(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】センサチップ及びその製造方法、分析装置、並びに分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220425BHJP
G01N 33/72 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
G01N27/416 300S
G01N33/72 A
G01N27/416 336G
(21)【出願番号】P 2018039978
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】礒田 隆聡
(72)【発明者】
【氏名】龍神 康大
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-117342(JP,A)
【文献】特開2009-264920(JP,A)
【文献】特表2016-517514(JP,A)
【文献】特開2018-004615(JP,A)
【文献】特開2013-113627(JP,A)
【文献】米国特許第05658444(US,A)
【文献】畑田耕一,国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集(日本語訳),高分子,Vol.47, No.9,1998年,pp.696-714
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - 27/49
G01N 33/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板に設けられた複数の電極対と、前記電極対の対向部を被覆する絶縁性の被膜と、を備えるセンサチップであって、
前記複数の電極対のうちの少なくとも2つにおける前記被膜は、互いに異なる厚みを有し、
検知対象成分と、当該検知対象成分の酸化還元反応に関与する反応基質と、を含有する試料の分析用であ
るセンサチップ。
【請求項2】
前記検知対象成分がヘモグロビンに由来する鉄錯体を含み、前記反応基質が過酸化水素を含む、請求項
1に記載のセンサチップ。
【請求項3】
基板と、前記基板に設けられた電極対と、前記電極対の対向部を被覆する絶縁性の被膜と、を備え、試料に含まれる検知対象成分を検知するセンサチップであって、
前記検知対象成分がヘモグロビンに由来する鉄錯体を含み、
前記試料が前記検知対象成分の酸化還元反応に関与する反応基質を含む、センサチップ。
【請求項4】
前記被膜が
、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、及びフォトレジストから選ばれる少なくとも一つを含む高分子膜である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項5】
前記被膜がソルビタンモノステアレートを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のセンサチップと、前記電極対と電気的に接続され、前記電極対の間の導電性の変化を検知する検知部と、を備える、分析装置。
【請求項7】
検知対象成分と、当該検知対象成分の酸化還元反応に関与する反応基質と、を含有する試料の分析用であるセンサチップの製造方法であり、
基板に設けられた複数の電極対の対向部に絶縁材料を含有する絶縁材料含有液を塗布する工程と、
前記絶縁材料含有液に含まれる溶媒を除去して、前記対向部を被覆する絶縁性の被膜を形成する工程と、を有し、
前記複数の電極対のうちの少なくとも2つにおける前記対向部には、前記絶縁材料の濃度が互いに異なる前記絶縁材料含有液をそれぞれ塗布する、センサチップの製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセンサチップと、前記電極対と電気的に接続され、前記電極対の間の導電性の変化を検知する検知部と、を備える分析装置を用いる分析方法であって、
前記被膜の厚みの相違に応じた検知結果に基づいて
前記検知対象成分を検知する工程を有する分析方法。
【請求項9】
請求項
7に記載の製造方法で得られるセンサチップを有する分析装置を用いる分析方法であって、
前記複数の電極対における
前記検知対象成分に対する感度の相違に基づいて、前記検知対象成分を検知する工程を有する分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサチップ及びその製造方法、分析装置、並びに分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体液中に含まれる抗原及び抗体等の成分の濃度を電圧変化又は電流変化に基づいて検知可能な溶液成分センサが知られている。例えば、特許文献1では、基板と、基板上に所定の間隔をおいて配置された電極対と、電極対の表面および電極対間の基板の表面を被覆し感応物質を分散保持した絶縁膜を備える溶液成分センサが開示されている。
【0003】
特許文献2では、基板と、当該基板上に所定間隔をおいて配置した一組の電極と、絶縁性の固体粒子が分散媒に分散され一組の電極の各々を繋ぐ流動体及び被検体液を保持可能である絶縁性の流動体保持部と、を有する測定装置が開示されている。この測定装置の流動体保持部に、分散媒中に絶縁性の個体粒子が分散された被検体液を保持させて、電圧及び電流を測定し、被検体液中の所望の成分を分析する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-134105号公報
【文献】特開2013-113627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶液成分センサ等の分析装置は、検知対象成分を高精度に分析可能であることが望ましい。しかしながら、例えば、懸濁している場合、又は、固形物が含まれている場合等は、検知対象成分を高い精度で検知することが困難になり易い。そこで、本開示は、一つの側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能なセンサチップ及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示は、別の側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能な分析装置を提供することを目的とする。本開示は、さらに別の側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能な分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一つの側面において、基板と、基板に設けられた複数の電極対と、電極対の対向部を被覆する絶縁性の被膜と、を備えるセンサチップであって、複数の電極対のうちの少なくとも2つにおける被膜は、互いに異なる厚みを有するセンサチップを提供する。
【0007】
上記センサチップは、複数の電極対のうちの少なくとも2つにおける被膜は、互いに異なる厚みを有する。被膜の厚みが異なる複数の電極対は、被膜の厚みの違いに起因して、検知対象成分に対する感度が互いに異なることとなる。このような感度の相違を利用することによって、検知対象成分を高い精度で検知することができる。上記センサチップは、試料が、例えば、検知対象成分以外の成分を多く含有する場合、又は、固体と液体の懸濁物である場合に特に有用である。
【0008】
上記被膜に被覆された複数の電極対の対向部は、基板上において検知対象成分を保持する収容部に配置されていてもよい。これによって、例えば試料の流動性が高い場合も十分に高い精度で検知対象成分を検知することができる。
【0009】
基板上に設けられた複数の電極対の対向部を被覆する被膜は、互いに異なる厚みを有していてもよい。例えば、被膜の厚みが互いに異なる3つ以上の電極対を備えることによって、検知対象成分を一層高い精度で検知することができる。
【0010】
上記センサチップは、検知対象成分と、当該検知対象成分の酸化還元反応に関与する反応基質と、を含有する試料の分析用であってもよい。検知対象成分はヘモグロビンに由来する鉄錯体を含み、反応基質が過酸化水素を含んでもよい。これによって、検知対象成分を十分に高い精度で検知することができる。
【0011】
本開示は、別の側面において、基板と、基板に設けられた電極対と、電極対の対向部を被覆する絶縁性の被膜と、を備え、試料に含まれる検知対象成分を検知するセンサチップであって、検知対象成分が鉄錯体を含み、試料が検知対象成分の酸化還元反応に関与する反応基質を含む、センサチップを提供する。このようなセンサチップは、鉄錯体と反応基質との酸化還元反応を利用するため、高い精度で検知対象成分を検知することができる。
【0012】
被膜は高分子膜であってもよい。高分子膜は、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、及びフォトレジストから選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。被膜は、ソルビタンモノステアレートを含んでいてもよい。これによって、検知対象成分を一層高い精度で検知することができる。
【0013】
本開示は、さらに別の側面において、上述のいずれかのセンサチップと、電極対と電気的に接続され、電極対の間の導電性の変化を検知する検知部と、を備える、分析装置を提供する。この分析装置は、上述のセンサチップのいずれかを備えることから、検知対象成分を高い精度で検知することができる。電極対は一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0014】
本開示は、さらに別の側面において、基板に設けられた複数の電極対の対向部に絶縁材料を含有する絶縁材料含有液を塗布する工程と、絶縁材料含有液に含まれる溶媒を除去して、対向部を被覆する絶縁性の被膜を形成する工程と、を有し、複数の電極対のうちの少なくとも2つにおける対向部には、前記絶縁材料の濃度が互いに異なる前記絶縁材料含有液をそれぞれ塗布する、センサチップの製造方法を提供する。
【0015】
上記センサチップの製造方法では、絶縁材料の濃度が互いに異なる絶縁材料含有液を、複数の電極対うちの少なくとも2つにおける対向部にそれぞれ塗布して被膜を形成している。このようにして得られるセンサチップは、複数の電極対うちの少なくとも2つにおいて、検知対象成分に対する感度が異なる。この感度の相違を利用することによって、検知対象成分を高い精度で検知することができる。上記センサチップは、試料が、例えば、検知対象成分以外の成分を多く含有する場合、又は、固体と液体の懸濁物である場合に特に有用である。
【0016】
本開示は、さらに別の側面において、上述の分析装置を用いる分析方法であって、被膜の厚みの相違に応じた検知結果に基づいて検知対象成分を検知する工程を有する分析方法を提供する。この分析方法では、上述の分析装置を用いていることから、高い精度で検知対象成分を検知することができる。検量線等を利用することによって、定量分析を行うこともできる。
【0017】
本開示は、さらに別の側面において、上述の製造方法で得られるセンサチップを有する分析装置を用いる分析方法であって、複数の電極対における検知対象成分に対する感度の相違に基づいて、検知対象成分を検知する工程を有する分析方法を提供する。この分析方法では、上述の製造方法で得られるセンサチップを有する分析装置を用いていることから、複数の電極対うちの少なくとも2つの対向部では、検知対象成分に対する感度が相違する。この感度の相違に基づいて、高い精度で検知対象成分を検知することができる。
【発明の効果】
【0018】
一つの側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能なセンサチップ及びその製造方法を提供することができる。本開示は、別の側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能な分析装置を提供することができる。本開示は、さらに別の側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能な分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、センサチップ及びこれを備える分析装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る分析装置に備えられるセンサチップと検知部の機能的な関係を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、被膜の厚さと検知部から出力される信号の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1-1の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【
図7】
図7は、実施例1-2の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【
図8】
図8は、実施例1-5の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【
図9】
図9は、実施例1-6の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【
図10】
図10は、実施例1-7の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【
図11】
図11は、実施例1-8の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【
図12】
図12は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(ポリ塩化ビニル濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(フォトレジスト濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、収容部に滴下し
た溶液におけ
るソルビタンモノステアレート濃
度と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(エチルセルロース濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(コレステロール濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(エチルセルロース濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
【
図18】
図18には、血液濃度と相関式の傾きの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照して、本開示のセンサチップ及びその製造方法、分析装置、並びに分析方法の幾つかの実施形態を以下に説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0021】
図1は、センサチップ及びこれを備える分析装置の一実施形態を示す模式図である。
図1の分析装置100は、センサチップ10と、センサチップ10に設けられた電極対12の間の導電性を検知するように構成される検知部20と、電極対12と検知部20とを電気的に接続する導線30とを備える。分析装置100は、溶液分析装置と称されることもある。本開示における電極対12は、一対の電極で構成され、一対の電極の先端が互いに対向するように配置される。
【0022】
センサチップ10は、基板11と、基板11の上に設けられた5つの電極対12(電極対12A,12B,12C,12D,12E)と、基板11上において検知対象成分を保持する5つの収容部15(収容部15A,15B,15C,15D,15E)とを有する。
【0023】
電極対12は、収容部15に配置される対向部12aと、基板11の端部から対向部12aに延在する基端部12bを有する。対向部12aは、一対の電極が互いに対向する部分である。当該部分は、電極対12の先端部に相当する。基端部12bは、導線30を介して検知部20に接続されている。電極対12の対向部12a同士は、収容部15において互いに対向するように離れて設けられている。電極対12の一方が正極として機能し、他方が負極として機能する。検知部20は、電極対12の対向部12a同士の間の導電性を検知できるように構成される。
【0024】
基板11は、少なくとも表面が絶縁性であることが好ましく、例えば、無機材料及び/又は有機材料で構成される。無機材料としては、例えば、ガラス、水晶、窒化ケイ素、ダイアモンド、及び陶器等のセラミックスが挙げられる。有機材料としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂、生分解性プラスチック、紙、及び木材等が挙げられる。基板11の形状は、特に限定されない。基板11は、例えば、平面視で四角形などの多角形であってもよいし、円形であってもよい。
【0025】
電極対12は、導電性を有する材料で構成される。そのような材料としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Au、Ag、Pt、Mo、Ru、Ir及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む金属、又は少なくとも二種以上を含む合金が挙げられる。電極対12は、リン又は硫黄をドープしたシリコン等の半導体材料によって構成されていてもよい。電極対12は、例えばスパッタリングで金属膜を形成した後、エッチングすることによって所定の形状に加工して形成される。
【0026】
図2は、
図1のII-II線断面図である。すなわち、
図2は収容部15B及びその近傍を、電極対12Bの対向方向に平行、且つ電極対12Bを通る面で、センサチップ10を厚さ方向に沿って切断したときの断面を模式的に示す断面図である。なお、
図2には、検知部20とセンサチップ10との機能的な関係の理解を容易にするために、検知部20と導線30も併せて示している。センサチップ10は、試料14の分析に用いられる。試料14の内部には、試料14が検知対象成分として鉄錯体を含む場合に進行する化学反応の一例(フェントン反応)を、理解を容易にするために示している。
【0027】
基板11上には、電極対12B及び絶縁膜13がこの順で積層されている。すなわち、電極対12Bと絶縁膜13は、収容部15Bの側壁をなしている。収容部15Bにおいて電極対12Bの対向部12aは、収容部15Bにおいて露出しないように、絶縁性の被膜18Bで被覆されている。すなわち、試料14と電極対12Bの対向部12aとが直接接触しないように、対向部12aは被膜18Bによって被覆されている。電極対12Bの対向部12aを被膜18Bで覆うことによって、試料14に不純物等が含まれている場合に不純物によるノイズを低減することができる。
【0028】
絶縁膜13は、例えば、絶縁性を有する樹脂等の材料で構成される。樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ノボラック樹脂、及びアクリル樹脂等が挙げられる。このような樹脂をフォトリソグラフィ技術によって膜状又はシート状に成形することによって絶縁膜13を形成することができる。絶縁膜13の表面は、表面処理が施されていてもよい。
【0029】
絶縁膜13の厚みは、好ましくは10μm以上である。これによって、撥水性を十分に高くして、試料14を液滴状に維持し易くすることができる。電極対12Bの厚みは、例えば10μm以上である。
【0030】
絶縁性の被膜18Bは、電極対12Bとは導電性が異なる。被膜18Bの材料としては、膜厚が制御されたコーティングが容易に形成可能であり、コーティングした被膜18Bが安定した絶縁性能を有するものを用いることが好ましい。そのような材料としては、高分子材料、ゴム、脂質(油脂)、無機材料等が挙げられる。
【0031】
被膜18Bは、高分子を含む高分子膜であってもよい。高分子膜は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、フォトレジスト、コレステロール、セルロース(セロファン)、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びポリビニルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。被膜18Bは、ステアリン酸、エルカ酸アミド、及びソルビタンモノステアレートからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。これらのうち、検知対象成分の検知精度を一層高くする観点から、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ソルビタンモノステアレート及びフォトレジストからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでもよい。
【0032】
被膜18Bは、ゴムとして、天然ゴム及びラテックスからなる群より選ばれる少なくとも一方を含んでもよい。被膜18Bは、脂質として、バター、マーガリン、パーム油、ラード、ヘット(常温で固体の油脂)、リン脂質、糖脂質、リポタンパク、脂肪族アルコール、重油、タール、ワックス及びロウからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでもよい。被膜18Bは、無機材料として、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス、SiO2、SiOF、SiOC、Si3N4、SiC、Al2O3、AlN、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ダイアモンド及びサファイアからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでもよい。
【0033】
被膜18Bは、収容部15Bにおいて、基板11、電極対12B及び絶縁膜13の表面を一体的に覆うように吸着している。ただし、被膜18Bは、基板11及び絶縁膜13の表面を被覆していなくてもよい。電極対12Bの間の導電性の変化を高い精度で検知できるようにする観点から、収容部15Bにおいて、電極対12Bが露出しないように電極対12Bが被膜18Bによって被覆されていることが好ましい。
【0034】
電極対12Bの対向部12aを被覆する被膜18Bの厚みHBは、均一でなくてよく、不均一であってよい。被膜18Bの厚みHBは、絶縁材料の種類により異なるが、電極対12Bで10~5000mVの電気信号強度が得られる厚みであることが好ましい。被膜18Bが高分子膜のとき、厚みHBは好ましくは1~50μmで、より好ましくは2~10μmである。厚みHBがこの範囲より小さいと、外乱信号を拾って検知対象成分の検知精度が低下する傾向にある。一方、厚みHBがこの範囲より大きいと、検知対象成分の検知が困難となる場合がある。被膜18Bの厚みHBの算術平均値は、例えば、1~50μmの範囲内にあってよい。
【0035】
被膜18Bの厚みH
Bは、以下のとおりにして測定することができる。すなわち、センサチップ10を破断して、
図2のような断面を得る。この断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察する。観察画像において、任意に選択した3箇所で被膜18Bの厚みH
Bを測定する。測定した厚みH
Bから、算術平均値と標準偏差を求めることができる。被膜18Bの厚みH
Bの標準偏差は、例えば2μm以下であってよい。被膜18Bの厚みのばらつきは小さい方が好ましく、例えばCV値が50%以下であってよい。CV値(%)は、以下の計算式で求めることができる。
CV値(%)=(標準偏差/算術平均値)×100
【0036】
収容部15Bに収容される試料14(検体)としては、血液、尿、便、体液、動植物の組織、細胞、汚水及び廃液等が挙げられる。試料14に含まれる検知対象成分としては、電解質が例示され、より具体的には、錯体が挙げられる。錯体としては、遷移金属に配位子が配位したものが挙げられる。遷移金属は、例えば、新IUPACの周期表において、5~11族に属する遷移金属元素を含んでいてもよく、8~10族に属する遷移金属元素を含んでいてもよい。これらのうち、感度を十分に高くする観点から、鉄族元素(Fe,Co,Ni)を含むことが好ましく、鉄錯体を含むことがより好ましい。錯体は一種であってもよいし、二種以上の混合物であってもよい。分析装置100は、例えば、試料14に上述の検知対象成分が含まれるか否かを検知したり、検知対象成分の濃度を求めたりすることができる。
【0037】
試料14は、検知対象成分の酸化還元反応に関与する反応基質を含有することが好ましい。反応基質としては、過酸化水素、溶存酸素、過マンガン酸カリウム、塩素、ニクロム酸カリウム、希硫酸、二酸化硫黄等の酸化剤、及び、シュウ酸、溶存水素、硫化水素、塩化スズ、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム等の還元剤が挙げられる。
【0038】
試料14が血液を含む場合、血液中の酵素を失活させるため、試料14に硫酸を加えることが好ましい。これによって、試料14が血液を含む場合であっても、検知対象物質を一層高い精度で検知することができる。
【0039】
試料14に含まれる検知対象成分(
図2では3価の鉄イオンを例示)は、負電極(
図2では電極対12Bのうち左側の電極)から電子を受け取り、還元状態(
図2では2価の鉄イオン)となる。これとともに反応基質(
図2では過酸化水素)が分解し、電子を受け取り、正電極(
図2では電極対12Bのうち右側の電極)へ電子を受け渡す。検知対象成分(
図2では2価の鉄イオンを例示)は酸化され、再び負電極で還元される。このようにして電極対12B間で電子の授受が起こり、検知部20で検知される信号が得られる。
【0040】
図3は、
図1のIII-III線断面図である。すなわち、
図3は収容部15C及びその近傍を、電極対12Cの対向方向に平行、且つ電極対12Cを通る面で、センサチップ10を厚さ方向に沿って切断したときの断面を模式的に示す断面図である。
【0041】
図2と同様に、電極対12Cと絶縁膜13は、収容部15Cの側壁をなしている。収容部15Cにおいて電極対12Cの対向部12aは、絶縁性の被膜18Cで被覆されている。収容部15Cは、収容部15Bと同様の構造を備えるが、電極対12Cの対向部12aを被覆する被膜18Cの厚みH
Cが被膜18Bの厚みH
Bよりも小さくなっている。厚みH
Cの算術平均値は、厚みH
Bの算術平均値よりも小さく、例えば、0.1~10μmである。被膜18Cの厚みH
Cも、被膜18Bの厚みH
Bと同様にして測定することができる。
【0042】
電極対12Cの対向部12aを被覆する被膜18Cの厚みHCは、被膜18Bと同様に、均一でなくてよく、不均一であってよい。この場合、厚みHCの算術平均値が、厚みHBの算術平均値よりも小さくなっていればよい。厚みHCの算術平均値及び標準偏差は、HBの算術平均値の標準偏差と同じ方法で求めることができる。被膜18Bの厚みHBの標準偏差は、例えば2μm以下であってよい。被膜18Cの厚みのばらつきは小さい方が好ましく、例えばCV値が50%以下であってよい。
【0043】
電極対12Cの対向部12aを被覆する被膜18Cの厚みHCの最大値が、電極対12Bの対向部12aを被覆する被膜18Bの厚みHBの最小値よりも小さいことが好ましい。これによって、被膜18Bと被膜18Cの厚みの相違による導電性の相違が大きくなり、検知対象成分の検知精度を一層高くすることができる。
【0044】
本実施形態では、5つの電極対12のうち、少なくとも、電極対12B及び電極対12Cの対向部12aを被覆する被膜18B及び被膜18Cの厚みが互いに異なっている。本開示において、異なる電極対の対向部における被膜の厚みの異同は、それぞれの断面で測定される3点の厚みの算術平均値で判断される。
【0045】
センサチップ10が備える5つの電極対12A,12B,12C,12D,12Eの対向部12aを被覆する被膜の厚みを、それぞれ、HA,HB,HC,HD,HEとしたとき、HA,HB,HC,HD,HEは、全て互いに相違していてもよいし、一部が同一であってもよい。すなわち、HA>HB>HC>HD>HEの関係であってもよいし、HA=HB>HC=HD=HEであってもよい。すなわち、5つの電極対12A~12Eの少なくとも二つの対向部12aを被覆する被膜の厚みが、互いに異なっていればよい。このように対向部12aを被覆する被膜の厚みが異なることによって、検知対象成分に対する感度を異ならせることができる。この検出感度の相違を利用することによって、検知対象成分を高い精度で検知することができる。
【0046】
図4は、分析装置100に備えられるセンサチップ10と検知部20の機能的な関係を示すブロック図である。検知部20は、導線30を介してセンサチップ10の各電極対12A~12Eと電気的に接続されている。検知部20は、回路部23と、制御部21とを備える。回路部23は、電圧測定部24、電流測定部26、及び電源部28を有しており、これらは導線を介して互いに電気的に接続されている。
【0047】
電源部28は、センサチップ10の電極対12に対して所定の電圧を印加する。印加する電圧の大きさは、例えば制御部21によって制御される。電圧測定部24は、電極対12間の抵抗に基づく検出電圧を制御部21に出力するように構成される。電流測定部26は、回路部23における電流の大きさを検出し、検出電流を制御部21に出力するように構成される。制御部21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェイス及び演算結果を表示する表示部等を備える。
【0048】
制御部21は、入出力インターフェイスを介して入力される回路部23からの電圧情報及び電流情報に基づいて、各電極対12間の導電性に関する情報をそれぞれ算出する。導電性に関する情報は抵抗値であってもよいし、電圧値又は電流値であってもよい。制御部21は、導電性に関する情報に基づいて、検知対象成分の有無を判定するプログラム、又は、検知対象成分の濃度を算出するプログラムを有していてもよい。例えば、制御部21は、電極対12A~12Eの電流値又は電圧値の差異に基づいて、検知対象成分の有無又は検知対象成分の濃度を算出することができる。
【0049】
検知部20の構成は上述の例に限定されず、電極対12の間の導電性の変化を検知できるものを適宜用いることができる。
【0050】
分析装置100によれば、試料14に含まれる検知対象成分の有無、又は検知対象成分の濃度を高い精度で分析することができる。分析装置100は、例えば、収容部15に検知対象成分を含む試料14を所定量滴下するだけの作業で検知対象成分の濃度を測定できることから、測定者の技量によらず、高い再現性を実現することができる。
【0051】
以上、分析装置の幾つかの実施形態を説明したが、分析装置は上述のものに限定されない。例えば、
図2及び
図3の分析装置100において、被膜18(18B,18C)は、収容部15の中央部を被覆せず、収容部15における電極対12の対向部12aの露出面のみを被覆するように設けられていてもよい。
【0052】
被膜18B,18Cが同じ厚みを有し、電極対12A,12D,12Eの対向部を覆う被膜の少なくとも一つが他の被膜と異なる厚さを有してもよい。分析装置100における電極対12及び収容部15の数は5個に限定されるものではなく、2~4個であってもよいし、6個以上であってもよい。基板11、電極対12及び収容部15は、図示の形状に限定されない。例えば、電極対は、
図1のような略L字状ではなく直線状であってもよいし、曲線状であってもよい。センサチップにおいて、絶縁膜の方が電極対よりも収容部の中心に向かって延在していてもよい。
【0053】
一実施形態に係るセンサチップの製造方法は、絶縁材料の濃度が互いに異なる複数の絶縁材料の含有液を調製する工程と、基板に設けられた複数の電極対の対向部に、絶縁材料を含む絶縁材料含有液を塗布する工程と、当該含有液に含まれる溶媒を除去して、上記対向部を被覆する被膜を形成する工程と、を有する。
【0054】
上記製造方法では、基板に設けられた複数の電極対の対向部に絶縁材料を含む絶縁材料含有液を塗布する工程において、複数の電極対のうちの少なくとも2つにおける対向部には、絶縁材料の濃度が互いに異なる絶縁材料含有液をそれぞれ塗布して絶縁性の被膜を形成する。これによって、複数の電極対のうちの少なくとも2つの対向部に厚みが異なる被膜を形成することができる。ここで、「塗布」とは、例えば、スプレー、滴下、又はディッピング等の方法で電極対の対向部に被膜を形成する方法である。絶縁材料含有液は、例えば、有機溶媒と有機溶媒中に溶解又は分散された絶縁材料を含む。絶縁材料としては、高分子材料、ゴム、脂質(油脂)、無機材料等が挙げられる。これらの絶縁材料の具体例は、上述の被膜18Bの説明において挙げたとおりである。絶縁材料含有液における絶縁材料の濃度は、例えば、0.5~5重量%である。
【0055】
上記製造方法によって得られるセンサチップは、例えば、
図1~
図3に示されるセンサチップ10であってよい。センサチップ10の構造及び機能は上述したとおりである。本実施形態の製造方法で得られるセンサチップは、複数の電極対を覆う被膜の厚みの違いに起因して、検知対象成分の感度を異ならせることができる。この感度の相違に基づいて、検知対象成分を高い精度で検知することができる。このようなセンサチップは、試料が、例えば、検知対象成分以外の成分を多く含有する場合、又は、固体と液体の混合物である場合に特に有用である。
【0056】
一実施形態に係る分析方法は、センサチップ10と検知部20を備える分析装置100を用いて実施することができる。この分析方法は、検知対象成分に対する電極対12B,12Cの感度の相違に基づいて検知対象成分を検知する工程を有する。この分析方法では、感度の相違に基づいていることから、例えば、試料が固体と液体の混合物であっても高い精度で検知対象成分を検知することができる。
【0057】
分析方法の一例では、収容部15A,15B,15C,15D,15Eに、検知対象成分と反応基質とを含有する所定量の試料を滴下する。各収容部に設けられた電極対12の対向部12aにおける被膜の厚さが互いに異なると、検知対象成分に対する感度が互いに異なることとなる。通常は、被膜の厚さが大きくなるにつれて、検知対象成分に対する感度は低くなる。
【0058】
図5は、被膜の厚さと検知部から出力される信号の関係を示す図である。横軸は被膜の厚さを示し、縦軸は信号(例えば、電圧値又は電流値)を示す。
図5に示されるとおり、通常は、被膜の厚さが大きくなるにつれて、検知対象成分に対する感度が低くなることから、一次回帰分析によって右肩下がりの直線を描くことができる。回帰式に基づいて、以下の比例関係を導くことができる。
信号強度∝(被膜の厚み)×α
【0059】
検知対象成分の濃度に応じて、
図5に示される直線の傾きが変化する被膜を選択すれば、その傾きに応じて検知成分の濃度を求めることができる。そのような被膜として、例えば、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ソルビタンモノステアレート、フォトレジスト及びコレステロールが挙げられる。
【0060】
例えば、
図5の直線A(傾き:α)は、検知対象成分の濃度がx重量%のときの関係を示し、直線B(傾き:β)は、検知対象成分の濃度がy重量%のときの関係を示す(x>y)。検知対象成分の濃度と直線の傾きの相関関係を予め調べておき、制御部21において当該関係を記憶しておいてもよい。そして、試料の分析によって求められた傾きと制御部21に記憶された相関関係とに基づいて、試料に含まれる検知対象成分の濃度を求めてもよい。このような分析方法によれば、例えば、血液中に含まれるヘモグロビン由来の鉄錯体をはじめ、唾液、汗、タン、尿、便、体液、動植物の組織、細胞、汚水、及び廃液等に含まれる電解質を高い精度で検出することができる。また、被検体が均一な液体でない場合は、混合により均一化の前処理をすることにより、検知対象成分の測定精度を高めてもよい。
【0061】
上述のとおり、本開示は、幾つかの側面において、特定の検知対象成分を検知できる分析装置及びこれを用いた分析方法を提供することができる。上記実施形態のような電極チップ型のセンサは、半導体製造方法で小型、量産化できるため、各個人が、いつでも、どこでも生体内情報をモニターしたり、大腸がん、潜血便、及び成人病の検査をしたりすることができる。このため、病気の早期発見が可能となる。
【0062】
近年、電化製品、スマートフォン、自動車、及び社会インフラなどに搭載されている様々なセンサの信号を無線でインターネットに接続して情報収集するIoT(Internet of things:あらゆる物のインターネット化)技術が注目されている。IoTの実現によって、遠隔で多種多様な機器のデータのやりとり及び制御が可能となる。さらに収集した膨大なビックデータの解析で、様々な現象の予測に利用可能となることが期待されている。
【0063】
上述の分析装置は、検出信号をWi-Fi等の近距離無線でインターネットに接続する端末としても利用することができる。このような無線型のバイオセンサは、ヒトの生体内又は排泄物の情報を収集して健康状態を遠隔から診断したり、病気の予兆を検知したりする遠隔医療への利用が期待される。
【0064】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、別の実施形態のセンサチップは、電極対を一つのみ備えるものであってもよい。一つの電極対は、
図2に示す電極対12Bであってもよいし、
図3に示す電極対12Cであってもよい。電極対が一つのみであっても、
図2,
図3に示されるような鉄錯体と反応基質(過酸化水素)との酸化還元反応によって、検知対象成分である鉄錯体を高い精度で検知することができる。
【実施例】
【0065】
実施例を参照して、本開示の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
図1~
図4に示すような分析装置を作製した。具体的には、ガラス基板と、ガラス基板上に設けられるクロム製の電極対と、電極対の上面を覆う樹脂製の絶縁膜と、基板上において電極対及び絶縁膜で形成される収容部と、を備える市販のセンサチップ(アルバック成膜株式会社製、商品名:ウェルセンサ5)を準備した。センサチップは、5組の電極対と5つの収容部を有していた。
【0067】
表1に示す4種類の高分子、ソルビタンモノステアレート、ステアリン酸、及びエルカ酸アミド(以下、纏めて高分子等という)を準備して所定濃度の高分子溶液(高分子等の溶液)を調製した。高分子等を溶解するための溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)を用いた。ポリ塩化ビニル、エチルセルロース、コレステロールは、和光純薬製の試薬を用いた。フォトレジストは、東京応化工業株式会社製のポジ型レジストを用いた。
【0068】
【0069】
実施例1-1では、上述のセンサチップの収容部(ウェル)に、ポリ塩化ビニル溶液(ポリ塩化ビニルの濃度:1.2重量%)を2μL滴下した。室温で5分間の減圧乾燥を行った後、100℃のホットプレートに5分間載置して乾燥を行った。これによって、電極対の対向部を被覆するポリ塩化ビニルの膜を形成した。その後、センサチップの裏側からヤスリで傷を入れ、
図2,3に示すような断面を得た。走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用いて断面を観察した。観察画像において、電極対の対向部を被覆する被膜の厚みを、任意に選択した3箇所において測定し算術平均値と標準偏差を求めた。結果は、表1に示すとおりであった。また、表1には、CV値(%)=100×(標準偏差/平均値)も併せて示した。
【0070】
実施例1-1と同様にして、表1に示す各高分子等の溶液を用いて、電極対の対向部を被覆するように被膜を形成した。実施例1-1と同様にして、被膜の厚みの算術平均値、標準偏差及びCV値を求めた。結果は、表1に示すとおりであった。各高分子等において、高分子等の濃度を変えることで、厚みが異なる被膜が形成されることが確認された。
【0071】
各高分子等の中でも、ポリ塩化ビニル及びフォトレジストは、被膜の厚みが、高分子溶液における高分子濃度に大きく依存することが確認された。一方、ソルビタンモノステアレート及びエチルセルロースについては、被膜の厚みが、溶液におけるソルビタンモノステアレート及びエチルセルロースの濃度に殆ど依存しないことが確認された。エチルセルロースは、高分子溶液中の高分子濃度が高い方(実施例1-8)が、低い方(実施例1-7)よりも膜厚の平均値が小さかった。これは、エチルセルロースの膜厚が、高分子溶液中の高分子濃度に対する依存性が低いことを示している。ただし、実施例1-8の方が、実施例1-7よりも緻密な被膜が形成されていた。このため、実施例1-8の被膜の方が実施例1-7の被膜よりも高い絶縁性を有していると考えられる。ソルビタンモノステアレートを用いた実施例1-5と実施例1-6も同様の傾向がみられた。このように、高分子等の溶液における高分子等の濃度を大きく変えることで、絶縁性が異なる被膜を形成することができる。
【0072】
図6は、実施例1-1の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線と被膜の厚みの測定値を記入した図である。測定値のうち「cm」単位で表記されている値は画像の写真におけるサイズであり、これを実際の厚みに変換した値を「μm」単位で表1に示している。
図7以降の写真についても同様である。
【0073】
図7は、実施例1-2の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
図8は、実施例1-5の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
図9は、実施例1-6の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【0074】
図10は、実施例1-7の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
図11は、実施例1-8の走査型顕微鏡による断面写真に電極対と被膜の境界線を記入した図である。
【0075】
ポリ塩化ビニル、フォトレジスト、ソルビタンモノステアレート、又はエチルセルロースを用いて形成した被膜は、ステアリン酸、エルカ酸アミド又はコレステロールを用いて形成した被膜よりも緻密であった。また、緻密な被膜を形成できるものの方が、厚みのばらつきが小さくなる傾向にあった。
【0076】
(実施例2)
実施例1で用いた高分子溶液を用いて、5つの電極対が互いに異なる膜厚を有する被膜で被覆されたセンサチップを作製した。作製したセンサチップを用いた分析装置によって、各試料の電圧値の測定を行った。センサチップの作製手順及び測定手順の詳細は以下のとおりである。
【0077】
<実施例2-1>
ポリ塩化ビニルの濃度が互いに異なる5種類の高分子溶液(ポリ塩化ビニル濃度:1.2~2.0重量%、溶媒:テトラヒドロフラン(THF))を調製した。実施例1で用いた市販のセンサチップの5個の収容部に、調製した5種類の高分子溶液をそれぞれ2μLずつ滴下した。室温で5分間の減圧乾燥を行った後、100℃のホットプレートに5分間載置して乾燥を行った。これによって、5つの電極対が互いに異なる膜厚を有するポリ塩化ビニルの膜で被覆されたセンサチップを得た。
【0078】
得られたセンサチップを蒸留水に5分間浸漬した後、水分を除去した。その後、センサチップを、検知部を有するセンサ導電度測定器(バイオセンサモジュール2010モデル、アーズ株式会社製)に装着して分析装置とした。
【0079】
ヘモグロビンを蒸留水で希釈して、ヘモグロビン濃度が以下のとおりである試料1~4を準備した。
試料1:ヘモグロビン濃度:0(比較:蒸留水)
試料2:ヘモグロビン濃度:2.5×10-7M(Fe濃度:1.0×10-6M)
試料3:ヘモグロビン濃度:2.5×10-5M(Fe濃度:1.0×10-4M)
試料4:ヘモグロビン濃度:2.5×10-3M(Fe濃度:1.0×10-2M)
【0080】
試料1~4には、試料と過酸化水素水(H2O2濃度:0.3重量%)とを1:1の重量比でそれぞれ混合した。上述のとおり作製した分析装置の各収容部(ウェル)に、過酸化水素水を混合した試料1を7μLそれぞれ滴下して、電圧値を計測した。計測後、蒸留水で洗浄し、試料2について同様に電圧値を計測した。その後、試料3,4についても同様の測定を行った。結果は、表2に示すとおりであった。
【0081】
図12は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(ポリ塩化ビニル濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
図12には、一次回帰分析に基づく直線、相関式及び相関係数も併せて示している。相関式の傾き(小数点第1位で四捨五入)を表2にも併せて示した。表2及び
図12に示されるとおり、ヘモグロビン濃度(Fe濃度)に応じて、相関式の傾きが変化することが確認された。
【0082】
【0083】
<実施例2-2>
ポリ塩化ビニルの溶液に代えて、フォトレジストの溶液(高分子濃度:0.1~2.0重量%)を用いたこと以外は実施例2-1と同様にしてセンサチップを作製し、分析装置を得た。そして、実施例2-1と同様にして、試料1~4の電圧値を測定した。結果は、表3に示すとおりであった。
【0084】
図13は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(フォトレジスト濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
図13には、一次回帰分析に基づく直線、相関式及び相関係数も併せて示している。相関式の傾き(小数点第1位で四捨五入)を表3にも併せて示した。表3及び
図13に示されるとおり、ヘモグロビン濃度(Fe濃度)に応じて、相関式の傾きが変化することが確認された。
【0085】
【0086】
<実施例2-3>
ポリ塩化ビニルの溶液に代えて、ソルビタンモノステアレートの溶液(濃度:0.1~1.0重量%)を用いたこと以外は実施例2-1と同様にしてセンサチップを作製し、分析装置を得た。そして、実施例2-1と同様にして、試料1~4の電圧値を測定した。結果は、表4に示すとおりであった。
【0087】
図14は、収容部に滴下した
ソルビタンモノステアレートの溶液におけ
るソルビタンモノステアレー
ト濃度と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
図14には、一次回帰分析に基づく直線、相関式及び相関係数も併せて示している。相関式の傾き(小数点第1位で四捨五入)を表4にも併せて示した。表4及び
図14に示されるとおり、ヘモグロビン濃度(Fe濃度)に応じて、相関式の傾きが変化することが確認された。
【0088】
【0089】
<実施例2-4>
ポリ塩化ビニルの溶液に代えて、エチルセルロースの溶液(高分子濃度:0.1~1.0重量%)を用いたこと以外は実施例2-1と同様にしてセンサチップを作製し、分析装置を得た。そして、実施例2-1と同様にして、試料1~4の電圧値を測定した。結果は、表5に示すとおりであった。
【0090】
図15は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(エチルセルロース濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
図15には、一次回帰分析に基づく直線、相関式及び相関係数も併せて示している。相関式の傾き(小数点第1位で四捨五入)を表5にも併せて示した。表5及び
図15に示されるとおり、ヘモグロビン濃度(Fe濃度)に応じて、相関式の傾きが変化することが確認された。
【0091】
【0092】
<実施例2-5>
ポリ塩化ビニルの溶液に代えて、コレステロールの溶液(高分子濃度:0.1~1.0重量%)を用いたこと以外は実施例2-1と同様にしてセンサチップを作製し、分析装置を得た。そして、実施例2-1と同様にして、試料1~4の電圧値を測定した。結果は、表6に示すとおりであった。
【0093】
図16は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(コレステロール濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。
図16には、一次回帰分析に基づく直線、相関式及び相関係数も併せて示している。相関式の傾き(小数点第1位で四捨五入)を表6にも併せて示した。表6及び
図16に示されるとおり、ヘモグロビン濃度(Fe濃度)に応じて、相関式の傾きが変化することが確認された。
【0094】
【0095】
(実施例3)
ヘモグロビンに代えて、ヒトから採取した血液を用いて調製した試料を用いて、実施例2-4と同様にして電圧値の計測を行った。試料は以下の手順で調製した。血液、硫酸(0.1M)、蒸留水及びおからを、表7に示す分量で配合して懸濁物1~4を調製した。硫酸は、カタラーゼによる過酸化水素の不均化を抑制するために添加した。おからは、液体状試料のみならず、固形物が含まれる試料についても分析が可能であるかを確認するために加えた。
【0096】
【0097】
懸濁物1~4と、過酸化水素水(H2O2濃度:0.3重量%)とを1:1の重量比でそれぞれ混合して、試料5~8を調製した。これらの試料5~8を用いて、実施例2-4と同様にして電圧値の計測を行った。すなわち、5個の電極対の対向部のそれぞれが厚さの異なるエチルセルロースの被膜で被覆されたセンサチップを備える分析装置を用いて電圧値の計測を行った。結果は、表8に示すとおりであった。
【0098】
図17は、収容部に滴下した高分子溶液における高分子濃度(エチルセルロース濃度)と、計測された電圧値との関係を示すグラフである。一次回帰分析に基づく直線を表8に併せて示した。相関式及び相関係数は以下のとおりであった。
試料5:y=-1227.4x+1037.6 (R
2=0.6496)
試料6:y=-1816.8x+1500 (R
2=0.6116)
試料7:y=-2000.5x+1656.4 (R
2=0.6549)
試料8:y=-2337.2x+2701.7 (R
2=0.6782)
【0099】
図18には、試料中の血液の濃度と相関式の傾きの関係を示した。表8、
図17及び
図18に示されるとおり、血液の濃度(Fe濃度)に応じて、相関式の傾きが変化することが確認された。これらの結果から、固形物を含む試料の場合も、血液の濃度(Fe濃度)が測定可能であることが確認された。
【0100】
【産業上の利用可能性】
【0101】
一つの側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能なセンサチップ及びその製造方法が提供される。別の側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能な分析装置が提供される。さらに別の側面において、検知対象成分を高い精度で検知することが可能な分析方法が提供される。
【符号の説明】
【0102】
10…センサチップ、11…基板、12,12A,12B,12C,12D,12E…電極対、12a…対向部、12b…基端部、13…絶縁膜、14…試料、15,15A,15B,15C,15D,15E…収容部、18,18B,18C…被膜、20…検知部、21…制御部、23…回路部、24…電圧測定部、26…電流測定部、28…電源部、30…導線、100…分析装置。