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特許7062277牛のボディコンディションスコアの評価装置、評価方法及び評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】牛のボディコンディションスコアの評価装置、評価方法及び評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20220425BHJP
【FI】
A01K29/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018082705
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019187277
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 平成29年10月24日~平成29年10月27日 集会名、開催場所 2017 IEEE 6th Global Confer-ence on Consumer Electronics(GCCE2017)、愛知県産業労働センターウインクあいち(愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省(九州総合通信局)、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197734
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ティ ティ ズイン
(72)【発明者】
【氏名】小林 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】今村 颯介
(72)【発明者】
【氏名】パイ ティン
(72)【発明者】
【氏名】堀井 洋一郎
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-510278(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060070(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030448(WO,A1)
【文献】特開2016-059300(JP,A)
【文献】特開2015-173732(JP,A)
【文献】BERCOVICH, A. et al.,Development of an automatic cow body condition scoring using body shape signature and Fourier descriptors,Journal of Dairy Science,2013年12月,Vol. 96, No. 12,pp. 8047-8059
【文献】AZZARO, G. et al.,Objective estimation of body condition score by modeling cow body shape from digital images,Journal of Dairy Science,2011年04月,Vol. 94, No. 4,pp. 2126-2137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム、又は、牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくともいずれか一方で構成された入力画像を取り込む画像入力部と、
該取り込まれた入力画像が前記牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレームであることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うエッジ抽出部と、
前記エッジ抽出部で抽出されたエッジ、又は、前記牛の臀部上方から撮影された距離画像のいずれか一方からROI(処理対象領域)を抽出し、該ROI内の輪郭線を抽出する輪郭線抽出部と、
該輪郭線抽出部で抽出された輪郭線を細線化及び滑線化する細線化部と、
該細線化部で得られた輪郭線から近似曲線を求める近似曲線生成部と、
該近似曲線生成部で生成された近似曲線と前記輪郭線との関係から牛のBCS(ボディコンディションスコア)を評価するために必要な特徴パラメータを抽出する特徴パラメータ抽出部と、
該抽出された特徴パラメータから前記BCSを求めるBCS評価部と、
を備えることを特徴とする牛のボディコンディションスコアの評価装置。
【請求項2】
牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム、又は、牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくともいずれか一方で構成された入力画像を取り込むステップと、
該取り込まれた入力画像が前記牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレームであることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うステップと、
前記抽出したエッジ、又は、前記牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくとも一方からROI(処理対象領域)を抽出し、該抽出した前記ROI内の輪郭線を抽出するステップと、
該抽出された輪郭線を細線化及び滑線化するステップと、
該細線化及び滑線化された前記輪郭線から近似曲線を生成するステップと、
該近似曲線と前記輪郭線の関係から牛のBCSを評価するために必要な特徴パラメータを抽出するステップと、
該抽出した特徴パラメータから前記BCSを求めると共に評価するステップと、
を備えたことを特徴とする牛のボディコンディションスコアの評価方法。
【請求項3】
前記輪郭線を抽出するステップにおいて、
垂直線から一定の角度傾いた直線と前記輪郭線との接点を用いて、前記ROIの開始点と終了点を決定するステップを備えている
ことを特徴とする請求項2に記載の牛のボディコンディションスコアの評価方法。
【請求項4】
牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム、又は、牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくともいずれか一方で構成された入力画像を取り込むステップ処理と、
該取り込まれた入力画像が前記牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレームであることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うステップ処理と、
該抽出したエッジ、又は、前記牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくとも一方からROI(処理対象領域)を抽出するステップ処理と、
該抽出した前記ROI内の輪郭線を抽出するステップ処理と、
該抽出した前記輪郭線から近似値を求め近似曲線を生成するステップ処理と、
該近似曲線と前記輪郭線との関係から牛のBCSコンディションスコアを評価するために必要な特徴パラメータを求めるステップ処理と、
該求めた特徴パラメータから前記BCSを求めると共に評価するステップ処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする牛のボディコンディションスコアの評価プログラム。
【請求項5】
前記ROI内の輪郭線を抽出するステップ処理において、
垂直線から一定の角度傾いた直線と前記輪郭線との接点を用いて、前記ROIの開始点と終了点を決定するステップ処理を備えている
ことを特徴とする請求項4に記載の牛のボディコンディションスコアの評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜、とくに牛の臀部後方の画像あるいは距離画像を用いて、牛のボディコンディションスコアを評価するための牛のボディコンディションの評価装置、評価方法及び評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜を飼育する場合には、肉や脂肪の付き、肥り具合等の生育状態を判断することが必要となる。例えば、肥痩状態評価方法として、BCS(Body Condition Score:ボディコンディションスコア)を求めて肥痩状態を判断する方法が知られている。牛のBCSは、体脂肪の蓄積状態を示す重要な指標である。その値は給餌の量や効率、健康状態などを示すため、定期的にチェックすることが重要である。しかしながら、従来は、酪農家が目視や触診によって、一頭ずつ目視や触診に基づいてBCSを評価しているので、一頭あたりの評価時間がかかり、評価する頭数が多ければ膨大な時間と労力を要し、また、評価者による個人差も生じている。
【0003】
例えば、乳用牛は泌乳期に多くの栄養を使って乳を生産している。とくに、泌乳最盛期では、餌から得られる栄養だけでは消費した分に追いつけないため、痩せてきて、乾乳期に太ってくるという傾向がある。このような身体の状態の変化が激しい牛は、健康状態を損ねやすい傾向にある。また、乾乳期に太りすぎてしまった牛は、分娩時に事故を起こす可能性が高くなる。空胎期、妊娠末期、授乳期などに応じて、最適なBCSがあり、安定した状態に保つことが、健康で生産性の高い牛に育てる秘訣である。
【0004】
そのため、一日当たりの乳量に応じた飼料給与が大切になる。肥り過ぎは飼料の給与過多が原因である場合が多く、逆に、やせすぎは飼料不足による場合が多い。いすれの場合も繁殖成績が悪くなるケースが多くみられる。一般に妊娠末期の牛は過肥(肥りすぎ)の傾向があるが、肥り過ぎは難産になりやすく、分娩後には食欲低下や代謝病のケトージス症に罹りやすくなる。また、授乳期はやせ過ぎになりやすく、そのため泌乳量が減少してしまう。
【0005】
とくに多頭飼養の経営では、BCSが自動的に評価できれば、時系列情報を用いた個体ごとのBCS制御が容易になる。また、システムコストが下げられれば、小規模な農家でも導入が可能になり、省力化に繋がる。牛を健康な(病気になりにくい)状態で飼うためにIT技術を活用した酪農は欠かせないものである。
【0006】
以上のように、BCSは極めて重要であるにも関わらず、その評価には多くの時間と手間を要するため、従来多くの酪農家で定期的な評価は行われてこなかったのが現状である。そこで、BCS評価に客観性を持たせると同時にその自動化により、効率的な酪農経営の支援を行うシステムの構築が切望されてきた。そこで、BCSについて、牛を三次元計測した三次元画像に基づいて算出する方法や管理システム及び管理プログラムが種々提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、簡便に牛体のさまざまな特性値を推定することができる牛体診断システムが開示されている。このシステムは、診断対象の牛を撮像して、その牛の臀部の体表面の3次元画像データを生成する3次元スキャン装置と、3次元画像データから、牛の臀部の体表面における任意の2点間の測地線長を測定する測地線長測定部と、体重を少なくとも一つの目的変数とし、左右腰角間の測地線長を少なくとも一つの説明変数とし、牛の個体情報を固定効果とする一般化線形回帰モデルに基づいて、測地線長測定部によって測定された測地線長のうち少なくとも左右腰角間の測地線長から牛体特性値として少なくとも診断対象の牛の体重を推定する牛体特性値推定部とを備え、牛のさまざまな特性値を推定することができ、酪農の大規模化に対応して大量の家畜牛の健康状態を効率よく診断することができるとされている(請求項1、段落「0001」、「0017」等参照。)。
【0008】
特許文献2には、牛の撮像画像上に入力された線画の形状を判別し、判別された線画の形状に基づいて、撮像画像の牛のスコアを決定する処理をコンピュータで実行し、牛の肥痩状態評価のバラツキを抑制することができる管理方法、管理プログラム、管理装置および管理システムが開示されている(請求項1、段落「0010」等参照。)。
【0009】
特許文献3には、動物(牛)の身体のスコア(body condition score(BSC))を決定するための装置であって、動物の方へ向けられかつ動物の少なくとも一つの三次元画像を記録するために与えられた三次元カメラシステム;及び三次元カメラシステムによって記録された三次元画像から動物の一部分の三次元表面表現を形成し、三次元表面表現を統計的に分析し、三次元表面表現の統計的に分析された表面に基づいて動物の身体の状態のスコアを決定するために与えられ、かつ三次元カメラシステムに接続された画像処理装置を含み、統計的分析は、三次元表面表現の表面のパラメータのヒストグラムの統計的特性の計算を含む装置及び方法が開示されている(請求項1、段落「0001」等参照。)。
【0010】
特許文献4には、動物(牛)の歩行数をカウントしてカウントデータを出力するカウントセンサと、一日を複数個に区分した各基準時刻から過去にさかのぼった所定の基準時刻間のカウントデータが積算された各積算カウントデータを出力する積算カウンタ手段と、各積算カウントデータを過去の所定日数間における各積算カウントデータの平均値又はその平均値と標準偏差に正の係数を乗じた数値との和で除した相対比を演算する相対比演算手段と、相対比が予め設定した設定値と比較して大きいとき警報信号を出力する出力手段とを備え、動物の歩行数の変化が高精度で検知されるので、放牧された家畜類等の動物が発情期であることを高精度で発見し管理して、家畜を合理的に生産できるとともに、家畜飼養管理の省力化を行うことができる運動量管理装置、及びその運動量管理装置を用いた運動量管理システム、並びに運動量管理プログラムが開示されている(請求項1、段落「0001」、「0040」等参照。)。
【0011】
特許文献5には、放牧地に放牧されている家畜(牛)に装着された歩数計測手段により計測された歩数の測定結果を取得し、その時事系列変化に基づいて放牧地の植生状態が放牧に適した状態であるか否かを判定する植生判定プログラムを搭載した植生判定装置が開示されており、この植生判定装置が判定した結果を可搬型の通信端末に送信することが記載されている(請求項1、段落「0030」等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2016-59300号公報
【文献】特開2015-173732号公報
【文献】特許第5519693号公報
【文献】特開平11-128210号公報
【文献】特許第5962852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明もまた、上記のような従来技術の課題に鑑み、牛のBCS評価に客観性を持たせると同時に、その自動化により効率的な酪農経営の支援を図ることができる牛のボディコンディションスコアの評価装置、評価方法及び評価プログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明の請求項1に係る牛のボディコンディションスコアの評価装置は、牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム、又は、牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくともいずれか一方で構成された入力画像を取り込む画像入力部と、該取り込まれた入力画像が前記牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレームであることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うエッジ抽出部と、前記エッジ抽出部で抽出されたエッジ、又は、前記牛の臀部上方から撮影された距離画像のいずれか一方からROI(処理対象領域)を抽出し、該ROI内の輪郭線を抽出する輪郭線抽出部と、該輪郭線抽出部で抽出された輪郭線を細線化及び滑線化する細線化部と、該細線化部で得られた輪郭線から近似曲線を求める近似曲線生成部と、該近似曲線生成部で生成された近似曲線と前記輪郭線との関係から牛のBCS(ボディコンディションスコア)を評価するために必要な特徴パラメータを抽出する特徴パラメータ抽出部と、該抽出された特徴パラメータから前記BCSを求めるBCS評価部と、を備えることを特徴とする
【0015】
また、本発明の請求項2に係る牛のボディコンディションスコアの評価方法は、牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム、又は、牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくともいずれか一方で構成された入力画像を取り込むステップと、該取り込まれた入力画像が前記牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレームであることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うステップと、前記抽出したエッジ、又は、前記牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくとも一方からROI(処理対象領域)を抽出し、該抽出した前記ROI内の輪郭線を抽出するステップと、該抽出された輪郭線を細線化及び滑線化するステップと、該細線化及び滑線化された前記輪郭線から近似曲線を生成するステップと、該近似曲線と前記輪郭線の関係から牛のBCSを評価するために必要な特徴パラメータを抽出するステップと、該抽出した特徴パラメータから前記BCSを求めると共に評価するステップと、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る牛のボディコンディションスコアの評価方法は、請求項2に係る牛のボディコンディションスコアの評価方法であって、前記輪郭線を抽出するステップにおいて、垂直線から一定の角度傾いた直線と前記輪郭線との接点を用いて、前記ROIの開始点と終了点を決定するステップを備えていることを特徴とする。
【0017】
そして、本発明の請求項4に係る牛のボディコンディションスコアの評価プログラムは、牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム、又は、牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくともいずれか一方で構成された入力画像を取り込むステップ処理と、該取り込まれた入力画像が前記牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレームであることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うステップ処理と、該抽出したエッジ、又は、前記牛の臀部上方から撮影された距離画像の少なくとも一方からROI(処理対象領域)を抽出するステップ処理と、該抽出した前記ROI内の輪郭線を抽出するステップ処理と、該抽出した前記輪郭線から近似値を求め近似曲線を生成するステップ処理と、該近似曲線と前記輪郭線との関係から牛のボディコンディションスコアを評価するために必要な特徴パラメータを求めるステップ処理と、該求めた特徴パラメータから前記BCSを求めると共に評価するステップ処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の請求項5に係る牛のボディコンディションスコアの評価プログラムは、請求項4に係る牛のボディコンディションスコアの評価プログラムであって、前記ROI内の輪郭線を抽出するステップ処理において、垂直線から一定の角度傾いた直線と前記輪郭線との接点を用いて、前記ROIの開始点と終了点を決定するステップ処理を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の優れた効果がある、
(1)測定者の違いによる個人差がなくなり、BCSの客観的評価が可能となることで、BCSと事故の相関関係などのテータ共有が可能となる。
(2)汎用品だけでシステムを構成でき、小型化・コストダウンが可能であるので、酪農経営の効率化に繋がり、大規模農家だけでなく、小・中規模農家にもシステムを導入することができる。
(3)自動化が促進されることで、時系列で牛の身体変化の様子が記録・観察でき、より正確で詳細なデータに基づく体調管理が可能となる。
(4)3Dカメラの導入により、夜間や塵埃に対して頑健なシステム構成が可能となり、また、ビデオカメラだけによる構成も可能であるので、システム導入の際の選択肢が多く、適宜必要に応じた構成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を実施するためのシステム構成及び処理プロセスの一例を示すブロック図兼フローチャートである。
図2】(a)は入力画像を示す図、(b)は抽出したエッジ画像データを示す図、(c)は輪郭線を示す図、(d)は輪郭線の細線化データを示す図、(e)は生成した近似曲線のデータを示す図である。
図3】データ取得のための牛の撮像環境を模式的に示す概要図である。
図4】(a)は牛の臀部からみた輪郭線とBCSとの相関を示す図、(b)はBCSの違いによる牛の臀部を比較した図である。
図5】(a)~(d)は、近似曲線の両端点を求める方法を示す説明図、(e)は線形回帰分析を行うための輪郭線と近似曲線の概念図である。
図6】BCSの指標としてヒストグラムを用いる方法を示す概念図である。
図7】決定係数、多項式近似値、BCSの相関を示すグラフと図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
本発明では、BCSを評価する3つの手法「(1)線形回帰分布を用いて評価する、(2)ヒストグラムを用いてその特徴から評価する、(3)決定係数から評価する」と、輪郭線のROI(解析対象領域)を決める手法「(1)一定の緩い傾斜をもった直線を用いて決定する」を提供する。
【0023】
図4は、BCSの具体例であるが、この図から分かるように牛の臀部を後方から見た輪郭線とBCSには強い相関があり、本方式の根拠を示している。これらは2次元画像を元にした説明図であるが、3次元カメラからの距離画像にも適用できる。牛の臀部を上から見た場合は、BCSの違いは3Dカメラの距離画像に現れる。
【0024】
本発明では、通常のビデオカメラあるいは3次元カメラで撮像した画像データを元に画像処理技術を用いて処理し、以下に挙げる4手法でBCSを評価する方法を提供する。
(1)近似曲線の両端点を求める方法
(2)線形回帰分析を用いる方法
(3)ヒストグラムを用いる方法
(4)決定係数を用いる方法
【0025】
本発明で用いた3次元カメラのデータは牛の背骨と垂直にスライスした断面(z=一定)、x-y空間での輪郭線データとして用いる。一番簡単な方法は、それぞれのスライス画像に応じて誤差を計算し、さらにz軸方向に累積した結果に適当な閾値を設定して、BCSを計算する。また、BCSを従属変数とする回帰分析により求めることもできる。回帰分析に用いる線形回帰式、非線形回帰式は、周知であるので、説明を省略する。
【実施例
【0026】
本発明では、牛の後方臀部周辺の脂肪蓄積及び骨の凹凸の激しさから、BCS(肥り過ぎ、痩せ過ぎを判断する一般的な指標)を評価する方法を提供する。入力装置としては、普通のビデオカメラを用いる場合と3次元カメラを用いる場合を考える。ここでは、画像処理技術によりBCSを評価するための特徴パラメータを抽出し、簡易かつ非侵襲型のBCS評価システムを提供する。図1及び図2は、それぞれ処理プロセスの例、図3は牛の撮影環境の概念を示している。
【0027】
本発明に係る牛のボディコンディションスコアの評価装置は、図3に示すように、ビデオカメラ13を使用して牛15の後方臀部周辺を後方から撮像したビデオ画像又は3次元カメラ14を使用して牛15の後方臀部周辺を上方から撮像した距離画像を入力画像として取り込む。
評価装置の構成は、図1及び図2に示すように、入力画像(「牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム」又は「牛の臀部上方から撮影された距離画像」)8を取り込む画像入力部1と、画像入力部1で入力された画像8が「牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム」であることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うエッジ抽出部2と、エッジ抽出部2で抽出されたエッジ、又は、「牛の臀部上方から撮影された距離画像」の少なくもいずれか一方からROI(処理対象領域;Region of interest)9を抽出し、ROI9内の輪郭線10を抽出する輪郭線抽出部3と、輪郭線抽出部3で得られた輪郭線10を細線化及び滑線化する細線化部4と、細線化部4で得られた細線化及び滑線化された輪郭線11から近似曲線を求める近似曲線生成部5と、近似曲線生成部5で生成された近似曲線12と輪郭線10の関係から牛のボディコンディションスコアを評価するために必要な特徴パラメータを抽出する特徴パラメータ抽出部6と、抽出された特徴パラメータからBCS(ボディコンディションスコア)を求めるBCS評価部7とから構成される。なお、図2(c)、図2(e)において符号10aで示す曲線は、説明を分かりやすくするために、輪郭線10の凹凸を上下に拡大して示したものである。また、符号1~7で示される評価装置の各構成部分は、周知のコンピュータ、演算装置、記憶装置、表示装置等を含む電子装置、電子機器、電子回路等で構成することができる。
【0028】
すなわち、本発明の牛のボディコンディションスコアの評価方法は、牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム又は牛の臀部上方から撮影された距離画像のいずれかで構成された入力画像を取り込むステップS1と、該取り込まれた入力画像が「牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム」であることに応じてエッジ抽出及びノイズ除去を行うステップS2と、抽出したエッジ、又は、「牛の臀部後方から撮影された写真あるいはビデオフレーム」の少なくともいずれか一方からROI(処理対象領域)を抽出し、抽出した前記ROI内の輪郭線を抽出するステップS3と、抽出された輪郭線を細線化及び滑線化するステップS4と、細線化及び滑線化された前記輪郭線から近似値を求め近似曲線を生成するステップS5と、該近似曲線と前記輪郭線の関係から牛のボディコンディションスコアを評価するために必要な特徴パラメータを抽出するステップS6と、抽出した特徴パラメータからBCSを求めると共に評価するステップS7とからなり、これらステップ処理プログラムをコンピュータに実行させる。
【0029】
「撮像環境」
3次元カメラを用いる場合は、牛15の後方臀部全体の距離画像が一度の撮影で得られるので、一般的には複数台の3次元カメラを用いる必要はなく1台で十分である。図3に示すように、牛の後方臀部を真上から撮影した距離画像を用いる。距離画像を入力として用いる場合には、エッジ抽出を不要とし、輪郭線10の抽出から開始することができる。つまり、図1において、エッジ抽出部2、および、エッジ抽出及びノイズを抽出するステップS2は不要であり、画像入力部1で取り込まれた距離画像を、「エッジ抽出及びノイズを抽出」せずに、直接、輪郭線抽出部3に入力して、ROI9を抽出し、ROI9内の輪郭線10を抽出することができる。なお、画像入力部1の出力部の後段に画像データ判別手段(不図示)を設け、画像入力部1から出力される画像データがビデオカメラ13で撮像された写真あるいはビデオフレームの場合は出力データをエッジ抽出部2に入力し、画像入力部1から出力される画像データが3次元カメラ14で撮像された距離画像の場合は出力データを輪郭線抽出部3に入力する構成にしてもよい。また、画像データを判別して取り込む手段を、エッジ抽出部2の入力部、輪郭線抽出部3の入力部に、それぞれ設け、画像入力部1から出力される画像データがビデオカメラ13で撮像された写真あるいはビデオフレームの場合は、エッジ抽出部2で取り込み、画像入力部1から出力される画像データが3次元カメラ14で撮像された距離画像の場合は、輪郭線抽出部3で取り込むように構成してもよい。
【0030】
図4からも分かるように、BCSが低い個体ほど骨格が浮かび上がり、体表面の凹凸の差が大きくなる。つまり、この凹凸具合を数値化することでBCS評価のための特徴量とすることができる。なお、距離画像とは、撮像対象物までの距離を明るさに対応して表したもので、近くにあるものほど明るく、遠くのものは暗くなる。
【0031】
「近似曲線の開始点と終了点の決め方」
解析の対象となる領域ROI9、すなわち、近似すべき輪郭線の両端点(開始点と終了点)を決めるために、垂直線と輪郭線の接点を用いると、安定性の低下や誤差の増大につながる場合がある。そこで、本発明では、垂直からθ°傾いた直線と輪郭線との接点を採用することで、安定性及び精度の向上を図る方法を提供する。
【0032】
垂直線と輪郭線との接点を用いた例として、図5(a)及び図5(b)に示すが、図5(a)は比較的安定しているものの、解析の対象となる臀部より下の部分まで拾ってしまう。図5(b)は不安定で、臀部のみでなく脚部まで拾ってしまうので、BCS評価のための特徴パラメータの抽出に悪影響を与える。そこで、垂直線でなく一定の傾き(θ)を持った直線を使うことで、安定した端点が得られる。θには厳密さは要求されず、5°~45°の範囲で、牛種や個体差に応じて決定する。図5(c)及び図5(d)の例ではθ=10°としている。
【0033】
「線形回帰分析によるBCS評価」
牛の臀部の輪郭の凹凸具合を数値化する方法として牛領域のみの距離画像からデータを一行ごとに取り出し、グラフ上にプロットする。その後プロットされたデータに最小二乗法によって近似される放物線を描き(高次の多項式を使ってもよい)、この放物線を用いて、牛の体表面のデータのRMSDを計算することで、牛体表面の凹凸具合を数値化することができる。体表面との差を累積することでBCSを評価する。本手法の概念図を図5(e)に、BCS評価結果を表1に示す。複数行の距離画像から得られる累積誤差に重みづけ加算した値を用いることもできる。RMSD(標準偏差)の式は下記に示すとおり、周知のものである。近似曲線は輪郭をスムーズに近似できるものであれば何でもよく、制御点から構成される自由曲線等を用いてもよい。経験的には、「線形回帰分析によるBCS評価」には2次多項式が単純かつ効果的であり、高次の多項式を用いると輪郭の形状変化に過敏に追従しすぎて、逆に精度の低下を招く原因となる。1次多項式も2次多項式に比べ、精度は低下する。
【0034】
【表1】
【0035】
表1は最小二乗法による線形回帰分析を行うことで、BCS推定を行った結果であり、本発明による提案手法の有効性を確認できた。同様の手法は普通の写真を用いた場合にも適用できる。
【0036】
具体的には、各点における近似曲線と輪郭線との差の絶対値を累積した値、すなわち、図5(e)の実線と破線の間の面積を|AC-TF|で表す。図5(e)の輪郭線に相当する部分TCは、3Dカメラを用いる場合は、各スライスから得られるので、|AC-TC|の値を重み付け累積して用いることもできる。数1は、線形回帰モデルによるBCS評価式である。
【数1】
【0037】
「ヒストグラムを用いる方法」
図6は、BCS評価のための指標とした例を示す。ヒストグラムには明らかな差がみられる。また、相関係数の値にもBCSの大小が反映されているので、その評価のために用いることができる。ヒストグラムによるグラフ表示方法自体は周知のものである。
【0038】
「決定係数を用いる方法」
BCSが小さい数値からだんだん大きくなり、4~5に近づくと、蓄積した脂肪により体表面の凹凸が明瞭に見えなくなる。図7(b)の輪郭線に示されるように体表面が凸体となり、上述の凸包を利用する手法では、近似曲線と輪郭線がほぼ同一となり、その差がなくなる。牛種や個体差による違いはあるが、上述したヒストグラムを用いる方法では、BCSが大きくなった時に、精度が低下する傾向がある。
【0039】
そのため、決定係数を用いる方法を提供する。n次多項式を用いて近似式を求めるまでは線形回帰分析を用いた方法と同じである。近似式が求まったら決定係数を求める。決定係数を用いると、4以上のBCS(4~5)の評価が可能となる。輪郭線の形状によってはさらに高次の多項式を用いると精度が向上する場合がある。
【0040】
図7(c)のCrossbred CowsのBCS=2,3の場合は視覚的にも似通っており、決定係数Rもよく似た値となっている。
数2は決定係数Rの導出式であり、周知である。図7(d)及び(e)のグラフから分かるように、4次元多項式近似を用いるとCrossbred CowsとJersey Cows2種類共にBCS=4と5は識別可能であるが、BCS=2と3は難しい場合がある。図7(e)より、6次多項式近似を用いると、BCS=1~3は識別可能であるが、BCS4と5は識別が難しい場合がある。逆に4次元多項式近似を用いると、BCS=3~5とそれ以下は識別可能であるが、BCS=1と2は識別が難しい場合がある。なお、図7(e)において、2次近似式で求めた近似曲線と、3次近似式で求めた近似曲線とが重なって表示されている。
【数2】
【0041】
「BCS評価方法の選択と閾値」
以上、前述したどの方法が有効か、BCS評価にための抽出特徴の閾値をいくらに設定すればよいのか、牛種や個体差を考慮して、個別に実験的に決めることで良好な結果が得られる。一律に決めることもできるが、より高い精度を得るためには、経時変化を観察しながら学習的に決定する。このように学習的に決定するための手段、方法、プログラムを、それぞれ、上述した牛のボディコンディションスコアの評価装置、牛のボディコンディションスコアの評価方法、牛のボディコンディションスコアの評価プログラムに設けることができる。なお、この学習手段、学習方法、学習プログラムは、上述した多項近似式の次数決定にも用いることができる。
【0042】
導入時に多少の手間が増えるが、一個体については一旦決めれば大きな変動はないと考えられる。また、評価パラメータを使い分けることで、より精度の高いBCS評価が可能となる。実用的には、絶対値でなく各個体の相対的な経時変化が重要である。図7(c)及び(c)のグラフから分かるように、個体差より牛種の違いが大きい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、畜産分野において牛の栄養状態評価、健康維持管理、餌料給与量の適正化に用いることができる。BCS評価の自動化により高齢酪農家の負担軽減と効率化、牛のより詳細な健康管理、餌料給与の効率化に繋がる。画像処理による身体パラメータの抽出と健康管理、飼料給与の効率化に繋がる。
画像処理による身体パラメータの抽出と健康管理を結び付ける手法は、他の動物の健康維持にも利用できる。例えば、イルカ等の海洋大型生物の保全が問題視されているが、専門家によると肥満度などの客観的なデータの経年変化が得られれば、健康管理に加えてストレス等の精神状態の管理にも大きく貢献する。
【符号の説明】
【0044】
1 画像入力部
2 エッジ抽出部
3 輪郭線抽出部
4 細線化部
5 近似曲線生成部
6 特徴パラメータ抽出部
7 BCS評価部
8 入力画像
9 ROI(処理対象領域)
10 輪郭線
11 細線化及び滑線化された輪郭線
12 近似曲線
13 ビデオカメラ
14 3次元カメラ
15 牛
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7