(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】ボルト支持金具
(51)【国際特許分類】
E04B 9/18 20060101AFI20220425BHJP
【FI】
E04B9/18 D
E04B9/18 B
(21)【出願番号】P 2021088171
(22)【出願日】2021-05-26
【審査請求日】2021-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398034319
【氏名又は名称】エヌパット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117651
【氏名又は名称】高垣 泰志
(72)【発明者】
【氏名】生野 真
(72)【発明者】
【氏名】石川 将司
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-098024(JP,U)
【文献】特開平05-086678(JP,A)
【文献】特開2002-348964(JP,A)
【文献】特開2017-014854(JP,A)
【文献】特許第6954703(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続するデッキプレートに取り付けられ、前記デッキプレートの前記谷部又は前記谷部の近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に支持するボルト支持金具であって、
前記水平方向に沿って前記谷部の下面に接合するように配置されると共に、前記水平方向の両端が前記谷部の両側に位置する前記山部の下方位置に延設され、前記ボルト部材を垂下させた状態に保持するボルト保持部と、
前記ボルト保持部の前記水平方向の両端に取り付けられ、前記ボルト保持部を前記谷部の両側に位置する前記山部に固定する固定部と、
を備え
、
前記ボルト保持部は、前記水平方向にスライド可能であり、前記ボルト部材を装着するボルト装着部を有することを特徴とするボルト支持金具。
【請求項2】
前記ボルト装着部を前記水平方向にスライド不可能な状態に固定する固定部材を更に備えることを特徴とする請求項
1に記載のボルト支持金具。
【請求項3】
水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続するデッキプレートに取り付けられ、前記デッキプレートの前記谷部又は前記谷部の近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に支持するボルト支持金具であって、
前記水平方向に沿って前記谷部の下面に接合するように配置されると共に、前記水平方向の両端が前記谷部の両側に位置する前記山部の下方位置に延設され、前記ボルト部材を垂下させた状態に保持するボルト保持部と、
前記ボルト保持部の前記水平方向の両端に取り付けられ、前記ボルト保持部を前記谷部の両側に位置する前記山部に固定する固定部と、
を備え
、
前記固定部は、
上端が前記谷部の両側に位置する前記山部に取り付けられる支持ボルトと、
前記支持ボルトの下端を前記ボルト保持部の両端に固定する締結部材と、
前記支持ボルトを包囲するように配置されるスペーサーと、
を備えることを特徴とするボルト支持金具。
【請求項4】
前記スペーサーは、前記ボルト保持部が前記谷部に接合したとき、前記ボルト保持部において前記支持ボルトを挿通するためのボルト挿通孔が形成された面と、前記山部の下面との間隔に略一致する長さを有することを特徴とする請求項
3に記載のボルト支持金具。
【請求項5】
水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続するデッキプレートに取り付けられ、前記デッキプレートの前記谷部又は前記谷部の近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に支持するボルト支持金具であって、
前記水平方向に沿って前記谷部の下面に接合するように配置されると共に、前記水平方向の両端が前記谷部の両側に位置する前記山部の下方位置に延設され、前記ボルト部材を垂下させた状態に保持するボルト保持部と、
前記ボルト保持部の前記水平方向の両端に取り付けられ、前記ボルト保持部を前記谷部の両側に位置する前記山部に固定する固定部と、
を備え
、
前記ボルト保持部は、前記谷部の下面に接合した状態において前記水平方向の移動を規制するストッパーを備えることを特徴とするボルト支持金具。
【請求項6】
前記ストッパーは、前記谷部の両端に係合することにより前記水平方向の移動を規制することを特徴とする請求項
5に記載のボルト支持金具。
【請求項7】
前記谷部は、前記水平方向の中央に、前記水平方向と直交する方向に延びる溝部を有し、
前記ストッパーは、前記溝部に嵌め込まれることにより前記水平方向の移動を規制することを特徴とする請求項
5に記載のボルト支持金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続するデッキプレートに取り付けられ、デッキプレートの谷部又は谷部近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に支持するボルト支持金具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機などの天井吊り下げ物は、天井に形成される上階の床スラブなどの上階床構造から垂下する吊りボルトなどのボルト部材によって天井空間に吊り下げられた状態で支持される(例えば特許文献1)。上階の床スラブは、一般にデッキプレートの上面側に形成される。そのため、吊りボルトなどのボルト部材を上階床構造に取り付ける際には、デッキプレートに孔を開けて上階の床スラブにアンカーやインサートを埋設し、ボルト部材の上端をアンカーやインサートに装着する作業が行われる。
【0003】
建造物に使用されるデッキプレートには、水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続する波形形状のものが多い。そのような波形形状のデッキプレートの場合、谷部は山部に比べて脆弱であるため、ボルト部材を谷部に取り付けてしまうと、ボルト部材の取付強度が低下する。強度低下を抑制するためには、ボルト部材を波形形状であるデッキプレートの山部に取り付けることが必要となる。
【0004】
しかしながら、天井空間において空気調和機などの天井吊り下げ物を設置する位置は、設計上予め定められている。そのため、天井吊り下げ物を予め定められた位置に設置しようとすると、デッキプレートの谷部の下方位置にボルト部材を設置しなければならない場合が生じ得る。そのような場合、従来は、剛性の高いH形鋼などを用いてボルト部材を支持するための構造体をデッキプレートに別途取り付け、その構造体にボルト部材を取り付けていた。
【0005】
図19は、従来のボルト部材の取り付け態様を例示する図である。
図19に示すように、ボルト部材130を取り付ける上階床構造は、水平方向(X方向)に山部101と谷部102が所定間隔で連続するデッキプレート100の上面側に上階の床スラブ110が打設された構造となっている。一方、天井吊り下げ物200は、吊りボルトなどのボルト部材130と、ブレースボルト140と、空気調和機150とを備えている。空気調和機150は、側面の4箇所にボルト部材130の下端部を接続するための取付片151を有している。デッキプレート100から鉛直方向に垂下する複数のボルト部材130は、下端部がそれらの取付片151に接続され、空気調和機150を天井空間に吊り下げた状態で支持する。そしてデッキプレート100と空気調和機150との間には、互いに隣接する2本のボルト部材130,130の間を互いに交差するように2本のブレースボルト140が取り付けられる。これらブレースボルト140は、地震発生時におけるボルト部材130の振動を抑制するためのものである。
【0006】
図19に示すように、空気調和機150を所定位置に配置した場合、一方の取付片151の上方位置にはデッキプレート100の山部101が位置している。そのため、一方の取付片151に接続されるボルト部材130は、上端部をデッキプレート100の山部101に取り付けることができる。ところが、他方の取付片151の上方位置にはデッキプレート100の谷部102が位置している。そのため、他方の取付片151の上方位置には、複数のH形鋼を組み付けた構造体350を設置し、その構造体350に対してボルト部材130の上端部を固定しなければならない。このような構造体350を設置する作業は高所作業となるため、作業効率が悪い。特に、空気調和機150の側面4箇所に設けられた4つの取付片151の上方位置全てにデッキプレート100の谷部102が位置する場合には、上記のような構造体350を4箇所に設置する必要があり、作業効率が著しく低下する。そのため、天井吊り下げ物200を天井空間に設置するために多大な時間を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためになされたものであり、デッキプレートの谷部又は谷部近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に設置する作業を従来よりも簡単且つ効率的に行えるようにしたボルト支持金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1に、本発明は、水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続するデッキプレートに取り付けられ、前記デッキプレートの前記谷部又は前記谷部の近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に支持するボルト支持金具であって、前記水平方向に沿って前記谷部の下面に接合するように配置されると共に、前記水平方向の両端が前記谷部の両側に位置する前記山部の下方位置に延設され、前記ボルト部材を垂下させた状態に保持するボルト保持部と、前記ボルト保持部の前記水平方向の両端に取り付けられ、前記ボルト保持部を前記谷部の両側に位置する前記山部に固定する固定部と、を備え、前記ボルト保持部は、前記水平方向にスライド可能であり、前記ボルト部材を装着するボルト装着部を有することを特徴とする構成である。
【0010】
第1の構成によれば、ボルト部材を垂下させた状態に保持するボルト保持部の両端に固定部を取り付け、その固定部をデッキプレートの山部に固定することにより、ボルト保持部をデッキプレートの谷部の下面に接合させた状態に固定することができる。そのため、ボルト保持部から垂下するボルト部材を谷部又は谷部の近傍位置に設置することが可能であり、従来よりも簡単且つ効率的にボルト部材の設置作業を行うことができるようになる。
【0014】
第2に、本発明は、上記第1の構成を有するボルト支持金具において、前記ボルト装着部を前記水平方向にスライド不可能な状態に固定する固定部材を更に備えることを特徴とする構成である。
【0015】
第2の構成によれば、固定部材がボルト装着部をスライド不可能な状態に固定するため、仮に地震が発生した場合でもボルト部材の位置が移動してしまうことを防止することができるようになる。
【0016】
第3に、本発明は、水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続するデッキプレートに取り付けられ、前記デッキプレートの前記谷部又は前記谷部の近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に支持するボルト支持金具であって、前記水平方向に沿って前記谷部の下面に接合するように配置されると共に、前記水平方向の両端が前記谷部の両側に位置する前記山部の下方位置に延設され、前記ボルト部材を垂下させた状態に保持するボルト保持部と、前記ボルト保持部の前記水平方向の両端に取り付けられ、前記ボルト保持部を前記谷部の両側に位置する前記山部に固定する固定部と、を備え、前記固定部は、上端が前記谷部の両側に位置する前記山部に取り付けられる支持ボルトと、前記支持ボルトの下端を前記ボルト保持部の両端に固定する締結部材と、前記支持ボルトを包囲するように配置されるスペーサーと、を備えることを特徴とする構成である。
【0017】
第3の構成によれば、固定部が支持ボルトと締結部材とを備えた簡単な構成で実現することができるという利点がある。
【0019】
また第3の構成によれば、スペーサーが支持ボルトを包囲するように配置されるため、支持ボルトを補強することができる。
【0020】
第4に、本発明は、上記第3の構成を有するボルト支持金具において、前記スペーサーは、前記ボルト保持部が前記谷部に接合したとき、前記ボルト保持部において前記支持ボルトを挿通するためのボルト挿通孔が形成された面と、前記山部の下面との間隔に略一致する長さを有することを特徴とする構成である。
【0021】
第4の構成によれば、スペーサーがボルト保持部と山部の下面との間において突っ張った状態に配置されるため、締結部材が過度に締め付けられることを未然に防止し、ボルト保持部が湾曲変形してしまうことを抑制することができる。
【0022】
第5に、本発明は、水平方向に山部と谷部が所定間隔で連続するデッキプレートに取り付けられ、前記デッキプレートの前記谷部又は前記谷部の近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に支持するボルト支持金具であって、前記水平方向に沿って前記谷部の下面に接合するように配置されると共に、前記水平方向の両端が前記谷部の両側に位置する前記山部の下方位置に延設され、前記ボルト部材を垂下させた状態に保持するボルト保持部と、前記ボルト保持部の前記水平方向の両端に取り付けられ、前記ボルト保持部を前記谷部の両側に位置する前記山部に固定する固定部と、を備え、前記ボルト保持部は、前記谷部の下面に接合した状態において前記水平方向の移動を規制するストッパーを備えることを特徴とする構成である。
【0023】
第5の構成によれば、地震発生時においてボルト保持部がデッキプレートの谷部に対して水平方向に相対変位してしまうことを良好に防止することができる。
【0024】
第6に、本発明は、上記第5の構成を有するボルト支持金具において、前記ストッパーは、前記谷部の両端に係合することにより前記水平方向の移動を規制することを特徴とする構成である。
【0025】
第7に、本発明は、上記第5の構成を有するボルト支持金具において、前記谷部は、前記水平方向の中央に、前記水平方向と直交する方向に延びる溝部を有し、前記ストッパーは、前記溝部に嵌め込まれることにより前記水平方向の移動を規制することを特徴とする構成である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ボルト部材の取付強度を低下させることなく、デッキプレートの谷部又は谷部近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に設置する作業を従来よりも簡単かつ効率的に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ボルト支持金具をデッキプレートに取り付けた例を示す図である。
【
図2】第1実施形態におけるボルト支持金具を示す斜視図である。
【
図3】ボルト保持部の構成部材を分解して示す斜視図である。
【
図4】ボルト保持部をデッキプレートに固定する固定部の構成例を示す斜視図である。
【
図5】デッキプレートに対するボルト支持金具の取付態様を示す斜視図である。
【
図6】デッキプレートに取り付けられたボルト支持金具を示す断面図である。
【
図7】デッキプレートに取り付けられたボルト支持金具を斜め下方から視た斜視図である。
【
図8】ボルト支持金具を用いて天井空間に吊り下げられた状態に支持される天井吊り下げ物を示す図である。
【
図9】第2実施形態においてボルト支持金具が取り付けられるデッキプレートを示す図である。
【
図10】第2実施形態におけるボルト支持金具のボルト保持部を示す斜視図である。
【
図11】デッキプレートに対するボルト支持金具の取付態様を示す斜視図である。
【
図12】デッキプレートに取り付けられたボルト支持金具を斜め下方から視た斜視図である。
【
図13】第3実施形態におけるボルト支持金具を示す斜視図である。
【
図14】第3実施形態におけるボルト保持部の構成例を示す図である。
【
図15】第3実施形態のボルト支持金具をデッキプレート100に取り付けた状態を示す側面図である。
【
図16】第3実施形態のボルト支持金具をデッキプレート100に取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図17】第4実施形態におけるボルト支持金具のボルト保持部を示す斜視図である。
【
図18】デッキプレートに対するボルト支持金具の取付態様を示す側面図である。
【
図19】デッキプレートに対する従来のボルト部材の取り付け態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下において参照する各図面では互いに共通する部材に同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
【0029】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態におけるボルト支持金具1をデッキプレート100に取り付けた例を示す図である。尚、
図1に示すXYZ三次元座標系は、XY面を水平面とし、Z方向を鉛直方向とする座標系であり、他の図に示す座標系と共通する座標系である。ボルト支持金具1は、水平方向(X方向)に山部101と谷部102とが所定間隔で連続するデッキプレート100に取り付けられ、デッキプレート100の谷部102又は谷部102の近傍位置からボルト部材130を垂下させた状態に支持する金具である。例えば、デッキプレート100は、山部101と谷部102との間に、山部101と谷部102とを斜め方向に繋ぐ傾斜部104を有している。そして谷部102の両側に位置する傾斜部104の下部には、水平方向に所定深さを有する凹部105が設けられている。この凹部105は、Y方向に向かって溝状に形成されている。そしてデッキプレート100の上面側には、上階の床スラブ110が打設され、直下の階において吊りボルトなどのボルト部材130を支持するための上階床構造が形成されている。ただし、デッキプレート100は、必ずしも凹部105を有するものに限られない。
【0030】
ボルト支持金具1は、水平方向(X方向)に沿って谷部102の下面に接合するように配置され、ボルト部材130を垂下させた状態に保持するボルト保持部2と、谷部102を挟んでボルト保持部2の水平方向(X方向)の両端に設けられ、ボルト保持部2をデッキプレート100の山部101,101に固定する一対の固定部3a,3bと、を備えている。つまり、ボルト支持金具1は、一対の固定部3a,3bのそれぞれがデッキプレート100の谷部102を挟んで水平方向の両側に位置する山部101,101に固定され、それら2つの山部101,101の中央に位置する谷部102の下面にボルト保持部2を接合させた状態に支持する。以下、このようなボルト支持金具1について詳しく説明する。
【0031】
図2は、ボルト保持部2を示す斜視図であり、
図2(a)はボルト保持部2を斜め上方から視た図を、
図2(b)はボルト保持部2を斜め下方から視た図を示している。また、
図3は、ボルト保持部2の構成部材を分解して示す斜視図である。
図3に示すように、ボルト保持部2は、例えば溝形鋼などで構成される断面コ字状の金具本体10と、ボルト部材130を装着するためのボルト装着部20とが組み付けられることによって構成される。ただし、金具本体10は、予め所定形状に形成された金属製の板状体をコ字状に折り曲げることによって形成されるものであっても構わない。
【0032】
ボルト保持部2の金具本体10は、水平方向(X方向)に所定長さを有する長方形状の平板部11と、その平板部11の短尺方向両端部(Y方向両端部)から鉛直方向(Z方向)に立設する一対の壁部12,12とを有している。このボルト保持部2の長尺方向(X方向)の長さは、デッキプレート100の谷部102の水平方向(X方向)の長さよりも長い。例えば、ボルト保持部2の長手方向中央部を谷部102の下面の中央に配置したとき、ボルト保持部2の水平方向両端が谷部102に隣接する傾斜部104,104を超えて、谷部102の両側に位置する山部101,101の下方位置まで達する程度の長さを有している。
【0033】
図2(b)に示すように、平板部11は、その中央(Y方向の中央)に長手方向(X方向)に延びる長孔17が形成されており、また長手方向両端近傍位置に後述する支持ボルト31を挿通するためのボルト挿通孔18,18が形成されている。例えば、長孔17は、平板部11の長手方向のほぼ中央の位置から一方のボルト挿通孔18の近傍位置まで形成される。また、長孔17の両側には、後述するビス39を打ち込むための複数の孔19が長手方向に沿って所定間隔で形成される。
【0034】
平板部11から立設する一対の壁部12,12は、デッキプレート100の谷部102の下面に接合し、谷部102の両端と係合する。また、一対の壁部12,12は、平板部11から略直角に折れ曲がって立設することにより、ボルト保持部2を補強する機能も有している。壁部12の上端は、長手方向(X方向)の両端部13,13の高さが比較的高く、中央部14の高さが両端部13,13よりも低くなっている。つまり、壁部12の中央部14は、他の部分よりも高さが低い凹部となっている。そして両端部13,13と中央部14との間には、段差部15,15が設けられている。
図2(a)に示すように、それら2つの段差部15,15の間隔D1は、デッキプレート100の谷部102の幅(X方向の寸法)と同じ若しくはそれよりも若干大きい間隔に形成される。そのため、2つの段差部15,15の間にデッキプレート100の谷部102を収容することが可能であり、2つの段差部15,15を谷部102の水平方向両端に係合させることができる。したがって、壁部12に設けられる段差部15,15は、ボルト保持部2が水平方向(X方向)に移動することを規制するストッパーとして機能する。
【0035】
このような金具本体10は、比較的簡単な構造で実現可能であるため、製造コストが安い。そのため、金具本体10を含むボルト支持金具1を安価に提供することができるという利点がある。
【0036】
ボルト装着部20は、
図3に示すように、保持板21、ワッシャー22、ボルト23、ワッシャー24、及び、ロングナット25を備えている。このうち、保持板21、ワッシャー22及びボルト23は、平板部11の上面側であって、一対の壁部12,12に囲まれた凹部空間に配置される。また、ワッシャー24及びロングナット25は、平板部11の下面側に配置される。
【0037】
保持板21は、例えば矩形状の金属板によって構成され、少なくとも1組の互いに平行な2辺の長さが一対の壁部12,12の間隔よりも若干小さく形成され、一対の壁部12,12の間に収容配置することができる。そして保持板21は、平板部11の上面に接合するように配置される。保持板21の中央にはボルト23の雄螺子部を挿通するための孔21aが形成される。ボルト23は、ワッシャー22が装着された雄螺子部の先端が孔21aに挿入され、更に平板部11に形成された長孔17に対して挿入される。これにより、ボルト23の雄螺子部の先端は、平板部11の下面から所定長さ突出するようになる。そして平板部11の下面側に突出するボルト23の雄螺子部に対し、ワッシャー24が装着され、更に、ロングナット25が装着される。
図3に示すように、保持板21の厚み、ワッシャー22の厚み、及び、ボルト23の頭部の厚みを合計した厚みは、一対の壁部12,12の中央部14の高さ寸法よりも小さく形成される。これにより、ボルト23の頭部がデッキプレート100の谷部102の下面に接触することがなくなり、一対の壁部12,12の中央部14をデッキプレート100の谷部102の下面に突き当てた状態に取り付けることができるようになる。
【0038】
ロングナット25は、軸方向(Z方向)に所定長さを有し、その軸方向に貫通する螺子孔を有している。ロングナット25の螺子孔の上部には、ボルト23の雄螺子部が螺合する。またロングナット25の螺子孔の下部には、吊りボルトなどのボルト部材130が螺合する。つまり、ボルト装着部20は、ボルト保持部2の下面側に突出した状態に設けられるロングナット25に対してボルト部材130を装着する。
【0039】
上記のように構成されるボルト装着部20は、ボルト保持部2の平板部11に形成されている長孔17に沿って水平方向(X方向)にスライド移動させることができる。すなわち、平板部11の下面に対してロングナット25を締め付けていない仮止め状態のとき、ボルト装着部20は、ボルト保持部2に固定されていないため、水平方向(X方向)にスライド可能となる。長孔17は、上述のように、平板部11の長手方向のほぼ中央の位置から一方のボルト挿通孔18の近傍位置まで形成されている。そのため、ボルト装着部20は、その長孔17が形成されている範囲内において任意の位置にスライド移動可能である。これに対し、平板部11に対してロングナット25が締め付けられると、ボルト装着部20は、ボルト保持部2の平板部11に固定されるため、長孔17に沿ってスライド移動しない状態に位置決めされる。
【0040】
図4及び
図5は、ボルト保持部2をデッキプレート100に固定する固定部3a,3bの構成例を示す斜視図であり、
図4はボルト支持金具1を斜め上方から視た図を、
図5はボルト支持金具1を斜め下方から視た図を示している。ボルト保持部2の両端に取り付けられる固定部3a,3bは、それぞれ、支持ボルト31と、スペーサー32と、ワッシャー33と、ナット34とを備えている。
【0041】
支持ボルト31は、
図5に示すように、その上端がデッキプレート100の山部101に固定される。例えば、デッキプレート100の山部101において支持ボルト31を取り付ける位置には、図示を省略するアンカーやインサートが予め設置されている。支持ボルト31は、その上端をアンカーやインサートに螺子込むことによってデッキプレート100の山部101に固定され、山部101から垂下するように設置される。支持ボルト31の長さは、デッキプレート100の山部101と谷部102との高低差を超える長さとなっており、上端部が山部101に固定されると、下端部は谷部102の高さ位置よりも更に下方まで延びた状態となる。そして支持ボルト31は、その下端部がボルト保持部2の両端近傍位置に形成されているボルト挿通孔18に挿通され、ボルト保持部2の平板部11の下面側に突出するように配置される。
【0042】
スペーサー32は、例えば金属製の筒状体によって構成され、その内側に支持ボルト31の外径よりも大きな内径を有する中空空間を有している。このスペーサー32は、デッキプレート100の山部101とボルト保持部2との間において、支持ボルト31を包囲するように配置される。スペーサー32が、支持ボルト31の外周面を包囲するように配置されることにより、支持ボルト31を補強することができ、例えば地震発生時に支持ボルト31が座屈してしまうことなどを防止することができる。また、スペーサー32の長さは、ボルト保持部2の一対の壁部12,12の中央部14が谷部102の下面に接合した状態において、平板部11の上面とデッキプレート100の山部101の下面との間隔に略一致する長さである。
【0043】
ワッシャー33とナット34は、ボルト挿通孔18に挿通され、平板部11の下面側に突出する支持ボルト31の先端に装着される。ナット34は、ボルト保持部2を固定部3a,3bに締結固定するための締結部材であり、支持ボルト31に対して締め付けられることにより、ボルト保持部2を支持ボルト31に固定する。言い換えると、ナット34は、支持ボルト31の下端をボルト保持部2の両端に固定するものである。
【0044】
上記のように構成されるボルト支持金具1は、次のような手順でデッキプレート100に取り付けられる。まず
図5に示すように、デッキプレート100の2つの山部101,101に、支持ボルト31,31が取り付けられる。このとき、2つの支持ボルト31,31は、ボルト保持部2の平板部11に形成された2つのボルト挿通孔18,18の間隔に一致するように取り付けられる。尚、予め山部101,101にアンカーやインサートを設置する際には、2つのボルト挿通孔18,18の間隔に適合するように設置しておくことが好ましい。
【0045】
山部101,101に支持ボルト31,31が取り付けられると、その支持ボルト31,31に対してスペーサー32,32が装着される。その後、ボルト保持部2が谷部102を跨ぐように配置され、支持ボルト31,31の先端(下端)が平板部11のボルト挿通孔18,18に挿通され、平板部11の下面側に突出する支持ボルト31,31の先端にワッシャー33とナット34とを装着する。そしてボルト保持部2の一対の壁部12,12の中央部14を谷部102の下面に接合させた状態でナット34を締め付けることにより、ボルト保持部2が谷部102の下面側に固定され、その結果、ボルト支持金具1がデッキプレート100に取り付けられる。
【0046】
図6は、デッキプレート100に取り付けられたボルト支持金具1を示す断面図である。本実施形態のボルト支持金具1は、
図6(a)に示すように、デッキプレート100の山部101とボルト保持部2との間において支持ボルト31,31を包囲するように配置されるスペーサー32,32を備えている。そのため、支持ボルト31,31の先端31aに装着されたナット34,34を締め付けていくと、スペーサー32,32がボルト保持部2の平板部11と山部101との間に挟まれて突っ張った状態となる。このとき、ボルト保持部2は、一対の壁部12,12の中央部14を谷部102の下面に接合させると共に、段差部15を谷部102の両端に係合させた状態で水平な姿勢に固定される。そのため、仮に地震が発生したとしても、デッキプレート100に対するボルト保持部2の位置は変化しない。つまり、地震発生時に支持ボルト31がX方向に揺動しようとしても、ボルト保持部2が谷部102に係合しているため、ボルト保持部2はデッキプレート100に対して相対変位しないのである。それ故、ボルト支持金具1は、デッキプレート100に取り付けられると、ボルト保持部2をデッキプレート100に対して相対変位しない状態に固定することができる。それ故、
図6(a)に示す状態がボルト保持部2の適切な施工状態となる。その適切な施工状態でナット34,34を更に締め付けようとしても、スペーサー32,32が突っ張っているため、ナット34,34の過度な締め付けを防止することができ、ボルト保持部2を適切な施工状態で保持することができる。
【0047】
これに対し、支持ボルト31,31の周囲にスペーサー32,32が設けられていない場合、ボルト保持部2が適切な施工状態となった後にナット34,34が更に締め付けられると、
図6(b)に示すようにナット34,34の締め付け量に応じてボルト保持部2が湾曲変形する。ボルト保持部2が湾曲変形すると、取付強度が低下するため、適切な施工状態とは言えなくなる。それ故、上述したように、スペーサー32,32を設けてナット34,34の過度な締め付けを防止し、ボルト保持部2が湾曲変形してしまうことを抑制することが好ましい。
【0048】
ボルト支持金具1がデッキプレート100に取り付けられ、ロングナット25が仮止め状態であるとき、ロングナット25は、
図6(a)において矢印F1で示すように、X方向にスライド移動可能である。そのため、吊りボルトなどのボルト部材130を取り付ける位置をX方向に調整することができる。すなわち、空気調和機などの天井吊り下げ物の設置位置に適合するようにロングナット25の位置を調整することができる。上述したように本実施形態のボルト支持金具1の長孔17は、平板部11の長手方向(X方向)のほぼ中央の位置から一方のボルト挿通孔18の近傍位置までの約半分の領域に形成されている。そのため、ロングナット25は、谷部102のほぼ中央の下方位置と、谷部102に隣接する2つの傾斜部104,104のうちの一方の傾斜部104の下方位置との範囲内で移動させることができる。ロングナット25を他方の傾斜部104の下方位置に設置したい場合には、デッキプレート100に対するボルト支持金具1の水平方向の向きを反転させれば良い。このようにボルト支持金具1は、長孔17を平板部11の長手方向(X方向)のほぼ中央の位置から一方のボルト挿通孔18の近傍位置までの約半分の領域に形成することにより、谷部102の下方位置及び谷部102に隣接する2つの傾斜部104の下方位置を含む任意の位置にロングナット25を設置することが可能である。
【0049】
尚、長孔17は平板部11の長手方向の約半分の領域に形成するものに限られず、平板部11の長手方向の全域に亘って形成したものであっても構わない。ただし、長孔17を平板部11の長手方向の全域に亘って形成すると、ボルト保持部2の強度が低下してしまう。そのような強度低下を最小限に抑えるためには、長孔17の形成領域を最小限に抑えることが好ましい。そのため、上述したようにボルト支持金具1の長孔17は、平板部11の長手方向(X方向)のほぼ中央の位置から一方のボルト挿通孔18の近傍位置までの約半分の領域に形成することで、強度低下を抑えつつ、ロングナット25を谷部102の下方位置及び谷部102に隣接する2つの傾斜部104の下方位置を含む任意の位置に設置できるという点で好ましい。
【0050】
ボルト保持部2におけるロングナット25の位置が決まると、ロングナット25を平板部11に対して締め付けることにより、ロングナット25が平板部11に固定される。ただし、ロングナット25を締め付けるだけでは、大規模地震発生時に水平方向に大きな力が作用すると、ロングナット25が長孔17の形成方向に沿って滑る可能性がある。そのような滑りを防止するため、ボルト支持金具1は、ロングナット25の位置が決まると、
図7に示すように、長孔17の両側に形成された孔19にビス39を打ち込んで平板部11と保持板21とを相互に固定することが可能である。つまり、ビス39は、ボルト装着部20が水平方向に変位しないように位置決めした状態で固定する固定部材である。例えば、ビス39は、複数の孔19のうち、ロングナット25の近傍に位置する孔19に対して打ち込まれる。ビス39は、孔19から上方に向けて挿入され、平板部11の上面側に位置する保持板21に打ち込まれる。これにより、ロングナット25は、長孔17の長手方向には移動しない状態に完全固定される。そのため、大規模地震が発生した場合でも、ロングナット25が長孔17の形成方向に滑ってしまう現象は生じない。
【0051】
ロングナット25をボルト保持部2に固定した後、ロングナット25の下面側の螺子孔25aに対してボルト部材130を螺合装着することで、ボルト部材130をボルト支持金具1に取り付けることができる。これにより、ボルト部材130は、デッキプレート100の谷部102又は谷部102の近傍位置から垂下した状態に設置される。このボルト部材130は、空気調和機などの天井吊り下げ物を天井空間に吊り下げた状態で支持する。
【0052】
図8は、ボルト支持金具1を用いて天井空間に吊り下げられた状態に支持される天井吊り下げ物200を示す図である。天井吊り下げ物200は、吊りボルトなどのボルト部材130と、ブレースボルト140と、空気調和機150とを備えている。空気調和機150は、側面の4箇所にボルト部材130の下端部を接続するための取付片151を有している。デッキプレート100から垂下する複数のボルト部材130は、下端部がそれらの取付片151に接続され、空気調和機150を天井空間に吊り下げた状態で支持する。そしてデッキプレート100と空気調和機150との間には、ボルト部材130を補強するための斜め補強材として、隣接する2本のボルト部材130,130間に、互いに交差するように2本のブレースボルト140が取り付けられる。
【0053】
図8に示すように、ボルト支持金具1は、デッキプレート100の谷部102又は谷部102の近傍位置からボルト部材130を垂下させた状態に支持することができる。そのため、天井吊り下げ物200の設置位置を水平方向にずらしたり、ボルト部材130を斜め方向に配置したりする必要がなく、設計上予め定められた位置に天井吊り下げ物200を設置することができる。また、本実施形態のボルト支持金具1は、一対の固定部3a,3bをデッキプレート100の谷部102ではなく、山部101に固定しているため、取付強度が低下しない。これにより、ボルト支持金具1は、十分な強度でボルト部材130を垂下させた状態に支持することができる。更に、本実施形態のボルト支持金具1を用いれば、従来のように複数のH形鋼を組み付けた構造体350を設置する必要がない。それ故、本実施形態のボルト支持金具1によれば、デッキプレート100の谷部102の位置又は谷部102の近傍位置からボルト部材130を垂下させた状態に設置する作業を従来よりも簡単かつ効率的に行うことができるようになる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図9は、本実施形態においてボルト支持金具1が取り付けられるデッキプレート100を示す図である。このデッキプレート100は、谷部102の水平方向(X方向)の中央に、上側に凹んだ溝部107を有している。この溝部107は、山部101と谷部102とが並ぶ水平方向(X方向)に対して直交する方向(Y方向)に延びている。例えば、溝部107は、谷部102の下面に開口するX方向の幅よりもその上の溝奥のX方向の幅の方が大きくなっており、台形状の断面形状を有している。
【0055】
本実施形態のボルト支持金具1は、
図9に示すようなデッキプレート100に対して好適に使用し得るものである。
図10は、ボルト支持金具1のボルト保持部2を示す斜視図であり、ボルト保持部2を斜め上方から視た図を示している。本実施形態のボルト保持部2は、金具本体10の一対の壁部12,12が第1実施形態と異なる。すなわち、本実施形態の一対の壁部12,12は、デッキプレート100の谷部102の下面に接合すると共に、谷部102の中央に設けられた溝部107に係合するように形成される。より具体的に説明すると、一対の壁部12,12は、その中央に上方に突出した突起部29,29を有している。これら突起部29,29の水平方向(X方向)の長さD2は、デッキプレート100の谷部102の中央に形成されている溝部107の幅よりも若干小さくなっている。また、突起部29,29の高さは、溝部107の深さよりも低い。そのため、突起部29,29は、谷部102の中央に形成された溝部107の内側に嵌め込み可能であり、突起部29,29の両側に位置する壁部12,12の上端を谷部102の下面に接合させることができる。また、一対の壁部12,12は、突起部29,29の両端を、溝部107の両縁部に係合させることもできる。したがって、壁部12に設けられる突起部29,29は、ボルト保持部2が水平方向(X方向)に移動することを規制するストッパーとして機能する。尚、ボルト保持部2におけるその他の点は、第1実施形態と同様である。
【0056】
図11は、デッキプレート100に対するボルト支持金具1の取付態様を示す斜視図である。
図11に示すように、まずデッキプレート100の2つの山部101,101に、支持ボルト31,31が取り付けられる。山部101,101に支持ボルト31,31が取り付けられると、その支持ボルト31,31に対してスペーサー32,32が装着される。その後、ボルト保持部2が谷部102を跨ぐように配置され、支持ボルト31,31の先端(下端)が平板部11のボルト挿通孔18,18に挿通され、平板部11の下面側に突出する支持ボルト31,31の先端にワッシャー33とナット34とが装着される。そしてボルト保持部2の一対の壁部12,12の中央に形成された突起部29,29を、谷部102の中央に形成されている溝部107に嵌め込んだ状態でナット34を締め付けることにより、ボルト保持部2が谷部102の下面側に固定され、その結果、ボルト支持金具1がデッキプレート100に取り付けられる。
【0057】
図12は、デッキプレート100に取り付けられたボルト支持金具1を示す図である。本実施形態のボルト支持金具1は、
図12に示すように、デッキプレート100の山部101とボルト保持部2との間において支持ボルト31,31を包囲するように配置されるスペーサー32,32を備えている。そのため、支持ボルト31,31の先端に装着されたナット34,34を締め付けていくと、スペーサー32,32がボルト保持部2の平板部11と山部101との間に挟まれて突っ張った状態となり、ナット34,34の過度な締め付けを防止することができると共に、ボルト保持部2が湾曲変形してしまうことを防止することができる。
【0058】
図12に示すように、ボルト支持金具1がデッキプレート100に取り付けられ、ロングナット25が仮止め状態であるとき、ロングナット25は、X方向にスライド移動可能である。そのため、吊りボルトなどのボルト部材130を取り付ける位置をX方向に調整することができる。X方向におけるロングナット25の位置調整が終了すると、ロングナット25は、ボルト保持部2の下面に対して締め付けられ、固定される。また、ロングナット25を締め付けて固定することに伴い、長孔17の両側に形成された孔19にビス39を打ち込んで平板部11と保持板21とを相互に固定する。
【0059】
ロングナット25をボルト保持部2に固定した後、ロングナット25の下面側の螺子孔25aに対してボルト部材130を螺合装着することで、ボルト部材130をボルト支持金具1に取り付けることができる。これにより、ボルト部材130は、デッキプレート100の谷部102又は谷部102の近傍位置から垂下した状態に設置される。
【0060】
このように本実施形態のボルト支持金具1は、谷部102に形成されている溝部107に嵌合する突起部29を備えているため、仮に地震発生時にボルト保持部2に対して水平方向(X方向)の力が作用したとしても、ボルト保持部2がX方向に変位してしまうことを防止することができる。尚、本実施形態において上述した点以外については、第1実施形態で説明したものと同様である。
【0061】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態について説明する。
図13は、本実施形態のボルト支持金具1を示す斜視図である。このボルト支持金具1は、第1実施形態と同様、ボルト保持部2と、ボルト保持部2の両端に設けられる一対の固定部3a,3bとを備えており、谷部102の両端に係合した状態でデッキプレート100に取り付けられる。一対の固定部3a,3bは、第1及び第2実施形態で説明したものと同様であり、本実施形態のボルト支持金具1は、ボルト保持部2が上述した各実施形態と異なる構成を有している。
【0062】
図14は、ボルト保持部2の構成例を示す図である。
図14に示すように、ボルト保持部2は、金具本体40と、ボルト装着部20とを有し、金具本体40に対してボルト装着部20が組み付けられることによって構成される。
【0063】
金具本体40は、所定長さを有するレール状の部材によって構成される。すなわち、金具本体40は、所定長さを有する平板部41と、その平板部41の幅方向両側から下方に延びる一対の壁部42,42と、一対の壁部42,42の先端を内側に折り曲げて形成される係止部43,43とを有している。壁部42,42の先端に設けられる一対の係止部43,43は、互いに対向するように配置され、金具本体40の下部においてレール部を形成する。尚、本実施形態では、壁部42に対する係止部43の折れ曲がり角度が90度よりも大きく、係止部43の先端が平板部41のある上方に向かって若干傾斜した状態となっている場合を例示しているが、これに限られるものではない。例えば、壁部42に対する係止部43の折れ曲がり角度は90度であっても構わない。この場合、金具本体40は、例えばリップ溝形鋼などによって構成されるものであっても構わない。
【0064】
平板部41は、その長手方向の両端近傍位置に支持ボルト31を挿通するためのボルト挿通孔44,44が形成されている。また、平板部11は、それら2つのボルト挿通孔44,44の間に、平板部41の金属片を上方に折り曲げて形成した一対の係合部45,45を有している。これら一対の係合部45,45は、平板部41の上面側に突出しており、水平方向(X方向)に所定間隔を有する位置に形成される。そして一対の係合部45,45は、デッキプレート100の谷部102の水平方向(X方向)の両端部に係合し、ボルト保持部2が水平方向(X方向)に移動することを規制するストッパーとして機能する。そのため、一対の係合部45,45の間隔は、デッキプレート100の谷部102の水平方向(X方向)の幅寸法と同じ間隔であるか、又は、それよりも若干大きい間隔に形成される。
【0065】
ボルト装着部20は、上記のような金具本体40において一対の係止部43,43によって形成されるレール部に装着される。本実施形態のボルト装着部20は、係止板51と、ワッシャー52と、ボルト53と、保持金具54と、ロングナット57とを備えている。係止板51は、矩形状の金属板を弓形に湾曲させた形状を有し、その中心位置にボルト53の軸部を挿通する孔が形成された板状部材である。また、保持金具54は、側面視コ字状の金具であり、平板部の両端に立設した保持壁55,55を有している。また、保持金具54は、平板部の中央にボルト53の軸部を挿通する孔を有している。更に、保持金具54は、両端の保持壁55,55のそれぞれに後述するビス39を打ち込むための孔55aを有している。ロングナット57は、保持金具54の下面側に配置される。そしてボルト53は、雄螺子が形成された軸部が、ワッシャー52と係止板51の孔とに挿通され、更に保持金具54の平板部に形成された孔に挿通された後、ロングナット57の螺子孔に螺合装着される。
【0066】
上記のように構成されるボルト装着部20は、
図14において矢印F2で示すように、係止板51を、金具本体40の平板部41と一対の係止部43,43との間の空間46に差し込み、保持金具54の一対の保持壁55,55が金具本体40の一対の壁部42,42の外面に接した状態に配置される。ここで、係止板51のY方向の長さは、金具本体40において一対の係止部43,43の先端どうしの間隔よりも長く、一対の壁部42,42の間隔よりも短い。そのため、係止板51は、金具本体40の内側の空間46に差し込まれると、一対の係止部43,43によって形成されるレール部によって保持された状態となる。また、保持金具54は、金具本体40の下面側に配置された状態となる。
【0067】
一対の固定部3a,3bはそれぞれ、支持ボルト31と、スペーサー32と、ワッシャー33と、ナット34とを備えており、
図13に示すように支持ボルト31の下端部がボルト保持部2の両端近傍位置に形成されているボルト挿通孔44に挿通され、ボルト保持部2の平板部41の下面側に突出するように配置される。ボルト保持部2の平板部41の下面側に突出する支持ボルト31の突出量は、上述した第1及び第2実施形態よりも長く、支持ボルト31の先端(下端)は、ボルト保持部2の一対の係止部43,43の間を通り、ボルト保持部2の下方位置まで突出する。そしてボルト保持部2の下方位置まで突出する支持ボルト31の先端には、ワッシャー33とナット34とが装着される。尚、本実施形態では、支持ボルト31の下端に装着されるナット34として、ロングナット35が用いられる。また、筒状体として構成されるスペーサー32は、デッキプレート100の山部101とボルト保持部2の平板部41との間において、支持ボルト31を包囲するように配置される。このスペーサー32の長さは、ボルト保持部2の一対の平板部41が谷部102の下面に接合した状態において、平板部41の上面とデッキプレート100の山部101の下面との間隔に略一致する長さである。
【0068】
ロングナット35は、一対の壁部42,42の高さ寸法よりも長い寸法を有しており、ボルト保持部2の下方位置まで突出する支持ボルト31の先端に装着される。ロングナット35は、ボルト保持部2を一対の固定部3a,3bに締結固定するための締結部材である。締結部材としてロングナット35を用いることにより、ボルト保持部2の下面側の位置でロングナット35を締め付けることができるため、ロングナット35の締め付ける作業を効率的に行うことが可能である。例えば、締結部材として第1実施形態で示したような一般的なナット34を用いた場合、ナット34が金具本体40の平板部41と一対の係止部43,43との間の空間46に入り込んでしまうため、ナット34の締め付けを行うことが困難になる。これに対し、本実施形態では、ロングナット35を用いることで、ロングナット35の先端(下端)をボルト保持部2の下面側に突出させた状態で締め付け作業を行うことができるため、一般的な電動工具などを用いて作業を行うことが可能であり、簡単且つ効率的に締め付け作業を行うことができる。
【0069】
図15及び
図16は、本実施形態のボルト支持金具1をデッキプレート100に取り付けた状態を示す図であり、
図15は側面図を、
図16は斜め下方から視た斜視図を示している。
図15に示すように、ボルト支持金具1がデッキプレート100に取り付けられると、ボルト保持部2の平板部41が谷部102の下面に接合した状態となり、平板部41に形成される一対の係合部45,45が谷部102の両端部に係合した状態となっている。そのため、地震発生時においてボルト保持部2に水平方向(X方向)の力が作用しても、ボルト保持部2は、デッキプレート100に対して水平方向に変位することはない。
【0070】
また、スペーサー32は、ボルト保持部2の平板部41と山部101との間で突っ張った状態となるため、ロングナット35の過度な締め付けを防止することができ、ボルト保持部2が湾曲変形してしまうことを抑制することが可能である。
【0071】
また、ロングナット57が仮止め状態であるとき、ボルト装着部20を矢印F1方向にスライド移動させることが可能であるため、ボルト部材130の設置位置に適合するようにロングナット57の位置を調整することができる。そして位置調整が終了すると、ロングナット57を締め付けることにより、ボルト装着部20は、ボルト保持部2に対してスライド移動しない状態に固定される。このとき、ボルト53に作用する軸力によって係止板51が一対の係止部43,43に接合し、且つ、保持金具54の平板部が一対の壁部42,42の先端に接合した状態に固定される。ただし、ロングナット57を締め付けるだけでは、地震発生時にボルト装着部20が水平方向(X方向)に変位してしまう可能性がある。そのような変位を防止するためには、
図16に示すように、ロングナット57を締め付けた後に、ビス39を、保持金具54の保持壁55,55に設けられた孔55aに打ち込むことが好ましい。この場合、ビス39は、ボルト保持部2の壁部42,42を貫通するように打ち込まれるため、仮に地震が発生した場合であっても、ボルト装着部20が水平方向(X方向)に変位してしまうことを抑制することができる。その後、
図16に示すように、固定されたロングナット57の下面に開放されている螺子孔にボルト部材130を取り付けることにより、ボルト部材130は、デッキプレート100の谷部102又は谷部102の近傍位置から下方に垂下した状態に設置される。
【0072】
本実施形態においても、ボルト支持金具1は、一対の固定部3a,3bをデッキプレート100の谷部102ではなく、山部101に固定しているため、取付強度が低下しない。これにより、ボルト支持金具1は、十分な強度でボルト部材130を垂下させた状態に支持することができる。更に、本実施形態のボルト支持金具1を用いれば、従来のように複数のH形鋼を組み付けた構造体350を設置する必要がないため、従来よりも簡単かつ効率的にボルト部材130を設置することが可能である。
【0073】
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、
図9に示したデッキプレート100に対して好適に使用できるようにするため、第3実施形態で説明したボルト支持金具1の改良例を説明する。
【0074】
図17は、本実施形態におけるボルト支持金具1のボルト保持部2を示す斜視図であり、ボルト保持部2を斜め上方から視た図を示している。本実施形態のボルト保持部2は、金具本体40の平板部41に形成される係合部が第3実施形態と異なる。すなわち、本実施形態のボルト保持部2は、平板部41に設けられた2つのボルト挿通孔44,44の間であって、平板部41の中央に、平板部41の金属片を上方に折り曲げて形成した一対の係合部58,58を有している。これら一対の係合部58,58は、デッキプレート100の谷部102の中央に設けられる溝部107(
図9参照)の両端に係合し、ボルト保持部2が水平方向(X方向)に移動することを規制するストッパーとして機能する。そのため、一対の係合部58,58の水平方向(X方向)の長さD3は、デッキプレート100の谷部102の中央に設けられた溝部107の幅寸法と同じ長さであるか、又は、それよりも若干小さい長さに形成される。尚、ボルト保持部2のその他の点は、第3実施形態と同様である。
【0075】
図18は、デッキプレート100に対するボルト支持金具1の取付態様を示す側面図である。
図18に示すように、本実施形態のボルト支持金具1がデッキプレート100に取り付けられると、ボルト保持部2の平板部41に形成された係合部58,58が谷部102の中央に形成されている溝部107に嵌まり込んだ状態となり、係合部58,58の両端が溝部107の両端に係合する。そのため、地震発生時にボルト保持部2に水平方向(X方向)の力が作用したとしても、ボルト保持部2は、デッキプレート100の谷部102に対して相対変位することがない。
【0076】
そして第3実施形態と同様にしてロングナット25をボルト保持部2に固定した後、ロングナット25の下面側の螺子孔25aに対してボルト部材130を螺合装着することで、ボルト部材130をボルト支持金具1に取り付けることができる。これにより、ボルト部材130は、デッキプレート100の谷部102又は谷部102の近傍位置から垂下した状態に設置される。
【0077】
このように本実施形態のボルト支持金具1は、谷部102に形成されている溝部107に嵌合する係合部58,58を備えているため、仮に地震発生時にボルト保持部2に対して水平方向(X方向)の力が作用したとしても、ボルト保持部2がX方向に変位してしまうことを防止することができる。尚、本実施形態において上述した点以外については、第3実施形態で説明したものと同様である。
【0078】
(変形例)
以上、本発明に関する好ましい幾つかの実施形態を説明したが、本発明は、上記各実施形態において説明したものに限定されるものではない。すなわち、本発明には、上記各実施形態において説明したものに種々の変形例を適用したものも含まれる。
【0079】
また、上記実施形態では、ボルト支持金具1が支持するボルト部材130によって空気調和機150を天井空間に吊り下げる例を説明した。しかし、ボルト部材130が天井空間に吊り下げた状態で支持する天井吊り下げ物200は必ずしも空気調和機150に限られない。例えば、ボルト部材130は、各種配管やケーブル、ダクト、天井パネル、照明器具などの各種の機器や部材を天井空間に吊り下げた状態で支持することが可能である。
【0080】
また、上記実施形態では、ボルト支持金具1が、支持ボルト31の周囲を包囲するスペーサー32を備える場合を例示した。しかし、支持ボルト31の先端に装着されるナット34(ロングナット35)の締め付けトルクが比較的小さく、ボルト保持部2の湾曲変形が生じないことが予め分かっていれば、スペーサー32は特に設ける必要はない。ただし、例えばナット34(ロングナット35)の締め付けに電動工具が使用され、締め付けトルクが比較的大きくなり、ボルト保持部2の湾曲変形が生じる可能性がある場合にはスペーサー32を設けてボルト保持部2が湾曲変形してしまうことを抑制することが好ましい。
【0081】
また、上記第3及び第4実施形態では、ボルト保持部2がデッキプレート100の谷部102の下面に接合した状態においてボルト保持部2の水平方向(X方向)の移動を規制するストッパーとして、平板部41の金属片を上方に折り曲げることによって係合部45,45又は係合部58,58を形成する例を説明した。しかし、ストッパーは、上述したような係合部45,45(又は58,58)に限られるものではなく、例えば、平板部41の上面側に所定厚さを有する金属プレートなどを接合させたものであっても構わない。すなわち、ストッパーは、デッキプレート100の谷部102に係合してボルト保持部2の水平方向(X方向)の移動を規制できるものであれば、どのような構造のものを採用しても構わない。
【0082】
また、上記実施形態では、ボルト保持部2に設けられるボルト装着部20が水平方向にスライド可能である場合を例示した。しかし、ボルト装着部20は、ボルト保持部2に予め固定されており、水平方向にスライド移動しない構成を採用しても構わない。この場合、例えば、ボルト保持部2の複数箇所にボルト装着部20を設け、それら複数のボルト装着部20のうちから1つのボルト装着部20を選択してボルト部材130を取り付けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0083】
1…ボルト支持金具、2…ボルト保持部、3a,3b…固定部、10…金具本体、14…段差部(ストッパー)、18…ボルト挿通孔、20…ボルト装着部、29…突起部(ストッパー)、39…ビス(固定部材)、31…支持ボルト、32…スペーサー、34…ナット(締結部材)、35…ロングナット(締結部材)、40…金具本体、44…ボルト挿通孔、45…係合部(ストッパー)、58…係合部(ストッパー)、100…デッキプレート、101…山部、102…谷部、107…溝部、130…ボルト部材。
【要約】
【課題】デッキプレートの谷部又は谷部近傍位置からボルト部材を垂下させた状態に設置する作業を従来よりも簡単かつ効率的に行えるようにする。
【解決手段】ボルト支持金具1は、水平方向に山部101と谷部102が所定間隔で連続するデッキプレート100に取り付けられ、デッキプレート100の谷部102又は谷部102の近傍位置からボルト部材130を垂下させた状態に支持する。ボルト支持金具1は、水平方向(X方向)に沿って谷部102の下面に接合するように配置されると共に、水平方向の両端が谷部102の両側に位置する山部101,101の下方位置に延設され、ボルト部材130を垂下させた状態に保持するボルト保持部2と、ボルト保持部2の水平方向の両端に取り付けられ、ボルト保持部2を谷部102の両側に位置する山部101,101に固定する固定部3a,3bと、を備える構成である。
【選択図】
図1