(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】マスクブランクスおよびその製造方法、バイナリマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/58 20120101AFI20220425BHJP
G03F 1/80 20120101ALI20220425BHJP
H01L 21/308 20060101ALI20220425BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
G03F1/58
G03F1/80
H01L21/308 F
C23C14/06 N
(21)【出願番号】P 2017123202
(22)【出願日】2017-06-23
【審査請求日】2020-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】野口 鳩徳
(72)【発明者】
【氏名】磯 博幸
(72)【発明者】
【氏名】望月 聖
(72)【発明者】
【氏名】影山 景弘
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-173053(JP,A)
【文献】特開2007-256940(JP,A)
【文献】特開2010-038930(JP,A)
【文献】特開2012-113297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
該透明基板の表面に形成されたクロムを主成分とする層を備えたマスクブランクスであって、
前記クロムを主成分とする層が、ニッケルを主成分とする
サイドエッチング速度小設定層の上に積層され、
前記
サイドエッチング速度小設定層が、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属、および炭素、を含有する材料からなり、前記クロムを主成分とする層を前記
サイドエッチング速度小設定層に対して電気化学的に貴として
、前記クロムを主成分とする層において膜厚方向のエッチング速度に対してサイドエッチング速度を小さく設定することを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記クロムを主成分とする層が、前記
サイドエッチング速度小設定層に積層されることにより、前記透明基板に積層された場合に比べてサイドエッチング速度が0.12倍程度より小さく設定されてなることを特徴とする請求項1記載のマスクブランクス。
【請求項3】
前記クロムを主成分とする層が、複数層として成膜されることを特徴とする請求項1または2記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記クロムを主成分とする層が、遮光層とされることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に前記
サイドエッチング速度小設定層を形成する工程と、
前記ニッケルを主成分とする層に、前記クロムを主成分とする層を積層する工程と、を有し、
前記
サイドエッチング速度小設定層を形成する工程が、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属をターゲットとし、成膜ガスとして二酸化炭素を含有するスパッタリングにより成膜されることを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項6】
前記クロムを主成分とする層を積層する工程が、単数層または複数層として成膜されることを特徴とする請求項5記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか記載のマスクブランクスによって製造されることを特徴とするバイナリマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクスおよびその製造方法、バイナリマスクに関し、特に高精細が要求される大板のマスクブランクスに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
このような大板用のマスクブランクスにおいて、バイナリマスクとしてクロムを含む層を遮光膜としたマスクが用いられている。
【0003】
特許文献1に、示すように大板用クロムマスクは、ウェットエッチングプロセスで、クロム系材料からなるブランクスとして作製される。この際、クロムエッチャントに浸漬、またはスプレー状にして、エッチングをおこなっている。
これにより、透明基板の露出したパターンの配置されていない透光領域と、透明基板に遮光層が積層された遮光領域と、が順に隣接して配置されたマスクを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにFPD等を製造する大板のバイナリマスクでは、半導体製造用途に比べて透明基板面積が大きくなる(透明基板が大きい)ため、エッチング開始時にエッチング液のかかり方、あるいは、食い付きに応じて、基板面内方向におけるバラツキが発生しやすいという問題があった。
【0006】
特に、エッチング開始時のバラツキは、パターン線幅のバラツキに直接的に関係するため好ましくない。このパターン線幅はエッチングにおけるサイドエッチング量に影響を受ける。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.大板のマスクブランクスにおいて、パターン線幅のバラツキが大きくなることを防止可能とすること。
2.サイドエッチング量が小さいクロム系遮光層を有するバイナリマスクとなるマスクブランクスを提供可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、以下のように対策をおこなった。
パターン形成工程におけるエッチング時には、クロム系材料からなる層の上側にレジストパターンが形成されている。形成されるマスクパターンにおけるパターン線幅の正確性は、レジスト像のパターンを、いかに忠実に再現するか(転写するか)によって左右される。
【0009】
ここで、パターン形成においては、均一に形成された遮光層を膜厚方向にエッチングすることでパターンを形成するが、同時に、サイド方向、つまり、透明基板面内方向にもエッチングがおこなわれる。
【0010】
また、エッチング処理においては、エッチング液が接触した瞬間にエッチングが開始される。FPDなどに用いられる大板の基板においては、エッチャントの接触時間が基板面内位置(場所)によって時間的にズレを生じ、エッチング開始時間に10~20秒ぐらいの差が出る可能性がある。したがって、エッチング処理時間が、面内位置で時間的バラツキを発生することになる。
【0011】
このような面内でのエッチング開始時間のバラツキが発生した場合、均一な膜厚を有する層に対して膜厚方向にエッチングをおこなうのに必要な時間は基板面内方向位置で一定であるため、サイドエッチング量に応じた分だけ、パターン線幅に面内バラツキが発生してしまう。
【0012】
このため、マスクブランクスにおける横向きのエッチング量、つまり、サイドエッチング制御性によってパターン線幅の正確性が左右されることになる。
【0013】
したがって、サイドエッチングレートの小さいマスクブランクスが得られれば、パターン線幅のバラツキを小さく抑えられることになる。つまり、微細なパターンを正確に形成したいと思ったら、クロムのサイドエッチング量は小さい方が好ましいことになる。
【0014】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に形成されたクロムを主成分とする層を備えたマスクブランクスであって、
前記クロムを主成分とする層が、ニッケルを主成分とするサイドエッチング速度小設定層の上に積層され、
前記サイドエッチング速度小設定層が、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属、および炭素、を含有する材料からなり、前記クロムを主成分とする層を前記サイドエッチング速度小設定層に対して電気化学的に貴として、前記クロムを主成分とする層において膜厚方向のエッチング速度に対してサイドエッチング速度を小さく設定することにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスにおいて、前記クロムを主成分とする層が、前記サイドエッチング速度小設定層に積層されることにより、前記透明基板に積層された場合に比べてサイドエッチング速度が0.12倍程度より小さく設定されてなることがより好ましい。
本発明のマスクブランクスは、前記クロムを主成分とする層が、複数層として成膜されることができる。
また、本発明において、前記クロムを主成分とする層が、遮光層とされる手段を採用することもできる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に前記ニッケルを主成分とする層を形成する工程と、
前記サイドエッチング速度小設定層に、前記クロムを主成分とする層を積層する工程と、を有し、
前記サイドエッチング速度小設定層を形成する工程が、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属をターゲットとし、成膜ガスとして二酸化炭素を含有するスパッタリングにより成膜されることができる。
また、前記ニッケルを主成分とする層を形成する工程において、成膜ガスとして二酸化炭素を含有するか否かを設定することが好ましい。
本発明においては、前記クロムを主成分とする層を積層する工程が、単数層または複数層として成膜されることができる。
本発明のバイナリマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクスによって製造されることができる。
【0015】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に形成されたクロムを主成分とする層を備えたマスクブランクスであって、
前記クロムを主成分とする層が、ニッケルを主成分とする層に積層されて膜厚方向のエッチング速度に対してサイドエッチング速度が小さく設定されてなることにより、マスクブランクスにおける膜厚によって所定時間として設定される膜厚方向エッチング時間(縦方向エッチング時間)での膜厚方向のエッチング量に対して、同じ時間における横向きのエッチング量、つまり、サイドエッチングレートを小さくして、サイドエッチング制御性が向上したマスクブランクスとすることができる。これにより、面内でのエッチング開始時間のバラツキが発生した場合でも、サイドエッチング量(サイドエッチングレート)を小さく設定した分に応じて、パターン線幅のバラツキを小さく抑えられることになる。つまり、クロムのサイドエッチング量を小さいマスクブランクスとすることで、パターン線幅に面内バラツキのない微細なパターンを正確に形成することが可能となる。
【0016】
本発明者らは、ウェットエッチングにおけるサイドエッチングレートついて種々検討をおこない、マスクブランクスを構成する各膜の電気化学的な関係に着目した。そして、上層の膜が下層の膜に対して電気化学的に貴である場合には、膜へのサイドエッチングを小さく設定することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明では、クロムを主成分とする層のサイドエッチング速度を膜厚方向のエッチング速度に対して小さく設定するために、クロムを主成分とする層を、ニッケルを主成分とする層に積層している。
【0018】
本発明のマスクブランクを用いてマスクを作製する場合、上側(透明基板から離間する側・外側)位置のクロムを主成分とする層が下側(透明基板に近接した側・内側)位置のニッケルを主成分とする層に対して電気化学的に貴であるので、上側のクロムを主成分とする層のエッチングが膜厚方向最下部に到達して、下側のニッケルを主成分とする層がエッチャントに接触した状態として、上側のクロムを主成分とする層および下側のニッケルを主成分とする層をウェットエッチングする際には、上側のクロムを主成分とする層において、サイドエッチングが抑制されて、膜厚方向のエッチングに対してサイドエッチング速度が小さくなり、膜厚方向と横方向とで等方的であったエッチング速度に差が出ると考えられる。
【0019】
なお、本発明において、サイドエッチング速度、とは、被エッチング膜の上にレジストパターンを形成し、あらかじめジャストエッチング時間として設定された所定のエッチング時間として、所定の線幅となるように被エッチング膜をエッチングし、その後、あらかじめオーバーエッチング時間として設定された所定のエッチング時間によって、さらに拡大した線幅との差から、被エッチング膜における拡幅した方向(サイド方向、基板面内方向)へのサイドエッチング速度を定義するものとする。
【0020】
本発明のマスクブランクスにおいて、前記クロムを主成分とする層が、前記ニッケルを主成分とする層に積層されることにより、前記透明基板に積層された場合に比べてサイドエッチング速度が0.12倍程度より小さく設定されてなることにより、上側(透明基板から離間する側・外側)位置のクロムを主成分とする層が下側(透明基板に近接した側・内側)位置のニッケルを主成分とする層に対して電気化学的に貴となるので、クロムを主成分とする層を透明基板に直接積層した場合に比べて、クロムを主成分とする層のサイドエッチングを約一桁小さく設定することができる。
【0021】
ここで、ニッケルを主成分とする層に積層したクロムを主成分とする層のサイドエッチングレートが透明基板に積層した場合に比べて小さくなる割合は、ニッケルを主成分とする層によって設定することが可能である。具体的には、後述するように、ニッケルを主成分とする層の成膜条件を設定することで、透明基板に成膜した場合に膜厚方向と横方向とで等方的であったエッチング速度を、膜厚方向のエッチングに対してサイドエッチング速度が所定範囲で小さくなるように制御することができる。
【0022】
このように、クロムを主成分とする層のサイドエッチング量を小さくすることで、サイドエッチング量が大きい場合に発生するパターン線幅のバラツキを防止あるいは極めて小さく抑制することが可能となる。これにより、パターン形成においてレジストに形成された像を正確に転写して、所望のパターンを形成することが容易となる。特に、基板面内方向におけるパターン形成時の線幅バラツキを抑制して、面内全域において正確な線幅を形成可能な制御のしやすいマスクブランクスを提供することができる。これにより、エッチング条件によらずに、高精細パターンを容易に形成することが可能なマスクブランクスを提供することができる。
【0023】
本発明のマスクブランクスは、前記ニッケルを主成分とする層が、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属を含有する材料からなることにより、クロムを主成分とする層をエッチングする際に用いるクロムエッチャントに対してエッチング耐性の有無を設定し、かつ、クロムを主成分とする層に対して電気化学的に貴となるように設定して、クロムを主成分とする層のサイドエッチングレートを制御することが可能となる。
【0024】
本発明のマスクブランクスは、前記クロムを主成分とする層が、複数層として成膜されることにより、同じクロムエッチャントによるエッチングを可能としつつ、サイドエッチングレートを制御可能とし、同時に、クロムを主成分とする層として、種種の機能を呈することのできる膜厚方向の領域を有することが可能となる。これにより、所望のバイナリクロムマスクブランクスを提供することができる。
【0025】
また、本発明において、前記クロムを主成分とする層が、遮光層とされることにより、所定の機能を有する層において、パターン線幅を正確に設定して、高精細なパターン形成をおこなうことが可能となる。
【0026】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に前記ニッケルを主成分とする層を形成する工程と、
前記ニッケルを主成分とする層に、前記クロムを主成分とする層を積層する工程と、
を有し、
前記ニッケルを主成分とする層を形成する工程が、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属をターゲットとするスパッタリングにより成膜されることにより、クロムを主成分とする層をニッケルを主成分とする層に対して電気化学的に貴として、クロムを主成分とする層において、膜厚方向のエッチングに対してサイドエッチング速度を小さくすることができるとともに、クロムを主成分とする層を透明基板に直接積層した場合に比べて、このクロムを主成分とする層のサイドエッチングを約一桁小さく設定することが可能となる。
【0027】
また、前記ニッケルを主成分とする層を形成する工程において、成膜ガスとして二酸化炭素を含有するか否かを設定することにより、ニッケルを主成分とする層に、所望の機能を持たせ、特に、クロムエッチャントによってニッケルを主成分とする層のエッチングをおこなうかしないかが選択可能となる。
【0028】
本発明においては、前記クロムを主成分とする層を積層する工程が、単数層または複数層として成膜されることにより、同じクロムエッチャントによるエッチングを可能としつつ、サイドエッチングレートを制御可能とし、同時に、種種の機能を呈することのできる膜厚方向の領域を有するクロムを主成分とする層として成膜することが可能となる。これにより、所望のクロムマスクブランクスを提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、クロムを主成分とする層のサイドエッチングレートを制御可能とし、パターン線幅を面内方向におけるバラツキなしに正確に形成することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係るマスクブランクスおよびその製造方法の第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態によるマスク製造工程を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態によるマスク製造工程を示す断面図である。
【
図4】本発明に係るマスクブランクスと従来のマスクブランクスにおけるパターン線幅を比較するための説明図である。
【
図5】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の実験例における遮光層のエッチング速度を示すグラフである。
【
図6】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の実験例を示すSEM写真である。
【
図7】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の実験例を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを模式的に示す断面図であり、図において、符号MBはマスクブランクスである。
【0032】
本発明のマスクブランクスMBは、
図1(a)に示すように、透明基板Sと、この透明基板S上に形成されたニッケル系下地層
(サイドエッチング速度小設定層)12と、このニッケル系下地層12上に形成された遮光層13とで構成される。
【0033】
透明基板Sとしては、透明性および光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板Sの大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばFPD用基板、半導体基板)に応じて適宜選定される。本実施形態では、径寸法100mm程度の基板や、一辺50~100mm程度から、一辺300mm以上の矩形基板に適用可能であり、更に、縦450mm、横550mm、厚み8mmの石英基板や、最大辺寸法1000mm以上で、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0034】
また、透明基板Sの表面を研磨することで、透明基板Sのフラットネスを低減するようにしてもよい。透明基板Sのフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0035】
ニッケル系下地層(ニッケルを主成分とする層)12としては、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属を主成分とするものを用いることができ、例えば、Ni-Ti-Nb-Mo膜を用いることができる。
【0036】
このニッケル系下地層12は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、レーザ蒸着法、ALD法等により成膜できる。
また、ニッケル系下地層12の成膜条件として、成膜ガスに二酸化炭素を含有するかどうかを設定することができる。成膜ガスに二酸化炭素を含有した場合には、後述するクロムエッチャントによってニッケル系下地層12をエッチング・除去することが可能となり、また、成膜ガスに二酸化炭素を含有しない場合には、後述するクロムエッチャントによってニッケル系下地層12をエッチング・除去しないことを選択することが可能となる。
【0037】
遮光層(クロムを主成分とする層)13は、Crを主成分とするものであり、具体的には、Crおよび窒素を含むものとされる。さらに、遮光層13が厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、遮光層13として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
遮光層13は、所定の光学特性が得られる厚み(例えば、80nm~200nm)で形成される。
【0038】
本実施形態のマスクブランクスMBは、例えばFPD用ガラス基板に対するパターニング用マスクを製造する際に適用することができる。
【0039】
以下、本実施形態のマスクブランクスMBの製造方法およびこのマスクブランクスMBからフォトマスクを製造する方法について説明する。
図2は、本実施形態におけるマスクブランクスによるマスク製造工程を示す断面図であり、
図3は、本実施形態におけるマスクブランクスによるマスク製造工程を示す断面図である。
【0040】
本実施形態のマスクブランクスMBは、
図1に示すように、まず、ガラス基板S上に、DCスパッタリング法などを用いて、Niを主成分とするニッケル系下地層12を成膜する。このとき、二酸化炭素を含有するガス雰囲気とすることが好ましい。同時に、メタン等の炭素を含有することが好ましい。
【0041】
次に、Crを主成分とする遮光層13をニッケル系下地層12上に成膜する。
このとき、成膜条件として、クロムをターゲットとしたDCスパッタリングにより、スパッタリングガスとして、アルゴン、窒素(N2)などを含む状態で、スパッタリングをおこなうことができる。
【0042】
これにより、遮光層13は、ガラス基板S側にクロム層を有し、その上に酸化クロム層を有する状態として成膜されて、後工程となるウェットエッチング時に、小さいサイドエッチレートを有する。さらに、メタン等の炭素を含有することが好ましい。
【0043】
次に、
図2(a)に示すように、マスクブランクスMBの最上層である遮光層13の上にフォトレジスト層PR1aが形成される。フォトレジスト層PR1aは、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。フォトレジスト層PR1aとしては、液状レジストが用いられる。
【0044】
続いて、
図2(b)に示すように、フォトレジスト層PR1aを露光するとともに、
図2(c)に示すように、現像することで、遮光層13の上にレジストパターンPR1が形成される。レジストパターンPR1は、遮光層13のエッチングマスクとして機能し、遮光層13のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、遮光領域LRにおいては、形成する開口パターンの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0045】
次いで、
図3(a)に示すように、このレジストパターンPR1越しに第1エッチング液を用いて遮光層13をウェットエッチングする。第1エッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。ここで、ニッケル系下地層12は第1エッチング液に対して高い耐性を有するため、遮光層13のみがパターニングされて遮光パターン13aが形成される。遮光パターン13aは、レジストパターンPR1に対応した開口幅を有する形状とされる。
【0046】
ここで、遮光層13のエッチング、特に、遮光層13とニッケル系下地層12とにおけるエッチングについて考察する。
【0047】
以下、上側の遮光層(クロムを主成分とする層)13のエッチングが膜厚方向最下部に到達して、下側のニッケル系下地層(ニッケルを主成分とする層)12がエッチャントに接触した状態として、上側の遮光13層および下側のニッケル系下地層12を同時にウェットエッチングする際について考察する。
【0048】
遮光層13をガラス基板Sに直接積層した場合、つまり、ニッケル系下地層12を設けなかった場合には、オーバーエッチングによるサイドエッチング速度は0.045~0.100μm/10secとなる。
【0049】
これに対し、遮光層13の下側(ガラス基板S側)にニッケル系下地層12を設けた場合には、下側のニッケル系下地層12と上側の遮光層13との間で、組成に差があるため、電気化学的に卑と貴との関係が生ずることになる。
【0050】
ここで、本実施形態とは異なり、上側の遮光層13が下側のニッケル系下地層12に対して電気化学的に卑である場合、つまり、下側のニッケル系下地層12が上側の遮光層13に対して電気化学的に貴である場合には、貴であるニッケル系下地層12に対して卑である遮光層13のエッチングが早く進み、遮光層13における膜厚方向のエッチングが進むに連れて、対応する横方向のサイドエッチングが規定量以上に進行してしまうことになる。
【0051】
特に、ガラス基板S全面積を同一処理時間で処理した場合には、ガラス基板S全面において遮光層13の除去部分を除去する必要があるため、エッチング開始時間がはやかった部分などは、遮光層13のサイドエッチングが規定量以上に進行してしまい、ガラス基板S面内方向位置で、サイドエッチング量の差が生じることになり、結果的にパターン線幅にバラツキが大きくなると考えられる。
【0052】
ウェットエッチングは厳密に見ると不均一であり、局所的にエッチングが早い部分と遅い部分が存在する。特に、面内方向において、このような部分が配置していることが考えられる。この原因としては、エッチャントの接触開始時間差、エッチャントの濃度等組成差、エッチャントの温度差、膜の不均一性、プロセスの温度分布、拡散速度の分布などが考えられる。もちろん、製造現場においては、このような要因を低減することにつとめているが、ミクロ的にも差が全くゼロになることは現実的でない。
【0053】
また、本実施形態のように、上側の遮光層13が下側のニッケル系下地層12に対して電気化学的に貴である場合、つまり、下側のニッケル系下地層12が上側の遮光層13に対して電気化学的に卑である場合には、卑であるニッケル系下地層12に対して貴である遮光層13のエッチングが遅くなり、遮光層13における膜厚方向のエッチングが進むに連れて、対応する横方向のサイドエッチングにおける差がそれほど進行しないことになる。
【0054】
ここで、エッチングによる金属等からなる膜の除去、すなわち、腐食のメカニズムについて説明する。
【0055】
腐食の多くは電気化学反応(酸化反応・還元反応)によるものである。
酸化還元反応の起こりやすさは金属によって異なっており、標準電極電位として示される。標準電極電位は、その電位以上であれば還元反応が起こり、その電位以下であれば酸化反応が起こる。そのため、標準電極電位が低い金属ほど酸化されやすく(卑な金属)、標準電極電位が高い金属ほど酸化されにくい(貴な金属)。なお、本実施態様においては、標準水素電極を基準として測定した標準電極電位を比較して、高いほうを貴、低いほうを卑とする。
【0056】
標準電極電位の異なる金属を接触させた場合、卑な金属は酸化反応が促進され、貴な金属は還元反応が促進される。このような腐食を異種金属接触腐食という。酸化反応では卑な金属が金属イオンとなり、腐食が促進される。すなわち、卑な金属は腐食されやすい。
また、異種金属接触腐食には、貴な金属および卑な金属の面積が関係する。貴な金属に比べて卑な金属の面積が大きいと、還元反応に必要な電子が少ないためゆっくりと酸化するが、貴な金属に比べて卑な金属の面積が小さいと、還元反応に必要な電子が多くなるため急速に酸化する。
【0057】
この異種金属接触腐食は、金属単体だけでなく、金属化合物(例えば金属の酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物)の場合も起こる。この場合、金属化合物に含まれる金属の標準電極電位によって酸化還元反応の起こりやすさが決まる。
【0058】
このように、酸化還元反応を利用したウェットエッチングにより多層膜を精度よくエッチングするには、上側の層および下側の層に含有される金属の標準電極電位の差、ならびに上側の層および下側の層の腐食されやすさ(エッチャントを電解質、膜を電極としたときの、電流の流れやすさともいえる。) の差が重要となる。
【0059】
ここで、上側の層および下側の層に含有される金属の標準電極電位が「上側の層<下側の層」となる場合、つまり「上側の層が卑、下側の層が貴」となる場合、ウェットエッチングにより上側の層をエッチングしたい際に上側の層へのエッチングレートが大きくなりすぎることになる。
【0060】
一方、これとは逆に上側の層および下側の層に含有される金属の標準電極電位が「上側の層>下側の層」、つまり「上側の層が貴、下側の層が卑」となる場合となる場合、ウェットエッチングにより上側の層をエッチングしたい際に上側の層にてエッチングレートを小さくすることができる。
【0061】
したがって、上側の層および下側の層に含有される金属の標準電極電位が「上側の層>下側の層」となる場合、すなわち、上側の層が下側の層に対して電気化学的に貴である場合には、下側の層の存在により上側の層におけるサイドエッチングが大きくなることを防いで、ウェットエッチングにより上側の層を精度よくエッチングすることが可能となると考えられる。
【0062】
本実施形態において、遮光層13が、ニッケル系下地層12に積層されることにより、ニッケル系下地層12が犠牲電極(卑)となり、遮光層13(貴)から電子を受取り、遮光層13のサイドエッチングスピードを減少させた、と考えられる。具体的には、遮光層13がガラス基板Sに積層された場合に比べて、遮光層13のサイドエッチング速度を0.005~0.12μm/10secとして、約一桁小さく設定することができる。
【0063】
ニッケル系下地層12としては、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属を主成分とするものを用いること、例えば、Ni-Ti-Nb-Mo膜を用いることによって、上述した電気化学的に貴と卑との関係を設定して、遮光層13において、ガラス基板Sに成膜した場合に0.045~0.100μm/10secであったエッチング速度を、0.005~0.012μm/10secの範囲として小さくなるように制御することができる。
【0064】
同時に、ニッケル系下地層12をこのような構成とすることにより、遮光層13のサイドエッチング量を小さくすることで、サイドエッチング量が大きい場合に発生するパターン線幅のバラツキを防止あるいは極めて小さく抑制することが可能となる。
【0065】
上記のようなニッケル系下地層12に遮光層13を積層することにより、遮光層13のサイドエッチング量を小さくすることにより、パターン形成においてレジストPR1に形成された像を正確に転写して、所望のパターンを形成することが容易となる。特に、ガラス基板S面内方向におけるパターン形成時の線幅バラツキを抑制して、ガラス基板S面内全域において正確な線幅の遮光パターン13aを形成可能にすることができる。これにより、
図3(b)に示すように、高精細な遮光パターン13aを容易に形成することが可能となる。
【0066】
次いで、
図3(c)に示すように、上記レジストパターンPR1越しに第2エッチング液を用いてニッケル系下地層12をウェットエッチングする。第2エッチング液としては、硝酸に酢酸、過塩素酸、過酸化水素水および塩酸から選択した少なくとも1種を添加したものを好適に用いることができる。ここで、遮光層13は第2エッチング液に対して高い耐性を有するため、ニッケル系下地層12のみがパターニングされてニッケル系下地パターン12aが形成される。ニッケル系下地パターン12aは、遮光パターン13aおよびレジストパターンPR1の開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状とされる。
【0067】
なお、ニッケル系下地層12の成膜時に二酸化炭素を導入した場合など、クロムエッチャントである第1エッチング液によってニッケル系下地層12が除去可能な場合には、第2エッチング液を用いたこのウェットエッチングをおこなわないこともできる。
【0068】
以上により、遮光パターン13aおよびニッケル系下地パターン12aの開口幅がレジストパターンPR1の開口幅よりもやや広い状態のマスクMが得られる。
【0069】
本実施形態によれば、例えば、Ni-Ti-Nb-Mo膜とされるニッケル系下地層12に遮光層13を積層することにより、遮光層13のサイドエッチング量を小さくすることができる。これにより、遮光層13において、ガラス基板Sに成膜した場合に膜厚方向のエッチングに対してサイドエッチング速度が上述した範囲で小さくなるように制御するとともに、遮光層13のサイドエッチング量を小さくすることで、サイドエッチング量が大きい場合に発生するパターン線幅のバラツキを防止あるいは極めて小さく抑制することが可能となる。したがって、ガラス基板S面内方向におけるパターン形成時の線幅バラツキを抑制して、ガラス基板S面内全域において正確な線幅の遮光パターン13aを形成し、パターン形成においてレジストPR1に形成された像を正確に転写して、高精細な遮光パターン13aを形成することが容易となるマスクブランクスMSを提供することが可能となる。
【0070】
図4は、本実施形態におけるマスクブランクスによって製造されたマスク(a)と、従来のマスクブランクスによって製造されたマスク(b)とのパターン寸法を比較するための模式断面図である。
【0071】
本実施形態によれば、
図4(a)に示すように、ニッケル系下地層12に遮光層13を積層して、サイドエッチングが小さく設定された遮光層13に形成された遮光パターン13aのパターン線幅寸法TP3が、レジスト層PR1aに形成されたレジストパターンPR1のパターン線幅寸法TP0に対して大きくなる比率は、
図4(b)に示すように、ガラス基板Sに遮光層13を直接積層して、サイドエッチングが従来と等しく設定された遮光層113に形成された遮光パターン113aのパターン線幅寸法TP4が、レジスト層PR1aに形成されたレジストパターンPR1のパターン線幅寸法TP0に対して大きくなる比率に比べて、小さくなる。つまり、遮光層13のエッチング処理時間を所定の一定値とした場合に、設定されたサイドエッチングレートの差にしたがって、パターン線幅寸法TP4に比べて、パターン線幅寸法TP3が小さくなっている。
【0072】
ここで、遮光パターン13bにおける横方向のエッチングレートは、ニッケル系下地層12表面に遮光層13を成膜する際の成膜条件によっても変化させることができる。
【0073】
さらに、遮光パターン13bにおける厚さ方向およびこれに交差する方向のエッチングレートは、遮光層13の組成やニッケル系下地層12と遮光層13との界面状態の影響を受けるのでこれも考慮することができる。
【0074】
ここで、レジスト層PR1の幅寸法TP0に対して、遮光パターン13bにおける平面視してレジストPR1側とニッケル系下地層12b側との間の幅寸法(遮光パターン13b側面の傾斜状態)などの寸法が所定の値となるように各層の成膜条件およびエッチング条件を所望の状態に設定する。
【0075】
さらに、遮光パターン13aのエッチング速度は、遮光層13の厚さ方向の組成状態の影響を受ける。例えば遮光層13を、酸化窒化クロムを主成分とした層と酸化窒化炭化クロムを主成分とした層との2層の膜で構成した場合に、酸化窒化クロムを主成分とした層の窒素成分の比率を低くすればエッチング速度を小さくできる一方で、酸化窒化炭化クロムを主成分とした層の炭素成分の比率を高くすればエッチング速度を低くできる。遮光パターン13aのエッチング量としては、例えば、200nm~1000nmの範囲内で設定できる。
【0076】
このとき、遮光層13において、酸化窒化クロムを主成分とした層を成膜する際、さらに、成膜条件を前半と後半で変化させ、膜構成の異なる2層とし、酸化窒化炭化クロムを主成分とした層との3層の膜で構成することもできる。
【0077】
あるいは、酸化窒化クロムを主成分とし、膜構成の異なる2層の膜で構成することもできる。
さらに、酸化窒化炭化クロムを主成分とし、膜構成の異なる2層の膜で構成することもできる。
【0078】
このとき、成膜条件として、雰囲気ガス以外の条件として、ガス圧力、印加電圧、などを設定することが好ましい。特に、遮光層13とニッケル系下地層12との密着を向上させるため、成膜時の基板温度は120℃以上といった条件を設定することができる。
【0079】
また、遮光層13は、Cr(クロム)の酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される何れか1種以上で構成され、遮光効果が十分に発揮される膜厚を有することができる。
【0080】
なお、本実施形態において、バイナリクロムマスクブランクスとして説明したが、ニッケル系下地層12を、遮光パターン13aにおけるパターン線幅よりも小さな線幅を有するようにして、これを位相シフト層として、位相シフトマスクを製造可能なマスクブランクスとすることもできる。また、この場合、ニッケル系下地層12よりガラス基板S側に、位相シフト層としてモリブデンシリサイド(MoSix)などを成膜することもできる。または、この場合、位相シフト層として、ニッケル系下地層12とは異なる組成として、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属を主成分とすることができる。
【0081】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0082】
<実験例1>
上記効果を確認するため、次の実験を行った。即ち、ガラス基板S上に、スパッタリング法により、ニッケル系下地層12たるNi-Ti-Nb-Mo膜を4.9nmの厚さで成膜し、遮光層13たる酸化窒化クロム主成分の層と酸化窒化炭化クロム主成分の層とで構成される膜を122.0nm程度の合計厚さで成膜して、バイナリマスクブランクスMBを得た。
この際、ニッケル系下地層12のスパッタリングにおいて、スパッタガスとしてメタンおよび二酸化炭素を含有する条件とした。また、遮光層13のスパッタリングにおいて、スパッタガスとして窒素ガス(N2)を含有する条件とした。
【0083】
このバイナリマスクブランクスMB上にレジストパターンPR1を形成し、このレジストパターンPR1越しに硝酸セリウム第2アンモニウムと過塩素酸との混合エッチング液を用いて遮光層13をエッチングして遮光パターン13aを形成するとともに、さらに、連続してニッケル系下地層12をエッチングしてニッケル系下地パターン12aを形成することで、バイナリマスクMを得た。
【0084】
エッチング液の重量比は、
硝酸セリウム第2アンモニウム:過塩素酸:純水=13~18:3~5:77~84
とした。
【0085】
<実験例2>
同様にして、ガラス基板S上に、直接遮光層13たる酸化窒化クロム主成分の層と酸化窒化炭化クロム主成分の層とで構成される膜を成膜して、バイナリマスクブランクスを得た。
さらに、同様にして、バイナリマスクブランクス上にレジストパターンを形成し、このレジストパターン越しに硝酸セリウム第2アンモニウムと過塩素酸との混合エッチング液を用いて遮光層をエッチングして遮光パターンを形成することで、バイナリマスクを得た。
【0086】
上記の製造工程において、遮光層のエッチング時間を変化させて複数の位相シフトマスクを製造し、これらの実験例において遮光層のエッチング時間に対するサイドエッチング速度を測定した。
【0087】
これらの結果を
図5に示す。
なお、
図5において、オーバーエッチングタイムとは、基準のエッチング時間に対して、超過したエッチング時間を示している。
【0088】
さらに、各実験例において、エッチング時間を90secとしたSEM写真として、実験例1を
図6に、実験例2を
図7に示す。
なお、
図6、
図7において、Cr-LRは遮光層を、ESは、ニッケル系下地層を示している。
【0089】
図5に示す結果から、実験例2のように、ガラス基板上に遮光層を積層した場合には、LR(Qz上)として示すように、エッチング速度が、0.045μm/10secだったのに対し、実験例1のように、ニッケル系下地層の上に遮光層を積層した場合には、LR(NI下地)として示すように、エッチング速度が、0.005μm/10secと、ほぼ1/10となっていることがわかる。
【0090】
同様に、
図6,
図7に示す結果から、実験例1のように、ニッケル系下地層の上に遮光層を積層した場合には、実験例2のように、ガラス基板上に遮光層を積層した場合に比べて、遮光層のサイドエッチング量が少ないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の活用例として、特にTFTコンタクトホールパターン作製時に適応するバイナリクロムマスクブランクスを挙げることができる。
【符号の説明】
【0092】
MB…マスクブランクス
M…マスク
S…ガラス基板(透明基板)
PR1a…フォトレジスト層
PR1…レジストパターン
12…ニッケル系下地層(ニッケルを主成分とする層)
12a…ニッケル系下地パターン
13…遮光層(クロムを主成分とする層)
13a…遮光パターン