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特許7062480マスクブランクスおよびフォトマスク、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】マスクブランクスおよびフォトマスク、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/40 20120101AFI20220425BHJP
【FI】
G03F1/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018055312
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019168558
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 成浩
(72)【発明者】
【氏名】江成 雄一
(72)【発明者】
【氏名】浅見 智史
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-195483(JP,A)
【文献】特開2016-033652(JP,A)
【文献】特開2016-188997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
該透明基板の表面に形成されたクロムを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に積層された中間層と、
前記中間層に積層された反射防止層と、
を有し、
前記反射防止層が、クロムを含有し前記遮光層に比べて酸素を多く含有し、
前記中間層が、クロムを含有し前記反射防止層および前記遮光層に比べて炭素を多く含有し、
前記中間層における炭素含有率が14.5atm%以上に設定され、
シート抵抗が10Ω/sqより小さく設定されることを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記中間層における炭素含有率が、前記遮光層の2倍以上に設定されることを特徴とする請求項1記載のマスクブランクス。
【請求項3】
請求項1または2記載のマスクブランクスから製造されたフォトマスクであって、
前記遮光層から透光領域を除去して形成された遮光パターンにおける前記透光領域との壁面が、前記ガラス基板表面と接する角度が80°以上とされることを特徴とするフォトマスク。
【請求項4】
請求項1または2記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記中間層の成膜時において、前記反射防止層および前記遮光層の成膜時に比べて炭素含有ガスの分圧を高く設定することを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクスおよびフォトマスク、その製造方法に関し、特に、帯電防止に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)用とされる大板用のフォトマスクは、特許文献1に記載されるように、ガラス基板上にクロム等の金属を含む遮光膜や半透過膜を成膜したマスクブランクスにおいて、パターニングプロセスを経て所望のパターンを形成することでバイナリマスクとして形成される。
これにより、透明基板の露出した遮光パターンの配置されていない透光領域と、透明基板にクロムを含む遮光層が積層された遮光領域と、が順に隣接して配置されたマスクを製造する。
【0003】
このようなフォトマスクでは、フォトマスクの製造プロセス中やフォトマスクの洗浄中あるいはマスクの搬送中等において、フォトマスク中に静電気が蓄積されフォトマスクが部分的に静電破壊することがあり、これが問題になっている。
【0004】
近年、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイともにパネルの高精細化が大きく進行しており、それに伴いフォトマスクの微細化も進展している。その結果、フォトマスクが微細化されることで孤立したパターンの間の距離が小さくなるために、静電破壊の発生確率が高くなるという問題が生じている。
【0005】
さらに、FPD等の大型化にともない、フォトマスクが大板化してその面積が大きくなることにより、静電破壊の発生数そのものが増大するという問題が生じている。
【0006】
この問題を解決するため、フォトマスクにおいて孤立パターンを形成しないために、フォトマスクを構成する遮光膜や半透過膜の下部あるいは上部に透明導電膜を形成するという技術が、特許文献2および特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-212738号公報
【文献】特開2008-241921号公報
【文献】特開2009-86383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2および特許文献3に記載の技術では、形成された透明導電膜により、露光工程において透過率が低下してしまうという問題があった。さらに、これらの技術では、フォトマスクの形成工程あるいは洗浄工程において、透明導電膜がエッチングされてなくなることで導電性が低下して静電破壊が発生してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.フォトマスクにおける静電破壊の発生を防止すること。
2.同時に、フォトマスクにおける光学特性の低下を防止すること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、フォトマスクを形成する遮光膜そのものの抵抗値を低減することで、静電破壊の発生率を抑制できることを見出した。
【0011】
遮光膜のシート抵抗値を10Ω/sq以下にすることで静電破壊の発生率を大きく抑制できることがわかった。このように遮光膜のシート抵抗の値を10Ω/sq以下にすることで、静電破壊の発生を防止可能なフォトマスクを形成することができる。
【0012】
フォトマスクを形成する際、通常は上側(表面側)に反射防止層としてのクロム酸化膜、下側(ガラス基板側面側)層にクロム膜の2層構造とすることが一般的である。
ここで、遮光膜をクロムにより形成する場合、遮光膜の抵抗値を上記の範囲に設定するためには、遮光膜の膜厚を100nm以上とすることが好ましい。
この場合、上側(表面側)に設けられる反射防止層としてのクロム酸化膜は、20~30nmの膜厚範囲として、膜表面を低反射化することが望ましい。
【0013】
しかし、表面側の反射防止層とガラス基板側の遮光層との2層構造からなるクロムマスクブランクスを用いてフォトマスクを形成した場合には、これらのクロム層の膜厚が100nm以上厚くなるとウェットエッチングの際に、パターニングした際の断面形状に裾引きが発生してくるという問題が生じることがわかった。
【0014】
なお、裾引きとは、遮光層の側面が傾斜して上側(表面側)よりも下側(ガラス基板側)が大きくなること、つまり、遮光層パターンの断面形状が、略台形となってしまうことを意味する。このように裾引きが発生すると、フォトマスク表面を目視した際に、酸化物である反射防止層が黒色で、その下側の遮光層が金属光沢を有するため、遮光パターンのエッジが光沢を有することになる。このため、目視により裾引き発生は認識でき、フォトマスクとしては、パターン寸法が正確でなく不良となっていることがわかるものである。
【0015】
これらのことから、本願発明者らは、遮光膜の抵抗値が低い範囲でありながら、裾引きの発生を防止可能とすることのできるフォトマスクを製造可能なマスクブランクスを以下のように実現した。
【0016】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に形成されたクロムを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に積層された中間層と、
前記中間層に積層された反射防止層と、
を有し、
前記反射防止層が、クロムを含有し前記遮光層に比べて酸素を多く含有し、
前記中間層が、クロムを含有し前記反射防止層および前記遮光層に比べて炭素を多く含有し、
前記中間層における炭素含有率が14.5atm%以上に設定され、
シート抵抗が10Ω/sqより小さく設定されることにより上記課題を解決した。
本発明において、前記中間層における炭素含有率が、前記遮光層の2倍以上に設定されることがより好ましい
発明のフォトマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクスから製造されたフォトマスクであって、
前記遮光層から透光領域を除去して形成された遮光パターンにおける前記透光領域との壁面が、前記ガラス基板表面と接する角度が80°以上とされる手段を採用することもできる。
本発明のマスクブランクスの製造方法において、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記中間層の成膜時において、前記反射防止層および前記遮光層の成膜時に比べて炭素含有ガスの分圧を高く設定することができる。


【0017】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に形成されたクロムを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に比べて酸素を多く含有する反射防止層と、
前記反射防止層および前記遮光層に比べて炭素を多く含有する中間層と、
を有し、
シート抵抗が10Ω/sqより小さく設定されることにより、表面側(上側)に反射防止層としてのクロム酸化膜、下層に遮光層としてのクロム膜を有する2層構造のフォトマスクと同等となる光学特性を有し、かつ、低い抵抗率を呈して静電破壊発生を低減することができるとともに、さらに、3層構造にして中間層にカーボン濃度や酸素濃度の高いクロム膜を用いることで、中間層におけるクロム膜のエッチングレートを透明基板側に位置するクロム膜のエッチングレートに比べて小さくすることが可能である。この結果、静電破壊の影響を低減できる低シート抵抗となるクロム膜厚が100nm以上の場合においても、裾引きの少ないフォトマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。この結果、フォトマスクマスクにおけるパターン線幅ばらつきを小さくすることも可能となる。
ここで、クロム膜厚とは、反射防止層となるクロム酸化膜を除いてシート抵抗に寄与する部分とされ、例えば、中間層と遮光層とを含むものを意味する。
【0018】
本発明において、前記中間層における炭素含有率が、前記遮光層の2倍以上に設定されることにより、中間層のクロム膜のエッチングレートをガラス基板側のクロム膜のエッチングレートに比べて小さくして、パターン形成時のエッチングにおいて、遮光層に比べて中間層におけるエッチング量を小さくし、遮光層に比べて上側(表面側・外側)に位置しているためエッチャントに曝される時間が長くなる中間層において、サイドエッチング量を減少して、遮光パターンにおけるエッチングで除去した領域との境界側面の傾斜を鉛直に近い状態に形成することが可能となる。
【0019】
また、本発明において、前記中間層における炭素含有率が14.5atm%以上に設定されることにより、中間層のクロム膜のエッチングレートをガラス基板側のクロム膜のエッチングレートに比べて小さくして、パターン形成時のエッチングにおいて、遮光層に比べて中間層におけるエッチング量を小さくし、遮光層に比べて上側(表面側・外側)に位置しているためエッチャントに曝される時間が長くなる中間層において、サイドエッチング量を所定の状態に制御して、遮光領域と透光領域との境界側面、つまり遮光パターンにおけるエッチングで除去した透光領域との境界側面の傾斜が鉛直に近い状態とし、裾引きのない状態に形成することが可能となる。
【0020】
本発明のフォトマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクスから製造されたフォトマスクであって、
前記遮光層から透光領域を除去して形成された遮光パターンにおける前記透光領域との壁面が、前記ガラス基板表面と接する角度が80°以上とされることにより、遮光パターンにおける線幅のばらつきを減少することが可能となる。
【0021】
本発明のマスクブランクスの製造方法において、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記中間層の成膜時において、前記反射防止層および前記遮光層の成膜時に比べて炭素含有ガスの分圧を高く設定することにより、中間層の炭素含有率を所定の状態とすることができ、これにより、中間層における炭素含有率を反射防止層および遮光層に比べて多くなるように設定して、中間層のクロム膜のエッチングレートをガラス基板側のクロム膜のエッチングレートに比べて小さくし、パターン形成時のエッチングにおいて、遮光層に比べて中間層におけるエッチング量を小さくし、遮光層に比べて上側(表面側・外側)に位置しているためエッチャントに曝される時間が長くなる中間層において、サイドエッチング量を減少して、遮光パターンにおけるエッチングで除去した領域との境界側面の傾斜を鉛直に近い状態に形成することが可能となる。
【0022】
本発明において、下側(透明基板側)のクロム層のエッチングレートを膜厚方向で変化するように制御すれば、遮光パターン断面形状での裾引き発生を抑制した良好な断面形状を得ることが可能となる。具体的には、クロムを含む中間層におけるカーボンや酸素あるいはカーボンと酸素の両方の濃度を膜厚方向で変化するように制御して、遮光層(クロム層)の上側(表面側)である中間層のカーボン濃度や酸素濃度を遮光層よりも大きくすることで、反射防止層側の中間層におけるエッチングレートを透明基板側の遮光層におけるエッチングレートよりも遅くすることが可能である。このように、クロム膜中のカーボン濃度や酸素濃度の制御により、裾引きの少ない断面形状を得ることが可能である。
【0023】
本発明において、中間層は、単層とされることができるが、多数積層された構成とすることも可能である。さらに、多数層とされた中間層において、炭素含有率がそれぞれ異なるようにすることができる。
【0024】
本発明は、FPD等の製造に用いられる大板用のマスクブランクスにおいて、バイナリマスクとしてクロムを含む層を遮光膜としたマスクに適用することができる。
本発明において、クロム層のカーボン濃度を制御する手法としては、クロム層を積層構造として、下側から上側に積層が進行するに連れて、層ごとに炭素濃度を変化させることができる。あるいは、成膜時の反応性ガスの流れを用いて、反応性ガスにおける炭素含有ガスの分圧を上昇させるように変化することで、炭素濃度(カーボン濃度)を制御することも可能である。
【0025】
さらに、本発明において、低反射率層、反射防止層、保護層などを有することもできる。また、これらの層の積層順は、適宜、設定することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、静電破壊の影響を低減でき、裾引きの少ないフォトマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係るフォトマスクスの第1実施形態を示す断面図である。
図3】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
図4】本発明に係るフォトマスクスの製造方法の第1実施形態におけるサイドエッチを説明するための断面図である。
図5】従来のフォトマスクの製造方法における裾引きを説明するための断面図である。
図6】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態におけるクロム膜厚とテーパ角との関係を示すグラフである。
図7】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態におけるシート抵抗とクロム層膜厚との関係を示すグラフである。
図8】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態におけるシート抵抗と静電破壊発生率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るマスクブランクスおよびフォトマスク、その製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図において、符号1Bは、マスクブランクスである。
【0029】
本実施形態に係るマスクブランクス1Bは、図1に示すように、ガラス基板(透明基板)2に積層された遮光層3Bと、遮光層3Bに積層された中間層4Bと、中間層4Bに積層された反射防止層5Bと、を有する。
【0030】
透明基板2としては、透明性および光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板2の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板等)に応じて適宜選定される。本実施形態では、一辺100mm程度から、一辺2000mm以上の矩形基板に適用可能であり、さらに、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0031】
また、透明基板Sの表面を研磨することで、透明基板2のフラットネスを低減するようにしてもよい。透明基板2のフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0032】
遮光層3Bは、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)およびN(窒素)を含むものとされる。さらに、遮光層2Bが厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、遮光層2Bとして、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
遮光層3Bは、後述するように、所定の光学特性および抵抗率が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。
【0033】
中間層4Bは、遮光層3Bと同様に、Cr(クロム)を含有するものであり、さらに、C(炭素)を含むものとされる。中間層4Bにおいては、後述するように、遮光層3Bおよび反射防止層4Bよりも高い炭素含有率(炭素濃度)となるように設定されている。具体的には、炭素含有率(炭素濃度)が14.5atm%以上とされてよく、遮光層3Bおよび反射防止層5Bにおける炭素含有率(炭素濃度)の2倍以上とされることができる。
【0034】
反射防止層5Bは、遮光層3Bと同様に、O(酸素)を含有するクロム酸化膜とされるが、さらに、N(窒素)を含有することができる。反射防止層5Bの膜厚は、露光工程においてマスクとして用いられる際の露光波長、および、露光波長に規定される必要な光学特性、反射率、等により設定される。例えば、厚み25nm程度として設定されることができる。同時に、その反射率を設定するために、酸素含有率も所定範囲とされることが必要である。具体的には、酸素含有率が30atm%程度、あるいはそれ以上の酸素含有率となるように設定される。
【0035】
本実施形態のマスクブランクス1Bは、例えばFPD用ガラス基板に対するパターニング用マスクを製造する際に適用することができる。
また、本実施形態のマスクブランクス1Bは、遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bとを合わせた膜厚が100nm以上、好ましくは、150nm以上、さらに好ましくは200nm以上とされる。
また、本実施形態のマスクブランクス1Bは、遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bとを合わせたシート抵抗が10Ω/sqとなるように設定されている。このシート抵抗は、遮光層3Bと中間層4Bとの膜厚によって設定される。
【0036】
本実施形態におけるマスクブランク1Bの製造方法は、ガラス基板(透明基板)2に遮光層3Bと中間層4Bとを成膜した後に、反射防止層5Bを成膜するものとされる。さらに、マスクブランク製造方法は、遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bと以外に、保護層、低反射層、反射防止層、エッチングストッパー層、等を積層する場合には、これらの積層工程を有することができる。
【0037】
以下、本実施形態におけるマスクブランクの製造方法について、図面に基づいて説明する。
図2は、本実施形態におけるマスクブランクの製造装置を示す模式図である。
【0038】
本実施形態におけるマスクブランク1Bは、図2に示す製造装置により製造される。
【0039】
図2に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置とされ、ロード室S11、アンロード室S16と、ロード室S11に密閉手段S17を介して接続されるとともに、アンロード室S11に密閉手段S18を介して接続された成膜室(真空処理室)S12とを有するものとされる。
【0040】
ロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板1を成膜室S12へと搬送する搬送手段S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S11fが設けられるとともに、アンロード室S16には、成膜室S12から成膜の完了したガラス基板1を外部へと搬送する搬送手段S16aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S16fが設けられる。
【0041】
成膜室S12には、基板保持手段S12aと、3つの成膜処理に対応した手段として3段の成膜手段S13,S14,S15が設けられている。
【0042】
基板保持手段S12aは、搬送手段S11aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS12bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード・アンロード室S11からの搬入およびロード・アンロード室S11へ搬出可能とされている。
【0043】
成膜室S12のロード室S11側位置には、3段の成膜手段S13,S14,S15のうち1段目の成膜材料を供給する成膜手段S13として、ターゲットS13bを有するカソード電極(バッキングプレート)S13cと、バッキングプレートS13cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S13dと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近に重点的にガスを導入するガス導入手段S13eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S13fと、が設けられている。
【0044】
また、成膜室S12のロード室S11とアンロード室S16との中間位置には、3段の成膜手段13,S14,S15のうち2段目の成膜材料を供給する成膜手段1S4として、ターゲットS14bを有するカソード電極(バッキングプレート)S14cと、バッキングプレートS14cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S14dと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近に重点的にガスを導入するガス導入手段S14eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S14fと、が設けられている。
【0045】
さらに、成膜室S12のアンロード室S16側位置には、3段の成膜手段S13,S14,S15のうち3段目の成膜材料を供給する成膜手段S15として、ターゲットS15bを有するカソード電極(バッキングプレート)S15cと、バッキングプレートS15cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S15dと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S15c付近に重点的にガスを導入するガス導入手段S15eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S15c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S15fと、が設けられている。
【0046】
成膜室S12には、カソード電極(バッキングプレート)S13c,S14,S15cの付近において、ガス導入手段S13e,S14e,S15eから供給されたガスが、隣接する成膜手段S13,S14,S15に混入しないように、ガス流れを抑制するガス防壁S12gが設けられる。これらガス防壁S12gは、基板保持手段S12aがそれぞれ隣接する成膜手段S13,S14,S15間を移動可能なようにされている。
【0047】
成膜室S12において、それぞれの3段の成膜手段S13,S14,S15は、ガラス基板1に順に成膜するために必要な組成・条件を有するものとされる。
本実施形態において、成膜手段S13は遮光層3Bの成膜に対応しており、成膜手段S14は中間層4Bの成膜に対応しており、成膜手段S15は反射防止層5Bの成膜に対応している。
【0048】
具体的には、成膜手段S13においては、ターゲットS13bが、ガラス基板1に遮光層3Bを成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
同時に、成膜手段S13においては、ガス導入手段S13eから供給されるガスとして、遮光層3Bの成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定され、また、成膜条件にあわせて高真空排気手段S13fからの排気がおこなわれる。
また、成膜手段S13においては、電源S13dからバッキングプレートS13cに印加されるスパッタ電圧が、遮光層3Bの成膜に対応して設定される。
【0049】
また、成膜手段S14においては、ターゲットS14bが、遮光層3B上に中間層4Bを成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
同時に、成膜手段S14においては、ガス導入手段S14eから供給されるガスとして、中間層4Bの成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として設定され、また、成膜条件にあわせて高真空排気手段S14fからの排気がおこなわれる。
また、成膜手段S14においては、電源S14dからバッキングプレートS14cに印加されるスパッタ電圧が、中間層4Bの成膜に対応して設定される。
【0050】
また、成膜手段S15においては、ターゲットS15bが、中間層4B上に反射防止層5Bを成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
同時に、成膜手段S15においては、ガス導入手段S15eから供給されるガスとして、反射防止層5Bの成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として設定され、また、成膜条件にあわせて高真空排気手段S15fからの排気がおこなわれる。
また、成膜手段S15においては、電源S15dからバッキングプレートS15cに印加されるスパッタ電圧が、反射防止層5Bの成膜に対応して設定される。
【0051】
図4に示す製造装置S10においては、ロード室S11から搬送手段S11aによって搬入したガラス基板1に対して、成膜室(真空処理室)S12において搬送手段S12aによって搬送しながら3段のスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S16から成膜の終了したガラス基板1を搬送手段S16aによって外部に搬出する。
【0052】
成膜工程においては、成膜手段S13において、ガス導入手段S13eから成膜室S12のバッキングプレートS13c付近にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S13cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS13b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S12内のバッキングプレートS13c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S13cのターゲットS13bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板1に付着することにより、ガラス基板1の表面に所定の組成で遮光層3Bが形成される。
【0053】
同様に、成膜手段S14において、ガス導入手段S14eから成膜室S12のバッキングプレートS14c付近にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S14cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS14b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S12内のバッキングプレートS14c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S14cのターゲットS14bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板1に付着することにより、ガラス基板1の表面に所定の組成で中間層4Bが形成される。
【0054】
同様に、成膜手段S15において、ガス導入手段S15eから成膜室S12のバッキングプレートS15c付近にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S15cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS15b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S12内のバッキングプレートS15c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S15cのターゲットS15bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板1に付着することにより、ガラス基板1の表面に所定の組成で反射防止層5Bが形成される。
【0055】
この際、遮光層3B、中間層4B、反射防止層5Bの成膜で、各ガス導入手段S13e,14e,15eから異なる量の炭素含有ガス、窒素ガス、酸素含有ガスを供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0056】
ここで、炭素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、CH4(メタン)、C(エタン)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。酸素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、O(酸素)、NO(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)等を挙げることができる。
なお、遮光層3B、中間層4B、反射防止層5Bの成膜で、必要であればターゲットS13b,S14b,S15bを交換することもできる。
【0057】
さらに、これら遮光層3B、中間層4B、反射防止層5Bの成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランク1Bとする。
【0058】
本実施形態の静電防止バイナリクロムマスク用のマスクブランク1Bにおいては、遮光層3Bと反射防止層5Bとの炭素濃度に比べて、中間層4Bにおける炭素濃度が高くなるように設定される。具体的には、遮光層3Bと反射防止層5Bとの炭素濃度に比べて、中間層4Bにおける炭素濃度が二倍程度高くなる、または、それ以上高くなるように設定されている。
【0059】
つまり、遮光層3Bと反射防止層5Bとの成膜時においてガス導入手段S13e,S15eから供給される炭素含有ガスの分圧に比べて、中間層4Bの成膜時においてガス導入手段S14eから供給されける炭素含有ガスの分圧を高くすることで、上記の組成比を実現する。
あるいは、遮光層3Bと反射防止層5Bとの成膜時においてガス導入手段S13e,S15eから供給される炭素含有ガスのガス流量に比べて、中間層4Bの成膜時においてガス導入手段S14eから供給されける炭素含有ガスのガス流量を高くすることで、上記の組成比を実現することもできる。
【0060】
これにより、中間層4Bは、後工程となるウェットエッチング時に、小さいサイドエッチレートを有するように成膜される。
【0061】
さらに、窒素、酸素、などの膜内組成比に対応して、それぞれのガス分圧を設定して、所定の膜を成膜することになる。
【0062】
図3は、本実施形態におけるフォトマスクを示す断面図である。
本実施形態におけるフォトマスク1は、図3に示すように、マスクブランク1Bの遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bとにパターンを形成したものとされる。
【0063】
以下、本実施形態のマスクブランク1Bからフォトマスク(バイナリマスク)1を製造する製造方法について説明する。
【0064】
マスクブランクス1Bの最外面上にフォトレジスト層を形成する。フォトレジスト層は、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。フォトレジスト層としては、液状レジストが用いられる。
【0065】
続いて、フォトレジスト層を露光及び現像することで、反射防止層5Bよりも外側にレジストパターンが形成される。レジストパターンは、遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bとのエッチングマスクとして機能し、遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bとのエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、透光領域2Aにおいては、形成する遮光パターンの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0066】
次いで、このレジストパターン越しにエッチング液を用いて遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bとをウェットエッチングして遮光パターン3,4,5を形成する。エッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0067】
ここで、遮光層3Bと中間層4Bと反射防止層5Bとにおけるエッチングについて考察する。
図4は、本実施形態におけるエッチング状態を説明するための断面図であり、図5は、エッチング状態を説明するための断面図である。
【0068】
本実施形態では、エッチングする対象となるクロム膜の厚さとして100nmを越える200nm程度のものを想定している想定している。これは、静電破壊発生防止のために要請される低シート抵抗値を得るためである。
【0069】
ここで、まず、中間層4Bがなく、反射防止層5Bと遮光層3Bとの二層構造の場合において、パターン開口として必要な寸法としてガラス基板1の露出する領域を確保した状態を考える。
【0070】
この場合、遮光層3Bにおける膜厚方向のエッチングレートは一定であるため、遮光層3Bにおける膜厚方向のエッチングが進むに連れて、対応する横方向のサイドエッチングが規定量以上に進行してしまうことになる。このため、パターン開口として必要な寸法としてガラス基板1の露出する透光領域2Aを確保した場合、膜厚方向外側(上側)における横方向のサイドエッチング量が、膜厚方向内側(下側)における横方向のサイドエッチング量よりもおおきくなる。
【0071】
その結果、図5に示すように、遮光パターン3,4,5の透光領域2A側の側面がガラス基板1側から外側(上側)に向けて後退するように傾斜する。この裾引き状態では、遮光パターン3,4,5とガラス基板2表面との為す角(テーパ角)θは鋭くなり、たとえば、40°程度になることもある。
【0072】
これに対して、本実施形態のように、中間層4Bのエッチングレートが遮光層3Bのエッチングレートに比べて小さくなるように設定されていることで、遮光層3Bにおける膜厚方向のエッチングが進んだ場合でも、対応する横方向のサイドエッチングが中間層4Bにおいては規定量以上に進行しないことになる。
【0073】
これにより、図4に示すように、遮光パターン3,4,5の透光領域2A側の側面がガラス基板1側から外側(上側)に向けてそれほど後退せず、ほぼ鉛直に形成される。この状態では、遮光パターン3,4,5とガラス基板2表面との為す角θは大きくなる。ここで、たとえば、遮光パターン3,4,5とガラス基板2表面との為す角θが80°程度より鉛直に近い状態とすることが好ましい。
【0074】
なお、中間層3Bに近い部分の遮光層2Bにおいては、組成中の炭素濃度は低いままなので、この部分における横方向のエッチングレートは、ガラス基板1側の遮光層2Bとかわらない。しかし、接している中間層3B組成中の炭素濃度が高く、横方向のエッチングレートが低いためにエッチングされず、このため、中間層3Bに接する部分の遮光層2Bも、サイドエッチング量が小さくなる。これにより、図4に示すように、遮光パターン3,4,5とガラス基板2表面との為す角θを80°程度より鉛直に近い状態とすることができる。
【0075】
本実施形態においては、ガラス基板1側となるクロム層のエッチングレートを遮光層3Bと中間層4Bとして膜厚方向で変化するように制御した。これにより、遮光パターン3,4,5の断面形状における裾引き発生を抑制して、良好な断面形状を得ることが可能となる。
【0076】
具体的には、遮光層3Bと中間層4Bとして、クロム層に含まれるカーボンや酸素あるいはカーボンと酸素の両方の濃度を膜厚方向で制御して、上層側クロム層である中間層4Bのカーボン濃度や酸素濃度を、下層側クロム層である遮光層3Bよりも大きくすることで、上層側クロム層である中間層4Bのエッチングレートが下層側クロム層である遮光層3Bのエッチングレートよりも遅くなるように制御することが可能である。
このようにクロム膜中のカーボン濃度や酸素濃度の制御により、裾引きの少ない断面形状を得ることができる。
【0077】
これにより、本実施形態においては、静電破壊の影響を低減可能な低シート抵抗となるクロム膜厚が100nm以上より好ましくは200nm以上の場合においても、裾引き発生を防止可能なマスクブランクス1Bを形成することが可能となる。この結果、フォトマスク1におけるパターン線幅ばらつきを小さくすることが可能となる。
【0078】
本実施形態においては、クロム膜である遮光層3Bに対して、中間層4Bを単層として例示したが、この構成に限定されるものではなく、静電破壊低減と、裾引き発生を防止とを同時に可能な構成であれば、複数積層された中間層とすることもできる。
【0079】
本実施形態においては、成膜室S12に3段の成膜手段S13,S14,S15を有する構成で、順にガラス基板2に成膜をおこなったが、これより少ない段数の成膜手段とすることもでき、この場合、いずれかの成膜手段にガラス基板1が戻って、異なる成膜条件により、該当の膜を成膜することができる。
【実施例
【0080】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0081】
<組成測定>
まず、本発明におけるマスクブランクスにおける反射防止層,中間層,遮光層のそれぞれの層に対して、オージェ電子分光法を用いてCr(クロム),N(窒素),C(炭素),O(酸素)の組成分析を行った結果を表1に示す。なお、この表1において、A層は反射防止層を示し,B層は中間層を示し,C層は遮光層を示している。
【0082】
【表1】
【0083】
同様に、中間層のないマスクブランクスにおける反射防止層,遮光層のそれぞれの層に対して、オージェ電子分光法を用いて組成分析を行った結果を表2に示す。この表2において、A層は反射防止層を示し,B層は遮光層を示している。
【0084】
【表2】
【0085】
これらの結果から、表1に示す3層構造においては、B層(中間層)におけるカーボン濃度がC層(遮光層)およびA層(反射防止層)と比較して2倍程度までに高くなっていることがわかる。
【0086】
<裾引き確認>
次に、本発明における反射防止層,中間層,遮光層の形成された3層構造のマスクブランクスに対して、パターン形成をおこない、そのパターンにおける裾引きの発生を確認した。
その結果を図4に示す。なお、図は、断面を撮影したSEM画像を明確化するために輪郭線のみを強調したものである。
【0087】
なお、各層の膜厚は以下の通りである。
クロム層(中間層,遮光層);膜厚200nm
A層(反射防止層);25nm
B層(中間層);150nm
C層(遮光層);50nm
とされる。
【0088】
ここでクロム層とは高抵抗の反射防止層であるA層を除いた、低抵抗のクロム層を示しており、2層構造の場合にはB層の膜厚、3層構造の場合にはB層とC層を足し合わせた膜厚を示している。
【0089】
同様に、中間層のない2層構造のマスクブランクスに対して、パターン形成をおこない、そのパターンにおける裾引きの発生を確認した。
その結果を図5に示す。
【0090】
なお、各層の膜厚は以下の通りである。
クロム層(遮光層);膜厚200nm
A層(反射防止層);25nm
B層(遮光層);200nm
とされる。
【0091】
さらに、クロム層の膜厚を変化させてこれらのテーパ角θを測定した。
その結果を図6に示す。
【0092】
これらの結果から、3層構造とすることによって、2層構造と比較してマスクのテーパ角θを大きくすることが可能であることがわかる。クロム層の膜厚が200nmの場合においては、2層構造ではテーパ角θが45°であるのに対して3層構造にすることで、テーパ角θが80°にまで大きくすることが可能である。
【0093】
なお、クロム層の膜厚150nmの場合には、3層構造の各層の膜厚はA層25nm、B層100nm、C層50nmとすることができ、2層構造ではA層25nm、B層150nmとすることができる。
【0094】
<シート抵抗測定>
次に、本発明における反射防止層,中間層,遮光層の形成された3層構造のマスクブランクスに対して、シート抵抗を測定して、クロム層膜厚との関係を確認した。
【0095】
同様に、中間層のない2層構造のマスクブランクスに対して、シート抵抗を測定して、クロム層膜厚との関係を確認した。
これらの結果を図7に示す。
【0096】
これらの結果から、3層構造においては、中間層にカーボン濃度や酸素濃度の高いクロム膜を用いるので、同じクロム層の膜厚の2層構造のマスクと比較してシート抵抗は増加するが、クロム層の膜厚が150nmの場合も200nmの場合にもシート抵抗は10Ω/sq以下であることがわかる。
【0097】
<静電破壊確認>
次に、本発明における反射防止層,中間層,遮光層の形成された3層構造のマスクブランクスに対して、測定したシート抵抗に対する、静電破壊発生との関係を確認した。
ここで、静電破壊の発生率は、ガラス基板上に形成したマスクを帯電させて、マスクパターンが静電破壊により破壊された割合を、顕微鏡下における目視で確認し、その評価をおこなっている。
【0098】
同様に、中間層のない2層構造のマスクブランクスに対して、測定したシート抵抗に対する、静電破壊発生との関係を確認した。
これらの結果を図8に示す。
【0099】
これらの結果から、3層構造においてもシート抵抗を10Ω/sq以下にすることで静電破壊の発生率を抑制することができることがわかる。
結果として、B層のカーボン濃度の高い3層構造でシート抵抗が10 Ω/sq以下のマスクブランクスを用いることで、静電破壊に耐性のある帯電防止効果があり、マスク断面形状においても裾引きが少なく、かつ、線幅ばらつきの少ないマスクを形成することが可能になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の活用例として、静電破壊を抑制可能なマスクおよびマスクブランクスを挙げることができる。
【符号の説明】
【0101】
1…フォトマスク
1B…マスクブランクス
2…ガラス基板(透明基板)
2A…透光領域
3,4,5…遮光パターン
3B…遮光層
4B…中間層
5B…反射防止層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8