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  • 特許-ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220425BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20220425BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20220425BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220425BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L25/04
C08L51/06
C08K3/04
C08L21/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018046517
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019135291
(43)【公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2017107786
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018019205
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和幸
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121223(JP,A)
【文献】特開2013-112781(JP,A)
【文献】特開2012-131908(JP,A)
【文献】特開2014-051551(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057390(US,A1)
【文献】特開2017-218567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 25/04
C08L 51/06
C08K 3/04
C08L 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(A)、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂(B)、ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)、及びポリエチレン系セグメント及びビニル系重合体セグメントを有するグラフト共重合体(D)を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
ブタジエン骨格を含まないスチレン系樹脂(C)がアクリロニトリル-スチレン樹脂又はメタクリル酸メチル-スチレン樹脂であり、
ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の含有割合が、(A)/(B)の質量比で0~80/20~100であり、
ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)の含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~30質量部であって、
グラフト共重合体(D)の含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~10質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Rはメチル基、R及びRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、Xは、
【化2】
を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【請求項2】
さらに、耐衝撃改良剤(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、7~20質量部含む請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
ISO 15184に準拠し、750g荷重にて測定した鉛筆硬度がHB以上である請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、黒色顔料を含む請求項1~のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関し、詳しくは、耐衝撃性、並びに高い鉛筆硬度を有し、発色性に優れ、さらには良好な爪傷防止性能を有するポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、電気的特性、透明性などに優れ、エンジニアリングプラスチックとして、電気電子機器分野、自動車分野等の様々な分野において幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、ビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂は、溶融粘度が高く、成形加工性に劣るという問題があり、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下、ABS樹脂ともいう。)とのポリマーアロイが、ポリカーボネート樹脂単独の場合に比べ成形性を改良し、ABS樹脂単独の場合に比べ耐衝撃性と耐熱性を改良できるため、強度や耐熱性と成形性を兼ね備えた材料として、自動車分野、電気電子機器分野等を含む各種分野で広く使われている。
【0004】
近年、製品の薄肉化や軽量化が急速に進行し、且つ製造プロセス簡略化を目指して、塗装工程の省略化の要求が高まってきた。それに伴い成形素材のさらなる性能向上が要求され、特に高発色性があり、且つ高硬度であることも望まれるようになってきている。
しかし、ポリカーボネート-ABS樹脂組成物は、成形品の表面硬度が低いため耐擦傷性に劣り、表面に傷が付き易い欠点を有しているうえ、黒色の着色を施した際には、漆黒性に欠ける問題を有しており、例えば家電機器、携帯端末機器の筐体や自動車内装部品などの高級感が求められる用途では、特に大きな問題となっていた。
【0005】
本発明者は、ポリカーボネート-ABS樹脂組成物における表面硬度の低さを改良するため、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンに由来するポリカーボネート樹脂部位を少なくとも含有するポリカーボネート樹脂を用いた、ポリカーボネート-ABS樹脂組成物を特許文献1にて提案しているが、当該樹脂組成物は、高い表面硬度を有しているものの、発色性については、従来のポリカーボネート-ABS樹脂組成物と差異が見られなかった。
一方、特許文献2及び3では、有機系黒色染料を用いた漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が提案されている。しかしながら、これらの樹脂組成物は表面硬度が通常のポリカーボネート樹脂と同等であり、且つ有機染料を用いている為、耐光性が顔料系と比べて劣るという問題点があった。
【0006】
このような発色性の問題を解決するため、本発明者は、耐衝撃性と高い表面硬度、並びに発色性(特に漆黒性)を示すポリカーボネート樹脂組成物を提案した(特許文献4)。しかし、当該ポリカーボネート樹脂組成物は発色性に優れているが、発色性が優れるがために爪傷が目立つ等の問題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-071675号公報
【文献】特開2011-111589号公報
【文献】特開2012-126776号公報
【文献】特願2017-072142号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的(課題)は、耐衝撃性と高い表面硬度、発色性(特に漆黒性)、並びに良好な爪傷防止性能を示すポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とブタジエン骨格を含まないスチレン系樹脂からなる組成物に、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、即ちビスフェノールC等の特定構造を有する芳香族ジヒドロキシ化合物由来のポリカーボネート樹脂を、それぞれ特定の量で含有し、且つポリエチレンセグメント及びビニル系重合体セグメントを有するグラフト共重合体を含有するポリカーボネート樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物および成形品に関する。
【0010】
[1]ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(A)、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂(B)、ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)、及びポリエチレン系セグメント及びビニル系重合体セグメントを有するグラフト共重合体(D)を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の含有割合が、(A)/(B)の質量比で0~80/20~100であり、
ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)の含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~30質量部であって、
グラフト共重合体(D)の含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~10質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Rはメチル基、R及びRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、Xは、
【化2】
を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【0011】
[2]さらに、耐衝撃改良剤(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、7~20質量部含む上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]ISO 15184に準拠し、750g荷重にて測定した鉛筆硬度がHB以上である上記[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4]ブタジエン骨格を含まないスチレン系樹脂(C)がアクリロニトリル-スチレン樹脂又はメタクリル酸メチル-スチレン樹脂である上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]さらに、黒色顔料を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性に優れ、高い表面硬度を有し、爪での耐傷付き性に優れ、さらに発色性に優れ、特に黒色の着色を施した際には、優れた漆黒性を発現することができる。
このため、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、特に車輌内装部品、電子電気機器やOA機器、情報端末機器のハウジング部材等に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】パンクチャー衝撃試験における破壊形態YD、YS、YU及びNYを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0015】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(A)、前記一般式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂(B)、ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)、及びポリエチレン系セグメント及びビニル系重合体セグメントを有するグラフト共重合体(D)を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の含有割合が、(A)/(B)の質量比で0~80/20~100であり、
ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)の含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~30質量部であって、
グラフト共重合体(D)の含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~10質量部であることを特徴とする。
【0016】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有するポリカーボネート樹脂(A)はビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(A)である。
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(A)は、原料のジヒドロキシ化合物として、ビスフェノールA、すなわち2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとカーボネート前駆体とから製造されるものである。
【0017】
ポリカーボネート樹脂(A)の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、炭酸ジエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0018】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0019】
炭酸ジエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0020】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ビスフェノールA以外の他のジヒドロキシ化合物を併用した共重合ポリカーボネート樹脂であってもよい。ビスフェノールA以外の他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のような芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシフェニルエーテル等が挙げられる。
【0021】
共重合ポリカーボネート樹脂とする場合は、ビスフェノールA由来の成分が50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、中でも90質量%以上、特には95質量%以上であることが好ましい。
またポリカーボネート樹脂(A)は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。
【0022】
ポリカーボネート樹脂の製造方法
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち、特に好適なものについて具体的に説明する。
【0023】
界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0024】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述の通りである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0025】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0026】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0027】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限はないが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10~12にコントロールするために、5~10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10~12、好ましくは10~11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0028】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’-ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0029】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m-メチルフェノール、p-メチルフェノール、m-プロピルフェノール、p-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロペニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o-ヒドロキシ安息香酸、2-メチル-6-ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0030】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0031】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)~数時間(例えば、6時間)である。
【0032】
溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。
溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0033】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0034】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0036】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0038】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100~320℃である。また、反応時の圧力は、通常常圧未満の減圧下で行われ、反応の進行に応じて減圧の状態を調整し、最終的には2mmHg以下の条件とする。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0039】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0040】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0041】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0042】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、12,000~30,000であることが好ましい。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られやすく、12,000を下回ると、耐面衝撃性が著しく低下しやすく、30,000を超えると溶融粘度が増大し射出成形が困難となりやすい。ポリカーボネート樹脂(A)の分子量の下限は、より好ましくは15,000、さらに好ましくは16,000、特に好ましくは17,000であり、その上限はより好ましくは28,000である。
【0043】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出される値である。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0044】
ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1,200ppm以下、好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは800ppm以下である。これによりポリカーボネート樹脂の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0045】
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0046】
[ポリカーボネート樹脂(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有するポリカーボネート樹脂(B)は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂である。
【化3】
(一般式(1)中、Rはメチル基、R及びRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、Xは、
【化4】
を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【0047】
上記一般式(1)において、Rはメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であるが、R及びRは特には水素原子であることが好ましい。
また、Xは、
【化5】
である場合、R4及びR5の両方がメチル基であるイソプロピリデン基であることが好ましく、また、Xが、
【化6】
の場合、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の二価の脂環式炭化水素基を形成するが、二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0048】
ポリカーボネート樹脂(B)としての好ましい具体例としては、以下のイ)~ニ)のポリカーボネート樹脂が挙げられる。
イ)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位を有するもの、即ちRがメチル基、Rが水素原子、Xがイソプロピリデン基である構造単位を有するもの、
ロ)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン構造単位、即ちRがメチル基、Rが水素原子、Xがシクロドデシリデン基である構造単位を有するもの。
ハ)2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位、即ちRがメチル基、Rがメチル基、Xがイソプロピリデン基である構造単位を有するもの、
ニ)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン構造単位、即ちRがメチル基、Rが水素原子、Xがシクロヘキシリデン基である構造単位を有するもの、
これらの中で、より好ましくは上記イ)、ロ)またはハ)、さらに好ましくは上記イ)またはロ)、特には上記イ)のポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0049】
これらポリカーボネート樹脂は、それぞれ、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンを、ジヒドロキシ化合物として使用して製造することができる。
【0050】
ポリカーボネート樹脂(B)は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0051】
ポリカーボネート樹脂(B)は、一般式(1)で表される構造単位以外のカーボネート構造単位を有することもでき、例えば、下記一般式(2)で表される構造単位、あるいは後記するような他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有していてもよい。この際の一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位の共重合量は、通常50モル%未満であり、40モル%以下が好ましく、より好ましくは30モル%以下、さらには20モル%以下、特には10モル%以下であることが好ましい。
【化7】
(式中、Xは前記一般式(1)におけるXと同義である。)
【0052】
上記一般式(2)で表されるポリカーボネート構造単位の好ましい具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノールA由来のカーボネート構造単位である。
ポリカーボネート樹脂(B)はポリカーボネート樹脂(A)とは異なる成分であるので、ポリカーボネート樹脂(B)がビスフェノールA由来のカーボネート構造単位を共重合成分と含有する場合、そのビスフェノールA由来の成分は50モル%未満であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、中でも10質量%以下、特には5質量%以下であることが好ましい。
【0053】
一般式(2)で表される構造単位以外の他のジヒドロキシ化合物の例は、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシフェニルエーテル等が挙げられる。
【0054】
ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量(Mv)は、19,000~35,000であることが好ましい。粘度平均分子量がこの範囲にあることで、成形性が良く、機械的強度が大きく、耐擦傷性のよい成形品が得られやすく、19,000を下回ると、樹脂組成物の鉛筆硬度が低くなったり、耐衝撃性が低下したりするため好ましくない。一方、35,000を超えると溶融粘度が増大し射出成形が困難となりやすい。ポリカーボネート樹脂(B)の分子量のより好ましい下限は、19,500、20,000、22,000、24,000、さらに好ましくは25,000、特には26,000が好ましく、その上限はより好ましくは33,000、さらに好ましくは32,000である。
【0055】
ポリカーボネート樹脂(B)を製造する方法は、特に限定されるものではなく、前記ポリカーボネート樹脂の製造方法で説明したとおりである。
【0056】
ポリカーボネート樹脂(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の含有割合が、(A)/(B)の質量比で0~80/20~100である。ポリカーボネート樹脂(B)の質量比が、20を下回ると鉛筆硬度が低くなったり、爪傷防止性能が悪くなったりするため好ましくない。ポリカーボネート樹脂(B)の好ましい含有量は、(A)/(B)の質量比で、1~80/20~99であり、より好ましくは5~75/25~95、さらに好ましくは10~70/30~90である。
【0057】
ポリカーボネート樹脂(A)、(B)は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0058】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、それぞれのポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)全体の30質量%以下とすることが好ましい。
【0059】
[ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物はブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)を含有する。ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)を含有することで、ブタジエン由来構成単位により阻害されていた発色性、特に漆黒性を発現させやすくなるだけでなく、耐光性の向上や、耐湿熱性の向上についても達成させやすくなる。スチレン系樹脂(C)は、ABS樹脂等のブタジエンに由来する構成単位を含む樹脂ではなく、芳香族ビニル単量体単独、または芳香族ビニル単量体と必要に応じて共重合可能な他のビニル単量体及びゴム質重合体より選ばれる1種以上を重合して得られる樹脂である。
【0060】
スチレン系樹脂(C)に用いられる芳香族ビニル単量体(c1)としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
これらの芳香族ビニル単量体(c1)と共重合可能な他のビニル単量体としては、シアン化ビニル単量体(c2)が好ましく、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。
【0062】
また、その他の単量体(c4)として、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル;フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。好ましくは、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルである。
これらのその他単量体(c4)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
また、芳香族ビニル単量体(c1)と共重合可能なゴム質重合体(c3)としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴムが適当である。このようなゴム質重合体の具体例としては、アクリル系ゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(IPN型ゴム)等が挙げられ、好ましくは、アクリル系ゴム等が挙げられる。
【0064】
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルゴムが挙げられ、ここで、アルキル基の炭素数は好ましくは1~8である。アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルエステルゴムには、任意に、エチレン性不飽和単量体が用いられていてもよい。そのような化合物の具体例としては、ジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル等が挙げられる。
これらのゴム質重合体(c3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
スチレン系樹脂(C)は、上記した芳香族ビニル単量体成分(c1)50~100質量%、シアン化ビニル単量体成分(c2)0~30質量%、ゴム質重合体成分(c3)0~30質量%、その他の単量体成分(c4)0~30質量%からなることが好ましく、芳香族ビニル単量体成分(c1)45~80質量%、シアン化ビニル単量体成分(c2)10~30質量%、ゴム質重合体成分(c3)10~25質量%、その他の単量体成分(c4)0~40質量%からなることがより好ましく、芳香族ビニル単量体成分(c1)55~70質量%、シアン化ビニル単量体成分(c2)15~25質量%、ゴム質重合体成分(c3)15~20質量%、その他の単量体成分(c4)0~5質量%からなることがさらに好ましい。
【0066】
本発明で用いられるスチレン系樹脂(C)の具体例としては、例えば、スチレンの単独重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルと他の共重合可能な単量体との共重合体、また、ゴムの存在下スチレンを重合してなるグラフト共重合体、ゴムの存在下スチレンと(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合してなるグラフト共重合体等が好ましく挙げられる。
さらに、具体的には、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、メタアクリル酸アルキルエステル-スチレン共重合体(MS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)及びスチレン-IPN型ゴム共重合体等の樹脂、又は、これらの混合物が挙げられる。
【0067】
これらの中でも、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、メタアクリル酸アルキルエステル-スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)が好ましく、特にアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、メタアクリル酸アルキルエステル-スチレン共重合体(MS樹脂)が好ましい。
【0068】
これらのスチレン系樹脂(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0069】
ブタジエンに由来する構成単位を含まないスチレン系樹脂(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~30質量部であり、好ましくは3~25質量部、より好ましくは5~20質量部である。スチレン系樹脂(C)の含有量が1質量部未満の場合、流動性や耐光性が低下しやすく、スチレン系樹脂(C)の含有量が30質量部を超える場合には、耐衝撃性が低下したり、表面硬度が低下したりする。
【0070】
[グラフト共重合体(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリエチレン系セグメント及びビニル系重合体セグメントを有するグラフト共重合体(D)を含有する。このグラフト共重合体(D)は、好ましくは、ポリエチレン系セグメントがグラフト共重合体の主鎖となり、ビニル系単量体を重合したセグメントはグラフト共重合体の側鎖となる。
【0071】
ポリエチレン系セグメントは、エチレンの単独重合体、又はエチレンを主成分としそれと共重合可能なエチレン以外の他のα-オレフィンとの共重合体のいずれであってもよい。
エチレン以外の他のα-オレフィンとしては炭素原子数が通常3~20、好ましくは3から12のα-オレフィンであり、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が好ましく挙げられる。
ポリエチレン系セグメントが共重合体である場合のα-オレフィン単位の量は、通常0~50質量%、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~20質量%、さらには0~10質量%であることが好ましい。
【0072】
ポリエチレン系セグメントの分子量は、数平均分子量(Mn)で通常10,000~600,000程度である。ここで、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)でポリスチレン換算として求められるものを意味する。
【0073】
ポリエチレン系セグメントとしては、例えば、市販の高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、あるいは高圧ラジカル法によって得られる高圧法低密度エチレン(HPLD)等のいずれであってもよいが、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレンが好ましく、中でも超低密度ポリエチレン(VLDPE)がより好ましい。
【0074】
低密度ポリエチレンは、密度が通常0.91~0.94g/cm、好ましくは0.912~0.935g/cmである。直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が0.91~0.94g/cmであるのが、好ましい。超低密度ポリエチレンは、エチレンとα―オレフィンとの共重合体であって、通常密度が0.86~0.91g/cmの範囲である。高圧法による高圧法低密度ポリエチレンは、密度0.91~0.94g/cmのものが好ましく挙げられる。
【0075】
ビニル系重合体セグメントを形成するためのビニル系単量体としては、例えばスチレン系単量体、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸エステル、不飽和ニトリル系単量体等が好ましく挙げられる。
【0076】
スチレン系単量体としては、例えばスチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
【0077】
α,β-不飽和カルボン酸としては、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等が好ましく挙げられる。
α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル等が好ましく挙げられる。
不飽和ニトリル系単量体としては、アクリロニトリルが好ましく挙げられる。
【0078】
これらのビニル系単量体の中では、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性が高く、耐擦傷性効果に優れる点で、スチレン系単量体、特にスチレンが好ましく、スチレン単独、あるいはスチレンと、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のOH基含有(メタ)アクリレート、あるいはアクリロニトリルと共重合することが好ましい。
【0079】
また、グラフト共重合体(D)の分子量は、質量平均分子量(Mw)で5,000~500,000であることが好ましい。ここで、質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)でポリスチレン換算として求められるものを意味する。
【0080】
グラフト共重合体(D)は、さらにポリオルガノシロキサンを含有することも好ましい。ポリオルガノシロキサンを含有する場合は、グラフト共重合体(D)の主鎖あるいは側鎖として有していてもよく、またコア/シェル型等の多層構造を形成するようなグラフト共重合体の一部として含有されていてもよい。
【0081】
ポリオルガノシロキサンは、特に限定されないが、例えばポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンが代表的であり、ポリジメチルジフェニルシロキサンコポリマー、ポリジメチルフェニルメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルフェニルジフェニルシロキサンコポリマー等が挙げられる。中でも、ジアルキルシロキサン単位、特にはジメチルシロキサン単位を構成単位として含有する重合体が好ましい。
また、ポリオルガノシロキサンとしては、ビニル基を含有するシロキサンを構成成分として含有するものが好ましい。ビニル基を含有するシロキサンは、よく知られており、ビニル基を含有し、これにオルガノシロキサンがシロキサン結合を介して結合したものである。
【0082】
グラフト共重合体(D)中に占めるポリエチレン系重合体セグメントの割合は、50~95質量%であることが好ましく、より好ましくは60~90質量%であり、さらに好ましくは65~80質量%である。ビニル系重合体セグメントの割合は好ましくは、5~50質量%であることが好ましく、より好ましくは10~40質量%であり、さらに好ましくは20~35質量%である。
また、さらにポリオルガノシロキサンセグメントを含有する場合の含有量は、0.5~30質量%であることが好ましく、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは2~10質量%である。但し、ポリオルガノシロキサンセグメントを含有する場合の含有量は、ポリエチレン系重合体セグメント、ビニル系重合体セグメント及びポリオルガノシロキサンセグメントの合計100質量%基準としての質量%である。
【0083】
グラフト共重合体(D)は、JIS K7121に準拠し示差走査熱量計(DSC)により測定される吸熱ピークを100℃以下に有することが好ましい。吸熱ピーク温度が100℃以下であることにより、ポリカーボネート樹脂に配合した際の爪での耐傷付き性、鉛筆硬度試験における低硬度での僅かな傷付き性が良好となり、黒色の着色を施した場合には、漆黒性も向上するため好ましい。この理由は吸熱ピーク温度が100℃以下にあることにより、ポリカーボネート樹脂との親和性の低いポリエチレン系重合体主鎖がポリカーボネート樹脂分子間に入りやすくなり、ポリカーボネート樹脂との親和性が向上し、ポリカーボネート樹脂層へのグラフト共重合体(D)相の分散良好になるためと推定される。
なお、グラフト共重合体(D)の吸熱ピークは複数あってもよく、複数ある場合でも100℃以下に吸熱ピークを有することが好ましい。吸熱ピーク温度は好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下であり、その下限は通常60℃以上である。
【0084】
なお、本発明において、グラフト共重合体(D)の吸熱ピークの測定は、JIS K7121に準拠し、セイコーインスツルメント社製の示差型走査熱量計DSC7020を用い、グラフト共重合体(D)のサンプル10mgを、30℃から300℃まで10℃/分で昇温することによる観察することにより行われる。グラフト共重合体(D)の吸熱ピークが複数ある場合は、最も低温側の吸熱ピークの温度を測定する。
【0085】
グラフト共重合体(D)を製造するには、各種の公知のグラフト共重合法のいずれの方法でもよいが、例えば、以下に示す方法による方法が挙げられる。
【0086】
すなわち、前記ポリエチレン系重合体を水に懸濁させ、そこへ前記ビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物(例えば、t-ブチルペーオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート等)、重合開始剤(例えば、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペーオキシド等)を溶解した混合溶液を加え、次いで、加熱して共重合してグラフト共重合体を製造する方法である。
【0087】
また、グラフト共重合体(D)は市販されておりこれらを使用することでも可能であり、例えば日油株式会社より「ノフアロイ(登録商標)KAシリーズ」として販売されており、例えば「ノフアロイ KA147」等が利用できる。
【0088】
グラフト共重合体(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、1~10質量部、好ましくは1.5~9質量部、さらに好ましくは2~8質量部である。1質量部未満の場合、爪での耐傷付き性や、鉛筆硬度試験における低硬度での僅かな傷付きの改良効果が小さくなり、10質量部を超えると、色相の悪化、機械的強度及び耐熱性の低下を招く。
【0089】
[耐衝撃改良剤(E)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、耐衝撃改良剤(E)を含有することが好ましい。耐衝撃改良剤(E)としては、エラストマーが好ましく、エラストマーとしては、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。ただし、ここでのグラフト共重合体は上記したスチレン系樹脂(C)とは異なるものとして定義される。
グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0090】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下が好ましく、更には-30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-α-オレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
【0091】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0092】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。尚、ここでコア/シェル型とは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものでなくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0093】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、ブタジエン-メチルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。このようなゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0094】
本発明の樹脂組成物が耐衝撃改良剤(E)を含む場合、耐衝撃改良剤(E)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、7~20質量部が好ましく、8~18質量部がより好ましく、10~15質量部がさらに好ましい。衝撃改良剤(E)の含有量が7質量部未満の場合、耐衝撃性が低下しやすく、衝撃改良剤(E)の含有量が20質量部を超える場合には、流動性が低下する傾向がある。
耐衝撃改良剤(E)は1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0095】
[安定剤(F)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤(F)を含有することが好ましい。安定剤(F)としては、酸化防止剤、熱安定剤が上げられる。本発明においては、酸化防止剤または熱安定剤の単独での使用でも構わないが、酸化防止剤と熱安定剤の両方を併用することが好ましい。
【0096】
(酸化防止剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に適用可能な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
これらは1種のみで含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0097】
上記の中では、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
これらのフェノール系酸化防止剤の市販品としては、BASFジャパン株式会社製の「イルガノックス(登録商標、以下同じ)1010」及び「イルガノックス1076」、株式会社ADEKA製の「アデカスタブ(登録商標、以下同じ)AO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0098】
酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計100質量部に対して、通常0.001~1質量部、好ましくは0.01~0.5質量部である。酸化防止剤の含有量が0.001質量部未満の場合は抗酸化剤としての効果が不十分であり、1質量部を超える場合は効果が頭打ちとなり経済的ではない。
【0099】
(熱安定剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に適用可能な熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0100】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、株式会社ADEKA製「アデカスタブ(登録商標、以下同じ)PEP-36」、「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業株式会社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASFジャパン株式会社製「イルガフォス(登録商標)168」等が挙げられる。
なお、熱安定剤は、1種のみで含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0101】
熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。熱安定剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる。
【0102】
[離型剤(G)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤(G)を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0103】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0104】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0105】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0106】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0107】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0108】
数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。また、数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましく、ポリエチレンワックスが特に好ましい。
【0109】
なお、離型剤(G)は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0110】
離型剤(G)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0111】
[黒色顔料(H)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、発色性、特に漆黒の発現性にも優れるので、黒色顔料(H)を含有することも好ましい。黒色顔料(H)としては、カーボンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラック、シアニンブラック、チタンブラック等が使用可能であるが、漆黒性や耐光(候)性の点から、カーボンブラックが好ましく、カーボンブラックとしてはアセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等を好ましく挙げることができる。
【0112】
黒色顔料(H)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計100質量部に対して、好ましくは、0.5~1.8質量部である。0.5質量部未満であると、漆黒性が不十分となりやすく、1.8量部を超えると機械的物性が低下する場合がある。黒色顔料(H)の含有量は、より好ましくは0.7~1.6質量部、さらに好ましくは0.9~1.4質量部である。
【0113】
[紫外線吸収剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有することも好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オキサニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらのうち、有機紫外線吸収剤が好ましく、中でもベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、透明性や機械物性が良好なものになる。
【0114】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、中でも2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0115】
紫外線吸収剤を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0116】
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外のその他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、上記した樹脂以外の樹脂、上記した以外の各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
なお、上記した以外のその他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらには5質量部以下、特には3質量部以下とすることが好ましい。
【0117】
樹脂添加剤としては、例えば、難燃剤、滴下防止剤、充填材、黒色顔料以外の染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0118】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)、スチレン系樹脂(C)及びグラフト共重合体(D)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
溶融混練の温度は特に制限されないが、240~320℃の範囲であることが好ましく、特に240~300℃が好ましい。
【0119】
[成形品]
上記したポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0120】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
中でも、成形は射出成形法により行われることが好ましく、例えば、射出成形機、超高速射出成形機、射出圧縮成形機等の公知の射出成形機を用いて射出成形される。射出成形時における射出成形機のシリンダー温度は、好ましくは240~320℃であり、より好ましくは、250~300℃、さらに好ましくは260~280℃である。また、射出成形時の射出速度は、好ましくは10~1,000mm/秒であり、より好ましくは10~500mm/秒である。
【0121】
[鉛筆硬度]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体の鉛筆硬度は、好ましくはHB以上、より好ましくはF以上、更に好ましくはH以上である。鉛筆硬度がHB未満では、樹脂成形体の表面が傷つきやすい傾向がある。本発明において、HB以上の鉛筆硬度は、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、並びにスチレン系樹脂(C)を特定の割合で配合することによって達成し得る。
なお、本発明において鉛筆硬度は、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、750g荷重にて測定される。
【0122】
[パンクチャー衝撃試験]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは、ISO 6603-2に準拠し、ストライカー直径が10mm、サンプルサポート直径が40mm、打ち抜き速度が4.4m/sec、衝突エネルギーが50.1J、サンプル厚み3mmにて実施するパンクチャー衝撃試験において、破壊形態がYDを示す。破壊形態は、図1に示すように、YD、YS、YU及びNYがあり、破壊形態YDとは深絞りによって起こる降伏をいい、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は破壊形態YDを達成可能であり、後記するように、面衝撃強度が低い比較例のものでは、衝撃破壊の形態がYS(安定き裂成長によって起こる降伏)、またはYU(不安定き裂成長によって起こる降伏)、及びNY(不安定き裂成長によって起こる降伏しない破壊)になりやすい。
パンクチャー衝撃の特性は、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、スチレン系樹脂(C)及びグラフト共重合体(D)の配合比率を調整することにより達成される。
【0123】
[シャルピー衝撃試験]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、室温(23℃)におけるISO 179-2に準拠して測定されるノッチ付きシャルピー衝撃値が、好ましくは20kJ/m以上、より好ましくは23kJ/m以上、さらに好ましくは25kJ/mである。
室温耐衝撃性の値は、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、並びにスチレン系樹脂(C)の配合比率を調整し、必要に応じて耐衝撃改良剤(E)を添加することにより達成される。
【0124】
[ナイロン傷つき]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体の爪による傷つき性について確認するために、ナイロン棒による傷つき試験を用いて代用することができる。
本発明におけるナイロン傷つき試験は、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、鉛筆の代わりにナイロン製の丸棒を取り付け、荷重を50、100、300、500、750gと可変させながら、成形袋が傷つく荷重を求める。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体の傷つき性は、好ましくは500g荷重以上、より好ましくは750g荷重である。
【0125】
[漆黒性(L値)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、漆黒性に優れるので、厚さ3mmの成形品にて、D65/10°光源にて測定したL値が、好ましくは5.5以下、より好ましくは5.2以下、さらに好ましくは5.1以下、特に好ましくは5.0以下を達成することができる。L値は小さいほど黒色性(漆黒性)が高いことを意味する。
【0126】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形品は、幅広い分野に使用することが可能であり、電子電気機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの各種用途に有用であり、特に電子電気機器やOA機器、情報端末機器のハウジング部材、車輌内装部品への適用が期待できる。
【0127】
電子電気機器やOA機器、情報端末機器のハウジング部材としては、パソコン、ゲーム機、テレビなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、記録媒体のドライブや読み取り装置などのハウジング部材が挙げられる。
車輌内装部品としては、センターパネル、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、ラゲッジフロアボード、ドアポケット、カーナビゲーションなどのディスプレイハウジングなどが挙げられる。
【実施例
【0128】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
以下の実施例及び比較例に使用した各原料成分は、以下の表1の通りである。
【0129】
【表1】
【0130】
上記表1において、ポリカーボネート樹脂(B)として使用したポリカーボネート樹脂(B)は、以下の製造例1により製造した。
【0131】
<製造例1:ポリカーボネート樹脂(B)の製造>
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機及び溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(CsCO)を、BPC1モルに対し1.5×10-6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
次に、反応器内を60分かけて温度を284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、攪拌動力は1.00kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0132】
得られたポリカーボネート樹脂(B)の物性は以下の通りであった。
鉛筆硬度:2H
粘度平均分子量(Mv):26,000
【0133】
(実施例1~9、比較例1~5)
上記表1に記載した各成分を、下記の表2に示す割合(質量部にて表示。但し、安定剤、離型剤及び黒色顔料の量は、ポリカーボネート樹脂A、B及びスチレン系樹脂Cの合計100質量部に対する量として記載した。)にて配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX30α)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/hrにて押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0134】
[ノッチ付きシャルピー衝撃値(単位:kJ/m)]
上記で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、日精樹脂工業株式会社製のNEX80III型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を作製した。
得られた試験片をISO 179-1規格に基づき切削加工により所定の形状に切削し、室温(23℃)条件下でISO 179-2規格に基づき、シャルピー衝撃試験(ノッチ付き)を行い、ノッチ付きシャルピー衝撃値(単位:kJ/m)を求めた。
【0135】
[パンクチャー衝撃試験]
上記で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、日精樹脂工業株式会社製のNEX80型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて、60mm×60mm×3mmtの平板とした。該平板を、ISO 6603-2に準拠し、CEAST9350 落錘式衝撃試験機(インストロン社製)により、試験温度23℃において、ストライカー直径:10mm、サンプルサポート直径:40mm、打ち抜き速度:4.4m/sec、衝突エネルギー:50.1Jの条件で、パンクチャー衝撃試験を行い、破壊形態を評価した。
破壊形態YDは深絞りによって起こる降伏、破壊形態YSは安定き裂成長によって起こる降伏であり、破壊形態YUは不安定き裂成長によって起こる降伏であり、破壊形態NYは不安定き裂成長によって起こる降伏しない破壊であることを示す。
【0136】
[鉛筆硬度]
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製NEX80III)を用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を作製した。この成形品について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0137】
[ナイロン傷つき試験]
上記で得られたISO多目的試験片(4mm厚)を試験片として使用した。この成形品について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、鉛筆の代わりにナイロン製の丸棒を取り付け、荷重を50、100、300、500、750gと可変させながら、成形袋が傷つく荷重を測定した。
以下の表中、○は傷がつかなかったこと、×は傷がついたことを示す。
【0138】
[漆黒性(L値)]
漆黒性の評価として、パンクチャー衝撃試験用に作成した前記3mm厚の平板を用いて、JIS K7105に準じ、日本電色工業株式会社製のSE6000型分光色彩計を用いて、D65/10°光源にて反射法により、Lを求めた。
以上の評価結果を、以下の表2~3に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性に優れ、高い表面硬度を有し、爪での耐傷付き性に優れ、さらに発色性(特に漆黒性)に優れるので、特に電子電気機器やOA機器、情報端末機器のハウジング部材、車輌内装部品への適用等の部品に好適に利用でき、産業上の利用性は非常に高いものがある。
図1