(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】触媒担持用ハニカム構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20220425BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20220425BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220425BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
B01J35/04 301Z
B01J32/00 ZAB
B01J35/04 301E
B01J37/02 301E
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2018070001
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 友行
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-156352(JP,A)
【文献】特開2014-124574(JP,A)
【文献】特開昭61-185338(JP,A)
【文献】特開昭61-197043(JP,A)
【文献】特表2007-522919(JP,A)
【文献】特開2004-000907(JP,A)
【文献】特開2004-169586(JP,A)
【文献】特開2008-018370(JP,A)
【文献】特開昭60-225652(JP,A)
【文献】特開2008-207082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73 - 53/96
F01N 3/10 - 3/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体であって、当該隔壁は初期吸水速度の高い第一部位、及び第一部位よりも初期吸水速度が低い第二部位を有し、第一部位の初期吸水速度に対して第二部位の初期吸水速度
の低下率が15%以上
90%以下である触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項2】
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に垂直な方向に初期吸水速度の分布を示し、外周側に位置する第一部位と、第一部位よりも中心軸側に位置する第二部位とを有する請求項1に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項3】
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に垂直な方向に初期吸水速度の分布を示し、外周側に位置する第二部位と、第二部位よりも中心軸側に位置する第一部位とを有する請求項1に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項4】
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に平行な方向に初期吸水速度の分布を示し、流体の入口側に位置する第二部位と、第二部位よりも流体の出口側に位置する第一部位とを有する請求項1~3の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項5】
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に平行な方向に初期吸水速度の分布を示し、流体の入口側に位置する第一部位と、第一部位よりも流体の出口側に位置する第二部位とを有する請求項1~3の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項6】
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に平行な方向に初期吸水速度の分布を示し、流体の入口側に位置する第二部位と、流体の出口側に位置する別の第二部位と、前記二つの第二部位の間に位置する第一部位とを有する請求項1~3の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項7】
第一部位の初期吸水速度に対して第二部位の初期吸水速度が30%以上低い請求項1~6の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項8】
600℃以下で加熱処理することによって、第一部位と第二部位の初期吸水速度の差が減少する請求項1~7の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項9】
前記隔壁がセラミックスを基材とする請求項1~8の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項10】
前記複数のセルは、第一の底面が開口して第二の底面が目封止されている複数の第一セルと、第一の底面が目封止されて第二の底面が開口する複数の第二セルを含み、第
一セル及び第
二セルは前記隔壁を介して交互に隣接配置されている請求項1~9の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項11】
第二部位には疎水性物質が付着している請求項1~10の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項12】
疎水性物質として疎水性有機ケイ素化合物及び疎水性有機化合物よりなる群から選択される一種又は二種以上が含まれる請求項11に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項13】
第二部位に付着している疎水性物質の少なくとも一部は600℃以下で気化する請求項11又は12に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
【請求項14】
流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体の当該隔壁の一部を、疎水性物質に接触させることを含む請求項1~13の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の製造方法。
【請求項15】
流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体の当該隔壁の一部を、疎水性物質を含有する流体に接触させることを含む請求項14に記載の触媒担持用ハニカム構造体の製造方法。
【請求項16】
流体が煙状である請求項15に記載の触媒担持用ハニカム構造体の製造方法。
【請求項17】
請求項1~13の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも一部を触媒組成物スラリーに接触させることを含む触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
【請求項18】
請求項1~13の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも第一部位及び第二部位を触媒組成物スラリーに接触させることを含む触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
【請求項19】
請求項11~13の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも第一部位及び第二部位を第一の触媒組成物スラリーに接触させる工程1と、
工程1の後、触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の第二部位に付着している疎水性物質の少なくとも一部を除去する工程2と、
工程2の後、触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の第一部位及び第二部位を第二の触媒組成物スラリーに接触させる工程3と、
を実施することを含む触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
【請求項20】
工程2は、第一の触媒組成物スラリーに含まれる触媒成分を隔壁に焼き付けるための加熱処理と合わせて行われる請求項19に記載の触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒担持用ハニカム構造体に関する。また、本発明は触媒担持用ハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンに代表される内燃機関から排出される排ガスには、煤、窒素酸化物(NOx)、可溶性有機成分(SOF)、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)等の汚染物質が含まれている。このため、従来、内燃機関の排ガス系統には、汚染物質に応じて適切な触媒(酸化触媒、還元触媒、三元触媒等)を担持した柱状のハニカム構造体が多用されてきた。
【0003】
従来、厳しさを増す排ガス規制に対応すべく、排ガス系統内に複数個の触媒担持ハニカム構造体を設置するケースが一般的となっていた。しかしながら、排ガス系統に対する省スペース化の要請もあり、一つのハニカム構造体の中で複数種類の触媒を部位によって塗り分けるゾーンコートと呼ばれる技術が着目されている。
【0004】
特開2004-169586号公報(特許文献1)においては、ハニカム構造体の外周部をマスキングすることによって、ハニカム構造体の中心部における触媒コーティング量を多くし、外周部における触媒コーティング量を少なくする技術が開示されている。
【0005】
特表2005-530614号公報(特許文献2)においては、ハニカム構造体の一方の底面側と他方の底面側とで異なる触媒成分を含有するウォッシュコートスラリー中に浸漬することによりゾーンコートする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-169586号公報
【文献】特表2005-530614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来は、触媒組成物スラリーに接触させるハニカム構造体の部位をマスキング等で区分することによってゾーンコートがなされていたものの、ハニカム構造体自体には触媒組成物スラリーを塗り分けるための工夫は施されていなかった。このため、ハニカム構造体自体に触媒の塗り分けを容易にする工夫がなされていることは、ゾーンコートの作業効率を高める上で望ましい場合もあると考えられる。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は一実施形態において、ゾーンコートの容易化に資する触媒担持用ハニカム構造体を提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのような触媒担持用ハニカム構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、触媒担持用ハニカム構造体を部分的に疎水化すると、疎水化された部分には触媒が付着しにくいことを見出した。本発明は上記知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0010】
[1]
流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体であって、当該隔壁は初期吸水速度の高い第一部位、及び第一部位よりも初期吸水速度が低い第二部位を有し、第一部位の初期吸水速度に対して第二部位の初期吸水速度が15%以上低い触媒担持用ハニカム構造体。
[2]
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に垂直な方向に初期吸水速度の分布を示し、外周側に位置する第一部位と、第一部位よりも中心軸側に位置する第二部位とを有する[1]に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[3]
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に垂直な方向に初期吸水速度の分布を示し、外周側に位置する第二部位と、第二部位よりも中心軸側に位置する第一部位とを有する[1]に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[4]
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に平行な方向に初期吸水速度の分布を示し、流体の入口側に位置する第二部位と、第二部位よりも流体の出口側に位置する第一部位とを有する[1]~[3]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[5]
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に平行な方向に初期吸水速度の分布を示し、流体の入口側に位置する第一部位と、第一部位よりも流体の出口側に位置する第二部位とを有する[1]~[3]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[6]
前記隔壁は、前記ハニカム構造体のセルの延びる方向に平行な方向に初期吸水速度の分布を示し、流体の入口側に位置する第二部位と、流体の出口側に位置する別の第二部位と、前記二つの第二部位の間に位置する第一部位とを有する[1]~[3]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[7]
第一部位の初期吸水速度に対して第二部位の初期吸水速度が30%以上低い[1]~[6]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[8]
600℃以下で加熱処理することによって、第一部位と第二部位の初期吸水速度の差が減少する[1]~[7]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[9]
前記隔壁がセラミックスを基材とする[1]~[8]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[10]
前記複数のセルは、第一の底面が開口して第二の底面が目封止されている複数の第一セルと、第一の底面が目封止されて第二の底面が開口する複数の第二セルを含み、第一のセル及び第二のセルは前記隔壁を介して交互に隣接配置されている[1]~[9]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[11]
第二部位には疎水性物質が付着している[1]~[10]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[12]
疎水性物質として疎水性有機ケイ素化合物及び疎水性有機化合物よりなる群から選択される一種又は二種以上が含まれる[11]に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[13]
第二部位に付着している疎水性物質の少なくとも一部は600℃以下で気化する[11]又は[12]に記載の触媒担持用ハニカム構造体。
[14]
流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体の当該隔壁の一部を、疎水性物質に接触させることを含む[1]~[13]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の製造方法。
[15]
流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体の当該隔壁の一部を、疎水性物質を含有する流体に接触させることを含む[14]に記載の触媒担持用ハニカム構造体の製造方法。
[16]
流体が煙状である[15]に記載の触媒担持用ハニカム構造体の製造方法。
[17]
[1]~[13]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも一部を触媒組成物スラリーに接触させることを含む触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
[18]
[1]~[13]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも第一部位及び第二部位を触媒組成物スラリーに接触させることを含む触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
[19]
[11]~[13]の何れか一項に記載の触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも第一部位及び第二部位を第一の触媒組成物スラリーに接触させる工程1と、
工程1の後、触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の第二部位に付着している疎水性物質の少なくとも一部を除去する工程2と、
工程2の後、触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の第一部位及び第二部位を第二の触媒組成物スラリーに接触させる工程3と、
を実施することを含む触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
[20]
工程2は、第一の触媒組成物スラリーに含まれる触媒成分を隔壁に焼き付けるための加熱処理と合わせて行われる[19]に記載の触媒担持ハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係る触媒担持用ハニカム構造体によれば、ゾーンコートを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の触媒担持用ハニカム構造体の一実施形態に係る模式的な斜視図である。
【
図2】本発明の触媒担持用ハニカム構造体の別の一実施形態に係る模式的な斜視図である。
【
図3】
図2に係る触媒担持用ハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に平行な断面の模式図である。
【
図4】初期吸水速度の測定方法を説明するための模式図である。
【
図5】隔壁がハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に垂直な方向に初期吸水速度の分布を示す場合の概念的な断面図である。
【
図6】隔壁がハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に平行な方向に初期吸水速度の分布を示す場合の概念的な断面図である。
【
図7】初期吸水速度の異なる複数のハニカム構造体の外周側壁同士を接合材によって接合することによって作製したハニカム接合体の概念的な断面図である。
【
図8】実施例1-1と比較例1について、入口側と出口側における初期吸水速度の変化を示すグラフである。
【
図9】実施例1-1と比較例1について、入口側と出口側における触媒担持量の変化を示すグラフである。
【
図10】実施例1-1~実施例1-
3、及び比較例2の結果による初期吸水速度の低下率と触媒担持量の低下率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
(1.触媒担持用ハニカム構造体)
(1-1 全体構造)
図1には、本発明の触媒担持用ハニカム構造体の一実施形態に係る模式的な斜視図が示されている。
図2には、本発明の触媒担持用ハニカム構造体の別の一実施形態に係る模式的な斜視図が示されている。
図3には、
図2に係る触媒担持用ハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に平行な断面の模式図が示されている。
【0015】
図1の実施形態に係る触媒担持用ハニカム構造体100は、外周側壁102と、外周側壁102の内側に配設され、流体の入口を有する第一の底面104から流体の出口を有する第二の底面106まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁112を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体である。本実施形態に係る触媒担持用ハニカム構造体100は、各セルの両端が第一の底面104及び第二の底面106に対して開口したフロースルー型であり、セルの入口から流入した流体はそのまま当該セルの出口から流出することができる。フロースルー型のハニカム構造体には、限定的ではないが、酸化触媒、還元触媒、三元触媒を担持する用途に広く用いられている。
【0016】
図2及び
図3の実施形態に係る触媒担持用ハニカム構造体200は、
図1の実施形態に係る触媒担体用ハニカム構造体と同様に、流体の入口を有する第一の底面104から流体の出口を有する第二の底面106まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁112を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体である。但し、本実施形態に係る触媒担持用ハニカム構造体100は、一端が開口しており他端が目封止されたセルを市松模様状に交互に配置したウォールフロー型である点で、
図1の実施形態とは異なる。ウォールフロー型のハニカム構造体は、排気ガス中の煤及びSOF等の固形成分(PM)を捕集することができるため、Diesel Particulate Filter(DPF)及びGasoline Particulate Filter(GPF)として好適に用いられており、SCR触媒、酸化触媒又は三元触媒を担持することが多い。
【0017】
具体的には、
図2及び
図3の実施形態に係る触媒担持用ハニカム構造体200は、外周側壁102と、外周側壁102の内側に配設され、第一の底面104から第二の底面106まで延び、第一の底面104が開口して第二の底面106が目封止された複数の第1セル108と、外周側壁102の内側に配設され、第一の底面104から第二の底面106まで延び、第一の底面104が目封止されて第二の底面106が開口する複数の第2セル110とを備える。また、この触媒担持用ハニカム構造体200においては、第1セル108及び第2セル110を区画形成する多孔質の隔壁112を備えており、第1セル108及び第2セル110が隔壁112を挟んで交互に隣接配置されている。
【0018】
触媒担持用ハニカム構造体200の上流側の第一の底面104に粒子状物質を含むガスが供給されると、ガスは第1セル108に導入されて第1セル108内を下流に向かって進む。第1セル108は下流側の第二の底面106が目封止されているため、ガスは第1セル108と第2セル110を区画する多孔質の隔壁112を透過して第2セル110に流入する。粒子状物質は隔壁112を通過できないため、第1セル108内に捕集され、堆積する。粒子状物質が除去された後、第2セル110に流入した清浄なガスは第2セル110内を下流に向かって進み、下流側の第二の底面106から流出する。
【0019】
触媒担持用ハニカム構造体の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。
【0020】
触媒担持用ハニカム構造体の大きさは特に制限はない。しかしながら、大きい方が触媒担持量を大きくできる一方で、大きすぎると耐熱衝撃性が低下するため、底面の面積が5000~200000mm2であることが好ましく、6500~125000mm2であることがより好ましく、8000~75000mm2であることが更により好ましい。
【0021】
(1-2 隔壁)
隔壁112はセラミックスで構成することができる。隔壁に好適なセラミックスの材質に特に制限はないが、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、珪素-炭化珪素複合材、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア、アルミナ、シリカ-アルミナ等のセラミックが挙げられる。
【0022】
隔壁112は多孔質とすることができる。この場合、隔壁の気孔率は、昇温性を高めるという観点及びフィルタ構造の場合に圧力損失を低く抑えるという観点から、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、22%以上であることが更により好ましい。また、隔壁の気孔率は、ハニカム構造体の強度を確保するという観点から、75%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、68%以下であることが更により好ましい。気孔率は、水銀ポロシメータを用いて、JIS R1655:2003に準拠して水銀圧入法によって測定される。
【0023】
隔壁112が多孔質の場合、その平均細孔径は、触媒との密着性を高めるという観点から1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることが更により好ましい。また、隔壁の平均細孔径は、強度を確保すると共にフィルタ構造の場合に捕集効率を高めるという観点から、40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更により好ましい。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0024】
隔壁112の厚みは特に制限はない。しかしながら、ハニカム構造体の強度を高めるという観点から0.05mm以上であることが好ましく、0.12mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることが更により好ましい。また、隔壁の厚みは圧力損失を抑制するという観点から0.5mm以下であることが好ましく、0.45mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることが更により好ましい。
【0025】
後工程にて触媒のゾーンコートが容易となるように、隔壁112は初期吸水速度の高い第一部位、及び第一部位よりも初期吸水速度が低い第二部位を有することが望ましい。初期吸水速度の差が大きい方が付着する触媒量の差を大きくでき、効果的なゾーンコートが可能になる。このことから、第一部位の初期吸水速度に対して第二部位の初期吸水速度が15%以上低いことが好ましく、20%以上低いことがより好ましく、30%以上低いことが更により好ましい。第一部位の初期吸水速度に対する第二部位の初期吸水速度の低下率に上限は特にないが、製造コストの観点から、90%以下であるのが一般的であり、80%以下であるのが典型的である。
【0026】
初期吸水速度の測定手順について
図4を用いて説明する。測定対象となる触媒担持用ハニカム構造体から、ハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に50mmの寸法を有する、10mm×10mm×50mmの大きさの直方体状の試験片401を採取する。次いで、試験片を
図4に示すように50mmの長さ方向が鉛直方向となるように、吊り下げ式の重量計402で吊し、下端が水403に接触するまで10mm/minの速度で降下させる。このとき、下端が水に接触してから0.5秒の間の試験片の増加重量(=吸水重量)を求め、当該試験片の初期吸水速度[g/秒]とする。
【0027】
第一部位と第二部位の配置は特に制限はなく、所望される触媒の塗り分けパターンに応じて適宜設定すればよい。以下に、第一部位と第二部位の配置方法を
図5~
図7に例示する。なお、図示の実施形態においては、第一部位と第二部位は境界が明確に示されているが、第一部位と第二部位の境界には、初期吸水速度が第一部位から第二部位へ向かって低下する遷移領域があってもよい。また、遷移領域以外に、第一部位及び第二部位の何れとも異なる初期吸水速度をもつ別の隔壁領域があってもよい。
【0028】
図5には、隔壁がハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に垂直な方向に初期吸水速度の分布を示す場合に、ハニカム構造体を中心軸に垂直な方向から見たときの概念的な断面図(上側)、及びハニカム構造体を中心軸の方向から見たときの概念的な断面図(下側)が示されている。
図5(a)の実施形態において、隔壁は、外周側に位置する第一部位501と、第一部位501よりも中心軸O側に位置する第二部位502とを有する。
図5(b)の実施形態において、隔壁は、外周側に位置する第二部位502と、第二部位502よりも中心軸O側に位置する第一部位501とを有する。
【0029】
図6には、隔壁がハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に平行な方向に初期吸水速度の分布を示す場合に、ハニカム構造体を中心軸に垂直な方向から見たときの概念的な断面図が示されている。
図6(a)の実施形態において、隔壁は、流体の入口側に位置する第二部位502と、第二部位よりも流体の出口側に位置する第一部位とを有する。
図6(b)の実施形態において、隔壁は、流体の入口側に位置する第一部位501と、第一部位よりも流体の出口側に位置する第二部位502とを有する。
図6(c)の実施形態において、隔壁は、流体の入口側に位置する第二部位502と、流体の出口側に位置する別の第二部位502と、前記二つの第二部位502の間に位置する第一部位501とを有する。
【0030】
また、初期吸水速度の異なる複数のハニカム構造体を接合することで、全体として第一部位501及び第二部位502を有する隔壁を備えた接合体を構築してもよい。
図7には、複数の四角柱状ハニカム構造体の外周側壁同士を接合材によって接合し、外周を切削加工することによって作製した円柱状ハニカム構造体について、中心軸の方向から見たときの吸水速度の分布を示す概念的な断面図が例示されている。
【0031】
隔壁の初期吸水速度の調整方法には制限はない。例えば、隔壁の材質や気孔率を部位によって変える方法、並びに、疎水性物質が付着した隔壁は初期吸水速度が遅くなることを利用して、隔壁の一部に疎水性物質を付着させる方法がある。これらの中でも、製造コスト及び簡便性の観点から、隔壁の一部に疎水性物質を付着させる方法が好ましい。初期吸水速度を低くしたい隔壁部分に選択的(本明細書において、選択的というのは優先的であることを含む概念である。)に疎水性物質を付着させることで、隔壁のゾーニングを行うことが可能となる。
【0032】
従って、本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体の一実施形態においては、第二部位には疎水性物質が付着している。疎水性物質としては、隔壁の初期吸水速度を低下させる効果を奏する限り、特に制限はない。例えば、疎水性物質としては、疎水性有機ケイ素化合物及び疎水性有機化合物よりなる群から選択される一種又は二種以上が挙げられる。典型的には、疎水性物質は、水に対する溶解性が低く、水と分相を形成することができる物質である。疎水性物質は、オクタノール/水分配係数LogP値が1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることが更により好ましく、例えば1~20とすることができる。
【0033】
また、本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体の一実施形態においては、600℃以下で加熱処理することによって、第一部位と第二部位の初期吸水速度の差が減少する。この場合、加熱処理前に触媒コーティングを行うと、第一部位に触媒が多く付着する一方で第二部位には触媒は付着しにくい。しかしながら、その後、加熱処理をすると、初期吸水速度の差が減少して、加熱処理前に第二部位であった部位に触媒が付着しやすくなる。第一部位には既に触媒が付着している一方で、第二部位の隔壁には触媒を担持可能な気孔部分が多く残存している。このため、加熱処理後に再度触媒コーティングを実施すると、元の第二部位に選択的に触媒を付着させることが可能になる。
【0034】
600℃以下、好ましくは200℃~500℃で加熱処理することによって、加熱処理前に第一部位であった部位の初期吸水速度に対する加熱処理前に第二部位であった部位の初期吸水速度の比率が、90%以上となることが好ましく、95%以上となることがより好ましく、97%以上となることが更により好ましい。
【0035】
600℃以下での加熱処理とは、例えば500℃、1気圧、大気雰囲気で1時間、触媒担持用ハニカム構造体を加熱する処理を言う。
【0036】
600℃以下で加熱処理することによって、第一部位と第二部位の初期吸水速度の差が減少するように触媒担持用ハニカム構造を構成する方法としては、第二部位に付着させる疎水性物質として、600℃以下の加熱処理で隔壁から気化する物質を使用する方法が挙げられる。
【0037】
好適に使用可能な疎水性有機ケイ素化合物としては、シラン系、シリコネート系、シリコーン系及びシラン複合系の撥水剤が挙げられる。
【0038】
好適に使用可能な疎水性有機化合物としては、アルコール、エーテル及びケトン等の脂肪族化合物、並びに、芳香族化合物が挙げられる。これらの中でも、疎水性を高めるという理由により、分子量の大きな、例えば分子量が100以上、好ましくは150以上の芳香族化合物が好ましい。
【0039】
(1-3 セル)
触媒担持用ハニカム構造体のセルの延びる方向(高さ方向)の長さは、特に制限はない。しかしながら、長い方が触媒担持量を増やすことができる一方で、長すぎると耐熱衝撃性が低下するため、50~400mmであることが好ましく、60~350mmであることがより好ましく、70~310mmであることが更により好ましい。
【0040】
セルの延びる方向(ハニカム構造体の高さ方向)に直交する断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせ、であることが好ましい。これ等のなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、フィルタとして使用したときの浄化性能が優れたものとなる。
【0041】
触媒担持用ハニカム構造体のセルピッチは、特に制限はない。しかしながら、圧力損失を小さくするという観点からは、セルピッチが0.6mm以上であることが好ましく、0.7mm以上であることがより好ましく、0.8mm以上であることが更により好ましい。但し、隔壁の表面積を大きくして浄化効率を高めるという観点からは、セルピッチは3.0mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましく、2.0mm以下であることが更により好ましい。ここで、セルピッチとは、セルの延びる方向(ハニカム構造体の高さ方向)に垂直な断面において、隣接する二つのセルの重心同士を結ぶ線分の長さを指す。
【0042】
(2.触媒担持用ハニカム構造体の製造方法)
本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体の製造方法の好適な例を以下に説明する。本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体の製造方法は一実施形態において、流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体の当該隔壁の一部を、疎水性物質に接触させることを含む。
【0043】
(2-1 ハニカム構造体の作製)
まず、流体の入口を有する第一の底面から流体の出口を有する第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状の触媒担持用ハニカム構造体を作製する。このような柱状の触媒担持用ハニカム構造体自体は公知の任意の製法により作製すればよい。
【0044】
従って、柱状の触媒担持用ハニカム構造体の製造方法は一実施形態において、外周側壁と、外周側壁の内側に配設され、第一の底面から第二の底面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状ハニカム成形体を製造する工程を含む。
【0045】
柱状ハニカム成形体は、セラミックス原料、分散媒、造孔材及びバインダーを含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形することにより作製可能である。原料組成物中には分散材等の添加剤を必要に応じて配合することができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。
【0046】
セラミックス原料は、焼成後に残存し、セラミックスとしてハニカム構造体の骨格を構成する部分の原料である。セラミックス原料は例えば粉末の形態で提供することができる。セラミックス原料としては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、珪素-炭化珪素複合材、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア等のセラミックスを得るための原料が挙げられる。具体的には、限定的ではないが、シリカ、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナ、カオリン、蛇紋石、パイロフェライト、ブルーサイト、ベーマイト、ムライト、マグネサイト等が挙げられる。セラミックス原料は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。DPF及びGPF等のフィルタ用途の場合、セラミックスとしてコージェライト、炭化珪素又は珪素-炭化珪素複合材を好適に使用することができる。
【0047】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば、特に限定されず、例えば、小麦粉、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素(例:グラファイト)、セラミックバルーン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、アクリル、フェノール、発泡済発泡樹脂、未発泡発泡樹脂等を挙げることができる。造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。造孔材の含有量は、ハニカム構造体の気孔率を高めるという観点からは、セラミックス原料100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であるのがより好ましく、3質量部であるのが更により好ましい。造孔材の含有量は、ハニカム構造体の強度を確保するという観点からは、セラミックス原料100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であるのがより好ましく、4質量部以下であるのが更により好ましい。
【0048】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。また、バインダーの含有量は、ハニカム成形体の強度を高めるという観点から、セラミックス原料100質量部に対して4質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であるのがより好ましく、6質量部以上であるのが更により好ましい。バインダーの含有量は、焼成工程での異常発熱によるキレ発生を抑制する観点から、セラミックス原料100質量部に対して9質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であるのがより好ましく、7質量部以下であるのが更により好ましい。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0049】
分散材には、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等の界面活性剤を用いることができる。分散材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。分散材の含有量は、セラミックス原料100質量部に対して0~2質量部であることが好ましい。
【0050】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0051】
乾燥工程が実施される前のハニカム成形体の水の含有量は、セラミックス原料100質量部に対して、20~90質量部であることが好ましく、60~85質量部であることがより好ましく、70~80質量部であることが更により好ましい。ハニカム成形体の水の含有量が、セラミックス原料100質量部に対して、20質量部以上であることで、ハニカム成形体の品質が安定し易いという利点が得られやすい。ハニカム成形体の水の含有量が、セラミックス原料100質量部に対して、90質量部以下であることで、乾燥時の収縮量が小さくなり、変形を抑制することができる。本明細書において、ハニカム成形体の水の含有量は、乾燥減量法により測定される値を指す。
【0052】
ハニカム成形体の一実施形態においては、すべてのセルを第一の底面から第二の底面まで貫通させてもよい。また、ハニカム成形体の別の一実施形態においては、第一の底面から第二の底面まで延び、第一の底面が開口して第二の底面が目封止された複数の第一セルと、第一の底面が目封止されて第二の底面が開口する複数の第二セルを含み、第一のセル及び第二のセルが隔壁を介して交互に隣接配置されているセル構造を有することができる。ハニカム成形体の底面を目封止する方法は、特に限定されるものではなく、周知の手法を採用することができる。
【0053】
目封止部の材料については、特に制限はないが、強度や耐熱性の観点からセラミックスであることが好ましい。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、珪素-炭化珪素複合材、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックス料であることが好ましい。目封止部はこれらのセラミックスを合計で50質量%以上含む材料で形成されていることが好ましく、80質量%以上含む材料で形成されていることがより好ましい。焼成時の膨張率を同じにでき、耐久性の向上につながるため、目封止部はハニカム成形体の本体部分と同じ材料組成とすることが更により好ましい。
【0054】
柱状のハニカム成形体を乾燥した後、脱脂及び焼成を実施することで柱状の触媒担持用ハニカム構造体を作製することができる。乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程の条件はハニカム成形体の材料組成に応じて公知の条件を採用すればよく、特段に説明を要しないが以下に具体的な条件の例を挙げる。
【0055】
乾燥工程においては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。なかでも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。目封止部を形成する場合は、乾燥したハニカム成形体の両底面に目封止部を形成した上で目封止部を乾燥し、ハニカム乾燥体を得る。
【0056】
目封止部の形成方法について例示的に説明する。目封止スラリーを、貯留容器に貯留しておく。次いで、目封止部を形成すべきセルに対応する箇所に開口部を有するマスクを一方の底面に貼る。マスクを貼った底面を、貯留容器中に浸漬して、開口部に目封止スラリーを充填して目封止部を形成する。他方の底面についても同様の方法で目封止部を形成することができる。
【0057】
次に脱脂工程について説明する。バインダーの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300~1000℃程度である。従って、脱脂工程はハニカム成形体を200~1000℃程度の範囲に加熱して実施すればよい。加熱時間は特に限定されないが、通常は、10~100時間程度である。脱脂工程を経た後のハニカム成形体は仮焼体と称される。
【0058】
焼成工程は、ハニカム成形体の材料組成にもよるが、例えば仮焼体を1350~1600℃に加熱して、3~10時間保持することで行うことができる。
【0059】
(2-2 疎水性物質への接触)
次いで、柱状の触媒担持用ハニカム構造体の当該隔壁の一部を、疎水性物質に接触させる。疎水性物質への接触方法としては、特に制限はないが、疎水性物質を含有する流体へ接触する方法が簡便であり好ましい。流体は、例えば、溶液状、スラリー状又は煙状の流体とすることができる。
【0060】
疎水性物質が付着して疎水化した隔壁部分は、初期吸水速度が低くなる。また、使用する疎水性物質の付着量及び疎水性物質のLogP値等を調整することで、初期吸水速度の低下度合いを制御可能である。従って、初期吸水速度を低くしたい隔壁部分に疎水性物質を選択的に接触させることで、初期吸水速度の高い第一部位及び初期吸水速度の低い第二部位の作り分けが可能である。
【0061】
例えば、隔壁が触媒担持用ハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に垂直な方向に初期吸水速度の分布を示すようにする方法として、ハニカム構造体の一方又は両方の底面をマスキングした状態で、疎水性物質を含む流体にセルを通過させる方法が挙げられる。流体は、マスキングしていないセルに流入して流れるので、マスキングする部分を変更することにより、第一部位と第二部位の場所を変更可能である。外周側に第一部位を形成し、第一部位よりも中心軸側に第二部位を形成したい場合は、外周側をマスキングすればよい。その逆もしかりである。
【0062】
また、隔壁が触媒担持用ハニカム構造体の高さ方向(セルの延びる方向)に平行な方向に初期吸水速度の分布を示すようにする方法として、疎水性物質を含む流体(好ましくはスラリー状の流体)中に、ハニカム構造体の一部を高さ方向に浸漬する方法が挙げられる。また、ハニカム構造体が目封止部を有するフィルタ構造の場合、疎水性物質を含有する煙を開口している側のセルから流すと、煙は目封止されたセルの出口側に集まるため、出口側に選択的に疎水性物質を付着させることができる。
【0063】
(3 触媒担持ハニカム構造体の製造方法)
本発明の一側面によれば、本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも一部を触媒組成物スラリーに接触させることを含む触媒担持ハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0064】
本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体は部位によって初期吸水速度が異なり、それに応じて触媒の付着しやすさも異なる。このため、触媒を多く付着させたい部分に選択的に塗布するという操作を行うことなく、触媒付着量の多い部分と少ない部分が自然と形成される。従って、触媒担持ハニカム構造体の製造方法の一実施形態によれば、触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも第一部位及び第二部位に触媒組成物スラリーを接触させることで、ゾーンコートが可能である。また、触媒担持ハニカム構造体の製造方法の一実施形態によれば、触媒担持用ハニカム構造体全体に触媒組成物スラリーを接触させることで、ゾーンコートが可能である。
【0065】
また、本発明に係る触媒担持ハニカム構造体の製造方法の一実施形態によれば、
本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の少なくとも第一部位及び第二部位を第一の触媒組成物スラリーに接触させる工程1と、
工程1の後、触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の第二部位に付着している疎水性物質の少なくとも一部を除去する工程2と、
工程2の後、触媒担持用ハニカム構造体の隔壁の第一部位及び第二部位を第二の触媒組成物スラリーに接触させる工程3と、
を実施することを含む。
【0066】
工程1によって、隔壁の第一部位に選択的に第一の触媒組成物スラリーを付着させることができる。工程2によって、第二部位に付着している疎水性物質が除去されると、第二部位の初期吸水速度が復活するので、元の第二部位に触媒が付着しやすくなる。第一部位には既に第一の触媒を担持しており更なる触媒を担持しにくい一方で、第二部位の隔壁には触媒を担持可能な気孔部分が多く残存している。このため、疎水性物質を除去後に工程3を実施することによって、元の第二部位に選択的に第二の触媒組成物スラリーを付着させることが可能になる。
【0067】
隔壁の第二部位に付着している疎水性物質の少なくとも一部を除去する方法としては、疎水性物質の少なくとも一部が気化又は分解する程度の温度に加熱処理する方法が挙げられる。当該加熱処理は、第一の触媒組成物スラリーに含まれる触媒成分を隔壁に焼き付けるための加熱処理と別々に実施してもよいが、両者を兼ねることが生産効率の観点から好ましい。このため、加熱処理時の温度は400℃以上であることが好ましく、450℃以上であることがより好ましい。但し、加熱処理時の温度は高すぎると触媒が劣化することから、650℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。
【0068】
触媒組成物スラリーは、その用途に応じて適切な触媒を含有することが望ましい。触媒としては、限定的ではないが、煤、窒素酸化物(NOx)、可溶性有機成分(SOF)、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)等の汚染物質を除去するための酸化触媒、SCR触媒及び三元触媒が挙げられる。本発明に係る触媒担持用ハニカム構造体を用いることで、部位によって異なる触媒を担持するゾーンコーティングも容易に実現できる。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、Zr、Ca、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0070】
(ハニカム構造体の用意)
直径143.8mm×高さ152.4mmの円柱状で、目封じ深さ6mmの炭化珪素製ウォールフロー式のハニカム構造体を下記の各試験に使用するのに十分な数だけ作製した。当該ハニカム構造体の隔壁は、厚みが0.3mm、気孔率が64%、平均細孔径が19μmであった。当該ハニカム構造体のセル断面形状は正方形、セルピッチは1.5mmであった。
【0071】
(実施例1-1)
上記で用意したハニカム構造体に対して、第一の底面側から第二の底面側に向かって煙をセル内に13分間流した。この煙は、線香を燃焼することによって発生させたものであり、疎水性物質(芳香族炭化水素)を含有する。
次いで、疎水性物質を付着させたハニカム構造体の第一の底面側の中心軸付近から初期吸水速度測定用の試験片を採取し、先述した測定手順に従って、初期吸水速度を測定した。また、当該ハニカム構造体の第二の底面側の中心軸付近から初期吸水速度測定用の試験片を採取し、先述した測定手順に従って、初期吸水速度を測定した。結果を表1及び
図8に示す。
【0072】
上と同様の手順で疎水性物質を付着させたハニカム構造体を別途用意した。当該ハニカム構造体全体を、SCR触媒を含有する触媒組成物スラリーに10秒間浸漬し、その後に引き上げた。次いで、このようにして触媒組成物スラリーが塗布されたハニカム構造を大気雰囲気下で450℃×3時間加熱し、触媒を焼き付けた。触媒を焼き付けた後のハニカム構造体について、初期吸水速度測定における採取方法と同様の方法で、第一の底面側(入口側)と第二の底面側(出口側)からそれぞれ試験片を採取し、重量測定によりそれぞれの触媒担持量を測定した。入口側に対する出口側の触媒付着量の割合を表1及び
図9に示す。
【0073】
(比較例1)
上記で用意したハニカム構造体に対して、実施例1-1と同様の手順で、第一の底面側と第二の底面側の初期吸水速度を測定した。結果を表1及び
図8に示す。
【0074】
また、上記で用意したハニカム構造体に対して、実施例1-1と同様の手順で、触媒組成物スラリーの塗布及び触媒の焼き付けを行った。触媒を焼き付けた後のハニカム構造体について、実施例1-1と同様の方法で、第一の底面側と第二の底面側からそれぞれ試験片を採取し、実施例1-1と同様の方法でそれぞれの触媒担持量を測定した。入口側に対する出口側の触媒付着量の割合を表1及び
図9に示す。
【0075】
【0076】
(比較例2、実施例1-2~実施例1-3)
煙を流す時間を試験番号に応じて表2に記載の値に変化させた他は実施例1-1と同様の手順で、上記で用意したハニカム構造体のセル内に煙を流して、疎水性物質を付着させた。疎水性物質を付着させた各試験例に係るハニカム構造体に対して、実施例1-1と同様の手順で、第一の底面側と第二の底面側の初期吸水速度を測定した。各試験例について、入口側に対する出口側の初期吸水速度の低下率を表2に示す。
【0077】
また、同様の手順で疎水性物質を付着させた各試験例に係るハニカム構造体を別途用意した。これらのハニカム構造体に対して、実施例1-1と同様の手順で、触媒組成物スラリーの塗布及び触媒の焼き付けを行った。触媒を焼き付けた後のハニカム構造体について、実施例1-1と同様の方法で、第一の底面側と第二の底面側からそれぞれ試験片を採取し、実施例1-1と同様の方法でそれぞれの触媒担持量を測定した。各試験例について、入口側に対する出口側の触媒付着量の低下率を表2及び
図10に示す。
【0078】
【0079】
(実施例2)
疎水性物質としてエチルベンゼンを用意した。エチルベンゼンを入れた容器中に、上記で用意したハニカム構造体を第一の底面側からセルの延びる方向(高さ方向)に深さ30mm、3秒間浸漬した。エチルベンゼンから引き上げたハニカム構造体を常温大気雰囲気で15分間乾燥した。その後、このハニカム構造体のエチルベンゼン浸漬部分と、エチルベンゼン非浸漬部分のそれぞれについて、初期吸水速度測定用の試験片を採取し、先述した測定手順に従って、初期吸水速度を測定した。結果を表3に示す。
【0080】
上と同様の手順で疎水性物質を選択的に付着させたハニカム構造体を別途用意した。当該ハニカム構造体に対して、実施例1-1と同様の手順で、触媒組成物スラリーの塗布及び触媒の焼き付けを行った。その後、このハニカム構造体のエチルベンゼン浸漬部分と、エチルベンゼン非浸漬部分のそれぞれから試験片を採取し、先述した測定手順に従って、それぞれの触媒担持量を測定した。エチルベンゼン非浸漬部分に対するエチルベンゼン浸漬部分の触媒担持量の比率を表3に示す。
【0081】
【0082】
(実施例3)
<第一触媒のコーティング>
上記で用意したハニカム構造体の両方の底面にそれぞれ直径80mmの円形粘着フィルムを同心円状に貼り、ハニカム構造体の底面中央領域のセルをマスキングした。実施例2と同様の疎水性物質含有溶液を用意し、当該溶液中に当該粘着フィルムを貼付したハニカム構造体を完全に3秒間浸漬した。溶液から引き上げたハニカム構造体からフィルムを剥がした上で、常温大気雰囲気で15分間乾燥した。その後、このハニカム構造体のマスキングしたセル領域に対応する中心軸側部分と、マスキングしなかったセル領域に対応する外周側部分のそれぞれから、初期吸水速度測定用の試験片を採取し、先述した測定手順に従って、初期吸水速度を測定した。結果を表4-1に示す。
【0083】
上と同様の手順でマスキング及び疎水性物質の選択的な付着を行ったハニカム構造体を別途用意した。当該ハニカム構造体に対して、実施例1-1と同様の手順で、第一触媒組成物スラリーの塗布及び触媒の焼き付けを行った。当該ハニカム構造体の、マスキングしたセル領域に対応する中心軸側部分と、マスキングしなかったセル領域に対応する外周側部分のそれぞれから試験片を採取し、先述した測定手順に従って、それぞれの触媒担持量を測定した。中心軸側部分(マスキング部分)に対する外周側部分(非マスキング部分)の触媒担持量の比率を表4-1に示す。
【0084】
【0085】
<第二触媒のコーティング>
上と同様の手順で触媒の焼き付けまで行ったハニカム構造体を別途用意した。触媒の焼き付けと同時に疎水性物質が消失したかどうか確認するため、触媒焼き付け後のハニカム構造体に対して、マスキングしたセル領域に対応する中心軸側部分と、マスキングしなかったセル領域に対応する外周側部分のそれぞれから、初期吸水速度測定用の試験片を採取し、先述した測定手順に従って、初期吸水速度を測定した。結果を表4-2に示す。
【0086】
上と同様の手順で第一触媒の焼き付けまで行ったハニカム構造体を別途用意した。当該ハニカム構造体全体を、SCR触媒をより高い濃度で含有する第二触媒組成物スラリーに10秒間浸漬し、その後に引き上げた。このようにして触媒組成物スラリーが塗布されたハニカム構造体を大気雰囲気下で450℃×3時間加熱し、触媒を焼き付けた。得られたハニカム構造体について、先にマスキングされた中心軸側部分と、マスキングしなかった外周側部分のそれぞれから、試験片を採取し、重量測定により中心軸側部分に担持されている触媒担持量と、外周側部分に担持されている触媒担持量を測定した。結果を表4-2に示す。
【0087】
【符号の説明】
【0088】
100、200 触媒担持用ハニカム構造体
102 外周側壁
104 第一の底面
106 第二の底面
108 第1セル
110 第2セル
112 隔壁
501 第一部位
502 第二部位