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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】鋼管の孔開け用治具及び孔開け方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 49/00 20060101AFI20220425BHJP
   B23B 45/02 20060101ALI20220425BHJP
   B23B 41/00 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
B23B49/00 A
B23B45/02
B23B41/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018216129
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020082229
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】593139374
【氏名又は名称】株式会社エムオーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100110722
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 誠一
(72)【発明者】
【氏名】沼 仁
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077619(JP,A)
【文献】特開2004-261922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0243072(US,A1)
【文献】実開平06-061407(JP,U)
【文献】特開昭51-025893(JP,A)
【文献】実開昭59-105309(JP,U)
【文献】実開平05-005317(JP,U)
【文献】特許第4077777(JP,B2)
【文献】特開2011-251370(JP,A)
【文献】特開2011-177818(JP,A)
【文献】特開2015-212488(JP,A)
【文献】特開2017-120750(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067793(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 35/00-49/06
E02D 7/00-13/10
F16L 41/00-49/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の鋼管の側面にボルト孔を穿設するための鋼管の孔開け用治具において、
前記鋼管の側面に配置される平板状の本体であって、当該鋼管の表面と正対する位置に一又は複数の開口部が設けられている本体と、
前記本体を前記鋼管の側面へ固定するための固定構造であって、前記本体の左右に立設された一対の側板と、一対の前記側板の外側に形成され、固定ボルトを取り付けるための固定用ボルト孔がそれぞれ設けられた一対の鍔部を備えた固定構造を備え、
一対の前記鍔部は複数設けられている
ことを特徴とする鋼管の孔開け治具。
【請求項2】
請求項に記載の鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法において、
ボルト孔を穿設すべき前記鋼管の側面の所定位置を墨出しするステップと、
第一の前記鋼管の孔開け治具と第二の前記鋼管の孔開け治具とを前記鋼管を挟んでそれぞれ対向する位置に配置するステップと、
第一の前記鋼管の孔開け治具と第二の前記鋼管の孔開け治具の一方又は両方の前記本体の前記開口部が墨出しされた所定位置と正対するように位置合わせするステップと、
第一の前記鋼管の孔開け治具と第二の前記鋼管の孔開け治具とを互いの前記固定構造により固定するステップと、
墨出しされた所定位置に対して前記本体の前記開口部を介して穿設装置によってボルト孔を穿設するステップと、
を含み構成されていることを特徴とする孔開け方法。
【請求項3】
請求項に記載の鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法において、
前記穿設装置を磁力によって前記本体に固定した状態でボルト孔を穿設することを特徴とする孔開け方法。
【請求項4】
請求項に記載の鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法において、
ボルト孔を穿設すべき前記鋼管の側面の所定位置を墨出しするステップと、
前記鋼管の孔開け治具の前記本体の前記開口部が墨出しされた所定位置と正対するように位置合わせするステップと、
前記鋼管の孔開け治具の前記本体の一方側と他方側を前記固定構造により固定するステップと、
墨出しされた所定位置に対して前記本体の前記開口部を介して穿設装置によってボルト孔を穿設するステップと、
を含み構成されていることを特徴とする孔開け方法。
【請求項5】
請求項からのいずれか1項に記載の孔開け方法において、
前記鋼管が鋼管杭であることを特徴とする孔開け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の孔開け用治具及び孔開け方法に関し、さらに詳しくは、例えば、円筒状の鋼管の側面にボルトで部材を締着するためのボルト孔を正しく穿設することができる鋼管の孔開け用治具及び孔開け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築現場などで資材運搬用のトラックの乗り入れや各種の建築資材を吊下げ搬送を行うためにタワークレーンが使用される。タワークレーンのマストの台座は、例えばH形鋼などの桁材(「覆工受桁」や「横継材」等)で構成されており、当該桁材は地中に貫入された回転圧入鋼管杭などの支持杭へ支持固定される(特許文献1等を参照)。
【0003】
例えば図10に示される回転圧入鋼管杭100は、断面が円形状の鋼管101の先端側(下端側)に羽根102を取り付けた鋼管杭であり、狭い場所での使用が可能であること、地中に静かに捻じ込むことが可能であること、先端の羽根によって硬い地盤へ確実に打設することが可能であること、残土が発生しないこと等の利点がある。このような回転圧入鋼管杭としては例えば「NSエコパイル」(新日鉄住金エンジニアリング株式会社の登録商標)などがある。
【0004】
このような断面円形状の回転圧入鋼管杭を支持杭として利用したものとして例えば特許文献1がある。すなわち、台座を構成する桁材(H形鋼)に接続金具を用いて回転圧入鋼管杭へ固定するというものである。そして、当該桁材と回転圧入鋼管杭とを確実に固定するために、図11に示されるとおり、回転圧入鋼管杭100の上端側の側面に接続金具を構成する保持部材32,32の凹型ウェブを当接させて固定ボルト2a~2cによって固定する必要がある。そして、回転圧入鋼管杭100に対するボルト孔穿設に係る作業としては、地中に埋設された状態の回転圧入鋼管杭の側面にボルト孔を形成すべき目標位置を墨出ししてから、当該目標位置へ向けて電動ドリル(穿設装置)の切削刃を正面から押し当て断面円形である鋼管杭の中心に向かってボルト孔が穿設されるまで電動ドリルの姿勢を維持し続けるというものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6355057号公報
【文献】特許第4077777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、作業員は中腰の状態でボルト孔の穿設作業を行わなければならなかったことから電動ドリルの姿勢は不安定にならざるを得ないという問題があった。電動ドリルの姿勢が不安定であると断面円形である鋼管杭の中心に向かって正しくボルト孔を穿設することができず、ボルト孔が正しく穿設されていなければ保持部材も正しく取り付けることができない。
【0007】
一方、電動ドリルとしては、例えば、特許文献2に示すような電磁石で構成された付着ベース付きの電動ドリル装置が提供されている。当該電動ドリルを用いることで作業者の負担は改善されると考えられるが、電動ドリルの姿勢を安定させた状態で穿設作業を行うためには付着ベースを平坦な面に磁着させる必要がある。しかし、回転圧入鋼管杭の側面は曲面であるため当該電動ドリルを安定して固定することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者はこのような従来の問題の解決を図るべく鋭意検討を行った結果、新たな鋼管の孔開け用治具及び孔開け方法に係る本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の目的とするところは、断面円筒状の鋼管の側面に対するボルト孔の穿設を高精度に行うことができる鋼管の孔開け用治具及び孔開け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に記載の本発明は、円筒状の鋼管の側面にボルト孔を穿設するための鋼管の孔開け用治具において、前記鋼管の側面に配置される平板状の本体であって、当該鋼管の表面と正対する位置に一又は複数の開口部が設けられている本体と、前記本体を前記鋼管の側面へ固定するための固定構造であって、前記本体の左右に立設された一対の側板と、一対の前記側板の外側に形成され、固定ボルトを取り付けるための固定用ボルト孔がそれぞれ設けられた一対の鍔部を備えた固定構造を備え、一対の前記鍔部は複数設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、請求項に記載の鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法において、ボルト孔を穿設すべき前記鋼管の側面の所定位置を墨出しするステップと、第一の前記鋼管の孔開け治具と第二の前記鋼管の孔開け治具とを前記鋼管を挟んでそれぞれ対向する位置に配置するステップと、第一の前記鋼管の孔開け治具と第二の前記鋼管の孔開け治具の一方又は両方の前記本体の前記開口部が墨出しされた所定位置と正対するように位置合わせするステップと、第一の前記鋼管の孔開け治具と第二の前記鋼管の孔開け治具とを互いの前記固定構造により固定するステップと、墨出しされた所定位置に対して前記本体の前記開口部を介して穿設装置によってボルト孔を穿設するステップと、を含み構成されていることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、請求項に記載の鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法において、前記穿設装置を磁力によって前記本体に固定した状態でボルト孔を穿設することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、請求項に記載の鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法において、ボルト孔を穿設すべき前記鋼管の側面の所定位置を墨出しするステップと、前記鋼管の孔開け治具の前記本体の前記開口部が墨出しされた所定位置と正対するように位置合わせするステップと、前記鋼管の孔開け治具の前記本体の一方側と他方側を前記固定構造により固定するステップと、墨出しされた所定位置に対して前記本体の前記開口部を介して穿設装置によってボルト孔を穿設するステップと、を含み構成されていることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、請求項からのいずれか1項に記載の孔開け方法において、前記鋼管が鋼管杭であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る鋼管の孔開け用治具によれば、当該孔開け用治具の全体を鋼管へ固定構造により固定することが容易である。そして少なくとも1つの開口部を介して穿設装置で前記鋼管の側面にボルト孔を穿設する際には、当該開口部を目印とすることができるので、ボルト孔の穿設位置の精度を高めることが容易である。しかも当該鋼管の側面と穿設装置との間には本体が介在し、かつ当該本体は当該鋼管に固定されているので、穿設中に本体を支えとして穿設装置の姿勢を維持することで、ボルト孔の中心線を側面の法線に一致させることも容易である。したがって、本発明に係る鋼管の孔開け用治具によれば、断面円筒状の鋼管の側面に対するボルト孔の穿設を高精度に行うことができるという効果がある。
【0018】
本発明に係る鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法によれば、第一の孔開け用治具と第二の孔開け用治具とで鋼管を両側から挟み込むようにして固定構造により鋼管へ固定することが可能である。そして、少なくとも1つの開口部を介して穿設装置で前記鋼管の所定位置にボルト孔を穿設する際には、当該開口部を目印とすることができるので、ボルト孔の穿設位置の精度を高めることが容易である。しかも、当該鋼管の所定位置と穿設装置との間には本体が介在し、かつ当該本体は当該鋼管に固定されているので、穿設中に本体を支えとして磁着可能な穿設装置を確実に固定することができ、ボルト孔の中心線を側面の法線に正確に一致させることも容易となる。したがって、本発明に係る鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法によれば、断面円筒状の鋼管の側面に対するボルト孔の穿設を高精度に行うことができるという効果がある。しかも、本発明に係る鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法によれば、互いに同じ構成の第一の孔開け用治具と第二の孔開け用治具とで鋼管を両側から挟み込むので、鋼管の中心線に関して対称な位置にそれぞれボルト孔を穿設する際の位置合わせが容易という利点もある。
【0019】
本発明に係る鋼管の孔開け治具を利用した孔開け方法によれば、孔開け用治具の本体で鋼管を側方から保持するようにしてその全体を固定構造で鋼管へ固定することが可能である。そして少なくとも1つの開口部を介して穿設装置で前記鋼管の所定位置にボルト孔を穿設する際には、当該開口部を目印とすることができるので、ボルト孔の穿設位置の精度を高めることが容易である。しかも、当該鋼管の所定位置と穿設装置との間には本体が介在し、かつ当該本体は当該鋼管に固定されているので、穿設中に本体を支えとして磁着可能な穿設装置を固定することで、ボルト孔の中心線を側面の法線に一致させることも容易となる。したがって、本発明に係る鋼管の孔開け用治具を利用した孔開け方法によれば、断面円筒状の鋼管の側面に対するボルト孔の穿設を高精度に行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る孔開け用治具を示す斜視図である。
図2図2(A)は鋼管に装着された一対の孔開け用治具を示す斜視図、図2(B)はボルト孔の穿設後における鋼管を示す斜視図である。
図3図2(A)における孔開け用治具の正面図である。
図4図2(A)における孔開け用治具の平面図である。
図5図2(A)における孔開け用治具の側面図である。
図6】電動ドリル(穿設装置)の概要を示す斜視図である。
図7】電動ドリル(穿設装置)による孔開け作業を説明する説明図である。
図8】本実施形態に係る孔開け方法の手順を示すフローチャートである。
図9】孔開け方法の変形例を説明する図である。
図10】回転圧入鋼管杭の主要部の構成を示す斜視図である。
図11】回転圧入鋼管杭と保持部材との取り付け状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
初めに、本発明に係る孔開け用治具の好ましい一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0022】
[孔開け用治具の構成]
先ず、本実施形態に係る孔開け用治具の構成について説明する。図1は本実施形態に係る孔開け用治具を示す斜視図、図2(A)は鋼管に装着された一対の孔開け用治具を示す斜視図、図2(B)はボルト孔の穿設後における鋼管を示す斜視図である。図3図2(A)における孔開け用治具の正面図、図4図2(A)における孔開け用治具の平面図、図5図2(A)における孔開け用治具の側面図である。本実施形態における孔開け用治具20は、地中に貫入された回転圧入鋼管杭などの円筒状の鋼管30の側面にボルト孔30A,30Aを穿設するために使用される鋼管の孔開け用治具である。なお、図2(A)では、2つの孔開け用治具20,20が互いに対向するようにして鋼管30に取り付けられており、一方の孔開け用治具20と他方の孔開け用治具20の構成は共通となっている。
【0023】
図示された孔開け用治具20は、鋼管30の側面に配置される本体21と、本体21を鋼管30の側面へ固定するための固定構造22~25とを備えている。本体21は、鋼板(鉄板など)で構成された平板状の部材であり、固定構造22~25は、本体21の左右(両端縁)から同一方向に屈曲するようにして立設された側板22,23と、左右の側板22,23の外側にそれぞれ形成された一対の鍔部24,25とを備えている。本体21は、後述する電動ドリル(穿設装置)50が磁着固定可能な、例えば、鋼、鉄などで形成することが好ましい。また、側板22,23及び鍔部24,25の材質も本体21と同様の材質(鋼、鉄など)で形成されている。
【0024】
また、本体21の左右に位置する側板22,23は、本体21を構成する鋼板の両端を同一方向に屈曲させるか、あるいは平板状の側板22,23を本体21の端縁部に溶接することにより、本体21と一体として形成したものである。この場合、側板22,23を含む本体21の断面形状は概略コの字状となる。また、鍔部24,25の各々も断面略コの字状の部材であり、一枚の鋼板の両端を同一方向に屈曲させるか、あるいは平板状の板材を断面略コの字状に組み合わせて溶接することにより形成したものである。
【0025】
また、本体21には、左右の側板22,23を鋼管30の側面にそれぞれ当接させた状態(図2(A)に示す状態)において、鋼管30の表面と正対する位置に、一又は複数の開口部21Aが設けられている。本実施形態では本体21の中央に3つの開口部21A,21A,21Aが高さ方向に沿って等ピッチで配列されている。これらの開口部21A,21A,21Aは、鋼管30の側面に形成すべきボルト孔30A(図2(B)参照)を完全にカバーできるようなサイズの例えば円形孔である。本実施形態において穿設すべきボルト孔は、図2(B)において実線で示されたボルト孔30Aであり、図2(A)では破線で示されている。開口部21A,21A,21Aの数や大きさ形状は特に限定されるものではなく、後述する電動ドリル(穿設装置)50の切削刃が挿入可能であり、鋼管30に付した墨出しが確認可能であればよい。なお、図2(A),(B)に示したボルト孔30A,30A,30Aは説明のために示したものであり、実際には各ボルト孔30Aは適宜の位置に穿設される。
【0026】
また、図1及び図3に示すとおり、一対の鍔部24,25には、固定ボルト60を取り付ける(締着する)ための固定用ボルト孔24A,25Aがそれぞれ設けられると共に、一対の鍔部24,25に設けられた固定用ボルト孔24A,25Aの中心同士の間隔W1は、固定用ボルト孔24A,25Aにそれぞれ固定用ボルト60,60を挿通した際に鋼管30の側面によって阻害されることなく延伸できるように鋼管30の直径(外径)W2よりも僅かに長く形成されている。
【0027】
ここで、本実施形態の孔開け用治具20においては、一対の鍔部24,25は複数設けられている。例えば、一対の鍔部24,25は、本体21の高さ方向にかけて2段に亘って設けられている。この場合、一対の孔開け用治具20は合計4本の固定ボルト60,60によって鋼管30へ強く固定される。
【0028】
[孔開け用治具等の寸法]
次に、孔開け用治具20の寸法の一例について説明する。ここで想定するのは、鋼管30の外径(外径)が406.4mmである場合に好適な孔開け用治具20である。
本体21の高さh:660mm
本体21の上端から固定用ボルト孔24A,25Aの中心までの距離a:250mm
鍔部24,25の厚さc:40mm
側板22,23の長さd:70mm
固定用ボルト孔24A,25Aの中心間隔W1:426mm
固定用ボルト孔24A,25Aの各々の径:20mm
固定用ボルト孔24A,24Aの高さの差b:160mm
固定用ボルト孔25A,25Aの高さの差b:160mm
開口部21Aの径:60mm
最上段の開口部21Aと最下段の開口部21Aとの中心間隔e:160mm
固定ボルト60の長さ:500mm
固定ボルト60の径:20mm
【0029】
[電動ドリルの構成]
次に、本実施形態の孔開け方法に使用される電動ドリル(穿設装置)50について説明する。図6は、電動ドリル(穿設装置)50の概要を示す斜視図、図7は電動ドリル(穿設装置)による孔開け作業を説明する説明図である。
【0030】
図示されるとおり、電動ドリル(穿設装置)50は、ドリルモータ52を備えた本体54、ドリルモータ52によって駆動される回転軸アセンブリ58、回転軸アセンブリ58の先端に装着される切削刃t、ドリルモータ52を制御するための操作レバー39、電磁石を内蔵した電磁ベース41、電動ドリル(穿設装置)50を保持するためのハンドル42などを備える。このような電動ドリル50としては、例えば、日東工器株式会社のアトラエースLO-3000A、LO-3550Aなどを用いることができる。
【0031】
作業者が電動ドリル(穿設装置)50の電源スイッチ(不図示)をオンすると、電磁ベース41内の電磁石が通電し、電磁ベース41に磁力が発生するので、電磁ベース41の底面は平坦な強磁性体へ吸着させることが可能となる。本実施形態では前述した孔開け用治具20の本体21が平坦な強磁性体(鋼板)で構成されているので、図7に示されるとおり、本体21の表面へ電磁ベース41の底面を吸着させることが可能となる。また、本体54に対する電磁ベース41の相対位置は調整可能とされている。これにより、電磁ベース41の底面を孔開け治具20の本体21に固定した後に、本体54の位置を微調整することにより、切削刃tの芯出しを行うことが可能となる。
【0032】
[孔開け方法の手順]
次に、本実施形態に係る孔開け方法の手順について説明する。図8は、本実施形態に係る孔開け方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態の孔開け方法は、2つの孔開け治具20,20を一対として利用する。そして、ここでは一対の孔開け治具20の一方を「第一の鋼管の孔開け治具20」と称し、他方を「第二の鋼管の孔開け治具20」と称する。また、鋼管30の中心線に関して対称な一対のボルト孔30Aを、本体21における3つの開口部21A,21A,21Aと同じ配列パターンで3段に亘って穿設すること(合計6つのボルト孔30Aを穿設すること)を想定する。
【0033】
先ず、作業者は、ボルト孔30Aを穿設すべき鋼管30の側面の所定位置に対して墨出しを行う(ステップS1)。この墨出しは、公知のいずれかの方法で行われ、ボルト孔30Aの穿設先となる6つの所定位置にそれぞれマークとして、例えば、十字線(図示せず)を付す。
【0034】
次に、作業者は、第一の鋼管の孔開け治具20と第二の鋼管の孔開け治具20とを、図2(A)に示すとおり、鋼管30を挟んでそれぞれ対向する位置に配置する(ステップS2)。このとき第一の鋼管の孔開け治具20の鍔部24は第二の鋼管の孔開け治具20の鍔部25と対向し、第一の鋼管の孔開け治具20の鍔部25は第二の鋼管の孔開け治具20の鍔部24と対向する。また、このとき第一の鋼管の孔開け治具20の3つの開口部21A,21A,21Aは鋼管30を挟んで第二の鋼管の孔開け治具20の3つの開口部21A,21A,21Aと対向する。
【0035】
次いで、作業者は、第一の鋼管の孔開け治具20と第二の鋼管の孔開け治具20の両方の本体21の開口部21A,21A,21Aの中心線が墨出しされた6つの所定位置(十字線)と正対(交差)するように位置合わせする(ステップS3)。
【0036】
上述した位置合わせと並行して、作業者は、第一の鋼管の孔開け治具20の一方側の鍔部24に設けられた固定用ボルト孔24Aと第二の鋼管の孔開け治具20の一方側の鍔部25に設けられた固定用ボルト孔25Aとを固定用ボルト60で連結固定すると共に、第一の鋼管の孔開け治具20の他方側の鍔部25に設けられた固定用ボルト孔25Aと第二の前記鋼管の孔開け治具20の他方側の鍔部24に設けられた固定用ボルト孔24Aとを他の固定用ボルト60で連結固定する(ステップS4)。
【0037】
ここで、一対の鍔部24,25は、本体21の高さ方向に2段に亘って設けられているので、第一の鋼管の孔開け治具20及び第二の鋼管の孔開け治具20は、2段に亘って合計4本の固定用ボルト60,60で鋼管30に固定される。これによって第一の鋼管の孔開け治具20及び第二の鋼管の孔開け治具20が鋼管30に対して強固に固定され、位置ずれの可能性が抑えられる。なお、ステップS4において各ボルト孔24A,25Aと固定用ボルト60との連結部は、それぞれナットSによって締着される。
【0038】
次に、作業者は、図7に示されるとおり、墨出しされた6つの所定位置(十字線)の各々に対して本体21の開口部21A,21A,21Aを介して電動ドリル(穿設装置)50によってボルト孔30Aを穿設する(ステップS5)。この穿設の際、作業者は、電動ドリル(穿設装置)50を磁力によって本体21に固定した状態とする。
【0039】
[穿設処理の詳細]
ここで、開口部21Aからボルト孔30Aを穿設する処理について詳しく説明する。先ず、作業者は、鋼管の孔開け治具20の本体21に電磁ベース41の底部を密着させ、切削刃tが開口部21Aのおおむね中央に位置している状態で、電動ドリル50のスイッチをオンすることにより、鋼管の孔開け治具20の本体21に電動ドリル50を磁力によって固定する。そして、作業者は、切削刃tの芯だしのために電動ドリル50の本体54の位置を微調整して切削刃tの回転軸を鋼管30の側面の所定位置(十字線)に一致させる。その後、作業者は、電動ドリル50の操作レバー39をゆっくりと倒すことにより、切削刃tの先端で所定位置(十字線)にボルト孔30Aを穿設する。そして穿設が完了すると作業者は電動ドリル50の電源をオフにして磁力を解消し、次の穿設作業に移る。以上が1つのボルト孔30Aを穿設する処理である。他のボルト孔30も同様に穿設される。
【0040】
[実施形態の効果]
以上説明したとおり、本実施形態に係る鋼管の孔開け用治具20によれば、孔開け用治具20の本体21及び左右の側板22,23で鋼管30を側方から囲うようにして保持することができ、両方の鍔部24,25に形成された固定用ボルト孔24A,25Aを固定用ボルト60,60で連結することにより当該孔開け用治具20の全体を鋼管30へ固定することが可能である。
【0041】
特に、本実施形態に係る鋼管の孔開け方法によれば、第一の孔開け用治具20と第二の孔開け用治具20とで鋼管30を両側から挟み込むようにして保持し、双方の固定用ボルト孔24A,25Aを固定用ボルト60,60で連結固定することで第一の孔開け用治具20と第二の孔開け用治具20とを鋼管30へ固定することが可能である。そして開口部21Aを介して電動ドリル(穿設装置)50で鋼管30の所定位置にボルト孔30Aを穿設する際には、当該開口部21Aを目印とすることができるので、ボルト孔30Aの穿設位置の精度を高めることが容易である。しかも当該鋼管30の所定位置と電動ドリル(穿設装置)50との間には平板状の本体21が介在し、かつ当該本体21は当該鋼管30に固定されているので、穿設中に本体21を支えとして電動ドリル(穿設装置)50の姿勢を維持することで、ボルト孔30Aの中心線を側面の法線に一致させることも容易である。したがって、本実施形態に係る孔開け方法によれば、断面円筒状の鋼管30の側面に対するボルト孔30Aの穿設を高精度に行うことができる。しかも、本実施形態に係る孔開け方法によれば、互いに同じ構成の第一の孔開け用治具20と第二の孔開け用治具20とで鋼管30を両側から挟み込むので、鋼管30の中心線に関して対称な位置にそれぞれボルト孔30A,30Aを穿設する際の位置合わせが容易という利点もある。さらに、作業員も楽な姿勢で作業を進めることが可能となる。
【0042】
[実施形態の補足]
なお、上述した実施形態では、開口部21Aを3つずつ備えた2つの鋼管の孔開け治具20,20を利用して、鋼管30の側面に6つのボルト孔30Aを穿設したが、これら6つの開口部21Aの全てを利用することは必須ではなく、6つの開口部21Aの一部(少なくとも1つ)を利用して5個以下の個数のボルト孔30Aを穿設してもよいことは言うまでもない。
【0043】
[変形例]
次に、本実施形態の孔開け方法の変形例について説明する。図9は、孔開け方法の変形例を説明する図である。上述した実施形態の孔開け方法は2つの孔開け用治具20,20を棒状の固定ボルト60で鋼管30へ固定するものであったが、本変形例は、1つの孔開け用治具20をU字状の固定ボルト(U字ボルト60’)で鋼管30へ固定するというものである。そして、本変形例の孔開け方法は、上述した実施形態の孔開け方法(図8)においてステップS2を省略したものに相当する。なお、本変形例では、本体21における開口部21A,21A,21Aと同じ配列パターンで鋼管30の側面に3つのボルト孔30Aを穿設すること(合計3つのボルト孔30Aを穿設すること)を想定する。
【0044】
先ず、作業者は、ボルト孔30Aを穿設すべき鋼管30の側面の所定位置を墨出しする(ステップS1)。この墨出しは、公知のいずれかの方法で行われ、例えば、ボルト孔30Aの穿設先となる3つの所定位置にマーク(十字線)を付すことにより行われる。
【0045】
次に、作業者は、鋼管の孔開け治具20の本体21の開口部21A,21A,21Aの中心を墨出しされた3つの所定位置(十字線)と正対するように位置合わせする(ステップS3)。
【0046】
上述した位置合わせと並行して、作業者は、図9に示されるとおり、鋼管の孔開け治具20の一方側の鍔部24に設けられた固定用ボルト孔24Aと他方側の鍔部25に設けられた固定用ボルト孔25AとをU字ボルト60’で連結固定する(ステップS4)。このときU字ボルト60’は鋼管30の周囲を囲うようにして配置される。
【0047】
ここで一対の鍔部24,25は、本体21の高さ方向にかけて2段に亘って設けられているので、鋼管の孔開け治具20は2段に亘って合計2本のU字ボルト60’,60’で鋼管30に固定される。これによって鋼管の孔開け治具20が鋼管30に対して強固に固定され、位置ずれの可能性が抑えられる。なお、ステップS4において各ボルト孔24A,25AとU字ボルト60’との連結部は、それぞれナットSによって締着される。
【0048】
次に、作業者は、墨出しされた3つの所定位置(十字線)の各々に対して本体21の開口部21A,21A,21Aを介して電動ドリル(穿設装置)50によってボルト孔30Aを穿設する(ステップS5)。この穿設作業の際には、作業者は、電動ドリル(穿設装置)50を磁力によって本体21に固定した状態とする。その固定のさせ方については前述した実施形態と同様である。
【0049】
[変形例の効果]
以上説明したとおり、本変形例に係る孔開け方法によれば、孔開け用治具20の本体21及び左右の側板22,23で鋼管30を側方から囲うようにして保持することができ、両方の鍔部24,25に形成された固定用ボルト孔24A,25AをU字ボルト60’で連結することにより当該孔開け用治具20の全体を鋼管30へ固定することが可能である。そして開口部21Aを介して電動ドリル(穿設装置)50で鋼管30の所定位置にボルト孔30Aを穿設する際には、当該開口部21Aを目印とすることができるので、ボルト孔30Aの穿設位置の精度を高めることが容易である。しかも鋼管30の所定位置と電動ドリル(穿設装置)50との間には平板状の本体21が介在し、かつ当該本体21は当該鋼管30に固定されているので、穿設中に本体21を支えとして電動ドリル(穿設装置)50の姿勢を維持することで、ボルト孔30Aの中心線を側面の法線に一致させることも容易である。したがって、本変形例に係る孔開け方法によれば、断面円筒状の鋼管30の側面に対するボルト孔30Aの穿設を高精度に行うことができる。さらに、作業員も楽な姿勢で作業を進めることが可能となる。
【0050】
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【0051】
例えば、上述した実施形態又は変形例では特定サイズ(外径)の鋼管30に適した孔開け治具20を説明したが、様々なサイズ(外径)鋼管30に使用できるよう、前述した固定用ボルト孔24A,25Bを丸孔ではなく左右方向(一対の鍔部24,25の配列方向)に長い長孔としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
20 孔開け用治具
21 本体
21A 開口部
22 側板
23 側板
30 鋼管
24 鍔部
24A 固定用ボルト孔
25A 固定用ボルト孔
25 鍔部
30A ボルト孔
32 保持部材
32c 凹型ウェブ
2a 固定ボルト
2b 固定ボルト
2c 固定ボルト
41 電磁ベース
42 ハンドル
50 電動ドリル(穿設装置)
52 ドリルモータ
54 本体
58 回転軸アセンブリ
60 固定ボルト
S ナット
t 切削刃

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11