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特許7062290がんに対する免疫チェックポイント阻害剤との併用療法における造血幹細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】がんに対する免疫チェックポイント阻害剤との併用療法における造血幹細胞
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20220425BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
A61K35/28 ZMD
A61K39/395 E
A61K39/395 G
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61K31/7088
A61K31/713
A61P35/00
A61P35/04
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018504814
(86)(22)【出願日】2016-07-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 US2016044718
(87)【国際公開番号】W WO2017023753
(87)【国際公開日】2017-02-09
【審査請求日】2019-07-29
(31)【優先権主張番号】62/296,866
(32)【優先日】2016-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/296,849
(32)【優先日】2016-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/199,916
(32)【優先日】2015-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/296,826
(32)【優先日】2016-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501453307
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100168918
【弁理士】
【氏名又は名称】杉江 顕一
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル,デュアン
(72)【発明者】
【氏名】フロレス,キャサリン
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】ARMAND, P. et al.,Cancer Discov,2013年,Vol. 3,p. 1327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 39/395
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを有する対象の処置において使用するための組成物であって、該対象が、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤による同時免疫チェックポイント阻害剤処置を受けており、該組成物が造血幹細胞を含み、該1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤が各々、プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)のアンタゴニストであり、PD-1アンタゴニスト、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、および、VISTAアンタゴニストが、PD-1、PD-L1、PD-L2、および、VISTAのいずれか1つに選択的に結合する、抗体、アンチセンス分子、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチド、一本鎖または二本鎖RNAオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、一本鎖または二本鎖RNAi分子、shRNA、またはsiRNAである、前記組成物。
【請求項2】
造血幹細胞が、CCR2+、CD34+、および/またはlin-細胞について富化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
造血幹細胞が、CCR2-細胞を実質的に除去されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
疾患が、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤による単独療法処置に抵抗性である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
がんを有する対象の処置において使用するための組成物であって、該対象が、造血幹細胞による同時処置を受けており、好ましくは、疾患が、免疫チェックポイント阻害剤による単独療法処置に抵抗性であり、該組成物が、免疫チェックポイント阻害剤を含み、該免疫チェックポイント阻害剤が、プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)のアンタゴニストであり、PD-1アンタゴニスト、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、および、VISTAアンタゴニストが、PD-1、PD-L1、PD-L2、および、VISTAのいずれか1つに選択的に結合する、抗体、アンチセンス分子、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチド、一本鎖または二本鎖RNAオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、一本鎖または二本鎖RNAi分子、shRNA、またはsiRNAである、前記組成物。
【請求項6】
がんを有する対象の処置において使用するための組成物であって、該対象が、造血幹細胞移植および/または造血幹細胞動員剤による同時処置を受けており、好ましくは、疾患が、免疫チェックポイント阻害剤による単独療法処置に抵抗性であり、該組成物が、免疫チェックポイント阻害剤を含み、該免疫チェックポイント阻害剤が、プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)のアンタゴニストであり、PD-1アンタゴニスト、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、および、VISTAアンタゴニストが、PD-1、PD-L1、PD-L2、および、VISTAのいずれか1つに選択的に結合する、抗体、アンチセンス分子、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチド、一本鎖または二本鎖RNAオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、一本鎖または二本鎖RNAi分子、shRNA、またはsiRNAである、前記組成物。
【請求項7】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1アンタゴニストであり、PD-1アンタゴニストが、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体であり、好ましくは、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピジリズマブ、MEDI-0680、REGN2810、またはAMP-224であるか、または、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体が、ニボルマブ、ペンブロリズマブまたはピジリズマブである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1アンタゴニストであり、PD-L1アンタゴニストが、PD-L1に選択的に結合するヒト化抗体であり、好ましくは、PD-L1に選択的に結合するヒト化抗体が、BMS-936559/MDX-1105、MPDL3280A/RG7446/アテゾリズマブ、MSB0010718C/アベルマブ、またはMEDI4736/デュルバルマブである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
免疫チェックポイント阻害剤が、VISTAアンタゴニストであり、VISTAアンタゴニストが、VISTAに対する阻害抗体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
免疫チェックポイント阻害剤が、造血幹細胞とは異なる日に投与されるか、または、免疫チェックポイント阻害剤が、造血幹細胞と同じ日に投与されるか、または、免疫チェックポイント阻害剤が、造血幹細胞とは異なる日に、しかし造血幹細胞の1日以内、5日以内、1週間以内、8日以内、2週間以内、3週間以内、1ヶ月以内、2ヶ月以内、または3ヶ月以内に投与される、請求項1~4および7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
造血幹細胞が、免疫チェックポイント阻害剤とは異なる日に投与されるか、または、造血幹細胞が、免疫チェックポイント阻害剤と同じ日に投与されるか、または、造血幹細胞が、免疫チェックポイント阻害剤とは異なる日に、しかし免疫チェックポイント阻害剤の1日以内、5日以内、1週間以内、8日以内、2週間以内、3週間以内、1ヶ月以内、2ヶ月以内、または3ヶ月以内に投与される、請求項5および7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
造血幹細胞移植および/または造血幹細胞動員剤が、免疫チェックポイント阻害剤とは異なる日に投与されるか、または、造血幹細胞移植および/または造血幹細胞動員剤が、免疫チェックポイント阻害剤と同じ日に投与されるか、または、造血幹細胞移植および/または造血幹細胞動員剤が、免疫チェックポイント阻害剤とは異なる日に、しかし免疫チェックポイント阻害剤の1日以内、5日以内、1週間以内、8日以内、2週間以内、3週間以内、1ヶ月以内、2ヶ月以内、または3ヶ月以内に投与される、請求項6~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
対象に造血幹細胞動員剤を投与することをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
んが、黒色腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、乳がん、頭頸部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、皮膚がん、脳腫瘍、神経膠芽細胞腫、髄芽細胞腫、上衣細胞腫、血管肉腫、血管内皮腫、肥満細胞腫、原発性肝臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、消化管がん、腎細胞癌、造血器新生物形成、リンパ腫、中皮腫、神経膠芽細胞腫、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、小児脳腫瘍、髄芽細胞腫、またはそれらの転移性がんであり、好ましくは、がんが、脳、肺、乳房、または黒色腫の転移性または難治性のがんであるか、または、がんが、非小細胞肺がん由来の転移性脳腫瘍、黒色腫由来の転移性脳腫瘍、または乳癌由来の転移性脳腫瘍であるか、または、がんが、神経膠芽細胞腫、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、小児脳腫瘍、または髄芽細胞腫である、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
造血幹細胞の供給源が、骨髄、骨髄系統除去細胞(lin-)、cKit+精製系統陰性骨髄由来細胞、Sca+精製系統陰性骨髄由来細胞、cKit+Sca+精製骨髄由来細胞、GM-CSF、G-CSFを用いて宿主骨髄から動員、AMD3100、プレリキサフォル、もしくは分子1,1’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ビス[1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン]を用いて宿主骨髄から動員、臍帯血もしくは臍帯血由来幹細胞、ヒト白血球抗原(HLA)適合血液、血液もしくは骨髄由来の間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞から分化した造血幹細胞、動員末梢血、末梢血、CCR2+マーカーで精製したlin-細胞を含む造血幹細胞サブセット、系統陰性精製末梢血、またはCD34+富化末梢血であるか、または、造血幹細胞の供給源が、骨髄、末梢血、臍帯血、または誘導多能性幹細胞であるか、または、造血幹細胞の供給源が、自己由来であるか、または、造血幹細胞の供給源が同種異系であり、ドナー細胞がレシピエントにHLA適合である、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
疾患に対する処置の効果を、対象の腫瘍微小環境または腫瘍流入領域リンパ節内から得られたT細胞によるインターフェロンγ(IFNγ)分泌を測定することによって評価し、IFNγの存在が併用療法で増加した場合に、相乗効果が認められる、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
造血幹細胞の少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50パーセントが、CCR2陽性(CCR2+)、CD34陽性(CCR2+)、および/または系統陰性(lin-)細胞である、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
対象への投与のための造血幹細胞を、対象への投与前に、CCR2陽性(CCR2+)細胞、CD34陽性(CD34+)細胞、および/または系統陰性(lin-)細胞についてex vivoで富化するか、または、対象への投与前に、造血幹細胞をex vivoで処理して、CCR2陰性(CCR2-)細胞を除去するか、または、造血幹細胞を、対象への投与前に、フローサイトメトリー分析、マイクロビーズに基づく単離、付着アッセイ、および/またはリガンドに基づく選択によって、CCR2+、CD34+、および/またはlin-細胞について選択し、好ましくは、細胞を、リガンドに基づく選択によって選択し、リガンドが、CCL2として知られるCCR2リガンドである、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
がんを有する対象の処置において使用するための組成物であって、処置が、
幹細胞動員剤を対象に投与すること、
対象から造血幹細胞を収集すること、
収集した幹細胞を、CCR2陽性(CCR2+)、CD34陽性(CD34+)、または系統陰性(lin-)細胞について富化すること、
任意に、収集した幹細胞またはCCR2-細胞を除去すること、
対象に、富化された収集幹細胞を投与すること、および
対象に、免疫チェックポイント阻害剤を投与すること、
を含み、該組成物が造血幹細胞を含み、該免疫チェックポイント阻害剤が、プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)のアンタゴニストであり、PD-1アンタゴニスト、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、および、VISTAアンタゴニストが、PD-1、PD-L1、PD-L2、および、VISTAのいずれか1つに選択的に結合する、抗体、アンチセンス分子、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチド、一本鎖または二本鎖RNAオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、一本鎖または二本鎖RNAi分子、shRNA、またはsiRNAである、前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、35 U.S.C. § 119(e)のもとで、2015年7月31日に出願された米国仮出第62/199,916号、2016年2月18日に出願された米国仮出願第62/296,826号、2016年2月18日に出願された米国仮出第62/296,849号、および2016年2月18日に出願された米国仮出願第62/296,866号の優先権を主張するものであり、これらすべての内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド-1(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA-4)、またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)などの免疫チェックポイント分子に結合して免疫チェックポイント遮断を引き起こす、免疫チェックポイント阻害剤の使用は、がんおよび感染症の処置のために研究されている有望なアプローチである。多くのがんの臨床試験における印象的な治療応答にもかかわらず、これらのがんを有する対象のすべてが、免疫チェックポイントの遮断に応答するわけではない。さらに、免疫チェックポイント分子(例えば、PD-1またはCTLA-4)に結合する抗体での処置に対する治療応答が明白ではない、多くのがんが存在する。
【0003】
がん細胞を含む様々な細胞に対するCD4およびCD8 T細胞活性の増強は、がんおよび感染症を処置するために研究されている別のアプローチである。1つの戦略では、Tリンパ球を抗原で刺激し、ex vivoで増大させ、次いで対象に注入する。これは、養子細胞療法(ACT)の一形態である。特定のACT戦略は、初期の臨床試験において、がん退行を誘導することが示されている。ACTは、免疫除去および造血幹細胞移植(HSCT)の後に生じるがんおよび/または感染症を処置するのに、特に有用であり得る。
がんを処置するために研究されているさらに別のアプローチは、造血幹細胞移植(HSCT)および/または造血幹細胞(HSC)動員である。HSCTおよび/またはHSC動員は、軽度のリンパ球減少症を誘発する処置と組み合わせた場合、特定の細胞ベースの免疫療法の効果を増強し得る。
【0004】
免疫チェックポイント遮断のみ、例えば抗PD1、抗PD-L1、抗CTLA-4、または抗VISTA媒介性の遮断のみ、およびHSCまたはHSC動員剤のみの投与は、異なるがんを有する多くの対象において臨床効果を示さない。しかし本開示によれば、HSC移入と免疫チェックポイント遮断(例えば、抗PD-1媒介性遮断または抗VISTA媒介性遮断)の組合せは、がんの処置において相乗的であることが見出されている。この相乗作用は、免疫チェックポイント阻害剤とHSC移植を用いた処置により、免疫チェックポイント遮断に抵抗性であるがんの処置を可能にし、チェックポイント阻害剤抵抗性がんの顕著な長期退縮をもたらし得る。抗PD-1抗体と造血幹細胞移植の併用処置が、抗PD-1抗体の単独療法を用いた免疫チェックポイント遮断に対する抵抗性を逆転させるという本開示の発見は、複数の脳腫瘍モデル(例えば、脳幹神経膠腫、皮質神経膠芽細胞腫、および髄芽細胞腫)において実証された。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、実験的腫瘍保有マウスに投与された骨髄由来造血幹細胞(HSC)が、免疫チェックポイント阻害剤による免疫チェックポイント遮断を受けているマウスの、腫瘍微小環境および腫瘍流入領域リンパ節内の活性化インターフェロンγ(IFNγ)分泌T細胞の持続性および生存を促進するという、独自の観察を行った。
抗PD-1、抗PD-L1、または抗CTLA-4モノクローナル抗体を用いた免疫チェックポイント遮断は、多くのがん(黒色腫、非小細胞肺がんなど)において重要かつ有効な物理療法(modality)であることが示されており、これは現在、多くのヒト腫瘍に対する有効性、および腫瘍予測バイオマーカーとしての可能性について、評価されている(Mahoney et al., 2015; Shih et al., 2014; Dolan et al., 2014、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0006】
抗VISTAモノクローナル抗体を用いた免疫チェックポイント遮断は、マウス腫瘍モデルにおいて、CD25、IFN-γおよびTNF-α発現によって評価されるCD8T細胞活性化を上昇させるが、腫瘍増殖には明らかに影響しないことが示されている(Kondo et al. 2015. J. of Immun. V194)。VISTAはin vitroおよびin vivoの両方でT細胞に対して免疫抑制活性を誘導し、VISTA遮断は、自己免疫疾患モデルにおいてT細胞媒介性免疫を増強する(Wang et al. 2011. JEM 208(3):577-92)。他の免疫療法と組み合わせたVISTA遮断、例えばHSCTまたはHSC動員は、自己免疫の発達およびがんに対する免疫応答を制御する、重要なメディエーターであり得る。
【0007】
多くのがんにおける印象的な臨床応答にもかかわらず、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗免疫チェックポイント抗体)による処置に対する応答は現在、処置された患者のサブセットにおいてのみ観察されている。本明細書に開示される結果は、HSC移入と免疫チェックポイント阻害剤、例えば抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4、または抗VISTA抗体の併用処置が、抗免疫チェックポイント抗体単独に対して抵抗性である腫瘍の処置において相乗的であることを示し、ここでその組み合わせは、処置された動物のかなりの部分において治癒的である。HSCTと免疫チェックポイント阻害剤による処置の組み合わせは非常に有効であるが、一方、HSCT単独あるいは免疫チェックポイント阻害剤処置単独では、免疫学的または臨床的効果をもたらさない。この結果は、がんを処置するための免疫チェックポイント阻害剤処置に対するHSC移入の、以前には記載されていない強力な相乗効果を実証する。本開示のいかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、この組み合わせが腫瘍微小環境内のIFNγ陽性T細胞の持続的な増加を導くことを実証することにより、メカニズムについての洞察を提供する。本発明者らは、免疫チェックポイント阻害剤とHSC移入(および/またはHSC動員)の新規な相乗的組み合わせが、抗腫瘍免疫に大きな影響を及ぼすことを提案する。本明細書において、HSCの、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤と共になされる腫瘍保有宿主への投与が、IFNγ分泌の増加を導き得ることが提案される。かかる処置は、皮下、全身または頭蓋内腫瘍のいずれかを有する宿主、および放射線または化学療法を受ける腫瘍保有宿主、ならびに放射線または化学療法を受けていない宿主において、特に有用であり得る。この開示は、免疫チェックポイント阻害剤と、HSCおよび/またはHSC動員剤とを用いた併用処置の相乗効果を支持する。
【0008】
本開示の1側面によれば、がんまたは感染症から選択される疾患を処置するための方法であって、疾患を処置するための有効量で、該疾患を有する対象に1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を投与すること、および該対象に、造血幹細胞を投与すること、を含む、前記方法が提供される。
本開示の1側面によれば、がんまたは感染症から選択される疾患を処置するための方法であって、該疾患を有する対象に、疾患を処置するための有効量で、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を投与すること、および、造血幹細胞動員剤を投与すること、を含む、前記方法が提供される。
【0009】
本開示の1側面によれば、疾患に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を受けている対象における、がんまたは感染症から選択される該疾患を処置する方法であって、対象に造血幹細胞を、免疫チェックポイント阻害剤療法と組み合わせて該疾患を処置するための有効量で投与することを含む、前記方法が提供される。
本開示の1側面によれば、疾患に対する造血幹細胞移植療法を受けている対象における、がんまたは感染症から選択される該疾患を処置する方法であって、対象に1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を、造血幹細胞移植療法と組み合わせて該疾患を処置するための有効量で投与することを含む、前記方法が提供される。
【0010】
前述の側面および以下の態様のいずれかにおいて、疾患は、例えば、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤による単独療法処置に抵抗性であるものであり得る。前述の側面および以下の態様のいずれかにおいて、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤は、例えば、それぞれ、以下:プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)、プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、アルギナーゼ、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H3、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H4、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3)、2B4、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、T細胞膜タンパク質3(TIM3;HAVcr2としても知られる)、アデノシンA2a受容体(A2aR)、キラー阻害性受容体、および/またはシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)3;のアンタゴニストである。特定の態様において、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤はそれぞれ、プログラム・デス1(PD-1)のアンタゴニスト、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)のアンタゴニスト、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)のアンタゴニスト、および/またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)のアンタゴニストである。
【0011】
前述の側面および態様のいずれかにおいて、PD-1アンタゴニストは、例えば、PD-1に結合してこれに拮抗する薬剤である。かかる薬剤は、例えば、PD-1に結合するペプチドであり得る。かかる薬剤は、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体であり得る。いくつかの態様において、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピジリズマブ、MEDI-0680、REGN2810またはAMP-224である。いくつかの態様において、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブまたはピジリズマブである。いくつかの態様において、アンタゴニストは、(i)PD-1に対するアンチセンス分子、(ii)PD-1に対するアドネクチン、(iii)PD-1の一本鎖または二本鎖RNAi阻害剤、および/または(iv)PD-1の小分子阻害剤、である。
【0012】
前述の側面および態様のいずれかにおいて、PD-L1アンタゴニストは、例えば、PD-L1に結合してこれに拮抗する薬剤である。かかる薬剤は、例えば、PD-L1に結合するペプチドであり得る。かかる薬剤は、PD-L1に選択的に結合するヒト化抗体であり得る。いくつかの態様において、PD-L1に選択的に結合するヒト化抗体は、BMS-936559/MDX-1105、MPDL3280A/RG7446/アテゾリズマブ、MSB0010718C/アベルマブ、またはMEDI4736/デュルバルマブである。いくつかの態様において、アンタゴニストは、(i)PD-L1に対するアンチセンス分子、(ii)PD-L1に対するアドネクチン、(iii)PD-L1の一本鎖または二本鎖RNAi阻害剤、または(iv)PD-L1の小分子阻害剤である。
【0013】
前述の側面および態様のいずれかにおいて、CTLA-4アンタゴニストは、例えば、CTLA-4に結合してこれに拮抗する薬剤である。かかる薬剤は、例えば、CTLA-4に結合するペプチドであり得る。かかる薬剤は、CTLA-4に選択的に結合するヒト化抗体であり得る。いくつかの態様において、CTLA-4に選択的に結合するヒト化抗体は、イピリムマブまたはトレメリムマブである。いくつかの態様において、CTLA-4アンタゴニストは、(i)CD80、CD86および/またはCTLA-4に対するアンチセンス分子、(ii)CD80、CD86および/またはCTLA-4に対するアドネクチン、(iii)CD80、CD86、および/またはCTLA-4の一本鎖または二本鎖RNAi阻害剤、または(iv)CD80、CD86、またはCTLA-4の小分子阻害剤である。
【0014】
前述の側面および態様のいずれかにおいて、VISTAアンタゴニストは、例えば、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤である。かかる薬剤は、例えば、ペプチドであり得る。かかる薬剤は、VISTAに対する阻害抗体であり得る。いくつかの態様において、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤は、ヒト化抗体である。いくつかの態様において、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤は、(i)VISTAに対するアンチセンス分子、(ii)VISTAに対するアドネクチン、(iii)VISTAの一本鎖または二本鎖RNAi阻害剤、または(iv)VISTAの小分子阻害剤である。
【0015】
前述の態様のいずれかにおいて、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植または造血幹細胞動員剤とは異なる日に投与される。前述の態様のいずれかにおいて、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植または造血幹細胞動員剤と同じ日に投与される。前述の態様のいずれかにおいて、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植または造血幹細胞動員剤とは異なる日に投与されるが、しかし造血幹細胞移植または動員剤の1日以内、5日以内、1週間以内、8日以内、2週間以内、3週間以内、1ヶ月以内、2ヶ月以内、または3ヶ月以内に、投与される。
前述の態様のいずれかにおいて、免疫チェックポイント阻害剤は、例えば、静脈内または皮下に投与される。
【0016】
前述の態様のいずれかにおいて、方法はさらに、造血幹細胞動員剤を対象に投与することを含む。例示の態様において、動員剤は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ペグ化G-CSF(ペグフィルグラチズム)、レノグラチズム、G-CSFのグリコシル化形態、C-X-Cモチーフケモカイン2(CXCL2)、C-X-Cケモカイン受容体タイプ4(CXCR-4)、またはプレリキサフォルである。
前述の態様のいずれかにおいて、疾患は、例えばがんであり、がんは、黒色腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、乳がん、頭頸部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、皮膚がん、脳腫瘍、神経膠芽細胞腫、髄芽細胞腫、上衣細胞腫、血管肉腫、血管内皮腫、肥満細胞腫、原発性肝臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、消化管がん、腎細胞癌、造血器新生物形成、リンパ腫、中皮腫、神経膠芽細胞腫、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、小児脳腫瘍、髄芽細胞腫、またはそれらの転移性がんである。
【0017】
前述の態様のいずれかにおいて、がんは、脳、肺、乳房、または黒色腫の転移性または難治性のがんである。前述の態様のいずれかにおいて、がんは、非小細胞肺がん由来の転移性脳腫瘍、黒色腫由来の転移性脳腫瘍、または乳癌由来の転移性脳腫瘍である。前述の態様のいずれかにおいて、がんは、神経膠芽細胞腫、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、小児脳腫瘍、または髄芽細胞腫である。
前述の態様のいずれかにおいて、疾患は、例えば、感染症である。前述の態様のいずれかにおいて、感染症は慢性感染症である。前述の態様のいずれかにおいて、感染症は、任意の肝炎、アデノウイルス、BKなどのポリオーマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、インフルエンザA、Bおよび/またはC、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むブドウ球菌種、肺炎連鎖球菌を含む連鎖球菌種、または移植後感染症である。前述の態様のいずれかにおいて、感染症は、A型肝炎、B型肝炎、またはC型肝炎である。
【0018】
前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞の供給源は、例えば、骨髄、骨髄系統除去細胞(lin-)、cKit+精製系統陰性骨髄由来細胞、Sca+精製系統陰性骨髄由来細胞、cKit+Sca+精製骨髄由来細胞、GM-CSF、G-CSFを用いて宿主骨髄から動員、AMD3100、プレリキサフォル、もしくは分子1,1’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ビス[1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン]を用いて宿主骨髄から動員、臍帯血もしくは臍帯血由来幹細胞、ヒト白血球抗原(HLA)適合血液、血液もしくは骨髄由来の間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞から分化した造血幹細胞、動員末梢血、末梢血、CCR2+マーカーで精製したlin-細胞を含む造血幹細胞サブセット、系統陰性精製末梢血、またはCD34+富化末梢血である。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞の供給源は、骨髄、末梢血、臍帯血、または誘導多能性幹細胞である。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞の供給源は、自己由来である。いくつかの態様において、造血幹細胞の供給源は同種異系であり、ドナー細胞はレシピエントにHLA適合である。
【0019】
前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞を含有する試料を得て、対象に該造血幹細胞を投与する前に、in vitroで、試料中の幹細胞の数が増大するように任意に処理する。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞を含有する試料を得て、対象に該造血幹細胞を投与する前に、in vitroで、試料中の幹細胞のパーセンテージが増加するように任意に処理する。試料は、自己由来であってもなくてもよい。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞の少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50パーセントは、CCR2陽性(CCR2+)、CD34陽性(CCR2+)、および/または系統陰性(lin-)細胞である。前述の態様のいずれかにおいて、対象への投与のための造血幹細胞の20%以上98%以下、例えば20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または98%は、CCR2陽性(CCR2+)、CD34陽性(CD34+)、または系統陰性(lin-)である。
【0020】
前述の態様のいずれかにおいて、対象への投与のための造血幹細胞を、対象への投与前に、CCR2陽性(CCR2+)細胞、CD34陽性(CD34+)細胞、および/または系統陰性(lin-)細胞についてex vivoで任意に富化する。前述の態様のいずれかにおいて、対象への投与前に、造血幹細胞をex vivoで任意に処理して、CCR2陰性(CCR2-)細胞を除去する。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞は、対象への投与前に、フローサイトメトリー分析、マイクロビーズに基づく単離、付着アッセイ、および/またはリガンドに基づく選択によって、CCR2+、CD34+、および/またはlin-細胞について選択される。いくつかの態様において、細胞は、リガンドに基づく選択によって選択され、ここでリガンドは、CCL2として知られるCCR2リガンドである。
【0021】
前述の態様のいずれかにおいて、疾患に対する処置の効果は、例えば、対象の腫瘍微小環境または腫瘍流入領域リンパ節内から得られたT細胞によるインターフェロンγ(IFNγ)分泌を測定することによって評価し、ここで、IFNγの存在が併用療法で増加した場合に、相乗効果が認められる。
前述の態様のいずれかにおいて、養子細胞療法(ACT)も、対象に投与することができる。前述の態様のいずれかにおいて、養子細胞療法(ACT)は、前記処置の少なくとも1つと十分に近い時間に対象に投与されて、疾患の処置を増強する。
【0022】
前述の態様のいずれかにおいて、化学療法または放射線を、対象に投与することができる。前述の態様のいずれかにおいて、化学療法または放射線は、前記処置の少なくとも1つと十分に近い時間に対象に投与されて、疾患の処置を増強する。かかる態様において、造血幹細胞は、放射線処置の完了後に対象に投与され得る。かかる態様において、造血幹細胞は、化学療法処置の完了後に対象に投与され得る。かかる態様において、造血幹細胞は、化学療法または放射線処置の完了後6週間以内に、対象に投与され得る。かかる態様において、造血幹細胞は、化学療法または放射線処置の完了の0日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、または6週間後に、対象に投与され得る。かかる態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、放射線または化学療法処置の前、同時、または後に投与され得る。かかる態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、対象に、化学療法または放射線処置の完了の1日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間または6週間後に、投与され得る。
【0023】
前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞を、造血幹細胞を対象に投与する前に、1つ以上の異なるサイトカインで処理することができる。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞は、1つ以上の異なるサイトカインと同時に、対象に投与することができる。前述の態様のいずれかにおいて、HSCと1つ以上の異なるサイトカインとの処置は、免疫チェックポイント阻害剤療法と造血幹細胞移植療法との併用処置の効果を、さらに高めることができる。前述の態様のいずれかにおいて、1つ以上の異なるサイトカインの投与と同時の、HSCの対象への投与は、免疫チェックポイント阻害剤と造血幹細胞移植療法との併用処置の効果を、さらに高めることができる。いくつかの態様において、1つ以上の異なるサイトカインは、IFNγ、TNFα、GM-CSF、G-CSF、Fl3-リガンド、IL-1β、IL-4および/またはIL-6である。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞は、HSCの対象への投与と同じ日、その1日前、2日前、3日前、4日前、または5日前に、1つ以上のサイトカインで処理される。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞は、HSCを対象に投与する、1日、2日、3日、4日または5日前に、1つ以上のサイトカインで処理される。
【0024】
本開示の1側面によれば、造血幹細胞は、がんまたは感染症を有する対象を処置するのに使用するために提供され、ここで該対象は、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤による同時免疫チェックポイント阻害剤処置を受けている。
本開示の1側面によれば、CCR2+、CD34+、および/またはlin-細胞について富化された造血幹細胞が、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を用いて疾患の処置を受けている対象の処置において使用するために、提供される。
【0025】
本開示の1側面によれば、CCR2-細胞を実質的に除去した造血幹細胞が、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を用いて疾患の処置を受けている対象の処置において使用するために、提供される。
本開示の1側面によれば、がんまたは感染症を有する対象を処置するのに用いるための免疫チェックポイント阻害剤が提供され、ここで該対象は、造血幹細胞による同時処置を受けている。
【0026】
本開示の1側面によれば、がんまたは感染症を有する対象を処置するのに用いるための免疫チェックポイント阻害剤が提供され、ここで該対象は、造血幹細胞移植および/または造血幹細胞動員剤による同時処置を受けている。
前述の側面のいずれかにおいて、疾患は、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤による単独療法処置に抵抗性であり得る。
前述の側面のいずれかにおいて、1つより多い異なる免疫チェックポイント阻害剤を、がんまたは感染症を有する対象の処置のための、造血幹細胞および/または造血幹細胞動員剤と組み合わせて、同時に使用することができる。
【0027】
前述の側面のいずれかにおいて、免疫チェックポイント阻害剤は、例えば、以下:プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)、プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、アルギナーゼ、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H3、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H4、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3)、2B4、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、T細胞膜タンパク質3(TIM3)、アデノシンA2a受容体(A2aR)、および/またはキラー阻害性受容体;のアンタゴニストである。前述の側面のいずれかにおいて、免疫チェックポイント阻害剤は、以下:プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)、および/またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA);のアンタゴニストである。
【0028】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、プログラム・デス1(PD-1)アンタゴニストである。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)アンタゴニストである。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)アンタゴニストである。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)アンタゴニストである。
PD-1アンタゴニストは、例えば、PD-1に結合してこれに拮抗する薬剤であり得る。いくつかの態様において、PD-1に結合してこれに拮抗する薬剤は、PD-1に結合するペプチドである。いくつかの態様において、PD-1に結合してこれに拮抗する薬剤は、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体である。いくつかの態様において、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピジリズマブ、MEDI-0680、REGN2810、またはAMP-224である。いくつかの態様において、PD-1に選択的に結合するヒト化抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブまたはピジリズマブである。
【0029】
PD-L1アンタゴニストは、例えば、PD-L1に結合してこれに拮抗する薬剤であり得る。いくつかの態様において、PD-L1に結合してこれに拮抗する薬剤は、PD-L1に結合するペプチドである。いくつかの態様において、PD-L1に結合してこれに拮抗する薬剤は、PD-L1に選択的に結合するヒト化抗体である。いくつかの態様において、PD-L1に選択的に結合するヒト化抗体は、BMS-936559/MDX-1105、MPDL3280A/RG7446/アテゾリズマブ、MSB0010718C/アベルマブ、またはMEDI4736/デュルバルマブである。
【0030】
CTLA-4アンタゴニストは、例えば、CTLA-4に結合してこれに拮抗する薬剤であり得る。いくつかの態様において、CTLA-4に結合してこれに拮抗する薬剤は、CTLA-4に結合するペプチドである。いくつかの態様において、CTLA-4に結合してこれに拮抗する薬剤は、CTLA-4に選択的に結合するヒト化抗体である。いくつかの態様において、CTLA-4阻害剤に選択的に結合するヒト化抗体は、イピリムマブまたはトレメリムマブである。いくつかの態様において、CTLA-4アンタゴニストは、(i)CD80、CD86および/またはCTLA-4に対するアンチセンス分子、(ii)CD80、CD86および/またはCTLA-4に対するアドネクチン、(iii)CD80、CD86、および/またはCTLA-4の一本鎖または二本鎖RNAi阻害剤、または(iv)CD80、CD86、またはCTLA-4の小分子阻害剤である。
【0031】
VISTAアンタゴニストは、例えば、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤であり得る。いくつかの態様において、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤は、ペプチドである。いくつかの態様において、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤は、VISTAに対する阻害抗体である。いくつかの態様において、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤は、ヒト化抗体である。いくつかの態様において、VISTAに結合してこれに拮抗する薬剤は、(i)VISTAに対するアンチセンス分子、(ii)VISTAに対するアドネクチン、(iii)VISTAの一本鎖または二本鎖RNAi阻害剤、または、(iv)VISTAの小分子阻害剤である。
【0032】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植または造血幹細胞動員剤とは異なる日に投与される。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植または造血幹細胞動員剤と同じ日に投与される。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植または造血幹細胞動員剤とは異なる日に、しかし造血幹細胞移植または造血幹細胞動員剤の1日以内、5日以内、1週間以内、8日以内、2週間以内、3週間以内、1ヶ月以内、2ヶ月以内、または3ヶ月以内に投与される。
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、静脈内または皮下に投与される。
【0033】
前述の態様のいずれかにおいて、方法は任意に、造血幹細胞動員剤を対象に投与することを、さらに含む。いくつかの態様において、動員剤は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ペグ化G-CSF(ペグフィルグラチズム)、レノグラチズム、G-CSFのグリコシル化形態、C-X-Cモチーフケモカイン2(CXCL2)、C-X-Cケモカイン受容体タイプ4(CXCR-4)、またはプレリキサフォルである。
【0034】
前述の態様のいずれかにおいて、疾患は、例えばがんであり、がんは、黒色腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、乳がん、頭頸部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、皮膚がん、脳腫瘍、神経膠芽細胞腫、髄芽細胞腫、上衣細胞腫、血管肉腫、血管内皮腫、肥満細胞腫、原発性肝臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、消化管がん、腎細胞癌、造血器新生物形成、リンパ腫、中皮腫、神経膠芽細胞腫、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、小児脳腫瘍、髄芽細胞腫、またはそれらの転移性がんである。いくつかの態様において、がんは、脳、肺、乳房、または黒色腫の転移性または難治性のがんである。いくつかの態様において、がんは、非小細胞肺がん由来の転移性脳腫瘍、黒色腫由来の転移性脳腫瘍、または乳癌由来の転移性脳腫瘍である。いくつかの態様において、がんは、神経膠芽細胞腫、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、小児脳腫瘍、または髄芽細胞腫である。
【0035】
いくつかの態様において、疾患は、例えば、感染症である。いくつかの態様において、感染症は慢性感染症である。前述の態様のいずれかにおいて、感染症は、任意の肝炎、アデノウイルス、BKなどのポリオーマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、インフルエンザA、Bおよび/またはC、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むブドウ球菌種、肺炎連鎖球菌を含む連鎖球菌種、または移植後感染症である。いくつかの態様において、感染症は、A型肝炎、B型肝炎、またはC型肝炎である。
【0036】
前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞の供給源は、例えば、骨髄、骨髄系統除去細胞(lin-)、cKit+精製系統陰性骨髄由来細胞、Sca+精製系統陰性骨髄由来細胞、cKit+Sca+精製骨髄由来細胞、GM-CSF、G-CSFを用いて宿主骨髄から動員、AMD3100、プレリキサフォル、もしくは分子1,1’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ビス[1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン]を用いて宿主骨髄から動員、臍帯血もしくは臍帯血由来幹細胞、ヒト白血球抗原(HLA)適合血液、血液もしくは骨髄由来の間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞から分化した造血幹細胞、動員末梢血、末梢血、CCR2+マーカーで精製したlin-細胞を含む造血幹細胞サブセット、系統陰性精製末梢血、またはCD34+富化末梢血である。いくつかの態様において、造血幹細胞の供給源は、骨髄、末梢血、臍帯血、または誘導多能性幹細胞である。
【0037】
前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞の供給源は自己由来である。前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞源は同種異系であり、ドナー細胞はレシピエントにHLA適合である。
いくつかの態様において、造血幹細胞を含有する試料を得て、これは対象に造血幹細胞を投与する前に、in vitroで、試料中の幹細胞のパーセンテージが増加するように処理される。いくつかの態様において、造血幹細胞を含有する試料を得て、これは対象に造血幹細胞を投与する前に、in vitroで、試料内の幹細胞の割合を増加させるために処理される。いくつかの態様において、造血幹細胞の少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50パーセントは、CCR2陽性(CCR2+)、CD34陽性(CCR2+)、および/または系統陰性(lin-)細胞である。いくつかの態様において、対象への投与のための造血幹細胞の20%以上98%以下、例えば20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または98%は、CCR2陽性(CCR2+)、CD34陽性(CD34+)、または系統陰性(lin-)である。いくつかの態様において、対象への投与のための造血幹細胞は、対象への投与前に、CCR2陽性(CCR2+)細胞、CD34陽性(CD34+)細胞、および/または系統陰性(lin-)細胞についてex vivoで富化される。いくつかの態様において、対象への投与前に、造血幹細胞をex vivoで処理して、CCR2陰性(CCR2-)細胞を除去する。いくつかの態様において、造血幹細胞は、対象への投与前に、フローサイトメトリー分析、マイクロビーズに基づく単離、付着アッセイ、および/またはリガンドに基づく選択によって、CCR2+、CD34+、および/またはlin-細胞について選択される。いくつかの態様において、細胞は、リガンドに基づく選択によって選択され、ここでリガンドは、CCL2として知られるCCR2リガンドである。
【0038】
いくつかの態様において、疾患に対する処置の効果は、対象の腫瘍微小環境または腫瘍流入領域リンパ節内から得られたT細胞によるインターフェロンγ(IFNγ)分泌を測定することによって評価することができ、ここで、IFNγの存在が併用療法で増加した場合に、相乗効果が認められる。
前述の態様のいずれかにおいて、養子細胞療法(ACT)を、対象に任意に投与することができる。いくつかの態様において、養子細胞療法(ACT)は、前記処置の少なくとも1つと十分に近い時間に対象に投与されて、疾患の処置を増強する。
【0039】
前述の態様のいずれかにおいて、化学療法または放射線を対象に投与することができる。いくつかの態様において、化学療法または放射線は、前記処置の少なくとも1つと十分に近い時間に対象に投与されて、疾患の処置を増強する。
前述の態様のいずれかにおいて、造血幹細胞を対象に投与する前に、造血幹細胞を1つ以上の異なるサイトカインで処理することができる。いくつかの態様において、1つ以上の異なるサイトカインによるHSCの処理は、免疫チェックポイント阻害剤療法と造血幹細胞移植療法との併用処置の効果を、さらに高めることができる。いくつかの態様において、1つ以上の異なるサイトカインは、IFNγ、TNFα、IL-1βおよび/またはIL-6である。
【0040】
本開示の1側面において、対象を処置するための方法であって、幹細胞動員剤を対象に投与すること、対象から造血幹細胞を収集すること、収集した幹細胞を、CCR2陽性(CCR2+)、CD34陽性(CD34+)、または系統陰性(lin-)細胞について富化すること、収集した幹細胞またはCCR2-細胞を任意に除去すること、対象に、富化された収集幹細胞を投与すること、および対象に、免疫チェックポイント阻害剤を投与すること、を含む、前記方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1A図1A、1Bおよび1Cは、HSC同時移入を伴うかまたは伴わないで腫瘍反応性T細胞の養子移入を受けた、腫瘍保有マウスの実験結果を示す。腫瘍流入領域リンパ節を両方の群で解剖し、T細胞活性化について分析した。図1Aは、HSC同時移入を受けたマウスが、そうでないマウスと比較してIFNγの増加を有することを実証する、リアルタイムPCRアレイを示す。
図1B図1Bは、養子移入された腫瘍特異的T細胞によるIFNγ分泌の、フローサイトメトリーを用いた分析を示す。
図1C図1Cは、フローサイトメトリーを用いた図1Bの結果の定量化を示し、図1Bの観察を確認する。
【0042】
図2A図2Aは、YETIマウス(IFNγ産生時に細胞が蛍光を発するIFNγレポーターマウス)に10,000個の星状細胞腫細胞を頭蓋内に移植した場合の、期待される結果を示す。3日目に、マウスは、HSCの静脈内注射、抗PD-1抗体の腹腔内注射、またはその両方を受ける。YETI宿主マウスを用いて、T細胞活性化が起こっているかどうかを判定することは容易であった。30日後、腫瘍を切除し、組織スライサーを用いて500mmスライスに切片化した
図2B図2Bは、Olympus IX70倒立蛍光顕微鏡を用いて蛍光を検出し、スライスあたりのMFIを決定することによって定量化したことを示す。抗PD-1抗体とHSCとを受けた群は、他の群より有意に高いYFP発現を有していた。
図2C図2Cは、HSCと抗PD-1抗体の組合せが優れた抗腫瘍保護を示したかどうかを決定するために、その後実施された研究の結果を示す。C57BL/6マウスに、10,000個の星状細胞腫細胞を頭蓋内に投与した。3日目に、マウスに、HSCの静脈内注射、抗PD-1抗体の腹腔内注射、またはその両方を与えた。群は人道的エンドポイントに従った。抗PD-1とHSCを投与されたマウスには、40%の完全治癒があった。
【0043】
図3図3は、特殊なHSCサブセットが、悪性神経膠腫に対する増強された抗腫瘍免疫を媒介することを示す。
図4図4は、特殊なHSCサブセットが、髄芽髄芽腫に対する増強された抗腫瘍免疫を媒介することを示す。
【0044】
図5図5は、未処置または、HSC、抗PD1抗体、HSCと抗PD1抗体、照射とHSC、照射と抗PD1抗体、もしくは照射とHSCと抗PD1抗体で処置した、頭蓋内腫瘍を受けた免疫応答性(immunocompetent)C57BL/6マウスの生存を示す。抗PD1抗体が挙げられる。
図6図6は、未処置または、HSC、抗VISTA抗体、もしくはHSCと抗PD1抗体で処置した、頭蓋内腫瘍を受けた免疫応答性C57BL/6マウスの生存を示す。
【0045】
図7図7は、未処置または、系統陰性造血幹細胞(Lin-HSC)、CCR2を発現しないHSC(CCR2neg HSC)、CCR2を発現するHSC(CCR2pos HSC)、αPD1、αPD1+HSC、αPD1+CCR2neg HSC、もしくはαPD1+CCR2pos HSCで処置した、頭蓋内腫瘍を受けた免疫応答性C57BL/6マウスの生存を示す。
【0046】
図8A-1】図8Aおよび8Bは、未処置マウスおよび、HSC、抗PD1、またはHSCと抗PD1の両方によって処置したマウスにおける、腫瘍微小環境内の黄色蛍光タンパク質(YFP)/IFNγ+/CD3+リンパ球のフローサイトメトリー分析によって決定された、腫瘍微小環境における総CD3+T細胞のインターフェロンγ(IFNγ)分泌細胞のパーセント(図8A)、およびフローサイトメトリー分析の定量(図8B)を示す。
図8A-2】図8Aおよび8Bは、未処置マウスおよび、HSC、抗PD1、またはHSCと抗PD1の両方によって処置したマウスにおける、腫瘍微小環境内の黄色蛍光タンパク質(YFP)/IFNγ+/CD3+リンパ球のフローサイトメトリー分析によって決定された、腫瘍微小環境における総CD3+T細胞のインターフェロンγ(IFNγ)分泌細胞のパーセント(図8A)、およびフローサイトメトリー分析の定量(図8B)を示す。
図8B図8Aおよび8Bは、未処置マウスおよび、HSC、抗PD1、またはHSCと抗PD1の両方によって処置したマウスにおける、腫瘍微小環境内の黄色蛍光タンパク質(YFP)/IFNγ+/CD3+リンパ球のフローサイトメトリー分析によって決定された、腫瘍微小環境における総CD3+T細胞のインターフェロンγ(IFNγ)分泌細胞のパーセント(図8A)、およびフローサイトメトリー分析の定量(図8B)を示す。
【0047】
図9図9は、未処置または、HSC、αPD-1、またはHSCとαPD-1で処置された、頭蓋内腫瘍を受けた免疫応答性C57BL/6マウスにおいて、T細胞活性化/炎症経路に関与する92の遺伝子の発現を示す。
【0048】
詳細な説明
以下の詳細な説明は、本開示の特定の側面の説明のためになされる。本開示の範囲または精神から逸脱することなく、他の側面が企図され、なされ得ることが理解されるべきである。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではない。本明細書で使用される科学用語および技術用語は、他に特定されない限り、当技術分野で一般的に使用される意味を有する。本明細書で提供される定義は、本明細書で頻繁に使用される特定の用語の理解を容易にするためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。単数形「a」、「an」および「the」は、内容が明確に別を指示しない限り、複数形を包含する。用語「または」は、内容が明確に別を指示しない限り、「および/または」を含む意味で一般に使用される。
【0049】
がん.本明細書に記載の療法は、既存のまたは確立されたがん、すなわち、対象中に存在しており検出可能ながんの処置を含む。さらに、がんの発生を予防するための、前がん病変(すなわち、腺腫性ポリープまたは細胞異形成)の処置も想定される。本開示に従って処置可能ながんは、以下のがんを含む:黒色腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、乳がん、頭頸部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、皮膚がん、脳腫瘍、神経膠芽細胞腫、髄芽細胞腫、上衣細胞腫、血管肉腫、血管内皮腫、肥満細胞腫、原発性肝臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、消化管がん、腎細胞癌、造血器新生物形成、リンパ腫、中皮腫、またはそれらの転移性がん。本開示の態様において、本開示において処置されるがんは、神経膠芽細胞腫、低悪性度神経膠腫、高悪性度神経膠腫、脳幹部神経膠腫、皮質神経膠芽細胞腫、小児脳腫瘍、および髄芽細胞腫を含む。本開示の態様において、がんは、浸潤性頭蓋内神経膠腫である。本開示の態様において、がんは、脳、肺、乳房、または黒色腫の転移性または難治性のがんである。本開示の態様において、がんは、非小細胞肺がん由来の転移性脳腫瘍、黒色腫由来の転移性脳腫瘍、または乳癌由来の転移性脳腫瘍である。本開示の態様において、がんは、脳幹部神経膠腫、皮質神経膠芽細胞腫、および髄芽細胞腫である。
【0050】
感染症.本開示はまた、感染症の処置との関連においても有用である。一般に、日和見病原性微生物は、ウイルス、真菌、寄生生物、および細菌に分類され得る。ヒトの疾患を引き起こす例示的な病原性ウイルス微生物としては、(限定はされないが)、フィロウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルス、レトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、トガウイルス、ピコルナウイルス、パポバウイルス、および胃腸炎ウイルスが挙げられる。重篤なヒト疾患を引き起こす例示的な病原性細菌としては、グラム陽性菌:Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Enterococcus faecalisおよびE.faecium、Streptococcus pneumoniae、およびグラム陰性菌:Pseudomonas aeruginosa、Burkholdia cepacia、Xanthomonas maltophila、Escherichia coli、エンテロバクター属菌、Klebsiella pneumoniae、およびサルモネラ属菌が挙げられる。ヒト疾患を引き起こす例示的な病原性原生生物としては、(限定はされないが)、マラリア例えばPlasmodium falciparumおよびM. ovale、トリパノソーマ症(睡眠病)例えばTrypanosoma cruzei、リーシュマニア症例えばLeischmania donovani、アメーバ症例えばEntamoeba histolyticaが挙げられる。ヒト疾患を引き起こすかまたはこれに関連する例示的な病原性真菌としては、(限定はされないが)、Candida albicans、Histoplasma neoformans、Coccidioides immitisおよびPenicillium marneffeiが挙げられる。態様において、感染症生物は、慢性感染症に関与するものである。特に重要な疾患は、肝炎、アデノウイルス、BKなどのポリオーマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バールウイルス(EBV)、インフルエンザA、B、およびC、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むブドウ球菌種、肺炎連鎖球菌を含む連鎖球菌種、および移植後感染症である。
【0051】
抗体.抗体、または免疫グロブリンは、それぞれ約200個のアミノ酸を含有する2つの同一の軽鎖(L鎖)、および一般にL鎖の少なくとも2倍の長さである2つの同一の重鎖(H鎖)を含有する、糖タンパク質である。抗体のパラトープは、抗原の特定のエピトープに特異的であり、それらの空間的相補性(結合)は、さらなる作用のために微生物を「標識する」か、またはその作用を直接中和する。抗体は、保存されたグリコシル化部位を含むその結晶性断片(Fc)領域を介して、免疫応答の他の成分と通信する。5つのFc領域が存在し、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5つの異なる抗体アイソタイプをもたらす。IgDは、抗原に曝露されていないB細胞上の抗原受容体として機能し、好塩基球および肥満細胞を活性化し、抗菌因子の産生をもたらす。IgGは4つの形態で発現され、侵入する病原体に対する抗体ベースの免疫の大部分を提供する。IgMは、B細胞の表面上に単量体として、および分泌型で五量体として発現される。IgMは、体液性(B細胞媒介性)免疫の初期段階の間、十分なレベルのIgGが存在する前に、病原体を排除する。IgGはしばしば免疫療法に使用される。
【0052】
抗体という用語は、最も広い意味で使用され、具体的には、例えば、単一モノクローナル抗体、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、一本鎖抗体、および抗体の抗原結合断片を含む。抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のサブタイプ、IgA(IgA1およびIgA2を含む)、IgE、IgDまたはIgMなどの、任意の免疫グロブリンからの免疫グロブリン定常ドメインを含み得る。
【0053】
いくつかの態様において、本明細書で使用される抗体および他の治療分子は、単離されてもよい。単離されるとは、抗体または他の生物学的製剤の文脈において、抗体または他の生物学的製剤がその天然環境から取出されているか、またはその自然状態から変化していることを意味する。このように、単離されたとは、分子がその天然の環境から取出された程度、またはその自然状態から変化した程度を必ずしも反映していない。しかしながら、ある程度まで、または意図された治療目的のために使用できる程度まで精製された、抗体または他の生物学的製剤は、「単離されている」と理解されるであろう。
【0054】
本明細書で用いられる抗体は、ヒト化されている。非ヒト(例えばネズミ)抗体のヒト化形態は、キメラ免疫グロブリン(全長免疫グロブリンを含む)、免疫グロブリン鎖またはその断片(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、または抗体の他の抗原結合サブ配列など)であって、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むものである。ヒト化抗体は、典型的には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、マウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置換されており、所望の特異性、親和性および能力を有する、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含む。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも、移入されたCDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、かつFR領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインのすべてまたは実質的にすべてを含むであろう。ヒト化抗体は最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを含む(Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature, 332:323- 327 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593-596 (1992))。抗体のFc領域に対する修飾は十分に確立されており、抗体にその補体依存性細胞傷害性特性を失わせる修飾および細胞膜を横切る抗体の能力を増強する修飾を含む。
【0055】
本明細書で用いられる抗体は、それらの標的に選択的に結合し、特に以下に結合する:プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド-1(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)-4、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTAまたはPD-L3)、プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、アルギナーゼ(ARG1)、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H3、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H4、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3;CD223としても知られる)、2B4(CD244としても知られる)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA;CD272としても知られる)、T細胞膜タンパク質3(TIM3;HAVcr2としても知られる)、アデノシンA2a受容体(A2aR)、またはキラー阻害性受容体ファミリーのメンバー、例えばキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)およびC型レクチン受容体。PD-L1は、PD-1のリガンドである。CTLA-4は、PD-1と同様に、免疫チェックポイント分子として機能する。VISTAは、その細胞外ドメインに、PD-L1に対していくらかの相同性(配列相同性により約25%)を有する、Igスーパーファミリー阻害リガンドである。
【0056】
本開示の側面は、免疫チェックポイント分子、例えばPD-1、PD-L1、CTLA-4、VISTA、PD-L2、IDO、ARG1、B7-H3、B7-H4、LAG3、2B4、BTLA、TIM3、A2aR、および/またはKIRなどに結合および/または拮抗することができる、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を使用または投与することに関する。免疫チェックポイント分子に選択的に結合する薬剤は、限定することなく、例えば、抗体またはその抗原結合断片、タンパク質またはペプチド、小分子、または核酸であり得る。核酸である免疫チェックポイント分子は、例えば、アンチセンス分子、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチド、一本鎖または二本鎖RNAオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、一本または二本鎖RNAi分子、shRNA、またはsiRNAであることができる。小分子は、有機化合物薬物である。免疫チェックポイント分子に選択的に結合する薬剤は、免疫チェックポイント分子配列の核酸またはアミノ酸に結合することができる。免疫チェックポイント分子に選択的に結合する薬剤は、免疫チェックポイント分子の任意の領域に結合することができる。
【0057】
免疫チェックポイント.免疫チェックポイントとは、自己寛容を維持し、末梢組織における生理学的免疫応答の持続時間および振幅を調節して、副次的な組織損傷を最小限に抑えるために重要な、免疫系に固定された阻害経路を指す。免疫チェックポイント分子は、免疫チェックポイントに対して刺激性または阻害性であり得る。本開示および特許請求の範囲は、「免疫チェックポイント分子」としての、免疫チェックポイントの阻害性分子を指す。免疫チェックポイント分子(例えば、PD1またはCTLA-4)を遮断する薬剤による予備臨床所見は、有効な臨床応答を生じる可能性を有する抗腫瘍免疫を増強する機会を示唆する。本出願は、免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫チェックポイント遮断を、HSCTおよび/またはHSC動員処置と組み合わせることにより、がんまたは感染症を有する対象における処置の効力を増強することを開示する。
【0058】
免疫チェックポイント阻害剤および免疫チェックポイント遮断.免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞およびいくつかのがん細胞などのいくつかの種類の免疫系細胞によって作られた免疫チェックポイント分子のシグナル伝達を遮断するタイプの薬物である。したがって免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントの遮断を引き起こすことができる。免疫チェックポイント分子(例えば、PD1)は、免疫応答のチェックを維持し続けることを助け、T細胞を、がん細胞を殺させないように保つことができる。これらの分子が遮断されると、免疫系の「ブレーキ」が解除され(免疫系の阻害が低減または遮断され)、T細胞はがん細胞をより良好に殺すことができる。T細胞またはがん細胞に見出されるチェックポイントタンパク質の例としては、PD-1/PD-L1およびCTLA-4が挙げられる。いくつかの態様において、免疫チェックポイント分子は、タンパク質である。いくつかの態様において、免疫チェックポイント分子は、タンパク質をコードする核酸である。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント分子に結合および/または拮抗する。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植および/または造血幹細胞動員剤処置と組み合わせて使用されて、がんを有する対象を処置する。いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、造血幹細胞移植および/または造血幹細胞動員剤処置と組み合わせて使用されて、感染症を有する対象を処置する。
【0059】
上述したように、本発明によれば、免疫チェックポイント遮断は、造血幹細胞(HSC)移植/移入および/またはHSC動員との併用療法において、使用される。いくつかの態様において、疾患または疾患を有する対象を処置する方法は、HSCおよび/またはHSC動員剤を投与すること、プログラム・デス1(PD-1)、プログラム・デスリガンド1(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)、および/またはT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)に結合および/または拮抗する薬剤を投与すること、を含む。本開示は、免疫チェックポイント遮断のための、PD-1、PD-L1、CTLA-4、および/またはVISTAの標的化に限定されない。他の阻害性チェックポイント分子も、HSC移植および/またはHSC動員との併用療法において、免疫チェックポイント阻害剤により標的化されてもよく、これは例えば、限定されることなく、以下に結合および/または拮抗する薬剤である:プログラム・デスリガンド2(PD-L2)、インドールアミン2,3-デオキシゲナーゼ(IDO)、アルギナーゼ(ARG1)、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H3、B7ファミリー阻害性リガンドB7-H4、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3;CD223としても知られる)、2B4(CD244としても知られる)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA;CD272としても知られる)、T細胞膜タンパク質3(TIM3;HAVcr2としても知られる)、アデノシンA2a受容体(A2aR)、キラー阻害性受容体ファミリーのメンバー(KIR)、例えばキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)およびC型レクチン受容体、ならびにシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT3)。いくつかの態様において、免疫チェックポイント分子は、例えば、PD-1、PD-L1、CTLA-4、VISTA、PD-L2、IDO、ARG1、B7-H3、B7-H4、LAG3、2B4、BTLA、TIM3、A2aR、STAT3、またはKIRである。免疫チェックポイント分子に結合および/または拮抗する薬剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。
【0060】
1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤.1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤は、1つ以上の異なる阻害剤を指す。それぞれの異なる阻害剤は異なる分子構造を有する。2つの異なる阻害剤は、同じ免疫チェックポイント分子に結合してもよく、またはそれぞれが異なる免疫チェックポイント分子に結合してもよい。
本明細書で使用される阻害剤またはアンタゴニストは、免疫チェックポイント分子の活性を阻害、低減、または遮断して、免疫チェックポイント分子が免疫系に及ぼす抑制効果を阻害する分子である。阻害剤またはアンタゴニストは、免疫チェックポイント分子、免疫チェックポイント分子の発現を制御する分子、または免疫チェックポイント分子の活性を媒介する免疫チェックポイント分子のリガンドに、直接結合することができる。阻害剤またはアンタゴニストは、抗体(ヒト化抗体を含む)、小分子、ペプチド、または核酸(例えば、アンチセンス分子、または一本鎖もしくは二本鎖RNAi分子)であってよい。免疫チェックポイント分子の活性は、免疫チェックポイントに対するその抑制効果とされる。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント分子の活性を低下させるか、または遮断することができる。
【0061】
例示的な免疫チェックポイント分子およびアンタゴニスト.
プログラム・デス1(PD-1).ヒトにおいて、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)は、PDCD1遺伝子によってコードされる。PDCD1はまた、CD279(分化クラスター279)として指定されている。この遺伝子は、免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面膜タンパク質をコードする。PD-1は、288アミノ酸の細胞表面タンパク質分子である。PD-1は、活性化されたT細胞、B細胞、およびマクロファージの表面上に発現される。PD-1はプロB細胞において発現され、それらの分化において役割を果たすと考えられている。T. Shinohara et al., Genomics 23 (3): 704-6 (1995)を参照のこと。PD-1は、T細胞レギュレーターの拡大CD28/CTLA-4ファミリーのメンバーである。(Y. Ishida et al., " EMBO J. 11 (11): 3887-95, (1992))。PD-1は、免疫応答をネガティブに調節し得る。PD-1は、自己免疫および末梢組織におけるT細胞の活性を、感染に対する炎症反応時に制限する。
【0062】
PD-1は、B7ファミリーのメンバーである2つのリガンド、PD-L1およびPD-L2を有する。PD-L1タンパク質は、LPSおよびGM-CSF処置に応答してマクロファージおよび樹状細胞(DC)上で、ならびにTCRおよびB細胞受容体シグナル伝達時にT細胞およびB細胞上で、上方制御されるが、一方休止マウスでは、PD-L1 mRNAは、心臓、肺、胸腺、脾臓、および腎臓で検出することができる。PD-L1は、IFN-γによる処置時に、PA1骨髄腫、P815肥満細胞腫、およびB16黒色腫を含むほとんどすべてのマウス腫瘍細胞株で発現される。PD-L1は、いくつかのがんによって高度に発現されることが見出されており、いくつかのPD-1アンタゴニストが、がんの処置のために開発されているか、または承認されている。PD-L2発現はより制限され、主にDCおよびいくつかの腫瘍系統によって発現される。
【0063】
プログラム・デス1(PD-1)アンタゴニスト.本明細書で使用されるPD-1アンタゴニストは、PD-1タンパク質またはPD-1タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、PD-1活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、PD-1とそのリガンドPD-L1および/またはPD-L2との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。いくつかの態様において、PD-1アンタゴニストは、HSCTおよび/またはHSC動員剤処置と組み合わせた場合に、単独で投与された場合よりも、PD-1アンタゴニストに暴露されていない細胞または生物と比較して、細胞または生物におけるPD-1活性を低減し得る。
【0064】
PD-1活性は、PD-1に選択的に結合し、その活性を遮断する抗体によって妨害され得る。PD-1の活性はまた、PD-1に結合する抗体以外の分子によっても、阻害または遮断され得る。かかる分子は小分子であってもよく、または、PD-1に結合するがPD-1を活性化しない、PD-L1およびPD-L2のペプチド模倣物であってもよい。PD-1活性に拮抗する分子としては、米国特許公開20130280265、20130237580、20130230514、20130109843、20130108651、20130017199、および20120251537、2011/0271358、EP 2170959B1に記載されているものが挙げられ、これらの開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。M. A. Curran, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, 4275 (2010);S. L. Topalian, et al., New Engl. J. Med. 366, 2443 (2012);J. R. Brahmer, et al., New Engl. J. Med. 366, 2455 (2012);およびD.E. Dolan et al., Cancer Control 21, 3 (2014)も参照のこと、これらのすべてはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において、例示的なPD-1アンタゴニストとしては、以下が挙げられる:ニボルマブ、これはBMS-936558、OPDIVO(登録商標)(Bristol-Meyers Squibb、およびMDX-1106またはONO-4538としても知られる)としても知られており、PD-1に対する完全ヒトIgG4モノクローナル抗体である;ピジリズマブ、これはCT-011(CureTech)としても知られており、PD-1に結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体である;MK-3475(Merck、およびSCH 900475としても知られる)、PD-1に結合するIgG4抗体;およびペンブロリズマブ(Merck、およびMK-3475、ランブロリズマブ、またはKEYTRUDA(登録商標)としても知られる)、PD-1に結合するヒト化IgG4κモノクローナル抗体;MEDI-0680(AstraZeneca/MedImmune)、PD-1に結合するモノクローナル抗体;REGN2810(Regeneron/Sanofi)、PD-1に結合するモノクローナル抗体。別の例示的なPD-1アンタゴニストは、AMP-224(Glaxo Smith KlineおよびAmplimmune)であり、これは、PD-1リガンドであるプログラム細胞死リガンド2(PD-L2)の細胞外ドメインおよびヒトIgG1のFc領域から構成される、組換え融合タンパク質であり、PD-1に結合する。PD-1をコードするDNAまたはmRNAに結合することを妨げる薬剤も、PD-1阻害剤として作用することができる。例としては、小阻害性抗PD-1RNAi、抗PD-1アンチセンスRNA、またはドミナントネガティブタンパク質が挙げられる。PDL-2融合タンパク質AMP-224(Glaxo Smith KlineおよびAmplimmuneによって共同開発された)は、PD-1に結合して遮断すると考えられている。いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、造血幹細胞(HSC)移入および/またはHSC動員と組み合わせた処置のために、例えば抗PD-L1、抗CTLA-4、および/または抗VISTA処置などの追加の免疫チェックポイント遮断とのさらなる組み合わせにおいて、使用し得る。
【0065】
プログラム・デス-リガンド1(PD-L1).ヒトにおいて、B7ホモログ1(B7-H1)または分化クラスター274(CD274)としても知られるプログラム・デスリガンド1(PD-L1)は、CD274遺伝子によってコードされる、40kDaの1型膜貫通タンパク質である。外来抗原は通常、抗原特異的CD8+T細胞などの抗原特異的T細胞の増殖を引き起こす免疫応答を誘導する。PD-L1は、かかる免疫応答を遮断または低下させる、免疫チェックポイント阻害剤である。PD-L1は、妊娠、組織同種移植、自己免疫疾患、および肝炎およびがん等の他の疾患状態などの事象の間の免疫系の抑制において、主要な役割を果たし得る。PD-L1リガンドは、活性化T細胞、B細胞、および骨髄細胞上に見られるその受容体PD-1に結合し、これによって活性化または阻害を調節する。PD-1に加えて、PD-L1もまた、共刺激分子CD80(B7-1)に対する親和性を有する。IFN-γ刺激に際して、PD-L1は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、骨髄性樹状細胞(DC)、B細胞、上皮細胞および血管内皮細胞上で発現される。
【0066】
PD-L1アンタゴニスト.本明細書で使用されるPD-L1アンタゴニストは、PD-L1タンパク質またはPD-L1タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、PD-1活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、PD-L1とPD-1との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。PD-L1活性は、PD-L1に選択的に結合してその活性を遮断する分子によって遮断され得る。いくつかの態様において、PD-L1アンタゴニストは、HSCTおよび/またはHSC動員剤処置と組み合わせた場合に、単独で投与された場合よりも、PD-1アンタゴニストに暴露されていない細胞または生物と比較して、細胞または生物におけるPD-L1活性を低減し得る。抗PD-L1抗体は、PD-L1と、PD-1およびB7-1(CD80としても知られる)との間の相互作用を遮断する。遮断とは、かかるPD-L1結合を介して媒介される阻害シグナルの伝達を、阻害または防止することを意味する。PD-L1アンタゴニストとしては、例えば、以下が挙げられる:BMS-936559、これはMDX-1105(Bristol-Meyers Squibb)としても知られており、PD-L1に対する完全ヒト高親和性免疫グロブリン(Ig)G4モノクローナル抗体である;MPDL3280A、これはRG7446またはアテゾリズマブ(Genentech/Roche)としても知られており、PD-L1を標的とする操作されたヒトモノクローナル抗体である;MSB0010718C、これはアベルマブ(Merck)としても知られており、PD-L1に結合する完全ヒトIgG1モノクローナル抗体である;および、MEDI473(AstraZeneca/MedImmune)、これはその受容体へのPD-L1結合を遮断する、ヒト免疫グロブリン(Ig)G1κモノクローナル抗体である。PD-L1をコードするDNAまたはmRNAに結合する薬剤はまた、PD-L1阻害剤としても作用することができ、例えば小阻害性抗PD-L1 RNAi、小阻害性抗PD-L1 RNA、抗PD-L1アンチセンスRNA、またはドミナントネガティブPD-L1タンパク質である。PD-L1に拮抗するアンタゴニストまたは薬剤、例えばPD-L1抗体またはPD-L1アンタゴニストとしては、限定はされないが、前述したものおよび、Stewart et al., 2015, 3(9):1052-62;Herbst et al., 2014, Nature Volume: 515:Pages: 563-567;Brahmer et al., N Engl J Med 2012; 366:2455-2465;US8168179;US20150320859;および/またはUS20130309250に開示されているもののいずれかが含まれ得る;これらはすべて、本明細書に参照により組み込まれる。臨床試験において、抗PD-L1抗体による処置は、抗PD-1抗体による処置よりも有害事象が少なかった(Shih et al., 2014)。いくつかの態様において、抗PD-L1抗体は、造血幹細胞(HSC)移入および/またはHSC動員と組み合わせた処置のために、例えば抗PD-1、抗CTLA-4、および/または抗VISTA処置などの追加の免疫チェックポイント遮断とのさらなる組み合わせにおいて、使用し得る。
【0067】
細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4).CTLA-4(CTLA-4または分化クラスター152(CD152)としても知られる)は、ヒトにおいてCTLA-4遺伝子によってコードされる、膜貫通糖タンパク質である。CTLA-4は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、ヘルパーT細胞の表面上に発現し、制御性T細胞に存在して、免疫機能にとって重要となり得る。CTLA-4は、相同なCD28と同様に、B7分子、特に、抗原提示細胞(APC)上のCD80/B7-1およびCD86/B7-2に結合し、それによって阻害シグナルをT細胞に送る。CTLA-4は、免疫系を阻害する免疫チェックポイントとして機能し、免疫寛容の維持に重要である。
【0068】
CTLA-4アンタゴニスト.本明細書で使用されるCTLA-4アンタゴニストは、CTLA-4タンパク質またはCTLA-4タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合して、CTLA-4活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、CTLA-4とそのリガンド、例えばB7分子CD80/B7-1およびCD86/B7-2との相互作用を、低減または遮断すると考えられる。CTLA-4活性は、CTLA-4に選択的に結合してその活性を遮断するか、またはそのカウンター受容体、例えばCD80、CD86などに選択的に結合してCTLA-4の活性を遮断する分子によって、遮断され得る。遮断するとは、CTLA-4を介した阻害シグナルの伝達を阻害または防止することを意味する。いくつかの態様において、抗CTLA-4抗体は、造血幹細胞(HSC)移入および/またはHSC動員と組み合わせた処置のために、例えば抗PD-1、抗CTLA-4、および/または抗VISTA処置などの追加の免疫チェックポイント遮断とのさらなる組み合わせにおいて、使用し得る。
CTLA-4アンタゴニストとしては、例えば、CD80、CD86および/またはCTLA-4に対する阻害抗体;CD80、CD86、およびCTLA-4の小分子阻害剤;CD80、CD86、および/またはCTLA-4に対するアンチセンス分子;CD80、CD86、および/またはCTLA-4に対するアドネクチン;およびCD80、CD86、および/またはCTLA-4のRNAi阻害剤(一本鎖および二本鎖の両方)が挙げられる。
【0069】
適切なCTLA-4アンタゴニストおよび/または抗CTLA-4抗体としては、ヒト化抗CTLA抗体、例えばMDX-010/イピリムマブ(Bristol-Meyers Squibb)、トレメリムマブ/CP-675,206(Pfizer;AstraZeneca)、および以下に記載の抗体が含まれる:PCT刊行物WO 2001/014424、PCT刊行物WO 2004/035607、米国公開第2005/0201994号、欧州特許第1212422 B1号、米国特許第5,811,097号、第5,855,887号、第6,051,227号、第6,984,720号、第7,034,121号、第8,475,790号、米国公開第2002/0039581号および/または2002/086014号;これらの全開示は、本明細書に参照により組み込まれる。本開示の方法において使用することができる他の抗CTLA-4抗体および/またはCTLA-4アンタゴニストとしては、例えば、以下に記載のものが含まれる:Hurwitz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(17):10067-10071 (1998);Camacho et al., J. Clin. Oncology, 22(145): Abstract No. 2505 (2004)(抗体CP-675206);Mokyr et al., Cancer Res., 58:5301-5304 (1998)、およびLipson and Drake, Clin Cancer Res; 17(22) November 15, 2011;US8318916;および/またはEP1212422B1;これらはすべて、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【0070】
T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA).T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)(PD-H1、PD-1ホモログ、またはDies1としても知られる)は、T細胞機能のネガティブ調節因子である。VISTAは、1つのIg-V様ドメインを有しかつその配列がCD28およびB7ファミリーのメンバーのIg-Vドメインに類似する、7つのエキソンからなる309aa I型膜貫通タンパク質である。VISTAは、腫瘍微小環境(TME)および造血細胞で高度に発現される。これはまた、マクロファージ、樹状細胞、好中球、ナチュラルキラー細胞、およびナイーブおよび活性化T細胞でも発現される。その発現は、骨髄性抗原提示細胞(APC)およびT細胞上で高度に制御され、一方低レベルは、CD4T細胞、CD8T細胞およびTreg細胞上に見出される。VISTAは、PD-1リガンドであるPD-L1といくつかの配列相同性を示すが、これら2つの免疫チェックポイント阻害剤は構造的に異なり、異なるシグナル伝達経路を有する。VISTAの遮断は、マウスにおいて抗腫瘍免疫応答を増強することが示されているが、一方ヒトにおいては、関連するPD-1経路の遮断は、臨床的免疫療法試験において大きな可能性を示している。VISTAは、T細胞の活性化を抑制するネガティブチェックポイント調節因子であり、その遮断は、ヒトのがんに対する有効な免疫療法戦略となり得る。(Wang et al., 2011. JEM. 208(3):577-92.;Lines et al., 2014. Cancer Res. 74(7):1924-32.;Kondo et al. 2015. J. of Immuno.V194.;WO2011120013;US20140105912;US20140220012;US20130177557、US20130177557;これらの全体は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0071】
VISTAアンタゴニスト.本明細書で使用されるVISTAアンタゴニストは、VISTAタンパク質またはVISTAタンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、VISTA活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、VISTAとそのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。VISTA活性は、VISTAに選択的に結合してその活性を遮断する分子によって、遮断され得る。VISTAアンタゴニストである分子または薬剤としては、VISTAに結合するペプチド、VISTAに対するアンチセンス分子、VISTAを分解または阻害するために標的化された一本鎖または二本鎖RNAi分子、VISTAの小分子阻害剤、抗VISTA抗体、VISTAに対する阻害抗体、およびVISTAに選択的に結合して阻害するヒト化抗体が含まれる。VISTAのアンタゴニストまたはVISTAに拮抗する薬剤、例えば抗VISTA抗体およびVISTAアンタゴニストは、限定はされないが、以下に開示されたもののいずれかを含み得る:Liu et al. 2015. PNAS. 112(21):6682-6687;Wang et al., 2011. JEM. 208(3):577-92;Lines et al., 2014. Cancer Res. 74(7):1924-32;Kondo et al. 2015. J. of Immuno.V194;WO2015097536、EP2552947、WO2011120013、US20140056892、US8236304, WO2014039983、US20140105912、US20140220012、US20130177557;WO2015191881;US20140341920;CN105246507;および/またはUS20130177557、これらはすべて、その全体が本明細書中に参照により組み込まれる。いくつかの態様において、抗VISTA抗体は、造血幹細胞(HSC)移入および/またはHSC動員と組み合わせた処置のために、例えば抗PD-1、抗CTLA-4、および/または抗VISTA処置などの追加の免疫チェックポイント遮断とのさらなる組み合わせにおいて、使用し得る。
【0072】
他の免疫抑制分子および免疫チェックポイント阻害剤.PD-1、PD-L1、CTLA-4、およびVISTA以外の分子は、造血幹細胞および/または造血幹細胞動員剤の処置と組み合わせた、免疫チェックポイント分子に結合および/または拮抗する1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤/薬剤により、標的化されてもよい。いくつかの態様において、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤はそれぞれ、PD-1、PD-L1、CTLA-4、VISTA、PD-L2、IDO、ARG1、B7-H3、B7-H4、LAG3、2B4、BTLA、TIM3、A2aR、KIR、および/またはSTAT3の、アンタゴニストである。
【0073】
プログラム・デスリガンド2(PD-L2).ヒトPD-L2は、B7樹状細胞分子B7-DC、Btdc、PD-1リガンド2、PD-1リガンド2、PDCD1リガンド2、ブチロフィリンB7-DC、およびbA574F11.2としても知られており、これは、PDCD1LG2遺伝子(分化クラスター273/CD273としても知られる)によってコードされるタンパク質である。PD-L2は主に、抗原提示細胞、T細胞および他の免疫細胞、およびいくつかの非免疫細胞によって誘導可能な様式で、主にTh2関連サイトカインを介して発現される、阻害性分子である。検討のために、Rozali et al., Clinical and Developmental Immunology, 2012 (2012)を参照のこと。PD-L2によるPD-1の関与は、T細胞受容体(TCR)媒介性の増殖およびCD4T細胞によるサイトカイン産生を、劇的に阻害する。低抗原濃度では、PD-L2-PD-1相互作用は、強力なB7-CD28シグナルを阻害する。対照的に、高抗原濃度では、PD-L2-PD-1相互作用は、サイトカイン産生を低減するが、T細胞の増殖を阻害しない(Latchman et al., Nature Immunology, 2(3):261-268 (2001))。
本明細書で使用されるPD-L2アンタゴニストは、PD-L2タンパク質またはPD-L2タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、PD-L2活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、PD-L2とそのリガンド(単数または複数)(例えばPD-1)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。
【0074】
インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO).IDOは、INDOおよびIDO-1としても知られており、これはインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)(トリプトファンのN-ホルミル-キヌレニンへの異化作用の第1段階および律速段階を触媒するヘム酵素)をコードする遺伝子である。IDOは、腫瘍細胞および浸潤骨髄細胞によって発現される免疫阻害性分子である、細胞質ゾル代謝酵素である。IDO酵素は、種々の腫瘍細胞型および抗原提示細胞(APC)によって過剰発現され、トリプトファン異化およびトリプトファンのキヌレニンへの変換に関与する。この酵素は、D-トリプトファン、L-トリプトファン、5-ヒドロキシ-トリプトファン、トリプタミン、およびセロトニンを含む、複数のトリプトファン基質に作用する。この酵素は、様々な病態生理学的プロセス、例えば抗菌および抗腫瘍防御、神経病理学、免疫調節および抗酸化活性などにおいて、役割を果たすと考えられている。樹状細胞、単球およびマクロファージにおけるその発現を通して、この酵素は、必須アミノ酸トリプトファンの細胞周囲異化によってT細胞の挙動を調節する。IDO酵素は、競合阻害剤または自殺基質として作用するその基質の分子類似体により、腫瘍内炎症を増強するために阻害することができる。多くのがんにおいて抑制される免疫系の活性化は、IDO1発現腫瘍細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を誘導し得る。トリプトファン除去は、Tリンパ球の増殖および活性化を阻害し、T細胞抑制によって引き起こされる免疫抑制に関連する。
【0075】
本明細書で使用されるIDOアンタゴニストは、IDOタンパク質またはIDOタンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、IDO活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、IDOの活性を低下させるか、または遮断すると考えられている。例示的なIDOアンタゴニストは、例えば、IDO阻害剤エパカドスタット、NLG919、およびインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼペプチドワクチンである。
【0076】
エパカドスタットは、経口的に利用可能なヒドロキシアミジン、およびインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO1)の阻害剤であり、潜在的な免疫調節および抗腫瘍活性を有する。エパカドスタットは、トリプトファンのキヌレニンへの酸化を担う酵素IDO1を標的とし、これに結合する。腫瘍細胞においてIDO1を阻害し、キヌレニンを減少させることにより、エパカドスタットは、樹状細胞(DC)、NK細胞およびTリンパ球を含む様々な免疫細胞の増殖および活性化、ならびにインターフェロン(IFN)産生、および腫瘍関連調節性T細胞(Treg)の低減を、増加および回復させる。
【0077】
NLG919は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)の経口的に利用可能な阻害剤であり、潜在的な免疫調節活性および抗腫瘍活性を有する。投与されると、NLG919は、必須アミノ酸トリプトファンのキヌレニンへの酸化を担うサイトゾル酵素であるIDO1を標的とし、これに結合する。腫瘍細胞においてIDO1を阻害し、キヌレニンを減少させることにより、この薬剤はトリプトファンレベルを上昇させ、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、Tリンパ球を含む様々な免疫細胞の増殖および活性化を回復させ、腫瘍関連調節性T細胞(Treg)の低減を引き起こす。
【0078】
インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼペプチドワクチンは、免疫調節酵素インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)に対するペプチドワクチンであり、潜在的な免疫調節活性および抗腫瘍活性を有する。インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼペプチドワクチンによるワクチン接種は、免疫系を活性化して、IDO発現細胞に対する免疫応答を誘導することができる。これは、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、およびTリンパ球を含む様々な免疫細胞の増殖および活性化を増加および回復させ、IDO発現腫瘍細胞を根絶し得る。
【0079】
アルギナーゼ(ARG1).ARG1は、免疫阻害性分子である別の代謝酵素である。これは、骨髄由来のサプレッサー細胞によって産生される。アルギナーゼは、アルギニンのオルニチンおよび尿素への加水分解を触媒する。哺乳動物アルギナーゼの少なくとも2つのアイソフォームが存在し(I型およびII型)、これらは、組織分布、細胞下局在、免疫学的交差反応性、および生理学的機能が異なる。この遺伝子によってコードされるI型アイソフォームは、細胞質ゾル酵素であり、主に肝臓で尿素サイクルの構成要素として発現される。この酵素の遺伝的欠損は、高アンモニア血症を特徴とする常染色体劣性疾患であるアルギニン血症をもたらす。異なるアイソフォームをコードする2つの転写バリアントが、この遺伝子について見出されている。
【0080】
本明細書で使用されるARG1アンタゴニストは、ARG1タンパク質またはARG1タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、ARG1活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、ARG1の活性を低減または遮断すると考えられている。アルギナーゼ酵素は、競合阻害剤または自殺基質として作用するその基質の分子類似体により、腫瘍内炎症を増強するために阻害することができる。
B7ファミリー阻害性リガンドB7-H3およびB7-H4.B7ファミリーメンバーおよびその既知のリガンドは、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。B7ファミリーは、共刺激性および阻害性受容体を有する。多数のB7ファミリー阻害性リガンド、例えばB7-H3(CD276としても知られる)およびB7-H4(B7-S1、B7xおよびVCTN1としても知られる)などは、定義された受容体をまだ有していないが、マウスノックアウト実験は、これらのリガンドについての免疫阻害の役割を支持する。B7-H3およびB7-H4は、腫瘍細胞または腫瘍浸潤細胞上で上方制御される。B7-H3は、腫瘍脈管構造の内皮細胞上で上方制御され得、またB7-H4は、腫瘍関連マクロファージ上で発現されることが報告されている。B7-H4は、腫瘍細胞および腫瘍関連マクロファージによって発現され、腫瘍逃避(tumor escape)に役割を果たす。がんの前臨床マウスモデルは、多くの個々の免疫チェックポイントB7ファミリーのリガンドまたは受容体の遮断が、抗腫瘍免疫を増強することができ、協調的に発現される受容体の二重遮断が、相加的または相乗的抗腫瘍活性を生じさせることを示している。多数のこれらの免疫チェックポイント標的のための阻害剤/アンタゴニストは、臨床に入るか、または積極的に開発されている。
【0081】
本明細書で使用されるB7ファミリーメンバーアンタゴニストは、B7ファミリーメンバータンパク質またはB7ファミリーメンバータンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、B7ファミリーメンバーの活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、B7ファミリーメンバー、例えばB7-H3またはB7-H4と、そのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。例示的なB7-H3アンタゴニストとしては、例えば、エノブリツズマブ(MacroGenics、MGA271としても知られる)、これはB7-H3を標的とするFc最適化モノクローナル抗体であり、およびMGD009、これはB7-H3とCD3を標的とする二重親和性再標的化(DART(登録商標))分子である(MacroGenics)、が挙げられる。遮断抗体または小分子阻害剤は、例えば、LAG3、2B4、BTLA、TIM3、A2aR、およびキラー阻害性受容体ファミリー、本開示の文脈においてこれらに結合および/または拮抗する薬剤により標的化され得る分子について、現在入手可能である。
【0082】
リンパ球活性化遺伝子3(LAG3).LAG3(CD233としても知られる)は、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)に属し、4つの細胞外Ig様ドメインを含む。これは、主要組織適合複合体(MHC)クラスIIに結合する。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)上のLAG-3発現は、腫瘍媒介性の免疫抑制に関連する。LAG3は、TReg細胞の機能を増強する役割を有することが示されている。LAG3は、TReg細胞に対するその役割から独立して、CD8+エフェクターT細胞機能を阻害する。LAG3の既知のリガンドは、主要組織適合複合体(MHC)クラスIIである。MHCクラスII分子は、いくつかの上皮癌で、一般にIFNγに応答して上方制御され、腫瘍浸潤マクロファージおよび樹状細胞上で発現される。T細胞応答のLAG3媒介性の阻害における、LAG3-MHCクラスII相互作用の役割は不明であり、なぜならば、LAG3-MHCクラスII相互作用を遮断しないLAG3抗体がそれでも、T細胞増殖およびエフェクター細胞機能をin vitroおよびin vivoで増強するからである。この相互作用は、TReg細胞機能を増強するLAG3の役割にとって、最も重要であり得る。LAG3は、TReg細胞およびアネルギー性T細胞の両方で協調的に上方制御される種々の免疫チェックポイント受容体の1つであり、これらの受容体の同時遮断は、1つの受容体のみの遮断と比較して、このアネルギー状態の反転を増強することができる。特に、PD1およびLAG3は、アネルギー性または消耗性(exhausted)T細胞上で、一般に共発現される。LAG3とPD1の二重遮断は、慢性感染の設定において、アネルギーを、腫瘍特異的CD8+T細胞およびウイルス特異的CD8+T細胞の間で相乗的に逆転させた。
【0083】
本明細書で使用されるLAG3アンタゴニストは、LAG3タンパク質またはLAG3タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、LAG3活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、LAG3とそのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。例示的なLAG3アンタゴニストは、BMS-986016(Bristol-Myers Squibb)であり、これは潜在的な免疫チェックポイント阻害および抗腫瘍活性を有するLAG-3に結合するモノクローナル抗体である。投与されると、BMS-986016は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)上でLAG-3に結合する。これにより、抗原特異的Tリンパ球が活性化され、細胞傷害性T細胞媒介性腫瘍細胞溶解が増強され、腫瘍増殖の低減がもたらされる。
2B4.2B4(CD244およびSLAMf4としても知られる)は、38kDのI型膜貫通タンパク質であり、免疫グロブリンスーパーファミリー分子のCD2サブセットのメンバーである(Lee et al., 2004; Vaidya et al., 2005)。これは、非主要組織適合複合体(MHC)制限死滅を媒介するナチュラルキラー(NK)細胞およびいくつかのT細胞上で発現される細胞表面受容体をコードする遺伝子(2B4)によって、コードされる。2B4受容体を介したNK細胞と標的細胞との間の相互作用は、NK細胞の細胞溶解活性を調節すると考えられている。2B4は、慢性ウイルス感染後に除去された細胞で発現すると同定された、共阻害性分子である。これは、NK細胞、単球、好塩基球および好酸球上で発現され、マウスとヒトの両方でCD8+T細胞のサブセット上で誘導的に発現される(Liu et al., JEM, 211(2):297-311 (2014)およびその中の参考文献を参照)。代替的に、異なるアイソフォームをコードする転写スプライスバリアントが、ヒト2B4遺伝子について見出されている。
【0084】
BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA).BTLA(BおよびTリンパ球関連、BTLA-1、およびCD272としても知られる)は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子である。コードされたタンパク質は、単一の免疫グロブリン(Ig)ドメインを含み、阻害シグナルを伝達して免疫応答を抑制する受容体である。代替的スプライシングは、複数の転写バリアントをもたらす。この遺伝子の多型は、慢性関節リウマチのリスク上昇と関連している。BTLAは、Btlaノックアウトマウスで観察されたT細胞応答の増強に基づいて、T細胞上の阻害性受容体として最初に同定された。続いて、特定の腫瘍細胞型(例えば黒色腫)および腫瘍関連内皮細胞上に発現されるヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM;TNFRSF14としても知られる)が、BTLAリガンドであることが示された。これは、TNFファミリーメンバーが免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーメンバーと相互作用する、稀なケースである。活性化されたウイルス特異的CD8+T細胞でのBTLA発現レベルはかなり低いが、黒色腫患者の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)では非常に高くなり得る。BTLAhiT細胞は、そのリガンドであるHVEMの存在下で阻害される。したがって、BTLAは、腫瘍微小環境におけるT細胞の関連阻害性受容体であり得る。
本明細書で使用されるBTLAアンタゴニストは、BTLAタンパク質またはBTLAタンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、BTLA活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、BTLAとそのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。
【0085】
T細胞膜タンパク質3(TIM3).TIM3(A型肝炎ウイルス細胞受容体2/HAVcr2、CD366、KIM-3、TIMD3、Tim-3、およびTIMD-3としても知られる)遺伝子は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質およびTIMファミリーのタンパク質をコードする。CD4陽性Tヘルパーリンパ球は、それらのサイトカイン分泌パターンに基づいて、1型(Th1)および2型(Th2)に分けることができる。Th1細胞は、細胞内病原体および遅延型過敏反応に対する細胞媒介性免疫に関与しているのに対して、Th2細胞は、細胞外寄生虫感染の制御およびアトピー性およびアレルギー性疾患の促進に関与している。TIM3タンパク質は、マクロファージの活性化を制御し、Th1媒介性自己および同種免疫応答を阻害し、免疫学的寛容を促進する、Th1特異的細胞表面タンパク質である。そのリガンドがガレクチン9(乳がんを含む種々の種類のがんにおいて上方制御されるガレクチン)であるTIM3は、Tヘルパー1(TH1)細胞応答を阻害し、TIM3抗体は抗腫瘍免疫を増強する。TIM3は、腫瘍特異的CD8+T細胞上でPD1と同時発現することが報告されており、両方の分子の二重遮断は、がん-精巣抗原、NY-ESO-1によって刺激された場合に、ヒトT細胞のin vitro増殖およびサイトカイン産生を有意に高める。動物モデルでは、PD1およびTIM3の協調遮断は、それぞれの個々の分子の遮断からはわずかな効果しか観察されない状況において、抗腫瘍免疫応答および腫瘍拒絶反応を増強することが報告された。
本明細書で使用されるTIM3アンタゴニストは、TIM3タンパク質またはTIM3タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、TIM3活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、TIM3とそのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。
【0086】
アデノシンA2a受容体(A2aR).A2aR遺伝子(RDC8およびADORA2としても知られる)は、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)共役受容体(GPCR)スーパーファミリーのメンバーをコードし、これはクラスおよびサブタイプに細分される。受容体は、細胞外キュー(cue)に応答して細胞内シグナル伝達経路を活性化する、7パス膜貫通タンパク質である。A2ARは、T細胞の細胞表面上で高度に発現され、かつアデノシンによる活性化に際してそれらの増殖および活性化を阻害する、Gタンパク質共役受容体である。アデノシンはしばしば、がん細胞によって過剰に産生される。A2Aサブタイプのアデノシン(リガンド)受容体であるA2aRタンパク質は、アデノシンを好ましい内在性アゴニストとして使用し、Gタンパク質のG(s)およびG(olf)ファミリーと優先的に相互作用して、細胞内cAMPレベルを上昇させる。これは多くの生物学的機能において、例えば心臓のリズムや循環、脳や腎臓の血流、免疫機能、痛みの調節、および睡眠などにおいて、重要な役割を果たす。これは、炎症性疾患および神経変性疾患などの病態生理学的状態に関与している。代替的スプライシングは、複数の転写バリアントをもたらす。上流のSPECC1L(カルポニン相同性およびコイルドコイルドメイン1様を有する精子抗原)およびADORA2A(アデノシンA2a受容体)遺伝子配列からなるリードスルー転写物が同定されたが、非コーディングであると考えられている。A2aRは、CD4+T細胞を駆動してFOXP3を発現させ、それによってT細胞に発達させることに部分的により、T細胞応答を阻害する。この受容体の欠損は、感染に対する増強された、時には病的な炎症反応をもたらす。A2aR受容体は腫瘍免疫に特に関連するが、その理由は、腫瘍における細胞ターンオーバーからの細胞死の割合が高く、死んで行く細胞がアデノシンを放出するためである。さらに、TReg細胞は、細胞外ATPをAMPに変換する高レベルの細胞外酵素CD39(NTPDase1としても知られる)および、AMPをアデノシンに変換するCD73(5'-NTとしても知られる)を発現する。アデノシンによるA2aR関与がT細胞を駆動してTReg細胞となることを考えると、これは、腫瘍内で自己増幅ループを生成することができる。腫瘍は、A2aR(Adora2aとも呼ばれる)ノックアウトマウスにおいてよりゆっくりと増殖し、腫瘍ワクチンは、これらのマウスの確立された腫瘍に対してはるかに有効である。
【0087】
本明細書で使用されるA2aRアンタゴニストは、A2aRタンパク質またはA2aRタンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、A2aR活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、A2aRとそのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。A2aRは、アデノシン結合を遮断する抗体、またはアデノシン類似体(それらのいくつかはA2aRにかなり特異的である)のいずれかによって、阻害され得る。これらの薬剤はパーキンソン病の臨床試験に使用されているが、がん患者においては臨床的に試験されていない。例示的なA2aRアンタゴニストは、限定はされないが、アデノシンA2A受容体アンタゴニストPBF-509である。PBF-509は、経口的に生物学的利用可能なアデノシンA2A受容体(A2AR)アンタゴニストであり、潜在的抗腫瘍活性を有する。投与されると、A2ARアンタゴニストPBF-509は、Tリンパ球に発現するA2ARに選択的に結合して阻害する。これはTリンパ球のアデノシン/A2AR媒介性阻害を無効にし、腫瘍細胞に対するT細胞媒介性免疫応答を活性化し、それにより感受性腫瘍細胞の増殖を低減する。
【0088】
キラー阻害性受容体(KIR).免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであるKIRは、NK細胞の表面上に発現される。キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)は、ナチュラルキラー細胞およびT細胞のサブセットによって発現される、膜貫通糖タンパク質である。KIR遺伝子は多型であり、相同性が高く、1Mb白血球受容体複合体(LRC)内の19q13.4染色体上のクラスターに見出される。KIR遺伝子クラスターの遺伝子含量はハプロタイプ間で異なるが、ただしいくつかの「フレームワーク」遺伝子は、すべてのハプロタイプ(KIR3DL3、KIR3DP1、KIR3DL4、KIR3DL2)に見出される。KIRタンパク質は、細胞外免疫グロブリンドメインの数(2Dまたは3D)、およびそれらが長い(L)または短い(S)細胞質ドメインを有するかどうかにより、分類される。長い細胞質ドメインを有するKIRタンパク質は、免疫チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)を介したリガンド結合時に阻害シグナルを伝達するが、一方短い細胞質ドメインを有するKIRタンパク質は、ITIMモチーフを欠き、代わりにTYROタンパク質チロシンキナーゼ結合タンパク質と会合して、活性化シグナルを伝達する。KIRは、構造に基づき次の2つのクラスに分類され得る阻害性受容体の広いカテゴリーである:キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)およびC型レクチン受容体、これらはII型膜貫通受容体である。これらの受容体は、NK細胞の死滅活性の重要な調節因子として最初に記載されたが、多くはT細胞およびAPCに発現する。T細胞およびAPC(例えば、樹状細胞)に対するそれらの阻害的役割の重要性は、あまり研究されていないが、結果として生じるNK細胞の活性化は、強力な抗腫瘍活性を提供することができる。多くのキラー阻害性受容体は、ヒト白血球抗原(HLA;ヒトMHC分子)のサブセットに特異的であり、アレル特異性を有する。しかしながら、他の受容体は、広く発現された分子を認識する;例えば、C型レクチン受容体KLRG1は、E-カドヘリンを認識する。それらの阻害性受容体が適切に関与していない場合の、抗腫瘍免疫応答におけるNK細胞の潜在的価値は、ドナーNK阻害性受容体とレシピエントHLAアレルとの間のミスマッチによって誘発される、同種異系骨髄移植における移植片対腫瘍効果の著しい増強によって、最もよく例示される。いくつかのKIRタンパク質のリガンドは、HLAクラスI分子のサブセットである;したがって、KIRタンパク質は、免疫応答の調節において重要な役割を果たすと考えられている。任意のキラー阻害性受容体のアンタゴニストが、本開示の文脈において使用され得る。
【0089】
本明細書で使用されるKIRアンタゴニストは、KIRタンパク質またはKIRタンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、KIR活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、KIRとそのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。例示的なKIRアンタゴニストは、リリルマブ(Bristol-Myers Squibb)であり、これは、潜在的な免疫チェックポイント阻害活性および抗腫瘍活性を有する、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)に対する完全ヒト化モノクローナル抗体である。投与されると、リリルマブはKIRに結合し、それによってKIRリガンドの、ナチュラルキラー(NK)細胞上のKIRへの結合を妨げる。これらの阻害性受容体を遮断することにより、NK細胞は活性化され、がん細胞を攻撃して腫瘍細胞死をもたらす。
【0090】
シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT3).STAT3遺伝子によってコードされるタンパク質は、STATタンパク質ファミリーのメンバーである。サイトカインおよび成長因子に応答して、STATファミリーメンバーは受容体関連キナーゼによりリン酸化され、次いで細胞核に転位するホモまたはヘテロ二量体を形成し、そこで転写活性化因子として作用する。タンパク質のSTATファミリーの7つのメンバーが、哺乳動物において同定されている:STAT1、2、3、4、5a、5b、および6。すべてのファミリーメンバーは、6つの異なる構造ドメイン:N末端、コイルドコイル、DNA結合、Src相同性2(SH2)およびトランス活性化ドメインを共有し、およびC末端(STAT3の場合はTyr705)にクリティカルなチロシン(Tyr)残基を含み、これは活性化の間にリン酸化される。STAT3タンパク質は、IFN、EGF、IL5、IL6、HGF、LIFおよびBMP2を含む種々のサイトカインおよび成長因子に応答して、リン酸化によって活性化される。このタンパク質は、細胞刺激に応答して様々な遺伝子の発現を媒介し、したがって、細胞増殖およびアポトーシスなどの多くの細胞プロセスにおいて、重要な役割を果たす。小さなGTPアーゼRac1は、このタンパク質に結合し、その活性を調節することが示されている。PIAS3タンパク質は、このタンパク質の特異的阻害剤である。この遺伝子の突然変異は、幼児発症型多系統自己免疫疾患および高免疫グロブリンE症候群に関連する。代替的スプライシングは、異なるアイソフォームをコードする複数の転写バリアントをもたらす。
【0091】
本明細書で用いるSTAT3アンタゴニストは、STAT3タンパク質またはSTAT3タンパク質をコードする遺伝子もしくは核酸に結合し、STAT3活性化を阻害または防止する分子である。理論に束縛されることを望むものではないが、かかる分子は、STAT3とそのリガンド(単数または複数)との相互作用を、低減または遮断すると考えられている。STAT3のアンタゴニストである小分子化合物の例は、NSC74859(S3I-201)、NSC42067、NSC59263、NSC75912、NSC11421、NSC91529、およびNSC263435である(米国特許第7960434 B2号参照)。STAT3阻害剤/アンタゴニストの他の多くの例は、Yue and Turkson, Expert Opin Investig Drugs, 2009, 18(1):45-56に見出すことができ、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0092】
記載される阻害性免疫チェックポイント分子のアンタゴニストは、本開示の文脈において使用され得る。阻害性免疫分子である他の分子のアンタゴニストは、本開示の文脈において使用され得る。いくつかの態様において、任意の免疫阻害性分子のアンタゴニストを、造血幹細胞および/または造血幹細胞動員剤と組み合わせて疾患を有する対象の処置のために使用することができ、ここで疾患は、がんまたは感染症である。いくつかの態様において、PD-1、PD-L1、CTLA-4、VISTA、PD-L2、IDO、ARG1、B7-H3、B7-H4、LAG3、2B4、BTLA、TIM3、A2aR、KIR、および/またはSTAT3のアンタゴニストは、造血幹細胞(HSC)移入および/またはHSC動員処置と組み合わせた処置のために、例えば抗PD-1、抗CTLA-4、および/または抗VISTA処置などの追加の免疫チェックポイント遮断とのさらなる組み合わせにおいて、使用し得る。
【0093】
造血幹細胞.血液幹細胞とも呼ばれる造血幹細胞(HSC)は、血液および骨髄中に見出され、それ自体を再生することができ、白血球、赤血球、および血小板を含む血液および免疫細胞などの様々な特殊細胞に分化することができる、未熟細胞である。HSCは、骨髄から循環血液に動員することができる。HSCは、血液細胞の絶え間ない再生を促進し、毎日何十億もの新しい血液細胞を産生する。
【0094】
造血幹細胞移植(HSCT).造血幹細胞(HSC)移植(HSCTまたはHSC移入)は、通常は末梢血、骨髄または臍帯血に由来するHSCの移植である。2種類のHSCTを対象に使用することができる:対象自身の幹細胞を使用する、自家幹細胞移植;または、レシピエントに対して遺伝的に類似しHLA適合性であるドナーの幹細胞が対象に移植される、同種異系幹細胞移植。本開示のいくつかの態様において、自家幹細胞が、HSCTに使用される。本開示のいくつかの態様において、対象にHLA適合性の同種異系幹細胞が、HSCTに使用される。自家HSCTでは、幹細胞を含有する試料を対象から取り出して保存し、後に対象に移植する。
【0095】
HSCは、試料中の血球の全集団のわずかな部分を占めるため、これをがんまたは感染症治療のために対象に投与する前に、自己または同種異系HSCの数を増加させることが有利となり得る。本開示のいくつかの態様において、造血幹細胞は、それらを処置のために対象に移植する前に、収集および増大される。本開示のいくつかの態様において、造血幹細胞は、それらを処置のために対象に移植する前に、試料から収集、増大、および選択される。いくつかの態様において、造血幹細胞を含む試料が得られ、造血幹細胞を対象に投与する前に、in vitroで、試料中の幹細胞の数を増大するために処理される。いくつかの態様において、造血幹細胞を含む試料が得られ、造血幹細胞を対象に投与する前に、in vitroで、試料中の幹細胞のパーセンテージを増加させるために処理される。
【0096】
態様において、幹細胞を、移植に使用される材料中で富化することができる。態様において、富化は、対象から収集された他の細胞に対して、幹細胞の増殖/増大を選択的に刺激することにより、行うことができる。別の態様において、幹細胞は、対象から収集された他の細胞から幹細胞を単離することにより、富化することができる。かかる選択は、いわゆる陽性選択または陰性選択であり得る。陽性選択において、幹細胞は、幹細胞上にあるが他の細胞上には存在しないことが知られているマーカーに基づいて、単離される。いくつかの態様において、陽性選択において、幹細胞は、マーカーCCR2+、CD34+および/またはlin-に基づいて単離され、それによってHSCを陽性マーカーについて富化する。陰性選択において、幹細胞ではない細胞が同定され、かかる他の細胞上のマーカーに基づいて除去されて、幹細胞を残す。いくつかの態様において、陰性選択において、幹細胞は、マーカーCCR2-に基づいて単離される。陰性選択において、HSCをex vivoで処理してCCR2-細胞を除去し、それにより、HSCを対象に投与する前に、陽性マーカーCCR2+、CD34+および/またはlin-についてHSCを富化する。かかる選択手順は当業者に知られており、限定はされないが、フローサイトメトリー分析、マイクロビーズに基づく単離、付着アッセイ、および/またはリガンドに基づく選択を含む。いくつかの態様において、リガンドに基づく選択は、CCR2リガンド、例えばCCL2の存在に基づく。いくつかの態様において、富化されたHSCは、対象への投与前にin vitroで増殖され得る。いくつかの態様において、富化されたHSCはin vitroで増殖され得、そして対象への投与の前に、CCR2+、CD34+、および/またはlin-について再度、陽性選択され得る。いくつかの態様において、富化されたHSCをin vitroで増殖させ、CCR2-細胞について陰性選択し、ここでCCR2-細胞を、HSCを対象に投与する前に再び除去することができる。いくつかの態様において、CCR2-細胞の除去後、CCR2-HSCの出発集団の20%未満が残る。いくつかの態様において、CCR2-細胞の除去後、CCR2-HSCの出発集団の15%未満、10%未満、5%未満、2%未満、さらには1%未満が残る。いくつかの態様において、対象にHSCを投与する前にCCR2-細胞を除去すると、投与のためのHSCであって、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%以下のCCR2-HSCを含む前記HSCがもたらされる。いくつかの態様において、CCR2+、CD34+、および/またはlin-細胞についての陽性選択後;CCR2+、CD34+、および/またはlin-細胞についての陽性選択および陽性選択された細胞の増殖後;またはCCR2+、CD34+および/またはlin-細胞についての陽性選択、陽性選択された細胞の増殖、およびCCR2+、CD34+および/またはlin-細胞についての第2の陽性選択後であって、かつHSCの投与前に、投与のためのHSCは、少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または98%のCCR2+、CD34+、および/またはlin-HSCを含む。
【0097】
本明細書における造血幹細胞の源としては、以下が挙げられる:骨髄系統除去細胞(lin-)、cKit+精製系統陰性骨髄由来細胞、Sca+精製系統陰性骨髄由来細胞、cKit+Sca+精製骨髄由来細胞、G-CSFを用いて宿主骨髄から動員、AMD3100、プレリキサフォル、もしくは分子1,1’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ビス[1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン]を用いて宿主骨髄から動員、臍帯血もしくは臍帯血由来幹細胞、ヒト白血球抗原(HLA)適合血液、血液もしくは骨髄由来の間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞から分化した造血幹細胞、動員末梢血、末梢血、CCR2+マーカーで精製したlin-細胞を含む造血幹細胞サブセット、系統陰性精製末梢血、またはCD34+富化末梢血。本開示のいくつかの態様において、HSCの供給源は骨髄である。本開示のいくつかの態様において、HSCの供給源は、自己由来または同種異系であり、ここで任意に、供給源は、骨髄、末梢血、臍帯血、臍帯血幹細胞または誘導多能性幹細胞である。
【0098】
造血幹細胞動員剤.本開示のいくつかの態様において、造血幹細胞動員剤が対象に投与される。HSC動員とは、対象の骨髄から対象の末梢血への、HSCの動員を指す。本出願において、HSC動員剤としては、以下を含む:顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ペグ化G-CSF(ペグフィルグラチズム)、レノグラチズム、G-CSFのグリコシル化形態、C-X-Cモチーフケモカイン2(CXCL2)、C-X-Cケモカイン受容体タイプ4(CXCR-4)、またはプレリキサフォル。
【0099】
併用処置または併用療法.併用処置または療法とは、併用される2つの療法を指す。併用は、単一剤形としてもよいが、より典型的には、別々の投薬レジメンを用いて別々の用量で行われる。態様において、併用療法とは、造血幹細胞移植療法および/または造血幹細胞動員剤処置と組み合わせた、免疫チェックポイント阻害剤療法を意味し得る。免疫チェックポイント阻害剤療法とは、疾患(例えば、がんまたは感染症)を有する対象の、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を対象に投与することによる処置を指す。造血幹細胞移植療法とは、疾患(例えば、がんまたは感染症)を有する対象の、造血幹細胞の投与による処置を指す。これは、造血幹細胞動員剤の対象への投与と併用してもよい。造血幹細胞は、対象に投与する前に、本明細書での開示のように、増殖させ、マーカーに基づいて予め選択し、サイトカインで処理し、および/またはサイトカインと共に投与してもよい。いくつかの態様において、対象は、当技術分野において一般的に知られている方法である化学療法および/または放射線処置を、免疫チェックポイント阻害剤および造血幹細胞移植併用療法と、同時に受ける。かかる態様において、造血幹細胞は、放射線処置の完了後に、対象に投与され得る。かかる態様において、造血幹細胞は、化学療法処置の完了後に、対象に投与され得る。かかる態様において、造血幹細胞は、化学療法または放射線処置の完了後6週間以内に、対象に投与され得る。かかる態様において、造血幹細胞は、化学療法または放射線処置の完了の0日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、または6週間後に、投与され得る。かかる態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、放射線または化学療法処置の前、これと同時、または後に、投与され得る。かかる態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、化学療法または放射線処置の完了の、1日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間または6週間後に、対象に投与され得る。
【0100】
単独療法処置.単独療法処置とは、造血幹細胞移植処置および/または造血幹細胞動員剤処置を伴わない、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤による処置を指す。
【0101】
対象.「対象」とは、哺乳動物、例えばヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、ラット、げっ歯類またはヤギなどを意味する。重要な態様において、対象および/または哺乳動物は、ヒトである。
【0102】
処置.「処置する」、「処置すること」、「処置」および「療法」は、対象が状態に罹患している間に生じて、状態(もしくは状態に関連する症状)の重篤度を低下させる、または状態(もしくは状態に関連する症状)の進行を遅延または遅らせる行為を包含する。これは治療的処置である。
【0103】
有効量.対象は、本開示の溶液の有効量で処置される。薬剤の「有効量」とは、一般に、所望の生物学的応答を誘発する、すなわちその状態を処置するのに十分な量をいう。当業者に理解されるように、本明細書に記載される薬剤の有効量は、処置される状態、投与様式、および対象の年齢、体組成、および健康などの因子に依存して、変化し得る。
【0104】
治療的処置のためには、有効量は、状態の処置において治療上の利益を提供するか、または状態に関連する1つ以上の症状を低減もしくは排除するのに、十分な量である。これは、全体の療法を改善し、症状または状態の原因を低減または回避し、または別の治療剤の治療効果を高める量を包含し得る。
【0105】
一般に有効量は、対象における免疫応答を増強するために投与される。特定の疾患または状態に関連して、「免疫応答を増強する」とは、疾患または状態の1つ以上の症状、例えば、がんの1つ以上の症状または感染症の1つ以上の症状の、発生を阻止し、その進行を阻害し、発生を逆転させ、または、その他でこれを低減または軽減することを意味する。さらに有効量は、対象におけるがん細胞または感染性病原体の増殖を、遅らせる、停止させる、または逆行させるような量であってもよい。
注射用の造血幹細胞の例示的な有効量は、対象の体重1kg当たり約2×10個の細胞である。注射用の造血幹細胞の例示的な有効量は、この量を上回っても下回ってもよい。例としては、約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5または7×10細胞/kgが含まれる。
【0106】
当技術分野で使用される薬剤の例示的な有効量は、以下の通りである:
抗免疫チェックポイント抗体:0.01mg/kg~20mg/kgを1~4週間ごと。態様において、かかる投与は、がんまたは感染症が持続する限り続く。態様において、投与は、例えば、156週間までであり得る。
【0107】
抗PD-1抗体:0.01mg/kg~20mg/kgを1~4週間ごと。態様において、かかる投与は、がんまたは感染症が持続する限り続く。態様において、投与は、例えば、156週間までであり得る。態様において、ペンブロリズマブは、10mg/kgを2週間ごと、10mg/kgを3週間ごと、または2mg/kgを3週間ごとに、例えば96週間まで投与でき;ニボルマブは、0.1~10mg/kgを2週間ごとに、例えば96週間まで投与することができ;ピジリズマブは、0.1~10mg/kgを1週間ごと、0.1~10mg/kgを2週間ごと、または0.1~10mg/kgを3週間ごとに、例えば96週間まで投与することができる。態様において、MEDI-0680は、2週間に1回、最大1年間、投与することができる。態様において、REGN2810は、2週間に1回投与することができる。態様において、AMP224は、10mg/kgを2週間に1回、投与することができる。
【0108】
抗PD-L1抗体:0.01mg/kg~20mg/kgを1~4週間ごとに対象に投与する。態様において、かかる投与は、がんまたは感染症が持続する限り続く。態様において、投与は、例えば、156週間までであり得る。態様において、BMS-936559/MDX-1105は、例えば、1、3または10mg/kgで2週間ごとに、2年間まで投与することができ;MPDL3280A/RG7446は、例えば、1200mgを3週間ごとに、1年まで、または2年まで、または疾患の進行まで、投与することができ;MSB0010718C/アベルマブは、例えば10mg/kgで2週間に1回、疾患が進行するまで投与することができ;およびMEDI4736は、例えば、1、2、3または4週間ごとに1年まで、または2年まで、投与することができる。いくつかの薬剤の有効量は、現在臨床試験において試験されており、それに応じて変化し得る。
【0109】
抗CTLA-4抗体:0.01mg/kg~20mg/kgを1~4週間ごと。態様において、かかる投与は、がんまたは感染症が持続する限り続く。態様において、投与は、例えば、156週間までであり得る。態様において、MDX-010/イピリムマブは、0.3mg/kg、3mg/kg、6mg/kg、または10mg/kgで3週間ごとに、4用量もしくは4サイクル、または32用量まで、12週間ごとの維持療法の提供とともに、投与し得る。トレメリムマブ/CP-675,206は、3mg/kg、6mg/kg、10mg/kgまたは15mg/kgで12週間ごとに、4用量、または8用量まで、投与することができる。いくつかの薬剤の有効量は、現在臨床試験において試験されており、それに応じて変化し得る。
【0110】
抗VISTA抗体:0.01mg/kg~20mg/kgを、1~4週間ごとに対象に投与する。態様において、かかる投与は、がんまたは感染症が持続する限り続く。態様において、投与は、例えば、156週間までであり得る。いくつかの薬剤の有効量は、将来の臨床試験の結果に応じて変化し得る。
【0111】
動員剤:かかる薬剤は、幹細胞を骨髄から末梢血に動員するのに十分な量で与えられる。特定の動員剤に対するかかる量は、例えば、1日あたり1μg/kg~20μg/kgのG-CSF、好ましくは1日あたり5μg/kgまたは10μg/kgのG-CSF;1~20mgのPEG化G-CSF、好ましくは6mgまたは12mgのPEG化G-CSF;1日あたり1~20μg/kgのPEG化G-CSF;1日当たり1~20μg/kgのレノグラチズム;1日当たり1~40μg/mのC-X-Cケモカイン受容体タイプ4(CXCR-4);1~40μg/m/日のプレリキサフォルである。
【0112】
投与方法.本開示のいくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、静脈内に投与される(静脈内(IV)注入)。抗体はまた、当分野で知られている他の投与様式を介して投与され得る。かかる投与様式には、吸入、摂取および局所適用が含まれる。経口投与も治療のために可能であるが、しかしこの投与形態は、抗体などの特定の生物学的製剤にとってより困難である。HSCTはしばしば化学療法と共に投与され、これは様々な方法で投与することができる。本開示の態様において、HSC動員剤は、経口、皮下、筋肉内、静脈内、脳室内、髄腔内、腹腔内、動脈内、膀胱内(intravesicularly)、または胸膜内に、好ましくは静脈内に投与される。
【0113】
養子細胞療法(ACTまたは養子細胞移入)。養子細胞療法は、免疫機能および他の特性を細胞と共に伝達する目的での、細胞の患者内への移入である。細胞は、最も一般的に免疫由来であり、例えば、T細胞であり、自己由来または同種異系であり得る。同種異系細胞ではなく自己細胞の移入は、移植片対宿主病の問題を最小化する。ACTは、ウイルス感染の処置のため、および/またはがんの退縮の軽減に使用することができる。免疫抑制またはアブレーション処置(例えば、化学または放射線の処置)を受ける対象において、例えば、HSCT、臓器移植、および特定のタイプのがんを含む幹細胞移植(これらにおいては、免疫再構成はしばしば遅く不完全であり、悪性腫瘍のリスクがある)と関連して、感染および/または悪性腫瘍のリスクが増大する。免疫抑制後の期間の対象におけるACTの使用は、抗腫瘍免疫を含む免疫を増強し、また免疫抑制後の期間においてワクチン効力を増加させる可能性により、対象にとって有利であると考えられる。腫瘍特異的T細胞のACTは、マウス系およびヒト系の固形腫瘍の処置に、有効であることが示されている。態様において、ACTは、HSC注入またはHSC動員剤の投与と共に使用され、ここでHSCの添加は、IFNγ分泌の増加によって示されるように、対象の免疫応答を増加させる。
【実施例
【0114】
例1.造血幹細胞(HSC)は腫瘍流入領域リンパ節微小環境を変化させ、抗腫瘍免疫を増強する。HSC移入は、腫瘍保有宿主においてIFNγを分泌する抗腫瘍T細胞の増加をもたらす。
腫瘍特異的T細胞の静脈内注入および樹状細胞による皮内ワクチン接種からなる養子細胞療法(ACT)を、頭蓋内腫瘍保有マウスに、HSCの静脈内注入を伴うかまたは伴わないで、投与した。T細胞は、インターフェロンγプロモーターの制御下で黄色蛍光タンパク質(YFP)を有するマウスに由来するため、活性化されると蛍光を発する。腫瘍流入領域リンパ節(子宮頸部節)は、腫瘍保有マウスからACT+HSC後に収集し、RNAを抽出し、T細胞活性化マーカーのパネルの発現について、PCRアレイで調べた。+HSCリンパ節における遺伝子の相対発現は、図1Aにヒートマップとして示されている。インターフェロンγの顕著な増加が、赤い四角で表されるようにして示され(図1Aのカラー版で見られるD6)、これはIFNγ発現を示す。T細胞をフローサイトメトリーにより、図1BでYFP(IFNγ)発現(x軸上に示す)について調べた。ナイーブマウスはIFNγの発現が1%未満であったが、in vitroで増大させた腫瘍特異的T細胞は、約3.5%の細胞反応性を示した。HSCなしのACTの後、活性化状態は~64.3%のIFNγ分泌T細胞に増加した。HSCの添加は、HSCの存在下で>90%の陽性で著しくIFNγ分泌を増強した。各群におけるIFNγ+T細胞の計算を、図1Cに示す。
【0115】
養子細胞療法:C57BL/6マウス(Jackson Laboratories)には、10個のKR158B星状細胞腫細胞を、右尾状核に定位的に0日目に移植した。次いでマウスに、単一用量の非骨髄破壊性(NMA)5Gyまたは骨髄破壊性(MA)9Gyの全身照射(TBI)を、4日目に投与した。造血幹細胞移入を受けたマウスに、5×10のlin-骨髄由来幹細胞を、TBIの24時間以内に静脈内注射した。10の腫瘍特異的Tリンパ球の静脈内注射を、TBI後16時間から24時間の間に投与した。この後直ちに、2.5×10の全腫瘍RNAパルスDCの皮内ワクチン接種を行った。DCワクチン2および3を、毎週間隔で投与した。
【0116】
造血幹細胞(HSC)単離.C57BL/6マウスの骨髄を、マウスの大腿骨および脛骨から採取した。次いで、塩化アンモニウムベースの溶解溶液(BD biosciencesのPharmLyse)を用いて赤血球を溶解し、単核細胞を残した。Miltenyi Biotecマウス系統(lin-)除去キットを用いて、これらの細胞を製造者の指示に従って単離した。細胞をMiltenyiビオチン標識抗体カクテルで標識し、続いてビーズ結合二次抗体で標識した。次いで、この溶液を滅菌磁気カラムに通して、lin-造血幹細胞(HSC)を単離した。HSCを滅菌リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁し、単離から2時間以内にマウスに静脈内注射した。処置したマウスは、50,000~100,000のHSCを100μlの最終容量で得た。
【0117】
養子移入のための腫瘍特異的T細胞の生成.全RNAを、KR158B-luc腫瘍から単離し、BTX Single Waveform Elctroporation System(Harvard Apparatus)を用いて、骨髄由来DCにエレクトロポレーションした。ナイーブマウスに、全腫瘍RNAパルスDCを皮内ワクチン接種し、7日後に脾臓を採取し、脾細胞をex vivoで、RNAパルスDCおよび100IUのIL-2(R&D Systems)を用いて7日間増大した。T細胞を、野生型C57BL/6マウス(Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME, stock #000664)、C57BL/6バックグラウンドのDsRedトランスジェニックマウス(Jackson Laboratories, stock #006051)、またはC57BL/6バックグラウンドのGFPトランスジェニックマウス(Jackson Laboratories, stock #004353)いずれかの、初回刺激を受けた脾臓から増大させた。腫瘍反応性T細胞は、in vitroでの活性化の5~7日後に静脈内養子移入した。
【0118】
RNAパルス樹状細胞(DC)ワクチンの生成.樹状細胞(DC)をC57BL/6マウスの骨髄から、以前に公表されたプロトコルを変更して用いて、単離した。簡潔には、C57BL/6マウスの大腿骨および脛骨を採取し、骨髄をRPMI(LifeTechnologies)+10%FBS(LifeTechnologies)で洗い流した。赤血球を10mLのPharmlyse(BD Bioscience)で溶解し、単核細胞をCDCM(RPMI-1640、5%FBS、1MのHEPES(LifeTechnologies)、50μM、55mMのβ-メルカプトエタノール(LifeTechnologies)、100mMのピルビン酸ナトリウム(LifeTechnologies)、10mMの非必須アミノ酸(LifeTechnologies)、200mMのLグルタミン(LifeTechnologies)、10μgのGM-CSF(R&D Systems)、10μgのIL-4(R&D Systems)、5.5mLのペニシリン/ストレプトマイシン(LifeTechnologies))に再懸濁させ、これを、組織培養物で処理した6ウェルプレートに、10細胞/mLの密度および総容量3mL/ウェルで播種した。非付着性細胞を3日目に捨てた。7日目に非付着性細胞を収集し、100mmの組織処理培養皿上に、10細胞/mLの密度および総容量5mL/皿で再播種した。24時間後、得られた細胞を、KR158B-luc細胞(RNeasy、Qiagen)から単離された25μgの全RNAでエレクトロポレーションした。RNAパルスDCを翌日収集し、PBSに最終濃度2.5×10細胞で懸濁し、100μlの細胞懸濁液を、皮内注射により投与した。
【0119】
図1Aは、7週齢の雌性C57BL/6マウスが、10,000個の星状細胞腫細胞を頭蓋内核に頭蓋内注射されたことを示す。4日目に、全マウスに5Gyの非骨髄破壊性全身照射を与えた。群1は、腫瘍特異的T細胞の養子移入およびDCワクチンのみを受けた。群2は、T細胞の養子移入、DCワクチン、およびHSC移入を受けた。両方の群からリンパ節を採取し、RNAを単離した。T細胞活性化に関連する遺伝子を調べるPCRアレイを、リンパ節からのRNA上で実行した。この図は、HSC移入を受けたマウスのリンパ節における発現を、受けていないマウスと比較して示す。結果は、HSCを受けた群におけるIFNγ発現の有意な増加を示す。
【0120】
図1Bおよび1Cは、図1Aと同じ実験であって、IFNγプロモーター上で黄色蛍光タンパク質(YFP)を発現するYETIマウスから生成されたT細胞を用いた実験の結果を示す。したがって、抗腫瘍機能(IFNγ分泌)を有する細胞は、フローサイトメトリーを用いて容易に検出可能である。これらのマウスの脾臓を、新たに生成した腫瘍特異的T細胞と同様に、YFPについて分析した。脾細胞ではYFPはほとんどまたは全く認められず、in vitroで増大されたT細胞の3~7%のみが、YFPを発現した。これらの細胞を次に、腫瘍保有マウスへの養子移入のために、5Gy非骨髄破壊性宿主コンディショニングの状況において使用した。群1は、T細胞およびDCワクチンのみを受け、群2は、HSC、T細胞およびDCワクチンを受けた。腫瘍流入領域リンパ節を切除し、YFP発現について分析した。群2(T細胞、DCワクチン、およびHSC移入)のマウスは、T細胞活性化の有意な増加を明らかにした。HSC移入は、腫瘍保有宿主においてIFNγを分泌する抗腫瘍T細胞の増加をもたらす。図2は、HSCと免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせが、腫瘍浸潤宿主細胞によるIFNγ分泌の増加を増強することを示す。
【0121】
例2.造血幹細胞(HSC)は腫瘍微小環境を変化させ、免疫チェックポイント遮断に対する反応性を回復させる。HSCと免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせは、腫瘍浸潤宿主細胞によるIFNγ分泌の増加を増強する。
HSCがリンパ節の微小環境を変化させ、IFNγ産生によって示されるように、T細胞の活性化の増加を許容するという観察は、HSC移入の、頭蓋内腫瘍内の腫瘍微小環境および免疫細胞の活性化状態に対する影響を試験することを、我々に促した。腫瘍微小環境は著しく免疫抑制性であることが知られており、抗腫瘍免疫細胞の停止および免疫学的腫瘍拒絶の失敗をもたらす。本発明者らは、HSC移入単独が、図2Aおよび図2Bに示すように、腫瘍内IFNγ分泌細胞の増加をもたらすことを示した。この増加は、抗PD-1モノクローナル抗体PD1遮断によって誘発されたものよりも大きかった。しかし、HSC移入単独または抗PD-1モノクローナル抗体処置単独では、腫瘍保有動物において有意な方法で生存を延長することができなかった(図2C)。しかし、HSC+抗PD-1抗体の組み合わせは、IFNγ分泌によって示されるように、腫瘍内免疫活性化において顕著な相乗作用を示し(図2B)、処置された動物の>40%において、顕著な改善された生存および長期治癒をもたらした(図2C)。これらの結果は、抗PD-1抗体で処置した動物における腫瘍微小環境の変更および抗腫瘍免疫の増強における、HSCの新規な役割を実証する。これらの効果は、難治性腫瘍が抗PD-1抗体処置に対して感受性になることを可能にする。免疫チェックポイント遮断を誘導する抗PD-1モノクローナル抗体処置を、HSCの投与と組み合わせた結果は、他の免疫チェックポイント阻害剤、例えばCTLA-4を標的とするアンタゴニストが、HSCとの併用療法において有用であり得ることを、本発明者らに示唆する。本明細書に開示された、免疫チェックポイント遮断を誘導する抗PD-1モノクローナル抗体処置を、HSC投与と組み合わせた相乗効果は、他の免疫チェックポイント、例えばPD-L1、CTLA-4および/またはVISTAを標的とするアンタゴニストが、HSCとの併用療法に有用であることを示唆する。
【0122】
HSC療法とCTLA-4アンタゴニストによる処置を組み合わせると、決定的な結果は得られなかった(データ示さず)。しかし、HSC移入とPD-1またはVISTA拮抗作用の併用療法で得られた結果は、他の免疫チェックポイントアンタゴニストが、HSC移入と組み合わされた場合に、相乗効果をもたらし得ることを示している。免疫チェックポイント(単数または複数)に拮抗する複数の薬剤による処置を、HSC移入と組み合わせると、相乗効果をもたらし得る。いくつかの態様において、1つ以上の免疫チェックポイント分子、例えばPD-1、PD-L1、CTLA-4、および/またはVISTA、に拮抗する1つ以上の薬剤を、HSCT療法との併用療法で投与する。いくつかの態様において、相乗効果は、1つ以上の免疫チェックポイント分子、例えばPD-1、PD-L1、CTLA-4および/またはVISTA、に拮抗する1つ以上の薬剤を、HSC移入および/またはHSC動員処置と組み合わせて投与することにより生じ得る。
【0123】
例3.HSC移入と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の相乗効果は、放射線療法によってさらに増強される。
免疫応答性C57BL/6マウスに頭蓋内腫瘍を与え、次いで7つの群に分けた:群1:腫瘍のみ;群2:系統陰性造血幹細胞(HSC);群3:抗PD1抗体(αPD1);群4:HSC+αPD1;群5:500radの全身照射+HSC;群6:500radの全身照射+αPD1;および群7:500radの全身照射+HSC+αPD1。全身照射については、500radの単回用量のX線照射を腫瘍移植の4日後に投与した。静脈内HSC投与については、滅菌生理食塩水中の10細胞の単回用量を100μlの最終容量で、腫瘍移植の5日後に投与した。腹腔内αPD1については、10mg/kgを5日ごとに合計4用量投与し、開始用量は腫瘍移植の5日後であった。
【0124】
図5は、実験結果を示す:生存中央値は、腫瘍のみの対照群における45日から、HSC+αPD1を受けた動物における52日まで、有意に延長された(p=0.0104)。生存中央値はまた、500radの全身照射+HSC+αPD1を受けた群において、腫瘍のみの対照と比較して、有意に延長された(p=0.0028)。重要なことに、HSC+αPD1を受けた群は、αPD1のみの群と比較して、生存中央値において有意な利益を示した(p=0.0237)。照射を付加することにより、照射+HSC+αPD1を受けた腫瘍保有マウス(86日)は、照射+αPD1を受けた群(45日)より、生存中央値が有意に延長した(p=0.0018)。HSC+αPD1群と照射+HSC+αPD1群との間の生存に、統計学的有意差はなかった(p=0.04393)。
【0125】
例4.HSC処置と、抗VISTA抗体を用いた免疫チェックポイント遮断との併用は、抗VISTA抵抗性腫瘍を有するマウスの生存の増加をもたらす。
免疫応答性C57BL/6マウスに頭蓋内腫瘍を与え、次いで4つの群に分けた:群1:腫瘍のみ;群2:系統陰性造血幹細胞(HSC);群3:T細胞活性化のVドメインIgサプレッサーに対する抗体(VISTA)(αVISTA);および群4:HSC+αVISTA。静脈内HSC投与については、滅菌生理食塩水中の10細胞の単回用量を100μlの最終容量で、腫瘍移植の5日後に投与した。腹腔内αVISTAについては、300ugの用量を3日ごとに、合計4用量投与した。
【0126】
図6は、実験結果を示す:生存中央値は、腫瘍のみの対照群の43日から、HSC+αVISTAを受けた動物での46日間に、有意に延長された(p=0.0332)。これらの結果は、他の免疫チェックポイント阻害剤を、HSC療法と組み合わせて、対象において標的化することができ、疾患、例えばがんおよび/または感染症を処置し、生存を増加させ得ることを示す。
【0127】
例5:CCR2陽性(CCR2posまたはCCR2+)HSCは、αPD1処置と組み合わせたHSC療法の効果を増強する。
免疫応答性C57BL/6マウスに頭蓋内神経膠腫を与え、8つの群に分けた:群1:腫瘍のみ;群2:系統陰性造血幹細胞(HSC);群3:CCR2を発現しないHSC(CCR2neg HSC);群4:CCR2を発現するHSC(CCR2pos HSC);群5:αPD1;群6:αPD1+HSC;群7:αPD1+CCR2neg HSC;および群8:αPD1+CCR2pos HSC。HSC上の、系統コミットメントマーカーの陰性発現選択(系統陰性(Lin-))および、CCR2の陽性選択(CCR2pos)は、単独で、およびαPD1処置と組み合わせて、実施した。CCR2+HSC選択のために、骨髄由来細胞を、磁気系統欠損キット(Miltenyi Biotec)を用いて最初に単離した。得られたHSCを次に、ビオチン化抗CCR2抗体(Miltenyi Biotec)を用いて染色した。次いで、磁気ビーズにコンジュゲートした抗ビオチン抗体を添加し、次いで細胞懸濁液を磁気カラムに通した。得られた細胞画分は、CCR2neg HSCおよびCCR2pos HSCであった。
【0128】
結果を図7に示す:αPD1+CCR2pos HSCを受けた群の生存中央値は、HSC+αPD1を受けた群より有意に増加した(p=0.0323)。これは予期せぬ発見であり、これまで、CCR2pos HSCが免疫を増強することは記述されていなかった。CCR2+HSCのこの特殊なサブセットの使用は、免疫チェックポイント遮断と組み合わせるとより有益であり得る。
【0129】
例6.PD-1遮断と組み合わせたHSC移入は、リンパ球機能を増強し、腫瘍微小環境におけるT細胞活性化を維持する-IFNγ産生が腫瘍微小環境において維持される。
免疫応答性マウスに頭蓋内腫瘍を与え、4つの群に分けた:群1:腫瘍のみ;群2:腫瘍+HSC;群3:腫瘍+αPD-1;群4:腫瘍+HSC+αPD-1。腫瘍保有宿主として用いられるマウスは、インターフェロンγ(IFNγ)を分泌するときに黄色蛍光タンパク質(YFP)を発現する。静脈内HSC投与については、滅菌生理食塩水中の105細胞の単回用量を100μlの最終容量で、腫瘍移植の5日後に投与した。腹腔内αPD1については、10mg/kg用量を5日ごとに合計4用量投与し、開始用量は腫瘍移植の5日後であった。
【0130】
結果を図8Aおよび8Bに示す:未処置マウスおよびHSC、抗PD1、またはHSCと抗PD1両方のいずれかで処置したマウスにおける腫瘍微小環境内の、YFP/IFNγ+CD3+リンパ球のフローサイトメトリー分析(図8A)による定量化(図8B)。結果は、併用療法で処置した群におけるCD3+T細胞によるIFNγ分泌が、有意に増加することを示す(p値=0.001)。これは、HSC+抗PD1処置が、抗腫瘍反応性を有する腫瘍浸潤リンパ球の頻度の増加をもたらすことを実証する。
【0131】
例7.HSCは、PD-1遮断と共に腫瘍微小環境におけるリンパ球機能を増強する。
免疫応答性C57BL/6マウスに頭蓋内腫瘍を与え、4つの群に分けた:群1:腫瘍のみ;群2:腫瘍+HSC;群3:腫瘍+αPD-1;および群4:腫瘍+HSC+αPD-1。静脈内HSC投与については、滅菌生理食塩水中の105細胞の単回用量を100μlの最終容量で、腫瘍移植の14日後に投与した。腹腔内αPD1については、10mg/kg用量を5日ごとに合計4用量投与し、開始用量は腫瘍移植の14日後であった。腫瘍移植の35日後、腫瘍を採取し、RNAを市販のキット(Qiagen)を用いて単離した。試料からのRNAを、T細胞およびB細胞活性化RT2 PCRアレイ(SA Biosciences)を用いて、製造者の指示に従って分析した。
【0132】
HSCのみ、抗PD1のみ、またはHSC+抗PD1の両方で処置したマウスからの腫瘍の遺伝的分析を行った。結果を図9に示す:遺伝子発現ヒートマップの拡大部分は、T細胞活性化/炎症経路に関与する多数の遺伝子、例えばFas1、IFNγおよびTNFが、群4(腫瘍+HSC+αPD-1処置)において、高度に上方制御されることを示す。結果は、組み合わせのHSC+抗PD1処置が、IFNγを含む活性化細胞傷害性T細胞に関連するマーカーを増加させることを実証する。我々はまた、T細胞遊走(migration)の既知のメディエーターであるケモカインの上方制御も見出した。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8A-1】
図8A-2】
図8B
図9