(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】組換えDsbCを発現する細菌宿主系統
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20220425BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220425BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220425BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220425BHJP
C12N 15/70 20060101ALI20220425BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N1/21
C12N15/70 Z
C12P21/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019200029
(22)【出願日】2019-11-01
(62)【分割の表示】P 2017209932の分割
【原出願日】2012-07-13
【審査請求日】2019-11-29
(32)【優先日】2011-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507073918
【氏名又は名称】ユセベ ファルマ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】エリス、マーク
(72)【発明者】
【氏名】ハンフリーズ、デイビッド ポール
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6431370(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/036454(WO,A1)
【文献】特表2010-521967(JP,A)
【文献】特表2004-530419(JP,A)
【文献】特表2004-537262(JP,A)
【文献】国際公開第2003/048208(WO,A2)
【文献】特許第5960608(JP,B2)
【文献】特許第5960607(JP,B2)
【文献】特許第5896569(JP,B2)
【文献】GEORGIOU, G. and SEGATORI, L.,Curr. Opin. Biotechnol.,2005年,Vol.16,pp.538-545
【文献】KOLAJ, O. et al.,Microb. Cell Fact.,2009年,Vol.8,Art. No.9(pp.1-17)
【文献】ARAMINI, J.M. et al.,Biochemistry,2008年,Vol.47,pp.9715-9717
【文献】POLGAR, L.,Cell. Mol. Life Sci.,2005年,Vol.62,pp.2161-2172
【文献】BACHMANN, B.J.,Bacteriol. Rev.,1972年,Vol.36, No.4,pp.525-557
【文献】CHEN, C. et al.,Biotechnol. Bioeng.,2004年,Vol.85, No.5,pp.463-474
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え大腸菌(E.coli)細胞であって;
a)ノックアウト変異Tsp遺伝子である、変異Tsp遺伝子、
b)アミノ酸C94にミスセンス変異を有する、spr遺伝子、並びに
c)DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド、及び
CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド
を含む発現ベクター、
を含み;
ここで細胞が、上記変異Tsp及びspr遺伝子以外は、大腸菌W3110に対して同質遺伝子的であるゲノムを有し;そして
抗体又はその抗原結合フラグメントが、CDRH1として配列番号1、CDRH2として配列番号2及びCDRH3として配列番号3で与えられる配列を有する3つのCDRを含む重鎖可変ドメイン並びにCDRL1として配列番号4、CDRL2として配列番号5及びCDRL3として配列番号6で与えられる配列を有する3つのCDRを含む可変ドメイン軽鎖を含む、
上記細胞。
【請求項2】
DsbCがN末端又はC末端でヒスチジンタグを含む、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
発現ベクターが配列番号45又は配列番号51で与えられる配列を有するポリヌクレオチドを含む、請求項1又は2に記載の細胞。
【請求項4】
前記1つ又は複数のポリヌクレオチドが、配列番号8で与えられる軽鎖可変領域配列及び配列番号10で与えられる重鎖可変領域を含む抗体をコードする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の細胞。
【請求項5】
抗体がFab又はFab’フラグメントである、請求項1から4までのいずれか一項に記載の細胞。
【請求項6】
前記Fab又はFab’フラグメントが、配列番号12で与えられる配列を有する軽鎖及び配列番号14又は16で与えられる配列を有する重鎖を含む、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
変化したsprタンパク質をコードするポリヌクレオチド内の変異により、94位でアミノ酸システインからアラニンへの変化(C94A)が生じている、請求項1から6までのいずれか一項に記載の細胞。
【請求項8】
発現ベクターが、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを生成するためのジシストロン性メッセージを含み、上流シストロンが前記抗体の軽鎖をコードするDNAを含有し、下流シストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含有し、ジシストロン性メッセージがIGS1(配列番号33)、IGS2(配列番号34)、IGS3(配列番号35)及びIGS4(配列番号36)から選択される配列を含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の細胞。
【請求項9】
CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを生成するための方法であって、
a)請求項1から8までのいずれか一項に記載の組換え大腸菌細胞を培養培地中、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント及びDsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを発現するのに効果的な条件下で培養するステップと、
b)CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを、組換え大腸菌細胞のペリプラズム及び/又は培養培地から回収するステップと
を含む上記方法。
【請求項10】
前記抗体の重鎖及び/又は軽鎖のC末端終端の又は近くのアミノ酸に、
抗悪性腫瘍薬、薬物、毒素、酵素、他の抗体又は抗体フラグメント、ポリマー、核酸、放射性核種、及びレポーターグループからなる群から選択されるエフェクター分子を結合させるステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
エフェクター分子がポリ(エチレングリコール)又はメトキシポリ(エチレングリコール)を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、前記重鎖のC末端終端のシステイン残基のうちの1つに、リシル-マレイミド基を結合させるステップを含み、リシル残基のそれぞれのアミノ基が20,000Daの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)残基を共有結合させている、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え細菌宿主系統、特に大腸菌(E.coli)に関する。本発明は、このような細胞中で対象のタンパク質を生成するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌などの細菌細胞は、グリコシル化を必要としない組換えタンパク質を生成するために一般的に用いられる。特に、プラスミドによって遺伝子の挿入を可能にする宿主細胞として細菌細胞が多用途であるという性質のため、組換えタンパク質を生成するのに大腸菌などの細菌細胞を用いると有利な点が多い。大腸菌は、ヒトインスリンを含めた多くの組換えタンパク質を生成するのに用いられている。
【0003】
細菌細胞を使用して組換えタンパク質を生成するのには多くの利点があるが、それでも不十分な細胞の健康状態の表現型を含む重大な限界が存在する。
【0004】
したがって、組換えタンパク質を生成するための有利な手段を提供する新しい細菌系統を提供する必要性がまだ存在する。
【0005】
体液性及び細胞性免疫の発生は、活性化されたヘルパーT細胞と抗原提示細胞(「APC」)及びエフェクターT細胞との相互作用により組織化される。ヘルパーT細胞の活性化は、抗原特異的T細胞受容体(「TCR」)とその同族ペプチドMHCリガンドとの相互作用に依存するだけではなく、いくつかの細胞接着同時刺激分子による同調的結合及び活性化も必要とする。
【0006】
CD40に結合する天然受容体はCD40リガンド(CD40-L=CD154)、すなわち活性化依存性時間的制約性の形態でCD4+T細胞の表面で発現される極めて重要な同時刺激分子である。CD154は、CD8+T細胞のサブセット、好塩基球、マスト細胞、好酸球、ナチュラルキラー細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞及び血小板上でも、活性化後に発現される。CD40は、B細胞及び他の抗原提示細胞を含む多くの細胞型の表面で構成的に広く発現される。
【0007】
CD154との会合後CD40を通じたシグナル伝達は細胞事象のカスケードを開始し、CD40受容体担持細胞の活性化及び最適CD4+T細胞プライミングが生じる。さらに具体的には、CD154がCD40に結合することにより、B細胞の抗体分泌細胞及び記憶B細胞への分化が促進される。
【0008】
体液性と細胞性免疫応答の両方の機能を調節する際のCD154の中心的役割により、治療的免疫調節のためにこの経路の阻害剤を使用することに対する大きな関心が引き起こされた。したがって、抗CD154抗体は、他の治療タンパク質又は遺伝子治療、アレルゲン、自己免疫及び移植に対する免疫応答の広範囲なモデルにおいて有益であることが明らかにされている(例えば、US5,474,771号及びWO2008/118356を参照されたい。前記特許文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれる)。
【0009】
治療的適用に適したCD40とCD154の相互作用に干渉する大量の抗体又は抗体フラグメントを効率的に及びコスト効率よく生成する必要性が当技術分野には存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
a)DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド、及び
b)CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド
を含む組換えグラム陰性細菌細胞を提供する。
【0011】
さらに具体的には、本発明は、
a)DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを含み、
b)野生型細胞と比べて低減したTspタンパク質活性を有し、
c)CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを有する
ことを特徴とする、組換えグラム陰性細菌細胞を提供する。
【0012】
一実施形態では、前記細胞は、例えば、低減活性Tsp表現型を抑制することができる野生型spr遺伝子又は変異spr遺伝子を含む。
【0013】
本発明のグラム陰性細菌細胞は、有利な増殖及びタンパク質生成表現型を示す。
【0014】
さらに具体的には、本発明は、ヒスチジン(His)-タグを含み、好ましくは配列his-his-his-his-his-his(6×ヒスチジン)を含むDsbCポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドを含む組換えグラム陰性細菌細胞を提供する。
【0015】
さらに具体的には、本発明は、配列番号45又は配列番号51に従った配列を有するポリヌクレオチドを含む組換えポリヌクレオチドを含む組換えグラム陰性細菌細胞を提供する。
【0016】
本発明は、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする組換えポリヌクレオチドを含む発現ベクターも提供する。
【0017】
さらに具体的には、本発明は、ヒスチジン(His)-タグを含み、好ましくは配列his-his-his-his-his-his(6×ヒスチジン)を含むDsbCポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0018】
さらに具体的には、本発明は、配列番号45又は配列番号51に従った配列を有するポリヌクレオチドを含む組換えポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0019】
本発明は、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを生成するための方法であって、
a)CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント及びDsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを発現するのに効果的な条件下で培養培地において上記に規定した組換えグラム陰性細菌細胞を培養するステップと、
b)CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを組換えグラム陰性細菌細胞のペリプラズム及び/又は培養培地から回収するステップと
を含む上記方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態による細胞を生成するのに用いるためのベクターの構成を示す図である。
【
図2】システイン残基を介してリシル-マレイミドリンカーに共有結合している修飾Fab’フラグメントを含む化合物であって、リシル残基上のそれぞれのアミノ基にはメトキシPEG残基が共有結合しており、nは約420~450である前記化合物の構造を示す図である。
【
図3】抗CD154 Fab’発現系統であるW3110の増殖プロファイル及び抗CD154 Fab’と組換えDsbC発現系統であるMXE016の増殖プロファイルを示す図である(W3110ΔTsp、sprC94A)。組換えDsbCを発現しているMXE016系統は、W3110系統と比べて最初のバッチ相において改善された増殖プロファイル及び増殖速度を示していることが分かる。
【
図4】コントロール系統W3110と比べた組換えDsbCを発現しているMXE016系統由来のペリプラズム(黒記号)及び上清(白記号)からの全Fab’収率(g/L)を示す図である。DsbC発現系統は、W3110と比べて高いペリプラズムFab’発現を示している。さらに、DsbCを発現しているMXE016系統は、W3110系統と比べて同等の細胞外Fab’レベルを示している。
【
図5】発酵抽出物の逆相HPLC解析の結果を示す図である。抗CD154 Fab’を発現している野生型W3110系統は、高レベルの分解カッパ軽鎖(軽鎖[LC]フラグメント)を示している。これとは対照的に、組換えDsbC及び抗CD154 Fab’を発現しているMXE016(W3110ΔTsp、sprC94A)系統は、Tspプロテアーゼ活性の欠如のせいでほとんどどんな軽鎖フラグメントも示していない。
【
図6】W3110系統における及び組換えDsbCを発現しているMXE016(W3110ΔTsp、sprC94A)系統における発酵からの抗CD154 Fab’(g/L)の収穫を示す図である。組換えDsbCを発現しているMXE016(W3110ΔTsp、sprC94A)系統からの収穫のほうが実質的に高く、細胞外Fab’は細胞溶解リスクのマーカーであり細胞外FabはペリプラズムFab’のために使用されるのと同じ工程を使用しては簡単には回収されないので有益である実質的に少ない細胞外Fab’を示している。
【
図7】抗CD154 Fab’(g/L)を発現している(a)と(b)の両方の場合の(a)W3110細胞系統及び(b)組換えDsbCを発現しているMXE016(W3110ΔTsp、sprC94A)細胞系統の生存率を示す図である。組換えDsbCを発現しているMXE016細胞(W3110ΔTsp、sprC94A)系統のほうが高い生存率を示している。
【
図8】抗CD154 Fab’を発現しているMXE016系統の発酵からの全Fab’収率(g/L)を示す図である。右の棒グラフはさらに組換えDsbCを発現しているMXE016系統を表している。組換えDsbC系統を発現しているMXE016系統のほうが高い収率を示している。
【
図9】変異を受けたptr遺伝子内の領域のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す図である。
【
図10】変異を受けたTsp遺伝子内の領域のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す図である。
【
図11】変異を受けたDegP遺伝子内の領域のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す図である。
【0021】
配列の簡単な説明
【0022】
配列番号1は、抗CD154抗体のCDRH1のアミノ酸配列を示す。
【0023】
配列番号2は、抗CD154抗体のCDRH2のアミノ酸配列を示す。
【0024】
配列番号3は、抗CD154抗体のCDRH3のアミノ酸配列を示す。
【0025】
配列番号4は、抗CD154抗体のCDRL1のアミノ酸配列を示す。
【0026】
配列番号5は、抗CD154抗体のCDRL2のアミノ酸配列を示す。
【0027】
配列番号6は、抗CD154抗体のCDRL3のアミノ酸配列を示す。
【0028】
配列番号は7、抗CD154抗体(342)の可変軽鎖(gL4)のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0029】
配列番号8は、抗CD154抗体(342)の可変軽鎖(gL4)のアミノ酸配列を示す。
【0030】
配列番号9は、抗CD154抗体(342)の可変重鎖(gH1)のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0031】
配列番号10は、抗CD154抗体(342)の可変重鎖(gH1)のアミノ酸配列を示す。
【0032】
配列番号11は、抗CD154抗体フラグメントの軽鎖(gL4)の可変及び定常領域を含むポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0033】
配列番号12は、抗CD154抗体フラグメントの軽鎖(gL4)の可変及び定常領域を含むアミノ酸配列を示す。
【0034】
配列番号13は、ヒンジ領域に欠失のある可変及びCH1領域を含む抗CD154抗体の重鎖フラグメントのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0035】
配列番号14は、ヒンジ領域に欠失のある可変及びCH1領域を含む抗CD154抗体の重鎖フラグメントのアミノ酸配列を示す。
【0036】
配列番号15は、可変、CH1及びヒンジ領域を含む抗CD154抗体の重鎖フラグメントのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0037】
配列番号16は、可変、CH1及びヒンジ領域を含む抗CD154抗体の重鎖フラグメントのアミノ酸配列を示す。
【0038】
配列番号17は、シグナルペプチド(アミノ酸1~22)を含む抗CD154抗体(342)のカッパ軽鎖のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0039】
配列番号18は、シグナルペプチド(アミノ酸1~22)を含む抗CD154抗体(342)のカッパ軽鎖のアミノ酸配列を示す。
【0040】
配列番号19は、アグリコシル化IgG4抗CD154抗体の全重鎖のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0041】
配列番号20は、アグリコシル化IgG4抗CD154抗体の全重鎖のアミノ酸配列を示す。
【0042】
配列番号21は、gL4及びgH1をコードするポリヌクレオチド配列を示す(ヒンジなし)。
【0043】
配列番号22は、gL4及びgH1をコードするポリヌクレオチド配列を示す。
【0044】
配列番号23は、野生型大腸菌spr(GenBank受託番号D86610)のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0045】
配列番号24は、野生型大腸菌spr(GenBank受託番号D86610)のアミノ酸配列を示す。
【0046】
配列番号25は、シグナル配列を有する野生型大腸菌Tsp(GenBank受託番号M75634)のポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0047】
配列番号26は、シグナルペプチドを有する野生型大腸菌Tsp(GenBank受託番号M75634)のアミノ酸配列を示す。
【0048】
配列番号27は、野生型大腸菌DsbC(NCBIReference配列AP_003452)のアミノ酸配列を示す。
【0049】
配列番号28は、ノックアウト変異Tsp遺伝子のポリヌクレオチド配列を示す。
【0050】
配列番号29は、野生型大腸菌DegPのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0051】
配列番号30は、野生型大腸菌DegPのアミノ酸配列を示す。
【0052】
配列番号31は、点変異S210A及びAseI制限マーカーを含むDegPのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0053】
配列番号32は、点変異S210A及びAseI制限マーカーを含むDegPのアミノ酸配列を示す。
【0054】
配列番号33から36は、それぞれジシストロン性遺伝子間配列(IGS)IGS1、IGS2、IGS3及びIGS4を示す。
【0055】
配列番号37は、野生型大腸菌OmpTのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0056】
配列番号38は、野生型大腸菌OmpTのアミノ酸配列を示す。
【0057】
配列番号39は、ノックアウト変異大腸菌OmpTのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0058】
配列番号40は、ノックアウト変異大腸菌OmpTのアミノ酸配列を示す。
【0059】
配列番号41は、点変異D210A及びH212Aを含む変異大腸菌OmpTのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0060】
配列番号42は、点変異D210A及びH212Aを含む大腸菌OmpTのアミノ酸配列を示す。
【0061】
配列番号43は、野生型大腸菌DsbCのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0062】
配列番号44は、野生型大腸菌DsbCのアミノ酸配列を示す。
【0063】
配列番号45は、EcoRI制限部位を欠きHisタグを有する大腸菌DsbCのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0064】
配列番号46は、EcoRI制限部位を欠きHisタグを有する大腸菌DsbCのアミノ酸配列を示す。
【0065】
配列番号47は、プライマー6283Tsp3’のポリヌクレオチド配列を示す。
【0066】
配列番号48は、プライマー6283Tsp5’のポリヌクレオチド配列を示す。
【0067】
配列番号49は、野生型大腸菌ptrのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す(GenBank受託番号X06227に従ってプロテアーゼIII)。
【0068】
配列番号50は、野生型大腸菌ptrのアミノ酸配列を示す(GenBank受託番号X06227に従ってプロテアーゼIII)。
【0069】
配列番号51は、Hisタグを有する野生型大腸菌DsbCのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【0070】
配列番号52は、Hisタグを有する野生型大腸菌DsbCのアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
Tsp(Prcとしても知られている)は、60kDaのペリプラズムプロテアーゼである。Tspの最初に知られた基質はペニシリン結合性タンパク質-3(PBP3)であったが(「Determination of the cleavage site involved in C-terminal processing of penicillin-binding protein 3 of Escherichia coli」(Haraら、4799~813頁、Nagasawaら、5890~93頁)、Tspはファージテイルタンパク質を切断することもできることが後に発見され、したがってテイル特異的プロテアーゼ(Tail Specific Protease)(Tsp)と新たに命名され(Silber、Keiler、及びSauer、295~99頁、Silber及びSauer、237~40頁)、prc遺伝子のセグメントをKanrマーカーを含むフラグメントで置換することによって変異が作り出されたprcの欠失系統(KS1000)について記載している。
【0072】
Tsp(prc)活性を低減することは、対象のタンパク質のタンパク質分解を低減するのに望ましい。Fabタンパク質分解は、軽鎖不純物と呼ぶことができるフラグメントなどの不純物の存在として現れることがある。
【0073】
しかし、プロテアーゼprcを欠く細胞は、低いモル浸透圧濃度で熱感受性の増殖を示すことが見出された。Haraらは、遺伝子外サプレッサー(spr)変異を含む熱耐性復帰変異体を単離した(Haraら、63~72頁)。sprは、18kDaの膜結合ペリプラズムプロテアーゼであり、sprの基質は細胞分裂の間細胞壁の加水分解に関与する外膜におけるTsp及びペプチドグリカンである。spr遺伝子は、UniProtKB/Swiss-Prot P0AFV4(SPR_ECOLI)と呼ばれている。
【0074】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼは、タンパク質がフォールディングするときのタンパク質内のシステイン残基間のジスルフィド結合の形成及び切断を触媒する酵素である。宿主細胞中でタンパク質の発現を改善するジスルフィド結合の形成を触媒するタンパク質を同時発現することが知られている。WO98/56930は細菌細胞中で異種性のジスルフィド結合含有ポリペプチドを生成するための方法を開示しており、DsbC又はDsbGなどの原核生物のジスルフィドイソメラーゼが真核生物のポリペプチドと同時発現される。US6,673,569は、外来タンパク質を生成するのに用いるためのDsbA、DsbB、DsbC、及びDsbDの各々をコードするポリヌクレオチドを含む人工オペロンを開示している。EP0786009は、細菌において異種性のポリペプチドを生成するためのプロセスを開示しており、DsbA又はDsbCをコードする核酸の発現は、異種性のポリペプチドをコードする核酸の発現の誘導の前に誘発される。
【0075】
DsbCは、大腸菌におけるジスルフィド結合の形成を触媒する大腸菌のペリプラズムにおいて見出された原核生物のタンパク質である。DsbCは、236個(シグナルペプチドを含む)の長さのアミノ酸配列、及び分子量25.6KDaを有する(UniProt No.p0AEG6)。DsbCは、1994年に始めて同定された(Missiakas、Georgopoulos、及びRaina、2013~20頁、Shevchik、Condemine、及びRobert-Baudouy、2007~12頁)。
【0076】
驚くべきことに、グラム陰性細菌細胞におけるDsbCの過剰発現は、プロテアーゼTspを欠く細胞の培養中の溶解を低減することが見出されている。したがって、本発明者らは、対象のタンパク質を生成するための有利な性質を有する新規な系統を提供する。
【0077】
遺伝子修飾の上記の特異的な組合せを有するグラム陰性細菌細胞は、有利な増殖及びタンパク質生成の表現型を示す。
【0078】
一実施形態では、細胞のゲノムは、野生型細胞と比べてTspタンパク質活性を低減するのに必要な修飾を除いて、野生型細菌細胞に対して同質遺伝子的であることが好ましい。
【0079】
さらなる実施形態では、本発明の細胞は、野生型細胞と比べて低減したTspタンパク質活性を有しており、DsbC及び変化したsprタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチドを含む。この実施形態では、細胞のゲノムは、変異spr遺伝子及び野生型細胞と比べてTspタンパク質の発現の低減又は非存在をもたらす修飾を除いて、野生型細菌細胞に対して同質遺伝子的であることが好ましい。
【0080】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」の語は、文脈上別段の記載がなければ、本明細書において交換可能に用いられる。「ペプチド」は20個以下のアミノ酸を意味するものとされる。
【0081】
「ポリヌクレオチド」の語は、文脈上別段の記載がなければ、遺伝子、DNA、cDNA、RNA、mRNA並びにロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、モルフォリノ核酸、グリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)等を含むがこれらに限定されないその類似物を含む。
【0082】
本明細書で用いられる「含んでいる(comprising)」の語は、本明細書の文脈において「含んでいる(including)」と解釈されたい。
【0083】
本発明の文脈における非変異細胞又はコントロール細胞は、本発明の組換えグラム陰性細胞と同じ型の細胞であって、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを担持するように修飾されていない上記細胞を意味する。例えば、非変異細胞は野生型細胞であってよく、あらゆる組換えポリヌクレオチド(単数又は複数)を導入する修飾の前の本発明の細胞と同じ宿主細胞の集団に由来してよい。
【0084】
「細胞」、「細胞系」、「細胞培養物」、及び「系統」の表現は交換可能に用いられる。
【0085】
「同質遺伝子的」の語は、本発明の文脈において、本発明を特徴付けるその中に組み込まれたエレメント、例えば、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド、及び任意選択によってTspタンパク質の発現の低減又は非存在をもたらす修飾、及び任意選択によって変異spr遺伝子を除いて、細胞が野生型細胞と比べて同じ又は実質的に同じ核酸配列(単数又は複数)を含むことを意味する。この実施形態では、本発明の細胞はこれ以上天然に存在しない又はそのゲノムに遺伝的に操作された変化を含まない。
【0086】
DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又は抗体若しくはその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドが細胞のゲノムに挿入されている一実施形態では、DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又は抗体若しくはその抗原結合フラグメントをコードする1つ若しくは複数のポリヌクレオチド、及び任意選択によってTspタンパク質の発現の低減若しくは非存在又はプロテアーゼ活性が低減しているTspタンパク質の発現をもたらす修飾、及び任意選択によって野生型と比べた場合活性が低減しているタンパク質をコードする変異spr遺伝子を除いて、本発明の細胞は、存在することがある任意の天然に存在する変異を考慮に入れて、野生型細胞と比べて実質的に同じゲノム配列を有していてもよい。一実施形態では、DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又は抗体若しくはその抗原結合フラグメントをコードする1つ若しくは複数のポリヌクレオチドが細胞のゲノムに挿入されているが、本発明の細胞は、DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又は抗体若しくはその抗原結合フラグメントをコードする1つ若しくは複数のポリヌクレオチドを除いて、野生型細胞と比べて全く同じゲノム配列を有していてもよい。
【0087】
DsbCをコードするポリヌクレオチドは、細胞中に形質転換され、及び/又は宿主細胞のゲノム中に組み入れられた適切な発現ベクター上に存在していてよい。DsbCをコードするポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノムに挿入されている実施形態では、本発明の細胞はDsbCをコードする挿入されたポリヌクレオチドのせいで野生型細胞とは異なっている。この実施形態では、宿主細胞のゲノムは、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを除いて、野生型細胞ゲノムと比べて同質遺伝子的であってもよい。
【0088】
DsbCをコードするポリヌクレオチドが細胞中の発現ベクター中にあり、それによって宿主細胞のゲノムの最小のかく乱をもたらすのが好ましい。
【0089】
CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドは、細胞内に形質転換される及び/又は宿主細胞のゲノム内に組み込まれる適切な発現ベクター内に含まれていてもよい。CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドが宿主ゲノム内に挿入されている実施形態では、本発明の細胞は抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする挿入されたポリヌクレオチド(単数又は複数)のせいで野生型細胞とは異なる。この実施形態では、宿主細胞のゲノムは、抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチド(単数又は複数)を除いて、野生型細胞ゲノムと比べて同質遺伝子的であってもよい。対象のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが細胞中の発現ベクター中にあり、それによって宿主細胞のゲノムの最小のかく乱をもたらすのが好ましい。
【0090】
一実施形態では、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドは宿主ゲノム内に挿入されている。この実施形態では、DsbCをコードする挿入された組換えポリヌクレオチド及び抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド、及び任意選択によってTspタンパク質の発現の低減若しくは非存在又はプロテアーゼ活性が低減しているTspタンパク質の発現をもたらす修飾、及び任意選択によって野生型と比べた場合活性が低減しているタンパク質をコードする変異spr遺伝子のせいで、本発明の細胞は野生型細胞とは異なっている。この実施形態では、宿主細胞のゲノムは、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及び抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを除いて、野生型細胞ゲノムと比べて同質遺伝子的であってもよい。
【0091】
好ましい実施形態では、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドは細胞内の同じ又は異なる発現ベクター中に存在しており、それによって宿主細胞のゲノムの最小限の破壊を引き起こす。この実施形態では、細胞のゲノムは野生型細胞のゲノムと比べて実質的に同じでも全く同じでもよい。
【0092】
一実施形態では、Tsp活性が低減しており任意選択によってspr遺伝子又はその変異体を有し、前記Tsp活性への修飾及び前記spr遺伝子におけるいかなる変異も細胞ゲノムの変化を通じてもたらされる組換え大腸菌細胞が提供される。この実施形態に従った細胞は、ベクターDsbC及びCD154に特異的に結合する抗体又はその結合フラグメントをコードするプラスミドなどのベクターで形質転換されてもよい。一実施形態では、ベクター又はプラスミドは細胞のゲノム内に組み込まれない。
【0093】
「野生型」の語は、本発明の文脈において、天然に存在していてもよいし環境から単離されてもよいグラム陰性細菌細胞の系統であり、いかなる組換えポリヌクレオチド又は遺伝的に操作された変異も担持していない系統を意味する。大腸菌の野生型系統の例は、K-12系統であり、その血統系統W3110大腸菌系統K-12は現在で90年間培養されてきた(Bachmann 525~57頁)。大腸菌系統K-12及びW3110などのその血統系統は当技術分野では周知である。W3110系統は例えば、カタログ番号27325で米国培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手可能である。W3110は遺伝子型:F-、λ-、IN(rrnD-rrnE)1、rph-1を有する。
【0094】
本発明者らは、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを発現するのに適しており、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを含む組換えグラム陰性細菌細胞を提供してきた。
【0095】
本発明による細胞は、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを含んでいる。本明細書で用いられる「組換えポリペプチド」は、組換えDNA技術を用いて構築又は生成されるタンパク質を意味する。DsbCをコードするポリヌクレオチドは、野生型細菌細胞中に見出されるDsbCをコードする内在性のポリヌクレオチドに同一であってよい。或いは、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドは、例えば、EcoRI部位などの制限部位及び/又はhisタグがDsbCタンパク質から取り除かれるように変更されている野生型DsbCポリヌクレオチドの変異バージョンである。本発明において使用するための例となる修飾DsbCポリヌクレオチドは、配列番号45に示されており、この配列は配列番号46に示されるhisタグ付きDsbC配列をコードしている。
【0096】
DsbCは、アミノ酸-CXXC-(XXはアミノ酸GYを表す)を含む活性部位の存在により特徴付けられる。DsbCのバリアントには、それぞれのXが独立して選択されるアミノ酸を表す-CXXC-が含まれる(但し、XXはGYを表さない)。XXの例には、NY、SF、TF、MF、GF、HH、VH、SH、RF、FA、GA、MA、GI又はAVが含まれる。
【0097】
一実施形態では、本発明の宿主細胞は、例えば、特に上記のように活性部位が変更されているDsbCのバリアントを含む。
【0098】
一実施形態では、DsbCのバリアントは、例えば、インビトロアッセイにおいて測定された場合、少なくとも野生型タンパク質の生物活性を有する。
【0099】
一実施形態では、DsbCのバリアントは、例えば、インビトロアッセイにおいて測定された場合、野生型タンパク質よりも大きな生物活性を有する。
【0100】
一実施形態では、DsbCのバリアントは、活性部位-CXXC-(XXはNY、SF、TF、MF、GF、HH、VH、SHを表す)に変更を有する。
【0101】
一実施形態では、DsbCは野生型である。
【0102】
本発明者らは、細菌細胞中でのDsbCをコードする組換えポリヌクレオチドの発現の選択により、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを発現するための改善された宿主細胞が提供されることを確認していた。本発明により提供される細胞は、野生型細菌細胞と比べて細胞の健康状態及び増殖の改善された表現型を有する。
【0103】
本明細書で用いられる改善された細胞の健康状態は、本発明の特長を保有していない細胞と比べて1つ又は複数の改善された特性、例えば、増殖期での若しくは細胞中での異種タンパク質の発現の誘導後の細胞溶解のより低い傾向又は当業者には公知の他の有益な特性を指すことを意図している。
【0104】
本発明の細胞は、野生型細菌細胞と比べて、抗体又は抗体フラグメントなどの改善されたタンパク質生成収率を示す。改善されたタンパク質収率は、タンパク質生成速度であっても、及び/又は細胞からのタンパク質生成の期間であってもよい。改善されたタンパク質収率は、ペリプラズマのタンパク質収率でも、及び/又は上清のタンパク質収率でもよい。組換え細菌細胞は、抗体又はそのフラグメントなどのタンパク質の生成速度を速めることが可能であることがあり、したがって同じ量の対象のタンパク質が、非変異細菌細胞に比べてより短時間で生成され得る。対象のタンパク質の生成速度がより速いのは、細胞の増殖の最初の期間にわたって、例えば、タンパク質発現の誘導後最初の5時間、10時間、20時間、又は30時間にわたって、特に著しいことがある。
【0105】
本発明による細胞が、ペリプラズム及び/又は培地において、抗体のおよそ1.0g/L、1.5g/L、1.8g/L、2.0g/L、2.4g/L、2.5g/L、3.0g/L、3.5g/L、又は4.0g/Lの、収率を発現するのが好ましい。
【0106】
有利なことに、低減したTspタンパク質活性及び/又はDsbCの同時発現により、本明細書では軽鎖フラグメント(LC)と呼ばれる望ましくない不純物の生成が低減する。例えば、
図5を参照されたい。
【0107】
当業者であれば、発酵法、ELISA、及びタンパク質G HPLCを含めた当技術分野においてよく知られている方法を用いて、それが望ましい収率の対象のタンパク質を有するか否かを見るために、候補の細胞クローンを試験することが容易にできる。適切な発酵法は、(Humphreys et al.193~202頁;Backlund et al.358~65頁)に記載されており、これらの文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれる。当業者であれば、タンパク質G HPLC、円偏光二色性、NMR、X線結晶構造解析、及びエピトープ親和性測定方法など、当技術分野においてよく知られている方法を用いて、タンパク質が正確にフォールディングされているか否かを見るために分泌されたタンパク質を試験することも容易にできる。
【0108】
一実施形態では、本発明の細胞は、例えば、大腸菌W3110 K-12系統などの対応する野生型細胞と比べて、以下のような1つ又は複数のさらなるタンパク質も発現する又は過剰発現する:
タンパク質のフォールディングを促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、FkpA、Skp、SirA、PPiA、及びPPid、並びに/或いは、
タンパク質の分泌若しくは翻訳を促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、SecY、SecE、SecG、SecYEG、SecA、SecB、FtsY、及びLep、並びに/或いは、
ジスルフィド結合の形成を促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、DsbA、DsbB、DsbD、DsbG。
【0109】
1つ又は複数の上記のタンパク質を、細胞のゲノム中に組み入れてもよく、且つ/又は発現ベクター中に挿入してもよい。
【0110】
一実施形態では、本発明の細胞は、以下のさらなるタンパク質のうちの1つ又は複数を発現しない又は、例えば、大腸菌W3110 K-12系統などの対応する野生型細胞のレベルよりも少なくとも50%、75%又は90%低いレベルで発現する:
タンパク質のフォールディングを促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、FkpA、Skp、SurA、PPiA、及びPPiD、
タンパク質の分泌又は翻訳を促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、SecY、SecE、SecG、SecYEG、SecA、SecB、FtsY、及びLep、並びに
ジスルフィド結合の形成を促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、DsbA、DsbB、DsbD、DsbG。
【0111】
一実施形態では、本発明の細胞は、FkpA、Skp及びその組合せから選択される1つ又は複数のさらなるタンパク質も発現する。
【0112】
一実施形態では、前記細胞は、以下の変異遺伝子、
a)変異spr遺伝子、
b)低減したプロテアーゼ活性を有するTspタンパク質をコードする、又はノックアウト変異Tsp遺伝子である変異Tsp遺伝子、
c)シャペロン活性及び低減したプロテアーゼ活性を有するDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子、
d)低減したプロテアーゼ活性を有するプロテアーゼIIIタンパク質をコードする、又はノックアウト変異ptr遺伝子である変異ptr遺伝子、及び
e)例えば、配列番号42に示される低減したプロテアーゼ活性を有するOmpTタンパク質をコードする、又は、例えば、配列番号40に示されるノックアウト変異OmpT遺伝子である変異OmpT遺伝子
のうちの1つ又は複数をさらに含む。
【0113】
本発明の基本的実施形態では、グラム陰性細菌細胞は、染色体Tspが欠損しているなどのノックアウト変異Tsp遺伝子を担持していない。
【0114】
後者の変異は、Tspプロテアーゼ活性がエルボー領域において抗体産物を切断し、それによって副産物をかなりの量で生成し目的の産物の収率を低減させ得るので、CD154に特異的に結合する抗体及びそのフラグメントの生成には特に重要である。
【0115】
したがって、一実施形態では、本発明の細胞は、変異Tsp遺伝子であって、低減したプロテアーゼ活性を有するTspタンパク質をコードする、又はノックアウト変異Tsp遺伝子であり、CD154に特異的な抗体又はフラグメントに加えてDsbCタンパク質もコードする上記遺伝子を含む。
【0116】
本発明の実施形態において、細胞は変異spr遺伝子をさらに含んでいる。sprタンパク質は、大腸菌膜結合ペリプラズムプロテアーゼである。
【0117】
Sprタンパク質の野生型アミノ酸配列を、N末端にシグナル配列を有する配列番号24において示す(UniProt受諾番号P0AFV4によるアミノ酸1~26)。本発明におけるSprタンパク質配列のアミノ酸番号付けはシグナル配列を含んでいる。したがって、Sprタンパク質のアミノ酸1は、配列番号24に示す最初のアミノ酸(Met)である。
【0118】
本発明による細胞が変異spr遺伝子を含んでいる実施形態において、変異spr遺伝子が細胞の染色体spr遺伝子であるのが好ましい。変異spr遺伝子は、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞に関連する不利な表現型を抑制することができるSprタンパク質をコードしている。変異Tsp遺伝子を有する細胞は、良好な細胞増殖速度を有し得るが、これらの細胞の一つの制限は、特に高い細胞濃度で溶解する傾向があることである。したがって、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞の表現型は、特に高い細胞濃度で溶解する傾向がある。
【0119】
変異Tsp遺伝子を有する細胞は、低いモル浸透圧濃度で熱感受性の増殖を示す。しかし、本発明の細胞が有するspr変異は、低減したTsp活性を有する細胞中に導入した場合、低いモル浸透圧濃度で熱感受性の増殖のこの表現型を抑制し、したがって、細胞は、特に高い細胞密度で溶解の低減を表す。この細胞の「熱感受性の増殖」の表現型は、当業者であれば、フラスコ振盪又は高い細胞密度の発酵技術の間に容易に測定することができる。細胞溶解の抑制は、特にペリプラズムにおいて増殖速度の改善及び/又は組換えタンパク質の生成から見られ、Tsp変異体及び野生型sprを有する細胞に比べて、spr変異体を有し、低減したTsp活性を有する細胞によって示される。
【0120】
本発明による細胞は、好ましくはN31、R62、I70、Q73、C94、S95、V98、Q99、R100、L108、Y115、D133、V135、L136、G140、R144、H145、G147、H157、及びW174から選択される1つ又は複数のアミノ酸、より好ましくはC94、S95、V98、Y115、D133、V135、H145、G147、H157、及びW174から選択される1つ又は複数のアミノ酸の変化を有するsprタンパク質をコードする変異体spr遺伝子を含んでいる。好ましくは、変異体spr遺伝子は、N31、R62、I70、Q73、C94、S95、V98、Q99、R100、L108、Y115、D133、V135、L136、G140、R144、H145、G147、及びH157から選択される1つ又は複数のアミノ酸、より好ましくはC94、S95、V98、Y115、D133、V135、H145、G147、及びH157から選択される1つ又は複数のアミノ酸の変化を有するsprタンパク質をコードしている。この実施形態において、sprタンパク質にいかなるさらなるアミノ酸変化もないのが好ましい。好ましくは、変異体のspr遺伝子は、N31、R62、I70、Q73、S95、V98、Q99、R100、L108、Y115、D133、V135、L136、G140、R144、及びG147から選択される1つ又は複数のアミノ酸に、より好ましくはS95、V98、Y115、D133、V135、及びG147から選択される1つ又は複数のアミノ酸の変化を有するsprタンパク質をコードする。この実施形態において、sprタンパク質にいかなるさらなるアミノ酸変化もないのが好ましい。
【0121】
本発明者らは、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞の増殖の表現型を抑制することができるspr変化を同定している。
【0122】
本発明者らはまた、驚くべきことに、組換えDsbC遺伝子、変異spr遺伝子を有し、野生型細胞に比べて低減したTspタンパク質活性を有する細胞は、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞に比べて増大した細胞増殖速度、及び増大した細胞生存期間を示すことも見出した。特に、組換えDsbC遺伝子、sprタンパク質の変化を有し、低減したTspタンパク質活性を有する細胞は、培養中に変異Tsp遺伝子を有する細胞に比べて低減した細胞溶解を示す。
【0123】
上記のsprアミノ酸の1つ又は複数の変化は、アミノ酸をコードするヌクレオチドの1個、2個、又は3個に対するあらゆる適切なミスセンス変異の結果であってよい。変異は、アミノ酸残基を、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞の表現型を抑制することができる変異sprタンパク質をもたらすあらゆる適切なアミノ酸へ変化させる。ミスセンス変異は、アミノ酸を、野生型アミノ酸に比べて異なるサイズであり、且つ/又は異なる化学性質を有するアミノ酸へ変化させることができる。
【0124】
一実施形態において、変化は、C94、H145、及びH157のアミノ酸残基の触媒三残基の1つ、2つ、又は3つに対するものである(Araminiら、9715~17頁)。
【0125】
したがって、変異spr遺伝子は、
アミノ酸C94に影響を与える変異、又は
アミノ酸H145に影響を与える変異、又は
アミノ酸H157に影響を与える変異、又は
アミノ酸C94及びH145に影響を与える変異、又は
アミノ酸C94及びH157に影響を与える変異、又は
アミノ酸H145及びH157に影響を与える変異、又は
アミノ酸C94、H145、及びH157に影響を与える変異
を含んでいてよい。
【0126】
この実施形態において、sprタンパク質がいかなるさらなるアミノ酸変化も有さないのが好ましい。
【0127】
C94、H145、及びH157の1つ、2つ、又は3つが、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞の表現型を抑制することができるsprタンパク質をもたらすあらゆる適切なアミノ酸に変化されてよい。例えば、C94、H145、及びH157の1つ、2つ、又は3つは、Gly又はAlaなどの小型のアミノ酸に変化されてよい。したがって、sprタンパク質は、C94A(すなわち、94位のシステインはアラニンに変化する)、H145A(すなわち、145位のヒスチジンはアラニンに変化する)及びH157A(すなわち、157位のヒスチジンはアラニンに変化する)を生じる変異のうちの1つ、2つ又は3つを有し得る。spr遺伝子が、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞の表現型を抑制することができるsprタンパク質を生成することが見出されているH145Aに導くミスセンス変異を含んでいるのが好ましい。
【0128】
本明細書の置換変異体に対する呼称は、1つの文字とそれに続く1つの数字とそれに続く1つの文字からなる。最初の文字は野生型タンパク質におけるアミノ酸を指定する。数字はアミノ酸置換が行われるアミノ酸位置を表し、2番目の文字は野生型アミノ酸を置換するのに用いられるアミノ酸を指定する。
【0129】
好ましい一実施形態において、変異体のsprタンパク質は、N31、R62、I70、Q73、S95、V98、Q99、R100、L108、Y115、D133、V135、L136、G140、R144、及びG147から選択される1つ又は複数のアミノ酸の変化、好ましくはS95、V98、Y115、D133、V135、及びG147から選択される1つ又は複数のアミノ酸の変化を含んでいる。この実施形態において、sprタンパク質がいかなるさらなる変異を有さないのが好ましい。したがって、変異spr遺伝子は、
アミノ酸N31に影響を与える変異、又は
アミノ酸R62に影響を与える変異、又は
アミノ酸I70に影響を与える変異、又は
アミノ酸Q73に影響を与える変異、又は
アミノ酸S95に影響を与える変異、又は
アミノ酸V98に影響を与える変異、又は
アミノ酸Q99に影響を与える変異、又は
アミノ酸R100に影響を与える変異、又は
アミノ酸L108に影響を与える変異、又は
アミノ酸Y115に影響を与える変異、又は
アミノ酸D133に影響を与える変異、又は
アミノ酸V135に影響を与える変異、又は
アミノ酸L136に影響を与える変異、又は
アミノ酸G140に影響を与える変異、又は
アミノ酸R144に影響を与える変異、又は
アミノ酸G147に影響を与える変異
を含んでいてよい。
【0130】
一実施形態において、変異体spr遺伝子は、アミノ酸:
S95及びY115、又は
N31、Q73、R100及びG140、又は
Q73、R100及びG140、又は
R100及びG140、又は
Q73及びG140、又は
Q73及びR100、又は
R62、Q99及びR144、又は
Q99及びR144
に影響を与える複数の変異を含んでいる。
【0131】
N31、R62、I70、Q73、S95、V98、Q99、R100、L108、Y115、D133、V135、L136、G140、R144、及びG147の1つ又は複数のアミノ酸は、変異Tsp遺伝子を含んでいる細胞の表現型を抑制することができるsprタンパク質をもたらすあらゆる適切なアミノ酸に変化されてよい。例えば、N31、R62、I70、Q73、S95、V98、Q99、R100、L108、Y115、D133、V135、L136、G140、及びR144の1つ又は複数は、Gly又はAlaなどの小型のアミノ酸に変化されてよい。
【0132】
好ましい一実施形態において、sprタンパク質は、1つ又は複数の以下の変化を含んでいる:N31Y、R62C、I70T、Q73R、S95F、V98E、Q99P、R100G、L108S、Y115F、D133A、V135D又はV135G、L136P、G140C、R144C、及びG147C。sprタンパク質が1つ又は複数の以下の変化を含んでいるのが好ましい:S95F、V98E、Y115F、D133A、V135D又はV135G、及びG147C。この実施形態において、sprタンパク質にいかなるさらなるアミノ酸変化もないのが好ましい。
【0133】
一実施形態において、sprタンパク質は、N31Y、R62C、I70T、Q73R、C94A、S95F、V98E、Q99P、R100G、L108S、Y115F、D133A、V135D又はV135G、L136P、G140C、R144C、及びG147C、特にC94Aから選択されるアミノ酸変化を1つのみ有する。この実施形態において、sprタンパク質にいかなるさらなるアミノ酸変化もないのが好ましい。
【0134】
さらなる一実施形態において、sprタンパク質は、以下から選択される複数の変化を有する:
S95F及びY115F
N31Y、Q73R、R100G、及びG140C、
Q73R、R100G、及びG140C、
R100G及びG140C、
Q73R及びG140C、
Q73R及びR100G、
R62C、Q99P及びR144C、又は
Q99P及びR144C。
【0135】
変異体のspr遺伝子が、C94A、D133A、H145A、及びH157A、特にC94Aから選択されるアミノ酸変化を有するsprタンパク質をコードするのが好ましい。
【0136】
さらなる一実施形態において、変異spr遺伝子はアミノ酸変化W174Rを有するsprタンパク質をコードする。代替の一実施形態において、sprタンパク質はアミノ酸変化W174Rを有さない。
【0137】
本発明による細胞は、野生型細胞に比べて低減したTspタンパク質活性を有する。「野生型細胞に比べて低減したTspタンパク質活性」の表現は、細胞のTsp活性が野生型細胞のTsp活性に比べて低減していることを意味する。細胞を、Tspの活性を低減するのに適するあらゆる手段によって修飾することができる。
【0138】
一実施形態において、低減したTsp活性は、Tsp及び/又は関連の調節性の発現配列をコードする内因性ポリヌクレオチドの修飾による。修飾は、Tsp遺伝子の転写及び翻訳を低減又は停止することができ、或いは野生型Tspタンパク質に比べて低減したプロテアーゼ活性を有するTspタンパク質の発現を提供することができる。
【0139】
一実施形態において、関連の調節性の発現配列を、Tsp発現を低減するように修飾する。例えば、Tsp遺伝子に対するプロモーターを遺伝子の発現を防止するように変異させてもよい。
【0140】
好ましい一実施形態において、本発明による細胞は、低減したプロテアーゼ活性を有するTspタンパク質をコードする変異Tsp遺伝子、又はノックアウト変異Tsp遺伝子を有している。染色体のTsp遺伝子が変異しているのが好ましい。
【0141】
本明細書で用いられる「Tsp遺伝子」は、ペニシリン結合性タンパク質-3(PBP3)及びファージテイルタンパク質に対して作用することができるペリプラズムプロテアーゼであるプロテアーゼTsp(Prcとしても知られている)をコードする遺伝子を意味する。野生型Tsp遺伝子の配列を配列番号25に示し、野生型Tspタンパク質の配列を配列番号26に示す。
【0142】
変異Tsp遺伝子、又はTspをコードする変異Tsp遺伝子に対する言及は、別段の指摘がなければ、低減したプロテアーゼ活性を有するTspタンパク質をコードする変異Tsp遺伝子、又はノックアウト変異Tsp遺伝子のいずれかを意味する。
【0143】
「低減したプロテアーゼ活性を有するTspタンパク質をコードする変異Tsp遺伝子」の表現は、本発明の文脈において、変異Tsp遺伝子が野生型の非変異Tsp遺伝子に比べて完全なプロテアーゼ活性を有さないことを意味する。
【0144】
変異Tsp遺伝子が、野生型の非変異Tspタンパク質のプロテアーゼ活性の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は5%以下を有するTspタンパク質をコードするのが好ましい。変異Tsp遺伝子が、プロテアーゼ活性を有さないTspタンパク質をコードするのがより好ましい。この実施形態において、細胞は染色体Tspを欠くのではなく、すなわち、Tsp遺伝子配列はあらゆる形態のTspタンパク質の発現を防ぐように欠失又は変異されていない。
【0145】
低減したプロテアーゼ活性を有するタンパク質を生成するために、あらゆる適切な変異をTsp遺伝子中に導入することができる。グラム陰性細菌から発現されるTspタンパク質のプロテアーゼ活性は、Keiler et al.(Keiler and Sauer 28864~68頁)に記載されている方法などの当技術分野において適切な任意の方法により当業者により容易に試験することができる。前記文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれ、Tspのプロテアーゼ活性は試験された。
【0146】
TspはKeilerら(上述)において、残基S430、D441、及びK455を含む活性部位を有すると報告されており、残基G375、G376、E433、及びT452はTspの構造を維持するのに重要である。Keilerら(上述)は、アミノ酸変化S430A、D441A、K455A、K455H、K455R、G375A、G376A、E433A、及びT452Aを導く変異Tsp遺伝子には検出可能なプロテアーゼ活性がなかったという所見を報告している。S430Cを導く変異Tsp遺伝子は野生型活性の約5~10%を示したことがさらに報告されている。したがって、低減したプロテアーゼ活性を有するタンパク質を生成するためのTsp変異は、S430、D441、K455、G375、G376、E433、及びT452の1つ又は複数の残基の変化を導くミスセンス変異などの変異を含むことがある。低減したプロテアーゼ活性を有するタンパク質を生成するためのTsp変異が、活性部位の残基S430、D441、及びK455の1つ、2つ、又は3つ全てに影響を与えるミスセンス変異などの変異を含むことができるのが好ましい。
【0147】
したがって、変異Tsp遺伝子は以下を含むことができる:
アミノ酸S430に影響を与える変異、又は
アミノ酸D441に影響を与える変異、又は
アミノ酸K455に影響を与える変異、又は
アミノ酸S430及びD441に影響を与える変異、又は
アミノ酸S430及びK455に影響を与える変異、又は
アミノ酸D441及びK455に影響を与える変異、又は
アミノ酸S430、D441、及びK455に影響を与える変異。
【0148】
残基S430、D441、K455、G375、G376、E433、及びT452の1つ又は複数が、低減したプロテアーゼ活性を有するタンパク質をもたらすあらゆる適切なアミノ酸に変化していてよい。適切な変化の例には、S430A、S430C、D441A、K455A、K455H、K455R、G375A、G376A、E433A、及びT452Aがある。変異Tsp遺伝子は、活性部位残基の変化を導く1つ、2つ、又は3つの変異を含むことができ、例えば、遺伝子は以下を含むことができる:
S430A、若しくはS430C、及び/又は
D441A及び/又は
K455A若しくはK455H、若しくはK455R。
【0149】
Tsp遺伝子がS430A又はS430Cを導く変異を有するのが好ましい。
【0150】
「ノックアウト変異Tsp遺伝子」の表現は、本発明の文脈において、Tsp遺伝子が、Tspタンパク質を欠く細胞を提供するために、野生型遺伝子によってコードされるTspタンパク質の発現を防ぐ1つ又は複数の変異を含んでいることを意味する。ノックアウト遺伝子は、部分的又は完全に転写され得るが、コードタンパク質に翻訳されない。ノックアウト変異Tsp遺伝子は、タンパク質の発現をもたらさないように、1つ又は複数の欠失、挿入、点、ミスセンス、ナンセンス、及びフレームシフトの変異によるなど、あらゆる適切な方法において変異され得る。例えば、遺伝子は、遺伝子コード配列中に、抗生物質耐性マーカーなどの外来のDNA配列を挿入することによってノックアウトされてよい。
【0151】
好ましい一実施形態において、Tsp遺伝子は、遺伝子コード配列中に、抗生物質耐性マーカーなどの外来のDNA配列を挿入することによって変異されない。一実施形態において、Tsp遺伝子は、遺伝子開始コドン、並びに/或いは遺伝子開始コドンの下流、及び遺伝子終止コドンの上流に位置する1つ又は複数の終止コドンに対する変異を含んでおり、それによってTspタンパク質の発現を防いでいる。開始コドンに対する変異は、開始コドンの1つ、2つ、又は3つ全てのヌクレオチドのミスセンス変異であってよい。或いは、又はさらに、開始コドンは、挿入又は欠失のフレームシフト変異によって変異されてよい。Tsp遺伝子は、コード配列の5’末端に2つのATGコドンを含んでおり、ATGコドンの1つ又は両方はミスセンス変異によって変異されてよい。Tsp遺伝子は、
図10に示す通り、第2のATGコドン(コドン3)からTCGコドンに変異されてよい。Tsp遺伝子は、或いは、又はさらに、遺伝子開始コドンの下流及び遺伝子終止コドンの上流に位置する1つ又は複数の終止コドンを含んでいてよい。ノックアウト変異Tsp遺伝子が、開始コドンに対するミスセンス変異、及び1つ又は複数の挿入された終止コドンの両方を含んでいるのが好ましい。好ましい一実施形態において、Tsp遺伝子は第5のコドンから「T」を欠失するように変異されており、それによって、
図10に示す通り、コドン11及び16に終止コドンをもたらすフレームシフトを生じている。好ましい一実施形態において、
図10に示す通り、コドン21に第3のインフレーム終止コドンを作り出すように、Tsp遺伝子はAseI制限部位を挿入するように変異される。
【0152】
好ましい一実施形態において、ノックアウト変異Tsp遺伝子は配列番号25のDNA配列を有し、これは開始コドンの上流にATGAATの6個のヌクレオチドを含んでいる。配列番号25のノックアウト変異Tsp配列においてなされた変異を
図10に示す。一実施形態において、変異Tsp遺伝子は、配列番号25のヌクレオチド7から2048のDNA配列を有する。
【0153】
本発明の実施形態において、細胞は変異DegP遺伝子を含んでいる。本明細書で用いられる「DegP」は、DegPタンパク質(HtrAとしても知られている)をコードする遺伝子を意味し、DegPタンパク質はシャペロン及びプロテアーゼとしての二重機能を有する。野生型DegP遺伝子の配列を配列番号29に示し、非変異のDegPタンパク質の配列を配列番号30に示す。
【0154】
低温でDegPはシャペロンとして機能し、高温でDegPはプロテアーゼとしての機能を優先する。
【0155】
細胞がDegP変異を含んでいる実施形態において、細胞におけるDegP変異は、シャペロン活性を有するが完全なプロテアーゼを有さないDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子を提供する。
【0156】
「シャペロン活性を有する」の表現は、本発明の文脈において、変異DegPタンパク質が、野生型の非変異のDegPタンパク質に比べて同じ、又は実質的に同じシャペロン活性を有することを意味する。変異DegP遺伝子が、野生型の非変異のDegPタンパク質のシャペロン活性の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上を有するDegPタンパク質をコードするのが好ましい。変異DegP遺伝子が、野生型DegPに比べて同じシャペロン活性を有するDegPタンパク質をコードするのがより好ましい。
【0157】
「低減したプロテアーゼ活性を有する」の表現は、本発明の文脈において、変異DegPタンパク質が、野生型の非変異のDegPタンパク質に比べて完全なプロテアーゼ活性を有さないことを意味する。変異DegP遺伝子が、野生型の非変異のDegPタンパク質のプロテアーゼ活性の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は5%以下を有するDegPタンパク質をコードするのが好ましい。変異DegP遺伝子が、プロテアーゼ活性のないDegPタンパク質をコードするのがより好ましい。細胞は、染色体のDegPを欠くのではなく、すなわち、DegP遺伝子配列は、あらゆる形態のDegPタンパク質の発現を防ぐように欠失又は変異されていない。
【0158】
シャペロン活性及び低減したプロテアーゼ活性を有するタンパク質を生成するために、あらゆる適切な変異をDegP遺伝子中に導入することができる。グラム陰性細菌から発現されるDegPタンパク質のプロテアーゼ及びシャペロンの活性は、当業者であれば、DegPのプロテアーゼ及びシャペロン活性がDegPの天然の基質であるMalS上で試験される方法などのあらゆる適切な方法によって容易に試験することができる。
【0159】
DegPはセリンプロテアーゼであり、アミノ酸残基His105、Asp135、及びSer210の触媒三塩基からなる活性中心を有する。シャペロン活性及び低減したプロテアーゼ活性を有するタンパク質を生成するためのDegP変異は、His105、Asp135、及びSer210の1つ、2つ、又は3つに影響を与えるミスセンス変異などの変異を含んでいてよい。
【0160】
したがって、変異DegP遺伝子は以下を含んでいてよい:
アミノ酸His105に影響を与える変異、又は、
アミノ酸に影響を与える変異、又は、
アミノ酸に影響を与える変異、又は、
アミノ酸His105及びAsp135に影響を与える変異、又は、
アミノ酸His105及びSer210に影響を与える変異、又は、
アミノ酸Asp135及びSer210に影響を与える変異、又は、
アミノ酸His105、Asp135、及びSer210に影響を与える変異。
【0161】
His105、Asp135、及びSer210の1つ、2つ、又は3つは、シャペロン活性、及び低減したプロテアーゼ活性を有するタンパク質をもたらすあらゆる適切なアミノ酸に変化されていてよい。例えば、His105、Asp135、及びSer210の1つ、2つ、又は3つは、Gly又はAlaなどの小型のアミノ酸に変化されてよい。さらなる適する変異は、例えば、Asp135がLys又はArgに変化され、極性のHis105がGly、Ala、Val、又はLeuなどの非極性のアミノ酸に変化され、小型の親水性のSer210がVal、Leu、Phe、又はTyrなどの大型又は疎水性の残基に変化されるなど、His105、Asp135、及びSer210の1つ、2つ、又は3つの、反対の性質を有するアミノ酸への変化である。DegP遺伝子が、
図11に示す通り、シャペロン活性を有するがプロテアーゼを有さないタンパク質を生成することが見出されている変更S210Aを含んでいるのが好ましい。
【0162】
DegPは、タンパク質-タンパク質相互作用を媒介する、PDZ1(残基260~358)及びPDZ2(残基359~448)の2つのPDZドメインを有する。本発明の一実施形態において、degP遺伝子は、PDZ1ドメイン及び/又はPDZ2ドメインを欠失するように変異される。PDZ1及びPDZ2の欠失は、DegPタンパク質のプロテアーゼ活性の完全な喪失及び野生型DegPタンパク質に比べて低下したシャペロン活性をもたらし、PDZ1又はPDZ2いずれかの欠失は、野生型DegPタンパク質に比べて5%のプロテアーゼ活性及び同様のシャペロン活性をもたらす。
【0163】
変異DegP遺伝子は、例えば、
図11に示す通り、同定及びスクリーニング方法において助けとなるためにAseIなど、サイレントの天然に存在しない制限部位も含んでいてよい。
【0164】
点変異S210A及びAseI制限マーカー部位を含んでいる変異DegP遺伝子の好ましい配列を配列番号31に提供し、コードされるタンパク質配列を配列番号27に示す。配列番号32の変異DegP配列になされた変異を
図11に示す。
【0165】
細胞が、シャペロン活性及び低減したプロテアーゼ活性を有するDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子を含んでいる本発明の実施形態において、本発明が提供する1つ又は複数の細胞は、変異細胞に比べて細胞からの正確にフォールディングされたタンパク質の収率の改善を提供することができ、DegP遺伝子は、染色体欠損DegPなど、DegP発現を防ぐノックアウトDegPに対して変異されている。DegPの発現を防ぐノックアウト変異DegP遺伝子を含んでいる細胞においてDegPのシャペロン活性は完全に失われるが、本発明による細胞においてDegPのシャペロン活性は保持され、完全なプロテアーゼ活性は失われる。これらの実施形態において、本発明による1つ又は複数の細胞は、タンパク質のタンパク質分解性を防ぐようにプロテアーゼ活性は低減されており、宿主細胞におけるタンパク質において正確なフォールディング及び輸送を可能にするようにシャペロン活性は維持されている。
【0166】
一実施形態において、本発明によるグラム陰性細菌細胞は、染色体OmpT配列番号39を欠くなど、ノックアウト変異OmpT遺伝子を有さない。
【0167】
一実施形態において、本発明によるグラム陰性細菌細胞は、染色体degPを欠くなど、ノックアウト変異DegP遺伝子を有さない。一実施形態において、本発明によるグラム陰性細菌細胞は、変異DegP遺伝子を有さない。
【0168】
一実施形態において、本発明によるグラム陰性細菌細胞は、染色体ptrを欠くなど、ノックアウト変異ptr遺伝子を有さない。
【0169】
一実施形態では、本発明のグラム陰性細菌細胞は変異spr遺伝子を担持していない。
【0170】
あらゆる適切なグラム陰性細菌を、本発明の組換え細胞を生成するための親細胞として用いることができる。適切なグラム陰性細菌には、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)、軟腐病菌(Erwinia carotovora)、シゲラ(Shigella)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマンニイ(Acinetobacter baumannii)、及び大腸菌が含まれる。親細胞が大腸菌であるのが好ましい。本発明において大腸菌のあらゆる適切な系統を用いることができるが、K-12 W3110などの野生型W3110系統を用いるのが好ましい。
【0171】
予め作り出され、組換えタンパク質を発現するのに用いられる系統に付随する欠点は、大腸菌系統において、例えば、phoA、fhuA、lac、rec、gal、ara、arg、thi、及びproなど、細胞の代謝及びDNA複製に関与する遺伝子の変異の使用を伴う。これらの変異は、細胞の増殖、安定性、ペリプラズム漏出、組換えタンパク質発現収率、及び毒性に対する効果を含めた、宿主細胞に対する多くの有害効果を有し得る。これらのゲノムの変異を1つ又は複数有する系統、特にこれらの変異を多数有する系統は、細菌の増殖速度を、産業的なタンパク質生成に適さないレベルまで低減する適応度の喪失を表し得る。さらに、あらゆる上記のゲノムの変異は、予測不可能な有害な方法で、シス及び/又はトランスにおいて他の遺伝子に影響を及ぼし、それによって系統の表現型、適応度、及びタンパク質のプロファイルを変更し得る。さらに、大幅に変異した細胞を使用することは、商用、特に治療剤に使用するための組換えタンパク質を生成するのに一般に適さない、というのは、このような系統は一般的に欠陥のある代謝経路を有しており、したがって最小の培地又は化学的に規定された培地において不十分にしか増殖せず、又は全く増殖しないことがあるからである。
【0172】
好ましい実施形態では、細胞は、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及び抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを導入する最小限の変異のみを、並びに任意選択によってTspプロテアーゼ活性を低減させる変異、並びに任意選択によってspr遺伝子又はその変異体を担持している。
【0173】
DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又は抗体若しくはその抗原結合フラグメントをコードする1つ若しくは複数のポリヌクレオチドが細胞のゲノム内に挿入されている一実施形態では、DsbC及び/又は前記抗体をコードする組換えポリヌクレオチドを導入する最小限の変異のみが細胞のゲノムに加えられている。DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及び前記抗体をコードするポリヌクレオチドが同じ又は異なる発現ベクターに存在しているさらなる実施形態では、前記ゲノムは野生型細胞ゲノムに対して同質遺伝子的であるのが好ましい。
【0174】
一実施形態において、細胞は、細胞の増殖及び/又は対象のタンパク質を発現する能力に対して有害な効果を有し得るいかなる他の変異を有さない。したがって、本発明の1つ又は複数の組換え宿主細胞は、ゲノム配列に対して遺伝子操作した変異を含んでいる細胞に比べて、改善されたタンパク質発現及び/又は改善された増殖の特徴を表し得る。本発明が提供する細胞はまた、細胞のゲノムに対するかく乱を含んでいる細胞に比べて、治療用タンパク質の生成に用いるのにより適している。
【0175】
好ましい実施形態では、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド、並びに任意選択によってTspプロテアーゼ活性を低減させる変異、並びに任意選択によってspr遺伝子又はその変異体以外は、細胞は野生型大腸菌細胞に対して同質遺伝子的である。
【0176】
一実施形態では、DsbC及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを発現するのに適したプラスミドを用いて使用するための、低減したTsp活性及びspr遺伝子又はその変異体を有する以外は、大腸菌W3110系統に対して同質遺伝子的な細胞が提供される。
【0177】
さらに好ましくは、本発明の細胞は、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド以外は、大腸菌W3110系統に対して同質遺伝子的である。
【0178】
本発明により提供される細胞は、CD154に対して特異性のある抗原結合抗体フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを含む。
【0179】
本明細書で用いられる「細胞が含む」は、関係する実体が細胞のゲノムに組み込まれる場合、又は細胞が、前記実体を含有する及び一般には前記実体を発現するためのプラスミドなどのベクターを含有する場合を指すことが意図されている。
【0180】
前記抗体又は抗体フラグメントは、多価、多重特異的、ヒト化、完全ヒト又はキメラでもよい。抗体又は抗体フラグメントはあらゆる種からのものであってよいが、モノクローナル抗体、ヒト抗体、又はヒト化フラグメントに由来しているのが好ましい。抗体フラグメントは、免疫グロブリン分子のあらゆるクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、若しくはIgA)又はサブクラスに由来していてよく、例えば、マウス、ラット、サメ、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ、ヤギ、若しくはヒトを含めたあらゆる種から得ることができる。抗体フラグメントの部分は、1つを超える種から得ることができ、例えば、抗体フラグメントはキメラであってよい。一例において、定常領域はある種からであり、可変領域は別の種からである。
【0181】
抗体フラグメントは、VH、VL、VHH、Fab、修飾Fab,Fab’、F(ab’)2又はFvフラグメント;軽鎖又は重鎖モノマー又はダイマー;並びにダイアボディー;トリアボディー;テトラボディー;ミニボディー;ドメイン抗体又は一本鎖抗体、例えば、重鎖と軽鎖可変ドメインがペプチドリンカーにより結合している一本鎖Fv、Fab-Fv又はWO2009/040562に記載されるFab-dAbなどの二重特異性抗体でもよい。同様に、重鎖及び軽鎖可変領域は、必要に応じて他の抗体ドメインと組み合わせてもよい。抗体フラグメントは当技術分野では公知である(Holliger and Hudson 1126~36頁)。
【0182】
CD154に特異的に結合する抗体は、好ましくはWO2008/118356(この特許文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載される抗体342である、又はWO2008/118356に記載される抗体342のCDR若しくは可変重鎖及び軽鎖領域を含む。CD154に特異的に結合する抗体フラグメントは、好ましくはWO2008/118356に記載される抗体342由来である、並びに/又は前記抗体のCDR若しくは可変重鎖及び軽鎖領域を含む。
【0183】
一実施形態では、CD154に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントは、可変ドメインが3個のCDRを含み、CDRがCDRH1では配列番号1、CDRH2では配列番号2及びCDRH3では配列番号3から選択される重鎖を含む。
【0184】
一実施形態では、CD154に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントは、可変ドメインが3個のCDRを含み、CDRがCDRL1では配列番号4、CDRL2では配列番号5及びCDRL3では配列番号6から選択される軽鎖を含む。
【0185】
一実施形態では、CD154に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントは、CDRH1では配列番号1の配列、CDRH2では配列番号2の配列、及びCDRH3では配列番号3の配列を含む重鎖を含む。
【0186】
一実施形態では、CD154に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントは、CDRL1では配列番号4の配列、CDRL2では配列番号5の配列、及びCDRL3では配列番号6の配列を含む軽鎖を含む。
【0187】
一実施形態では、CD154に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントは、CDRH1では配列番号1の配列、CDRH2では配列番号2の配列、及びCDRH3では配列番号3の配列を含む重鎖、並びにCDRL1では配列番号4の配列、CDRL2では配列番号5の配列、及びCDRL3では配列番号6の配列を含む軽鎖を含む。
【0188】
抗体はCDRグラフト化抗体分子であるのが好ましく、典型的には可変ドメインは、ヒトアクセプターフレームワーク領域及び非ヒトドナーCDRを含んでいる。
【0189】
抗体は配列番号11の軽鎖可変ドメイン(配列番号7)及び重鎖可変ドメイン(配列番号9)を含むのが好ましい。
【0190】
好ましくは、抗体はFabフラグメントである。好ましくは、Fabフラグメントは配列番号14として与えられる配列を含む又はからなる重鎖、及び配列番号12として与えられる配列を含む又はからなる軽鎖を有する。配列番号14及び配列番号12に与えられるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号13及び配列番号11に与えられるヌクレオチド配列によりコードされるのが好ましい。
【0191】
或いは、抗体フラグメントは、修飾がその重鎖のC末端終端へのエフェクター又はレポーター分子の結合を可能にする1つ又は複数のアミノ酸の付加である修飾Fabフラグメントであることが好ましい。好ましくは、さらなるアミノ酸は、当技術分野で公知のように、エフェクター又はレポーター分子を結合させることができる1つ又は2つのシステイン残基を含有する修飾ヒンジ領域を形成する(例えば、WO98/25971参照。前記特許文献はその全体を本明細書に組み込まれる)。
【0192】
本発明の細胞は前記抗体をコードするDNA配列を含む。前記DNA配列は前記抗体の重鎖及び軽鎖をコードするのが好ましい。
【0193】
一好ましい実施形態では、前記DNA配列は軽鎖をコードしており、本明細書に示される配列を含む。
【0194】
前記DNA配列は、例えば、化学処理により生成される合成DNA、cDNA、ゲノムDNA又はその任意の組合せを含んでいてもよい。
【0195】
抗体の定常領域ドメインは、存在すれば、抗体分子の提案される機能、及び特に必要とされることもあるエフェクター機能を考慮して選択されてもよい。例えば、定常領域ドメインは、ヒトIgA、IgD、IgE、IgG又はIgMドメインであってもよい。特に、抗体分子が治療的使用を目的としており抗体エフェクター機能が必要とされる場合は、特にIgG1及びIgG3アイソタイプのヒトIgG定常領域ドメインを使用してもよい。或いは、抗体分子が治療を目的としており抗体エフェクター機能が必要とされない、例えば、CD154活性を遮断するだけのための場合は、IgG2及びIgG4アイソタイプを使用してもよい。
【0196】
前記抗体は、炎症性疾患及び障害、免疫疾患及び障害、線維性障害並びに癌を含む疾患又は障害の治療において有用であり得る。
【0197】
「炎症性疾患」又は「自己免疫障害」及び「免疫疾患若しくは障害」の語には、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、若年性関節炎、スチル病、橋本甲状腺炎、グレーブス病、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、アジソン病、ANCA関連血管炎及びヴェゲナー肉芽腫炎を含む血管炎、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、リウマチ性自己免疫肝炎多発性筋痛、ギランバレー症候群、抗リン脂質抗体症候群、突発性血小板減少症、自己免疫溶血性貧血、悪性貧血、尋常性天疱瘡、皮膚筋炎、水疱性類天疱瘡、ヘノッホシェーンライン紫斑病、マックルウェールズ病、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、SLE(全身性エリテマトーデス)、セリアック病、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、血管炎、I型糖尿病、移植及び移植片対宿主病が含まれる。
【0198】
「線維性障害」の語は、本明細書で使用されるように、多くの場合修復又は反応性過程としての器官又は組織における過剰な線維結合組織の形成又は発生を特徴とする障害のことである。線維性障害は、肺(例えば、制限なしに突発性肺線維症、間質性肺疾患)、肝臓、腸、腎臓、心臓若しくは皮膚などの単一器官を侵す、又は例えば、制限なしに全身性硬化症において多臓器を侵すことがある。線維性障害の語は、皮膚の瘢痕にも関係する。皮膚の瘢痕には、ケロイド瘢痕、例えば、制限なしに皮膚火傷後に起こる痙縮瘢痕、肥厚性瘢痕及びにきび瘢痕が含まれるがこれらに限定されない。
【0199】
本発明の宿主細胞はまた、1つ又は複数のさらなる対象のタンパク質をコードするさらなるポリヌクレオチドを含んでいてよい。
【0200】
本発明による組換えグラム陰性細菌細胞はあらゆる適切な手段によって生成され得る。
【0201】
当業者であれば、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及び前記抗体をコードするポリヌクレオチドを挿入するのに使用してもよい適切な技法を承知している。DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及び/又は前記抗体をコードするポリヌクレオチドは、Link et al.(Link,Phillips and Church 6228~37頁)に記載されているpKO3などの適切なベクターを使用して細胞のゲノムに組み込ませてもよい。前記文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれる。
【0202】
或いは、又はさらに、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及び/又は抗体をコードするポリヌクレオチドは、組換え発現カセット中に非組入れであってもよい。一実施形態において、DsbCをコードするタンパク質コード配列、抗体をコードする1つ又は複数のタンパク質コード配列、及び1つ又は複数の制御発現配列を典型的に含んでいる、DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又は抗体をコードするポリヌクレオチドを有するために、本発明において発現カセットが用いられる。1つ又は複数の制御発現配列はプロモーターを含んでいてよい。1つ又は複数の制御発現配列は、終止配列などの3’非翻訳領域も含んでいてよい。適切なプロモーターを以下により詳しく論じる。
【0203】
一実施形態では、DsbC及び/又は前記抗体若しくはそのフラグメントをコードする遺伝子は宿主細胞のゲノムに組み込まれて、安定的細胞系を生み出す。
【0204】
一実施形態において、本発明による細胞は、プラスミドなどの1つ又は複数のベクターを含んでいる。ベクターが上記に規定した1つ又は複数の発現カセットを含んでいるのが好ましい。宿主細胞は、上記のCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするDNAを含む発現ベクターを含むことが好ましい。好ましくは、発現ベクターは、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖をコードするポリヌクレオチド配列及び重鎖をコードするポリヌクレオチド配列を含む。
【0205】
好ましい実施形態では、発現ベクターは大腸菌発現ベクターである。
【0206】
一実施形態において、抗体をコードするポリヌクレオチド配列、及びDsbCをコードするポリヌクレオチドを別々の発現ベクター中に挿入する。
【0207】
生成物の生成において、第1のベクターが軽鎖ポリペプチドをコードし、第2のベクターが重鎖ポリペプチドをコードする、2つのベクターを細胞系に形質転換してもよい。或いは、ベクターが軽鎖及び重鎖のポリペプチドをコードする配列を含んでいる、単一のベクターを用いてもよい。
【0208】
或いは、抗体をコードするポリヌクレオチド配列及びDsbCをコードするポリヌクレオチドを1つのベクター中に挿入する。ベクターが、抗体の軽鎖及び重鎖のポリペプチドをコードする配列を含んでいるのが好ましい。
【0209】
本発明は、DsbC及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする組換えポリヌクレオチドを含む発現ベクターも提供する。前記発現ベクターは、DsbCをコードするポリヌクレオチド配列及び前記抗体をコードするポリヌクレオチド配列を含む多シストロン性ベクターである。
【0210】
多シストロン性のベクターは、ポリヌクレオチド配列のベクター中への繰返し連続クローニングを可能にする有利なクローニング方法によって生成することができる。方法は、AseI及びNdeI制限部位の「AT」末端などの1対の制限部位の適合性の付着末端を用いるものである。コード配列を含んでおり、AseI-NdeIフラグメントなどの適合性の付着末端を有するポリヌクレオチドを、NdeIなどのベクターにおける制限部位中にクローニングしてもよい。ポリヌクレオチド配列の挿入は5’制限部位を破壊するが、NdeIなどの新たな3’制限部位を作り出し、次いでこの新たな制限部位を用いて、適合性の付着末端を含んでいるさらなるポリヌクレオチド配列を挿入してもよい。次いでこのプロセスを繰り返してさらなる配列を挿入する。ベクター中に挿入された各ポリヌクレオチド配列は、終止コドンに対して3’の非コード配列を含んでおり、終止コドンはスクリーニング用のSspI部位、シャインダルガノリボソーム結合性配列、Aリッチスペーサー、及び開始コドンをコードするNdeI部位を含んでいてよい。
【0211】
ある抗体の軽鎖(LC)、ある抗体の重鎖(HC)をコードするポリヌクレオチド配列、DsbCポリヌクレオチド配列、及びさらなるポリヌクレオチド配列を含んでいるベクターの創製を示す図を
図1に示す。
【0212】
本発明の細胞は上記に規定した発現ベクターを含むことが好ましい。
【0213】
細胞が以下の1つ又は複数のさらなるタンパク質:
タンパク質のフォールディングを促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、FkpA、Skp、SurA、PPiA、及びPPiD、並びに/又は
タンパク質の分泌又は転位置を促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、SecY、SecE、SecG、SecYEG、SecA、SecB、FtsY、及びLep、並びに/又は
ジスルフィド結合形成を促進することができる1つ又は複数のタンパク質、例えば、DsbA、DsbB、DsbD、DsbG
も発現する実施形態において、前記1つ又は複数のさらなるタンパク質は、DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又はCD154に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合フラグメントをコードする1つ若しくは複数のポリヌクレオチドと同じベクターに挿入された1つ又は複数のポリヌクレオチドから発現され得る。或いは、1つ又は複数のポリヌクレオチドを別々のベクター中に挿入してもよい。
【0214】
発現ベクターは、適切なベクター中に上記で定義した1つ又は複数の発現カセットを挿入することによって生成することができる。或いは、ポリヌクレオチド配列の発現を指示するための制御発現配列が発現ベクターに含まれていてよく、したがってポリヌクレオチドのコード領域だけが発現ベクターを完成するのに必要とされ得る。
【0215】
DsbCをコードするポリヌクレオチド及び/又はCD154に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを、細胞中で細胞に適するプロモーターの制御下で発現させるために、複製可能なベクター、典型的には自律的複製発現ベクター中に挿入するのが適切である。多くのベクターがこの目的で当技術分野において知られており、好適なベクターの選択は核酸のサイズ及び特定の細胞型に依存し得る。
【0216】
本発明によるポリヌクレオチドで宿主細胞を形質転換するのに用いることができる発現ベクターの例には:
プラスミド、例えば、pBR322若しくはpACYC184、及び/又は
ウイルスのベクター、例えば、細菌のファージ
転位性遺伝要素、例えば、トランスポゾン
が含まれる。
【0217】
このような発現ベクターは、通常、プラスミドのDNA複製開始点、抗生物質の選択マーカー、プロモーター、及びマルチクローニング部位によって分離されている転写ターミネーター(発現カセット)、及びリボソーム結合部位をコードするDNA配列を含んでいる。
【0218】
本発明において用いられるプロモーターは、関連のポリヌクレオチドに直接連結していてよく、又は代替として好適な位置に、例えば、関連のポリペプチドが関連のプロモーターに挿入された場合に関連のプロモーターに対して作用することができるようなベクター中に位置していてよい。一実施形態において、プロモーターは、それに対してプロモーターが作用するポリヌクレオチドのコード部分の前に、例えば、ポリヌクレオチドの各コード部分の前の関連のプロモーターに位置している。本明細書で用いられる「前」はプロモーターが、コードするポリヌクレオチド部分に関して5プライムエンドに位置することを意味するものとされる。
【0219】
プロモーターは、宿主細胞に対して内在性でも、又は外因性でもよい。適切なプロモーターには、lac、tac、trp、phoA、Ipp、Arab、tet、及びT7が含まれる。
【0220】
用いられる1つ又は複数のプロモーターは誘導プロモーターであってよい。DsbCをコードするポリヌクレオチド、及び抗体をコードするポリヌクレオチドが1つのベクター中に挿入されている実施形態において、DsbC及び抗体をコードするヌクレオチド配列は、単一のプロモーター又は別々のプロモーターの制御下にあってよい。DsbC及び抗体をコードするヌクレオチド配列が別々のプロモーターの制御下にある実施形態において、プロモーターは独立に誘導プロモーターであってよい。
【0221】
細菌系において用いるためのプロモーターは、対象のポリペプチドをコードするDNAに作動可能にリンクしているシャインダルガノ(S.D.)配列も一般に含んでいる。プロモーターは、制限酵素の消化によって細菌の供給源のDNAから除去し、所望のDNAを含んでいるベクター中に挿入することができる。
【0222】
発現ベクターが、WO03/048208又はWO2007/039714(これらの内容は参照によってその全体を本明細書に組み入れられる)に記載されている抗体又はその抗原結合性フラグメントを生成するためのジシストロン性のメッセージも含んでいるのが好ましい。好ましくは、抗体の軽鎖をコードするDNAを含んでいる上流のシストロン、及び対応する重鎖をコードするDNAを含んでいる下流のシストロン、並びにジシストロン性の遺伝子間配列(IGS)が、IGS1(配列番号33)、IGS2(配列番号34)、IGS3(配列番号35)、及びIGS4(配列番号36)から選択される配列を含んでいるのが好ましい。
【0223】
好ましい発現ベクターは、上記の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖及び重鎖を生成するためのトリシストロン性メッセージ並びに組換えDsbCを生成するための、好ましくはhisタグを含むメッセージを含む。
【0224】
ターミネーターは宿主細胞に対して内在性でも、又は外因性でもよい。適切なターミネーターはrrnBである。
【0225】
プロモーター及びターミネーターを含むさらなる適切な転写レギュレーター並びにタンパク質ターゲティング法は、Makrides et al.(Makrides 512~38頁)に見ることができ、前記文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれる。
【0226】
発現ベクター中に挿入されたDsbCポリヌクレオチドが、DsbCシグナル配列及びDsbCコード配列をコードする核酸を含んでいるのが好ましい。DsbCタンパク質は、例えば、タンパク質:OmpA、MalB、PelB、PhoA、PhoS、LppA、DsbA由来のシグナルペプチドなどの他のシグナルペプチドへの遺伝子融合によりペリプラズム下に向けてもよい。ベクターは、好ましくは宿主の染色体を独立に複製するために、ベクターの1つ又は複数の選択された宿主細胞における複製を可能にする核酸配列を含んでいるのが好ましい。このような配列は様々な細菌ではよく知られている。
【0227】
一実施形態において、DsbC及び/又は対象のタンパク質は、N末端及び/又はC末端にヒスチジンタグを含んでいる。
【0228】
抗体分子は、細胞から分泌されることもあり、又は適切なシグナル配列によってペリプラズムに対して標的化することもある。或いは、抗体分子は細胞の原形質内に蓄積することもある。抗体分子がペリプラズムに対して標的化するのが好ましい。
【0229】
抗体をコードするポリヌクレオチドは、別のポリペプチド、好ましくは、成熟ポリペプチドのN末端に特異的な切断部位を有するシグナル配列又は他のポリペプチドとの融合物として発現されてよい。選択される異種性のシグナル配列は、宿主細胞によって認識され、プロセシングされるものでなければならない。天然又は真核生物のポリペプチドシグナル配列を認識せず、プロセシングしない原核生物の宿主細胞では、シグナル配列は原核生物のシグナル配列によって置換される。適切なシグナル配列には、OmpA、PhoA、LamB、PelB、DsbA、及びDsbCが含まれる。細胞が前記抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチド及び前記抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む実施形態では、それぞれのポリヌクレオチドがOmpAなどのシグナル配列を含んでいてもよい。
【0230】
上記に列挙した成分の1つ又は複数を含んでいる適切なベクターの構築は、標準のライゲーション技術を用いるものである。単離したプラスミド又はDNAフラグメントを、必要とするプラスミドを生成するのに望ましい形態において、切断し、誂え、再ライゲーション(re-ligated)する。ベクターを構築することができる一般的方法、トランスフェクション法及び培養法は当業者には周知である。
【0231】
分子生物学の標準技法を使用して前記抗体をコードするDNA配列を調製してもよい。目的のDNA配列は、オリゴヌクレオチド合成技法を使用して完全に又は部分的に合成してもよい。部位特異的変異誘発及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技法を必要に応じて使用してもよい。
【0232】
ポリヌクレオチドに関して本明細書に記載する本発明の実施形態は、ベクター、発現カセット、及び/又はこの中に用いられる成分を含んでいる宿主細胞など、関連する態様をこれらに適用することができる限り、本発明の代替の実施形態に等しく適用されるものである。
【0233】
本発明は、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを生成するための方法であって、
CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント、及びDsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを発現させるのに効果的な条件下で培養培地において上記に規定した組換えグラム陰性細菌細胞を培養するステップと、
組換えグラム陰性細菌細胞のペリプラズム及び/又は培養培地からCD154に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合フラグメントを回収するステップと
を含む方法も提供する。
【0234】
本発明の方法において用いるのが好ましいグラム陰性細菌細胞及び抗体は、上記に詳しく記載したものである。
【0235】
DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド、及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを当技術分野において知られているあらゆる適切な手段を用いて宿主細胞中に組み入れることができる。上記で論じた通り、DsbCをコードするポリヌクレオチド及び抗体をコードするポリヌクレオチドが、細胞中に形質転換される同じ又は別々の発現ベクターの部分として組み入れられるのが典型的である。
【0236】
DsbCをコードするポリヌクレオチド、及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを、塩化ルビジウム、PEG、又は電気穿孔を用いるなど、標準の技術を用いて細胞中に形質転換してもよい。
【0237】
本発明による方法は、対象のタンパク質をコードするポリヌクレオチドで上首尾に形質転換されている安定な細胞の選択を促進する選択系も用いることができる。選択系は通常、選択マーカーをコードするポリヌクレオチドの同時形質転換を使用する。一実施形態において、細胞中に形質転換された各ポリヌクレオチドは、1つ又は複数の選択マーカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含んでいる。したがって、DsbC及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドの形質転換、並びにマーカーをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドの形質転換は一緒に生じ、選択系を用いて所望のタンパク質を生成するこれらの細胞を選択することができる。
【0238】
1つ又は複数のマーカーを発現することができる細胞は、細胞中に組み入れられる選択系のポリペプチド/遺伝子又はポリペプチド成分によって付与される性質(例えば、抗生物質耐性)のために、例えば、毒素又は抗生物質の添加など、ある種の人工的に課せられた条件下で生存/増殖/繁殖することができる。1つ又は複数のマーカーを発現することができない細胞は、人工的に課せられた条件下で生存/増殖/繁殖することができない。人工的に課せられる条件は、所望により幾分強力であるように選択され得る。
【0239】
本発明においてあらゆる適切な選択系を用いることができる。典型的に、選択系は、例えば、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、又はアンピリシン耐性の遺伝子など、既知の抗生物質に対して耐性をもたらすベクターの1つ又は複数の遺伝子中に含まれていることに基づいていてよい。関連の抗生物質の存在下で増殖する細胞は、これらが抗生物質に対する耐性をもたらす遺伝子及び所望のタンパク質の両方を発現するように選択されてよい。
【0240】
抗体及び/又はDsbCを発現させるために、誘導可能な発現系、又は構成的なプロモーターを本発明において用いることができる。適切な誘導可能な発現系及び構成的なプロモーターは、当技術分野においてよく知られている。
【0241】
DsbCをコードするポリヌクレオチド、及び抗体をコードするポリヌクレオチドが、同じ又は別々の誘導プロモーターの制御下にある一実施形態において、抗体をコードするポリヌクレオチド(単数又は複数)及びDsbCをコードする組換えポリヌクレオチドは、培養培地に誘導因子を加えることによって誘導される。
【0242】
形質転換細胞を培養するのにあらゆる適切な培地を用いることができる。例えば、培地中で増殖するように上首尾に形質転換されている細胞だけを可能にするように、培地は抗生物質を含み得るなど、培地を特定の選択系に適応させてもよい。
【0243】
培地から得た細胞を、所望により、さらにスクリーニング及び/又は精製にかけてもよい。方法は、所望により対象のタンパク質を抽出及び精製する1つ又は複数のステップをさらに含むことができる。
【0244】
抗体又はその抗原結合フラグメントを、原形質、ペリプラズム、又は上清からを含む、系統から回収及び精製することができる。適切な方法には、イムノ-アフィニティカラム、又はイオン交換カラム上での分画化、エタノール沈澱、逆相HPLC、疎水性-相互作用クロマトグラフィー、シリカ上クロマトグラフィー、SEPHAROSE及びDEAEなどのイオン交換樹脂上のクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、硫酸アンモニウム沈澱、及びゲルろ過が含まれる。
【0245】
一実施形態において、方法は、DsbCから抗体又はその抗原結合フラグメントを分離することをさらに含む。
【0246】
抗体又はその抗原結合フラグメントを、培養培地及び/又は原形質抽出物及び/又はペリプラズム抽出物から、従来の抗体精製手順、例えば、タンパク質A-セファロース、タンパク質Gクロマトグラフィー、タンパク質Lクロマトグラフィー、チオフィリック(thiophilic)、混合モード樹脂(mixed mode resins)、Hisタグ、FLAGタグ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム、エタノール、又はPEG分画/沈澱、イオン交換膜、膨張床吸着クロマトグラフィー(EBA)、又は擬似移動床クロマトグラフィーなどによって適切に分離することができる。
【0247】
方法は、対象のタンパク質の発現量を測定し、高発現レベルの対象のタンパク質を有する細胞を選択するさらなるステップも含むことができる。
【0248】
本明細書に記載する1つ又は複数の方法のステップを、バイオリアクターなどの適切な容器において組み合わせて行ってもよい。
【0249】
発現後、前記抗体は、例えば、エフェクター分子などの別の実体にコンジュゲートすることによりさらに処理してもよい。したがって、本発明の方法は、エフェクター分子を前記抗体に結合させるさらなるステップを含んでいてもよい。
【0250】
本明細書で用いられるエフェクター分子の語には、例えば、抗悪性腫瘍薬、薬物、毒素(例えば、細菌若しくは植物起源の酵素的に活性な毒素及びこれらのフラグメント、例えば、リシン(ricin)及びそのフラグメント)生物学的に活性なタンパク質、例えば、酵素、他の抗体又は抗体フラグメント、合成の、又は天然に存在するポリマー、核酸及びこれらのフラグメント、例えば、DNA、RNA、及びこれらのフラグメント、放射性核種、特に放射性ヨウ化物、放射性同位元素、キレート化金属、ナノ粒子及びレポーターグループ、例えば、蛍光化合物又はNMR若しくはESR分光法によって検出され得る化合物が含まれる。エフェクター分子は、あらゆる適切な方法によって抗体又はそのフラグメントに付着していてよく、例えば、抗体フラグメントは、WO2005/0031731又はWO2005/003170(これらの内容は参照によってその全体を本明細書に組み入れられる)に記載されている通り、少なくとも1つのエフェクター分子で付着するように修飾されていてよい。WO2005/003171又はWO2005/003170も適切なエフェクター分子も記載している。
【0251】
前記抗体は、共有結合架橋構造により、重金属原子又はリシンなどの毒素をキレート化するための大環状分子を結合させていてもよい。或いは、組換えDNA技術の手順を使用して、完全な免疫グロブリン分子のFcフラグメント(CH2、CH3及びヒンジドメイン)、CH2とCH3ドメイン又はCH3ドメインが、酵素若しくは毒素分子などの機能的非免疫グロブリンタンパク質により置き換えられている、又はペプチド結合によりそこに結合させている抗体分子を生成してもよい。抗体が、エフェクター又はレポーター分子の結合を可能にする1つ又は複数のアミノ酸をその重鎖のC末端終端に有している修飾Fabフラグメントである実施形態では、さらなるアミノ酸は、エフェクター又はレポーター分子を結合させ得る1つ又は2つのシステイン残基を含有する修飾ヒンジ領域を形成することが好ましい。
【0252】
好ましいエフェクター基はポリマー分子であり、この分子を修飾Fabフラグメントに結合させてインビボでのその半減期を増加させ得る。
【0253】
前記ポリマー分子は、一般には、合成又は天然に存在するポリマー、例えば、任意選択で置換された直線状若しくは枝分かれ鎖ポリアルキレン、ポリアルケニレン若しくはポリオキシアルキレンポリマー、又は枝分かれ若しくは非枝分かれ多糖類、例えばホモ若しくはヘテロ多糖類でもよい。
【0254】
上記の合成ポリマー上に存在してもよい特定の任意選択の置換基には、1つ又は複数のヒドロキシ、メチル又はメトキシ基が含まれる。合成ポリマーの特定の例には、任意選択で置換された直線状又は枝分かれ鎖ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、又はその誘導体、特に、メトキシポリ(エチレングリコール)などの任意選択で置換されたポリ(エチレングリコール)又はその誘導体が含まれる。特定の天然に存在するポリマーには、ラクトース、アミロース、デキストラン、グリコーゲン又はその誘導体が含まれる。本明細書で使用される「誘導体」は反応性誘導体、例えば、マレイミドなどのチオール選択的反応基などを含むことが意図されている。反応基は直接的に又はリンカー部分を通じてポリマーに連結されていてもよい。そのような基の残基は、いくつかの場合に、抗体フラグメントとポリマー間の連結基として生成物の一部を形成することは認識されるであろう。
【0255】
ポリマーのサイズは望みどおりに変化させてもよいが、一般には、500Da~50000Da、好ましくは5000Da~40000Da、さらに好ましくは25000Da~40000Daの平均分子量範囲になる。ポリマーサイズは、特に生成物の目的の使用に基づいて選択し得る。したがって、例えば、炎症の治療において使用するために、例えば生成物が循環を離れて組織に浸透するように意図されている場合、例えば、約5000Daの分子量を有する小分子量ポリマーを使用するのが有利であることもある。生成物が循環中に残る適用では、例えば、25000Da~40000Daの範囲の分子量を有するさらに高分子量のポリマーを使用するのが有利なこともある。
【0256】
特に好ましいポリマーには、ポリ(エチレングリコール)又は特にメトキシポリ(エチレングリコール)若しくはその誘導体などの、特に約25000Da~約40000Daの範囲の分子量を有するポリアルキレンポリマーが含まれる。
【0257】
修飾抗体フラグメントに結合しているそれぞれのポリマー分子は、フラグメント内に位置するシステイン残基の硫黄原子に共有結合し得る。共有結合は一般にジスルフィド結合、又は特に硫黄-炭素結合になる。
【0258】
必要な場合には、前記抗体フラグメントは1つ又は複数のエフェクター又はレポーター分子が結合し得る。前記エフェクター又はレポーター分子は、フラグメント中に位置する任意の利用可能なアミノ酸側鎖又は末端アミノ酸官能基、例えば、任意の遊離アミノ、イミノ、ヒドロキシル若しくはカルボキシル基を通じて、抗体フラグメントに結合し得る。1つ又は複数のエフェクター又はレポーター分子は、前記抗体の重鎖及び/又は軽鎖のC末端終端の又はその近くのアミノ酸に結合していてもよい。
【0259】
活性化されたポリマーは、上記のポリマー修飾された抗体フラグメントの調製における出発物質として使用し得る。活性化されたポリマーは、αハロカルボン酸又はエステル、例えば、ヨードアセトアミド、イミド、例えば、マレイミド、ビニルスルホン又はジスルフィドなどのチオール反応基を含有するどんなポリマーであってもよい。そのような出発物質は市販のものを(例えば、Shearwater Polymers Inc.、Huntsville、AL、USAから)入手してもよいし、従来の化学的手順を使用して市販の出発物質から調製してもよい。
【0260】
エフェクター又はレポーター分子に連結されている抗体フラグメントを得るのが望ましい場合は、これは、必要に応じて活性化されたポリマーとの反応前又は後のどちらかでエフェクター又はレポーター分子に直接的に又はカップリング剤を介してのどちらかで前記抗体フラグメントが連結される標準化学的又は組換えDNA手順により調製してもよい。特定の化学的手順には、例えば、WO93/62331及びWO92/22583に記載されている手順が含まれる。或いは、前記エフェクター又はレポーター分子がタンパク質又はポリペプチドである場合、連結は、例えば、WO86/01533及びEP-A-0392745に記載されている組換えDNA手順を使用して達成し得る。
【0261】
好ましくは、本発明の方法により提供される修飾Fabフラグメントは、EP-A-0948544に開示されている方法に従ってペグ化されている(すなわち、PEG(ポリ(エチレングリコール))がそれに共有結合している)。好ましくは、前記抗体は
図2に示されるペグ化された修飾Fabフラグメントである。
図2に示されるように、修飾Fabフラグメントは、重鎖の修飾されたヒンジ領域のC末端終端でシステイン残基のうちの1つにリシル-マレイミド由来基を結合させており、前記リシル残基の2つのアミノ基のそれぞれが、メトキシポリ(エチレングリコール)残基の全平均分子量が約40000Daになるように、約20000Daの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)残基を共有結合させており、さらに好ましくはリシル-マレイミド由来基は[1-[[[2-[[3-(2,5-ジオキソ-1-ピロリジニル)-1-オキソプロピル]アミノ]エチル]アミノ]-カルボニル]-1,5-ペンタンジイル]ビス(イミノカルボニル)である。リシン残基はマレイミド基に共有結合している。リシン残基上のアミン基のそれぞれには、およそ20000Daの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが結合している。したがって、全エフェクター分子の全分子量はおよそ40000Daである。
【0262】
したがって、本発明の方法は好ましくは、重鎖のC末端終端でシステイン残基の1つにリシル-マレイミド基を結合させるステップを含み、リシル残基のそれぞれのアミノ基は約20000Daの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)残基を共有結合させている。
【0263】
一実施形態において、汚染性の宿主タンパク質の物理的性質は、アミノ酸タグをC末端又はN末端に添加することによって変更される。好ましい一実施形態において、変更される物理的性質は等電点であり、アミノ酸タグはC末端に付着するポリアスパラギン酸タグである。一実施形態において、前記タグの添加によって変更される大腸菌タンパク質は、ジペプチド結合性タンパク質(DppA)、マルトース結合性タンパク質(MBP)、チオレドキシン、及びリン酸結合性タンパク質(PhoS/PstS)である。詳しい一実施形態において、大腸菌のリン酸結合性タンパク質(PhoS/PstS)のpIは、アスパラギン酸残基を6個含んでいるポリアスパラギン酸タグ(PolyD)をC末端に加えることよって7.2から5.1に低減される。
【0264】
単独で、又はN末端若しくはC末端にタグを加えることとの組合せのいずれかで、その物理的性質を変更するための、汚染性の大腸菌タンパク質の特定の残基の修飾も好ましい。このような変更は、pI又は疎水性を変更するためのタンパク質又はアミノ酸置換基のサイズを変更するための挿入又は欠失を含むことができる。一実施形態において、これらの残基はタンパク質の表面上に位置する。好ましい一実施形態において、タンパク質のpIを低減するために、PhoSタンパク質の表面残基が変更される。機能的なPhoSタンパク質を維持するために、リン酸塩の結合において重要であると関係付けられている残基(US5,304,472)を回避するのが好ましい。
【実施例】
【0265】
細胞系
全ての実験に対して、親の野生型細胞系として大腸菌細胞系W3110を用いた。
【0266】
以下の変異を有する細胞系を作り出した:
a.変異Tsp遺伝子、
b.変異Tsp遺伝子及び組換えDsbCを有する、
c.変異Tsp遺伝子及び変異spr遺伝子、
d.変異Tsp遺伝子及び変異spr遺伝子及び組換えDsbCを有する。
【0267】
(例1)
変異Tsp遺伝子を有する細胞系MXE001(ΔTsp)の生成
MXR001系統を以下の通り生成した:
Tspカセットを、SalI、NotI制限フラグメントとして、同様に制限したpKO3プラスミド中に移動させた。pKO3プラスミドは、温度感受性変異体のpSC101複製開始点(RepA)を、染色体の組入れ事象に対して強化及び選択するためのクロラムフェニコールマーカーと一緒に用いる。レバンスクラーゼをコードするsacB遺伝子は、ショ糖上で増殖させた大腸菌に致死的であり、したがって(クロラムフェニコールマーカー及びpSC101開始点と一緒に)用いて脱組込み(de-integration)及びプラスミドキュアリング事象に対して強化及び選択するのに用いられる。この方法は以前に記載されている(Hamiltonら、4617~22頁、及びBlomfieldら、1447~57頁)。pKO3系は全ての選択マーカーを、挿入された遺伝子以外の宿主ゲノムから除去する。
【0268】
以下のプラスミドを構築した。
EcoRI及びAseI制限マーカーを含んでいる、配列番号28に示すノックアウト変異Tsp遺伝子を含んでいるpMXE191。
【0269】
次いで、プラスミドを、内容が参照によってその全体を本明細書に組み入れられるMiller及びNickoloff(Miller及びNickoloff、105~13頁)に見られる方法を用いて調製した、電気的コンピテント大腸菌W3110細胞中に形質転換した。
【0270】
1日目:大腸菌細胞40μlを、冷却したBioRad0.2cm電気穿孔キュベット中、pKO3 DNA(10pg)1μgと混合し、その後2500V、25μF、及び200Ωで電気穿孔した。2×PY1000μlを直ちに加え、30℃のインキュベーター中で1時間、250rpmで振盪することによって細胞を回収した。細胞を2×PY中1/10に段階希釈し、その後100μlのアリコートを、クロラムフェニコール20μgを含み30℃及び43℃に予め温めた2×PY寒天平板上に塗抹した。平板を30℃及び43℃で一夜インキュベートした。
【0271】
2日目:30℃で増殖させたコロニーの数により電気穿孔の効果が推定されたが、43℃の増殖を生存したコロニーは潜在的な組入れ事象を表している。43℃の平板から単一のコロニーを拾い、2×PY10ml中に再懸濁した。この100μlを、ショ糖5%(w/v)を含み30℃に予め温めた2×PY寒天平板上に塗抹して単一のコロニーを生成させた。平板を30℃で一夜インキュベートした。
【0272】
3日目:ここでコロニーは、潜在的な同時の脱組込み及びプラスミドキュアリング事象を表す。脱組込み及びキュアリング事象が増殖における初期に生じた場合、大部分のコロニー塊はクローンとなる。単一のコロニーを拾い、クロラムフェニコール20μg/ml又は5%(w/v)ショ糖のいずれかを含む2×PY寒天上にレプリカプレーティングした。平板を30℃で一夜インキュベートした。
【0273】
4日目:ショ糖上で増殖し、且つクロラムフェニコール上で死滅した両方のコロニーは、潜在的な染色体の置換及びプラスミドキュアリング事象を表している。これらを拾い、変異特異的なオリゴヌクレオチドでPCRによってスクリーニングした。正確なサイズのPCR陽性のバンドを生じたコロニーを削除して、ショ糖5%(w/v)を含む2×PY寒天上で単一のコロニーを生成し、平板を30℃で一夜インキュベートした。
【0274】
5日目:PCR陽性、クロラムフェニコール感受性、及びショ糖耐性の大腸菌の単一のコロニーを用いてグリセロール株、化学的コンピテント細胞を作製し、5’及び3’に隣接するオリゴヌクレオチドプライマーとのPCR反応用のPCR鋳型として作用させて、Taqポリメラーゼを用いた直接DNA配列決定用のPCR生成物を生成した。
【0275】
オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、天然に存在しないAseI制限部位(配列番号28)を含んでいるTsp遺伝子の領域をPCR増幅することによって、変異Tsp遺伝子を有するゲノムDNAの上首尾な修飾を確認するために細胞系統MXE001を試験した。次いで、変異遺伝子における天然に存在しないAseI制限部位の存在を確認するために、AseI制限酵素でのインキュベートの前及び後に、DNAの増幅した領域をゲル電気泳動によって分析した。この方法を以下の通り行った。
【0276】
以下のオリゴを用いて、PCRを用い、MXE001及びW3110から調製した大腸菌細胞可溶化物からゲノムDNAを増幅した。
【化1】
【0277】
細胞のコロニー1個を、1×PCRバッファー20μl中95℃で10分間加熱することによって、可溶化物を調製した。混合物を室温に放冷し、次いで13200rpmで10分間遠心した。上清を除去し、「細胞可溶化物」のラベルを付けた。
【0278】
Tspオリゴヌクレオチド対を用いて各系統を増幅した。
【0279】
DNAを標準のPCR手順を用いて増幅した。
5μl バッファー×1 (Roche)
1μl dNTP混合物(Roche、10mM混合物)
1.5μl 5’オリゴ(5pmol)
1.5μl 3’オリゴ(5pmol)
2μl 細胞可溶化物
0.5μl Taq DNAポリメラーゼ(Roche 5U/μl)
38.5μl H2O
PCRサイクル
94℃ 1分
94℃ 1分
55℃ 1分(30サイクル繰返し)
72℃ 1分
72℃ 10分
【0280】
反応が完了したら25μlをAseIでの消化用に新たな微量遠心管に移した。PCR反応25μlに、H2O19μl、バッファー3(New England Biolabs(登録商標))5μl、AseI(New England Biolabs(登録商標))1μlを加え、混合し、37℃で2時間インキュベートした。
【0281】
残りのPCR反応に、ローディングバッファー(×6)5μlを加え、20μlを0.8%TAE200mlアガロースゲル(Invitrogen(登録商標))上にローディングし、エチジウムブロマイド(貯蔵液10ml/mlを5μl)を加え、100Vで1時間泳動させた。サイズマーカー(PerfectDNAマーカー0.1~12kb、Novagen(登録商標))10μlを最終レーンにローディングした。
【0282】
AseI消化が完了したら、ローディングバッファー(×6)10μlを加え、20μlを0.8%TAEアガロースゲル(Invitrogen(登録商標))上にローディングし、エチジウムブロマイド(10ml/ml貯蔵液を5μl)を加え、100Vで1時間泳動した。サイズマーカー(PerfectDNAマーカー0.1~12kb、Novagen(登録商標))10μlを最終レーンにローディングした。ゲルを両方ともUVトランスイルミネーターを用いて可視化した。
【0283】
増幅したゲノムフラグメントは、Tspに対して2.8kbの正確なサイズバンドを示した。引き続きAseIで消化させると、Tsp欠損系統MXE001に導入されたAseI部位の存在が確認されたが、W3110コントロールでは確認されなかった。
【0284】
MXE001:Tspプライマーセットを用いてゲノムDNAを増幅し、得られたDNAをAseIで消化して2.2kbps及び0.6kbpsのバンドを生成した。
【0285】
W3110のPCR増幅したDNAは、AseI制限酵素によって消化されなかった。
【0286】
(例2)
変異spr遺伝子を有する細胞系統、並びに変異Tsp遺伝子及び変異spr遺伝子を有する細胞系統の生成
spr変異を、相補性アッセイを用いて生成し選択した。
【0287】
spr遺伝子(配列番号23)を、1000bpあたり1つから2つの変異を導入するClontech(登録商標)ランダム変異ダイバーシティPCRキットを用いて変異させた。変異sprPCR DNAを、spr変異体と一緒にCDP870Fab’を発現する誘導発現ベクター(WO01/94585に記載のような)[pTTO CDP870]中にクローニングした。次いで、このライゲーションを、Millerら(Miller及びNickoloff、105~13頁)において見られる方法を用いて、Tspの欠失のあるバリアント(ΔTsp)を含む大腸菌系統(MXE001と呼ばれる)中に電気的形質転換した。以下のプロトコールを用いた。電気的コンピテントMXE001 40μl、ライゲーション2.5μl(DNA100pg)を0.2cm電気穿孔キュベット中に加え、以下の条件、2500V、25μF、及び200ΩでBioRad(登録商標)Genepulser Xcell(登録商標)を用いて電気的形質転換を行った。電気的形質転換後、S.OC.培地(Invitrogen(登録商標)カタログ:18045~088)1ml(37℃に予め加温)を加え、穏やかに振盪して細胞を37℃1時間回復させた。
【0288】
細胞をHypotonic寒天[酵母菌抽出物5g/L、トリプトン2.5g/L、寒天15g/L(全てDifco(登録商標)]上に塗抹し、40℃でインキュベートした。コロニーを形成した細胞をHLB上に43℃で再塗抹し、MXE001系統に対して低浸透圧条件下高温で増殖する能力の回復を確認した。選択したクローンからプラスミドDNAを調製し、配列決定してspr変異を同定した。
【0289】
この方法を用いて、sprタンパク質における、以下の通りΔTsp表現型を補足する8つの単一の変異、1つのダブル変異、及び2つの複数の変異を単離した:
1.V98E
2.D133A
3.V135D
4.V135G
5.G147C
6.S95F及びY115F
7.I70T
8.N31T、Q73R、R100G、G140C
9.R62C、Q99P、R144C
10.L108S
11.L136P
【0290】
上記で同定した1から5の個々の変異、並びにspr(C94A、H145A、H157A)及びW174Rの3つの触媒三残基の変異を用いて、複合のΔTsp/変異体spr系統を作製するための例1からのspr変異系統又はMXE001系統を作り出すために、いずれかの野生型W3110大腸菌系統(遺伝子型:F-LAM-IN(rrnD-RRnE)1rph1(ATCCカタログno.27325)を用いて新たな系統を生成した。
【0291】
MXE001を作製するための例1に記載した通り、遺伝子置換ベクター系を用いて、pKO3相同組換え/置換プラスミドを用いて、以下の変異体の大腸菌細胞系統を作製した(Linkら、上述)。
【表1】
【0292】
変異体spr組入れカセットを、SalI、NotI制限フラグメントとして、同様に制限したpKO3プラスミド中に移動した。
【0293】
全ての実験では、大腸菌細胞系W3110が、野生型細胞系及び大腸菌細胞系W3110ΔTsp、sprC94A(MX016)として使用された。
【0294】
(例3)
抗CD154Fab’及びDsbC発現用のプラスミドの生成
抗CD154Fab(それぞれ配列番号13及び11)の重鎖及び軽鎖配列の両方、並びにDsbCをコードする配列(配列番号27)を含んでいるプラスミドを構築した。
【0295】
抗CD154Fab及びDsbC(ペリプラズムポリペプチド)に対する発現ベクターであるプラスミドpMXE351(pTTOD_DsbC)を、従来の制限クローニング法を用いて構築した。プラスミドpMXE351は以下の特徴:強力なtacプロモーター及びlacオペレーター配列を含んでいた。
図1に示す通り、プラスミドは独特のEcoRI制限部位をFab’重鎖のコード領域の後に含んでおり、その後に非コード配列、次いで独特のNdeI制限部位が続いた。DsbC遺伝子を、W3110粗製染色体DNAを鋳型として用いて、PCRクローニングした。EcoRI部位は、PCR産物が5’EcoRI部位に続いて強リボソーム結合部位、続いてDsbCの天然の開始コドン、シグナル配列及び成熟配列、最後にC末端Hisタグと最終的に非コードNdeI部位をコードするようにPCRオーバーラップ伸長により野生型DsbC配列から取り除かれた。EcoRI-NdelI PCRフラグメントを制限し、3個全てのポリペプチド:Fab’軽鎖、Fab’重鎖、及びDsbCが単一のポリシストロン性のmRNA上にコードされるように発現ベクター中にライゲートした。
【0296】
Fab軽鎖、重鎖遺伝子、及びDsbC遺伝子を、単一のポリシストロン性メッセージとして転写した。大腸菌のペリプラズムに対するポリペプチドの転移を指示する大腸菌OmpAタンパク質からのシグナルペプチドをコードするDNAを軽鎖及び重鎖の遺伝子配列両方の5’末端に融合した。転写を二重転写ターミネーターrrnB tlt2を用いて終結させた。lacIq遺伝子は構成的に発現されるLacIリプレッサータンパク質をコードしていた。これは、アロラクトース又はIPTGの存在によって抑制解除が誘導されるまで、tacプロモーターからの転写を抑制した。用いた複製開始点はp15Aであり、これは低コピー数を維持した。プラスミドは、抗生物質選択用にテトラサイクリン耐性遺伝子を含んでいた。
【0297】
(例4)
大腸菌W3110及びMXE016(大腸菌W3110ΔTsp、sprC94A)における変異細胞系における抗CD154Fab’及びDsbCの発現
大腸菌W3110ΔTsp、sprC94Aにおける抗CD154Fab’及びDsbCの発現
大腸菌W3110ΔTsp、sprC94A細胞系統(MXE016)は、例3において作製されたプラスミドpMXE351で形質転換された。前記系統の形質転換は、Chung C.T et al.(Chung,Niemela and Miller 2172~75頁)に見られる方法を使用して実施された。
【0298】
大腸菌W3110における抗CD154Fab’の発現
大腸菌W3110細胞系統を、抗CD154Fab’に対する発現ベクターであるプラスミドpTTODで形質転換したが、この発現ベクターは、従来の制限クローニング法を用いて構築されたものである。プラスミドpTTODは以下の特徴:強力なtacプロモーター及びlacオペレーター配列を含んでいた。Fab軽鎖及び重鎖遺伝子を、単一のジシストロン性メッセージとして転写した。大腸菌OmpAタンパク質からのシグナルペプチドをコードするDNAを、ポリペプチドの大腸菌ペリプラズムへの移動を指示する軽鎖及び重鎖両方の遺伝子配列5’末端に融合させた。転写を二重転写ターミネーターrrnB tlt2を用いて終結させた。lacIq遺伝子は構成的に発現されるLacIリプレッサータンパク質をコードしていた。これは、アロラクトース又はIPTGの存在によって抑制解除が誘導されるまで、tacプロモーターからの転写を抑制した。用いた複製開始点はp15Aであり、低コピー数を維持した。前記プラスミドは、抗生物質選択のためにテトラサイクリン耐性遺伝子を含有していた。前記系統の形質転換は、Chung C.T et al.(Chung,Niemela and Miller 2172~75頁)に見られる方法を使用して実施された。
【0299】
(例5)
高密度発酵を用いた変異大腸菌系統の増殖及び変異大腸菌系統における抗CD154Fab’の発現
例4において生成した系統を、抗CD154Fab’の増殖及び発現を比べる発酵実験において試験した。
【0300】
増殖培地、接種及び発酵ステップ。発酵工程は、細胞バンクのバイアルから接種材料を調製し、生成発酵槽の播種前にいくつかの前培養段階(フラスコ及び反応器)を通じて増殖させることにより開始される。生成発酵槽では、細胞はバッチ及びフェドバッチモードで限定培地において高密度まで増殖される。目的の細胞密度に到達すると、Fab’の発現がIPTGの添加により誘導される。Fab’発現は大腸菌ペリプラズム空間に標的され、前記空間でFab’は誘導期を通じて蓄積する。炭素源供給は誘導期の間適用されて発現及び細胞増殖を制御する。温度、溶存酸素(pO2)及びpHは、最適培養条件内に培養を維持するように制御される。
【0301】
バイオマス濃度及び増殖速度の測定
600nmでの培養物の光学密度を測定することによってバイオマス濃度を決定した。
【0302】
ペリプラズム抽出
細胞を、遠心分離によって培養物試料から回収した。さらなる分析用に上清の分画を(-20℃で)保持した。細胞ペレット分画を、抽出バッファー(100mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.4)中、元の培養体積に再懸濁した。およそ10~16時間、60℃でインキュベートした後、遠心分離によって抽出物を澄明にし、上清分画を分析用に(-20℃で)新しく使用するか保持した。
【0303】
Fab’定量
ペリプラズム抽出物及び培養物上清中のFab’濃度を、Fab’によって、タンパク質G HPLCを用いて決定した。HiTrap(登録商標)タンパク質G HP1mlカラム(GE-Healthcare(登録商標)又は同等物)に分析物(およそ中性のpH、30℃、0.2μmろ過)を2ml/分でローディングし、カラムを20mMリン酸塩、50mM NaCl、pH7.4で洗浄し、次いで50mMグリシン/HCl pH2.7の注入を用いてFab’を溶出した。溶出されたFab’をAgilient(登録商標)1100又は1200HPLCシステム上A280によって測定し、既知濃度の精製Fab’タンパク質の検量線を参照することによって定量した。
【0304】
(例6)
変異大腸菌系統の発酵抽出物中の軽鎖フラグメントのレベル
例2に提示されている発酵物を、ペリプラズム抽出物中の抗CD154Fab’の軽鎖フラグメントレベルについて試験した。
【0305】
軽鎖フラグメント定量。Fab’及びFab’タンパク質分解フラグメントのレベルの定量的評価は、高温逆相HPLCにより達成した。分離は、温度80℃でPoroshell(登録商標)300SB-C8逆相カラム(Agilent Technologies(登録商標)、製品番号660750-906)上で実施する。平衡溶媒はHPLC水、0.1%(v/v)TFAであり、溶出溶媒は80対20(v/v)1-プロパノール対アセトニトリル、0.03%(v/v)TFAである。分離は、流速2.0mL/分、16~38%溶媒Bの直線勾配を用いて4.4分で実施する。検出は214nmでのUV吸光度によった。データは手動積分により処理し、Fabタンパク質分解フラグメントの量は無傷のFabピークに対する%ピーク面積として表した。
【0306】
本発明は、本発明の方法により生成される抗体を、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と組み合わせて含む治療用又は診断用組成物も提供する。
【0307】
本発明は、本発明の方法により生成される抗体を、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と一緒に混合することを含む、治療用又は診断用組成物の調製のための方法も提供する。
本発明は、非限定的に以下の態様を含む。
[態様1]
a)DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び
b)CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド
を含む組換えグラム陰性細菌細胞。
[態様2]
DsbCがN末端又はC末端でヒスチジンタグを含む、態様1に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様3]
発現ベクターが配列番号45又は配列番号51で与えられる配列を有するポリヌクレオチドを含む、態様1又は2に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様4]
抗体又はその抗原結合フラグメントが、CDRH1では配列番号1、CDRH2では配列番号2及びCDRH3では配列番号3で与えられる配列を有する3つのCDRを含む重鎖可変ドメイン並びにCDRL1では配列番号4、CDRL2では配列番号5及びCDRL3では配列番号6で与えられる配列を有する3つのCDRを含む可変ドメイン軽鎖を含む、態様1から3までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様5]
前記1つ又は複数のポリヌクレオチドが、配列番号8で与えられる軽鎖可変領域配列及び配列番号10で与えられる重鎖可変領域を含む抗体をコードする、態様4に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様6]
抗体がFab又はFab’フラグメントである、態様1から5までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様7]
前記Fab又はFab’フラグメントが、配列番号12で与えられる配列を有する軽鎖及び配列番号14又は16で与えられる配列を有する重鎖を含む、態様6に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様8]
グラム陰性菌細胞が、DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを含む第一の発現ベクター及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを含む第二の発現ベクターを含む、態様1から7までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様9]
DsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを含む発現ベクターが、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドをさらに含む、態様1から7までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様10]
野生型細胞と比べて低減したTspタンパク質活性を有しており、変化したsprタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチドを含む、態様1から9までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様11]
Tspをコードするポリヌクレオチドがノックアウト変異を含み、変化したsprタンパク質をコードするポリヌクレオチドがアミノ酸C94に影響を与える変異を含む、態様10に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様12]
変化したsprタンパク質をコードするポリヌクレオチド内の変異により、94位でアミノ酸システインからアラニンへの変化(C94A)が生じている、態様11に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様13]
DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド以外は、細胞が野生型細菌細胞に対して同質遺伝子的である、態様1から12までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様14]
大腸菌(E.coli)である、態様1から13までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様15]
DsbCをコードする組換えポリヌクレオチド及びCD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを生成するためのジシストロン性メッセージを含み、上流シストロンが前記抗体の軽鎖をコードするDNAを含有し、下流シストロンが対応する重鎖をコードするDNAを含有し、ジシストロン性メッセージがIGS1(配列番号33)、IGS2(配列番号34)、IGS3(配列番号35)及びIGS4(配列番号36)から選択される配列を含むことを特徴とする発現ベクター。
[態様16]
CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントが、態様4から7までのいずれか一項に記載の通りである、態様15に記載の発現ベクター。
[態様17]
DsbCが態様2又は3に記載の通りである、態様15又は16に記載の発現ベクター。
[態様18]
態様15から17までのいずれか一項に記載の発現ベクターを含む、態様1から14までのいずれか一項に記載のグラム陰性細菌細胞。
[態様19]
CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを生成するための方法であって、
a)態様1から14まで又は18のいずれか一項に記載の組換えグラム陰性細菌細胞を培養培地中、CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント及びDsbCをコードする組換えポリヌクレオチドを発現するのに効果的な条件下で培養するステップと、
b)CD154に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを、組換えグラム陰性細菌細胞のペリプラズム及び/又は培養培地から回収するステップと
を含む上記方法。
[態様20]
前記抗体の重鎖及び/又は軽鎖のC末端終端の又は近くのアミノ酸にエフェクター分子を結合させるステップをさらに含む、態様19に記載の方法。
[態様21]
エフェクター分子がポリ(エチレングリコール)又はメトキシポリ(エチレングリコール)を含む、態様20に記載の方法。
[態様22]
前記方法が、前記重鎖のC末端終端のシステイン残基のうちの1つに、リシル-マレイミド基を結合させるステップを含み、リシル残基のそれぞれのアミノ基が約20,000Daの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)残基を共有結合させている、態様21に記載の方法。
【0308】
本発明を、好ましい実施形態を参照にして特に示し、記載してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって規定される通り、本発明の範囲から逸脱することなしに形態及び詳細において様々な変更を行うことができることが理解されよう。
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