(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】墜落防止器具
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20220425BHJP
【FI】
A62B35/00 J
(21)【出願番号】P 2018086983
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月8日~10日神戸国際展示場において開催された緑十字展で公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000223687
【氏名又は名称】藤井電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 義行
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0006375(US,A1)
【文献】実開昭51-011601(JP,U)
【文献】特開2000-288111(JP,A)
【文献】特開2015-016059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0247517(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00
A62C 27/00-99/00
B66F 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体が
連結部材と、安全帯のランヤー
ドが係止される係止部材と、
前記支持体の鉛直下方に取り付けられた支柱と、を具備し、
前記連結部材がフォークリフトトラックのフォークに挿入された状態において、
前記支持体が前記フォークリフトトラックによって移動および昇降させられて高所の作業位置に配置され、
前記支柱の下端を地面に接地させることで、前記支持体と前記地面の間の距離を所定の間隔に保持した状態で前記支持体が高所作業時における安全帯の係止対象物として用いられることにより、
高所作業員の墜落を防止する方法。
【請求項2】
安全帯のランヤー
ドが係止される係止部材と、
フォークリフトトラックのフォークが挿入される連結部材と、
支持体の鉛直下方に取り付けられ、前記支持体と地面との間に配置される支柱とを具備したことを特徴とする墜落防止用の支持体。
【請求項3】
取付部材と、フォークリフトトラックのフォークが挿入される連結部材と、
支持体の鉛直下方に取り付けられ、前記支持体と地面との間に配置される支柱と、を具備し、
前記取付部材が、
レールと、前記レールに沿って摺動し、
安全帯と連結するリトラクタ式墜落防止器具
が取り付けられる摺動具と、
を具備することを特徴とする墜落防止用の支持体。
【請求項4】
取付部材と、フォークリフトトラックのフォークが挿入される連結部材と、
支持体の鉛直下方に取り付けられ、前記支持体と地面との間に配置される支柱と、を具備し、
前記取付部材が、
支持線と、前記支持線に沿って摺動し、
安全帯と連結するリトラクタ式墜落防止器具
が取り付けられるか、または前記安全帯のランヤー
ドが係止される摺動具と、
を具備することを特徴とする墜落防止用の支持体。
【請求項5】
前記連結部材にフォークリフトトラックのフォークが挿入された状態で、前記連結部材とフォークリフトトラックの前記フォークを連結する固定具を備えることにより、前記連結部材が前記フォークから離脱することを不能としうる、
請求項2又は3又は4のいずれかに記載の墜落防止用の支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業における墜落防止器具に関するものである。
特には、フォークリフトトラックのフォークに取り付けて使用する墜落防止器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2m以上の高所作業においては、労働安全衛生法によって安全帯等を使用して墜落防止対策をすることが義務づけられている。
高所作業において安全帯を使用する場合には、安全帯のランヤード等を係止するための構造物等(以下、「安全帯係止用構造部材」という。)が必要となる。安全帯係止用構造部材は、墜落阻止時の荷重に耐える堅固なもので無ければならない。
墜落防止対策には、安全帯係止用構造部材に安全帯のランヤードを直接係止するか、安全帯係止用構造部材に取り付けたリトラクタ式墜落防止器具と安全帯を連結する等の方法がある。以下、安全帯係止用構造部材と高所作業員が装着した安全帯を連結するものとして、安全帯のランヤードおよびリトラクタ式墜落防止器具等を「安全帯のランヤード等」という。
【0003】
安全帯係止用構造部材としては、鉄塔部材や電柱部材や足場、または建屋の天井や屋根や柱に設置されたレールや親綱などが実用に供されている。
しかし、高所作業現場では安全帯係止用構造部材が無い場合が多い。このような場合、安全帯を使用しての墜落防止対策ができない。
例えば、大型機械等を組立する作業や、大型機械等を出荷時に木枠等で梱包する作業や、航空機の点検整備作業などがある。その他にも、安全帯係止用構造部材が無い高所作業現場は各所に存在する。
【0004】
安全帯係止用構造部材が無い高所作業現場では、安全帯係止用構造部材として、移動可能な墜落防止用架台を設置したり、仮設足場を組んだりする必要がある。または、安全帯係止用構造部材が設置されている倉庫に大型機械等を移動して作業を行うなどの墜落防止対策を行う必要がある。
【0005】
墜落防止用架台としては、門型構造で、大型機械等の側面及び上面を跨いだ状態で配置されるものがある。(特許文献1参照)
この墜落防止用架台は地面に設置し、大型機械等の上面の高所作業位置に立つ作業員の上方に安全帯係止用構造部材を配置した構造である。
高所作業員は安全帯のランヤード等を安全帯係止用構造部材に連結して、安全帯係止用構造部材の下方で作業を行うことにより、墜落防止対策を行っている。
【0006】
墜落防止対策として墜落防止用架台を用いる場合には、高所作業員の全移動範囲をカバーするために大型機械の形状に合わせた構造とする必要があるが、都度製作するには大きな費用と製作期間が掛かることとなる。
また、墜落防止用架台は使用しないときの保管場所として大きな空きスペースも確保する必要がある。
【0007】
標準的な墜落防止用架台は、高所作業員の移動可能範囲が、安全帯係止用構造部材の下方の幅2~3mの範囲に限定される。従って高所作業員の作業位置が、安全帯係止用構造部材の下方の幅2~3mの範囲よりも広い場合は、作業位置に合わせて墜落防止用架台を都度移動させる必要がある。墜落防止用架台を移動及び固定する場合には、高所作業を中断する必要があり、また移動及び固定に4名程度の高所作業員が必要となるため、作業効率が悪い。
【0008】
また、標準的な墜落防止用架台は、例えば、大型機械等の上面、即ち作業位置の高さが3mである場合、墜落防止用架台は作業者の身長を考慮して5.3m以上の高さが好ましい。作業員が落下した場合は、前記5.3mの位置に墜落阻止時に発生する大きな荷重が加わることとなる。
人体の墜落阻止時に安全帯のランヤード等に加わる衝撃荷重は、安全帯等の墜落防止器具の種類や作業員の体重や落下の仕方等によって異なるが、通常3kNから8kNである。墜落防止用架台においては、墜落阻止時の衝撃荷重に耐える十分な強度が必要となる。
従って、墜落防止用架台は、構成する部材が太く、高さ方向と幅方向において大型化し、重量が重くなる。
また、土台には移動を容易とするためにキャスターを具備しているが、重量が重いため移動は容易ではない。このことは作業員にとってわずらわしい。
【0009】
また、高所作業員が落下した場合に、安全帯のランヤード等を係止した位置が墜落防止用架台の安全帯係止用構造部材の中央から水平方向にずれていたり、安全帯のランヤード等を係止した位置と作業員が落下した位置が水平方向にずれていることがある。前記のずれによって墜落防止用架台には水平方向にも荷重が加わる。また高所作業員が墜落阻止時に振り子状態となり、墜落防止用架台に水平方向に荷重が加わることがある。墜落防止用架台においては、これらの水平方向の荷重に対しても十分な強度が必要であり、かつ転倒しないものでなければならない。
【0010】
高所作業員が墜落阻止時に振り子状態となった場合、安全帯のランヤード等を係止した位置、即ち墜落防止用架台の上部に、鉛直下方向だけでなく水平方向に荷重が加わることになる。墜落防止用架台には、この水平荷重によって、墜落防止用架台における地面との2つの接点を結ぶ直線を回転中心としたモーメントが加わる。このモーメントによって墜落防止用架台自体が倒れるおそれがある。墜落防止用架台の転倒を防止する対策としては、(1)墜落防止用架台の土台部を十分重くする、(2)墜落防止用架台の土台部を広くする、(3)アウトリガーを取り付ける、(4)支線を張る、(5)土台部に砂袋等の重錘を置く、等がある。
(1)(2)については、墜落防止用架台が重量化や大型化することになる。また、いずれの場合も、移動や設置に複数の人手や時間が掛かり、作業性が悪い。コストも掛かる。
【0011】
墜落防止対策として仮設足場を用いる場合もある。仮設足場は、設置および解体に大きな労力を要する。このことは短時間の作業である梱包の場合など、設置がわずらわしく墜落防止の対策をせずに高所作業を行ってしまうことに繋がる。また、大型機械のまわりに仮設足場を設置するため、梱包部材の運搬配置に障害となることがあり作業効率が悪い。更に、仮設足場は大型機械のまわりに設置するものであり、大型機械の中央上方には安全帯係止用構造部材がないため、大型機械の側面での作業においては仮設足場で墜落防止対策となるが、大型機械の中央上面の作業においては仮設足場では墜落防止対策ができない。
【0012】
墜落防止対策として安全帯係止用構造部材がある倉庫内において高所作業を行うことがある。この場合、大型機械が入る大きな倉庫が必要であり、組立・点検・梱包等の作業ごとに大型機械を倉庫内の所定の位置に移動して配置する必要がある。一般的に、大型機械等で高所作業を行う業者が、安全帯係止用構造部材を備えた倉庫を保有していることは、多くない。また短時間の梱包作業の場合など、倉庫内への移動や設置がわずらわしく墜落防止の対策をせずに高所作業を行ってしまうことに繋がる。
【0013】
墜落防止器具の取付部材が無い高所作業現場において、少人数の高所作業員で容易に設置でき、高所作業範囲に合わせて容易に移動でき、安価であって、安全性の高い墜落防止用器具の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
解決しようとする課題は、移動および設置が容易であり、安全帯のランヤード等を係止できる墜落防止器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は
フォークリフトトラックのフォークが挿入される連結部材と、
安全帯のランヤード等が係止される係止部材と、を具備した支持体を、
フォークリフトトラックと連結した状態にして、
前記支持体を高所作業時における安全帯の係止対象物として用いることにより、
高所作業員の墜落を防止する方法である。
【0017】
また、本発明に係る墜落防止用の支持体は、
安全帯用ランヤードのフックが係止される係止部材と、フォークリフトトラックのフォークが挿入される連結部材と、を具備したことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る墜落防止用の支持体は、
取付部材と、フォークリフトトラックのフォークが挿入される連結部材と、を具備し、
前記取付部材がレールと、前記レールに沿って摺動しリトラクタ式墜落防止器具を含む安全帯のランヤード等が係止される摺動具と、を具備したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る墜落防止用の支持体は、
取付部材と、フォークリフトトラックのフォークが挿入される連結部材と、を具備し、
前記取付部材が支持線と、前記支持線に沿って摺動し、リトラクタ式墜落防止器具を含む安全帯のランヤード等が係止される摺動具と、を具備したことを特徴とする。
【0020】
好ましくは、前記支持体の下方に連結され、前記支持体と地面の間に配置される支柱を具備している。
【0021】
好ましくは、前記支持体は、前記連結部材が前記フォークから離脱することを不能とするために、前記連結部材にフォークリフトトラックのフォークが挿入された状態で、前記連結部材とフォークリフトトラックの前記フォークを連結する固定具を備えている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る支持体を使用することによって、容易に墜落防止対策が可能となり、安全な高所作業が確保される。特には、青天井の現場などのように安全帯係止用構造部材が無い高所作業現場において、仮設の安全帯係止用構造部材として容易に設置でき、作業性や安全性の向上に効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1,
図2,
図3は、本発明の一実施形態に係る墜落防止装置用の支持体1が示されている。
図1は支持体1の正面図であり、
図2はその側面図であり、
図3はその平面図である。
以下、
図1における上下方向が支持体1の上下方向であり、
図1における左右方向が支持体1における前後方向であり、
図2における左右方向が支持体1における左右方向である。
【0024】
図1に示すように、この支持体1は主に係止部材4と連結部材6を具備したものである。
係止部材4は、安全帯Cのランヤード10先端のフック12を係止できる環32を具備し、支持体1の上部に取り付けられている。
図1、
図2に示すように、連結部材6は2本で構成される。連結部材6は、支持体1の下部に設けられる。
【0025】
図2、
図10に示すように、フォークリフトトラックDのフォークEを連結部材6の後部から前方向に差し込むことによって、フォークEと支持体1が連結される。
連結部材6は、フォークリフトトラックDのフォークEと略同等の長さを持つ長尺構造体であり、前後方向の断面形状はロ字形状であり、前記ロ字形状の内側にフォークリフトトラックDのフォークEが差し込まれる。しかし、連結部材6の前後方向の全長に亘ってロ字形状である必要は無く、フォークリフトトラックDのフォークEが連結部材6から外れない構造であれば良い。
【0026】
図1,
図2,
図3に示すように、支持体1は、連結部材6から上方に垂直支材20を具備し、垂直支材20の上部において前方向に水平支材22を具備し、水平支材22の先端部に係止部材4を具備する。
好ましくは、連結部材6の後端と垂直支材20の上部を連結する斜支材24を具備する。連結部材6と垂直支材20と斜支材24はそれぞれを一辺とする三角形をなし、斜支材24は垂直支材20の変形または倒れを防止する補強材として機能する。
好ましくは、水平支材22の前端と垂直支材20の上部を連結する斜支材26を具備する。水平支材22と垂直支材20と斜支材26はそれぞれを一辺とする三角形をなし、斜支材26は水平支材22の変形を防止する補強材として機能する。
好ましくは、垂直支材20、水平支材22は、連結部材6が一本に対し垂直支材20が1本と水平支材22が1本とが連結されている。
好ましくは、連結された垂直支材20と水平支材22と連結部材6の2セット間に筋交い28を設け、構造体である支持体1の変形、特にはねじれを防止する。
【0027】
連結部材6、垂直支材20、水平支材22、係止部材4、斜支材24、斜支材26、筋交い28は、溶接で連結されていても良く、ボルト・ナット30等で締結されていても良い。
また、支持体1は、支持体1の下部に位置する連結部材6と支持体1の上部に位置する係止部材4を主な構成要素としたものである。垂直支材20、水平支材22、斜支材24、斜支材26、筋交い28は、支持体1が構造物としての強度を確保するためのものであればよく、構造・形状・組み合わせは限定されない。
【0028】
係止部材4は、水平支材22の前端に取り付けられ、安全帯用ランヤード10のフック12を係止するための環32を1ケまたは複数個具備する。
環32が複数個の場合、係止部材4は左右方向に延在した長尺構造で、下面に複数個の環32を所定間隔に配置した構造とする。
環32が1個の場合は、係止部材4は長尺構造である必要は無く、環32が1個で構成される。環32は2本の水平支材22の前端の結合部の下面に配置される。
【0029】
図4,
図5,
図6には、本発明の他の実施形態に係る墜落防止装置用の支持体2が示されている。
図4は支持体2の正面図であり、
図5はその側面図であり、
図6はその平面図である。
以下、支持体2において支持体1と異なる部分について説明する。
この支持体2は主に取付部材8と連結部材6およびレール34と摺動具36を具備している。
【0030】
図4,
図5,
図6に示すように、支持体2は、連結部材6から上方に垂直支材20を具備し、垂直支材20の上部において前方向に延在する水平支材22を具備し、水平支材22の先端部に取付部材8を具備する。
取付部材8は、水平支材22の前端に取り付けられ、長尺構造の水平部材を左右方向に延在させたものである。その取付部材8の下側に長尺構造のレール34が取り付けられる。
連結部材6、垂直支材20、水平支材22、取付部材8、筋交い28は、溶接で連結されていても良く、ボルト・ナット30等で締結されていても良い。
【0031】
図15,
図16に示すように、レール34は左右方向の断面形状がリップ溝形鋼のように略C字形状であり、C字形状の開口部は下方を向いている。レール34に摺動具36が内挿される。
摺動具36は摺動具本体38とローラ40で構成される。摺動具本体38に取り付けられたローラ40は、レール34のC字形状の内側下面のリップ部分に接地した状態とされる。リトラクタ式墜落防止器具14は、摺動具本体38の下部に取り付けられ、レール34の下側に配置される。ここで、リトラクタ式墜落防止器具14は、長尺の細幅織りベルトから成るストラップ16が渦巻バネの付勢により常時巻き取られ、ストラップ16が急激に引き出された際には遠心爪がロックしてストラップ16の引き出しを停止する構造の巻取式墜落防止器具であり、ストラップ16の先端には、高所作業員Bが装着した安全帯Cと連結するためのフック12を具備している。摺動具36はローラ40の回転により、レール34に沿って左右にスムーズに摺動可能とされる。
【0032】
図示しないが、レール34の左右方向の断面形状はC字形状に限定されない。例えばレール34の断面形状がほぼ矩形であり、摺動具36の左右方向の断面形状がC字形状であり、摺動具36がレール34に外挿される場合もある。
更に、レール34と摺動具36の形状は、摺動具36がレール34から離脱せず、長尺のレール34に沿って左右方向に自在に摺動する構造であれば良い。
また、図示しないが、レールの本数を増やすことで作業人数を増やすことも出来る。
【0033】
図30,
図31,
図32に示すように、レール34の替わりに、取付部材8の下側に取付部材の両端間にワイヤロープを張設しても良い。この場合、ローラを具備した摺動具を該ワイヤロープに通し、該摺動具の下部にリトラクタ式墜落防止器具を取付けるか、または、安全帯のランヤードのフックを係止して、墜落防止器具として使用する。
【0034】
本発明において支持体2に関しては、リトラクタ式墜落防止器具14を使用することにより、リトラクタ式墜落防止器具14と高所作業員Bとの間のストラップ16に弛みが無いことと、高所作業員Bの落下時に即時にストラップ16の引き出しが停止されることとによって高所作業員Bの落下距離が短くなる。従って高所作業員Bに加わる衝撃荷重が抑制され、下方の構造物や地面との衝突の可能性を低くでき、安全性が高い。
【0035】
また、大型機械等Aの上面で作業を行う高所作業員Bが左右に移動する場合、高所作業員Bが装着している安全帯Cに連結されたリトラクタ式墜落防止器具14のストラップ16に加わる張力によって、リトラクタ式墜落防止器具14が取り付けられた摺動具36が、高所作業員Bに追随してレール34に沿って左右に摺動する。これによって、高所作業員Bが誤って大型機械等Aの上面から落下した場合、高所作業員Bの上方の高所作業員Bに近い位置にリトラクタ式墜落防止器具14が配置されるため、高所作業員Bは落下時に振り子状態となることを抑制される。従って高所作業員Bの落下距離が抑制されるとともに、高所作業員Bが下方の構造物や地面との衝突の可能性を低くでき、安全性が高い。
【0036】
図10は本発明の一実施形態における使用状態を示している。
フォークリフトトラックDには運転手が搭乗し、操作している。
大型機械の上面で高所作業員Bが高所作業を行っている。
フォークリフトトラックDのフォークEに本発明の支持体1が連結され、リフトにより支持体1が持ち上げられた状態で保持されている。
支持体1の前方先端の係止具4に係止された安全帯のランヤード等が、高所作業員Bが装着している安全帯Cと連結されている。
【0037】
以下、支持体2を例に挙げて説明するが、支持体1においても同様である。
支持体2の使用時における支柱42の取付状態を
図19に示す。
支持体2の鉛直下方に支柱42が取付けられ、支柱42の下端は地面に接地している。これによって支持体2と地面の間の距離を所定の間隔に保持している。
フォークリフトトラックDは油圧によって荷物等を載せたフォークEを持ち上げる機構であるため、油圧が万一何らかの不具合や長時間の経過等の理由により減圧した場合、フォークEが降下するおそれがある。本発明の支持体2の使用中において、フォークEが降下することは好ましくない。
支柱42を設置することにより、油圧が万一減圧した場合でもフォークEの降下を防止できる。
【0038】
図19と
図20と
図21と
図22に示すように、支柱42は上部支柱44、下部支柱46、上部支柱固定具48、高さ調節具50、ピン52、ピン54からなる。
上部支柱44と下部支柱46は長尺のパイプ状である。上部支柱44の一端が支持体2の下部に上部支柱固定具48で接続されている。上部支柱44は鉛直方向に吊り下げられた状態で支持体2とピン52で回動不能に固定されている。上部支柱44の他端には下部支柱46の一端が長尺方向にスライド可能な状態で挿入されており、上部支柱44と下部支柱46が一直線に配置される。
【0039】
図24と
図25に示すように、上部支柱44と下部支柱46には、長尺方向と直角をなす方向にそれぞれ複数の貫通穴が長尺方向に所定間隔をあけて配置されている。この上部支柱44と下部支柱46のそれぞれの貫通穴の位置を合わせてピン54を挿通することによって、上部支柱44と下部支柱46がスライド不能状態に固定される。上部支柱44の貫通穴と下部支柱46の貫通穴は複数個あるため、ピン54を挿通する貫通穴の組み合わせる位置を変えることによって、支柱42全体の長さを変えることができる。
【0040】
図26と
図27に示すように、下部支柱46の下端には高さ調節具50を具備する。高さ調節具50は、その下部に地面との接地部を具備している。高さ調節具50の上部は雄ねじ部を具備した棒状である。下部支柱46の下端には高さ調節具50の雄ねじ部と嵌合する雌ねじの加工がされている。高さ調節具50の雄ねじ部と下部支柱46の雌ねじ部を螺合させ、高さ調節具50を右回転または左回転させることによって、支柱42の全長を微調節することができる。
【0041】
図19と
図20に示すように、高所作業を行うときに配置される支柱42の状態をポジション1とする。また、
図23に示すように、支持体2を作業に使用せず、保管時や移動時に配置される支柱42の状態をポジション2とする。
ポジション1のとき、
図19に示すように支持体2をフォークリフトトラックDで所定の高さまで持ち上げた状態で、支持体2と地面の間に支柱42が配置される。
図19と
図20は支柱42を上部支柱44と下部支柱46の2本を接続する構成としているが、支柱42は3本またはそれ以上の本数で構成されても良い。
また、ピン52,ピン54は紛失防止のためにそれぞれ支持体2の下部と支柱42に鎖や紐等で連結されていることが好ましい。
【0042】
支柱42を設けることによって、高所作業員Bが高所作業中において、フォークリフトトラックDの運転手が誤ってフォークEを下げる操作をしたり、油圧の減圧によってフォークEが降下したりすることがなく、安全である。
また、上部支柱44と下部支柱46をピン52で連結することによる支柱42の高さ調節機能と、下部支柱46の下端の高さ調節具50による支柱42の高さ調節機能を組み合わせることにより、支柱42の高さを支持体1の設置高さにあわせて、広い範囲で確実に調節することが可能であり、作業現場ごとに支持体1の設置高さが変わっても対応可能となる。
【0043】
図23に示すように、ポジション2のとき、まず下部支柱46のほぼ全長を上部支柱44のパイプ内に収納させる。上部支柱44の一端が支持体2の下部に上部支柱固定具48で連結されている。上部支柱固定具48をヒンジ中心として支柱42の他端を支持体2の前方向に略90゜回動させた状態で、支柱42と支持体2を吊りチェーン56で連結する。
図23に示すように、ポジション2においては、支柱42が水平支材22と同程度の長さであり、水平支材22と平行に配置されるため、嵩張らない。従って、大きな保管スペースを必要とせず、保管が容易である。また支柱42と支持体2が組み合わされた状態で移動させることが容易である。
【0044】
通常、フォークリフトトラックDで荷物を運搬する場合、パレットに荷物を載せ、フォークEをパレットの挿入穴に差し込んだ状態で運搬する。このとき、運転者が通常の注意を怠らなければ、意図せずにパレットがフォークEから抜け落ちることは無いため、フォークEとパレットを固定していない。
【0045】
本発明においては、前記パレットと荷物の代わりに支持体1にフォークEを差し込んだ状態とし、支持体2の上部の係止部材4に安全帯Cのランヤード10を係止して墜落防止器具として使用される。本使用方法においては、高所作業員Bが誤って落下した場合、支持体2には、上下方向だけでなく、左右方向や前後方向にも荷重が加わることがある。万一、墜落阻止時に支持体1がフォークEから抜け落ちた場合、重大な事故を招くおそれがある。
そこで本発明においては、
図28と
図29に示すように、フォークEを支持体1に挿入後に、フォークEから支持体2が抜け落ちないように、固定具58を備えている。
【0046】
図28と
図29は、フォークEを連結部材6に挿入した状態を示す。
フォークEを連結部材6に挿入した状態において、連結部材のフォークリフトトラックD側の端部であって、フォークEのフォークリフトトラックD側の端部よりもフォークリフトトラックDに近い位置に、フォークEと直行したピン穴が設けられている。このピン穴に棒状の固定具58を挿通することにより、連結部材6に挿入されたフォークEが、連結部材6から離脱できない。
従って、高所作業終了後に固定具58を連結部材6から抜くまで、フォークリフトトラックDから支持体2が脱落することは無い。
また、固定具58は落下防止および紛失防止のために支持体2に鎖や紐等で連結されている。
【0047】
高所作業現場では安全帯係止用構造部材が無い高所作業現場は各所に存在する。そこで仮設足場を組んだり、
図7,
図8,
図9に示すような移動可能な墜落防止用架台を設置したり、安全帯係止用構造部材が設置されている倉庫に大型機械等Aを移動して作業を行うなどの対策が行われている。
いずれの方法も、設置や移動に時間が掛かり、多数の人手が掛かり、コストも高くなる。仮設足場や墜落防止用架台を設置しても、大型機械等Aの上面の広い作業範囲をカバーできないことがあり、作業性が悪く、安全性にも問題がある。
このことから安全性を犠牲にして、墜落防止対策をせずに高所作業を行うことも有り得る。
【0048】
本発明は、
図10、
図17に示すように、高所作業時における高所作業員Bの墜落を防止するために、墜落防止用器具すなわち支持体1,2を、フォークリフトトラックDのフォークEと連結して使用する方法である。
フォークリフトトラックDのフォークEを挿入する連結部材6と安全帯係止用構造部材を具備した支持体1,2をフォークリフトトラックDと連結し、フォークEを上方に上げた状態で支持体1,2を大型機械等Aの高所作業位置に配置することにより、高所作業者Bの墜落防止対策とするものである。
【0049】
支持体1,2の高さは、大型機械等Aの上面の高所作業位置に立つ高所作業員Bの上方に配置された安全帯係止用構造部材の地面からの高さから、フォークEの地面からの高さを引いた高さとなる。つまり、支持体1,2は従来の墜落防止用架台よりもフォークEの地面からの高さ分が低くなる。
支持体1,2は従来の墜落防止用架台と比べ、高さが低くなったことにより小型化される。小型化されることは必要な強度を確保することにおいても有利であり、構成部材も軽量化できる。全体として大幅な軽量化ができる。
また、小型・軽量化により、運搬が容易となる、製作コストも削減される、保管場所の省スペース化ができる等、多くのメリットがある。
【0050】
安全帯のランヤード等を安全帯係止用構造部材に係止して、高所作業員の墜落防止対策とする場合、安全帯係止用構造部材が墜落阻止時に加わる大きな荷重に対して十分な強度を持ち、落下した高所作業員を確実に保持しなければならない。
【0051】
図13および
図14に示すように、本発明の支持体1,2を使用した状態で高所作業員Bが落下し、墜落阻止したときに、フォークリフトトラックDは、支持体1,2の転倒防止用の錘として機能する。
以下、支持体2を例に挙げて説明するが、支持体1においても同様である。
【0052】
図17に示すように、墜落阻止時の状態について、支持体2の前後方向において検討する。
落下位置、即ち支持体2の摺動具36の位置に鉛直下方向に荷重F1が加わる。このとき、荷重F1にフォークリフトトラックDの前輪と落下位置との水平距離(x1)を乗じた値、即ちモーメント(F1×x1)を、フォークリフトトラックDの前輪とフォークリフトトラックDの重心位置との水平距離(x2)で除した値、即ち荷重F2=(F1×x1÷x2)が、フォークリフトトラックDの重心位置にフォークリフトトラックDを地面から浮かせる方向に働く。
例えば、荷重F1が大きい場合を考慮し、F1=8kNとする。その他の条件を標準的な場合を想定し、x1=3m,x2=1.3mとすれば、F2≒18.5kNとなる。ここで、フォークリフトトラックDの重量は、約3.5~5トンである。これを荷重に換算すると、約35kN~50kNとなり、F2と比べ十分に大きい。従って、墜落阻止時にフォークリフトトラックDは動くことはなく、支持体2が前後方向に転倒することは無い。
【0053】
図18に示すように、墜落阻止時の状態について、支持体2の左右方向において検討する。
落下位置、即ち摺動具36の位置に鉛直方向に荷重F1が加わる。このとき、荷重F1にフォークリフトトラックDの車輪の位置と落下位置との水平距離(z1)を乗じた値、即ちモーメント(F1×z1)を、フォーリフトトラックDの車輪の位置とフォークリフトトラックDの重心位置との水平距離(z2)で除した値、即ち荷重F3=(F1×z1÷z2)が、フォークリフトトラックDの重心位置にフォークリフトトラックDを左右に倒す方向に働く。
例えば、荷重F1が大きい場合を考慮し、F1=8kNとする。その他の条件を標準的な場合を想定し、z1=0.2m,z2=0.46mとすれば、F3≒3.5kNとなる。ここで、フォークリフトトラックDの重量は、約3.5~5トンである。これを荷重に換算すると、約35kN~50kNとなり、F3と比べ十分に大きい。従って、墜落阻止時にフォークリフトトラックDは動くことはなく、支持体2が左右方向に転倒することは無い。
【0054】
本発明は、支持体2とフォークリフトトラックDを連結しており、フォークリフトトラックDは上記説明のように支持体2を固定する土台として十分な重量があり、安全帯のランヤード等を係止する堅固な構造物に相当するものとして機能する。
【0055】
本発明は、フォークリフトトラックDを使用しているため、支持体2を保管場所から作業現場に移動させることが容易である。また、大型機械等Aの上面の作業範囲が支持体2を使用する場合に許容される作業範囲よりも広い場合においても、支持体2がフォークリフトトラックDに載っているため、フォークリフトトラックDの位置を動かすことによって、支持体2の設置位置を容易に短時間で変更することができる。従って、広い作業範囲であっても、効率的に墜落防止対策が可能となる。
また、同様に作業現場から保管場所への移動も容易である。
【0056】
大型機械等Aの高さは一定ではない。従って、作業位置の高さはまちまちである。通常フォークリフトトラックDのフォークEの揚高は約3mある。本発明は、フォークリフトトラックDを使用しているため、支持体2の設置高さを作業現場の高さに合わせることが容易であり、汎用性がある。
【0057】
以上のように、本発明における支持体とフォークリフトトラックを組み合わせて使用する方法は、墜落防止対策として従来技術に無い多くの優れた特徴を持つ。
本発明によって、安全帯係止用構造部材が無い高所作業現場において、容易に墜落防止対策ができ、高所作業の安全性向上と効率アップに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】本発明の一実施形態に係る支持体の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る支持体の側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る支持体の平面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る支持体の正面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る支持体の側面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る支持体の平面図である。
【
図7】従来の標準的な墜落防止用架台の正面図である。
【
図8】従来の標準的な墜落防止用架台の側面図である。
【
図9】従来の標準的な墜落防止用架台の平面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る支持体の使用状態を示す正面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る支持体の使用状態を示す側面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る支持体の使用状態を示す平面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る支持体で墜落阻止時の状態を示す正面図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る支持体で墜落阻止時の状態を示す側面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る支持体のレールの拡大正面図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る支持体のレールの拡大側面図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る支柱の使用状態を示す正面図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る支柱の使用状態を示す側面図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係る支柱の正面図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係る支柱の側面図である。
【
図21】本発明の一実施形態に係る支柱の正面図である。
【
図22】本発明の一実施形態に係る支柱の側面図である。
【
図23】本発明の一実施形態に係る支柱の収納時の正面図である。
【
図24】本発明の一実施形態に係る支柱の拡大正面図である。
【
図25】本発明の一実施形態に係る支柱の拡大側面図である。
【
図26】本発明の一実施形態に係る高さ調節具の拡大図である。
【
図27】本発明の一実施形態に係る高さ調節具の拡大図である。
【
図28】本発明の一実施形態に係る固定具の正面図である。
【
図29】本発明の一実施形態に係る固定具の側面図である。
【
図30】本発明の一実施形態に係る支持体の正面図である。
【
図31】本発明の一実施形態に係る支持体の側面図である。
【
図32】本発明の一実施形態に係る支持体の平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 支持体
2 支持体
4 係止部材
6 連結部材
8 取付部材
10 ランヤード
12 フック
14 リトラクタ式墜落防止器具
16 ストラップ
20 垂直支材
22 水平支材
24 斜支材
26 斜支材
28 筋交い
30 ボルト・ナット
32 環
34 レール
36 摺動具
38 摺動具本体
40 ローラ
41 支持線
42 支柱
44 上部支柱
46 下部支柱
48 上部支柱固定具
50 高さ調節具
52 ピン
54 ピン
56 吊りチェーン
58 固定具
A 大型機械等
B 高所作業員
C 安全帯
D フォークリフトトラック
E フォークリフトトラックのフォーク
F1 高所作業員の墜落阻止時の垂直荷重
F2 荷重
F3 荷重
x1 フォークリフトトラックの前輪と落下位置との水平距離
x2 フォークリフトトラックの前輪とフォークリフトトラックの重心位置との水平距離
z1 フォークリフトトラックの車輪の位置と落下位置との水平距離
z2 フォークリフトの車輪の位置とフォークリフトトラックの重心位置との水平距離
W フォークリフトトラックの重量