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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20220425BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20220425BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220425BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220425BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20220425BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220425BHJP
   H01L 35/34 20060101ALN20220425BHJP
   H01L 35/22 20060101ALN20220425BHJP
   H01L 35/26 20060101ALN20220425BHJP
   H01L 51/00 20060101ALN20220425BHJP
   H01L 51/30 20060101ALN20220425BHJP
【FI】
C01B32/174
C01B32/168
C08L101/00
C08K3/04
C08K7/06
B82Y40/00
H01L35/34
H01L35/22
H01L35/26
H01L29/28 100Z
H01L29/28 250E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020113101
(22)【出願日】2020-06-30
(62)【分割の表示】P 2016024396の分割
【原出願日】2016-02-12
(65)【公開番号】P2020176052
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2015027011
(32)【優先日】2015-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515040117
【氏名又は名称】株式会社Nextコロイド分散凝集技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100169753
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】来住野 敦
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/174
C01B 32/15
C08K 3/04
B01J 13/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高分子型界面活性剤とHLBが6~18である親水性界面活性剤とを含む第1界面活性剤を第1水相中に50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで乳化分散させ、第1エマルションを調製する工程と、
(b)前記第1エマルションと、高分子型界面活性剤とHLBが1~5である疎水性界面活性剤とを含む第2界面活性剤とを第1油相中に50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで乳化分散させ、第2エマルションを調製する工程と、
(c)樹脂を溶解した有機溶媒にカーボンナノチューブを50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで混合した混合液を調製する工程と、
(d)前記第2エマルションと前記混合液との混合液を50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで乳化分散させる工程と、
を含むカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項2】
前記親水性界面活性剤は、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンであり、前記疎水性界面活性剤は、グリセリン脂肪酸エステルである、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項3】
前記直線状配管の内径が0.09~0.4mm、長さが0.1~500mmであり、前記らせん状配管の内径が0.2~0.4mm、長さが10~500mm、らせん直径が5~10mmである、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素原子の6員環が平面的に連続して形成されたグラフェンを円管状に丸めた構造をしており、一層の円管からなるものを単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube, SWCNT)と称し、多層の円管からなるものを多層カーボンナノチューブ(Multi-Walled Carbon Nanotube, MWCNT)と称している。
【0003】
カーボンナノチューブは、その特殊な幾何学的構造によってさまざまな特性を示すため、多くの技術分野で各種デバイスや機能的材料等への応用が研究されている。そのうちの1つに、熱電変換素子への適用が検討されている。例えば特許文献1には、カーボンナノチューブと分散媒とを高速旋回薄膜分散法に供して、ナノ導電性材料を含有する熱電変換層用分散物を調製する工程と、調製した熱電変換層用分散物を基材上に塗布し、乾燥する工程とを有する熱電変換素子の製造方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、金属型と半導体型の総和に対し半導体型を70%以上の純度で含有するカーボンナノチューブ混合物を含有してなる熱電変換材料からなる熱電変換部材を具備する熱電変換素子又は熱電変換部材と、熱電変換材料とは熱電変換能の異なる第二の熱電変換材料からなる第二の熱電変換部材とを電気的に接触させて形成された熱電変換素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-209573号公報
【文献】特開2014-239092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボンナノチューブを含有する熱電変換素子を製造するためには、カーボンナノチューブを分散させた熱電変換部材を用いる必要があるが、カーボンナノチューブそれ自体は水や有機溶媒には溶解せず、これらを単に混合攪拌するだけではカーボンナノチューブはバンドルと呼ばれる凝集体として存在し、混合液中に均一に分散することはない。
【0007】
そのため、カーボンナノチューブの表面を化学修飾せずに分散させる方法として、特許文献1や特許文献2にも記載されているようにカーボンナノチューブを混合した液にさまざまな界面活性剤や共役化合物等を添加し、分散装置(混合装置)や超音波等による分散処理を行うことによってカーボンナノチューブを溶液中に分散させる方法が一般に知られている。
【0008】
しかしこのような方法によってカーボンナノチューブは分散しても、カーボンナノチューブの配向性は一定ではなく、それぞれが不特定の方向に向いて分散する。そのような分散液を用いて熱電変換部材を製造した場合、発電効率の高い熱電変換素子製造のために望ましいカーボンナノチューブの高い導電ネットワークが得られにくいという問題がある。
【0009】
本発明は、カーボンナノチューブを配向性を有して分散させたカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、以下の態様を含む。
(1)(a)高分子型界面活性剤とHLBが6~18である親水性界面活性剤とを含む第1界面活性剤を第1水相中に50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで乳化分散させ、第1エマルションを調製する工程と、
(b)前記第1エマルションと、高分子型界面活性剤とHLBが1~5である疎水性界面活性剤とを含む第2界面活性剤とを第1油相中に50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで乳化分散させ、第2エマルションを調製する工程と、
(c)樹脂を溶解した有機溶媒にカーボンナノチューブを50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで混合した混合液を調製する工程と、
(d)前記第2エマルションと前記混合液との混合液を50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管とを通過させる高圧せん断型乳化分散処理を施すことで乳化分散させる工程と、
を含むカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(2)前記親水性界面活性剤は、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンであり、前記疎水性界面活性剤は、グリセリン脂肪酸エステルである、前記(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(3)前記直線状配管の内径が0.09~0.4mm、長さが0.1~500mmであり、前記らせん状配管の内径が0.2~0.4mm、長さが10~500mm、らせん直径が5~10mmである、前記(1)または(2)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンナノチューブを配向性を有して分散させたカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る高圧せん断型乳化分散装置の概略構成図である。
図2】(a)は実施例のCNT分散樹脂膜のCNTネットワークを示す顕微鏡写真、(b)はCNTがその配向性を有したまま分散していない分散液から得たCNT分散樹脂膜の顕微鏡写真である。
図3】(a)はCNTの種類、第1細管の内径と、得られたCNT分散樹脂膜の体積抵抗値との関係を示すグラフ、(b)はCNTの種類、第2細管の内径と、得られたCNT分散樹脂膜の体積抵抗値との関係を示すグラフである。
図4】(a)は性能の高いCNT分散樹脂膜を作製したCNT分散液の電子顕微鏡写真、(b)は性能の低いCNT分散樹脂膜を作製したCNT分散液の電子顕微鏡写真である。
図5】CNT分散樹脂膜のコート回数と、得られた積層CNT含有熱電変換素子の起電力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
本発明に係るカーボンナノチューブ分散液を製造する方法、カーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ含有熱電変換素子、及びカーボンナノチューブ含有熱電変換素子製造方法の実施の形態1(実施形態1)について以下に説明する。
【0014】
(カーボンナノチューブ)
本実施形態1で用いるカーボンナノチューブ(以下「CNT」ともいう。)は単層CNTが好ましく、さらに半導体型単層CNTをできるだけ多く含む単層CNTを用いることが好ましい。カーボンナノチューブは、炭素の6員環の基本ベクトル(a1およびa2)で表されるカイラルベクトル(Ch = na1 + ma2)によってその構造を表すことができ、(n、m)をカイラル指数という。このカイラル指数の(n-m)が3の倍数でないものが半導体型CNTである。
【0015】
生成されるCNTの型が特定されない製造方法でCNTを製造すると、半導体型と金属型のものがそれぞれ2対1の割合で混じったCNTが生成される。本実施形態1で用いるCNTとして、半導体型CNTと金属型CNTの混合物から半導体型CNTを濃縮したものを用いてもよいし、半導体型CNTを主に生成させる製造方法(化学気相堆積法等)によって製造したCNTを用いてもよい。
【0016】
(CNT分散液の製造)
本実施形態1に係るCNT分散液を製造する方法について説明する。まず、CNTを分散させるための分散媒を調製する方法を説明する。本実施形態1に係る分散媒は、界面活性剤のミセルの周囲にさらに界面活性剤を配向させてミセル化した多層エマルションである。
【0017】
(分散媒の調製)
具体的には、次のような工程でカーボンナノチューブ分散媒としての多層エマルションを調製する。
(工程1)第1界面活性剤を第1水相中に混合し、乳化することにより第1エマルションを調製する。
(工程2)第1エマルションに第1油相と第2界面活性剤とを混合し、乳化することにより第2エマルションを調製する。
【0018】
なお、上記各工程において、それぞれの成分を添加する順序は特に限定されない。例えば、工程2においては、第1エマルションに、第1油相および第2界面活性剤を順次加えて乳化してもよく、また、第1油相および第2界面活性剤をあらかじめ混合したものを第1エマルションに加えて乳化してもよい。
【0019】
また、上記の第2エマルションにさらに第2水相と第3界面活性剤とを混合し、乳化することにより第3エマルションを調製して、これをカーボンナノチューブ分散媒として用いてもよい。第3界面活性剤として第1界面活性剤に含まれる親水性界面活性剤(後述)と同種の界面活性剤を用いることができる。また第2水相として上位第1水相と同種のものを用いることができる。
【0020】
第1エマルションは、第1界面活性剤が外側に親水部を向けて配向集合した第1ミセルが第1水相中に分散しているものである(O/Wエマルション)。第2エマルションは、複数の第1ミセルを含む微小第1水相液滴に第2界面活性剤が外側に疎水部を向けて配向した第2ミセルが第1油相中に分散しているものである(O/W/Oエマルション)。
【0021】
工程1で用いる第1界面活性剤は、高分子型界面活性剤と親水性界面活性剤とを含むことが好ましい。このような組み合わせを用いることにより、微細かつ均一な第1エマルションを得ることができる。なお第1界面活性剤の混合量は、臨界ミセル濃度以上となる量であればよい。また、高分子型界面活性剤と親水性界面活性剤との混合割合は重量比で30:70~98:2であり、好ましくは40:60~95:5であり、更に好ましくは60:40~90:10である。
【0022】
第1界面活性剤に含まれる親水性界面活性剤としては、HLB値(Hydrophile-Lipophile Balance)が5~18、特に6~12の界面活性剤が好ましい。具体的には、テトライソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビット、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリオキシエチレンオレイン酸グリセリル、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(16.7)、イソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリグリセリンイソステアリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどがあげられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なおHLB値を求めるためのいくつかの計算手法があるが、いずれかの計算手法で上記の値となればよい。
【0023】
また第1界面活性剤に含まれる高分子型界面活性剤としては、スルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(例えばナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物等)、ポリカルボン酸ナトリウム、スチレン-マレイン酸ハーフエステルコポリマーアンモニウム塩、スチレン-マレイン酸コポリマーアンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のイオン性高分子型界面活性剤が挙げられる。
【0024】
工程2で用いる第2界面活性剤は、高分子型界面活性剤と疎水性界面活性剤とを含むことが好ましい。このような組み合わせを用いることにより、微細かつ均一な第2エマルションを得ることができる。なお第2界面活性剤の混合量は、臨界ミセル濃度以上となる量であればよい。また、高分子型界面活性剤と疎水性界面活性剤との混合割合は重量比で30:70~98:2であり、好ましくは40:60~95:5であり、更に好ましくは60:40~90:10である。
【0025】
第2界面活性剤に含まれる疎水性界面活性剤としては、HLB値が10以下であるものが好ましく、7以下であるものがより好ましく、1~5であるものが特に好ましい。具体的には、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、およびレシチン類等を挙げることができる。
【0026】
グリセリン脂肪酸エステル類としては具体的に、モノグリセリンモノカプリル酸エステル、モノグリセリンモノカプリン酸エステル、モノグリセリンジカプリル酸エステル、モノグリセリンジカプリン酸エステル、モノグリセリンジラウリン酸エステル、モノグリセリンジミリスチン酸エステル、モノグリセリンジステアリン酸エステル、モノグリセリンジオレイン酸エステル、モノグリセリンジエルカ酸エステル、モノグリセリンジベヘニン酸エステル等のモノグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリンカプリル酸コハク酸エステル、モノグリセリンステアリン酸クエン酸エステル、モノグリセリンステアリン酸酢酸エステル、モノグリセリンステアリン酸コハク酸エステル、モノグリセリンステアリン酸乳酸エステル、モノグリセリンステアリン酸ジアセチル酒石酸エステル、モノグリセリンオレイン酸クエン酸エステル等のモノグリセリン脂肪酸有機酸エステル等の脂肪酸の部分グリセリド;ヘキサグリセリンモノカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンジカプリル酸エステル、デカグリセリンモノカプリル酸エステル、トリグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、ペンタグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、トリグリセリンモノミリスチン酸エステル、ペンタグリセリンモノミリスチン酸エステル、ペンタグリセリントリミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、ジグリセリンモノオレイン酸エステル、トリグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、ペンタグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、ジグリセリンモノステアリン酸エステル、トリグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル、ペンタグリセリンモノステアリン酸エステル、ペンタグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンジステアリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンジステアリン酸エステル、デカグリセリントリステアリン酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル;テトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ペンタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等を挙げることができる。
【0027】
ショ糖脂肪酸エステル類としては、ショ糖の水酸基の1つ以上に、炭素数が各々6~18、好ましくは6~12の脂肪酸をエステル化したものがあげられ、具体的には、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0028】
ソルビタン脂肪酸エステル類としては、ソルビタン類の水酸基の1つ以上に、炭素数が各々6~18、好ましくは6~12の脂肪酸をエステル化したものがあげられ、具体的には、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ソルビタンモノオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0029】
レシチン類としては具体的に、卵黄レシチン、大豆レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジセチルリン酸、ステアリルアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールアミン、カルジオリピン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、リゾレシチン、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0030】
第2界面活性剤に含まれる高分子型界面活性剤としては、スルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(例えばナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物等)、ポリカルボン酸ナトリウム、スチレン-マレイン酸ハーフエステルコポリマーアンモニウム塩、スチレン-マレイン酸コポリマーアンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のイオン性高分子型界面活性剤が挙げられる。
【0031】
工程2で用いる第1油相としての有機溶媒は、他の油相成分を溶解することができ、かつ水と混和しない揮発性の有機溶媒であれば特に限定されない。具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、1.2-ジクロロエタン、トルエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
工程2において、油相に対する水相の仕込み割合、すなわち第1油相(第2界面活性剤を含む)に対する上記第1エマルションの仕込み割合は特に限定されないが、水相/油相の質量比が0.01/99.99~50/50であることが好ましく、0.1/99.9~30/70であることがより好ましく、1/99~20/80であることが特に好ましい。
【0033】
また工程1で用いる第1水相として、水道水、浄水、蒸留水、イオン交換水などを用いることができる。また、親水性有機溶媒や添加剤を少量添加してもよい。親水性有機溶媒としては、水相に容易に溶解するものであれば特に限定されず、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、グリセリン等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類などを挙げることができる。添加剤としては、pH調整剤、消泡剤、磁性粉、フィラー、フロック形成剤、硬化剤、レベリング剤、流動性促進剤、流動性制御剤、可塑剤、安定化剤、気体発生防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、増粘剤などが挙げられる。
【0034】
ここで各ミセルはできるだけ直径(粒径)が小さく、かつ粒径が狭い範囲に分布している、つまりできるだけ粒径が揃っていることが好ましい。粒径が広い範囲に分布している、つまり粒径が揃っていない場合、単層CNTを配向性を有して分散させる効果が減少する。
【0035】
具体的には、体積平均粒径を0.1~20μmに調製して用いるのが好ましく、0.1~10μmに調製して用いるのがより好ましい。
【0036】
(高圧せん断型乳化分散処理)
できるだけ粒径を均一に保った微小ミセル粒子を含む多層エマルションを製造するには、乳化させたい被分散体と媒体となる分散媒の混合液を高圧せん断型乳化分散処理により乳化させることによって製造する。本実施形態1における高圧せん断型乳化分散処理とは、被分散体、分散媒及び必要に応じて適宜選択した界面活性剤の混合物を、高圧下で細管内を通過させる乳化分散処理方法である。本実施形態1では細管として、直線状の第1細管とらせん状の第2細管とを組み合わせて連続処理することにより、ミセルの微細化とミセル粒径の均一化の両方を達成する。即ち、直線状の第1細管では細管内壁からの背圧(抵抗力)がせん断力となってミセル粒子を微細化する。またらせん状の第2細管では分散液が細管内を流れるときにミセル粒子が回転力を受け、分散と合体を繰り返して次第に粒径が均一化される。
【0037】
高圧せん断型乳化分散処理における処理圧力は50MPa~250MPaである。第1細管の内径は0.1mm~2.0mmであり、全長は0.1mm~500mmである。第2細管の内径は0.1mm~2.0mmであり、全長は10mm~500mmであり、らせん直径は5mm~10mmである。第2細管の出口での圧力は、特に限定されないが、大気圧であることが好ましい。
【0038】
なお、第1細管及び/又は第2細管の入口側及び/又は出口側に連通して接続したノズルを用いてもよい。ノズルは特に限定されないが、第2細管の出口側ノズルで、液圧を多段階で減圧して、出口部で大気に解放してもバブリングが発生しない圧力にまで下げる多段階減圧を行うものが好ましい。このようなノズルとしては、例えば、ダイヤモンドノズル(株式会社美粒製)が挙げられる。ダイヤモンドノズルは、0.4mmの長さの流路をダイヤモンドが上下で挟む構造となっている。流路は、0.1mm~1mmを設定でき、直径(幅)としては、0.09~0.13mmを設定できる。このダイヤモンドノズルは、従来の衝突型高圧乳化装置のエネルギのかかり方と類似するが、多段階で高圧から常圧へ戻すため、キャビテーションが起きにくい。
【0039】
第1細管と第2細管による連続処理を2回以上繰り返して行ってもよい。繰り返すことで微細化と均一化の度合いが向上し、より微細で均一な乳化分散液が得られる。
【0040】
(CNT有機溶媒混合液の調製)
分散させたいCNTは、まず樹脂を溶解した有機溶媒に攪拌混合させておく。有機溶媒はその樹脂を溶解させるものであればよい。樹脂は、最終的に配向性を有して分散させたCNTをその配向性を保ったまま固定する基材としての役割を有する。したがって、有機溶媒中の樹脂濃度は、分散液を塗布して乾燥させたときに膜状となる厚さを確保できればよく、例えば0.1~20重量%であり、1~10重量%であることがより好ましい。またCNT濃度は例えば0.1~20重量%であり、1~10重量%であることがより好ましい。なお、樹脂量とCNT量の重量比率は、1:9~9:1とすることが好ましく、1:4~4:1であることがより好ましく、2:3~3:2とすることが最も好ましい。これらの混合液を攪拌してCNT有機溶媒混合液とする。なおこの段階では、必ずしもエマルション化する必要はない。
【0041】
CNT有機溶媒混合液調製のための有機溶媒としては、例えば先に第1油相として用いられる有機溶媒として挙げた有機溶媒を用いることができる。
【0042】
CNT有機溶媒混合液調製のための樹脂としては、有機溶媒に可溶な樹脂であれば特に限定されない。具体的には、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレンとアクリル酸又はそのエステルとの共重合体、スチレンとメタクリル酸又はそのエステルとの共重合体、尿素樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリアミド樹脂、エステルガム、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、クマロン-インデン樹脂、ポリテルペン、ロジン系樹脂やその水素添加物、ケトン樹脂、テルペン-フェノール共重合物、ポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物、フェノール樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、N-ビニルアセトアミド、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースやこれらの共重合体や各種誘導体などが挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
(CNT分散液の調製)
上記のCNT有機溶媒混合液と、先に説明した高圧せん断型乳化分散処理した多層エマルションとを混合し、さらにこの混合液に上述の高圧せん断型乳化分散処理を施して乳化することにより、CNT分散液を調製する。つまり、CNT有機溶媒混合液と多層エマルションとの混合物を、50MPa~250MPaの加圧下で第1細管及び第2細管により連続的に乳化分散処理してCNT分散液を調製する。
【0044】
CNT有機溶媒混合液と多層エマルションとの混合割合は、CNTの含有率にもよるが重量比で100:1~1:1であり、50:1~5:1であることがより好ましく、20:1~5:1であることが更に好ましい。
【0045】
このような方法で製造したCNT分散液中では、それぞれのCNTの配向方向が揃って分散すると考えられる。この理由について発明者は以下のように推察している。このCNT分散液中では、それぞれのCNTの全体にわたって粒径の揃ったミセル微粒子が配置した状態となる。ミセル微粒子どうしは互いに反発しあうため、ミセル微粒子が配置したCNTはそれぞれ互いに反発しあって凝集することがない。
【0046】
しかも、粒径の揃ったミセル微粒子が配置しているのがCNTの一部ではなく、全体に配置しているため、多数のCNTが交差することなく同じ方向に並んで反発しあいながら分散することとなる。こうしてCNTをその配向性を有したまま(同じ方向を向かせて)分散させることができる。このような状態でCNTを分散させた溶液を、CNTをその配向性を有して分散させたCNT分散液という。
【0047】
(CNT含有熱電変換部材)
熱電変換部材の性能は性能指数(Z)又はこれに使用温度Tを乗じた無次元性能指数ZT=ST/ρκで表される。ここでSはゼーベック係数[V/K]、ρは電気抵抗率[Ωm]、κは熱伝導率[W/mK]である。これから、性能の高い熱電変換部材を得るにはゼーベック係数は大きい方がよく、電気抵抗率、熱伝導率は小さいほうがよい。
【0048】
したがってCNT含有熱電変換素子に用いる熱電変換部材は、電気抵抗率を小さくする(導電性を高める)ためにCNT間の良好な導電ネットワークを有するとともに、素子全体として低い熱伝導率を有することが好ましい。
【0049】
本実施形態1に係る熱電変換部材は、CNTをその配向性を有して分散させたCNT分散液を固定化した樹脂の薄膜(以下、「CNT分散樹脂膜」という。)を複数重ねて形成する。CNTをその配向性を有して分散させたCNT分散液を樹脂で固定化すると、CNTが立体的なネットワークを形成したまま固定化されることを発明者は発見した。
【0050】
さらに重なりあう2つの層は互いにCNTの配向方向が異なっているように重ねることが好ましい。具体的には、2つの層のCNT配向方向のなす角度が30°~90°となるように重ねる。より好ましくは60°~90°であり、最も好ましいのは、上下に重なり合う(隣接する)CNT分散樹脂膜中のCNTの配向方向が90°±5°となる(ほぼ直交させる)ようにCNT分散樹脂膜を複数枚重ねた構造である。
【0051】
上記のように構成することで、隣接する2つのCNT分散樹脂膜間のCNTどうしの単位面積あたりの接触点を多数形成し、良好な導電ネットワークを形成するととともに、複数のCNT分散樹脂膜を重ねることで熱伝導率が比較的低い樹脂の容積が増加し、素子全体として熱伝導率を低下させることができるものと考えられる。
【0052】
上記のように形成したCNT含有熱電変換部材の両端部に電極を付すことによってCNT含有熱電変換素子とすることができる。
【0053】
(CNT含有熱電変換素子の製造方法)
次に、CNT分散液を用いたCNT含有熱電変換素子の好ましい製造方法について説明する。まず、CNTをその配向性を有して分散させた、樹脂を含むCNT分散液を平板の上に塗布する。塗布する方法はどのような方法でもよいが、例えばCNT分散液を平板上に滴下して、キャスティングナイフ等により薄く膜状に引き延ばすことにより塗布する。
【0054】
次に、平板上に塗布したCNT分散液を、平板ごと80~90℃(樹脂のTg(ガラス転移点)±10℃を目安とする)で5~10分間加熱して乾燥させる。これにより、分散液中の揮発性・蒸発性の媒体が揮発・蒸発して、樹脂中にCNTが立体的なネットワークを保ったまま固定されたCNT分散樹脂膜が得られる。
【0055】
上記により得られたCNT分散樹脂膜を、CNTの配向方向が異なるように複数枚重ねてCNT含有熱電変換部材を製作する。つまり、1枚目のCNT分散樹脂膜の上に、2枚目のCNT分散樹脂膜をそのCNT配向方向が異なるように重ねる。次に3枚目のCNT分散樹脂膜を、そのCNT配向方向が2枚目のCNT分散樹脂膜のCNT配向方向と異なるように重ねる。このようにして複数枚のCNT分散樹脂膜を順次重ねていく。なお、同じ製作方法で得られたCNT分散樹脂膜のCNT配向方向は同じであるので、同じ製作方法で得られたCNT分散樹脂膜をその向きを変えて順次重ねていけばよい。
【0056】
最後に、重ねたCNT分散樹脂膜層に圧力を加えて密着させることによってCNT含有熱電変換部材が完成する。
【0057】
次に、所定の形状に整形したCNT含有熱電変換部材にITO、金、アルミニウムなどの材料を用いて導電膜層を電極として形成する。例えばCNT含有熱電変換部材の両端部に印刷法や蒸着法等により金電線を形成して電極端子とすることができる。こうしてCNT含有熱電変換素子が製造される。
【0058】
製造したCNT含有熱電変換素子は、温度差を与えて電圧及び電流を測定し、ゼーベック係数(S[V/K]:単位温度差あたりの起電力)やパワーファクタ(PF=S/ρ、ρは電気抵抗率[Ωm])を求めることにより、素子の性能を評価することができる。
【0059】
(実施形態2)
本発明に係る、CNT分散液を調製する方法と、CNT分散液から作製したCNT分散樹脂膜を用いてCNT含有熱電変換素子を製作する方法の実施の形態2(実施形態2)について以下に説明する。なお、実施形態1と重複する部分については、異なる部分を中心に説明する。
【0060】
本実施形態2で用いるCNTは、実施形態1で用いるCNTと同様に、単層CNTが好ましく、さらに半導体型単層CNTをできるだけ多く含む単層CNTを用いることが好ましい。
【0061】
本実施形態2に係るCNT分散液を製造する方法について説明する。実施形態2では、次のような工程を経てCNT分散液を製造する。
(工程(A))CNTと、第1有機溶媒と、第1界面活性剤を含む第1水相と、を乳化分散させ、第3エマルションを調製する(第1次乳化)。
(工程(B))第2有機溶媒と、第2界面活性剤と、樹脂と、第3エマルションと、を乳化分散させ、第4エマルションを調製する(第2次乳化)。
(工程(C))第4エマルションを高圧せん断型乳化分散処理してさらに乳化分散させることにより、CNT分散液を製造する。
【0062】
実施形態1ではCNTを含まない第2エマルションを分散媒として調製し、CNTと樹脂を溶解した有機溶媒と第2エマルションとを混合してCNTを分散させたのに対し、実施形態2では、CNTを含む油相と水相を混合乳化して第3エマルションを調製し、第3エマルションと樹脂を含む油相とを混合乳化して第4エマルションを調製し、次いで第4エマルションを高圧せん断型乳化分散処理によりさらに乳化分散させる。
【0063】
第3エマルションは、第1油相の微小液滴の外側に第1界面活性剤が親油部を向けて配向集合した第1ミセルが第1水相中に分散しているものである(O/Wエマルション)。第4エマルションは、複数の第1ミセルを含む微小第1水相液滴に第2界面活性剤が外側に疎水部を向けて配向した第2ミセルが第2油相中に分散しているものである(O/W/Oエマルション)。CNTの周囲にこの第2ミセルが配置されることにより、CNTが分散しているものと考えられる。
【0064】
工程(A)として、例えば、CNTと第1有機溶媒を混合した第1油相と、水溶液と第1界面活性剤を混合した第1水相とを混合し、乳化分散させることによって第3エマルションを調製することができる。しかしこの方法に限定されるわけではない。
【0065】
工程(B)として、例えば、第2界面活性剤及び樹脂を第2有機溶媒に混合溶解させた第2油相と、第3エマルションとを混合し、乳化分散させることによって第4エマルションを調製することができる。しかしこの方法に限定されるわけではない。
【0066】
工程(A)と工程(B)での乳化分散処理は、各種のミキサーや攪拌装置を用いて行うことができる。工程(C)での乳化分散処理は、実施形態1で説明した高圧せん断型乳化分散処理を行う。工程(A)と工程(B)での乳化分散処理も高圧せん断型乳化分散処理を行ってもよい。
【0067】
工程(A)で用いる第1界面活性剤は、実施形態1に示す第1界面活性剤と同様に、高分子型界面活性剤と親水性界面活性剤とを含むことが好ましい。このような組み合わせを用いることにより、微細かつ均一な第3エマルションを得ることができる。なお第1界面活性剤の混合量は、臨界ミセル濃度以上となる量であればよい。また、高分子型界面活性剤と親水性界面活性剤との混合割合は重量比で30:70~98:2であり、好ましくは40:60~95:5であり、更に好ましくは60:40~90:10である。
【0068】
第1界面活性剤に含まれる親水性界面活性剤としては、HLB値(Hydrophile-Lipophile Balance)が5~18、特に6~12の界面活性剤が好ましい。具体的には、実施形態1で説明した親水性界面活性剤を用いることができる。
【0069】
また第1界面活性剤に含まれる高分子型界面活性剤としては、実施形態1で説明した高分子型界面活性剤を用いることができる。
【0070】
工程(B)で用いる第2界面活性剤は、実施形態1で説明した第2界面活性剤と同様に、高分子型界面活性剤と疎水性界面活性剤とを含むことが好ましい。このような組み合わせを用いることにより、微細かつ均一な第4エマルションを得ることができる。なお第2界面活性剤の混合量は、臨界ミセル濃度以上となる量であればよい。また、高分子型界面活性剤と疎水性界面活性剤との混合割合は重量比で30:70~98:2であり、好ましくは40:60~95:5であり、更に好ましくは60:40~90:10である。
【0071】
第2界面活性剤に含まれる疎水性界面活性剤としては、実施形態1で説明したようにHLB値が10以下であるものが好ましく、7以下であるものがより好ましく、1~5であるものが特に好ましい。具体的には、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、およびレシチン類等を挙げることができる。
【0072】
グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、およびレシチン類の具体的な例としては、それぞれ実施形態1で説明した種類のものを用いることができる。
【0073】
第2界面活性剤に含まれる高分子型界面活性剤としては、実施形態1で説明した高分子型界面活性剤を用いることができる。
【0074】
工程(A)で用いる第1有機溶媒及び工程(B)で用いる第2有機溶媒は、他の油相成分を溶解することができ、かつ水と混和しない揮発性の有機溶媒であれば特に限定されない。具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、1.2-ジクロロエタン、トルエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
第2有機溶媒は工程(B)で用いる樹脂を溶解できるものが好ましい。樹脂は、1つ1つをばらばらに分散させたCNTを、その状態を保ったまま固定する基材としての役割を有する。したがって、有機溶媒中の樹脂濃度は、分散液を塗布して乾燥させたときに膜状となる厚さを確保できればよい。樹脂の種類は、実施形態1で説明した種類のものを用いることができる。
【0076】
第2有機溶媒中のCNT濃度は例えば0.1~20重量%であり、0.5~10重量%であることがより好ましい。また、樹脂量とCNT量の重量比率は、1:9~9:1とすることが好ましく、1:4~4:1であることがより好ましく、2:3~3:2とすることが最も好ましい。
【0077】
工程(A)において、第1油相(CNTを含む)に対する第1水相(第1界面活性剤を含む)との仕込み割合は特に限定されないが、第1油相/第1水相の質量比が10/90~90/10であることが好ましく、20/80~60/40であることがより好ましく、30/70~50/50であることが特に好ましい。
【0078】
工程(B)において、第2油相(第2界面活性剤と樹脂を含む)に対する第3エマルションの仕込み割合は特に限定されないが、第3エマルション/第2油相の質量比が0.01/99.99~50/50であることが好ましく、0.1/99.9~30/70であることがより好ましく、1/99~20/80であることが特に好ましい。
【0079】
また工程(A)で用いる水溶液として、実施形態1で説明した第1水相と同じ種類のものを用いることができる。
【0080】
ここで各ミセルはできるだけ直径(粒径)が小さく、かつ粒径が狭い範囲に分布している、つまりできるだけ粒径が揃っていることが好ましい。粒径が広い範囲に分布している、つまり粒径が揃っていない場合、単層CNTをばらばらに分散させる効果が減少する。
【0081】
具体的には、体積平均粒径を0.1~20μmに調製して用いるのが好ましく、0.1~10μmに調製して用いるのがより好ましい。
【0082】
少なくとも工程(C)において、高圧せん断型乳化分散処理により第4エマルションをさらに乳化させる。高圧せん断型乳化分散処理とは、実施形態1で説明したように、被分散体、分散媒及び必要に応じて適宜選択した界面活性剤の混合物を、高圧下で細管内を通過させる乳化分散処理方法である。
【0083】
本実施形態2では、細管として、直線状の第1細管とらせん状の第2細管とを組み合わせて連続処理することにより、ミセルの微細化とミセル粒径の均一化の両方を達成する。即ち、直線状の第1細管では細管内壁からの背圧(抵抗力)がせん断力となってミセル粒子を微細化する。またらせん状の第2細管では分散液が細管内を流れるときにミセル粒子が回転力を受け、分散と合体を繰り返して次第に粒径が均一化される。
【0084】
高圧せん断型乳化分散処理における処理圧力は50MPa~250MPaである。第1細管の内径は0.1mm~2.0mmであり、全長は0.1mm~500mmである。第2細管の内径は0.1mm~2.0mmであり、全長は10mm~500mmであり、らせん直径は5mm~10mmである。第2細管の出口での圧力は、特に限定されないが、大気圧であることが好ましい。
【0085】
なお、第1細管及び/又は第2細管の入口側及び/又は出口側に連通して接続したノズルを用いてもよい。
【0086】
第1細管と第2細管による連続処理を2回以上繰り返して行ってもよい。繰り返すことで微細化と均一化の度合いが向上し、より微細で均一な乳化分散液が得られる。
【0087】
このような方法で製造したCNT分散液中では、CNTの凝集状態が解消され、それぞれのCNTがばらばらに分散されていると考えられる。
【0088】
次に、CNT分散液からCNT含有熱電変換素子を製作する方法について説明する。まず、上記のようにして得られたCNT分散液を任意の方法、例えばキャスティングナイフ等により薄く膜状に引き延ばす方法で、ガラス等の平板上に所定の量又は厚さで塗布し、乾燥させて薄膜状にしたCNT含有樹脂膜を作製する。乾燥させたCNT含有樹脂膜は平板から剥ぎ取る。同じ方法で複数のCNT含有樹脂膜を作製する。
【0089】
CNT分散液は、実施形態1の方法で得られたものを用いてもよい。また、平板上に塗布する方法はキャスティングナイフ法に限らず、コーター等を用いて塗布してもよい。
【0090】
作成された複数のCNT含有樹脂膜を、重なり合って隣接する2枚のCNT含有樹脂膜の向きが変わるように重ね合わせて積層し、密着させてCNT含有熱電変換部材を作製する。
【0091】
具体的には、重なり合う(隣接する)CNT分散樹脂膜のなす角度が30°~90°となるように重ね合わせる。より好ましくは60°~90°であり、最も好ましいのは、CNT分散樹脂膜を90°±5°となる(ほぼ直交させる)ように複数枚重ね合わせた構造である。
【0092】
作製したCNT含有樹脂膜を上述の角度関係となるように配置積層することにより、ばらばらに分散したCNT同士が、多くの位置で点接触しているCNT含有熱電変換部材を作製することができる。
【0093】
このようにして重ね合わせて作製したCNT含有熱電変換部材を整形し、両端部に電極を付してCNT含有熱電変換素子を製作する。
【0094】
CNT含有樹脂膜は1枚ずつ作成し、所用の枚数のCNT含有樹脂膜を作製した後にそれらを積層すればよい。しかしこれに限らず、平板上で最初のCNT含有樹脂膜を形成して乾燥した後、それを剥がさないで平板の向きを上述の角度関係にしたがって変えて、最初のCNT含有樹脂膜の上に直接CNT分散液を塗布し、乾燥することにより2番目の層を形成してもよい。このようにして必要数のCNT含有樹脂膜を向きを変えて形成し、最後に全体を平板から剥がして(さらに圧着してもよい)整形し、電極を付してCNT含有熱電変換素子としてもよい。
【0095】
このようにして製作したCNT含有熱電変換素子は、温度差を与えて電圧及び電流を測定し、ゼーベック係数(S[V/K]:単位温度差あたりの起電力)やパワーファクタ(PF=S/ρ、ρは電気抵抗率[Ωm])を求めることにより、素子の性能を評価することができる。
【0096】
なお、異なる条件で作製したCNT分散液から作製した複数のCNT含有樹脂膜又はCNT含有熱電変換部材の抵抗値又は起電力を、それぞれ同じ条件で測定することにより、CNT分散液の製造条件とそのCNT分散液から製作可能なCNT含有熱電変換素子の能力の高さの関係を相対的に比較評価することができる。
【実施例
【0097】
(実施例1)
以下に、CNT分散液及びCNT含有熱電変換素子の一製造例を説明する。
【0098】
(分散媒としての多層エマルションの調製)
高分子型界面活性剤であるナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(ラベリン(登録商標)、第1工業製薬株式会社)1g、親水性界面活性剤であるモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(RHEODOL(登録商標) TW-L120、花王株式会社)5g、水100gを混合した混合液を、室温において高圧せん断型乳化分散装置を用いて乳化分散処理を行って第1エマルションを得た。
【0099】
本実施例で用いた高圧せん断型乳化分散装置は、図1に示すように混合液を加圧吐出するポンプ10(BERYU MINI、株式会社美粒)と、混合液貯留部15と、ノズル21~24と、第1細管30と、第2細管40と、第1細管30と第2細管40とを冷却する冷却器51、52と、受液部60と、を中心に構成されている。
【0100】
第1細管30は内径0.4mm、全長100mmの直線細管であり、冷却器51で10~15℃に冷却されている。第2細管40は内径0.3mm、全長300mm、らせん直径5mmのらせん状細管であり、冷却器52で10~15℃に冷却されている。第1細管30の両端部にはノズル21、22が、第2細管40の両端部にはノズル23、24がそれぞれ設けられている。ノズルはダイヤモンドノズル(株式会社美粒)で、断面が直方体の内孔を有する直管であり、内孔の上下がダイヤモンド製であり上下の幅0.09mm、左右幅0.1mm、長さ0.1mmの断面形状を有するノズルである。
【0101】
本実施例では上記の混合液を混合液貯留部15からポンプ10を用いて100MPaに加圧吐出し、流量30ml/mで第1細管30及び第2細管40を通過させて受液部60に受ける連続処理を5回繰り返して第1エマルションを得た。
【0102】
次に、第1エマルション151g、高分子型界面活性剤であるナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(ラベリン(登録商標)、第1工業製薬株式会社)1g、疎水性界面活性剤であるグリセリン脂肪酸エステル(SYグリスターCR-310、阪本薬品工業株式会社)5g、トルエン(特級、関東化学株式会社)450gを混合して、室温において上記の高圧せん断型乳化分散装置を用いて乳化分散処理を行って第2エマルションを得た。装置及び処理条件は上記と同じである。
【0103】
(CNT有機溶媒混合物の調製)
次に、半導体性単層カーボンナノチューブ(SGCNT、産業技術総合研究所)5.0g、ポリスチレン(アタクチックタイプ、分子量約280000、関東化学株式会社)5.0g、トルエン(関東化学株式会社)290gを室温において高圧せん断型乳化分散装置を用いて混合攪拌してCNT有機溶媒混合物を調製した。装置及び処理条件は上記と同じである。
【0104】
(CNT分散液の調製)
次に上記の第2エマルション10gとCNT有機溶媒混合物100gとを混合して、室温において上記高圧せん断型乳化分散装置を用いて乳化分散処理を行ってCNT分散液を調製した。装置及び処理条件は上記と同じである。なお第1細管及び第2細管による連続処理を20回繰り返した。
【0105】
(CNT分散樹脂膜の製作)
次に、上記のCNT分散液をガラス板上に適量を滴下し、キャスティングナイフで拡げて厚さ0.5mmの液膜を形成した。これをガラス板ごと熱風乾燥器に入れ、90℃で10分間乾燥させたのち、ガラス板から剥がしてCNT分散樹脂膜を得た。図2(a)は本実施例のCNT分散樹脂膜のCNTネットワークを示す顕微鏡写真である。なお、図2(b)に、CNTがその配向性を有したまま分散していない分散液から得たCNT分散樹脂膜の顕微鏡写真を比較例として示す。図2(b)では、CNTは立体的なネットワークは構成せず、重なって凝集していることがわかる。
【0106】
(CNT含有熱電変換部材の製作)
次に、上記のようにして製造したCNT分散樹脂膜5枚を同程度の大きさ(約10cm×10cm)に切断し、CNT分散樹脂膜内のCNTの配向方向が交互に直交するように順次積み重ねた。CNT分散樹脂膜は、同じ製膜方法で製作したものであればCNTの配向方向も同じとなるので、ここでは同じ方法で製作したCNT分散樹脂膜の向きを交互に直交させるように積み重ねた。
【0107】
次に重ねたCNT分散樹脂膜を油圧式プレス機を用いて0.1MPaで加圧して圧着させ、CNT含有熱電変換部材を得た。
【0108】
(CNT含有熱電変換素子の製作)
次に、上記のCNT含有熱電変換部材の両端部に、高真空蒸着装置を用いて金を矩形状に蒸着して電極端子とし、CNT含有熱電変換素子とした。
【0109】
(CNT含有熱電変換素子の性能測定)
このようにして製作したCNT含有熱電変換素子の両端部で温度差を生じさせ、発生する電流を測定して起電力を計算した。発生する電圧は電極間温度差に比例する。この比例係数からゼーベック係数を計算した。電気抵抗率は所定の電圧をかけて流れる電流を測定して計算した。その結果、ゼーベック係数は65μV/K、電気抵抗率は4.1×10-3Ωcm、パワーファクタは90μW/mKという高い数値を示した。
【0110】
(実施例2)
実施形態2の工程(A)~(C)の方法でCNT分散液を調製した。なお、工程(C)での高圧せん断型乳化分散処理の処理条件とCNTの種類(単層、多層)によるCNT分散樹脂膜の体積抵抗値の変化を評価するため、単層型CNTと多層型CNTを用いて工程(A)と工程(B)を同じ条件で行い第4エマルションのサンプルを複数調製した後、得られたサンプル(No.1~15)を、異なる工程(C)の条件(高圧せん断型乳化分散条件)で分散処理した。
【0111】
第4エマルションの調製方法は以下の通りである。各CNTの1重量%トルエン溶液100gを、界面活性剤としてのモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(RHEODOL(登録商標) TW-L120、花王株式会社)5gを水200gに溶解した水溶液に注ぎ、高速撹拌装置(泡レスミキサー、双日マシナリー株式会社)を用いて5000rpmで5分間、分散混合し、乳化して第3エマルション(O/W型エマルション)を得た(工程(A))。
【0112】
得られた第3エマルションを、界面活性剤としてのポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品工業株式会社製、SYグリスターCR-310)11gとポリスチレン樹脂0.5gをトルエン400gに溶解したトルエン溶液に注ぎ込み、高速撹拌装置(泡レスミキサー、双日マシナリー株式会社)を用いて1500rpmで5分間、分散混合し、乳化して第4エマルション(O/W/O型多層エマルション)を得た(工程(B))。
【0113】
得られた第4エマルションは、第2ミセルの粒径が不均一であった。この第4エマルション(サンプルNo.1~15)を次のように高圧せん断型乳化分散処理した(工程(C))。
【0114】
サンプルNo.1~15を、図1に示すようにポンプ10(BERYU MINI、株式会社美粒、ポンプ吐出圧100MPa)で加圧し、表1に示す条件の第1細管30(直線配管)及びその下流側に連通した第2細管40(らせん配管、らせんの直径は5mmで固定)に、流量200cm/分の条件で表1に示す回数だけ流通(パス)させて製粒し、受液部60に集めてCNT分散液を得た。第1細管30と第2細管40はそれぞれ冷却器51及び冷却器52で10~15℃に冷却した。第1細管30の両端部にはノズル21、22が、第2細管40の両端部にはノズル23、24がそれぞれ設けられている。なお、第1細管30の長さが0.1mmのものは、表1に記載した配管内径を有するノズルから0.1mm下流に第2細管40を接続したものである。
【0115】
得られたCNT分散液を用いて、下記に示す方法によりCNT分散樹脂膜を作製し、表面抵抗値(Ω/□)と膜厚(mm)を測定した。得られた表面抵抗値と膜厚から、体積抵抗値(Ω・cm)を計算した。体積抵抗値は小さいほど起電力が高くなり、熱電変換素子として性能が高いことを意味する。
【0116】
CNT分散樹脂膜の作製方法と体積抵抗値の計算方法は以下のとおりである。
(1)CNT分散液サンプルを約2mLエッペンドルフでとり、これを25φメンブレンフィルターで濾過した。サンプルは濾過面に2mL溜め、減圧して一気に濾過した。
(2)濾過した残渣をフィルターごとドライヤーで約30秒乾燥した。
(3)乾燥した残渣の膜厚をメンブレンフィルター込みでデジタルノギスで測定した。表1に示す膜厚は、このメンブレンフィルター込みの数値である。メンブレンフィルター自体の厚さは60μmであった。
(4)4探針抵抗測定により、表面抵抗値を測定した。
(5)膜厚からメンブレンフィルターの厚さである60μmを引いてCNT分散樹脂膜厚さとし、測定された表面抵抗値にCNT分散樹脂膜厚さを乗じて体積抵抗値を計算した。なお、膜厚が60μmを下回るものは、CNT分散樹脂膜厚さを3μmとして計算した。
【0117】
CNT分散液を調製した高圧せん断型乳化分散条件と、作製されたCNT分散樹脂膜の体積抵抗値を表1に示す。
【0118】
表1 高圧せん断型乳化分散処理条件とCNT分散樹脂膜の体積抵抗値
【表1】
【0119】
図3(a)は、CNTの種類、第1細管の内径と、得られたCNT分散樹脂膜の体積抵抗値との関係を示すグラフである。これに示すように、全般に単層CNTのほうが多層CNTよりも体積抵抗値が低い(熱電変換素子としての性能が高い)。また単層CNTを用いた場合、第1細管の内径と体積抵抗値との関係は必ずしも明確ではないが、内径が0.13~0.4(mm)の範囲では、内径が大きいほど体積抵抗値が大きくなる傾向がある。
【0120】
図3(b)は、CNTの種類、第2細管の内径と、得られたCNT分散樹脂膜の体積抵抗値との関係を示すグラフである。これに示すように、全般に単層CNTのほうが多層CNTよりも体積抵抗値が低い(熱電変換素子としての性能が高い)。また単層CNTを用いた場合、第2細管の内径と体積抵抗値との関係は必ずしも明確ではないが、内径が0.2~0.4(mm)の範囲では、内径が大きいほど体積抵抗値が大きくなる傾向がある。
【0121】
第1細管及び第2細管を通す回数であるパス回数と体積抵抗値との間には、他のパラメータが固定されていないこともあり、特に明確な関係は見られなかった。1~5回までのパス回数の差よりも、それ以外のパラメータのほうが体積抵抗値に大きな影響を与えると考えられる。
【0122】
また、第1細管の配管長と第2細管の配管長についても、他のパラメータが固定されていないこともあり、それぞれが同じ配管長さで処理したサンプルを比較しても体積抵抗値は大きく異なる結果が得られ、体積抵抗値との間に特に明確な傾向は見られなかった。第1細管と第2細管の配管長よりも、それ以外のパラメータのほうが体積抵抗値に大きな影響を与えると考えられる。
【0123】
(比較例1)
高圧せん断型乳化分散処理のうち、第2細管(らせん配管)を用いずに第1細管(直線配管)のみで処理したCNT分散液のCNTの分散状況を、第1細管と第2細管の両方を用いて処理したCNT分散液のCNTの分散状況と比較した。
【0124】
図4(a)は、表1のサンプルNo.6の条件で調製した本発明に係るCNT分散液の電子顕微鏡写真である。図4(b)は、0.3φ、100mmの直線配管のみを用い、第2細管を用いないで調製した、比較例のCNT分散液の同一倍率の電子顕微鏡写真である。図4(b)に示すCNT分散液を用いて作製したCNT分散樹脂膜の体積抵抗値は、図4(a)に示すサンプルNo.6のCNT分散液を用いて作製したCNT分散樹脂膜の体積抵抗値よりもかなり大きい。
【0125】
サンプルNo.6の電子顕微鏡写真である図4(a)では、黒く見えるCNTが全体として均一に(ばらばらに)分散しているのに対し、比較例の図4(b)では、CNTが均一に分散しておらず、凝集したままの部分が多く残っていることがわかる。これらの電子顕微鏡写真からわかるように、体積抵抗値が小さいCNT分散樹脂膜を作製するには、CNTが全体的に均一に分散したCNT分散液を調製し、そのようなCNT分散液を用いてCNT分散樹脂膜を作製することがより好ましい。
【0126】
CNTが全体的に均一に分散したCNT分散液を用いて作成したCNT分散樹脂膜では、CNTが立体的、空間的に分散した状態で樹脂で固定されており、かつCNT同士が多数の位置で点接触していると考えられる。このように、CNTが立体的、空間的に分散して点接触したネットワークを構成しているため、電気電導度が大きく熱伝導度が小さい良好な熱電変換素子を製作することができると考えられる。
【0127】
(比較例2)
工程(A)と工程(B)を行い、工程(C)を行わない(高圧せん断型乳化分散処理を行わない)CNT混合液を用いてCNT分散樹脂膜を作製し、表面抵抗値(Ω/□)と膜厚(mm)を測定した。しかし得られたCNT分散樹脂膜は空隙が発生するものや泡が混入するものが多く、測定された表面抵抗値は大きく変動した。さらに測定された表面抵抗値と膜厚から体積抵抗値(Ω・cm)を計算した結果、体積抵抗値は、単層CNTの場合、0.73~1.82(Ω・cm)であり、多層CNTの場合、2.03~3.30(Ω・cm)であった。この結果からわかるように、工程(C)を行わないで調製したCNT分散液から作製したCNT分散樹脂膜の体積抵抗値は、工程(C)を行って調製したCNT分散液から作製したCNT分散樹脂膜の体積抵抗値と比べて1桁程度大きい数値となり、熱電変換素子としては利用することができないレベルである。
【0128】
(実施例3)
CNT(いずれも単層CNT)のサンプルA~Eを実施例2で説明した方法で処理して第4エマルションを調製し、次いでこの第4エマルションを表1のNo.4又は6に示す高圧せん断型乳化分散処理条件で処理してCNT分散液を得た。得られたCNT分散液をそれぞれ卓上コーターを用いて10cm×10cmのガラス板に0.2mm/秒でコートし、乾燥させてCNT分散樹脂膜を得た。得られた乾燥CNT分散樹脂膜をガラス板に載置したまま両端部に端子を接続し、両端子間に温度差(16℃)を与えてCNT分散樹脂膜の起電力を測定した。次に、電極を取り外してガラス板を90度回転し、2回目のコートを同様に行い、乾燥させて2枚積層したCNT分散樹脂膜を得た。得られた積層CNT分散樹脂膜の両端部に端子を接続し、温度差を与えて起電力を測定した。以降、10コートまで90度ずつ回転してコートを行い乾燥させ、積層したCNT分散樹脂膜を作製し、両端部に端子を接続し、温度差を与えて起電力を測定した。
【0129】
上述のようにして作製したCNT分散樹脂膜のコート回数(積層枚数)と、得られた積層CNT含有熱電変換素子の起電力(mV)との関係を表2と図5に示す。起電力は大きい方が熱電変換素子として性能が高いことを意味する。
【0130】
表2 CNT分散樹脂膜のコート回数とCNT含有熱電変換素子の起電力
【表2】
【0131】
表2と図5に示すように、いずれのサンプルもコート回数が1回より2回又は3回のほうが起電力が増加した。その後、3~6回までは同等の性能を発揮するサンプルが多いが、サンプルD、サンプルEのように低下するものも見られた。7回以上になると、いずれのサンプルも起電力は低下する傾向が見られた。いずれのサンプルもコート回数3~4回あたりで最も大きな起電力を示す。
【0132】
図5から、CNT分散樹脂膜を積層する回数(積層枚数)は、2~6回(枚)が好ましく、2~5回(枚)がより好ましく、3~4回(枚)がさらに好ましいことがわかる。
【0133】
(付記)
(付記1)
(a)第1界面活性剤を第1水相中に乳化分散させ、第1エマルションを調製する工程と、
(b)前記第1エマルションと第2界面活性剤とを第1油相中に乳化分散させ、第2エマルションを調製する工程と、
(c)樹脂を溶解した有機溶媒にカーボンナノチューブを混合した混合液を調製する工程と、
(d)前記第2エマルションと前記混合液との混合液を乳化分散させる工程と、
を含むカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(付記2)
前記第1界面活性剤は、高分子型界面活性剤とHLBが5~18である界面活性剤とを含み、前記第2界面活性剤は、高分子型界面活性剤とHLBが10以下の界面活性剤とを含む、付記1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(付記3)
前記工程(a)、(b)及び(d)のうち少なくとも1つの工程における乳化分散方法は、被分散体と分散媒とを含む混合液を50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管を通過させることにより、前記被分散体を前記分散媒中に乳化分散させる、付記1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(付記4)
前記直線状配管の内径が0.09~0.4mm、長さが0.1~500mmであり、前記らせん状配管の内径が0.2~0.4mm、長さが10~500mm、らせん直径が5~10mmである、付記3に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(付記5)(A)カーボンナノチューブと、第1有機溶媒と、第1界面活性剤を含む第1水相と、を乳化分散させ、第3エマルションを調製する工程と、
(B)第2有機溶媒と、第2界面活性剤と、樹脂と、前記第3エマルションと、を乳化分散させ、第4エマルションを調製する工程と、
(C)前記第4エマルションを高圧せん断型乳化分散処理する工程と、
を含むカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(付記6)
前記工程(C)における高圧せん断型乳化分散処理方法は、被分散体と分散媒とを含む混合液を50MPa~250MPaの加圧下で少なくとも直線状配管とらせん状配管を通過させることにより、前記被分散体を前記分散媒中に乳化分散させる方法であり、前記直線状配管の内径が0.09~0.4mm、長さが0.1~500mmであり、前記らせん状配管の内径が0.2~0.4mm、長さが10~500mm、らせん直径が5~10mmである、付記5に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(付記7)
第1界面活性剤を含む第1ミセルの集合体を第1油相中に第2界面活性剤によりミセル化したエマルションと、樹脂を溶解した有機溶媒にカーボンナノチューブを混合した混合液と、を乳化分散させたカーボンナノチューブ分散液。
(付記8)
前記第1界面活性剤は、高分子型界面活性剤とHLBが5~18である界面活性剤とを含み、前記第2界面活性剤は、高分子型界面活性剤とHLBが10以下の界面活性剤とを含む、付記7に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(付記9)
付記1~6のいずれか一に記載の方法で製造されたカーボンナノチューブ分散液。
(付記10)
付記7~9のいずれか一に記載のカーボンナノチューブ分散液を平板上に塗布する工程と、
前記塗布したカーボンナノチューブ分散液を乾燥してカーボンナノチューブ分散樹脂膜とする工程と、
複数の前記カーボンナノチューブ分散樹脂膜を、重ね合わせ方向が変わるように重ねて配置する工程と、
を含むカーボンナノチューブ含有熱電変換素子の製造方法。
(付記11)
カーボンナノチューブを分散させたカーボンナノチューブ分散樹脂膜を2枚以上重ねて構成された熱電変換部材を含み、
前記熱電変換部材の、隣接して重なる任意の2枚の前記カーボンナノチューブ分散樹脂膜の重ね合わせ方向が互いに異なる、カーボンナノチューブ含有熱電変換素子。
(付記12)
前記隣接して重なる任意の2枚の前記カーボンナノチューブ分散樹脂膜の前記重ね合わせ方向のなす角度が30°から90°の範囲である、付記11に記載のカーボンナノチューブ含有熱電変換素子。
【符号の説明】
【0134】
10 ポンプ
15 混合液貯留部
21~24 ノズル
30 第1細管
40 第2細管
51、52 冷却器
60 受液部
図1
図2
図3
図4
図5