(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】放射性コンクリートスラッジを含む排水の浄化方法及び浄化装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20220425BHJP
【FI】
G21F9/06 G
G21F9/06 521A
(21)【出願番号】P 2017101609
(22)【出願日】2017-05-23
【審査請求日】2020-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】並木 千晶
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 由樹
(72)【発明者】
【氏名】澤田 紘子
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄生
【審査官】関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145619(JP,A)
【文献】特開2014-213479(JP,A)
【文献】国際公開第2007/052618(WO,A1)
【文献】特開2009-095774(JP,A)
【文献】特開2008-292228(JP,A)
【文献】特開2006-234620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/66-1/68
E01D1/00-24/00
G21F9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性のコンクリート構造物を切断する際に発生し、放射性物質であるSrおよびCaが含まれる放射性コンクリートスラッジを含む排水の浄化方法であって、
前記排水にpH調整剤として炭酸ガスまたは空気を添加して
、前記排水中に溶解したCaが固形化され、かつSrを固形分中に沈降させるpHに、前記排水のpHを調整するpH調整工程と、
前記pHが調整され、固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaが含まれた固形分を含む排水を固液分離して前記排水中の固形分を分離する固液分離工程と
を具備し、
固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaを前記固形分中に固定化させることを特徴とする排水浄化方法。
【請求項2】
前記pH調整工程において、pH調整剤を添加して前記排水のpHを10.4~12.5の範囲に調整することを特徴とする請求項1に記載の排水浄化方法。
【請求項3】
前記pH調整工程において、前記排水の温度は常温であることを特徴とする請求項1または2に記載の排水浄化方法。
【請求項4】
放射性のコンクリート構造物を切断する際に発生し、放射性物質であるSrおよびCaが含まれる放射性コンクリートスラッジを含む排水を処理する排水浄化装置であって、
前記排水にpH調整剤として炭酸ガスまたは空気を添加して前記排水を収容する収容槽と、
前記収容槽内の排水に前記pH調整剤を添加
して前記排水中に溶解したCaが固形化され、かつSrを固形分中に沈降させるpHに調整するpH調整剤添加装置と、
前記pH調整剤が添加され、固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaが含まれた固形分を含む排水を固液分離して前記排水中の固形分を分離する固液分離装置とを具備し、固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaを前記固形分中に固定化させることを特徴とする排水浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性コンクリートスラッジを含む排水の浄化方法及び浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な建設現場等におけるコンクリート構造物の解体・切断時には、ダスト発生防止のために水散布が行われる。この際、コンクリートや金属粉を含む切削排水が発生する。一般的な建設現場等で発生する切削排水は、沈降分離によって上澄み液と沈降物に分離され、上澄み液は排水され、沈降物は開放系で輸送可能な状態まで脱水・乾燥処理される。また、上記沈降分離において、固形分を沈降しやすくするために、有機系高分子剤を添加することも行われる。
【0003】
コンクリート構造物が原子力施設である場合、廃炉工事などによる、その解体・切断時には、放射性の切削排水が大量に発生することが予想される。このような放射性切削排水の処理においては、切削排水が放射性物質を含むため、安全上、一般建設現場等で行われるような開放系での処理ができない。また、固形分を沈降しやすくするために、有機系高分子剤を添加した場合、固形分中に混在する有機系高分子剤分解することが考えられ、長期の安全性を担保できないおそれがある。
【0004】
このような放射性切削排水の浄化方法として、放射性コンクリートスラッジを含む廃液を脱水処理し、その後中和処理して放流する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
切削排水には、コンクリートのスラッジ分が含まれているため、固形分濃度が高い(例えば、10g/L程度)ことや、pHが高いという特徴がある。このような、コンクリートスラッジを含む排水を脱水処理する場合、液中に溶解された、コンクリート由来のカルシウムが浮遊物質となるため、ろ過性が悪いという課題があった。一方、放射性物質を含む排水に中和処理を施して、カルシウムを固形化し、その後、ろ過しようとすると、中和によって排水のpHが下がり、固形分中に含有された放射性物質が溶解して液中に溶出するという課題があった。
【0007】
本発明は、放射性のコンクリートスラッジを含む排水の処理に際して、排水のろ過性を向上させるとともに、放射性物質を固形分中に固定化することのできる放射性コンクリートスラッジを含む排水の浄化方法及び浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の排水浄化方法の一態様は、放射性のコンクリート構造物を切断する際に発生し、放射性物質であるSrおよびCaが含まれる放射性コンクリートスラッジを含む排水の浄化方法であって、前記排水にpH調整剤として炭酸ガスまたは空気を添加して、前記排水中に溶解したCaが固形化され、かつSrを固形分中に沈降させるpHに、前記排水のpHを調整するpH調整工程と、前記pHが調整され、固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaが含まれた固形分を含む排水を固液分離して前記排水中の固形分を分離する固液分離工程とを具備し、固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaを前記固形分中に固定化させる。
【0009】
本発明の排水浄化装置の一態様は、放射性のコンクリート構造物を切断する際に発生し、放射性物質であるSrおよびCaが含まれる放射性コンクリートスラッジを含む排水を処理する排水浄化装置であって、前記排水にpH調整剤として炭酸ガスまたは空気を添加して前記排水を収容する収容槽と、前記収容槽内の排水に前記pH調整剤を添加して前記排水中に溶解したCaが固形化され、かつSrを固形分中に沈降させるpHに調整するpH調整剤添加装置と、前記pH調整剤が添加され、固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaが含まれた固形分を含む排水を固液分離して前記排水中の固形分を分離する固液分離装置とを具備し、固形化された前記放射性物質であるSrおよびCaを前記固形分中に固定化させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放射性のコンクリートスラッジを含む排水の処理に際して、排水のろ過性を向上させるとともに、放射性物質を固形分中に固定化することのできる放射性コンクリートスラッジを含む排水の浄化方法及び浄化装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る排水浄化方法を概略的に示すフロー図である。
【
図2】実施形態に係る排水浄化装置を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る排水浄化方法を概略的に示すフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係る排水浄化方法は、放射性コンクリートスラッジを含む排水(以下、単に「排水」という。)1のpHを調整するpH調整工程S10と、pHの調整された排水1を固液分離して排水1中の固形分2を分離する固液分離工程S20とを有している。
【0013】
また、
図2は、本実施形態に係る排水浄化装置10を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係る排水浄化装置10は、排水1を収容する収容槽11と、収容槽11内の排水1にpH調整剤4を添加するpH調整剤添加装置12と、pH調整剤4の添加された排水1を固液分離する固液分離装置13を備えている。
【0014】
排水1は、放射性コンクリートスラッジを含む排水である。排水1は、例えば、原子力施設等、放射性のコンクリート構造物を切断する際に発生し、コンクリートスラッジと水とを含む。また、コンクリートスラッジには放射性物質が含まれる。このような放射性物質としては、例えば、放射性のSr、Ca、Fe、Cs等である。
【0015】
本実施形態に係る排水浄化方法では、
図2に示す収容槽11内に排水1が収容され、pH調整剤添加装置12によって、収容槽11内の排水1にpH調整剤4が添加される(pH調整工程S10)。
【0016】
pH調整剤4は、例えば炭酸ガスである。排水1中に炭酸ガスが添加されることで、水中に溶解したCaが固形化される。そのため、排水1のろ過比抵抗が低下され、続く固液分離工程S20における排水1のろ過性を向上させることができる。また、排水1中に炭酸ガスが添加されることで、Ca以外にも、放射性物質、例えばSrを固形分中に沈降させて、放射性物質の液中濃度を低減することができる。
【0017】
排水1中に炭酸ガスを添加する方法としては、排水1中に常温で二酸化炭素のガスをバブリングする方法が簡便である。また、二酸化炭素を含む気体をバブリングしてもよい。例えば、二酸化炭素が入手し難い場合には、二酸化炭素を含む空気を用いることができる。
【0018】
炭酸ガスの添加された排水1のpHは10.4~12.5の範囲であることが好ましい。排水1のpHが10.4以上であると、水中のCa濃度低下によるろ過性の向上効果が得易い。また、排水1のpHが12.5以下であると、放射性物質の沈降による水中濃度の低減効果が向上する。
【0019】
炭酸ガスの添加量は例えば、排水1中のCa濃度や放射性物質濃度にもよるが、排水1の1Lあたり30~150mL/minである。炭酸ガスの添加量は、多くなると放射性物質の沈降効果の向上が顕著であるため、特に好ましくは排水1Lあたり150mL/min程度である。また、空気の添加量は例えば、排水1の1Lあたり5L/minである。
【0020】
次いで、
図2に示す固液分離装置13によって、pH調整剤4を含む排水1が固液分離される。これにより、排水1は、固形分2と、固形分2の除去された上澄み液3に分離される(固液分離工程S20)。固液分離装置13としては、フィルタープレス装置等が用いられる。この際、pH調整工程S10において、Caが固形化されることによって液中のCa濃度が低減されているため、pH調整を行わずに固液分離を行う場合に比べてろ過性が向上される。
【0021】
固形分2中には、コンクリートスラッジのほか、排水1中に溶解してpH調整剤4により固形化した放射性のCa、Sr等の放射性物質が含まれる。固形分2は、安定化処理(S30)された後、保管ないし貯蔵される。
【0022】
上澄み液3は、必要に応じて、吸着剤等によって上澄み液3中に残留する放射性物質が吸着除去され、さらに、ろ過処理(S40)されるなどの後処理が施されて環境排水基準を満たした後、放出される。
【0023】
以上説明した本実施形態の排水の浄化方法及び浄化装置によれば、放射性のコンクリートスラッジを含む排水の処理に際して、排水のpH調整を行った後に固液分離をすることで、排水のろ過性を向上させるとともに、放射性物質を固形分中に固定化することができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本実施例では、pH調整による放射性物質の沈降効果について調べた。排水として、酸化ケイ素(SiO2)や炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とするコンクリートをバンドソーで切断した際に発生したコンクリート切削排水を用いた。コンクリート切削排水を撹拌し、その後1時間静置して、上澄み液の1.0Lを分取した。上澄み液のpHは12.7であった。この上澄み液に炭酸ガスを150mL/minの流量で添加した。炭酸ガスの添加を続けながら、添加開始から表1に示す時間経過毎に上澄み液のpH測定とサンプリングを行い、サンプリングした上澄み液中の元素濃度を誘導結合プラズマ質量分析機(ICP-MS)によって測定した。結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
表1に示す結果から、コンクリート切削排水中のCa、Sr濃度は、炭酸ガスを添加することで、添加前に対して99%以上低減されたことが分かる。なお、実施例1では、コンクリート切削排水のろ過比抵抗は、炭酸ガス添加前で5.7×1013m/kg、炭酸ガス5分添加後で3.0×1011m/kgと、炭酸ガス添加により低減された。
【0027】
(実施例2)
本実施例では、上記実施例1と同様のコンクリート切削排水の上澄み液(pH12.9)の1.0Lに、炭酸ガスを30~40mL/minの流量で添加した。炭酸ガスの添加を続けながら、炭酸ガスの添加開始から表2に示す時間経過毎にpHの測定と上澄み液のサンプリングを行い、サンプリングした上澄み液中の元素濃度をICP-MSによって測定した。結果を表2に示す。なお、実施例2では、コンクリート切削排水のろ過比抵抗は、炭酸ガス添加前で5.7×1013m/kg、炭酸ガス60分添加後で3.3×1011m/kgと、炭酸ガス添加により低減された。
【0028】
【0029】
表2に示す結果から、コンクリート切削排水中のCa、Sr濃度は炭酸ガスを添加することで、添加前に対してCa濃度は99%以上、Sr濃度は最大で96%低減されたことが分かる。
【0030】
(実施例3)
本実施例では、上記実施例1と同様のコンクリート切削排水の上澄み液(pH12.6)の1.0Lに、空気を5L/minの流量で添加した。空気の添加を続けながら、空気の添加開始から表3に示す時間経過毎にpHの測定と上澄み液のサンプリングを行い、サンプリングした上澄み液中の元素濃度をICP-MSによって測定した。結果を表3に示す。なお、実施例3では、コンクリート切削排水のろ過比抵抗は、空気添加前で5.7×1013m/kg、空気1000分添加後で3.7×1010m/kgと、空気添加により低減された。
【0031】
【0032】
表3に示す結果から、コンクリート切削排水中のCa、Sr濃度は、空気の添加によっても、低減されたことが分かる。
【0033】
上記実施例より、実施形態の排水の浄化方法及び浄化装置によれば、放射性のコンクリートスラッジを含む排水の処理に際して、排水のpH調整を行った後に固液分離をすることで、排水のろ過性を向上させるとともに、放射性物質を固形分中に固定化することができる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1…排水、2…固形分、3…上澄み液、4…pH調整剤、10…排水浄化装置、11…収容槽、12…pH調整剤添加装置、13…固液分離装置、S10…pH調整工程、S20…固液分離工程。