(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/18 20060101AFI20220425BHJP
【FI】
H01J35/18
(21)【出願番号】P 2018041201
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0086922(US,A1)
【文献】特開2015-111504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/16-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有した真空外囲器と、
前記真空外囲器に収容され電子を放出する陰極と、
管軸に沿った方向に前記陰極に隙間を置いて配置され、前記真空外囲器に収容され前記陰極から放出される電子が衝突することによりX線を放出する陽極と、
前記開口と対向しベリリウムで形成され前記X線のうち少なくとも利用X線束を透過させるX線透過窓と、前記利用X線束を通過させる通過口を含み前記開口と対向したX線管取付け部と、を有し、前記真空外囲器に気密に取り付けられたX線透過アセンブリと、を備え、
前記通過口は、長方形、長円、又は角丸長方形の第1形状を有し、
前記第1形状は
、前記管軸に直交する長軸を持っている、
X線管。
【請求項2】
前記第1形状は、前
記管軸に平行な短軸を持ち、
前記通過口は、前記第1形状と円形の第2形状とを重ねた形状を有し、
前記第2形状の直径は、前記長軸より短く、前記短軸より長い、
請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記第1形状は、前記長軸に平行な2つの辺を有し、
前記通過口は、前記第1形状と円形の第2形状とを重ねた形状を有し、
前記第2形状は、前記2つの辺と交差している、
請求項1に記載のX線管。
【請求項4】
前記X線管取付け部は、前記通過口の外側にて同一円上に位置した複数のねじ穴を有し
、
前記第1形状の外接円の半径は、前記複数のねじ穴の内接円の半径より大きい、
請求項1に記載のX線管。
【請求項5】
前記外接円と前記内接円とは、同心円である、
請求項4に記載のX線管。
【請求項6】
前記複数のねじ穴の数は、6個以下である、
請求項4に記載のX線管。
【請求項7】
前記複数のねじ穴の数は、6個であり、
前記複数のねじ穴は、前記同一円上にて等間隔に位置し、
前記第1形状は、前
記管軸に平行な短軸を持ち、
隣り合う一対のねじ穴の間の直線距離は、前記短軸より長い、
請求項6に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線管は、医療診断システムや工業診断システム等に用いられている。上記X線管は、例えば、工業用分野等で行うX線異物検査やX線分析に使用される。X線分析とは、各種材料の成分分析や製品の組成分析である。X線分析に使用されるX線管は、陽極と、陰極と、真空外囲器と、を備えている。また、X線管は、X線透過窓としてBe(ベリリウム)窓を有している。Be窓は、真空外囲器の一部を構成し、利用X線束を透過させる(外部に取り出す)。Be窓は、ガラス窓と比較してX線の減衰量を小さくすることができる。例えば、Be窓は、軟X線のカットを抑えることができるため、エネルギの小さいX線で軽元素の被写体を撮影することが可能となる。
【0003】
陰極は、電子を放出するフィラメントを有している。フィラメントから放出される電子は、陽極に向かう。そして、陽極に形成された焦点からX線が放射され、X線透過窓を透過する。X線透過窓より外部に取り出される利用X線束は、コーンビームとなる。利用X線束の照射角度は、X線透過窓の開口部形状、焦点位置からX線透過窓までの幾何学的寸法などにより決定される。コーンビームは、一般的なX線撮影のように被検査物をX線管と検出器(平面検出器、又はイメージ管)の間にセットし、検出器の検出面(X線を検出可能な領域)より広い範囲を1回の曝射で撮影する場合に使用される。
【0004】
ところで、利用X線束は、上記コーンビーム(円錐状)と、ファンビーム(扇状)とに分けられる。空港の手荷物検査や食品異物検査のように被測定物をベルトコンベアにのせて搬送し、連続したX線撮影が可能なラインセンサの場合、利用X線束としてはファンビームが適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-228696号公報
【文献】特開昭63-264043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、利用X線束の照射角を大きくすることのできるX線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係るX線管は、
開口を有した真空外囲器と、前記真空外囲器に収容され電子を放出する陰極と、管軸に沿った方向に前記陰極に隙間を置いて配置され、前記真空外囲器に収容され前記陰極から放出される電子が衝突することによりX線を放出する陽極と、前記開口と対向しベリリウムで形成され前記X線のうち少なくとも利用X線束を透過させるX線透過窓と、前記利用X線束を通過させる通過口を含み前記開口と対向したX線管取付け部と、を有し、前記真空外囲器に気密に取り付けられたX線透過アセンブリと、を備え、前記通過口は、長方形、長円、又は角丸長方形の第1形状を有し、前記第1形状は、前記管軸に直交する長軸を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るX線管を示す断面図である。
【
図3】
図3は、上記鍔部を示す断面図であり、上記鍔部の通過口を通過した利用X線束を説明するための図である。
【
図4】
図4は、上記実施形態の変形例1に係るX線管の鍔部を示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図4の鍔部を示す断面図であり、上記鍔部の通過口を通過した利用X線束を説明するための図である。
【
図6】
図6は、上記実施形態の変形例2に係るX線管の鍔部を示す平面図である。
【
図7】
図7は、上記実施形態の変形例3に係るX線管の鍔部を示す平面図である。
【
図8】
図8は、上記実施形態の変形例4に係るX線管の鍔部を示す平面図である。
【
図9】
図9は、比較例1に係るX線管の鍔部を示す平面図である。
【
図10】
図10は、比較例2に係るX線管を示す断面図である。
【
図11】
図11は、
図10に示した鍔部を示す平面図であり、上記鍔部の通過口を通過した利用X線束を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
始めに、本発明の実施形態の基本構想について説明する。
【0010】
非破壊検査に利用されるX線束としては、極力照射角の大きなコーンビームが要求される。照射角の小さいX線管で広い範囲を撮影する場合、X線管から被測定物までの距離を大きくする必要がある。その場合、X線装置の大型化を招くことになったり、X線量低下により測定時間が長くなる事態を招いたりするなど、不都合が生じる。上記のことから、利用X線束の照射範囲を大きくするための手段として、X線管から被測定物までの距離を大きくすることは望ましくない。また、X線管における組立ての寸法バラツキやX線透過アッセンブリと管軸の傾きやズレにより、利用X線束の照射角が小さくなったり、管軸に対する左右のバランスが悪くなったりする場合がある。そのため、計算上、利用X線束の照射角に大きなマージンを持たせることができるよう、X線管を設計することも求められている。
【0011】
X線管から取り出される利用X線束の照射角は、X線透過窓の開口部の寸法と、焦点からX線透過窓までの距離により決まる。照射角を大きくするには、X線透過窓の開口部の寸法を大きくする手段や、焦点からX線透過窓までの距離を小さくする手段がある。X線透過窓の開口部を大きくするには、X線透過窓及び鍔部を含むX線透過アセンブリの寸法を大きくする必要があり、X線透過アセンブリの大型化、重量化、及び高価格化を招いてしまう。
【0012】
一方、焦点からX線透過窓までの距離を小さくするには、X線透過窓の高さ寸法を低くする手段、及び電子ビームの軌道をX線管軸からそらす手段(オフセンターする手段)が考えられる。なお、X線透過窓の高さ寸法は、X線管軸に直交する方向におけるX線透過窓の寸法である。X線透過窓の高さを低くする場合、陰極や陽極がX線透過窓(接地電位)に近づくため、耐電圧が低くなる問題が発生する。また、陰極の中心軸をX線管軸よりX線透過窓側に近付けて配置することは、真空外囲器と陰極の同軸度をずらすことになるため、不平等電界により、耐電圧が低下する問題が発生する。この場合、X線管の大型化を招いてしまう。
【0013】
さらに、陰極の中心軸をX線管軸から傾けて配置することで、焦点の位置をX線透過窓側に近付けることも考えられる。しかしながら、陰極を傾ける場合、焦点からX線透過窓の距離が、陰極、陽極の組立て寸法の影響を受け易く受け、照射角のバラツキに直結する。そのため、陰極を傾ける手段は、現実的ではない。
【0014】
そこで、本発明の実施形態においては、X線透過アセンブリの構成を新規の構成とすることにより、利用X線束の照射角を大きくすることのできるX線管を得ることができるものである。
【0015】
本発明の実施形態によれば、
(1)X線管から被測定物までの距離を大きくする必要はなく、
(2)X線管における組立ての寸法バラツキの影響を受け難く、
(3)X線透過アセンブリの大型化などを招く事態を回避することができ、
(4)X線透過窓の高さ寸法を低くする必要はなく、
(5)陰極をX線透過窓側に近付けて配置する必要はなく、
(6)陰極の中心軸をX線管軸から傾けて配置する必要はなく、
(7)X線管の耐電圧が低くなる事態を回避することができる。
【0016】
次に、上記基本構想を具体化する手段に関する実施形態ついて図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0017】
(一実施形態)
まず、一実施形態に係るX線管1について説明する。
【0018】
図1に示すように、第1方向X及び第2方向Yは互いに直交している。第3方向Zは、第1方向X及び第2方向Yにそれぞれ直交している。なお、本実施形態と異なり、第1方向X及び第2方向Yは、90°以外の角度で交差していてもよい。X線管1は、固定陽極型のX線管である。X線管1は、真空外囲器10と、X線透過アセンブリ20と、陰極30と、陽極40と、を備えている。
【0019】
真空外囲器10は、ガラス及び金属で形成されている。本実施形態において、真空外囲器10は、第1金属容器11、第2金属容器12、及びガラス容器13で形成されている。ガラス容器13は、例えば硼珪酸ガラスを利用して形成されている。ガラス容器13は、例えば複数のガラス部材を溶接により気密に接合し形成することができる。ガラス容器13は、一端部が閉塞された円筒状に形成されている。ガラス容器13は、円筒部13aを有している。円筒部13aは、後述する収容部34、ターゲット42などを囲んでいる。円筒部13a(ガラス容器13)は、開口13wを有している。この実施形態において、開口13wは円形である。開口13wは、後述するターゲット面43付近に位置している。開口13wを形成することにより、ガラス容器13による利用X線束の線量の減衰を防止することができる。
【0020】
第1金属容器11は、ガラス容器13の外側に位置し、開口13wを取囲むように設けられている。第1金属容器11は、例えば、コバールを利用して環状に形成されている。第1金属容器11は、ガラス容器13に融着により気密に接続されている。第1金属容器11には、X線透過アセンブリ20と結合するための鍔部が形成されている。この実施形態において、第1金属容器11(鍔部)は円形枠状に形成されている。
【0021】
第2金属容器12は、ガラス容器13の他端部と後述する陽極本体41とに気密に接続されている。第2金属容器12は、例えば、コバールを利用して環状に形成されている。第2金属容器12は、ガラス容器13に融着により気密に接続されている。
【0022】
真空外囲器10は、陰極30、陽極40などを収容し、陽極40の一部が露出するように形成されている。
【0023】
X線透過アセンブリ20は、第1金属容器11(真空外囲器10)に取り付けられ開口13wを気密に閉塞している。これにより、真空外囲器10は、密閉されている。真空外囲器10の内部の真空状態は維持されている。
【0024】
X線透過アセンブリ20は、窓枠21と、窓枠鍔部21aと、X線透過窓22と、鍔部23と、を有している。
【0025】
窓枠21は、開口13wに対向している。窓枠21には、第1金属容器11と結合するための窓枠鍔部21aが気密に取り付けられている。この実施形態において、窓枠21は円錐形枠状に形成されている。窓枠21は、第1金属容器11(真空外囲器10)に気密に取り付けられている。窓枠21は、金属として例えば銅で形成されている。窓枠鍔部21aは金属として例えば鉄で形成されている。この実施形態において、窓枠21と窓枠鍔部21aはろう付けにより固定されている。この実施形態において、窓枠鍔部21aと第1金属容器11の鍔部とが溶接されることにより、窓枠21は真空外囲器10に気密に取り付けられている。
【0026】
窓枠21は、貫通孔21hと、取付け面21sと、を有している。この実施形態において、貫通孔21hは円形状であり、取付け面21sは円形枠状である。取付け面21sは平坦である。貫通孔21hを形成することにより、窓枠21による利用X線束の線量の減衰や遮蔽を防止することができる。取付け面21sは、貫通孔21hの外側に形成され、真空外囲器10の一部を形成している。
【0027】
X線透過窓22は、X線を透過させ、真空外囲器の一部を構成するものである。X線透過窓22は、X線透過性を示し、かつ機械的強度の高い材料を利用して形成することができる。この実施形態において、X線透過窓22はBe板(ベリリウム薄板:ベリリウムを利用した薄板)で形成されている。
【0028】
X線透過窓22は平板状に形成されている。この実施形態において、X線透過窓22は円板状に形成されている。X線透過窓22は、取付け面21sに対向し窓枠21に取付けられる取付け領域と、貫通孔21hに対向したX線透過領域と、を有している。X線透過窓22は、X線のうち少なくとも利用X線束を透過させる。
【0029】
X線透過窓22の取付け領域は、取付け面21sに気密に取り付けられている。例えば、X線透過窓22は、図示しないろう材を利用して取付け面21sにろう付けすることにより、窓枠21に取付けられている。これにより、X線透過窓22は、窓枠21に収められ、窓枠21とともに真空外囲器10の内部の気密状態を保持することができる。
【0030】
X線管取付け部としての鍔部23は、開口13wに対向している。この実施形態において、鍔部23は円形枠状に形成されている。鍔部23は、窓枠21に対して第1金属容器11の反対側に位置し、窓枠21に真空気密に取り付けられている。鍔部23は、金属として例えばステンレス鋼で形成されている。この実施形態において、鍔部23と窓枠21とがろう接されることにより、鍔部23は窓枠21に取り付けられている。
【0031】
鍔部23は、利用X線束を通過させる通過口23hを有している。通過口23hの形状に関しては後述する。通過口23hを形成することにより、鍔部23によるX線の減衰や遮蔽を防止することができる。上記のことから、X線透過窓22を透過するX線の出射路上に、第1金属容器11、ガラス容器13、及び窓枠21は、存在していない。鍔部23は、X線透過窓22を透過したX線のうち、利用X線束を通過させ、利用X線束以外のX線を遮蔽する。
【0032】
陰極30は、真空外囲器10に収容されている。陰極30は、X線管軸Aに沿った第3方向Zに、陽極40に間隔を置いて配置されている。陰極30は、電子放出源としてのフィラメント31、フィラメント端子32a,32b、カソードピン33a,33b,33c、収容部34、絶縁部材35a,35b、及び支持部材36を有している。
【0033】
フィラメント31は、陽極40に照射する電子を放出する。本実施形態において、フィラメント31は、フィラメントコイルを有している。フィラメント端子32aは、フィラメント31の一方の延出部を支持し、フィラメント31に電気的に接続されている。フィラメント端子32bは、フィラメント31の他方の延出部を支持し、フィラメント31に電気的に接続されている。
【0034】
カソードピン33a,33b,33cは、導電性を有している。本実施形態において、カソードピン33a,33b,33cは、金属を利用し、棒状に形成されている。カソードピン33a,33b,33cは、ガラス容器13に取り付けられている。カソードピン33a,33b,33cは、融着によりガラス容器13に気密に接続されている。カソードピン33a,33b,33cは、それぞれ真空外囲器10の外側に位置する一端部を有している。カソードピン33aはフィラメント端子32aに電気的に接続され、カソードピン33bはフィラメント端子32bに電気的に接続され、カソードピン33cは収容部34に電気的に接続されている。
【0035】
収容部34は、円柱状に形成されている。収容部34は、集束溝34aと、収容溝34bと、を有している。集束溝34aは、陽極40側に開口し、電子を集束させる機能を有している。収容溝34bは、集束溝34aの底面に形成され、陽極40側に開口し、フィラメント31を収容している。
【0036】
また、収容部34は、フィラメント端子32aを通すための貫通孔34cと、フィラメント端子32bを通すための貫通孔34dと、を有している。
【0037】
絶縁部材35aは、貫通孔34cに設けられ、収容部34に固定されている。絶縁部材35aは、筒状に形成され、内部にフィラメント端子32aが挿入されている。フィラメント端子32aは、絶縁部材35aに固定された接続部品(スリーブ)51aに接触されている。
【0038】
絶縁部材35bは、貫通孔34dに設けられ、収容部34に固定されている。絶縁部材35bは、筒状に形成され、内部にフィラメント端子32bが挿入されている。フィラメント端子32bは、絶縁部材35bに固定された接続部品(スリーブ)51bに接触されている。
【0039】
上記のことから、フィラメント31は、収容部34に対して電気的に絶縁されている。
【0040】
支持部材36は、真空外囲器10に固定され、収容部34を支持している。このため、収容部34は、真空外囲器10に固定されている。支持部材36は、ガラス封着金属で形成されている。支持部材36は、ガラス融着によりガラス容器13に固定されている。本実施形態において、支持部材36はコバールで形成されている。
【0041】
陽極40は、真空外囲器10に収容されている。陽極40は、陽極本体41と、陽極本体41のうち陰極30側の端面の位置に設けられたターゲット42と、を有している。陽極本体41は、円柱状に形成されている。陽極本体41は、銅、銅合金等の高熱伝導性の金属で形成されている。
【0042】
ターゲット42は、円板状に形成されている。ターゲット42は、タングステン(W)、タングステン合金等の高融点金属等で形成されている。ターゲット42は、陰極30と対向する側にターゲット面43を有している。ターゲット面43には、フィラメント31から放出される電子が衝突することによりX線を放出する焦点Fが形成される。
【0043】
なお、上記第2金属容器12は、陽極本体41に気密に固定されている。ここでは、第2金属容器12は、陽極本体41にろう付けにより気密に接続されている。
【0044】
次に、上述したX線管1について鍔部23を中心に説明する。
【0045】
図1及び
図2に示すように、通過口23hは、少なくとも長方形の第1形状23h1を有している。本実施形態において、通過口23hは、第1形状23h1と円形の第2形状23h2とを重ねた形状を有している。第1形状23h1は、X線管軸Aに直交する長軸AX1と、X線管軸Aに平行な短軸AX2と、を持っている。第1形状23h1は、長軸AX1に平行な2つの辺S1を有している。第2形状23h2の直径Bは、長軸AX1より短く、短軸AX2より長い。第2形状23h2は、2つの辺S1と交差している。
【0046】
鍔部23は、ねじ穴23a及び環状の収容溝23bを有している。例えば、X線管1を図示しないハウジングの内部に収容し、X線管1を上記ハウジングに固定する際、ねじ穴23aを利用してX線管1を上記ハウジングにねじ止めすることができる。収容溝23bに図示しないOリングを収容することで、上記Oリングは鍔部23と上記ハウジングとの隙間を封止することができる。例えば、上記ハウジングとX線管1との間の空間に冷却液が存在する場合、上記Oリングは、上記冷却液の漏洩を抑制することができる。その他に、上記冷却液が漏洩する恐れのある個所は、適宜、封止されていればよい。例えば、窓枠21はさらに第1金属容器11に液密に取り付けられ、鍔部23はさらに窓枠21に液密に取り付けられている。
【0047】
複数のねじ穴23aは、通過口23hの外側にて同一円上に位置している。上記同一円は、鍔部23の中心軸Cを中心とする円である。本実施形態において、中心軸Cは第2方向Yに平行である。第1形状23h1の外接円CI1の半径r1は、複数のねじ穴23aの内接円CI2の半径r2より大きい。外接円CI1と内接円CI2とは、中心軸Cを中心に持つ同心円である。
【0048】
通過口23hの第1形状23h1が専有する領域を確保する観点から、複数のねじ穴23aの数は6個以下である方が望ましい。但し、複数のねじ穴23aの数は7個以上であってもよい。その場合、複数のねじ穴23aは、第1形状23h1が専有する領域の外側の領域に集中して設けられる。
【0049】
本実施形態において、複数のねじ穴23aの数は、6個である。複数のねじ穴23aは、上記同一円上にて等間隔に位置している。隣り合う一対のねじ穴23aの間の直線距離Dは、第1形状23h1の短軸AX2より長い。複数のねじ穴23aを等間隔に設けても、第1形状23h1が専有する領域を確保することができる。また、収容溝23bに収容されるOリングに加わる応力の均一化を図ることができるため、6個のねじ穴23aが等間隔に位置していない場合と比較して、上記Oリングによる上記冷却液の漏洩を、一層、抑制することができる。
【0050】
次に、本実施形態のX線管1が放出する利用X線束について説明する。ここでは、X線管1が放出する利用X線束を仮想の投影面Pに投影した場合における利用X線束の輪郭Eについて説明する。
【0051】
図3に示すように、投影面Pは、X-Z平面に平行な平面である。利用X線束の輪郭Eは、通過口23hの形状に対応した形状を有している。なお、輪郭Eは、投影面Pを平面視した(第2方向Yからみた)状態で示されている。輪郭Eで囲まれた範囲内に、領域RAが含まれている。領域RAは、第1形状23h1を通過するX線の照射範囲のうち第2形状23h2を通過するX線の照射範囲を除く範囲である。なお、図中、領域RAには斜線を付している。
【0052】
そのため、領域RAの分、第1方向Xにおける利用X線束の照射範囲を大きくすることができる。X-Y平面上における利用X線束の照射角に注目すると、第1形状23h1を通過するX線の照射角θ1は、第2形状23h2を通過するX線の照射角θ2より大きい。そのため、通過口23hが第1形状23h1を有していない場合と比較して、利用X線束の照射角を大きくすることができる。
【0053】
上記のように構成された一実施形態に係るX線管1によれば、X線管1は、真空外囲器10と、X線透過アセンブリ20と、陰極30と、陽極40と、を備えている。X線透過アセンブリ20は、X線透過窓22と、X線管取付け部としての鍔部23と、を有している。鍔部23の通過口23hは長方形の第1形状23h1を有し、第1形状23h1はX線管軸Aに直交する長軸AX1を持っている。鍔部23は、X線管軸Aに垂直な第1方向Xにて、利用X線束(ファンビーム)の照射角θ1を大きくすることができる。
【0054】
手荷物検査や食品異物検査のようにベルトコンベアで搬送する被検査物をX線管1が放出する利用X線束(ファンビーム)で撮影する場合、照射角θ1が大きいほど、X線管1から被検査物までの距離を小さくすることができる。そのため、本実施形態のX線管1を使用して被検査物を撮影することにより、撮影期間の短縮を図ることができる。
【0055】
また、利用X線束の照射角を大きくするための部材をX線管1に、別途、付加する必要はない。X線管1の製造コストの高騰を抑制することができるため、X線管1の製品価格の高騰を抑制することができる。
【0056】
利用X線束の照射角を大きくするため、X線透過アセンブリ20のサイズを大きく必要はない。そのため、X線透過アセンブリ20の大型化及び重量化を抑制することができる。
【0057】
さらに、通過口23hが第1形状23h1を有しても、X線管1の耐電圧が低くなることはない。そのため、X線管1の耐電圧が低くなる事態を回避することができる。
【0058】
上記のことから、利用X線束の照射角を大きくすることのできるX線管1を得ることができる。
【0059】
(変形例1)
次に、上記実施形態の変形例1に係るX線管1について説明する。
【0060】
図4に示すように、変形例1のX線管1は、通過口23hの形状以外、上記実施形態のX線管と同様に構成されている。変形例1の通過口23hは、第1形状23h1を有しているが、第2形状23h2を有していない。
【0061】
次に、本変形例1のX線管1が放出する利用X線束について説明する。ここでも、X線管1が放出する利用X線束を投影面Pに投影した場合における利用X線束の輪郭Eについて説明する。
【0062】
図5に示すように、利用X線束の輪郭Eは、第1形状23h1に対応した形状を有している。本変形例1においても、上記実施形態と同様、輪郭Eで囲まれた範囲内に領域RAが含まれている。そのため、大きい照射角θ1の利用X線束を放出するX線管1を得ることができる。
【0063】
上記のことから、本変形例1においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
(変形例2)
次に、上記実施形態の変形例2に係るX線管1について説明する。
【0065】
図6に示すように、変形例2のX線管1は、通過口23hの形状以外、上記実施形態のX線管と同様に構成されている。変形例2の通過口23hは、長円の第1形状23h1を有している。本変形例2の長円は、長さが等しく長軸AX1に平行な2つの辺S1と、半径の等しい2つの半円形T1と、を有している。本変形例2のように、第1形状23h1は、長方形でなくともよい。本変形例2においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
(変形例3)
次に、上記実施形態の変形例3に係るX線管1について説明する。
【0067】
図7に示すように、変形例3のX線管1は、通過口23hの形状以外、上記実施形態のX線管と同様に構成されている。変形例3の通過口23hは、角丸長方形の第1形状23h1を有している。上記角丸長方形は、長軸AX1に平行な2つの辺S1と、短軸AX2に平行な2つの辺S2と、4つの円弧T2と、を有している。本変形例3において、2つの辺S1の長さは等しく、2つの辺S2の長さは等しく、4つの円弧T2の半径は等しい。但し、本変形例3と異なり、2つの辺S1の長さは同一でなくともよく、2つの辺S2の長さは同一でなくともよく、4つの円弧T2の半径は同一でなくともよい。
【0068】
本変形例3においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
(変形例4)
次に、上記実施形態の変形例4に係るX線管1について説明する。
【0070】
図8に示すように、変形例4のX線管1は、通過口23hの形状以外、上記実施形態のX線管と同様に構成されている。第1形状23h1は、複数のねじ穴23aの内接円CI2と1個所のみで交差していてもよい。なお、上記実施形態の第1形状23h1は、内接円CI2と2個所で交差している(
図2)。
【0071】
本変形例4においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
(比較例1)
次に、比較例1に係るX線管1について説明する。
【0073】
図9に示すように、比較例1のX線管1は、通過口23hの形状以外、上記実施形態のX線管と同様に構成されている。比較例1の通過口23hは、第2形状23h2を有しているが、第1形状23h1を有していない。鍔部23は、通過口23hを通過する利用X線束以外のX線を遮蔽する。比較例1のX線管1が放出する利用X線束は、コーンビームとなる。比較例1の利用X線束の照射角θ2は、上述した実施形態の照射角θ1より小さい。
【0074】
上記のことから、比較例1のX線管1では、利用X線束の照射角を大きくすることは困難である。
【0075】
(比較例2)
次に、比較例2に係るX線管1について説明する。比較例2のX線管1は、陽極40の構成と、通過口23hの形状以外、上記実施形態のX線管と同様に構成されている。
【0076】
図10に示すように、陽極40は、陽極フード45をさらに備えている。陽極フード45は、ターゲット面43を覆っている。陽極フード45は、陽極本体41に物理的及び電気的に接続されている。例えば、陽極フード45は、陽極本体41を形成する材料と同一の材料で形成され、かつ、陽極本体41にろう接などで固定されている。陽極フード45は、導入口45h1、及び通過口45h2を有している。導入口45h1は、フィラメント31からターゲット面43に向かう電子の軌道を囲んでいる。
【0077】
陽極フード45は、焦点Fから放出されるX線を遮蔽する。そこで、陽極フード45に長方形の通過口45h2が形成されている。通過口45h2を通過した利用X線束は、ファンビームとなり、X線透過窓22を透過する。そのため、通過口45h2を通過した後であり通過口23hを通過する前である状態の利用X線束は、X-Y平面上にて、上記実施形態と同等の照射角(照射角θ1)を得ることができる。
【0078】
図11に示すように、比較例2の通過口23hは、第2形状23h2を有しているが、第1形状23h1を有していない。比較例2のX線管1が放出する利用X線束はファンビームとなるが、利用X線束の照射角θ2は、上述した実施形態の照射角θ1より小さい。上記のことから、比較例2のX線管1でも、利用X線束の照射角を大きくすることは困難である。
【0079】
また、比較例2では、利用X線束をファンビームとするために、X線管1は陽極フード45を必要としている。比較例2では、X線管1の製造コストの高騰を抑制することは困難であるため、X線管1の製品価格の高騰を抑制することは困難である。
【0080】
本発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記の実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1…X線管、10…真空外囲器、13w…開口、20…X線透過アセンブリ、
22…X線透過窓、23…鍔部、23h…通過口、23h1…第1形状、
23h2…第2形状、23a…ねじ穴、23b…収容溝、30…陰極、40…陽極、
F…焦点、S1,S2…辺、T1…半円形、T2…円弧、AX1…長軸、AX2…短軸、
θ1,θ2…照射角、CI1…外接円、CI2…内接円、A…X線管軸、D…直線距離。