在しやすくなり、加えてチタン酸リチウム粉末の表面の電子伝導性が調整され、M1およびM2の二種のみを含有する場合と比較して、電気抵抗を抑制できるためだと推測される。
【0033】
前記M3の含有量としては、誘導結合プラズマ発光分析により測定される前記M3の含有量をCM3(モル%)としたときに、ガス抑制効果をさらに高め、充電負荷特性を向上する観点からは、CM3が0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.03以上であり、さらに好ましくは0.1以上である。蓄電デバイスの充放電容量を大きくする観点からは、CM3が1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.6以下である。
【0034】
<CM3とCM1およびCM2との比CM3/CM1、CM3/CM2(モル%/モル%)>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、ガス抑制効果をさらに高め、充電負荷特性を向上する観点からは、前記CM3と前記CM1および前記CM2との比CM3/CM1(モル%/モル%)、CM3/CM2(モル%/モル%)がそれぞれ0.3以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1.0以上である。蓄電デバイスの充放電容量を大きくする観点からは、CM3/CM1(モル%/モル%)、CM3/CM2(モル%/モル%)がそれぞれ30以下であることが好ましく、より好ましくは20以下であり、さらに好ましくは15以下である。なお、CM3/CM1、CM3/CM2は、それぞれ独立に設定することができ、これらは同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0035】
前記M3は、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の内部領域よりも、表面領域の方に多く含有されることが好ましい。走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmおよび100nmの深さ位置における、前記M3の原子濃度をそれぞれD3a(atm%)およびD3b(atm%)とすると、下記式(V)から(VI)を満たすことが好ましい(Dti(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、チタンの原子濃度である)。
D3a>D3b (V)
0.05≦D3a/Dti (VI)
【0036】
本発明においては、D3a/Dtiは、0.05≦D3a/Dtiを満たすものであることが好ましく、より好ましくは、0.05≦D3a/Dti≦10であり、さらに好ましくは、0.05≦D3a/Dti≦5であり、特に好ましくは0.05≦D3a/Dti≦2である。
【0037】
なお、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M3の原子濃度D3a(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。同様に、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M3の原子濃度D3b(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。本発明においては、チタン酸リチウム粒子の表面における、前記M3およびチタンの原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の状態を適切に測定できるという観点より)、1nmの深さ位置において、D3aおよびDtiを測定するものであり、また、チタン酸リチウム粒子内部における、前記M3の原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の影響を受けない内部の状態を適切に測定できるという観点より)、100nmの深さ位置において、D3bを測定するものである。
【0038】
本発明のチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M3が検出されないことが好ましい。本発明において、「前記M3が検出されない」とは、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量の下限以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。すなわち、本発明においては、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置における、前記M3の元素濃度が、全元素を金属元素のみに限定した場合、検出量の下限である0.5atm%以下であることが好ましい。
【0039】
<水分量>
本発明のチタン酸リチウム粉末のカールフィッシャー法により測定される水分量は、5000ppm以下であることが好ましい。5000ppm以下であれば、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、電極塗工時のハンドリング性が良好であるため好ましい。蓄電デバイスの高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点から、カールフィッシャー法により測定される水分量は、1000ppm以下がさらに好ましく、600ppm以下が特に好ましい。なお、カールフィッシャー法により測定される水分量の下限は、特に限定されず、場合によっては、測定装置の検出限界以下となる場合(実質的に0ppmであると判断できる場合)もある。
【0040】
特許文献1および特許文献2の明細書記載の製造方法では、チタン酸リチウム粒子全体に、均一な濃度で特定の元素がドーピングされる。一方で、本発明のようにチタン酸リチウム粒子の表面と内部とで前記M1およびM2の濃度に勾配があり、表面の前記M1、M2濃度が高い状態、好ましくは内部(たとえば、チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置)に前記M1およびM2が存在しない状態であれば、蓄電デバイスの充放電容量を損なうことなく、高温動作時のガス発生が抑制された蓄電デバイスが得られる。
【0041】
高温動作時のガス発生が抑制される理由としては、定かではないが、チタン酸リチウム粒子表面と電解液との界面近傍に前記M1が存在することで、前記M1が粒子表面近傍で発生した有機系ガスを効率的に他の物質に変換させ、全体のガス量を抑制できると考えられる。加えて、チタン酸リチウム粒子表面近傍に局在したM1拡散層が形成されることにより、電解液の分解の原因となる、LiTi12の活性点を保護するため、電解液の分解による有機系のガス発生をさらに抑制していると考えられる。
【0042】
加えて、M2がM1と共存することにより、M1またはM2がそれぞれ単独で存在する場合と比較して、チタン酸リチウム粉末表面と電解液との間で発生する電気化学的な副反応を、さらに抑制することができる。M1およびM2を原料調製工程において添加することにより、M1を固溶させた比較例5のチタン酸リチウム粉末は、M1とM2を同時に含有するにもかかわらず、電解液の分解による有機系のガス発生を抑制する効果が小さい。このことから、本発明の表面処理工程によれば、イオン半径が大きくチタン酸リチウム粉末内部に固溶しないM2が、チタン酸リチウムよりも優先的にM1と化合物を形成し、M1を表面に局在化させることができるため、電解液の分解による有機系のガス発生をさらに抑制していると考えられる。
【0043】
[本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法]
以下に、本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法の一例を、原料の調製工程、焼成工程、および表面処理工程に分けて説明するが、本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0044】
<原料の調製工程>
本発明のチタン酸リチウム粉末の原料は、チタン原料およびリチウム原料からなる。チタン原料としては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン等のチタン化合物が用いられる。短時間でリチウム原料と反応し易いことが好ましく、その観点で、アナターゼ型二酸化チタンが好ましい。短時間の焼成で原料を十分に反応させるためには、チタン原料の体積中位粒径(平均粒径、D50)は2μm以下が好ましい。
【0045】
リチウム原料としては、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物が用いられる。
【0046】
本発明においては、以上の原料からなる混合物を短時間で焼成する場合は、焼成前に混合物を構成する混合粉末を、レーザ回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が5μm以下になるように調製することが好ましい。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。
【0047】
混合物の調製方法としては、次に挙げる方法を採用することができる。第一の方法は、原料を調合後、混合と同時に粉砕を行う方法である。第二の方法は、各原料を混合後のD95が5μm以下になるまで粉砕した後、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。第三の方法は、各原料を晶析などの方法によって微粒子からなる粉末を製造し、必要に応じて分級して、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。なかでも、第一の方法において、原料の混合と同時に粉砕を行う方法は、工程が少ない方法なので工業的に有利な方法である。また、同時に導電剤を添加しても良い。
【0048】
第一から第三のいずれの方法においても、原料の混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることが出来る。
【0049】
得られた混合物が混合粉末である場合は、そのまま次の焼成工程に供することができる。混合粉末からなる混合スラリーである場合は、混合スラリーをロータリーエバポレーターなどによって乾燥した後に次の焼成工程に供することができる。焼成がロータリーキルン炉を用いて行われる場合は、混合スラリーのまま炉内に供することができる。
【0050】
<焼成工程>
次いで、得られた混合物を焼成する。焼成により得られる粉末の比表面積を大きく、かつ結晶子径を大きくする観点からは、高温かつ短時間で焼成することが好ましい。特定の不純物相の割合を少なく、かつチタン酸リチウムの結晶性を高くする観点から、焼成時の最高温度は、好ましくは800℃以上であり、より好ましくは810℃以上である。焼成時の最高温度は、好ましくは1000℃以下であり、より好ましくは950℃以下であり、さらに好ましくは900℃以下である。焼成時の最高温度での保持時間は、好ましくは2~60分であり、より好ましくは5~45分であり、さらに好ましくは5~30分である。焼成時の最高温度が高い時には、より短い保持時間を選択することが好ましい。同様に、焼成により得られる結晶子径を大きくする観点から、焼成時の昇温過程においては、700~800℃の滞留時間を特に短くすることが好ましく、例えば15分以内が好ましい。
【0051】
このような条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成方法としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。匣鉢に混合物を収容して焼成するローラーハース式焼成炉、またはメッシュベルト式焼成炉を用いる場合は、焼成時の混合物の温度分布の均一性を確保して得られるチタン酸リチウムの品質を一定にするためには、匣鉢への混合物の収容量を少量にすることが好ましい。
【0052】
ロータリーキルン式焼成炉は、混合物を収容する容器が不要で、連続的に混合物を投入しながら焼成が出来る点、被焼成物への熱履歴が均一で、均質なチタン酸リチウムを得ることが出来る点から、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造するには特に好ましい焼成炉である。
【0053】
焼成時の雰囲気は、脱離した水分や炭酸ガスが排除できる雰囲気であれば、焼成炉に関わらず特に限定されるものではない。通常は、圧縮空気を用いた空気雰囲気とするが、酸素、窒素、または水素雰囲気などでも良い。
【0054】
焼成後のチタン酸リチウム粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、焼成後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。粉砕を行わず、凝集を解す程度の解砕を行うだけであれば、その後でも、焼成後のチタン酸リチウム粉末の高い結晶性が維持される。
【0055】
<表面処理工程>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、前記M1および前記M2を含有するチタン酸リチウム粉末であり、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に充放電容量の向上効果、高温動作時のガス発生の抑制効果を付与することができる。前記焼成工程で前記M1を含有する化合物(以下、処理剤1と記すことがある)および前記M2を含有する化合物(以下、処理剤2と記すことがある)を加えて、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造することができるが、より好ましくは、次のような表面処理工程などで、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造することができる。
【0056】
以上の工程により得られた、表面処理前のチタン酸リチウム粉末(以下、基材のチタン酸リチウム粉末と記すことがある。また、以下、基材のチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子を基材のチタン酸リチウム粒子と記すことがある)を、処理剤1および処理剤2と混合して、好ましくは熱処理する。
【0057】
前記M1を含有する化合物(処理剤1)としては、特に限定されないが、例えば、前記M1の酸化物、前記M1の水酸化物、前記M1の硫酸化合物、前記M1の硝酸化合物、前記M1のフッ化物、前記M1の有機化合物、および前記M1を含有する金属塩化合物が挙げられる。前記M1がモリブデン(Mo)の場合、酸化モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、ほう化モリブデン、りんモリブデン酸、二けい化モリブデン、塩化モリブデン、硫化モリブデン、けいモリブデン酸水和物、炭化モリブデン、酢酸モリブデン二量体、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸などが挙げられ、前記M1がタングステン(W)の場合、酸化タングステン、三酸化タングステン、三酸化タングステン水和物、ほう化タングステン、りんタングステン酸、二けい化タングステン、塩化タングステン、硫化タングステン、けいタングステン酸水和物、炭化タングステン、酢酸タングステン二量体、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸マンガン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸などが挙げられる。前記M1をチタン酸リチウム粉末の粒子表面に均一に拡散させるためには、後述の湿式法を用いるのが適しており、その場合は、溶媒に可溶な前記M1を含有する化合物を、その溶媒に溶解させて、基材のチタン酸リチウム粉末と混合することが好ましい。ガス発生を抑制する点で、前記M1を含有するリチウム酸化物が好ましい。
【0058】
前記M1を含有する化合物(処理剤1)の添加量は、チタン酸リチウム粉末中の前記M1の量が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、例えば処理剤1にモリブデン酸リチウム(LiMoO)を用いた場合、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤1が0.2質量%以上の割合で添加することが好ましく、より好ましくは0.4質量%以上の割合であり、さらに好ましくは0.9質量%以上の割合であり、特に好ましくは2.5質量%以上の割合である。また、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤1が5.0質量%以下の割合で添加することが好ましい。また、例えば処理剤1にタングステン酸リチウム(LiWO)を用いた場合、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤1が0.3質量%以上の割合で添加することが好ましく、より好ましくは0.6質量%以上の割合であり、さらに好ましくは1.4質量%以上の割合であり、特に好ましくは3.5質量%以上の割合である。また、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤1が7.0質量%以下の割合で添加することが好ましい。
【0059】
前記M2を含有する化合物(処理剤2)としては、特に限定されないが、例えば、前記M2の酸化物、前記M2の水酸化物、前記M2の硫酸化合物、前記M2の硝酸化合物、前記M2のフッ化物、前記M2の有機化合物、および前記M2を含有する金属塩化合物が挙げられる。前記M2をチタン酸リチウム粉末の粒子表面に均一に拡散させるためには、後述の湿式法を用いるのが適しており、その場合は、溶媒に可溶な前記M2を含有する化合物を、その溶媒に溶解させて、基材のチタン酸リチウム粉末と混合することが好ましい。ガス発生を抑制する点で、前記M2を含有する硫酸化合物およびその水和物が好ましい。
【0060】
前記M2がセリウム(Ce)の場合は、Ceを含有する化合物として、例えば、酸化セリウム、水酸化セリウム、フッ化セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム、しゅう酸セリウム、塩化セリウム、ホウ化セリウム、りん酸セリウムなどが挙げられる。なかでも、硫酸セリウムおよびその水和物が好ましい。
【0061】
前記M2を含有する化合物(処理剤2)の添加量は、チタン酸リチウム粉末中の前記M2の量が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、例えば、硫酸Ce・n水和物(n=0.5~6.0)を用いた場合は、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して0.25質量%以上の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは0.8質量%以上の割合であり、特に好ましくは1.5質量%以上の割合である。また、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して13質量%以下の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下の割合であり、特に好ましくは5質量%以下の割合である。
【0062】
本発明のチタン酸リチウム粉末では、さらに前記M3を含有することができる。前記M3を含有する場合には、基材のチタン酸リチウム粉末に、前記M1を含有する化合物(処理剤1)と前記M2を含有する化合物(処理剤2)とさらに前記M3を含有する化合物(以下、処理剤3と記すことがある)を混合して熱処理する。または、処理剤1と処理剤2とを混合して熱処理した後、処理剤3と混合して熱処理しても良い。または処理剤3と混合して熱処理した後、処理剤1と処理剤2とを混合して熱処理しても良い。
【0063】
前記M3を含有する化合物(処理剤3)としては、熱処理によって拡散する化合物なら、どのような化合物でも良く、たとえば、前記M3の酸化物、前記M3の水酸化物、前記M3の硫酸化合物、前記M3の硝酸化合物、前記M3のフッ化物、前記M3の有機化合物、および前記M3を含有する金属塩化合物が挙げられる。前記M3をチタン酸リチウム粉末の粒子表面に均一に拡散させるためには、後述の湿式法を用いるのが適しており、その場合は、溶媒に可溶な前記M3を含有する化合物を、その溶媒に溶解させて、基材のチタン酸リチウム粉末と混合することが好ましい。ガス発生を抑制する点で、前記M3を含有する硫酸化合物や前記M3を含有するフッ化物が好ましい。
【0064】
前記M3がアルミニウム(Al)の場合は、Alを含有する化合物として、例えば、酢酸アルミニウム、フッ化アルミニウムあるいは硫酸アルミニウムなどが挙げられる。なかでも、硫酸アルミニウムおよびその水和物、フッ化アルミニウムが好ましい。
【0065】
前記M3を含有する化合物(処理剤3)の添加量としては、チタン酸リチウム粉末中の前記M2の量が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、例えば、硫酸アルミニウム・14~18水和物(Al(SO・14~18HO)を用いた場合は、基材のチタン酸リチウム粉末に対して0.3質量%以上の割合で添加することが好ましい。また、基材のチタン酸リチウム粉末に対して12質量%以下の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下の割合であり、特に好ましくは8質量%以下の割合である。また、さらに好適な前記M3を含有する化合物(処理剤3)の添加量の割合は、前記M1を含有する化合物(処理剤1)と前記M2を含有する化合物(処理剤2)の関係で決定される。
【0066】
基材のチタン酸リチウム粉末と前記M1を含有する化合物(処理剤1)、前記M2を含有する化合物(処理剤2)、さらには前記M3を含有する化合物(処理剤3)との混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法も採用することができるが、基材のチタン酸リチウム粒子の表面に前記M1を含有する化合物(処理剤1)と前記M2を含有する化合物(処理剤2)、あるいはさらに前記M3を含有する化合物(処理剤3)を均一に分散させることが好ましく、その点においては湿式混合が好ましい。
【0067】
乾式混合としては、例えば、ペイントミキサー、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることが出来る。
【0068】
湿式混合としては、水またはアルコール溶媒中に処理剤1、処理剤2、あるいはさらに処理剤3と基材のチタン酸リチウム粉末を投入し、スラリー状態で混合させる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど沸点が100℃以下のものが溶媒除去しやすい点で好ましい。また、回収、廃棄のしやすさから、工業的には水溶媒が好ましい。
【0069】
溶媒量としては、処理剤1と処理剤2と、あるいはさらに処理剤3と基材のチタン酸リチウム粒子が十分に濡れた状態になる量ならば問題はないが、処理剤1と処理剤2と、あるいはさらに処理剤3と基材のチタン酸リチウム粒子は、溶媒中で均一に分散していることが好ましく、そのためには、溶媒中に溶解する、処理剤1、処理剤2、あるいはさらに処理剤3の溶解量が処理剤1、処理剤2、あるいはさらに処理剤3の溶媒への全投入量の50%以上になる溶媒量が好ましい。処理剤1、処理剤2や処理剤3の、溶媒への溶解量は温度が高いほど多くなることから、基材のチタン酸リチウム粉末と処理剤1、処理剤2、あるいはさらに処理剤3との溶媒中での混合は、加温しながら行うことが好ましく、また加温することで溶媒量も減量できるので、加温しながら混合する方法は、工業的に適した方法である。混合時の温度としては、40~100℃が好ましく、60~100℃がより好ましい。
【0070】
湿式混合の場合は、熱処理方法にもよるが、混合工程の後に行う熱処理の前に溶媒を除去することが好ましい。溶媒の除去は、溶媒を蒸発乾固させることで行うことが好ましく、溶媒を蒸発乾固させる方法としては、スラリーを撹拌羽で撹拌しながら加熱し蒸発させる方法、コニカルドライヤーなど撹拌させながら乾燥が可能な乾燥装置を用いる方法およびスプレードライヤーを用いる方法が挙げられる。熱処理が、ロータリーキルン炉を用いて行われる場合は、混合した原料をスラリーのまま炉内に供することができる。
【0071】
基材のチタン酸リチウム粉末と処理剤1と処理剤2と、あるいはさらに処理剤3と混合後には熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度としては、前記M1と前記M2と、あるいはさらに前記M3が、基材のチタン酸リチウム粒子の、少なくとも表面領域に拡散する温度であって、基材のチタン酸リチウムが焼結することによる、比表面積の大幅な減少が発生しない温度が良い。熱処理温度の上限値としては700℃以下が好ましく、より好ましくは600℃以下である。熱処理温度の下限値としては、300℃以上が好ましく、より好ましくは400℃以上である。熱処理時間としては、好ましくは0.5~8時間であり、より好ましくは1~5時間である。前記M1、M2およびM3が、基材のチタン酸リチウム粒子の、少なくとも表面領域に拡散する温度および時間は、前記M1、M2およびM3を含有する化合物によって反応性が異なるため、適宜設定するのが良い。
【0072】
熱処理における加熱方法は特に限定されるものではない。利用できる熱処理炉としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉などが挙げられる。熱処理時の雰囲気としては、大気雰囲気でも、窒素雰囲気などの不活性雰囲気のどちらでも良い。前記M1、M2およびM3を含有する化合物(処理剤3)として前記M1、M2およびM3を含有する金属塩化合物を用いた場合は、粒子表面からアニオン種が除去されやすい大気雰囲気が好ましい。
【0073】
以上のようにして得られた熱処理後のチタン酸リチウム粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、熱処理後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。
【0074】
本発明のチタン酸リチウム粉末は、表面処理工程で処理剤と混合した後に造粒して熱処理を行い、一次粒子が集合した二次粒子を含む粉末にしても良い。造粒は二次粒子ができるのであれば、どのような方法でも良いが、スプレードライヤーが大量に処理できるため好ましい。
【0075】
本発明のチタン酸リチウム粉末に含まれる水分量を低減させるために、熱処理工程で露点管理を行っても良い。熱処理後の粉末は、そのまま大気に晒すと粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理炉内での冷却時と熱処理後は、露点管理された環境下で粉末を扱うことが好ましい。熱処理後の粉末は、粒子を所望の最大粒径の範囲にするために必要に応じて分級を行っても良い。熱処理工程で露点管理をする場合は、本発明のチタン酸リチウム粉末をアルミラミネート袋などで密閉した後に露点管理外の環境下に出すことが好ましい。露点管理下においても、熱処理後のチタン酸リチウム粉末の粉砕を行うと破砕面から水分を取り込みやすくなり、粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理を行った場合には粉砕を行わないことが好ましい。
【0076】
[活物質材料]
本発明の活物質材料は、本発明のチタン酸リチウム粉末を含むものである。本発明のチタン酸リチウム粉末以外の物質を一種又は二種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物が使用される。
【0077】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、本発明の活物質材料を含む電極を備え、このような電極へのリチウムイオンのインターカレーション、脱インターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスであって、例えば、ハイブリッドキャパシタやリチウム電池などが挙げられる。
【0078】
[ハイブリッドキャパシタ]
前記ハイブリッドキャパシタとしては、正極に、活性炭など電気二重層キャパシタの電極材料と同様の物理的な吸着によって容量が形成される活物質や、グラファイトなど物理的な吸着とインターカレーション、脱インターカレーションによって容量が形成される活物質や、導電性高分子などレドックスにより容量が形成される活物質を使用し、負極に本発明の活物質材料を使用するデバイスである。本発明の活物質材料は、通常、前記ハイブリッドキャパシタの電極シートの形態にて用いられる。
【0079】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池およびリチウム二次電池を総称する。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0080】
前記リチウム電池は、正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液等により構成されているが、本発明の活物質材料は電極材料として用いることができる。本発明の活物質材料は、通常、前記リチウム電池の電極シートの形態にて用いられる。この活物質材料は、正極活物質および負極活物質のいずれとして用いてもよいが、以下には負極活物質として用いた場合を説明する。
【0081】
<負極>
負極は、負極集電体の片面または両面に、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を含む合剤層を有する。この合剤層は、通常、電極シートの形態とされる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、空孔中に負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤、結着剤を含む合剤層を有する。
【0082】
前記負極用の導電剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類とカーボンナノチューブ類を適宜混合して用いてもよい。特に限定されることはないが、カーボンブラック類の比表面積は好ましくは30~3000m/gであり、さらに好ましくは50~2000m/gである。また、グラファイト類の比表面積は、好ましくは30~600m/gであり、さらに好ましくは50~500m/gである。また、カーボンナノチューブ類のアスペクト比は、2~150であり、好ましくは2~100、より好ましくは2~50である。
【0083】
導電剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、合剤層中に、好ましくは0.1~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。0.1質量%未満では、合剤層の導電性が確保できなくなり、10質量%超では、活物質比率が減少し、合剤層の単位質量および単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量が不十分になるため高容量化に適さない。
【0084】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。特に限定されることはないが、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、好ましくは2万~20万である。合剤層の結着性を確保する観点から、2.5万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましい。活物質と導電剤との接触を妨げずに導電性が確保する観点から、15万以下であることが好ましい。特に活物質の比表面積が10m/g以上の場合には、分子量は10万以上であることが好ましい。
【0085】
前記結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、合剤層中に、好ましくは0.2~15質量%である。結着性を高め合剤層の強度を確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。活物質比率が減少し、合剤層の単位質量および単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量を低減させない観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0086】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、前記負極集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。前記負極集電体の形態として、多孔質アルミニウムが好ましい。前記多孔質アルミニウムの空孔率は80%以上、95%以下であり、好ましくは85%以上である。
【0087】
前記負極の作製方法としては、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶媒中に均一に混合し塗料化した後、前記負極集電体上に塗布し、乾燥、圧縮することによって得ることができる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶剤中に均一に混合した塗料を集電体の空孔に圧入して充填、または前記塗料中に空孔を有する集電体を浸潰し空孔中に拡散した後に、乾燥、圧縮することによって得ることができる。
【0088】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶媒中に均一に混合し塗料化する方法としては、例えば、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置、ビーズミル、高速旋回型ミキサ、粉体吸引連続溶解分散装置などを用いることができる。また、製造工程として、固形分濃度によって工程を分け、これらの装置を使い分けてもよい。
【0089】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶剤中に均一に混合するには、活物質の比表面積、導電剤の種類、結着剤の種類やこれらの組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置などを用いる場合には、製造工程として固形分濃度によって工程を分け、固形分濃度が高い状態で混練した後、徐々に固形分濃度を下げ塗料の粘度を調整するのが好ましい。固形分濃度が高い状態としては、好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは70~90質量%である。60質量%未満では、せん断力が得られず、90質量%超では装置の負荷が大きくなるため適さない。
【0090】
混合手順としては、特に限定されることはないが、負極活物質と導電剤と結着剤を同時に溶媒中で混合する方法、導電剤と結着剤をあらかじめ溶媒中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法、負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法などが挙げられる。これらの中でも均一に分散させるには、導電剤と結着剤をあらかじめ溶媒中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法および負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法が好ましい。
【0091】
溶媒としては、有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなど非プロトン性有機溶媒を単独、または2種類以上混合したものが挙げられ、好ましくは1-メチル-2-ピロリドンである。
【0092】
溶媒に有機溶媒を用いる場合には、結着剤をあらかじめ有機溶媒に溶解させて使用するのが好ましい。
【0093】
<正極>
正極は、正極集電体の片面または両面に、正極活物質、導電剤および結着剤を含む合剤層を有する。
【0094】
前記正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が使用され、例えば、活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物やリチウム含有オリビン型リン酸塩などが挙げられ、これらの正極活物質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2等が挙げられ、これらのリチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも一種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、あるいは、これらの他元素を含有する化合物を被覆することができる。リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、LiFe1-xMxPO(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、およびCdから選ばれる少なくとも一種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。
【0095】
前記正極用の導電剤および結着剤としては、負極と同様のものが挙げられる。前記正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により正極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。
【0096】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に電解質塩を溶解させたものである。この非水電解液には特に制限は無く、種々のものを用いることができる。
【0097】
前記電解質塩としては、非水溶媒に溶解するものが用いられ、例えば、LiPF、LiBF、LiPO、LiN(SOF)、LiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-C、LiPF(iso-C)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF、LiBF、LiPO、およびLiN(SOF)であり、最も好ましい電解質塩はLiPFである。これらの電解質塩は、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの電解質塩の好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、さらにLiBF、LiPO、およびLiN(SOF)から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましい。
【0098】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上がさらに好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0099】
一方、前記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、S=O結合含有化合物等が挙げられ、環状カーボネートを含むことが好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネートおよび鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0100】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、および4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種以上が、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生を抑制する観点からより好ましく、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネートおよび2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上がさらに好ましい。全環状カーボネート中のアルキレン鎖を有する環状カーボネートの割合が55体積%~100体積%であることが好ましく、60体積%~90体積%であることがさらに好ましい。
【0101】
したがって、前記非水電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オンから選ばれる一種以上の環状カーボネートを含む非水溶媒に、LiPF、LiBF、LiPO、およびLiN(SOF)から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩を含む電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましく、前記環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネートおよび2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上がさらに好ましい。
【0102】
また、特に、全電解質塩の濃度が0.5M以上2.0M以下であり、前記電解質塩として、少なくともLiPFを含み、さらに0.001M以上1M以下のLiBF、LiPO、およびLiN(SOF)から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が含まれる非水電解液を用いることが好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合が0.001M以上であると、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が発揮されやすく、1.0M以下であると蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が低下する懸念が少ないので好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.8M以下、さらに好ましくは0.6M以下、特に好ましくは0.4M以下である。
【0103】
また、前記非水溶媒は、適切な物性を達成するために、混合して使用されることが好ましい。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとニトリルとの組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネートとS=O結合含有化合物との組合せ等が挙げられる。
【0104】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、およびエチルプロピルカーボネートから選ばれる一種又は二種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、およびジブチルカーボネートから選ばれる一種又は二種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、および酢酸エチル(EA)から選ばれる一種又は二種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0105】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチルおよび酢酸エチル(EA)から選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0106】
また、鎖状カーボネートを用いる場合には、二種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有量が非対称鎖状カーボネートより多く含まれるとさらに好ましい。
【0107】
鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60~90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0108】
鎖状カーボネート中に対称鎖状カーボネートが占める体積の割合は、51体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。その上限としては、95体積%以下がより好ましく、85体積%以下であるとさらに好ましい。対称鎖状カーボネートにジメチルカーボネートが含まれると特に好ましい。また、非対称鎖状カーボネートはメチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。上記の場合に蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が向上するので好ましい。
【0109】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果を高める観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90~45:55が好ましく、15:85~40:60がより好ましく、20:80~35:65が特に好ましい。
【0110】
<リチウム電池の構造>
本発明のリチウム電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを有するコイン電池、さらに、正極、負極およびロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池等が一例として挙げられる。
【0111】
前記セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース紙、ガラス繊維紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド微多孔膜などが挙げられ、二種以上を組み合わせて構成された多層膜としたものも用いることができる。またこれらのセパレータ表面にPVDF、シリコン樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウムなどの金属酸化物の粒子などをコーティングすることもできる。前記セパレータの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01~10μmである。前記セパレータの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5~300μmである。
【実施例
【0112】
次に、実施例および比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。以下に記載の実施例、比較例および参考例の製造条件を表1にまとめて記載する。
【0113】
【表1】
【0114】
[実施例1]
<原料調製工程>
Tiに対するLiの原子比Li/Tiが0.83になるように、LiCO(平均粒径:4.6μm)とアナターゼ型TiO(比表面積:10m/g)を秤量して得た原料粉末に、スラリーの固形分濃度が40質量%となるようにイオン交換水を加えて撹拌し原料混合スラリーを作製した。この原料混合スラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD-20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア)を使用して、ジルコニア製のビーズ(外径:0.65mm)をベッセルに80体積%充填し、アジテーター周速13m/s、スラリーフィード速度55kg/hrで、ベッセル内圧が0.02~0.03MPa以下になるように制御しながら処理して、原料粉末を湿式混合・粉砕した。
【0115】
<焼成工程>
得られた混合スラリーを、付着防止機構を備えたロータリーキルン式焼成炉(炉芯管長さ:4m、炉芯管直径:30cm、外部加熱式)を用い、焼成炉の原料供給側から炉心管内に導入し、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成した。このときの、炉心管の水平方向からの傾斜角度を2度、炉心管の回転速度を20rpm、焼成物回収側から炉心管内に導入する窒素の流速を20L/分として、炉心管の加熱温度を、原料供給側:900℃、中央部:900℃、焼成物回収側:900℃とし、焼成物の900℃での保持時間を30分とした。
【0116】
<解砕工程>
炉心管の焼成物回収側から回収した焼成物を、ハンマーミル(ダルトン製、AIIW-5型)を使用して、スクリーン目開き:0.5mm、回転数:8,000rpm、粉体フィード速度:25kg/hrの条件で解砕した。
【0117】
<表面処理工程>
処理剤1としてのタングステン酸リチウム(LiWO)を解砕した焼成粉末に対して1.37質量%になるように、また、処理剤2としての硫酸セリウム六水和物(Ce(SO・6HO)を解砕した焼成粉末に対して1.75質量%になるように、それぞれ予め水溶液とした。最終的なスラリーの固形分濃度が30質量%となるように、処理剤1の水溶液に解砕した焼成粉末を加え、さらに処理剤2の水溶液を加えて、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、撹拌しながら100℃に加温して乾燥させた。得られた乾燥粉末を、アルミナ製の匣鉢に入れ、メッシュベルト搬送式連続炉で、500℃で1時間熱処理した。熱処理後の粉末を、目開き45μmの篩で分級し、実施例1に係るチタン酸リチウム粉末を得た。
【0118】
[実施例2~5]
表面処理工程において、処理剤1および処理剤2の添加量を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に実施例2~5に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0119】
[実施例6]
表面処理工程において、処理剤1として、タングステン酸リチウム(LiWO)の代わりにモリブデン酸リチウム(LiMoO)を、解砕した焼成粉末に対して、0.91質量%加えたこと以外は、実施例1と同様に実施例6に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0120】
[実施例7]
表面処理工程において、処理剤2として、硫酸セリウム六水和物(Ce(SO・6HO)の代わりに硫酸ランタン九水和物(La(SO・9HO)を表1に示す量で添加したこと以外は、実施例1と同様に実施例7に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0121】
[実施例8]
表面処理工程において、処理剤1と処理剤2に加え、さらに処理剤3としての硫酸アルミニウム(Al(SO・16HO)を、解砕した焼成粉末に対して3.2質量%になるように、予め水溶液としたものを加えたこと以外は、実施例1と同様に実施例8に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0122】
[比較例1]
表面処理工程において、処理剤1と処理剤2を共に添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に比較例1に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0123】
[比較例2]
表面処理工程において、処理剤1のみ添加し、処理剤2を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に比較例2に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0124】
[比較例3]
表面処理工程において、処理剤2のみ添加し、処理剤1を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に比較例3に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0125】
[比較例4]
<焼成工程>
実施例1と同様な原料調製工程において得られた混合スラリーを乾燥させ、乳鉢で解砕した後、バッジ炉で900℃、2時間焼成した。
【0126】
<解砕工程>
焼成後の粉末を乳鉢で解砕し、目開き45μmの篩で分級し、比較例4に係るチタン酸リチウム粉末を得た。
【0127】
[比較例5]
添加剤1としてのタングステン酸リチウム(LiWO)、および添加剤2としての硫酸セリウム六水和物(Ce(SO・6HO)を、それぞれ予め水溶液とした。Tiに対するLiの原子比Li/Tiが0.83になるように、LiCO(平均粒径:4.6μm)とアナターゼ型TiO(比表面積:10m/g)を秤量して得た原料粉末に、スラリーの固形分濃度が40質量%となるように、上記にて調製した添加剤1の水溶液および添加剤2の水溶液、ならびにイオン交換水を加えて撹拌し原料混合スラリーを作製した。以降の<焼成工程><解砕工程>は比較例4と同様にして比較例5に係るチタン酸リチウム粉末を得た。
【0128】
[参考例1]
表面処理工程において、解砕した焼成粉末に処理剤2を添加せずに熱処理し、熱処理後に処理剤2として、タングステン酸セリウム(Ce(WO)を焼成粉末に対して2.63質量%混合したこと以外は、実施例1と同様に参考例1に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0129】
[粉末物性の測定]
実施例1~8および比較例1~5および参考例1のチタン酸リチウム粉末(以下、各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末と記すことがある)の各種物性を以下のようにして測定した。測定結果を表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
<比表面積の測定>
各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末の比表面積(m/g)は、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名「Macsorb HM model-1208」)を使用して、測定サンプル粉末を0.5g秤量し、Φ12標準セル(HM1201-031)に入れ、液体窒素を用いてBET一点法で測定した。
【0132】
<誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)>
誘導結合プラズマ発光分光分析装置(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製、商品名「SPS5100」)を用いて、各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末に含まれる、元素を定量分析した。測定サンプルは、精秤した試料を硝酸とフッ化水素酸を入れて密栓し、マイクロ波を照射して加熱分解後、超純水で定容して検液として用いた。処理剤3を用いていない実施例1~7および比較例1~5および参考例1では、元素M3は検出されなかった(検出量の下源は、0.001質量%)。
【0133】
ICP-AESから求めた元素の含有量の質量割合から、M1、M2、M3、Ti元素のモル当たりの含有量CM1、CM2、CM3、CTi(モル%)を求め、その結果から、CM3とCM1との比と、CM3とCM2との比であるCM3/CM1、CM3/CM2(モル%/モル%)を算出した。
【0134】
<X線回折測定>
また、上記各測定に加えて、各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末について、次の方法により、X線回折測定を行った。具体的には、測定装置として、CuKα線を用いたX線回折装置(株式会社リガク製、RINT-TTR-III型)を用いた。X線回折測定の測定条件は、測定角度範囲(2θ):10°~90°、ステップ間隔:0.02°、測定時間:0.25秒/ステップ、線源:CuKα線、管球の電圧:40V、電流:300mAとした。
【0135】
測定される回折ピークのうち、ICDD(PDF2010)のPDFカード00-049-0207におけるLiTi12のメインピーク強度(回折角2θ=18.1~18.5°の範囲内の(111)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)、PDFカード01-070-6826におけるアナターゼ型二酸化チタンのメインピーク強度(回折角2θ=24.7~25.7°の範囲内の(101)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)、PDFカード01-070-7347におけるルチル型二酸化チタンのメインピーク強度(回折角2θ=27.2~27.6°の範囲内の(110)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)、およびPDFカード00-033-0831におけるLiTiOのピーク強度(回折角2θ=43.5~43.8°の範囲内の(-133)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)を測定した。
【0136】
そして、LiTi12のメインピーク強度を100としたときの、前記のアナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、およびLiTiOのピーク強度の相対値を算出した。各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末は、前記ピーク強度の相対値の総和は5以下であり、これらの結晶相以外の相は検出されなかった。
【0137】
<チタン酸リチウム粒子の断面の、M1、M2、M3およびTiの原子濃度(走査透過型電子顕微鏡(STEM))>
前記M1、M2、M3を含有するチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析を行い、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により前記M1、M2、M3の原子濃度およびTiの原子濃度の測定を行った。測定方法は次のとおりである。
【0138】
チタン酸リチウム粒子を、エポキシ樹脂を用いてダミー基板と接着後、切断、補強リングに接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミリングを行い、最後にカーボン蒸着を施し、薄片試料を調製した。
【0139】
得られた、チタン酸リチウム粒子の薄片試料における特定の位置の、前記M1、M2、M3の原子濃度およびTiの原子濃度を、エネルギー分散型X線分光(EDS)法によって、次のようにして、測定した。日本電子製 JEM-2100F型電界放射型透過電子顕微鏡(Cs補正付)を使用し、加速電圧120kVで、薄片試料の断面を観察しながら、同顕微鏡付帯の日本電子製 UTW型Si(Li)半導体検出器を使用して、薄片試料表面の接線に対して、その接点から垂直に引いた直線の線上にあって、試料の表面から内部に向かって1nmの位置と、表面から内部に向かって100nmの位置における前記M1、M2,M3の原子濃度およびTiの原子濃度を測定した。なお、ビーム径、すなわち分析領域を直径0.2nmの円とした。なお、本測定における、検出量の下限は0.5atm%であった。また、得られた結果より、D1a/Dti、D2a/Dtiを算出した。
【0140】
[電池特性の評価]
各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末を用いてコイン電池およびラミネート電池を作製し、それらの電池特性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0141】
<負極シートの作製>
負極シートは、室温25℃、露点-40℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末を活物質として90質量%、アセチレンブラックを導電剤として5質量%、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として5質量%の割合で、次のように混合して塗料を作製した。あらかじめ1-メチル-2-ピロリドン溶媒に溶解させたポリフッ化ビニリデンとアセチレンブラックと1-メチル-2-ピロリドン溶剤を遊星式撹拌脱泡装置にて混合した後、各実施例、各比較例および参考例1のチタン酸リチウム粉末を加え、全固形分濃度が52質量%となるように調製して、遊星式撹拌脱泡装置にて混合した。その後、1-メチル-2-ピロリドン溶媒を加え全固形分濃度が40質量%となるように調製し遊星式撹拌脱泡装置にて混合して塗料を調製した。得られた塗料をアルミニウム箔上に塗布し乾燥させて、後述のコイン電池に用いる負極片面シートを作製した。放電容量および50C充電率の確認用に、それぞれ活物質の塗布量が7.8mg/cmおよび1.3mg/cmである二種類の負極片面シートを作製した。また、前記塗料をアルミニウム箔の両面に塗布し乾燥させて、後述のラミネート電池に用いる負極両面シートを作製した。
【0142】
<正極シートの作製>
活物質としてりん酸鉄リチウム粉末を用いたこと以外は、活物質、導電剤および結着剤の比率を含めて、前述の<負極シートの作製>にて説明した方法と同じ方法で、後述のラミネート電池に用いる正極両面シートを作製した。
【0143】
<電解液の調製>
特性評価用の電池に用いる電解液は、次のように調製した。温度25℃で露点-70℃以下に管理されたアルゴンボックス内で、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)の非水溶媒を後述する割合で調製し、これに電解質塩としてLiPFを溶解して電解液を調製した。
【0144】
<コイン電池の作製>
前述の方法で作製した負極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、2t/cmの圧力でプレス加工した後、プレス加工した電極の重量を測定して、アルミニウム箔の重量(直径14mmの円形で8.5mg)を差し引いて、電極の活物質重量比90質量%を掛けることで、プレス加工した電極の活物質重量を算出した。その後、プレス加工した電極を120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ADVANTEC製GA-100とワットマン製GF/Cの2枚重ね)を介して対向させ、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積割合)の非水溶媒に、LiPFを1.0M溶解した非水電解液を加えて封止することによって、2032型コイン電池を作製した。
【0145】
<ラミネート電池の作製>
ラミネート電池は、室温25℃、露点-40℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。前記負極両面シートを2t/cmの圧力でプレス加工した後、リード線接続部分を有する負極を作製した。前記正極両面シートを2t/cmの圧力でプレス加工した後、リード線接続部分を有する正極を作製した。作製した負極と正極は、150℃で12時間真空乾燥した。真空乾燥後の正極と負極を、セパレータ(宇部興産製、UP3085)を介して対向させ、積層し、アルミ箔のリード線を正極、負極それぞれに接続し、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した、プロピレンカーボネート(PC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:2(体積割合)の非水溶媒に、LiPFを1.3M溶解した非水電解液を加えてアルミラミネートで真空封止することで、評価用のラミネート電池を作製した。このとき電池の容量は800mAhで負極と正極の容量の比(負極容量/正極容量)は1.1であった。
【0146】
<放電容量の測定>
25℃の恒温槽内にて、活物質の塗布量が7.8mg/cmの負極片面シートを用い、前述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池を用いて単極容量評価を行なった。なお、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電とし、評価電極からLiが放出される方向を放電とした。0.2mA/cmの電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cmの電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で2Vまで放電させる定電流放電を3サイクル行い放電容量を求め、単極容量とした。単極容量が大きいほど電池性能が良いと言える。
【0147】
<50C充電率の測定>
活物質の塗布量が1.3mg/cmの負極片面シートを用いたこと以外は<放電容量の測定>と同様の方法で、前処理として放電容量を測定した。次に前処理で求めた放電容量の50Cの電流で1Vまで充電した後、50Cの電流で2Vまで放電させて、50C充電率を求めた。50C充電率が大きいほど入出力性能が良いと言える。
【0148】
<60℃50cyc発生ガス量の測定>
室温において前述の<ラミネート型電池の作製>で説明した方法で作製したラミネート型電池の体積をアルキメデス法によって測定し、ラミネート電池の初期体積(以下、初期体積と記すことがある)とした。60℃の恒温槽内にて、設計容量の0.2Cの電流で2.2Vまで充電させる定電流充電を行った後、0.2Cの電流で1.5Vまで放電させる定電流放電を3サイクル繰り返した。
【0149】
次に、60℃の恒温槽内にて、1.0Cの電流で2.2Vまで充電させる定電流充電を行った後、1.0Cの電流で1.5Vまで放電させる定電流放電を、50サイクル繰り返すサイクル試験を行った。
【0150】
50サイクルのサイクル試験後、ラミネート型電池の体積をアルキメデス法によって測定し、ラミネート電池のサイクル試験後体積(以下、サイクル試験後体積と記すことがある)とした。サイクル試験後体積から初期体積を差し引いて、50サイクル試験後の発生ガス量(ml)(本明細書では、60℃50cyc発生ガス量と記すことがある)を求めた。以後、アルキメデス法で求めた発生ガス量を全ガス量と定義する。
【0151】
キャピラリガスクロマトグラフ装置(株式会社島津製作所製、商品名「GC-2010Plus」)を用いて、前記発生ガスの組成分析を行なった。なお、検量線は5種のスタンダードガス(ジーエルサイエンス株式会社製、「メタン:1.99%、一酸化炭素:1.98%、二酸化炭素:3.01%、(バランスガス:窒素)」、「メタン:1.07%、エタン:1.02%、プロパン:1.03%、ノルマルブタン:1.05%、イソブタン1.02%、二酸化炭素:1.02%(バランスガス:窒素)」、「エタン:1.01%、プロパン:1.02%、プロピレン:1.05%、ノルマルブタン:1.02%、イソブタン1.02%、エチレン:1.00%(バランスガス:窒素)」、「水素:21.1%、メタン:19.8%、二酸化炭素:10.7%(バランスガス:窒素)」、「純水素:99.99%」)と、空気を用いて作成した。上記のガス種が発生した全てのガス種であると仮定し、組成分析を行なった。求めた組成割合から全ガス量に含まれる水素ガスと、有機系ガス(非水素ガス)の発生量を算出した。比較例1での60℃50cyc発生ガス量を100として、比率を算出した。
【0152】
<評価>
実施例1~8のチタン酸リチウム粉末を用いた電極(実施例1~8)は、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生が抑制されたものであった。一方、前記M1、M2を含有しないチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例1、4)、前記M2を含有しないチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例2)には高温動作時のガス発生量は多くなった。また、前記M1を含有しないチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例3)、比表面積が4m/g未満であるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例4、5)には高温動作時の水素ガス発生量が多い結果となった。比較例1と実施例1の対比により前記M1、M2が表面に局在している場合のガス抑制効果を、比較例4と比較例5の対比により前記M1、M2がチタン酸リチウム粒子の表面から内部にまで拡散している場合のガス抑制効果をそれぞれ確認した。比較例1のチタン酸リチウム粉末に対する実施例1のチタン酸リチウム粉末のガス抑制効果は、比較例4のチタン酸リチウム粉末に対する比較例5のチタン酸リチウム粉末のガス抑制効果よりも大きい結果となり、前記M1、M2が表面付近に局在することが、ガス抑制に対し効果的であることが確認された。前記M1を表面処理後に前記M1とM2の化合物を粉末で添加したチタン酸リチウム粉末(参考例1)のガス抑制効果は、比較例2と実施例1との中間程度であった。表面処理により前記M1とM2がチタン酸リチウム粒子表面に同時に存在することが、ガス抑制に対し効果的であることが確認された。