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特許7062327行動支援システム、行動支援方法及び行動支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】行動支援システム、行動支援方法及び行動支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/06 20120101AFI20220425BHJP
【FI】
G06Q10/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022034992
(22)【出願日】2022-03-08
【審査請求日】2022-03-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520080126
【氏名又は名称】ケイスリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森山 健
(72)【発明者】
【氏名】鈴井 豪
【審査官】萩島 豪
(56)【参考文献】
【文献】特許第6935118(JP,B1)
【文献】特開2021-086282(JP,A)
【文献】VALLE, Carmina G et al.,Designing in-app messages to nudge behavior change: Lessons learned from a weight management app for young adults,Organizational Behavior and Human Decision Processes [online],2020年12月10日,インターネット<URL:https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2020.10.004>,[令和4年3月15日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の行動変容を支援する行動支援システムであって、
複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群であって、各メッセージ群は1つ以上のメッセージを含む、複数のメッセージ群を記憶する記憶部と、
前記複数のメッセージ群のうち1つ以上のメッセージ群の各々からメッセージを抽出し、該抽出されたメッセージからなるメッセージセットを、対象者ごとに生成する生成部と、
前記メッセージセット内のメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する制御部と、
を備える行動支援システム。
【請求項2】
前記生成部は、前記複数の行動変容テクニックのうち特定の行動変容要因にのみ作用する行動変容テクニックを、前記複数の行動変容要因の全てについて選択し、選択された行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々から1つのメッセージを抽出することにより、第1のメッセージセットを生成する、請求項1に記載の行動支援システム。
【請求項3】
出力されたメッセージに対する対象者からのレスポンス情報を取得する取得部と、
前記レスポンス情報に基づいて、前記複数の行動変容要因のうち、当該レスポンス情報が取得された対象者が反応した行動変容要因を抽出する解析部と、
をさらに備え、
前記生成部は、さらに、当該レスポンス情報が取得された対象者のために、当該対象者が反応した行動変容要因に作用する行動変容テクニックを選択し、選択された行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々から1つ以上のメッセージを抽出することにより、第2のメッセージセットを生成する、請求項1又は2に記載の行動支援システム。
【請求項4】
前記生成部は、各メッセージ群からランダムにメッセージを抽出する、請求項1から請求項3いずれか1つに記載の行動支援システム。
【請求項5】
前記複数の行動変容要因は、COM-Bモデルにおける能力、機会、及び、動機を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の行動支援システム。
【請求項6】
前記複数の行動変容要因は、経験的態度、手段的態度、指示的規範、記述的規範、行動コントロール感、自己効力感、知識、技術、行動の重要性、環境上の制約、習慣化の少なくとも2つを含む、請求項1から請求項4のいずれかに記載の行動支援システム。
【請求項7】
対象者の行動変容を支援する行動支援装置において実行される行動支援方法であって、
行動支援装置が、複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群であって、各メッセージ群は1つ以上のメッセージを含む、複数のメッセージ群のうち、1つ以上のメッセージ群の各々からメッセージを抽出し、該抽出されたメッセージからなるメッセージセットを、対象者ごとに生成する工程と、
行動支援装置が、前記メッセージセット内のメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する工程と、
を含む行動支援方法。
【請求項8】
対象者の行動変容を支援するコンピュータに実行させる行動支援プログラムあって、
複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群であって、各メッセージ群は1つ以上のメッセージを含む、複数のメッセージ群のうち、1つ以上のメッセージ群の各々からメッセージを抽出し、該抽出されたメッセージからなるメッセージセットを、対象者ごとに生成する工程と、
前記メッセージセット内のメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する工程と、
を実行させる行動支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、行動支援システム、行動支援方法及び行動支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人間の行動を科学的に研究した行動科学の理論に基づくアプローチをサービス開発に活用する取り組みが、公共政策、医療、小売り業、教育等の様々な分野で広がっている。また、当該様々な分野における対象者の行動変容と習慣化を支援することを技術的に実現するシステムも検討されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1記載のシステムでは、複数の対象者の行動について測定された種々のデータを含んだ行動データを分析し、当該行動データの分析の結果を基に、習慣化の目標としての行動へ段階的に向かう複数のステージの基準としての指標であるステージ指標と、当該ステージ指標に従う前記複数のステージの各々とを定義すること、隣接したステージのペア毎に、当該ペアを構成する二つのステージのギャップを特定すること、各ステージペアについて、特定されたギャップが存在する理由と、低い方のステージに属する対象者に高い方のステージへと遷移するための行動変容を起こさせるための施策との少なくとも一つである理由/施策を、ギャップと理由/施策との関係が定義された関係情報から特定し、各ステージペアについて特定された理由/施策に関する処理を実行することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-140596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対象者の行動変容を促すためには、対象者の属性、所得、居住地域などの個人情報を用いて、対象者の行動特性に応じて個別化された介入を実施することが有効と考えられる。しかしながら、対象者の個人情報を用いるためには次のような問題が生じる。第一に、個人情報の取得には高度なセキュリティと法令遵守が求められるため、個人情報の提供側及び受領側の双方にとって実施ハードルが高い。第二に、実際に対象者の行動特性を特定するために必要な個人情報は、事前に明らかでないことが多い。そのため、様々なハードルを越えて個人情報を入手したとしても、その個人情報を行動変容プログラムの設計・運用に活かすことができないおそれがある。第三に、行動変容の介入のために入手された個人情報は、対象者の過去の一時点における個人情報であり、介入時点の当該対象者の状態を示しているとは限らない。そのため、そのような過去の個人情報に基づく介入では、期待された成果を出すことができないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、対象者の個人情報を使用したり、対象者に対して有効な手法等の知識を事前に取得したりすることなく、対象者の行動変容をより効果的に支援する行動支援システム、行動支援方法および行動支援プログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る行動支援システムは、対象者の行動変容を支援する行動支援システムであって、複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群であって、各メッセージ群は1つ以上のメッセージを含む、複数のメッセージ群を記憶する記憶部と、前記複数のメッセージ群のうち1つ以上のメッセージ群の各々からメッセージを抽出し、該抽出されたメッセージからなるメッセージセットを、対象者ごとに生成する生成部と、前記メッセージセット内のメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する制御部と、を備える。
【0008】
この態様によれば、複数の行動変容要因に作用するメッセージセットを対象者に送信することができるので、対象者の個人情報を使用したり、対象者に対して有効な情報提供等の知識を事前に取得したりすることなく、対象者の行動変容を効果的に促すことが可能となる。
【0009】
上記態様において、前記生成部は、前記複数の行動変容テクニックのうち特定の行動変容要因にのみ作用する行動変容テクニックを、前記複数の行動変容要因の全てについて選択し、選択された行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々から1つのメッセージを抽出することにより、第1のメッセージセットを生成しても良い。この態様によれば、複数の行動変容要因に作用する網羅的なメッセージセットを対象者に送信することができる。
【0010】
上記態様において、出力されたメッセージに対する対象者からのレスポンス情報を取得する取得部と、前記レスポンス情報に基づいて、前記複数の行動変容要因のうち、当該レスポンス情報が取得された対象者が反応した行動変容要因を抽出する解析部と、をさらに備え、前記生成部は、さらに、当該レスポンス情報が取得された対象者のために、当該対象者が反応した行動変容要因に作用する行動変容テクニックを選択し、選択された行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々から1つ以上のメッセージを抽出することにより、第2のメッセージセットを生成しても良い。この態様によれば、対象者ごとに、時間の経過や環境の変化による行動変容要因への影響に適応した介入を行うことができ、対象者の行動変容をより効果的に促すことが可能となる。
【0011】
上記態様において、前記生成部は、各メッセージ群からランダムにメッセージを抽出しても良い。
【0012】
上記態様において、前記複数の行動変容要因は、COM-Bモデルにおける能力、機会、及び、動機を含んでも良い。
【0013】
上記態様において、前記複数の行動変容要因は、経験的態度、手段的態度、指示的規範、記述的規範、行動コントロール感、自己効力感、知識、技術、行動の重要性、環境上の制約、習慣化の少なくとも2つを含んでも良い。
【0014】
本発明の他の態様に係る行動支援方法は、対象者の行動変容を支援する行動支援方法であって、複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群であって、各メッセージ群は1つ以上のメッセージを含む、複数のメッセージ群のうち、1つ以上のメッセージ群の各々からメッセージを抽出し、該抽出されたメッセージからなるメッセージセットを、対象者ごとに生成する工程と、前記メッセージセット内のメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する工程と、を含む。
【0015】
本発明の他の態様に係る行動支援プログラムは、対象者の行動変容を支援するコンピュータに実行させる行動支援プログラムあって、複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群であって、各メッセージ群は1つ以上のメッセージを含む、複数のメッセージ群のうち、1つ以上のメッセージ群の各々からメッセージを抽出し、該抽出されたメッセージからなるメッセージセットを、対象者ごとに生成する工程と、前記メッセージセット内のメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する工程と、を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、対象者の個人情報を使用したり、対象者に対して有効な情報提供等の知識を事前に取得したりすることなく、対象者の行動変容をより効果的に支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】行動変容要因と行動変容テクニックとが関連付けられたフレームをマトリックス形式で例示する表である。
図2】ナッジメッセージ群のデータ構造を概念的に例示する図である。
図3】本実施形態に係る行動支援システムの概略構成の一例を示す図である。
図4】本実施形態に係る行動支援システム内の装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5】本実施形態に係る行動支援システム内の装置の機能構成の一例を示す図である。
図6】本実施形態に係る行動支援システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図7】MECE型ナッジカクテルの具体例を示す模式図である。
図8】MECE型ナッジカクテルの具体例を示す模式図である。
図9】適応型ナッジカクテルの具体例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0019】
(行動支援方法の概要)
本実施形態に係る行動支援方法は、介入の対象者にとって重要な行動変容要因を科学的・客観的に探索しながら、当該対象者の行動変容要因に効果的に作用するナッジメッセージを当該対象者に送信することにより行動変容を促すものである。この際、本実施形態においては、複数の行動変容要因と、該複数の行動変容要因のうち1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックとが関連付けられたフレームが用いられる。
【0020】
<フレーム>
ここで、行動変容要因とは、対象者に特定の行動を起こさせるための要因のことである。行動変容要因は、学術調査若しくは意識調査等の調査、行動科学に関する理論、対象者のペルソナ設定、又は、行動プロセスマップ等に基づいて、対象分野における複数の行動変容要因を特定することができる。
【0021】
行動変容要因の例として、行動科学で一般的に用いられるCOM-Bモデルにおける「Capacity(能力)」、「Opportunity(機会)」、「Motivation(動機づけ)」を挙げることができる。或いは、行動変容要因の別の例として、統合行動モデル(Integrated Behavioral Model:IBM)で規定される要因(「IBM要因」等とも呼ばれる)として、経験的態度(Experiential attitude)、手段的態度(Instrumental attitude)、指示的規範(Injunctive norm)、記述的規範(Descriptive norm)、行動コントロール感(Perceived control)、自己効力感(Self-efficacy)、知識(Knowledge)、技術(Skills)、行動の重要性(Salience of the behavior)、環境上の制約(Environmental constraints)、習慣化(Habit)も知られており、本実施形態においては、これらのうちの少なくとも2つを含む行動変容要因を特定しても良い。
【0022】
なお、上述した各IBM要因は例示にすぎず、上記IBM要因を包含する上位レベルの要因を、行動変容要因として特定しても良い。例えば、上記経験的態度及び手段的態度は「態度(Attitude)」に包含され、上記指示的規範及び記述的規範は「規範(Perceived norm)」に包含され、上記行動コントロール感及び自己効力感は「個人的作用(Personal Agency)」に包含され、上記知識及び技術は「知識(Knowledge)」に包含され、行動の重要性は「重要性(Importance)」に包含され、環境上の制約は「摩擦(Friction)」に包含されてもよい。或いは、上記IBM要因を分割した下位レベルの要因を、行動変容要因として特定しても良い。
【0023】
もちろん、本実施形態においては、行動変容要因として、COM-BモデルやIBM以外の行動モデルで規定される要因等、人間の行動意志に関するどのような要因を採用しても良い。
【0024】
上述したような行動変容要因に対して作用する(働きかける)手段或いは技法は、「行動変容テクニック(Behavior Change Technique:BCT)」と呼ばれる。或いは、介入作用(Intervention Function)と呼ばれることもある。以下においては、この手段又は技法のことを「BCT」とも記す。
【0025】
行動変容要因に作用するBCT(又は介入作用)は、理論的に知られている。例えば、Lou Atkins and Susan Michie (UCL Centre for Behaviour Change, University College London), 「Designing interventions to change eating behaviours」には、COM-Bモデルにおける行動変容要因と介入作用との関連性を示すマトリックスが開示されている(「Table 2. Matrix of links between COM-B model and intervention functions」参照)。
【0026】
本実施形態において用いられるフレームは、上で例示した理論を適用したものであっても良いし、理論のほか、学術調査若しくは意識調査等の調査、対象者のペルソナ設定、又は、行動プロセスマップ等に基づいて開発されてものであっても良い。
【0027】
図1は、行動変容要因と行動変容テクニックとが関連付けられたフレームをマトリックス形式で例示する表である。図1においては、3つの行動変容要因「能力」、「機会」、「動機づけ」に対する5つのBCT「動作指示」「社会的支援」「社会規範」「段階的タスク設定」「行動観察」の作用の強さが、ベクトルの形式を用いて表現されている。図1に示すマトリックスにおいて、符号「+」は作用が認められることを示し、数値は作用の強さを示している。
【0028】
図1において、例えば、BCTの「動作指示」は、行動変容要因「能力」に対してのみ作用することが示されている。また、「段階的タスク設定」は、行動変容要因「能力」に対して強く作用し(+1)、また、「機会」にも作用する(+1)ことが示されている。「行動観察」は、図1に示す3つの行動変容要因のいずれにも作用しないことが示されている。
【0029】
以下、各BCTによる行動変容要因に対する作用を表すベクトルのことを、「BCTベクトル」とも記す。また、特定のBCTベクトルのことを、BCTの名称を用いて、「動作指示ベクトル」、「社会的支援ベクトル」等とも記す。図1に例示するように、3つの行動変容要因「能力」、「機会」、「動機づけ」に対する動作指示ベクトルは、<+1,0,0>と表される。
【0030】
<ナッジメッセージ>
本実施形態に係る行動支援方法においては、介入の対象分野に関連する複数の行動変容要因のうち1つ以上の行動変容要因に作用する複数のBCTが特定され、これらのBCTの各々に対してメッセージ群が紐づけられる。各メッセージ群は、紐づけられたBCTを具体化した1つ以上のナッジメッセージ(以下、単にメッセージとも記す)を含む。例えば、BCT「動作指示」には、「〇月〇日までに〇〇をしてください。」というように、動作を指示するメッセージが紐づけられる。
【0031】
図2は、ナッジメッセージ群のデータ構造を概念的に例示する図である。図2においては、図1で例示するBCTに対応して、5種類のBCTの各々に複数のメッセージが紐づけられている。各メッセージには、識別符号(例えばメッセージID)が付与されていても良い。また、各行動変容テクニックに紐付けられたメッセージ群には、各メッセージが属するメッセージ群を識別するための符号(例えばグループID)が付与されていても良い。
【0032】
介入を実行する際には、対象分野に関連する複数の行動変容要因のうち、介入のステージに応じて特定された行動変容要因に作用する1つ以上のBCTが選択され、選択されたBCTにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々からメッセージが抽出され、抽出されたメッセージからなるメッセージセットが生成される。
【0033】
各メッセージ群からのメッセージの抽出は、対象者ごとに、好ましくはランダムに行われる。メッセージセットの生成においてランダム性を取り入れることにより、介入設計者の選択バイアスを回避することができ、介入設計者が勘と経験に基づいてナッジを選択する従来の介入設計と比較して、安定した介入効果を得ることが可能となる。ここで、多くの介入設計者には、科学的根拠よりも、過去に使ったことがあるメッセージや知名度が高い種類のメッセージを用いる傾向があるからである。
【0034】
ただし、あるメッセージ群において、他のメッセージに比べて対象者に与える影響が圧倒的に大きいと考えられるメッセージ(最善のメッセージ)が含まれる可能性も考えられる。そのようなメッセージ群において、最善のメッセージと他のメッセージとを同等に扱ってメッセージのランダム抽出を行うと、介入の機会損失につながるおそれがある。そのため、Epsilon-Greedy法などの強化学習の手法を利用して、各メッセージ群からメッセージを抽出しても良い。ここで、Epsilon-Greedy法とは、確率εでランダムに行動することにより探索を行い、確率(1-ε)で最も期待値の高い行動を選択するという手法である。具体的には、あるメッセージ群から、確率(1-ε)で最善のメッセージを選択し、確率εでそれ以外のメッセージからランダムに抽出しても良い。或いは、確率(1-ε)で一定の閾値以上の優秀なメッセージから1つのメッセージをランダムに抽出し、確率εで最新のメッセージを抽出しても良い。
【0035】
なお、あるBCTに対し、1つのメッセージしか紐づけられていない場合もあり、その場合、当該BCTからはその1つのメッセージが抽出される。
【0036】
<ナッジカクテル>
上述したように、介入を実行する際には、1つ以上のBCTに紐づけられたメッセージ群の各々から抽出されたメッセージによるメッセージセットが生成される。以下、このようなメッセージセットのことを「ナッジカクテル」と記す。
【0037】
本実施形態においては、介入のステージに応じて2種類のナッジカクテルが生成される。第1のナッジカクテル(第1のメッセージセット)は、介入の初期段階において全ての対象者に対して生成されるナッジカクテルのことである。以下、この第1のナッジカクテルのことを、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)型ナッジカクテルと記す。
【0038】
MECE型ナッジカクテルは、対象分野に関連する行動変容要因に作用する複数のBCTのうち、特定の行動変容要因にのみ作用するBCTに紐づけられたメッセージ群から抽出されたメッセージにより構成される。これは、BCTが受容された際に、いずれの行動変容要因が作用したかを容易に判別できるようにするためである。
【0039】
このようなMECE型ナッジカクテルは、特定の行動変容要因にのみ作用するBCTが、対象分野に関連する行動変容要因の全てについて選択され、選択されたBCTにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々から1つのメッセージを抽出することにより生成される。特定の行動変容要因にのみ作用するBCTを対象分野に関連する行動変容要因の全てについて選択するのは、対象者が反応する可能性のある行動変容要因を網羅するためである。
【0040】
第2のナッジカクテル(第2のメッセージセット)は、対象者に適応した行動変容要因に基づいて生成されるナッジカクテルであり、MECE型ナッジカクテルに対して何らかの反応があった対象者のために生成される。以下、この第2のナッジカクテルのことを、適応型ナッジカクテルと記す。
【0041】
適応型ナッジカクテルは、対象者からの反応に基づいて、対象分野に関連する複数の行動変容要因のうち、当該対象者が反応した行動変容要因を特定すると共に、特定された行動変容要因に作用する行動変容テクニックを選択し、選択された行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々から1つ以上のメッセージを抽出することにより生成される。
【0042】
MECE型及び適応型のいずれのナッジカクテルにおいても、各メッセージ群からナッジメッセージを対象者ごとにランダムに抽出するため、ナッジカクテルは対象者ごとに異なるものとなる。
【0043】
(行動支援方法の詳細)
次に本実施形態に係る行動支援方法におけるナッジカクテルの生成方法及び介入の評価方法を説明する。
【0044】
<座標系>
ここで、従来の行動支援方法においては、介入により対象者が行動変容を起こすまでの過程や理由が定性的に判断されていた。しかしながら、このような方法では、対象者ごとに個別化された介入を設計することが困難であった。
【0045】
これに対し、本実施形態においては、複数の行動変容要因を軸とする座標系を生成し、この座標系において目標座標又は目標領域(以下、これらをまとめて目標領域という)を設定する。そして、対象者が行動変容を起こしたか否かを、座標系において、対象者の座標が目標領域に近づいたか否かで評価する。以下、この座標系において算出される距離のことを「行動科学的距離(Behavioral Scientific Distance:BSD)」と記す。
【0046】
このような座標系において、対象者ごとに、現在の座標と、介入が目指すべき目標領域を設定することにより、現在座標から目標領域までの距離(BSD)を多次元ベクトルにより表現することができ、この距離を埋めるために採用すべきBCTを客観的且つ明確に可視化することが可能となる。
【0047】
以下、図1に示すフレームを例として、行動科学的距離に基づく介入の手順を説明する。
(1)座標軸の選定
まず、学術調査若しくは意識調査、或いは、行動科学に関する理論、対象者のペルソナ設定、行動プロセスマップ等に基づいて、対象分野における複数の行動変容要因を特定し、それらを座標軸として定義する。以下、図1に例示する行動変容要因のうち、「能力」を示す座標軸をC軸、「機会」を示す座標軸をO軸、「動機づけ」を示す座標軸をM軸と記す。
【0048】
ここで、複数の座標軸の単位は互いに共通である必要はなく、また、整数である必要もない。例えば、ワクチン接種への行動変容を促す介入を設計する場合、C軸は5段階評価、O軸はワクチン接種の予約サイトへのアクセス回数、M軸は予約サイトでの滞在秒数というように各座標軸を設定しても良い。このようなC軸、O軸、M軸により定義される3次元空間が、対象者の行動変容の過程を表現する座標系となる。
【0049】
(2)目標領域(座標)の設定
次に、選定された座標軸からなる座標系において、目標領域を設定する。目標領域は、介入対象の分野において、どのような状態にありどのような介入を受けた対象者が行動を起こしたといった情報をもとに設定される。目標領域は、ピンポイントの座標として設定されても良いし、例えば、「座標(c,o,m)のいずれかの値が3以上」といった広がりのある領域を設定されても良い。このように目標領域を設定することにより、当該分野における行動科学的特性や対象者の人間特性に応じて、対象者ごとに、行動変容への最短距離を明確に示すことができる。
【0050】
目標領域は、全ての対象者に対して共通に設定される。また、時間の経過や環境の変化等による行動変容要因への影響は、座標系における目標領域の設定を変更することで容易に表現することができる。なお、行動変容要因への影響としては、例えば、予防接種率の水準の変化、ユーザインタフェース(UI)やユーザエクスペリエンス(UX)の改善による利便性向上、無料受診期限が迫っていることなどが挙げられる。
【0051】
(3)対象者の座標設定
上記座標系に対し、対象者の初期座標は基本的に(c,o,m)=(0,0,0)に設定される。ただし、過去の受信歴や属性等の情報が得られている対象者については、一定の座標変換ルールに基づいて、個別に初期座標を設定しても良い。例えば、過去に受信歴のある対象者については、受信方法を理解している(即ち、Capacityがある)ため、初期座標は(c,o,m)=(1,0,0)に設定される。
【0052】
本実施形態においては、このように設定された座標系に基づいて、介入行動(メッセージの送信等)の決定や、介入行動の評価が実行される。
【0053】
(4)MECE型ナッジカクテルの生成
特定の行動変容要因にのみ作用するBCTは、1つの座標値のみが値を有し(ゼロ以外)、他の座標値がゼロのベクトルにより表される。MECE型ナッジカクテルは、このようなBCTベクトルの集合体に基づいて生成される。
【0054】
具体的には、BCTベクトルの総和が<+1,+1,+1>であり、且つ、構成するBCTベクトルの数が最小値となるような集合体を抽出する。なお、このような集合体が複数抽出される場合には、そのうちの1つの集合体を、対象者ごとにランダムに選択する。例えば図1に示すフレームの場合、動作指示ベクトル<+1,0,0>、社会的支援ベクトル<0,+1,0>、社会規範ベクトル<0,0,+1>の3つのBCTベクトルからなる集合体(3価のBCTベクトル)を抽出することができる。さらに、対象者ごとに、この集合体に含まれるBCTベクトルに紐づけられたメッセージ群から1つずつメッセージを抽出することにより、3つのメッセージからなるMECE型ナッジカクテル(3価のナッジカクテル)が生成される。なお、集合体に含まれるBCTベクトルの総和は、<+1,+1,+1>でなくともよい。例えば、図1のフレームでは、動作指示ベクトル<+1,0,0>、社会的支援ベクトル<0,+1,0>、社会規範ベクトル<0,0,+1>であるが、動作指示ベクトル<+1,0,0>、社会的支援ベクトル<0,+2,0>、社会規範ベクトル<0,0,+3>とし、総和が<+1,+2,+3>となる当該動作指示ベクトル、当該社会的支援ベクトル及び当該社会規範ベクトルが集合体として抽出されてもよい。このように、集合体には所定数のBCTベクトルが含まれ、当該所定数のBCTベクトルの総和は所定値であればよい。n価のナッジカクテルはn(n>0の整数)個の種別(すなわち、行動変容要因)のBCTベクトルに対応するメッセージを含んで構成されてもよい。
【0055】
(5)対象者の座標の更新
ナッジカクテルによる介入が実行されると、当該ナッジカクテルへの反応に応じて、対象者が反応した行動変容要因が特定され、座標系における当該対象者の座標が更新される。対象者が反応した行動変容要因は、対象者が受容したBCTから特定することができる。例えば、あるBCTに紐づけられたメッセージから誘導された予約サイトに対象者がアクセスした場合、そのメッセージに対応するBCTが特定され、図1に例示するフレームにより、このBCTが作用する行動変容要因を特定することができる。
【0056】
例えば、上述したMECE型ナッジカクテルに対し、ある対象者が全てのBCTを受容した場合、座標系における当該対象者の状態は、初期設定の座標(0,0,0)に対し、3価のBCTベクトル(<+1,0,0>、<0,+1,0>、<0,0,+1>)の分だけ変化したものみなされる。即ち、3価のBCTベクトルによる変化の総和は、
<+1,0,0>+<0,+1,0>+<0,0,+1>=<+1,+1,+1>
と示されるため、当該対象者の座標は、初期設定の座標(0,0,0)にこの変化分を加算して、(1,1,1)に変化する。
【0057】
このように、座標系における対象者の座標を更新することにより、対象者が反応した行動変容要因と、目標領域までの距離を客観的に把握することができる。
【0058】
(6)適応型ナッジカクテルの生成
適応型ナッジカクテルは、座標系における各対象者の現在の座標に基づいて生成される。詳細には、まず、対象者の現在の座標から最寄りの目標領域までの最短ルートを表すベクトル(以下、介入ベクトルとも記す)を算出する。最短ルートの候補が複数存在する場合には、対象者ごとにルートをランダムに選択しても良い。また、最短ルートの多寡に応じて、介入を継続する対象者に優先順位をつけて選別しても良い。例えば、目標領域から一定距離以上離れている対象者は、介入の対象外としても良い。
【0059】
次に、介入ベクトルを分解し、総和が介入ベクトルと等しくなるBCTベクトルの集合体を生成する。例えば、介入ベクトルが<+2,+2,+2>である場合、
[<+1,0,0>×2、<0,+1,0>×2、<0,0,+1>×2]、及び、
[<+2,+1,0>、<0,+1,0>、<0,0,+1>×2]
の2種類の集合体が候補となる。
【0060】
介入ベクトルと等価のBCTベクトルの集合体の候補が複数存在する場合には、対象者ごとに集合体がランダムに選択される。また、介入行動に制約があり、BCTベクトルの数が制限される場合(例えば、メッセージの送信費用に制約があり、送信できるメッセージの本数に上限がある場合)、候補の中から要件を満たす集合体がランダムに選択される。選択された集合体を構成するBCTベクトルに紐づけられたメッセージ群の各々から抽出されたメッセージのセットが、当該対象者の適応型ナッジカクテルとなる。
【0061】
適応型ナッジカクテルによる介入が実行されると、上述したように、当該ナッジカクテルへの反応に応じて、対象者が反応した行動変容要因が特定され、座標系における当該対象者の座標が更新される。そして、対象者の座標が目標領域に到達した場合には、介入行動は停止される。他方、対象者の座標が未だ目標領域に到達していない場合には、更新後の座標に基づいてさらに適応型ナッジカクテルが生成される。
【0062】
(ナッジカクテルの効果)
MECE型及び適応型という2種類のナッジカクテルを生成する理由は次のとおりである。即ち、対象者の行動変容要因は、日々変わる動的なものであると考えられる。そのため、ある一時点における対象者の状態を示す静的な個人情報に基づいて生成されるナッジカクテルでは、対象者の行動変容を促すことが困難になることが起こり得る。この点において、MECE型ナッジカクテルは、客観的な調査や理論に基づいて特定された複数の行動変容要因に作用するBCTを漏れなく重複なく組み合わせたものであるので、当該介入に関連するあらゆる行動変容要因に対して多角的にアプローチすることが可能となる。
【0063】
他方、適応型ナッジカクテルは、MECE型ナッジカクテルを受け取った対象者が反応した行動変容要因に作用するBCTからなるものである。従って、適応型ナッジカクテルを用いることにより、対象者からの反応に基づいて当該対象者の行動変容要因を動的に把握し、集約的に行動変容を促すアプローチを取ることが可能となる。
【0064】
このようなMECE型及び適応型のナッジカクテルを組み合わせることにより、最初は対象者の行動変容要因が不明であったとしても、これらのナッジカクテルによる介入を順次実行する過程で当該対象者の行動変容要因を把握し、効果的に行動変容を促すことが可能となる。
【0065】
ここで、ナッジカクテルを構成するメッセージの数、言い換えると、集合体を構成するBCTベクトルの数は、対象者の行動変容率の目標水準、介入に費すことができる予算及び時間(期間)、倫理的制約等の介入設計条件により決定することができる。ここで、倫理的制約とは、例えば、介入の回数が多すぎると対象者からの苦情につながる、対象者に高圧的な印象を与えてしまうといった倫理的な配慮のことである。例えば、3価のナッジカクテルが対象者全体の約6割への効果が見込めるのに対し、5価のナッジカクテルが対象者全体の約9割に効果が見込めると予測される場合、上述した介入設計条件に基づいて、3価と5価とのいずれにするかが決定される。
【0066】
なお、2回目以降のナッジカクテルの生成においては、当該対象者に対して過去に送信されたメッセージを除外した残りのメッセージ群からメッセージが抽出される。
【0067】
(行動支援システムの構成)
次に、本実施形態に係る行動支援システムの構成を説明する。以下においては、具体的な介入行動として、ナッジカクテルを構成するメッセージを、メールやショートメッセージ(SM)により対象者に送信するものとする。
【0068】
図3は、本実施形態に係る行動支援システムの概略構成の一例を示す図である。図3に示すように、行動支援システム1は、行動支援装置10及び端末20を含む。行動支援装置10は、対象者の行動変容を促す行動変容要因に基づくナッジを利用したメッセージを端末20に提供する情報処理装置である。
【0069】
端末20は、行動変容の対象者が使用する端末であり、例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレット、パーソナルコンピュータ等の各種の情報機器であればよい。端末20は、ショートメッセージ、Eメール等のメッセージの受信機能、例えば、LINE(登録商標)等の各種のソーシャルネットワークサービス(SNS)を利用可能であるものとする。
【0070】
図4は、行動支援システム1内の装置のハードウェア構成の一例を示す図である。図4に示すように、行動支援システム1内の各装置(例えば、行動支援装置10、端末20の各々)は、演算装置に相当するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ11と、記憶装置12と、通信装置13と、入出力装置14とを有する。これらの各構成は、バスを介して相互にデータ送受信可能に接続される。
【0071】
プロセッサ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)であり、記憶装置12に記憶されたプログラムの実行に関する制御やデータの演算、加工を行う制御部である。プロセッサ11は、入出力装置14及び/又は通信装置13から種々の入力データを受け取り、入力データの演算結果を入出力装置14に出力(例えば、表示)したり、記憶装置12に格納したり、又は、通信装置13を介して送信したりする。
【0072】
記憶装置12は、メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、の少なくとも一つである。行動支援装置10の記憶装置12は、プロセッサ11が実行する行動支援プログラムを記憶してもよい。当該記憶装置12は、「記憶部」等と呼ばれてもよい。
【0073】
通信装置13は、有線及び/又は無線ネットワークを介して通信を行う装置であり、例えば、ネットワークカード、通信モジュール、チップ、アンテナ等を含んでもよい。通信装置13は、「送信部」又は「受信部」等と呼ばれてもよい。
【0074】
入出力装置14は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス及び/又はマイク等の入力装置と、例えば、ディスプレイ及び/又はスピーカ等の出力装置とを含む。入出力装置は、「入力部」又は「出力部」等と呼ばれてもよい。
【0075】
以上説明したハードウェア構成は一例に過ぎない。行動支援システム1内の各装置は、図4に記載したハードウェアの一部が省略されていてもよいし、図4に記載されていないハードウェアを備えていてもよい。また、図4に示すハードウェアが1又は複数のチップにより構成されていてもよい。
【0076】
図5は、行動支援システム1内の装置の機能構成を示す図である。なお、図5は例示にすぎず、行動支援システム1内の各装置は、不図示の機能を備えてもよいことは勿論である。
【0077】
図5に示すように、行動支援装置10は、設定部101、メッセージ生成部102、記憶部103、ナッジカクテル生成部104、送信制御部105、取得部106、及び解析部107を備える。なお、取得部106が実現する機能の少なくとも一部は、通信装置13を用いて実現することができる。また、設定部101、メッセージ生成部102、ナッジカクテル生成部104、送信制御部105、及び解析部107は、プロセッサ11が、記憶装置12に記憶された行動支援プログラムを実行することにより実現することができる。また、当該行動支援プログラムは、記憶媒体に格納することができる。当該プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。非一時的な記憶媒体は特に限定されないが、例えば、USBメモリ又はCD-ROM等の記憶媒体であってもよい。また、記憶部103は、記憶装置12を用いて実現することができる。
【0078】
なお、本実施形態では、行動支援装置10が一体の装置として示されているが、複数の装置に分割されていても良い。例えば、設定部101及びメッセージ生成部102を別体の装置として構成し、当該別体の装置を、有線及び/又は無線ネットワークを介して行動支援装置10と接続しても良い。
【0079】
設定部101は、複数の行動変容要因と、該複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックとが関連付けられたフレームとを設定すると共に、複数の行動変容要因を軸とする座標系を生成し、該座標系における目標領域や、対象者の座標の初期設定等の各種設定を行う。
【0080】
メッセージ生成部102は、複数のBCTにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群を生成して記憶部103に格納する。各メッセージ群は、紐づけられたBCTを具体的に表現する1つ以上のメッセージを含む。
【0081】
メッセージ生成部102は、各メッセージ群に含まれるメッセージを、有線又は無線の通信ネットワーク又は記憶媒体を介して収集しても良いし、機械学習により自動生成しても良い。或いは、自動生成された文面に対してオペレータが手を入れたものをメッセージとして蓄積しても良い。また、メッセージ生成部102は、入出力装置14からテキスト入力されたメッセージを蓄積しても良いし、予め用意されたテンプレートを用いてメッセージを生成しても良い。
【0082】
記憶部103は、行動変容要因とBCTを関連付けたフレーム(図1参照)、設定部101により生成された座標系及び該座標系における各種設定情報、及び、各BCTに紐づけられたナッジメッセージ群(図2参照)等を記憶する。
【0083】
ナッジカクテル生成部104は、介入の段階に応じて、記憶部103に記憶されたナッジメッセージ群からメッセージを抽出することにより、ナッジカクテル(MECE型ナッジカクテル、適応型ナッジカクテル)を生成する。
【0084】
送信制御部105は、ナッジカクテル生成部104により生成されたナッジカクテルに含まれるメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する。送信制御部105の制御に従って、行動支援装置10の通信装置13は、対象者の端末20に対してメッセージを送信する。メッセージは、メールやSM(ショートメッセージ)を利用して送信することができる。ここで、メッセージの送信制御には、例えば、ナッジカクテル内の複数のメッセージの送信順序、各メッセージの送信日、各メッセージの送信時間帯、当該複数のメッセージを送信する時間間隔(送信頻度)、各メッセージの送信中止、各メッセージの送信回数等の制御が含まれてもよい。
【0085】
取得部106は、出力されたメッセージに対する対象者からのレスポンス情報を取得する。レスポンス情報は、メッセージを受信した対象者からの反応を表す情報であり、例えば、メッセージを含むショートメッセージ(SM)やメールの閲覧の有無、SMやメールに設けられたリンクに対するクリック率(Click Through Rate:CTR)、リンク先のサイトにおける滞在時間等の情報が挙げられる。取得部106は、対象者の端末20からのレスポンス情報をリアルタイムで取得してもよい。また、レスポンス情報は、対象者が反応した1つ以上のメッセージを識別する情報(例えばメッセージID)を含んでも良く、これにより、対象者が反応したメッセージが属するメッセージ群を判別することができる。
【0086】
解析部107は、各対象者からのレスポンス情報を解析し、解析結果に応じて、介入継続の要否や、生成するナッジカクテルの種類(MECE型又は適応型)等を判断する。具体的には、解析部107は、複数の行動変容要因のうち、レスポンス情報が取得された対象者が反応した行動変容要因を抽出する。
【0087】
(行動支援システムの動作)
図6は、本実施形態に係る行動支援システムの動作を示すフローチャートである。なお、図6に示す行動支援システムの動作は一例にすぎず、図示するものに限られない。また、図7及び図8は、MECE型ナッジカクテルの具体例を示す模式図である。図9は、適応型ナッジカクテルの具体例を示す模式図である。
【0088】
まず、事前に、各種調査や論文等を利用して、対象者のペルソナと行動プロセスマップなどを通じて、介入の対象分野における複数の行動変容要因を特定しておく。なお、一つ又は複数の行動変容要因の特定は、上記に限られない。例えば、価数が大きいMECE型ナッジカクテルを使うことで、一以上の行動変容要因を特定してもよい。つまりMECE型ナッジカクテルを用いた一回目の介入により行動変容要因を絞り込み(座標軸数の確定)、MECE型ナッジカクテルを用いた2回目の介入により初期座標が設定されてもよい。また、対象者のペルソナ及び/又は行動プロセスマップは、決済アプリや、ソーシャルネットワークサービス(SNS)を通じて収集されたデータに基づいて設定されてもよい。
【0089】
図6に示すように、行動支援装置10は、特定された行動変容要因に基づいて、座標系の生成及び各種設定を行う(ステップS101)。即ち、行動変容要因とBCTとを関連付けたフレーム(図1参照)に基づいてBCTベクトルを定義すると共に、複数の行動変容要因を座標軸とする座標系を生成し、該座標系における目標領域及び対象者の初期座標を設定する。
【0090】
続いて、行動支援装置10は、各BCT(行動変容テクニック)に対応する複数のメッセージを生成する(ステップS102)。生成されたメッセージは、対応するBCTに紐づけて記憶部103に記憶される。
【0091】
続いて、行動支援装置10は、対象者ごとにMECE型ナッジカクテルを作成する(ステップS103)。上述したように、MECE型ナッジカクテルにおいては、複数のBCTにそれぞれ紐づけられたメッセージ群の各々からメッセージがランダムに抽出されるため、各対象者に対して異なるメッセージセットが作成される。
【0092】
具体的には、図7に示すように、対象者Xのためには、図2に示すナッジメッセージ群のうち「動作指示」に紐づけられたメッセージ群から抽出された文面Bと、「社会的支援」に紐づけられたメッセージ群から抽出された文面Dと、「社会規範」に紐づけられたメッセージ群から抽出された文面JとからなるMECE型ナッジカクテルが生成される。同様に、対象者Yのために、「動作指示」に紐づけられたメッセージ群から抽出された文面Bと、「社会的支援」に紐づけられたメッセージ群から抽出された文面Eと、「社会規範」に紐づけられたメッセージ群から抽出された文面HとからなるMECE型ナッジカクテルが生成される。対象者Zについても同様である。
【0093】
続いて、行動支援装置10は、生成したMECE型ナッジカクテルを各対象者に送信する(ステップS104)。この際、1つのナッジカクテルに含まれる全てのメッセージを一括して送信しても良いし、一定期間を開けながら1つ以上のメッセージを順次送信しても良い。
【0094】
なお、1回の介入(ナッジカクテルの生成機会)において設定されたメッセージの送信回数に対し、ナッジカクテルを構成するBCTの数が少ないという場合があり得る。このような場合、1種類のBCTに紐づけられたメッセージ群から抽出されるメッセージの数を増やしても良い。例えば、設定された送信回数が3回で、BCTが2つという場合、影響が相対的に大きいと考えられるBCTに対応付けられたメッセージ群から2つのメッセージをランダムに抽出しても良い。或いは、各BCTに紐づけられたメッセージ群からメッセージを1つずつランダムに抽出し、さらに、2つのメッセージ群全体(抽出済みのメッセージを除く)から1つのメッセージをランダムに抽出しても良い。
【0095】
また、ナッジカクテルに含まれるメッセージをメールやSMでメッセージを送信する代わりに、ヒートマップ分析が可能な動画やウェブサイトという形態でナッジカクテルを送信しても良い。
【0096】
その後、さらにメッセージを送信する機会がない場合(ステップS105:No)、行動支援装置10は介入行動を終了する。他方、さらにメッセージの送信が行われる場合(ステップS105:Yes)、行動支援装置10は、対象者ごとに、送信されたMECE型ナッジカクテルの行動変容要因への反応を確認する(ステップS106)。
【0097】
行動支援装置10は、MECE型ナッジカクテルに対して何ら反応が得られない対象者に対し(ステップS107:No)、再びMECE型ナッジカクテルを作成する(ステップS103)。ただし、2回目以降に生成されるMECE型ナッジカクテルにおいては、抽出対象となる各メッセージ群から、当該対象者に対して出力済みのメッセージを除くメッセージがランダムに1つずつ抽出される。例えば、対象者Yからレスポンス情報が取得されなかった場合、当該対象者Yのためには、図8に示すように、「動作指示」に紐づけられたメッセージ(図2参照)のうち、送信済みの文面B以外のメッセージからランダムに抽出された1つのメッセージ(例えば文面C)と、「社会的支援」に紐づけられたメッセージのうち、送信済みの文面E以外のメッセージからランダムに抽出された1つのメッセージ(例えば文面F)と、「社会規範」に紐づけられたメッセージのうち、送信済みの文面H以外のメッセージからランダムに抽出された1つのメッセージ(例えば文面J)とからなるMECE型ナッジカクテルが生成される。
【0098】
他方、行動支援装置10は、何らかの反応が得られた対象者について(ステップS107:Yes)、座標系における座標を更新する(ステップS108)。
【0099】
続いて、行動支援装置10は、当該対象者に対し、適応型ナッジカクテルを生成する(ステップS109)。例えば、更新後の対象者Xの座標に基づいて介入ベクトル<+2,+2,+2>が算出され、この介入ベクトルと等価のBCTベクトルの集合体[<+2,+1,0>、<0,+1,0>、<0,0,+1>×2]が選択された場合、対象者Xのために、図9に示すように、「社会的支援」と紐づけられたメッセージ(図2参照)のうち、送信済みの文面D以外のメッセージからランダムに抽出された1つのメッセージ(例えば文面E)と、「社会規範」に紐づけられたメッセージのうち、送信済みの文面J以外のメッセージからランダムに抽出された2つのメッセージ(例えば文面H及びI)と、「段階的タスク設定」に紐づけられたメッセージからランダムに抽出された1つメッセージ(例えば文面K)とからなる適応型ナッジカクテルが生成される。なお、介入ベクトルの価数nは、集合体に含まれるBCTベクトルの種別(すなわち、BCTベクトルが示す行動変容要因)の数と等しくともよい。このように、集合体に同一の種別(例えば、上記<0,0,+1>)の複数のBCTベクトルが含まれる場合、逓減効果、スパム判定回避の観点から、当該複数のBCTベクトルの数と等しい数のメッセージが抽出されてもよいし、当該複数のBCTベクトルの数より少ない数のメッセージが抽出されてもよい。
【0100】
続いて、行動支援装置10は、生成した適応型ナッジカクテルを各対象者に送信する(ステップS110)。送信回数及び方法については、ステップS104と同様である。
【0101】
その後、さらにメッセージを送信する機会がない場合(ステップS111:No)、行動支援装置10は介入行動を終了する。他方、さらにメッセージの送信が行われる場合(ステップS111:Yes)、行動支援装置10は、対象者ごとに、送信された適応型ナッジカクテルの行動変容要因への反応を確認する(ステップS112)。
【0102】
行動支援装置10は、適応型ナッジカクテルに対して何ら反応が得られない対象者に対し(ステップS113:No)、当該対象者に対して送信されたMECE型ナッジカクテルの行動変容要因への反応を確認する(ステップS106)。
【0103】
他方、行動支援装置10は、適応型ナッジカクテルに対して何らかの反応が得られた対象者について(ステップS113:Yes)、座標系における座標を更新する(ステップS114)。そして、更新後の座標が目標領域に到達している場合(ステップS115:Yes)、行動支援装置10は当該対象者への介入を停止する。他方、更新後の座標が目標領域に到達していない場合(ステップS115:No)、行動支援装置10は、当該対象者に対し、再び適応型ナッジカクテルを作成する(ステップS109)。
【0104】
以上説明したように、本実施形態によれば、対象者の個人情報を用いることなく、対象者の行動変容を効果的に促すことを可能となる。
【0105】
また、本実施形態によれば、MECE型ナッジカクテルにより、最初から重複のない網羅的な介入を行うことができるため、従来よりも短時間で対象者の行動変容を起こすことが可能となる。
【0106】
また、本実施形態によれば、時間の経過や環境の変化による行動変容要因への影響が生じたとしても、適応型ナッジカクテルによりそのような影響を柔軟に取り入れることができる。
【0107】
また、本実施形態によれば、ナッジカクテルの生成過程にランダム性を取り入れることで、介入設計者が勘と経験に基づいてナッジを選択する従来の介入設計と比較して、安定した介入効果を得ることができる。
【0108】
また、本実施形態によれば、COM-BモデルやIBMにより規定される要因を用いて、行動変容要因を特定することにより、行動科学の側面から質を担保することができる。さらに、各メッセージ群からランダムにメッセージを抽出してナッジカクテルを生成するので、行動科学によっては制御しきれない不確実性によるリスクを分散することが可能となる。
【0109】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態で説明したフローチャート、シーケンス、実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0110】
1…行動支援システム、10…行動支援装置、11…プロセッサ、12…記憶装置、13…通信装置、14…入出力装置、20…端末、101…設定部、102…メッセージ生成部、103…記憶部、104…ナッジカクテル生成部、105…送信制御部、106…取得部、107…解析部
【要約】
【課題】対象者の個人情報を使用したり、対象者に対して有効な情報提供等の知識を事前に取得したりすることなく、対象者の行動変容をより効果的に支援する技術を提供すること。
【解決手段】行動支援システムは、複数の行動変容要因のうちの1つ以上の行動変容要因に作用する複数の行動変容テクニックにそれぞれ紐づけられた複数のメッセージ群であって、各メッセージ群は1つ以上のメッセージを含む、複数のメッセージ群を記憶する記憶部と、複数のメッセージ群のうち1つ以上のメッセージ群の各々からメッセージを抽出し、該抽出されたメッセージからなるメッセージセットを、対象者ごとに生成する生成部と、メッセージセット内のメッセージを1回又は複数回に分けて対象者に出力するように制御する制御部と、を備える。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9