(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】サイレージ調製用乳酸菌製剤
(51)【国際特許分類】
A23K 30/15 20160101AFI20220425BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
A23K30/15
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2018000095
(22)【出願日】2018-01-04
【審査請求日】2020-12-17
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-1107
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-1109
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02209
(73)【特許権者】
【識別番号】391009877
【氏名又は名称】雪印種苗株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】本間 満
(72)【発明者】
【氏名】北村 亨
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大樹
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/001862(WO,A1)
【文献】特開2017-163877(JP,A)
【文献】特開2004-041064(JP,A)
【文献】特開2011-010594(JP,A)
【文献】特開2011-193858(JP,A)
【文献】特開2005-021137(JP,A)
【文献】特開2016-113378(JP,A)
【文献】特開2008-035728(JP,A)
【文献】特開2011-041474(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00906952(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)からなるサイレージ調製用乳酸菌製剤
であって、
ラクトコッカス・ラクチスがSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイがSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスがSBS-0007株(NITE BP-02209)であるサイレージ調製用乳酸菌製剤。
【請求項2】
ラクトコッカス・ラクチスの培養物、ラクトバチルス・パラカゼイの培養物及びラクトバチルス・ディオリヴォランスの培養物の混合物又は培養物の凍結乾燥粉末の混合物からなる
請求項1記載のサイレージ調製用乳酸菌製剤。
【請求項3】
請求項1
又は2記載のサイレージ調製用乳酸菌製剤をサイレージ原料に添加し、密封し、発酵させることを特徴とするサイレージの製造方法。
【請求項4】
サイレージ原料質量当たり、乳酸菌数を少なくとも1×10
5CFU/g添加して発酵させる請求項
3記載のサイレージの製造方法。
【請求項5】
請求項1
又は2記載のサイレージ調製用乳酸菌製剤を用いて調製したサイレージを配合した混合飼料。
【請求項6】
ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)を含有し、乳酸を少なくとも1.5質量%、酢酸を少なくとも1質量%含有するサイレージ
であって、
ラクトコッカス・ラクチスがSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイがSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスがSBS-0007株(NITE BP-02209)であるサイレージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレージ調製用の乳酸菌製剤及びサイレージの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飼料作物をサイロなどで発酵させたものがサイレージである。一般には、青刈りした牧草を発酵させたもの(牧草サイレージ又はグラスサイレージ)をいうが、それ以外の場合には、サイレージの前に原料となる穀物名を付けて呼ぶこともある(例:コーンサイレージ、稲ワラサイレージ等)。乳牛、特に泌乳牛にとって、サイレージは、主食にあたる重要な飼料であり、この品質が酪農経営に大きく影響する。
サイレージは生ものである牧草や飼料作物などを長期間貯蔵するために漬物の状態にする技術である。しかしサイレージの製造に当たっては、2つの課題が指摘されている。1つは密封発酵中の酪酸菌が原因となる酪酸発酵を抑えること、もう1つはサイレージ開封後に酵母などが増えることで発熱、変敗する二次発酵を抑えることである。この2つの課題を解決するために、様々な提案がなされている。酪酸発酵は、水分含量が75%を超えるグラスサイレージにおいてしばしば発生し、サイレージの品質低下をきたす。
また、サイレージ原料の水分含量が75%未満の場合、サイレージ調製に必要な嫌気条件を保つことが難しくなり、このようなサイレージは、開封後の2次発酵がしばしば発生する。二次発酵は、サイレージやTMRの品温が上昇し、腐敗性の細菌や、酵母・カビなどの真菌が増加するため品質が低下することであり、飼料の栄養価低下に繋がることから避けなければならない。
酪酸発酵の抑制と二次発酵の抑制は、良質のサイレージを調製するためには必須の条件である。しかし両方とも満足するサイレージの調製は困難であった。
【0003】
特許文献1には、ナイシンを生産する乳酸菌をサイレージ調製用微生物製剤として用いることで、酪酸発酵を抑制し、良質なサイレージを製造できることが記載されている。しかし二次発酵の抑制については何も記載されていない。
【0004】
特許文献2は、サイレージ中において乳酸産生能力の高い乳酸菌をサイレージ調製時に添加して、乳酸によるサイレージpH低下を促進させ、これによって有害な微生物の増殖を抑制しようとするものである。このような作用効果を期待して、特許文献2には、耐酸性と乳酸発酵能に優れた乳酸菌、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)畜草1号株(FERM P-18930)又は好気性細菌と酪酸菌に対する抗菌作用を有する乳酸菌、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)RO50株(FERM P-18931)をサイレージ用乳酸菌として用いることで有害微生物によるサイレージの品質低下を防止できることが記載されている。しかし特許文献2の発明で二次発酵を抑制できるとの記載もなく、効果は不明である。
【0005】
特許文献3には、バクテリオシンを産生する乳酸菌エンテロコカス・フェシウム(Enterococcus faecium)NAS62菌株(NITE P-781)をサイレージ用乳酸菌として用いることで、バクテリオシンの抗菌作用により有害微生物を抑制しようとするものである。特許文献3にはサイレージ中の糸状菌が検出されず、発酵TMR試料中にも糸状菌が検出されないことが記載されている。
【0006】
特許文献4には、抗真菌作用を有するロイテリン生産能を有するホモ型発酵乳酸菌と、グリセロールと、ビタミンB12と、を含む、サイレージ調製用添加剤が提案されている。ロイテリン(reuterin)は、嫌気性雰囲気下にグリセリンを含有する培地中で、ラクトバチルス・ロイテリの産生する抗菌性物質である。上記培養上清中に、グリセリンの発酵産物であるβ-ヒドロキシプロピオンアルデヒド(β-hydroxypropionaldehyde)が検出され、このβ-ヒドロキシプロピオンアルデヒドは、水溶液中で単量体、水和物および二量体の形態で存在すると推定され、ロイテリンと称されている。ロイテリンは、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、酵母およびカビに対して抗菌性を示す。
【0007】
また本発明者らは、抗酵母作用を有するラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)を見いだし、この乳酸菌をサイレージ調製用乳酸菌として用いることで、サイレージの好ましい発酵と、調製されたサイレージの開封後の二次発酵を抑制できることを見いだして特許出願している(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/001862号
【文献】特開2004-041064号公報
【文献】特開2011-041474号公報
【文献】特開2008-035728号公報
【文献】特開2017-163877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
種々のサイレージ調製のための乳酸菌株やこれを用いたサイレージ製造のための乳酸菌製剤が提案されているが必ずしも満足できるものがないことが現実である。また二次発酵抑制は、サイレージを原料とするTMR(total mixed ration:混合飼料)が普及するにつれて大きな問題となっている。サイレージの二次発酵を抑制するためにはpHを低く保つこと、そして酢酸を1質量%以上含有することが好ましいことが経験的に知られている。
本発明は、サイレージの二次発酵を抑制し、好ましいサイレージ調製に有用な乳酸菌製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来サイレージ調製用の乳酸菌としては、一種類の乳酸菌株を用いていたが、これを複数種の乳酸菌を組み合わせてサイレージを調製すると、サイレージ調製時のpHの低下が速やかであり、さらにサイレージ開封後の二次発酵を抑制できることを見いだした。
【0011】
本発明は、次の構成からなる。
(1)ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)からなるサイレージ調製用乳酸菌製剤であって、
ラクトコッカス・ラクチスがSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイがSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスがSBS-0007株(NITE BP-02209)であるサイレージ調製用乳酸菌製剤。
(2)ラクトコッカス・ラクチスの培養物、ラクトバチルス・パラカゼイの培養物及びラクトバチルス・ディオリヴォランスの培養物の混合物又は培養物の凍結乾燥粉末の混合物からなる(1)記載のサイレージ調製用乳酸菌製剤。
(3) (1)又は(2)記載のサイレージ調製用乳酸菌製剤をサイレージ原料に添加し、密封し、発酵させることを特徴とするサイレージの製造方法。
(4)サイレージ原料質量当たり、乳酸菌数を少なくとも1×105CFU/g添加して発酵させる(3)記載のサイレージの製造方法。
(5)(1)又は(2)記載のサイレージ調製用乳酸菌製剤を用いて調製したサイレージを配合した混合飼料。
(6)ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)を含有し、乳酸を少なくとも1.5質量%、酢酸を少なくとも1質量%含有するサイレージであって、
ラクトコッカス・ラクチスがSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイがSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスがSBS-0007株(NITE BP-02209)であるサイレージ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により提供されるサイレージ調製用乳酸菌製剤は、高水分含量のサイレージ原料を用いてサイレージを調製しても、酪酸発酵を起こさない。
また得られたサイレージは、乳酸含量が高く、酢酸を1質量%以上含有し、低いpHを示すため二次発酵が抑制されるものとなる。
また広い範囲のサイレージ原料に利用可能であり、均質なサイレージを得ることができる。
このため、TMR飼料等に応用した場合、腐敗臭や変敗臭が抑制された飼料となるため、安全性が高く家畜の採食性が改善される。そして、乳牛の乳量増加や肥育牛の体重増大などが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の乳酸菌製剤を用いたエンバクサイレージと従来の乳酸菌製剤他比較のために調製した乳酸菌製剤を用いたサイレージ中の有機酸量とpHを測定した結果を示すグラフである。
【
図2】本発明の乳酸菌製剤を用いたイタリアンライグラスサイレージと従来の乳酸菌を添加せず調製したサイレージ中の有機酸量とpHの測定結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の乳酸菌製剤を用いたイタリアンライグラスサイレージと従来の乳酸菌を添加せず調製したサイレージ中の酵母菌数を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の乳酸菌製剤を用いたチモシーロールサイレージと従来の乳酸菌製剤及び比較のために調製した乳酸菌製剤を用いたチモシーロールサイレージ中の乳酸及び酢酸量とpHを測定した結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の乳酸菌製剤を用いたチモシーロールサイレージと従来の乳酸菌製剤及び比較のために調製した乳酸菌製剤を用いたチモシーロールサイレージ中の酵母菌数を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の乳酸菌製剤を用いたチモシーロールサイレージと従来の乳酸菌製剤及び比較のために調製した乳酸菌製剤を用いたチモシーロールサイレージの開封後の温度変化を165時間測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)からなるサイレージ調製用乳酸菌製剤に係る発明である。
また本発明は、前記の乳酸菌製剤を用いたサイレージの調製方法に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明に用いるのに適したラクトコッカス・ラクチス、ラクトバチルス・パラカゼイは、牧草から分離したものを用いることが好ましい。またすでに牧草から分離され、サイレージ調製用乳酸菌として流通しているものを用いても良い。このような分離株としては、ラクトコッカス・ラクチスSBS-0001株、ラクトバチルス・パラカゼイSBS0003株を例示することができる。
SBS-0001株は、(独)製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)にNITE BP-1107として寄託されている(寄託日:平成23年06月15日)。
SBS-0003株は、同じく(独)製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に(NITE BP-1109として寄託されている(寄託日:平成23年06月15日)。
【0016】
本発明において適したラクトコッカス・ラクチスは、ナイシン生産性乳酸菌として選抜すると優れた菌株を選抜することができる。
詳細な選抜方法は特許文献1にしたがって行うことができる。
具体的には、アルファルファ、クローバー、チモシー、オーチャードグラス、リードカナリーグラス、シバムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、トールフェスク、メドウフェスク、フェストロリウム、ケンタッキーブルーグラス、レッドトップ、ギニアグラス、ローズグラス、ネピアグラスなどの牧草を用いて、熱水で浸出させた浸出液のみを栄養源とする培地を牧草煮汁培地として使用する。ここで熱水の温度は50~100℃が好ましく、さらに70~100℃がより好ましい。また、牧草を熱水に浸出させる時間は、10~180分が好ましく、さらに30~120分が好ましい。浸出液は、必要によりろ過して固形分を除いて用いるのが好ましい。牧草煮汁培地中の単糖および二糖の合計含有量を1.0質量%以下、好ましくは0.7質量%以下とする。
【0017】
培養条件は、通常の乳酸菌が生育する条件であればよく、例えば牧草煮汁培地中に0.1~1.0質量%接種し、25~35℃で8~24時間静置培養すればよい。
【0018】
そして、1次スクリーニングとしてナイシン添加培地で生育する株を選抜する。選抜用の培地としてはナイシンを100~1000IU/mL含有するMRS培地などを用いる。
【0019】
本発明で好ましいラクトコッカス・ラクチス及びラクトバチルス・パラカゼイは、単糖および二糖の合計含有量が0.1~0.4質量%の牧草煮汁培地中で上清1mLあたり40IU以上のナイシンを生産する乳酸菌である。
また、pHが5という低pH条件でも、単糖および二糖の合計含有量が0.1~0.4質量%の牧草煮汁培地中で上清1mLあたり40IU以上のナイシンを生産する能力を有する菌株を選抜する。
【0020】
本発明に用いるのに適したラクトバチルス・ディオリヴォランスも、牧草から分離したものを用いることが好ましい。またすでに牧草から分離されたものを用いることができる。また、サイレージ調製用乳酸菌として流通しているものを用いても良い。このような分離株としては、ラクトバチルス・ディオリヴォランスSBS-0007株を例示することができる。
SBS-0007株は、(独)製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)にNITE BP-02209として寄託されている(寄託日:平成28年2月22日)。
【0021】
本発明において、好ましいラクトバチルス・ディオリヴォランスの選抜方法は特許文献5にしたがって行うことができる。
例えばデントコーンなどのサイレージ調製に用いる植物の細切材料に、サイレージから分離した酵母の培養液を添加し、ポリエチレンパウチ袋に、ラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)を添加して、25℃で2ヶ月間保存した後開封し、得られたサイレージ中の有機酸含量、酵母菌数、乳酸菌数、開封後30℃到達時間(二次発酵時間)を指標にして第1次選抜を行う。
【0022】
次いで、サイレージとして好ましい有機酸含量、酵母菌数、乳酸菌数、開封後30℃に到達時間(二次発酵時間)を示すラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)をMRS培地やGYP培地により培養して、菌体を回収した後破砕し、これをサイレージから分離される酵母であるPichia membranifaciensおよび/又はIssatchenkia orientalisの増殖を指標として抗酵母作用(酵母増殖抑制作用)を確認して選別することができる。
【0023】
本発明に用いるラクトバチルス・ディオリヴォランス乳酸菌の培養は、通常の乳酸菌用の培地を用いて行うことができる。培地としては、乳酸菌の培養に用いられる培地であれば特に限定されないが、例えばGYP培地(小崎道雄監修(1992)、乳酸菌実験マニュアル、朝倉書店刊)、MRS培地(J.C.de Man,et al.(1960),Journal of Applied Bacteriology,Vol.23,130-135)を使用することができる。培養条件については特に限定されないが、通常、pH5.0~7.0、25~40℃、10~24時間で培養することができる。培養した乳酸菌は、培養液あるいは菌体を濃縮した濃縮液の状態でサイレージまたは発酵飼料に添加することもできるが、これらの液を凍結品として使用しても良い。また培養した乳酸菌を適当な保護剤や基材とともに凍結乾燥、噴霧乾燥、流動層乾燥させた粉末の状態で使用しても良い。
【0024】
本発明における乳酸菌製剤には、前記したラクトコッカス・ラクチス、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ディオリヴォランスの3種の菌株を含有させる。ラクトコッカス・ラクチスはSBS-0001株、ラクトバチルス・パラカゼイはSBS-0003株、ラクトバチルス・ディオリヴォランスSBS-0007株が好ましい。また別途他の分類に属する乳酸菌を含有させても良い。
【0025】
前記乳酸菌製剤中の乳酸菌の含有比は、特に限定されないが、質量比で1:1:0.05~1の比であることが好ましい。
【0026】
また、本発明における乳酸菌製剤に必要に応じて、サイレージの調製に使用される公知の酵素を含有しても良い。酵素の種類としてはセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどが例示できる。
【0027】
本発明において、上記の乳酸菌製剤は、様々なサイレージや発酵飼料の調製に使用することができる。サイレージや発酵飼料の調製に用いられるサイレージや発酵飼料原料としては通常飼料として利用されている原料であれば特に限定されるものではないが、例えば牧草や飼料作物としてアルファルファ、クローバー、チモシー、オーチャードグラス、リードカナリーグラス、シバムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、トールフェスク、メドウフェスク、フェストロリウム、ケンタッキーブルーグラス、レッドトップ、ギニアグラス、ローズグラス、ネピアグラス、エンバク、オオムギ、ライムギ、ソルガム、スーダングラス、ヒエ、トウモロコシ、飼料イネなどが挙げられる。食品製造副産物としてビール粕、豆腐粕、茶粕、焼酎粕、ウィスキー粕、ビートパルプ、バガス、コーヒー粕、ジュース粕、ケール粕、デンプン粕などが挙げられる。農産副産物として稲ワラ、麦ワラ、規格外野菜などが挙げられる。また、オカラ、ビール麦芽搾汁粕など食品製造副産物、農産副産物、乾草、濃厚飼料、ビタミン・ミネラル製剤とサイレージを混合して調製する発酵TMRにも添加することができる。これらのサイレージや発酵飼料原料は水分を40~90質量%に調節して使用することが望ましい。
【0028】
添加する方法としては、乳酸菌製剤を水などに溶解・懸濁して原料に噴霧する方法や、粉状の乳酸菌製剤を原料に散布・混合する方法などがある。
【0029】
添加する乳酸菌は、菌数で、3種の菌それぞれ合計の総乳酸菌数として、原料1gあたり103~107個、好ましくは104~106個、特に好ましくは1×105個になるように添加することが望ましい。
【0030】
サイレージや発酵飼料は、通常、嫌気条件下で発酵させる。発酵用の容器は、嫌気状態がある程度保持できるものであれば特に限定されない。例えばバンカーサイロ、スタックサイロ、トレンチサイロ、タワーサイロ、地下サイロ、ブロックサイロ、カップサイロ、ロールベール、フレコンバックなど、一般的にサイレージ調製用に用いる容器或いは装置が挙げられる。そして外気温(5~30℃程度)で1週間以上、好ましくは2ヶ月放置することで発酵させる。
【0031】
本発明の乳酸菌製剤を用いて得られるサイレージや発酵飼料は、牛の嗜好性、採食量が良好であり、ケトーシスも生じない。また発酵も比較的低温から高温の条件でも好ましい発酵を持続する。また、本発明のサイレージは、サイレージを構成する乳酸菌が主としてラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びラクトバチルス・ディオリヴォランス(Lactobacillus diolivorans)からなり、さらに乳酸を少なくとも1.5質量%、酢酸を少なくとも1質量%含有している、さらにまたサイレージのpHが4以下となる。そのため、酪酸菌の成育が抑制され、異常発酵が生じない。さらに、本発明のサイレージは、サイレージ中の酵母数が1×102cfu/g以下となり、さらに酢酸含有量が高いため、サイレージを密封状態から好気的環境に開放しても酵母の増殖が起こらず、二次発酵の心配がないものとなる。
【実施例】
【0032】
雪印種苗株式会社において、保有しているサイレージから分離し樹立した、ラクトコッカス・ラクチスSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスSBS-0007株(NITE BP-02209)を用いたこの3株の菌学的性質は下記の表1のとおりである。
【0033】
【0034】
(1)サイレージ調製用乳酸菌製剤の製造
1)菌株の培養
この3株を、下記の表2に示す組成の液体培地で、表3の培養条件でそれぞれ培養した。
【0035】
【0036】
【0037】
2)培養菌体の回収
培養終了後培養液を回収し、各菌株の培養液を160L得た。
この培養液中の乳酸菌数を常法によって計数したところ下記表4のとおりであった。
【0038】
【0039】
3)凍結乾燥菌体の製造
回収した液体培養液のすべてを、連続式遠心分離器で遠心分離し、菌体濃縮物40Lを得た。この濃縮液と、121℃15分間滅菌し放冷した80Lの15%トレハロース溶液を混合し、15℃で30分間振盪混合させて懸濁液としたのち、マイナス30℃で冷凍し、凍結乾燥まで保存した。各菌体の懸濁液の凍結物を凍結乾燥装置で乾燥させ、菌体の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末乳酸菌数を同様に測定した。測定結果は下記の表5に示すとおりであった。この凍結乾燥粉末を以下のサイレージ調製試験に用いる乳酸菌製剤とした。
【0040】
【0041】
(2)サイレージ調製試験(エンバクサイレージ)
1)サイレージの調製
成育適期のエンバクを収穫し、100gずつ小分けして、乳酸菌製剤を添加したパウチサイレージを調製した。サイレージの調製条件は、25℃、54日間とした。なお収穫したエンバクは、日照下で2時間乾燥させたため、水分量は68質量%であった。
添加した乳酸菌は、上記と同様にラクトコッカス・ラクチスSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスSBS-0007株(NITE BP-02209)である。添加する乳酸菌は、下記表6の組み合わせで、単独又は混合したものを用いた。また添加する乳酸菌数は、SBS-0001株およびSBS-0003株、SBS-0007株とも1×105cfu/gとなるようにした。
なお試験試料は、各群とも3パウチとした。
【0042】
【0043】
2)サイレージの品質試験
発酵終了後パウチを開封し、発酵状態を確認後、各サイレージの水分量(乾物率)、酸生成量及びpHを測定した。サイレージ中の酸として、乳酸、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸を測定した。測定した結果は、3パウチの平均値を求め、各試験試料の測定結果についてTukey法による有意差検定を行った。
【0044】
【0045】
【0046】
試験試料1は、酪酸濃度が高まり、悪臭の強い不良発酵サイレージとなった。試験試料2は、乳酸濃度が高くpHが低く良質なサイレージとなったが、酢酸濃度が低いため、二次発酵リスクのあるサイレージと評価した。
試験試料3は、乳酸濃度が低く、酢酸濃度の高い、飼料として好ましくない発酵状態であった。またpHが4.25と高く、二次発酵リスクの高いサイレージであると判断した。試験試料4は、乳酸含有量が約3%となり、さらにpHが3.7と低値であり、酢酸濃度も高いことから二次発酵抑制作用を有すると判断した。また水分含量が高くとも酪酸発酵を起こさず、家畜の嗜好性の高いサイレージとなった。
表7、
図1からも理解できるよう、本発明の乳酸菌製剤を用いて調製したサイレージはpH4以下であり、発酵品質も良好であり、飼料として好ましい発酵状態であって、また酢酸濃度が約1.3質量%と高いことから、良質な発酵特性と二次発酵抑制を併せ持ったサイレージとなった。
試験試料1においては、他と比較して有意(p<0.05)に乳酸が低く、酪酸が高い結果であり、またpHが高かった。試験試料2においては、他と比較して有意(p<0.05)に乳酸が高く、pHが低い結果であった。試験試料3および4においては、他と比較して有意(p<0.05)に酢酸が多い結果であったが、試験試料4のほうが有意(p<0.05)に乳酸が増え、またpHが低い結果であった。
【0047】
(3)サイレージ調製試験(イタリアンサイレージ)
1)サイレージの調製
宮崎県内で収穫したイタリアンライグラス(品種:ヤヨイワセ)を予乾し、水分73.7%とした。
イタリアンライグラスをマウントカッターで3cmに細切した。乳酸菌を添加したのち、牧草は良く混合し800g/1Lの密度で、1Lサイズのボトルに詰め込み密封、25℃環境下で2ヶ月保存した。
添加した乳酸菌は、上記と同様にラクトコッカス・ラクチスSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスSBS-0007株(NITE BP-02209)である。添加する乳酸菌は、下記表8の組み合わせで、混合したものを用いた。また添加する乳酸菌数は、SBS-0001株およびSBS-0003株、SBS-0007株は1×105cfu/gとなるようにした。
なお試験試料は、各群とも3ボトル調製した。
【0048】
【0049】
2)サイレージの品質試験
発酵終了後開封し、pHと有機酸含量を同様に測定した。またポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)を用いて希釈平板法によって酵母菌数を測定した。測定した結果は、3ボトルの平均値を求め、各試験試料の測定結果についてTukey法による有意差検定を行った。
【0050】
3)結果
測定結果を下記表9及び
図2、3に示した。
【0051】
【0052】
本発明の乳酸菌製剤を用いた試験試料6のサイレージでは、pHが低下し乳酸及び酢酸量が増加した。酢酸含有量は1.19%に達した。また、n-酪酸の生産量は抑制された。
この結果、酵母菌数が低下し、開封後に二次発酵がしにくいサイレージとなった。
本発明の乳酸菌製剤は、イタリアンライグラスサイレージにおいても有効であり、二次発酵を抑制できることが明らかとなった。
【0053】
(4)サイレージ調製試験(ロールサイレージ調製試験)
1)ロールサイレージの調製
栽培した成育適期のチモシーを収穫し、1個当たり約500kgのロールサイレージを調製した。サイレージの保存期間は、2016年6月23日~8月23日であり、6月の平均気温は14.7℃、7月は18.4℃、8月は22.2℃の環境下で、2ヶ月間保存した。なお収穫したチモシーの水分量は78.3質量%であった。
添加した乳酸菌は、上記と同様にラクトコッカス・ラクチスSBS-0001株(NITE BP-1107)、ラクトバチルス・パラカゼイSBS-0003株(NITE BP-1109)、ラクトバチルス・ディオリヴォランスSBS-0007株(NITE BP-02209)である。添加する乳酸菌は、下記表10の組み合わせで、単独又は混合したものを用いた。また添加する乳酸菌数は、SBS-0001株およびSBS-0003株、SBS-0007株とも1×105cfu/gとなるようにした。
なお試験試料は、各群とも3ロールとした。
【0054】
【0055】
2)サイレージの品質試験
発酵終了後開封し、pHと有機酸として乳酸及び酢酸含量を同様に測定した。またポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)を用いて希釈平板法によって酵母菌数を測定した。測定した結果は、3ロールの平均値を求め、各試験試料の測定結果についてTukey法による有意差検定を行った。
【0056】
3)結果
pH及び有機酸測定結果を下記表11及び
図4に示した。
【0057】
【0058】
試験試料7~9は、いずれもサイレージとして適切な乳酸量であった。またサイレージとしての好ましい風味を有していた。特に本発明の製剤を用いた試験試料9は、酢酸含有量が1.5質量%と有意に高く、酵母による二次発酵を抑制する機能を有している。
【0059】
酵母菌数の測定結果を表12及び
図5に示す。
【表12】
【0060】
また表12、
図5から明らかなように、試験試料9(本発明製剤使用サイレージ)は、酵母菌数が試験試料7の5万分の1、試験試料8の1000分の1ときわめて低いことがわかる。本発明の製剤は、サイレージ中の乳酸菌数には影響を及ぼさず、酵母増加による好気性の発酵を抑制していることがわかった。
【0061】
(5)二次発酵試験
1)試験試料調製
前記試験で調製したロールサイレージの二次発酵の確認試験を行った。
断熱材で保温し上面を開放した容器内に試験試料7、試験試料8、試験試料9を、それぞれ500g/Lの密度になるよう.開封直後のサイレージを充填し、これを25℃の室温に放置し、経時的に温度を測定した(1時間間隔で測定)。
【0062】
2)結果
それぞれの試験試料の温度変化を測定した。165時間目までの温度変化グラフを
図6に示す。
試験試料7は、72時間目に30℃を超え、試験試料8は、63時間目に30℃を超え、明らかに二次発酵による品温の上昇をきたした。一方、本発明の製剤を使用した試験試料は、室温(25℃)に到達したあと、その後の温度上昇は認められなかった。
この試験結果から本発明の製剤を使用して調製したサイレージは二次発酵による温度上昇を抑制していることがわかった。