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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61G 12/00 20060101AFI20220425BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
A61G12/00 W
B01D21/01 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017205422
(22)【出願日】2017-10-24
(65)【公開番号】P2019076388
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000205007
【氏名又は名称】大研医器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100168321
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敦
(72)【発明者】
【氏名】山田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】豊島 哲
(72)【発明者】
【氏名】漆間 正行
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1997/027883(WO,A1)
【文献】特開平02-157083(JP,A)
【文献】特開平11-299844(JP,A)
【文献】特開2008-175603(JP,A)
【文献】特開2007-271388(JP,A)
【文献】特開2014-004539(JP,A)
【文献】国際公開第2016/116314(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 12/00
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内において、患者の体液を含む液層と前記液層に浮かぶ浮遊物とを有する廃液を処理する廃液処理方法であって、
固体状の凝集剤と、前記凝集剤を収容するとともに水溶性を有する水溶性部材とを含む凝集剤ユニットを、前記容器内において前記液層に接触させ、前記水溶性部材の一部又は全体を前記液層において溶解させることにより、前記凝集剤を前記液層に含ませる接触工程と、
前記凝集剤を含ませた前記液層を撹拌し、前記廃液を前記容器内において上澄み液と凝集物に分離する分離工程と、を備え、
前記凝集剤ユニットは、前記水溶性部材の一部又は全体を、前記浮遊物の下方にある前記液層に到達させるための質量を有する重さ調節部材をさらに含み、
前記接触工程において、前記容器内に前記廃液を流入させた後に、前記容器内の前記廃液に前記凝集剤ユニットを投下し、
前記重さ調節部材は、前記水溶性部材に収容された撹拌子であり、
前記接触工程において、前記水溶性部材の一部又は全体を前記液層において溶解させることにより前記撹拌子を前記液層中に解放した後、
前記分離工程において、マグネチックスターラーを用いて前記撹拌子を前記液層において回転させる、廃液処理方法。
【請求項2】
前記凝集剤ユニットは、前記接触工程の前には、前記容器内において前記容器に支持されており、
前記接触工程において、前記凝集剤ユニットの支持を前記容器の外部からの操作によって解除して前記容器内の前記廃液に前記凝集剤ユニットを投下する、請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
前記凝集剤ユニットは、前記接触工程の前には、前記容器内における予め定められた液面上限位置よりも上において前記容器に支持されている、請求項に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記水溶性部材は、水溶性フィルムによって形成されており、
前記凝集剤は、粉末状又は粒状であり、
前記凝集剤及び前記重さ調節部材は、前記水溶性フィルムによって囲まれた収容空間に収容されている、請求項1~の何れか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項5】
容器内において、患者の体液を含む液層と前記液層に浮かぶ浮遊物とを有する廃液を処理する廃液処理方法であって、
固体状の凝集剤と、前記凝集剤を収容するとともに水溶性を有する水溶性部材とを含む凝集剤ユニットを、前記容器内において前記液層に接触させ、前記水溶性部材の一部又は全体を前記液層において溶解させることにより、前記凝集剤を前記液層に含ませる接触工程と、
前記凝集剤を含ませた前記液層を撹拌し、前記廃液を前記容器内において上澄み液と凝集物に分離する分離工程と、
前記容器内における予め定められた液面上限位置よりも下において前記凝集剤ユニットが保持された前記容器を、前記接触工程を行うための位置にセットする準備工程と、を備え、
前記接触工程において、前記容器内に前記廃液を流入させることにより、前記水溶性部材を前記液層において溶解させ、
前記凝集剤ユニットは、前記水溶性部材に収容された撹拌子をさらに含み、
前記接触工程において、前記水溶性部材を前記液層において溶解させることにより前記撹拌子を前記液層中に解放した後、
前記分離工程において、マグネチックスターラーを用いて前記撹拌子を前記液層において回転させる、廃液処理方法。
【請求項6】
前記水溶性部材は、水溶性フィルムによって形成されており、
前記凝集剤は、粉末状であり、
前記凝集剤は、前記水溶性フィルムによって囲まれた収容空間に収容されている、請求項に記載の廃液処理方法。
【請求項7】
前記撹拌子は、前記水溶性フィルムによって囲まれた収容空間に収容されている、請求項に記載の廃液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の体液を含む廃液を処理するための廃液処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手術中や治療中の患者から排出される体液を含む廃液、具体的には例えば血液や体腔内洗浄液などを含む廃液による院内感染等を防止するための廃液処理方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている廃液処理方法では、手術中や治療中の患者から排出された体液を含む廃液を容器に収容し、容器内の廃液に凝集剤を投入して撹拌することにより、廃液を上澄み液と凝集物に分離する。その後、上澄み液を容器から排出し、容器内に残存した凝集物を容器とともに廃棄する。この廃液処理方法では、容器から排出された上澄み液は加熱殺菌等の処理がされ、残りの凝集物は容器ごと焼却処理されるため、安全に廃液処理を行うことができる。また、上澄み液を容器から排出するため、容器内の廃棄物の体積を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第97/27883号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、患者の体液を含む廃液が収容された容器内においては、血液、生理食塩水などを含む液層だけではなく、体液に由来する血餅、油膜、泡などの浮遊物が液層に浮かんでいることがある。このような浮遊物があり、しかも、凝集剤として粉末状、粒状などの固体状の凝集剤を用いる場合には、廃液が収容された容器内に凝集剤を添加しても、その固体状の凝集剤が液層に接触する前に浮遊物に付着してしまうため、液層中に凝集剤が十分に行き渡らないことがある。その結果、廃液を上澄み液と凝集物とに分離する効率が低下する。
【0006】
本発明の目的は、患者の体液を含む液層とその液層に浮かぶ浮遊物とを有する廃液を、粉末状、粒状などの固体状の凝集剤を用いて容器内において効率よく処理するための廃液処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の廃液処理方法は、容器内において、患者の体液を含む液層と前記液層に浮かぶ浮遊物とを有する廃液を処理する方法である。この廃液処理方法は、固体状の凝集剤と、前記凝集剤を収容するとともに水溶性を有する水溶性部材とを含む凝集剤ユニットを、前記容器内において前記液層に接触させ、前記水溶性部材の一部又は全体を前記液層において溶解させることにより、前記凝集剤を前記液層に含ませる接触工程と、前記凝集剤を含ませた前記液層を撹拌し、前記廃液を前記容器内において上澄み液と凝集物に分離する分離工程と、を備える。
【0008】
本発明では、凝集剤が水溶性部材に収容されているとともに凝集剤ユニットを液層に接触させて水溶性部材を液層において溶解させる。このため、容器内において液層に浮かぶ浮遊物に粉末状、粒状などの固体状の凝集剤が直に接触することを防ぐことができる。その結果、その溶解した部分から凝集剤を液層に放出して液層に接触させることができる。したがって、凝集剤が液層に接触する前に凝集剤が浮遊物に付着することに起因して凝集剤が液層に十分に行き渡らないという問題が生じることを防ぐことができる。これにより、本発明では、接触工程において、凝集剤を液層に十分に含ませることができるため、その液層を分離工程において撹拌することにより、所望の量の凝集剤を液層に分散させることができる。その結果、廃液に含まれる成分が凝集剤によって効率よく凝集物となるため、容器内において廃液を上澄み液と凝集物に効率よく分離することができる。分離された上澄み液は、例えば容器から排出されて適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。また、分離された凝集物は、容器とともに又は容器とは別個に、例えば焼却処理などの適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。以上のように、本発明では、粉末状、粒状などの固体状の凝集剤を用いる場合であっても、浮遊物を有する廃液を効率よく処理することができる。
【0009】
本発明の廃液処理方法においては、例えば、以下の第1~第の態様を採用することができる。
【0010】
まず、第1の態様では、前記凝集剤ユニットは、前記水溶性部材の一部又は全体を、前記浮遊物の下方にある前記液層に到達させるための質量を有する重さ調節部材をさらに含み、前記接触工程において、前記容器内に前記廃液を流入させた後に、前記容器内の前記廃液に前記凝集剤ユニットを投下する。
【0011】
この第1の態様では、凝集剤ユニットが重さ調節部材を含んでいるため、接触工程において、廃液に投下された凝集剤ユニットの一部又は全体が、凝集剤ユニットの自重によって浮遊物がある表層部分を通過して浮遊物の下方にある液層に、より到達しやすくなる。
【0012】
しかも、水溶性部材が溶解するまでにはある程度の時間を要する。このため、廃液に投下された凝集剤ユニットが表層部分にある浮遊物に接触する時点と、浮遊物を通過した凝集剤ユニットの水溶性部材の溶解によってその内部の凝集剤が液層に接触する時点との間に時間差を生じさせることができる。したがって、凝集剤ユニットが廃液に投下されて表層部分の浮遊物に接触しても、その時点では、水溶性部材に収容された凝集剤が浮遊物に直に接触しない。そして、上述の時間差を利用して、水溶性部材を液層において溶解させ、その内部の凝集剤を液層に放出することができる。
【0013】
これにより、凝集剤が液層に接触する前に凝集剤が浮遊物に付着することに起因して凝集剤が液層に十分に行き渡らないという問題が生じることを防げるので、廃液を上澄み液と凝集物とに分離する効率が低下するのを抑制できる。
【0014】
また、第1の態様においては、前記重さ調節部材が、前記水溶性部材に収容された撹拌子であり、前記接触工程において、前記水溶性部材を前記液層において溶解させることにより前記撹拌子を前記液層中に解放した後、前記分離工程において、マグネチックスターラーを用いて前記撹拌子を前記液層において回転させる。
【0015】
この態様では、接触工程において、水溶性部材が液層に接触することにより水溶性部材の一部又は全体が溶解すると、水溶性部材に保持されていた撹拌子が液層中に解放される。そして、分離工程において、その撹拌子を用いて液層を撹拌することができる。したがって、この態様では、分離工程において、廃液に直接接触せずに撹拌を行うことができる。
【0016】
また、この態様では、撹拌子は、液層を撹拌するという本来の機能だけでなく、撹拌子の重さによって凝集剤ユニット全体の重さを調節するという機能を果たす。このため、撹拌子とは別に重さ調節部材を凝集剤ユニットに含める必要がない。したがって、廃液処理において容器内に存在する部品を少なくできるので、容器の容量を廃液の収容のために効率的に使用することができる。
【0017】
また、第1の態様において、前記凝集剤ユニットは、前記接触工程の前には、前記容器内において前記容器に支持されており、前記接触工程において、前記凝集剤ユニットの支持を前記容器の外部からの操作によって解除して前記容器内の前記廃液に前記凝集剤ユニットを投下するのが好ましい。
【0018】
この態様では、接触工程の前に凝集剤ユニットが容器内において容器に予め支持されており、容器の外部からの操作でその支持を解除して凝集剤ユニットを廃液に投下できる。したがって、接触工程において容器内の廃液に凝集剤ユニットを投下するための投入口を容器に設ける必要がなく、外部操作のみで凝集剤ユニットを投下できる。これにより、より安全に廃液を処理することができる。
【0019】
また、第1の態様において、前記凝集剤ユニットは、前記接触工程の前には、前記容器内における予め定められた液面上限位置よりも上において前記容器に支持されているのがさらに好ましい。
【0020】
この態様では、凝集剤ユニットは、液面上限位置よりも上において容器に支持されている。したがって、接触工程において容器内に流入した廃液の液面が液面上限位置に達した時点においても、凝集剤ユニットが廃液に接触しない状態を維持できる。そして、作業者によって手動で又は廃液処理装置の制御部によって自動で、容器の外部から操作されることによって凝集剤ユニットの支持が解除される。これにより、凝集剤ユニットが容器内の廃液に投下され、凝集剤ユニットが廃液に接触する。したがって、この態様では、容器内への廃液の流入中に凝集剤ユニットが廃液に接触するのを防いで、所望の時期に凝集剤ユニットを廃液に投入することができる。
【0021】
また、第1の態様において、前記水溶性部材は、水溶性フィルムによって形成されており、前記凝集剤は、粉末状又は粒状であり、前記凝集剤及び前記重さ調節部材は、前記水溶性フィルムによって囲まれた収容空間に収容されているのが好ましい。
【0022】
この態様では、凝集剤が粉末状又は粒状である。固体状の凝集剤としては粉末状、粒状、塊状などの凝集剤が挙げられるが、本態様では、凝集剤が粉末状又は粒状であることにより、凝集剤が塊状である場合に比べて、凝集剤全体の表面積を増加させることができるので、容器内の液層に含まれる赤血球などの成分をより効率的に凝集させることができる。
【0023】
また、この態様では、水溶性フィルムの収容空間に粉末状又は粒状の凝集剤及び重さ調節部材が収容された状態で、凝集剤、重さ調節部材及び水溶性フィルムが一体化されている。したがって、凝集剤ユニットを容器内の廃液に投下する際に、これらの一体性が保持されやすい。このため、凝集剤ユニットを容器内の廃液に投下する際に、水溶性フィルムの収容空間に収容された粉末状又は粒状の凝集剤の一部が水溶性フィルムの外に出てしまって液層に浮かぶ浮遊物に付着するという事態や、重さ調節部材が水溶性フィルムの外に出てしまって凝集剤ユニットの重さを調節するという機能を果たさなくなるという事態が生じるのを防ぐことができる。
【0024】
次に、第2の態様における廃液処理方法は、前記容器内における予め定められた液面上限位置よりも下において前記凝集剤ユニットが保持された前記容器を、前記接触工程を行うための位置にセットする準備工程をさらに備え、前記接触工程において、前記容器内に前記廃液を流入させることにより、前記水溶性部材を前記液層において溶解させる。
【0025】
この2の態様では、凝集剤ユニットが容器内における液面上限位置よりも下において容器に保持されている。したがって、接触工程において、容器内に廃液を流入させている途中において、例えば凝集剤ユニットが廃液の表層部分に浮かんでしまうようなことを防ぐことができる。これにより、凝集剤が廃液の表層部分にある浮遊物に付着して廃液の表層部分に留まることを抑制できる。
【0026】
また、この2の態様では、第1の態様のように凝集剤ユニットを投下させるための機構や操作が不要であるため、廃液処理方法に使用される廃液処理装置の機構や操作を、第1の態様に比べてより簡素化できる。
【0027】
第2の態様においては、凝集剤ユニットが、前記水溶性部材に収容された撹拌子をさらに含み、前記接触工程において、前記水溶性部材を前記液層において溶解させることにより前記撹拌子を前記液層中に解放した後、前記分離工程において、マグネチックスターラーを用いて前記撹拌子を前記液層において回転させ
【0028】
この態様では、接触工程において、水溶性部材が液層に接触することにより水溶性部材が溶解すると、水溶性部材に保持されていた撹拌子が液層中に解放される。そして、分離工程において、その撹拌子を用いて液層を撹拌することができる。したがって、この態様では、分離工程において、廃液に直接接触せずに撹拌を行うことができる。
【0029】
また、第2の態様において、前記水溶性部材が、水溶性フィルムによって形成されており、前記凝集剤は、粉末状であり、前記凝集剤は、前記水溶性フィルムによって囲まれた収容空間に収容されていてもよい。
【0030】
この態様では、凝集剤が粉末状又は粒状であることにより、凝集剤が塊状である場合に比べて、凝集剤全体の表面積を増加させることができるので、容器内の液層に含まれる赤血球などの成分をより効率的に凝集させることができる。
【0031】
また、この態様では、水溶性フィルムの収容空間に粉末状又は粒状の凝集剤が収容された状態で、凝集剤及び水溶性フィルムが一体化されている。したがって、接触工程において、容器内に廃液を流入させる際に、これらの一体性が保持されやすい。このため、接触工程において、容器内に廃液を流入させる際に、水溶性フィルムの収容空間に収容された粉末状又は粒状の凝集剤の一部が飛散してしまって液層に浮かぶ浮遊物に付着するという事態が生じにくくなる。
【0032】
また、第2の態様において、前記撹拌子は、前記水溶性フィルムによって囲まれた収容空間に収容されていてもよい。
【0033】
この態様では、水溶性フィルムの収容空間に凝集剤だけでなく撹拌子も収容された状態で、凝集剤、撹拌子及び水溶性フィルムが一体化されている。したがって、接触工程の前に凝集剤ユニットを予め容器内に収容する際の作業が、凝集剤ユニットと撹拌子とを別々に容器内に収容する場合に比べて、簡素化される。
【0034】
より好ましい態様として、凝集剤ユニットが容器の底部に保持されている場合には、準備工程においてその容器をマグネチックスターラーの本体上にセットすれば、凝集剤ユニットに含まれた撹拌子が磁力によってマグネチックスターラーの本体側に引きつけられる。したがって、この場合には、凝集剤ユニットを容器の底部においてより確実に保持できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、患者の体液を含む液層とその液層に浮かぶ浮遊物とを有する廃液を、粉末状、粒状などの固体状の凝集剤を用いて容器内において効率よく処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の第1実施形態に係る廃液処理方法に用いられる廃液処理装置の概略を示す正面図である。
図2】第1実施形態に係る廃液処理方法に用いられる凝集剤ユニットを示す概略図である。
図3】(A)及び(B)は、第1実施形態における準備工程の概略を示す正面図である。
図4】(A)及び(B)は、第1実施形態における接触工程のうち、容器内に廃液を流入させる流入工程の概略を示す正面図である。
図5】(A)及び(B)は、第1,第2実施形態、及び3形態における液面上限位置について説明するための概略図である。
図6】第1実施形態における接触工程のうち、容器内の廃液に凝集剤ユニットを投下する投下工程の概略を示す正面図である。
図7】(A)、(B)及び(C)は、第1実施形態における接触工程において、容器内に投下された凝集剤ユニットの水溶性部材が溶解することにより、撹拌子が水溶性部材から解放されて液層中に落下する過程及び凝集剤が水溶性部材から解放されて液層中に放出される過程を示す正面図である。
図8】(A)は、第1実施形態における分離工程のうちの撹拌工程の概略を示す正面図である。(B)は、第1実施形態における分離工程のうちの静置工程の概略を示す正面図である。
図9】(A)及び(B)は、排出工程において、容器内の上澄み液が容器から排出される過程を示す正面図である。
図10】第1実施形態における廃棄工程の概略を示す正面図である。
図11】本発明の第2実施形態に係る廃液処理方法に用いられる廃液処理装置の概略を示す正面図である。
図12】(A)及び(B)は、第2実施形態における接触工程の概略を示す正面図である。
図13】(A)は、第2実施形態又は第3形態における分離工程のうちの撹拌工程の概略を示す正面図である。(B)は、第2実施形態又は第3形態における分離工程のうちの静置工程の概略を示す正面図である。
図14第3形態に係る廃液処理方法に用いられる廃液処理装置の概略を示す正面図である。
図15】(A)、(B)及び(C)は、第3形態における接触工程の概略を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下では、本発明の実施の形態として、第1~第実施形態を挙げているが、これらの実施形態は、本発明を具体化した例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0043】
第1,第2実施形態及び3形態に係る方法は、容器内において、患者の体液を含む液層とその液層に浮かぶ浮遊物とを有する廃液を処理する方法である。各実施形態に係る廃液処理方法は、接触工程と、分離工程とを備えている。接触工程は、固体状の凝集剤と、その凝集剤を収容するとともに水溶性を有する水溶性部材とを含む一つ又は複数の凝集剤ユニットを、容器内において液層に接触させ、水溶性部材を液層において溶解させることにより、凝集剤を液層に含ませる工程である。分離工程は、凝集剤を含ませた液層を撹拌し、廃液を容器内において上澄み液と凝集物に分離する工程である。
【0044】
以下、各実施形態について具体的に説明する。なお、以下の説明において、廃液は、例えば手術中や治療中の患者から排出される患者の体液を含むものである。具体的には、廃液は、血液、体腔内洗浄液(例えば生理食塩水)などを含む。また、廃液には、脂肪や血餅などの様々な成分が混ざっている。さらに、廃液が患者から吸引され、容器内に収容されたときには、容器内の廃液の表層部分には泡が発生することがある。したがって、容器内において、廃液は、血液、生理食塩水などを含む液層と、その液層に浮かぶ脂肪、血餅、泡などを含む浮遊物とによって構成されている。これらの浮遊物は、その下方にある液層の液面全体又は液面の一部を覆っている。なお、各実施形態において、液層は、その全てが液体成分である必要はなく、固形分(例えば血餅の一部、脂肪の一部)などが分散していてもよい。
【0045】
凝集剤は、廃液に含まれる成分を凝集させて容器内において凝集物を生成させるためのものである。具体的には、凝集剤は、例えば、血液に含まれる細胞成分である赤血球、液状成分である血漿に含まれるタンパク質などを凝集させる。各実施形態において、凝集剤としては、粉末状、粒状、塊状などの固体状のものが用いられる。ただし、後述する廃液処理において液層に分散しやすいようにするため、凝集剤は、粉末状又は粒状であるのが好ましい。
【0046】
凝集剤は上記のような機能を有するものであればよいので、種々のタイプのものを凝集剤として用いることができる。具体的に、凝集剤としては、カチオン系高分子凝集剤、両性系高分子凝集剤、有機凝結剤などを例示することができる。
【0047】
各実施形態に係る廃液処理方法においては、廃液に含まれる成分が凝集剤によって凝集物として容器内に沈殿することにより、廃液が上澄み液と凝集物に分離される。凝集物は、廃液に含まれる上述した赤血球、タンパク質などの成分が凝集剤によって凝集して得られるものであり、例えばゲル状、固形状などの状態のものである。上澄み液は、容器内においてその凝集物の上方にある液体であり、水分などを含むものである。
【0048】
各実施形態に係る廃液処理方法においては、一つ又は複数の凝集剤ユニットが用いられる。凝集剤ユニットは、固体状の凝集剤と、その凝集剤を収容する水溶性部材とを含む。各実施形態では、凝集剤が水溶性部材に収容されている。このため、この収容状態においては、容器内の液層に浮かぶ浮遊物に、凝集剤が直に接触することを防ぐことができる。そして、凝集剤ユニットを液層に接触させて水溶性部材を液層において溶解させたときに、その溶解した部分から凝集剤を液層に放出して液層に接触させることができる。
【0049】
水溶性部材を構成する材料としては、例えば、水溶性を有する合成樹脂などを用いることができる。このような合成樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(ポバール)などを例示できるが、これに限られない。また、水溶性部材は、凝集剤を収容することができるものであればよく、その形態は特に限定されない。ただし、凝集剤を水溶性部材に収容して凝集剤ユニットを形成するときの加工性などを考慮すると、水溶性部材は、水溶性フィルムによって形成されているのが好ましい。水溶性部材が液層に接触したときから、それが溶解して内部の凝集剤が液層に接触するまでの時間は、水溶性部材を構成する材料、水溶性部材の厚み(水溶性フィルムの厚み)などを変えることによって適宜調節できる。
【0050】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る廃液処理方法に用いられる廃液処理装置10の概略を示す正面図である。図2は、第1実施形態に係る廃液処理方法に用いられる凝集剤ユニット40を示す概略図である。図1及び図2に示すように、廃液処理装置10は、容器20と、保持容器28と、凝集剤ユニット40と、撹拌装置50とを備える。
【0051】
図1に示すように、容器20は、容器本体21と、上蓋22とを有する。容器本体21は、容器20内に吸引されて流入する廃液を保持するためのものである。本実施形態では、容器本体21は、変形可能な可撓性を有している。これにより、容器本体21は、容器20の内部の圧力と、外部の圧力との差に応じて内部の容積が増減するように構成されている。この外部の圧力は、本実施形態においては、後述する保持容器28と容器本体21との間の空間の圧力である。容器本体21は、例えば軟質の合成樹脂などのように容易に変形可能な材料を用いて形成されている。
【0052】
容器本体21は、図1及び図3(A)に示すように廃液処理に使用する前においては、例えば蛇腹状に複数の折り目が形成されており、容器20の内部の容積が小さくなるように収縮した状態にある。一方、容器20を廃液処理に使用する際には、容器20の内部の圧力が容器20の外部の圧力よりも大きくなるように容器20の内外の圧力が調節される。これにより、図3(B)に示すように、容器20の内部の容積が大きくなるように、容器本体21の折り目が伸びて拡張した状態になる。なお、本実施形態では、上記のように容器本体21が伸縮可能(変形可能)に構成されているが、これに限られない。容器本体21は、使用前後とも同じ形状で変形しないように構成されていてもよい。
【0053】
本実施形態では、容器20は、使い捨て容器(使い捨てライナー)として構成されている。すなわち、容器20は、後述する廃棄工程において、容器20内に収容された凝集物とともに廃棄される。ただし、容器20は、必ずしも使い捨て容器でなくてもよく、本実施形態に係る廃液処理方法に使用された後、殺菌、洗浄などの適切な処理が行われることにより再利用可能に構成されていてもよい。
【0054】
上蓋22は、容器本体21の上部の開口部を塞ぐためのものである。図3(A)及び図3(B)に示すように、上蓋22には、接続口24と接続口26とが設けられている。接続口24には、接触工程において廃液を容器20内に導くためのチューブ23(吸引チューブ23)が接続される。また、この接続口24には、チューブ23に代えて、後述するチューブ27(排出チューブ27)を接続することもできる(図9(A)及び図9(B)参照)。排出チューブ27は、後述する排出工程において容器20内の上澄み液を容器20の外に排出するためのものである。なお、排出チューブ27を接続するための専用の接続口(図示省略)を、接続口24とは別に、上蓋22に設けることもできる。接続口26には、接触工程において容器20内の空気を容器本体21の外部に排出するチューブ25(配管チューブ25)が接続される。
【0055】
また、図1に示すように、第1実施形態では、容器20内における予め定められた位置において、凝集剤ユニット40が容器20に支持されている。具体的には、凝集剤ユニット40は、容器20の上蓋22に取り付けられ、上蓋22に支持されている。さらに具体的には、凝集剤ユニット40は、容器20内における予め定められた液面上限位置H1よりも上において容器20に支持されている(図5(A)参照)。液面上限位置H1については後述する。
【0056】
第1実施形態では、凝集剤ユニット40は、上述のように使用前には、容器20に支持されている(具体的には、上蓋22の下面に支持されている)。一方、凝集剤ユニット40は、後述する接触工程の適切な時点において、容器20(具体的には、上蓋22の下面)から外されて廃液に投下される。
【0057】
また、第1実施形態では、上蓋22には、投下機構31が設けられている。投下機構31は、接触工程において、容器20内に収容された廃液に凝集剤ユニット40を投下するためのものである。投下機構31は、凝集剤ユニット40に対する容器20による支持(具体的には、凝集剤ユニットに対する上蓋22による支持)を、容器20の外部からの操作によって解除して容器20内の廃液に凝集剤ユニット40を落下させることができるように構成されている。当該操作は、作業者による手動で行われてもよく、廃液処理装置10の制御部による自動で行われてもよい。
【0058】
具体的には、投下機構31は、例えば、廃液処理を行う作業者が容器20の外部から操作可能な投下ボタンである。作業者がこの投下ボタンを押し下げることにより、上蓋22に支持されていた凝集剤ユニット40が下方に押されて上蓋22から外れ、廃液の液面に向かって落下する。なお、投下機構31は、図1に示す投下ボタンに限られず、接触工程における適切な時点で、操作者によって手動で又は廃液処理装置10の制御部によって自動で、凝集剤ユニット40を廃液に投下することができるものであれば他の機構を採用できる。
【0059】
第1実施形態では、図1及び図3(A)に示すように、容器20は、保持容器28に保持される。保持容器28は、容器20を保持可能な程度の剛性を有している。第1実施形態では、保持容器28は、容器本体21の全体を収容可能な容器である。図3(A)に示すように、保持容器28の上部の開口部は、容器20の上蓋22によって塞がれる。
【0060】
図3(A)に示すように、保持容器28には、接続口29が設けられている。接続口29には、チューブ30が接続される。チューブ30は、後述する準備工程、接続工程などにおいて、保持容器28と容器本体21との間の空間にある空気を吸引することにより、当該空間の圧力を容器本体21の内部の圧力よりも小さくして容器本体21を収縮状態から拡張状態にするため、又はその拡張状態を維持するためのものである。
【0061】
本実施形態では、保持容器28は、リユース容器(リユースボトル)として構成されている。すなわち、保持容器28は、本実施形態に係る廃液処理方法に使用された後、殺菌、洗浄などの適切な処理が行われることにより再利用される。
【0062】
図2に示すように、第1実施形態における凝集剤ユニット40は、凝集剤41と、撹拌子42と、凝集剤41及び撹拌子42を収容する水溶性部材43とを有する。
【0063】
図2に示すように、第1実施形態では、粉末状又は粒状の凝集剤41が用いられている。凝集剤ユニット40に含まれる凝集剤41の量は、例えば容器本体21の容量などを考慮して調整される。また、粉末状又は粒状の凝集剤41の粒径は、特に限定されるものではなく、後述する接触工程での廃液の液層における分散のしやすさなどを考慮して適宜設定される。
【0064】
第1実施形態では、撹拌子42は、後述する撹拌工程において容器20内の液層を撹拌するために用いられる。第1実施形態では、後述する撹拌装置50がマグネチックスターラーであるので、撹拌子42としては、例えば、棒磁石が合成樹脂などによって被覆された細長い形態のものを用いることができる。
【0065】
また、第1実施形態では、撹拌子42は、重さ調節部材の一例であり、凝集剤ユニット40の重さを調節するための機能も有している。撹拌子42の質量は、後述する接触工程において廃液に投下された凝集剤ユニット40の一部又は全体が浮遊物を通過して、浮遊物の下方にある液層に到達するように調整される。具体的に、撹拌子42としては、廃液に含まれる血液よりも比重が大きいものを用いることができる。また、撹拌子42の質量は、凝集剤ユニット40全体の質量が、その凝集剤ユニット40と同体積の廃液の質量よりも大きくなるように調整されるのが好ましい。
【0066】
図2に示す第1実施形態における水溶性部材43は、水溶性フィルムによって形成されている。第1実施形態では、粉末状又は粒状の凝集剤41と撹拌子42とが水溶性フィルムによって囲まれた収容空間に収容されている。具体的に、例えば、1枚の水溶性フィルムを二つ折りにして水溶性フィルムを重ねるか、又は2枚の水溶性フィルムを重ねて、これらのフィルムの間に凝集剤41と撹拌子42とを配置した状態で、水溶性フィルムの周縁部分を例えば融着などの接合方法を用いて接合する。これにより、凝集剤41と撹拌子42とが密封された状態の凝集剤ユニット40が得られる。
【0067】
なお、凝集剤41と撹拌子42は、必ずしも水溶性フィルムによって密封されている必要はなく、収容空間が凝集剤ユニット40の外部と多少連通していてもよい。すなわち、接触工程において水溶性フィルムが液層に接触する前に、凝集剤41及び撹拌子42が水溶性フィルムの収容空間から外に出てしまうようなことがない程度に、凝集剤41及び撹拌子42が水溶性フィルムに囲まれて保持されていればよい。
【0068】
撹拌装置50は、後述する撹拌工程において容器20内の廃液を撹拌するためのものである。第1実施形態では、撹拌装置50としてマグネチックスターラーが用いられている。この撹拌装置50(マグネチックスターラー50)は、本体51と、上述した撹拌子42とを備える。すなわち、第1実施形態において、撹拌子42は、凝集剤ユニット40の一部を構成するとともに、撹拌装置50の一部をも構成している。
【0069】
マグネチックスターラー50の本体51は、図略の駆動部や制御部、これらを収容する筐体などを備える。撹拌子42の回転速度は、駆動部や制御部によって調節される。マグネチックスターラー50の筐体の天板上には、保持容器28がセットされる。なお、撹拌装置50としては、例えば、モーターに連結された回転軸の回転によって廃液を撹拌するメカニカルスターラーなどの他の撹拌装置を用いることもできる。
【0070】
次に、本発明の第1実施形態に係る廃液処理方法について説明する。第1実施形態に係る廃液処理方法は、準備工程と、接触工程と、分離工程と、排出工程と、廃棄工程とを備える。
【0071】
(準備工程)
まず、準備工程について説明する。準備工程は、後述する接触工程の前に行われる工程であり、接触工程において容器20内に廃液を吸引することが可能な状態にするためのものである。図3(A)及び図3(B)は、第1実施形態における準備工程の概略を示す正面図である。
【0072】
準備工程においては、図1に示すように、撹拌装置50の本体51上に保持容器28をセットする。そして、図1に示すように容器本体21が収縮した状態の容器20を、図3(A)に示すように保持容器28に取り付ける。これにより、容器本体21が保持容器28内に収容されるとともに、保持容器28の上部の開口部が上蓋22によって塞がれる。
【0073】
また、準備工程においては、上蓋22に設けられた接続口24にチューブ23の一端が接続され、接続口26にはチューブ25の一端が接続される。また、保持容器28に設けられた接続口29には、チューブ30の一端が接続される。
【0074】
また、チューブ25には、チューブ25を通じて容器20内の空気を吸引するための吸引装置32が設けられる。チューブ30には、チューブ30を通じて、保持容器28と容器本体21との間の空間にある空気を吸引する吸引装置33が設けられる。吸引装置32,33としては、例えば、病棟に設けられた吸引源32,33を使用することができる。また、吸引装置32,33としては、ローラーポンプ(チューブポンプ)などのように陰圧を発生させることができるポンプ32,33を使用することもできる。なお、吸引装置32,33の何れか一方を省略して、チューブ25を通じた空気の吸引とチューブ30を通じた空気の吸引とを1つの吸引装置によって行うように構成されていてもよい。
【0075】
準備工程においては、図3(A)に示すように収縮状態にある容器本体21を、図3(B)に示すように拡張状態とする。具体的に、図3(A)に示す準備工程においては、チューブ23の他端は、開放されており、容器本体21の外部の空気がチューブ23を通じて容器本体21の内部に流入可能な状態にある。
【0076】
この状態で、ポンプ33の運転を開始すると、保持容器28と容器本体21との間の空間にある空気がチューブ30を通じて保持容器28の外に吸引される。一方、容器本体21の内部には、チューブ23を通じて外部の空気が自由に流入可能である。このため、保持容器28と容器本体21との間の空間の圧力が容器20内(容器本体21内)の圧力よりも小さくなる。このような圧力差が生じることにより、図3(A)に示すように収縮していた容器本体21は、図3(B)に示すように保持容器28内において拡張される。その後、吸引装置33の運転を停止する。なお、吸引装置33がローラーポンプである場合、ポンプの運転が停止されている状態においては、そのポンプによってチューブ30の流路が塞がれている。
【0077】
上記の準備工程により、容器20内における後述する液面上限位置H1よりも上において凝集剤ユニット40が保持された容器20を、接触工程を行うための位置にセットすることができる。
【0078】
(接触工程)
次に、接触工程について説明する。接触工程は、凝集剤ユニット40を容器20内において液層に接触させ、水溶性部材43を液層において溶解させることにより、凝集剤41を液層に含ませるために行われる。第1実施形態では、接触工程は、流入工程と、この流入工程の後に行われる投下工程とを含む。図4(A)及び図4(B)は、第1実施形態における接触工程のうち、容器20内に廃液を流入させる流入工程の概略を示す正面図である。
【0079】
図4(A)に示す接触工程の流入工程においては、チューブ23の他端側から患者の体液を含む廃液70が吸引される。図4(A)に示すように、上蓋22の接続口26とチューブ25との間には、止水フィルター34が設けられている。止水フィルター34は、容器20内に収容された廃液70の一部が容器20外に流出し、チューブ25に流入するのを防ぐために設けられている。止水フィルター34は、容器20内の廃液70の一部が接続口26を通じて止水フィルター34に到達すると、吸引をストップするように構成されている。
【0080】
具体的に、例えば、止水フィルター34は、中空の流路部材と、吸収体とを備える。流路部材は、接続口26とチューブ25とを連通する流路を有する。吸収体は、その流路に設けられている。吸収体は、液体の吸収性が非常に優れた繊維(超吸収加工された繊維)を素材とする。吸収体は、空気が流れる隙間を有する一方で、液体を吸収すると一瞬で膨潤する。これにより、止水フィルター34は、膨潤後の吸引をストップすることができるので、接触工程において容器20内の廃液70がチューブ25に流入するのを防止できる。
【0081】
ここで、液面上限位置について説明する。図5(A)は、第1実施形態における液面上限位置H1について説明するための概略図である。なお、以下で説明する液面上限位置H1については、後述する第2実施形態及び3形態においても同様である。
【0082】
図5(A)に示す液面上限位置H1は、容器20内に流入する廃液70の液面Hが到達できる最上の位置である。図5(A)に示す一例では、止水フィルター34に接続されたチューブ37が下方に延びている。そして、容器20内の空間に位置するチューブ37の一端(下端)が液面上限位置H1に相当する。容器20内に流入する廃液70の液面がチューブ37の下端に到達し、さらに、チューブ37内に流入して止水フィルター34に到達すると、上述したように止水フィルター34が、それ以後、容器20内への廃液70の流入を阻止する。これにより、容器20内の廃液70の液面Hは、液面上限位置H1よりも高くならない。
【0083】
なお、液面上限位置H1を規定するための構成は、図5(A)に示す形態に限られず、種々の形態を採用できる。例えば図5(B)に示すように、止水フィルター34に接続されたチューブ37が側方に延びて、チューブ37の一端(側端)が容器20内の空間に位置するように構成されていてもよい。
【0084】
図5(A)に示すように、第1実施形態では、凝集剤ユニット40は、接触工程の前(廃液70を容器20内に流入させる前)においては、容器20内における液面上限位置H1よりも上において容器20に支持されている。なお、接触工程の前において、凝集剤ユニット40の一部が容器20内における液面上限位置H1よりも上にあり、凝集剤ユニット40の残りの部分が液面上限位置H1よりも下にあるように、凝集剤ユニット40が容器20に支持されていてもよい。
【0085】
図4(A)に示すように、吸引装置32の運転が開始されると、容器20内の空気がチューブ25を通じて容器本体21の外に排出されることに伴って生じる陰圧により、患者の体液を含む廃液がチューブ23を通じて吸引されて容器20内に流入する。このとき、容器本体21の拡張状態を維持するために、吸引装置33の運転も行うのが好ましい。
【0086】
図4(B)に示すように、容器20内に廃液70が溜まり、廃液70の液面Hが液面上限位置H1に達すると、吸引装置32,33の運転が停止される。このとき、容器20内の廃液70は、血液、生理食塩水などを含む液層71と、その液層に浮かぶ脂肪、血餅、泡などを含む浮遊物72とによって構成されている。
【0087】
容器20内への廃液70の吸引終了後、配管チューブ25が容器20(具体的には、止水フィルター34)から取り外される。止水フィルター34は、接続口26に取り付けた状態のままである。
【0088】
図6は、第1実施形態における接触工程のうち、容器20内の廃液70に凝集剤ユニット40を投下する投下工程の概略を示す正面図である。図7(A)、図7(B)及び図7(C)は、投下工程において、容器20内に投下された凝集剤ユニット40の水溶性部材43が溶解して撹拌子42が解放される過程及び凝集剤41が液層に放出される過程を示す正面図である。
【0089】
図6に示すように、接触工程の投下工程においては、投下機構31の一例である投下ボタンが作業者によって手動で又は廃液処理装置10の制御部によって自動で押し下げられる。これにより、上蓋22に支持されていた凝集剤ユニット40が上蓋22から外れて廃液70の液面に向かって落下する。
【0090】
図7(A)に示すように、第1実施形態では、凝集剤41が水溶性部材43に収容されているため、この収容状態においては、容器20内の廃液70の表層部分において液層71に浮かぶ浮遊物72に凝集剤41が直に接触することを防ぐことができる。
【0091】
また、第1実施形態では、上述したように凝集剤ユニット40は、重さ調節部材としての撹拌子42を有している。このため、図7(A)に示すように、凝集剤ユニット40の少なくとも一部が、浮遊物72の下方にある液層71に到達する。このように水溶性部材43が液層71に接触すると、図7(B)に示すように水溶性部材43のうちの液層71に接触している部分が次第に溶解する。水溶性部材43の一部が溶解すると、水溶性部材43の収容空間に収容された凝集剤41及び撹拌子42が液層71に露出する。そして、水溶性部材43の溶解がさらに進行すると、水溶性部材43は凝集剤41及び撹拌子42を保持できなくなるため、凝集剤41の一部又は全部及び撹拌子42は液層71中に放出される。そして、図7(C)に示すように、凝集剤41の大半は、液層71中に放出され、撹拌子42は、容器本体21の底面上に落下する。
【0092】
なお、接触工程においては、水溶性部材43の全体が完全に溶解する必要はなく、水溶性部材43の一部が溶解せずに残っていてもよい。
【0093】
(分離工程)
次に、分離工程について説明する。分離工程は、凝集剤41を含ませた液層71を撹拌し、廃液70を容器20内において上澄み液73と凝集物74に分離するために行われる。第1実施形態では、分離工程は、撹拌工程と、この撹拌工程の後に行われる静置工程とを含む。図8(A)は、第1実施形態における分離工程のうち、容器20内の廃液70を撹拌する撹拌工程の概略を示す正面図である。図8(B)は、第1実施形態における分離工程のうち、撹拌を停止した後に容器20を静置する静置工程の概略を示す正面図である。
【0094】
図8(A)に示すように、撹拌工程では、接触工程において容器本体21の底面に落下した撹拌子42を液層71において回転させる。撹拌子42の回転速度などは、マグネチックスターラー50の本体51によって制御される。上述した接触工程において液層71には十分な量の凝集剤41が含まれているため、撹拌工程においてその液層71を撹拌することにより、凝集剤41を液層71全体に行き渡らせることができる。その結果、図8(A)に示すように、廃液70に含まれる成分が凝集剤41によって効率よく凝集物74となる。
【0095】
凝集物74の生成に必要な撹拌が完了すると、マグネチックスターラー50の運転が停止される。そして、図8(B)に示すように、容器本体21及びその内部の廃液70が静置されると、容器20内において凝集物74が沈殿するため、廃液70を上澄み液73と凝集物74に分離することができる。
【0096】
(排出工程)
次に、排出工程について説明する。排出工程は、上澄み液73を容器20から排出するために行われる。これにより、容器20内の廃棄物の体積を小さくすることができる。図9(A)及び図9(B)は、第1実施形態における排出工程において、容器20内の上澄み液73が容器20から排出される過程を示す正面図である。
【0097】
第1実施形態における排出工程では、容器20の容器本体21を収縮させて容器本体21の容積を小さくすることにより、容器20の上部から上澄み液73だけを容器20の外に排出する。
【0098】
図9(A)に示すように、第1実施形態では、吸引装置36を用いて容器20内の空気及び上澄み液73を吸引してこれらを容器20外に排出する。図9(A)に示すように、例えば上蓋22の接続口24に、排出チューブ27が接続される。この排出チューブ27には、吸引装置36として例えばローラーポンプ36が設けられている。排出工程は、接続口24などの他の開口部が閉じられた状態で行われる。
【0099】
ローラーポンプ36の運転を開始すると、容器20内の空気及び上澄み液73が吸引されてこれらが容器20外に排出される。その排出による陰圧で容器本体21が収縮する。これにより、容器本体21が収縮した後の容器20内には、凝集物74と少量の上澄み液73とが残る。
【0100】
なお、容器本体21に対して容器本体21の外部から圧力を加えて容器本体21を潰すことによって容器20の上部から上澄み液73だけを容器20の外に排出してもよい。
【0101】
(廃棄工程)
次に、廃棄工程について説明する。図10は、第1実施形態における廃棄工程の概略を示す正面図である。
【0102】
廃棄工程では、図10に示すように、容器20が保持容器28から取り外される。そして、容器20内に残る凝集物74は、容器20とともに焼却処理などの適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。また、容器20から排出された上澄み液73は、適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。
【0103】
以上説明したように、凝集剤41が水溶性部材43に収容されているため、容器20内において液層71に浮かぶ浮遊物72に凝集剤41が直に接触することを防ぐことができる。そして、凝集剤ユニット40を液層71に接触させて水溶性部材43を液層71において溶解させることにより、その溶解した部分から凝集剤41を液層71に放出して液層71に接触させることができる。したがって、凝集剤41が液層71に接触する前に凝集剤41が浮遊物72に付着することに起因して凝集剤41が液層71に十分に行き渡らないという問題が生じることを防ぐことができる。これにより、接触工程において、凝集剤41を液層71に十分に含ませることができるため、その液層71を分離工程において撹拌することにより、所望の量の凝集剤41を液層71に分散させることができる。その結果、廃液70に含まれる成分が凝集剤41によって効率よく凝集物74となるため、容器20内において廃液70を上澄み液73と凝集物74に効率よく分離することができる。分離された上澄み液73は、例えば容器20から排出されて適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。また、分離された凝集物74は、容器20とともに又は容器20とは別個に、例えば焼却処理などの適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。以上のように、廃液70を効率よく処理することができる。
【0104】
また、第1実施形態では、凝集剤ユニット40が重さ調節部材を含んでいるため、接触工程において、廃液70に投下された凝集剤ユニット40の一部又は全体が、凝集剤ユニット40の自重によって浮遊物72がある表層部分を通過して浮遊物72の下方にある液層71に、より到達しやすくなる。
【0105】
しかも、水溶性部材43が溶解するまでにはある程度の時間を要する。このため、廃液70に投下された凝集剤ユニット40が表層部分にある浮遊物72に接触する時点と、浮遊物72を通過した凝集剤ユニット40の水溶性部材43の溶解によってその内部の凝集剤41が液層71に接触する時点との間に時間差を生じさせることができる。したがって、凝集剤ユニット40が廃液70に投下されて表層部分の浮遊物72に接触しても、その時点では、水溶性部材43に収容された凝集剤41が浮遊物72に直に接触しない。そして、上述の時間差を利用して、水溶性部材43を液層71において溶解させ、その内部の凝集剤41を液層71に放出させることができる。
【0106】
これにより、凝集剤41が液層71に接触する前に凝集剤41が浮遊物72に付着することに起因して凝集剤41が液層71に十分に行き渡らないという問題が生じることを防げるので、廃液70を上澄み液73と凝集物74とに分離する効率が低下するのを抑制できる。
【0107】
第1実施形態では、接触工程において、水溶性部材43が液層71に接触することにより水溶性部材43の一部又は全体が溶解すると、水溶性部材43に保持されていた撹拌子42が液層71中に解放される。そして、分離工程において、その撹拌子42を用いて液層71を撹拌することができる。したがって、この態様では、分離工程において、廃液70に直接接触せずに撹拌を行うことができる。
【0108】
また、第1実施形態では、撹拌子42は、液層71を撹拌するという本来の機能だけでなく、撹拌子42の重さによって凝集剤ユニット40全体の重さを調節するという機能を果たす。このため、撹拌子42とは別に重さ調節部材を凝集剤ユニット40に含める必要がない。したがって、廃液処理において容器20内に存在する部品を少なくできるので、容器20の容量を廃液70の収容のために効率的に使用することができる。
【0109】
また、第1実施形態では、接触工程の前に凝集剤ユニット40が予め容器20内において容器20に支持されており、容器20の外部からの操作でその支持を解除して凝集剤ユニット40を廃液70に投下できる。したがって、接触工程において容器20内の廃液70に凝集剤ユニット40を投下するための投入口を容器20に設ける必要がなく、外部操作のみで凝集剤ユニット40を投下できる。これにより、より安全に廃液70を処理することができる。
【0110】
また、第1実施形態では、凝集剤41が粉末状又は粒状であることにより、凝集剤41が塊状である場合に比べて、凝集剤41全体の表面積を増加させることができるので、容器20内の液層71に含まれる赤血球などの成分をより効率的に凝集させることができる。
【0111】
また、第1実施形態では、水溶性フィルムの収容空間に粉末状又は粒状の凝集剤41及び重さ調節部材が収容された状態で、凝集剤41、重さ調節部材及び水溶性フィルムが一体化されている。したがって、凝集剤ユニット40を容器20内の廃液70に投下する際に、これらの一体性が保持されやすい。このため、凝集剤ユニット40を容器20内の廃液70に投下する際に、水溶性フィルムの収容空間に収容された粉末状又は粒状の凝集剤41の一部が水溶性フィルムの外に出てしまって液層71に浮かぶ浮遊物72に付着するという事態や、重さ調節部材が水溶性フィルムの外に出てしまって凝集剤ユニット40の重さを調節するという機能を果たさなくなるという事態が生じるのを防ぐことができる。
【0112】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る廃液処理方法について説明する。図11は、本発明の第2実施形態に係る廃液処理方法に用いられる廃液処理装置10の概略を示す正面図である。図12(A)及び図12(B)は、第2実施形態における後述の接触工程の概略を示す正面図である。
【0113】
図11に示すように、廃液処理装置10は、容器20と、保持容器28と、凝集剤ユニット40と、撹拌装置50とを備える。なお、第2実施形態に関する以下の説明においては、第1実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0114】
図11に示すように、容器20は、容器本体21と、上蓋22とを有する。図12(A)に示すように、容器20は、保持容器28に保持される。第2実施形態における上蓋22は、第1実施形態における上蓋22に設けられている投下機構31を備えていない。この投下機構31以外の構成に関しては、第2実施形態における容器20及び保持容器28は、図1に示した第1実施形態のものと同様である。
【0115】
第2実施形態では、凝集剤ユニット40は、後述する接触工程の前に、容器20内において液面上限位置H1よりも下に予め保持されている。具体的には、図11及び図12(A)に示すように、凝集剤ユニット40は、容器本体21の底面上に取り付けられているが、これに限られない。凝集剤ユニット40は、液面上限位置H1よりも下に保持されていればよく、例えば容器本体21の内側面に取り付けられていてもよい。なお、凝集剤ユニット40は、容器本体21における上下方向の中央位置よりも下に、凝集剤ユニット40の全体が位置しているのが好ましい。
【0116】
また、第2実施形態における凝集剤ユニット40は、凝集剤41と、撹拌子42と、凝集剤41及び撹拌子42を収容する水溶性部材43とを有し、図2に示す第1実施形態における凝集剤ユニット40と同様の構成である。
【0117】
次に、本発明の第2実施形態に係る廃液処理方法について説明する。第2実施形態に係る廃液処理方法は、準備工程と、接触工程と、分離工程と、排出工程と、廃棄工程とを備える。これらの工程のうち、準備工程、排出工程及び廃棄工程は、第1実施形態における対応する工程と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0118】
(準備工程)
まず、準備工程は、第1実施形態において図3(A)及び図3(B)を参照して説明した手順と同様の手順で行われる。この準備工程により、容器20内における液面上限位置H1よりも下において凝集剤ユニット40が保持された容器20を、接触工程を行うための位置にセットすることができる。
【0119】
(接触工程)
第2実施形態における接触工程は、第1実施形態と同様に、凝集剤ユニット40を容器20内において液層71に接触させ、水溶性部材43を液層71において溶解させることにより、凝集剤41を液層71に含ませるために行われる。
【0120】
図12(A)及び図12(B)に示す接触工程においては、チューブ23の他端側から患者の体液を含む廃液が吸引される。図12(A)に示すように、吸引装置32の運転が開始されると、容器20内の空気がチューブ25を通じて容器20の外に排出されることに伴って生じる陰圧により、患者の体液を含む廃液70がチューブ23を通じて吸引されて容器20内に流入する。このとき、容器本体21の拡張状態を維持するために、吸引装置33の運転も行うのが好ましい。
【0121】
そして、図12(B)に示すように、容器20内に廃液70が溜まり、廃液70の液面が液面上限位置H1に達すると、吸引装置32,33の運転が停止される。このとき、容器20内の廃液70は、血液、生理食塩水などを含む液層71と、その液層71に浮かぶ脂肪、血餅、泡などを含む浮遊物72とによって構成されている。容器20内への廃液70の吸引終了後、配管チューブ25が容器20から取り外される。
【0122】
図11及び図12(A)に示すように、第2実施形態では、容器20の底部に凝集剤ユニット40が予め設けられている。このため、図12(A)及び図12(B)に示すように、第2実施形態における接触工程は、第1実施形態における投下工程のような工程を含んでいなくても、容器20内に廃液を溜めるだけで、凝集剤41を廃液70の液層71に接触させることができる。
【0123】
すなわち、接触工程において容器20内に廃液70が流入して溜められると、水溶性部材43が液層71に接触する。図12(A)及び図12(B)に示すように、容器20内に溜められた廃液70に凝集剤ユニット40が浸責されている。したがって、凝集剤ユニット40の水溶性部材43が液層71に接触すると、図12(B)に示すように水溶性部材43が次第に溶解する。第2実施形態では、凝集剤ユニット40の全体が液層71に浸責された状態にあるため、水溶性部材43の溶解がさらに進行すると、水溶性部材43のほぼ全体が溶解する。これにより、凝集剤41及び撹拌子42は、液層71に露出し、水溶性部材43に保持されていない状態となる。
【0124】
(分離工程)
次に、分離工程について説明する。分離工程は、第1実施形態と同様に、凝集剤41を含ませた液層71を撹拌し、廃液70を容器20内において上澄み液73と凝集物74に分離するために行われる。第2実施形態では、分離工程は、撹拌工程と、この撹拌工程の後に行われる静置工程とを含む。図13(A)は、第2実施形態における分離工程のうち、容器内の廃液を撹拌する撹拌工程の概略を示す正面図である。図13(B)は、第2実施形態における分離工程のうち、撹拌を停止した後に容器を静置する静置工程の概略を示す正面図である。
【0125】
図13(A)に示すように、撹拌工程では、接触工程において容器本体21の底面において露出した撹拌子42を液層71において回転させる。上述した接触工程において液層71には十分な量の凝集剤41が含まれているため、撹拌工程においてその液層71を撹拌することにより、凝集剤41を液層71全体に行き渡らせることができる。その結果、廃液70に含まれる成分が凝集剤41によって効率よく凝集物74となる。
【0126】
凝集物74の生成に必要な撹拌が完了すると、マグネチックスターラー50の運転が停止される。そして、図13(B)に示すように、容器本体21及びその内部の廃液70が静置されると、容器20内において凝集物74が沈殿するため、廃液70を上澄み液73と凝集物74に分離することができる。
【0127】
(排出工程)
次に行われる排出工程は、第1実施形態において図9(A)及び図9(B)を参照して説明した手順と同様の手順で行われる。
【0128】
(廃棄工程)
最後に行われる廃棄工程は、第1実施形態において図10を参照して説明した手順と同様の手順で行われる。
【0129】
以上説明したように、第2実施形態では、凝集剤ユニット40が容器20の下部に予め設けられており、水溶性部材43に収容された凝集剤41は容器20の下部において水溶性部材43に保持されている。したがって、接触工程において、容器20内に廃液70を流入させる際に、凝集剤41が廃液70の表層部分にある浮遊物72に付着して廃液70の表層部分に留まることを抑制できる。
【0130】
また、第2実施形態では、第1実施形態のように凝集剤ユニット40を投下させるための機構や操作が不要であるため、廃液処理方法に使用される廃液処理装置の機構や操作を、第1の態様に比べてより簡素化できる。
【0131】
また、第2実施形態では、接触工程において、水溶性部材43が液層71に接触することにより水溶性部材43が溶解すると、水溶性部材43に保持されていた撹拌子42が液層71中に解放される。そして、分離工程において、その撹拌子42を用いて液層71を撹拌することができる。したがって、この態様では、分離工程において、廃液70に直接接触せずに撹拌を行うことができる。
【0132】
また、第2実施形態では、凝集剤41が粉末状又は粒状であることにより、凝集剤41が塊状である場合に比べて、凝集剤41全体の表面積を増加させることができるので、容器20内の液層71に含まれる赤血球などの成分をより効率的に凝集させることができる。
【0133】
また、第2実施形態では、水溶性フィルムの収容空間に粉末状又は粒状の凝集剤41が収容された状態で、凝集剤41及び水溶性フィルムが一体化されている。したがって、接触工程において、容器20内に廃液70を流入させる際に、これらの一体性が保持されやすい。このため、接触工程において、容器20内に廃液70を流入させる際に、水溶性フィルムの収容空間に収容された粉末状又は粒状の凝集剤41の一部が飛散してしまって液層71に浮かぶ浮遊物72に付着するという事態が生じにくくなる。
【0134】
また、第2実施形態では、水溶性フィルムの収容空間に凝集剤41だけでなく撹拌子42も収容された状態で、凝集剤41、撹拌子42及び水溶性フィルムが一体化されている。したがって、接触工程の前に凝集剤ユニット40を予め容器20内に収容する際の作業が、凝集剤ユニット40と撹拌子42とを別々に容器20内に収容する場合に比べて、簡素化される。
【0135】
[第3形態]
次に、第3形態に係る廃液処理方法について説明する。図14は、第3形態に係る廃液処理方法に用いられる廃液処理装置10の概略を示す正面図である。図15(A)、図15(B)及び図15(C)は、第3形態における後述の接触工程の概略を示す正面図である。
【0136】
図14に示すように、廃液処理装置10は、容器20と、保持容器28と、凝集剤ユニット40と、撹拌装置50とを備える。なお、第3形態に関する以下の説明においては、第1実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0137】
図14に示すように、容器20は、容器本体21と、上蓋22とを有する。図15(A)に示すように、容器20は、保持容器28に保持される。第3形態における上蓋22は、第1実施形態における上蓋22に設けられている投下機構31を備えていない。この投下機構31以外の構成に関しては、第3形態における容器20及び保持容器28は、図1に示した第1実施形態のものと同様である。
【0138】
3形態では、複数の凝集剤ユニット40が、後述する接触工程の前に、容器20内に予め保持されている。具体的に、複数の凝集剤ユニット40は、容器20内における容器20の底部と液面上限位置H1との間の高さに保持されている。第3形態では、図15(A)に示すように、複数の凝集剤ユニット40が容器本体21の内側面のみに取り付けられているが、これに限られない。例えば、複数の凝集剤ユニット40の一部が容器本体21の底面に取り付けられ、それ以外の凝集剤ユニット40が容器本体21の内側面に取り付けられていてもよい。
【0139】
図15(A)に示すように、第3形態では、第1~第4の凝集剤ユニット40が容器20内に設けられている。第1の凝集剤ユニット40は、最も低い位置に設けられている。第2の凝集剤ユニット40は、第1の凝集剤ユニット40よりも高い位置に設けられている。第3の凝集剤ユニット40は、第2の凝集剤ユニット40よりも高い位置に設けられている。第4の凝集剤ユニット40は、第3の凝集剤ユニット40よりも高い位置に設けられている。
【0140】
また、第3形態では、各凝集剤ユニット40は、凝集剤41と、凝集剤41を収容する水溶性部材43とを有する。撹拌子42は、凝集剤ユニット40とは別に、容器20内に予め入れられている。
【0141】
次に、第3形態に係る廃液処理方法について説明する。第3形態に係る廃液処理方法は、準備工程と、接触工程と、分離工程と、排出工程と、廃棄工程とを備える。これらの工程のうち、準備工程、排出工程及び廃棄工程は、第1実施形態における対応する工程と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0142】
(準備工程)
まず、準備工程は、第1実施形態において図3(A)及び図3(B)を参照して説明した手順と同様の手順で行われる。この準備工程により、容器20内における液面上限位置H1よりも下において凝集剤ユニット40が保持された容器20を、接触工程を行うための位置にセットすることができる。
【0143】
(接触工程)
3形態における接触工程は、第1実施形態と同様に、凝集剤ユニット40を容器20内において液層71に接触させ、水溶性部材43を液層71において溶解させることにより、凝集剤41を液層71に含ませるために行われる。
【0144】
図14に示すように、第3形態では、容器20内に複数の凝集剤ユニット40が予め設けられている。このため、図15(A)に示すように、第3形態における接触工程は、第1実施形態における投下工程のような工程を含んでいなくても、容器20内に廃液を溜めるだけで、凝集剤41を廃液70の液層71に接触させることができる。
【0145】
3形態では、接触工程において、チューブ23の他端側から患者の体液を含む廃液が吸引される。図15(A)に示すように、吸引装置32の運転が開始されると、容器20内の空気がチューブ25を通じて容器20の外に排出されることに伴って生じる陰圧により、患者の体液を含む廃液70がチューブ23を通じて吸引されて容器20内に流入する。そして、その液層71の液面が、容器20内における第1の凝集剤ユニット40の水溶性部材43にまで到達すると、その第1の凝集剤ユニット40の水溶性部材43が溶解しはじめる。
【0146】
その後、図15(B)に示すように、第1の凝集剤ユニット40よりも高い位置に設けられた第2の凝集剤ユニット40の水溶性部材43にまで液層71の液面が到達すると、その第2の凝集剤ユニット40の水溶性部材43が溶解しはじめる。
【0147】
さらに、図15(C)に示すように、最も高い位置に設けられた第4の凝集剤ユニット40の水溶性部材43にまで液層71の液面が到達すると、その第4の凝集剤ユニット40の水溶性部材43が溶解しはじめる。最終的に、図15(C)に示すように、液層71の液面よりも下にある凝集剤ユニット40の水溶性部材43が溶解して、これらの凝集剤ユニット40の凝集剤41が液層71に露出し、水溶性部材43に保持されていない状態となる。
【0148】
図15(C)に示すように、容器20内に廃液70が溜まり、廃液70の液面が液面上限位置H1に達すると、吸引装置32,33の運転が停止される。容器20内への廃液の吸引終了後、配管チューブ25が容器20から取り外される。
【0149】
(分離工程)
次に、分離工程について説明する。分離工程は、第1実施形態と同様に、凝集剤41を含ませた液層71を撹拌し、廃液70を容器20内において上澄み液73と凝集物74に分離するために行われる。第3形態では、分離工程は、撹拌工程と、この撹拌工程の後に行われる静置工程とを含む。図13(A)は、第3形態における分離工程のうち、容器内の廃液を撹拌する撹拌工程の概略を示す正面図である。図13(B)は、第3形態における分離工程のうち、撹拌を停止した後に容器を静置する静置工程の概略を示す正面図である。
【0150】
図13(A)に示すように、撹拌工程では、接触工程において容器本体21の底面において露出した撹拌子42を液層71において回転させる。上述した接触工程において液層71には十分な量の凝集剤41が含まれているため、撹拌工程においてその液層71を撹拌することにより、凝集剤41を液層71全体に行き渡らせることができる。その結果、廃液70に含まれる成分が凝集剤41によって効率よく凝集物74となる。
【0151】
凝集物74の生成に必要な撹拌が完了すると、マグネチックスターラー50の運転が停止される。そして、図13(B)に示すように、容器本体21及びその内部の廃液70が静置されると、容器20内において凝集物74が沈殿するため、廃液70を上澄み液73と凝集物74に分離することができる。
【0152】
(排出工程)
次に行われる排出工程は、第1実施形態において図9(A)及び図9(B)を参照して説明した手順と同様の手順で行われる。
【0153】
(廃棄工程)
最後に行われる廃棄工程は、第1実施形態において図10を参照して説明した手順と同様の手順で行われる。
【0154】
以上説明したように、第3形態では、接触工程において容器20内に廃液70が流入し、その液層71の液面が、容器20内における第1の凝集剤ユニット40の水溶性部材43にまで到達すると、その第1の凝集剤ユニット40の水溶性部材43が溶解しはじめる。その後、その第1の凝集剤ユニット40よりも高い位置に設けられた第2の凝集剤ユニット40の水溶性部材43にまで液層71の液面が到達すると、その第2の凝集剤ユニット40の水溶性部材43が溶解しはじめる。このように第3形態では、第1の凝集剤ユニット40と第2の凝集剤ユニット40が容器20内において異なる高さに設けられているので、それぞれの水溶性部材43の溶解がはじまる時期を液面高さに応じて異ならせることができる。これにより、貯留された廃液量に適した量の凝集剤を添加できる。
【0155】
また、第3形態では、凝集剤41が粉末状又は粒状であることにより、凝集剤41が塊状である場合に比べて、凝集剤41全体の表面積を増加させることができるので、容器20内の液層71に含まれる赤血球などの成分をより効率的に凝集させることができる。
【0156】
また、第3形態では、水溶性フィルムの収容空間に粉末状又は粒状の凝集剤41が収容された状態で、凝集剤41及び水溶性フィルムが一体化されている。したがって、接触工程において、容器20内に廃液70を流入させる際に、これらの一体性が保持されやすい。このため、接触工程において、容器20内に廃液70を流入させる際に、水溶性フィルムの収容空間に収容された粉末状又は粒状の凝集剤41の一部が飛散して液層71に浮かぶ浮遊物72に付着するという事態が生じにくくなる。
【0157】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の態様を採用することもできる。
【0158】
第1,第2実施形態及び3形態では、接触工程において、廃液70が容器20内における液面上限位置H1まで流入する場合を例示したが、このような形態に限られない。接触工程においては、廃液70が容器20内における液面上限位置H1に達する前に、廃液70の流入を停止させて、接触工程を終了してもよい。
【0159】
第1実施形態では、重さ調節部材として撹拌子42を用いているが、これに限られない。重さ調節部材は、凝集剤ユニットの全体の重さを大きくすることができるものであればよく、例えば金属、セラミックス、砂、石、ガラスなどによって形成されたものであってもよい。
【0160】
第1実施形態では、重さ調節部材が水溶性フィルムに収容されているが、これに限られない。例えば、水溶性部材43に重さ調節部材が例えば紐状、棒状などの連結部材を介して連結されたような形態であってもよい。
【0161】
第1,第2実施形態では、1つの容器20に対して1つの凝集剤ユニット40が用いられる場合を例示したが、これに限られず、1つの容器20に対して複数の凝集剤ユニット40が用いられてもよい。
【0162】
第1,第2実施形態では、凝集剤ユニット40は撹拌子42を含んでいなくてもよい。
【0163】
3形態では、凝集剤ユニット40が容器本体21の内側面に設けられている場合を例示したが、これに限られない。例えば、複数の凝集剤ユニット40が、容器20内において上方に延びる紐状、棒状の支持部材に支持されたような形態であってもよい。
【符号の説明】
【0164】
20 容器
21 容器本体
22 上蓋
28 保持容器
31 投下機構
40 凝集剤ユニット
41 凝集剤
42 撹拌子
43 水溶性部材
50 撹拌装置
70 廃液
71 液層
72 浮遊物
73 上澄み液
74 凝集物
H1 廃液の液面の上限位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15