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特許7062299信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/54 20060101AFI20220425BHJP
   G08G 3/00 20060101ALI20220425BHJP
   H01Q 1/28 20060101ALI20220425BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
G01S3/54
G08G3/00 A
H01Q1/28
H01Q21/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019172199
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021050929
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】平原 大地
(72)【発明者】
【氏名】市毛 弘一
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007212(JP,A)
【文献】特開2019-158671(JP,A)
【文献】特開2017-090229(JP,A)
【文献】特開2016-127441(JP,A)
【文献】特開2018-048978(JP,A)
【文献】中国実用新案第203039696(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00 - 3/74
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
G08G 1/00 - 99/00
H01Q 3/00 - 3/46
H01Q 21/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の船舶によりそれぞれ送信され、1の人工衛星に搭載された複数のアンテナ素子、または衛星群における複数の人工衛星のそれぞれに搭載された複数のアンテナ素子を含むスパースアレイアンテナによって受信された複数の信号を検出する検出部と、
前記人工衛星の位置情報と、前記複数の船舶の分布情報とに基づいて、前記検出部によって検出された前記信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことにより、前記スパースアレイアンテナにおけるアンテナアレイ数、実行開口長、及びアレイ自由度のうち少なくとも1つを拡張させる拡張部と、
前記検出部によって検出された前記信号及び前記拡張部によって拡張された前記スパースアレイアンテナにおける仮想アンテナ素子によって受信されることが想定される想定信号を用いて、信号検知方向を決定する決定部と、
を備える、
信号処理装置。
【請求項2】
前記拡張部は、信号密集領域から送信される信号を受信可能な位置に向けて、前記スパースアレイアンテナを拡張する、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記拡張部は、前記検出部によって検出された前記信号に対して効果的なアンテナアレイ方向にのみカトリ・ラオ積拡張を行い、全体の計算負荷を軽減させるように前記スパースアレイアンテナにおけるアンテナアレイ数、実行開口長、及びアレイ自由度のうち少なくとも1つを拡張する、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記スパースアレイアンテナのグレーティングローブの発生方向が、前記船舶により送信される信号が非干渉となる方向となるように、前記スパースアレイアンテナの信号検知方向を決定する、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記決定部は、前記スパースアレイアンテナの信号検知方向を、信号密集領域を含むアンテナ視野角内に決定する、
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の信号処理装置と、
1の人工衛星に搭載された複数のアンテナ素子、または衛星群における複数の人工衛星のそれぞれに搭載された複数のアンテナ素子を含み、複数の船舶によりそれぞれ送信された信号を受信するスパースアレイアンテナと、を備える、
信号処理システム。
【請求項7】
信号処理装置のコンピュータが、
複数の船舶によりそれぞれ送信され、1の人工衛星に搭載された複数のアンテナ素子、または衛星群における複数の人工衛星のそれぞれに搭載された複数のアンテナ素子を含むスパースアレイアンテナによって受信された複数の信号を検出し、
前記人工衛星の位置情報と、前記複数の船舶の分布情報とに基づいて、検出された前記信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことにより、前記スパースアレイアンテナにおけるアンテナアレイ数、実行開口長、及びアレイ自由度のうち少なくとも1つを拡張させ、
検出された前記信号及び拡張された前記スパースアレイアンテナにおける仮想アンテナ素子によって受信されることが想定される想定信号を用いて、信号検知方向を決定する、
信号処理方法。
【請求項8】
信号処理装置のコンピュータに、
複数の船舶によりそれぞれ送信され、1の人工衛星に搭載された複数のアンテナ素子、または衛星群における複数の人工衛星のそれぞれに搭載された複数のアンテナ素子を含むスパースアレイアンテナによって受信された複数の信号を検出させ、
前記人工衛星の位置情報と、前記複数の船舶の分布情報とに基づいて、検出された前記信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行わせることにより、前記スパースアレイアンテナにおけるアンテナアレイ数、実行開口長、及びアレイ自由度のうち少なくとも1つを拡張させる処理を実行させ、
検出された前記信号及び拡張された前記スパースアレイアンテナにおける仮想アンテナ素子によって受信されることが想定される想定信号を用いて、信号検知方向を決定させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋における船舶の位置情報等の収集を行うシステムとして、自動船舶識別システム(Automatic Identification System、以下「AIS」という)がある。AISに用いる装置として、例えば、船舶等により送信されるAIS信号を受信して収集するAIS受信機がある(例えば、特許文献1参照)。従来のAISにおけるアンテナは、例えば、沿岸における陸上局に設置され、そのカバーエリアはおおよそ20~30海里(37~55km)程度と、広いとは言い難かった。これに対して、人工衛星にアンテナが設けられたAIS受信機がある(例えば、非特許文献1参照)。このAIS受信機では、海洋における船舶から送信されるAIS信号を人工衛星に設けられたAISアンテナで受信するので、直径約5000kmという広範囲での受信が可能である。
【0003】
人工衛星にアンテナが設けられたAIS受信機では、広範囲にわたる領域から送信されるAIS信号を受信するため、船舶が過密した領域では、AIS信号が混信してしまい、受信したAIS信号を抽出できないことがあった。そこで、例えばアンテナの指向性を高めることにより、衝突する信号の数を減らす技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-197779号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“衛星搭載船舶自動識別システム(AIS)実験「SPAISE」”,[online],[2019年8月29日検索],インターネット<URL:http://www.satnavi.jaxa.jp/experiment/spaise/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、人工衛星にアンテナが設けられたAIS受信機のようにアンテナ数Nに対し信号数Mが同等近い場合やそれ以上の場合は原理的に性能が劣化し原理的にも分離効果に限界があり、信号の検出ができなくなる場合が生じる。特に、人工衛星に搭載されるアンテナがVHFアンテナである場合、サイズも大きくなることから、搭載に制約が多くある人工衛星では、多数のアンテナを搭載するのが困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、多数のAIS信号を検出することができる信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、複数の船舶によりそれぞれ送信され、1の人工衛星に搭載された複数のアンテナ素子、または衛星群における複数の人工衛星のそれぞれに搭載された複数のアンテナ素子を含むスパースアレイアンテナによって受信された複数の信号を検出する検出部と、前記人工衛星の位置情報と、前記複数の船舶の分布情報とに基づいて、前記検出部によって検出された前記信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことにより、前記スパースアレイアンテナにおけるアンテナアレイ数、実行開口長、及びアレイ自由度のうち少なくとも1つを拡張させる拡張部と、前記検出部によって検出された前記信号及び前記拡張部によって拡張された前記スパースアレイアンテナにおける仮想アンテナ素子によって受信されることが想定される想定信号を用いて、信号検知方向を決定する決定部と、を備える、信号処理装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、多数のAIS信号を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る信号処理システムの構成の一例を示す図である。
図2】受信設備10の構成の一例を示す図である。
図3】第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27の配置の一例を示す図である。
図4】信号処理装置30の処理の一例を示すフローチャートである。
図5】スパースアレイアンテナのアンテナ素子及び仮想アンテナ素子の配置の一例を示す図である。
図6】スパースアレイアンテナのアンテナ素子及び仮想アンテナ素子の配置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のいくつかの実施形態の信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラムを、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る信号処理システムの構成の一例を示す図である。図1に示すように、信号処理システム1は、人工衛星2に搭載される受信設備10を有する。信号処理システム1は、例えば、複数の船舶3が所定の観測海域4を航行する際に、複数の船舶3がそれぞれ送信するAIS信号を受信する。
【0013】
図2は、受信設備10の構成の一例を示す図である。受信設備10は、例えば、スパースアレイアンテナ20と、信号処理装置30と、を備える。受信設備10は、複数の船舶3により送信されるAIS信号を、スパースアレイアンテナ20によって受信する。例えば、信号処理装置30は、スパースアレイアンテナ20により複数のAIS信号を受信する。信号処理装置30は、スパースアレイアンテナ20の信号検知方向を調整することにより、複数の船舶3のそれぞれにより送信されるAIS信号を受信する。
【0014】
図2に示すように、受信設備10におけるスパースアレイアンテナ20は、複数本、実施形態では7本のアンテナ素子である第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27を備える。第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27は、1の人工衛星2における適宜の位置に不均一に配置される。第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27が取り付けられる人工衛星2における部位は、どのような部位でもよく、例えば、太陽電池パドルでもよいしその他の衛星構造物でもよい。また、スパースアレイアンテナ20におけるアンテナ素子は、1の人工衛星のみならず、衛星群における複数の人工衛星のそれぞれに搭載されていてもよい。複数の人工衛星においては、アンテナ素子が1本設けられていてもよいし、複数本設けられていてもよい。
【0015】
図3は、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27の配置の一例を示す図である。図3に示すように、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27は、例えば、1方向から見て3列に配置され、第1列L1に第1アンテナ素子21~第4アンテナ素子24が不均等に配置され、第2列L2には第5アンテナ素子25が配置され、第3列L3には第6アンテナ素子26及び第7アンテナ素子27が配置される。スパースアレイアンテナ20における第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27の配置は、あくまでの一例であり、その他の配置でもよい。また、スパースアレイアンテナ20におけるアンテナ素子の数は、7本未満でもよいし、8本以上でもよい。第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27は、同一平面上に配置されてもよいし、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27の一部が形成する平面以外の面に、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27の他の一部が配置されてもよい。
【0016】
信号処理装置30は、例えば、取得部31と、検出部32と、拡張部33と、決定部34と、抽出部35と、記憶部36と、を備える。取得部31は、地上におけるダウンリンク局等により提供される衛星軌道情報、過去の実績や解析に基づく船舶分布等の情報等を取得する。船舶分布等の情報には、衛星軌道上でAIS信号とともに受信されるノイズ干渉の強度や頻度、船舶等の位置情報が含まれる。取得部31は、取得した衛星軌道情報及び船舶分布情報を記憶部36に格納する。
【0017】
検出部32は、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27に対応する7個の第1AISサンプリング回路41~第7AISサンプリング回路47を備える。第1AISサンプリング回路41~第7AISサンプリング回路47は、例えば、低雑音増幅器(LNA)、ダウンサイズコンバータ(D-C)及びAD変換器(A-D)を備える。第1AISサンプリング回路41~第7AISサンプリング回路47は、それぞれ独立して第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27で受信されたAIS信号をサンプリングする。こうして、検出部32は、AIS信号を検出する。
【0018】
拡張部33は、取得部31により取得され記憶部36に記憶された衛星軌道情報に基づいて、人工衛星2の位置情報を算出する。拡張部33は、算出した人工衛星2の位置情報と、取得部31により取得され記憶部36に記憶された船舶分布等の情報とに基づいて、要高空間分解能視野角及び非干渉視野角を求める。
【0019】
要高空間分解能視野角とは、例えば、信号を観測するターゲットエリアを視野に含むアンテナ視野角であり、高い分解能をもって信号の受信を行うことが望まれるアンテナ視野角である。信号の観測のターゲットエリアは、例えば、信号密集領域であり、信号密集領域は、例えば、船舶3の分布密度が高い領域や港湾の海岸線付近など、AIS信号が送信される可能性が高い領域である。
【0020】
非干渉視野角とは、信号過疎領域を視野に含むアンテナ視野角であり、グレーティングローブが非干渉方向となるアンテナ視野角である。信号過疎領域は、例えば、陸上領域や宇宙空間など、AIS信号が送信されない、または送信される可能性が低い遠洋等の船舶過疎領域である。非干渉方向は、例えば、遠洋や宇宙等の非地平線内の方向など、船舶3により送信されるAIS信号が、干渉しにくいまたは非干渉となる方向である。拡張部33は、検出部32によって検出されたAIS信号をカトリ・ラオ積拡張(以下、「KR拡張」とも称する)することにより、アンテナアレイ数、実行開口長、及びアレイ自由度のうち少なくとも1つを拡張させる。拡張部33は、KR拡張時には、例えば、全体の計算負荷を軽減させるために、取得部31で得られた信号に対して効果的なアンテナアレイ方向にのみカトリ・ラオ積拡張を行い、全体の計算負荷を軽減させるためにアンテナアレイ方向等の条件を設定する。
【0021】
決定部34は、拡張部33により拡張されたスパースアレイアンテナにおける仮想アンテナ素子によって受信されることが想定される想定信号を生成する。決定部34は、検出部32により検出されたAIS信号及び生成した想定信号に基づいて、スパースアレイアンテナ20の信号検知方向を決定する。
【0022】
決定部34は、例えば、スパースアレイアンテナ20のメインローブの方向を調整してスパースアレイアンテナ20の信号検知方向を決定する。そのため、決定部34は、例えば、検出部32により検出されたAIS信号及び生成した想定信号にデジタルビームフォーミング処理を施し、AIS信号及び想定信号にウエイトを与えて合成することで、デジタル上でアンテナビームを形成する。
【0023】
決定部34は、例えば、複数のAIS信号を空間ダイバーシティ処理により分離してデジタルビームフォーミングを行う。決定部34は、例えば、AIS信号及び想定信号にウエイトを与えて合成する際に、異なるウエイトの組み合わせによる並列処理によって、マルチビームを同時に形成する。決定部34は、所定条件に応じて各マルチビームを適応的に形成する。デジタルビームフォーミングは、利得やビーム幅、方向に合わせてウエイトを決めて実行する手順に限定されず、マルチアンテナによる信号分離全般を意味する。デジタルビームフォーミングとは、ヌルの方向やメインローブの利得、サイドローブの位置などが、信号分離に都合のよい状況を算出する方式の全般を含む。
【0024】
決定部34は、例えば、検出部32により検出された複数のAIS信号のうち1つの対象AIS信号を任意に定め、形成したアンテナビームに対して、対象AIS信号の検出感度を高める方向にメインローブの方向を調整して決定する。決定部34は、メインローブの方向を要高空間分解能視野角内に、グレーティングローブやサイドローブ等の不要な感度方向をなるべく非干渉視野角の範囲になるように決定し、または成立する軌道条件との整合をとる。
【0025】
抽出部35は、決定部34によりメインローブの方向の調整が完了した後に、対象AIS信号についての情報を抽出する。抽出部35は、対象AIS信号についての情報を抽出できた場合に、抽出した情報を記憶部36に格納する。抽出部35は、対象AIS信号についての情報を抽出できた場合に、対象AIS信号を送信する船舶(以下「対象船舶」という)に対する測角処理を行う。抽出部35は、測角処理により、基準方向に対する対象船舶の角度を算出する。基準方向とは、例えば、スパースアレイアンテナ20における第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27により定義される基準面に直交する方向である。
【0026】
さらに、抽出部35は、決定部34に対して、複数のAIS信号のうち他のAIS信号を対象AIS信号として、同様の処理を行わせる。対象AIS信号についての情報を抽出できなかった場合に、決定部34に対して、メインローブの方向を再度調整させる。決定部34は、抽出部35の指示に従い、他のAIS信号を対象AIS信号として、同様の処理を行ったり、メインローブの方向の再度の調整を行ったりする。
【0027】
信号処理システム1は、図1に示すように、複数の船舶3により送信されるAIS信号を受信する場合には、仮想のマルチビーム(デジタル上のマルチビーム)を形成して複数のエリア5からそれぞれAIS信号を受信する。この場合に、スパースアレイアンテナ20における第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27は、例えば、観測海域4の複数の船舶3からそれぞれ所定の単一指向性でAIS信号を独立して受信する。
【0028】
次に、信号処理装置30における処理ついて説明する。図4は、信号処理装置30の処理の一例を示すフローチャートである。信号処理装置30は、取得部31において、例えばダウンリンク局等により提供される衛星軌道情報、過去の実績や解析に基づく船舶分布等の情報を取得する(ステップS201)。取得部31は、取得した衛星軌道情報及び船舶分布等の情報を記憶部36に格納する。
【0029】
次に、検出部32は、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27により受信されたAIS信号を第1AISサンプリング回路41~第7AISサンプリング回路47においてサンプリングする(ステップS203)。検出部32は、サンプリングしたAIS信号の位相・振幅処理を行う(ステップS205)。
【0030】
続いて、拡張部33は、検出部32により検出され、位相・振幅処理が施されたサンプリング結果に基づいて、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27ごとの相関関数行列を生成する(ステップS207)。続いて、拡張部33は、記憶部36に記憶された衛星軌道情報及び船舶分布情報を読み出し、信号密集領域を抽出して要高空間分解能視野角するとともに、信号過疎領域を抽出して非干渉視野角を算出する(ステップS209)。
【0031】
続いて、拡張部33は、生成した第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27ごとの相関関数行列を用いて、カトリ・ラオ積拡張相関行列を生成し、生成したカトリ・ラオ積相関行列に空間平均処理を行うことにより、スパースアレイアンテナ20のアンテナアレイ数を仮想的に拡張させる(ステップS211)。拡張部33は、アンテナアレイ数に代えてまたは加えて、スパースアレイアンテナ20の実行開口長やアレイ自由度を仮想的に拡張させるようにしてもよい。スパースアレイアンテナ20のアンテナアレイ数、実行開口長、アレイ自由度を拡張させたりすることにより、信号処理装置30において受信できるAIS信号の数を、スパースアレイアンテナ20におけるアンテナ素子の数よりも多くすることができ、例えば、達成可能な最大自由度がアンテナ素子配置次第でアンテナ素子数Nに対して2N-1から最大(N-1)/2+Nとすることができる。
【0032】
続いて、決定部34は、複数のAIS信号により、AIS信号を送信する船舶3の数を特定し、複数のAIS信号の中から、任意のAIS信号を対象AIS信号として決定する。続いて、決定部34は、デジタルビームフォーミングを行ってアンテナビームを形成し、スパースアレイアンテナ20のメインローブの方向を、対象AIS信号を送信する船舶3の方向に調整する(ステップS213)。ここで決定される対象AIS信号は、どのように決定してもよく、例えば、電波強度が一番高いAIS信号を対象AIS信号としてもよい。メインローブの方向は、例えば、要高空間分解能視野角内であり、グレーティングローブやサイドローブ等の不要な感度方向をなるべく非干渉視野角内で決定し、または成立する軌道条件との整合をとる。
【0033】
スパースアレイアンテナ20のメインローブの方向を調整したら、抽出部35は、対象船舶に対して測角処理を行い、基準方向に対する対象船舶の角度を算出するとともに、対象AIS信号を抽出する処理を行う(ステップS215)。続いて、抽出部35は、算出した基準方向に対する対象船舶の角度及び抽出した対象AISを記憶部36に格納する(ステップS217)。
【0034】
続いて、決定部34は、基準方向に対する対象船舶の角度を算出するとともに、対象AIS信号を抽出する処理を行っていない船舶が残っているか否かを判定する(ステップS219)。基準方向に対する対象船舶の角度を算出するとともに、対象AIS信号を抽出する処理を行っていない船舶が残っていると判定した場合、決定部34は、対象AIS信号を抽出する処理を行っていない船舶が送信するAIS信号の中から、任意の対象AIS信号を決定し、決定部34及び抽出部35は、ステップS213からステップS217の処理を繰り返す。
【0035】
決定部34が、AIS信号を送信する船舶を全て対象船舶として対象AIS信号を抽出する処理を行い、ステップS219において、対象AIS信号を抽出する処理を行っていない船舶が残っていないと判定した場合に、信号処理装置30は、図4に示す処理を終了する。
【0036】
実施形態の信号処理システム1における受信設備10は、船舶3により送信されるAIS信号を、人工衛星2に設けられたスパースアレイアンテナ20によって受信する。スパースアレイアンテナ20では、アンテナ素子が不均一に配置されるので、AIS信号を受信するアンテナとしての開口長を拡大することができる。
【0037】
また、実施形態の信号処理システム1における信号処理装置30は、スパースアレイアンテナ20で受信したAIS信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行って仮想アンテナ素子を形成する。信号処理装置30は、スパースアレイアンテナ20により受信したAIS信号のほか、仮想アンテナ素子で受信することが想定される想定信号を用いて、スパースアレイアンテナ20の信号検知方向を決定し、AIS信号を受信している。このため、スパースアレイアンテナ20に設けられたアンテナ素子の数以上のAIS信号、例えば、最大でアンテナ素子の数の二乗に近い数のAIS信号を受信することができる。したがって、多数のAIS信号を検出することができる。
【0038】
スパースアレイアンテナ20のアンテナアレイ数の拡張による仮想アンテナ素子の配置の一例について説明する。例えば、図3に示すスパースアレイアンテナ20において、図5に示すように、第1アンテナ素子21~第4アンテナ素子24の両外側に並べて複数の仮想アンテナ素子VAが配置されてよい。あるいは、図6に示すように、第1アンテナ素子21~第4アンテナ素子24が配置される列と第5アンテナ素子25が配置される列と、第6アンテナ素子26及び第7アンテナ素子27が設けられる列の3列のそれぞれに並べて仮想アンテナ素子VAを配置するとともに、これらの3列を外れた列に仮想アンテナ素子VAが配置されてもよい。
【0039】
このように、仮想アンテナ素子VAを配置するに際して、例えば、決定部34は、信号密集領域から送信される信号を受信可能な位置を、仮想アンテナ素子VAの位置が配置されるようにしてもよい。決定部34は、たとえば、仮想アンテナ素子VAを配置する前のスパースアレイアンテナ20において信号を受信できる領域よりも外側に信号密集領域が存在する場合に、図5に示すように、第1アンテナ素子21~第4アンテナ素子24の両外側に並べて複数の仮想アンテナ素子VAが配置されてもよい。また、仮想アンテナ素子VAを配置する前のスパースアレイアンテナ20によって受信可能な領域が、第1アンテナ素子21~第7アンテナ素子27同士の間にある場合に、その間を埋めるように仮想アンテナ素子VAが配置されてもよい。
【0040】
また、実施形態の信号処理システム1では、受信するAIS信号の多寡に応じてスパースアレイアンテナの信号検知方向が決定される。例えば、スパースアレイアンテナ20のグレーティングローブの発生方向が、船舶3により送信されるAIS信号が非干渉となる方向となるようにスパースアレイアンテナ20の信号検知方向が決定される。このため、不必要な拡張処理を抑制できるので、KR積拡張アレイ処理の計算負荷を効率的に削減することができる。さらに、計算負荷が削減されることにより、衛星搭載処理の実現性を高めることができるとともにレイテンシーを向上させることができる。
【0041】
さらに、実施形態の信号処理システム1では、スパースアレイアンテナ20の信号検知方向を、信号密集領域を含み、高空間分解能で信号を検出することが望まれる要高空間分解能視野角内でのみ密に設定し繰り返して処理する。このため、KR積拡張アレイ処理の計算負荷を効率的に削減することができる。
【0042】
なお、上記の実施形態では、信号処理装置30を受信設備10に設けて、人工衛星2に搭載するようにしているが、信号処理装置30は、人工衛星2以外、例えば、陸上局部設けられてもよい。この場合、スパースアレイアンテナ20は人工衛星2に搭載され、人工衛星2に搭載されたスパースアレイアンテナ20により受信した信号を、そのままダウンリンク局を介して信号処理装置30に送信すればよい。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、アレイアンテナを有する衛星または少なくともひとつのアンテナを有する衛星群による電波情報収集やレーダ等に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…信号処理システム
2…人工衛星
3…船舶
20…スパースアレイアンテナ
21~27…第1アンテナ~第7アンテナ
30…信号処理装置
31…取得部
32…検出部
33…拡張部
34…決定部
35…抽出部
36…記憶部
41~47…第1AISサンプリング回路~第7AISサンプリング回路
VA…仮想アンテナ素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6