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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】圧縮コイルばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21F 35/00 20060101AFI20220425BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20220425BHJP
   C21D 9/02 20060101ALI20220425BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20220425BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20220425BHJP
   C21D 1/02 20060101ALI20220425BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220425BHJP
   C22C 38/54 20060101ALN20220425BHJP
【FI】
B21F35/00 A
F16F1/06 A
C21D9/02 A
C21D7/06 A
C21D1/06 A
C21D1/02
C22C38/00 301Z
C22C38/54
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017192915
(22)【出願日】2017-10-02
(62)【分割の表示】P 2017078113の分割
【原出願日】2017-04-11
(65)【公開番号】P2018176268
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】赤沼 俊之
(72)【発明者】
【氏名】白石 透
(72)【発明者】
【氏名】岩垣 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓太
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-206219(JP,A)
【文献】特開2014-055343(JP,A)
【文献】実開昭60-181235(JP,U)
【文献】特開2009-052144(JP,A)
【文献】特開2004-323912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21F 35/00
F16F 1/06
C21D 9/02
C21D 7/06
C21D 1/06
C21D 1/02
C22C 38/00
C22C 38/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルばね成形機によりCを0.5~0.7質量%含有する鋼線材を熱間成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、焼入れされたコイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程とを備えた圧縮コイルばねの製造方法において、前記コイリング工程では、加熱、浸炭および熱間成形を行い、前記コイルばね成形機は、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材とを切断するための切断手段とを有し、
前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された鋼線材を加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えており、
前記コイルばね成形機は、さらに、前記フィードローラの出口から前記コイリングツールの間に鋼線材をオーステナイト域まで昇温する加熱手段を有し、前記加熱手段における鋼線材入口側から前記コイリングツールに至る間の一部または全域に前記鋼線材の外周を覆う囲い部材が配置され、前記囲い部材内に炭化水素系ガスを供給するガス供給手段を有し、
前記加熱手段が高周波加熱装置であり、前記鋼線材の通路経路上に鋼線材と同心となるように高周波加熱コイルが配置され、
前記高周波加熱コイルの内側に前記囲い部材が配置され、前記高周波加熱コイルは前記鋼線材を直接加熱することにより、前記鋼線材の表層部に前記鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を形成し、前記鋼線材の全周に亘って前記C濃化層の厚さを0.01~0.05mmの範囲にするとともに、前記C濃化層における最大C濃度を0.7~1.2質量%にすることを特徴とする圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項2】
前記囲い部材はセラミックスからなることを特徴とする請求項1に記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項3】
前記囲い部材は、その両端部に囲い部材よりも小径の鋼線材入口および鋼線材出口を備え、前記ガス供給部は、前記囲い部材の前記鋼線材入口から内部に炭化水素系ガスを供給することを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項4】
前記囲い部材は、その両端部に囲い部材よりも小径の鋼線材入口および鋼線材出口を備え、前記ガス供給部は、前記囲い部材の前記鋼線材出口から内部に炭化水素系ガスを供給することを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項5】
前期鋼線材の任意の線材横断面における内部硬さを600~710HVとし、前記C濃化層における最高硬さを内部硬さよりも30HV以上高くすることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項6】
SEM/EBSD法を用いて測定した平均結晶粒径(方位角度差5°以上の境界を粒界とする)を1.3μm以下にすることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項7】
コイルばねに圧縮荷重を負荷した場合に生じるコイルばね内径側の最大主応力方向において、無負荷時の圧縮残留応力の値がゼロとなる前記線材の表面からの深さをクロッシングポイントとし、縦軸を残留応力、横軸を表面からの深さとした残留応力分布曲線において表面からクロッシングポイントまでの積分値をI-σRと表したとき、I-σR を150MPa・mm以上にすることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項8】
X線回折法を用いて測定した残留オーステナイト体積率γRについて、縦軸を残留オーステナイト体積率、横軸を表面からの深さとした残留オーステナイト分布曲線において、表面から0.5mm深さまでの積分値をIγRとあらわしたとき、IγRを3.4%・mm以下にすることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【請求項9】
表面粗さRz(最大高さ)を20μm以下にすることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の圧縮コイルばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば自動車のエンジンやクラッチ内で使用される圧縮コイルばねの製造方法に関し、特に、高応力下の使用環境においても優れた耐疲労性と耐へたり性を有する圧縮コイルばねの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題を背景に自動車への低燃費化の要求が年々厳しくなっており、自動車部品に対する小型軽量化がこれまで以上に強く求められている。この小型軽量化の要求に対し、たとえばエンジン内で使用されるバルブスプリングや、クラッチ内で使用されるクラッチトーションスプリングをはじめとする圧縮コイルばね部品においては、材料の高強度化や、表面処理による表面強化の研究が盛んであり、その結果をもってコイルばねの特性として重要な耐疲労性の向上や、耐へたり性の向上を図ってきている。
【0003】
一般に、コイルばねの製造方法は、熱間成形法と冷間成形法に大別される。熱間成形法は、線径dが太く、コイル平均径Dと線径dとの比であるばね指数D/dが小さいなど、その加工性の悪さから冷間成形が困難であるコイルばねの成形に用いられ、コイルばね線材としては炭素鋼やばね鋼が用いられている。熱間成形法では、線材を加工し易いように高温に加熱して芯金に巻き付けてコイルばね形状にコイリングし、焼入れ・焼戻し後に、さらにショットピーニングやセッチングを施して、コイルばねの性能として主要となる耐疲労性や耐へたり性を得ている。なお、熱間成形法においては、無芯金でのコイリングは技術的に非常に困難であるためこれまで実用化には至っていない。よって、熱間成形法は芯金を用いることが従来の技術では必須であり、成形できるコイルばねとしては、無芯金でコイリング可能な冷間成形法と比べ形状の自由度が低い。
【0004】
一方、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングクラスの圧縮コイルばねについては、比較的線径が細いために冷間成形が可能である。そして、加熱による変態や熱膨張収縮を伴わないことから高い寸法精度が得やすく、更に、加工速度や設備費等による量産性(タクト、コスト)も高いことから、このクラスの圧縮コイルばねの製造については従来から冷間成形法が採用されている。また、この冷間成形法については無芯金での成形技術が確立されており、コイルばねの形状自由度が高いことも、冷間成形法が用いられる大きな一因であり、熱間成形法によるバルブスプリングやクラッチトーションスプリングクラスの圧縮コイルばねの製造技術はこれまでに実用化されていない。なお、冷間成形法においては、コイルばね線材としては、炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線といった硬引線が従来用いられてきた。しかしながら、近年、軽量化の観点から材料の高強度化が求められており、高価なオイルテンパー線が広く用いられるようになってきている。
【0005】
冷間成形法では、図1(C)に示すように、線材を冷間でコイルばね形状にコイリングし、焼鈍後、窒化処理やショットピーニングおよびセッチングを必要に応じて施す。ここで、焼鈍は、コイルばねの耐疲労性向上の阻害要因となる加工によって生じた残留応力を除去することを目的としており、ショットピーニングによる表面への圧縮残留応力の付与と合わせ、コイルばねの耐疲労性向上に寄与する。なお、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングのような高負荷応力で使用されるコイルばねについては、窒化処理による表面硬化処理がショットピーニング前に必要に応じて施される。
【0006】
さらなる耐疲労性の向上を目指した研究が盛んに行われている。たとえば、特許文献1には、冷間成形用のオイルテンパー線が記載されており、残留オーステナイトの加工誘起変態を利用して耐疲労性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2には、加熱中から焼入れまでの間に、鋼線材表面に炭化水素系ガスを1本のノズルから直接吹付け、その鋼線材表面にC濃化層を形成する手段が開示されている。特許文献3には、窒化処理を施した線材の表面に、異なる投射速度での多段ショットピーニングを施すことで大きな圧縮残留応力を付与し、耐疲労性の向上を図る技術が開示されている。
【0007】
特許文献1においてコイリング後のコイルばねには残留応力が生じる。この残留応力、特にコイル内径側表面に発生する線軸方向の引張残留応力は、コイルばねとしての耐疲労性向上の阻害要因である。そして、通常はこの加工による残留応力を除去するために焼鈍を施すが、特許文献1に記載の軟化抵抗が高い線材をもってしても、所望の線材の強度を維持したうえでこの残留応力を完全に除去することが困難なことは容易に推定でき、当業者にとっては周知である。したがって、その後ショットピーニングを施したところで、加工によってコイル内径側に残留した引張残留応力の影響により線材表面に十分な圧縮残留応力を付与することは困難であり、コイルばねとしての十分な耐疲労性を得ることができない。
【0008】
また、特許文献2には、鋼線材をオーステナイト域まで加熱した状態でコイリング加工を行う際に、同時に鋼線材へ浸炭処理を施すことで、加工に起因した残留応力の発生を解消するとともに表面にC 濃化層を形成し、後に行うショットピーニングやセッチングの効果を効率的に得ることが開示されている。この場合において、加熱中から焼入れまでの間に、鋼線材表面に炭化水素系ガスを1本のノズルから直接吹付け、その鋼線材表面にC濃化層を形成している。しかし、この方法では、線材円周方向においてC濃化層の厚さ、表面C濃度にばらつきが生じることが容易に推定される。そして、そのばらつきは、所望されるC濃化層厚さやC濃度に対し、過剰なC濃化層厚さやC濃度、一方では希薄なC濃化層厚さやC濃度の部分を形成する。C濃度の高い部分ではオーステナイトからマルテンサイトへの変態が阻害され、残留オーステナイト相の増大を招く。その結果として、耐疲労性の向上は見込まれるが、耐へたり性の低下は免れられない。ショットピーニングにより導入される表面近傍の圧縮残留応力の大きさは、鋼線材においてショットピーニングの影響を受ける表面近傍の降伏応力、すなわち、C濃度に比例する。よって、希薄なC濃化層では、ショットピーニングにより導入される表面近傍の圧縮残留応力が所望の大きさに至らず、表面近傍(最表面を含む)を起点とする疲労亀裂の発生に対しその防止効果が十分ではない。また、表面硬さの上昇も少ないため、作動時に接触を繰り返す線間部での摩耗を防ぐことができず、その摩耗部を起点とした早期折損を招くことがある。これらのことから、希薄なC濃化層が存在すると、耐疲労性の向上が見込めない。
【0009】
一方、従来からバッチ処理による真空浸炭処理が行われている。この処理がなされた浸炭ばねは深くかつ大きい圧縮残留応力が得られることで耐久性の向上は図れるものの、装置システム構成に起因する浸炭量のコントロールが難しく、得られる浸炭深さは所望する深さを超えるものとなってしまう。特に、弁ばねにとっては過剰浸炭となり、過剰なC濃化層厚さにより形成される残留オーステナイト相の増大に伴い、耐へたり性が著しく低下してしまう。
【0010】
さらに、特許文献3では、コイルばねの線材表面近傍(以下、「表面」と称す)の圧縮残留応力は1400MPa程度あり、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングクラスの高負荷応力下で使用するコイルばねとして、表面における亀裂発生抑制に対しその圧縮残留応力は十分である。しかしながら、表面の圧縮残留応力を向上させた結果、線材内部での圧縮残留応力は小さくなり、介在物などを起点とする線材内部での亀裂発生に対しては、その圧縮残留応力の効果が乏しくなる。つまり、特許文献3による手段では、ショットピーニングにより与えられるエネルギーに限りがあるため、すなわち圧縮残留応力分布の変化は与えられるものの圧縮残留応力の総和を大きく向上させることは困難である。先述した加工による残留応力の影響を解消することなどは考慮されておらず、よって、同じ強度の線材に対してその耐疲労性の向上効果は乏しい。
【0011】
なお、表面圧縮残留応力を向上させる手段は様々実用化されているが、その結果、たとえば線径1.5~10mm程度のコイルばねにおいては、線材表面からの深さ0.1~0.4mmの範囲に外部負荷による作用応力と残留応力との和である合成応力の最大値が存在し、その合成応力の最も高い部分が破壊起点となっているのが実情である。したがって、深さ0.1~0.4mmの範囲において大きな圧縮残留応力を確保することが、耐疲労性に対し重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第3595901号
【文献】特開2014-055343号公報
【文献】特開2009-226523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、従来の製造方法や特許文献1~3等では、近年の高応力下での耐疲労性および耐へたり性の更なる向上とコスト低減の両立を求めた要求に対し、その対応は困難を来す。また、成形後の焼鈍処理で加工による残留応力を完全に解消できていないことから、線材の性能を十分に活用できていない。
【0014】
本発明は、このような背景のもと、コイリング加工による引張残留応力を解消すると共に線材表面にC 濃化層を、適切なC濃度および適切な厚さ範囲内で均一に形成し、成形後の線材に最適な圧縮残留応力分布を付与することにより、高耐久性かつ高耐へたり性の圧縮コイルばねの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、コイルばねの耐疲労性および耐へたり性について鋭意研究を行った。そして、鋼線材の表面に薄く均一な厚さの浸炭層(以下、「C濃化層」と称する)を形成することに思い至った。これにより、残留オーステナイト相が少なく耐へたり性を向上させることができるとともに、表面近傍を高硬度として降伏応力を向上させ、後に行うショットピーニングの効果を効率的に得ることができ、耐疲労性を向上させることができる。
【0016】
本発明の圧縮コイルばねの製造方法は、コイルばね成形機によりCを0.5~0.7質量%含有する鋼線材を熱間成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、焼入れされたコイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程とを備えた圧縮コイルばねの製造方法において、前記コイリング工程では、加熱、浸炭および熱間成形を行い、前記コイルばね成形機は、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材とを切断するための切断手段とを有し、前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された鋼線材を加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えており、前記コイルばね成形機は、さらに、前記フィードローラの出口から前記コイリングツールの間に鋼線材をオーステナイト域まで昇温する加熱手段を有し、前記加熱手段における鋼線材入口側から前記コイリングツールに至る間の一部または全域に前記鋼線材の外周を覆う囲い部材が配置され、前記囲い部材内に炭化水素系ガスを供給するガス供給手段を有し、前記加熱手段が高周波加熱装置であり、前記鋼線材の通路経路上に鋼線材と同心となるように高周波加熱コイルが配置され、前記高周波加熱コイルの内側に前記囲い部材が配置され、前記高周波加熱コイルは前記鋼線材を直接加熱することにより、前記鋼線材の表層部に前記鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を形成し、前記鋼線材の全周に亘って前記C濃化層の厚さを0.01~0.05mmの範囲にするとともに、前記C濃化層における最大C濃度を0.7~1.2質量%にすることを特徴とする。
【0017】
本発明の圧縮コイルばねの製造方法では、炭化水素系ガスと接触させる時点の鋼線材表面温度が850~1150℃であることが好ましい。この浸炭条件によれば、線材の結晶粒の著しい粗大化を防ぎながら浸炭を短時間で効率的に行うことができる。また、本発明の圧縮コイルばねの製造方法では、炭化水素系ガスの主成分が、メタン、ブタン、プロパン、アセチレンのいずれかであることが好ましい。
【0018】
上記製造方法において、焼戻し工程は、焼入れ工程によって硬化されたコイルばねを適切な硬さと靭性を有するコイルばねに調質するために行う。よって、焼入れたままで所望の硬さと靭性とが得られる場合には、焼戻し工程は省略しても良い。そして、ショットピーニング工程では、多段ショットピーニングを行っても良く、さらに、弾性限の回復を目的とした低温時効処理を必要に応じ組み合わせても良い。ここで、低温時効処理はショットピーニング工程後、あるいは多段ショットピーニングの各段の間にて行うことができ、多段ショットピーニングにおける最終段として粒径0.02~0.30mmのショットによるショットピーニングを施す場合には、その前処理として行うことが、最表面の圧縮残留応力をより高める上で好適である。なお、セッチング工程は、鋼線材の降伏応力を高めて耐へたり性を向上させる処理であり、コイルばねに施すセッチングとしては、コールドセッチング、ホットセッチング等種々方法はあるが、所望する特性により適宜選択する。
【0019】
本発明の圧縮コイルばねの製造方法によれば、加熱手段における鋼線材入口側からコイリングツールに至る間の一部または全域に鋼線材の外周を覆う例えば円筒状の囲い部材が配置され、囲い部材内に炭化水素系ガスが供給されるから、炭化水素系ガスの供給量を制御することで囲い部材内の炭化水素系ガス濃度を容易に制御することができる。また、炭化水素系ガスが一様に鋼線材を取り囲むから、浸炭によって形成するC濃化層の厚さを均一にすることができる。すなわち、鋼線材の全周に亘って厚さが0.01~0.05mmのC濃化層を形成することができる。
【0020】
本発明においては、上記のようなコイルばね製造装置で熱間コイリングを行うため、加工による残留応力が発生しない。そして、鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温するため、結晶粒の粗大化を防ぐことができ、優れた耐疲労性を得ることができる。また、浸炭処理を施すため、鋼線材表面を高硬度とすることができ、後に行うショットピーニングによって効果的に圧縮残留応力を付与することができる。特に、本発明の圧縮コイルばねの製造方法では、熱間コイリング時の熱を利用して浸炭処理を行うため、効率的に浸炭処理を行うことが可能である。
【0021】
本発明により製造される圧縮コイルばねは、たとえば以下のような構成を有する。すなわち、質量%で、Cを0.5~0.7%、Siを1.2~3.0%、Mnを0.3~1.2%、Crを0.5~1.9%、Vを0.05~0.5%含むと共に、任意成分としてNiを1.5%以下,Moを1.5%以下、Wを0.5%以下のうち1種または2種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、表層部に前記鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を有し、前記鋼線材の全周に亘って前記C濃化層の厚さが0.01~0.05mmの範囲に入る。
【0022】
以下に、上記数値範囲の限定理由を説明する。まず、本発明で用いる鋼線材の化学成分の限定理由について説明する。上記圧縮コイルばねにおいては、質量%で、Cを0.5~0.7%、Siを1.2~3.0%、Mnを0.3~1.2%、Crを0.5~1.9%、Vを0.05~0.5%含むと共に、任意成分としてNiを1.5%以下,Moを1.5%以下、Wを0.5%以下のうち1種または2種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線材を用いる。なお、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0023】
(1)材料成分
C:0.5~0.7%
Cは、強度向上に寄与する。Cの含有量が0.5%未満では、強度向上の効果が十分に得られないため、耐疲労性、耐へたり性が不十分となる。一方、Cの含有量が0.7%を超えると、靭性が低下して割れが発生し易くなる。このため、Cの含有量は0.5~0.7%とする。
【0024】
Si:1.2~3.0%
Siは、鋼の脱酸に有効であると共に、強度向上や焼戻し軟化抵抗向上に寄与する。Siの含有量が1.2%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、Siの含有量が3.0%を超えると、脱炭を助長し線材表面強度の低下を招き、また、靭性が大きく低下することからコイルばねとしての使用時に割れの発生を招く。このため、Siの含有量は1.2~3.0%とする。一方、Si量が2.4%~3.0%においてコイルばねの性能に対するその効果は同等ではあるが、この範囲におけるSi含有量の増加は素材製造における鋳造時の割れ発生の危険性を高めるため、Siの含有量は2.4%以下が好ましい。
【0025】
Mn:0.3~1.2%
Mnは焼入れ性の向上に寄与する。Mnの含有量が0.3%未満では、十分な焼入れ性を確保し難くなり、また、延靭性に有害となるSの固着(MnS生成)の効果も乏しくなる。一方、Mnの含有量が1.2%を超えると、延性が低下し、割れや表面キズが発生し易くなる。このため、Mnの含有量は0.3~1.2%とする。一方、Mn量が0.8%~1.2%においてコイルばねの性能に対するその効果は同等ではあるが、この範囲におけるMn含有量の増加は素材製造における伸線加工時の破断発生の危険性を高めるため、Mnの含有量は0.8%以下が好ましい。
【0026】
Cr:0.5~1.9%
Crは脱炭を防止するのに有効であると共に、強度向上や焼戻し軟化抵抗向上に寄与し、耐疲労性の向上に有効である。また、温間での耐へたり性向上にも有効である。このため、本発明においてはさらに、Crを0.5~1.9%含有することが好ましい。Crの含有量が0.5%未満では、これらの効果を十分に得られない。一方、Crの含有量が1.9%を超えると、靭性が低下し、割れや表面キズが発生し易くなる。
【0027】
V:0.05~0.5%
Vは熱処理により微細炭化物として析出することにより結晶粒微細化され、靱性を損なわずに強度を向上させるため、耐疲労性の向上に有効であるとともに、耐へたり性を向上させる。また、Vは焼戻し軟化抵抗向上にも寄与する。Vの含有量が0.05%に満たない場合には、そのような効果を得ることができない。一方、Vを0.5%を超えて含有すると、加熱時に炭化物を多く形成し、靭性の低下をもたらす。
【0028】
上記圧縮コイルばねにおいては、さらに任意成分としてNi、Mo、Wのうち1種または2種以上を添加することができる。その結果、より高性能ないしは用途により適したコイルばねの製造も可能である。
【0029】
Ni:1.5%以下
Niは靱性向上に寄与するため、耐疲労性の向上に有効である。また、Niは耐食性向上に寄与する。一方、Niの含有量が1.5%を超えると逆に靭性の低下をもたらす。
【0030】
Mo:1.5%以下
Moは焼入れ性および靱性向上に寄与する。焼入れ性向上に寄与しているMnの代わりにMoを添加しても良く、またMnとともにMoを添加しても良い。靭性向上に寄与するNiの代わりにMoを添加しても良く、またNiとともにMoを添加しても良い。一方、Moの含有量が1.5%を超えると、加熱時に炭化物を多く形成し、靭性の低下をもたらす。
【0031】
W:0.5%以下
Wは熱処理により微細炭化物として析出することにより結晶粒が微細化され、靱性を損なわずに強度を向上させるため、耐疲労性の向上に有効である。また、Wは耐へたり性を向上させるとともに、焼戻し軟化抵抗向上にも寄与する。一方、Wの含有量が0.5%を超えると、加熱時に炭化物を多く形成し、靭性の低下をもたらす。
【0032】
なお、本発明においては、上記したNi、Mo、およびWの任意元素の他に以下の元素を添加することもできる。
【0033】
B:0.0003~0.003%
Bは焼入れ性を向上させ、低温脆性を防止する効果がある。また、Bは耐へたり性の向上に寄与する。焼入れ性向上に寄与しているMnの代わりにBを添加しても良く、またMnとともにBを添加しても良い。Bの含有量が0.0003%未満ではそのような効果が乏しく、0.003%を超えると、その効果が飽和し、製造性や衝撃強度を劣化させることがある。
【0034】
Cu:0%を超え0.65%以下
Cuは電気化学的に鉄よりもイオン化傾向の高い金属元素であり、鋼の耐食性を高める作用を有するため、耐食性向上に有効である。Cuは、耐食性向上に寄与しているNiの代わりに添加してもよく、またNiとともに添加しても良い。Cuの含有量が0.65%を超えると、熱間加工時に割れが発生しやすくなる。
【0035】
Ti,Nb:0.05~0.5%
TiおよびNbはいずれもVと同様な効果を奏する元素である。これらの元素の含有量が0.05%未満ではそのような効果が乏しく、0.5%を超えると、加熱時に炭化物を多く形成し、靭性の低下をもたらす。
【0036】
(2)C濃度分布
上記圧縮コイルばねにおいては、線材表面の硬度を高めて降伏応力を向上させるため、線材の表層部に浸炭処理によってC濃化層を形成する。降伏応力を向上させることにより、後に行うショットピーニングによって大きな表面圧縮残留応力を付与することができる。また、線材の表面粗さを改善することができる。このため、耐疲労性をさらに向上させる効果がある。このC濃化層には線材に含有されるCの平均濃度を超える濃度のCを含有させる。また、これらの効果を十分に得るため、C濃化層における最大C濃度が0.7~1.2%であり、C濃化層(浸炭深さ)は前記鋼線材の全周に亘って線材表面から0.01~0.05mmの深さの範囲内に形成する。
【0037】
C濃化層の最大C濃度が1.2質量%を超える場合やC濃化層の厚さが0.05mmを超える場合は、浸炭反応を効率的に行うために高温で処理を行わなければならないため、結晶粒度が悪化し、耐疲労性の低下を招き易い。また、C濃度が1.2質量%を超えた場合は、母相に固溶できないCが炭化物として結晶粒界に多く析出することで靭性が低下し、この場合も耐疲労性の低下を招き易い。さらに、C濃化層の厚さが0.05mmを超える場合には、残留オーステナイトの割合が増加して耐へたり性が悪化する。
【0038】
一方、C濃化層における最大C濃度が0.7質量%に満たなかったり、C濃化層厚さが線材表面から0.01mmに満たない場合には、以下の不都合を生じる。すなわち、ショットピーニングにより導入される表面近傍の圧縮残留応力の大きさは、鋼線材においてショットピーニングの影響を受ける表面近傍の降伏応力、すなわち、C濃度に比例する。よって、希薄な(濃度および深さ)C濃化層では、ショットピーニングにより導入される表面近傍の圧縮残留応力が所望の大きさに至らず、表面近傍(最表面を含む)を起点とする疲労亀裂の発生に対しその防止効果が十分ではない。また、表面硬さの上昇も少ないため、作動時に接触を繰り返す線間部での摩耗を防ぐことができず、その摩耗部を起点とした早期折損を招くことがある。これらのことから、希薄なC濃化層が存在すると、耐疲労性の向上が見込めない。
【0039】
(3)硬さ分布
鋼線材の任意の線材横断面における内部硬さが600~710HVであり、C濃化層における最高硬さが内部硬さよりも30HV以上高いことが好ましい。これは、線材表面のC濃化層が内部硬さよりも高いことにより、表面近傍でさらに高い圧縮残留応力を得ることができ、表面近傍(最表面を含む)を起点とする疲労亀裂の発生を防止できるからである。上記数値が30HV未満であると、これらの効果が顕著に現れない。
【0040】
(4)結晶粒径
SEM/EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法を用いて測定した平均結晶粒径(方位角度差5°以上の境界を粒界とする)が1.3μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径が1.3μmを超えた場合には、十分な耐疲労性を得難くなる。そして、平均結晶粒径が小さいこと、すなわち、旧オーステナイト粒内のブロックやラスが微細であることは、亀裂進展に対する抵抗が大きいため、耐疲労性の向上に対し好適である。
【0041】
(5)残留応力分布
本発明者等は、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングとして要求される作用応力と、疲労折損起点と成りうる様々な要因(延靭性、非金属系介在物、不完全焼入れ組織等の異常組織、表面粗さ、表面キズ等々)との関係における破壊力学的計算、および、実際の耐久試験等による検証から、コイルばねの線材表面近傍に必要な圧縮残留応力について次の結論を得た。なお、上記圧縮残留応力は、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向、すなわち、線材の軸方向に対し+45°方向におけるものである。
【0042】
すなわち、上記圧縮コイルばねにおいては、コイルばねに圧縮荷重を負荷した場合に生じるコイルばね内径側の最大主応力方向において、無負荷時の圧縮残留応力の値がゼロとなる前記線材の表面からの深さをクロッシングポイントとし、縦軸を残留応力、横軸を表面からの深さとした残留応力分布曲線において表面からクロッシングポイントまでの積分値をI-σRと表したとき、I-σR が150MPa・mm以上であることが望ましい。これらの数値に満たない場合、内部起点の疲労破壊を抑制するには不十分である。
【0043】
上記圧縮残留応力分布は、ショットピーニング処理やセッチング処理により形成されることが好ましい。ショットピーニング処理において多段ショットピーニングを施す場合は、後に実施するショットピーニングに用いるショットの球相当直径は、先に実施するショットピーニングに用いるショットの球相当直径より小さいことが好ましい。具体的には、ショットピーニング処理は、粒径0.6~1.2mmのショットによる第1のショットピーニング処理と、粒径0.2~0.8mmのショットによる第2のショットピーニング処理と、粒径0.02~0.30mmのショットによる第3のショットピーニング処理からなる多段ショットピーニング処理であることが好ましい。これにより、先に実施したショットピーニングにより増加した表面粗さを後に実施するショットピーニングによって低減することができる。
【0044】
なお、ショットピーニング処理におけるショット径や段数は上記に限らず、要求性能に応じて、必要とする残留応力分布や表面粗さ等が得られれば良い。したがって、ショット径や材質、段数等は適宜選択する。また、投射速度や投射時間によっても導入される圧縮残留応力分布は異なってくるため、これらも必要に応じて適宜設定する。
【0045】
(6)残留オーステナイト分布
X線回折法を用いて測定した残留オーステナイト体積率γRについて、縦軸を残留オーステナイト体積率、横軸を表面からの深さとした残留オーステナイト分布曲線において、表面から0.5mm深さまでの積分値をIγRと表したとき、IγRが3.4%・mm以下であることが望ましい。このように、残留オーステナイトを制限することにより、耐へたり性を向上させることができる。
【0046】
(7)表面粗さ
高負荷応力下で使用されるバルブスプリングやクラッチトーションスプリング等としては、要求される耐疲労性を満足するために、上述の圧縮残留応力分布と共に表面粗さも重要である。本発明者らが破壊力学的計算とその検証実験を行った結果、表面起点による亀裂の発生・進展に対しては、表面キズの深さ(すなわち、表面粗さRz(最大高さ))を20μm以下とすることで、その影響を無害化できることが判明している。このため、表面粗さRzが、20μm以下であることが好ましい。Rzが20μmを超える場合、表面の谷部が応力集中源となり、その谷部を起点とした亀裂の発生・進展が起こり易くなるため、早期折損を招き易い。
【0047】
(8)コイルばね形状
本発明は、コイリング時の加工度が大きく、高い耐疲労性が必要とされる、次に挙げる仕様の圧縮コイルばねに好適である。本発明は、線材の円相当直径(線材横断面積から算出した真円とした場合の直径、角形や卵形をはじめとした非円形断面も含む)が1.5~10mm、ばね指数が3~20である、一般的に冷間成形されている圧縮コイルばねに利用できる。
【0048】
中でも、コイリング時の加工度が大きく(すなわち、冷間成形ではコイリング加工により発生するコイル内径側の引張残留応力が大きい)、かつ、高い耐疲労性が必要とされるバルブスプリングやクラッチトーションスプリング等で使用される円相当直径が1.5~9.0mm、ばね指数が3~8である圧縮コイルばねに対し好適である。
【0049】
また、上記圧縮コイルばねは、従来の熱間成形法とは異なり、上記のようなコイルばね成形機を用いて製造するため、コイリング加工時に芯金が不要である。したがって、成形できるばね形状の自由度が高い。すなわち本発明におけるコイルばね形状としては、コイルばねとして代表的な全巻目でコイル外径にほぼ変化がない円筒形をはじめ、これ以外の形状のコイルばねにも適用できる。たとえば、円錐形、釣鐘形、鼓形、樽形等のばねの成形も可能である。
【0050】
ここで、「円筒形」とはコイル径が一定のばねであり、「円錐形」とはコイル径がばねの一端から他端に向けて円錐状に変化するばねである。「釣鐘形」とはコイル径が一端において小であり、中央に向けて拡径しそのままの径で他端に至るばねであり、「片絞り形」ともいう。「鼓形」とはコイル径が両端において大であり、中央において小であるばねである。「樽形」とはコイル径が両端において小であり、中央において大であるばねであり、「両端絞り形」ともいう。
【0051】
本発明は、ばねとして使用される炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線、炭素鋼オイルテンパー線、クロムバナジウム鋼オイルテンパー線、シリコンクロム鋼オイルテンパー線、シリコンクロムバナジウム鋼オイルテンパー線等に対して適用が可能である。ここで、炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、およびばね鋼線はオイルテンパー線のような熱処理が施されていないため、鋼線材としては同等組成のオイルテンパー線と比較して安価である。また、本発明の製造法では熱処理(焼入れ、焼戻し)を施すため、組成が同等であれば、炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、およびばね鋼線を使っても、オイルテンパー線を使っても、同等の特性を有する圧縮コイルばねを製造することができる。よって、組成が同等であれば、炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、およびばね鋼線を使った方が安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、鋼線材の表面に薄く均一な厚さのC濃化層を形成するから、残留オーステナイト相の総量が少なく耐へたり性を向上させることができるとともに、表面近傍を高硬度として降伏応力を向上させ、ショットピーニングの効果を効率的に得ることで耐疲労性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】コイルばねの製造工程の一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態におけるコイリングマシンの成形部の概略図である。
図3】実施例で用いたコイルばねの残留応力分布を示すグラフである。
図4】実施例で用いたコイルばねの残留オーステナイト分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。図1に各製造工程を示す。図1(A)は、本発明の圧縮コイルばねの製造方法であり、他は従来例である。図1(A)に示される製造工程は、以下のコイリングマシンによる熱間成形法であり、図1(B)および(C)に示される製造工程は、任意のコイリングマシンによる冷間成形法である。
【0055】
図1(A)に示される製造工程で用いるコイリングマシン成形部1の概略を図2に示す。図2に示すように、コイリングマシン成形部1は、連続的に鋼線材Mを供給するためのフィードローラ10と、鋼線材Mをコイル状に成形するコイリング部20とを備えている。コイリング部20は、フィードローラ10により供給された鋼線材Mを適切な位置へ誘導するためのワイヤガイド21と、ワイヤガイド21を経由して供給された鋼線材Mをコイル形状に加工するためのコイリングピン(もしくはコイリングローラ)22aからなるコイリングツール22と、ピッチを付けるためのピッチツール(図示略)とを備えている。また、コイリングマシン成形部1は、所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材Mとを切り離すための切断刃30aおよび内型30bを備えた切断手段30と、フィードローラ10の出口からコイリングツール22の間において鋼線材Mを加熱する高周波加熱コイル40とを備えている。
【0056】
高周波加熱コイル40の内側には、例えばセラミックスからなる囲い部材50が配置されている。囲い部材50は、その両端部には小径の鋼線材入口50aおよび鋼線材出口50bを備えている。囲い部材50の鋼線材入口50aの近傍には、囲い部材50に炭化水素系ガスを供給するガス供給部(ガス供給手段)60が設けられている。ガス供給部60は、囲い部材50の例えば鋼線材入口50aから内部に炭化水素系ガスを供給する。なお、炭化水素系ガスは鋼線材出口50bから供給することもできる。
【0057】
コイリングマシン成形部1での急速加熱は、高周波加熱コイル40によって行い、鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域に昇温させる。高周波加熱コイル40の設置位置は図2に示す通りであり、囲い部材50の外周側に配置されている。囲い部材50の内部を通過する鋼線材Mは、高周波加熱コイル40により加熱され、囲い部材50に充満している炭化水素系ガスにより浸炭される。ガス供給部は、浸炭性に寄与する囲い部材50内における炭化水素系ガスの密度と流速とを勘案した量の炭化水素系ガスを囲い部材50内に供給する。
【0058】
高周波加熱コイル40はワイヤガイド21の近傍に設置されており、鋼線材Mを加熱後、直ぐに成形できるようにコイリング部20が設けられている。コイリング部20では、ワイヤガイド21を抜けた鋼線材Mをコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げ、さらに下流のコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げる。そして、ピッチツールに鋼線材Mを当接させて、所望のコイル形状となるようにピッチを付与する。所望の巻数となったところで、切断手段30の切断刃30aによって内型30bの直線部分との間でせん断によって切断して、後方より供給される鋼線材Mとばね形状の鋼線材Mとを切り離す。
【0059】
(1)製造工程(A)
図1の工程(A)は、第1実施形態の製造工程を示す。まず、質量%で、Cを0.5~0.7%、Siを1.2~3.0%、Mnを0.3~1.2%、Crを0.5~1.9%、Vを0.05~0.5%含むと共に、任意成分としてNiを1.5%以下,Moを1.5%以下、Wを0.5%以下のうち1種または2種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5~10mmの鋼線材Mを用意する。この鋼線材Mを線出機(図示省略)によりフィードローラ10へ供給し、高周波加熱コイル40によって鋼線材Mを2.5秒以内でオーステナイト域に加熱後、コイリング部20においてコイリングを行う(コイリング工程)。
【0060】
このとき、囲い部材50の中の鋼線材Mの浸炭処理が同時に行なわれる。浸炭処理は、線材温度850~1150℃において行い、鋼線材Mの表面に最大C濃度が0.7~1.2%であり、厚さが0.01~0.05mmのC濃化層を形成する。これにより、線材内部硬さよりも30HV以上高い表層部を得ることができる。
【0061】
次に、コイリング後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れ槽(図示省略)において焼入れ(焼入れ溶媒としては、たとえば60℃程度の油)を行い(焼入れ工程)、さらに焼戻し(例えば150~500℃)を行う(焼戻し工程)。焼入れを行うことにより、マルテンサイト組織からなる高硬さ組織となり、さらに焼戻しを行うことにより、靭性に優れた焼戻しマルテンサイト組織とすることができる。ここで、焼入れ・焼戻し処理は一般的な方法を用いればよく、その焼入れ前の線材の加熱温度や焼入れ溶媒の種類・温度、そして焼戻しの温度や時間は、鋼線材Mの材質によって適宜設定する。
【0062】
さらに、鋼線材Mにショットピーニング処理(ショットピーニング工程)およびセッチング処理(セッチング工程)を施すことにより、所望の耐疲労性を得ることができる。オーステナイト域に加熱した状態でコイリングを行うため、加工による残留応力の発生を防ぐことができる。このため、加工によりコイル内径側表面に引張残留応力が発生する冷間成形法と比較してショットピーニングによって圧縮残留応力を付与し易く、高応力となるばねの内径側において表面から深くかつ大きい圧縮残留応力を効果的に付与することができる。さらに、セッチング処理を行うことにより、ばねとして使用した場合の最大主応力方向により深い圧縮残留応力分布が形成され、耐疲労性を向上することができる。
【0063】
本実施形態においては、粒径0.6~1.2mmのショットによる第1のショットピーニング処理と、粒径0.2~0.8mmのショットによる第2のショットピーニング処理と、粒径0.02~0.30mmのショットによる第3のショットピーニング処理からなる多段ショットピーニング処理を行う。後に実施するショットピーニング処理において、先に実施するショットピーニング処理よりも小さいショットを用いるため、線材の表面粗さを平滑にすることができる。
【0064】
ショットピーニングで使用するショットは、スチールカットワイヤやスチ-ルビーズ、FeCrB系をはじめとした高硬度粒子等を用いることができる。また、圧縮残留応力は、ショットの球相当直径や投射速度、投射時間、および多段階の投射方式で調整することができる。
【0065】
また、本実施形態では、セッチング処理としてホットセッチングを行い、100~300℃に加熱し、かつ線材表面に作用するせん断ひずみ量がばねとして実際に使用する場合の作用応力でのせん断ひずみ量以上となるようにばね形状の鋼材に対して塑性ひずみを与える。
【0066】
以上のような工程(A)によって作製した本発明の圧縮コイルばねは、表層部に鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を有し、鋼線材の全周に亘ってC濃化層の厚さが0.01~0.05mmの範囲に入る圧縮コイルばねである。このような圧縮コイルばねにおいては、鋼線材の表面に薄く均一な厚さのC濃化層を形成するから、残留オーステナイト相が少なく耐へたり性を向上させることができるとともに、表面近傍を高硬度として降伏応力を向上させ、ショットピーニングの効果を効率的に得ることで耐疲労性を向上させることができる。
【0067】
次に、本発明の実施形態との比較のために工程(B)、(C)について説明する。
図1の工程(B)では、工程(A)において用いた鋼線材Mを任意のコイリングマシンによって冷間コイリングを行う(コイリング工程)。そして、コイリング後の鋼線材を炭化水素ガスを含む減圧条件下でオーステナイト域まで昇温し、焼入れ(焼入れ剤としては、たとえば60℃程度の油)を行う(浸炭+焼入れ工程)。次に、工程(A)と同様に、焼戻し工程、ショットピーニング工程、およびセッチング工程を順に行う。
【0068】
工程(C)は工程(B)において浸炭、焼入れ、および焼戻しを行わずに焼鈍と窒化を行うものである。
【実施例
【0069】
1.サンプル作製方法
各製造工程によってコイルばねのサンプルを作製し、耐疲労性の評価を行った。まず、表1に記載の化学成分を有し、残部が鉄および不可避不純物からなるオイルテンパー線を用意した。そして、オイルテンパー線に対して、図1に示す製造工程A~Cに従って、熱間成形法または冷間成形法により、線径4.1mm、ばね指数6、総巻数5.75巻、有効巻数3.25巻、クローズドエンドのコイルばねを作製した。なお、表1において「OT線」とはオイルテンパー線の意味である。
【0070】
【表1】
【0071】
製造工程Aでは、高周波加熱コイル、囲い部材、およびガス供給部を備えたコイリングマシン(図2参照)により鋼線を加熱し、表2に示す処理温度で浸炭処理を行った後コイリングを行い、60℃の油によって焼入れした。表2において、浸炭処理温度は、鋼線の表面温度である。その後、表2に記載の条件で焼戻し処理を行った(発明例1~7、比較例1~4)。
【0072】
表2において「コイリング+浸炭方法」とは、コイリングの直前に加熱した鋼線に浸炭を行うことを示し、「A」は囲い部材およびガス供給部を用いた浸炭方法であり、「B」は1本のノズルから鋼線の表面に炭化水素系ガスを吹き付ける浸炭方法である。
【0073】
製造工程Bでは、任意のコイリングマシンによる冷間コイリング後、コイリングされた鋼線材を炭化水素ガスを含む減圧条件下でオーステナイト域まで昇温し、60℃の油によって焼入れを行った後、300℃において焼戻し処理を行った(比較例6)。製造工程Cでは冷間コイリング後、430℃において焼鈍処理を行い、次いで窒化処理を行った。窒化処理では線材表面に深さ0.04mmの硬質層を形成した(比較例7,8)。
【0074】
次に、各サンプルに対してショットピーニング処理およびセッチング処理を施した。ショットピーニング処理では、球相当直径1.0mmのスチール製ラウンドカットワイヤによる第1のショットピーニング処理と、球相当直径0.5mmのスチール製ラウンドカットワイヤによる第2のショットピーニング処理と、球相当直径0.1mmのスチールビーズによる第3のショットピーニング処理とを順に行った。セッチングはホットセッチングとし、コイルばねの加熱温度200℃、負荷応力1500MPaで行った。
【0075】
【表2】
【0076】
2.評価方法
このようにして得たサンプルに対し、以下の通り諸性質を調査した。その結果を表3に示す。
【0077】
(1)硬さ(HV)
ビッカース硬さ試験機(フューチャテック FM-600)を用いてコイルばねの線材横断面における硬さを測定した。測定荷重は表面から深さ0.02mmの位置(表3における「表面」)では25gf、深さd(線径)/4mmの位置(表3における「内部」)では200gfとし、各深さについて同心上の任意の3点で測定し、その平均値を算出した。
【0078】
(2)圧縮残留応力積分値(I-σR)、クロッシングポイント(CP)
コイルばねの内径側表面において、線材の線軸方向に対し+45°方向(ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向)の圧縮残留応力を、X線回折型残留応力測定装置(リガク製)を用いて測定した。測定は、管球:Cr、コリメータ径:0.5mmとして行った。また、コイルばねに対して塩酸を用いて線材表面の全面化学研磨後上記測定を行い、これを繰返すことで深さ方向の残留応力分布を求め、その結果からクロッシングポイントを求めた。また、圧縮残留応力積分値は、深さと残留応力の関係図における、表面からクロッシングポイントまでの圧縮残留応力を積分することにより算出した。なお、一例として発明例1の残留応力分布を図3に示す。
【0079】
(3)表面C濃度(C)、C濃化層厚さ(C
コイルばねの線材横断面において、60°毎に6箇所測定し、表面C濃度の平均値、C濃化層の厚さの平均値、最大値、および最小値を測定した。測定にはEPMA(島津製作所 EPMA-1600)を用い、ビーム径1μm、測定ピッチ1μmとしてライン分析を行った。C濃化層厚さは、線材内部と同じC濃度となるまでの表面からの深さとした。
【0080】
(4)残留オーステナイト(IγR
コイルばねの線材横断面において、最表面から0.5mmまでの各測定深さについて、60°毎に6箇所残留オーステナイトの体積率を測定し、縦軸を残留オーステナイト体積率、横軸を素線半径方向とした残留オーステナイト分布曲線において、表面から0.5mm深さまでの積分値IγRを求めた。測定には、2次元PSPC搭載X線回折装置(ブルカーD8 DISCOVER)を用いた。なお、一例として発明例1の残留オーステナイト分布を図4に示す。
【0081】
(5)表面粗さ(Rz(最大高さ))
非接触三次元形状測定装置(MITAKA NH-3)を用いてJIS B0601に準拠して表面粗さの測定を行った。測定条件は、測定倍率:100倍、測定距離:4mm、測定ピッチ:0.002mm、カットオフ値:0.8mmとした。
【0082】
(6)平均結晶粒径(dGS
SEM/EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法により、JEOL JSM-7000F(TSLソリューションズ OIM-Analysys Ver.4.6)を用いて、平均結晶粒径を測定した。ここで、測定はコイルばねの横断面の深さd/4の位置において行い、観察倍率5000倍で行い、方位角度差5°以上の境界を粒界として平均結晶粒径を算出した。
【0083】
(7)耐疲労性(折損率)
油圧サーボ型疲労試験機(鷺宮製作所)を用いて室温(大気中)において疲労試験を行った。表1の成分A,Bのものについては、試験応力:735±686MPa、周波数:20Hz、試験数:各7本であり、2千万回加振時の折損率(折損数/試験本数)で耐疲労性を評価した。成分Cのものについては、試験応力:760±711MPa、周波数:20Hz、試験数:各7本であり、2千万回加振時の折損率(折損数/試験本数)で耐疲労性を評価した。
【0084】
(8)耐へたり性(残留せん断ひずみ率Δγ)
コイルばねに対して温間締付試験を行った。その際の条件は、試験応力:1100MPa、試験温度:120℃、試験時間:48時間である。そして、下記数1を用いて試験前に対する試験後の荷重損失量から残留せん断ひずみ率Δγを算出した。
【0085】
【数1】
【0086】
【表3】
【0087】
3.評価結果
(1)硬さ
表3から分かるように、工程(A)の熱間成形法によって作製した発明例1~7では、内部硬さが600~710HVであり、高い耐疲労性が得られる。一方、比較例2、3の結果から、熱間成形法によって作製したコイルばねでも、硬さが600HV未満もしくは710HV以上の場合は十分な耐疲労性が得られない。また、発明例1~7では浸炭によって表面の硬さが内部と比較して30HV以上高くなっている。これによって表面近傍で高い圧縮残留応力を得ることができ、表面近傍(最表面含む)を起点とする疲労亀裂の発生を防止できる(耐疲労性向上)。一方、比較例1では表面の硬さ上昇が30HV未満であり、作動時に接触を繰り返す線間部での摩耗が激しく、同部からの早期折損に至っており、十分な耐疲労性が得られていない。
【0088】
(2)残留応力分布
発明例1~7では、I-σRは180MPa・mm以上であり、深く大きな圧縮残留応力が得られ、耐疲労性が良好である。一方、比較例7,8ではI-σRは150MPa・mm以下であり、圧縮残留応力が浅く小さく、耐疲労性が低下している。この理由は、工程(A)によって作製した発明例1~7では、冷間コイリングにおいて発生する引張残留応力(コイル内径側に残存)が、熱間コイリングではほとんど発生しないため、冷間コイリングによって引張残留応力が発生した比較例7,8と比べ、ショットピーニングによる圧縮残留応力が表面から深くまで入り易いためである。
【0089】
(3)表面C濃度、C濃化層厚さ
発明例1~7では表面C濃度0.7~1.2%、C濃化層厚さ(線材内部と同じC濃度となる表面からの深さ)0.01mm以上0.05mm以下の浸炭がされており、表面近傍での硬さが高いことから、表面近傍での高い圧縮残留応力が得られ、また、表面粗さも改善されることで高い耐疲労性を得ることができる。一方、比較例5では平均C濃化層厚さは発明例1~7と同等であるが、浸炭方法が異なるためC濃化層厚さのばらつきが大きい。そのため、C濃化層厚さが大きい箇所では0.05mmを超えており、過剰な浸炭が残留オーステナイトの増加を招いている。発明例1~7ではIγR(深さとγの関係図における、γの表面から0.5mm深さまでの積分値)は、3.1%・mm以下であるのに対し、比較例5では3.5%・mmと大きく、結果として、発明例1~7が残留せん断ひずみ率Δγが0.050~0.065と小さく耐へたり性が良好であるのに対し、比較例5では残留せん断ひずみ率Δγが0.080と大きく、耐へたり性が低下している。また比較例6では表面のC濃度が1.1%、C濃化層厚さが0.90mmとなっており、過剰な浸炭がなされていることで、残留オーステナイトの増加を招いており、IγRが3.55%・mmと大きく、結果として、発明例1~7に比べ、残留せん断ひずみ率Δγが0.093と耐へたり性が低下している。
【0090】
(4)表面粗さ
高い耐疲労性の得られた発明例1~について、表面粗さRz(最大高さ)は12.0μm以下であり、所望する表面粗さRz20μm以下を十分に満足している。ここで、Rzが20μmを超えた場合は、表面粗さにおける谷部が応力集中源となり、その谷部を起点として亀裂が発生・進展し、その結果として早期折損を招く。また、この表面粗さは、コイリング時におけるツール類との擦れや、ショットピーニング処理により形成されるものである。そしてショットピーニング処理により形成される表面粗さについては、線材の硬さと、ショットの粒径・硬さ・投射速度といった条件との組み合わせによりその大きさが決まる。よって、Rzが20μmを超えないよう、ショットピーニングの条件は適宜設定する必要がある。
【0091】
(5)平均結晶粒径
発明例では、平均結晶粒径(dGS)が0.84~1.30μmであり、微細な結晶構造を有する。これは、前述のように、高周波加熱によって短時間で加熱を行うことが組織の粗大化抑制、あるいは微細化に繋がったためであり、その結果、発明例1~7では微細な平均結晶粒径が得られ耐疲労性が向上している。これに対して、比較例4ではコイリング・浸炭温度が高く、発明例と比べ平均結晶粒径(dGS)が1.35μmと大きい。そのため、耐へたり性・耐疲労性が低下している。
【0092】
以上より、本発明の圧縮コイルばねの製造方法によれば、耐疲労性および耐へたり性を大幅に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によって製造される圧縮コイルばねは、高耐疲労性および高耐へたり性を有するので、弁ばね、特に高応力下で使用されるレース用エンジンのバルブスプリングや、クラッチ内で使用されるクラッチトーションスプリングなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1…コイリングマシン成形部、10…フィードローラ、20…コイリング部、21…ワイヤガイド、22…コイリングツール、22a…コイリングピン、30…切断手段、30a…切断刃、30b…内型、40…高周波加熱コイル、50…囲い部材、50a…囲い部材鋼線材入口、50b…囲い部材鋼線材出口、60…ガス供給部(ガス供給手段)、M…鋼線材。
図1
図2
図3
図4