(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】ダイヤモンド系通電構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3205 20060101AFI20220425BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20220425BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20220425BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20220425BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220425BHJP
H05K 3/10 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
H01L21/88 M
H01L21/88 B
H01L21/28 301Z
H05K1/09 A
H05K3/10 C
(21)【出願番号】P 2018172239
(22)【出願日】2018-09-14
(62)【分割の表示】P 2017231271の分割
【原出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2016253759
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017035175
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510202167
【氏名又は名称】Next Innovation合同会社
(72)【発明者】
【氏名】道脇 裕
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/001686(WO,A1)
【文献】特開平03-254144(JP,A)
【文献】特表2015-530760(JP,A)
【文献】特開平07-037835(JP,A)
【文献】特開2003-163312(JP,A)
【文献】特開昭60-193395(JP,A)
【文献】特開2009-004669(JP,A)
【文献】特開平05-117088(JP,A)
【文献】特開平10-261712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3205
H01L 21/28
H05K 1/09
H05K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系領域に密着するか或いは近接す
る昇温層
に対して熱源を照射して該昇温層を部分的に昇温し、該昇温による熱によって上記ダイヤモンド系領域を局所的に加熱して、該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系領域の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する事を特徴とする、
ダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項2】
前記ダイヤモンド系領域を冷却する冷却工程を有することを特徴とする、
請求項1に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項3】
ダイヤモンド系領域を、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする、
請求項1又は2に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項4】
基材に対して直接的又は間接的に、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系層を設けるカーボン成層工程と、
上記ダイヤモンド系層に密着するか或いは近接するように昇温層を形成し、
該昇温層に対して熱源を照射して該昇温層を部分的に昇温し、該昇温による熱によってダイヤモンド系層を
局所的に加熱して該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系層の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する導電部形成工程と、を備える事を特徴とする、
ダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項5】
前記ダイヤモンド系層を冷却する冷却工程を有することを特徴とする、
請求項4に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項6】
前記導電部形成工程と前記冷却工程を同時に行うことを特徴とする、
請求項5に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項7】
前記ダイヤモンド系層に対して非炭素成分をドープするドーピング工程を有することを特徴とする、
請求項4乃至6のいずれかに記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項8】
前記ダイヤモンド系層を、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする、
請求項4乃至7のいずれかに記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項9】
2以上の方向からレーザを交差するように照射し、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系領域を該交差点で局所的に加熱して、該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系領域の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する事を特徴とする、
ダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項10】
前記ダイヤモンド系領域を冷却する冷却工程を有することを特徴とする、
請求項9に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項11】
ダイヤモンド系領域を、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする、
請求項9又は10に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項12】
基材に対して直接的又は間接的に、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系層を設けるカーボン成層工程と、
上記ダイヤモンド系層に2以上の方向からレーザを交差するように照射して上記交差点を局所的に加熱し、該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系層の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する導電部形成工程と、を備える事を特徴とする、
ダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項13】
前記ダイヤモンド系層を冷却する冷却工程を有することを特徴とする、
請求項12に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項14】
前記導電部形成工程と前記冷却工程を同時に行うことを特徴とする、
請求項13に記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項15】
前記ダイヤモンド系層に対して非炭素成分をドープするドーピング工程を有することを特徴とする、
請求項12乃至14のいずれかに記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【請求項16】
前記ダイヤモンド系層を、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする、
請求項12乃至15のいずれかに記載のダイヤモンド系通電構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗、半導体、コンデンサ、各種センサ、電子回路、回路基板、集積回路等の各種の電子部品に適用される通電構造、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抵抗、半導体、コンデンサ、各種センサ、電子回路、回路基板、集積回路等の各種の電子部品は、様々な手法によって製造される。これらの電子部品は、電気伝導性の良い金属などの良導体によって構成される通電部と、電気抵抗率が大きく電気を通さない(或いは、ほとんど通さない)絶縁部とを組み合わせて構成される。更に、良導体と絶縁体の中間的な抵抗率を持つ半導体を含む電子部品も存在する。
【0003】
例えば、電気回路は、基板上に金属配線を形成し、この金属配線上にコンデンサや抵抗等の他の電気的素子(これらも電子部品の一種である)、半導体部品等を実装して、全体として電子部品となる。電子回路の用途は様々であり、信号を増幅したり、計算したり、データを取得したりする。電子回路で用いられる回路基板は、一般的にプリント基板にフォトリソグラフィ等でプリント配線を作り込む(特許文献1参照)。
【0004】
集積回路では、ケイ素などの半導体基板(ウェハ)上に、素子や配線を形成する。具体的には、基板上に将来の素子や配線となる薄膜層を形成し、この薄膜層に対してフォトレジスト等によって回路パターンを転写し、フォトレジストをマスクにして、エッチングによって、薄膜を配線等に加工する(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-152020
【文献】特開平10-209166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電子部品の通電構造では、絶縁体又は半導体となる基板上に薄膜層を形成し、エッチング加工で配線を形成することから、残渣が生じたり、製造工程が複雑化したりする。また、基板には、良導体となる金属を用いることが難しく、仮に、良導体の基板を採用する場合は、予め、表面に絶縁被膜を施さない限り、その上に回路を形成することが難しい。また、従来の通電構造は、外力に対する耐久性が低いため、セラミックパッケージなどのように、剛性の高い筐体で覆う必要があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、耐久性の高い通電構造、該通電構造を用いた電子部品等を提供することを目的とし、また、この通電構造を様々な部位に容易に形成することを付加目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記目的を達成する本発明は、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系領域に密着するか或いは近接する昇温層に対して熱源を照射して該昇温層を部分的に昇温し、該昇温による熱によって上記ダイヤモンド系領域を局所的に加熱して、該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系領域の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する事を特徴とする、ダイヤモンド系通電構造の製造方法である。
【0035】
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記ダイヤモンド系領域を冷却する冷却工程を有することを特徴とする。
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする。
【0036】
上記目的を達成する本発明は、基材に対して直接的又は間接的に、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系層を設けるカーボン成層工程と、上記ダイヤモンド系層に密着するか或いは近接するように昇温層を形成し、該昇温層に対して熱源を照射して該昇温層を部分的に昇温し、該昇温による熱によってダイヤモンド系層を局所的に加熱して該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系層の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する導電部形成工程と、を備える事を特徴とする、ダイヤモンド系通電構造の製造方法である。
【0037】
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記ダイヤモンド系層を冷却する冷却工程を有することを特徴とする。
【0038】
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記導電部形成工程と前記冷却工程を同時に行うことを特徴とする。
【0039】
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記ダイヤモンドライクカーボン層に対して非炭素成分をドープするドーピング工程を有することを特徴とする。
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記ダイヤモンド系層を、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする。
上記目的を達成する本発明は、2以上の方向からレーザを交差するように照射し、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系領域を該交差点で局所的に加熱して、該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系領域の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する事を特徴とする、ダイヤモンド系通電構造の製造方法である。
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記ダイヤモンド系領域を冷却する冷却工程を有することを特徴とする。
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする。
上記目的を達成する本発明は、基材に対して直接的又は間接的に、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系層を設けるカーボン成層工程と、上記ダイヤモンド系層に2以上の方向からレーザを交差するように照射して上記交差点を局所的に加熱し、該ダイヤモンド系材料のグラファイト成分を増加させることで、上記ダイヤモンド系層の中に上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる導電性領域を部分的に形成する導電部形成工程と、を備える事を特徴とする、ダイヤモンド系通電構造の製造方法である。
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記ダイヤモンド系層を冷却する冷却工程を有することを特徴とする。
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、前記導電部形成工程と前記冷却工程を同時に行うことを特徴とする。
上記ダイヤモンド系通電構造の製造方法に関連して、予め、導電性領域の変性に必要な熱量に若干満たない温度域に昇温することを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明の通電構造等によれば、耐摩耗性や耐熱性に優れた電気・電子部品を形成することが可能となる。また、対象物体に対して通電構造を形成すれば、その対象物体の耐久性を高度に向上せしめることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の通電構造等によれば、多様な対象物体の多様な部位を容易にセンサ化することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る電子部品を示す(A)正面断面図、(B)平面図である。
【
図2】(A)乃至(C)は同電子部品の製造工程を示す正面断面図である。
【
図3】(A)及び(B)は同電子部品の製造工程を示す正面断面図である。
【
図4】(A)及び(B)は同電子部品の製造工程を示す正面断面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る電子部品を示す正面断面図である。
【
図6】本発明の第三実施形態に係る電子部品を示す正面断面図である。
【
図7】本発明の第四実施形態に係る電子部品を示す(A)正面断面図、(B)平面図、(C)変形例の正面断面図である。
【
図8】本発明の第五実施形態に係る電子部品を示す(A)正面断面図、(B)平面図である。
【
図9】本発明の第六実施形態に係る電子部品を示す正面断面図である。
【
図10】本発明の第七実施形態に係る電子部品を示す正面断面図である。
【
図11】(A)乃至(D)は本発明の実施形態に係る電子部品の回路構成を示す平面図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る電子部品の回路構成を示す平面図である。
【
図13】本発明の第八実施形態に係る電子部品を示す斜視図である。
【
図14】本発明の第九実施形態に係る電子部品を示す斜視図である。
【
図15】(A)(B)共に、本発明の第十実施形態に係る電子部品を示す斜視図である。
【
図16】本発明の第十一実施形態に係る電子部品を示す(A)斜視図、(B)電子部品の製造工程を示す正断面図である。
【
図17】本発明の第十一実施形態の第一変形例に係る電子部品を示す(A)斜視図、(B)電子部品の製造工程を示す正断面図である。
【
図18】本発明の第十一実施形態の変形例に係る電子部品を示す(A)第二変形例の斜視図、(B)第三変形例の製造工程である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0043】
なお、第一実施形態から第七実施形態の電子部品では、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分とするダイヤモンド系領域として、アモルファスカーボンを主成分とするダイヤモンドライクカーボン層を適用する場合を例示するが、本発明はこれに限定されず、このダイヤモンドライクカーボン層に変えて、ダイヤモンドを主成分とするダイヤモンド層としても良い。また、ダイヤモンド系領域は、基板に対する積層構造に限定されず、ダイヤモンド系領域自体が立体構造であっても良い。即ち、以下の第一実施形態から第七実施形態の電子部品のダイヤモンドライクカーボン層は、全て、ダイヤモンド層、又は、基板を省略した立体的なダイヤモンド系領域に置換できるものである。
【0044】
図1に、本発明の第一実施形態に係る電子部品1を示す。この電子部品1は、通電構造として、基材(母材)10、中間層20、ダイヤモンドライクカーボン層(以下DLC層)30、導電性領域40、カバー層50を有する。基材10は、例えば、導電性を有する材料で構成されていても良く、ここでは金属となっている。なお、基材10の材料や形状は特に限定されず、セラミック、ガラス、石材、コンクリート、アスファルト、合成木を含む木材、合成紙を含む紙、樹脂、天然ゴムや合成ゴムやシリコーンを含むゴム、シリコン、半導体(ウェハ)、動植物等由来のバイオ材料等、若しくはこれらの複合材等、様々な材料を選択できる。
【0045】
中間層20は、基材10及びDLC層30に対する双方の密着性が高い材料によって構成されており、例えば、ラジカル窒化層や、金属/炭素の混合傾斜組成層、クロムやチタン等の金属膜、シリコン膜等が好ましい。金属/炭素の混合傾斜組成層の場合、基材10側は金属の組成比率が大きく、DLC層30側は炭素の組成比率が大きくなるようにする。この金属/炭素の混合傾斜組成層は、スパッタ等によって堆積及び/又は積層若しくは付着等によって成層される。なお、この中間層は、基材10の表面を改質することで得られる表面改質層の概念も含む。例えば、浸炭層や、基材10の表面粗さを改質して得られるショットピーニング層や、基材10の表面に窒素を浸透拡散させて得られる窒化層若しくはポーラス層、基材10の表面にイオン物質等をドーピングして得られるドープ層、基材10の表面を変性させることで得られる変性層等も中間層20の一部である。基材10の表面改質方法も様々であり、プラズマ処理等によって行っても良い。
【0046】
DLC層30は、アモルファスカーボンを主成分とする被膜であり、ダイヤモンド構造に対応するsp3結合をもっているが、部分的に、グラファイト構造に対応するsp2結合の他、場合によっては水素結合を含むために、長距離秩序的には決まった結晶構造を持たない。
【0047】
特に本DLC層30は、電気抵抗率が高い不導体となる。DLC層30を不導体とするためには、アモルファスカーボン中において、短距離秩序的に、電気抵抗率が極めて高いダイヤモンド構造に対応するsp3結合の比率を高め、グラファイト構造に対応するsp2結合の比率を低くする。なお、DLC層30の堆積及び/又は積層若しくは付着による成層方向Tの厚みH1は、例えば、1~10μmとすることが出来る。勿論、成層の厚みはこれに限定されるものではなく、サブミクロン以下、例えば、数十原子単位程度等であってもよく、或いは数百μmオーダー以上であってもよい。特に、DLC層30の中に、水素結合をより多く含む場合には、このDLC層30の硬度が低下し、柔軟性が発現することもあり、層厚を厚く形成することも可能である。
【0048】
なお、繰り返しになるが、DLC層30は、ダイヤモンドを主成分とするダイヤモンド層に置き換えたり、又は、多層構造によってダイヤモンド層と組み合わせたりすることができる。ダイヤモンド層は、ダイヤモンド構造に対応するsp3結合を主成分とした結晶構造となる。ここでのダイヤモンド層は、電気抵抗率が高い不導体となる。
【0049】
なお、本実施形態では、基材10に対して中間層20を介して間接的にDLC層30を成層する場合を例示しているが、基材10に対して直接的にDLC層30を成層しても良い。
【0050】
導電性領域40は、DLC層30の中に部分的に形成される領域となる。これは、予め成膜、或いは成層されたDLC層30のアモルファスカーボンを、部分的にグラファイトへ変性させることで得られる。グラファイトは、アモルファスカーボンよりも電気抵抗率が小さい。導電性領域40は、グラファイトの含有比率が高められることになり、所謂半導体や良導体となる。ここでは良導体としている。
【0051】
導電性領域40は、DLC層30の厚みH1の一部に形成され、ここでは基材10と反対側の表面に偏って厚みH2で形成される。また、導電性領域40は、DLC層30の面に沿う方向Sの一部に形成される。具体的に導電性領域40は、
図1(B)に示すように、面に沿う方向Sに対して幅W2となる帯状に形成され、更に、この帯がL字又はU字状に複数回屈曲した蛇行状となる。この導電性領域40の形成は、DLC層30を所定の温度域、例えば、200℃~600℃で加熱すればよい。加熱部分に限ってアモルファスカーボンが部分的にグラファイトへ変性して、グラファイトの占有率が高くなる。従って、この導電性領域40は通電路となる。また、加熱方法や加熱温度、加熱時間等を調整することで、導電性領域40の深さや、幅、グラファイトの含有比率を調整することが可能となり、結果、導電性領域40の電気抵抗率も、全体又は一部において自在に調整できる。従って、所定の電気抵抗率に設定すれば、導電性領域40を電気抵抗として用いることが出来る。なお、導電性領域40の形状は目的に応じて自在に変更できる。例えば、単数又は複数の直線や曲線、分岐線や合流線を含む線状(
図11(A)参照)や、渦巻線状、ループ線状を含む線状(
図11(B)参照)に形成しても良く、また、これらの線が交差して交点を有する状態又は格子状にしても良い(
図11(C)参照)。更に、小さな若しくは微小な円形や多角形、微小線等を含む点状、即ち、ドット状や複数のドットで構成されるドット群状或いはドットが断続的な配列を成すように形成しても良く(
図11(D)参照)、勿論、平面状や曲面状、或いは、母材の表面に沿った面状に形成することも可能であり、積層して多層化することやこれらの複合形態に構成することも出来る。また、
図11に示すように、これらの導電性領域は、基材の表面全体及び/又は所望の領域に全体を被覆するように広がる様に形成することが好ましい。このようにすると基材のあらゆる場所の変位・変形・物理的性質の変化等をセンシングすることが可能となる。
【0052】
また、本発明は、基材の全体が単一種類(単一機能)の導電性領域となる場合に限られず、基材中の複数の領域で異なる機能を発揮するように構成しても良い。例えば
図12に示す電子部品1の導電構造のように、センサ機能を有する導電性領域40A、抵抗機能を有する導電性領域40B、コンデンサ機能を有する導電性領域40C、スイッチング機能を有する導電性領域40D、その他のバス等の配線機能を有する導電性領域40E等のように、異なる機能を単一基材内に作り込むことも可能である。また、このような電子部品1に対しては、電力を供給する電源が接続されたり、信号の入出力を行う外部装置が接続されたりしても良い。また、図示省略するが、外部からの熱や光、振動、圧力等の種々の形態のエネルギーを受けて発電可能な発電領域を電子部品1上に形成して必要な電力を供給するように構成してもよい。
【0053】
カバー層50は、ここでは電気絶縁材による電気絶縁層となる。例えば、アルミナ被膜、シリカ膜等が好ましい。カバー層50は、塗装、スパッタ、PVD、CVD等の各種手法を用いることができる。勿論、カバー層を、第二アモルファスカーボン膜(第二DLC層)としても良い。また、カバー層50は、単層でも二層以上或いは多層であってもよく、更に、付加機能を有する物であってもよい。
【0054】
本電子部品1は、例えば、導電性領域40を電気抵抗体とする抵抗、導電性領域40を電極とするコンデンサ、導電性領域40の抵抗値の変化を利用するセンサ、導電性領域40を電気供給配線とする電子回路や回路基板、導電性領域40を利用して配線や各種素子を形成する集積回路等となる。従って、電子部品1の目的に合わせて、導電性領域40の形状や膜厚を変更したり、導電性領域40を多層化したり、多層の導電性領域40を立体的に接続したり、導電性領域40を含むDLC層30を多層化したりすることが可能である。
【0055】
次に
図2及び
図3を参照して、電子部品1の通電構造の製造手順について説明する。
【0056】
図2(A)に示すように、まず、基材10に対して中間層20を成膜し、更に、その中間層20の上に、DLC層30を成膜する。なお、中間層20をラジカル窒化層とする場合は、真空雰囲気中のプラズマ放電により、窒素イオンを基材10の表面への衝突させることで成膜される。中間層20を、金属/炭素の混合傾斜組成層とする場合は、スパッタ等によって積層される。その他、塗装やプリント、フィルムの接着等によって中間層20を堆積及び/又は積層或いは付着させて成層することもできる。
【0057】
DLC層30の成膜は、公知の技術を適宜用いることが可能である。例えば、イオン化蒸着法、陰極アーム法、PVD法やプラズマCVD法等によって成膜される。DLC層30におけるアモルファスカーボン膜は、例えば、0.5~10μm程度或いはそれ未満の膜厚とし、電気抵抗率は109~1014(オーム・cm)とする。
【0058】
なお、DLC層30の代わりにダイヤモンド層を用いる場合、その成膜方法は公知技術を適宜用いることが可能である。例えば、熱フィラメントCVD、プラズマCVDなどの各種CVD法、燃焼炎を用いた燃焼炎法等の様々な方法を用いることが出来る。
【0059】
次に
図2(B)に示すように、DLC層30の表面を加熱して、DLC層30の内部に導電性領域40を形成する(導電部形成工程)。この際、例えば
図3(A)に示すように、酸素雰囲気中において、レーザービームMを照射してDLC層30を部分的に加熱しても良い。この際、フェムト秒レーザーのように極めて短時間のパルスレーザーを照射することで、ターゲットエリア外への熱の伝達を抑制するように制御することも可能である。
【0060】
また、
図3(A)の点線に示すように、レーザービームMの表面に対する照射角度を変えて、複数の角度から個別又は同時に照射しても良い。このようにすると、導電性領域40の深さ等を制御しやすくなる。例えば、互いに異なる照射角となる複数のレーザービームMを同時に照射して、DLC層30の内部で交差させるようにすると、その交差点が局所的に加熱される。結果、表面ではなくDLC層30の内部に限定して導電性領域40を形成することができる。また、特に図示しないが、レンズ等の光学素子を利用して、レーザービームM等の焦点をDLC層30の内部にフォーカスすることで、焦点位置のみを局所的に加熱することもできる。なお、レーザービーム以外にも、ガスフローレーザー、超音波振動、高周波等、様々な加熱手法を用いることが出来る。勿論、必ずしも酸素雰囲気中での加熱でなければならないというものではなく、真空中や不活性ガス雰囲気中であってもよいが、酸素雰囲気中での加熱であればダイヤモンド構造に対応するSP
3結合からグラファイト構造に対応するSP
2結合への転換が比較的低温であっても生じ易くなるという効果を得ることが出来る。また、
図3(B)に示すように、表面に、導電性領域40と同じ形状となる転写パターン72を有する加熱型70を用い、この加熱型70を、ヒータ等によって例えば、200℃~600℃に調温し、この加熱型70の転写パターン72を、DLC層30に当接させることで、DLC層30を部分的に加熱することもできる。
【0061】
DLC層30を加熱する場合、DLC層30を直接又は間接的に冷却(放熱)することが好ましい。DLC層30は熱伝導率が高いため、DLC層30を部分的に加熱しても、その熱がDLC層30の全体に拡散して、全体が導電性領域40となってしまうからである。具体的には
図4(A)に示すように、基材10の背面(底面)側に、下側冷却プレート80を配置して、基材10及び中間層20を介して、DLC層30を間接的に冷却する。この下側冷却プレート80は、ヒートシンクを備えていても良く、また、冷却媒体(冷却水やフロリナート(商標)等の如くのフルオロカーボンを基にした液相冷媒等の冷却液)を循環させたり、ペルチェ素子を備えたりして強制的に放熱することが好ましい。
【0062】
また、DLC層30の基材10側と反対側の表面(上面)に対して、上側冷却プレート90を当接させて、DLC層30を直接的に冷却しても良い。この上側冷却プレート90には、導電性領域40と同じ形状で開口する開口パターン92を備えるようにし、
図4(B)に示すように、この開口パターン92を介して、加熱型70の転写パターン72をDLC層30に当接させる。上側冷却プレート90は、DLC層30よりも熱伝導率の高い材料を用いることにより、DLC層30の熱を積極的に吸収し、更にヒートシンク等によってその熱を外部に放出する。勿論、上側冷却プレート90に、冷却媒体(冷却水やフロリナート(商標)等の如くのフルオロカーボンを基にした液相冷媒等の冷却液)を循環させたり、ペルチェ素子を設けたりして強制的に放熱させることができる。
【0063】
なお、加熱型70を用いずに、開口パターン92を介してレーザー等をDLC層30に照射して加熱しても良い。また、ここでは、DLC層30の冷却工程と、DLC層30の加熱工程(導電部形成工程)を同時に行う場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、液体窒素ややフロリナート(商標)等の如くのフルオロカーボンを基にした液相冷媒等の低温冷却液等への直接浸漬等様々な手法でDLC層30を予め冷却しておき、その後、冷却済みのDLC層30を加熱して導電性領域40を形成しても良い。また、冷却手法は上記に限定されず、例えば、冷風等の冷却雰囲気によって冷却することも可能である。
【0064】
図2(C)に戻って、DLC層30の内部に導電性領域40を形成した後は、その表面にカバー層50を成膜してもよい。カバー層50は、塗装、スパッタ、PVD、CVD等の各種手法を用いることができる。その他にも、プリント、絶縁フィルムの接着等によって積層しても良い。
【0065】
本実施形態の電子部品1は、以下の利点を有する。
【0066】
(1)DLC層30自体が絶縁被膜となり、その中の一部に導電性領域40が形成される構造となることから、電子部品1の薄肉化が実現される。従って、従来、電子部品1の形成が困難とされるような部位・部材・場所に通電構造を形成することができ、その部位を電子部品1とすることが可能となる。
【0067】
(2)DLC層30は多種多様な基材に形成できる。結果、金属等の導電性の基材に限られず、樹脂フィルム、ゴム、紙、木材、石、セラミック、ガラス、シリコン等、様々な基材に通電構造を形成できる。換言すると、世の中に存在するあらゆる各種製品の表面に、一体的に、電子部品1を作り込むことが可能となる。
【0068】
(3)DLC層30の成膜工程と、DLC層30に対する熱処理で導電性領域40を形成する工程で、様々な回路パターンを自在にデザインできる。結果、製造工程が大幅に簡素化される。
【0069】
(4)DLC層30は、耐摩耗性が極めて高いことから、耐久性や耐摩耗性、平滑性等が要求される部位においても、通電構造を形成できる。例えば、各種産業用ローラの表面に電子部品を形成したり、加工工具・加工治具の表面に電子部品を形成したりすることも可能となる。
【0070】
次に、本発明の第二実施形態に係る電子部品101について、
図5を参照して説明する。なお、第一実施形態で説明した電子部品1と同一・類似する部材については、名称と符号の下二桁を一致させることで、個々の詳細な説明を省略する。
【0071】
この電子部品101は、基材(母材)110、中間層120、DLC層130、導電性領域140、カバー層150を有する。導電性領域140は、DLC層130の厚み方向Tの厚みH1の一部に形成され、ここでは基材110と反対側の表面に偏って厚みH2で形成される。また、導電性領域140は、DLC層130の面に沿う方向Sの全部に形成される。従って、DLC層130の表面の全体が導電性領域140となり、所定の抵抗値を有する配線となる。結果、電子部品101は、抵抗部品として用いることが出来る。また、基材110の変形と連動して導電性領域140を変形させれば、その抵抗値変化によって基材110の変形量をセンシングするセンサとなる。この基材110をフィルム状として、他の部材に張り付けるようにすれば、所謂歪みゲージとして用いることも可能になる。勿論、基材(母材)110その物の表面に直接的にDLC層30を成層し、所望の導電性領域140を形成することで、基材(母材)110自体の歪みを検出可能となるため、あらゆる物、その物自体をセンサ化することが可能となり、基材(母材)110その物の温度を直接測定したり、自身の歪みを測定したりすることが可能となる。
【0072】
次に、本発明の第三実施形態に係る電子部品201について、
図5を参照して説明する。なお、第一実施形態で説明した電子部品1と同一・類似する部材については、名称と符号の下二桁を一致させることで、個々の詳細な説明を省略する。
【0073】
この電子部品201は、基材(母材)210、中間層220、第一DLC層230、第一導電性領域240、第二DLC層232、第二導電性領域242を有する。即ち、DLC層と導電性領域が多層構造となっている。
【0074】
第一導電性領域240は、第一DLC層230の中の厚み方向の占有率が大きくなる厚肉区画240Bと、同厚み方向の占有率が小きくなる浅肉区画240Aを有する。浅肉区画240Aは第一DLC層230の厚み方向Tの厚みH1の一部に形成され、ここでは基材210と反対側の表面に偏って厚みH2で形成される。厚肉区画240Bは、第一DLC層230の厚み方向Tの厚みH1の全部に形成される。従って、中間層220及び基材210と導通しており、基材210の電力供給端子Xを介して、第一導電性領域240に電力を供給できる。なお、第一導電性領域240は、第一DLC層230の面に沿う方向Sの全部に形成される。
【0075】
更に第二導電性領域242は、第二DLC層232の厚み方向Tの厚みH1の一部に形成され、ここでは基材210と反対側の表面に偏って厚みH2で形成される。また、第二導電性領域242は、第二DLC層232の面に沿う方向Sの全部に形成される。従って、第二導電性領域242に対して電力供給端子Yを設けることで、第二導電性領域242に電力を供給できる。
【0076】
本電子部品201は、第一導電性領域240と第二導電性領域242が、第二DLC層232を介して一定の間隔を空けて平行に配置されるので、コンデンサの電極として用いることが出来る。なお、第一導電性領域240と第二導電性領域242の形状は本実施例に限定されず、櫛歯形状としたり、放射形状としたりしても良い。
【0077】
次に、本発明の第四実施形態に係る電子部品301について、
図7を参照して説明する。なお、第一実施形態で説明した電子部品1と同一・類似する部材については、名称と符号の下二桁を一致させることで、個々の詳細な説明を省略する。
【0078】
この電子部品301は、基材(母材)310、中間層320、DLC層330、導電性領域340、カバー層350を有する。
図7(B)に示すように、導電性領域340は、幅Wを有する帯状となる。導電性領域340は、更に、DLC層230の中の厚み方向の占有率が大きくなる厚肉区画340Bと、同厚み方向の占有率が小きくなる浅肉区画340Aを有する。浅肉区画340Aは、DLC層330の厚み方向Tの厚みH1の一部に形成され、ここでは基材310と反対側の表面に偏って厚みH2で形成される。厚肉区画340Bは、DLC層230の厚み方向Tの厚みH1の一部に形成され、基材310と反対側の表面に偏って厚みH3で形成される。この厚みH3は、浅肉区画340Aの厚みH2よりも大きい。厚肉区画340Bは、帯方向に沿って所定の間隔を空けて複数形成される。なお、ここでは、複数の厚肉区画340Bの厚みH3が互いに一致する場合を例示したが、各厚肉区画340Bの厚みを互いに異ならせても良い。
【0079】
なお、厚肉区画340Bと薄肉区画340Aは、加熱手段、加熱温度や加熱時間、加熱回数、加熱手法を異ならせることで形成できる。なお、厚肉区画340Bの方が、薄肉区画340Aと比較して、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたり、加熱回数を多くしたりすれば良い。厚肉区画340Bの方が、薄肉区画340Aと比較して体積(断面積)が大きくなるので、電気抵抗が低下する。なお、厚肉区画340Bの方が、薄肉区画340Aと比較してグラファイトの含有量が多くなることから、電気抵抗率も低下する。
【0080】
導電性領域340の両端間に電圧を印加すれば、所定の抵抗値を示す抵抗部品となる。また、基材310の変形によって、DLC層330及び導電性領域340が変形すると抵抗値が変化するので、歪みセンサや振動センサ等の電子部品に応用できる。特に、本実施形態のように、抵抗値が異なる厚肉区画340Bと薄肉区画340Aが交互に繰り返されると、基材310の変形による抵抗値の変化量を増大させることができる。
【0081】
なお、
図7(C)に示す電子部品301のように、導電性領域340において、電気抵抗率が高い高抵抗率区画340Fと、高抵抗率区画340Fよりも電気抵抗率が低い低抵抗率区画340Gを形成することもできる。例えば、物理的な厚みを変化させることなく、高抵抗率区画340Fと低抵抗率区画340Gを作り分けるためには、加熱温度や加熱手法を互いに異ならせることが好ましい。また、DLC層330に対して非炭素成分のドーピングを行うことも可能である。例えばイオンドーピングにより、DLC層330の局所的な改質も可能であり、ドープするイオンによって、付加的な機能を当該局部に与えることが出来る。例えば、三価の元素であるホウ素やホウ素化合物、アルミニウムやアルミニウム化合物、或いは、五価の元素であるリンやリン化合物、又は砒素や砒素化合物のイオンを注入してもよく、三価の元素添加によればP型半導体領域を、五価の元素添加によればN型半導体領域をそれぞれDLC層330の所望の部位に形成することが可能となる。なお、DLC層330に対して各種のイオンドープを行う際には、従来公知の適宜のイオンドーピング装置を用いることが出来る。
【0082】
次に、本発明の第五実施形態に係る電子部品401について、
図8を参照して説明する。なお、第一実施形態で説明した電子部品1と同一・類似する部材については、名称と符号の下二桁を一致させることで、個々の詳細な説明を省略する。
【0083】
この電子部品401は、基材(母材)410、中間層420、DLC層430、複数の導電性領域440、カバー層450を有する。複数の導電性領域440は、DLC層430の内部に限って、互いに電気的に独立した状態(電気的な浮島状態)となる。各導電性領域440は、DLC層430の厚み方向Tの厚みH1の一部に形成され、ここでは基材410と反対側の表面に偏って厚みH2で形成される。また、導電性領域440は、DLC層430の面に沿う方向Sの一部に形成される。
【0084】
本実施形態のように、複数の導電性領域440の間隔を狭くすれば、この隙間に残存するDLC層430の抵抗値が小さくなる。例えば、複数の導電性領域440の中で一方の端にある導電性領域440に電力供給用端子Xを設け、他方の端にある導電性領域440に電極供給用端子Yを設けて、両者の間に電圧を印加すれば、複数の導電性領域440と、その間に残存するDLC層430を電流が流れることで高抵抗部品となる。また、基材510の変形によって、DLC層430及び導電性領域440が変形すると、抵抗値が変化するので、歪みセンサや振動センサ等の電子部品に応用できる。
【0085】
次に、本発明の第六実施形態に係る電子部品501について、
図9を参照して説明する。なお、この第六実施形態は、第五実施形態の電子部品401の変形例となるため、第四実施形態で説明した電子部品401と同一・類似する部材については、名称と符号の下二桁を一致させることで、個々の詳細な説明を省略する。
【0086】
この電子部品501は、基材(母材)510、中間層520、第一DLC層530、複数の第一導電性領域540、第二DLC層432、複数の第二導電性領域542を有する。複数の第一導電性領域540は、第一DLC層530の内部に限っては、互いに電気的に独立した状態(電気的な浮島状態)となる。また、複数の第二導電性領域542は、第二DLC層532の内部に限っては、互いに電気的に独立した状態(電気的な浮島状態)となる。
【0087】
更に、
図9(B)に示すように、複数の第一導電性領域540と、複数の第二導電性領域542は、平面視すると交互に配置される状態となり、両者を併せると一つの帯状配線となる。つまり、隣接する一対の第一導電性領域540の間に、各第二導電性領域542が架け渡すように配置される。各第一導電性領域540の端縁と、各第二導電性領域542の端縁が、第二DLC層532を介して接近するので、両端縁間に高電圧を印加すると、高抵抗となる第二DLC層532内を微小電流が流れる。従って、例えば、複数の第二導電性領域542の中で一方の端にある第二導電性領域542に電力供給用端子Xを設け、他方の端にある第二導電性領域542に電極供給用端子Yを設け、両者の間に電圧を印加すれば、比較的高い抵抗部品となる。この構造によると、基材510の変形によって、第一及び第二DLC層530、532、並びに、第一及び第二導電性領域540、542が変形すると、抵抗値が変化するので、歪みセンサや振動センサ等の電子部品に応用できる。
【0088】
次に、本発明の第七実施形態に係る電子部品601について、
図10を参照して説明する。なお、第一実施形態で説明した電子部品1と同一・類似する部材については、名称と符号の下二桁を一致させることで、個々の詳細な説明を省略する。
【0089】
この電子部品601は、基材(母材)610、中間層620、DLC層630、導電性領域640、カバー層650を有する。導電性領域640は、DLC層630の厚み方向Tの厚みH1の一部に形成され、ここでは基材610側の表面に偏って厚みH2で形成される。また、導電性領域640は、DLC層630の面に沿う方向Sの全部に形成される。このようにすると、導電性領域640が、DLC層630によって覆われるため、DLC層630自体をカバー層と兼ねることも可能である。なお、導電性領域640を成層する場合、基材(母材)610又は中間層620を加熱すれば良い。
【0090】
なお、上記実施形態では、ダイヤモンド及び/又はアモルファスカーボンとなるダイヤモンド系材料を主成分としたダイヤモンド系領域として、基材に積層されるDLC層を採用する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。
【0091】
次に、
図13を参照して、本発明の第八実施形態に係る電子部品701について説明する。この電子部品701は、通電構造として、立体形状となるダイヤモンド系領域735と、このダイヤモンド系領域735に部分的に形成される導電性領域740A、740Bを有する。
【0092】
ダイヤモンド系領域735は、ここではダイヤモンドを主成分とした結晶構造となっている。具体的にダイヤモンド系領域735は、天然ダイヤモンド又は人工的に合成した合成ダイヤモンドとなる。合成ダイヤモンドの製造は、従来から公知の合成法、例えば、高温高圧蒸着法やCVD法等を採用することができる。
【0093】
導電性領域740A、740Bは、ダイヤモンド系領域735のダイヤモンド系材料よりもグラファイトの含有比率が高く、且つ、上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる。従って、導電性領域740A、740Bは電子部品701における通電路を構成する。この導電性領域740A、740Bは、少なくとも、ダイヤモンド系領域735の表面又は内部に形成されるが、ここでは、立体形状のダイヤモンド系領域735の内部において、面状に形成される場合を例示している。
【0094】
例えば、一方の導電性領域740Aは、ダイヤモンド系領域735の内部において、X-Y方向の所定の平面内に形成される。導電性領域740Aは、この平面内の全域に形成しても良く、また、第一実施形態から第七実施形態等で示したような形態を適用できる。他方の導電性領域740Bは、ダイヤモンド系領域735の内部において、Y-Z方向の所定の平面内に形成される。この導電性領域740Bは、この平面内の全域に形成しても良く、また、第一実施形態から第七実施形態等で示したような形態を適用できる。導電性領域740Aと導電性領域740Bが交わる個所(交点又は交線)は、両者が互いに導通する場所となる。この結果、導電性領域740A、740Bは、全体として、三次元方向に延在する通電路構造となる。
【0095】
導電性領域740A、740Bの形成は、例えば、ダイヤモンド系領域735に対して、レーザービームMを照射し、部分的に加熱することで行えばよい。この際、フェムト秒レーザーのように極めて短時間のパルスレーザーを照射することで、ターゲットエリア外への熱の伝達を抑制するように制御することも可能である。また、ダイヤモンド系領域735の内部に導電性領域740A、740Bを形成するには、レーザービームMの焦点が、ダイヤモンド系領域735の内部に位置するように設定すればよい。つまり、レーザービームMをダイヤモンド系領域735の内部の特定の箇所に集光させればよい。この際、レーザービームMの光路の途中に、スリット形状やピンホール形状等のチャネル素子(フィルタ)を配置して、レーザービームMの焦点形状を制御しても良い。また、ホログラム等の波面制御素子を配置することで、レーザービームMがダイヤモンド系領域735内で特定の像を形成するように集光さても良い。
【0096】
次に、
図14を参照して、本発明の第九実施形態に係る電子部品801について説明する。この電子部品801は、通電構造として、立体形状となるダイヤモンド系領域835と、このダイヤモンド系領域835に部分的に形成される導電性領域840を有する。
【0097】
導電性領域840は、ダイヤモンド系領域835のダイヤモンド系材料よりもグラファイトの含有比率が高く、且つ、上記ダイヤモンド系材料よりも電気抵抗率が小さくなる。従って、導電性領域840は電子部品801における通電路を構成する。
【0098】
導電性領域840は、三次元方向に自在に伸びる通電路となっており、途中に分岐点(合流点)を有することで、内部で枝分かれしている。また、この各通電路は、ダイヤモンド系領域835の外表面に達する部分において外部接点となる。結果、ダイヤモンド系領域835の内部に、立体的な配線構造を自在に構築できる。従って、この通電路の途中には、例えば、センサ機能を有する導電性領域840A、抵抗機能を有する導電性領域840B、コンデンサ機能を有する導電性領域840C、スイッチング機能を有する導電性領域840D等を立体的に作り込むことも可能である。
【0099】
次に、
図15を参照して、本発明の第十実施形態に係る電子部品901について説明する。この電子部品901は、通電構造として、立体形状となるダイヤモンド系領域935と、このダイヤモンド系領域935に部分的に形成される導電性領域940を有する。
【0100】
立体形状となるダイヤモンド系領域935は、
図15(A)に示すように、スリットや孔等の様々な形状に適用され得る切欠き部935A等が形成されることで、複雑な外形となっている。例えば、酸素雰囲気中において、ダイヤモンド系領域935に対してレーザービームM等を照射して局所的に800℃以上に加熱し、照射部分のダイヤモンドを二酸化炭素として消失させることで、この切欠き部935Aを形成すれば良い。即ち、レーザービームMを制御すれば、任意形状の切欠き部935Aを形成することができ、目的とする立体形状のダイヤモンド領域935を得ることが出来る。
【0101】
図15(B)に示すように、導電性領域940は、この切欠き部935Aの表面又はその近傍に形成される。導電性領域940を形成するには、レーザービームM等を切欠き部935の表面等に照射すればよい。一方で、
図15(A)における切欠き部935Aを形成行程において、切欠き部935の加工表面に、導電性領域940が同時に形成することも可能と考え得る。
【0102】
この電子部品901によれば、エッチング加工されたダイヤモンド領域935自体を、振動子やセンシングデバイスの基板や素子とすることができる。また、このダイヤモンド領域935に形成される導電性領域940を利用して、ダイヤモンド領域935に電圧を印加することにより、電子部品901を、機械要素部品、センサ、振動子、アクチュエータ等が作りこまれるMEMS素子として機能させることができる。
【0103】
次に、
図16を参照して、本発明の第十一実施形態に係る電子部品1001について説明する。なお、第一実施形態で説明した電子部品1と同一・類似する部材については、名称と符号の下二桁を一致させることで、個々の詳細な説明を省略する。
【0104】
図16(A)に示すように、光透過性の高いダイヤモンド系領域1030のレーザビームMの照射位置と反対の位置に、ダイヤモンド系領域1030に密着するか或いは近接するようにレーザービームMを吸収する昇温層1060を有している。なお、図面では中間層及び/又は基材を省略している。
【0105】
このように構成することで、ダイヤモンド系領域が特に結晶性の高い構造体であることによりレーザービームがダイヤモンド系領域を通過してダイヤモンド系領域が加熱されない或いは加熱され難い場合であっても、昇温層を介して間接的にダイヤモンド系領域を加熱して、導電性領域を生成することができる。
【0106】
具体的には、
図16(B)に示すように、酸素雰囲気中において矢印方向に照射されたレーザービームMは、ダイヤモンド系領域1030を通して昇温層1060のダイヤモンド系領域1030側の表面1060aに吸収され、昇温層1060の表面1060aを部分的に発熱して昇温する。昇温による熱は、昇温部分に対向するダイヤモンド系領域1030の対向面に熱伝導により熱伝達され、これによって、ダイヤモンド系領域1030が局所的に昇温して導電性領域1040に変性する。ダイヤモンド系領域1030に所望のパターンの導電性領域1040を形成する場合、レーザービームMを昇温層1060の表面1060a上で、所望のパターンに走査させればよい。
【0107】
レーザービーム以外にも、ガスフローレーザー等可視光のものであれば用いることができる。
昇温層としては、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア、シリカ、酸化チタン等のセラミック等を使用することが出来、レーザービームなど照射される可視光を吸収して効率的に発熱するものであれば良く、レーザービームなど照射される可視光に対しての遮光性を有し、且つ、低反射率であることが好ましい。色としては、特に限定されないが、黒色が好ましく、その他の色の場合は、濃い茶色や濃い緑色いなどの明度が低い色が好ましい。また、ダイヤモンド系領域が導電性領域へと変性する温度が高温であることから耐熱性を有することが好ましい。
【0108】
また、昇温層は、多孔質材のように熱伝導率が低い材料としてもよい。このような材料を適用することで、昇温層における、レーザービームを照射した部分とその極近傍だけを発熱して、局所的に昇温することが可能になるため、導電性領域のパターンを近接して描画することができ、緻密なパターンを形成することができる。なお、局所的な昇温を実現する手段としては、
図4に示すような昇温部の周辺を冷却する冷却プレートを適用することもできる。
【0109】
昇温層をダイヤモンド系領域に密着して形成する方法としては、塗布或いはメッキやコーティング等であったり、シート状の昇温層を接着剤で貼り付けたり、シール状の昇温層を貼り付けることが考えられる。
【0110】
次に、
図17を参照して、第十一実施形態の第一変形例を説明する。第十一実施形態との主な相違点は、昇温層が、レーザビームの照射位置から見てダイヤモンド系領域の手前側に配置されている点にある。
【0111】
図17(A)に示すように、電子部品1101は、光透過性の高いダイヤモンド系領域1130のレーザビームMの照射位置の側に、ダイヤモンド系領域1130に密着するか或いは近接するようにレーザービームMを吸収する昇温層1160を有している。なお、図面では中間層及び/又は基材を省略している。
このように構成することで、レーザービームが直接昇温層に照射されるため、第十一実施形態に比べて昇温層を効率よく昇温することができる。
【0112】
図17(B)に示すように、例えば、酸素雰囲気中において矢印方向に照射されたレーザービームMは、昇温層1160の表面1160aに吸収され、昇温層1160の表面1160aを部分的に発熱して昇温する。ここで、雰囲気を酸素としているが、大気中としたり、不活性ガス雰囲気としても良い。昇温層1160の表面1160aの熱は昇温層1160の内部を伝わって表面の部位に対応する裏面1160bを部分的に昇温する。昇温層の裏面の昇温による熱は、裏面側昇温部分に対向するダイヤモンド系領域1130の対向面に熱伝導により熱伝達され、これによって、ダイヤモンド系領域1130が局所的に昇温して導電性領域1140に変性する。
【0113】
さらに、
図18を参照して、第十一実施形態の第二変形例を説明する。第十一実施形態との主な相違点は、昇温層が、面状でなく線状である点である。
【0114】
図18(A)に示すように、光透過性の高いダイヤモンド系領域1230のレーザビームMの照射位置と反対の位置に、ダイヤモンド系領域1230に密着するか或いは近接するようにレーザービームMを吸収する線状の昇温層1260を有している。
【0115】
線状の昇温層は、ダイヤモンド系領域1230に直接塗布されたり、或いは貼り付けされても良いし、或いは第三変形例の
図18(B)に示すように、面状のシート1361に線状の昇温層1362を一体的に形成して、面状の透明なシート1361をダイヤモンド系領域1330に貼り付けるようにしても良い。
【0116】
第十一実施形態では、昇温層に可視光であるレーザービームを照射して昇温するようにしたが、可視光以外の例えば電磁波などであってもよい。その場合、昇温層の色は必ずしも明度の低い色にする必要はなく、電磁波などを吸収し易い材料であれば良い。
【0117】
また、第一実施形態などで説明したダイヤモンド系領域に隣接する中間層や基材に昇温層としての機能を付加して、中間層や基材を昇温させるようにしても良し、或いは、
図3(B)に記載されるような加熱型を昇温させるようにしても良い。
【0118】
次に、照射されるレーザービームの熱量を抑制する方法を説明する。ダイヤモンド系領域を高温場雰囲気下に配置して、導電性領域への変性に必要な熱量に若干満たない温度域にダイヤモンド系領域を予め昇温する。このように昇温状態とされたダイヤモンド系領域に対して所望の部位にレーザービームを照射して変性に必要とされる熱量の印加をすることによって、常温状態にあるダイヤモンド系領域を昇温するよりも著しく小さな入熱量でダイヤモンド系領域を導電性領域へと変性することができる。そのため、変性に係るエネルギーを著しく抑制することができ、例えば、フェムト秒レーザーなどを利用してパルス的な極短時間の照射によってダイヤモンド系領域を導電領域へと変性することができる。
【0119】
尚、本発明の電子部品等は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、上記実施形態で示す通電構造は、所謂電子部品以外にも、通電を要する他の部品・部材等に適用することができる。
【符号の説明】
【0120】
1 電子部品
10 基材
20 中間層
30 層
40 導電性領域
50 カバー層
50 層
50 カバー層
70 加熱型
72 転写パターン
80 下側冷却プレート
90 上側冷却プレート
92 開口パターン
101 電子部品
110 基材
120 中間層
130 層
140 導電性領域
150 カバー層