(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】表面保護剤組成物および端子付き被覆電線
(51)【国際特許分類】
C09D 4/02 20060101AFI20220425BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220425BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220425BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20220425BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20220425BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20220425BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20220425BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220425BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/61
C09D5/08
C23F11/00 E
C23C26/00 A
H01B3/44 A
H01B7/00 306
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2018222586
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 直之
(72)【発明者】
【氏名】細川 武広
(72)【発明者】
【氏名】溝口 誠
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002300(JP,A)
【文献】特開2009-287017(JP,A)
【文献】特開2009-007568(JP,A)
【文献】特表2003-530442(JP,A)
【文献】特開2015-183220(JP,A)
【文献】特開2015-151614(JP,A)
【文献】特開2018-177924(JP,A)
【文献】特開2014-065788(JP,A)
【文献】特開2018-131563(JP,A)
【文献】特開2017-095641(JP,A)
【文献】特開2017-052899(JP,A)
【文献】特表2008-540811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C23F 11/00
C23C 26/00
H01B 3/44,7/00,7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1)で表されるリン化合物を、組成物全量基準で、リン元素換算量として0.1~10質量%、
【化1】
上記一般式(1)において、R
1は水素原子を示し、R
2は炭素数4~30の炭化水素基を示し、R
3は水素原子または炭素数4~30の炭化水素基を示す。
(b)含金属化合物を、組成物全量基準で、金属元素換算量として0.1~10質量%、または、アミン化合物を、組成物全量基準で、窒素元素換算量として0.1~5.0質量%、
(c)溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する(メタ)アクリレートを、組成物全量基準で、1.0~70質量%、
(d)光重合開始剤または熱重合開始剤の少なくとも1種を、組成物全量基準で、0.1~10質量%、
配合してなることを特徴とする表面保護剤組成物。
【請求項2】
前記(b)の含金属化合物の金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護剤組成物。
【請求項3】
前記(a)の炭素数4~30の炭化水素基の少なくとも1つが、1以上の分岐鎖または1以上の炭素-炭素二重結合を有することを特徴とする請求項1または2に記載の表面保護剤組成物。
【請求項4】
前記(a)と前記(b)の合計と前記(c)の質量比が、((a)+(b)):(c)=98:2~10:90の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の表面保護剤組成物。
【請求項5】
さらに、(e)潤滑油基油を、組成物全量基準で、10~90質量%配合してなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の表面保護剤組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の表面保護剤組成物の硬化物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを特徴とする端子付き被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護剤組成物および端子付き被覆電線に関し、さらに詳しくは、金属腐食を防止する防食性能に優れる表面保護剤組成物およびこれを用いて防食性能に優れる端子付き被覆電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属機器や金属部品において、潤滑目的や防食目的などで、グリースなどが用いられている。例えば特許文献1には、パーフルオロエーテル基油、増稠剤、硫酸バリウムまたは酸化アンチモンを含有してなるグリースを機械部品に用いることが記載されている。また、例えば特許文献2には、金属表面を保護するための組成物として、潤滑油基油にゲル化剤を添加したものを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4811408号公報
【文献】特開平06-33272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の構成では、金属吸着成分が含まれていないため、金属表面への吸着力に劣り、金属腐食を防止する防食性能に劣る。また、グリースは、潤滑油基油に増稠剤を分散させて半固体または固体化したものである。グリースは、加熱すると粘度が大きく低下するので、加熱によって塗布しやすくなるが、熱が加わると流出しやすくなる。また、特許文献2の組成物も、潤滑油基油にゲル化剤を添加して寒天状に固化したものであり、加熱すると容易に液状になるため、加熱によって塗布しやすい。特許文献2の組成物は、ゲル化剤の選択によって、高温条件下でも流出しにくくできることはあるが、高温条件下でも流出しにくい構成であると、金属表面に塗布する際の加熱温度も高温になり、塗布しにくくなる。塗布する金属機器や金属部品への熱的影響、加熱による製造コストなども考慮すると、温度による状態変化によって塗布と硬化を行う特許文献2の組成物では、塗布性と耐熱性を必ずしも満足するものとはいえない。また、ゲル化剤の種類によっては、組成物全体の相溶性が悪くなり、十分な防食性能を発揮できないおそれもある。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、塗布性に優れるとともに、均一な膜を形成して金属腐食を防止する防食性能に優れる表面保護剤組成物およびこれを用いた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る表面保護剤組成物は、
(a)下記一般式(1)で表されるリン化合物を、組成物全量基準で、リン元素換算量として0.1~10質量%、
【化1】
上記一般式(1)において、R
1は水素原子を示し、R
2は炭素数4~30の炭化水素基を示し、R
3は水素原子または炭素数4~30の炭化水素基を示す。
(b)含金属化合物を、組成物全量基準で、金属元素換算量として0.1~10質量%、または、アミン化合物を、組成物全量基準で、窒素元素換算量として0.1~5.0質量%、
(c)溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する(メタ)アクリレートを、組成物全量基準で、1.0~70質量%、
(d)光重合開始剤および熱重合開始剤の少なくとも1種を、組成物全量基準で、0.1~10質量%、
配合してなることを要旨とするものである。
【0007】
本発明に係る表面保護剤組成物は、前記(b)の含金属化合物の金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、前記(a)の炭素数4~30の炭化水素基の少なくとも1つが、1以上の分岐鎖または1以上の炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。また、前記(a)と前記(b)の合計と前記(c)の質量比が、((a)+(b)):(c)=98:2~10:90の範囲内であることが好ましい。そして、本発明に係る表面保護剤組成物は、さらに、(e)潤滑油基油を、組成物全量基準で、10~90質量%配合してなるものであってもよい。
【0008】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線は、本発明に係る表面保護剤組成物の硬化物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る表面保護剤組成物によれば、(a)のリン化合物および(b)の含金属化合物またはアミン化合物を配合していることで、塗布した金属表面に吸着することができる。また、(c)の(メタ)アクリレートおよび(d)の光重合開始剤を配合していることで、硬化前は液状にすることができ、塗布性に優れる。そして、(c)は、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する(メタ)アクリレートであることから、組成物には相分離や白濁が発生せず、均一液となる。このような均一な組成物から形成した塗膜は均一な膜となるため、金属腐食を防止する防食性能を十分に発揮することができる。
【0010】
上記(b)の含金属化合物の金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であると、(a)のリン化合物が塗布する金属表面に強く吸着することができる。上記(a)の炭素数4~30の炭化水素基の少なくとも1つが、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素-炭素二重結合構造を有すると、(a)の炭化水素基同士の配向が抑えられ、(a)の結晶性が低下するので、(c)との相溶性が向上する。(a)と(b)の合計と(c)の質量比が、((a)+(b)):(c)=98:2~10:90の範囲内であると、本保護剤組成物の硬化物を高温下で融解しにくくする効果と、表面保護剤組成物の金属表面への吸着力が強く、金属表面の腐食を抑える効果のバランスに優れる。さらに、(e)潤滑油基油を、組成物全量基準で、10~90質量%配合してなるものであると、本保護剤組成物の常温での塗布性が向上する。
【0011】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線によれば、均一な組成物を形成する塗布性に優れた上記の表面保護剤組成物の硬化物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われており、その硬化物は均一な膜を形成して金属腐食を防止する防食性能に優れるので、電気接続部での腐食が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る表面保護剤組成物(以下、本保護剤組成物ということがある。)は、下記の(a)~(d)を配合してなる。本保護剤組成物は、下記の(a)~(d)に加え、さらに下記の(e)を配合してなるものであってもよい。
【0015】
(a)は、下記一般式(1)で表されるリン化合物である。リン化合物は、下記一般式(1)で表されるように、炭化水素基からなる極性の低い部分(親油性部分)と、リン酸基を含む極性の高い部分を有している。
【化2】
上記一般式(1)において、R
1は水素原子を示し、R
2は炭素数4~30の炭化水素基を示し、R
3は水素原子または炭素数4~30の炭化水素基を示す。
【0016】
炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキル置換アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。これらのうちでは、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基であるアルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基が好ましい。(a)の炭化水素基が脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基であると、(e)潤滑油基油を含む場合において、(e)潤滑油基油との相溶性が向上する。
【0017】
アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基としては、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、イソステアリル基、ブチルオクチル基、ミリスチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、ベヘニル基、イソベヘニル基などが挙げられる。
【0018】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロへプチル基、ジメチルシクロへプチル基、メチルエチルシクロへプチル基、ジエチルシクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基の置換位置は、特に限定されない。
【0019】
アルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルケニル基としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、オレイル基などが挙げられる。
【0020】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基としては、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、へプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基の置換位置は、特に限定されない。アルキル置換アリール基のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基などが挙げられる。アリールアルキル基のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0021】
(a)において、炭素数4~30の炭化水素基の少なくとも1つは、炭素数8~30の炭化水素基であることが好ましい。また、(a)において、炭素数4~30の炭化水素基の少なくとも1つは、1以上の分岐鎖または1以上の炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。(a)の炭化水素基が分岐鎖または炭素-炭素二重結合を有すると、(a)の炭化水素基同士の配向が抑えられ、(a)の結晶性が低下し、(c)との相溶性が向上する。また、(e)潤滑油基油を含む場合において、(e)潤滑油基油との相溶性が向上する。
【0022】
上記一般式(1)で表される具体的なリン化合物としては、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、イソブチルアシッドホスフェイト、2-エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ジ-ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ-イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ-イソセチルアシッドホスフェイト、ジ-ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ-イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ-イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ-オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ-オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ-イソブチルアシッドホスフェイト、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ-イソデシルアシッドホスフェイト、ジ-トリデシルアシッドホスフェイト、ジ-オレイルアシッドホスフェイト、ジ-ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ-パルミチルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。
【0023】
(a)は、組成物全量基準で、リン元素換算量として0.1~10質量%配合する。組成物全量基準で、(a)の量がリン元素換算量として0.1質量%未満であると、本保護剤組成物の金属表面への吸着力が弱く、金属表面の腐食を抑える効果が低い。組成物全量基準で、(a)の量がリン元素換算量として10質量%超であると、相対的に(c)の量が少なくなりすぎて、本保護剤組成物を硬化させても融点の高いゲルを形成できず、耐熱性が十分でない。また、金属表面への吸着力の観点から、(a)は、組成物全量基準で、リン元素換算量として、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。また、耐熱性の観点から、(a)は、組成物全量基準で、リン元素換算量として、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0024】
(b)は、含金属化合物、または、アミン化合物である。これらは、(b)として1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。本保護剤組成物が塗布された金属表面において、(b)により金属表面の金属のイオン化が促進され、リン化合物が金属表面に吸着することができる。これにより、本保護剤組成物が金属表面に吸着することができる。含金属化合物としては、金属水酸化物、金属酸化物などが挙げられる。
【0025】
含金属化合物の金属としては、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらの金属は、イオン化傾向が比較的高いため、共存することにより金属表面の金属のイオン化が促進され、リン化合物が金属表面に強く吸着することができる。
【0026】
含金属化合物の金属としては、親水性の観点から、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などの価数が2価以上のものが好ましい。また、耐水性などの観点から、Ca,Mgがより好ましい。
【0027】
含金属化合物は、組成物全量基準で、金属元素換算量として0.1~10質量%配合する。組成物全量基準で、含金属化合物の量が金属元素換算量として0.1質量%未満であると、(a)のリン化合物が金属表面にイオン結合を形成し金属表面に吸着する吸着力が弱く、本保護剤組成物による金属表面の腐食を抑える効果が低い。また、組成物全量基準で、含金属化合物の量が金属元素換算量として10質量%超であると、余剰の含金属化合物の影響が大きくなり、保護効果が得られない。また、(a)のリン化合物の吸着力の観点から、含金属化合物は、組成物全量基準で、金属元素換算量として、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。また、含金属化合物は、組成物全量基準で、金属元素換算量として、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0028】
アミン化合物としては、炭素数2~100の炭化水素基を有する有機アミン化合物が挙げられる。好ましくは、炭素数2~22の炭化水素基を有する有機アミン化合物である。また、酸化安定性などの観点から炭素数8以上の炭化水素を有するものがより好ましい。アミン化合物は、1級~3級のいずれであっても良い。
【0029】
アミン化合物としては、より具体的にはオクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、オレイルアミン、牛脂アルキルアミン、硬化牛脂アルキルアミン、アニリン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチル牛脂アルキルアミン、ジメチル硬化牛脂アルキルアミン、ジメチルオレイルアミンなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらのうちでは、オクチルアミン、ステアリルアミンが好ましい。
【0030】
アミン化合物は、組成物全量基準で、窒素元素換算量として0.1~5.0質量%配合する。組成物全量基準で、アミン化合物の量が窒素元素換算量として0.1質量%未満であると、(a)のリン化合物が金属表面にイオン結合を形成し金属表面に吸着する吸着力が弱く、本保護剤組成物による金属表面の腐食を抑える効果が低い。また、組成物全量基準で、アミン化合物の量が窒素元素換算量として5.0質量%超であると、余剰のアミン化合物の影響が大きくなり、保護効果が得られない。また、(a)のリン化合物の吸着力の観点から、アミン化合物は、組成物全量基準で、窒素元素換算量として、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。また、アミン化合物は、組成物全量基準で、窒素元素換算量として、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。
【0031】
(c)は、特定の(メタ)アクリレートである。(メタ)アクリレートは、常温で液状のものが多い。また、光硬化または熱硬化によって耐熱性に優れる硬化物を形成する。(c)の(メタ)アクリレートが(a)や(a)と(b)の混合物、下記の(e)との相溶性に優れると、(a)や(a)と(b)の混合物、下記の(e)は(c)の重合物中に保持され、(a)や(a)と(b)の混合物、下記の(e)は高温下で流出しにくくなる。これにより、本保護剤組成物は、常温下でも塗布しやすく、塗布性に優れるものとなる。また、本保護剤組成物の硬化物は高温下で融解しにくく、耐熱性に優れるものとなる。
【0032】
(c)は、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する(メタ)アクリレートである。(a)や、(a)と(b)の混合物、下記の(e)は、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する。このため、(a)や、(a)と(b)の混合物、下記の(e)を含む組成物において、(c)として溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する(メタ)アクリレートを用いることで、相分離や白濁が発生せず、均一液となる。このような均一な組成物から形成した塗膜は均一な膜となるため、金属腐食を防止する防食性能を十分に発揮することができる。
【0033】
(c)は、(メタ)アクリロイル基以外の部分に極性基を有していないことが好ましい。これにより、(メタ)アクリル重合体の側鎖が極性基とならないため、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶しやすくなる。このような(メタ)アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、アルキル置換シクロアルキル(メタ)アクリレート、アルケニル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、アルキル置換アリール(メタ)アクリレート、アリールアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
(c)は、2以上の炭素-炭素二重結合を有するものを含んでいてもよい。すなわち、(c)は、1つの炭素-炭素二重結合を有するもののみで構成されていてもよいし、1つの炭素-炭素二重結合を有するものと2以上の炭素-炭素二重結合を有するものを含んでいてもよいし、2以上の炭素-炭素二重結合を有するもののみで構成されていてもよい。2以上の炭素-炭素二重結合を有する(メタ)アクリレートは、光重合または熱重合により3次元構造の重合物となり、高温下でより融解しにくいため、2以上の炭素-炭素二重結合を有するものを含むと、本保護剤組成物の硬化物は耐熱性により優れるものとなる。
【0035】
(c)の炭素-炭素二重結合には、(メタ)アクリロイル基に含まれる炭素-炭素二重結合やアルケニル基に含まれる炭素-炭素二重結合が含まれる。(c)の(メタ)アクリレートは、アルケニル基を有するものであれば単官能(メタ)アクリレートであってもよいし、アルケニル基を有するか否かにかかわらず2官能以上の多官能(メタ)アクリレートであってもよい。(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートのいずれか一方または両方を含むものである。
【0036】
(c)は、炭素数4以上の炭化水素鎖を有することが好ましい。(c)において、炭素数4以上の炭化水素鎖は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。また、1以上の炭素-炭素二重結合を含んでいてもよい。炭素数4以上の炭化水素鎖は、好ましくは炭素数8以上の炭化水素鎖である。また、好ましくは炭素数30以下の炭化水素鎖である。より好ましくは炭素数22以下の炭化水素鎖である。炭素数4以上の炭化水素鎖としては、アルキル鎖、シクロアルキル鎖、アルキル置換シクロアルキル鎖、アルケニル鎖、アリール鎖、アルキル置換アリール鎖、アリールアルキル鎖などが挙げられる。これらのうちでは、脂肪族炭化水素鎖、脂環族炭化水素鎖であるアルキル鎖、シクロアルキル鎖、アルキル置換シクロアルキル鎖、アルケニル鎖が好ましい。
【0037】
(c)の(メタ)アクリレートとしては、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレートや、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのEO付加物又はPO付加物のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらは、(c)として1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(c)は、組成物全量基準で、1.0~70質量%配合する。組成物全量基準で、(c)の量が1.0質量%未満であると、本保護剤組成物の硬化物を高温下で融解しにくくする効果が低い。また、組成物全量基準で、(c)の量が70質量%超であると、相対的に(a)の量が少なくなりすぎるので、本保護剤組成物の金属表面への吸着力が弱く、金属表面の腐食を抑える効果が低い。また、高温下で融解しにくくする観点から、(c)は、組成物全量基準で、より好ましくは5.0質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。また、金属表面への吸着力の観点から、(c)は、組成物全量基準で、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0039】
また、(c)の配合量は、(a)および(b)との関係で、(a)と(b)の合計と(c)の質量比が、((a)+(b)):(c)=98:2~10:90の範囲内であることが好ましい。(a)~(c)の合計に対する(c)の配合量が2.0質量%以上であると、あるいは、(a)~(c)の合計に対する(a)+(b)の配合量が98質量%以下であると、本保護剤組成物の硬化物を高温下で融解しにくくする効果が高い。また、この観点から、(a)~(c)の合計に対する(c)の配合量は、より好ましくは5.0質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、20質量%以上である。また、(a)~(c)の合計に対する(c)の配合量が90質量%以下であると、あるいは、(a)~(c)の合計に対する(a)+(b)の配合量が10質量%以上であると、本保護剤組成物の金属表面への吸着力が強く、金属表面の腐食を抑える効果が高い。また、この観点から、(a)~(c)の合計に対する(c)の配合量は、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0040】
(d)は、光重合開始剤および熱重合開始剤の少なくとも1種である。光重合開始剤は、紫外線などの光を吸収してラジカル重合を開始させる化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。光重合開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、エチルアントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらは、(d)として1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。(d)としては、市販品として、例えば、IRGACURE184、369、651、500、907、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24-61;Darocure1116、1173,LucirinTPO(以上、BASF社の商品名)、ユベクリルP36(UCB社の商品名)等を用いることができる。熱重合開始剤は、熱によってラジカル重合を開始させる化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。熱重合開始剤としては、過酸化物が挙げられる。過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどが挙げられる。(d)は、組成物全量基準で、0.1~10質量%配合する。
【0041】
(e)は、潤滑油基油である。本保護剤組成物が(e)を含むと、本保護剤組成物の常温での塗布性が向上する。(e)は、組成物全量基準で、10~90質量%配合することが好ましい。より好ましくは30~70質量%である。
【0042】
潤滑油基油としては、通常の潤滑油の基油として用いられる任意の鉱油、ワックス異性化油、合成油の1種または2種以上の混合物を使用することができる。鉱油としては、具体的には、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
【0043】
ワックス異性化油としては、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは一酸化炭素と水素との混合物を高温高圧で適用な合成触媒と接触させる、いわゆるFischer Tropsch合成方法で生成される合成ワックスなどのワックス原料を水素異性化処理することにより調製されたものが使用できる。ワックス原料としてスラックワックスを使用する場合、スラックワックスは硫黄と窒素を大量に含有しており、これらは潤滑油基油には不要であるため、必要に応じて水素化処理し、硫黄分、窒素分を削減したワックスを原料として用いることが望ましい。
【0044】
合成油としては、特に制限はないが、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー等のポリα-オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0045】
潤滑油基油の動粘度は、特に限定されるものではないが、通常、100℃において1~150mm2/sの範囲内であることが好ましい。また、揮発性および製造時の扱いやすさに優れることから、100℃における動粘度が2~130mm2/sの範囲内であることがより好ましい。動粘度は、JIS K2283に準拠して測定される。
【0046】
本保護剤組成物においては、本発明の機能を損なわない範囲において、安定化剤、腐食防止剤、色素、増粘剤、フィラーなどを配合してもよい。
【0047】
本保護剤組成物は、(a)~(d)をまとめて混合することにより調製してもよいし、(a)と(b)を混合した後、(c)~(d)をさらに加えて混合することにより調製してもよい。本保護剤組成物が(e)や添加剤を含む場合には、(a)~(e)および添加剤をまとめて混合することにより調製してもよいし、(a)と(b)を混合した後、(c)~(e)および添加剤をさらに加えて混合することにより調製してもよい。
【0048】
被塗布材の表面に本保護剤組成物を塗布するか、本保護剤組成物中に被塗布材を浸漬することにより、被塗布材の表面に本保護剤組成物をコーティングすることができる。被塗布材としては、金属材が挙げられる。金属材の金属種としては、Cu、Cu合金、Al、Al合金、これらに各種めっきが施された金属材など、端子金具や電線導体などにおいて好適に用いられる金属が挙げられる。本保護剤組成物は、被塗布材の表面にコーティングした後、紫外線などの光を照射して、硬化することができる。これにより、被塗布材の表面が本保護剤組成物の硬化物に覆われる。本保護剤組成物の硬化物の膜厚は、特に限定されるものではなく、0.5~100μm程度に調整すればよい。
【0049】
以上の構成の本保護剤組成物によれば、(a)のリン化合物および(b)の含金属化合物またはアミン化合物を配合していることで、塗布した金属表面に吸着することができる。また、(c)の(メタ)アクリレートおよび(d)の光重合開始剤を配合していることで、硬化前は液状にすることができ、塗布性に優れる。そして、(c)は、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する(メタ)アクリレートであることから、相分離や白濁が発生せず、均一液となる。このような均一な組成物から形成した塗膜は均一な膜となるため、金属腐食を防止する防食性能を十分に発揮することができる。
【0050】
本保護剤組成物は、防食用途などに用いることができる。例えば、表面保護対象の金属部材の表面に密着させて該金属表面を覆って金属腐食を防止する防食用として用いることができる。また、防食用途としては、例えば端子付き被覆電線の防食剤などとして用いることができる。
【0051】
次に、本発明に係る端子付き被覆電線について説明する。
【0052】
本発明に係る端子付き被覆電線は、絶縁電線の導体端末に端子金具が接続されたものにおいて、本保護剤組成物の硬化物により端子金具と電線導体の電気接続部が覆われたものからなる。本保護剤組成物は均一な組成物を形成するとともに塗布性に優れ、本保護剤組成物の硬化物は均一な膜を形成して金属腐食を防止する防食性能に優れる。これにより、電気接続部での腐食が防止される。
【0053】
図1は、本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図であり、
図2は
図1におけるA-A線縦断面図である。
図1、
図2に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0054】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0055】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0056】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本保護剤組成物の硬化物7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、硬化物7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように硬化物7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように硬化物7で覆われる。そして、
図2に示すように、端子金具5の側面5bも硬化物7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは硬化物7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。硬化物7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0057】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が硬化物7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は硬化物7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は硬化物7により完全に覆われる。硬化物7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、硬化物7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、硬化物7の周端で硬化物7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0058】
硬化物7を形成する本保護剤組成物は、所定の範囲に塗布される。硬化物7を形成する本保護剤組成物の塗布は、滴下法、塗布法等の公知の手段を用いることができる。
【0059】
硬化物7は、所定の厚みで所定の範囲に形成される。その厚みは、0.01~0.1mmの範囲内が好ましい。硬化物7が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。硬化物7が薄くなりすぎると、防食性能が低下しやすくなる。
【0060】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0061】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0062】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0063】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0064】
なお、
図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0066】
(相溶性評価)
溶解度パラメータが既知の下記の溶媒(表1)を用い、(a)と(b)の混合物、(c)、(e)、その他成分との相溶性を評価した。具体的には、(a)と(b)の混合物、(c)、(e)、その他成分の各0.5mlと下記の溶媒0.5mlを混合し、超音波で1分間攪拌した後、10000rpmで10分間遠心分離を行った。得られた液に相分離・白濁が見られなかった場合を良好「○」、得られた液に相分離または白濁が見られた場合を不良「×」とした。その結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
・(a)成分
(a-1)オレイルアシッドホスフェイト
(a-2)2-エチルヘキシルアシッドホスフェイト
・(b)成分
(b-1)水酸化カルシウム
(b-2)塩基性炭酸亜鉛
・(c)成分
(c-1)ヘキサンジオールジアクリレート
(c-2)ビスフェノールAジアクリレート
(c-3)ペンタエリスリトールトリアクリレート
・その他成分
(x-4)ヒドロキシエチルアクリレート
(x-5)テトラエチレングリコールジアクリレート
・(e)成分
(e-1)鉱物系基油:動粘度=30mm2/s(100℃)
(e-2)合成油:動粘度=50mm2/s(100℃)
(e-3)流動パラフィン
【0069】
表1の結果から、(a)と(b)の混合物は、SP値8.2以下の溶媒と相溶する一方で、SP値9.1以上の溶媒とは相溶しないことがわかる。また、(e)は、SP値8.2以下の溶媒と相溶する一方で、SP値10以上の溶媒とは相溶しないことがわかる。これらから、(a)と(b)の混合物や(e)はSP値8.2以下の溶媒と相溶するが、比較的SP値の高い溶媒とは相溶しないことがわかる。そして、(c)は、SP値8.2以下の溶媒と相溶する。一方で、(x-4)、(x-5)のような側鎖に極性基を持つものはSP値8.2以下の溶媒と相溶しないがSP値9.1以上の溶媒とは相溶することがわかる。
【0070】
<表面保護剤組成物の調製>
(実施例1)
オレイルアシッドホスフェイトのメタノール溶液に水酸化カルシウムを加え、室温で攪拌後、メタノールを留去し、次いで、ヘキサンジオールジアクリレートおよび光重合開始剤を配合し、表面保護剤組成物を調製した。配合組成(質量%)は表2の通りである。
【0071】
(実施例2~14)
表2に記載の配合組成(質量%)で、実施例1と同様にして、表面保護剤組成物を調製した。実施例10~14は、さらに(e)潤滑油基油を配合している。実施例5は、含金属化合物に代えてアミン化合物を用いている。実施例8は、光重合開始剤に代えて熱重合開始剤を用いている。実施例9は、光重合開始剤に加えて熱重合開始剤を用いている。
【0072】
(比較例1)
(a)および(b)を配合しなかった以外は、潤滑油基油を配合している実施例10と同様にして、表面保護剤組成物を調製した。
【0073】
(比較例2)
(c)を配合しなかった以外は、潤滑油基油を配合している実施例10と同様にして、表面保護剤組成物を調製した。
【0074】
(比較例3~4)
(c)の代わりに(x-4)または(x-5)を配合した以外は、潤滑油基油を配合していない実施例2と同様にして、表面保護剤組成物を調製した。
【0075】
<評価>
(組成物の相溶性評価)
調製した表面保護剤組成物について、10000rpmで10分間遠心分離を行い、目視にて相溶性を確認した。得られた液に相分離・白濁が見られなかった場合を良好「○」、得られた液に相分離または白濁が見られた場合を不良「×」とした。
【0076】
(防食性評価)
調製した各表面保護剤組成物を0.05gずつ2cm×2cmの銅板上に常温でスポット塗布した後、光重合開始剤を用いた組成物については、塗膜の表面にUVランプ(SEN特殊光源社製100mW/cm2)で20秒間照射を行い、熱重合開始剤を用いた組成物については、120℃のオーブン中で30分静置し、塗膜を硬化させた。得られた試験片を、塩水噴霧試験に1000時間投入した。塩水噴霧試験は、JIS Z2371に準拠した。外観上、重度の腐食が見られたものを「×」、一部に腐食が見られたものを「△」、腐食が見られなかったものを「○」とした。
【0077】
【0078】
実施例に係る表面保護剤組成物によれば、(a)のリン化合物および(b)の含金属化合物またはアミン化合物を配合していることで、塗布した金属表面に吸着することができる。また、(c)の(メタ)アクリレートおよび(d)の光重合開始剤を配合していることで、硬化前は液状にすることができ、塗布性に優れる。そして、(c)として、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する(メタ)アクリレート(c-1),(c-2),(c-3)を用いているため、同じく溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する、(a)と(b)の混合物や(e)を含む組成物において、相分離や白濁が発生せず、均一液となることがわかる。このような均一な組成物から形成した塗膜は均一な膜となるため、実施例に示すように、塩水噴霧試験において銅板の腐食が抑えられている。
【0079】
一方、(c)に代えて、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶しない(メタ)アクリレート(x-4),(x-5)を用いると、溶解度パラメータ8.2以下の溶媒と相溶する、(a)と(b)の混合物や(e)を含む組成物において、相分離や白濁が発生し、均一液とならないことがわかる。このような不均一な組成物から形成した塗膜は均一な膜とはならないため、比較例3,4に示すように、塩水噴霧試験において銅板の腐食が生じている。そして、比較例1の表面保護剤組成物は、(a)および(b)を含まないため、塗膜は金属表面に吸着しておらず、金属腐食を防止する防食性能に劣り、塩水噴霧試験において銅板の腐食が生じている。比較例2の表面保護剤組成物は、(c)を含まないため、緻密な膜とならず、金属腐食を防止する防食性能に劣り、長期の塩水噴霧試験において銅板の腐食が生じている。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
3 電線導体
4 絶縁被覆(絶縁体)
5 端子金具
6 電気接続部
7 硬化物